説明

X線出力器診断装置およびX線出力器診断方法

【課題】X線管のメンテナンスを行うべきか否かの判断をすることができなかった。
【解決手段】カソードとアノードとによって加速した電子線を電子光学系によってターゲットに導いてターゲットからX線を出力させるX線出力部と、前記X線出力部によって出力されたX線の照射範囲にサンプルを配置するサンプル配置部と、前記照射範囲内のX線を取得してX線画像を取得するX線画像取得部とを含むX線検出器において、前記X線出力部における性能の劣化を示す複数のパラメータを取得して性能の劣化に関する出力を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線出力器診断装置およびX線出力器診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、X線出力器のターゲットが劣化したことを検出するX線検査装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。このX線検査装置においては、試料映像の明暗のレベルに応じてターゲットの劣化を判定し、劣化していると判定されたときには電子ビームの衝突位置を変更してX線量を増大している。
【特許文献1】特開2003−90808号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した従来のX線検査装置においては、X線管のメンテナンスを行うべきか否かの判断をすることができなかった。
すなわち、X線出力器を稼働し続けるとターゲットやX線出力器内の電子光学系のアライメントなど、X線出力器の性能を保証している各部の設定が経時的に基準の設定からずれていく。このずれが僅かであれば、X線画像取得手段によって取得した画像やその画像に基づくサンプルの良否判定等の検査精度は高く、また、前記特許文献1のような技術でそのずれを補償できる場合がある。しかし、X線出力器を稼働し続ければ前記ずれが蓄積し、最終的にはずれに起因する検査の精度の低下が許容範囲を超えることになる。
【0004】
このように、検査の精度の低下が許容範囲を超えたときには、X線出力器の稼働を停止し、各部の配置を再調整したり、消耗品を交換するなどの作業が必要となる。しかし、この作業が必要になった時点でサービス要員を呼び出したり、消耗品の発注を行うと、X線出力器の稼働を停止してから作業を開始するまでに多くの時間がかかってしまう。特に、24時間の連続操業を行ってあるサンプルを製造する工場内で、このサンプルを検査するためにはX線出力器を24時間稼働し続ける必要があるが、前記再調整や消耗品の交換等のために長い間X線出力器の稼働を停止すると、サンプルの製造に甚大な影響を及ぼす。
【0005】
また、X線出力器の性能の劣化要因には複数の要因があり、これらは複雑に影響を及ぼし合っている。従って、前記各部について基準からのずれを単体で検査したときに許容されるずれの量と各部の設定について複数の要因を総合的に検査したときに許容されるずれの量とは異なっている。例えば、ターゲット単体でみたときに基準からのずれは、ずれ量Aまで許容されるが、ターゲットとアライメントとの劣化を複合的に評価する場合には、ターゲットにおける基準からのずれとアライメントにおける基準からのずれとが、それぞれのずれ量a,ずれ量bまで許容される(a<A)というような状況が起こり得る。
【0006】
従って、ある特定の劣化要因のみに基づいてX線検出器の劣化を評価したとしてもX線出力器の性能劣化を正確に判定することはできず、また、X線出力器の稼働停止時期を事前に予測するための情報としては全く利用できない。
本発明は、前記課題に鑑みてなされたもので、X線出力器の稼働を停止させる時間をできるだけ短くするために予防的な措置を講じることが可能なX線出力器診断装置およびX線出力器診断方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明では、X線出力手段とサンプル配置手段とX線画像取得手段とによってサンプルの検査を実施可能な構成において、性能の劣化を示す複数のパラメータを取得し、性能の劣化に関する出力を行う。従って、稼働中のX線出力手段における性能の劣化を正確に把握することができ、X線出力手段の停止時間をできるだけ少なくするための予防措置を講じることができる。
【0008】
例えば、経時変化によってX線出力手段の性能が徐々に劣化していくと、ある時点でX線出力手段の性能がサンプルの検査に耐えられない(あるいは好ましくない)性能となる。また、経時的な性能の劣化が蓄積すると、画像処理や機構の自動調整によって性能の劣化を抑えることは不可能になる。このとき、X線出力手段の稼働を停止してX線出力手段における各部の再調整や消耗品の交換等のメンテナンスを行う必要がある。一般に、X線出力手段においてこのメンテナンスが必要になってから前記消耗品の発注やサービス要員への通知を行うと、X線出力手段の停止からメンテナンス作業を開始するまでに多大な時間がかかり、X線出力手段の停止時間が極めて長くなってしまう。
【0009】
また、サンプルの検査に耐えられない状態になるまでX線出力手段の性能劣化を放置しておくと、前記再調整に多大な時間がかかる場合が多く、やはりX線出力手段の停止時間が極めて長くなってしまう。さらに、単一のパラメータに基づいて性能の劣化を判断していると、多様な要素によって性能が保証されているX線出力手段の性能劣化原因を正確に特定することができず、メンテナンスを行うべき対象を事前に知ることは不可能である。
【0010】
しかし、本発明においては、複数のパラメータに基づいて性能の劣化を評価するので、
性能の劣化原因を予め正確に特定することができ、X線出力手段が停止する以前に前記消耗品の発注やサービス要員への通知を正確に行うことが可能であり、X線出力手段の停止後、即座にメンテナンス作業を開始することができる。従って、X線出力手段の停止時間を最小限に抑えることができる。また、サンプルの検査に耐えられない状態になるまでX線出力手段の性能劣化を放置することを防止し、最小限のメンテナンス後にX線出力手段を稼働させることが可能になる。従って、長期に渡ってX線出力手段の稼働時間を評価したときには、稼働継続時間を延ばすことができる。
【0011】
ここで、X線出力手段は、カソードとアノードとによって加速した電子線を電子光学系によってターゲットに導いてターゲットからX線を出力させることができればよく、開放管や密閉管など種々のX線源を採用可能である。また、電子光学系は電子線の収束や絞りを行うことができればよく、電子レンズとアパーチャとのいずれかまたは双方を含む。さらに、X線を出力させるために必要な電圧制御部や真空ポンプを備えており、これに付随して電圧計や電流計、圧力計等を備えていても良い。
【0012】
なお、本発明においてはX線出力手段を構成するカソード、アノード、電子光学系や電圧制御部や真空ポンプなど、各部について調整が行われ、調整が行われると適正な性能が発揮される。この意味では、X線出力手段の稼働によって、配置を調整可能な部品においてその調整が終了した状態(基準の設定)に対するずれが生じ、サンプルの検査精度に影響が生じる状態を性能が劣化した状態と考えることができる。
【0013】
さらに、ターゲットやカソード、アノード、真空ポンプのオイルなどの消耗品(経時劣化によって性能が低下し得る物品)の性能が基準の設定より低下すると前記検査の精度が低下する。従って、X線出力手段の性能は、これらの基準の設定からのずれのいずれかまたは組み合わせを評価していることであると考えることも可能である。本発明においては、X線出力手段の性能に影響を与える全ての要素あるいはその組み合わせについてパラメータを取得可能であり、ここで複数のパラメータを取得することによって性能の劣化を総合的に判定することが可能になる。
【0014】
さらに、サンプル配置部は、X線の照射範囲にサンプルを配置することができればよく、サンプルの移動を行う機構であっても良いし、サンプルの向きを変更する機構であっても良い。すなわち、X線による検査手法およびX線画像取得手段の構造に応じて適宜好ましい形式を選択すればよい。例えば、2次元的な透過像を評価するためにサンプルを平面移動させるためのX−Yステージを構成してもよいし、3次元的な像を評価するために複数の角度からサンプルを撮影する検出器とX−Yステージを構成してもよいし、サンプルを回転させる機構を採用しても良い。むろん、多数のサンプルを連続的に検査するために、サンプルの搬送機構と連動するように構成することも可能である。
【0015】
X線画像取得手段においては、X線出力手段から出力されたX線を取得してX線の画像を取得することができればよく、種々のセンサを採用可能である。例えば、イメージインテンシファイアやフラットパネルセンサ等を採用可能である。なお、複数のサンプルを同時に撮影し、検査するため、2次元センサを採用することが好ましい。また、複数の方向からサンプルを撮影するための構成としても種々の構成を採用可能であり、センサを回転あるいは移動させる構成を採用しても良いし、複数のセンサを備える構成であっても良い。むろん、複数のセンサを回転あるいは移動させる構成を採用しても良い。
