説明

PLL回路

【課題】 ループゲインを大きくすることができ、ループ利得が上がらない場合でも、ロック時の位相ノイズを良化できるPLL回路を提供する。
【解決手段】 入力端子1からの基準周波数を第1,3の分周器2,9で分周し、VCO8からの出力と発振器13からの出力をミキサ14で合成し、MCF15aで周波数を選択して、第2,4の分周器3,10で分周し、第1,第2の分周器2,3からの出力を位相比較器4で位相比較し、LPF5で平滑化し、第3,第4の分周器9,10からの出力を位相進み/遅れ検出器11で位相の進み又は遅れを検出し、積分器12で積分して電圧を出力し、加算器6でLPF5からの出力と積分器12からの出力を加算してVCO8に出力し、MCF15aからの出力を増幅器16で増幅して出力端子17に出力し、基準周波数に対して発振器13での周波数を調整するPLL回路である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PLL(Phase Locked Loop:位相ロックド・ループ)回路に係り、特に、既存の発振器と安価なAT−CUT水晶振動子を用いて、ループ利得が上がらない場合にもロック時の位相ノイズを良化できるPLL回路に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、PLLの位相比較周波数は、ロック時の位相位置を一定にするために、同じ周波数を使用する。
しかしながら、基準周波数と電圧制御発振器の周波数が異なる場合は、両周波数を分周して、位相比較周波数を一致させる必要がある。
【0003】
例えば、基準周波数が5.0MHzであって、電圧制御発振器の周波数が7.68MHzであるときは、両周波数の一致周波数は、40kHzとなる。すなわち、基準周波数の位相比較周波数=基準周波数/125、電圧制御発振器の周波数の位相比較周波数=電圧制御発振器の周波数/192となる。
【0004】
一般的なPLLのループゲインK[rad]、位相比較の感度Kd[V/rad]、電圧制御発振器の制御感度Kv[rad/V]、増幅器の増幅度をG[倍]とすると、ループゲインKは、以下の式で表される。
K=Kd*Kv*G
【0005】
ここで、具体例として、以下に設計条件を定めて、ループゲインKを算出してみる。
設計条件としては、電源電圧Vcc:3.3V、基準周波数fref:5.0MHz、出力周波数fout:7.68MHz、電圧制御発振器の制御感度:7.68MHz±150ppm/1.65V±1.5V、位相比較器(PFD:Phase Frequency Detector)の感度Kd:4π[V/rad]、位相比較周波数:40kHzとする。
【0006】
上記条件から、ループゲインKは、
K=Kd*Kv*G
=(3.3V/4π)*(2π*40kHz*150ppm/1.5V)*G
PLLの出力周波数の位相ノイズは、位相比較周波数に依存して、ループゲインが大きいと基準周波数に近づき、ループゲインが小さいと電圧制御発振器の発振周波数に近づく。
【0007】
そのため、基準周波数の位相ノイズが、出力周波数よりよい場合には、ループゲインを大きくすることになるが、上記の設計例では、Gの値を大きくする以外にループゲインを大きくすることができず、設計に自由度を持たせることができないという問題点があった。
【0008】
また、周波数の位相ノイズは、周波数の分周、逓倍によって、「20log周波数比」で変わり、分周によって良くなり、逓倍によって悪くなる。すなわち、位相比較周波数の位相ノイズを基準として20log(5MHz/40kHz)=41.9dbcは良くなるはずであるが、基準周波数の位相ノイズがもともと良い場合は、例えば、−95dbc/Hzであったとすると、−(95+41.9)=−136.9dbc/Hzとなるが、実際には、電源やグランドからのノイズや、分周時のクロックスキュー(素子を介することによるクロックのみだれ)の影響でよく分からないものとなる。
【0009】
逆に、位相比較周波数の位相ノイズを基準として出力周波数側の7.68MHzは、20log(40kHz/7.68MHz)=−45.6dbc/Hzは悪化することになるが、実際は、位相比較周波数の位相ノイズ自体が悪化しているので、更に悪化することになるという問題点があった。
【0010】
[先行技術1:図9]
