説明

Tie2活性化剤、血管の成熟化、正常化又は安定化剤、リンパ管安定化剤並びにしわ防止・改善剤及びむくみ改善・予防剤

【課題】新規なTie2活性化剤、血管の成熟化、正常化若しくは安定化剤、リンパ管安定化剤、並びにこれらの剤を配合することを特徴とするしわ防止・改善剤及びむくみ改善・予防剤の提供。
【解決手段】本発明は、アキグミ、オカヒジキ、ハリギリ、リョウブ、ヤブカンゾウ、ハスイモ、ミツバウツギ、クサギ、ムベ、サンショウソウ、コナラ及びクヌギから成る群から選ばれる1又は複数の植物の抽出物から成るTie2活性化剤、血管の成熟化、正常化若しくは安定化剤、リンパ管安定化剤、並びにこれらの剤を配合することを特徴とするしわ防止・改善剤及びむくみ改善・予防剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アキグミ、オカヒジキ、ハリギリ、リョウブ、ヤブカンゾウ、ハスイモ、ミツバウツギ、クサギ、ムベ、サンショウソウ、コナラ及びクヌギの植物体またはその抽出物から選ばれる一種又は二種以上を含むことを特徴とする新規なTie2(Tyrosine Kinase with Ig and EGF Homology Domain 2)活性化剤(Tie2リン酸化剤)、血管の成熟化、正常化若しくは安定化剤、リンパ管安定化剤、並びにしわ防止・改善剤及びむくみ改善・予防剤を提供する。
【背景技術】
【0002】
血管は血管内皮細胞に対して、血管内皮細胞の外腔面から、血管壁細胞と総称される血管平滑筋細胞やペリサイトが、細胞外マトリックスを介して、あるいは直接的に接着している。血管径の大きさによっては内皮細胞と壁細胞の接着する比率が異なり、大血管系では、1層の内皮細胞に、複数層の壁細胞が裏打ちしており、中、小血管では、内皮細胞1細胞に壁細胞が1細胞裏打ちするものが多く、また、さらに径の細い血管では、1個の壁細胞が複数の内皮細胞に接着している。このように、壁細胞が血管内皮細胞に対し裏打ちすることは血管の構造的な「成熟化」過程にとって重要である。また、血管内皮細胞同士の接着により、血管内環境因子(細胞および液性因子)が容易には血管外に漏出しないような内皮細胞間の接着斑を形成することが、機能的な血管の「成熟化」過程にとって重要である。さらに、組織の酸素や栄養分の需要に応じて、とくにそれらが不足する際には、血管は管腔を拡大化させることで血流を増加させ、酸素、養分を組織に十分に行き渡らせるように調節する。つまり、血管内皮細胞同士が接着斑を形成することで透過性を制御し、血管内皮細胞が壁細胞の裏打ちを伴うことにより構造的安定化させ、血管腔を大中小に制御していく過程を、「血管成熟化」と定義する。
【0003】
また、種々の病態では、構造の乱れた血管が構築され、内皮細胞同士の接着が抑制されたり、壁細胞の内皮細胞への接着が欠損した未熟な血管が形成されている。これらが無秩序な血管透過性の亢進を招くことで、組織内と血管内の液性因子や細胞の交通が異常となる。透過性が亢進すれば組織浮腫が生じ、組織の機能不全の原因となり、また炎症細胞の浸潤が無秩序に生じることで炎症を招く。さらに壁細胞は既存の血管からの血管の発芽を抑制していることから、壁細胞の伴わない血管からは血管の発芽が過剰となり、無秩序な血管の発芽が誘導され病態の悪化をもたらす。このような現象は、糖尿病性網膜症や腫瘍、炎症に代表される病態で観察される。つまり、血管透過性の破たんした血管や血管の無秩序な増生をまねくような異常な血管を、内皮細胞同士の接着をたかめ、壁細胞の内皮細胞への裏打ちを促進することにより、血管を正常な状態にすることを「血管正常化」と定義する。また、上記のような異常な血管は、糖尿病、高脂血症、高血圧などにより、血流内外環境因子の変化が内皮細胞や壁細胞に障害(細胞死など)を与えたり、がんや炎症により血管新生促進因子の過度の産生上昇が引き金になって生じる。このような病態が発生した際に、既存の血管に対する障害を抑制し、内皮細胞同士の解離を抑制したり、内皮細胞と壁細胞の解離を抑制することを「血管安定化」と定義する。また、この安定化には内皮細胞の細胞死を抑制する機構も含まれる。
【0004】
血管新生とは既存の血管から新たな血管のネットワークが形成される現象であり、腫瘍、慢性関節リウマチ、糖尿病網膜症、高脂血症、高血圧などの血管病変を主体とした疾患と深く関わっている。VEGF(vascular endothelial growth factor:血管内皮細胞増殖因子)が分子クローニングされたのを皮切りに血管形成に特異的に作用する因子としてVEGFファミリーとアンジオポエチン(angiopoietin;Ang)ファミリーの分子が次々に同定されてきた。VEGFとその受容体は脈管形成とよばれる血管の初期発生からその後の血管新生に至るまで非常に広い範囲の血管形成に関与する。一方、Angは脈管形成後、血管内皮細胞による発芽、分枝、嵌入、退縮などの細胞現象を伴った管腔形成において機能する。Angは血管内皮細胞に発現する受容体型チロシンキナーゼTie-2を介し、血管内皮細胞と、周皮細胞(ペリサイト)や血管平滑筋細胞のような血管壁細胞との接着を制御し、血管の構造的安定化に機能している(非特許文献1:実験医学 Vol.20, No.8 (2002) pp.52-57)。
【0005】
これまでにAng-1〜4までの4つのアイソフォームが知られ、Ang-1, Ang-2はヒト、マウスいずれにも存在するが、Ang-3はマウス、Ang-4はヒトに存在する。壁細胞から分泌されたAng-1,-4はTie-2を刺激し細胞内チロシンキナーゼドメインの自己リン酸化を惹起し、インテグリンの活性化、焦点接着キナーゼ(focal adhesion kinase; FAK)の活性化、PI3K/Akt(phosphatidylinositol-3-kinase;PI3K, serine-threonine kinase: Akt)の活性化を伴い、内皮細胞と壁細胞の接着を誘導する。正酸素状態では内皮細胞は壁細胞が恒常的に分泌するAng-1,-4により内皮細胞-壁細胞間の接着が維持されているが、局所的に低酸素状態が生じると、Ang-1,-4のアンタゴニストであるAng-2,-3の産生が高まり、Tie2の活性化を一時的に抑制し、内皮細胞とそれを裏打ちした壁細胞の接着が抑制される。そして壁細胞の解離により内皮細胞は増殖し発芽的血管新生を開始し、新しい血管網の形成に至る。Tie2の活性化は内皮細胞と壁細胞の接着を誘導することで、血管構造の安定化に寄与し、また、内皮細胞同士の接着を促進して血管透過性を制御する。また、Tie2の活性化は、内皮細胞の細胞死を抑制することも知られていることから(非特許文献2:Cho CH, Kammerer RA, Lee HJ, Yasunaga K, Kim KT, Choi HH, Kim W, Kim SH, Park SK, Lee GM, Koh GY. Designed angiopoietin-1 variant, COMP-Ang1, protects against radiation-induced endothelial cell apoptosis. Proc Natl Acad Sci U S A. 2004 Apr 13;101(15):5553-8)、種々の細胞内外の血管構造を破たんさせる環境因子に対しては、Tie2の活性化を誘導して、血管の不安定化を抑制して、血管を安定化および正常化させることが可能である。