N−置換アミノスルホン酸緩衝剤を含んでなる体液増量剤
緩衝剤が無機リン酸塩緩衝剤ではない生理学的に許容可能な緩衝剤である、緩衝化された体液増量剤溶液は、カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンを5:1〜1:1の濃度比で含んでなる。非リン酸緩衝剤は、生理学的に許容可能なN−置換アミノスルホン酸緩衝剤、特に20℃で7.1〜7.5の水溶液中pKa値を有するもの、最も好ましくは、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−2−アミノエタンスルホン酸(TES)、3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−2−アミノエタンスルホン酸(BES)およびこれらの組み合わせであってよい。好ましい成分には、100〜150(好ましくは約135)mmol/Lのナトリウムイオン、2.5〜6.2(好ましくは約5)mmol/Lのカリウムイオン、0.1〜2.5(好ましくは約1.25)mmol/Lのカルシウムイオン、0.4〜25.0(好ましくは約0.45)mmol/Lのマグネシウムイオン、96〜126(好ましくは約118)mmol/Lの塩化物イオン、2〜11(好ましくは約10)mmol/Lのグルコース(好ましくはD−グルコース)、50〜150(好ましくは約110)μmol/Lのグリセロール、7〜15(好ましくは約10)μmol/Lのコリン、5〜400(好ましくは約300)μmol/Lのグルタミン酸(好ましくはL−グルタミン酸)、5〜200(好ましくは約20)μmol/Lのアスパラギン酸(好ましくはL−アスパラギン酸)、100〜2000(好ましくは約400)μmol/Lのグルタミン(好ましくはL−グルタミン)、15〜215(好ましくは約60)μmol/Lのピログルタミン酸、20〜200(好ましくは約100)μmol/Lのアルギニン(好ましくはL−アルギニン)、1〜120(好ましくは約40)nmol/Lのチアミンピロリン酸(TPP)、40〜70(好ましくは約50)μmol/LのD−もしくはDLもしくはL−カルニチン(好ましくはL−カルニチン)、および5〜200(好ましくは約28)mI.U./Lのブタもしくはヒトのインスリン(好ましくはヒトインスリン)が挙げられる。該溶液は、血液量減少症の治療もしくは熱傷を負った対象者の細胞外液および間質液の損失の治療、対象者における呼吸性アシドーシスもしくは代謝性アシドーシスのうち少なくともいずれか一方の治療、急性腎不全もしくは急性毒性症状を有する対象者の腹膜透析中の腹腔の灌流、再灌流傷害の防止もしくは軽減のうち少なくともいずれか一方、ならびに治療薬、検査薬、もしくは相助作用剤のうち少なくともいずれか、例えば少なくとも1つの幹細胞、ペプチドまたはゲノム由来のタンパク質のような生物学的作用物質の対象者への送達、のための医薬および血液量増量剤の製造に有用である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して体液増量剤に関する。特に本発明は、血液または血管外体液の体積を増量、維持または補給する際に使用される生理学的液体媒体に関する。本発明は静脈内および血管外(例えば腹膜)への注入手法を含む様々な医学的適用における利用が見出されるであろうと想定される。
【背景技術】
【0002】
血液量減少症(hypovolemia)としても知られる血液量の損失は、例えば、物理的傷害、外科手術、内出血または熱傷を含む多くの原因から生じうる。血液量減少症はまた、利尿剤および血管拡張剤のような薬物の摂取によって引き起こされる場合もある。
【0003】
血液量減少症に起因する大幅な血液量の損失は、迅速に治療しなければ致命的となりうる。そのような失血は、血圧の低下、ならびに重要な臓器および組織への血液(およびそれに伴う酸素)の不可欠な供給の低減に結びつく。従って、血液量減少症は、虚血、多臓器不全、腎臓損傷、脳損傷、および最終的には死亡につながる可能性がある。
【0004】
血液量減少症は、出血を伴う事態の後で、失われた血液の代用として結晶状またはコロイド状の液体を用いて対象者を灌流することにより治療される。これらの代用体液は、血液量を増し、再水和を引き起こし、血圧を正常化するように作用する。
【0005】
目下知られている代用血液または血液量増量剤の例には、乳酸加リンゲル液、ハルトマンの溶液、HES(ヒドロキシエチルスターチ)および等張食塩水(塩化ナトリウム)が含まれる(非特許文献1〜4)。
【0006】
現在の血液量増量剤は、その血液量を回復する能力にもかかわらず、再灌流傷害として知られる重篤かつ多くの場合致命的な症状を防止するという点では有効でない。この現象は、重篤な血液量減少症となった人において観察され、重要な臓器(肺、腎臓、肝臓など)の損傷という形で現われる。再灌流傷害の有害な影響は、通常は血液量増量剤を用いた灌流後1〜3日の間に観察される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Chiara et al.;Crit Care Med.2003;31(7):1915−22
【非特許文献2】Rhee et al.;J.Trauma.1998;44(2):313−319
【非特許文献3】Jernigan et al.;Am Surg.2004;70(12):1094−8
【非特許文献4】Via et al.;J.Trauma.2001;50:1076−82
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、失血、ならびに血液量減少症および重篤な熱傷に起因する間質液および細胞外液の損失を補うことができる、さらなる溶液を開発する必要を認めている。さらに、血液量減少症の対象者における再灌流傷害の発生を防止または低減するという点で有効な治療を開発する必要もある。
【0009】
上記に加えて、十分な量の血管外間質液を維持する必要もある。細胞を浸しかつ取り囲むこの液体は、組織および臓器のホメオスタシス維持にとって不可欠であり、また、とりわけ細胞に物質を送達し、代謝廃棄物を除去し、かつ有効な細胞間通信を促進する手段として機能する。
【0010】
本発明はさらに、代用体液治療が身体臓器内部の浮腫状態をもたらすことによって簡単に再灌流傷害の発生を増大させてしまうという重大かつ重要な問題に取り組むものである。本発明は、あらゆる局面において、ただし最も重要なこととしては張性および浸透圧重量モル濃度の点で間質液の組成に適合し、かつ、リンパ系と協力して血管外腔と間質相との間のより自然な動的流体交換を促進することによって周囲組織における浮腫の発生を防止するであろう、生理学的に平衡状態の液体を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
1つの態様では、本発明は、非無機リン酸で緩衝化された体液増量剤溶液、すなわち緩衝剤が無機リン酸緩衝剤以外の生理学的に許容可能な緩衝剤である緩衝化された体液増量剤溶液であって、5:1〜1:1の濃度比でカルシウムイオンおよびマグネシウムイオンを含んでなる溶液、を提供する。
【0012】
別の態様では、本発明は、生理学的に許容可能なN−置換アミノスルホン酸緩衝剤、特に20℃で7.1〜7.5の水溶液中pKa値を有するものから成る群から選択される、最も好ましくはN−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−2−アミノエタンスルホン酸(TES)、3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−2−アミノエタンスルホン酸(BES)およびこれらの組み合わせから成る群から選択される非リン酸緩衝剤を含んでなる、体液増量剤溶液を提供する。
【0013】
さらに別の態様では、本発明は、5:1〜1:1の濃度比でカルシウムイオンおよびマグネシウムイオンを含んでなり、かつ生理学的に許容可能なN−置換アミノスルホン酸緩衝剤、特に20℃で7.1〜7.5の水溶液中pKa値を有するものから成る群から選択される、最も好ましくはTES、MOPS、BESおよびこれらの組み合わせから成る群から選択される非リン酸緩衝剤をさらに含んでなる、体液増量剤溶液を提供する。
【0014】
1つの実施形態では、非リン酸緩衝剤は1〜12mmol/L、好ましくは約5mmol/Lの濃度で存在する。
本発明の体液増量剤溶液は、4:1〜2:1、より好ましくは約3:1の濃度比でカルシウムイオンおよびマグネシウムイオンを含んでなることが好ましい。
【0015】
好ましくは、本発明の体液増量剤溶液は、0.1〜2.5mmol/Lのカルシウムイオンまたは0.4〜25mmol/Lのマグネシウムイオンのうち少なくともいずれか一方を含んでなる。25mmol/L近くの高濃度のマグネシウムイオンは、心筋保護の目的で溶液を改変するために有用であるが、体液増量剤溶液としての通常の使用には、以下に示す濃度が推奨される。
【0016】
1つの実施形態では、体液増量剤溶液は、1.0〜2.5mmol/L、好ましくは1.1〜1.4mmol/L、より好ましくは1.2〜1.3mmol/L、さらにより好ましくは約1.25mmol/Lの濃度のカルシウムイオンを含んでなる。
【0017】
本発明の体液増量剤溶液は、好ましくは0.2〜0.6mmol/Lの濃度のマグネシウムイオンを含んでなり、より好ましくは0.3〜0.5mmol/L、さらにより好ましくは約0.45mmol/Lのマグネシウムイオンを含んでなる。
【0018】
1つの実施形態では、カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンは、それぞれ約1.25mmol/Lおよび約0.45mmol/Lの濃度で存在する。
1つの実施形態では、本発明の体液増量剤溶液は、血液量の増量または補給のうち少なくともいずれか一方を行うための代用血液である。さらに別の実施形態では、体液増量剤は血管外液代用物、例えば間質液代用物である。
【0019】
上記に加えて、本発明はさらに、本明細書中で定義される溶液の濃縮形態も包含する。例えば1〜50×、好ましくは5〜20×濃縮物が含まれる。1×濃度すなわち作業濃度の溶液を提供するためには、5×、10×、20×および50×の濃縮物にはそれぞれ、濃縮物1体積に加えるための4、9、19および49体積の水と、希釈された1×溶液1リットル当たり2.1g相当の炭酸水素ナトリウムとが必要である。
【0020】
別の態様では、本発明は、医薬および血液量増量剤として使用するための本明細書中で定義されるような溶液を提供する。
さらなる態様では、本発明は、血液量減少症または熱傷のうち少なくともいずれか一方の治療における使用、および再灌流傷害の防止または軽減のうち少なくともいずれか一方における使用のための、本明細書中で定義されるような溶液を提供する。
【0021】
さらに別の態様では、本発明は、(a)補液療法、(b)外科的処置を受けている対象者の体腔(例えば腹腔または胸腔)の灌流、または(c)治療薬、検査薬、もしくは相助作用剤のうち少なくともいずれかの、対象者への血管内もしくは血管外送達、のうち少なくともいずれかにおいて使用するための本明細書中で定義されるような溶液を提供する。
【0022】
本発明はさらに、例えば、血液量減少症の治療用、または熱傷を負った対象者の細胞外液および間質液の損失の治療用の、医薬および血液量増量剤を製造するための、本明細書中で定義されるような溶液の使用法も包含する。
【0023】
本発明はさらに、(a)熱傷を負った対象者の間質液の損失の治療、(b)対象者における呼吸性アシドーシスまたは代謝性アシドーシスのうち少なくともいずれか一方の治療、(c)急性腎不全もしくは急性毒性症状を有する対象者の腹膜透析中の腹腔の灌流、または(c)再灌流傷害の防止もしくは軽減のうち少なくともいずれか一方、のための医薬を製造するための、本明細書中で定義されるような溶液の使用法を提供する。
【0024】
さらに別の態様では、本発明は、治療薬、検査薬、もしくは相助作用剤のうち少なくともいずれか、例えば少なくとも1つの幹細胞、ペプチドもしくはゲノム由来のタンパク質のような生物学的作用物質、を対象者に送達するための、本発明の溶液の使用法を包含する。
【0025】
好ましい実施形態では、送達は、血管内、腹腔内、皮内、経口、筋肉内または局所経路を介した投与によって行われる。任意選択で、送達は対象者のリンパ系への投与によって行われる。
【0026】
さらに別の態様では、本発明は、血液量減少症または熱傷のうち少なくともいずれか一方を治療する方法、および再灌流傷害の防止もしくは軽減のうち少なくともいずれか一方を行う方法を包含し、これらの方法は、該方法を必要とする対象者に、有効な量の本明細書中で定義されるような溶液を投与することを含んでなる。
【0027】
好ましい実施形態では、血液量減少症は脱水または熱傷または出血のうち少なくともいずれかに起因する。別の実施形態では、血液量減少症は薬物誘導性である。
さらなる態様では、本発明は、対象者に対して行なわれる外科的処置の間に組織または臓器のうち少なくともいずれか一方の生理的ホメオスタシスをin situで維持する方法であって、前記組織または臓器を、本明細書中で定義されるような溶液で灌流することを含んでなる方法を提供する。
【0028】
上記方法の1つの実施形態では、前記組織または臓器のうち少なくともいずれか一方が前記溶液で灌流された時に低体温状態に維持されるように、溶液は4〜20℃の温度に維持される。
【0029】
上記方法のさらに別の実施形態では、外科的処置は、組織または臓器のうち少なくともいずれか一方を、続いてレシピエント対象者に移植するためにドナー対象者から取り出すために行われる。
【0030】
さらに別の態様では、本発明は、治療薬、検査薬、もしくは相助作用剤のうち少なくともいずれかを、本発明の溶液を使用して対象者に送達する方法を包含する。好ましい実施形態では、前記薬剤は、少なくとも1つの幹細胞、ペプチドまたはゲノム由来のタンパク質のような生物学的作用物質である。
【0031】
好ましい実施形態では、送達は、血管内、腹腔内、皮内、経口、筋肉内または局所経路を介した投与によって行われる。任意選択で、送達は対象者のリンパ系への投与によって行われる。
【0032】
別の態様では、本発明は、(a)急性腎不全もしくは急性毒性症状を有する対象者の腹腔の透析;または(b)外科的処置を受けている対象者の腹部臓器もしくは胸部臓器のうち少なくともいずれか一方の洗浄、のうち少なくともいずれか一方のための本明細書中で定義されるような溶液の使用法を提供する。
【0033】
さらに別の態様では、本発明は、医薬として使用するための、無機リン酸をほとんど含まない緩衝化された溶液、特にクエン酸緩衝剤および乳酸緩衝剤のうち少なくとも一方についてもほとんど含まないものを包含する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】使用した蘇生溶液に応じた経時的なラット生存の評価について示す図。ラットから血液を定期的に採取した。ラットは以下のような3つの実験治療群すなわち(1)血液の代わりに生理食塩水を補給;(2)血液の代わりに本明細書中でRS−I溶液またはRS−Iと呼ばれる本発明の好ましい溶液を補給;および(3)失血分の補給なし、に分けた。様々な群の各々におけるラットの生存をモニターし、データを図1に示した。
【図2】上記の図1に関して定義された研究治療群の各々について採取した血液の総体積の比較を示す図。血液は、以下の実施例4に述べるようにしてラットから採取した。
【図3】図1に関して定義された様々な研究治療群における経時的なラットの呼吸数の評価について示す図。
【図4A】RS−Iを用いて様々な時間にわたって灌流したブタの血液プロファイルの評価について示す図。ブタに、1.0LのRS−I溶液を3日間毎日注入し、血液試料を様々な時点で採取した。血液試料を、とりわけ、完全血球算定、血清生化学測定、電解質、グルコース、乳酸、浸透圧重量モル濃度、血清酵素(血清グルタミン酸−オキサロ酢酸トランスアミナーゼ/アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ[SGOT/AST]、血清グルタミン酸−ピルビン酸トランスアミナーゼ/アラニンアミノトランスフェラーゼ[SGPT/ALT]、クレアチンキナーゼ[CK]および乳酸脱水素酵素[LDH])、凝固因子およびフィブリノゲンのレベルに関して試験した。さらに、血液をインターロイキン6(IL−6)および腫瘍壊死因子α(TNF−α)について計測した。
【図4B】RS−Iを用いて様々な時間にわたって灌流したブタの血液プロファイルの評価について示す図。ブタに、1.0LのRS−I溶液を3日間毎日注入し、血液試料を様々な時点で採取した。血液試料を、とりわけ、完全血球算定、血清生化学測定、電解質、グルコース、乳酸、浸透圧重量モル濃度、血清酵素(血清グルタミン酸−オキサロ酢酸トランスアミナーゼ/アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ[SGOT/AST]、血清グルタミン酸−ピルビン酸トランスアミナーゼ/アラニンアミノトランスフェラーゼ[SGPT/ALT]、クレアチンキナーゼ[CK]および乳酸脱水素酵素[LDH])、凝固因子およびフィブリノゲンのレベルに関して試験した。さらに、血液をインターロイキン6(IL−6)および腫瘍壊死因子α(TNF−α)について計測した。
【図4C】RS−Iを用いて様々な時間にわたって灌流したブタの血液プロファイルの評価について示す図。ブタに、1.0LのRS−I溶液を3日間毎日注入し、血液試料を様々な時点で採取した。血液試料を、とりわけ、完全血球算定、血清生化学測定、電解質、グルコース、乳酸、浸透圧重量モル濃度、血清酵素(血清グルタミン酸−オキサロ酢酸トランスアミナーゼ/アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ[SGOT/AST]、血清グルタミン酸−ピルビン酸トランスアミナーゼ/アラニンアミノトランスフェラーゼ[SGPT/ALT]、クレアチンキナーゼ[CK]および乳酸脱水素酵素[LDH])、凝固因子およびフィブリノゲンのレベルに関して試験した。さらに、血液をインターロイキン6(IL−6)および腫瘍壊死因子α(TNF−α)について計測した。
【図4D】RS−Iを用いて様々な時間にわたって灌流したブタの血液プロファイルの評価について示す図。ブタに、1.0LのRS−I溶液を3日間毎日注入し、血液試料を様々な時点で採取した。血液試料を、とりわけ、完全血球算定、血清生化学測定、電解質、グルコース、乳酸、浸透圧重量モル濃度、血清酵素(血清グルタミン酸−オキサロ酢酸トランスアミナーゼ/アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ[SGOT/AST]、血清グルタミン酸−ピルビン酸トランスアミナーゼ/アラニンアミノトランスフェラーゼ[SGPT/ALT]、クレアチンキナーゼ[CK]および乳酸脱水素酵素[LDH])、凝固因子およびフィブリノゲンのレベルに関して試験した。さらに、血液をインターロイキン6(IL−6)および腫瘍壊死因子α(TNF−α)について計測した。
【図4E】RS−Iを用いて様々な時間にわたって灌流したブタの血液プロファイルの評価について示す図。ブタに、1.0LのRS−I溶液を3日間毎日注入し、血液試料を様々な時点で採取した。血液試料を、とりわけ、完全血球算定、血清生化学測定、電解質、グルコース、乳酸、浸透圧重量モル濃度、血清酵素(血清グルタミン酸−オキサロ酢酸トランスアミナーゼ/アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ[SGOT/AST]、血清グルタミン酸−ピルビン酸トランスアミナーゼ/アラニンアミノトランスフェラーゼ[SGPT/ALT]、クレアチンキナーゼ[CK]および乳酸脱水素酵素[LDH])、凝固因子およびフィブリノゲンのレベルに関して試験した。さらに、血液をインターロイキン6(IL−6)および腫瘍壊死因子α(TNF−α)について計測した。
【図4F】RS−Iを用いて様々な時間にわたって灌流したブタの血液プロファイルの評価について示す図。ブタに、1.0LのRS−I溶液を3日間毎日注入し、血液試料を様々な時点で採取した。血液試料を、とりわけ、完全血球算定、血清生化学測定、電解質、グルコース、乳酸、浸透圧重量モル濃度、血清酵素(血清グルタミン酸−オキサロ酢酸トランスアミナーゼ/アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ[SGOT/AST]、血清グルタミン酸−ピルビン酸トランスアミナーゼ/アラニンアミノトランスフェラーゼ[SGPT/ALT]、クレアチンキナーゼ[CK]および乳酸脱水素酵素[LDH])、凝固因子およびフィブリノゲンのレベルに関して試験した。さらに、血液をインターロイキン6(IL−6)および腫瘍壊死因子α(TNF−α)について計測した。
【図4G】RS−Iを用いて様々な時間にわたって灌流したブタの血液プロファイルの評価について示す図。ブタに、1.0LのRS−I溶液を3日間毎日注入し、血液試料を様々な時点で採取した。血液試料を、とりわけ、完全血球算定、血清生化学測定、電解質、グルコース、乳酸、浸透圧重量モル濃度、血清酵素(血清グルタミン酸−オキサロ酢酸トランスアミナーゼ/アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ[SGOT/AST]、血清グルタミン酸−ピルビン酸トランスアミナーゼ/アラニンアミノトランスフェラーゼ[SGPT/ALT]、クレアチンキナーゼ[CK]および乳酸脱水素酵素[LDH])、凝固因子およびフィブリノゲンのレベルに関して試験した。さらに、血液をインターロイキン6(IL−6)および腫瘍壊死因子α(TNF−α)について計測した。
【図5a】正常血液量のブタモデルにおける血清中電解質レベルの分析について示す図。
【図5b】正常血液量のブタモデルにおける血清中電解質レベルの分析について示す図。
【図5c】正常血液量のブタモデルにおける血清中電解質レベルの分析について示す図。
【図5d】正常血液量のブタモデルにおける血清中電解質レベルの分析について示す図。
【図5e】正常血液量のブタモデルにおける血清中電解質レベルの分析について示す図。
【図5f】正常血液量のブタモデルにおける血清中電解質レベルの分析について示す図。
【図5g】正常血液量のブタモデルにおける血清中電解質レベルの分析について示す図。
【図6a】正常血液量のブタモデルにおける血清中代謝物質レベルの分析について示す図。
【図6b】正常血液量のブタモデルにおける血清中代謝物質レベルの分析について示す図。
【図6c】正常血液量のブタモデルにおける血清中代謝物質レベルの分析について示す図。
【図6d】正常血液量のブタモデルにおける血清中代謝物質レベルの分析について示す図。
【図7a】正常血液量のブタモデルにおける血清中酵素レベルの分析について示す図。
【図7b】正常血液量のブタモデルにおける血清中酵素レベルの分析について示す図。
【図7c】正常血液量のブタモデルにおける血清中酵素レベルの分析について示す図。
【図7d】正常血液量のブタモデルにおける血清中酵素レベルの分析について示す図。
【図8a】正常血液量のブタモデルにおける血球プロファイルの分析について示す図。
【図8b】正常血液量のブタモデルにおける血球プロファイルの分析について示す図。
【図8c】正常血液量のブタモデルにおける血球プロファイルの分析について示す図。
【図8d】正常血液量のブタモデルにおける血球プロファイルの分析について示す図。
【図8e】正常血液量のブタモデルにおける血球プロファイルの分析について示す図。
【図9a】正常血液量のブタモデルにおける血液凝固パラメータの分析について示す図。
【図9b】正常血液量のブタモデルにおける血液凝固パラメータの分析について示す図。
【図9c】正常血液量のブタモデルにおける血液凝固パラメータの分析について示す図。
【図9d】正常血液量のブタモデルにおける血液凝固パラメータの分析について示す図。
【図10】寒冷静置(CS)群および温暖静置(WS)群のブタ腎臓における、6時間の常温灌流の前後のADP:ATP(アデノシン二リン酸:アデノシン三リン酸)比の比較を示す図。