尚、位相同期回路において、常温位相誤差を減少させるために、特公昭63−19094号公報記載の「位相同期回路」がある(特許文献1)。
その構成は、図9に示すように、2つの位相比較器(PC:Phase Comparator)31,32と、積分器(INT)33と、ローパスフィルタ(LPF:Low Pass Filter)34と、加算器(ADD)35と、電圧制御発振器(VCO)36と、1/N分周器(DV)37とを備えている。
図9は、従来の位相同期回路のブロック図である。
【0011】
図9の位相同期回路は、2つの位相比較器は31,32、入力信号(IN)と1/N分周器37からの分周信号を共に入力し、位相比較結果を出力する。一方の位相比較器31の出力は、積分器33で定常位相誤差を補正するために積分され、他方の位相比較器32の出力は、LPF34で平滑化され、積分器33からの出力とLPF32からの出力が加算器35で加算され、加算結果がVCO36の制御電圧となって、VCO36で発振がなされ、出力端子(OUT)に出力される。また、VCO36の出力を分岐して1/N分周器37に入力し、1/N分周して位相比較器31,32に出力する。
【0012】
[先行技術2:図10]
また、PLL回路において、分周比が大きいとループゲインが低くなり、位相ノイズが悪化するのを防止するために、特開平10−75175号公報「PLL回路」がある(特許文献2)。
その構成は、図10に示すように、VCO41と、周波数変換器42と、メインカウンタ43と、位相比較器44と、基準発振器(TCXO:Temperature Compensated Crystal Oscillator:温度補償水晶発振器)45と、リファレンスカウンタ46と、チャージポンプ47と、LPF48とを備えている。
図10は、従来のPLL回路の構成ブロック図である。
【0013】
図10のPLL回路は、VCO41で生成される発振周波数を周波数変換器42で7/8の周波数に変換し、メインカウンタ43で1/85に分周し、TCXO45で生成される基準周波数をリファレンスカウンタ46で1/8に分周する。両カウンタで分周された周波数が位相比較器44に入力され、チャージポンプ47及びLPF48を介してVCO41の制御電圧として入力される。
【0014】
【特許文献1】特公昭63−19094号公報
【特許文献2】特開平10−75175号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、顧客の要求に応じて、高安定なPLL回路を提供するには、上記従来の位相ノイズ低減の技術では十分に対応できず、そのため、高価なSC−CUT水晶振動子を用いて、その要求に応じたOCXOをその都度開発しなければならず、コスト高になるという問題点があった。
【0016】
尚、SC−CUT(Stress Compensation-cut)水晶振動子とは、ダブル回転水晶振動子であり、SCはストレス補正型を意味し、平面ストレス効果及び、熱過度電流に起因する特性を補正したものである。その優れた周波数・温度特性は、OCXOへの組み込みに最適である。
【0017】
また、上記従来のPLL回路では、基準入力と出力信号を帰還する従属側の信号とで位相比較周波数が低くなりすぎで、ループ利得が上がらない場合には、ロック時の位相ノイズが充分良化できないという問題点があり、また、温度に対する引き込み範囲が変化するという問題点があった。
【0018】
本発明は上記実状に鑑みて為されたものであり、ループゲインを大きくすることができ、位相の進み/遅れに応じてロックを維持でき、ループ利得が上がらない場合でも、ロック時の位相ノイズを良化できるPLL回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記従来例の問題点を解決するための本発明は、PLL回路において、基準周波数を入力する入力端子と、入力電圧に応じて周波数を出力する電圧制御発振器と、入力電圧を増幅する第1の増幅器と、基準周波数を分周する第1の分周器と、電圧制御発振器からの出力を分周する第2の分周器と、第1の分周器からの出力と第2の分周器からの出力を入力し、位相比較を行う位相比較器と、位相比較器からの出力を平滑化するローパスフィルタと、基準周波数を分周する第3の分周器と、特定の周波数を発振する発振器と、電圧制御発振器からの出力と発振器からの出力を合成する第1の合成器と、第1の合成器からの出力を帯域制限する第1のフィルタと