説明

ZnO系半導体層の製造方法及びZnO系半導体発光素子の製造方法

【課題】ZnO系半導体単結晶の新規な製造方法を提供する。
【解決手段】ZnO系半導体層の製造方法は、(a)MgZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶表面を有する下地上に、(MgZn1−y(0≦y≦0.6)単結晶膜を成長させる工程と、(b)(MgZn1−y(0≦y≦0.6)単結晶膜を酸化して、NドープMgZn1−zO(0≦z≦0.6)単結晶膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ZnO系半導体層の製造方法及びZnO系半導体発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Znを酸化することによりZnOを得る方法が提案されている。発光ダイオード等の半導体素子への応用を考えると、単結晶のZnOが得られることが望ましい。しかし、このような方法でZnO単結晶を得ることは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Appl. Phys. Lett. 88 (2006) 172103.
【非特許文献2】J. Crystal Growth 259 (2003) 279.
【非特許文献3】Solid State Communication 135 (2005) 11.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の一目的は、ZnO系半導体単結晶の新規な製造方法、及び、このようなZnO系半導体単結晶の製造方法を利用したZnO系半導体発光素子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一観点によれば、(a)MgZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶表面を有する下地上に、(MgZn1−y(0≦y≦0.6)単結晶膜を成長させる工程と、(b)前記(MgZn1−y(0≦y≦0.6)単結晶膜を酸化して、NドープMgZn1−zO(0≦z≦0.6)単結晶膜を形成する工程とを有するZnO系半導体層の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0006】
MgZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶表面に、(MgZn1−y(0≦y≦0.6)単結晶膜を成長させることができる。(MgZn1−y(0≦y≦0.6)単結晶膜を酸化することにより、NドープMgZn1−zO(0≦z≦0.6)単結晶膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、MBE装置の概略断面図である。
【図2】図2は、Zn膜の成長速度の、Znフラックス及び成長温度依存性を示すグラフである。
【図3】図3Aは、第2実験のサンプル構造を示す概略断面図であり、図3B1〜図3B4は、第2実験のサンプルのRHEED像であり、図3Cは、第2実験のサンプルに対するXRDの2θ/ωスキャン測定結果を示すグラフである。
【図4】図4Aは、第3実験のサンプル構造を示す概略断面図であり、図4B1〜図4B4は、第3実験のサンプルのRHEED像であり、図4Cは、第3実験のサンプルに対するXRDの2θ/ωスキャン測定結果を示すグラフである。
【図5】図5A、図5Bは、それぞれ、第2実験、第3実験のサンプルに対するXRDのΦスキャン測定結果を示すグラフである。
【図6】図6Aは、第4実験のサンプル構造を示す概略断面図であり、図6B1〜図6B4は、第4実験のサンプルのRHEED像であり、図6Cは、第4実験のサンプルに対するXRDの2θ/ωスキャン測定結果を示すグラフである。
【図7】図7Aは、第5実験のサンプル構造を示す概略断面図であり、図7B1〜図7B4は、第5実験のサンプルのRHEED像であり、図7Cは、第5実験のサンプルに対するXRDの2θ/ωスキャン測定結果を示すグラフである。
【図8】図8は、酸化用電気炉の概略断面図である。
【図9】図9は、Zn、Mg、ZnO、及びMgOの諸物性をまとめた表である。
【図10】図10Aは、第6実験のサンプルのXRDパターンを示し、図10Bは、第6実験のサンプルのXRDピーク強度の酸化時間に対する変化を示すグラフである。
【図11】図11Aは、第7実験のサンプルのXRDパターンを示し、図11Bは、第7実験のサンプルのXRDピーク強度の酸化時間に対する変化を示すグラフである。
【図12】図12は、第6実験〜第8実験のサンプルの電気的特性及びN濃度をまとめた表である。
【図13】図13は、第8実験の酸化工程における温度と、HOガス及びOガスの供給状態を示すタイミングチャートである。
【図14】図14Aは、第1応用例のZnO系半導体発光素子の構造を示す概略断面図であり、図14Bは、量子井戸構造の活性層を示す概略断面図である。
【図15】図15は、第2応用例のZnO系半導体発光素子の構造を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本願発明者らは、以下に説明するように、NがドープされたZnO系半導体単結晶の新規な製造方法を提案する。ここで、ZnO系半導体は、少なくともZnとOとを含む。以下、NがドープされたZnOを、ZnO:Nと呼ぶ。例えば発光ダイオード等のZnO系半導体素子への利用を考えたとき、ZnO:N膜は、単結晶であることが望ましく、また、ZnO系半導体下地上に形成できることが望ましい。
