説明

SAWチップ及びこれを利用したSAWデバイスの製造方法

【課題】 SAWチップをベースに組み込む工程においても異常な周波数変動を生じることなく、信頼性の高いSAWチップとこれを利用したSAWデバイスの製造方法を提供すること。
【解決手段】 圧電基板111にドライエッチングにより電極パターンを形成するSAWチップ110の製造方法であって、圧電基板上にアルミニウムまたはアルミニウム合金により電極膜23を形成する電極膜形成工程ST1と、前記電極膜を所定の電極パターンとなるように、圧電基板表面が露出するまでドライエッチングを行うドライエッチング工程ST2と、前記露出された圧電基板表面の残留アルミニウムを除去するための洗浄工程ST3とを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、弾性表面波(SAW)を利用したSAW(Suface Acoustic Wave)チップと、このSAWチップを利用したSAWデバイスの製造方法の改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】通信機器、コンピュータ、時計等の様々な電子機器において、共振子、フィルタ等の電子部品としてSAW(Suface Acoustic Wave)チップを利用したSAWデバイスが使用されている。このSAWチップには、特に、温度特性が良くエッチングや機械加工等の形状加工を容易に行うことができる水晶が圧電材料として使用されている。
【0003】図9はこのようなSAWチップの製造方法の一例を示す工程図であり、図10は製造したSAWチップからSAWデバイスを製造する方法の一例を示す工程図である。
【0004】図9(A)において、水晶ウェハ2の表面が洗浄され、図9(B)において、この水晶ウェハ2の上にたとえばアルミニウム又はアルミニウム合金からなる電極膜3が形成される。次に、図9(C)に示すように、たとえば上記電極膜3の上に所定の電極パターンに対応したフォトレジスト4が配置される。そして、後述する理由により、反応性イオンエッチングやマイクロ波プラズマエッチング等のドライエッチング技術により、例えば、塩素ガスを用いて電極膜3がエッチングされる。この電極膜3は、図9(D)に示されるようにエッチングされ、フォトレジスト4が除去されると、水晶ウェハ2上にたとえばすだれ状電極や反射器及び配線パターン等が形成されることとなる。
【0005】その後、図9(E)に示すように、SAWチップ1のたとえば共振周波数やフィルタリング特性等を調整するため、SAWチップ1の電極膜3がエッチングされる。ここで、電極膜3がエッチングされることで、SAWチップ1の共振周波数を上昇させながら調整が行われることとなる。
【0006】この後で、水晶ウェハ2が各SAWチップ1ごとになるようにダイシング(切断)されて(図示せず)、各SAWチップ1ごとにその特性、外観が検査される。
【0007】次に、図10(A)に示すようなベース10が用意され、図10(B)に示すように、水晶チップであるSAWチップ1が、パッケージ用のベース10にたとえば接着剤11によって固定される。その後、図10R>0(C)のように、ベース10側とワイヤーボンディングが行われて、たとえばアルミニウムワイヤーからなるボンディング線12によってSAWチップ1とベース10が電気的に接続される。ここで、SAWチップ1にボンディング線12を介して駆動電圧を印加した場合に、その周波数特性が所望のものよりも若干高くなるように設定されている。
【0008】そして、図10(D)のように、後述する周波数調整方法を用いてSAWチップ1が、例えば、CF4 ガスを用いてプラズマエッチングされて、SAWチップ1が周波数を下げる方向に調整される。ここで、CF4 ガスを用いるのは、アルミニウムはエッチングされずに、水晶のみがエッチングされるからである。このため、結果的に、SAWチップ1の周波数を下げる方向に調整されることとなる。
【0009】その後、図10(E)に示すように、ベース10にキャップ13をたとえばシーム溶接することで、SAWチップ1がたとえば窒素雰囲気で封止される。そして、SAWチップ1が封止後に熱処理されて、SAWチップ1の特性及びリーク検査が行われ、SAWデバイス1Aが完成する。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】ところで、上述したように、SAWチップ1を形成するための水晶基板に櫛歯状の電極等を形成する電極形成工程(図9(C)、図9(D))では、ドライエッチングの手法が用いられている。