また、血管再生医療において、血管内皮細胞によって構築された血管においては、Tie2の活性化を誘導することにより、内皮細胞と壁細胞の接着を誘導して血管の成熟化が可能である。また、腫瘍や糖尿病性網膜症などで観察される、壁細胞が内皮細胞に接着しないことによる無秩序な血管が増生するような疾患では、Tie2の活性化により、壁細胞を内皮細胞に接着させ、血管を正常化させることが可能である。また文献によれば(非特許文献3:Thurston G, Suri C, Smith K, McClain J, Sato TN, Yancopoulos GD, McDonald DM. Leakage-resistant blood vessels in mice transgenically overexpressing angiopoietin-1. Science. 1999 Dec 24;286(5449):2511-4)、Tie2の活性化は、血管腔を拡大化することが報告されており、血管狭小化あるいは血管拡大化の抑制が原因となって生じる虚血性疾患においてはTie2の活性化により、血管腔を拡大化して病態の改善を図ることが可能である。
【0006】
また最近ではAngの構造上の特徴であるcoiled-coiledドメインとfibrinogen-likeドメインを有する複数の分子が発見されている。これらはいずれもTie-1受容体、Tie-2受容体に結合能を示さないため、既存のAngファミリーとは異なる分子群とみなされ、アンジオポエチン様因子(Angiopoietin-like protein; Angptl)と命名され、Angptl-1,-2,-3,-4,-5,-6,-7が報告されている。いずれのAngptlも受容体は現時点では同定されていないオーファンリガンドであるが、これらにも多様な作用を示すことが期待される。
【0007】
血管内皮細胞以外ではTie2の活性化は細胞の休眠状態を誘導することが知られている。これまでの報告によると、造血幹細胞上のTie2の活性化が造血幹細胞の休眠を誘導することが報告されている(非特許文献4:Arai F, Hirao A, Ohmura M, Sato H, Matsuoka S, Takubo K, Ito K, Koh GY, Suda T. Tie2/angiopoietin-1 signaling regulates hematopoietic stem cell quiescence in the bone marrow niche. Cell. 2004 Jul 23;118(2):149-61)。つまり、Tie2の活性化を誘導することで、造血幹細胞の試験管内での生存を長期維持できることが可能となる。また、これまでの報告によれば、Tie2の活性化がインテグリンなどの接着因子の活性化により、細胞外マトリックスなどへの細胞の接着を誘導することが知られている(非特許文献5:Takakura N, Huang XL, Naruse T, Hamaguchi I, Dumont DJ, Yancopoulos GD, Suda T. Critical role of the TIE2 endothelial cell receptor in the development of definitive hematopoiesis. Immunity. 1998 Nov;9(5):677-86)。このような細胞接着の誘導により、Tie2の活性化によって造血幹細胞は足場依存的な生存維持が生体内外で誘導可能となると考えられる。さらに、近年の報告によると、がんの組織中に存在する最も悪性度の高いとされ、がんの再発に関与するとされているがん幹細胞において、Tie2の発現が示唆されてきている(非特許文献6:Lee OH, Xu J, Fueyo J, Fuller GN, Aldape KD, Alonso MM, Piao Y, Liu TJ, Lang FF, Bekele BN, Gomez-Manzano C. Expression of the receptor tyrosine kinase Tie2 in neoplastic glial cells is associated with integrin beta1-dependent adhesion to the extracellular matrix. Mol Cancer Res. 2006 Dec;4(12):915-26)。Tie2の活性化が、造血幹細胞の細胞周期を休眠状態に陥らせることが可能なように、がん幹細胞に発現するTie2の活性化によっても、がん幹細胞の増殖を抑制することが可能である。
【0008】
血管系とは別個に組織液の排水路を形成するものがリンパ管である。リンパ管は、末梢組織で血管から漏出した間質液、タンパク質、脂肪、細胞などを血管系へと環流することにより血液量を一定に保ち、閉鎖循環系を維持する。皮膚に存在する毛細血管では、内皮細胞の外側を基底膜が取り囲み、さらに周皮細胞が付着している。一方、毛細リンパ管では、内皮細胞の外には基底膜がほとんどなく、周皮細胞の付着もない。この構造が、効率よく間質から体液や細胞を取り込むために役立っている(非特許文献7:実験医学 Vol. 24, No. 18 (2006), pp. 133-138)。これまでに、チロシナーゼ型受容体VEGFR(vascular endothelial growth factor receptor)-3がリンパ管内皮細胞に特異的に発現することが示され、そのリガンドであるVEGF-CおよびVEGF-Dがリンパ管の新生を誘導することが示された。また、VEGF-Aはリンパ管内皮細胞に発現するVEGFR2を介してリンパ管新生を誘導していることが明らかになった(非特許文献8:Jussila L and Alitalo K, (2006) Vascular growth factors and lymphangiogenesis. Phisiol Rev 82:673-700)。さらに、リンパ管の機能に関しては、以下の報告がある。VEGF-Aを発現するアデノウイルスを感染させたマウス耳では、顕著なリンパ管新生が見られたが、構造的な異常とともに、コロイダルカーボンを耳に注入した実験から、リンパ管の回収機能も顕著に阻害されていることが明らかになった(非特許文献9:Nagy et al., (2002) Vascular permeability factor/ vascular endothelial growth factor induces lymphangiogenesis as well as angiogenesis. J Exp Med 196: 1497-1506)。つまり、リンパ管の機能にはリンパ管内皮細胞が適切に配置して裏打ちされていることが必要であると考えられる。これをわれわれは「リンパ管の安定化」と定義する。
【0009】
