説明

SiC単結晶製造装置

【課題】種結晶近傍でのSiC多結晶の発生を抑制し得るSiC単結晶製造装置を提供する。
【解決手段】成長炉内に、原料からSiC種結晶基板上にSiC単結晶を成長させるための種結晶、該種結晶を支え且つ種結晶から熱を外部に伝達するための支持軸、原料を収容する坩堝および坩堝からの放熱を防ぐための断熱材、および炉外に設けた複数の異なる出力を放出可能なエネルギー放出体から出力されたエネルギーで発熱して成長炉内を加熱するために断熱材の内側に発熱部材が設けられているSiC単結晶の製造装置より濡れ性の低い多結晶発生阻害部が設けられてなる溶液法によるSiC単結晶製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiC単結晶製造装置に関し、さらに詳しくは成長炉内を均熱化することが可能で種結晶近傍でのSiC多結晶の発生を抑制し得るSiC単結晶製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
SiC単結晶は、熱的、化学的に非常に安定であり、機械的強度に優れ、放射線に強く、しかもSi(シリコン)単結晶に比べて高い絶縁破壊電圧、高い熱伝導率などの優れた物性を有し、不純物の添加によってp、n伝導型の電子制御も容易にできるとともに、広い禁制帯幅(4H型の単結晶SiCで約3.3eV、6H型の単結晶SiCで約3.0eV)を有するという特長を備えている。このため、Si単結晶やGaAs(ガリウム砒素)単結晶などの既存の半導体材料では実現できない高温、高周波、耐電圧・耐環境性を実現することが可能であり、次世代の半導体材料として期待が高まっている。
【0003】
従来、SiC単結晶の成長法の1つとして溶液法が知られている。この溶液法は、溶媒を入れる坩堝、例えば黒鉛坩堝、溶媒、高周波コイルなどの外部加熱装置、断熱材、昇降可能な基板支持用の炭素棒および炭素棒の先端に取付けた種結晶基板からなる基本的構造を有するSiC単結晶の製造装置を用いて、坩堝中、Si融液又はさらに金属を融解したSi合金融液(溶液ともいう)などのSi含有溶液中にC(炭素)供給源、例えば黒鉛坩堝からCを溶解させて、例えば低温部に設置したSiC種結晶基板上に原料溶液からSiC単結晶を溶液析出によって成長させる方法である。
【0004】
この溶液法によるSiC単結晶製造装置では、結晶形の良好な単結晶が得られるが、溶液に種結晶近傍の溶液温度が他の部分の溶液温度より低温になるように温度勾配を設けて成長させる方法、又は溶液全体を徐冷して成長させる方法のいずれかのSiC単結晶成長法が用いられるが、いずれも溶液の冷却の際の溶液中の温度分布や濃度分布によって多結晶の生成が避けられないことが知られている。
この多結晶生成の問題は、昇華法によるSiC単結晶の成長法においても存在する。
一方、この多結晶の生成を防止乃至は抑制する必要性は化合物半導体などの半導体単結晶の製造においても解決すべき課題であり、さまざまな検討がされている。
【0005】
例えば、特許文献1には、高圧容器内に設けられたヒーターにより加熱して原料および封止剤を溶融させ、溶液表面に種結晶を接触させて回転させながら引き上げることにより単結晶を育成する製造装置において、引き上げた結晶の上方における吸熱能力を高めるために高圧容器の少なくとも天井部分の内面がグラファイト等の輻射率が0.4よりも高い物質により被覆処理されたGaAs等の単結晶製造装置が記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、高周波加熱でSiC粉末を昇華して種結晶にSiC単結晶を育成するための、るつぼの上部、るつぼの中間部およびるつぼの底部をそれぞれ2200℃以下、2400〜2800℃、SiCの昇華温度以上2400℃以下という異なる温度に設定し得る高周波加熱コイルからの高周波の磁束により誘導された電流でコイルを加熱する製造装置が記載されている。
【0007】
また、特許文献3には、坩堝と、坩堝全体を加熱する加熱コイルのような加熱手段と、坩堝を構成する蓋体の一部を覆い前記加熱手段により発熱するシールド部材とを備えた単結晶の製造装置が記載されている。そして、具体例として、シールド部材が断熱材の外側の一部に設けられた昇華法による単結晶の製造装置が示されている。
【0008】
さらに、特許文献4には、昇華法による炭化珪素単結晶の製造装置が記載され、具体例として反応容器本体の底部に対応する高さ位置に配置された第1誘導加熱コイルと、種結晶に対応する高さ位置に配設された第2誘導加熱コイルと、前記両コイルの間に設けられた干渉防止コイルを備えた炭化珪素単結晶製造装置が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−73295号公報
