説明

RTM成形法によるFRP成形品の製造方法とそのための金型

【課題】意匠面にヒケの発生が殆どない成形品を、効率良く製造するためのRTM成形方法、及びそれに用いる金型を提供する。
【解決手段】上下分割型の金型10,20を用いてRTM成形法によりFRP成形品30を製造するに際し、下型20の内側面の少なくとも一部に、周方向(水平方向)の溝40が設けられた金型を用い、かつ、下型20に離型力が相対的に強い離型剤20aを塗布し、上型に離型力が相対的に弱い離型剤10aを塗布してRTM成形を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化材とマトリックス樹脂とからなる繊維強化プラスチック(FRP)を成形する方法の一つである、樹脂トランスファー(RTM)成形法によるFRP成形品の製造方法と、その際に用いられる金型に関する。
【背景技術】
【0002】
FRPは、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂や、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、PPS、PEEK等の熱可塑性樹脂のマトリックス樹脂と、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等の繊維強化材とからなるものであり、軽量で且つ強度特性に優れるため、近年、航空宇宙産業から一般産業分野に至るまで、幅広い分野において利用されている。そして、その成形方法としては色々な方法・手段が知られているが、RTM成形法は、特に多品種中量生産に適する成形法として注目されている。
【0003】
RTM成形法においては、上型と下型からなる金型内部に、繊維強化材を成形品形状に賦形したプリフォーム又はシート状の繊維強化材を配置し、金型を型締めした後、上型と下型が形成するキャビティ内を、金型の排出口から排出用ホースを介して排気し、一方、金型の注入口から注入用ホースを介して樹脂をキャビティ内に注入して繊維強化材に含浸せしめ、そして必要なら加熱して硬化させる方法がとられる。プリフォームとは、例えば、繊維強化材の連続ストランドを熱可塑性樹脂をバインダーとして結合し、成形用の金型に近似した形状寸法に製作した半成形品である。
【0004】
RTM成形法においては、樹脂の繊維強化材への拡散速度を高めて注入時間を短縮する方法として、型に溝を形成する方法(例えば、特許文献1参照)、樹脂流動基材(メディア)を用いる方法(例えば、特許文献2参照)、溝加工や貫通穴加工をしたコア材を用いる方法(例えば、特許文献3参照)がある。これらの方法はいずれも、樹脂の流路を確保することにより樹脂の拡散速度を向上させ、樹脂の注入に要する時間を短縮するものである。
また、RTM成形法において、一般に、金型のキャビティ内を減圧下で樹脂を注入すると、樹脂が繊維強化材に含浸するに従い、キャビティ内の真空度は均一にならずに、排気口から離れるにつれ真空度が低下する。そして、排気口から最も遠く位置する樹脂注入口付近と排気口付近の真空度が異なり、硬化後の成形物の厚みが異なったものとなる。かかる問題点を改善するために、樹脂を加圧注入することも行われている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−62932号公報
【特許文献2】特開2000−501659号公報
【特許文献3】特開2002−86579号公報
【特許文献4】特開2005−193587号公報
【0006】
以上のごとくRTM成形法においては色々な改善・工夫が行われているが、その他にも、上下分割型の両面金型を用いたRTM成形においては、樹脂の収縮に基因するヒケ(樹脂部分の凹み)が発生し易いという問題があった。そして、これを改善するためには、成形に際し上下金型に温度差を与えたり、剥離性の異なる離型剤を使用したりする対策が取られてきた。離型剤の場合には、上下金型のうち意匠面側を離型し易くするとヒケが発生し易くなるので、意匠面側には剥離力の弱い(離型し難い)離型剤を、上下金型のうち反意匠面側には剥離力の強い(離型し易い)離型剤を用いていた。このため、脱型の際、剥離力の弱い意匠面側に製品が付着し、脱型作業に時間を要するという別な問題が発生する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、意匠面にヒケの発生が殆どない成形品を、効率良く製造するためのRTM成形方法、及びそれに用いる金型を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上下分割型の金型を用いてRTM成形法によりFRP成形品を製造するに際し、下型の内側面の少なくとも一部に、周方向(水平方向)の溝が設けられた金型を用い、かつ、下型に離型力が相対的に強い離型剤を塗布し、上型に離型力が相対的に弱い離型剤を塗布してRTM成形を行うことを特徴とするFRP成形品の製造方法である。