【0009】
本願発明者らは、Zn単結晶膜を酸化することにより、ZnO:N単結晶膜を得ることを試みた。そのため、Zn単結晶膜を成長させる実験を行った。Zn膜の成膜には、分子線エピタキシ(MBE)装置を用いた。
【0010】
図1は、Zn単結晶膜の成膜に用いられるMBE装置の概略断面図である。なお、ここで、MBE装置として、後述の第4、第5実験で形成するZnO膜やMgO膜、応用例のZnO系半導体発光素子の作製時に形成する各層等も成膜できる装置について説明する。
【0011】
真空チャンバー1が、Znソースガン2、Mgソースガン3、(必要に応じて)Gaソースガン4、Oソースガン5、及び、Nソースガン6を備える。Znソースガン2、Mgソースガン3、Gaソースガン4は、それぞれ、Zn固体ソース(例えば純度7N)、Mg固体ソース(例えば純度6N)、及びGa固体ソースを収容するクヌーセンセルを含み、Znビーム、Mgビーム、Gaビームを出射する。クヌーセンセルは、パイロリティックボロンナイトライド(PBN)製るつぼと、るつぼを加熱するヒータとを含む。
【0012】
なお、ZnO系半導体のn型導電性は、n型不純物を添加しなくても得ることができるが、Gaを、n型キャリア濃度を高めるために添加することもできる。
【0013】
Oソースガン5、Nソースガン6は、それぞれ、例えば13.56MHzのラジオ周波(RF)を用いた無電極放電管を含み、Oラジカルビーム、Nラジカルビームを出射する。放電管材料としては、PBNもしくは高純度石英を使用する。Oボンベ5aからマスフローコントローラ5bを介して、O源となるOガス(例えば純度6N)がOソースガン5に供給される。Nボンベ6aからマスフローコントローラ6bを介して、N源となるNガス(例えば純度6N)がNソースガン6に供給される。
【0014】
真空チャンバー1内に、ヒータを含む基板ホルダ7が配置され、ホルダ7が基板8を保持する。基板8上に、所望のビームを供給することにより、所望の組成の結晶層を成長させることができる。真空チャンバー1内に、また、水晶振動子を用いた膜厚計9が備えられている。膜厚計9で測定される堆積速度から、Znビーム等のフラックスが求められる。
【0015】
本MBE装置は、反射高速電子回折(RHEED)用のガン10、RHEED像を映すスクリーン11、及び、固体撮像装置とモニタとを含むRHEED像の表示装置12も備える。RHEED像から、成長した結晶層の結晶性を判定することができる。
【0016】
次に、Zn単結晶膜を成膜できる条件について調べた第1実験について説明する。第1実験では、a面サファイア基板上に、Zn膜を成長させた。a面サファイア基板は、10mm角のものを用いた。
【0017】
Nラジカルビームの供給条件は、RFパワーを300W、N流量を2sccmとし、一定とした。Znビームの供給条件は、Znフラックスを0.05nm/s〜0.65nm/s(3.3×1014atoms/cms〜4.3×1015atoms/cms)の範囲で変化させた。そして、成長温度を200℃〜250℃の範囲で変化させた。
【0018】
図2は、Zn膜の成長速度の、Znフラックス及び成長温度依存性を示すグラフである。横軸は、Å/s単位の堆積速度で表したZnフラックス(FZn)であり、縦軸は、nm/h単位で表したZn膜の成長速度である。成長温度(Tg)200℃、225℃、及び250℃の結果を、それぞれ、丸、四角、三角のプロットで示す。
【0019】
Zn膜の成長速度は、成長温度に大きく依存し、成長温度の増加とともに減少することがわかる。図2中には、成長速度のZnフラックス依存性を近似式GZn3N2=[(kZnZn−1+(k−1−1でフィッティングした結果を曲線で示している。ここでkZn、kはそれぞれZn及びNの付着係数、JZn、JはそれぞれZn及びNのフラックスで単位面積単位時間あたりの照射原子数である。kを2´1014atoms/cmsとして、成長温度Tgが200℃、 225℃、 250℃の時、それぞれ、Znの付着係数kZnが0.2、0.03、 0.002であると見積もられた。Zn膜は、成長温度300℃を超えると全く成長しなかった。
【0020】
Zn膜の結晶性を、RHEEDで評価した。成長温度が200℃〜250℃の範囲において、成長速度が100nm/h以下の場合に、RHEED像はストリークで(4×4)の再構築パターンを示し、Zn単結晶膜がエピタキシャル成長することがわかった。成長速度が100nm/h以上では、RHEED像がリングパターンを示し、多結晶膜が成長することがわかった。
【0021】
さらに、c面サファイア基板上にZn膜を成長させる実験と、ZnO基板上にZn膜を成長させる実験も行った。
【0022】
上述の単結晶膜が成長する成長条件で、c面サファイア基板上にZn膜を成長させた場合は、RHEED像がスポット−リングパターンとなり、多結晶膜しか成長しないことを確認した。
【0023】
上述の単結晶膜が成長する成長条件で、ZnO基板上にZn膜を成長させた場合は、a面サファイア基板上に成長させた場合と同様に、RHEED像がストリークで(4×4)の再構築パターンを示し、Zn単結晶膜がエピタキシャル成長することがわかった。
【0024】
次に、a面サファイア基板上に成長させたZn単結晶膜の結晶方位について調べた第2実験について説明する。
【0025】
図3Aは、第2実験のサンプル構造を示す概略断面図である。a面サファイア基板21上に、成長温度を225℃とし、Znフラックスを0.12nm/s(7.9×1014atoms/cms)とし、Nラジカルビーム照射条件を、RFパワー300WでN流量2sccmとして、Zn膜22を成長した。