【図11】自家血液、RS−I液および乳酸加リンゲル生理食塩水における蘇生後の平均動脈圧の変化を示す図。
【図12】自家血液、RS−I液および乳酸加リンゲル生理食塩水における蘇生後の心拍出量を示す図。
【図13】自家血液、RS−I液および乳酸加リンゲル生理食塩水における蘇生後の活性化プロトロンボプラスチン時間(aPTT)を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本明細書中で使用される用語「体液増量剤」、「体液増量剤溶液」または「代用体液」は、体液の補給もしくは増量、または十分量の体液の維持のうち少なくともいずれかにおける使用が意図されている生理学的液状溶液を意味する。本発明の溶液による増量、補給、維持の対象として意図される体液には、血管内液(例えば血漿のような血液成分)、または別例として血管外液(例えば間質液)が挙げられる。
【0036】
用語「体液増量剤」および「体液増量剤溶液」はさらに、治療薬、検査薬、もしくは相助作用剤のうち少なくともいずれかを、前記薬剤を必要とする対象者の体内に、または該薬剤を試験すべき環境、例えばヒト以外の対象に送達する媒体としての使用が意図される生理学的液体媒体も包含する。
【0037】
用語「対象者」は、必要に応じて、ヒト対象者およびヒト以外の動物対象者、例えば哺乳類の対象者、例えば実験研究上の必要に応じてげっ歯動物、ブタ、サル、イヌなど、および獣医療において対象となりうるウシ、ウマなどを包含する。
【0038】
「非リン酸緩衝剤」および「リン酸をほとんど含まない」のような用語は、無機リン酸イオンを実質的に欠いている液体の実施形態を包含するように意図される。
本明細書中で使用される用語「血液量増量剤」または「血液量増量剤溶液」または「代用血液」は、血液量の補給、増量、または維持における使用が意図されている生理学的液状溶液を意味する。したがってこれらの溶液は、血液量減少症に起因する血液量の損失分の代用における利用が見出される。
【0039】
本明細書中で使用される用語「血液量減少症」は、血液量が減少した状態、またはより具体的には、血漿体積が減少した状態を意味する。血液量減少症の一般的な原因には、脱水、熱傷、出血(例えば、大出血)、または利尿剤および血管拡張剤のようなある種の薬物の摂取が挙げられる。
【0040】
本明細書中で使用される用語「再灌流傷害」は、血液量減少症およびその後の従来の血液量増量剤を用いた灌流の後に、身体の重要な臓器に生じる傷害を意味する。
本発明は、従来の血液量増量剤が細胞、組織および臓器の生存率および生存力の維持にとって有害であり、従って再灌流傷害の発生に寄与する可能性があるという本発明者の認識から生じている。
【0041】
一部には、本発明は、血液量増量剤(および生理学的媒体全般)の組成は、各々の細胞を取り囲んでいる間質ゲル相内のイオン種の活量係数についての明確な知識に基づくべきであるという認識から生じている。これらの活量係数は計算済みであり、本発明の溶液はこれらの計算に従って設計された。
【0042】
本発明の溶液は、過剰量のリン酸イオンが灌流される細胞、組織および臓器の生存力および機能的完全性に対して有害となりうるという認識に基づき、非リン酸緩衝剤を使用する。リン酸イオンは、解糖、酸化的リン酸化(Berman and Sanders;Circul.Res.,1955;3,559−563)、クレアチンキナーゼ活性(Hall and DeLuca;Adv.Exp.Med.Biol.1986;194,71−82)および酸素フリーラジカル捕捉に関与する酵素(De Frietas and Valentine;Biochemistry 1984;23:2079)を阻害する。これらの酵素は、細胞レベルでアポトーシス性の変化を引き起こし、最終的には損傷を受けているかまたは異常な細胞、組織および臓器系のネクローシス(すなわち死)をもたらす上で重要である。
【0043】
本質的には、非リン酸塩で緩衝化された溶液の使用により、pH7.2を超えると不安定であるという点における従来のリン酸緩衝溶液の非効率性が回避される。特に、従来の溶液中の無機リン酸イオンは、時間とともに、不溶性のカルシウムリン酸塩の形で沈殿する(Pedersen,MD Thesis,University of Arhus,Denmark.Publ.S A Moller Christensen A/S.1973;41−51)。この問題は、溶液が使用される温度範囲内での変動によって増強され、したがって、そのような従来の緩衝化溶液は臨床的有用性に限界を有する。さらに、多くの他の非リン酸緩衝物質、例えばクエン酸塩、ある種のアミノ酸の組み合わせ、および乳酸加溶液は、哺乳類生物種において作用している天然または生理学的pH緩衝剤とは異なり、ex vivo(実施例6を参照)およびin vivo(実施例8を参照)の常温状態における臓器機能の保存においては無効であることが分かっている。これに対し、本発明の溶液は、体液増量剤として使用される場合、すべての哺乳動物に見出される天然の緩衝システムすなわちpCO2/炭酸水素システムを利用することができるので、高い性能を有している。
【0044】
本明細書には、血液量減少症の対象者における血液の損失、または重篤な熱傷に関連した間質液および細胞外液の損失のいずれかを、その組成ゆえに補うことができる体液増量剤溶液について記載されている。本発明の体液増量剤溶液は、間質液のイオン環境、基質環境および生物物理学的環境を模倣する生理学的液体媒体を提供する(例えば、下記の表IIを参照)。そのため、これらの溶液については、万能灌流媒体および保存媒体としての利用が見出されるであろうと考察される。イオン種の濃度から、哺乳類細胞の周囲の間質ゲル相内における個々のイオン種の活量係数が分かる。このことは、多くの従来の媒体がその濃度の根拠を完全な血清の濃度に置いているのとは対照的である。
【0045】
米国特許第6,946,241号明細書(参照によって本願に組込まれる)では、本発明者は非リン酸塩で緩衝化された液体細胞培地について述べている。現在では、有効な血液量増量剤溶液および体液増量剤溶液全般がこれらの培地の組成を基にすることができることが認識されている。本発明の溶液は血液量減少症に関連した失血を補うだけでなく、さらに再灌流傷害の発生を低減または防止するであろうと考察される。本明細書中で定義される溶液は、様々な外科的処置の際に露出されるようになる臓器および組織のin situでの維持における適用を有するであろうとも考察される。
【0046】
本発明の体液増量剤溶液は、好ましくは血清または血清成分を含まない。従って該溶液は、動物由来の血清タンパク質およびその他の混入物質を含まず、不確定の外来の血清タンパク質が存在しないようになっている。血清が存在しないことは、該溶液が従来の血清に基づいた溶液よりも十分に「化学的に」明確であるという長所を有する。さらに、血清および血清由来成分が存在しないことにより、in vivoでこの材料を使用することに関連した感染症(例えばヒト免疫不全ウイルス(HIV)およびクロイツフェルト−ヤコブ病(CJD)の感染可能性に対する懸念が回避される。
【0047】
上述の理由から、本発明の体液増量剤溶液(特にヒトでの使用が意図された該溶液)は、外来または動物由来の抗原、発熱性物質、タンパク質なども含まないことが好ましい。しかしながら、ある状況(例えば人工透析)では、敏感な患者は、腎臓透析または腹膜透析の際に失われると報告されているタンパク質の補完手段として特定のペプチドまたはタンパク質由来の成分の存在を必要とする場合もある。本発明の溶液は、患者にそのような成分を送達する際の使用に有効なビヒクルを提供することができる。
【0048】
摘出した組織および臓器の灌流実験において本発明の溶液に類似の溶液を用いた研究の際に導き出された主な発見は、該溶液が、すべての哺乳類生物で観察される天然のpH緩衝化メカニズム、すなわち赤血球が存在しない状態でも血液中でなされる二酸化炭素分圧[pCO2]および炭酸水素イオン濃度[HCO3−]の自動調節を利用することができるということである。ヘモグロビンのイミダゾール/ヒスチジン部分によって与えられる相互関係の解離定数[pKa]が、本発明において使用される適切な緩衝剤、最も好ましくはBES緩衝剤によってシミュレートされるようであり、BES緩衝剤は、20℃で有用なpKa(7.15)および−ΔpK/℃(0.016)を有するため、RS−I溶液のpH値を10〜37℃の温度範囲にわたって7.18〜7.45に自動的に維持し、したがって、低体温および常温のいずれの生理学的条件下でも哺乳類生物種とともに使用する本発明の溶液における緩衝剤として特に適切となる。
【0049】
先に述べたように、本発明の体液増量剤は天然の生理学的緩衝系の利点を採用し利用するものである。好ましくは、この緩衝系は、NaHCO3/pCO2(炭酸水素ナトリウム/溶解CO2)を両性イオンのグッドの緩衝液であるBES(N,N−ビス[2−ヒドロキシエチル]−2−アミノエタンスルホン酸(Good et al.;Biochemistry 1966;5:467−477)、参照によって本願に組み込まれる)と組み合わせた形態であり、10〜37℃の温度範囲におけるその理想的なpKaのおかげで、細胞の保護にとって重要な必要条件である安定したpHを提供するように作用する。BESは、長期にわたる研究で培養哺乳類細胞に対して無毒であることが示されており、かつカルシウムイオンまたはマグネシウムイオンとの結合は無視できるものであり、したがって従来の炭酸水素/リン酸または二リン酸緩衝液を使用する場合に生じる二価イオンの沈澱生成という潜在的危険が除かれる。実際に、10×濃度の本発明の溶液は14か月を越える保管寿命(3〜8℃で保管)を有することが実験的に示されている。BESを使用する代わりとして、モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)またはN−トリス−(ヒドロキシメチル)メチル−2−アミノエタンスルホン酸(TES)を使用することも可能である。さらに、TES、BESおよびMOPSのうち1つ以上の組み合わせを使用することも考えられる。
【0050】
他の生理学的に許容可能なN−置換アミノスルホン酸緩衝剤を特定の必要条件に応じて選ぶことも可能であり、次の表は、有力候補および該候補の20℃における水溶液中のpKa値を一覧にしている。
【0051】
【表1】
任意選択で、非リン酸緩衝剤(好ましくはTES、MOPSもしくはBES、またはこれらの組み合わせ)は、1〜12mmol/L、好ましくは3〜7mmol/L、より好ましくは4〜6mmol/L、さらにより好ましくは約5mmol/Lの濃度で存在する。任意選択で、炭酸水素イオンは、21〜35mmol/L、好ましくは23〜26mmol/L、より好ましくは約25mmol/Lの濃度で存在する。
【0052】
本発明の好ましい実施形態では、使用される非リン酸緩衝系は、その独自のpKa域から、本発明の溶液のpHを4℃〜38℃の温度範囲にわたって7.05〜7.5に自動的に調整する能力を可能にする。本発明のこの特徴は、従来の緩衝系で見られるものとは異なり、10〜38℃の温度範囲にわたってpHを7.13〜7.5±0.5の値に調整する際に、他のいかなる介入も必要としない。好ましくは、本発明の溶液は、約37.4℃の温度で約7.46のpHを有する。溶液を、該溶液の投与を必要とする対象者に投与した後、in vivoで上記のpH値が維持されることが好ましい。
【0053】
本明細書中で議論されるように、本発明の溶液は血管内および血管外のいずれの注入処置にも使用可能である。該溶液は、摘出された動物およびヒトの臓器を常温条件下で灌流するために使用することも可能である。溶液が摘出臓器を灌流するために使用される場合、該溶液をカルボゲン(carbogen)ガス(95%酸素/5%二酸化炭素)で通気することが望ましい。
【0054】
本発明の体液増量剤溶液はさらに、下記成分:100〜150(好ましくは約135)mmol/Lのナトリウムイオン、2.5〜6.2(好ましくは約5)mmol/Lのカリウムイオン、0.1〜2.5(好ましくは約1.25)mmol/Lのカルシウムイオン、0.4〜25.0(好ましくは約0.45)mmol/Lのマグネシウムイオン、96〜126(好ましくは約118)mmol/Lの塩化物イオン、2〜11(好ましくは約10)mmol/Lのグルコース(好ましくはD−グルコース)、50〜150(好ましくは約110)μmol/Lのグリセロール、7〜15(好ましくは約10)μmol/Lのコリン、5〜400(好ましくは約300)μmol/Lのグルタミン酸(好ましくはL−グルタミン酸)、5〜200(好ましくは約20)μmol/Lのアスパラギン酸(好ましくはL−アスパラギン酸)、100〜2000(好ましくは約400)μmol/Lのグルタミン(好ましくはL−グルタミン)、15〜215(好ましくは約60)μmol/Lのピログルタミン酸、20〜200(好ましくは約100)μmol/Lのアルギニン(好ましくはL−アルギニン)、1〜120(好ましくは約40)nmol/Lのチアミンピロリン酸(TPP)、40〜70(好ましくは約50)μmol/LのD−もしくはDLもしくはL−カルニチン(好ましくはL−カルニチン)、および5〜200(好ましくは約28)mI.U./Lのブタもしくはヒトのインスリン(好ましくはヒトインスリン)、を任意の組み合わせで、1以上、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、11以上、12以上、13以上、14以上、またはすべて含むこともできる。
【0055】
塩化物イオンは、存在する場合、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩およびマグネシウム塩として提供されることが好ましい。コリンは、存在する場合、塩化物として提供されることが好ましい。
【0056】
本発明に包含される溶液は、組織および臓器の代謝系ホメオスタシスを保持するいくつかの基質を含んでなる。グルコースおよびグリセロールは、生理的濃度のインスリンが含まれることにより、問題の臓器(例えば心臓)の好ましい基質でない場合さえ、摘出された組織および臓器のエネルギー需要を満たすのに申し分ないことが示されている。その被代謝能とは別に、グリセロールおよびグルコースはさらにフリーラジカルを捕捉しかつ膜を安定化する特性をも有しており、該特性は、組織および臓器の生理学的生存力の維持において非常に重要であることが示されている。
【0057】
トリカルボン酸(TCA)サイクル中間体を補充して酸化的代謝を増強することにより虚血発作の際でも高エネルギーリン酸レベルを維持するように、上述のようにアスパラギン酸およびグルタミン酸を本発明の溶液に含めることもできる。同様に、グルタミン酸は細胞内酸化還元電位の維持に関与する。アスパラギン酸−リンゴ酸シャトルおよびグリセロールリン酸シャトルの最適化によって、細胞は最適なNAD/NADH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド/還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)バランスを維持し、その結果としてアデニンヌクレオチドレベルを保持するであろうと考察される。さらに、グルタミン酸およびグルタミンは、中間代謝産物として作用してピログルタミン酸を形成し、かつその後γ−グルタミル回路に参加して、移植前のドナー臓器の保存時および血液量補充療法後における哺乳動物の組織および臓器での再灌流傷害の発生に関連する毒性の酸素ラジカルの発生防止に有益な物質である、グルタチオンを合成することができる。
【0058】
チアミンはα−ケト酸の酸化(チアミンコカルボキシラーゼの作用による)に重要な役割を果たし、かつピルビン酸および毒性のピルビン酸アルデヒドの蓄積を防ぐことによって、細胞のアポトーシスならびにこれに伴う組織および関連臓器のネクローシスを最小限とする。
【0059】
TCA回路においては、本発明の好ましい溶液に含まれるチアミンピロリン酸(TPP)は、酸化的脱炭酸によってサクシニル補酵素Aを形成するかまたは還元的アミノ化によってグルタミン酸を形成するa−ケトグルタル酸代謝の補因子である。本質的には、TPPは、多数の相互に関係した生化学的経路、特にペントースリン酸経路および解糖経路に関与する。チアミンは、チアミンピロリン酸、チアミン二リン酸またはチアミンジアミドとして使用される場合がある。本発明の溶液はチアミンピロリン酸クロリドとしてチアミンを含むことが好ましい。
【0060】
さらに、本発明の溶液の配合にチアミンピロリン酸を含めることは、腹膜透析患者にはリン酸イオンの枯渇および石灰化を防ぐために必要であるようにも思われる。というのも、チアミンピロリン酸は血液透析膜(MW−175ドルトン)を横切って容易に透析可能であり、血漿中のリン酸および/またはピロリン酸レベルを補充するために静脈内に、または血液透析溶液もしくは腹膜透析溶液を介して、以前から投与されているからである。
【0061】
ビタミノイド(vitaminoid)のカルニチンは、単純に酸化的代謝を最適化することによるほか、例えば代替基質の利用を促進することによって、心臓機能の改善に多面効果を有することが報告されており、またその上冠血流を改善する可能性もある。L−カルニチンは、アセチル補酵素A/遊離脂肪酸代謝の阻害を引き起こさないのでD−またはDL異性体よりも好ましい。好ましくは、該ビタミノイド成分は50μmol/Lの[−]−β−ヒドロキシ−γ−トリメチルアミノ酪酸塩酸塩(L−カルニチン)を含んでなる。本発明では、カルニチンのL−異性体を優先的に含めるのは、細胞質ゾルからミトコンドリア基質内のβ−酸化の場への長鎖脂肪酸の輸送を最適化し、その結果として、カルニチンアセチルトランスフェラーゼからのアセチルカルニチンの合成を刺激することでミトコンドリア内のアセチルCoA/CoA比(ここでCoAは補酵素Aである)を緩衝化することが意図されている。このアセチルCoA/CoA比の低下は、ピルビン酸デヒドロゲナーゼの刺激およびグルコース酸化の脂肪酸による阻害の軽減を伴ったミトコンドリアからのアセチルカルニチンの流出をもたらすことになる。根本的にはエネルギー源としての遊離脂肪酸の利用の最適化はすべての種類の細胞にとって不可欠であるが、解糖に関与する酵素、例えば、ヘキソキナーゼ、グルコキナーゼ、ホスホフクルトキナーゼの最適化された機能による炭水化物(グルコース)利用を保持しながら行われなければならない。
【0062】
上述のように、本発明の溶液はさらにインスリンを含んでもよい。組換えヒトインスリン(例えば、大腸菌(E.coli)または出芽酵母(S.cerevisiae)で発現されたもの)の使用は、他の哺乳類または動物の供給源に由来するインスリンの場合に起こりうる、レシピエントの細胞/組織/臓器への抗原またはウイルスの混入のリスクを排除するだけでなく、ヒトインスリン受容体の構造に対するインスリン分子のより良好な適合をもたらす。受容体特異性は、細胞内プロセスにおけるインスリンの多くの関連機能を保持するように最適化されることになる。
【0063】
本質的に、インスリンの生物学的作用は、単に炭水化物代謝およびグルコースを細胞内へ循環させる促進輸送を調節する能力に関するだけでなく、(i)細胞内グルコキナーゼ活性およびタンパク質中へのアミノ酸取り込みの増強、(ii)DNA(デオキシリボース核酸)のタンパク質への翻訳の促進、(iii)脂質合成の増大、および(iv)ナトリウム、カリウムおよび無機リン酸の細胞膜を横切る輸送の促進、をもたらす能力にも関係する。
【0064】
本発明の好ましい実施形態では、正常なヒト血清中インスリンレベルが利用されてきた。これに対し、従来の既知の灌流製剤は、インスリンが組み込まれる場合にはこのホルモンを不自然なレベル(例えば10〜50×106mIU/L;本発明の溶液中に見出されるインスリンの約100万倍の濃度)で使用してきた。この理由は、そのような濃度ではごく少量のインスリンだけが単一分子として存在するという事実に関係している。残りのインスリンは、インスリン受容体の刺激には無効であり従って生物学的に不活性である、大きな凝集体の形で存在する。本発明の溶液は、凝集体形成を防ぐため処方時にインスリンを酸性化することにより正常なヒト血清中インスリンレベルを達成し、したがって個々の活性を有するインスリン分子種がpH7.3±0.2の溶液に存在するのを可能にしている。
【0065】
本発明の溶液中のイオン種の濃度から、単なる該イオン種全体の血清中濃度ではなく個々のイオン種の活量係数が分かる。例えば、カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンの血清結合は、これらのイオンの実際の遊離状態にあるイオン化レベルとは区別されなければならない。マグネシウムイオンは多くの重大な細胞反応において重要であり、該イオンが細胞外に存在すると、ミトコンドリアの呼吸活性を刺激し、かつ迅速なカルシウム流入およびカリウム流出の効果を調整することが報告されている。同様に、適切なカルシウムイオン濃度は、循環血中に存在するこのイオンの遊離レベルを維持するのに重要である。
【0066】
本発明の溶液のイオン伝導度は、ヒト血清のイオン伝導度、すなわち12.0±0.3mS cm−1に匹敵し、かつそのようなものとして細胞膜のイオン化状態および酵素部分の活性を維持することが好ましい。
【0067】
したがって、上記を踏まえて、本発明の溶液は、ヒト血清(約290ミリオスモル/L)に等浸透性であり、摘出されたラットの心臓および内臓神経−筋肉調製物の長時間(すなわち4〜52時間)の低温灌流の際に水和にごく僅かな変化(約8%)しか生じないという事実によって実証されるように、血漿増量剤を含める必要はないようである。このことは、細胞膜が99%ゲル状の間質相と連続しており、したがって細胞膜を隔てた過度のドナンのイオン平衡交換に対して天然のコロイド性緩衝作用を提供するという事実によって説明可能である。浸透圧の大部分はナトリウムイオンおよびこれに伴う陰イオンによって提供され、ごく一部(約0.5%)だけが血漿タンパク質に起因しうる。この溶液中に血清中濃度の代謝物質(グリセロール)を含めることにより、各細胞を取り囲んでいる間質液接触面における浸透性の緩衝作用、特に経毛細管的なネットワークに関与するものに寄与することもできる。
【0068】
現実に膠質物質を含めるのは、カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンに対する該物質の親和性からさらに困難となり、カチオンの組成を乱さないように新鮮な溶液で予め透析する必要がある。ポリペプチド増量剤の不安定な性質も、機械的変性を起こしやすいことからポリペプチド増量剤を非実用的にしている。不運にも、これらのコロイド性増量剤は本質的に無毒であるにもかかわらず、その使用は例えば(1)粘度上昇により細胞のまわりの「かき混ぜられない(unstirred)」層の厚さが増し、代謝物質の拡散を妨げる、(2)表面膜生体電位が変化して細胞の代謝および受容体の活性を混乱させる、(3)タンパク質性増量剤の抗原性、(4)赤血球(RBC)の凝集反応および溶血作用、ならびに(5)微小血管系の遮断および虚血、という点で禁忌である。
【0069】
本発明の溶液は、特定の医療目的に応じて追加成分を加えることができる基本の組成物として全般的な利用が見出されるであろうと考察される。例えば、人工血液を生成させるために、本発明の溶液に例えば赤血球(RBC)、血漿または血小板のうち少なくともいずれかを補足するということもあり得ると想定される。そのような血液成分は天然のものであっても人工的なものであってもよい。このように、追加の化学物質を、必要に応じて必要な場合に基本の組成物に添加することができる。したがって、本発明の溶液は、医学的有用性から、pKaがヘモグロビン(pKa:7.0)のイミダゾール/ヒスチジン部分のpKaと厳密に一致しかつ同様に作用する緩衝剤を用いた体液の増量、補給、維持または補足のうち少なくともいずれかが必要とされ、したがってクエン酸塩(pKa:3.09)、乳酸塩(pKa:3.85)または任意の同様に不適当なpKaの緩衝剤ならびに生化学的プロセスおよび生理学的プロセスに対する有害な影響が報告されている無機リン酸イオンの使用は排除される場合の、基本の組成物として広い適用可能性が見出されるであろうと意図される。