、第1のフィルタからの出力を分周する第4の分周器と、第3の分周器からの出力と第4の分周器からの出力を入力し、位相の進み又は遅れを検出する位相進み/遅れ検出器と、位相進み/遅れ検出器からの出力を積分し、電圧を出力する積分器と、ローパスフィルタからの出力と積分器からの出力を加算する加算器と、第1のフィルタからの出力を増幅して出力端子に出力する第2の増幅器とを有し、第3の分周器の出力と第4の分周器の出力は、同じ周波数となるまで各分周器で分周を行うよう設定され、基準周波数を第1の分周器で分周した値と第1のフィルタから出力される周波数を第2の分周器で分周した値とが等しくなるように発振器で発振する特定の周波数を調整することを特徴とする。
【0020】
本発明は、上記PLL回路において、第1の合成器からの出力を分岐して入力し、帯域制限する第2のフィルタを有し、第2の増幅器が、第1のフィルタからの出力を入力するのではなく、第2のフィルタからの出力を入力して増幅することを特徴とする。
【0021】
本発明は、上記PLL回路において、発振器からの出力を分岐して入力し、第1のフィルタからの出力と合成する第2の合成器と、第2の合成器からの出力を帯域制限する第2のフィルタとを有し、第2の増幅器が、第1のフィルタからの出力を入力するのではなく、第2のフィルタからの出力を入力して増幅し、第1のフィルタの特性と第2のフィルタの特性を異なるようにしたことを特徴とする。
【0022】
本発明は、上記PLL回路において、電圧制御発振器から出力される周波数の温度特性に対して発振器から発振される特定の周波数の温度特性を同じに設定したことを特徴とする。
【0023】
本発明は、上記PLL回路において、発振器の代わりに、特定の基準周波数を発振する恒温槽付水晶発振器を有し、恒温槽付水晶発振器からの基準周波数が入力端子と第1の合成器に入力されることを特徴とする。
【0024】
本発明は、上記PLL回路において、位相進み/遅れ検出器の代わりに、第3の分周器からの出力と第4の分周器からの出力を入力し、位相の進み又は遅れを検出し、検出結果を三値で出力する位相周波数検出器を有し、積分器の代わりに、位相周波数検出器からの出力を平滑化して、電圧を出力する第2のローパスフィルタを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、基準周波数を入力する入力端子と、入力電圧に応じて周波数を出力する電圧制御発振器と、入力電圧を増幅する第1の増幅器と、基準周波数を分周する第1の分周器と、電圧制御発振器からの出力を分周する第2の分周器と、第1の分周器からの出力と第2の分周器からの出力を入力し、位相比較を行う位相比較器と、位相比較器からの出力を平滑化するローパスフィルタと、基準周波数を分周する第3の分周器と、特定の周波数を発振する発振器と、電圧制御発振器からの出力と発振器からの出力を合成する第1の合成器と、第1の合成器からの出力を帯域制限する第1のフィルタと、第1のフィルタからの出力を分周する第4の分周器と、第3の分周器からの出力と第4の分周器からの出力を入力し、位相の進み又は遅れを検出する位相進み/遅れ検出器と、位相進み/遅れ検出器からの出力を積分し、電圧を出力する積分器と、ローパスフィルタからの出力と積分器からの出力を加算する加算器と、第1のフィルタからの出力を増幅して出力端子に出力する第2の増幅器とを有し、第3の分周器の出力と第4の分周器の出力は、同じ周波数となるまで各分周器で分周を行うよう設定され、基準周波数を第1の分周器で分周した値と第1のフィルタから出力される周波数を第2の分周器で分周した値とが等しくなるように発振器で発振する特定の周波数を調整するPLL回路としているので、ループゲインを大きくすることができ、位相ノイズを良化でき、位相の進み/遅れに応じてロックを維持できる効果がある。
【0026】
本発明によれば、第1の合成器からの出力を分岐して入力し、帯域制限する第2のフィルタを有し、第2の増幅器が、第1のフィルタからの出力を入力するのではなく、第2のフィルタからの出力を入力して増幅する上記PLL回路としているので、PLLの従属周波数の信号と出力端子への出力信号を独立させることができ、お互いの影響を小さくできる効果がある。
【0027】