【0026】
図3B1〜図3B4は、第2実験のサンプルのRHEED像である。図3B1は、サファイア基板の[0001]方向のRHEED像であり、図3B2は、サファイア基板の[1−100]方向のRHEED像であり、図3B3は、Zn膜の[1−10]方向のRHEED像であり、図3B4は、Zn膜の[11−2]方向のRHEED像である。
【0027】
図3Cは、第2実験のサンプルに対するX線回折(XRD)の2θ/ωスキャン測定結果を示すグラフである。
【0028】
図5Aは、第2実験のサンプルに対するXRDのΦスキャン測定結果を示すグラフである。
【0029】
XRDの2θ/ωスキャン測定において、サファイア基板の(11−20)面及び(22−40)面からの回折ピークと、Zn膜の(222)面及び(444)面からの回折ピークのみが観測され、サファイア(11−20)面上に、Zn(111)面がエピタキシャル成長していることがわかった。
【0030】
また、RHEED及びXRDのΦスキャン測定から、面内方向はZn[11−2]+8°//サファイア[1−100]、及びZn[1−10]+8°//サファイア[0001]という結果が得られ、Zn膜がサファイアのm軸から約8°回転して配向していることがわかった。
【0031】
次に、Zn面ZnO基板上に成長させたZn単結晶膜の結晶方位について調べた第3の実験について説明する。
【0032】
図4Aは、第3実験のサンプル構造を示す概略断面図である。Zn面ZnO基板31上に、第3実験と同様に、成長温度を225℃とし、Znフラックスを0.12nm/s(7.9×1014atoms/cms)とし、Nラジカルビーム照射条件を、RFパワー300WでN流量2sccmとして、Zn膜32を成長した。
【0033】
図4B1〜図4B4は、第3実験のサンプルのRHEED像である。図4B1は、ZnO基板の[11−20]方向のRHEED像であり、図4B2は、ZnO基板の[1−100]方向のRHEED像であり、図4B3は、Zn膜の[1−10]方向のRHEED像であり、図4B4は、Zn膜の[11−2]方向のRHEED像である。
【0034】
図4Cは、第3実験のサンプルに対するXRDの2θ/ωスキャン測定結果を示すグラフである。
【0035】
図5Bは、第3実験のサンプルに対するXRDのΦスキャン測定結果を示すグラフである。
【0036】
XRDの2θ/ωスキャン測定において、ZnO基板の (0002)面及び(0004)面からの回折ピークと、Zn膜の(222)面及び(444)面からの回折ピークのみが観測され、ZnO(0001)面上に、Zn(111)面がエピタキシャル成長していることがわかった。
【0037】
また、RHEED及びXRDのΦスキャン測定から、面内方向はZn[11−2]//ZnO[1−100]、及びZn[1−10]//ZnO[11−20]であることがわかった。Znのストリークパターンは、格子ミスマッチに対応して、ZnOのストリークパターンの約6%内側に現れた。
【0038】
なお、第3実験においてはZn面ZnO基板を用いたが、O面ZnO基板でも同様な結果が得られた。
【0039】
次に、a面サファイア基板上にZnOエピタキシャル成長膜を形成し、ZnOエピタキシャル成長膜上にZn膜を成長させた第4実験について説明する。
【0040】
図6Aは、第4実験のサンプル構造を示す概略断面図である。a面サファイア基板41上に、成長温度を300℃とし、Znフラックスを0.11nm/sとし、Oラジカルビーム照射条件を、RFパワー300WでO流量2sccmとして、厚さ約30nmの低温ZnOバッファ層42を成長させた。そして、低温ZnOバッファ層42の結晶性及び表面平坦性改善のため、900℃で30分アニールを施した。
【0041】
そして、成長温度を700℃とし、Znフラックスを0.35nm/sとし、Oラジカルビーム照射条件を、RFパワー300WでO流量2sccmとして、厚さ約1μmのZnO膜43を成長させた。ZnO膜43は、O極性面(−c面)で成長している。
【0042】
さらに、成長温度を225℃とし、Znフラックスを0.11nm/sとし、Nラジカルビーム照射条件を、RFパワー300WでN流量2sccmとして、厚さ約100nmのZn膜44を成長させた。
【0043】
図6B1〜図6B4は、第4実験のサンプルのRHEED像である。図6B1は、ZnO下地膜の[11−20]方向のRHEED像であり、図6B2は、ZnO下地膜の[1−100]方向のRHEED像であり、図6B3は、Zn膜の[110]方向のRHEED像であり、図6B4は、Zn膜の[112]方向のRHEED像である。なお、これらのRHEED像ではスクリーンの汚れが斜めの線として現れている(これは、後述の第5実験の図7B1〜図7B4でも同様である)。
【0044】
図6Cは、第4実験のサンプルに対するXRDの2θ/ωスキャン測定結果を示すグラフである。
【0045】
サファイア基板のa面、ZnOのc面、及びZn(111)面に係る回折ピークのみが観察され、エピタキシャル成長方向は、Zn(111)//ZnO(000−1)//サファイア(11−20)であることがわかった。また、面内方向は、Zn[11−2]//ZnO[1−100]//サファイア[1−100]、及びZn[1−10]//ZnO[11−20]//サファイア [0001]であることがわかった。
【0046】
次に、c面サファイア基板上にZnOエピタキシャル成長膜を形成し、ZnOエピタキシャル成長膜上にZn膜を成長させた第5実験について説明する。
【0047】