【0016】
この構成によれば、前記照射範囲内にサンプルを配置することにより、サンプルのX線画像を取得することができる。また、前記照射範囲内にサンプルを配置せず、あるいは、基準サンプルを配置してX線を取得することにより、X線量に対応したX線画像を取得することができる。
【0017】
性能診断手段は、前記X線出力手段における性能の劣化を示す複数のパラメータを取得して性能の劣化に関する出力を行うことができればよい。ここで、性能の劣化に関する出力は性能の劣化を判定可能な出力であればよく、性能の劣化を示す警告を行っても良いし、パラメータ自体をディスプレイ等に出力しても良いし、パラメータの経時変化(ログ)を出力しても良い。
【0018】
すなわち、パラメータの出力に基づいて利用者がメンテナンスのタイミングを判断しても良いし、警告によってメンテナンスのタイミングを把握できるようにしても良い。後者の構成であれば、X線出力手段の性能が所定の基準を満たさない状態であることを極めて容易に知ることができるので、極めて容易にメンテナンスを行うべきタイミングを事前に知ることが可能になる。むろん、前記メンテナンスを行うべきタイミングを事前に知るためには、X線出力手段の性能がメンテナンスを行う必要がある性能に達する前に警告がなされることが好ましい。従って、X線出力手段においてメンテナンスが必要とされる性能と比較して、より性能の劣化が少ない状態で警告がなされるように所定の基準を設定する必要がある。
【0019】
このための構成としては、種々の構成が採用可能であり、例えば、X線出力手段の性能の経時的な劣化の進み具合を考慮して、所定の警告を行ってからメンテナンスを行う人員の準備が完了するまでに充分な時間を確保できるように所定の基準を設定したり、メンテナンスを行う際に必要となる消耗品を用意するまでの期間を充分に確保できるように所定の基準を設定するなどの構成を採用可能である。この構成は、メンテナンスを行う人員の派遣元や消耗品の発送元が海外などの遠隔地である場合に特に好適である。
【0020】
また、警告の態様としても種々の態様を採用可能である。例えば、メンテナンスを行う人員を呼ぶべきである旨の表示や消耗品の発注を行うべき旨の表示を所定の表示装置にて行う構成を採用可能である。むろん、このとき、メンテナンスを行う人員や消耗品の発注先等の連絡先を併せて表示するなどの構成を採用しても良い。また、所定の警告の出力先は、X線出力手段のオペレータに限定されることはない。例えば、所定の通信装置によってメンテナンスを行う人員へ警告を送信したり、消耗品の発注を行うことによって所定の警告を出力する構成としても良い。
【0021】
上述の性能診断手段においては、性能の劣化を示す複数のパラメータを取得するように構成可能であり、その構成例として、性能の劣化を示す特定の判断指標について条件が異なる複数のパラメータを取得するように構成可能である。すなわち、1種類の判断指標であっても条件を変えることによってパラメータとしては複数個の値を取得することが可能である。条件としては、条件毎にパラメータの値を評価できるように設定すればよく、各部の電流や電圧、パラメータを取得したときの時間等、種々の条件を採用可能である。
【0022】
むろん、パラメータの評価はその値自身で行うことも可能であるが、複数のパラメータに基づいて一つの評価を行うことも可能である。例えば、ある時点で複数のターゲット電流によるX線量を計測し、そのリニアリティを判断指標として性能の劣化を評価することが可能である。
【0023】
さらに、性能の劣化を示す複数のパラメータとしては、複数の判断指標についてのパラメータであっても良い。このように、複数の判断指標のそれぞれについてパラメータを取得すると、複数のパラメータを取得していることになる。また、複数の判断指標に基づいて性能の劣化を評価すれば、複雑な要因によって劣化するX線出力手段の性能を総合的に評価することが可能になる。むろん、複数の判断指標について複数のパラメータを取得し、性能の劣化を評価するように出力しても良い。
【0024】
さらに、ターゲット電流値とX線量との関係を、性能の劣化を判断するための判断指標とする構成を採用しても良い。すなわち、初期状態ではターゲット電流値とX線量との関係がリニアであることから、X線出力手段が稼働しているときに複数のターゲット電流値とX線量との関係を取得すれば、ターゲット電流のリニアリティを評価することができ、ターゲットの劣化を評価することができる。なお、ターゲット電流取得部においては、ターゲット電流値を取得することができればよく、ターゲットに接続された配線に流れる電流を計測するなどの構成を採用可能である。
【0025】
さらに、ターゲット電流値と管電流値との関係を、性能の劣化を判断するための判断指標とする構成を採用しても良い。すなわち、X線出力手段において初期状態では、電子線を電子光学系で絞るなどしてカソードから出力された一部の電子線がターゲットに到達するように設定する。設定が基準からずれると、アパーチャでの絞り量や電子レンズによる偏向が基準からずれるので、ターゲット電流が低下するなどの性能劣化を招く、また、カソードが劣化することによって電子線の絶対量が低下するなどの性能劣化を招く。
【0026】
このように、電子線に関する基準設定からのずれはターゲット電流値と管電流値との関係に対応しているので、当該関係を取得すれば、電子線に関する性能劣化を評価することができる。なお、ターゲット電流取得部は上述の構成と同様の構成で実現可能であり、管電流取得部においては、管電流値を取得することができればよく、アノードに接続された配線に流れる電流を計測するなどの構成を採用可能である。
【0027】
さらに、X線量の方向依存性を、性能の劣化を判断するための判断指標とする構成を採用しても良い。すなわち、ターゲットの劣化が生じていない場合には、ターゲットから出力範囲の全域で単位立体角あたりのX線量がほぼ等しくなる。しかし、ターゲットが劣化すると、出力範囲の方向によって単位立体角あたりのX線量が変動する。また、X線画像取得手段によって決められた位置のX線画像を取得するのであれば、電子線が基準の設定からずれている場合に位置によるX線量の変動を検出することができる。さらに、X線画像取得手段において取得される画像の輝度はX線量に対応している。
【0028】
従って、X線出力手段を一定の条件で駆動して前記X線画像取得手段によって複数の方向から取得したX線画像は、各方向のX線量を反映しており、当該X線画像から各方向のX線量を評価することができる。なお、X線取得機構においては、複数の方向からX線画像を取得することができればよく、X線検出器を回転させても良いし、X線検出器を平面移動させてもよく、X線検査の方式に応じて適宜変更可能である。
【0029】
さらに、X線出力手段において所定の真空度に達するまでの時間を、性能の劣化を判断するための判断指標とする構成を採用しても良い。すなわち、X線出力手段においては、一般に電子線を発生させる部位を所定の真空度にするための真空ポンプを備えており、性能が劣化すると、所定の真空度に達するまでの時間が長くなる。例えば、真空チャンバーのパッキンが劣化していたり、異物が混入していたり、真空チャンバー内で不純物が揮発によって発生していたり、真空ポンプのオイルが劣化している場合には、所定の真空度に達するまでの時間が長くなる。
【0030】
そこで、真空ポンプによる減圧を開始してから所定の圧力に到達するまでの時間を取得すれば、X線出力手段の性能劣化を評価することができる。なお、真空度はX線出力手段における真空チャンバーの圧力を測定することができればよく、所定の圧力は予め決められた高真空度を示す値であればよい。なお、ここでは、真空ポンプによる減圧を開始してから所定の圧力に到達するまでの時間を取得して、高真空度に達するまでの時間を評価することができればよいので、真空ポンプによる減圧を開始する段階で真空チャンバー内が減圧されているのであれば、初期段階での圧力を考慮しても良い。例えば、真空ポンプによる減圧を開始する段階における圧力とその圧力から減圧を開始して所定の圧力に達するまでの基準の時間を予めデータとして保持しておき、この基準の時間と実際に要した時間とを比較する構成等を採用可能である。
【0031】
さらに、エージング処理の進行具合を、性能の劣化を判断するための判断指標とする構成を採用しても良い。すなわち、真空ポンプで減圧しながら電圧を制御して電圧が所定の電圧に達するまで、電圧を徐々に上昇させるエージング機能を実施する場合、このエージング機能の進行具合は性能の劣化を反映している。例えば、真空チャンバーのパッキンが劣化していたり、異物が混入していたり、真空チャンバー内で不純物が揮発によって発生していたり、真空ポンプのオイルが劣化している場合にはエージングが完了するまでの時間が初期状態より長くなる。
【0032】