【0070】
本発明の溶液は、血液量減少症、または重篤な熱傷を負った対象者において引き起こされた間質液および細胞外液の損失を治療する方法において利用が見出される。さらに、本発明の溶液は再灌流傷害の防止または軽減のうち少なくともいずれか一方を行う方法において適用可能である。したがって、本発明の溶液は医薬品としての使用が見出される。血液量減少症の治療および再灌流傷害の防止/軽減については、本発明の溶液をビーナル内(intravenal)経路により全身投与することが望ましい。そのような場合、患者は安定に臥位に置かれ、従来の臨床上の手順に沿ってその特定の医薬品のビーナル内投与のための臨床上の準備が行われることになる。前記医薬品の患者への送達は、治療の完了が達成されるまで、制御かつ管理された状態の下で実行されることになる。
【0071】
しかしながら、血液量を補給、維持または増量することに加えて、本発明の溶液は、その他の利用、例えば;外科的処置の際にin situで組織および臓器を維持、保存および洗浄するため、急性腎不全または急性毒性状態にある対象者の腹腔を灌流するため、またドナーの組織および臓器をドナー患者から取り出すための外科的処置の際にin situで保存するため、の利用も見出されるであろうと考察される。したがって、血管内経路を介して投与可能であると同様に、本発明の溶液は、他の経路、例えば腹腔内、皮内、筋肉内、局所または経口経路を使用して投与される場合もある。急性腎不全または急性毒性の患者では、患者に麻酔下で外科的介入の準備が施され、前記外科的介入によってカニューレが腹腔に挿入され、常温下で該溶液を用いた連続洗浄が確実に行える位置に固定されることになる。患者の血液化学分析において正常状態が達成されたならば、外科的条件下で腹膜のカニューレの除去が行なわれることになる。
【0072】
熱傷の治療については、熱傷部位自体への局所適用によって該溶液を局部的に投与することが望ましい。しかしながら、さらに、重篤な熱傷の結果引き起こされた脱水を、該溶液の全身投与を通じて治療することができる。そのような状況では、患者は安定に臥位に置かれ、従来の臨床上の手順に沿ってその特定の医薬のビーナル内投与のための臨床上の準備が行われることになる。熱傷波及の部位および程度は、該溶液のビーナル内投与、およびさらなる感染のリスクに基づいた追加の治療薬の必要性の点から、評価されることになる。この治療的処置方法は結果として、該溶液を外側の血管外に流して毒性または感染性の動物性滲出物の蓄積を取り除くことになり、従って縫合剤の常時モニタリングを必要とすることになる。好ましい実施形態では、本発明の方法、溶液および医薬は、ヒトおよびヒト以外の哺乳類対象者、例えばヒトを治療する際に使われる。
【0073】
上述のように、本明細書中で定義される溶液の1つの適用は、ドナーの臓器を、ドナーから該臓器を取り出すための外科的処置の前、処置中および処置後にin situで保存するためであることが想定されている。この点に関する本発明の溶液の使用は、例えば、ドナーの死体から採取されつつあるドナーの腎臓、心臓、肝臓を含めた全身輸液(体外膜型酸素供給(Extra Corporeal Membrane Oxygenation)[ECMO]法)とその後の摘出臓器の常温再灌流を対象とすることが考えられる。予備的研究(本明細書中では示さない)から、本明細書中で定義されるRS−I(実施例を参照)は、低温で保存された死体のヒト臓器を蘇生させて、その臓器を基礎医学的な薬物バイオアッセイ試験に使用できるようにすることによって、動物モデルでのin vitroおよびin vivoの薬物評価を使用して報告される副作用(ADR)の問題に取り組む能力を有している。
【0074】
本発明の溶液については、薬剤を、必要としている対象者に、または該薬剤を試験しようとする環境、例えばヒト以外の対象者に、効率的に送達するための媒体としての利用が見出されるであろうとも想定される。例えば、本発明の溶液は、治療薬、検査薬、もしくは相助作用剤の送達、または別例として幹細胞、ペプチドもしくはゲノム由来のタンパク質の送達を、必要としている対象者に対して行うための賦形剤としての利用が見出されうる。幹細胞の送達は、例えば、該幹細胞を本明細書中で定義される媒体に懸濁することと、得られた懸濁液を必要な場合は組織または臓器に直接送達することとにより行われることが考えられる。この治療方法の下では、患者は、派生型の幹細胞、例えば心筋細胞、肝細胞の外科的切除を受けることになり、該細胞は次いで本発明の溶液に懸濁されて12〜18時間プレインキュベーションされる。この幹細胞型のさらなる増殖が、現在の培地技術を使用して行われ、その後該細胞は溶液に再懸濁され、治療の実施に先立って低温またはやや低温の条件下で患者の枕元に運ばれることになる。患者は、幹細胞療法の投与経路に応じて局所麻酔または全身麻酔、例えば心筋細胞の心筋内投与については局所麻酔を施され、該療法の投与は医薬品の臨床実験の実施に関する基準(good clinical practice)に従って常温(平熱)温度で実施される。別例として、送達がリンパ系への懸濁液の投与によって行われる場合もある。
【0075】
当然ながら、本発明の溶液を使用する場合、当分野で既知の血液量増量剤を投与する一般的な方法を適用することができる。特に、特定の状況において必要とされる投与レベルを(例えば、適切な血圧および循環器機能の維持を参考にして)調節する方法を、最先端技術に注意を払いながら、当業者が利用可能な情報を使用して適用することができる。
【0076】
さらに当然のことであるが、本発明の溶液を利用する場合、外科的処置の際にin situで組織および臓器の浸漬および洗浄を行うための、また体腔の透析のための、当分野で既知の標準的な灌流技術を適用することができる。
【0077】
本発明は、本発明の溶液の特定の構成成分を個々にまたは任意の組み合わせとして使用することができることを想定している。
本発明の特定の実施形態について、次の実施例を用いて下記に述べる。実施例は本発明の実施形態を例証するために提供されるものであり、どのようにも限定するものと見なすべきものではない。
【実施例1】
【0078】
RS−I溶液の製剤化
製剤
以下の調製物においては、エンドトキシンを含まないMilli−Q(登録商標)精製水(米国マサチューセッツ州ミルフォード所在のミリポア社(Millipore Corp))または同等品のASTMタイプI水[比抵抗は25℃でわずか18.0MΩ・cm]を、最初の混合および最後の希釈のいずれにおいても全面的に使用した。以後、用語「精製水」はこの品質の水を示すために用いられる。
【0079】
チアミンピロリン酸(コカルボキシラーゼ)のシグマ(Sigma)C4655を、精製水中で0.4mg/mLの貯蔵溶液として調製し、暗色のガラスバイアル中で凍結保存した。塩化コリン(シグマC7527)を、精製水中で17.5mg/mLの貯蔵溶液として調製し、ガラスバイアル中で凍結保存した。組換えヒトインスリン(シグマI0259/I2643)を、0.12N塩酸でpH2.4に酸性化した精製水中で0.5I.U./mLの貯蔵溶液として調製し、ガラスバイアル中で凍結保存した。
【0080】
RS−I溶液の10×濃縮溶液の調製については、ステンレス鋼のコンテナに8リットルの精製水を注ぎ、以下の材料を秤量して、絶えず撹拌しながら以下の順に添加した:642.96グラムの塩化ナトリウム(CFK0484)、37.28グラムの塩化カリウム(BDH10198)、18.38グラムの塩化カルシウム二水和物(BDS10117)、9.14グラムの塩化マグネシウム6水化物(BDH101494)および106.61グラムのBES遊離酸(シグマB6266)、1.84ミリグラムのチアミンピロリン酸(シグマC9655)(貯蔵溶液4.6mLを使用)、0.9899グラムのL−カルニチン(シグマC0238)、8mlの貯蔵溶液として0.1397グラムの塩化コリン(シグマ7527)、1.013グラムのグリセロール(シグマG2025)、2.8I.U.の組換えヒトインスリン(5mlの貯蔵溶液)、0.310グラムのL−アスパラギン酸ナトリウム塩(シグマA6683)、180.2グラムの無水D−グルコース(シグマG7021)、5.07グラムのL−グルタミン酸ナトリウム塩(シグマG5889)および5.84グラムのL−グルタミン(シグマG5763)。完全に溶解するまで全体を撹拌し、次に、精製水をさらに加えることにより最終体積を10リットルとした。
【0081】
この10×RS−I溶液を、Sartobran(登録商標)PH2Oカートリッジ/0.2マイクロメートルフィルタ(米国所在のザルトリウス社(Sartorius Corp.))を通してろ過滅菌し、100mLの滅菌密封ガラスボトルに入れた。
【0082】
このRS−I溶液は使用するための溶液の10倍濃縮物であるが、炭酸水素ナトリウムは添加されていない。必要時には、10×RS−I溶液を適正量の精製水で希釈し、炭酸水素ナトリウムを加えることができる。
【0083】
1×RS−I溶液の調製については、上記の約10倍濃縮のRS−I溶液100mlを900mLの精製水で希釈して1リットルにするとともにエンドトキシンを含まない炭酸水素ナトリウム(シグマS4019)2.1gを添加し、使用するまで8〜10℃で保管すればよい。炭酸水素イオンを含有する濃縮物の長期保管は炭酸カルシウムの析出を引き起こす可能性があるので、濃縮溶液を保管する前には該溶液に炭酸水素ナトリウムを添加しないことが好ましい。短期間保存用の1×貯蔵溶液は炭酸水素ナトリウムを含んでいてもよい。
【0084】
体液増量剤溶液として使用するために、該溶液1リットルにつき、細菌感染のリスクを防止するために100mg/Lのクロラムフェニコール(シグマC3175)またはその他の従来の抗生物質もしくは抗真菌物質が含まれていてもよい。
【0085】
溶液を調製する場合には、下記の要素を考慮に入れるべきである。
1)溶液の構築方法、具体的には;
2)すべての貯蔵溶液および本発明に従って製造される溶液の10倍濃縮ボトルを作製するために上記に指定される精製水を使用すること;
3)本発明の滅菌貯蔵溶液および濃縮物を調製する方法は、オートクレーブ滅菌またはγ線照射を伴うべきではないこと。例えば、滅菌を達成するために溶液を照射すると、グルタミン、グルコース、インスリンおよびチアミンピロリン酸の諸成分が破壊されることになる;
4)すべての10倍貯蔵濃縮物溶液の保存にガラスボトルを使用すること;
5)pH2.4に酸性化して可溶化インスリンを調製することに加え、インスリン材料および貯蔵溶液を−20℃で保存すること;
6)チアミンピロリン酸およびTPPの貯蔵溶液を調製し、暗条件下にて−20℃で保管すること(下記の理由を参照);
7)塩化コリン貯蔵溶液を調製し、−20℃で保管すること;
8)塩化マグネシウム6水化物(すなわち6H2O)を使用すること。これは、無水物塩を使用すると水を吸着し、正確なマグネシウムイオン含量を算出するために使用される重量に誤差を生じるからである。この誤差は、正確なマグネシウムイオンおよびカルシウムイオン濃度という点でクレブス(Krebs)液を誤って作製する共通の理由である。
【0086】
本実施例で述べるような、すべての好ましい成分を含めることにより、これらの成分が相助的に働いて全体的にバランスのとれた生理学的作用を生じることが可能となる。
製造の詳説
1.貯蔵溶液:本発明の溶液の様々な貯蔵用濃縮物、すなわち1×、10×および長期保存用の20×が調製されているが、好ましい貯蔵用濃縮物は、暗条件下3〜8℃で保存するための、精製水を使用した10×濃縮物をろ過滅菌して100mLの密封ボトルに入れたものである。貯蔵溶液は、10×濃縮物の貯蔵溶液100mLを精製水900mLに加え、最終的なpHを20℃で7.22±0.04とするために2.1gの炭酸水素ナトリウムを添加することによって、1×溶液として使用するために再構成される。本発明による溶液の無菌の貯蔵用10×濃縮物はpH4.6±0.2であり、最大で10年間、無菌でかつ沈殿を生じないことが示されている。本発明の溶液の10×貯蔵用濃縮物について推奨される製造時保管寿命は、暗条件下3〜8℃で保管される場合は14か月である。
【0087】
2.コカルボキシラーゼ:チアミンピロリン酸クロリド(コカルボキシラーゼ)の貯蔵溶液を、エンドトキシンを含まない精製水を使用して18.4g/mLに調製し、ろ過滅菌してチアミンピロリン酸の光分解を防止するために暗色の密封バイアルに入れ、本発明の溶液の10×貯蔵用濃縮物に含めるまでは凍結保存する。
【0088】
3.インスリン:組換えヒトインスリンを、エンドトキシンを含まない精製水を使用して0.5mI.U./mLの酸性化(pH2.4)貯蔵用濃縮溶液として調製し、ろ過滅菌して密封バイアルに入れ、本発明の溶液の貯蔵用濃縮物に含めるまでは凍結保存する。
【0089】
4.コリン:塩化コリンの貯蔵溶液を、エンドトキシンを含まない精製水を使用して17.45mg/mLに調製し、本発明の溶液の貯蔵用濃縮物に含めるまでは密封バイアル中で凍結保存する。
【0090】
5.クロラムフェニコールは本発明の溶液の必須成分ではないが、保存用に、または、保存バイアルの開封後に、該溶液が長く大気に曝露される間の無菌性を保証しかつ本発明の体液増量剤溶液で治療される対象者への感染のリスクを低下させるために、添加されることが好ましい。
【実施例2】
【0091】
RS−I溶液の最終組成
次の表は、体液増量剤として使用するためのRS−I溶液の組成をまとめたものである。
【0092】
【表2】
実施例1および2で述べた、本明細書中ではRS−Iと呼ばれる溶液は、本発明による体液増量剤溶液の好ましい形態を表わす。
【実施例3】
【0093】
RS−I、ヒト血清およびヒト間質液の化学的成分の比較
現時点では、また当分野で一般的な考え方によれば、保存用溶液、灌流用溶液および血液量補給用溶液の製剤は、細胞内または血管外の環境のいずれかの組成を採用するという強い傾向がある。しかしながら、既に本明細書中で述べたように、多くの問題が依然未解決のままである。細胞膜の超微細構造を考慮する際に、本発明者は現行の考え方から離れ、異なる手法、すなわち、細胞膜に直接隣接している環境すなわち間質液相を実際的な人工的方式で模倣し、細胞膜ならびに関連する受容体および酵素部分のホメオスタシスおよび機能的動態を可能な限り維持するように、生理溶液を製剤化する手法をとった。その結果得られた、本明細書中で実施例6および7において実証される、動物種およびヒト由来の単離された細胞、組織および臓器の細胞機能の良好な保存は、この手法の成功を例証している。
【0094】
表IIにおいて以下に示すように、本実施例は、ヒト血清、ヒト間質液およびRS−I溶液に存在する成分の様々な濃度の比較を提示している。
【0095】
【表3】
【実施例4】
【0096】
ラット出血モデルを用いたRS−I溶液の静脈内注入の影響を調べる研究
動物実験室における外科処置
この処置は、体重100グラムあたり0.1ccのXylocaine(登録商標)+0.2ccのケタミンの筋肉内(IM)注射を用いた完全麻酔誘導後の無菌条件下における正中部下方の腹壁切開で構成された。これに続いて、ラットの大動脈を、24ゲージのangiocath(登録商標)を使用して直視下で切開してカニューレを挿入した。これにより、大量採血ならびに溶液の投与のために直接アクセスすることが可能となる。維持量として、0.2ccのケタミンのIM注射を25分ごとにすべてのラットに行う。実験全体を通じて動物を自然に呼吸させ、呼吸数を常時モニターする。実験の間ラットを平常体温に保つために保温器を使用する。正中部下方の腹壁切開の結果、腸が露出されて腹部の血管が現れるようになる。水分の損失を最小限にするために濡れガーゼ(生理食塩水に浸漬したもの)で腸を覆い包む。実験の完了時には、ラットを麻酔下で屠殺するか、または、大動脈のカテーテル部位の穴を、6−0Prolene(登録商標)の8の字縫合を使用して修復し、腹壁切開を、2層の2−0Vicryl(登録商標)縫合糸を使用して閉鎖する。研究の生存役として選ばれたラットには筋肉内投与で抗生物質を与え、手術後は食物を自由摂取させた。本実施例の処置は、ラット1匹当たり完了までに25〜30分を要する。
【0097】
動物および実験上の群分け
同じような週齢(10〜12週)および体重(280〜320g)の19匹のスピローグ・ドーリー(Sprague−Dawley)ラットを実験に使用した。ラットを、乱数割当によって無作為化して3つの治療群すなわち(1)血液量を等体積の生理食塩水で補給(ラット5匹);(2)血液量を、等体積の上記に定義されるようなRS−I溶液で補給(ラット7匹);または(3)失血分の補給なし(ラット7匹)、のうち1つに割り当てた。この研究の第一の終点は呼吸循環停止を裏付けとする動物の死亡とした。
【0098】
出血および蘇生のプロトコール
ラットから、30分ごとに2ccずつ連続的に採血した(制御された出血をシミュレート)。各採血の終わりに、0.1mlのヘパリン化溶液(20mlの正常な生理食塩水中に1000ユニット)を注入し、血液凝固を回避するためのヘパリンロックとした。ラットを、上記に定義される3つの治療群のうちの1つに無作為に割り当てた。
【0099】
観察および回収されたデータは以下すなわち:
a.採血の回数(従って出血量)
b.呼吸数(10分ごとに計測)
c.死亡までの時間(出血が始まってからの生存期間(分))
d.目に見える身体的変化
e.病理
である。
【0100】
統計データ
生存の定義を、最初の採血から心肺停止が記録されるまでの時間とした。p値が0.05未満(p<0.05)である場合に、差が統計的に有意であるとみなした。値はすべて平均±標準偏差(SD)として表した。解析は、SPSSソフトウェアのバージョン13.0(米国イリノイ州シカゴ所在のSPSS社(SPSS,Inc.))を使用して実施した。
【0101】
研究の結果
まとめ:蘇生「なし」治療群のラットは、生存期間が最も短く、最小の採血量であった。生存期間および平均採血量は、正常な生理食塩水またはRS−Iのいずれかを添加することによって著しく改善された。生理食塩水と比較してRS−Iは統計上優位の生存期間を示し(p<0.01)、より大量の採血を可能にした(p<0.01)。
【0102】
生存期間:使用した蘇生溶液に応じたラットの経時的生存を図1に示す。蘇生「なし」治療群のラットは最短の生存期間であった。生存期間は、生理食塩水による失血分の補給またはRS−Iによる補給のいずれかを加えることにより著しく改善された。いずれの溶液も、蘇生なしのラットの生存期間と比較すると有意差を示した。すなわち、RS−I群と蘇生「なし」群との間の平均の差は89±13.13分(p<0.01)、生理食塩水群と蘇生「なし」群との間の平均の差は57±15.87分(p<0.05)であった。RS−Iは生理食塩水よりも優れており、生存期間において統計的に有意な増大をもたらした。RS−Iで治療したラットと生理食塩水で治療したラットとの間の生存期間の平均差は、43.40±6.90分で有意であった(p<0.01)。
【0103】
採血量:各研究治療群についての総採血量を図2に示す。液体で蘇生を行ったラットのいずれの群も、蘇生「なし」の対照治療群と比較して採血量の有意な差を示した(RS−Iは蘇生「なし」に対して5.73±0.62ml、生理食塩水は蘇生「なし」に対して3.64±0.70ml、いずれもp<0.01)。RS−Iで蘇生を行ったラットと生理食塩水で蘇生を行ったラットとの比較から得られた、採血量の平均差は、2.82±0.45mlで統計的に有意である(p<0.01)ことが分かった。
【0104】
呼吸数:図3は、様々な研究治療群における経時的なラットの呼吸数を示す。RS−Iで蘇生を行ったラットは最も長期間生存し、最初に(最初の100分間に)呼吸数の急速な降下が認められたものの、全体として緩慢な呼吸数の低下を示した。生理食塩水で蘇生を行ったラットの全体的な呼吸数は、RS−Iを注入されたラットよりも速く低下し、この低下は輸液を受けなかったラットよりもさらに速かった。
【0105】
結論
RS−Iは、制御された出血性ショックのラットモデルにおける生存期間および失血量に関して、生理食塩水よりも有効な代用血漿であると思われる。
【実施例5】
【0106】
静脈内(IV)液としてRS−Iを投与することの安全性を調べる研究
研究の目的
この研究は、静脈内(IV)注入剤として大型動物モデル(ブタ)に投与された場合のRS−Iの安全性を評価するための、試験的研究として設計された。
【0107】
方法
雌雄両方の、体重27〜35kgの6匹のブタを、この研究治療群に使用した。このブタを動物管理施設に収容し、実験前夜は一晩NPO(絶食)を保った。ブタをそれぞれ個別ケージに収容した。
【0108】
第0日目には、ケタミン(15〜20mg/kg)の筋肉内注射を使用して最初に各々のブタを鎮静させた後、麻酔導入および子宮内膜挿管を行った。麻酔は、心拍数の低下を伴わずに外科刺激に対する反応が欠如するように、ハロタンを用いて維持された。各々のブタに、ゲンタマイシン10%(1cc/10kg)の筋肉内注射により術前の抗生物質の予防投与を行った。
【0109】
各々のブタの左内頚静脈に、厳密な無菌条件下で、直接的カウントダウンによって中心静脈カテーテルを外科的に配置した。この中心静脈ラインは、ブタの皮下組織中で、ブタ頚部の側面上および背面上の出口部位へと延びるトンネル状とし、その場に固定した。これは2つの目的すなわち;カテーテルの事故抜去の防止、およびラインに関連した感染のリスクの最小化、のために行った。その後、動物をケージに戻して麻酔から回復させた。
【0110】
第1日目には、各々のブタを、ケタミン(35mg/kg)およびキシラジン(7mg/kg)の筋肉内注射を使用して鎮静させた。ベースラインの血液試料を無菌法で中心静脈ラインから採取し、即座に分析のため実験室へ送った。得られた血液プロファイルを、完全血球算定、血清生化学測定:電解質、浸透圧重量モル濃度、pH、グルコース、乳酸、クレアチニン、血液尿素性窒素(BUN)、血清酵素(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ[SGOT/AST]、アラニンアミノトランスフェラーゼ[SGPT/ALT]、総クレアチンキナーゼ[CK]および乳酸脱水素酵素[LDH])、凝固因子およびフィブリノゲンのレベルに関して試験した。さらに、炎症性の活性、例えば好中球活性化、インターロイキン6(IL−6)および腫瘍壊死因子α(TNF−α)の計測のために血液を採取し、後で評価するために試料を遠心分離処理して−80℃で保管した。
【0111】
血液を採取した後、各々のブタに、中心静脈ラインを介して1〜2時間かけて徐々に1.0LのRS−I(室温)を注入した。このブタを、健康障害の何らかの徴候または異常な行動/兆候について、注入時に直接観察した。その後、ブタを通常の居住域へ戻し、健康障害の何らかの徴候または異常な行動/兆候について、動物舎の獣医が観察した。
【0112】
第1日目に実施したのと同じ手順を第2日目および第3日目に繰り返した。RS−Iの各注入に先立って、RS−Iの投与に関係する何らかの悪影響について評価するために同じ血液プロファイル(下記)を得た。その後、ブタを7日間観察し、ケタミンを用いた鎮静下での塩化カリウム溶液の静脈内投与によって第7日目に人道的に安楽死させた。安楽死に先立って、最後の血液試料(第7日目)を回収した。TNF−αおよびIL−6を測定するための血液試料も採取した。これらの試料を2000r.p.m.[20℃]で5分間遠心分離処理し、次に、市販のブタELISAアッセイを使用して後日処理するために−80℃で保管した。検視検査をすべてのブタについて実施し、臓器(脳、肺、肝臓および腎臓)を摘出し、後日の組織学的検査およびアポトーシス試験のためにホルムアルデヒド中に保管するかまたは−80℃で冷凍した。
【0113】
結果
6匹のブタ全てを1週間観察し、全てが正常な範囲内の行動および食性を示した。
血液の結果を、図4に示し、また図5〜9にグラフで表す。これらの血液結果は、この体重区分のブタの正常範囲内にあった。
【0114】
血液プロファイル区分の分析
1.電解質および生物物理学的パラメータ:
7日間の実験期間の間の血清中電解質または浸透圧重量モル濃度には、ベースライン(「対照」)の値と比較して有意差(p<0.05)は観察されなかった(図4G、表1;図5a〜g)。48時間後には、ブタ番号2および5において、既報の範囲の値へのナトリウムイオンレベルの上昇が観察されたが、第7日までにベースライン値に戻った(図5a)。ブタ番号6だけは実験期間の間に漸進的な上昇を示したがこの場合も、全体的な傾向レベルと同じように、最大値150mmol/Lの範囲内にあった(図4G、表1;図5a)。
【0115】
酸塩基平衡(すなわち炭酸水素レベル;図5f)または塩化物レベル(図4G、表1;図5e、f)の有意な変化は同じ実験期間には観察されなかった。
2.血清代謝物質:
血清代謝物質のベースライン値はすべて外科的徒手操作の外傷後の第1日目に当然上昇したが、(乳酸を除く)すべてが第7日目までに正常血清の値の範囲内に戻る傾向を示した(図6)。第2日目および第3日目には、乳酸レベルが基準値を下回り(図6)、統計的には有意な傾向を伴わないが乳酸レベルのかなりの変動があった。
【0116】
3.血清酵素:
外科的徒手操作の外傷後には検査したすべての血清酵素の上昇が認められたが(図7)、(SGPT[ALT];図7b、を除く)すべてが第7日目までに許容可能な血清値まで低下して、心臓、肝臓、肺および腎臓の機能的完全性の復旧を示した。SGPT[ALT]について観察された上昇は、正常血清の値の50パーセンタイルの範囲内にあり、この場合も第7日目までの心臓および肺の機能的完全性を示している群データの範囲内または該データ内で統計的な差はなかった(P<0.26)。
【0117】
4.血液成分:
正常血液量(normovolemic)のブタはそれぞれ、1.8〜2.3L(67mL/kg)の推定総血液量を有し、各々のブタに72時間の間に総体積3LのRS−Iを投与した。第7日目まで、RBC数の血液希釈は観察されず、ヘマトクリット(Hct)値およびヘモグロビン(Hg)レベルは正常範囲を維持していた(図8a、b、c)。同様に、リンパ球数は調査した7日間でベースライン値に戻り(図8d)、白血球(WBC)数のみが第7日目までに軽微な有意でない上昇を示した(図8e)。
【0118】
調査した血液凝固パラメータの面では、ブタ番号2だけが血小板について例外的なベースライン値を示したが、これは第7日目までに正常に回復した(図9a)。血液凝固パラメータ、すなわちプロトロンビン凝固指数(INR)および活性化部分プロトロンボプラスチン時間(aPTT)(図9b、cを参照)は一定を維持し、かつ既報の範囲内であった。フィブリノゲンレベルは、7日間の実験期間の間下降傾向を示すように見えた(図9d)が、この場合も値はブタ生物種の許容限度内に留まった。
【0119】
48時間かけてRS−Iを注入した後は、第7日目までに全体的な傾向として、炎症性作用の欠如を示唆するWBCのベースラインレベルの回復(図8e)およびリンパ球レベルの減少(図8d)がみられた。
【0120】
推論
ブタ類に関する多数の調査研究から血液および血清のプロファイル値における大きな多様性が示されていることは、広く認められているはずである。本研究では、これらの値は検査したブタ類の中では一貫しており、良好な統計的相関を有していた。
【0121】
実験期間中にRS−I溶液を注入された正血液量性のブタでは、血液希釈は生じていないようである(図4G、表1)。
特徴的には、量補充療法は、投与される血液補給液の製剤に使用される様々な添加剤の抗原性および/または毒性に関係するようである、炎症症状、アナフィラキシー症状、過剰凝血症状を生じやすい。このことは、得られた血球プロファイルデータの分析からは、RS−I溶液の静脈内投与に当てはまるようには見えない。
【0122】
この試験的研究において重要なのは、RS−I溶液の静脈内投与の安全面、および、量補給用液を用いた臨床業務における共通の知見である高塩素血症性(代謝性)アシドーシスが発生しないこと、を評価することである。酸塩基平衡の乱れは、炭酸水素イオンおよび塩化物イオンのレベルの保持によって証明されるように、7日間にわたって検査されたブタでは観察されなかった。
【0123】
第2日目および第3日目までのRS−I溶液の注入時に調べたすべてのブタにおいて、ベースラインの血清中乳酸レベルの抑制が生じたという一時的観察(図6b)から示唆されるように思われるのは、RS−Iを注入された正常血液量性のブタでは:
a)血清乳酸レベルを維持するためのピルビン酸の代謝(解糖);
b)ATPを生成するための組織乳酸の異化、および
c)グルコースまたはグリコーゲンを形成するための肝臓による再合成(コリ回路)
を最適化する条件が揃っていることである。
【0124】
研究対象としたブタはすべて、実験期間の間、乳酸/ピルビン酸代謝と密接に関連し、かつ再灌流傷害の際には組織および臓器から特徴的に放出される酵素である血清乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の漸落を示した。
【0125】
この研究で特に興味深いのは、静脈用注射液の再灌流時に損傷を受けた臓器(例えば心臓、肺、肝臓、腎臓)に関連した酵素(例えばCPK(クレアチンホスホキナーゼ)、SGOT、SGPT)の放出が、最初は生体の機能をモニターするために必要な外科的処置(「方法」を参照)による外傷後の第1日目に上昇する一方で、徐々に減少して正常な既報のレベルの範囲内になるという観察であった(図4G、表1)。
【0126】
結論
ブタに1.0LのRS−Iを3日間毎日IV注入する、上記に詳述した研究は、成功裡に終わった。得られた結果に基づいて結論付けられることは、RS−Iは、静脈内投与される場合、臨床的に許容可能な条件下でブタを飼育するのに明白な安全上の問題点を持たないということである。
【実施例6】
【0127】
RS−Iを使用して保存した後の摘出腎臓の機能に関する研究
方法
心停止ドナー(NHBD)のブタ腎臓を、RS−Iまたは市販の低温保存溶液であるSoltran(登録商標)もしくはUW(ウィスコンシン大学)のうちいずれかの中で「寒冷」(0℃〜4℃)静止(CS)条件下で2時間、あるいは「温暖」(31℃)静止(WS)条件下で保存した。この腎臓をその後、自家血液/乳酸加リンゲル液の50:50灌流混合物を用いて常温条件下で6〜8時間再灌流した。
【0128】
結果
自家血液を用いた6時間の常温灌流後の摘出ブタ腎臓において測定された機能的パラメータを、以下の表IIIに示すが、表中、「n」は試験した腎臓の数を表している。
【0129】
【表4】
本研究から、自家血液中での腎臓蘇生後に評価されるような腎機能の維持において、RS−Iが他の保存溶液より著しく優れた性能を有することが明らかとなった。再灌流期間の間に得られたデータの分析から、RS−I中に4℃で保存された腎臓は、(1)酸素消費量の増加、(2)クレアチンクリアランス率の上昇、(3)腎血流量[RBF]の増加、(4)尿排出量の増加、(5)腎血管抵抗[RVR]の低下、(6)重量増加の減少(すなわち浮腫の低減)、(7)安定した血液pHおよび酸塩基平衡の保持[炭酸水素イオンレベル]、ならびに(8)無視できる程度の細胞内K+の損失、を示した。
【0130】
特に重要なのは、血液pHの安定性および中間的な酸塩基平衡の保持(H+/HCO3−)が観察されたことである。このように観察された安定性から、RS−Iで保存された腎臓では、主要なpH緩衝系すなわちグルタミン−アンモニアシャトルが、他の2つの市販の保存溶液で観察されたような影響をうけなかったことが示される(上記の表IIIを参照)。加えて重要なことは、AQIX(登録商標)RS−Iの中で「温暖」(WS)虚血条件下で2時間保存された腎臓では、その後の6〜8時間の再灌流でADP:ATPバランスが回復したという観察であった(図10を参照)。
【0131】
ADP:ATP比のレベルは灌流前の生検において最も高く、CS/WS保管期間中に受けた虚血性障害の指標となった(図10)。しかしながら、6時間の灌流後、この比は細胞機能の回復を示している両群において改善したものの、腎臓のCS群およびWS群の間では有意差は観察されなかった(p=0.71)(MD Kay et al.,2006;Transplant International 20(1),88−92)。
【実施例7】
【0132】
摘出された哺乳類の臓器および組織調製物の生存能力を様々な保存期間にわたって維持するRS−Iの能力の評価
方法
哺乳類の組織および臓器調製物の機能的生存能力を、RS−I溶液中で様々な期間について組織/臓器を保管/灌流した後に評価した。生存能力は、様々な機能的指標、例えば細胞膜電位の維持、神経伝達物質の生産量、筋原性、膜受容体感受性、酵素機能、組織学的変化などを使用して評価した。
【0133】
結果
下記の表IVは、RS−I溶液が様々な哺乳動物およびヒトの組織および臓器調製物の機能的な生存能力を、様々な長さの保存期間(0.3〜10日間)にわたって維持する能力を提示している。
【0134】
【表5】
【実施例8】
【0135】
出血性ブタモデルで静脈内投与された場合のRS−I液体の有効性を自家血液および生理食塩水と比較する前臨床試験
研究の目的
ブタの出血性外傷後の、蘇生(増量)溶液としてのRS−Iの有効性ならびに組織再灌流傷害の低減におけるRS−Iの有効性を、自家血液、または臨床応用に一般に用いられている血液量増量溶液である乳酸加リンゲル液(LR)を用いた補給と比較して調査する。
【0136】
方法
この研究では、23匹の無作為に選択された非同系の畜豚を、4つの実験群において、すなわち3匹を「シャム」(対照)、6匹を自家血液、6匹をRS−I溶液、6匹をLR溶液の実験群に使用した。標準化された全身麻酔条件下で、すべての血行動態プロファイルを十分計測できるように動物に機器を装備した。その後、ブタの大腿動脈から、MAPが30mmHgに達するまで急速に出血させた。出血は、MAPを30±2mmHgに45分間維持するのに必要なだけ継続させた。出血させた血液を、ACD処理されたバッグに回収し、その正味重量を、出血させた血液量を概算するために使用した。
【0137】
45分間のショック期間の終了時に、動物に、出血させた血液量の3〜4倍に匹敵する乳酸加リンゲル液(LR)もしくはRS−I溶液を与えるか、出血させた自家全血を与えるか、または蘇生を行わないか(「シャム」対照群)のいずれかとした。
【0138】
蘇生用液は、MAPを60±2mmHgに維持するように、2時間かけて動的な方法で漸増的に与えた。すべての血行動態パラメータを、ベースライン;45分間のショック期間の開始時、ショックの30分時点;ショックの45分時点(完了時);ならびに蘇生の30、60、90および120分時点、において計測した。血液ガス分析、乳酸測定、完全血球算定、血清生化学測定:電解質、グルコース、浸透圧モル濃度、血清酵素(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ[SGOT/AST]、アラニンアミノトランスフェラーゼ[SGPT/ALT]、総クレアチンキナーゼ[CK]および乳酸脱水素酵素[LDH])および凝固プロファイルのための血液試料を、同じ時間間隔で採取した。
【0139】
好中球活性化のレベルは、ミロペルオキシダーゼ(myloperoxidase)酵素法、ならびにアポトーシス(細胞死)現象の指標としてのTNF−αおよびIL−6のレベルを介して測定した。
【0140】
蘇生の後、毎日の採血用の頚部静脈カテーテルを残して、動物からカニューレを取り除いた。術後7日間の間、動物を任意の行動変化について観察し、手術後第1、2および7日目に採血を行った。その後、動物を術後第7日目に人道的に屠殺して、脳、腎臓、肺および肝臓における再灌流傷害の何らかの病理学的証拠について検査した。
【0141】
結果
概略:
生存している3つの実験群の全18匹のブタを1週間観察すると、すべて正常な範囲内の行動および食性を示した。
【0142】
血行動態:
RS−I群のブタの平均動脈圧(図11を参照)、中心静脈圧、肺動脈閉塞圧の、蘇生の最初の60分間における回復時間が最も速く、自家血液群のブタに匹敵したが、LR群のブタでは最も遅かった。心拍出量の回復は、自家血液群およびLR群のブタのいずれと比較してもRS−I群のブタで有意に速くかつ大きかった(図12を参照)。
【0143】
血液プロファイル:
術後第7日までの血清中電解質濃度は、LR群のブタにおけるナトリウムイオン濃度の上昇を除いてすべての実験群について正常レベルの範囲内に回復した。アニオンギャップおよび強イオン濃度較差は、術後第7日までにすべての群のブタで正常な範囲内にあった。
【0144】
酵素レベルは術後第1日および第2日に上昇したが、術後第7日までにはベースライン値に戻った。血液凝固パラメータの著しい変化は7日の実験期間には観察されなかった(図13を参照)。
【0145】
病理:
術後第7日では、再灌流傷害の証拠は、RS−I群および自家血液群のいずれのブタにおいても肺および肝臓には存在せず、腎臓では軽微であったが、LR群のブタではこれら3種の臓器に顕著かつ広範囲な特徴がみられた(図13を参照)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して体液増量剤に関する。特に本発明は、血液または血管外体液の体積を増量、維持または補給する際に使用される生理学的液体媒体に関する。本発明は静脈内および血管外(例えば腹膜)への注入手法を含む様々な医学的適用における利用が見出されるであろうと想定される。
【背景技術】
【0002】
血液量減少症(hypovolemia)としても知られる血液量の損失は、例えば、物理的傷害、外科手術、内出血または熱傷を含む多くの原因から生じうる。血液量減少症はまた、利尿剤および血管拡張剤のような薬物の摂取によって引き起こされる場合もある。
【0003】
血液量減少症に起因する大幅な血液量の損失は、迅速に治療しなければ致命的となりうる。そのような失血は、血圧の低下、ならびに重要な臓器および組織への血液(およびそれに伴う酸素)の不可欠な供給の低減に結びつく。従って、血液量減少症は、虚血、多臓器不全、腎臓損傷、脳損傷、および最終的には死亡につながる可能性がある。
【0004】
血液量減少症は、出血を伴う事態の後で、失われた血液の代用として結晶状またはコロイド状の液体を用いて対象者を灌流することにより治療される。これらの代用体液は、血液量を増し、再水和を引き起こし、血圧を正常化するように作用する。
【0005】
目下知られている代用血液または血液量増量剤の例には、乳酸加リンゲル液、ハルトマンの溶液、HES(ヒドロキシエチルスターチ)および等張食塩水(塩化ナトリウム)が含まれる(非特許文献1〜4)。
【0006】
現在の血液量増量剤は、その血液量を回復する能力にもかかわらず、再灌流傷害として知られる重篤かつ多くの場合致命的な症状を防止するという点では有効でない。この現象は、重篤な血液量減少症となった人において観察され、重要な臓器(肺、腎臓、肝臓など)の損傷という形で現われる。再灌流傷害の有害な影響は、通常は血液量増量剤を用いた灌流後1〜3日の間に観察される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Chiara et al.;Crit Care Med.2003;31(7):1915−22
【非特許文献2】Rhee et al.;J.Trauma.1998;44(2):313−319
【非特許文献3】Jernigan et al.;Am Surg.2004;70(12):1094−8
【非特許文献4】Via et al.;J.Trauma.2001;50:1076−82
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、失血、ならびに血液量減少症および重篤な熱傷に起因する間質液および細胞外液の損失を補うことができる、さらなる溶液を開発する必要を認めている。さらに、血液量減少症の対象者における再灌流傷害の発生を防止または低減するという点で有効な治療を開発する必要もある。
【0009】
上記に加えて、十分な量の血管外間質液を維持する必要もある。細胞を浸しかつ取り囲むこの液体は、組織および臓器のホメオスタシス維持にとって不可欠であり、また、とりわけ細胞に物質を送達し、代謝廃棄物を除去し、かつ有効な細胞間通信を促進する手段として機能する。
【0010】
本発明はさらに、代用体液治療が身体臓器内部の浮腫状態をもたらすことによって簡単に再灌流傷害の発生を増大させてしまうという重大かつ重要な問題に取り組むものである。本発明は、あらゆる局面において、ただし最も重要なこととしては張性および浸透圧重量モル濃度の点で間質液の組成に適合し、かつ、リンパ系と協力して血管外腔と間質相との間のより自然な動的流体交換を促進することによって周囲組織における浮腫の発生を防止するであろう、生理学的に平衡状態の液体を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
1つの態様では、本発明は、非無機リン酸で緩衝化された体液増量剤溶液、すなわち緩衝剤が無機リン酸緩衝剤以外の生理学的に許容可能な緩衝剤である緩衝化された体液増量剤溶液であって、5:1〜1:1の濃度比でカルシウムイオンおよびマグネシウムイオンを含んでなる溶液、を提供する。
【0012】
別の態様では、本発明は、生理学的に許容可能なN−置換アミノスルホン酸緩衝剤、特に20℃で7.1〜7.5の水溶液中pKa値を有するものから成る群から選択される、最も好ましくはN−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−2−アミノエタンスルホン酸(TES)、3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−2−アミノエタンスルホン酸(BES)およびこれらの組み合わせから成る群から選択される非リン酸緩衝剤を含んでなる、体液増量剤溶液を提供する。
【0013】
さらに別の態様では、本発明は、5:1〜1:1の濃度比でカルシウムイオンおよびマグネシウムイオンを含んでなり、かつ生理学的に許容可能なN−置換アミノスルホン酸緩衝剤、特に20℃で7.1〜7.5の水溶液中pKa値を有するものから成る群から選択される、最も好ましくはTES、MOPS、BESおよびこれらの組み合わせから成る群から選択される非リン酸緩衝剤をさらに含んでなる、体液増量剤溶液を提供する。
【0014】
1つの実施形態では、非リン酸緩衝剤は1〜12mmol/L、好ましくは約5mmol/Lの濃度で存在する。
本発明の体液増量剤溶液は、4:1〜2:1、より好ましくは約3:1の濃度比でカルシウムイオンおよびマグネシウムイオンを含んでなることが好ましい。
【0015】
好ましくは、本発明の体液増量剤溶液は、0.1〜2.5mmol/Lのカルシウムイオンまたは0.4〜25mmol/Lのマグネシウムイオンのうち少なくともいずれか一方を含んでなる。25mmol/L近くの高濃度のマグネシウムイオンは、心筋保護の目的で溶液を改変するために有用であるが、体液増量剤溶液としての通常の使用には、以下に示す濃度が推奨される。
【0016】
1つの実施形態では、体液増量剤溶液は、1.0〜2.5mmol/L、好ましくは1.1〜1.4mmol/L、より好ましくは1.2〜1.3mmol/L、さらにより好ましくは約1.25mmol/Lの濃度のカルシウムイオンを含んでなる。
【0017】
本発明の体液増量剤溶液は、好ましくは0.2〜0.6mmol/Lの濃度のマグネシウムイオンを含んでなり、より好ましくは0.3〜0.5mmol/L、さらにより好ましくは約0.45mmol/Lのマグネシウムイオンを含んでなる。
【0018】
1つの実施形態では、カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンは、それぞれ約1.25mmol/Lおよび約0.45mmol/Lの濃度で存在する。
1つの実施形態では、本発明の体液増量剤溶液は、血液量の増量または補給のうち少なくともいずれか一方を行うための代用血液である。さらに別の実施形態では、体液増量剤は血管外液代用物、例えば間質液代用物である。
【0019】
上記に加えて、本発明はさらに、本明細書中で定義される溶液の濃縮形態も包含する。例えば1〜50×、好ましくは5〜20×濃縮物が含まれる。1×濃度すなわち作業濃度の溶液を提供するためには、5×、10×、20×および50×の濃縮物にはそれぞれ、濃縮物1体積に加えるための4、9、19および49体積の水と、希釈された1×溶液1リットル当たり2.1g相当の炭酸水素ナトリウムとが必要である。
【0020】
別の態様では、本発明は、医薬および血液量増量剤として使用するための本明細書中で定義されるような溶液を提供する。
さらなる態様では、本発明は、血液量減少症または熱傷のうち少なくともいずれか一方の治療における使用、および再灌流傷害の防止または軽減のうち少なくともいずれか一方における使用のための、本明細書中で定義されるような溶液を提供する。
【0021】
さらに別の態様では、本発明は、(a)補液療法、(b)外科的処置を受けている対象者の体腔(例えば腹腔または胸腔)の灌流、または(c)治療薬、検査薬、もしくは相助作用剤のうち少なくともいずれかの、対象者への血管内もしくは血管外送達、のうち少なくともいずれかにおいて使用するための本明細書中で定義されるような溶液を提供する。
【0022】
本発明はさらに、例えば、血液量減少症の治療用、または熱傷を負った対象者の細胞外液および間質液の損失の治療用の、医薬および血液量増量剤を製造するための、本明細書中で定義されるような溶液の使用法も包含する。
【0023】
本発明はさらに、(a)熱傷を負った対象者の間質液の損失の治療、(b)対象者における呼吸性アシドーシスまたは代謝性アシドーシスのうち少なくともいずれか一方の治療、(c)急性腎不全もしくは急性毒性症状を有する対象者の腹膜透析中の腹腔の灌流、または(c)再灌流傷害の防止もしくは軽減のうち少なくともいずれか一方、のための医薬を製造するための、本明細書中で定義されるような溶液の使用法を提供する。
【0024】
さらに別の態様では、本発明は、治療薬、検査薬、もしくは相助作用剤のうち少なくともいずれか、例えば少なくとも1つの幹細胞、ペプチドもしくはゲノム由来のタンパク質のような生物学的作用物質、を対象者に送達するための、本発明の溶液の使用法を包含する。
【0025】
好ましい実施形態では、送達は、血管内、腹腔内、皮内、経口、筋肉内または局所経路を介した投与によって行われる。任意選択で、送達は対象者のリンパ系への投与によって行われる。
【0026】
さらに別の態様では、本発明は、血液量減少症または熱傷のうち少なくともいずれか一方を治療する方法、および再灌流傷害の防止もしくは軽減のうち少なくともいずれか一方を行う方法を包含し、これらの方法は、該方法を必要とする対象者に、有効な量の本明細書中で定義されるような溶液を投与することを含んでなる。
【0027】
好ましい実施形態では、血液量減少症は脱水または熱傷または出血のうち少なくともいずれかに起因する。別の実施形態では、血液量減少症は薬物誘導性である。
さらなる態様では、本発明は、対象者に対して行なわれる外科的処置の間に組織または臓器のうち少なくともいずれか一方の生理的ホメオスタシスをin situで維持する方法であって、前記組織または臓器を、本明細書中で定義されるような溶液で灌流することを含んでなる方法を提供する。
【0028】
上記方法の1つの実施形態では、前記組織または臓器のうち少なくともいずれか一方が前記溶液で灌流された時に低体温状態に維持されるように、溶液は4〜20℃の温度に維持される。
【0029】
上記方法のさらに別の実施形態では、外科的処置は、組織または臓器のうち少なくともいずれか一方を、続いてレシピエント対象者に移植するためにドナー対象者から取り出すために行われる。
【0030】
さらに別の態様では、本発明は、治療薬、検査薬、もしくは相助作用剤のうち少なくともいずれかを、本発明の溶液を使用して対象者に送達する方法を包含する。好ましい実施形態では、前記薬剤は、少なくとも1つの幹細胞、ペプチドまたはゲノム由来のタンパク質のような生物学的作用物質である。
【0031】
好ましい実施形態では、送達は、血管内、腹腔内、皮内、経口、筋肉内または局所経路を介した投与によって行われる。任意選択で、送達は対象者のリンパ系への投与によって行われる。
【0032】