【0009】
本発明の他の態様は、RTM成形用の上下分割型の金型であって、該金型の下型の内側面の少なくとも一部に、周方向(水平方向)の溝が設けられていることを特徴とするRTM成形用の金型である。金型として好ましいのは、下型の内側面で成形品の成形面外の少なくとも一部に、周方向(水平方向)の溝が設けられている金型である。また、下型に脱型ピンが設けられた金型、及び、それを用いたFRP成形品の製造方法も好ましいものである。
【0010】
なお、本発明において、上下分割型の金型というときには、両面金型の位置的に上側にある金型を上型、下側にあるものを下型という意味ではなく、成形品の意匠面を形成する金型を上型、非(反)意匠面を形成する金型を下型と定義するものとする。位置的に上側にある金型が、成形品の意匠面を形成する場合が一般的ではあるが、必ずしもそうでなくてもよい。
【発明の効果】
【0011】
上下分割型の両面金型を用いたRTM成形法において、上下分割型の金型の意匠面を形成する側には剥離力の弱い(離型し難い)離型剤を、反意匠面を形成する側には剥離力の強い(離型し易い)離型剤を用いて成形することにより、意匠面にヒケの発生が殆どない成形品を、生産効率良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、従来のRTM成形用の上下分割型の金型の一部を模式的に示したものである。
【図2】図2は、本発明のRTM成形用の上下分割型の金型の一部を模式的に示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、上下分割型の金型を用いてRTM成形法によりFRP成形品を製造するに際し、下型の内側面の少なくとも一部に、周方向(水平方向)の溝が設けられた金型を用い、かつ、下型に離型力が相対的に強い離型剤を塗布し、上型に離型力が相対的に弱い離型剤を塗布してRTM成形を行うものである。中でも、下型の内側面で製品の成形面外の少なくとも一部に、周方向(水平方向)の溝が設けられた金型を用いるのが好ましい。
【0014】
前記本発明について図を用いて説明する。図1は、従来のRTM成形用の上下分割型の金型の一部を模式的に示したものである。1は上型(意匠面側)、2は下型(非意匠面側)、3は成形品を示す。1aは上型にスプレー等によって塗布された、離型力が相対的に弱い離型剤を示し、2aは下型にスプレー等によって塗布された、離型力が相対的に強い離型剤を示している。RTM成形後、図1に示したように上下の分割型を分離すると、上型に塗布された離型剤は剥離力が弱いので、成形品は上型の方に付着する。その後、成形品を上型から脱型する必要があるが、離型剤は剥離力が弱い、即ち、成形品は上型に強く付着しているので上型から離型するのに時間を要する。
【0015】
図2は、本発明のRTM成形用の上下分割型の金型の一部を模式的に示したものである。10は上型(意匠面側)、20は下型(非意匠面側)、30は成形品を示す。10aは上型にスプレー等によって塗布された、離型力が相対的に弱い離型剤を示し、20aは下型にスプレー等によって塗布された、離型力が相対的に強い離型剤を示している。本発明の特徴とするところは、上下分割型の金型の下型の内側面の少なくとも一部に、周方向(水平方向)の溝40が設けられていることである。図2では、下型20の内側面で成形品の成形面外の少なくとも一部に、周方向(水平方向)の溝40が設けられている。図2では、下型の成形品の成形面外、即ち、立ち壁50の部分に溝40が切削されている。下型としては、図2のように立ち壁を形成し、その周方向の少なくとも一部に溝を切削するのが好ましい。成形品の立ち壁に相当する部分は、成形品の成形面外であるから、脱型後、適当な方法で除去すればよい。
【0016】
RTM成形後、図2に示したように上下の分割型を分離すると、上型に塗布された離型剤は離型力が弱いので、成形品は上型の方に付着しようとするが、下型に形成されている溝40に入り込んだ樹脂のために、成形品が溝に引っ掛かり、下型からの脱型(剥離)が抑制される。その結果、成形品は下型に付着して上型が分離される。その後、成形品は下型から脱型されるが、下型には離型力が相対的に強い離型剤が塗布されているので、脱型は容易に行うことができる。また、非(反)意匠面が金型に付着しているため、金型に脱型ピンを設けることも可能である(意匠面に脱型ピン跡が残らない)。その結果、上型で形成される意匠面にヒケが殆ど見られない成形品が生産効率良く得られる。