また、エージング機能を実施しているときの圧力の時間に対する変化率が初期状態と異なる挙動を示す。そこで、エージング機能を行って、エージング機能が完了するまでの時間を取得したり、エージング機能を実施しているときの圧力の時間に対する変化率を取得すれば、X線出力手段の性能劣化を評価することができる。なお、電圧制御部は、前記電子線を発生させるために高電圧を発生させる回路であればよく、例えば、アノードとカソードとの間の電圧を制御する電圧制御がこれに相当する。なお、本発明においては、任意の判断指標のいずれかまたは組み合わせを採用してX線出力手段の性能の劣化を評価する構成を採用可能である。
【0033】
本発明においては、以上のようにX線出力手段の性能を診断し、その劣化に関する情報を出力することができるが、その好ましい構成例として、通信部によって外部の機器に前記性能の劣化に関するデータを送信し、外部の機器において当該データに基づいて前記性能の劣化に関する情報を出力する構成を採用可能である。この構成において、メンテナンスを行う人員や消耗品の発送を行う業者が当該外部の機器を利用する構成とすれば、X線出力手段が停止する以前に前記消耗品の発注やサービス要員への通知を行うことが極めて容易に実施可能になる。なお、前記外部の機器は、少なくとも性能の劣化に関するデータを受信する通信部と当該データに基づいて性能の劣化に関する情報を出力する出力部を備えていればよく、汎用的なコンピュータ等によって構成することが可能である。
【0034】
さらに、前記性能の劣化に関する出力を行う際の構成例として、X線出力手段における性能の経時的な劣化によってサンプルの測定が不可能になる前に警告を出力する構成を採用可能である。この構成によれば、X線出力手段によってサンプルの測定が不可能になる前に警告を出力することができ、X線出力手段の停止時間を最小限に抑えることができる。なお、ここで、サンプルの測定が不可能になる状態とは、X線出力手段の性能がサンプルの検査に耐えられない(あるいは好ましくない)性能となっている状態である。
【0035】
さらに、前記警告を行うために、X線出力手段を稼働している際に取得した複数のパラメータに関するログ保持し、これらのパラメータが所定の基準を超えて変化したときに警告を出力する構成を採用しても良い。すなわち、パラメータが所定の基準を超えて変化したときには、X線出力手段の性能に影響を与える要素に大きな変化があった可能性があるので、前記警告によってこの変化の発生を知ることで、X線出力手段における故障や許容範囲を超えた性能の劣化が発生する前にメンテナンスを行うことができる。
【0036】
なお、所定の基準は、X線出力手段の性能に影響を与える要素において、X線出力手段における故障や許容範囲を超えた性能の劣化が発生し得る変化が生じていることを特定できるように設定できればよく、パラメータの変化率等について予め基準を設定することができればよい。
【0037】
以上においては、本発明が装置として実現される場合について説明したが、かかる装置を実現する方法においても本発明を適用可能である。むろん、その実質的な動作については上述した装置の場合と同様である。また、以上のようなX線出力器診断装置は単独で実現される場合もあるし、ある方法に適用され、あるいは同方法が他の機器に組み込まれた状態で利用されることもあるなど、発明の思想としてはこれに限らず、各種の態様を含むものである。従って、ソフトウェアであったりハードウェアであったりするなど、適宜、変更可能である。
【0038】
発明の思想の具現化例として前記方法を制御するためのソフトウェアとなる場合には、かかるソフトウェアあるいはソフトウェアを記録した記録媒体上においても当然に存在し、利用される。また、ソフトウェアの記録媒体は、磁気記録媒体であってもよいし光磁気記録媒体であってもよいし、今後開発されるいかなる記録媒体においても全く同様に考えることができる。一次複製品、二次複製品などの複製段階についても同等である。その他、供給装置として通信回線を利用して行う場合でも本発明が利用されていることにはかわりない。さらに、一部がソフトウェアであって、一部がハードウェアで実現されている場合においても発明の思想において全く異なるものではなく、一部を記録媒体上に記憶しておいて必要に応じて適宜読み込まれるような形態であってもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
ここでは、下記の順序に従って本発明の実施の形態について説明する。
(1)本発明の構成:
(2)X線検査処理:
(3)性能診断処理:
(3−1)ターゲット電流値とX線量との関係に基づく診断:
(3−2)ターゲット電流値と管電流値との関係に基づく診断:
(3−3)X線量の方向依存性に基づく診断:
(3−4)真空系の動作に基づく診断:
(4)他の実施形態:
【0040】
(1)本発明の構成:
図1は本発明にかかるX線出力器診断装置を備えたX線検査装置10の概略ブロック図である。同図において、このX線検査装置10は、X線発生器11とX−Yステージ12とX線検出器13aと搬送装置14とを備えており、各部をCPU25によって制御する。すなわち、X線検査装置10はCPU25を含む制御系としてX線制御機構21とステージ制御機構22と画像取得機構23と搬送機構24とCPU25と入力部26と出力部27とメモリ28とを備えている。この構成において、CPU25は、メモリ28に記録された図示しないプログラムを実行し、各部を制御し、また所定の演算処理を実施することができる。
【0041】
メモリ28はデータを蓄積可能な記憶媒体であり、予め検査位置データ28aと撮像条件データ28bと閾値データ28eとが記録されている。検査位置データ28aは、サンプルの位置を示すデータであり、本実施形態においては、検査対象のバンプをX線検出器13aの視野に配置するためのデータである。撮像条件データ28bは、X線発生器11にてX線を発生させる際の条件を示すデータであり、X線管に対する印加電圧,撮像時間等を含む。また、X線発生器11の性能の劣化を示すパラメータを取得する際にX線管に対して印加する電圧や電流を含む。閾値データ28eは、X線出力手段の性能を診断するために、後述のパラメータに対して設定された閾値を示すデータであり、この閾値は予め決定されてメモリ28に記録される。
【0042】
また、メモリ28には、CPU25の処理過程で生成される各種データを記憶することが可能である。例えば、前記X線検出器13aによって取得したX線画像を示すX線画像データ28cや、当該X線画像データ28cに基づいて再構成演算を行った3次元画像データ28dを記憶することができる。なお、メモリ28はデータを蓄積可能であればよく、RAMやHDD等種々の記憶媒体を採用可能である。
【0043】
X線制御機構21は、前記撮像条件データ28bを参照し、X線発生器11を制御して所定のX線を発生させることができる。X線発生器11は、いわゆる透過型開放管であり、図2は、当該X線発生器11の構造を示す模式図である。同図2に示すように、X線発生器11は上方で径が小さくなる略筒状の形状であり、内部はX線の出力時に真空引きされる真空チャンバー11hとなっている。すなわち、X線発生器11には真空ポンプ11gと真空計11fとが接続されており、X線制御機構21の圧力制御部21cが真空ポンプ11を制御することによって真空チャンバー11h内を減圧することが可能である。また、真空計11fの出力値は圧力制御部21cにて取得され、真空チャンバー11h内の圧力を把握することが可能である。
【0044】
さらに、X線発生器11はその上部にターゲット11a、下部にカソード11eを備えており、ターゲット11aとカソード11eとの間にアパーチャ11bと電子レンズ11cとアノード11dとが備えられている。X線発生器11にてX線を出力するために必要な電圧と電流とはX線制御機構21の電圧制御部21aと電流制御部21bとによって制御される。この制御により、カソード11eからターゲット11a方向に出力される電子線11iが電子レンズ11cによって収束され、アパーチャ11bによって絞られてX線発生器11の焦点Fに衝突するようになっており、この結果、焦点FからX線発生器11の上方に向けて立体角略2πの範囲でX線が出力される。
【0045】
なお、電流制御部21bにおいては、X線発生器11の性能の劣化を示すパラメータを取得するため、ターゲット11aに流れる電流の値(ターゲット電流値)とアノード11dに流れる電流の値(管電流値)とを取得可能である。むろん、図2に示すX線発生器11の構造は一例であり、アパーチャ11bや電子レンズ11cの数を複数にするなど、その構造は適宜変更可能である。
【0046】
ステージ制御機構22はX−Yステージ12と接続されており、前記検査位置データ28aに基づいて同X−Yステージ12を制御する。また、搬送機構24は、搬送装置14を制御して基板12aをX−Yステージ12に搬送する。すなわち、搬送装置14によって一方向に基板12aを搬送し、X−Yステージ12において基板12a上のバンプを検査し、搬送装置14にて検査後の基板12aを搬送する処理を連続的に実施できるように構成されている。
【0047】
本実施形態において、検査対象のサンプルはバンプであり、バンプが配設された基板をX−Yステージ12上に載置して良否判定を行う。なお、上述のように検査位置データ28aは検査対象のバンプをX線検出器13aの視野に配設するためのデータであり、ステージ制御機構22は、検査対象のバンプがX線検出器13aの視野に含まれるようにX−Yステージ12を制御する。
