説明

OA機器用ローラーの製造方法及びOA機器用ローラー

【課題】フッ素樹脂層からなる表層の厚みを薄くして熱伝導性の向上を図ることができ、更に離型性にも優れ、しかも、ゴム層の劣化を防止することができると共に円筒状金型を用いた場合であっても円筒状金型の内面に異物が付着することのないOA機器用ローラーの製造方法及びOA機器用ローラーを提供することを課題とする。
【解決手段】芯金上に、順に、弾性層、表層が形成されたOA機器用ローラーの製造方法であって、前記表層は、フッ素樹ディスパージョンを用いて形成され、前記フッ素樹脂ディスパージョン中の界面活性剤、増膜剤および増粘剤の総含有量が、1.0〜5.0wt%であるOA機器用ローラーの製造方法。および、この製造方法により製造されたOA機器用ローラー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機等のOA機器の定着部の定着ローラーや加圧ローラー、現像部の現像ローラーや帯電ローラーなどに用いられるOA機器用ローラーの製造方法及びOA機器用ローラーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のローラーは、一般に、芯金の外周上に、弾性層としてゴム層を形成し、さらに弾性層の上に、表層としてPFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル樹脂)やPTFE(ポリテトラフルオロエチレン樹脂)やFEP(フルオリネーティッドエチレンプロピレン樹脂)等のフッ素樹脂層を形成して離型性が付与された構造となっている。
【0003】
ところで、近年複写機等のフルカラー化や高速化の要求に対するOA機器用ローラーの開発が求められており、それに対応するためには、ローラーが従来以上に柔軟であることが望ましく、表層の厚みを更に薄くして、より柔軟なローラーとする必要がある。
しかしながら、従来のOA機器用ローラーの製造方法では、次に述べるようにこれらの要求に十分に応じることができなかった。
例えば、フッ素樹脂粉体を用いてフッ素樹脂層を形成する粉体コート法では、形成可能な一層の厚みが20μm以上であり、高速化に対する対応が十分とはいえなかった。
【0004】
また、フッ素樹脂製のチューブを用いて表層を形成する方法(特許文献1)においては、チューブの厚みが薄くなる程、チューブを挿入するハンドリングが難しくなり、かつチューブが高価であるという問題があった。さらに積層構成とするには、例えば2層チューブを製造するかまたは単層のチューブを2枚以上重ねた後に一体化する必要があるが、膜厚30μm以下の2層チューブの製造が極めて困難であり、また2枚以上のチューブを重ねてローラーとするには400℃以上の高温で焼成して一体とする必要があるので、フッ素樹脂に比較して耐熱性の劣るゴム層が劣化するため実用に適さないという問題があった。
【0005】
一方、薄いフッ素樹脂層を形成する方法としては、フッ素樹脂のディスパージョンを用いて形成する方法がある。
【0006】
このようなフッ素樹脂のディスパージョンを用いてフッ素樹脂層を形成する方法の一つに、ゴム層の外周面にフッ素樹脂のディスパージョンを塗布した後焼成してフッ素樹脂層を形成する方法がある。しかし、この方法において、良好な特性を有する表層を得ようとすれば、長時間かけて充分に焼成を行う必要があるが、長時間焼成を行うと前記のチューブを用いる方法と同様、400℃以上の高温で焼成する必要があるので、フッ素樹脂に比較して耐熱性の劣るゴム層が劣化するという問題がある。
【0007】
一方、フッ素樹脂のディスパージョンを用いてフッ素樹脂層を形成する方法であって、ゴム層にフッ素樹脂を焼成する際の熱の影響を及ぼさずに表層を形成するOA機器用ローラーの製造方法として、円筒状金型の内周面にフッ素樹脂のディスパージョンを塗布し、焼成することによりフッ素樹脂層を形成し、次いで前記円筒状金型の中空内に芯金を挿入して、前記フッ素樹脂層と芯金の間にゴム層形成用の材料を注入し、加硫した後、製品を円筒状金型より引抜くことによりローラーを製造する方法がある。この方法によれば、ゴム層は焼成温度の影響を受けないので、フッ素樹脂の完全な焼成が可能になり、ゴム層の劣化も防止することができる。
【0008】
しかしながら、前記の方法の場合、円筒状金型から製品を引抜いた(以下脱型ともいう)後に、円筒状金型の内周面に塗料(フッ素樹脂ディスパージョン)に含まれる界面活性剤、増膜剤や増粘剤が焼成の際に分解物として残り、繰り返し使用した場合には円筒状金型の内周面の離型性が低下し、ついには金型からの脱型が不可能になることが分かった。また離型性を回復するために、これらの残留物を除去する円筒状金型のクリーニング作業は大変面倒であり、量産には適さないという問題のあることが分かった。