【0017】
溝の断面形状や幅や深さは特に限定されるものではないが、幅は1〜5mm、深さは0.5〜3mm程度が好ましく、また、溝の長さは内表面の周方向(水平方向)長さの1/2以上あれば十分である。また、溝は剥離止めの効果があればよいので、必ずしも連続している必要もない。
【0018】
本発明におけるRTM成形法で、繊維強化プラスチックを成形するに際し用いられるマトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂があるが、好ましいのは熱硬化性樹脂である。熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂を混合して用いることもできる。好ましい熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコン樹脂、マレイミド樹脂、ビニルエステル樹脂、シアン酸エステル樹脂、マレイミド樹脂とシアン酸エステル樹脂を予備重合した樹脂等があり、これらの熱硬化性樹脂を適宜量配合したものでもよい。これらの樹脂のうち、耐熱性、弾性率、耐薬品性に優れたエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂が好ましい。これらの熱硬化性樹脂には、硬化剤、硬化促進剤等が含まれていてもよい。
【0019】
繊維強化材としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、金属繊維等の、通常の繊維強化材に用いる材料が使用できる。中でも、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維が好ましい。繊維強化材の形態としては特に制限されず、織物又は不織布等が利用できる。織物としては、平織物、綾織物、朱子織物等、あるいは一軸織物、多軸織物等を挙げることができる。織物を形成する強化繊維ストランドは、繊維径4〜8μmのモノフィラメントを一束あたり500〜24,000本とすることが好ましい。織物等の厚さは、成形品の用途により適宜選択するものであり、特に制限はない。なお、一軸織物とは、互いに平行に並んだ強化繊維ストランドをナイロン糸、ポリエステル糸、ガラス繊維糸等で編んだ織物をいう。多軸織物とは、互いに平行に並んだ強化繊維ストランドを角度を変えて積層してナイロン糸、ポリエステル糸、ガラス繊維糸等で編んだ織物をいう。
【0020】
RTM成形法おいて用いられる金型としては、特に制限はないが、剛性の高い金属の金型やFRP型等の金型が用いられる。離型剤としては、シリコーンワックス等の公知の各種離型剤が用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下分割型の金型を用いてRTM成形法によりFRP成形品を製造するに際し、下型の内側面の少なくとも一部に、周方向(水平方向)の溝が設けられた金型を用い、かつ、下型に離型力が相対的に強い離型剤を塗布し、上型に離型力が相対的に弱い離型剤を塗布してRTM成形を行うことを特徴とするFRP成形品の製造方法。
【請求項2】
下型の内側面で成形品の成形面外の少なくとも一部に、周方向(水平方向)の溝が設けられた金型を用いることを特徴とする請求項1記載のFRP成形品の製造方法。
【請求項3】
下型に脱型ピンが設けられた金型を用いることを特徴とする請求項1又は2記載のFRP成形品の製造方法。
【請求項4】
RTM成形用の上下分割型の金型であって、該金型の下型の内側面の少なくとも一部に、周方向(水平方向)の溝が設けられていることを特徴とするRTM成形用の金型。
【請求項5】
下型の内側面で成形品の成形面外の少なくとも一部に、周方向(水平方向)の溝が設けられていることを特徴とする請求項4記載のFRP成形用の金型。
【請求項6】
下型に脱型ピンが設けられていることを特徴とする請求項4又は5記載のFRP成形用の金型。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−274612(P2010−274612A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−131650(P2009−131650)
【出願日】平成21年5月30日(2009.5.30)
【出願人】(000003090)東邦テナックス株式会社 (246)
【Fターム(参考)】