説明

PLL回路

【課題】面積増大や消費電流増大を伴うことなくPLLロック時の位相オフセット量により生じるクロックの位相ばらつきを極力小さし、またロック後の温度や電源電圧変動へも対応できるようにする。
【解決手段】基準クロックCLK1と帰還クロックCLK2の位相を位相周波数比較器41で比較した結果に応じて出力クロックCLK3の周波数を決定するPLL回路において、出力クロックCLK3がクロックバッファ6を介して入力する分周回路5と分周回路5の出力クロックが入力し帰還クロックCLK2を出力する可変遅延回路9と、その帰還クロックCLK2の位相と基準クロックCLK1の位相を比較する位相比較器8とを備える。可変遅延回路9は、位相比較器8における基準クロックCLK1の位相と帰還クロックCLK2の位相の位相差がキャンセルされるようにその遅延量が制御され、結果としてPLL出力クロックCLK3の位相を調整できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基準クロックと帰還クロックとの間に位相オフセットが存在する場合に、その位相オフセットによるタイミング設計の難しさを解消させたPLL回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図7に、FF(フリップフロップ)回路1で取り込んだデータを組み合わせ論理回路2で処理して次段のFF回路3に転送する同期回路を示す。この同期回路は、FF回路1に供給する基準クロックCLK1をPLL回路4により処理して出力クロックCLK3とし、それをクロックバッファ7を介しユーザクロックCLK4としてFF回路3に供給することで、そのFF回路3において組み合わせ論理回路2から出力するデータを取り込む際の同期を取っている。PLL回路4は位相周波数比較器41、チャージポンプ42、ループフィルタ43、VCO44で構成される。5はPLL回路4の帰還経路に挿入した分周器、6はクロックバッファである。
【0003】
PLL回路4を半導体集積回路上に形成するとき、ループフィルタ43を構成する容量には、面積効率の点からMOS型容量が使われる場合が多い。ところがMOS型容量は、そのゲートリークがプロセスの微細化に伴って顕著になってきている。しかもそのリーク量は、プロセス、温度、バイアス電圧等によって変動し一定しない。このMOS型容量は、VCO44の発振周波数を制御する電圧制御端子に接続されているので、MOS型容量にリークが発生しているとVCO発振周波数が少しずつ変動(通常は低下)してしまう。
【0004】
PLL回路4は、基準クロックCLK1と帰還クロックCLK2の位相差を位相周波数比較器41で常にモニタして、その位相差がゼロになるように前記電圧制御端子の電圧を調整しているが、基準クロックCLK1の周波数が低いとその調整の頻度が低下するため、PLLループで調整しきれない位相差が位相周波数比較器41に定常的な位相オフセットとなって残る。
【0005】
つまり、PLL回路4としては位相差がゼロでロックしているつもりであっても、ループフィルタ43のMOS型容量のリークにより、実際には位相誤差が残ったままの状態を保っている(その状態で各ブロック回路の状態が釣り合っている)ので、PLL回路4の帰還クロックCLK2や出力クロックCLK3やユーザクロックCLK4には、基準クロックCLK1に応じて決まる位相に対して、位相誤差が生じる。位相誤差は上記した通り条件により異なる(「位相ばらつき」とよぶ)ので、タイミング設計の際に考慮されなくてはならない。
【0006】
基準クロックCLK1の周波数が低いときは、帰還クロックCLK2に多少の位相誤差が生じていても、ユーザクロックCLK4のタイミング設計に余裕を持たせることができるが、このときの遅延調整のために多大なダミー遅延回路を備えると、面積や消費電力の無駄が大きくなる。また、分周器5を設けてクロックが逓倍されていることもあり、逓倍後のクロック周波数でのタイミングマージンを考えた場合は、マージンがない場合もあり得る。
【0007】
これを解消するには、単純には、ゲート酸化膜厚の厚いMOS(I/Oバッファに用いられる3.3VのMOSなど)やメタル−メタル間容量を使えば良く、これによりリーク量は桁違いに小さくなるが、その分、マクロ面積が大きくなる。
【0008】
そこで、従来では、位相周波数比較器のロック時の位相オフセット量をカウンタで検出し、このカウンタのカウント値に応じて補償用のチャージポンプにより補償電流をループフィルタに対して供給する技術が開示されている(特許文献1等)が、調整精度が粗く、また、ロック後の温度や電源電圧変動への対応ができない。