別の態様では、本発明は、(a)急性腎不全もしくは急性毒性症状を有する対象者の腹腔の透析;または(b)外科的処置を受けている対象者の腹部臓器もしくは胸部臓器のうち少なくともいずれか一方の洗浄、のうち少なくともいずれか一方のための本明細書中で定義されるような溶液の使用法を提供する。
【0033】
さらに別の態様では、本発明は、医薬として使用するための、無機リン酸をほとんど含まない緩衝化された溶液、特にクエン酸緩衝剤および乳酸緩衝剤のうち少なくとも一方についてもほとんど含まないものを包含する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】使用した蘇生溶液に応じた経時的なラット生存の評価について示す図。ラットから血液を定期的に採取した。ラットは以下のような3つの実験治療群すなわち(1)血液の代わりに生理食塩水を補給;(2)血液の代わりに本明細書中でRS−I溶液またはRS−Iと呼ばれる本発明の好ましい溶液を補給;および(3)失血分の補給なし、に分けた。様々な群の各々におけるラットの生存をモニターし、データを図1に示した。
【図2】上記の図1に関して定義された研究治療群の各々について採取した血液の総体積の比較を示す図。血液は、以下の実施例4に述べるようにしてラットから採取した。
【図3】図1に関して定義された様々な研究治療群における経時的なラットの呼吸数の評価について示す図。
【図4A】RS−Iを用いて様々な時間にわたって灌流したブタの血液プロファイルの評価について示す図。ブタに、1.0LのRS−I溶液を3日間毎日注入し、血液試料を様々な時点で採取した。血液試料を、とりわけ、完全血球算定、血清生化学測定、電解質、グルコース、乳酸、浸透圧重量モル濃度、血清酵素(血清グルタミン酸−オキサロ酢酸トランスアミナーゼ/アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ[SGOT/AST]、血清グルタミン酸−ピルビン酸トランスアミナーゼ/アラニンアミノトランスフェラーゼ[SGPT/ALT]、クレアチンキナーゼ[CK]および乳酸脱水素酵素[LDH])、凝固因子およびフィブリノゲンのレベルに関して試験した。さらに、血液をインターロイキン6(IL−6)および腫瘍壊死因子α(TNF−α)について計測した。
【図4B】RS−Iを用いて様々な時間にわたって灌流したブタの血液プロファイルの評価について示す図。ブタに、1.0LのRS−I溶液を3日間毎日注入し、血液試料を様々な時点で採取した。血液試料を、とりわけ、完全血球算定、血清生化学測定、電解質、グルコース、乳酸、浸透圧重量モル濃度、血清酵素(血清グルタミン酸−オキサロ酢酸トランスアミナーゼ/アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ[SGOT/AST]、血清グルタミン酸−ピルビン酸トランスアミナーゼ/アラニンアミノトランスフェラーゼ[SGPT/ALT]、クレアチンキナーゼ[CK]および乳酸脱水素酵素[LDH])、凝固因子およびフィブリノゲンのレベルに関して試験した。さらに、血液をインターロイキン6(IL−6)および腫瘍壊死因子α(TNF−α)について計測した。
【図4C】RS−Iを用いて様々な時間にわたって灌流したブタの血液プロファイルの評価について示す図。ブタに、1.0LのRS−I溶液を3日間毎日注入し、血液試料を様々な時点で採取した。血液試料を、とりわけ、完全血球算定、血清生化学測定、電解質、グルコース、乳酸、浸透圧重量モル濃度、血清酵素(血清グルタミン酸−オキサロ酢酸トランスアミナーゼ/アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ[SGOT/AST]、血清グルタミン酸−ピルビン酸トランスアミナーゼ/アラニンアミノトランスフェラーゼ[SGPT/ALT]、クレアチンキナーゼ[CK]および乳酸脱水素酵素[LDH])、凝固因子およびフィブリノゲンのレベルに関して試験した。さらに、血液をインターロイキン6(IL−6)および腫瘍壊死因子α(TNF−α)について計測した。
【図4D】RS−Iを用いて様々な時間にわたって灌流したブタの血液プロファイルの評価について示す図。ブタに、1.0LのRS−I溶液を3日間毎日注入し、血液試料を様々な時点で採取した。血液試料を、とりわけ、完全血球算定、血清生化学測定、電解質、グルコース、乳酸、浸透圧重量モル濃度、血清酵素(血清グルタミン酸−オキサロ酢酸トランスアミナーゼ/アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ[SGOT/AST]、血清グルタミン酸−ピルビン酸トランスアミナーゼ/アラニンアミノトランスフェラーゼ[SGPT/ALT]、クレアチンキナーゼ[CK]および乳酸脱水素酵素[LDH])、凝固因子およびフィブリノゲンのレベルに関して試験した。さらに、血液をインターロイキン6(IL−6)および腫瘍壊死因子α(TNF−α)について計測した。
【図4E】RS−Iを用いて様々な時間にわたって灌流したブタの血液プロファイルの評価について示す図。ブタに、1.0LのRS−I溶液を3日間毎日注入し、血液試料を様々な時点で採取した。血液試料を、とりわけ、完全血球算定、血清生化学測定、電解質、グルコース、乳酸、浸透圧重量モル濃度、血清酵素(血清グルタミン酸−オキサロ酢酸トランスアミナーゼ/アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ[SGOT/AST]、血清グルタミン酸−ピルビン酸トランスアミナーゼ/アラニンアミノトランスフェラーゼ[SGPT/ALT]、クレアチンキナーゼ[CK]および乳酸脱水素酵素[LDH])、凝固因子およびフィブリノゲンのレベルに関して試験した。さらに、血液をインターロイキン6(IL−6)および腫瘍壊死因子α(TNF−α)について計測した。
【図4F】RS−Iを用いて様々な時間にわたって灌流したブタの血液プロファイルの評価について示す図。ブタに、1.0LのRS−I溶液を3日間毎日注入し、血液試料を様々な時点で採取した。血液試料を、とりわけ、完全血球算定、血清生化学測定、電解質、グルコース、乳酸、浸透圧重量モル濃度、血清酵素(血清グルタミン酸−オキサロ酢酸トランスアミナーゼ/アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ[SGOT/AST]、血清グルタミン酸−ピルビン酸トランスアミナーゼ/アラニンアミノトランスフェラーゼ[SGPT/ALT]、クレアチンキナーゼ[CK]および乳酸脱水素酵素[LDH])、凝固因子およびフィブリノゲンのレベルに関して試験した。さらに、血液をインターロイキン6(IL−6)および腫瘍壊死因子α(TNF−α)について計測した。
【図4G】RS−Iを用いて様々な時間にわたって灌流したブタの血液プロファイルの評価について示す図。ブタに、1.0LのRS−I溶液を3日間毎日注入し、血液試料を様々な時点で採取した。血液試料を、とりわけ、完全血球算定、血清生化学測定、電解質、グルコース、乳酸、浸透圧重量モル濃度、血清酵素(血清グルタミン酸−オキサロ酢酸トランスアミナーゼ/アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ[SGOT/AST]、血清グルタミン酸−ピルビン酸トランスアミナーゼ/アラニンアミノトランスフェラーゼ[SGPT/ALT]、クレアチンキナーゼ[CK]および乳酸脱水素酵素[LDH])、凝固因子およびフィブリノゲンのレベルに関して試験した。さらに、血液をインターロイキン6(IL−6)および腫瘍壊死因子α(TNF−α)について計測した。
【図5a】正常血液量のブタモデルにおける血清中電解質レベルの分析について示す図。
【図5b】正常血液量のブタモデルにおける血清中電解質レベルの分析について示す図。
【図5c】正常血液量のブタモデルにおける血清中電解質レベルの分析について示す図。
【図5d】正常血液量のブタモデルにおける血清中電解質レベルの分析について示す図。
【図5e】正常血液量のブタモデルにおける血清中電解質レベルの分析について示す図。
【図5f】正常血液量のブタモデルにおける血清中電解質レベルの分析について示す図。
【図5g】正常血液量のブタモデルにおける血清中電解質レベルの分析について示す図。
【図6a】正常血液量のブタモデルにおける血清中代謝物質レベルの分析について示す図。
【図6b】正常血液量のブタモデルにおける血清中代謝物質レベルの分析について示す図。
【図6c】正常血液量のブタモデルにおける血清中代謝物質レベルの分析について示す図。
【図6d】正常血液量のブタモデルにおける血清中代謝物質レベルの分析について示す図。
【図7a】正常血液量のブタモデルにおける血清中酵素レベルの分析について示す図。
【図7b】正常血液量のブタモデルにおける血清中酵素レベルの分析について示す図。
【図7c】正常血液量のブタモデルにおける血清中酵素レベルの分析について示す図。
【図7d】正常血液量のブタモデルにおける血清中酵素レベルの分析について示す図。
【図8a】正常血液量のブタモデルにおける血球プロファイルの分析について示す図。
【図8b】正常血液量のブタモデルにおける血球プロファイルの分析について示す図。
【図8c】正常血液量のブタモデルにおける血球プロファイルの分析について示す図。
【図8d】正常血液量のブタモデルにおける血球プロファイルの分析について示す図。
【図8e】正常血液量のブタモデルにおける血球プロファイルの分析について示す図。
【図9a】正常血液量のブタモデルにおける血液凝固パラメータの分析について示す図。
【図9b】正常血液量のブタモデルにおける血液凝固パラメータの分析について示す図。
【図9c】正常血液量のブタモデルにおける血液凝固パラメータの分析について示す図。
【図9d】正常血液量のブタモデルにおける血液凝固パラメータの分析について示す図。
【図10】寒冷静置(CS)群および温暖静置(WS)群のブタ腎臓における、6時間の常温灌流の前後のADP:ATP(アデノシン二リン酸:アデノシン三リン酸)比の比較を示す図。
【図11】自家血液、RS−I液および乳酸加リンゲル生理食塩水における蘇生後の平均動脈圧の変化を示す図。
【図12】自家血液、RS−I液および乳酸加リンゲル生理食塩水における蘇生後の心拍出量を示す図。
【図13】自家血液、RS−I液および乳酸加リンゲル生理食塩水における蘇生後の活性化プロトロンボプラスチン時間(aPTT)を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本明細書中で使用される用語「体液増量剤」、「体液増量剤溶液」または「代用体液」は、体液の補給もしくは増量、または十分量の体液の維持のうち少なくともいずれかにおける使用が意図されている生理学的液状溶液を意味する。本発明の溶液による増量、補給、維持の対象として意図される体液には、血管内液(例えば血漿のような血液成分)、または別例として血管外液(例えば間質液)が挙げられる。
【0036】
用語「体液増量剤」および「体液増量剤溶液」はさらに、治療薬、検査薬、もしくは相助作用剤のうち少なくともいずれかを、前記薬剤を必要とする対象者の体内に、または該薬剤を試験すべき環境、例えばヒト以外の対象に送達する媒体としての使用が意図される生理学的液体媒体も包含する。
【0037】
用語「対象者」は、必要に応じて、ヒト対象者およびヒト以外の動物対象者、例えば哺乳類の対象者、例えば実験研究上の必要に応じてげっ歯動物、ブタ、サル、イヌなど、および獣医療において対象となりうるウシ、ウマなどを包含する。
【0038】
「非リン酸緩衝剤」および「リン酸をほとんど含まない」のような用語は、無機リン酸イオンを実質的に欠いている液体の実施形態を包含するように意図される。
本明細書中で使用される用語「血液量増量剤」または「血液量増量剤溶液」または「代用血液」は、血液量の補給、増量、または維持における使用が意図されている生理学的液状溶液を意味する。したがってこれらの溶液は、血液量減少症に起因する血液量の損失分の代用における利用が見出される。
【0039】
本明細書中で使用される用語「血液量減少症」は、血液量が減少した状態、またはより具体的には、血漿体積が減少した状態を意味する。血液量減少症の一般的な原因には、脱水、熱傷、出血(例えば、大出血)、または利尿剤および血管拡張剤のようなある種の薬物の摂取が挙げられる。
【0040】
本明細書中で使用される用語「再灌流傷害」は、血液量減少症およびその後の従来の血液量増量剤を用いた灌流の後に、身体の重要な臓器に生じる傷害を意味する。
本発明は、従来の血液量増量剤が細胞、組織および臓器の生存率および生存力の維持にとって有害であり、従って再灌流傷害の発生に寄与する可能性があるという本発明者の認識から生じている。
【0041】
一部には、本発明は、血液量増量剤(および生理学的媒体全般)の組成は、各々の細胞を取り囲んでいる間質ゲル相内のイオン種の活量係数についての明確な知識に基づくべきであるという認識から生じている。これらの活量係数は計算済みであり、本発明の溶液はこれらの計算に従って設計された。
【0042】
本発明の溶液は、過剰量のリン酸イオンが灌流される細胞、組織および臓器の生存力および機能的完全性に対して有害となりうるという認識に基づき、非リン酸緩衝剤を使用する。リン酸イオンは、解糖、酸化的リン酸化(Berman and Sanders;Circul.Res.,1955;3,559−563)、クレアチンキナーゼ活性(Hall and DeLuca;Adv.Exp.Med.Biol.1986;194,71−82)および酸素フリーラジカル捕捉に関与する酵素(De Frietas and Valentine;Biochemistry 1984;23:2079)を阻害する。これらの酵素は、細胞レベルでアポトーシス性の変化を引き起こし、最終的には損傷を受けているかまたは異常な細胞、組織および臓器系のネクローシス(すなわち死)をもたらす上で重要である。
【0043】
本質的には、非リン酸塩で緩衝化された溶液の使用により、pH7.2を超えると不安定であるという点における従来のリン酸緩衝溶液の非効率性が回避される。特に、従来の溶液中の無機リン酸イオンは、時間とともに、不溶性のカルシウムリン酸塩の形で沈殿する(Pedersen,MD Thesis,University of Arhus,Denmark.Publ.S A Moller Christensen A/S.1973;41−51)。この問題は、溶液が使用される温度範囲内での変動によって増強され、したがって、そのような従来の緩衝化溶液は臨床的有用性に限界を有する。さらに、多くの他の非リン酸緩衝物質、例えばクエン酸塩、ある種のアミノ酸の組み合わせ、および乳酸加溶液は、哺乳類生物種において作用している天然または生理学的pH緩衝剤とは異なり、ex vivo(実施例6を参照)およびin vivo(実施例8を参照)の常温状態における臓器機能の保存においては無効であることが分かっている。これに対し、本発明の溶液は、体液増量剤として使用される場合、すべての哺乳動物に見出される天然の緩衝システムすなわちpCO2/炭酸水素システムを利用することができるので、高い性能を有している。
【0044】
本明細書には、血液量減少症の対象者における血液の損失、または重篤な熱傷に関連した間質液および細胞外液の損失のいずれかを、その組成ゆえに補うことができる体液増量剤溶液について記載されている。本発明の体液増量剤溶液は、間質液のイオン環境、基質環境および生物物理学的環境を模倣する生理学的液体媒体を提供する(例えば、下記の表IIを参照)。そのため、これらの溶液については、万能灌流媒体および保存媒体としての利用が見出されるであろうと考察される。イオン種の濃度から、哺乳類細胞の周囲の間質ゲル相内における個々のイオン種の活量係数が分かる。このことは、多くの従来の媒体がその濃度の根拠を完全な血清の濃度に置いているのとは対照的である。
【0045】
米国特許第6,946,241号明細書(参照によって本願に組込まれる)では、本発明者は非リン酸塩で緩衝化された液体細胞培地について述べている。現在では、有効な血液量増量剤溶液および体液増量剤溶液全般がこれらの培地の組成を基にすることができることが認識されている。本発明の溶液は血液量減少症に関連した失血を補うだけでなく、さらに再灌流傷害の発生を低減または防止するであろうと考察される。本明細書中で定義される溶液は、様々な外科的処置の際に露出されるようになる臓器および組織のin situでの維持における適用を有するであろうとも考察される。
【0046】
本発明の体液増量剤溶液は、好ましくは血清または血清成分を含まない。従って該溶液は、動物由来の血清タンパク質およびその他の混入物質を含まず、不確定の外来の血清タンパク質が存在しないようになっている。血清が存在しないことは、該溶液が従来の血清に基づいた溶液よりも十分に「化学的に」明確であるという長所を有する。さらに、血清および血清由来成分が存在しないことにより、in vivoでこの材料を使用することに関連した感染症(例えばヒト免疫不全ウイルス(HIV)およびクロイツフェルト−ヤコブ病(CJD)の感染可能性に対する懸念が回避される。
【0047】
上述の理由から、本発明の体液増量剤溶液(特にヒトでの使用が意図された該溶液)は、外来または動物由来の抗原、発熱性物質、タンパク質なども含まないことが好ましい。しかしながら、ある状況(例えば人工透析)では、敏感な患者は、腎臓透析または腹膜透析の際に失われると報告されているタンパク質の補完手段として特定のペプチドまたはタンパク質由来の成分の存在を必要とする場合もある。本発明の溶液は、患者にそのような成分を送達する際の使用に有効なビヒクルを提供することができる。
【0048】
摘出した組織および臓器の灌流実験において本発明の溶液に類似の溶液を用いた研究の際に導き出された主な発見は、該溶液が、すべての哺乳類生物で観察される天然のpH緩衝化メカニズム、すなわち赤血球が存在しない状態でも血液中でなされる二酸化炭素分圧[pCO2]および炭酸水素イオン濃度[HCO3−]の自動調節を利用することができるということである。ヘモグロビンのイミダゾール/ヒスチジン部分によって与えられる相互関係の解離定数[pKa]が、本発明において使用される適切な緩衝剤、最も好ましくはBES緩衝剤によってシミュレートされるようであり、BES緩衝剤は、20℃で有用なpKa(7.15)および−ΔpK/℃(0.016)を有するため、RS−I溶液のpH値を10〜37℃の温度範囲にわたって7.18〜7.45に自動的に維持し、したがって、低体温および常温のいずれの生理学的条件下でも哺乳類生物種とともに使用する本発明の溶液における緩衝剤として特に適切となる。
【0049】
先に述べたように、本発明の体液増量剤は天然の生理学的緩衝系の利点を採用し利用するものである。好ましくは、この緩衝系は、NaHCO3/pCO2(炭酸水素ナトリウム/溶解CO2)を両性イオンのグッドの緩衝液であるBES(N,N−ビス[2−ヒドロキシエチル]−2−アミノエタンスルホン酸(Good et al.;Biochemistry 1966;5:467−477)、参照によって本願に組み込まれる)と組み合わせた形態であり、10〜37℃の温度範囲におけるその理想的なpKaのおかげで、細胞の保護にとって重要な必要条件である安定したpHを提供するように作用する。BESは、長期にわたる研究で培養哺乳類細胞に対して無毒であることが示されており、かつカルシウムイオンまたはマグネシウムイオンとの結合は無視できるものであり、したがって従来の炭酸水素/リン酸または二リン酸緩衝液を使用する場合に生じる二価イオンの沈澱生成という潜在的危険が除かれる。実際に、10×濃度の本発明の溶液は14か月を越える保管寿命(3〜8℃で保管)を有することが実験的に示されている。BESを使用する代わりとして、モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)またはN−トリス−(ヒドロキシメチル)メチル−2−アミノエタンスルホン酸(TES)を使用することも可能である。さらに、TES、BESおよびMOPSのうち1つ以上の組み合わせを使用することも考えられる。
【0050】
他の生理学的に許容可能なN−置換アミノスルホン酸緩衝剤を特定の必要条件に応じて選ぶことも可能であり、次の表は、有力候補および該候補の20℃における水溶液中のpKa値を一覧にしている。
【0051】
【表1】
任意選択で、非リン酸緩衝剤(好ましくはTES、MOPSもしくはBES、またはこれらの組み合わせ)は、1〜12mmol/L、好ましくは3〜7mmol/L、より好ましくは4〜6mmol/L、さらにより好ましくは約5mmol/Lの濃度で存在する。任意選択で、炭酸水素イオンは、21〜35mmol/L、好ましくは23〜26mmol/L、より好ましくは約25mmol/Lの濃度で存在する。
【0052】
本発明の好ましい実施形態では、使用される非リン酸緩衝系は、その独自のpKa域から、本発明の溶液のpHを4℃〜38℃の温度範囲にわたって7.05〜7.5に自動的に調整する能力を可能にする。本発明のこの特徴は、従来の緩衝系で見られるものとは異なり、10〜38℃の温度範囲にわたってpHを7.13〜7.5±0.5の値に調整する際に、他のいかなる介入も必要としない。好ましくは、本発明の溶液は、約37.4℃の温度で約7.46のpHを有する。溶液を、該溶液の投与を必要とする対象者に投与した後、in vivoで上記のpH値が維持されることが好ましい。
【0053】
本明細書中で議論されるように、本発明の溶液は血管内および血管外のいずれの注入処置にも使用可能である。該溶液は、摘出された動物およびヒトの臓器を常温条件下で灌流するために使用することも可能である。溶液が摘出臓器を灌流するために使用される場合、該溶液をカルボゲン(carbogen)ガス(95%酸素/5%二酸化炭素)で通気することが望ましい。
【0054】
本発明の体液増量剤溶液はさらに、下記成分:100〜150(好ましくは約135)mmol/Lのナトリウムイオン、2.5〜6.2(好ましくは約5)mmol/Lのカリウムイオン、0.1〜2.5(好ましくは約1.25)mmol/Lのカルシウムイオン、0.4〜25.0(好ましくは約0.45)mmol/Lのマグネシウムイオン、96〜126(好ましくは約118)mmol/Lの塩化物イオン、2〜11(好ましくは約10)mmol/Lのグルコース(好ましくはD−グルコース)、50〜150(好ましくは約110)μmol/Lのグリセロール、7〜15(好ましくは約10)μmol/Lのコリン、5〜400(好ましくは約300)μmol/Lのグルタミン酸(好ましくはL−グルタミン酸)、5〜200(好ましくは約20)μmol/Lのアスパラギン酸(好ましくはL−アスパラギン酸)、100〜2000(好ましくは約400)μmol/Lのグルタミン(好ましくはL−グルタミン)、15〜215(好ましくは約60)μmol/Lのピログルタミン酸、20〜200(好ましくは約100)μmol/Lのアルギニン(好ましくはL−アルギニン)、1〜120(好ましくは約40)nmol/Lのチアミンピロリン酸(TPP)、40〜70(好ましくは約50)μmol/LのD−もしくはDLもしくはL−カルニチン(好ましくはL−カルニチン)、および5〜200(好ましくは約28)mI.U./Lのブタもしくはヒトのインスリン(好ましくはヒトインスリン)、を任意の組み合わせで、1以上、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、11以上、12以上、13以上、14以上、またはすべて含むこともできる。
【0055】
塩化物イオンは、存在する場合、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩およびマグネシウム塩として提供されることが好ましい。コリンは、存在する場合、塩化物として提供されることが好ましい。
【0056】
本発明に包含される溶液は、組織および臓器の代謝系ホメオスタシスを保持するいくつかの基質を含んでなる。グルコースおよびグリセロールは、生理的濃度のインスリンが含まれることにより、問題の臓器(例えば心臓)の好ましい基質でない場合さえ、摘出された組織および臓器のエネルギー需要を満たすのに申し分ないことが示されている。その被代謝能とは別に、グリセロールおよびグルコースはさらにフリーラジカルを捕捉しかつ膜を安定化する特性をも有しており、該特性は、組織および臓器の生理学的生存力の維持において非常に重要であることが示されている。