図7Aは、第5実験のサンプル構造を示す概略断面図である。c面サファイア基板51上に、成長温度を650℃とし、Mgフラックスを0.05nm/sとし、Oラジカルビーム照射条件を、RFパワー300WでO流量2sccmとして、厚さ約10nmのMgO膜52を成長させた。MgO膜52は、その上に表面がZn極性面のZnOを成長させる極性制御層として働く。
【0048】
MgO膜52上に、成長温度を300℃とし、Znフラックスを0.11nm/sとし、Oラジカルビーム照射条件を、RFパワー300WでO流量2sccmとして、厚さ約30nmの低温ZnOバッファ層53を成長させた。そして、低温ZnOバッファ層53の結晶性及び表面平坦性改善のため、900℃で30分アニールを施した。
【0049】
そして、成長温度を900℃とし、Znフラックスを0.05nm/sとし、Oラジカルビーム照射条件を、RFパワー300WでO流量2sccmとして、厚さ約1.5μmのZnO膜54を成長させた。ZnO膜54は、Zn極性面(+c面)で成長している。
【0050】
さらに、成長温度を225℃とし、Znフラックスを0.11nm/sとし、Nラジカルビーム照射条件を、RFパワー300WでN流量2sccmとして、厚さ約100nmのZn膜55を成長させた。
【0051】
図7B1〜図7B4は、第5実験のサンプルのRHEED像である。図7B1は、ZnO下地膜の[11−20]方向のRHEED像であり、図7B2は、ZnO下地膜の[1−100]方向のRHEED像であり、図7B3は、Zn膜の[110]方向のRHEED像であり、図7B4は、Zn膜の[112]方向のRHEED像である。
【0052】
図7Cは、第5実験のサンプルに対するXRDの2θ/ωスキャン測定結果を示すグラフである。
【0053】
サファイア基板のc面、MgO(111)面、ZnOのc面、及びZn(111)面に係る回折ピークのみが観察され、エピタキシャル成長方向は、Zn(111)//ZnO(0001)//MgO(111)//サファイア(0001)であることがわかった。また、面内方向、Zn[11−2]//ZnO[1−100]//MgO[11−2]//サファイア [11−20]、及びZn[1−10]//ZnO[11−20]//MgO[1−10]//サファイア [1−100]であった。
【0054】
第4実験及び第5実験で説明したように、ZnO以外の基板を用いる場合でも、基板上にZnOをエピタキシャル成長させることにより、ZnO単結晶下地膜上に、Zn(111)面をエピタキシャル成長させられることがわかった。なお、ZnO単結晶膜の代わりに、ZnOにMgを添加したMgZnO単結晶膜を下地としても、同様の結果が得られる。
【0055】
本願発明者らは、さらに、Zn単結晶膜を酸化してZnO:N膜を得る実験を行った。まず、酸化装置について説明する。
【0056】
図8は、Zn膜の酸化に用いられる酸化用電気炉の概略断面図である。チャンバー61内に配置されたサセプタ62に、サンプル63が載置され、ヒータ64が、サンプル63を加熱する。
【0057】
源65aからマスフローコントローラ65bを介して、Oガスがチャンバー61内に供給される。HO源66aからマスフローコントローラ66bを介して、HOガスがチャンバー61内に供給される。例えば以下のようにして、HOガスを供給できる。水ボトルを例えば110℃に加熱して水蒸気を発生させ、例えば200℃程度に加熱した配管と、高温用マスフローコントローラを介して、HOガスが供給される。
【0058】
次に、Zn単結晶膜を、Oガスフロー中で酸化させてZnO:N膜を得た第6実験について説明する。Zn単結晶膜は、第2実験と同様な成膜条件で、a面サファイア基板上に成長させた。
【0059】
成長させたまま(as−grown)のZn単結晶膜は、不透明で金属光沢を有したダークグレー色を呈する。Zn膜は、酸化することにより透光性のあるブラウン色となる。さらに酸化が進み、完全にZnO:N膜となった時は、無色で透明な膜が得られる。これは、以下に考察するように、バンドギャップの変化に対応していると考えられる。
【0060】
なお、後述のように、第6実験のサンプルのZnO:N膜は、表面凹凸構造による光の散乱で、膜が白っぽく(白濁して)見える。第7、第8実験のサンプルのZnO:N膜は、表面平坦性がよく、白濁のない無色透明となる。
【0061】
図9は、Zn、Mg、ZnO、及びMgOの諸物性をまとめた表である。Znは、バンドギャップが1.06eVとSiのバンドギャップ(1.1eV)に近く、Siと同様の色を呈す。Zn膜の酸化が一部進むと、ZnOに変化している部分とZnの部分が混在している状態になり、OドープZnは、若干バンドギャップが拡がることが推察される。その結果、膜はブラウン色となる。さらに酸化が進み、膜全体がZnOに変化すると、ZnOのバンドギャップは3.37eVであり、可視光領域で透明であるため、無色透明な膜が得られる。
【0062】
図10A及び図10Bは、第6実験におけるXRDの2θ/ωスキャン測定結果を示すグラフである。
【0063】
図10Aに結果を示す実験では、厚さ200nmのZn膜を形成し、酸化した。酸化条件は、O流量を200sccm、圧力を50kPaとして、酸化時間を30分と一定にし、酸化温度を550℃〜700℃の範囲で変化させた。
【0064】
図10Aに、as−grownで酸化なしのサンプルのXRDパターンと、酸化温度を50℃ずつ変えたサンプルのXRDパターンを示す。酸化温度が高いほど、酸化がより進行し、650℃以上でZn(222)面からの回折が消失して、全てZnO(0002)面からの回折に変化している。
【0065】
図10Bに結果を示す実験でも、厚さ200nmのZn膜を形成し、酸化した。酸化条件は、O流量を200sccm、圧力を50kPaとして、酸化温度を550℃と一定にし、酸化時間を0分〜180分の範囲で変化させた。