【0011】これは次の理由による。
【0012】SAWデバイスは、その振動出力の周波数が高くなるほど、水晶基板2上に形成される電極パターンの幅はより微小になり、電極加工精度も高くしなければならない。たとえば433MHzのSAW共振子では、その櫛歯状電極の幅が1.8μmであるが、たとえば868MHzのSAW共振子ではその櫛歯状電極の幅が0.9μmとなる。このため、電極形成のため、従来行われていたように、リン酸を用いたウエットエッチング法を用いると、レジスト4と電極3との界面にエッチング液がしみ込んで、微細な幅の電極の加工を精度よく行うことができないからである。
【0013】このため、図9で説明したようなドライエッチング法を用いると、図10で説明した後の工程において、異常な周波数変動を生じるというあらたな問題が生じる。そこで本発明は上記課題を解決し、SAWチップをベースに組み込む工程においても異常な周波数変動を生じることなく、信頼性の高いSAWチップとこれを利用したSAWデバイスの製造方法を提供することを目的としている。
【0014】
【課題を解決するための手段】上記目的は、請求項1の発明によれば、圧電基板にドライエッチングにより電極パターンを形成するSAWチップの製造方法であって、圧電基板上にアルミニウムまたはアルミニウム合金により電極膜を形成する電極膜形成工程と、前記電極膜を所定の電極パターンとなるように、圧電基板表面が露出するまでドライエッチングを行うドライエッチング工程と、前記露出された圧電基板表面の残留アルミニウムを除去するための洗浄工程とを含んでいるSAWチップの製造方法により、達成される。
【0015】請求項1の構成によれば、以下の作用がある。圧電基板上への電極形成後の加工工程において、異常な周波数変動を生じる原因は、本発明者等の研究によれば、ドライエッチングにより電極を形成する工程において、プラズマ等により削られたアルミニウムが圧電基板の表面に残留してしまう。
【0016】このようなアルミニウムが圧電基板の表面に残ったままのSAWチップをパッケージのベースに組み込んで、例えば、よく使用されるCF4 ガス等のフッ素系ガスを使用してプラズマエッチングにより周波数調整を行うと、化学反応により、先ずフッ化アルミニウムが生成され、このフッ化アルミニウムが、さらに空気中の酸素と反応し、徐々にAl2 O3 が形成されてしまう。すなわち、このような変化が圧電基板表面で起こると、弾性表面波の伝搬特性が変化してしまい、周波数が異常に変動することが本発明者等により解明された。
【0017】したがって、SAWデバイスを形成する場合に、ベースにSAWチップを組み込んで周波数調整する前に、このSAWチップの形成工程において、アルミニウムもしくはアルミニウム合金による電極膜をドライエッチングで形成する場合には、先ず、圧電基板表面が露出するまで、ドライエッチングし、この露出した圧電基板表面に対して、残留アルミニウムを除去する洗浄をおこなうようにしたものである。これにより、SAWチップの圧電基板表面には、アルミニウムが残留しない状態で、ベースへの組み込みが行われ、周波数調整が行われるので、この周波数調整でフッ素系ガスを用いても、化学反応により、残留アルミニウムが空気中のフッ素、さらに酸素と結びついて、Al2 O3 が形成されることがなく、これを原因とする弾性表面波の伝搬特性の変化も防止できる。
【0018】請求項2の発明は、請求項1の構成において、前記洗浄工程では、リン酸を洗浄液として使用することを特徴とする。
【0019】請求項3の発明は、請求項1または2の構成において、前記洗浄工程の後で、前記電極パターンの表面に陽極酸化膜を形成する陽極酸化膜形成工程を有することを特徴とする。
【0020】請求項3の構成によれば、電極パターンの表面に陽極酸化膜が形成されていれば、電極パターンの表面が硬い酸化膜に保護される。このため、後の周波数調整工程にて、フッ素系ガスを用いたプラズマエッチングを行っても、これにより生じたフッ素ラジカル等の反応性フッ素により電極パターン表面が侵されることがない。