【0048】
画像取得機構23はX線検出器13aに接続されており、同X線検出器13aが出力する検出値によってサンプルのX線画像を取得する。取得したX線画像は、X線画像データ28cとしてメモリ28に記憶される。本実施形態におけるX線検出器13aは、2次元的に分布したセンサを備えており、検出したX線からX線の2次元分布を示すX線画像データを生成することができる。
【0049】
X線検出器13aはアームを介して回転機構13bに接続されており、X線検出器13aは、X線発生器11の焦点Fから鉛直上方に延ばした軸Aを中心に半径Rの円周上を回転可能である。この回転機構13bは、画像取得機構23のθ制御部23aによって制御される。また、X線発生器11の焦点FからX線検出器13aにおける検出面の中心に対して延ばした直線と、当該検出面とが直交するように検出面が配向される。
【0050】
出力部27は前記X線画像や3次元画像から生成した断面画像等を出力するディスプレイであり、入力部26は利用者の入力を受け付ける操作入力機器(例えば、キーボードやマウス等)である。すなわち、利用者は入力部26を介して種々の入力を実行し、CPU25の処理によって得られる種々の演算結果やX線画像、3次元画像から生成した断面画像を適宜切り替えて出力部27に出力することができ、利用者はこの出力部27における出力内容に基づいて検査を行う。なお、本実施形態においては、後述するようにしてX線出力手段の性能の劣化を示す複数のパラメータを取得し、その性能の劣化に関する出力として、性能が劣化している旨の警告を出力部27に出力することが可能である。
【0051】
CPU25は、メモリ28に蓄積された各種制御プログラムに従って所定の演算処理を実行可能であり、サンプルの検査を行うために、図1に示す搬送制御部25aとX線制御部25bとステージ制御部25cと画像取得部25dとにおける演算を実行する。また、X線出力手段の性能の劣化を診断するために、性能診断部25eにおける演算を実行する。搬送制御部25aは、搬送機構24を制御して、適切なタイミングで基板12aをX−Yステージ12に供給し、また、適切なタイミングで搬送装置14を駆動して検査済みの基板12aをX−Yステージ12から取り除く。
【0052】
X線制御部25bは、前記撮像条件データ28bを取得し、前記X線制御機構21を制御して所定のX線をX線発生器11から出力させる。ステージ制御部25cは、前記検査位置データ28aを取得し、検査対象のバンプを逐次X線検出器13aの視野内に配置するための座標値を算出し、ステージ制御機構22に供給する。この結果、ステージ制御機構22は、この座標値がX線検出器13aのいずれかの視野に含まれるようにX−Yステージ12を移動させる。
【0053】
画像取得部25dは、画像取得機構23に指示を行い、X線検出器13aが取得するX線画像データ28cをメモリ28に記録する。また、画像取得部25dは、前記X線画像データ28cに基づいて所定の演算処理を行い、3次元画像データ28dを生成し、当該3次元画像データ28dに基づいてサンプルの断面画像を出力部27に出力する。従って、利用者は当該出力部27における出力内容に基づいてサンプルの検査(良否判定)を行うことが可能である。なお、本実施形態においては、利用者が当該出力部27に出力された3次元画像を視認して良否判定を行う構成を採用しているが、むろん、3次元画像に基づいて自動で良否判定を行ってもよい。
【0054】
本実施形態において、性能診断部25eは、X線検査装置10の稼働中に定期的に、あるいは、指示に応じて実施され、後述のように、X線出力手段の性能の劣化を示す複数のパラメータを取得し、サービス要員への通知や消耗品の発注等が必要になったときにその旨の警告を出力部27に出力する。なお、この警告は、X線出力手段の停止時間をできるだけ短くするように、X線出力手段を停止する必要が生じる状態になる前に出力されるようになっている。従って、本実施形態にかかるX線検査装置10を連続運転し続け、かつ、その停止時間をできるだけ短くすることが可能である。
【0055】
(2)X線検査処理:
本実施形態においては、上述の構成において図3に示すフローチャートを実施することによって検査対象品の検査を行う。このときに、X線発生器11の性能診断を行う。本実施形態においては、バンプの検査を行う前に性能診断処理を行う(ステップS100)。この処理の詳細は後述する。性能診断処理が終了すると、搬送制御部25aが搬送機構24に指示を出し、検査対象となるサンプル(本実施形態においてはバンプ)をX−Yステージ12上の予め決められた位置に搬送する(ステップS105)。
【0056】
次に、検査対象のバンプをX線検出器13aの視野内に移動させてX線画像を取得するため、変数nを”0”に初期化する(ステップS107)。続いて、画像取得部25dはθ制御部23aに指示を行い、回転機構13bを駆動して予め決められた回転位置にX線検出器13aを移動させる(ステップS110)。本実施形態においては、回転角θをθ=(n/N)×360°と定義しており、θ=0°におけるX線検出器13aの配置は予め決めてある。
【0057】
また、前記変数nは最大値をNとする整数である。従って、X線検出器13aは360°/Nずつ回転することになる。N+1は、X線画像を撮影する回転位置の数であり、要求される検査の精度から決定すればよい。X線検出器13aの回転動作を行うと、当該回転後の検出器の視野内に検査対象である検査対象のバンプが含まれるようにX−Yステージ12を移動させる(ステップS115)。このとき、ステージ制御部25cは前記検査位置データ28aを参照し、検査対象のバンプの位置を示す座標(xi,yi)がX線検出器13aの視野中心となるようにステージ制御機構22に指示する。この結果、ステージ制御機構22はX−Yステージ12を移動させ、座標(xi,yi)をX線検出器13aの視野中心に配置する。
【0058】
すなわち、座標(xi,yi)は、検査対象のバンプをX線検出器13aの視野内に移動させるために予めX−Yステージ12上に設定された座標であり、X線検出器13aが前記回転角θに配設されているときの視野中心は、X線検出器13aとX線発生器11の焦点Fとの相対関係から取得することができる。そこで、座標(xi,yi)をX線検出器13aの視野内に移動させることで、検査対象のバンプの透過像がX線検出器13aで取得されるようにX−Yステージ12を制御することができる。
【0059】
図4,図5は、この例を説明するための図であり、座標系およびX線検出器13a、X線発生器11の位置関係を示す図である。これらの図においては、X−Yステージ12による移動平面をx−y平面とし、この平面に垂直な方向をz方向としている。図4は、z−x平面を眺めた図であり、図5はx−y平面を眺めた図である。
【0060】
図4に示すように、X線検出器13aの検出面は、その中心と焦点Fとを結ぶ直線lに対して垂直になるように配向されている。すなわち、軸Aに対して傾斜され、x−y平面と検出面とに対して所定の角度(傾斜角)αが与えられている。前記直線lは、X線検出器13aの視野中心に相当するので、X線検出器13aの回転角θから図5に示すように視野領域FOVを特定することができる。
【0061】
すなわち、前記直線lと前記x−y平面との交点を含む所定の領域がX線検出器13aの視野領域FOVとなるので、図5に破線の矩形で示すように、視野領域FOV1〜4を特定することができる。そこで、前記ステージ制御機構22は図5の各矩形における中心と座標(xi,yi)とが一致するように、X−Yステージ12を移動させることになる。なお、ここでは、変数nが0〜3である場合について示しているが、むろん、検査の精度に応じて変数nの最大値を調整可能である。
【0062】
また、図5においては、中心Oから−y方向に延ばした直線をθ=0とし、時計回りの回転角がθであり、θ=0°,90°,180°,270°の視野領域をそれぞれFOV1〜FOV4としている。むろん、ステップS115においては、X線検出器13aの視野内に検査対象のバンプを配設することができる限りにおいて種々の制御手法を採用可能である。
【0063】
ステップS115にて、座標(xi,yi)をX線検出器13aの視野中心に配置したら、X線制御部25bおよび画像取得部25dの制御により、X線検出器13aにて回転角θのX線画像Pθnを撮影する(ステップS120)。すなわち、X線制御部25bは、前記撮像条件データ28bを取得し、当該撮像条件データ28bに示される条件でX線を出力するようにX線制御機構21に対して指示を行う。この結果、X線発生器11が立体角2πの範囲でX線を出力するので、画像取得部25dはX線検出器13aが検出したX線画像(X線画像データ28c)を取得する。
【0064】