【0057】
トリカルボン酸(TCA)サイクル中間体を補充して酸化的代謝を増強することにより虚血発作の際でも高エネルギーリン酸レベルを維持するように、上述のようにアスパラギン酸およびグルタミン酸を本発明の溶液に含めることもできる。同様に、グルタミン酸は細胞内酸化還元電位の維持に関与する。アスパラギン酸−リンゴ酸シャトルおよびグリセロールリン酸シャトルの最適化によって、細胞は最適なNAD/NADH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド/還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)バランスを維持し、その結果としてアデニンヌクレオチドレベルを保持するであろうと考察される。さらに、グルタミン酸およびグルタミンは、中間代謝産物として作用してピログルタミン酸を形成し、かつその後γ−グルタミル回路に参加して、移植前のドナー臓器の保存時および血液量補充療法後における哺乳動物の組織および臓器での再灌流傷害の発生に関連する毒性の酸素ラジカルの発生防止に有益な物質である、グルタチオンを合成することができる。
【0058】
チアミンはα−ケト酸の酸化(チアミンコカルボキシラーゼの作用による)に重要な役割を果たし、かつピルビン酸および毒性のピルビン酸アルデヒドの蓄積を防ぐことによって、細胞のアポトーシスならびにこれに伴う組織および関連臓器のネクローシスを最小限とする。
【0059】
TCA回路においては、本発明の好ましい溶液に含まれるチアミンピロリン酸(TPP)は、酸化的脱炭酸によってサクシニル補酵素Aを形成するかまたは還元的アミノ化によってグルタミン酸を形成するa−ケトグルタル酸代謝の補因子である。本質的には、TPPは、多数の相互に関係した生化学的経路、特にペントースリン酸経路および解糖経路に関与する。チアミンは、チアミンピロリン酸、チアミン二リン酸またはチアミンジアミドとして使用される場合がある。本発明の溶液はチアミンピロリン酸クロリドとしてチアミンを含むことが好ましい。
【0060】
さらに、本発明の溶液の配合にチアミンピロリン酸を含めることは、腹膜透析患者にはリン酸イオンの枯渇および石灰化を防ぐために必要であるようにも思われる。というのも、チアミンピロリン酸は血液透析膜(MW−175ドルトン)を横切って容易に透析可能であり、血漿中のリン酸および/またはピロリン酸レベルを補充するために静脈内に、または血液透析溶液もしくは腹膜透析溶液を介して、以前から投与されているからである。
【0061】
ビタミノイド(vitaminoid)のカルニチンは、単純に酸化的代謝を最適化することによるほか、例えば代替基質の利用を促進することによって、心臓機能の改善に多面効果を有することが報告されており、またその上冠血流を改善する可能性もある。L−カルニチンは、アセチル補酵素A/遊離脂肪酸代謝の阻害を引き起こさないのでD−またはDL異性体よりも好ましい。好ましくは、該ビタミノイド成分は50μmol/Lの[−]−β−ヒドロキシ−γ−トリメチルアミノ酪酸塩酸塩(L−カルニチン)を含んでなる。本発明では、カルニチンのL−異性体を優先的に含めるのは、細胞質ゾルからミトコンドリア基質内のβ−酸化の場への長鎖脂肪酸の輸送を最適化し、その結果として、カルニチンアセチルトランスフェラーゼからのアセチルカルニチンの合成を刺激することでミトコンドリア内のアセチルCoA/CoA比(ここでCoAは補酵素Aである)を緩衝化することが意図されている。このアセチルCoA/CoA比の低下は、ピルビン酸デヒドロゲナーゼの刺激およびグルコース酸化の脂肪酸による阻害の軽減を伴ったミトコンドリアからのアセチルカルニチンの流出をもたらすことになる。根本的にはエネルギー源としての遊離脂肪酸の利用の最適化はすべての種類の細胞にとって不可欠であるが、解糖に関与する酵素、例えば、ヘキソキナーゼ、グルコキナーゼ、ホスホフクルトキナーゼの最適化された機能による炭水化物(グルコース)利用を保持しながら行われなければならない。
【0062】
上述のように、本発明の溶液はさらにインスリンを含んでもよい。組換えヒトインスリン(例えば、大腸菌(E.coli)または出芽酵母(S.cerevisiae)で発現されたもの)の使用は、他の哺乳類または動物の供給源に由来するインスリンの場合に起こりうる、レシピエントの細胞/組織/臓器への抗原またはウイルスの混入のリスクを排除するだけでなく、ヒトインスリン受容体の構造に対するインスリン分子のより良好な適合をもたらす。受容体特異性は、細胞内プロセスにおけるインスリンの多くの関連機能を保持するように最適化されることになる。
【0063】
本質的に、インスリンの生物学的作用は、単に炭水化物代謝およびグルコースを細胞内へ循環させる促進輸送を調節する能力に関するだけでなく、(i)細胞内グルコキナーゼ活性およびタンパク質中へのアミノ酸取り込みの増強、(ii)DNA(デオキシリボース核酸)のタンパク質への翻訳の促進、(iii)脂質合成の増大、および(iv)ナトリウム、カリウムおよび無機リン酸の細胞膜を横切る輸送の促進、をもたらす能力にも関係する。
【0064】
本発明の好ましい実施形態では、正常なヒト血清中インスリンレベルが利用されてきた。これに対し、従来の既知の灌流製剤は、インスリンが組み込まれる場合にはこのホルモンを不自然なレベル(例えば10〜50×106mIU/L;本発明の溶液中に見出されるインスリンの約100万倍の濃度)で使用してきた。この理由は、そのような濃度ではごく少量のインスリンだけが単一分子として存在するという事実に関係している。残りのインスリンは、インスリン受容体の刺激には無効であり従って生物学的に不活性である、大きな凝集体の形で存在する。本発明の溶液は、凝集体形成を防ぐため処方時にインスリンを酸性化することにより正常なヒト血清中インスリンレベルを達成し、したがって個々の活性を有するインスリン分子種がpH7.3±0.2の溶液に存在するのを可能にしている。
【0065】
本発明の溶液中のイオン種の濃度から、単なる該イオン種全体の血清中濃度ではなく個々のイオン種の活量係数が分かる。例えば、カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンの血清結合は、これらのイオンの実際の遊離状態にあるイオン化レベルとは区別されなければならない。マグネシウムイオンは多くの重大な細胞反応において重要であり、該イオンが細胞外に存在すると、ミトコンドリアの呼吸活性を刺激し、かつ迅速なカルシウム流入およびカリウム流出の効果を調整することが報告されている。同様に、適切なカルシウムイオン濃度は、循環血中に存在するこのイオンの遊離レベルを維持するのに重要である。
【0066】
本発明の溶液のイオン伝導度は、ヒト血清のイオン伝導度、すなわち12.0±0.3mS cm−1に匹敵し、かつそのようなものとして細胞膜のイオン化状態および酵素部分の活性を維持することが好ましい。
【0067】
したがって、上記を踏まえて、本発明の溶液は、ヒト血清(約290ミリオスモル/L)に等浸透性であり、摘出されたラットの心臓および内臓神経−筋肉調製物の長時間(すなわち4〜52時間)の低温灌流の際に水和にごく僅かな変化(約8%)しか生じないという事実によって実証されるように、血漿増量剤を含める必要はないようである。このことは、細胞膜が99%ゲル状の間質相と連続しており、したがって細胞膜を隔てた過度のドナンのイオン平衡交換に対して天然のコロイド性緩衝作用を提供するという事実によって説明可能である。浸透圧の大部分はナトリウムイオンおよびこれに伴う陰イオンによって提供され、ごく一部(約0.5%)だけが血漿タンパク質に起因しうる。この溶液中に血清中濃度の代謝物質(グリセロール)を含めることにより、各細胞を取り囲んでいる間質液接触面における浸透性の緩衝作用、特に経毛細管的なネットワークに関与するものに寄与することもできる。
【0068】
現実に膠質物質を含めるのは、カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンに対する該物質の親和性からさらに困難となり、カチオンの組成を乱さないように新鮮な溶液で予め透析する必要がある。ポリペプチド増量剤の不安定な性質も、機械的変性を起こしやすいことからポリペプチド増量剤を非実用的にしている。不運にも、これらのコロイド性増量剤は本質的に無毒であるにもかかわらず、その使用は例えば(1)粘度上昇により細胞のまわりの「かき混ぜられない(unstirred)」層の厚さが増し、代謝物質の拡散を妨げる、(2)表面膜生体電位が変化して細胞の代謝および受容体の活性を混乱させる、(3)タンパク質性増量剤の抗原性、(4)赤血球(RBC)の凝集反応および溶血作用、ならびに(5)微小血管系の遮断および虚血、という点で禁忌である。
【0069】
本発明の溶液は、特定の医療目的に応じて追加成分を加えることができる基本の組成物として全般的な利用が見出されるであろうと考察される。例えば、人工血液を生成させるために、本発明の溶液に例えば赤血球(RBC)、血漿または血小板のうち少なくともいずれかを補足するということもあり得ると想定される。そのような血液成分は天然のものであっても人工的なものであってもよい。このように、追加の化学物質を、必要に応じて必要な場合に基本の組成物に添加することができる。したがって、本発明の溶液は、医学的有用性から、pKaがヘモグロビン(pKa:7.0)のイミダゾール/ヒスチジン部分のpKaと厳密に一致しかつ同様に作用する緩衝剤を用いた体液の増量、補給、維持または補足のうち少なくともいずれかが必要とされ、したがってクエン酸塩(pKa:3.09)、乳酸塩(pKa:3.85)または任意の同様に不適当なpKaの緩衝剤ならびに生化学的プロセスおよび生理学的プロセスに対する有害な影響が報告されている無機リン酸イオンの使用は排除される場合の、基本の組成物として広い適用可能性が見出されるであろうと意図される。
【0070】
本発明の溶液は、血液量減少症、または重篤な熱傷を負った対象者において引き起こされた間質液および細胞外液の損失を治療する方法において利用が見出される。さらに、本発明の溶液は再灌流傷害の防止または軽減のうち少なくともいずれか一方を行う方法において適用可能である。したがって、本発明の溶液は医薬品としての使用が見出される。血液量減少症の治療および再灌流傷害の防止/軽減については、本発明の溶液をビーナル内(intravenal)経路により全身投与することが望ましい。そのような場合、患者は安定に臥位に置かれ、従来の臨床上の手順に沿ってその特定の医薬品のビーナル内投与のための臨床上の準備が行われることになる。前記医薬品の患者への送達は、治療の完了が達成されるまで、制御かつ管理された状態の下で実行されることになる。
【0071】
しかしながら、血液量を補給、維持または増量することに加えて、本発明の溶液は、その他の利用、例えば;外科的処置の際にin situで組織および臓器を維持、保存および洗浄するため、急性腎不全または急性毒性状態にある対象者の腹腔を灌流するため、またドナーの組織および臓器をドナー患者から取り出すための外科的処置の際にin situで保存するため、の利用も見出されるであろうと考察される。したがって、血管内経路を介して投与可能であると同様に、本発明の溶液は、他の経路、例えば腹腔内、皮内、筋肉内、局所または経口経路を使用して投与される場合もある。急性腎不全または急性毒性の患者では、患者に麻酔下で外科的介入の準備が施され、前記外科的介入によってカニューレが腹腔に挿入され、常温下で該溶液を用いた連続洗浄が確実に行える位置に固定されることになる。患者の血液化学分析において正常状態が達成されたならば、外科的条件下で腹膜のカニューレの除去が行なわれることになる。
【0072】
熱傷の治療については、熱傷部位自体への局所適用によって該溶液を局部的に投与することが望ましい。しかしながら、さらに、重篤な熱傷の結果引き起こされた脱水を、該溶液の全身投与を通じて治療することができる。そのような状況では、患者は安定に臥位に置かれ、従来の臨床上の手順に沿ってその特定の医薬のビーナル内投与のための臨床上の準備が行われることになる。熱傷波及の部位および程度は、該溶液のビーナル内投与、およびさらなる感染のリスクに基づいた追加の治療薬の必要性の点から、評価されることになる。この治療的処置方法は結果として、該溶液を外側の血管外に流して毒性または感染性の動物性滲出物の蓄積を取り除くことになり、従って縫合剤の常時モニタリングを必要とすることになる。好ましい実施形態では、本発明の方法、溶液および医薬は、ヒトおよびヒト以外の哺乳類対象者、例えばヒトを治療する際に使われる。
【0073】
上述のように、本明細書中で定義される溶液の1つの適用は、ドナーの臓器を、ドナーから該臓器を取り出すための外科的処置の前、処置中および処置後にin situで保存するためであることが想定されている。この点に関する本発明の溶液の使用は、例えば、ドナーの死体から採取されつつあるドナーの腎臓、心臓、肝臓を含めた全身輸液(体外膜型酸素供給(Extra Corporeal Membrane Oxygenation)[ECMO]法)とその後の摘出臓器の常温再灌流を対象とすることが考えられる。予備的研究(本明細書中では示さない)から、本明細書中で定義されるRS−I(実施例を参照)は、低温で保存された死体のヒト臓器を蘇生させて、その臓器を基礎医学的な薬物バイオアッセイ試験に使用できるようにすることによって、動物モデルでのin vitroおよびin vivoの薬物評価を使用して報告される副作用(ADR)の問題に取り組む能力を有している。
【0074】
本発明の溶液については、薬剤を、必要としている対象者に、または該薬剤を試験しようとする環境、例えばヒト以外の対象者に、効率的に送達するための媒体としての利用が見出されるであろうとも想定される。例えば、本発明の溶液は、治療薬、検査薬、もしくは相助作用剤の送達、または別例として幹細胞、ペプチドもしくはゲノム由来のタンパク質の送達を、必要としている対象者に対して行うための賦形剤としての利用が見出されうる。幹細胞の送達は、例えば、該幹細胞を本明細書中で定義される媒体に懸濁することと、得られた懸濁液を必要な場合は組織または臓器に直接送達することとにより行われることが考えられる。この治療方法の下では、患者は、派生型の幹細胞、例えば心筋細胞、肝細胞の外科的切除を受けることになり、該細胞は次いで本発明の溶液に懸濁されて12〜18時間プレインキュベーションされる。この幹細胞型のさらなる増殖が、現在の培地技術を使用して行われ、その後該細胞は溶液に再懸濁され、治療の実施に先立って低温またはやや低温の条件下で患者の枕元に運ばれることになる。患者は、幹細胞療法の投与経路に応じて局所麻酔または全身麻酔、例えば心筋細胞の心筋内投与については局所麻酔を施され、該療法の投与は医薬品の臨床実験の実施に関する基準(good clinical practice)に従って常温(平熱)温度で実施される。別例として、送達がリンパ系への懸濁液の投与によって行われる場合もある。
【0075】
当然ながら、本発明の溶液を使用する場合、当分野で既知の血液量増量剤を投与する一般的な方法を適用することができる。特に、特定の状況において必要とされる投与レベルを(例えば、適切な血圧および循環器機能の維持を参考にして)調節する方法を、最先端技術に注意を払いながら、当業者が利用可能な情報を使用して適用することができる。
【0076】
さらに当然のことであるが、本発明の溶液を利用する場合、外科的処置の際にin situで組織および臓器の浸漬および洗浄を行うための、また体腔の透析のための、当分野で既知の標準的な灌流技術を適用することができる。
【0077】
本発明は、本発明の溶液の特定の構成成分を個々にまたは任意の組み合わせとして使用することができることを想定している。
本発明の特定の実施形態について、次の実施例を用いて下記に述べる。実施例は本発明の実施形態を例証するために提供されるものであり、どのようにも限定するものと見なすべきものではない。
【実施例1】
【0078】
RS−I溶液の製剤化
製剤
以下の調製物においては、エンドトキシンを含まないMilli−Q(登録商標)精製水(米国マサチューセッツ州ミルフォード所在のミリポア社(Millipore Corp))または同等品のASTMタイプI水[比抵抗は25℃でわずか18.0MΩ・cm]を、最初の混合および最後の希釈のいずれにおいても全面的に使用した。以後、用語「精製水」はこの品質の水を示すために用いられる。
【0079】
チアミンピロリン酸(コカルボキシラーゼ)のシグマ(Sigma)C4655を、精製水中で0.4mg/mLの貯蔵溶液として調製し、暗色のガラスバイアル中で凍結保存した。塩化コリン(シグマC7527)を、精製水中で17.5mg/mLの貯蔵溶液として調製し、ガラスバイアル中で凍結保存した。組換えヒトインスリン(シグマI0259/I2643)を、0.12N塩酸でpH2.4に酸性化した精製水中で0.5I.U./mLの貯蔵溶液として調製し、ガラスバイアル中で凍結保存した。
【0080】
RS−I溶液の10×濃縮溶液の調製については、ステンレス鋼のコンテナに8リットルの精製水を注ぎ、以下の材料を秤量して、絶えず撹拌しながら以下の順に添加した:642.96グラムの塩化ナトリウム(CFK0484)、37.28グラムの塩化カリウム(BDH10198)、18.38グラムの塩化カルシウム二水和物(BDS10117)、9.14グラムの塩化マグネシウム6水化物(BDH101494)および106.61グラムのBES遊離酸(シグマB6266)、1.84ミリグラムのチアミンピロリン酸(シグマC9655)(貯蔵溶液4.6mLを使用)、0.9899グラムのL−カルニチン(シグマC0238)、8mlの貯蔵溶液として0.1397グラムの塩化コリン(シグマ7527)、1.013グラムのグリセロール(シグマG2025)、2.8I.U.の組換えヒトインスリン(5mlの貯蔵溶液)、0.310グラムのL−アスパラギン酸ナトリウム塩(シグマA6683)、180.2グラムの無水D−グルコース(シグマG7021)、5.07グラムのL−グルタミン酸ナトリウム塩(シグマG5889)および5.84グラムのL−グルタミン(シグマG5763)。完全に溶解するまで全体を撹拌し、次に、精製水をさらに加えることにより最終体積を10リットルとした。
【0081】
この10×RS−I溶液を、Sartobran(登録商標)PH2Oカートリッジ/0.2マイクロメートルフィルタ(米国所在のザルトリウス社(Sartorius Corp.))を通してろ過滅菌し、100mLの滅菌密封ガラスボトルに入れた。
【0082】
このRS−I溶液は使用するための溶液の10倍濃縮物であるが、炭酸水素ナトリウムは添加されていない。必要時には、10×RS−I溶液を適正量の精製水で希釈し、炭酸水素ナトリウムを加えることができる。
【0083】
1×RS−I溶液の調製については、上記の約10倍濃縮のRS−I溶液100mlを900mLの精製水で希釈して1リットルにするとともにエンドトキシンを含まない炭酸水素ナトリウム(シグマS4019)2.1gを添加し、使用するまで8〜10℃で保管すればよい。炭酸水素イオンを含有する濃縮物の長期保管は炭酸カルシウムの析出を引き起こす可能性があるので、濃縮溶液を保管する前には該溶液に炭酸水素ナトリウムを添加しないことが好ましい。短期間保存用の1×貯蔵溶液は炭酸水素ナトリウムを含んでいてもよい。
【0084】
体液増量剤溶液として使用するために、該溶液1リットルにつき、細菌感染のリスクを防止するために100mg/Lのクロラムフェニコール(シグマC3175)またはその他の従来の抗生物質もしくは抗真菌物質が含まれていてもよい。
【0085】
溶液を調製する場合には、下記の要素を考慮に入れるべきである。
1)溶液の構築方法、具体的には;
2)すべての貯蔵溶液および本発明に従って製造される溶液の10倍濃縮ボトルを作製するために上記に指定される精製水を使用すること;
3)本発明の滅菌貯蔵溶液および濃縮物を調製する方法は、オートクレーブ滅菌またはγ線照射を伴うべきではないこと。例えば、滅菌を達成するために溶液を照射すると、グルタミン、グルコース、インスリンおよびチアミンピロリン酸の諸成分が破壊されることになる;
4)すべての10倍貯蔵濃縮物溶液の保存にガラスボトルを使用すること;
5)pH2.4に酸性化して可溶化インスリンを調製することに加え、インスリン材料および貯蔵溶液を−20℃で保存すること;
6)チアミンピロリン酸およびTPPの貯蔵溶液を調製し、暗条件下にて−20℃で保管すること(下記の理由を参照);
7)塩化コリン貯蔵溶液を調製し、−20℃で保管すること;
8)塩化マグネシウム6水化物(すなわち6H2O)を使用すること。これは、無水物塩を使用すると水を吸着し、正確なマグネシウムイオン含量を算出するために使用される重量に誤差を生じるからである。この誤差は、正確なマグネシウムイオンおよびカルシウムイオン濃度という点でクレブス(Krebs)液を誤って作製する共通の理由である。
【0086】
本実施例で述べるような、すべての好ましい成分を含めることにより、これらの成分が相助的に働いて全体的にバランスのとれた生理学的作用を生じることが可能となる。
製造の詳説
1.貯蔵溶液:本発明の溶液の様々な貯蔵用濃縮物、すなわち1×、10×および長期保存用の20×が調製されているが、好ましい貯蔵用濃縮物は、暗条件下3〜8℃で保存するための、精製水を使用した10×濃縮物をろ過滅菌して100mLの密封ボトルに入れたものである。貯蔵溶液は、10×濃縮物の貯蔵溶液100mLを精製水900mLに加え、最終的なpHを20℃で7.22±0.04とするために2.1gの炭酸水素ナトリウムを添加することによって、1×溶液として使用するために再構成される。本発明による溶液の無菌の貯蔵用10×濃縮物はpH4.6±0.2であり、最大で10年間、無菌でかつ沈殿を生じないことが示されている。本発明の溶液の10×貯蔵用濃縮物について推奨される製造時保管寿命は、暗条件下3〜8℃で保管される場合は14か月である。
【0087】
2.コカルボキシラーゼ:チアミンピロリン酸クロリド(コカルボキシラーゼ)の貯蔵溶液を、エンドトキシンを含まない精製水を使用して18.4g/mLに調製し、ろ過滅菌してチアミンピロリン酸の光分解を防止するために暗色の密封バイアルに入れ、本発明の溶液の10×貯蔵用濃縮物に含めるまでは凍結保存する。
【0088】
3.インスリン:組換えヒトインスリンを、エンドトキシンを含まない精製水を使用して0.5mI.U./mLの酸性化(pH2.4)貯蔵用濃縮溶液として調製し、ろ過滅菌して密封バイアルに入れ、本発明の溶液の貯蔵用濃縮物に含めるまでは凍結保存する。
【0089】
4.コリン:塩化コリンの貯蔵溶液を、エンドトキシンを含まない精製水を使用して17.45mg/mLに調製し、本発明の溶液の貯蔵用濃縮物に含めるまでは密封バイアル中で凍結保存する。
【0090】
5.クロラムフェニコールは本発明の溶液の必須成分ではないが、保存用に、または、保存バイアルの開封後に、該溶液が長く大気に曝露される間の無菌性を保証しかつ本発明の体液増量剤溶液で治療される対象者への感染のリスクを低下させるために、添加されることが好ましい。
【実施例2】
【0091】
RS−I溶液の最終組成
次の表は、体液増量剤として使用するためのRS−I溶液の組成をまとめたものである。
【0092】
【表2】
実施例1および2で述べた、本明細書中ではRS−Iと呼ばれる溶液は、本発明による体液増量剤溶液の好ましい形態を表わす。
【実施例3】
【0093】
RS−I、ヒト血清およびヒト間質液の化学的成分の比較
現時点では、また当分野で一般的な考え方によれば、保存用溶液、灌流用溶液および血液量補給用溶液の製剤は、細胞内または血管外の環境のいずれかの組成を採用するという強い傾向がある。しかしながら、既に本明細書中で述べたように、多くの問題が依然未解決のままである。細胞膜の超微細構造を考慮する際に、本発明者は現行の考え方から離れ、異なる手法、すなわち、細胞膜に直接隣接している環境すなわち間質液相を実際的な人工的方式で模倣し、細胞膜ならびに関連する受容体および酵素部分のホメオスタシスおよび機能的動態を可能な限り維持するように、生理溶液を製剤化する手法をとった。その結果得られた、本明細書中で実施例6および7において実証される、動物種およびヒト由来の単離された細胞、組織および臓器の細胞機能の良好な保存は、この手法の成功を例証している。