本発明によれば、発振器からの出力を分岐して入力し、第1のフィルタからの出力と合成する第2の合成器と、第2の合成器からの出力を帯域制限する第2のフィルタとを有し、第2の増幅器が、第1のフィルタからの出力を入力するのではなく、第2のフィルタからの出力を入力して増幅し、第1のフィルタの特性と第2のフィルタの特性を異なるようにした上記PLL回路としているので、電圧制御発振器の出力を出力端子から出力できる効果がある。
【0028】
本発明によれば、電圧制御発振器から出力される周波数の温度特性に対して発振器から発振される特定の周波数の温度特性を同じに設定した上記PLL回路としているので、温度変動分をキャンセルできる効果がある。
【0029】
本発明によれば、発振器の代わりに、特定の基準周波数を発振する恒温槽付水晶発振器を有し、恒温槽付水晶発振器からの基準周波数が入力端子と第1の合成器に入力される上記PLL回路としているので、入力信号の周波数及び従属周波数が安定したものにできる効果がある。
【0030】
本発明によれば、位相進み/遅れ検出器の代わりに、第3の分周器からの出力と第4の分周器からの出力を入力し、位相の進み又は遅れを検出し、検出結果を三値で出力する位相周波数検出器を有し、積分器の代わりに、位相周波数検出器からの出力を平滑化して、電圧を出力する第2のローパスフィルタを有する上記PLL回路としているので、ループゲインを大きくすることができ、位相ノイズを良化でき、第2のローパスフィルタの定数値が大きくならず、位相ノイズ特性を改善でき、位相の進み/遅れに応じてロックを維持できる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
[実施の形態の概略]
本発明の実施の形態に係るPLL回路は、入力端子からの基準周波数を第1,3の分周器で分周し、電圧制御発振器(VCO:Voltage Controlled Oscillator)からの出力と発振器からの出力をミキサで合成し、水晶フィルタで周波数を選択して、第2,4の分周器で分周し、第1の分周器と第2の分周器からの出力を位相比較器で位相比較し、位相比較結果をローパスフィルタで平滑化し、第3の分周器と第4の分周器からの出力を位相進み/遅れ検出器で位相の進み又は遅れを検出し、当該検出結果を積分器で積分して電圧を出力し、加算器でローパスフィルタからの出力と積分器からの出力を加算してVCOに出力し、更に水晶フィルタからの出力を第2の増幅器で増幅して出力端子に出力するものであり、ループゲインを大きくすることができ、第3の分周器の出力と第4の分周器の出力は、同じ周波数となるまで各分周器で分周を行うようにし、基準周波数を第1の分周器で分周した値と第1のフィルタから出力される周波数を第2の分周器で分周した値とが等しくなるように発振器で発振する特定の周波数を調整するようにしているので、位相の進み/遅れに応じてロックを維持できるものであり、更に、ループ利得が上がらない場合でも、ロック時の位相ノイズを良化できる。
【0032】
尚、位相比較周波数となる基準周波数を位相ノイズが−125dbc/Hzより下回らない分周数又は分周なしとする。電圧制御発振器の分周後の位相比較周波数は同じではなく、両位相比較周波数間で最大公約数が求められる周波数の組み合わせとする。
位相比較器は、EX−OR(Exclusive OR)又はR−S(Reset Set Flip-Flop)式を用いて、その出力をLPF(Low Pass Filter)により平滑化する。
【0033】
[第1の実施の形態:図1]
本発明の第1の実施の形態に係るPLL回路(第1のPLL回路)について図1を参照しながら説明する。図1は、第1のPLL回路の構成ブロック図である。
第1のPLL回路は、図1に示すように、入力端子1と、第1の分周器2と、第2の分周器3と、位相比較器(PC)4と、LPF5と、加算器6と、第1の増幅器7と、VCO8と、第3の分周器9と、第4の分周器10と、位相進み/遅れ検出器11と、積分器12と、発振器13と、ミキサ(MIX)14と、水晶フィルタ(MCF:Monolithic Crystal Filter)15と、第2の増幅器16と、出力端子17とから構成されている。
【0034】
[第1のPLL回路の各部]
以下、第1のPLL回路の各部を説明する。
入力端子1は、基準周波数を入力する端子である。ここで、基準周波数をFrとする。
第1の分周器2は、入力端子1からの基準周波数の信号を入力し、周波数の分周を行う分周器である。ここで、第1の分周器2の分周数をN1とする。