【0066】
図10Bは、XRDピーク強度の酸化時間に対する変化を示すグラフである。Zn(222)面のピーク強度を、as−grownのZn単結晶膜のピーク強度を1に規格化して示すとともに、ZnO(0002)面のピーク強度を、完全にZnOに変化したZnO:N単結晶膜のピーク強度を1に規格化して示す。Znのピーク強度を菱形のプロットで示し、ZnOのピーク強度を丸のプロットで示す。
【0067】
酸化時間が長くなるにつれて、Zn(222)面のピーク強度が減少し、それに伴いZnO(0002)面のピーク強度が増加すること、つまり、酸化が進行することにより、Zn(111)膜がZnO(0001)膜に変化することがわかる。
【0068】
180分酸化処理をしたものは、Zn(222)面のピークが完全に消失し、すべてZnO(0002)面のピークとなった。基板を除いて他の回折面からのピークは観測されず、ZnからZnOへの変化は単結晶状態を保っていることがわかった。このようにして得られたZnO:N膜は、表面白濁が見られ表面平坦性が悪く、粘着テープにより膜が容易に剥がれてしまい基板との密着性も弱い膜であった。
【0069】
さらに、厚さ50nmのZn膜を形成し、O流量を200sccm、圧力を50kPa、酸化温度を600℃、酸化時間を30分として酸化を行い、ZnO:N膜を作製した(この試料をサンプルAと呼ぶ)、サンプルAの電気的特性及びN濃度を測定した。電気的特性は室温におけるホール測定で、N濃度は2次イオン質量分析(SIMS)で測定した。
【0070】
次に、Zn単結晶膜を、HOガスフロー中で酸化させてZnO:N膜を得た第7実験について説明する。Zn単結晶膜は、第2実験と同様な成膜条件で、a面サファイア基板上に成長させた。
【0071】
図11A及び図11Bは、第7実験におけるXRDの2θ/ωスキャン測定結果を示すグラフである。
【0072】
図11Aに結果を示す実験では、厚さ200nmのZn膜を形成し、酸化した。酸化条件は、HO流量を200sccm、圧力を50kPaとして、酸化時間を2分と一定にし、酸化温度を400℃〜700℃の範囲で変化させた。
【0073】
図11Aに、as−grownで酸化なしのサンプルのXRDパターンと、酸化温度を100℃ずつ変えたサンプルのXRDパターンを示す。Oガス酸化による第6実験と同様に、酸化温度が高いほど、酸化がより進行している。600℃から700℃の間で、Zn(222)面からの回折が消失して、全てZnO(0002)面からの回折に変化している。
【0074】
図11Bに結果を示す実験でも、厚さ200nmのZn膜を形成し、酸化した。酸化条件は、HO流量を200sccm、圧力を50kPaとして、酸化温度を600℃と一定にし、酸化時間を0分〜20分の範囲で変化させた。
【0075】
図11Bは、XRDピーク強度の酸化時間に対する変化を示すグラフである。Zn(222)面のピーク強度と、ZnO(0002)面のピーク強度とを、第6実験の図10Bと同様に規格化して示す。
【0076】
ガス酸化による第6実験と同様に、酸化が進行することにより、Zn(111)単結晶膜がZnO(0001)単結晶膜に変化することがわかった。20分の酸化処理で、Zn(222)面のピークが完全に消失し、すべてZnO(0002)面のピークとなった。
【0077】
このようにして得られたZnO:N膜は、鏡面で表面平坦性が高く、基板との密着性も良好であった。
【0078】
さらに、厚さ50nmのZn膜を形成し、HO流量を200sccm、圧力を50kPa、酸化温度を600℃、酸化時間を10分として酸化を行い、ZnO:N膜を作製した(この試料をサンプルBと呼ぶ)、サンプルBの電気的特性及びN濃度を測定した。
【0079】
Znのピークが消失しすべてZnOとなるまでに、第6実験の図10Bの例では180分かかり、第7実験の図11Bの例では20分で済んでいる。このように、HOガスを用いる酸化は、Oガスを用いる酸化に比べて、酸化速度が速いことがわかった。なお、この傾向は、HOガスを用いる酸化を500℃で行っても同様であった。
【0080】
また、HOガスを用いる酸化は、図11Bの例では、初期の2分でZnのピーク強度が8割程度減少している。このことは、HOガスを用いる酸化では、Zn膜の表面が急速に酸化されるというメカニズムを示唆するように思われる。
【0081】
図12は、第6実験のサンプルA及び第7実験のサンプルBの電気的特性及びN濃度をまとめた表である。酸化のスタート材料であるZnエピ膜に対しても電気的特性を測定し、Znの電気的特性も示す。
【0082】
Zn膜は低抵抗なn型導電性を示し、キャリア濃度が2.9×1019cm−3、移動度が214cm/Vs、比抵抗が0.001Ωcmであった。
【0083】
ガス酸化で得られたサンプルAのZnO:N膜は、比抵抗が1000Ωcm以上の高抵抗を示し、N濃度が1.1×1020cm−3であった。一方、HOガス酸化で得られたサンプルBのZnO:N膜は、n型導電性を示し、キャリア濃度が6.9×1019cm−3、移動度が1.1cm/Vs、比抵抗が0.085Ωcmであり、N濃度が1.0×1021cm−3であった。このように、酸化性ガスのガス種により、得られるZnO:N膜の電気的特性が極端に異なることが明らかとなった。
【0084】
膜の密着性・表面平坦性に関しては、上述のように、O酸化よりもHO酸化の方が優れている。これは、以下のように、Znの昇華速度と酸化速度との関係で説明できるのではないかと思われる。
【0085】