皮膚に対する物理的あるいは化学的刺激は血管新生やVEGF-Aなどによる血管透過性を誘導して、この結果組織液の貯留と浮腫が生じる。一方で、これらの刺激は直接的にリンパ管の新生・拡張を誘導することも知られている。これまでに、紫外線炎症によってリンパ管の拡張が観測され、染料を注入した実験からリンパ管の機能が障害されていることが明らかになった。血管拡張に伴う水分の真皮内への漏出にともない、リンパ管は拡張して間質液を回収しようとしていると考えられる。しかしながら、過剰なリンパ管の拡張はその回収機能を逆に低下させ浮腫を遅延していると考えられた(非特許文献10:Kajiya K., Hirakawa S., and Detmar M., (2006) VEGF-A mediates UVB-induced impairment of lymphatic vessel function. Am J Pathol 169: 1496-1503)。つまり、組織間液の速やかな回収には、リンパ管の過剰な拡張を誘導しないような“リンパ管の安定化”が必要であると考えられる。
【0010】
これまでに、リンパ管の機能不全が関与する病態としては、先天性リンパ浮腫とともに、フィラリア、手術、悪性腫瘍、炎症にともなう二次性のリンパ浮腫、が知られている。先天性のリンパ浮腫としてはMilroy病、Meige病、lymphedema-distichiasis症候群がある。Milroy病ではリンパ管の無形成や低形成が報告され、一方でlymphedema-distichiasis症候群ではリンパ管の過形成が報告されている。これらからも、リンパ管の新生だけではなくリンパ管の安定化によって回収機能を保持することが必要であると考えられる(非特許文献11:実験医学 Vol. 24, No. 18 (2006), pp. 139-143)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】実験医学 Vol.20, No.8 (2002) pp.52-57
【非特許文献2】Proc Natl Acad Sci U S A. 2004 Apr 13;101(15):5553-8
【非特許文献3】Science. 1999 Dec 24;286(5449):2511-4
【非特許文献4】Cell. 2004 Jul 23;118(2):149-61
【非特許文献5】Immunity. 1998 Nov;9(5):677-86
【非特許文献6】Mol Cancer Res. 2006 Dec;4(12):915-26
【非特許文献7】実験医学 Vol. 24, No. 18 (2006), pp. 133-138
【非特許文献8】Phisiol Rev 82:673-700
【非特許文献9】J Exp Med 196: 1497-1506
【非特許文献10】Am J Pathol 169: 1496-1503
【非特許文献11】実験医学 Vol. 24, No. 18 (2006), pp. 139-143
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、新規なTie2活性化剤の提供、延いては、血管の成熟化、正常化、安定化剤、並びに、リンパ管の安定化を図り、リンパ管の回収機能を維持・亢進するのに有効な薬剤の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
紫外線Bの照射を受けた皮膚組織中での挙動について詳細に検討したところ、紫外線照射により内皮細胞と壁細胞の接着が抑制され、Tie2のリン酸化(活性化)が抑制された状態に誘導されること、そして、Tie2を強制発現した細胞に様々な生薬エキスを作用させて検討した実験から、ニッケイ(Cinnamomum)属植物由来のケイシ抽出物等にはTie2を活性化する作用があること、が見出されている(国際公開番号WO2009/123211)。また、同特許公報では、紫外線Bの照射により光老化を惹起させたマウス皮膚にケイシ抽出物を塗布した結果、同抽出物を塗布することにより改善作用が具体的に示されている。このように、同抽出物はTie2リン酸化により内皮細胞―壁細胞間の接着を改善、促進し、安定な血管構造を形成し、延いてはUVB誘導性の皮膚損傷およびしわ形成を回復することが確認されている。従って、Tie2活性化が血管の成熟化、正常化又は安定化に寄与していることが明らかにされている。
【0014】
一方、Tie2とリンパ管との関係についてAng-1とリンパ管内皮細胞で発現しているTie2との関係に着目してAng-1の機能についてリンパドレナージュアッセイにより調べた結果、Ang-1はTie2の活性化を介してリンパ管の回収機能を促進することが明らかとされている(国際出願番号PCT/JP2009/061047)。従って、Tie2活性化は、血管の成熟化、正常化又は安定化のみならず、リンパ管の安定化に寄与しリンパの流れを促進することが明らかにされている。
【0015】
本発明者がTie2活性化能を有する様々な生薬エキスについてスクリーニングを行ったところ、特定の植物抽出物に優れたTie2活性を有することを見出し、以下の発明を完成するに至った:
(1)アキグミ、オカヒジキ、ハリギリ、リョウブ、ヤブカンゾウ、ハスイモ、ミツバウツギ、クサギ、ムベ、サンショウソウ、コナラ及びクヌギの植物体またはその抽出物から選ばれる一種又は二種以上を含むことを特徴とするTie2活性化剤。
(2)アキグミ、オカヒジキ、ハリギリ、リョウブ、ヤブカンゾウ、ハスイモ、ミツバウツギ、クサギ、ムベ、サンショウソウ、コナラ及びクヌギの植物体またはその抽出物から選ばれる一種又は二種以上を含むことを特徴とする、血管の成熟化、正常化又は安定化剤。
(3)アキグミ、オカヒジキ、ハリギリ、リョウブ、ヤブカンゾウ、ハスイモ、ミツバウツギ、クサギ、ムベ、サンショウソウ、コナラ及びクヌギの植物体またはその抽出物から選ばれる一種又は二種以上を含むことを特徴とする、リンパ管の安定化剤。
(4)(1)のTie2活性化剤、(2)の血管の成熟化、正常化又は安定化剤、あるいは(3)のリンパ管安定化剤のいずれかを含んで成るしわ予防・改善剤。
(5)(1)のTie2活性化剤、(2)の血管の成熟化、正常化又は安定化剤、あるいは(3)のリンパ管安定化剤のいずれかを含んで成るむくみ改善・予防剤。
(6)リョウブの植物体又はその抽出物を含むことを特徴とする、しわ予防・改善剤。
(7)アキグミ、オカヒジキ、リョウブ、クサギ、コナラ、クヌギの植物体又はその抽出物から選ばれる一種又は二種以上を含むことを特徴とする、むくみ改善・予防剤。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、アキグミ、オカヒジキ、ハリギリ、リョウブ、ヤブカンゾウ、ハスイモ、ミツバウツギ、クサギ、ムベ、サンショウソウ、コナラ及び/又はクヌギの植物体又はその抽出物はTie2を活性化し、それにより血管が成熟化、正常化又は安定化され、そして/あるいはリンパ管が安定化され、その結果、しわ、むくみの改善などが図られることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】アキグミ、オカヒジキ、ハリギリ、リョウブ、ヤブカンゾウ、ハスイモ、ミツバウツギ、クサギ、ムベ、サンショウソウ、コナラ又はクヌギの抽出物を添加した場合の、正常ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)におけるリン酸化Tie2量の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳述する。