第2の分周器3は、MCF11からの信号を分岐して入力し、周波数の分周を行う分周器である。ここで、第2の分周器3の分周数をN2とする。
【0035】
ここで、第1の分周器2と第2の分周器3の出力周波数は、最大公約数があれば同じである必要はなく、最大公約数で求められる周波数より高い周波数とするものである。これにより、ループゲインを大きくすることができ、位相ノイズを基準周波数により近づけることが可能となる。
【0036】
位相比較器4は、第1の分周器2からの出力と第2の分周器3からの出力を入力し、両者の位相比較を行い、比較結果を出力する位相比較器である。
LPF5は、位相比較器4からの出力を入力し、低周波帯域の周波数信号を通過させるものであり、第1の分周器2と第2の分周器3との位相差に比例する電圧を生成して出力するものである。
【0037】
加算器6は、LPF5からの出力と積分器12からの出力を加算するものである。
第1の増幅器7は、加算器6からの出力を増幅してVCO8の制御電圧を出力するものである。
【0038】
VCO8は、安価なAT−CUT水晶振動子を備えた電圧制御発振器であり、第1の増幅器7からの制御電圧によってPLLとしてロックを維持するよう動作するものである。
ここで、VCO8の出力周波数をFoとする。
尚、AT−CUT水晶振動子は、主面がX軸に平行で、Z軸から約35°、r面から約−3°傾いた水晶片を用いたものである。
【0039】
第3の分周器9は、入力端子1からの基準周波数を入力して分周を行う分周器である。ここで、第3の分周器9の分周数をN3とする。
第4の分周器10は、MCF11の出力を分岐して入力し、分周を行う分周器である。ここで、第4の分周器10の分周数をN4とする。
尚、第3の分周器の出力と第4の分周器の出力は、同じ周波数となるまで分周を行うよう設定されている。
【0040】
位相進み/遅れ検出器11は、第3の分周器9の立ち上がりを起点として、第4の分周器10の立ち上がり位相位置が、進んでいれば論理Lowレベルを出力し、遅れていれば論理Highレベルを出力する論理回路である。よって、位相進み/遅れ検出器11の回路構成は、簡単な論理回路で実現できる。
積分器12は、位相進み/遅れ検出器11の出力を積分して定電圧を出力する回路である。
【0041】
尚、温度変化によってVCO8の出力周波数が変動しても、発振器9も同様の温度特性を持たせるようにすることで、発振器9の出力周波数も同様に変動して、ロックを維持するために、位相比較器4への入力位相位置が適正に変化することになる。
【0042】
積分器12の出力は、ロック時に位相がずれるのを防止して、位相位置を一定に保つ動作をするが、基準周波数の変動量/秒に対応して、第3の分周器9と第4の分周器10からの出力周波数と積分器12の積分量を定めれば、位相位置変動時に元の位相位置への戻り時間を最短にすることができる。また、位相ノイズ特性も積分器12の出力に影響を与えるが、ループゲインによらずに積分時間の調整で改善することができる。
【0043】
つまり、積分器12の積分量若しくは積分時間を少なくすれば、戻り時間を早くすることが可能であるが、安定性を犠牲にするものであり、積分量若しくは積分時間を多くすれば、安定して位相ノイズも改善できるが、戻り時間を早くできないものである。
理想的には、積分量若しくは積分時間を多くして重い特性とする方がよいが、戻り時間を勘案して積分量若しくは積分時間を設定することになる。
【0044】
発振器13は、固定発振器で、発振周波数をMIX14に出力する。
ここで、出力周波数をFfとする。
MIX14は、VCO8からの出力周波数と発振器13からの出力周波数を入力し、両方の周波数を合成する。
MIX14からの出力は、Fo±Ffとなる。
【0045】
MCF15は、水晶フィルタであり、MIX14からの出力から+Ffの周波数成分を除去して(この場合、MCFはローパスフィルタである)、若しくは、−Ffの周波数成分を除去して(この場合、MCFはハイパスフィルタである)、第2の増幅器16と第2の分周器3に出力するものである。
ここでは、MCF15をローパスフィルタとして、+Ffの周波数成分を除去して、Fo−Ffの周波数を出力するようにしている。
第2の増幅器16は、MCF15からの出力を分岐して入力し、増幅して出力端子17に出力する。
【0046】