【特許文献2】特開平10−101495号公報
【特許文献3】特開2009−274931号公報
【特許文献4】特開2010−132517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、これらの公知の単結晶製造装置においては、成長炉内を直接加熱するために高周波加熱コイルが備えられており、これらの技術をSiC単結晶の製造装置、特に溶液法によるSiC単結晶の製造装置に適用したのでは、溶液中の温度が不均一になることが避けられず部分的な過冷による多結晶の生成を防止乃至は抑制することが困難である。
従って、本発明の目的は、成長炉内を均熱化することが可能で種結晶近傍でのSiC多結晶の発生を抑制し得るSiC単結晶の製造装置、特に溶液法によるSiC単結晶製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、成長炉内に、原料からSiC種結晶基板上にSiC単結晶を成長させるための種結晶、該種結晶を支え且つ種結晶から熱を外部に伝達するための支持軸、原料を収容する坩堝および坩堝からの放熱を防ぐための断熱材、および炉外に設けた複数の異なるエネルギーを放出可能なエネルギー放出体から出力されたエネルギーによって発熱して成長炉内を加熱するために断熱材の内側に発熱部材が設けられているSiC単結晶製造装置に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、成長炉内を均熱化することが可能であり種結晶近傍でのSiC多結晶の発生を抑制し得る、例えば溶液法によるSiC単結晶製造装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の実施態様の溶液法によるSiC単結晶製造装置の概略図である。
【図2】図2は、従来の溶液法によるSiC単結晶製造装置の概略図である。
【図3】図3は、本発明の実施態様のSiC単結晶成長装置を用いて溶液無しの条件で坩堝内の温度分布を測定する状態を示す模式図である。
【図4】図4は、本発明の実施態様のSiC単結晶成長装置を用いて溶液無しの条件で測定した坩堝内の温度分布を示すグラフである。
【図5】図5は、本発明の実施態様のSiC単結晶成長装置を用いて溶液有りの条件で坩堝内の温度分布を測定する状態を示す模式図である。
【図6】図6は、本発明の実施態様あるいは従来技術のSiC単結晶成長装置を用いて溶液有りの条件で測定した坩堝内の深さ方向の温度分布を示すグラフである。
【図7】図7は、本発明の実施態様のSiC単結晶成長装置を用いて溶液有りの条件で高周波コイルの出力を変えて測定した坩堝内の深さ方向の温度分布を示すグラフである。
【図8】図8は、本発明の実施態様の溶液法によるSiC単結晶製造装置を用いて得られた種結晶近傍でのSiC単結晶成長写真の写しである。
【図9】図9は、従来の溶液法によるSiC単結晶製造装置を用いて得られた種結晶近傍でのSiC単結晶成長写真の写しである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
特に、本発明において、以下の実施態様を挙げることができる。
1)前記成長炉が坩堝の少なくとも上方に空間を有し、前記発熱部材が前記断熱材の内側における坩堝および空間を包囲する面全体に設けられてなる前記SiC単結晶製造装置。
2)前記発熱部材が、黒鉛製である前記SiC単結晶製造装置。
3)前記エネルギー放出体が、高周波コイルである前記SiC単結晶製造装置。
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳説する。
図1において、本発明の実施態様のSiC単結晶成長装置1は、成長炉2内に溶液法により原料溶液3からSiC種結晶基板上にSiC単結晶を成長させるための種結晶4、該種結晶を支え且つ種結晶から熱を外部に伝達するための支持軸5、原料溶液を収容する坩堝6および坩堝6からの放熱を防ぐための断熱材7、および炉外に設けた複数の異なるエネルギーを放出可能なエネルギー放出体8から出力されたエネルギーによって発熱して成長炉2内を加熱するために断熱材7の内側に発熱部材9が設けられている。
【0016】