【0009】
以上記載したように、従来のOA機器用ローラーの製造方法においては、薄いフッ素樹脂層を形成することが困難であるため、表層の柔軟性を向上させてフルカラー化や高速化に対応することが困難であった。
【0010】
【特許文献1】特開2004−276290号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで本発明においては、フッ素樹脂層からなる表層の厚みを薄くして柔軟性の向上を図ることができ、更に離型性にも優れ、しかも、ゴム層の劣化を防止することができると共に円筒状金型を用いた場合であっても円筒状金型の内面に残留物が付着することのないOA機器用ローラーの製造方法及びOA機器用ローラーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
フッ素樹脂ディスパージョンには、一般的にフッ素樹脂の分散安定性のため、また被着物との濡れ性を良くするために、15〜20wt%程度の界面活性剤が含有されている。さらに成膜性を良くするために、増膜剤および増粘剤がそれぞれ10〜15wt%程度含有されている。
【0013】
しかし、焼成が不充分な場合、焼成後のフッ素樹脂層に界面活性剤、増膜剤および増粘剤が残留し、フッ素樹脂層の離型性を低下させることが分かった。
【0014】
そこで、鋭意検討した結果、膜を充分に薄くした場合には、界面活性剤、増膜剤および増粘剤を低減しても成膜が可能であって、かつ界面活性剤、増膜剤および増粘剤を低減した場合、長時間かけて充分な焼成を行わなくてもこれら界面活性剤、増膜剤および増粘剤の残留をなくすことができ、離型性を低下させずに済むことが分かった。即ち前記の方法により、薄膜化と離型性の両方を兼ね備えたフッ素樹脂層を形成できることが分かった。
【0015】
また、膜を薄くすると共にフッ素樹脂ディスパージョンに含有される界面活性剤、増膜剤および増粘剤を低減させたこの方法によれば、短時間で焼成できるため、焼成温度によるゴム層の劣化の影響が殆どなく、優れたOA機器用ローラーを製造できることを見出した。
【0016】
さらに、円筒状金型の内面にフッ素樹脂ディスパージョンを塗布した後焼成してフッ素樹脂層を形成する方法において、円筒状金型の内面の残留物は前記の通り界面活性剤、増膜剤および増粘剤の分解物であることが分かった。
【0017】
そして、前記界面活性剤、増膜剤および増粘剤を大幅に低減することにより分解物の付着が発生しないことが判明した。このことより、円筒状金型を用いてフッ素樹脂層を形成する方法において、前記界面活性剤、増膜剤および増粘剤大幅に低減したフッ素樹脂ディスパージョンを適用することにより、ゴム層を全く劣化させることなく充分に焼成を行うことができ、かつ量産に適したOA機器用ローラーを製造することができることを見出した。
【0018】
このようにして、表層を薄くしたローラーを実現できるため、良好な柔軟性を確保でき、柔軟性が特に求められるフルカラー化や高速化に対応可能なOA機器用ローラーを提供することができる。また、離型性が良くゴム層の劣化の影響がないため、高耐久性が得られるOA機器用ローラーを提供することができる。
【0019】
さらに、薄い膜を形成することができるため、複数の層を形成しても、良好な柔軟性を確保することができ、フルカラー化や高速化に対応させつつ、各層に異なる機能を分担させることにより、一層では困難であった多機能化を図ったOA機器用ローラーを提供することができる。
【0020】
さらに、表層を複数の層とすることにより、ピンホールの欠陥が低減し、歩留りを向上させることにより安価なOA機器用ローラーを提供することができる。
【0021】
なお、フッ素樹脂ディスパージョン中に含有される界面活性剤、増膜剤、増粘剤の総含有量について検討したところ、1.0〜5wt%が適切であることが分かった。
【0022】
なお、1.0wt%未満の場合には、フッ素樹脂ディスパージョンとしての分散安定性が低下し、被着物に対する濡れ性が悪く、成膜が困難である。
一方、5wt%を超えると、十分に時間をかけて焼成しないと焼成後のフッ素樹脂層に界面活性剤、増膜剤、増粘剤の分解物が残留して離型性に悪影響を及ぼす。また、円筒状金型の内面に成膜させた場合に、円筒状金型の内面に残留物が付着する恐れがある。
【0023】
そこで、本発明は、その請求項1において、
芯金上に、順に、弾性層、表層が形成されたOA機器用ローラーの製造方法であって、
前記表層は、フッ素樹脂ディスパージョンを用いて形成され、
前記フッ素樹脂ディスパージョン中の界面活性剤、増膜剤および増粘剤の総含有量が、1.0〜5.0wt%であることを特徴とするOA機器用ローラーの製造方法を提供する。