ステップS120にて回転角θのX線画像Pθnを撮影すると、変数nが最大値Nに達しているか否かを判別し(ステップS125)、最大値Nに達していると判別されなければ変数nをインクリメントして(ステップS130)、ステップS110以降の処理を繰り返す。ステップS125にて変数nが最大値Nに達していると判別されたときには必要な回数の撮影が終了しているので、画像取得部25dはX線画像Pθ0〜PθNを用いて3次元画像の再構成演算を行い(ステップS135)、3次元画像データ28dとしてメモリ28に記録する。
【0065】
再構成演算は、検査対象のバンプの3次元構造を再構成することができれば良く、種々の処理を採用可能である。例えば、フィルタ補正逆投影法を採用可能である。この処理においては、まず、X線画像Pθ0〜PθNのいずれかに対してフーリエ変換を実施し、フーリエ変換で得られた結果に対して周波数空間でフィルタ補正関数を乗じる。さらに、この結果に対して逆フーリエ変換を実施することで、フィルタ補正を行った画像を取得する。なお、このフィルタ補正関数は、画像のエッジを強調するための関数等を採用可能である。
【0066】
続いて、フィルタ補正後の画像を、それが投影された軌跡に沿って3次元空間へ逆投影する。すなわち、X線検出器13aの検出面におけるある位置の像に対応する軌跡は、X線発生器11の焦点Fとこの位置とを結ぶ直線であるので、この直線上に前記画像を逆投影する。以上の逆投影をX線画像Pθ0〜PθNの全てについて行うと、3次元空間上で検査対象のバンプが存在する部分のX線吸収係数分布が強調され、検査対象のバンプの3次元形状を示す3次元画像データ28dが得られる。続いて、画像取得部25dは、3次元画像データ28dを参照し、出力部27に検査対象の3次元画像を表示し、利用者はこの画像に基づいて良否判定を行う(ステップS140)。
【0067】
(3)性能診断処理:
次に、前記ステップS100における性能診断処理の詳細な例を説明する。以下では、本実施形態で採用し得る複数の判断指標について説明する。本実施形態では、これらの判断指標から任意の指標を選択可能であり、性能の劣化を示す複数のパラメータを取得することによって、X線発生器11の性能を総合的に診断することができればよい。
【0068】
(3−1)ターゲット電流値とX線量との関係に基づく診断:
図6は、ターゲット電流値とX線量との関係を判断指標として複数のパラメータを取得する例のフローチャートである。すなわち、ターゲット11aの劣化が生じていない状態で管電流値を変動させるとターゲット電流値が変動し、X線発生器11から出力されるX線量がターゲット電流に応じて特定の関係を維持しながら変動する。そこで、この関係に基づいて性能の劣化を示すパラメータを取得する。
【0069】
図7Aはターゲット11aが劣化していない場合のターゲット電流値とX線量との関係を示す図であり、図7Bはターゲット11aが劣化している場合のターゲット電流値とX線量との関係を示す一例である。これらの図においては、X線検出器13aで取得される画像の輝度を縦軸、ターゲット電流値を横軸にしたグラフでターゲット電流値とX線量との関係を示している。
【0070】
なお、X線検出器13aにおいて取得されるX線画像の輝度はX線量に比例しているので、本実施形態においては、X線画像の輝度とX線量とが等価であるとしてX線量を評価することとし、図7Aでは、縦軸をX線画像の輝度としている。また、この例は、X線検出器13aにおいて無サンプルでX線画像を取得した場合の平均値である。
【0071】
図7Aに示すように、ターゲット11aが劣化していない場合は、ターゲット電流値を0から約30μAに変化させたとき、画像の輝度はターゲット電流値にほぼ比例する。一方、図7Bに示すように、ターゲット11aが劣化している場合は、ターゲット電流値と画像の輝度は比例しない。そこで、ターゲット電流値とX線量との関係が図7Aに示すような関係からどれほど変動しているのかを示すパラメータを定義すれば、ターゲット11aの劣化を評価することができる。
【0072】
このように劣化を評価するため、図6に示す例では、まず、搬送制御部25aがステージ制御機構22を制御してX線検出器13aの視野範囲からサンプルを退避させる(ステップS200)。次に、X線制御部25bが電圧制御部21aに指示を出し、X線発生器11を駆動する際の電圧を所定の値に設定する(ステップS205)。なお、この電圧値は予め決められている。
【0073】
次に、管電流値Iを初期値I0に設定し(ステップS210)、X線制御部25bが電流制御部21bに指示を出して管電流値IでX線発生器11を駆動する(ステップS215)。この結果、管電流値Iとなるようにカソード11eから電子線11iが出力され、電子線11iがターゲット11aに衝突することによってターゲット11aからX線が出力される。
【0074】
上述のように、X線検出器13aの視野範囲にはサンプルが存在しないので、ターゲット11aから出力されたX線はそのままX線検出器13aに到達する。そこで、画像取得部25dは画像取得機構23に指示を出し、X線検出器13aを制御してX線画像を撮影してX線検出器13aの表面上の位置(x,y)に対応した輝度F(x,y)を取得する(ステップS220)。次に、各位置(x,y)の輝度を平均化して平均輝度G(I)を算出する(ステップS225)。
【0075】
さらに、X線制御部25bは、電流制御部21bに指示を出し、この状態におけるターゲット電流値IT(I)を取得する(ステップS230)。以上の処理によって、ターゲット電流値IT(I)におけるX線量に対応した平均輝度G(I)が得られたことになる。本実施形態においては、上述のようにターゲット電流値とX線量との関係を取得するため、所定の電流ステップISTEPにてターゲット電流値を変化させてこの処理を繰り返すようになっており、ここで、性能診断部25eは管電流値Iに電流値ISTEPを加え(ステップS235)、当該管電流値Iが予め設定された最大値IMAXより大きくなっているか否かを判別する(ステップS240)。そして、同ステップS240にて管電流値Iが最大値IMAXより大きくなっていると判別されるまでステップS215〜S240の処理を繰り返す。
【0076】
ステップS240にて管電流値Iが最大値IMAXより大きくなっていると判別されたときには、複数のターゲット電流値IT(I)に対応した平均輝度G(I)が得られているので、性能診断部25eは、ターゲット電流値IT(I)と平均輝度G(I)との関係を示す相関係数ICを算出する(ステップS245)。なお、相関係数ICはターゲット電流値IT(I)と平均輝度G(I)との関係を示す値であればよく、例えば、以下の式(1)にて計算可能である。
【数1】

ここで、σITはターゲット電流値IT(I)の標準偏差、σGは平均輝度G(I)の標準偏差、文字上の横線は平均値、Nは評価するデータ数(IMAX/ISTEP)である。
【0077】
むろん、相関係数ICは式(1)に限られず、初期状態におけるターゲット電流値IT(I)と平均輝度G(I)との関係と、X線発生器11の稼働状態におけるターゲット電流値IT(I)と平均輝度G(I)との関係とを評価することができる限りにおいて種々の値を採用可能であり、例えば、図7Bに破線で示す直線と実線で示す輝度に対応した曲線とについてターゲット電流値のステップ毎に差分を算出し、その絶対値の和などを相関係数とすることができる。
【0078】
相関係数に対しては、予めその閾値ICTHが設定されて閾値データ28eとしてメモリ28に記録されており、性能診断部25eは、相関係数ICが閾値ICTHより大きいか否かを判別する(ステップS250)。そして、当該ステップS250にて相関係数ICが閾値ICTHより大きいと判定されないときには、性能診断部25eがサービス要員への通知や消耗品の発注等が必要である旨の警告を出力部27に表示する(ステップS255)。当該ステップS250にて相関係数ICが閾値ICTHより大きいと判定されたときには警告を行わない。
【0079】
以上の処理において、前記閾値は、ターゲット11aの性能が劣化してX線発生器11の稼働を停止せざるを得なくなる状態より前の状態における相関係数の値である。従って、ステップS255においてこの閾値によって判定を行い、この判定に基づいて警告を表示することによって、X線出力器の稼働を停止させる時間をできるだけ短くするための予防的な措置を講じることが可能である。また、本実施形態においては、特定のターゲット電流値における平均輝度のみではなく、複数のターゲット電流値における平均輝度を取得して相関係数を評価している。従って、特定のターゲット電流値における平均輝度を評価する場合と比較して、正確に予防的措置を講じることが可能である。
【0080】
(3−2)ターゲット電流値と管電流値との関係に基づく診断:
図8は、ターゲット電流値と管電流値との関係を判断指標としてパラメータを取得する例のフローチャートである。すなわち、X線発生器11の初期状態でアパーチャ11bと電子レンズ11cとアノード11dとが基準の設定にあり、X線発生器11内の真空度も所定の高真空度が確保できるとき、ターゲット電流値と管電流値との比(ターゲット電流値/管電流値:電流効率)はある一定以上の値となる。
【0081】
一方、X線発生器11を稼働すると、経時的な変化によってアパーチャ11bと電子レンズ11cとアノード11dとが基準の設定からずれる。このずれはターゲット電流値と管電流値との比に反映されるので、ターゲット電流値と管電流値との比によってX線発生器11の性能の劣化を診断することができる。