従って、Fr/N1=(Fo−Ff)/N2を満たすようなFfの値を選択して、発振器13に周波数Ffを発振させるようにする。これにより、位相比較周波数を低くしないと一致しない場合に、位相比較周波数を高くするための基準入力信号(基準周波数Fo)と(従属周波数[VCO8の出力周波数Fr]−第3の周波数[周波数成分Ff])で位相周波数を一致させて、つまり、基準周波数を位相周波数で割りきれる値にして、ループ利得を上げて位相ノイズを良化させるものである。
【0047】
ここで、Foの温度特性を同じ温度特性を持つFfを選択すれば、(Fo−Ff)は一定となり、温度変動分をキャンセルできる効果がある。
また、周波数の組み合わせの選択度が増し、第2の増幅器16の選択度が増え、回路設計に余裕を持つことができる効果がある。
【0048】
[第2の実施の形態:図2]
次に、本発明の第2の実施の形態に係るPLL回路(第2のPLL回路)について図2を参照しながら説明する。図2は、第2のPLL回路の構成ブロック図である。
第2のPLL回路は、図2に示すように、第1のPLL回路とほぼ同様であるが、相違する点は、第1のMCF15aと第2のMCF15bを設けている。
具体的には、MIX14からの出力を分岐して第1のMCF15aと第2のMCF15bに出力し、第1のMCF15aからの出力を第2の分周器3及び第4の分周器10に出力し、第2のMCF15bからの出力を第2の増幅器16に出力する。
【0049】
このように、第1のPLL回路では1つのMCF15を用いていたが、第2のPLL回路では、2つのMCFを用いることで、各々特性を変えることが可能となる。
例えば、MIX14からの出力周波数はFo±Ffであるから、第1のMCF15aはローパスフィルタとし、Fo−Ffの周波数を通過させ、第2のMCF15bはハイパスフィルタとし、Fo+Ffの周波数を通過させる。
これにより、PLLの従属周波数の信号と出力端子17への出力信号を独立させることができ、お互いの影響を小さくできる効果がある。
【0050】
[第3の実施の形態:図3]
次に、本発明の第3の実施の形態に係るPLL回路(第3のPLL回路)について図3を参照しながら説明する。図3は、第3のPLL回路の構成ブロック図である。
第3のPLL回路は、図3に示すように、第1のPLL回路とほぼ同様であるが、相違する点は、第1のMIX14aと、第2のMIX14bと、第1のMCF15aと、第2のMCF15bとを備えている。
【0051】
具体的には、発振器13からの出力を分岐して第1のMIX14aと第2のMIX14bに出力し、更に第1のMIX14aではVCO8からの信号と発振器13からの信号を合成して第1のMCF15aに出力し、第2のMIX14bでは発振器13からの信号と第1のMCF15aからの信号を合成して第2のMCF15bに出力する。
更に、第1のMCF15aでは第1のMIX14aからの信号を帯域制限して第2の分周器3と第4の分周器10に出力し、第2のMCF15bでは第2のMIX14bからの信号を帯域制限して第2の増幅器16に出力する。
【0052】
ここで、第1のMCF15aと第2のMCF15bとは第2のPLL回路と同様に、異なる特性のものを使用する。
つまり、VCO8の出力周波数はFoで、発振器13の出力周波数Ffであるから、第1のMIX14aからの出力周波数はFo±Ffとなる。
第1のMCF15aをローパスフィルタとすると、第1のMCF15aの出力周波数はFo−Ffとなり、第2のMIX14bで周波数成分Ffを合成すると、出力周波数は(Fo−Ff)±Ffとなる。第2のMCF15bがハイパスフィルタとすると、周波数成分(Fo−Ff)+Ffが残り、周波数Foが第2のMCF15bから第2の増幅器16に入力される。
【0053】
また、第1のMCF15aをハイパスフィルタとすると、第1のMCF15aの出力周波数はFo+Ffとなり、第2のMIX14bで周波数成分Ffを合成すると、出力周波数は(Fo+Ff)±Ffとなる。第2のMCF15bがローパスフィルタとすると、周波数成分(Fo+Ff)−Ffが残り、周波数Foが第2のMCF15bから第2の増幅器16に入力される。
これにより、第2のMCF15bからの出力周波数は、VCO8の出力周波数Foと同じものを出力端子17から得ることができる。
【0054】
[第4の実施の形態:図4]
次に、本発明の第4の実施の形態に係るPLL回路(第4のPLL回路)について図4を参照しながら説明する。図4は、第4のPLL回路の構成ブロック図である。