【0024】
本請求項の発明においては、前記の通りフッ素樹脂層からなる表層の厚みを薄くして熱伝導性の向上を図ることができ、更に離型性にも優れ、しかも、ゴム層の劣化を防止できると共に円筒状金型を用いた場合であっても円筒状金型の内面に残留物が付着することがなくなる。
【0025】
なお、前記複数のフッ素樹脂層を積層させるに際しては、先に形成させたフッ素樹脂層の表面を例えばプラズマ処理、放電加工、化学エッチング等によって濡れ性を向上させた後でフッ素樹脂ディスパージョンを塗布すると、平滑でさらに接着性が良い薄い膜を形成することができるので好ましい。
また、円筒状金型を用いる場合には、接着層を塗布する際にフッ素樹脂層の濡れ性を向上させるためにも、フッ素樹脂層の表面にプラズマ処理等を行うことが好ましい。
【0026】
また、弾性層は特に限定されず、種々の弾性層を適用することができる。例えばソリッドゴムやスポンジ状ゴム(バルーンゴム)等の種々のゴムを適用することができる。
【0027】
本発明におけるOA機器ローラーの芯金は、例えばアルミニウム、鉄、炭素鋼、ステンレス鋼等で構成することが好ましい。
【0028】
なお、本発明においては、弾性層と表層の間に中間層を設けることもできる。
種々の機能を有する中間層を設けることにより、前記効果に加え、更に種々のユーザーの要求仕様に対応できるOA機器用ローラーを提供することができる。
具体的には、高熱伝導ゴム製や導電ゴム製の中間層が挙げられる。また、接着剤からなる層であってもよい。
【0029】
また、前記のように、フッ素樹ディスパージョン中の界面活性剤、増膜剤および増粘剤の含有量は、総量で5wt%以下であることが好ましいが、その中でも増膜剤および増粘剤の含有量は、それぞれ1wt%以下であることが好ましく、実質的に前記増膜剤および増粘剤が含有されていないことがさらに好ましいことが分かった。
【0030】
そこで、請求項2に記載の発明として、
前記フッ素樹脂ディスパージョン中の前記増膜剤および増粘剤の含有量がそれぞれ1wt%以下であることを特徴とする請求項1に記載のOA機器用ローラーの製造方法を提供する。
【0031】
また、請求項3に記載の発明として、
前記フッ素樹脂ディスパージョンには、実質的に前記増膜剤および増粘剤が含有されていないことを特徴とする請求項2に記載のOA機器用ローラーの製造方法を提供する。
【0032】
請求項4に記載の発明は、
前記表層のフッ素樹脂はPFA、PTFE、FEPの内の少なくとも一種であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のOA機器用ローラーの製造方法である。
【0033】
本請求項の発明は、フッ素樹脂として、PFAやPTFEやFEPが用いられているため、耐熱性および離型性により優れた表層となる。
【0034】
請求項5に記載の発明は、
前記表層は、フッ素樹脂層の単一層からなり、厚みは3〜15μmであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のOA機器用ローラーの製造方法である。
【0035】
本請求項の発明は、前記表層は、フッ素樹脂層の厚みは、3〜15μmであるので、表層としての機能を確保しつつ、柔軟性をより向上させることができ、一層のフルカラー化や高速化に対応することができるOA機器用ローラーを提供することができる。
なお、表層のより好ましい厚みは12μm以下である。
【0036】
請求項6に記載の発明は、
前記表層は、複数のフッ素樹脂層からなり、各層の厚みは3〜15μmであり、総厚は6〜30μmであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のOA機器用ローラーの製造方法。
【0037】
本請求項の発明によれば、表層の総厚は6μm以上であるため、複数層を形成することが可能であり、多くの機能に優れた表層とすることができる。また、表層の総厚は30μm以下であるため、柔軟性を維持し、かつ熱伝導を確保することができ、フルカラー化や高速化に対応することができる。しかも、各層の厚みが3〜15μmと薄くしているため、複数の層にして多機能化を図りつつ、表層の総厚を上記の範囲内とすることができる。
【0038】
複数層にして多機能化を図るための具体的方法としては、最外層を各種機能の付与が可能なフィラーが含有されていないフッ素樹脂層とし、最外層以外の層のうち、少なくとも一層は、各種機能の付与が可能なフィラーが含有された層とすることが好ましい。
このような好ましい構成とすることによって、表層に導電性、熱伝導性、耐摩耗性、強度向上等の機能を付与することができる。このため、種々の特性に優れ、より高機能を得ることができるOA機器用ローラーを提供することができる。