【0082】
当該ターゲット電流値と管電流値との比をパラメータとして劣化を評価するため、図8に示す例では、まず、X線制御部25bが電圧制御部21aに指示を出し、X線発生器11を駆動する際の電圧を所定の値に設定する(ステップS300)。なお、この電圧値は予め決められている。
【0083】
次に、X線制御部25bが電流制御部21bに指示を出して管電流値Iを予め決められた値に設定し、X線発生器11を駆動する(ステップS310)。この結果、管電流値Iとなるようにカソード11eから電子線11iが出力され、電子線11iがターゲット11aに衝突することによってターゲット11aからX線が出力される。
【0084】
さらに、X線制御部25bは、電流制御部21bに指示を出し、この状態におけるターゲット電流値ITを取得する(ステップS320)。以上の処理によって、管電流値Iとターゲット電流値ITとが明らかになっているので、性能診断部25eは、電流効率IE=IT/Iを算出する(ステップS330)。当該電流効率に対しては、予めその閾値IETHが設定されて閾値データ28eとしてメモリ28に記録されており、性能診断部25eは、電流効率IEが閾値IETHより大きいか否かを判別する(ステップS340)。
【0085】
そして、当該ステップS340にて電流効率IEが閾値IETHより大きいと判定されないときには、性能診断部25eがサービス要員への通知や消耗品の発注等が必要である旨の警告を出力部27に表示する(ステップS350)。当該ステップS350にて電流効率ICが閾値IETHより大きいと判定されたときには警告を行わない。
【0086】
以上の処理において、前記閾値は、アパーチャ11bと電子レンズ11cとアノード11dとのいずれかまたは組み合わせが基準の設定からずれることによってX線発生器11の稼働を停止せざるを得なくなる状態より前の状態における電流効率の値である。従って、ステップS340においてこの閾値によって判定を行い、この判定に基づいて警告を表示することによって、X線出力器の稼働を停止させる時間をできるだけ短くするための予防的な措置を講じることが可能である。
【0087】
当該閾値による性能劣化診断は、他の判断指標(例えば、ターゲット電流値とX線量との関係や後述する判断指標)による診断と併せて実施することが好ましく、複数の判断指標による診断を行うことで、診断精度を高めることができる。例えば、他の判断指標におけるパラメータ値と前記電流効率に対する閾値とを対応付けておき、当該他の判断指標におけるパラメータ値に応じて閾値を選択し、警告を行うか否かを決定する。この結果、特定のパラメータのみに基づいて性能劣化を評価する場合と比較して、正確に予防的措置を講じることが可能である。
【0088】
(3−3)X線量の方向依存性に基づく診断:
図9は、X線量の方向依存性を判断指標として複数のパラメータを取得する例のフローチャートである。すなわち、ターゲット11aの劣化が生じていない場合や、アパーチャ11bと電子レンズ11cとアノード11dとが基準の設定にある場合には、ターゲット11aから出力されるX線の出力範囲の全域で単位立体角あたりのX線量がほぼ等しくなる。
【0089】
しかし、ターゲット11aの劣化が生じた場合やアパーチャ11bと電子レンズ11cとアノード11dとが基準の設定からずれた場合などにはX線量に方向依存性が生じ、X線の出力範囲の位置毎に単位立体角あたりのX線量が異なってくる。そこで、X線量の方向依存性を取得すれば性能の劣化を診断することができる。
【0090】
このように劣化を評価するため、図9に示す例では、まず、搬送制御部25aがステージ制御機構22を制御してX線検出器13aの視野範囲からサンプルを退避させる(ステップS400)。次に、X線制御部25bが電圧制御部21aに指示を出し、X線発生器11を駆動する際の電圧と電流を所定の値に設定してX線発生器11を駆動する(ステップS405)。なお、この電圧値および電流値は予め決められている。この結果、ターゲット11aからX線が出力される。この状態において、画像取得部25dは画像取得機構23に回転角θを初期値0に設定する(ステップS410)。
【0091】
そして、θ制御部23aは、回転角θとなるように回転機構13bを制御し、X線検出器13aを回転角θに配置する(ステップS415)。上述のように、X線検出器13aの視野範囲にはサンプルが存在しないので、ターゲット11aから出力されたX線は回転角θに配置されたX線検出器13aに到達する。そこで、画像取得部25dは画像取得機構23に指示を出し、X線検出器13aを制御してX線画像を撮影してX線検出器13aの表面上の位置(x,y)に対応した輝度F(x,y)を取得する(ステップS420)。次に、各位置(x,y)の輝度を平均化して平均輝度G(θ)を算出する(ステップS425)。
【0092】
本実施形態においては、上述のようにX線量の方向依存性を取得するため、所定の角度ステップθSTEPごとに角度を変化させてこの処理を繰り返すようになっており、ここで、性能診断部25eは回転角θに角度θSTEPを加え(ステップS430)、当該回転角θが予め設定された最大値θMAXより大きくなっているか否かを判別する(ステップS435)。そして、同ステップS435にて回転角θが最大値θMAXより大きくなっていると判別されるまでステップS415〜S435の処理を繰り返す。
【0093】
ステップS435にて回転角θが最大値θMAXより大きくなっていると判別されたときには、複数の回転角に対応した平均輝度G(θ)が得られているので、性能診断部25eは、平均輝度G(θ)の変動量GFを算出する(ステップS440)。なお、変動量GFは平均輝度G(θ)の変動量を示す値であればよく、例えば、各角度における平均輝度G(θ)について平均をとり、平均と各角度における平均輝度G(θ)とを比較し、その差分の大きさに対応した値等を採用することができる。むろん、予め決められた基準と各角度における平均輝度G(θ)との差分の大きさに対応した値等を採用可能である。
【0094】
変動量GFに対しては、予めその閾値GFTHが設定されて閾値データ28eとしてメモリ28に記録されており、性能診断部25eは、変動量GFが閾値GFTHより大きいか否かを判別する(ステップS445)。そして、当該ステップS445にて変動量GFが閾値GFTHより大きいと判定されたときには、性能診断部25eがサービス要員への通知や消耗品の発注等が必要である旨の警告を出力部27に表示する(ステップS450)。当該ステップS445にて変動量GFが閾値GFTHより大きいと判定されないときには警告を行わない。
【0095】
以上の処理において、前記閾値は、ターゲット11aの性能が劣化してX線発生器11の稼働を停止せざるを得なくなる状態より前の状態における変動量の値である。従って、ステップS445においてこの閾値によって判定を行い、この判定に基づいて警告を表示することによって、X線出力器の稼働を停止させる時間をできるだけ短くするための予防的な措置を講じることが可能である。また、本実施形態においては、複数の角度について平均輝度を取得してその変動量を評価している。従って、正確に予防的措置を講じることが可能である。
【0096】
また、当該閾値による判断は、他の判断指標(例えば、ターゲット電流値とX線量との関係、ターゲット電流値と管電流値との関係や後述する判断指標)による診断と併せて実施することが好ましく、複数の判断指標による診断を行うことで、診断精度を高めることができる。例えば、他の判断指標におけるパラメータ値と前記変動量に対する閾値とを対応付けておき、当該他の判断指標におけるパラメータ値に応じて閾値を選択し、警告を行うか否かを決定する。この結果、特定のパラメータのみに基づいて性能劣化を評価する場合と比較して、正確に予防的措置を講じることが可能である。
【0097】
(3−4)真空系の動作に基づく診断:
さらに、X線発生器11における真空チャンバー11hの動作に関するパラメータに基づいてX線発生器11の性能劣化を診断しても良い。例えば、X線発生器11においては、圧力制御部21cの制御によって真空ポンプ11gが駆動され、真空計11fにて所定の真空度に達したことを検知した後にX線による検査を開始する。このような減圧作業は、X線発生器11の停止後に行われ、所定の高真空度に達したことによってX線の検査が開始されるものの、X線発生器11の性能劣化が進行していると所定の真空度に達するまでの時間が延びることとなる。
【0098】
この現象は、例えば、真空状態を確保するために真空チャンバー11hに備えられるパッキンが劣化している場合や、真空チャンバー11hに異物が混入している場合、真空チャンバー11h内のアパーチャ11bと電子レンズ11cとアノード11d等から真空チャンバー11h内に物質が漏出している場合など、種々の性能劣化に対応して発生する。
【0099】