【0021】また、上記目的は、請求項4の発明によれば、圧電基板にドライエッチングにより電極パターンを形成するSAWチップを使用したSAWデバイスの製造方法であって、圧電基板上にアルミニウムにより電極膜を形成する電極膜形成工程と、前記電極膜を所定の電極パターンとなるように、圧電基板表面が露出するまでドライエッチングを行うドライエッチング工程と、前記露出された圧電基板表面の残留アルミニウムを除去するための洗浄工程と、この洗浄工程の後で、前記電極パターンの表面に陽極酸化膜を形成する陽極酸化膜形成工程と、陽極酸化膜が形成されたSAWチップを所定のパッケージのベースに固定する工程と、ベースに固定されたSAWチップまたは固定前のSAWチップに対して、フッ素系ガスを用いてプラズマエッチングすることにより周波数調整する工程とを含んでいる、SAWデバイスの製造方法により、達成される。
【0022】請求項5の発明は、請求項4の構成において、前記洗浄工程では、リン酸を洗浄液として使用することを特徴とする、
【0023】
【発明の実施の形態】以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
【0024】図1は本発明のSAWチップの好ましい実施の形態を示す斜視図であり、図1を参照して先ずSAWデバイス100について説明する。図1のSAWデバイス100はたとえばSAW共振子であって、SAWチップ110、ベース120、キャップ130等からなっている。
【0025】SAWチップ110は、圧電基板111、電極であるすだれ状電極(以下、「IDT:Interdigital Transducer」という)112、反射器113等を有している。
【0026】圧電基板111は、例えば、水晶,LiTaO3 ,LiNbO3 等の圧電材料により形成された基板であり、この実施形態では、水晶基板111が使用されている。
【0027】すだれ状電極112及び反射器113は、たとえばアルミニウム又はアルミニウムと銅等の合金からなっていて、圧電基板111の上に後述するドライエッチング工程により形成されている。
【0028】すなわち、本実施形態のSAW共振子100は、その出力周波数が高く、例えば868MHz以上の周波数である。このため、SAW共振子100では、このすだれ状電極112及び反射器113を形成する電極は細く、その幅が0.9μm程度とされている。このような細い電極を形成する工程に対応して、ドライエッチングの手法が採用されている。
【0029】上記IDT112はたとえば駆動電圧の供給により、弾性表面波を励振し、所定の周波数の振動を出力する機能を有している。反射器113、113はIDT112を挟むように形成されていて、IDT112によって励振された弾性表面波を反射して、反射器113、113内に弾性表面波を閉じこめるものである。ベース120はその中央部分に中空部121が形成された、例えばセラミック製の箱状のものであり、この中空部121にSAWチップ110がたとえば接着剤等により固定されている。また、ベース120には、その中空部121から外周底面122まで図示しない配線部が形成されていて、SAWチップ110と外部との電気的接続が図れるようになっている。そして、ベース120の電極部分はボンディング線140、140によりIDT112と電気的に接続されている。キャップ130は、板状の蓋であり、SAWチップ110を真空封止もしくは窒素雰囲気で封止するため、ベース120の上部にたとえばシーム溶接等により固定されている。尚、ベース120とキャップ130によりパッケージが構成される。
【0030】ここで、図1に示すようなSAWデバイス100を製造する際、最終的なSAWチップ110の周波数の調整は、例えば、後述するようにSAWチップ110へのボンディング線140、140の接続後であって、キャップ130による封止前に、フッ素系ガスを用いたプラズマエッチングにより行われる。
【0031】図2は、このようなSAWデバイス100を製造するための製造工程を簡単に示すフローチャートであり、図3は、SAWデバイス100に収容されるSAWチップ110の製造方法の一例を示す工程図である。