【0039】
導電性を有するフィラーとしては、例えばC、Al等の金属粉、イオン塩等があり、熱伝導性及び耐摩耗性を有するフィラーとしては、例えばSiC、TiO、BN等がある。
【0040】
また、複数層のフッ素樹脂層の全体の厚みは、好ましくは20μm以下であり、より好ましくは15μm以下であり、更に好ましくは12μm以下である。
【0041】
請求項7に記載の発明は、
円筒状金型の内面に前記フッ素樹脂ディスパージョンを塗布し、焼成することにより、前記フッ素樹脂層からなる表層を形成し、次いで、円筒状金型の中空内に芯金を挿入した後に、前記表層と芯金との間の隙間に弾性層形成用材料を注入して弾性層を形成し、前記芯金上に弾性層、表層が形成されてなるOA機器用ローラーを円筒状金型より引抜くことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のOA機器用ローラーの製造方法である。
【0042】
本請求項の発明においては、弾性層に焼成温度の影響を及ぼすことがなく表層を形成するため、焼成による弾性層の劣化をなくすことができる。そして、フッ素樹脂ディスパージョン中の界面活性剤、増膜剤および増粘剤を所定の総含有量にしたことにより、前記のように、円筒状金型の内面に残留物が付着しないので、クリーニング作業をすることなく円筒状金型を繰り返し使用でき、薄肉の表層を有するOA機器用ローラーの量産が可能になる。
【0043】
請求項8に記載の発明は、
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載のOA機器用ローラーの製造方法により製造されたことを特徴とするOA機器用ローラーである。
【0044】
本請求項の発明は、請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載のOA機器用ローラーの製造方法により製造されるので、フルカラー化や高速化に対応することが可能であって、高画質を得ることができる。各種特性に優れ、量産にも適したOA機器用ローラーを提供することができる。
【発明の効果】
【0045】
本発明においては、フッ素樹脂層からなる表層の厚みを薄くして柔軟性の向上を図ることができ、更に離型性にも優れ、しかも、ゴム層の劣化を防止できると共に円筒状金型を用いた場合であっても円筒状金型の内面に残留物が付着することのないOA機器用ローラーの製造方法及びOA機器用ローラーを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
以下、本発明をその最良の実施の形態につき、具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、以下の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【0047】
以下図1、図2に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るOA機器用ローラーの製造方法により製造されるOA機器用ローラーを模式的に示す図であって、(イ)はローラーの軸と直角方法の断面図であり、(ロ)は斜視図である。また、図2は本発明の一実施形態に係るOA機器用ローラーの製造方法を模式的に示す斜視図である。
【0048】
OA機器用ローラー1は、芯金2上に、順に、弾性層3、中間層4、表層5が形成されており、表層5は第一表層(外側層)5aと第二表層(内側層)5bの2層から成る。OA機器用ローラー1は、円筒状金型6を用いて、第一表層5a→第二表層5b→中間層4→弾性層3の順に層を形成することにより製造される。具体的には以下の通りである。なお、表層5は単一層であっても、同一組成の複層であっても良い。
【0049】
(1)界面活性剤、増膜剤および増粘剤の総含有量が1.0〜5.0wt%のフッ素樹脂ディスパージョンを円筒状金型6の内周面に塗布(例えばフローコート)し、円筒状金型を軸中心に回転させて乾燥させた後に、フッ素樹脂の融点以上の温度の高温下で(上限400℃)完全焼成し、第一表層(外側層)5a(厚み3〜10μmのフッ素樹脂層)を形成する。
【0050】
なお、界面活性剤としては、カチオン系とアニオン系等のイオン性と非イオン性(ノニオン性)があり、具体的にはイオン性としては親水基としてカルボン酸、スルホン酸あるいはリン酸構造等を有する陰イオン性や親水基にテトラアルキルアンモニウム等を有する陽イオン性を挙げることができ、ノニオン性としてはアルキルグルコシドのような低分子系やポリエチレングリコール等の高分子系等を挙げることができる。
【0051】
(2)次に、接着性、濡れ性、親水性の向上のために、第一表層5aの内周面側に内面処理(例えばプラズマ処理)を行う。