【0094】
表IIにおいて以下に示すように、本実施例は、ヒト血清、ヒト間質液およびRS−I溶液に存在する成分の様々な濃度の比較を提示している。
【0095】
【表3】
【実施例4】
【0096】
ラット出血モデルを用いたRS−I溶液の静脈内注入の影響を調べる研究
動物実験室における外科処置
この処置は、体重100グラムあたり0.1ccのXylocaine(登録商標)+0.2ccのケタミンの筋肉内(IM)注射を用いた完全麻酔誘導後の無菌条件下における正中部下方の腹壁切開で構成された。これに続いて、ラットの大動脈を、24ゲージのangiocath(登録商標)を使用して直視下で切開してカニューレを挿入した。これにより、大量採血ならびに溶液の投与のために直接アクセスすることが可能となる。維持量として、0.2ccのケタミンのIM注射を25分ごとにすべてのラットに行う。実験全体を通じて動物を自然に呼吸させ、呼吸数を常時モニターする。実験の間ラットを平常体温に保つために保温器を使用する。正中部下方の腹壁切開の結果、腸が露出されて腹部の血管が現れるようになる。水分の損失を最小限にするために濡れガーゼ(生理食塩水に浸漬したもの)で腸を覆い包む。実験の完了時には、ラットを麻酔下で屠殺するか、または、大動脈のカテーテル部位の穴を、6−0Prolene(登録商標)の8の字縫合を使用して修復し、腹壁切開を、2層の2−0Vicryl(登録商標)縫合糸を使用して閉鎖する。研究の生存役として選ばれたラットには筋肉内投与で抗生物質を与え、手術後は食物を自由摂取させた。本実施例の処置は、ラット1匹当たり完了までに25〜30分を要する。
【0097】
動物および実験上の群分け
同じような週齢(10〜12週)および体重(280〜320g)の19匹のスピローグ・ドーリー(Sprague−Dawley)ラットを実験に使用した。ラットを、乱数割当によって無作為化して3つの治療群すなわち(1)血液量を等体積の生理食塩水で補給(ラット5匹);(2)血液量を、等体積の上記に定義されるようなRS−I溶液で補給(ラット7匹);または(3)失血分の補給なし(ラット7匹)、のうち1つに割り当てた。この研究の第一の終点は呼吸循環停止を裏付けとする動物の死亡とした。
【0098】
出血および蘇生のプロトコール
ラットから、30分ごとに2ccずつ連続的に採血した(制御された出血をシミュレート)。各採血の終わりに、0.1mlのヘパリン化溶液(20mlの正常な生理食塩水中に1000ユニット)を注入し、血液凝固を回避するためのヘパリンロックとした。ラットを、上記に定義される3つの治療群のうちの1つに無作為に割り当てた。
【0099】
観察および回収されたデータは以下すなわち:
a.採血の回数(従って出血量)
b.呼吸数(10分ごとに計測)
c.死亡までの時間(出血が始まってからの生存期間(分))
d.目に見える身体的変化
e.病理
である。
【0100】
統計データ
生存の定義を、最初の採血から心肺停止が記録されるまでの時間とした。p値が0.05未満(p<0.05)である場合に、差が統計的に有意であるとみなした。値はすべて平均±標準偏差(SD)として表した。解析は、SPSSソフトウェアのバージョン13.0(米国イリノイ州シカゴ所在のSPSS社(SPSS,Inc.))を使用して実施した。
【0101】
研究の結果
まとめ:蘇生「なし」治療群のラットは、生存期間が最も短く、最小の採血量であった。生存期間および平均採血量は、正常な生理食塩水またはRS−Iのいずれかを添加することによって著しく改善された。生理食塩水と比較してRS−Iは統計上優位の生存期間を示し(p<0.01)、より大量の採血を可能にした(p<0.01)。
【0102】
生存期間:使用した蘇生溶液に応じたラットの経時的生存を図1に示す。蘇生「なし」治療群のラットは最短の生存期間であった。生存期間は、生理食塩水による失血分の補給またはRS−Iによる補給のいずれかを加えることにより著しく改善された。いずれの溶液も、蘇生なしのラットの生存期間と比較すると有意差を示した。すなわち、RS−I群と蘇生「なし」群との間の平均の差は89±13.13分(p<0.01)、生理食塩水群と蘇生「なし」群との間の平均の差は57±15.87分(p<0.05)であった。RS−Iは生理食塩水よりも優れており、生存期間において統計的に有意な増大をもたらした。RS−Iで治療したラットと生理食塩水で治療したラットとの間の生存期間の平均差は、43.40±6.90分で有意であった(p<0.01)。
【0103】
採血量:各研究治療群についての総採血量を図2に示す。液体で蘇生を行ったラットのいずれの群も、蘇生「なし」の対照治療群と比較して採血量の有意な差を示した(RS−Iは蘇生「なし」に対して5.73±0.62ml、生理食塩水は蘇生「なし」に対して3.64±0.70ml、いずれもp<0.01)。RS−Iで蘇生を行ったラットと生理食塩水で蘇生を行ったラットとの比較から得られた、採血量の平均差は、2.82±0.45mlで統計的に有意である(p<0.01)ことが分かった。
【0104】
呼吸数:図3は、様々な研究治療群における経時的なラットの呼吸数を示す。RS−Iで蘇生を行ったラットは最も長期間生存し、最初に(最初の100分間に)呼吸数の急速な降下が認められたものの、全体として緩慢な呼吸数の低下を示した。生理食塩水で蘇生を行ったラットの全体的な呼吸数は、RS−Iを注入されたラットよりも速く低下し、この低下は輸液を受けなかったラットよりもさらに速かった。
【0105】
結論
RS−Iは、制御された出血性ショックのラットモデルにおける生存期間および失血量に関して、生理食塩水よりも有効な代用血漿であると思われる。
【実施例5】
【0106】
静脈内(IV)液としてRS−Iを投与することの安全性を調べる研究
研究の目的
この研究は、静脈内(IV)注入剤として大型動物モデル(ブタ)に投与された場合のRS−Iの安全性を評価するための、試験的研究として設計された。
【0107】
方法
雌雄両方の、体重27〜35kgの6匹のブタを、この研究治療群に使用した。このブタを動物管理施設に収容し、実験前夜は一晩NPO(絶食)を保った。ブタをそれぞれ個別ケージに収容した。
【0108】
第0日目には、ケタミン(15〜20mg/kg)の筋肉内注射を使用して最初に各々のブタを鎮静させた後、麻酔導入および子宮内膜挿管を行った。麻酔は、心拍数の低下を伴わずに外科刺激に対する反応が欠如するように、ハロタンを用いて維持された。各々のブタに、ゲンタマイシン10%(1cc/10kg)の筋肉内注射により術前の抗生物質の予防投与を行った。
【0109】
各々のブタの左内頚静脈に、厳密な無菌条件下で、直接的カウントダウンによって中心静脈カテーテルを外科的に配置した。この中心静脈ラインは、ブタの皮下組織中で、ブタ頚部の側面上および背面上の出口部位へと延びるトンネル状とし、その場に固定した。これは2つの目的すなわち;カテーテルの事故抜去の防止、およびラインに関連した感染のリスクの最小化、のために行った。その後、動物をケージに戻して麻酔から回復させた。
【0110】
第1日目には、各々のブタを、ケタミン(35mg/kg)およびキシラジン(7mg/kg)の筋肉内注射を使用して鎮静させた。ベースラインの血液試料を無菌法で中心静脈ラインから採取し、即座に分析のため実験室へ送った。得られた血液プロファイルを、完全血球算定、血清生化学測定:電解質、浸透圧重量モル濃度、pH、グルコース、乳酸、クレアチニン、血液尿素性窒素(BUN)、血清酵素(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ[SGOT/AST]、アラニンアミノトランスフェラーゼ[SGPT/ALT]、総クレアチンキナーゼ[CK]および乳酸脱水素酵素[LDH])、凝固因子およびフィブリノゲンのレベルに関して試験した。さらに、炎症性の活性、例えば好中球活性化、インターロイキン6(IL−6)および腫瘍壊死因子α(TNF−α)の計測のために血液を採取し、後で評価するために試料を遠心分離処理して−80℃で保管した。
【0111】
血液を採取した後、各々のブタに、中心静脈ラインを介して1〜2時間かけて徐々に1.0LのRS−I(室温)を注入した。このブタを、健康障害の何らかの徴候または異常な行動/兆候について、注入時に直接観察した。その後、ブタを通常の居住域へ戻し、健康障害の何らかの徴候または異常な行動/兆候について、動物舎の獣医が観察した。
【0112】
第1日目に実施したのと同じ手順を第2日目および第3日目に繰り返した。RS−Iの各注入に先立って、RS−Iの投与に関係する何らかの悪影響について評価するために同じ血液プロファイル(下記)を得た。その後、ブタを7日間観察し、ケタミンを用いた鎮静下での塩化カリウム溶液の静脈内投与によって第7日目に人道的に安楽死させた。安楽死に先立って、最後の血液試料(第7日目)を回収した。TNF−αおよびIL−6を測定するための血液試料も採取した。これらの試料を2000r.p.m.[20℃]で5分間遠心分離処理し、次に、市販のブタELISAアッセイを使用して後日処理するために−80℃で保管した。検視検査をすべてのブタについて実施し、臓器(脳、肺、肝臓および腎臓)を摘出し、後日の組織学的検査およびアポトーシス試験のためにホルムアルデヒド中に保管するかまたは−80℃で冷凍した。
【0113】
結果
6匹のブタ全てを1週間観察し、全てが正常な範囲内の行動および食性を示した。
血液の結果を、図4に示し、また図5〜9にグラフで表す。これらの血液結果は、この体重区分のブタの正常範囲内にあった。
【0114】
血液プロファイル区分の分析
1.電解質および生物物理学的パラメータ:
7日間の実験期間の間の血清中電解質または浸透圧重量モル濃度には、ベースライン(「対照」)の値と比較して有意差(p<0.05)は観察されなかった(図4G、表1;図5a〜g)。48時間後には、ブタ番号2および5において、既報の範囲の値へのナトリウムイオンレベルの上昇が観察されたが、第7日までにベースライン値に戻った(図5a)。ブタ番号6だけは実験期間の間に漸進的な上昇を示したがこの場合も、全体的な傾向レベルと同じように、最大値150mmol/Lの範囲内にあった(図4G、表1;図5a)。
【0115】
酸塩基平衡(すなわち炭酸水素レベル;図5f)または塩化物レベル(図4G、表1;図5e、f)の有意な変化は同じ実験期間には観察されなかった。
2.血清代謝物質:
血清代謝物質のベースライン値はすべて外科的徒手操作の外傷後の第1日目に当然上昇したが、(乳酸を除く)すべてが第7日目までに正常血清の値の範囲内に戻る傾向を示した(図6)。第2日目および第3日目には、乳酸レベルが基準値を下回り(図6)、統計的には有意な傾向を伴わないが乳酸レベルのかなりの変動があった。
【0116】
3.血清酵素:
外科的徒手操作の外傷後には検査したすべての血清酵素の上昇が認められたが(図7)、(SGPT[ALT];図7b、を除く)すべてが第7日目までに許容可能な血清値まで低下して、心臓、肝臓、肺および腎臓の機能的完全性の復旧を示した。SGPT[ALT]について観察された上昇は、正常血清の値の50パーセンタイルの範囲内にあり、この場合も第7日目までの心臓および肺の機能的完全性を示している群データの範囲内または該データ内で統計的な差はなかった(P<0.26)。
【0117】
4.血液成分:
正常血液量(normovolemic)のブタはそれぞれ、1.8〜2.3L(67mL/kg)の推定総血液量を有し、各々のブタに72時間の間に総体積3LのRS−Iを投与した。第7日目まで、RBC数の血液希釈は観察されず、ヘマトクリット(Hct)値およびヘモグロビン(Hg)レベルは正常範囲を維持していた(図8a、b、c)。同様に、リンパ球数は調査した7日間でベースライン値に戻り(図8d)、白血球(WBC)数のみが第7日目までに軽微な有意でない上昇を示した(図8e)。
【0118】
調査した血液凝固パラメータの面では、ブタ番号2だけが血小板について例外的なベースライン値を示したが、これは第7日目までに正常に回復した(図9a)。血液凝固パラメータ、すなわちプロトロンビン凝固指数(INR)および活性化部分プロトロンボプラスチン時間(aPTT)(図9b、cを参照)は一定を維持し、かつ既報の範囲内であった。フィブリノゲンレベルは、7日間の実験期間の間下降傾向を示すように見えた(図9d)が、この場合も値はブタ生物種の許容限度内に留まった。
【0119】
48時間かけてRS−Iを注入した後は、第7日目までに全体的な傾向として、炎症性作用の欠如を示唆するWBCのベースラインレベルの回復(図8e)およびリンパ球レベルの減少(図8d)がみられた。
【0120】
推論
ブタ類に関する多数の調査研究から血液および血清のプロファイル値における大きな多様性が示されていることは、広く認められているはずである。本研究では、これらの値は検査したブタ類の中では一貫しており、良好な統計的相関を有していた。
【0121】
実験期間中にRS−I溶液を注入された正血液量性のブタでは、血液希釈は生じていないようである(図4G、表1)。
特徴的には、量補充療法は、投与される血液補給液の製剤に使用される様々な添加剤の抗原性および/または毒性に関係するようである、炎症症状、アナフィラキシー症状、過剰凝血症状を生じやすい。このことは、得られた血球プロファイルデータの分析からは、RS−I溶液の静脈内投与に当てはまるようには見えない。
【0122】
この試験的研究において重要なのは、RS−I溶液の静脈内投与の安全面、および、量補給用液を用いた臨床業務における共通の知見である高塩素血症性(代謝性)アシドーシスが発生しないこと、を評価することである。酸塩基平衡の乱れは、炭酸水素イオンおよび塩化物イオンのレベルの保持によって証明されるように、7日間にわたって検査されたブタでは観察されなかった。
【0123】
第2日目および第3日目までのRS−I溶液の注入時に調べたすべてのブタにおいて、ベースラインの血清中乳酸レベルの抑制が生じたという一時的観察(図6b)から示唆されるように思われるのは、RS−Iを注入された正常血液量性のブタでは:
a)血清乳酸レベルを維持するためのピルビン酸の代謝(解糖);
b)ATPを生成するための組織乳酸の異化、および
c)グルコースまたはグリコーゲンを形成するための肝臓による再合成(コリ回路)
を最適化する条件が揃っていることである。
【0124】
研究対象としたブタはすべて、実験期間の間、乳酸/ピルビン酸代謝と密接に関連し、かつ再灌流傷害の際には組織および臓器から特徴的に放出される酵素である血清乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の漸落を示した。
【0125】
この研究で特に興味深いのは、静脈用注射液の再灌流時に損傷を受けた臓器(例えば心臓、肺、肝臓、腎臓)に関連した酵素(例えばCPK(クレアチンホスホキナーゼ)、SGOT、SGPT)の放出が、最初は生体の機能をモニターするために必要な外科的処置(「方法」を参照)による外傷後の第1日目に上昇する一方で、徐々に減少して正常な既報のレベルの範囲内になるという観察であった(図4G、表1)。
【0126】
結論
ブタに1.0LのRS−Iを3日間毎日IV注入する、上記に詳述した研究は、成功裡に終わった。得られた結果に基づいて結論付けられることは、RS−Iは、静脈内投与される場合、臨床的に許容可能な条件下でブタを飼育するのに明白な安全上の問題点を持たないということである。
【実施例6】
【0127】
RS−Iを使用して保存した後の摘出腎臓の機能に関する研究
方法
心停止ドナー(NHBD)のブタ腎臓を、RS−Iまたは市販の低温保存溶液であるSoltran(登録商標)もしくはUW(ウィスコンシン大学)のうちいずれかの中で「寒冷」(0℃〜4℃)静止(CS)条件下で2時間、あるいは「温暖」(31℃)静止(WS)条件下で保存した。この腎臓をその後、自家血液/乳酸加リンゲル液の50:50灌流混合物を用いて常温条件下で6〜8時間再灌流した。
【0128】
結果
自家血液を用いた6時間の常温灌流後の摘出ブタ腎臓において測定された機能的パラメータを、以下の表IIIに示すが、表中、「n」は試験した腎臓の数を表している。
【0129】
【表4】
本研究から、自家血液中での腎臓蘇生後に評価されるような腎機能の維持において、RS−Iが他の保存溶液より著しく優れた性能を有することが明らかとなった。再灌流期間の間に得られたデータの分析から、RS−I中に4℃で保存された腎臓は、(1)酸素消費量の増加、(2)クレアチンクリアランス率の上昇、(3)腎血流量[RBF]の増加、(4)尿排出量の増加、(5)腎血管抵抗[RVR]の低下、(6)重量増加の減少(すなわち浮腫の低減)、(7)安定した血液pHおよび酸塩基平衡の保持[炭酸水素イオンレベル]、ならびに(8)無視できる程度の細胞内K+の損失、を示した。
【0130】
特に重要なのは、血液pHの安定性および中間的な酸塩基平衡の保持(H+/HCO3−)が観察されたことである。このように観察された安定性から、RS−Iで保存された腎臓では、主要なpH緩衝系すなわちグルタミン−アンモニアシャトルが、他の2つの市販の保存溶液で観察されたような影響をうけなかったことが示される(上記の表IIIを参照)。加えて重要なことは、AQIX(登録商標)RS−Iの中で「温暖」(WS)虚血条件下で2時間保存された腎臓では、その後の6〜8時間の再灌流でADP:ATPバランスが回復したという観察であった(図10を参照)。
【0131】
ADP:ATP比のレベルは灌流前の生検において最も高く、CS/WS保管期間中に受けた虚血性障害の指標となった(図10)。しかしながら、6時間の灌流後、この比は細胞機能の回復を示している両群において改善したものの、腎臓のCS群およびWS群の間では有意差は観察されなかった(p=0.71)(MD Kay et al.,2006;Transplant International 20(1),88−92)。
【実施例7】
【0132】
摘出された哺乳類の臓器および組織調製物の生存能力を様々な保存期間にわたって維持するRS−Iの能力の評価
方法
哺乳類の組織および臓器調製物の機能的生存能力を、RS−I溶液中で様々な期間について組織/臓器を保管/灌流した後に評価した。生存能力は、様々な機能的指標、例えば細胞膜電位の維持、神経伝達物質の生産量、筋原性、膜受容体感受性、酵素機能、組織学的変化などを使用して評価した。
【0133】
結果
下記の表IVは、RS−I溶液が様々な哺乳動物およびヒトの組織および臓器調製物の機能的な生存能力を、様々な長さの保存期間(0.3〜10日間)にわたって維持する能力を提示している。
【0134】
【表5】
【実施例8】
【0135】
出血性ブタモデルで静脈内投与された場合のRS−I液体の有効性を自家血液および生理食塩水と比較する前臨床試験
研究の目的
ブタの出血性外傷後の、蘇生(増量)溶液としてのRS−Iの有効性ならびに組織再灌流傷害の低減におけるRS−Iの有効性を、自家血液、または臨床応用に一般に用いられている血液量増量溶液である乳酸加リンゲル液(LR)を用いた補給と比較して調査する。
【0136】
方法
この研究では、23匹の無作為に選択された非同系の畜豚を、4つの実験群において、すなわち3匹を「シャム」(対照)、6匹を自家血液、6匹をRS−I溶液、6匹をLR溶液の実験群に使用した。標準化された全身麻酔条件下で、すべての血行動態プロファイルを十分計測できるように動物に機器を装備した。その後、ブタの大腿動脈から、MAPが30mmHgに達するまで急速に出血させた。出血は、MAPを30±2mmHgに45分間維持するのに必要なだけ継続させた。出血させた血液を、ACD処理されたバッグに回収し、その正味重量を、出血させた血液量を概算するために使用した。
【0137】
45分間のショック期間の終了時に、動物に、出血させた血液量の3〜4倍に匹敵する乳酸加リンゲル液(LR)もしくはRS−I溶液を与えるか、出血させた自家全血を与えるか、または蘇生を行わないか(「シャム」対照群)のいずれかとした。
【0138】
蘇生用液は、MAPを60±2mmHgに維持するように、2時間かけて動的な方法で漸増的に与えた。すべての血行動態パラメータを、ベースライン;45分間のショック期間の開始時、ショックの30分時点;ショックの45分時点(完了時);ならびに蘇生の30、60、90および120分時点、において計測した。血液ガス分析、乳酸測定、完全血球算定、血清生化学測定:電解質、グルコース、浸透圧モル濃度、血清酵素(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ[SGOT/AST]、アラニンアミノトランスフェラーゼ[SGPT/ALT]、総クレアチンキナーゼ[CK]および乳酸脱水素酵素[LDH])および凝固プロファイルのための血液試料を、同じ時間間隔で採取した。
【0139】
好中球活性化のレベルは、ミロペルオキシダーゼ(myloperoxidase)酵素法、ならびにアポトーシス(細胞死)現象の指標としてのTNF−αおよびIL−6のレベルを介して測定した。
【0140】
蘇生の後、毎日の採血用の頚部静脈カテーテルを残して、動物からカニューレを取り除いた。術後7日間の間、動物を任意の行動変化について観察し、手術後第1、2および7日目に採血を行った。その後、動物を術後第7日目に人道的に屠殺して、脳、腎臓、肺および肝臓における再灌流傷害の何らかの病理学的証拠について検査した。
【0141】
結果
概略:
生存している3つの実験群の全18匹のブタを1週間観察すると、すべて正常な範囲内の行動および食性を示した。
【0142】
血行動態:
RS−I群のブタの平均動脈圧(図11を参照)、中心静脈圧、肺動脈閉塞圧の、蘇生の最初の60分間における回復時間が最も速く、自家血液群のブタに匹敵したが、LR群のブタでは最も遅かった。心拍出量の回復は、自家血液群およびLR群のブタのいずれと比較してもRS−I群のブタで有意に速くかつ大きかった(図12を参照)。
【0143】
血液プロファイル:
術後第7日までの血清中電解質濃度は、LR群のブタにおけるナトリウムイオン濃度の上昇を除いてすべての実験群について正常レベルの範囲内に回復した。アニオンギャップおよび強イオン濃度較差は、術後第7日までにすべての群のブタで正常な範囲内にあった。
【0144】
酵素レベルは術後第1日および第2日に上昇したが、術後第7日までにはベースライン値に戻った。血液凝固パラメータの著しい変化は7日の実験期間には観察されなかった(図13を参照)。
【0145】
病理:
術後第7日では、再灌流傷害の証拠は、RS−I群および自家血液群のいずれのブタにおいても肺および肝臓には存在せず、腎臓では軽微であったが、LR群のブタではこれら3種の臓器に顕著かつ広範囲な特徴がみられた(図13を参照)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
緩衝剤が無機リン酸塩緩衝剤以外の生理学的に許容可能な緩衝剤である、緩衝化された体液増量剤溶液であって、カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンを5:1〜1:1の濃度比で含んでなる、体液増量剤溶液。
【請求項2】
生理学的に許容可能なN−置換アミノスルホン酸緩衝剤から成る群から選択された非リン酸緩衝剤を含んでなる、体液増量剤溶液。
【請求項3】
20℃で7.1〜7.5の水溶液中pKa値を有する生理学的に許容可能なN−置換アミノスルホン酸緩衝剤から成る群から選択された非リン酸緩衝剤を含んでなる、請求項2に記載の体液増量剤溶液。
【請求項4】
TES、MOPS、BESおよびこれらの組み合わせから成る群から選択された非リン酸緩衝剤を含んでなる、請求項3に記載の体液増量剤溶液。
【請求項5】
前記非リン酸緩衝剤は、1〜12mmol/L、好ましくは約5mmol/Lの濃度で存在する、請求項2〜4のいずれか1項に記載の体液増量剤溶液。
【請求項6】
カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンを5:1〜1:1の濃度比で含んでなる、請求項2〜5のいずれか1項に記載の体液増量剤溶液。