【0032】図2によれば、先ず水晶表面にアルミニウムによる電極膜を形成する(ST1)。このステップは、図3(A)及び図3(B)に示されている。
【0033】すなわち、電極パターンの形成工程は、図3R>3(A)に示すように、水晶ウェハ22の表面を純水により洗浄し、図3(B)において、この水晶ウェハ22の上にたとえばアルミニウム又はアルミニウム合金からなる電極膜23を蒸着法もしくはスパッタリング法により形成される。
【0034】次に、ST2に移り、電極膜23をエッチングによって削って電極パターン26を形成する。このステップを実行するため、先ず、図3(C)に示すように、たとえば上記電極膜23の上に所定の電極パターンに対応したフォトレジスト24が配置される。
【0035】次いで、例えば、塩素(Cl)ガス、例えば、BCl3 とCl2 及びN2の混合ガスを用いて、平行平板型装置による反応性イオンエッチングにより、電極膜23をドライエッチングする。
【0036】すなわち、上述したように、この実施形態のSAWデバイス100は、電極パターンの幅が非常に狭く、線幅0.9μm程度、膜厚0.1μm程度である。このため、従来行われていたように、リン酸を用いたウエットエッチング法を用いると、レジスト24と電極膜23との界面にエッチング液がしみ込んで、微細な幅の電極の加工を精度よく行うことができないことから、このドライエッチング工程が行われる。そして、電極膜23は、水晶基板22の表面が露出するまで、エッチングされたら、図2のST3におけるAl除去洗浄を行う(ST3)。
【0037】このST3は、図3(C)のように、まだレジスト24が除去される前に行われる。すなわち、この状態で、水晶基板22は、処理漕に搬入されて、所定の洗浄液,例えば、リン酸に浸漬されることにより、Al除去洗浄が行われる。このAl除去洗浄の条件は、摂氏25度の温度条件下で、5パーセントのリン酸水素アンモニウムの水溶液中で3分間洗浄し、その後、10分間の純水リンスをした後、スピンさせて乾燥させる。この洗浄液としてリン酸だけでなく、KOH,NaOH,LiOH,水酸化テトラメチルアンモニウム,アンモニア等の水溶液や塩素酸系のエッチング能を有する水溶液を使用してもよい。
【0038】これにより、水晶基板22の表面に上記ドライエッチング時に付着した残留Alがリン酸で洗い流されることで、除去される。次いで、レジスト24を除去して、図3(D)に示されるように、水晶基板22上にたとえばすだれ状電極112や反射器113及び配線パターン等を構成する電極パターン26が形成されることとなる。
【0039】ここで、上記Al除去洗浄は、レジスト24を除去した後で行うようにすることもできる。そして、この場合の洗浄条件は、例えば、摂氏35度の温度条件下で、85重量パーセントのリン酸で1分間洗浄し、その後、10分間の純水リンスをした後、スピンさせて乾燥させるようにする。
【0040】次に、図2のST4にて、電極パターン26上に電気化学的表面反応等により、陽極酸化膜25を被膜する。この状態は、図3(E)に示されている。
【0041】次に、図2のST5に移り、周波数調整を行う。すなわち、図3(E)までの状態では、SAWチップ110に駆動電圧を印加した場合に、その周波数特性が所望のものよりも若干高くなるように設定されている。
【0042】そこで、ST5でSAWチップ110が、フッ素系ガスを用いてプラズマエッチングされて、SAWチップ110が周波数を下げる方向に調整される。ここで、フッ素系ガスを用いるのは、これを用いるとアルミニウムはエッチングされずに、水晶のみがエッチングされるからである。このため、結果的にSAWチップ110の周波数を下げる方向に調整されることとなる。
【0043】この周波数調整で用いられるフッ素系ガスは、上記したCF4 の他、CHF3 ,F2 ,NF3 CClF3 ,C2 F6 ,CBrF3 ,CH2F2 ,CHClF2 ,C3 F8 ,CCl2 F2 ,C4 F8 ,CHCl2 F2 ,C4 F8 CHCl2 F,CBr2 F2 ,CCl3Fのうちの少なくとも1種を含むものが使用される。 そして、この周波数調整は、Al除去洗浄の後で、図4で説明するベースへのSAWチップ110の固定の前に行ってもよく、また、後述するように、ベースへのSAWチップ110の固定後に行ってもよい。そして、上述のように、電極膜23に酸化膜25を形成しておけば、この周波数調整工程(ST5)にて、フッ素系ガスを用いたプラズマエッチングを行っても、これにより生じたフッ素ラジカル等の反応性フッ素により電極パターン表面が侵されることがない。