【0009】
また、位相比較間隔と帰還クロックの遅れとの比に応じて、チャージポンプおよびループフィルタの特性を変更する技術が開示されている(特許文献2等)が、アナログ的な設計なので、実際のところは技術的に難しい。
【特許文献1】特開2002−141798号公報
【特許文献2】特開2006−345512号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上のように、PLL回路4の内部のアナログ的な要因により、ロック状態においても基準クロックCLK1と帰還クロックCLK2との間に大きな位相オフセットが残って、それがユーザクロックCLK4の位相にも伝搬する。しかもその位相オフセットが動作条件により変動することで、ユーザクロックCLK4の位相ばらつきが大きくなって、システムのタイミング設計が非常に難しくなり、また、調整できたとしてもタイミング調整のために多くの遅延調整回路を必要とする問題があった。
【0011】
本発明の目的は、面積増大や消費電流増大を伴うことなく、ロック時の位相オフセットによるユーザクロックの位相ばらつきを必要十分に小さくでき、またロック後の温度や電源電圧変動へも対応できるようにして、前記した問題を解決したPLL回路を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、請求項1にかかる発明のPLL回路は、基準クロックと帰還クロックの位相を位相周波数比較器で比較した結果に応じて出力クロックの周波数を決定するPLL回路において、前記出力クロック又はその分周クロックが入力し前記帰還クロックを出力する可変遅延回路と、該可変遅延回路から出力する前記帰還クロックの位相と前記基準クロックの位相を比較する位相比較器とを備え、前記可変遅延回路は、前記位相比較器における前記基準クロックの位相と前記帰還クロックの位相の位相差に応じて前記出力クロックの位相を調整するようにその遅延量が制御されることを特徴とする。
請求項2にかかる発明は、請求項1に記載のPLL回路において、前記位相比較器は、前記可変遅延回路と同一構成で且つ前記基準クロックを遅延するレプリカ可変遅延回路と、該レプリカ可変遅延回路の出力クロックの位相と前記帰還クロックの位相の位相差を検出する位相検出回路とを備え、前記位相検出回路で検出される位相差が少なくなるように前記レプリカ可変遅延回路の遅延量が制御され、且つ前記レプリカ可変遅延回路と前記可変遅延回路の遅延量が同量に制御されることを特徴とする。
請求項3にかかる発明のPLL回路は、基準クロックと帰還クロックの位相を位相周波数比較器で比較した結果に応じて出力クロックの周波数を決定するPLL回路において、前記出力クロック又はその分周クロックが入力し前記帰還クロックを出力する可変遅延回路と、該可変遅延回路に入力する前記出力クロック又はその分周クロックの位相と前記基準クロックの位相を比較する位相比較器とを備え、前記可変遅延回路は、前記位相比較器における前記基準クロックの位相と前記出力クロック又はその分周クロックの位相の位相差に応じて前記出力クロックの位相を調整するようにその遅延量が制御されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、PLL回路のロック時に、位相周波数比較器に位相オフセットが残っているとき、その位相オフセット量に応じて帰還クロックの遅延量が調整されることで、ユーザクロックの位相ばらつきを大幅に削減することができるので、タイミング設計が容易となる。また、このために追加する構成は、1個の位相比較器と1個の可変遅延回路ですみ、面積増加や消費電流増加を極力抑えることができる。さらに、事後的に温度や電圧変動が発生してもその影響を無くすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
<第1の実施例>
図1は本発明の第1の実施例の同期回路の構成を示すブロック図である。図7に示したものと同じものには同じ符号を付けた。8は位相比較器であり、PLL回路4に入力する基準クロックCLK1と帰還クロックCLK2の位相比較を行う。9はPLL回路4の帰還経路に挿入された可変遅延回路であり、位相比較器8の位相比較結果に応じて、その遅延量が調整される。10はユーザクロックCLK4に固定遅延を与えるためのオフセット遅延回路である。
【0015】