【0052】
(3)次に、界面活性剤、増膜剤および増粘剤を大幅に低減し、更にフィラーを含有するフッ素樹脂ディスパージョンを、第一表層5aの内周面に塗布(例えばフローコート)して乾燥させた後に、フッ素樹脂の融点以上の温度の高温下で(上限400℃)完全焼成し、第二表層(内側層)5b(厚み3〜10μmのフッ素樹脂層)を形成する。
【0053】
(4)次に、第二表層5bの内面処理(例えばプラズマ処理)を行う。また、必要に応じて表層の内面に接着層を形成する。
【0054】
(5)中間層を形成するケースにおいては、次に、種々の機能性ゴムを第二表層5bの内周面あるいは接着層の内面に塗布(例えばフローコート)し、円筒状金型6を軸中心に回転させて乾燥を行い、中間層4(厚み50〜150μm)を形成する。
【0055】
(6)次に、芯金2を、円筒状金型の中空内に円筒状金型と同軸にして挿入した後、中間層4と芯金2との間の隙間に発泡ゴムを注入して加硫することにより弾性層3(厚み1.5〜3.5mm)を形成する。
【0056】
(7)その後、OA機器用ローラー1を円筒状金型6から脱型する。
【0057】
表層5を複数層に形成する場合は、前記の二層には限られないが、最外層は、フィラーが含有されていないフッ素樹脂層が好ましく、最外層以外の層の内、少なくとも一層は、フィラーが含有されたフッ素樹脂層が好ましい。このようにすることにより、表層を形成する複数のフッ素樹脂層の内、最外層は、フィラーが含有されていないフッ素樹脂層であるので、より良好な柔軟性や離型性を確保することができ、しかも、最外層以外の層の内、少なくとも一層は、フィラーが含有されたフッ素樹脂層であるので、表層に導電性、熱伝導性、耐摩耗性、強度向上等の機能を付与することができる。このため、種々の特性に優れ、より高画質が得られるOA機器用ローラーを提供することができる。
【0058】
導電性を有するフィラーとしては、例えばC、Al等の金属粉、イオン塩等があり、熱伝導性及び耐摩耗性を有するフィラーとしては、例えばSiC、TiO、BN等がある。
【0059】
更に、弾性層3と表層5との間に中間層4を設けることにより、前記効果に加え、さらに種々のユーザーの要求仕様に対応できる。
【0060】
本実施の形態では、円筒状金型6を用いて作成されるOA機器用ローラーの製造方法およびOA機器用ローラーについて説明したが、本発明は短時間での焼成が可能になるので、円筒状金型6を用いず、ゴム層や中間層の表面にフッ素樹脂ディスパージョンを塗布した後、焼成を行う方法によっても、ゴム層の劣化を抑制しつつ薄い表層のOA機器用ローラーを作製することができる。
【実施例1】
【0061】
以下、実施例1に基づき、具体的に説明する。
【0062】
(1)表層(単一層タイプ)の形成
内径18mmφ、長さ257mmのステンレス(SUS)製の円筒状金型6の内面に、60vol%のPFAと、5wt以下%の界面活性剤が含有されたPFAディスパージョン(デュポン社製:EMX−047)を塗布し、次に室温で10分間、円筒状金型6を軸中心に回転させながら乾燥し、次に400℃で30分間加熱して完全焼成することにより、円筒状金型6の内周面上に厚み8μmの表層5を形成した。
【0063】
(2)表層の内周面への接着層の形成
次に、表層5の内面をプラズマ処理した後に、Siゴム用の接着剤(東レダウ社製:DY39−051)を表層5の内周面に塗布(フローコート)し、円筒状金型6を軸中心に回転させて120℃で15分間乾燥を行い、厚み1μm以下の接着層(図示せず)を形成した。
【0064】
(3)芯金表面への接着層の形成
次に、直径11mmφの鉄製の芯金2の表面にSiゴム用の接着剤(東レダウ社製:DY39−051)を塗布した後120℃で15分間乾燥して、厚みが1μm以下の接着層(図示せず)を形成した。
【0065】
(4)弾性層の形成
(イ)注型
次に、表面に接着層を形成した芯金2を円筒状金型6の中空内に挿入し、表層5と芯金2との間の隙間にSi発泡ゴム(バルーンゴム)(信越化学社製:X34−2061−28L)を注入した。
【0066】
(ロ)一次加硫
次に、160℃まで昇温して、15分間(昇温時間を含む)維持し、前記Si発泡ゴム(バルーンゴム)の一次加硫を行うことにより厚み3.5mmの弾性層3を形成した。
【0067】
(ハ)脱型
その後、OA機器用ローラー1を円筒状金型6から脱型したところ、円筒状金型6の内面に残留物は確認できなかった。表層5は完全焼成により形成でき、かつ表層5の厚みは8μmであった。
【0068】
(ニ)二次加硫
脱型後、OA機器用ローラー1を250℃まで昇温して、30分間(昇温時間を含む)維持して二次加硫を行った。
【0069】
(5)切断・仕上げ