【0044】図3(E)に示されているように、電極パターン26上に陽極酸化膜25を被膜した後は、図3(F)に示すように、Cの位置でダイシング(切断)して、ひとつひとつのSAWチップ110になるように切りわける。
【0045】完成したSAWチップ110は、図4に示すように、ベース120に組み込まれる。
【0046】先ず、図4(A)に示すようなベース120が用意され、図4(B)に示すように、SAWチップ110がベース120にたとえば接着剤11によって固定される。その後、図4(C)のように、ベース120側とワイヤーボンディングが行われて、たとえばアルミニウムワイヤーからなるボンディング線140によってSAWチップ110とベース120が電気的に接続される。
【0047】そして、図3で説明したレジスト24の除去後において、SAWチップ110のベース120への組み込み前に周波数調整を行っていない場合には、この段階でSAWチップ110にボンディング線140を介して駆動電圧を印加した場合に、その周波数特性が所望のものよりも若干高くなるように設定されている。
【0048】このため、図4(D)のように、所定の周波数調整装置を用いてSAWチップ110がフッ素系ガスによりプラズマエッチングされて、周波数を下げる方向に調整される。この周波数調整におけるフッ素系ガスの種類等は、上述した条件と同じである。
【0049】その後、図4(E)に示すように、ベース120にキャップ130をたとえばシーム溶接することで、SAWチップ110がたとえば窒素雰囲気で封止される。
【0050】本実施形態は、以上のように構成されており、以下のような利点がある。
【0051】先ず、SAWチップ110の電極形成がドライエッチングによりなされているから、微細な加工が可能で、周波数の高い高性能なSAWデバイス100を作るのに適している。
【0052】そして、ドライエッチング後の水晶表面上の微量なAl成分は、Al洗浄工程において、除去されているので、SAWチップ110の水晶表面にて、残留Al成分が反応して変化することがなく、弾性表面波の伝搬特性に悪影響を及ぼすことが防止されるので、製品の周波数特性を異常に変化させることが有効に防止され、不良品の発生を防止できるので、製品の歩留りを向上させることができる。
【0053】図5は、横軸に加工工程を、縦軸には周波数調整後の周波数を基準とした周波数変化を表したグラフである。上段に示すように、電極形成にドライエッチングを用いただけの従来のSAWデバイスでは、加工工程A(例えば封止工程)後、あるいは、これより後の工程の加工工程B(例えばアニール処理)後で、周波数調整後の周波数に対して、ばらつきとシフトが大きい。これに対して、下段の本実施形態によるAl洗浄をおこなったSAWデバイスでは、時間の経過、あるいは加工履歴が加わっても、ばらつきや周波数シフトは極端に少なくなっている。
【0054】さらに、周波数調整前にSAWチップ110の電極表面に陽極酸化膜を形成しておけば、周波数調整時に使用されるフッ素系ガスの反応性のフッ素成分により電極表面が侵されることが防止される。
【0055】図6は、電極表面での組成分析結果を示し、横軸はSiO2 スパッタエッチング速度換算に対応した電極膜23の深さを表し、縦軸に成分含有量(原子パーセント)を表している。この図6は、電極23表面に陽極酸化膜25を形成しないで、フッ素系ガスによるプラズマエッチングで周波数調整した後の電極膜23表面から深さ(SiO2 スパッタエッチング速度換算)に対応した成分状態を示しており、図7は、電極23表面に陽極酸化膜25を形成した後で、フッ素系ガスによるプラズマエッチングで周波数調整した場合の様子を示している。
【0056】図6と図7を比較すると判明するように、電極23表面に陽極酸化膜25を形成した場合には、電極23の表面付近のフッ素(F)の含有量が少ない。
【0057】このため、図8に示されているように、電極23表面に陽極酸化膜25を形成した後で、フッ素系ガスによるプラズマエッチングで周波数調整した場合Eは、電極23表面に陽極酸化膜25を形成しないで、フッ素系ガスによるプラズマエッチングで周波数調整した場合Dと比べると、周波数調整後の放置時間に応じて周波数がシフトする量が少なく、その性能が安定していることが分かる。