Znの沸点は明らかになっていないが、図9に示したように、Mgの沸点(700℃)が融点(800℃)より低いことから、Znも昇華性の材料と思われ、その沸点はMgよりも低温であると推察される。例えば、MBEチャンバー内で成長後に600℃まで昇温すると、Zn膜は数秒で消失してしまう。
【0086】
ガスによる酸化では、酸化力が弱いので、Znの昇華と酸化が面内で同時に起こることに起因して、膜の密着性や表面平坦性が悪くなるものと思われる。一方、HOガスによる酸化では、酸化力が強いので、Zn膜の全面で、表面がすぐにZnO膜に変化し、その後膜内部への酸化が進んでいくため、密着性や表面平坦性が良くなるものと思われる。
【0087】
なお、HOガス酸化で得られたZnO:N膜がn型導電性を示すメカニズムについては、現在のところよくわからない。
【0088】
次に、Zn単結晶膜を、HOガス及びOガスで順次酸化させてZnO:N膜を得た第8実験について説明する。まず、第2実験と同様な成膜条件で、厚さ50nmのZn単結晶膜を、a面サファイア基板上に成長させた。
【0089】
図13は、第8実験の酸化工程における温度と、HOガス及びOガスの供給状態とを示すタイミングチャートである。
【0090】
まず、真空中で加熱を開始し、300℃になったところで、HOガスの導入を開始し、600℃まで昇温した後、酸化温度600℃で2分の酸化を行った。HOガスの導入条件は、流量200sccm、圧力50kPaとした。
【0091】
そして、導入ガスをHOからOに切り替え、酸化温度を引き続き600℃とし、10分の酸化を行った。Oガスの導入条件は、流量を200sccm、圧力を50kPaとした。
【0092】
その後、導入ガスをOからN(流量500sccm)切り替え、サンプルを冷却した。このようにして、ZnO:N膜を作製した(この試料をサンプルCと呼ぶ)。サンプルCの膜は無色透明であり、完全にZnOまで酸化されたと膜色から判断できる。サンプルCの電気的特性及びN濃度を測定した。
【0093】
図12に、第8実験のサンプルCの電気的特性及びN濃度もまとめて示す。HOガス及びOガスによる順次の酸化で得られたサンプルCのZnO:N膜は、p型伝導性を示し、キャリア濃度が4.5×1016cm−3、移動度が8.4cm/Vs、比抵抗が16.8Ωcmであり、N濃度が4.2×1020cm−3であった。サンプルCのZnO:N膜は、表面が鏡面で、基板との密着性も良好であった。
【0094】
第8実験では、以下のようなメカニズムでの酸化が起こっているものと思われる。まず、酸化力の強いHOガスにより、Zn膜表面を急速に酸化させて、表面キャップ層としてZnO膜を設けることにより、Znの昇華が防止される。なお、HOガスによる酸化は、昇温中に開始しているものと考えられる。
【0095】
その後に、酸化力の弱いOガスにより、膜内部の酸化を、比較的ゆっくりと進行させる。このような酸化により、表面平坦性及び膜の密着性が優れたZnO:N膜が作製可能になったものと思われる。そして、このような2ステップの酸化を行うことにより、p型導電性を得ることもできたと思われる。
【0096】
なお、このような2ステップ酸化において、強い酸化性ガスはHOに限らず、弱い酸化性ガスはOに限らないと考えられる。1段目の酸化で用いる、2段目の酸化に用いる酸化性ガスに対し相対的に強い酸化性ガスとして、例えば、HO、オゾン、メチルアルコール、エチルアルコールなどの極性酸化剤や、Oラジカルなどの活性種等を、単独でまたは組み合わせて用いることができるであろう。
【0097】
また、2段目の酸化で用いる、1段目の酸化に用いる酸化性ガスに対して相対的に弱い酸化性ガスとして、例えば、O、NO、CO、NO、NOなどの無極性酸化剤を、単独でまたは組み合わせて用いることができるであろう。
【0098】
第1段目の強い酸化性ガスによる酸化は、表面のZnO膜が、内部のZnの昇華を抑制するキャップ層として機能する程度の厚さ形成されるまで行うのが好ましいと考えられる。キャップ層の好ましい厚さは、もとのZn膜の厚さや処理温度にやや依存するとは考えられるが、例えば、5nm〜30nm程度と見積もられる。
【0099】
キャップ層が薄すぎると、Znの昇華を防ぐことができなくなる。例えば1nm〜2nm程度では、600℃以上でのZnの昇華が抑えられない。また、キャップ層が厚すぎると、p型化しなくなる。
【0100】
酸化温度の好ましい範囲は、400℃〜650℃程度と考えられる。400℃より低温では、酸化反応が進みにくい。また、650℃より高温では、酸化反応が速く進みすぎて、キャップ層厚の制御(強い酸化性ガスによる酸化時間の制御)が難しくなる。例えば酸化温度700℃では、HO中2分の酸化で、厚さ200nmのZn膜が全厚さ酸化されてZnOになってしまう。
【0101】
なお、第6〜第8実験では、a面サファイア基板上に形成されたZn単結晶膜を酸化してZnO:N単結晶膜を得たが、ZnO単結晶(及びMgZnO単結晶)上に形成されたZn単結晶膜についても同様に、酸化によりZnO:N単結晶膜を得ることができると考えられる。
【0102】
以上説明したように、例えばZnO単結晶表面上に、Zn単結晶膜を成長させることができ、そして、Zn単結晶膜を酸化することにより、ZnO:N単結晶膜を得ることができる。
【0103】
相対的に強い酸化性ガスで、Zn膜表面にZnO膜を形成した後、相対的に弱い酸化性ガスで、残った内部のZn膜の酸化を行う2ステップ酸化により、表面平坦性及び密着性に優れ、p型導電性を持つZnO:N膜を作製することができる。
【0104】
なお、図9に示したように、ZnとMgは結晶構造が同じであり、Znのエピタキシャル成長と同様にして、ZnにMgを添加したMgZnNのエピタキシャル成長も可能である。MgZnNを酸化処理することにより、MgZnOを作製することができる。