位相比較器8は、PLL回路4がロックしているときの基準クロックCLK1と帰還クロックCLK2との位相オフセット量を常時モニタしている。この位相比較器8は、回路規模を抑えるためにはデジタル回路が望ましい(精度としてはそれで十分と考えられるため)。位相比較器8は、一定値以上(分解能以上)の位相差を検知すると、可変遅延回路9に遅延時間調整の命令を出す。可変遅延回路9による遅延調整は、位相進み側、位相遅れ側いずれにも可能にしておくのが望ましいが、PLL回路4の位相オフセットの癖が予め判明しているときは、いずれか一方のみだけでもよい。通常のPLL回路設計では、ループフィルタ43のMOS型容量のリークの影響は、帰還クロックCLK2の位相が遅れる方向に働くので、その場合は、今回の目的達成のためには位相進み側への調整機能だけで良い。オフセット遅延回路10は、位相遅れ側への調整機能を実現するために設けている。なお、これらの可変遅延回路9およびオフセット遅延回路10もデジタルゲートで構成することができる。
【0016】
ここで、遅延を調整する可変遅延回路9が帰還経路側にのみ挿入されること、また帰還経路のクロックバッファ6および分周器5の後段に挿入されることには大きな意味がある。この可変遅延回路9は、デジタル回路で構成する際は、遅延切り替え時に、その時だけ遅延時間が不連続にデジタル的に変化することになる。また、遅延切り替えのタイミングが悪いとグリッジが出てしまう。PLL回路による位相ばらつきを調整するにはオフセット遅延回路10の遅延時間を切り替えることでも達成できるが、そうすると、一時的な遅延時間変化(切り替えた時のクロック周期の伸縮)やグリッジが後段のユーザクロックCLK4に伝わってしまう。
【0017】
そこで、本実施例では、遅延時間の変更は帰還経路だけで行なうようにして、遅延時間変化がユーザクロックCLK4に直接影響を与えないようにした。帰還クロックCLK2に発生する単発で少量の遅延変化は、PLL回路4の内部のループフィルタ43によって積分されるため、ユーザクロックCLK4にはほぼ何も影響しない。さらには、可変遅延回路9の遅延切り替え制御とそれによる位相比較器8の動作は、基準クロックCLK1あるいは帰還クロックCLK2を基準にタイミング設計を行うことで、帰還クロックCLK2にグリッジを出さないように設計することは容易に可能である。もし、可変遅延回路9をクロックバッファ6よりも前段に置くと、クロックバッファ6の遅延時間はPLL回路4の後段の回路規模などにより全く不明なため、帰還クロックCLK2にグリッジを出さないためのタイミング設計は事実上不可能となる。また、この事情は、オフセット遅延回路10に遅延切換機能を持たせようとする場合でも同じであり、従ってこれらの構成は適当でない。
【0018】
ここで、PLL回路4が、内部のループフィルタ43を構成するMOS型容量の影響により、帰還クロックCLK2が基準クロックCLK1に対して1ns遅れた状態で、位相オフセットを持ってロックしたと想定する。
【0019】
このとき、この状態で何の補正も行なわない場合は、FF回路1,3の動作タイミングに1nsのずれが生じる。よって、設計者はFF回路1,3の間にある組み合わせ論理回路2の遅延時間も考慮しつつ、FF回路1,3の同期設計を行なうことになるが、組み合わせ論理回路2がほとんどないケースもある。
【0020】
このケースでは、PLL回路4の位相オフセットにより基準クロックCLK1の方がユーザクロックCLK4よりも1nsも早く立ち上がるため、組み合わせ論理回路2がほとんど不要なのにも拘わらず、FF回路3のホールドタイムを確保するために、組合せ論理回路2の経路に1ns以上のダミー遅延回路を挿入しなくてはならない。通常、上記のようなFF回路1,3の組み合わせは同一チップ上に多数設けられるので、上記のダミー遅延回路は多数必要となり、その合計はチップ面積に制約を与える。
【0021】
また、何らかの要因で帰還クロックCLK2が基準クロックCLK1に対して進んだ状態でロックするような位相オフセットがあった場合は、FF回路3のセットアップタイムを浪費するので、システムの最高動作周波数の低下や組み合わせ論理回路2の回路構成の制限などにつながる。
【0022】
さらには、動作条件によってオフセット位相差がプラス側にもマイナス側にも大きく振れる可能性があるときは、組み合わせ論理回路2はセットアップタイム、ホールドタイムの両方を満たす遅延時間でなくてはならないので、益々設計が難しくなる。
【0023】
図1の回路において、位相を合わせなければならないのは基準クロックCLK1とユーザクロックCLK4である。PLL回路4が理想的であれば、基準クロックCLK1と帰還クロックCLK2の位相差はゼロであり、ユーザクロックCLK4は基準クロックCLK1に対して安定した位相差を保持するが、ループフィルタ43の容量のリークなどによって、前記したように位相オフセットが現れ、ユーザクロックCLK4に位相ばらつきが現れる。