本発明の実施態様のSiC単結晶成長装置によれば、エネルギー放出体から出力されたエネルギーを受ける発熱部材による間接的な加熱構造を有することにより、図4に示すようにそれぞれ各位置の温度を熱電対の位置を変えて測定して得られた、溶液がない場合の坩堝内の深さ方向(鉛直方向)の温度差ΔTが1.90℃/cmで溶液面方向(水平方向)の温度差ΔTが1.22℃/cmであり得て、図6に示すように、溶液がある場合の深さ方向(鉛直方向)の温度差が坩堝内の溶液内および溶液上の空間の合計でも10℃程度以内であって、ほとんどなくほぼ均一な温度分布を得ることが可能となる。
これにより、本発明の実施態様の溶液法SiC単結晶製造装置によれば、図8に示すように、種結晶近傍に多結晶が付着していないか極めて少ない。
【0017】
これに対して、従来のSiC単結晶成長装置10は、図2に示すように成長炉2内に、溶液法により原料溶液3からSiC種結晶基板上にSiC単結晶を成長させるための種結晶4、該種結晶を支え且つ種結晶から熱を外部に伝達するための支持軸5、原料溶液3を収容する坩堝6および坩堝6からの放熱を防ぐための断熱材7、場合により坩堝の一部を覆いエネルギー放出体により発熱するための断熱材7の外側に発熱部材(図示せず)、および炉外に成長炉内を加熱するためのエネルギー放出体8を備えている。
【0018】
このため、従来の溶液法SiC単結晶製造装置によれば、たとえ坩堝の一部を覆いエネルギー放出体により発熱する発熱部材を有していても上面と下面との間で熱逃げが生じ、大きな温度分布(温度勾配)の発生が避けられず、図6に示すように、坩堝内の溶液内および溶液上の空間に深さ方向(鉛直方向)に、例えば約200℃という大きな温度差が生じ得る。また、同様に坩堝内の溶液内炭素(C)濃度分布が発生する。
このため、従来の溶液法製造装置によれば、図9に示すように、種結晶に多結晶が付着する。
【0019】
本発明のSiC単結晶成長装置において、前記種結晶は任意のSiC単結晶、例えば4H−SiC、6H−SiCや3C−SiCなどであり得る。
また、本発明の前記実施態様のSiC単結晶成長装置において、坩堝は通常炭素製であって原料溶液に炭素(C)を溶出してSiCの炭素源となり得る。そして、この坩堝は単一の構成材からなるものであってもよいが、図3に示すように中坩堝および外坩堝から構成されてもよい。
【0020】
また、本発明のSiC単結晶成長装置において、支持軸は耐熱性が必要なことから炭素棒であり得て、種結晶から熱を外部に伝達するために炉外に冷却機構、例えばガス冷却機構あるいは水冷機構が設けられていてもよい。
また、本発明の実施態様のSiC単結晶成長装置において、複数の異なるエネルギーを放出可能なエネルギー放出体としては高周波エネルギーを放出する高周波コイルが挙げられる。また、本発明のSiC単結晶成長装置において、前記発熱部材は例えば黒鉛製であり得て、通常サセプターと呼ばれるものが用いられ得る。
【0021】
本発明のSiC単結晶成長装置においては、前記の構成部材を必須要件とするものであるが、図1に示すように、前記構成部材に加えて、前記成長炉2が坩堝6の少なくとも上方に空間11を有し、前記発熱部材9が前記断熱材7の内側における坩堝6および空間11を包囲する面全体に設けられ得る。
本発明の実施態様のSiC単結晶成長装置において、前記発熱部材は、一体的であり得て鉛直方向の長さが坩堝の長さの1.5倍以上、特に2倍以上であり得て、炉内の空間全体を均一に加熱し得る。
【0022】
本発明の実施態様のSiC単結晶成長装置において、複数の異なるエネルギーを放出可能なエネルギー放出体は、通常炉外に複数個設けられる。
そして、本発明の実施態様のSiC単結晶製造装置を用いれば、少なくとも2個の高周波コイルのエネルギー出力比率、例えば電流比率を変えることにより、図7に示すように、坩堝内の溶液中の深さ方向の温度分布を狭い範囲で付与することが可能となり、溶液内での対流を起こし易くなり、炭素(C)濃度の均一化が達成し得て、経時的なSiC単結晶成長の変化を抑制し得る。
【0023】
本発明の実施態様における原料溶液としては、SiとCとを必須成分とする任意の溶液を挙げることができる。例えば、Si含有溶液として、さらにTiおよび/又はCrを含むもの、例えばSi−Ti−C溶液又はNiおよびCrを含むもの、さらに前記Si、Cr、NiおよびC以外の元素であって希土類元素、遷移金属元素およびアルカリ土類金属元素のうちから選ばれるいずれか1種の元素を含むもの、例えば前記の元素がCeであるものが挙げられる。また、半導体材料用に任意のドーパントを含有し得る。
前記の原料溶液の温度は1800〜2100℃、特に1850〜2050℃程度であり得る。
【0024】