【0105】
ZnOにMgを添加してMgZnOとすることにより、バンドギャップを広げることができる。ただし、ZnOはウルツ鉱構造で、MgOは岩塩構造であるため、Mg組成が高すぎると相分離を起こしてしまう。
【0106】
MgZnOのMg組成をzと明示したMgZn1−zOにおいて、Mg組成zは、ウルツ鉱構造を保つため0.6以下とするのが好ましい。なお、Mg組成z=0も含めることにより、MgZn1−zOという表記に、Mgの添加されていないZnOも含める。
【0107】
MgZnNの組成を明示し、Mg組成をyと示した(MgZn1−y)において、Mg組成yは、これを酸化して得られるMgZn1−zOのMg組成zと、基本的には等しい。したがって、(MgZn1−y)のMg組成yの上限も0.6と見積もられる。ただし、酸化条件によってやや(MgZn1−y)膜が昇華し、MgよりZnの方が飛びやすいことから、酸化で得られたMgZn1−zO膜のMg組成zの方がやや高くなる場合もありうる。なお、Mg組成y=0も含めることにより、(MgZn1−y)という表記に、Mgの添加されていないZnも含める。
【0108】
次に、第8実験の結果の応用例によるZnO系半導体発光素子の製造方法について説明する。
【0109】
図14Aは、第1応用例の発光素子の構造を示す概略断面図である。n型導電性を持つZn面ZnO(0001)基板71上に、成長温度を300℃とし、Znフラックスを0.1nm/sとし、Oラジカルビーム照射条件を、RFパワー300WでO流量2sccmとして、厚さ30nmのZnOバッファ層72を成長させる。そして、900℃でアニールを行い、ZnOバッファ層72の結晶性及び表面平坦性を改善する。
【0110】
ZnOバッファ層72上に、成長温度を900℃とし、Znフラックスを0.3nm/sとし、Oラジカルビーム照射条件を、RFパワー250WでO流量1sccmとして、厚さ150nmのn型ZnO層73を成長させる。
【0111】
n型ZnO層73上に、成長温度を900℃とし、Znフラックスを0.1nm/sとし、Mgフラックスを0.03nm/sとし、Oラジカルビーム照射条件を、RFパワー300WでO流量2sccmとして、厚さ30nmのn型MgZnO層74を成長させる。
【0112】
n型MgZnO層74上に、成長温度を900℃とし、Znフラックスを0.1nm/sとし、Oラジカルビーム照射条件を、RFパワー300WでO流量2sccmとして、厚さ10nmのZnO膜を成長させて、活性層75を形成する。
【0113】
なお、図14Bに示すように、ZnO単層の活性層75の代わりに、MgZnO障壁層75bとZnO井戸層75wとが交互に積層された量子井戸構造の活性層75を形成してもよい。
【0114】
活性層75上に、成長温度を225℃とし、Znフラックスを0.11nm/sとし、Nラジカルビーム照射条件を、RFパワー300WでN流量2sccmとし、必要に応じてMgビームも照射して、厚さ100nmの(MgZn1−y)(0≦y≦0.6)層76aを成長させる。例えば、Mgフラックスを0.004nm/sとして、(Mg0.31Zn0.69)が得られ、Mgフラックスを0.008nm/sとして、(Mg0.5Zn0.5)が得られる。
【0115】
そして、基板をMBEチャンバーから取り出し、酸化加熱炉に配置し、HOガスフロー中例えば酸化温度600℃で2分熱処理した後、Oガスフロー中例えば酸化温度600℃で15分の熱処理を施して、(MgZn1−y)(0≦y≦0.6)層76aを、Nのドープされたp型MgZn1−zO(0≦z≦0.6)層76に変化させる。
【0116】
その後、ZnO基板71の裏面上にn側電極77nを形成し、p型MgZn1−zO(0≦z≦0.6)層76上にp側電極77pを形成し、p側電極77p上にボンディング電極BEを形成する。n側電極77nは、例えば、厚さ10nmのTi層上に厚さ500nm のAl層を積層して形成される。p側電極77pは、例えば、厚さ1nmのNi層上に厚さ10nmのAu層を積層して形成され、ボンディング電極BEは、例えば、厚さ500nmのAu層で形成される。n側電極77n、p側電極77p、及びボンディング電極BEの形成後、大気中で例えば300℃、1分の合金化を行う。このようにして、第1応用例の発光素子が形成される。
【0117】
なお、変形例として、活性層上に、MBE成長により第1のp型ZnO系半導体層として、NドープMgZn1−aO(0≦a≦0.6)層を成長した後、(MgZn1−b)(0≦b≦0.6)を成長し酸化によりMgZn1−cO(0≦c≦0.6)層を形成することにより、コンタクト層として第2のp型ZnO系半導体を形成しても良い。
【0118】
図15は、第2応用例の発光素子の構造を示す概略断面図である。絶縁性基板であるc面サファイア基板81に、第5実験のMgO膜52と同様にして、極性制御層として、厚さ3nm以上のMgOバッファ層82を成長させる。
【0119】
MgOバッファ層82上に、第1応用例のZnOバッファ層72と同様にして、ZnOバッファ層83を形成する。ZnOバッファ層83上に、第1応用例のn型ZnO層73と同様にして、n型ZnO層84を形成する。n型ZnO層84上に、第1応用例のn型MgZnO層74と同様にして、n型MgZnO層85を形成する。
【0120】
n型MgZnO層85上に、第1応用例の活性層75と同様にして、活性層86を形成する。活性層86上に、第1応用例のp型MgZn1−zO(0≦z≦0.6)層76と同様にして、(MgZn1−y)(0≦y≦0.6)層の酸化により、p型MgZn1−zO(0≦z≦0.6)層87を形成する。
【0121】