第4のPLL回路は、図4に示すように、第1のPLL回路とほぼ同様であるが、相違する点は、発振器13を取り除き、代わりにOCXO(Oven Controlled Crystal Oscillator:恒温槽付水晶発振器)20を設け、OCXO20の基準信号を入力端子1とMIX14に入力している。
これにより、入力信号の周波数及び従属周波数が安定したものにできる効果がある。
尚、OCXO20を図2,3の第2,3のPLL回路に適用してもよい。
【0055】
[応用例]
次に、第1〜4のPLL回路において、位相進み/遅れ検出器11及び積分器12の代わりに位相周波数検出器(PFD)及びローパスフィルタ(LPF)を用いる応用例を説明する。
【0056】
位相周波数検出器(PFD:Phase Frequency Detector)は、第3の分周器9からの出力信号の立ち上がりエッジで、当該出力信号と第4の分周器10からの出力信号との位相差を検出し、位相の進み/遅れを三値で出力する。
【0057】
LPFは、PFDからの位相差を平滑化して加算器6に出力する。
PFDから位相の進み/遅れ結果が三値で出力されるので、LPFの定数値が大きくならない。
また、位相ノイズ特性は、PFDへの入力周波数を低くすれば、改善できる。
LPFにおける時定数を調整すれば、積分器12における積分量若しくは積分時間を調整したのと同様に、安定性と反応性のバランスを図ることができる。
【0058】
尚、上記各部の具体的回路は、分周器がフリップフロップ又はプログラムカウンターを、位相比較器、LPF、加算器、位相進み/遅れ検出器、積分器がオペアンプを用いて実現している。
【0059】
[LPFの構成:図5,6]
例えば、LPFの具体的な構成は、図5又は図6のようになる。図5は、LPFの回路図であり、図6は、オペアンプを用いたLPFの回路図である。
【0060】
[PFDの構成・タイムチャート:図7,8]
また、PFD21の具体的な構成は、図7のようになる。図7は、PFDの回路図である。PFDのICの入力Rには、第3の分周器9からの出力が入力され、ICの入力Oi-3 には、図8に示すような、第4の分周器10からの三値(O1-3 )が入力されるものである。図8は、ICへの入力のタイムチャートを示す図である。
【0061】
[実施の形態の効果]
第1〜第3のPLL回路によれば、ループゲインを大きくすることができ、位相の進み/遅れに応じてロックを維持でき、位相ノイズを良化できる効果がある。
【0062】
また、第2のPLL回路によれば、第2の増幅器16が、第2のMCF15bからの出力を入力して増幅するようにしているので、PLLの従属周波数の信号と出力端子への出力信号を独立させることができ、お互いの影響を小さくできる効果がある。
【0063】
また、第3のPLL回路によれば、第2の増幅器16が、第2のMCF15bからの出力を入力して増幅し、第1のMCF15aの特性と第2のMCF15bの特性を異なるようにしているので、電圧制御発振器の出力を出力端子から出力できる効果がある。
【0064】
また、第4のPLL回路によれば、OCXO20の基準信号を入力端子1とMIX14に入力しているので、入力信号の周波数及び従属周波数が安定したものにできる効果がある。
【0065】
また、応用例のPLL回路によれば、位相進み/遅れ検出器11及び積分器12の代わりにPFD及びLPF(第2のLPF)を用いているので、第2のLPFの定数値が大きくならず、位相ノイズ特性を改善できる効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、ループゲインを大きくすることができ、位相の進み/遅れに応じてロックを維持でき、ループ利得が上がらない場合でも、ロック時の位相ノイズを良化できるPLL回路に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】第1のPLL回路の構成ブロック図である。
【図2】第2のPLL回路の構成ブロック図である。
【図3】第3のPLL回路の構成ブロック図である。
【図4】第4のPLL回路の構成ブロック図である。
【図5】LPFの回路図である。
【図6】オペアンプを用いたLPFの回路図である。
【図7】PFDの回路図である。
【図8】ICへの入力のタイムチャートを示す図である。