【0024】
そこで本実施例では、基準クロックCLK1と帰還クロックCLK2の位相オフセット量を検出し、この位相差を補正する動きとなるように、帰還経路に挿入した可変遅延回路9の遅延量を調整することで、基準クロックCLK1とユーザクロックCLK4の位相差を小さくし、タイミング設計を容易にする。
【0025】
次に具体例を説明する。帰還クロックCLK2の経路に挿入される可変遅延回路9は、図2に示すような例えば4個のマルチプレクサ91〜94で構成できる。この場合、マルチプレクサの段数を切り替えることにより4種類の遅延量を切り替えることができる。位相比較器8の位相比較結果に応じて、例えば、SEL2が“1”、SEL0とSEL1が“0”になると、入力信号INはマルチプレクサ93→92→91による3段の遅延を受けて出力信号OUTとなる。ユーザクロックCLK4の経路に挿入される固定遅延のオフセット遅延回路10も、可変遅延回路9と同じ回路で構成されるのが好ましい。
【0026】
位相比較器8の構成は、例えば図3、図4に示したような構成で実現できる。図3の位相比較器8は、位相検出器としてのFF回路81と、そのFF回路81のQ出力が“1”になるとアップカウントし、“0”になるとダウンカウントするアップダウンカウンタ82と、そのカウンタ82のカウント値によって遅延量が制御されるレプリカ可変遅延回路83と、位相検出器の出力を判定する判定/制御回路87と、デコーダ88とからなる。レプリカ可変遅延回路83は可変遅延回路9と全く同じ構成である。この構成であれば、レプリカ可変遅延回路83には、図2の回路をそのまま使用することができる。
【0027】
ここでは、基準クロックCLK1がレプリカ可変遅延回路83に入力され、FF回路81によって、レプリカ可変遅延回路83の出力クロックCLK5が立ち上がるときの帰還クロックCLK2のレベルを検出し、“0”が検出されればそのクロックCLK2の位相が遅れているので、アップダウンカウンタ82をダウンカウント(あるいはアップカウント)してレプリカ可変遅延回路83の遅延量を大きくし、“1”が検出されればそのクロックCLK2の位相が進んでいるので、アップダウンカウンタ82をアップカウント(あるいはダウンカウント)してレプリカ可変遅延回路83の遅延量を小さくする。こうして、基準クロックCLK1の遅延クロックCLK5と帰還クロックCLK2とが、PLLループとは独立した閉じたループ内で最適な遅延量を探すように制御される。以上のプロセスにより求められた最適な遅延段数(デコード信号)は判定回路87とデコーダ88を通って可変遅延回路9に与えられる。切り換えた直後は、基準クロックCLK1と帰還クロックCLK2の位相が変わるが、しばらくするとPLLの位相調整機能により、またもとの位相差に戻る。しかし、そのときには、基準クロックCLK1とユーザクロックCLK4の位相差は可変遅延回路9の分解能以下になっており、ユーザクロックCLK4の位相ばらつきを解消することができる。図5に以上の調整動作の波形図を示した。(a)は基準クロックCLK1に対して帰還クロックCLK2とユーザクロックCLK4が例えば1ns遅れている状態、(b)は遅延回路9に1nsの遅延を与えた瞬間の状態、(c)はその後PLL機能により基準クロックCLK1と帰還クロックCLK2の関係が元に戻り、ユーザクロックCLK4が1ns進むことにより、基準クロックCLK1とユーザクロックCLK4の位相が合った状態を示す。
【0028】
一方、図4では、遅延回路9は遅延段数が1段ずつ異なる遅延回路95〜98とセレクタ99からなる。位相比較器8は、遅延回路95〜98と同一構成、つまり遅延段数が1段ずつ異なる遅延回路841〜844からなるレプリカ遅延回路84と、4個のFF回路851〜854からなる位相検出回路85と、位相検出回路85の出力を判定する判定制御回路86とからなる。
【0029】
ここで、例えば、基準クロックCLK1が立ち上がったとき、FF回路851,852の出力が“1”、FF回路853,854の出力が“0”のときは、遅延回路842又は843の遅延量が最適であるので、判定制御回路86によってセレクタ99において遅延回路96又は97を選択する。この構成は、図3に比べて回路規模が大きい代わりに、最適な遅延量が1回の比較で判明するため、収束までの時間が早いという特徴をもつ。最適な遅延段数(デコード信号)は可変遅延回路9に与えられ、その後は、図3の例で説明したのと同じ過程でPLLを構成する各部の位相が調整され、結果的にユーザクロックCLK4の位相ばらつきを解消することができる。