Tie2活性化剤
1つの観点において、本発明はアキグミ、オカヒジキ、ハリギリ、リョウブ、ヤブカンゾウ、ハスイモ、ミツバウツギ、クサギ、ムベ、サンショウソウ、コナラ及びクヌギの植物体またはその抽出物から選ばれる一種又は二種以上を含むことを特徴とするTie2活性化剤を提供する。
【0019】
本発明のTie2活性化剤は、優れたTie2活性化能を有しているため、飲食品(例えばサプリメント、飲料)、医薬品(例えば皮膚外用剤、内服薬)、医薬部外品、又は化粧料の材料として好適である。
【0020】
本発明で使用する植物の分類及びその生薬としての既知の効能等は以下のとおりである。
本発明で用いられるアキグミ(学名:Elaeagnus umbellata Thunb.)は、ヤマモガシ目(Proteales)、グミ科(Elaeagnaceae)、グミ属(Elaeagnus)の植物であり、滋養強壮、止血、収斂、利尿など(「原色牧野和漢薬草大図鑑」三橋博監修、北隆館発行)、胃腸(葉と皮)、風邪薬(根)、そして中国では根、葉、果実を咳、下痢、淋病など(「世界有用植物事典」堀田満編、平凡社発行)に用いられている。特開2001−226218では、乾燥肌改善、肌へのつや、はり作用が記載されている。
【0021】
本発明で用いられるオカヒジキ(学名:Salsola komarovii Iljin)は、ナデシコ目(Caryophyllales)、アカザ科(Chenopodiaceae)、オカヒジキ属(Salsola)の植物であり、民間で高血圧症に用いられる。古くは炭酸ソーダの製造に用いたことがある (「牧野和漢薬草大図鑑」)。
【0022】
本発明で用いられるハリギリ(学名:Kalopanax septemlobus (Thunb.) Koidz.)は、セリ目(Apiales)、ウコギ科(Araliaceae)、ハリギリ属(Kalopanax)の植物である。ハリギリ中のカロサポニンには刺激性去痰作用があるとされ、民間では古くから去痰薬として用いられている。また痔出血、打撲傷、リウマチの痛みなどにも用いられる(「原色牧野和漢薬草大図鑑」)。ハリギリの根皮や樹皮は中医方で腰膝疼痛、打身、痔疾、去痰の薬とされる(「世界有用植物事典」)。特開平8−283172号公報では、ハリギリを含む活性酸素除去剤及びこれを含有する皮膚外用剤が記載されている。
【0023】
本発明で用いられるリョウブ(学名:Clethra barbinervis Siebold et Zucc)は、ツツジ目(Ericales)、リョウブ科(Clethraceae)、リョウブ属(Clethra)の植物であり、ガンや風邪の予防、精神安定の効果があると言われている。
【0024】
本発明で用いられるヤブカンゾウ(学名:Hemerocallis fulva L. var. kwanso Regel)は、ユリ目(Liliales)、ユリ科(Liliaceae)、ワスレグサ属(Hemerocallis)の植物である。ヤブカンゾウは解熱と利尿に用いられることが知られており(「牧野和漢薬草大図鑑」)、紫外線などにより引き起こされる酸化反応、炎症反応が原因の荒れ肌や皮膚の黒化を改善することが知られている。例えば、特開2006-52165では皮膚外用組成物(抗酸化、抗炎症、美白作用)として、特開2007-197440では美容痩身用として、特開2007-297372では脂肪分解促進剤として、特開2008-50326では化粧料(抗炎症、抗アレルギー、ラジカル消去作用)として用いられている。
【0025】
本発明で用いられるハスイモ(学名:Colocasia gigantea (Blume) Hook.f.)は、オモダカ目(Alismatales)、サトイモ科(Araceae)、サトイモ属(Colocasia)の植物であり、 日本の栽培品種はもっぱら葉柄(芋がら)を食用とする(「世界有用植物事典」)。特開2006−333837ではビフィズス菌増殖促進剤として用いられている。
【0026】
本発明で用いられるミツバウツギ(学名:Staphylea bumalda DC.)は、ムクロジ目(Sapindales)、ミツバウツギ科(Staphyleaceae)、ミツバウツギ属(Staphylea)の植物である。伝承的に果実は、乾燥させて下痢止めなどに用いられることが知られており、空咳、婦人の産後の血不浄を改善するとされている(「中薬大辞典」)。
【0027】
本発明で用いられるクサギ(Clerodendrum trichotomum Thunb.)は、シソ目(Lamiales)、クマツヅラ科(Verbenaceae)、クサギ属(Clerodendrum)の植物である。クサギの茎と根は民間で強心利尿薬に用い、果皮も同様に用いる。鎮痛効果もある。茎葉には降圧作用、鎮静作用のあることが報告されており、リウマチ、半身不随、高血圧、でき物などに用いられ、根は利尿、健胃、解熱などに用いられる(「牧野和漢薬草大図鑑」)。中医方では、枝および葉が高血圧、偏頭痛、マラリア、下痢、痔などを改善することが知られている(「世界有用植物事典」)。特開2002-179581では皮膚老化防止剤(活性酸素除去作用を有する皮膚老化防止剤)として、特開2000-178198では細胞賦活剤(線維芽細胞賦活作用による老化予防)として、特開2003-113064では美白、肌荒れ改善、肌のハリ・シワ改善効果を有する皮膚外用剤として、特開2002-179581ではエラスターゼ阻害剤等として用いられている。
【0028】
本発明で用いられるムベ(学名:Stauntonia hexaphylla (Thunb.) Decne.)は、キンポウゲ目(Ranunculales)、アケビ科(Lardizabalaceae)、ムベ属(Stauntonia)の植物である。ムベの果実の果皮と果肉中の成分には回虫、ぎょう虫に対する駆虫作用があることが知られ、未熟のものが過熱したものより高い駆虫作用があるとされる。また種子や葉にも駆虫作用があるといわれている。民間では茎、根及び果皮が強心、利尿薬として用いられる(「牧野和漢薬草大図鑑」)。中国では、果実や種子は駆虫薬に用いられ、茎や根は強心、利尿薬に用いられる。根には鎮痛、鎮静作用があることが知られている(「世界有用植物事典」)。
【0029】
本発明で用いられるサンショウソウ(学名:Pellionia minima Makino)は、イラクサ目(Urticales)、イラクサ科(Urticaceae)、サンショウ属(Pellionia)の植物であり、中国では民間薬として捻挫に用いられている(「世界有用植物事典」)。また特開2007-70336では育毛組成物に追加してよい天然物として例示され、WO2007/004390では糖尿病、内分泌疾患、血液系疾患、悪性腫瘍、結核などの疾患における悪液質の治療用または予防用の製剤及び食品に追加してよい天然物として例示されている。