そこで、所定の圧力(X線の出力が可能になる高真空の圧力値)に達するまでの時間をパラメータとすれば、性能の劣化を診断することが可能になる。具体的には、圧力制御部21cによって真空ポンプ11gの制御を開始してから真空計11fによって計測した圧力値が所定の値に達するまでの時間を計測し、予め設定された閾値と比較する。そして、圧力値が所定の値に達するまでの時間が閾値を超えている場合には警告を出力する。この結果、X線出力器の稼働を停止させる時間をできるだけ短くするための予防的な措置を講じることが可能である。
【0100】
当該閾値による性能劣化診断は、他の判断指標による診断と併せて実施することが好ましく、複数の判断指標による診断を行うことで、診断精度を高めることができる。例えば、他の判断指標におけるパラメータ値と圧力値が所定の値に達するまでの時間を判定するための閾値とを対応付けておき、当該他の判断指標におけるパラメータ値に応じて閾値を選択し、警告を行うか否かを決定する。この結果、特定のパラメータのみに基づいて性能劣化を評価する場合と比較して、正確に予防的措置を講じることが可能である。
【0101】
なお、上述のように真空ポンプ11gによる減圧を開始してから所定の圧力値に達するまでの時間は、減圧を開始する時点での真空チャンバー11h内の圧力値に依存する。そこで、前記閾値は、真空チャンバー11h内の初期の圧力値によって変動させても良い。例えば、真空チャンバー11h内の初期の圧力値と閾値とを対応付けるテーブルデータ等を予め用意しておき、減圧を開始する際の真空チャンバー11h内の圧力値を取得して閾値を決定する構成等を採用可能である。
【0102】
さらに、X線発生器11における真空チャンバー11hの動作に関するパラメータとして、エージング機能に関するパラメータを利用しても良い。すなわち、X線発生器11においては、X線を安定的に出力するために真空ポンプ11gを駆動しながら電圧制御部21aがX線発生器11に印加する電圧を制御し、所定の電圧(通常は使用可能な最大値)に達するまで徐々に上昇させるエージング機能を実施する。
【0103】
このエージング機能においては、圧力値の低下に応じて電圧を上げていくため、真空チャンバー11h内の圧力が上昇した場合には、電圧の低下は一旦中断するが、真空ポンプ11gの動作によって再び圧力が低下した場合には電圧を上昇させる。従って、X線発生器11の性能劣化が生じているときには、エージング機能による動作において圧力値が単調に低下せず、また、エージングが完了するまでの時間が初期状態より延びる。
【0104】
図10は、当該エージング時の真空度と時間の関係の例を示す図であり、横軸が時間、縦軸が真空度である。なお、この図においては真空計11fの出力値が電圧値(V)であるため単位が電圧値になっている。この電圧値は小さいほど圧力が小さいことを示している。同図10に示すように、時間の経過とともに圧力値は徐々に低下していき、当該圧力の低下に伴って電圧値も上昇していく。図10においては、エージング開始から160秒を過ぎたあたりで圧力値が上昇する例を示しており、このように圧力値の低下が止まり、圧力値が上昇した場合にはエージングが中断し、中断時の圧力値より圧力が低下すると再びエージングを行う。従って、エージングが完了するまでの時間は延びる。
【0105】
このような圧力値の低下傾向の変動やエージング完了までの時間の変動は、真空チャンバー11hに備えられるパッキンが劣化している場合や、真空チャンバー11hに異物が混入している場合、真空チャンバー11h内のアパーチャ11bと電子レンズ11cとアノード11d等から真空チャンバー11h内に物質が漏出している場合、放電等が発生した場合などに発生する。すなわち、X線発生器11の性能劣化が生じていると、エージングにおける真空度の低下傾向の変動やエージング完了までの時間の変動が生じる。従って、エージングにおける真空度の低下傾向の変動やエージング完了までの時間の変動をパラメータとすればX線発生器11の性能劣化を診断することができる。
【0106】
そこで、エージングが完了するまでの時間をパラメータとすれば、性能の劣化を診断することが可能になる。具体的には、エージング処理を開始してからエージング処理が完了するまでの時間を計測し、予め設定された閾値と比較する。そして、エージングが完了するまでの時間が閾値を超えている場合には警告を出力する。この結果、X線出力器の稼働を停止させる時間をできるだけ短くするための予防的な措置を講じることが可能である。
【0107】
当該閾値による性能劣化診断は、他の判断指標による診断と併せて実施することが好ましく、複数の判断指標による診断を行うことで、診断精度を高めることができる。例えば、他の判断指標におけるパラメータ値とエージング完了までの時間を判定するための閾値とを対応付けておき、当該他の判断指標におけるパラメータ値に応じて閾値を選択し、警告を行うか否かを決定する。この結果、特定のパラメータのみに基づいて性能劣化を評価する場合と比較して、正確に予防的措置を講じることが可能である。なお、ここでも、エージング開始時の真空チャンバー11h内の圧力値に応じて閾値を変動させる構成を採用可能である。
【0108】
さらに、エージングを実施している際の時間に対する圧力値の変化率をパラメータとして性能の劣化を診断しても良い。具体的には、エージング処理を開始した後の真空計11fの出力値を取得し、ある時間における真空計11fの出力値がそれ以前の真空計11fの出力値と比較して変化率を算出し、予め設定された閾値と比較する。そして、変化率がこの閾値より大きい場合には警告を出力する。この結果、X線出力器の稼働を停止させる時間をできるだけ短くするための予防的な措置を講じることが可能である。
【0109】
当該閾値による性能劣化診断は、他の判断指標による診断と併せて実施することが好ましく、複数の判断指標による診断を行うことで、診断精度を高めることができる。例えば、他の判断指標におけるパラメータ値とエージング時の圧力値の変化率を判定するための閾値とを対応付けておき、当該他の判断指標におけるパラメータ値に応じて閾値を選択し、警告を行うか否かを決定する。この結果、特定のパラメータのみに基づいて性能劣化を評価する場合と比較して、正確に予防的措置を講じることが可能である。
【0110】
(4)他の実施形態:
本発明においては、稼働中のX線発生器11における性能の劣化を示すパラメータを複数個取得し、X線発生器11の性能の劣化を高精度に診断することができればよく、上述の実施形態以外にも種々の構成を採用可能である。例えば、複数のパラメータについてログを記録し、ログに基づいて警告を行う構成を採用しても良い。
【0111】
例えば、上述のようにして取得した相関係数ICや電流効率IE、平均輝度G(θ)の変動量GF、所定の圧力に達するまでの時間、エージング時の圧力値の変化率、エージングが完了するまでの時間等を取得する度にその値を記録する。図11は、パラメータのログの一例を示しており、縦軸がパラメータ値、横軸が時間である。このグラフにおいて実線に示す変化がパラメータの通常の変化である。この例に示すように、通常は、経時変化によって単調にパラメータ値が変化し、やがてX線発生器11を停止させるべきパラメータ値Sに達するので、それ以前のパラメータ値をもって閾値T1を設定し、パラメータ値がこの閾値T1を下回った段階で警告を出力する。
【0112】
しかし、X線発生器11において適正な設定がなされていない場合や性能を劣化させる種々の要因が存在するときには、図11のグラフにおいて破線で示すようにパラメータが急激に変化する場合がある。そこで、パラメータが時間に対して変化する際の変化率について閾値を予め設定しておき、パラメータを算出する度にログを参照し、閾値を超える変化率で変化したときには警告を行う。この結果、X線発生器11の稼働中、突然に当該X線発生器11を停止すべき状態(前記パラメータの値がSとなる状態)に至ることを未然に防ぐことが可能である。
【0113】
さらに、X線発生器11の性能の劣化を示す情報を出力するための手法としては、出力部27における警告の表示以外にも種々の手法を採用可能である。図12は、X線発生器11の劣化を示す情報を通信部によって外部に出力する構成の一例を示す図である。同図に示す構成において、X線検査装置10の構成は図1に示す構成とほぼ同様の構成である。但し、図1に示す構成に対して、外部のネットワークN(インターネット等)に接続可能なインタフェース29(I/F)が追加され、CPU25にて実施可能なモジュールとして、当該I/F29を介した通信の制御を実施可能な通信制御部25fが追加されている。
【0114】
ネットワークNには外部のコンピュータPが接続可能であり、ネットワークNを介してX線検査装置10から送信される情報を受信することができる。また、コンピュータPは、ディスプレイ等の出力部とキーボード等の入力部とを備えており、各種の情報をディスプレイ等に表示可能であり、キーボード等によって各種の入力を行うことができる。このコンピュータは、前記サービス要員の派遣元や消耗品の発送元によって利用される。
【0115】