【0030】
なお、基準クロックCLK1と帰還クロックCLK2は、ともに独立したジッタ(クロック周期のばらつき)を持つため、その影響をキャンセルする目的で位相比較器8での比較結果の平均を取る回路(多数決回路など)、あるいはメタステーブル対策回路などを用いる工夫を施すことも有用である。
【0031】
また、動作中に周囲温度の変化などにより位相周波数比較器41での位相オフセット量が変化することがあるが、前述のとおり、帰還経路での遅延段数切り替えは、PLL回路4の出力クロックには影響がないように設計できるので、位相比較器8を含めた位相調整機構は常に動作していれば良い。但し、可変遅延回路9の遅延時間を切り換えて数クロックの間は、PLL機能によりループ全体の遅延調整を行っているので、基準クロックCLK1と帰還クロックCLK2の位相差が再びもとの位相になるまでは、位相比較器8の機能は停止させておくのがよい。また、あまりにも大きな時間差の遅延時間切り替えを一気に行なうと、PLL回路4の出力に影響を与える可能性があるため、遅延時間切り替えは数クロックごとに1段ずつ行なうなどの工夫は有用である。
【0032】
ここで、可変遅延回路9とオフセット遅延回路10の関係について説明しておく。PLL回路4の癖により、基準クロックCLK1に対し帰還クロックCLK2は遅れた方向にしか位相オフセットを持たないことが予め分かっている場合は、可変遅延回路9の遅延調整範囲は遅延を増やす方向だけ持っていればよく、オフセット遅延回路10は必要ない。一方、基準クロックCLK1に対し帰還クロックCLK2は進んだ方向にしか位相オフセットを持たない場合は、可変遅延回路9は遅延時間を小さくする必要があるので、その初期値は可変遅延の最大遅延時間に設定される。すると、帰還経路とユーザクロック経路の初期値の遅延を合わせるためにオフセット遅延回路10の挿入が必要となり、その遅延回路は、最大遅延時間に固定された可変遅延回路9と同じ構成であることが好ましい。さらには、基準クロックCLK1と帰還クロックCLK2の位相関係がプラス側にもマイナス側にも変動し得る場合には、可変遅延回路9は設定し得る範囲の中間の遅延値が初期値となり、オフセット遅延回路10は、その初期値に固定されていればよい。
【0033】
なお、可変遅延回路9は、通常、最小遅延時間に設定しても、厳密には完全に遅延ゼロではない。また、分周器5も相応の遅延を持っている。しかし、これらの固定的で小さな遅延成分は、半導体回路設計の遅延調整(タイミング調整)において当たり前に考慮されるものであり、本発明の骨子とは関係がないため、これらの調整方法については言及していない。
【0034】
基準クロックCLK1とユーザクロックCLK4の位相差は、可変遅延回路9の遅延素子1段分の遅延量以下にすることはできないが、近年の微細プロセスでのゲート遅延素子は1段(正転信号であればインバータ2段で構成できる)当りで100ps前後であるので、先の例で挙げた1nsの位相オフセット量は100psにまで縮めることができ、またこの値はどのような条件でも比較的安定している(ゲート遅延時間も条件により変動するが、100psが標準条件であるとすると、様々な変動要素を考えても数10ps〜150psに収まる)。さらなる位相差の微調整が必要ならば、遅延ゲートを構成するインバータ出力と接地間に接続した容量の値を切り替えるなどでも対応できる。
【0035】
以上により、ユーザクロックCLK4の位相ばらつきを大幅に低減することができ、図1の2つのFF回路1,3間でのタイミング設計(基準クロックCLK1に対するユーザクロックCLK4のタイミング設計)に余裕ができ、前述したタイミング調整のための回路規模も大幅に少なくなる。
【0036】
従来では、PLL回路4内のループフィルタ43のゲートリークが位相オフセットの原因であるとき、ゲートリークの影響を低減させるためのアナログ的な補償回路を設けるなど難しい設計が必要であったり、面積を犠牲にしてゲートリークの少ない厚い酸化膜のMOS型容量を用いたりする必要があつたが、本実施例によれば、それらの問題も一切なくなる。
【0037】
また、本実施例によれば、PLL回路4の構成によっては、チャージポンプ回路42のソース電流とシンク電流の差(理想は差ゼロ)がオフセットとなるケースもあり、設計時には注意を払うべきところであるが、この設計も大幅に楽になる。さらには、ここまで挙げなかったその他の様々な要因により発生する位相オフセットもまとめて補正することができる。