次に、形成した各層の両端に近い部分を切除した後に清掃し、外観検査を行ってOA機器用ローラー1を作成した。
【0070】
本実施例においては、PFAディスパージョンは、界面活性剤の含有量が5wt%以下であり、増膜剤および増粘剤を含有しないため、円筒状金型への残留物の付着がなかった。
また、表層の厚さを8μmと薄くし、フィラーを添加しないフッ素樹脂層とすることによって、より良好な柔軟性を有し、また離型性にも優れ、さらに弾性層に焼成温度の影響を及ぼすことがないため、弾性層の劣化がないOA機器用ローラーを製造することができた。
【0071】
かかるOA機器用ローラーを、加圧ローラーとして評価したところ、所望の性能が得られ、各層間の接着性にも問題はなかった。このローラーを用いることにより、高画質を得ることができ、またフルカラー化や高速化にも対応でき、さらに耐久性にも優れることが確認された。
【実施例2】
【0072】
実施例2は、表層が同一組成の2層で構成された例である。そして、表層の構成および表層の厚さ以外については、実施例1と同じである。従って、実施例2におけるOA機器用ローラーの製造工程に関しては、表層の形成についてのみ記載する。
【0073】
表層の形成
(イ)第一表層(外側層)の形成
内径18mmφ、長さ257mmのステンレス製の円筒状金型6の内面に、60vol%のPFAと、5wt%以下の界面活性剤が含有されたPFAディスパージョン(デュポン社製:EMX−047)を塗布し、次に室温で10分間、円筒状金型6を軸中心に回転させながら乾燥し、次に400℃で30分間加熱して完全焼成することにより、円筒状金型6の内周面上に厚み6μmの第一表層5aを形成した。
【0074】
(ロ)第二表層(内側層)の形成
次に、第一表層5aの内面をプラズマ処理した後に、第一表層5aの内面に、前記PFAディスパージョン(デュポン社製:EMX−047)を塗布し、次に室温で10分間、円筒状金型6を軸中心に回転させながら乾燥し、次に400℃で30分間加熱して完全焼成することにより、第一表層5aの内周面上に厚み6μmの第二表層5bを形成した。
【0075】
本実施例においても、PFAディスパージョンは、界面活性剤の含有量が5wt%以下であり、増膜剤および増粘剤を含有しないため、実施例1と同様に、円筒状金型への残留物の付着がないことが確認された。
また、本実施例においては、第一表層と第二表層の厚さを共に6μmと薄くして、表層を複層としつつも表層の総厚を12μmと薄くしたことにより、良好な柔軟性を有し、また離型性にも優れ、さらに焼成温度の影響がないため弾性層の劣化がないOA機器用ローラーを製造することができた。
さらに、製造したOA機器用ローラーを加圧ローラーとして評価したところ、所望の性能が得られ、このローラーを用いることにより、実施例1と同様、高画質を得ることができ、またフルカラー化や高速化にも対応でき、さらに耐久性にも優れることが確認された。
【実施例3】
【0076】
実施例3は、中間層が設けられ、表層、中間層、弾性層に適度の導電性を付与した例である。具体的には表層の樹脂が導電PFAであり、表層に導電性を有するフィラーとしてカーボンが含有され、中間層と弾性層に導電性を有するSiゴムを用いることによって導電性が付与された例である。以下に詳細に説明する。
【0077】
(1)表層(単一層タイプ)の形成
内径12mmφ、長さ257mmのステンレス製の円筒状金型6の内面に、60vol%の導電PFA、フィラーとして焼成膜(表層)に対する重量比で2wt%のカーボン粉末および、5wt%以下の界面活性剤が含有されたPFAディスパージョン(デュポン社製:EMX−054−3)を塗布し、次に室温で10分間、円筒状金型6を軸中心に回転させながら乾燥し、次に400℃で30分間加熱して完全焼成することにより、円筒状金型6の内周面上に厚み8μmの表層5を形成した。
【0078】
(2)中間層の形成
次に、表層5の内面をプラズマ処理した後に、導電1液性Siゴム(Momenntive社製:XE16−B7702)を表層5の内周面に塗布(フローコート)し、円筒状金型6を軸中心に回転させて120℃で15分間乾燥を行い、厚み4μmの中間層4を形成した。
【0079】
(3)芯金表面への接着層の形成
次に、直径6mmφの鉄製の芯金2の表面にSiゴム用の接着剤(東レダウ社製:DY39−051)を塗布した後120℃で15分間乾燥して、厚みが1μm以下の接着層(図示せず)を形成した。
【0080】
(4)弾性層の形成
(イ)注型
次に、表面に接着層を形成した芯金2を円筒状金型6の中空内に挿入し、表層5と芯金2との間の隙間に導電Siゴム(信越化学社製:X34−2869)を注入した。
【0081】
(ロ)一次加硫
次に、160℃まで昇温して、15分間(昇温時間を含む)維持し、前記導電Siゴムの一次加硫を行うことにより厚み3mmの弾性層3を形成した。