【請求項7】
カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンの濃度比は4:1〜2:1、好ましくは約3:1である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の体液増量剤溶液。
【請求項8】
0.1〜2.5mmol/Lのカルシウムイオン、または0.4〜25mmol/Lのマグネシウムイオンのうち少なくともいずれか一方を含んでなる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の体液増量剤溶液。
【請求項9】
1.0〜2.5mmol/Lのカルシウムイオンを含んでなる、請求項1〜8のいずれか1項に記載の体液増量剤溶液。
【請求項10】
1.1〜1.4mmol/L、好ましくは1.2〜1.3mmol/L、より好ましくは約1.25mmol/Lのカルシウムイオンを含んでなる、請求項9に記載の体液増量剤溶液。
【請求項11】
0.2〜0.6mmol/L、好ましくは0.3〜0.5mmol/L、より好ましくは約0.45mmol/Lのマグネシウムイオンを含んでなる、請求項1〜10のいずれか1項に記載の体液増量剤溶液。
【請求項12】
約1.25mmol/Lのカルシウムイオンおよび約0.45mmol/Lのマグネシウムイオンを含んでなる、請求項11に記載の体液増量剤溶液。
【請求項13】
血清または血清抽出物を含まない、請求項1〜12のいずれか1項に記載の体液増量剤溶液。
【請求項14】
21〜35mmol/L、好ましくは25mmol/Lの炭酸水素イオンを含んでなる、請求項1〜13のいずれか1項に記載の体液増量剤溶液。
【請求項15】
(a)100〜150mmol/Lのナトリウムイオン、
(b)2.5〜6.2mmol/Lのカリウムイオン、
(c)96〜126mmol/Lの塩化物イオン、
(d)2〜11mmol/Lのグルコース、
(e)50〜150μmol/Lのグリセロール、
(f)7〜15μmol/Lのコリン、
(g)5〜400μmol/Lのグルタミン酸、
(h)5〜200μmol/Lのアスパラギン酸、
(i)100〜2000μmol/Lのグルタミン、
(j)15〜215μmol/Lのピログルタミン酸、
(k)20〜200μmol/Lのアルギニン、
(l)1〜120nmol/Lのチアミンピロリン酸、
(m)40〜70μmol/LのD−もしくはDLもしくはL−カルニチン、および
(n)5〜200mI.U./Lのブタもしくはヒトのインスリン
のうちの1以上を含んでなる、請求項1〜14のいずれか1項に記載の体液増量剤溶液。
【請求項16】
(a)約135mmol/Lのナトリウムイオン、
(b)約5mmol/Lのカリウムイオン、
(c)約118mmol/Lの塩化物イオン、
(d)約10mmol/LのD−グルコース、
(e)約110μmol/Lのグリセロール、
(f)約10μmol/Lのコリン、
(g)約300μmol/LのL−グルタミン酸、
(h)約20μmol/LのL−アスパラギン酸、
(i)約400μmol/LのL−グルタミン、
(j)約60μmol/Lのピログルタミン酸、
(k)約100μmol/LのL−アルギニン、
(l)約40nmol/Lのチアミンピロリン酸、
(m)約50μmol/LのL−カルニチン、および
(n)約28mI.U./Lの組換えヒトインスリン
のうちの1以上を含んでなる、請求項15に記載の体液増量剤溶液。
【請求項17】
抗生物質成分を含んでなる、請求項1〜16のいずれか1項に記載の体液増量剤溶液。
【請求項18】
抗生物質成分はクロラムフェニコールである、請求項17に記載の体液増量剤溶液。
【請求項19】
10〜150mg/L、好ましくは約100mg/Lのクロラムフェニコールを含んでなる、請求項18に記載の体液増量剤溶液。
【請求項20】
4〜38℃の温度範囲においてpHが7.05〜7.5である、請求項1〜19のいずれか1項に記載の体液増量剤溶液。
【請求項21】
前記溶液は代用血液である、請求項1〜20のいずれか1項に記載の体液増量剤溶液。
【請求項22】
前記溶液は血管外液代用物、例えば腹膜液代用物である、請求項1〜20のいずれか1項に記載の体液増量剤溶液。
【請求項23】
請求項1〜22のいずれか1項に記載の体液増量剤溶液の濃縮貯蔵溶液であって、該貯蔵溶液は任意選択で1〜50倍、好ましくは5〜20倍に濃縮されている、濃縮貯蔵溶液。
【請求項24】
炭酸水素イオンをほとんど含まない、請求項23に記載の濃縮貯蔵溶液。
【請求項25】
医薬として使用するための、請求項1〜22のいずれか1項に記載の溶液。
【請求項26】
血液量減少症の治療において使用するための、請求項1〜22のいずれか1項に記載の溶液。
【請求項27】
熱傷の治療において使用するための、請求項1〜22のいずれか1項に記載の溶液。
【請求項28】
血液量増量剤として使用するための、請求項1〜22のいずれか1項に記載の溶液。
【請求項29】
再灌流傷害の防止もしくは軽減のうち少なくともいずれか一方において使用するための、請求項1〜22のいずれか1項に記載の溶液。
【請求項30】
体液補給治療薬として使用するための、請求項1〜22のいずれか1項に記載の溶液。
【請求項31】
外科的処置を受けている対象者の腹腔の灌流において使用するための、請求項30に記載の溶液。
【請求項32】
治療薬、検査薬、もしくは相助作用剤のうち少なくともいずれかを対象者にin vivoで送達するための血管内または血管外送達媒体として使用するための、請求項1〜22のいずれか1項に記載の溶液。
【請求項33】
治療薬、検査薬、もしくは相助作用剤のうち少なくともいずれかを対象者のリンパ系に送達する際に使用するための、請求項32に記載の溶液。
【請求項34】
血液量減少症の治療用の血液量増量剤を製造するための、請求項1〜22のいずれか1項に記載の溶液の使用法。
【請求項35】
血液量減少症は脱水または熱傷または出血のうち少なくともいずれかに起因する、請求項34に記載の使用法。
【請求項36】
血液量減少症は薬物誘導性である、請求項34に記載の使用法。
【請求項37】
熱傷を負った対象者の治療用の医薬を製造するための、請求項1〜20のいずれか1項に記載の溶液の使用法。
【請求項38】
(a)熱傷を負った対象者の細胞外液および間質液の損失の治療、
(b)外科的処置を受けている対象者の腹部もしくは胸部の臓器もしくは組織のin situにおける洗浄、
(c)急性腎不全もしくは急性毒性症状を有する対象者の腹膜透析中の腹腔の灌流、または
(d)再灌流傷害の防止もしくは軽減のうち少なくともいずれか一方、
のための医薬を製造するための、請求項1〜22のいずれか1項に記載の溶液の使用法。
【請求項39】
(a)急性腎不全もしくは急性毒性症状を有する対象者の腹腔の透析、または
(b)外科的処置を受けている対象者の腹部もしくは胸部の臓器の洗浄
のための、請求項1〜22のいずれか1項に記載の溶液の使用法。
【請求項40】
治療薬、検査薬、もしくは相助作用剤のうち少なくともいずれかを対象者に送達するための、請求項1〜22のいずれか1項に記載の溶液の使用法。
【請求項41】
薬剤は、少なくとも1つの幹細胞、ペプチドまたはゲノム由来のタンパク質のような生物学的作用物質である、請求項40に記載の使用法。
【請求項42】
送達は対象者のリンパ系への投与によって行われる、請求項40または41に記載の使用法。
【請求項43】
送達は、血管内、腹腔内、皮内、経口、筋肉内または局所経路を介した投与によって行われる、請求項40または41に記載の使用法。
【請求項44】
血液量減少症を治療する方法であって、治療上有効な量の、請求項1〜22のいずれか1項に記載の溶液を、投与を必要とする対象者に投与することを含んでなる方法。
【請求項45】
熱傷を治療する方法であって、治療上有効な量の、請求項1〜22のいずれか1項に記載の溶液を、投与を必要とする対象者に投与することを含んでなる方法。
【請求項46】
再灌流傷害の防止または軽減のうち少なくともいずれか一方を行う方法であって、治療上有効な量の、請求項1〜22のいずれか1項に記載の溶液を、対象者に投与することを含んでなる方法。
【請求項47】
対象者に対して行なわれる外科的処置の間に、組織または臓器のうち少なくともいずれか一方の生理的ホメオスタシスをin situで維持する方法であって、前記組織または臓器を、請求項1〜22のいずれか1項に記載の溶液で灌流することを含んでなる方法。
【請求項48】
前記組織または臓器のうち少なくともいずれか一方が前記溶液で灌流された時に低体温状態に維持されるように、前記溶液は約4〜20℃の温度に維持される、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
外科的処置は、前記組織または臓器のうち少なくともいずれか一方を、続いてレシピエント対象者に移植するためにドナー対象者から取り出すために行われる、請求項47に記載の方法。
【請求項50】
治療薬、検査薬、もしくは相助作用剤のうち少なくともいずれかを、請求項1〜22のいずれか1項に記載の溶液を用いて対象者に送達する方法。
【請求項51】
薬剤は、少なくとも1つの幹細胞のような生物学的作用物質である、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
送達は対象者のリンパ系への投与によって行われる、請求項50または51に記載の方法。
【請求項53】
送達は、血管内、腹腔内、皮内、経口、筋肉内または局所経路を介した投与によって行われる、請求項50または51に記載の方法。
【請求項54】
対象者はヒトである、請求項44〜53のいずれか1項に記載の方法または請求項39〜43のいずれか1項に記載の使用法。
【請求項55】
対象者はヒト以外の動物である、請求項44〜53のいずれか1項に記載の方法または請求項39〜43のいずれか1項に記載の使用法。
【請求項56】
本願明細書中において特定の実施例に関連して実質的に記載された体液増量剤溶液。
【請求項57】
医薬として使用するための、無機リン酸をほとんど含まない緩衝化された溶液。
【請求項58】
さらにクエン酸緩衝剤および乳酸緩衝剤のうち少なくとも一方をほとんど含まない、請求項53に記載の溶液。
【請求項1】
緩衝剤が無機リン酸塩緩衝剤以外の生理学的に許容可能な緩衝剤である、緩衝化された体液増量剤溶液であって、カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンを5:1〜1:1の濃度比で含んでなる、体液増量剤溶液。
【請求項2】
生理学的に許容可能なN−置換アミノスルホン酸緩衝剤から成る群から選択された非リン酸緩衝剤を含んでなる、体液増量剤溶液。
【請求項3】
20℃で7.1〜7.5の水溶液中pKa値を有する生理学的に許容可能なN−置換アミノスルホン酸緩衝剤から成る群から選択された非リン酸緩衝剤を含んでなる、請求項2に記載の体液増量剤溶液。
【請求項4】
TES、MOPS、BESおよびこれらの組み合わせから成る群から選択された非リン酸緩衝剤を含んでなる、請求項3に記載の体液増量剤溶液。
【請求項5】
前記非リン酸緩衝剤は、1〜12mmol/L、好ましくは約5mmol/Lの濃度で存在する、請求項2〜4のいずれか1項に記載の体液増量剤溶液。
【請求項6】
カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンを5:1〜1:1の濃度比で含んでなる、請求項2〜5のいずれか1項に記載の体液増量剤溶液。
【請求項7】
カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンの濃度比は4:1〜2:1、好ましくは約3:1である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の体液増量剤溶液。
【請求項8】
0.1〜2.5mmol/Lのカルシウムイオン、または0.4〜25mmol/Lのマグネシウムイオンのうち少なくともいずれか一方を含んでなる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の体液増量剤溶液。
【請求項9】
1.0〜2.5mmol/Lのカルシウムイオンを含んでなる、請求項1〜8のいずれか1項に記載の体液増量剤溶液。
【請求項10】
1.1〜1.4mmol/L、好ましくは1.2〜1.3mmol/L、より好ましくは約1.25mmol/Lのカルシウムイオンを含んでなる、請求項9に記載の体液増量剤溶液。
【請求項11】
0.2〜0.6mmol/L、好ましくは0.3〜0.5mmol/L、より好ましくは約0.45mmol/Lのマグネシウムイオンを含んでなる、請求項1〜10のいずれか1項に記載の体液増量剤溶液。
【請求項12】
約1.25mmol/Lのカルシウムイオンおよび約0.45mmol/Lのマグネシウムイオンを含んでなる、請求項11に記載の体液増量剤溶液。
【請求項13】
血清または血清抽出物を含まない、請求項1〜12のいずれか1項に記載の体液増量剤溶液。
【請求項14】
21〜35mmol/L、好ましくは25mmol/Lの炭酸水素イオンを含んでなる、請求項1〜13のいずれか1項に記載の体液増量剤溶液。
【請求項15】
(a)100〜150mmol/Lのナトリウムイオン、
(b)2.5〜6.2mmol/Lのカリウムイオン、
(c)96〜126mmol/Lの塩化物イオン、
(d)2〜11mmol/Lのグルコース、
(e)50〜150μmol/Lのグリセロール、
(f)7〜15μmol/Lのコリン、
(g)5〜400μmol/Lのグルタミン酸、
(h)5〜200μmol/Lのアスパラギン酸、
(i)100〜2000μmol/Lのグルタミン、
(j)15〜215μmol/Lのピログルタミン酸、
(k)20〜200μmol/Lのアルギニン、
(l)1〜120nmol/Lのチアミンピロリン酸、
(m)40〜70μmol/LのD−もしくはDLもしくはL−カルニチン、および
(n)5〜200mI.U./Lのブタもしくはヒトのインスリン
のうちの1以上を含んでなる、請求項1〜14のいずれか1項に記載の体液増量剤溶液。
【請求項16】
(a)約135mmol/Lのナトリウムイオン、
(b)約5mmol/Lのカリウムイオン、
(c)約118mmol/Lの塩化物イオン、
(d)約10mmol/LのD−グルコース、
(e)約110μmol/Lのグリセロール、
(f)約10μmol/Lのコリン、
(g)約300μmol/LのL−グルタミン酸、
(h)約20μmol/LのL−アスパラギン酸、
(i)約400μmol/LのL−グルタミン、
(j)約60μmol/Lのピログルタミン酸、
(k)約100μmol/LのL−アルギニン、
(l)約40nmol/Lのチアミンピロリン酸、
(m)約50μmol/LのL−カルニチン、および
(n)約28mI.U./Lの組換えヒトインスリン
のうちの1以上を含んでなる、請求項15に記載の体液増量剤溶液。
【請求項17】
抗生物質成分を含んでなる、請求項1〜16のいずれか1項に記載の体液増量剤溶液。
【請求項18】
抗生物質成分はクロラムフェニコールである、請求項17に記載の体液増量剤溶液。
【請求項19】
10〜150mg/L、好ましくは約100mg/Lのクロラムフェニコールを含んでなる、請求項18に記載の体液増量剤溶液。
【請求項20】
4〜38℃の温度範囲においてpHが7.05〜7.5である、請求項1〜19のいずれか1項に記載の体液増量剤溶液。
【請求項21】
前記溶液は代用血液である、請求項1〜20のいずれか1項に記載の体液増量剤溶液。
【請求項22】
前記溶液は血管外液代用物、例えば腹膜液代用物である、請求項1〜20のいずれか1項に記載の体液増量剤溶液。
【請求項23】
請求項1〜22のいずれか1項に記載の体液増量剤溶液の濃縮貯蔵溶液であって、該貯蔵溶液は任意選択で1〜50倍、好ましくは5〜20倍に濃縮されている、濃縮貯蔵溶液。
【請求項24】
炭酸水素イオンをほとんど含まない、請求項23に記載の濃縮貯蔵溶液。
【請求項25】
医薬として使用するための、請求項1〜22のいずれか1項に記載の溶液。
【請求項26】
血液量減少症の治療において使用するための、請求項1〜22のいずれか1項に記載の溶液。
【請求項27】
熱傷の治療において使用するための、請求項1〜22のいずれか1項に記載の溶液。
【請求項28】
血液量増量剤として使用するための、請求項1〜22のいずれか1項に記載の溶液。
【請求項29】
再灌流傷害の防止もしくは軽減のうち少なくともいずれか一方において使用するための、請求項1〜22のいずれか1項に記載の溶液。
【請求項30】
体液補給治療薬として使用するための、請求項1〜22のいずれか1項に記載の溶液。
【請求項31】
外科的処置を受けている対象者の腹腔の灌流において使用するための、請求項30に記載の溶液。
【請求項32】
治療薬、検査薬、もしくは相助作用剤のうち少なくともいずれかを対象者にin vivoで送達するための血管内または血管外送達媒体として使用するための、請求項1〜22のいずれか1項に記載の溶液。
【請求項33】
治療薬、検査薬、もしくは相助作用剤のうち少なくともいずれかを対象者のリンパ系に送達する際に使用するための、請求項32に記載の溶液。
【請求項34】
血液量減少症の治療用の血液量増量剤を製造するための、請求項1〜22のいずれか1項に記載の溶液の使用法。
【請求項35】
血液量減少症は脱水または熱傷または出血のうち少なくともいずれかに起因する、請求項34に記載の使用法。
【請求項36】
血液量減少症は薬物誘導性である、請求項34に記載の使用法。
【請求項37】
熱傷を負った対象者の治療用の医薬を製造するための、請求項1〜20のいずれか1項に記載の溶液の使用法。
【請求項38】
(a)熱傷を負った対象者の細胞外液および間質液の損失の治療、
(b)外科的処置を受けている対象者の腹部もしくは胸部の臓器もしくは組織のin situにおける洗浄、
(c)急性腎不全もしくは急性毒性症状を有する対象者の腹膜透析中の腹腔の灌流、または
(d)再灌流傷害の防止もしくは軽減のうち少なくともいずれか一方、
のための医薬を製造するための、請求項1〜22のいずれか1項に記載の溶液の使用法。
【請求項39】
(a)急性腎不全もしくは急性毒性症状を有する対象者の腹腔の透析、または
(b)外科的処置を受けている対象者の腹部もしくは胸部の臓器の洗浄
のための、請求項1〜22のいずれか1項に記載の溶液の使用法。
【請求項40】
治療薬、検査薬、もしくは相助作用剤のうち少なくともいずれかを対象者に送達するための、請求項1〜22のいずれか1項に記載の溶液の使用法。
【請求項41】
薬剤は、少なくとも1つの幹細胞、ペプチドまたはゲノム由来のタンパク質のような生物学的作用物質である、請求項40に記載の使用法。
【請求項42】
送達は対象者のリンパ系への投与によって行われる、請求項40または41に記載の使用法。
【請求項43】
送達は、血管内、腹腔内、皮内、経口、筋肉内または局所経路を介した投与によって行われる、請求項40または41に記載の使用法。
【請求項44】
血液量減少症を治療する方法であって、治療上有効な量の、請求項1〜22のいずれか1項に記載の溶液を、投与を必要とする対象者に投与することを含んでなる方法。
【請求項45】
熱傷を治療する方法であって、治療上有効な量の、請求項1〜22のいずれか1項に記載の溶液を、投与を必要とする対象者に投与することを含んでなる方法。
【請求項46】
再灌流傷害の防止または軽減のうち少なくともいずれか一方を行う方法であって、治療上有効な量の、請求項1〜22のいずれか1項に記載の溶液を、対象者に投与することを含んでなる方法。
【請求項47】
対象者に対して行なわれる外科的処置の間に、組織または臓器のうち少なくともいずれか一方の生理的ホメオスタシスをin situで維持する方法であって、前記組織または臓器を、請求項1〜22のいずれか1項に記載の溶液で灌流することを含んでなる方法。
【請求項48】
前記組織または臓器のうち少なくともいずれか一方が前記溶液で灌流された時に低体温状態に維持されるように、前記溶液は約4〜20℃の温度に維持される、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
外科的処置は、前記組織または臓器のうち少なくともいずれか一方を、続いてレシピエント対象者に移植するためにドナー対象者から取り出すために行われる、請求項47に記載の方法。
【請求項50】
治療薬、検査薬、もしくは相助作用剤のうち少なくともいずれかを、請求項1〜22のいずれか1項に記載の溶液を用いて対象者に送達する方法。
【請求項51】
薬剤は、少なくとも1つの幹細胞のような生物学的作用物質である、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
送達は対象者のリンパ系への投与によって行われる、請求項50または51に記載の方法。
【請求項53】
送達は、血管内、腹腔内、皮内、経口、筋肉内または局所経路を介した投与によって行われる、請求項50または51に記載の方法。
【請求項54】
対象者はヒトである、請求項44〜53のいずれか1項に記載の方法または請求項39〜43のいずれか1項に記載の使用法。
【請求項55】
対象者はヒト以外の動物である、請求項44〜53のいずれか1項に記載の方法または請求項39〜43のいずれか1項に記載の使用法。
【請求項56】
本願明細書中において特定の実施例に関連して実質的に記載された体液増量剤溶液。
【請求項57】
医薬として使用するための、無機リン酸をほとんど含まない緩衝化された溶液。
【請求項58】
さらにクエン酸緩衝剤および乳酸緩衝剤のうち少なくとも一方をほとんど含まない、請求項53に記載の溶液。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図4E】
【図4F】
【図4G】
【図5a】
【図5b】
【図5c】
【図5d】
【図5e】
【図5f】
【図5g】
【図6a】
【図6b】
【図6c】
【図6d】
【図7a】
【図7b】
【図7c】
【図7d】
【図8a】
【図8b】
【図8c】
【図8d】
【図8e】
【図9a】
【図9b】
【図9c】
【図9d】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図4E】
【図4F】
【図4G】
【図5a】
【図5b】
【図5c】
【図5d】
【図5e】
【図5f】
【図5g】
【図6a】
【図6b】
【図6c】
【図6d】
【図7a】
【図7b】
【図7c】
【図7d】
【図8a】
【図8b】
【図8c】
【図8d】
【図8e】
【図9a】
【図9b】
【図9c】
【図9d】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2010−531866(P2010−531866A)
【公表日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−514119(P2010−514119)
【出願日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際出願番号】PCT/GB2008/002268
【国際公開番号】WO2009/004331
【国際公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(510004778)アキックス リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】AQIX LTD.
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際出願番号】PCT/GB2008/002268
【国際公開番号】WO2009/004331
【国際公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(510004778)アキックス リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】AQIX LTD.
【Fターム(参考)】
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