本実施形態においては、前記性能診断部25eによって図3等に示す処理とほぼ同様の処理を実施するが、警告の出力に際しては、通信制御部25fがI/F29を介してその警告を示す情報をコンピュータPに対して送信する。このとき、コンピュータPは前記警告を示す情報を受信する処理を行い、その警告の内容をディスプレイに表示する。そこで、このコンピュータPを利用する利用者は、この警告に応じてサービス要員をX線検査装置10の利用場所に派遣したり、消耗品を発送する作業を行う。この結果、X線検査装置10の利用者自身は何ら作業を行うことなく、X線発生器11の停止時間をなるべく短くするための予防措置を講じることが可能である。
【0116】
さらに、上述の実施形態においては、X線発生器11の性能の劣化について警告を行う構成を採用していたが、性能の劣化を示す情報の内容としては、警告のみならず他にも種々の態様を採用可能である。例えば、図11に示すようなX線発生器11の性能に関するパラメータの経時的な変化を出力する構成等を採用可能である。むろん、このとき、併せて上述の閾値を出力することが好ましい。
【0117】
さらに、X線検査装置10の構成としては、図1に示す構成に限定されず、他の構成を採用しても良い。例えば、回転機構13bの下部にX線発生器11の方向に検出面が向けられたX線検出器を配置しても良い。この構成においては、2次元的な画像に基づく良否判定を行うことが可能であり、この検査装置においても本発明によって性能の劣化を診断することが可能である。
【0118】
さらに、上述の実施形態においては、サンプルの良否判定をする度に性能診断処理を実施する構成としていたが、一定時間毎に性能診断処理を実施するなど、他のタイミングで性能診断処理を実施しても良い。むろん、判断指標によって異なるタイミングで性能診断処理を行っても良い。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】本発明にかかるX線検査装置の概略ブロック図である。
【図2】X線発生器の構造を示す模式図である。
【図3】検査のフローチャートである。
【図4】X線検査装置の構成を座標系とともに説明する説明図である。
【図5】視野領域の例を示す図である。
【図6】性能診断処理のフローチャートである。
【図7】ターゲット電流値とX線量との関係を示す図である。
【図8】性能診断処理のフローチャートである。
【図9】性能診断処理のフローチャートである。
【図10】エージング時の真空度と時間の関係を示す図である。
【図11】パラメータのログの一例を示す図である。
【図12】他の実施形態にかかるX線検査装置の概略ブロック図である。
【符号の説明】
【0120】
10…X線検査装置
11…X線発生器
11a…ターゲット
11b…アパーチャ
11c…電子レンズ
11d…アノード
11e…カソード
11f…真空計
11g…真空ポンプ
11h…真空チャンバー
11i…電子線
12…X−Yステージ
12a…基板
13a…X線検出器
13b…回転機構
14…搬送装置
21…X線制御機構
21a…電圧制御部
21b…電流制御部
21c…圧力制御部
22…ステージ制御機構
23…画像取得機構
23a…θ制御部
24…搬送機構
25a…搬送制御部
25b…X線制御部
25c…ステージ制御部
25d…画像取得部
25e…性能診断部
25f…通信制御部
26…入力部
27…出力部
28…メモリ
28a…検査位置データ
28b…撮像条件データ
28c…X線画像データ
28d…3次元画像データ
28e…閾値データ
29…インタフェース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソードとアノードとによって加速した電子線を電子光学系によってターゲットに導いてターゲットからX線を出力させるX線出力手段と、
前記X線出力手段によって出力されたX線の照射範囲にサンプルを配置するサンプル配置手段と、
前記照射範囲内のX線を取得してX線画像を取得するX線画像取得手段と、
前記X線出力手段における性能の劣化を示す複数のパラメータを取得して性能の劣化に関する出力を行う性能診断手段とを備えることを特徴とするX線出力器診断装置。
【請求項2】
前記性能診断手段は、前記性能の劣化を示す特定の判断指標について条件が異なる複数のパラメータを取得することを特徴とする請求項1に記載のX線出力器診断装置。
【請求項3】
前記性能診断手段は、前記性能の劣化を示す複数の判断指標についてパラメータを取得することを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載のX線出力器診断装置。
【請求項4】
前記X線出力手段は、前記ターゲットに流れるターゲット電流値を取得するターゲット電流取得部を備え、
前記性能診断手段は、前記X線画像取得手段が取得したX線画像に基づいてX線量に対応した情報を取得し、複数のターゲット電流値とX線量との関係を取得することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載のX線出力器診断装置。
【請求項5】
前記X線出力手段は、前記ターゲットに流れるターゲット電流値を取得するターゲット電流取得部とアノードに流れる管電流値を取得する管電流取得部とを備え、
前記性能診断手段は、前記ターゲット電流値と前記管電流値との関係を取得することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載のX線出力器診断装置。
【請求項6】
前記X線画像取得手段は、複数の方向からX線画像を取得するX線取得機構を備え、
前記性能診断手段は、前記X線出力手段を一定の条件で駆動して前記X線画像取得手段によって複数の方向から取得したX線画像に基づいて算出したX線量を取得することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載のX線出力器診断装置。
【請求項7】
前記X線出力手段は、前記電子線を発生させる部位を減圧する真空ポンプとその圧力を測定する圧力計とを備え、
前記性能診断手段は、前記真空ポンプによる減圧を開始してから所定の圧力に到達するまでの時間を取得することを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載のX線出力器診断装置。
【請求項8】
前記X線出力手段は、前記電子線を発生させる部位を減圧する真空ポンプと、前記電子線を発生させるための電圧を制御する電圧制御部とを備え、前記電圧が所定の電圧に達するまで、前記真空ポンプによる減圧に伴って前記電圧を徐々に上昇させるエージング機能を備えており、
前記性能診断手段は、エージング機能が完了するまでの時間を取得することを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれかに記載のX線出力器診断装置。
【請求項9】
前記X線出力手段は、前記電子線を発生させる部位を減圧する真空ポンプと、その圧力を測定する圧力計と、前記電子線を発生させるための電圧を制御する電圧制御部とを備え、前記電圧が所定の電圧に達するまで、前記真空ポンプによる減圧に伴って前記電圧を徐々に上昇させるエージング機能を備えており、
前記性能診断手段は、エージング機能を実施しているときの圧力の時間に対する変化率を取得することを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれかに記載のX線出力器診断装置。
【請求項10】
前記性能診断手段は通信部を備え、通信部によって外部の機器に前記性能の劣化に関するデータを送信し、当該外部の機器は当該データに基づいて前記性能の劣化に関する情報を出力することを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれかに記載のX線出力器診断装置。
【請求項11】
前記性能診断手段は、前記X線出力手段における性能の経時的な劣化によってサンプルの測定が不可能になる前に警告を出力することを特徴とする請求項1〜請求項10のいずれかに記載のX線出力器診断装置。
【請求項12】
前記性能診断手段は、前記複数のパラメータに関するログを保持しており、これらのパラメータが所定の基準を超えて変化したときに警告を出力することを特徴とする請求項1〜請求項11のいずれかに記載のX線出力器診断装置。
【請求項13】
カソードとアノードとによって加速した電子線を電子光学系によってターゲットに導いてターゲットからX線を出力させるX線出力部と、
前記X線出力部によって出力されたX線の照射範囲にサンプルを配置するサンプル配置部と、
前記照射範囲内のX線を取得してX線画像を取得するX線画像取得部と、を含むX線出力器の診断方法であって、
前記X線出力部における性能の劣化を示す複数のパラメータを取得して性能の劣化に関する出力を行うことを特徴とするX線出力器診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−242287(P2007−242287A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−59764(P2006−59764)
【出願日】平成18年3月6日(2006.3.6)
【出願人】(000243881)名古屋電機工業株式会社 (107)
【Fターム(参考)】