本発明の実施態様のSiC単結晶製造装置による温度の制御は、高周波コイルから出力されたエネルギーを受けた発熱部材による間接的な加熱構造によって加熱し、例えば放射温度計による溶液面の温度観察および/又は炭素棒内側に設置した熱電対、例えばW−Re(タングステン/レニューム)熱電対を用いて温度測定を行って求められた測定温度に基づいて温度制御装置(図示せず)によって行うことができる。
【0025】
本発明のSiC単結晶製造装置を用いてSiC単結晶を製造する方法においては、少なくとも2個の高周波コイルの出力比率を変えることを除いて、それ自体公知の製造法、例えば溶液法におけるそれ自体公知の製造法、例えば黒鉛坩堝の形状、加熱方法、加熱時間、雰囲気、昇温速度および冷却速度を適用することができる。
例えば、高周波コイルから出力されたエネルギーを受けた発熱部材による間接的な加熱による加熱時間(原料の仕込みからSiC飽和濃度に達するまでの凡その時間)としては坩堝の大きさにもよるが20分間〜10時間程度(例えば1〜10時間程度)で、雰囲気としては希ガス、例えばHe、Ne、Arなどの不活性ガスやそれらの一部をNやメタンガスで置き換えたものが挙げられる。
本発明のSiC単結晶製造装置を用いることによって、2000℃程度の高温、例えば1800〜2100℃、特に1850〜2050℃程度の溶液温度で長時間、例えば1時間以上、多結晶の成長を防止乃至は抑制したSiC単結晶を得ることができる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の実施例を示す。
以下の各例において、SiC単結晶成長を以下の条件で行った。
溶液温度:1900℃
ガス流量:5L/分
成長時間:1時間
【0027】
実施例1
SiC単結晶の成長を、図1に示す本発明の実施態様のSiC単結晶製造装置を用いて行った。成長量は340μmであり、種結晶近傍での多結晶付着は観察されなかった。
得られたSiC単結晶成長写真(as−grown)を図8に示す。
【0028】
比較例1
SiC単結晶の成長を、図2に示す従来のSiC単結晶製造装置を用いて行った。成長量は340μmであり、種結晶近傍での多結晶付着が観察された。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明のSiC単結晶製造装置によって、成長炉内を均熱化することが可能となり従来不可能であった溶液温度が1800〜2100℃程度の高温で結晶成長を行っても多結晶の発生を防止乃至は抑制することが可能となり、生産性高くSiC単結晶を製造し得る。
【符号の説明】
【0030】
1 本発明の実施態様のSiC単結晶製造装置
2 成長炉
3 原料溶液
4 種結晶
5 支持軸
6 坩堝
7 断熱材
8 エネルギー放出体
9 発熱部材
10 従来のSiC単結晶製造装置
11 空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成長炉内に、原料からSiC種結晶基板上にSiC単結晶を成長させるための種結晶、該種結晶を支え且つ種結晶から熱を外部に伝達するための支持軸、原料を収容する坩堝および坩堝からの放熱を防ぐための断熱材、および炉外に設けた複数のエネルギーを放出可能なエネルギー放出体から出力されたエネルギーによって発熱して成長炉内を加熱するために断熱材の内側に発熱部材が設けられているSiC単結晶製造装置。
【請求項2】
成長炉内に、溶液法により原料溶液からSiC種結晶基板上にSiC単結晶を成長させるための種結晶、該種結晶を支え且つ種結晶から熱を外部に伝達するための支持軸、原料溶液を収容する坩堝および坩堝からの放熱を防ぐための断熱材、および炉外に設けた複数のエネルギーを放出可能なエネルギー放出体から出力されたエネルギーによって発熱して成長炉内を加熱するために断熱材の内側に発熱部材が設けられている請求項1に記載のSiC単結晶製造装置。
【請求項3】
前記成長炉が坩堝の少なくとも上方に空間を有し、前記発熱部材が前記断熱材の内側における坩堝および空間を包囲する面全体に設けられてなる請求項1又は2に記載のSiC単結晶製造装置。
【請求項4】
前記発熱部材が、黒鉛製である請求項1〜3のいずれか1項に記載のSiC単結晶製造装置。
【請求項5】
前記エネルギー放出体が、高周波コイルである請求項1〜4のいずれか1項に記載のSiC単結晶製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−184120(P2012−184120A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46400(P2011−46400)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】