【0030】
コナラ(学名:Quercus serrata Murray)はブナ目(Fagales)、ブナ科(Fagaceae)、コナラ属(Quercus)の植物である。コナラの樹皮、葉に含まれるタンニンには収斂作用があり、中国の民間ではタンニンを多量に含む近縁種のカシワの樹皮を収斂性止血、消炎、止瀉薬として吐血、鼻血、血痔、淋病、悪瘡、赤痢、下痢に用いている(「牧野和漢薬草大図鑑」)。
【0031】
クヌギ(学名:Quercus acutissima Carruth.はブナ目(Fagales)、ブナ科(Fagaceae)、コナラ属(Quercus)の植物である。クヌギは腸を渋らせ、止瀉、収斂し、痔の出血を治すことが知られている(「牧野和漢薬草大図鑑」)。また、中医方では堅果は下痢に、殻斗は下痢、脱肛、帯下に、樹皮および根皮も下痢、解毒などに用いられる(「世界有用植物事典」)。なお、特開2006-249018号には、ブナ科コナラ属植物の溶媒抽出物にコラゲナーゼ活性阻害効果があること、特開平11-193243号には活性酸素種消去作用を有することが例示されている。
【0032】
上記植物の抽出物はいずれも、Tie2活性化、Tie2活性化に伴う血管の成熟化、正常化又は安定化、あるいはリンパ管安定化、延いては、しわ、むくみの改善等の効果を奏することは知られておらず、本発明者らによって、初めて見出されたものである。
【0033】
尚、本発明で使用する各植物の植物体又はその抽出物とは、各々の植物体の各種部位(花、花穂、果皮、果実、茎、葉、枝、枝葉、幹、樹皮、根茎、根皮、根、種子又は全草など)をそのまま又は乾燥したものを粉砕して乾燥粉末としたもの、あるいはそのまま又は乾燥・粉砕後、溶媒で抽出したものである。
【0034】
抽出物の場合、抽出に用いられる抽出溶媒は通常抽出に用いられる溶媒であれば何でもよく、特にメタノール、エタノールあるいは1,3−ブチレングリコール等のアルコール類、含水アルコール類、アセトン、酢酸エチルエステル等の有機溶媒を単独あるいは組み合わせて用いることができ、このうち特に、アルコール類、含水アルコール類が好ましく、特にメタノール、エタノール、1,3−ブチレングリコール、含水エタノールまたは含水1,3−ブチレングリコールが好ましい。また前記溶媒は、室温乃至溶媒の沸点以下の温度で用いることが好ましい。
【0035】
抽出方法は特に制限されるものはないが、通常、常温から、常圧下での溶媒の沸点の範囲であれば良く、抽出後は濾過又はイオン交換樹脂を用い、吸着・脱色・精製して溶液状、ペースト状、ゲル状、粉末状とすれば良い。更に多くの場合は、そのままの状態で利用できるが、必要ならば、その効果に影響のない範囲で更に脱臭、脱色等の精製処理を加えても良く、脱臭・脱色等の精製処理手段としては、活性炭カラム等を用いれば良く、抽出物質により一般的に適用される通常の手段を任意に選択して行えば良い。
【0036】
植物体の抽出部位としては、ハリギリの場合枝が、リョウブ、ハスイモ、ミツバウツギ、ヤブカンゾウの場合葉が、オカヒジキの場合地上部が、そしてアキグミ、クサギ、ムベ、コナラ、クヌギの場合果実が、そしてサンショウの場合全草が抽出部位として使用されうるが、抽出部位はこれらに限定されない。
【0037】
上記溶媒で抽出して得られた抽出物をそのまま、あるいは例えば凍結乾燥などにより濃縮したエキスを使用でき、また必要であれば吸着法、例えばイオン交換樹脂を用いて不純物を除去したものや、ポーラスポリマー(例えばアンバーライトXAD−2)のカラムにて吸着させた後、所望の溶媒で溶出し、さらに濃縮したものも使用することができる。
【0038】
本発明のTie2活性化剤は、前記植物体又はその抽出物の一種または二種以上からなるものであることが好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲において、他の種々の成分を含有することができる。
【0039】
本発明のTie2活性化剤は、皮膚外用剤に配合してヒト及び動物に用いることができるほか、各種飲食品、飼料に配合して摂取させることができる。
【0040】
また医薬製剤として、ヒト及び動物に投与することができる。この際、皮膚外用剤、飲食品などの剤型・形態により乾燥、濃縮又は希釈などを任意に行い調整すれば良い。
【0041】
Tie2の活性化とは、Tie2をリン酸化することでその活性体(リン酸化Tie2)に変換できる能力をいう。Tie2の活性化剤として、アンジオポエチン1(Ang-1)などがTie2を活性化するものとして知られていた。
【0042】
アキグミ、オカヒジキ、ハリギリ、リョウブ、ヤブカンゾウ、ハスイモ、ミツバウツギ、クサギ、ムベ、サンショウソウ、コナラ及び/又はクヌギの植物体、又は抽出物は、抽出物そのものをTie2活性化剤として使用することができる。また、濃度依存的にTie2活性化作用を示す。従って、このような観点からは、アキグミ、オカヒジキ、ハリギリ、リョウブ、ヤブカンゾウ、ハスイモ、ミツバウツギ、クサギ、ムベ、サンショウソウ、コナラ及び/又はクヌギの抽出物の配合量は、配合する組成物の剤形により異なるが、配合組成物全量中、乾燥物として0.0001〜20.0質量%、好ましくは0.0001〜10.0質量%である。
【0043】
血管の成熟化、正常化又は安定化剤
別の観点において、本発明は、アキグミ、オカヒジキ、ハリギリ、リョウブ、ヤブカンゾウ、ハスイモ、ミツバウツギ、クサギ、ムベ、サンショウソウ、コナラ及びクヌギの植物体又は植物の抽出物から選ばれる一種又は二種以上を含むことを特徴とする、血管の成熟化、正常化又は安定化剤を提供する。
【0044】
本発明に係る血管の成熟化、正常化又は安定化剤は、血管の構造変化を原因とする、種々の疾患および老化の予防、改善に有効な医薬品または化粧品として利用できる。本発明の血管の成熟化、正常化又は安定化剤は、血管の正常化、安定化を誘導することにより、種々の炎症性疾患や免疫疾患、成人病など、例えば、種々の感染症、がん、関節リウマチ、痛風、高血圧、糖尿病、動脈硬化症、アトピー性皮膚炎などにおいて、血管新生や血管の破たんを伴う全身の病変部位の改善を図る医薬品として利用できる。また、血管透過性の抑制により、皮膚を含め臓器、器官、各種組織内の浮腫、たとえば炎症性疾患や免疫疾患、成人病による血管浮腫や、紫外線暴露や虫さされ、アレルギーなどによる血管透過性亢進による浮腫やかゆみなどの症状を改善する医薬品または化粧品として利用できる。さらに、Tie2リン酸化剤は、種々の要因によって誘導される内皮細胞の細胞死、たとえば炎症性疾患や免疫疾患、成人病など、例えば、種々の感染症、がん、関節リウマチ、痛風、高血圧、糖尿病、動脈硬化症、または放射線障害、種々の薬剤や紫外線による内皮細胞の細胞死を抑制して、血管の不安定化を抑制できる医薬品または化粧品として利用できる。本発明の血管の成熟化、正常化又は安定化剤は、血管成熟化や血管腔を拡大化することにより、外傷や縟そうなど創傷治癒の促進、血管再生医療における血管の成熟化、虚血性疾患、たとえば脳梗塞や心筋梗塞の改善剤として医薬品に利用でき、また、血流改善効果を利用して、腰痛症、凍傷、脱毛症などに対する内服および外用医薬品としても利用できる。脳血流の増大においては、痴呆症への応用も可能である。脱毛症に対しては、化粧品としての利用も可能である。また、がんにおいては、がん細胞の休眠を誘導する治療薬として、幹細胞においてはその生体内外での維持薬として利用が可能である。