【0058】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、SAWチップをベースに組み込む工程においても異常な周波数変動を生じることなく、信頼性の高いSAWチップとこれを利用したSAWデバイスの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のSAWデバイスの好ましい実施の形態を示す概略斜視図。
【図2】図1のSAWデバイスに使用するSAWチップの製造工程を簡単に示すフローチャート。
【図3】図1のSAWデバイスに使用するSAWチップの製造工程を簡単に示す概略工程図。
【図4】図1のSAWデバイスに使用するSAWチップをベースに固定する工程を簡単に示す概略工程図。
【図5】図1のSAWデバイスと従来のSAWデバイスにおける加工工程に対応した周波数変化の様子を説明する図。
【図6】SAWチップの電極表面に陽極酸化膜を形成しない場合の電極膜のフッ素の含有状態を示す図。
【図7】本実施形態のSAWチップの電極表面に陽極酸化膜を形成した場合の電極膜のフッ素の含有状態を示す図。
【図8】図1のSAWデバイスと従来のSAWデバイスにおける周波数シフトの様子を比較して示す図。
【図9】従来のSAWデバイスに使用するSAWチップの製造工程を簡単に示す概略工程図。
【図10】図9のSAWデバイスに使用するSAWチップをベースに固定する工程を簡単に示す概略工程図。
【符号の説明】
100・・・SAWデバイス
110・・・SAWチップ
111・・・圧電基板(水晶基板)
112・・・電極
120・・・ベース
130・・・キャップ
140・・・ボンディング線

【特許請求の範囲】
【請求項1】 圧電基板にドライエッチングにより電極パターンを形成するSAWチップの製造方法であって、圧電基板上にアルミニウムまたはアルミニウム合金により電極膜を形成する電極膜形成工程と、前記電極膜を所定の電極パターンとなるように、圧電基板表面が露出するまでドライエッチングを行うドライエッチング工程と、前記露出された圧電基板表面の残留アルミニウムを除去するための洗浄工程とを含んでいることを特徴とするSAWチップの製造方法。
【請求項2】 前記洗浄工程では、リン酸を洗浄液として使用することを特徴とする、請求項1に記載のSAWチップの製造方法。
【請求項3】 前記洗浄工程の後で、前記電極パターンの表面に陽極酸化膜を形成する陽極酸化膜形成工程を有することを特徴とする請求項1または2に記載のSAWチップの製造方法。
【請求項4】 圧電基板にドライエッチングにより電極パターンを形成するSAWチップを使用したSAWデバイスの製造方法であって、圧電基板上にアルミニウムにより電極膜を形成する電極膜形成工程と、前記電極膜を所定の電極パターンとなるように、圧電基板表面が露出するまでドライエッチングを行うドライエッチング工程と、前記露出された圧電基板表面の残留アルミニウムを除去するための洗浄工程と、この洗浄工程の後で、前記電極パターンの表面に陽極酸化膜を形成する陽極酸化膜形成工程と、陽極酸化膜が形成されたSAWチップを所定のパッケージのベースに固定する工程と、ベースに固定されたSAWチップまたは固定前のSAWチップに対して、フッ素系ガスを用いて、プラズマエッチングすることにより周波数調整する工程とを含んでいることを特徴とする、SAWデバイスの製造方法。
【請求項5】 前記洗浄工程では、リン酸を洗浄液として使用することを特徴とする、請求項4に記載のSAWデバイスの製造方法。

【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2002−33633(P2002−33633A)
【公開日】平成14年1月31日(2002.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−217417(P2000−217417)
【出願日】平成12年7月18日(2000.7.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】