【0082】
(ハ)脱型
その後、OA機器用ローラー1を円筒状金型6から脱型したところ、円筒状金型6の内面に分解物は確認できなかった。表層5は完全焼成により形成でき、かつ表層5の厚みは8μmであった。
【0083】
(ニ)二次加硫
脱型後、OA機器用ローラー1を250℃まで昇温して、30分間(昇温時間を含む)維持して二次加硫を行った。
【0084】
(5)切断・仕上げ
次に、形成した各層の両端に近い部分を切除した後に清掃し、外観検査を行ってOA機器用ローラー1を作製した。
【0085】
本実施例においても、PFAディスパージョンは、界面活性剤の含有量が5wt%以下であり、増膜剤および増粘剤を含有しないため、実施例1と同様に、円筒状金型への残留物の付着がないことが確認された。
また、表層の厚みを8μmと薄くしたことにより、良好な柔軟性を有し、また離型性にも優れ、さらに弾性層の劣化がないOA機器用ローラーを製造することができた。
さらに、表層、中間層、弾性層を共に導電性材料で構成し、また芯金の表面に形成された接着層が導電性を持つように1μm以下の極めて薄い層とすることにより、全ての層に導電性が付与されたOA機器用ローラーを製造することができた。
【0086】
かかるOA機器用ローラーを、帯電ローラーとして評価したところ、均一な帯電機能が得られ、このローラーを用いることにより高画質を得ることができ、またフルカラー化や高速化にも対応でき、さらに耐久性にも優れることが確認された。
【実施例4】
【0087】
実施例4は、耐久性、熱伝導性の機能が向上された例である。具体的には、表層が2層で構成され、第二表層にフィラーとして耐摩耗性および熱伝導性を向上させるために有効なSiCフィラーを添加することによって耐久性、熱伝導性が向上された例である。そして表層の材質および適用した円筒状金型の内径、および弾性層の厚さが実施例2と異なる以外は実施例2と同じである。従って、実施例4におけるOA機器用ローラーの製造工程に関しては、表層の形成、弾性層の形成についてのみ記載する。
【0088】
(1)表層の形成
(イ)第一表層(外側層)の形成
内径14mmφ、長さ257mmのステンレス製の円筒状金型6の内面に、60vol%の導電PFAと、5wt%以下の界面活性剤が含有されたPFAディスパージョン(デュポン社製:EMX−047)を塗布し、次に室温で10分間、円筒状金型6を軸中心に回転させながら乾燥し、次に400℃で30分間加熱して完全焼成することにより、円筒状金型6の内周面上に厚み6μmの第一表層5aを形成した。
【0089】
(ロ)第二表層(内側層)の形成
次に、第一表層5aの内面をプラズマ処理した後に、第一表層5aの内面に、60vol%の導電PFA、焼成膜(第二表層)に対する体積比で14.5vol%のSiCフィラーおよび、5wt%以下の界面活性剤が含有されたPFAディスパージョンPFAディスパージョン(デュポン社製:EMX−041−2)を塗布し、次に室温で10分間、円筒状金型6を軸中心に回転させながら乾燥し、次に400℃で30分間加熱して完全焼成することにより、第一表層5aの内周面上に厚み6μmの第二表層5bを形成した。
【0090】
(2)弾性層の形成
実施例1における弾性層の形成と同様に、表面に接着層を形成した芯金2を円筒状金型の中空内に挿入し、表層5と芯金2との間の隙間にSi発泡ゴム(バルーンゴム)(信越化学社製:X34−2061−28L)を注入した後、160℃まで昇温して、15分間(昇温時間を含む)維持し、一次加硫を行うことにより厚み1.5mmの弾性層3を形成した。
【0091】
本実施例においても、PFAディスパージョンは、界面活性剤の含有量が5wt%以下であり、増膜剤および増粘剤を含有しないため、実施例1と同様に、円筒状金型への残留物の付着がないことが確認された。
また、第一表層と第二表層の厚みを共に6μmと薄くして、表層を複層としつつも表層の総厚を12μmと薄くしたことにより、良好な柔軟性を有し、また離型性にも優れ、弾性層の劣化がないOA機器用ローラーを製造することができた。
さらに、表層を複層とし、第二表層を熱伝導性や耐摩耗性を向上させるのに有効なSiCフィラーが含有されているフッ素樹脂で構成したため、熱伝導性や耐久性により優れるOA機器用ローラーを製造することができた。
【実施例5】
【0092】
実施例5は熱伝導性を向上させた例である。具体的には高熱伝導Siゴム製の中間層を設けることによって熱伝導性が向上された例である。そして中間層を設けた点が相違する以外は実施例4と構成が同じである。従って、実施例5におけるOA機器用ローラーの製造工程に関しては、中間層の形成についてのみ記載する。
【0093】
中間層の形成