【0045】
光老化とは、一般に日光に対する被曝が繰り返された結果として認められる皮膚の外見及び機能の変化を意味する。日光の構成要素である紫外線(UV)、特に中間UV(UVBと呼ばれる、波長290−320nm)が主として光老化を引き起こす。光老化を引き起こすのに必要なUVBの被曝量は現在のところ知られていない。しかしながら、紅斑や日焼けを引き起こすレベルでのUVBに対する繰り返しの被曝が、通常光老化に結びつく。臨床的には、光老化は肌荒れ、しわの形成、斑の着色、土色化、たるみの形成、毛細管拡張症の発症、ほくろの発生、紫斑病の発症、傷つき易くなる、萎縮、繊維症的色素除去領域の発生、前悪性腫瘍及び悪性腫瘍の発症等として特定され得る。光老化は普通、顔、耳、頭、首、と手のような、日光に習慣的に曝される皮膚に起こる。皮膚における老化においては、皮膚障害や紫外線に対する暴露による光老化が主因となるが、本Tie2リン酸化剤は、光老化の原因となる血管障害を抑制することにより、光老化の改善に利用できる。
【0046】
リンパ管安定化剤
別の観点において、本発明は、アキグミ、オカヒジキ、ハリギリ、リョウブ、ヤブカンゾウ、ハスイモ、ミツバウツギ、クサギ、ムベ、サンショウソウ、コナラ及びクヌギの植物体又は植物の抽出物から選ばれる一種又は二種以上を含むことを特徴とする、リンパ管の安定化剤を提供する。
【0047】
本発明に係るリンパ管安定化剤はリンパ管の構造の不安定化を原因とするリンパ液の漏出による様々な皮膚疾患、例えば浮腫(むくみ)の治療・予防に有効な医薬品または化粧品として利用できる。浮腫には、例えば紫外線照射、フィラリア、手術、悪性腫瘍、炎症にともなう二次性のリンパ浮腫や、先天性リンパ浮腫、例えばMilroy病、Meige病、lymphedema-distichiasis症候群がある。
【0048】
本発明に係るTie2活性化剤、血管の成熟化、正常化又は安定化剤及びリンパ管安定化剤は、その使用目的に合わせて用量、用法、剤型を適宜決定することが可能である。例えば、本発明の血管の成熟化、正常化又は安定化剤及びリンパ管安定化剤の投与形態は特に制限されるものではなく、経口、非経口、外用等であってよいが、好ましくは外用剤、食品である。剤型としては、例えば軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、浴用剤等の外用剤、注射剤、点滴剤、若しくは坐剤等の非経口投与剤、又は錠剤、粉剤、カプセル剤、顆粒剤、エキス剤、シロップ剤等の経口投与剤、タブレット、ドリンク、クッキー等の食品に配合できる。
【0049】
本発明の血管の成熟化、正常化又は安定化剤及びリンパ管安定化剤中のアキグミ、オカヒジキ、ハリギリ、リョウブ、ヤブカンゾウ、ハスイモ、ミツバウツギ、クサギ、ムベ、サンショウソウ、コナラ及びクヌギから成る群から選ばれる1又は複数の植物の抽出物の配合量は、用途に応じて適宜決定できるが、一般には配合する組成物全量中、乾燥残分として0.0001〜20.0質量%、好ましくは0.0001〜10.0質量%である。
【0050】
また、本発明の血管の成熟化、正常化又は安定化剤及びリンパ管安定化剤には、Tie2活性化剤以外に、例えば、通常の食品や医薬品に使用される賦形剤、防湿剤、防腐剤、強化剤、増粘剤、乳化剤、酸化防止剤、甘味料、酸味料、調味料、着色料、香料等、化粧品等に通常用いられる美白剤、保湿剤、油性成分、紫外線吸収剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色剤、水性成分、水、各種皮膚栄養剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0051】
さらに、本発明の血管の成熟化、正常化又は安定化剤あるいはリンパ管安定化剤を、しわ防止・改善剤又はむくみ改善・予防剤のような皮膚外用剤として使用する場合、皮膚外用剤に慣用の助剤、例えばエデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、グルコン酸等の金属封鎖剤、カフェイン、タンニン、ベラパミル、トラネキサム酸およびその誘導体、甘草抽出物、グラブリジン、カリンの果実の熱水抽出物、各種生薬、酢酸トコフェロール、グリチルリチン酸およびその誘導体またはその塩等の薬剤、ビタミンC、アスコルビン酸リン酸マグネシウム、アスコルビン酸グルコシド、アルブチン、コウジ酸等の美白剤、グルコース、フルクトース、マンノース、ショ糖、トレハロース等の糖類、レチノイン酸、レチノール、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール等のビタミンA類なども適宜配合することができる。皮膚外用剤に配合される血管の成熟化、正常化又は安定化剤あるいはリンパ管安定化剤の量は、適宜決定することができるが、一般には配合する組成物の全量中、乾燥重量0.0001〜20.0質量%、好ましくは0.0001〜10.0質量%である。
【0052】
美容方法
別の観点において、本発明は、血管の成熟化、正常化又は安定化剤を被験者に適用することからなる、しわを防止・改善するための美容学的方法、を提供する。本発明に係る美容方法は、小じわが形成されやすい顔面の皮膚、特に目尻、下瞼または口元等の皮膚に適用することができるが、これらの部位に限定されない。
【0053】
更に別の観点において、本発明は、リンパ管の安定化剤を被験者に適用することからなる、むくみを改善又は予防するための美容学的方法、を提供する。本発明に係る美容方法は、むくみや目袋の軽減・予防を目的とするものである。この美容学的方法は、例えば本発明に係るリンパ管安定化剤をむくみなどのある部位に適用し、そのまま放置するか又は例えばリンパ管の流れの方向に即してマッサージなどを施し、リンパ管液の流れを促進するなどして行うことができる。この方法の適用箇所には顔面、首、手足、など、全身のあらゆる部位が挙げられる。
【0054】
また、本発明を皮膚外用剤に適用する場合、皮膚外用剤は、外皮に適用される化粧料、医薬部外品等、特に好適には化粧料に広く適用することが可能であり、その剤型も、皮膚に適用できるものであればいずれでもよく、溶液系、可溶化系、乳化系、粉末分散系、水−油二層系、水−油−粉末三層系、軟膏、化粧水、ゲル、エアゾール等、任意の剤型が適用される。
【0055】
使用形態も任意であり、例えば化粧水、乳液、クリーム、パック等のフェーシャル化粧料やファンデーション、口紅、アイシャドウ等のメーキャップ化粧料、芳香化粧料、浴用剤等に用いることができる。
【0056】