【0038】
<第2の実施例>
図6は本発明の第2の実施例の同期回路の構成を示すブロック図である。図1に示した第1の実施例と同じものには同じ符号をつけた。ここでは、位相比較器8に遅延回路9のレプリカは含ませない構成とし、分周回路5の出力クロックCLK6と基準クロックCLK1を、その位相比較器8で比較し、その結果で可変遅延回路9の遅延量を調整するものである。これは、可変遅延回路9の入力クロックであるクロックCLK6こそが、ユーザクロックCLK4と最終的に同位相となることに着目した構成である。但し、本構成では、可変遅延回路9による遅延量を変更した結果がクロックCLK6に反映されるには、PLLによる位相調整をまたねばならず、遅延量を切り換えながら最適なポイントを探すための時間がかかるので、安定するまでの時間が長くなる。反面、位相比較器8内に遅延回路9のレプリカを必要とせず面積削減の利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1の実施例の同期回路の構成を示すブロック図である。
【図2】図1の同期回路の可変遅延回路の回路図である。
【図3】図1の同期回路の位相比較器の部分の回路図である。
【図4】図1の同期回路の別の例の位相比較器の部分の回路図である。
【図5】クロックCLK1とCLK4の位相合わせ動作の波形図である。
【図6】本発明の第2の実施例の同期回路の構成を示すブロック図である。
【図7】従来の同期回路の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0040】
1:FF回路
2:組み合わせ論理回路
3:FF回路
4:PLL回路、41:位相周波数比較器、42:チャージポンプ、43:ループフィルタ、44:VCO
5:分周回路
6,7:クロックバッファ
8:位相比較器、81:FF回路、82:アップダウンカウンタ、83、84:レプリカ可変遅延回路、85:位相検出回路、86,87:判定/制御回路、88:デコーダ
9:可変遅延回路、91〜94:マルチプレクサ、95〜98:遅延回路、99:セレクタ
10:オフセット遅延回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準クロックと帰還クロックの位相を位相周波数比較器で比較した結果に応じて出力クロックの周波数を決定するPLL回路において、
前記出力クロック又はその分周クロックが入力し前記帰還クロックを出力する可変遅延回路と、該可変遅延回路から出力する前記帰還クロックの位相と前記基準クロックの位相を比較する位相比較器とを備え、
前記可変遅延回路は、前記位相比較器における前記基準クロックの位相と前記帰還クロックの位相の位相差に応じて前記出力クロックの位相を調整するようにその遅延量が制御されることを特徴とするPLL回路。
【請求項2】
請求項1に記載のPLL回路において、
前記位相比較器は、前記可変遅延回路と同一構成で且つ前記基準クロックを遅延するレプリカ可変遅延回路と、該レプリカ可変遅延回路の出力クロックの位相と前記帰還クロックの位相の位相差を検出する位相検出回路とを備え、
前記位相検出回路で検出される位相差が少なくなるように前記レプリカ可変遅延回路の遅延量が制御され、且つ前記レプリカ可変遅延回路と前記可変遅延回路の遅延量が同量に制御されることを特徴とするPLL回路。
【請求項3】
基準クロックと帰還クロックの位相を位相周波数比較器で比較した結果に応じて出力クロックの周波数を決定するPLL回路において、
前記出力クロック又はその分周クロックが入力し前記帰還クロックを出力する可変遅延回路と、該可変遅延回路に入力する前記出力クロック又はその分周クロックの位相と前記基準クロックの位相を比較する位相比較器とを備え、
前記可変遅延回路は、前記位相比較器における前記基準クロックの位相と前記出力クロック又はその分周クロックの位相の位相差に応じて前記出力クロックの位相を調整するようにその遅延量が制御されることを特徴とするPLL回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−41351(P2010−41351A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−201425(P2008−201425)
【出願日】平成20年8月5日(2008.8.5)
【出願人】(501285133)川崎マイクロエレクトロニクス株式会社 (449)
【Fターム(参考)】