第2応用例では絶縁性基板を用いているので、基板裏面側にはn側電極が取れない。そこで、基板上方からn側電極を取る点が、第1応用例の電極形成工程と異なる。n側電極88nの形成領域を、p型MgZn1−zO(0≦z≦0.6)層87の上面から、n型ZnO層84が露出する深さまでエッチングし、露出したn型ZnO層84上に、n側電極88nを形成する。そして、p側電極88pをp型MgZn1−zO(0≦z≦0.6)層87上に形成し、ボンディング電極BEをp側電極88上に形成する。このようにして、第2応用例の発光素子が形成される。
【0122】
なお、上記の実験及び応用例では、(MgZn1−y)(0≦y≦0.6)単結晶膜の成長方法としてMBEを例示したが、例えば、パルスレーザ堆積(PLD)や有機金属化学気相堆積(MOCVD)等の他の成膜方法も用いることができるであろう。
【0123】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0124】
1 真空チャンバー
2 Znソースガン
3 Mgソースガン
4 Gaソースガン
5 Oソースガン
6 Nソースガン
7 基板ホルダ
8 基板
9 膜厚計
10 RHEED用ガン、
11 スクリーン
12 表示装置
21 a面サファイア基板
31 Zn面ZnO基板
22、32 Zn
41 a面サファイア基板
51 c面サファイア基板
52 MgO膜
42、53 低温ZnOバッファ層
43、54 ZnO膜
44、55 Zn
61 チャンバー
62 サセプタ
63 サンプル
64 ヒータ
65a O
66a HO源
71 Zn面ZnO基板
81 c面サファイア基板
82 MgOバッファ層
72、83 ZnOバッファ層
73、84 n型ZnO層
74、85 n型MgZnO層
75、86 活性層
76、87 p型MgZn1−zO(0≦z≦0.6)層
77n、88n n側電極
77p、88p p側電極
BE ボンディング電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)MgZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶表面を有する下地上に、(MgZn1−y(0≦y≦0.6)単結晶膜を成長させる工程と、
(b)前記(MgZn1−y(0≦y≦0.6)単結晶膜を酸化して、NドープMgZn1−zO(0≦z≦0.6)単結晶膜を形成する工程と
を有するZnO系半導体層の製造方法。
【請求項2】
前記工程(b)は、前記(MgZn1−y(0≦y≦0.6)単結晶膜を、相対的に強い酸化性ガスで酸化する第1の酸化を行い、その後、相対的に弱い酸化性ガスで酸化する第2の酸化を行う請求項1に記載のZnO系半導体層の製造方法。
【請求項3】
前記強い酸化性ガスは、HO、オゾン、メチルアルコール、エチルアルコール、Oラジカルのうちの少なくとも1つを含み、前記弱い酸化性ガスは、O、NO、CO、NO、NOのうちの少なくとも1つを含む請求項2に記載のZnO系半導体層の製造方法。
【請求項4】
前記第1の酸化は、前記(MgZn1−y(0≦y≦0.6)単結晶膜の表面を酸化させてキャップ層を形成し、前記第2の酸化は、前記(MgZn1−y(0≦y≦0.6)単結晶膜の内部に残った部分を酸化させる請求項2または3に記載のZnO系半導体層の製造方法。
【請求項5】
前記第1の酸化は、厚さ5nm〜30nmの前記キャップ層を形成する請求項4に記載のZnO系半導体層の製造方法。
【請求項6】
前記工程(b)は、前記(MgZn1−y(0≦y≦0.6)単結晶膜を、650℃以下で酸化する請求項1〜5のいずれか1項に記載のZnO系半導体層の製造方法。
【請求項7】
前記MgZn1−xO(0≦x≦0.6)単結晶表面が{0001}面であり、前記(MgZn1−y(0≦y≦0.6)単結晶膜の表面が{111}面であり、前記NドープMgZn1−zO(0≦z≦0.6)単結晶膜の表面が{0001}面である請求項1〜6のいずれか1項に記載のZnO系半導体層の製造方法。
【請求項8】
前記工程(a)は、前記(MgZn1−y(0≦y≦0.6)単結晶膜を、300℃以下で成長させる請求項1〜7のいずれか1項に記載のZnO系半導体層の製造方法。
【請求項9】
前記工程(a)は、前記(MgZn1−y(0≦y≦0.6)単結晶膜を、MBEで成長させる請求項1〜8のいずれか1項に記載のZnO系半導体層の製造方法。
【請求項10】
(c)半導体基板上方に、n型ZnO系半導体層を成長させる工程と、
(d)前記n型ZnO系半導体層上に、ZnO系半導体活性層を成長させる工程と、
(e)前記ZnO系半導体活性層上方に、(MgZn1−y(0≦y≦0.6)単結晶膜を成長させる工程と、
(f)前記(MgZn1−y(0≦y≦0.6)単結晶膜を酸化して、Nドープp型MgZn1−zO(0≦z≦0.6)単結晶膜を形成する工程と
を有するZnO系半導体発光素子の製造方法。
【請求項11】
前記工程(f)は、前記(MgZn1−y(0≦y≦0.6)単結晶膜を、相対的に強い酸化性ガスで酸化する第1の酸化を行い、その後、相対的に弱い酸化性ガスで酸化する第2の酸化を行う請求項10に記載のZnO系半導体発光素子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2012−59874(P2012−59874A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200915(P2010−200915)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】