第二表層5bの内面をプラズマ処理した後に、高熱伝導Siゴム(信越化学社製:X32−2020)をトルエンで希釈し、第二表層5bの内周面に塗布(フローコート)し、円筒状金型6を軸中心に回転させて120℃で15分間乾燥を行い、厚み100μmの中間層4を形成した。
【0094】
本実施例においても、PFAディスパージョンは、界面活性剤の含有量が5wt%以下であり、増膜剤および増粘剤を含有しないため、実施例1と同様に、円筒状金型への残留物の付着がないことが確認された。
また、第一表層と第二表層の厚さを共に6μmと薄くして、表層を複層としつつも表層の総厚を12μmと薄くしたことにより、良好な柔軟性を有し、また離型性にも優れ、弾性層の劣化がないOA機器用ローラーを製造することができた。
さらに、第二表層を熱伝導性や耐摩耗性に優れたSiCフィラーが含有されているフッ素樹脂で構成し、高熱伝導Siゴム製の中間層を設けることにより、一層熱伝導性に優れ、かつ耐久性に優れるOA機器用ローラーを製造することができた。
【0095】
以上記載した各実施例の諸元および各実施例に係るOA機器用ローラーの評価結果を表1にまとめて示す。
【0096】
【表1】

表1中 <1は、1以下であることを示す。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の一実施形態に係るOA機器用ローラーを模式的に示す図であって、(イ)は軸と直角方向の断面図であり、(ロ)は斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るOA機器用ローラーの製造方法を模式的に示す斜視図である。
【符号の説明】
【0098】
1 OA機器用ローラー
2 芯金
3 弾性層
4 中間層
5 表層
5a 第一表層(外側層)
5b 第二表層(内側層)
6 円筒状金型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯金上に、順に、弾性層、表層が形成されたOA機器用ローラーの製造方法であって、
前記表層は、フッ素樹脂ディスパージョンを用いて形成され、
前記フッ素樹脂ディスパージョン中の界面活性剤、増膜剤および増粘剤の総含有量が、1.0〜5.0wt%であることを特徴とするOA機器用ローラーの製造方法。
【請求項2】
前記フッ素樹脂ディスパージョン中の前記増膜剤および増粘剤の含有量がそれぞれ1wt%以下であることを特徴とする請求項1に記載のOA機器用ローラーの製造方法。
【請求項3】
前記フッ素樹脂ディスパージョンには、実質的に前記増膜剤および増粘剤が含有されていないことを特徴とする請求項2に記載のOA機器用ローラーの製造方法。
【請求項4】
前記表層のフッ素樹脂はPFA、PTFE、FEPの内の少なくとも一種であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のOA機器用ローラーの製造方法。
【請求項5】
前記表層は、フッ素樹脂層の単一層からなり、厚みは3〜15μmであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のOA機器用ローラーの製造方法。
【請求項6】
前記表層は、複数のフッ素樹脂層からなり、各層の厚みは3〜15μmであり、総厚は6〜30μmであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のOA機器用ローラーの製造方法。
【請求項7】
円筒状金型の内面に前記フッ素樹脂ディスパージョンを塗布し、焼成することにより、前記フッ素樹脂層からなる表層を形成し、次いで、円筒状金型の中空内に芯金を挿入した後に、前記表層と芯金との間の隙間に弾性層形成用材料を注入して弾性層を形成し、前記芯金上に弾性層、表層が形成されてなるOA機器用ローラーを円筒状金型より引抜くことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のOA機器用ローラーの製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載のOA機器用ローラーの製造方法により製造されたことを特徴とするOA機器用ローラー。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−154461(P2009−154461A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−336959(P2007−336959)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(599109906)住友電工ファインポリマー株式会社 (203)
【Fターム(参考)】