【図9】従来の位相同期回路のブロック図である。
【図10】従来のPLL回路の構成ブロック図である。
【符号の説明】
【0068】
1…入力端子、 2…第1の分周器、 3…第2の分周器、 4…位相比較器、 5…LPF、 6…加算器、 7…第1の増幅器、 8…VCXO、 9…第3の分周器、 10…第4の分周器、 11…位相進み/遅れ検出器、 12…積分器、 13…発振器、 14…ミキサ(MIX)、 15…水晶フィルタ(MCF)、 16…第2の増幅器、 17…出力端子、 20…OCXO

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準周波数を入力する入力端子と、
入力電圧に応じて周波数を出力する電圧制御発振器と、
前記入力電圧を増幅する第1の増幅器と、
前記基準周波数を分周する第1の分周器と、
前記電圧制御発振器からの出力を分周する第2の分周器と、
前記第1の分周器からの出力と前記第2の分周器からの出力を入力し、位相比較を行う位相比較器と、
前記位相比較器からの出力を平滑化するローパスフィルタと、
前記基準周波数を分周する第3の分周器と、
特定の周波数を発振する発振器と、
前記電圧制御発振器からの出力と前記発振器からの出力を合成する第1の合成器と、
前記第1の合成器からの出力を帯域制限する第1のフィルタと、
前記第1のフィルタからの出力を分周する第4の分周器と、
前記第3の分周器からの出力と前記第4の分周器からの出力を入力し、位相の進み又は遅れを検出する位相進み/遅れ検出器と、
前記位相進み/遅れ検出器からの出力を積分し、電圧を出力する積分器と、
前記ローパスフィルタからの出力と前記積分器からの出力を加算する加算器と、
第1のフィルタからの出力を増幅して出力端子に出力する第2の増幅器とを有し、
前記第3の分周器の出力と前記第4の分周器の出力は、同じ周波数となるまで各分周器で分周を行うよう設定され、
前記基準周波数を前記第1の分周器で分周した値と前記第1のフィルタから出力される周波数を前記第2の分周器で分周した値とが等しくなるように前記発振器で発振する特定の周波数を調整することを特徴とするPLL回路。
【請求項2】
第1の合成器からの出力を分岐して入力し、帯域制限する第2のフィルタを有し、
第2の増幅器は、第1のフィルタからの出力を入力するのではなく、前記第2のフィルタからの出力を入力して増幅することを特徴とする請求項1記載のPLL回路。
【請求項3】
発振器からの出力を分岐して入力し、第1のフィルタからの出力と合成する第2の合成器と、前記第2の合成器からの出力を帯域制限する第2のフィルタとを有し、
第2の増幅器は、第1のフィルタからの出力を入力するのではなく、前記第2のフィルタからの出力を入力して増幅し、前記第1のフィルタの特性と前記第2のフィルタの特性を異なるようにしたことを特徴とする請求項1記載のPLL回路。
【請求項4】
電圧制御発振器から出力される周波数の温度特性に対して発振器から発振される特定の周波数の温度特性を同じに設定したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか記載のPLL回路。
【請求項5】
発振器の代わりに、特定の基準周波数を発振する恒温槽付水晶発振器を有し、
前記恒温槽付水晶発振器からの基準周波数が入力端子と第1の合成器に入力されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか記載のPLL回路。
【請求項6】
位相進み/遅れ検出器の代わりに、第3の分周器からの出力と第4の分周器からの出力を入力し、位相の進み又は遅れを検出し、検出結果を三値で出力する位相周波数検出器を有し、
積分器の代わりに、前記位相周波数検出器からの出力を平滑化して、電圧を出力する第2のローパスフィルタを有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか記載のPLL回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−77239(P2009−77239A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−245339(P2007−245339)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】