また、メーキャップ化粧品であれば、ファンデーション等、トイレタリー製品としてはボディーソープ、石けん等の形態に広く適用可能である。さらに、医薬部外品であれば、各種の軟膏剤等の形態に広く適用が可能である。そして、これらの剤型および形態に、本発明のTie2活性化剤、血管の成熟化、正常化又は安定化剤、しわ防止・改善剤、リンパ管安定化剤の採り得る形態が限定されるものではない。
【実施例】
【0057】
次に実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれにより限定されるものではない。尚、本実施例で使用した植物はいずれも高知県産であり、高知県立牧野植物園(高知県高知市)から入手した。
【0058】
アキグミ抽出物の調製
アキグミの果実乾燥物9.61gを室温で1週間、メタノール80mlに浸漬した。ついで、ろ紙ろ過により得た抽出液よりメタノールを留去し、メタノール抽出物2.47gを得た(抽出率25.7%)。
【0059】
オカヒジキ抽出物の調製
オカヒジキの地上部乾燥物9.75gを室温で1週間、メタノール80mlに浸漬した。ついで、ろ紙ろ過により得た抽出液よりメタノールを留去し、メタノール抽出物0.75gを得た(抽出率7.7%)。
【0060】
ハリギリ抽出物の調製
ハリギリの枝乾燥物9.85gを室温で1週間、メタノール80mlに浸漬した。ついで、ろ紙ろ過により得た抽出液よりメタノールを留去し、メタノール抽出物1.1gを得た(抽出率11.2%)。
【0061】
リョウブ抽出物の調製
リョウブの葉乾燥物10.28gを室温で1週間、メタノール80mlに浸漬した。ついで、ろ紙ろ過により得た抽出液よりメタノールを留去し、メタノール抽出物1.76gを得た(抽出率17.1%)。
【0062】
ヤブカンゾウ抽出物の調製
ヤブカンゾウの葉乾燥物11.04gを室温で1週間、メタノール80mlに浸漬した。ついで、ろ紙ろ過により得た抽出液よりメタノールを留去し、メタノール抽出物1.97gを得た(抽出率17.9%)。
【0063】
ハスイモ抽出物の調製
ハスイモの果実乾燥物10.87gを室温で1週間、メタノール80mlに浸漬した。ついで、ろ紙ろ過により得た抽出液よりメタノールを留去し、メタノール抽出物2.44gを得た(抽出率22.5%)。
【0064】
ミツバウツギ抽出物の調製
ミツバウツギの葉乾燥物8.59gを室温で1週間、メタノール80mlに浸漬した。ついで、ろ紙ろ過により得た抽出液よりメタノールを留去し、メタノール抽出物1.54gを得た(抽出率17.9%)。
【0065】
クサギ抽出物の調製
クサギの果実乾燥物7.18gを室温で1週間、メタノール80mlに浸漬した。ついで、ろ紙ろ過により得た抽出液よりメタノールを留去し、メタノール抽出物1.15gを得た(抽出率16.0%)。
【0066】
ムベ抽出物の調製
ムベの果実乾燥物6.92gを室温で1週間、メタノール80mlに浸漬した。ついで、ろ紙ろ過により得た抽出液よりメタノールを留去し、メタノール抽出物3.15gを得た(抽出率45.6%)。
【0067】
サンショウソウ抽出物の調製
サンショウソウの全草乾燥物6.39gを室温で1週間、メタノール80mlに浸漬した。ついで、ろ紙ろ過により得た抽出液よりメタノールを留去し、メタノール抽出物0.45gを得た(抽出率7.1%)。
【0068】
コナラ抽出物の調製
コナラの果実乾燥物8.91gを室温で1週間、メタノール80mlに浸漬した。ついで、ろ紙ろ過により得た抽出液よりメタノールを留去し、メタノール抽出物1.27gを得た(抽出率14.2%)。
【0069】
クヌギ抽出物の調製
クヌギの果実乾燥物7.31gを室温で1週間、メタノール80mlに浸漬した。ついで、ろ紙ろ過により得た抽出液よりメタノールを留去し、メタノール抽出物1.12gを得た(抽出率15.3%)。
【0070】
血管内皮細胞のウエスタンブロッティング
Tie2を発現する正常ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)は、三光純薬より購入した。増殖因子などの添加因子を加えたEBM-2(Cambrex; Verviers, Belgium)中でHUVECを培養した後、各種濃度(0.01%〜0.0001質量%)の各生薬存在下でHUVEC内のタンパク質をPhosphosafe Extraction Reagent(Novagen, Madison, WI)で抽出した。コントロールとしてDMSOを添加したHUVECも調製した。
【0071】
総タンパク量をRC DC Protein Assay Kit(BIO-RAD, Hercules, CA) にて定量し、以下のようにウエスタンブロッティングして検出した。等量の総タンパク量を7.5%アクリルアミドゲル(NPU-7.5L, ATTO, Japan)でSDS−PAGEを行い、Tie2およびリン酸化Tie2のタンパク質の発現は、抗体(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA)を用いて、ECL Kitにより発色した。結果を図1に示す。
【0072】
図1の結果より、コントロールのDMSOと比較して、アキグミ、オカヒジキ、ハリギリ、リョウブ、ヤブカンゾウ、ハスイモ、ミツバウツギ、クサギ、ムベ、サンショウソウ、コナラ又はクヌギのメタノール抽出物、特に、アキグミ、オカヒジキのメタノール抽出物が、Ang-1と同様、顕著なTie2活性化作用を示すことが分かる。従って、これらの抽出物がいずれもTie2リン酸化効果を示し、血管成熟化、正常化、安定化に寄与し、その結果血管新生を抑制できることが示唆された。更に、Tie2活性化能を有するAng-1がリンパ管の回収機能を促進することから、これらの抽出物もAng-1と同様にリンパ管の安定化作用を奏するものと考えられる。
【0073】
Tie2活性化剤の配合例
以下に、種々の剤型の本発明によるTie2活性化剤の配合例を処方例として説明する。これらの配合例は例示を目的として列挙されるものであって本発明の技術的範囲を限定することを意図するものではない。
【0074】
配合例1(錠剤)
(組成物) 配合量(mg/1錠中)
本発明のTie2活性化剤:オカヒジキエタノール抽出物(乾燥重量)
360.5
乳糖 102.4
カルボキシメチルセルロースカルシウム 29.9
ヒドロキシプロピルセルロース 6.8
ステアリン酸マグネシウム 5.2
結晶セルロース 10.2

515.0
【0075】
配合例2(錠剤)
(組成物) 配合量(mg/1錠中)
ショ糖エステル 70
結晶セルロース 74
メチルセルロース 36
グリセリン 25
本発明のTie2活性化剤:アキグミ熱水抽出物(乾燥重量) 475
N−アセチルグルコサミン 200
ヒアルロン酸 150
ビタミンE 30
ビタミンB6 20
ビタミンB2 10
α−リポ酸 20
コエンザイムQ10 40
セラミド(コンニャク抽出物) 50
L−プロリン 300

1500
【0076】
配合例3(ソフトカプセル)
(組成物) 配合量(mg/1カプセル中)
食用大豆油 530
トチュウエキス 50
ニンジンエキス 50
本発明のTie2活性化剤:リョウブエタノール抽出物(乾燥重量)
100
ローヤルゼリー 50
マカ 30
GABA 30
ミツロウ 60
ゼラチン 375
グリセリン 120
グリセリン脂肪酸エステル 105

1500
【0077】
配合例4(ソフトカプセル)
(組成物) 配合量(mg/1カプセル中)
玄米胚芽油 659
本発明のTie2活性化剤:ヤブカンゾウ熱水抽出物(乾燥重量)
500
レスベラトロール 1
ハス胚芽エキス 100
エラスチン 180
DNA 30
葉酸 30

1500
【0078】
配合例5(顆粒)
(組成物) 配合量(mg/1包中)
本発明のTie2活性化剤:アキグミ熱水抽出物(乾燥重量) 400
ビタミンC 100
大豆イソフラボン 250
還元乳糖 300
大豆オリゴ糖 36
エリスリトール 36
デキストリン 30
香料 24
クエン酸 24

1200
【0079】
配合例6(ドリンク)
(組成物) 配合量(g/60mL中)
トチュウエキス 1.6
ニンジンエキス 1.6
本発明のTie2活性化剤:ハリギリエタノール抽出物(乾燥重量)
1.6
還元麦芽糖水飴 28
エリスリトール 8
クエン酸 2
香料 1.3
N−アセチルグルコサミン 1
ヒアルロン酸Na 0.5
ビタミンE 0.3
ビタミンB6 0.2
ビタミンB2 0.1
α−リポ酸 0.2
コエンザイムQ10 1.2
セラミド(コンニャク抽出物) 0.4
L−プロリン 2
精製水 残余

60
【0080】
配合例7(キャンディー)
(組成物) 配合量(重量%)
砂糖 50
水飴 48
本発明のTie2活性化剤:ミツバウツギエタノール抽出物(乾燥重量)

香料 1

100
【0081】
配合例8(クッキー)
(組成物) 配合量(重量%)
薄力粉 45.0
バター 17.5
グラニュー糖 20.0
本発明のTie2活性化剤:アキグミ熱水抽出物(乾燥重量) 4.0
卵 12.5
香料 1.0

100.0
【0082】
製造方法
バターを撹拌しながらグラニュー糖を徐々に添加し、卵、本発明のTie2活性化剤、及び香料を添加して撹拌した。十分に混合した後、均一に振るった薄力粉を加えて低速で撹拌し、塊状で冷蔵庫で寝かせた。その後、成型し170°C15分間焼成しクッキーとした。
【0083】
配合処方例9:軟膏
(配合成分) (質量%)
本発明のTie2活性化剤:ハスイモ含水エタノール抽出物(乾燥重量)
1.0
ステアリルアルコール 18.0
モクロウ 20.0
ポリオキシエチレン(20)モノオレイン酸エステル 0.25
グリセリンモノステアリン酸エステル 0.3
ワセリン 40.0
精製水 残余
【0084】
配合処方例10:美容液
(配合成分) (質量%)
(A相)
95%エチルアルコール 10.0
ポリオキシエチレン(20)オクチルドデカノール 1.0
パントテニルエチルエーテル 0.1
本発明のTie2活性化剤:ミツバウツギメタノール抽出物(乾燥重量)
1.5
メチルパラベン 0.15
(B相)
水酸化カリウム 0.1
(C相)
グリセリン 5.0
ジプロピレリングリコール 10.0
亜硫酸水素ナトリウム 0.03
カルボキシビニルポリマー 0.2
精製水 残余
【0085】
配合処方例11:パック
(配合成分) (質量%)
(A相)
ジプロピレングリコール 5.0
ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油 5.0
(B相)
本発明のTie2活性化剤:アキグミ含水エタノール抽出物(乾燥重量)
0.01
オリーブ油 5.0
酢酸トコフェロール 0.2
エチルパラベン 0.2
香料 0.2
(C相)
亜硫酸水素ナトリウム 0.03
ポリビニルアルコール(ケン化度90、重合度2000) 13.0
エタノール 7.0
精製水 残余
【0086】
配合処方例12:乳液
(配合成分) (質量%)
マイクロクリスタリンワックス 1.0
ミツロウ 2.0
ラノリン 20.0
流動パラフィン 10.0
スクワラン 5.0
ソルビタンセスキオレイン酸エステル 4.0
ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレイン酸エステル
1.0
プロピレングリコール 7.0
本発明のTie2活性化剤:オカヒジキメタノール抽出物(乾燥重量)
10.0
亜硫酸水素ナトリウム 0.01
エチルパラベン 0.3
香料 適量
精製水 残余
【0087】
配合処方例13:クリーム
(配合成分) (質量%)
固形パラフィン 5.0
ミツロウ 10.0
ワセリン 15.0
グリセリンモノステアリン酸エステル 2.0
ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウリン酸エステル
3.0
石けん粉末 0.1
硼砂 0.2
本発明のTie2活性化剤:サンショウソウ熱水抽出物(乾燥重量)
0.05
亜硫酸水素ナトリウム 0.03
エチルパラベン 0.3
香料 適量
精製水 残余

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アキグミ、オカヒジキ、ハリギリ、リョウブ、ヤブカンゾウ、ハスイモ、ミツバウツギ、クサギ、ムベ、サンショウソウ、コナラ及びクヌギの植物体またはその抽出物から選ばれる一種又は二種以上を含むことを特徴とするTie2活性化剤。
【請求項2】
アキグミ、オカヒジキ、ハリギリ、リョウブ、ヤブカンゾウ、ハスイモ、ミツバウツギ、クサギ、ムベ、サンショウソウ、コナラ及びクヌギの植物体またはその抽出物から選ばれる一種又は二種以上を含むことを特徴とする、血管の成熟化、正常化又は安定化剤。
【請求項3】
アキグミ、オカヒジキ、ハリギリ、リョウブ、ヤブカンゾウ、ハスイモ、ミツバウツギ、クサギ、ムベ、サンショウソウ、コナラ及びクヌギの植物体またはその抽出物から選ばれる一種又は二種以上を含むことを特徴とする、リンパ管の安定化剤。
【請求項4】
請求項1に記載のTie2活性化剤、請求項2に記載の血管の成熟化、正常化又は安定化剤、あるいは請求項3に記載のリンパ管安定化剤のいずれかを含んで成るしわ予防・改善剤。
【請求項5】
請求項1に記載のTie2活性化剤、請求項2に記載の血管の成熟化、正常化又は安定化剤、あるいは請求項3に記載のリンパ管安定化剤のいずれかを含んで成るむくみ改善・予防剤。
【請求項6】
リョウブの植物体又はその抽出物を含むことを特徴とする、しわ予防・改善剤。
【請求項7】
アキグミ、オカヒジキ、リョウブ、クサギ、コナラ、クヌギの植物体又はその抽出物から選ばれる一種又は二種以上を含むことを特徴とする、むくみ改善・予防剤。

【図1】
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【公開番号】特開2011−201811(P2011−201811A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70726(P2010−70726)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000001959)株式会社 資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】