説明

α−1−リン酸化2−デオキシ−2−フルオロアラビノシド及び2’−デオキシ−2’−フルオロ−β−D−アラビノヌクレオシドの製造法

式(I):
【化1】


で表されるα−1−リン酸化2−デオキシ−2−フルオロアラビノシド又は式(V’):
【化2】


で表される1−リン酸化2−デオキシ−2−フルオロアラビノシドのαβ体混合物、及び塩基に、ヌクレオシドホスホリラーゼを作用させることを特徴とする、式(II):
【化3】


(式中、Bは塩基を示す。)
で表される2’−デオキシ−2’−フルオロ−β−D−アラビノヌクレオシド、特に2’−デオキシ−2’−フルオロ−β−D−アラビノプリンヌクレオシドを簡便、かつ高立体選択的に高収率で製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−1−リン酸化2−デオキシ−2−フルオロアラビノシド及びこれを鍵中間体とする2’−デオキシ−2’−フルオロ−β−D−アラビノヌクレオシドの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、2’−デオキシ−2’−フルオロ−β−D−アラビノヌクレオシド(2’F−ANA)を構成成分とするアンチセンスオリゴヌクレオチドが、その生物的活性のために大いに注目されている(特許文献1及び非特許文献1、2)。
【0003】
2’F−ANAは既知化合物であり、その化学的合成法も既に報告されている(特許文献2、非特許文献3、4)。具体的には、2’F−ANAを天然のヌクレオシドから誘導することは困難であるため、1−ハロゲン化糖誘導体と核酸塩基との置換反応(縮合反応)により合成されている。しかし、反応液中にはβ体の他にα体が混在し、高純度な2’F−ANAを得るには煩雑なカラムクロマトグラフィーなどの精製処理を必要とした。
【0004】
その中でも、2’−デオキシ−2’−フルオロ−β−D−アラビノピリミジンヌクレオシドは、比較的容易に合成可能であるものの、2’−デオキシ−2’−フルオロ−β−D−アラビノプリンヌクレオシドについては、反応液中に複雑な異性体(α体、β体、7位体、9位体など)が混在するため、効率的な合成法は未だ確立されていないのが現状である。
【0005】
上記化学合成法の欠点を克服する手段の1つとして、酵素合成法が提案されている。例えば、2−デオキシリボースの1位リン酸化糖の異性化反応の平衡を傾かせてα−1−リン酸化糖誘導体を合成し、引き続きヌクレオシドホスホリラーゼを用いて目的とするヌクレオシドを製造することができる(特許文献3)。
【0006】
しかしながら、本発明者らの知見によると、1−リン酸化2−デオキシ−2−フルオロアラビノシドは比較的安定であり、α体とβ体の平衡を一方向へ傾けることは難しく、2’F−ANAの製造に上記酵素法を適用することは困難である。
【0007】
一方、2’−デオキシ−2’−フルオロ−β−D−アラビノピリミジンヌクレオシドとプリン塩基からヌクレオシドホスホリラーゼを用いて2’−デオキシ−2’−フルオロ−β−D−アラビノプリンヌクレオシドを酵素合成する方法も報告されている(特許文献4)。
【特許文献1】国際公開第99/67378号パンフレット
【特許文献2】特公平7−23395号公報
【特許文献3】特開2002−205996号公報
【特許文献4】特開昭63−258891号公報
【非特許文献1】Biochemistry,41,3457(2002).
【非特許文献2】Bioorg.Med.Chem.Lett.,12,2651,(2002).
【非特許文献3】J.Org.Chem.,50,3644(1985).
【非特許文献4】J.Org.Chem.,53,85(1988).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記酵素法は、(i)化学的に合成した高価な2’−デオキシ−2’−フルオロ−β−D−アラビノピリミジンヌクレオシドを原料として用いていること、(ii)目的物の2’−デオキシ−2’−フルオロ−β−D−アラビノプリンヌクレオシドの合成収率が極めて悪いこと(対塩基収率は15%未満)、(iii)2種類のヌクレオシドホスホリラーゼを使用する必要があることなど、必ずしも満足できる方法ではなかった。尚、上記方法の低収率の要因としては、ヌクレオシドホスホリラーゼを用いた2’−デオキシ−2’−フルオロ−β−D−アラビノピリミジンヌクレオシドの加リン酸分解反応効率の低さが考えられる。
従って、本発明の目的は、高収率かつ立体選択的な合成が困難であった2’F−ANA、特に2’−デオキシ−2’−フルオロ−β−D−アラビノプリンヌクレオシドを簡便、かつ高立体選択的に高収率で製造する方法を提供することにある。とりわけ、本発明の目的は、従来合成が極めて困難であった9−(2−フルオロ−β−D−アラビノシル)グアニンを工業的スケールで、簡便かつ高純度に製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、かかる実情に鑑み鋭意検討を重ねた結果、(i)1−リン酸化2−デオキシ−2−フルオロアラビノシドは、意外にも水溶液中で安定であり、そのα体はヌクレオシドホスホリラーゼの基質として充分利用可能であること、(ii)式(III)で表される2−デオキシ−2−フルオロアラビノース誘導体を加水分解、リン酸化することにより、α−1−リン酸化2−デオキシ−2−フルオロアラビノシドが立体選択的に得られること、(iii)式(III)で表される化合物を強塩基存在下にリン酸化することにより、ヌクレオシドホスホリラーゼの基質とならないβ−1−リン酸化2−デオキシ−2−フルオロアラビノシドよりも基質となるα体の生成比率の高いαβ体混合物が得られること、(iv)原料として、2’−デオキシ−2’−フルオロ−β−D−アラビノピリミジンヌクレオシドではなく、1−リン酸化2−デオキシ−2−フルオロアラビノシド(α体又はαβ体混合物)を用いることにより、2種類のヌクレオシドホスホリラーゼを使用せずに、2’−デオキシ−2’−フルオロ−β−D−アラビノヌクレオシドが高収率で得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、式(I):
【0011】
【化1】

【0012】
で表されるα−1−リン酸化2−デオキシ−2−フルオロアラビノシド又はその塩を提供する。
【0013】
また本発明は、式(III):
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、Rは水酸基の保護基、Xは脱離基を示す。)
で表される2−デオキシ−2−フルオロアラビノース誘導体を加水分解して式(IV):
【0016】
【化3】

【0017】
(式中、Rは前記定義のとおりである。)
で表されるα−1−ヒドロキシル体を立体選択的に得、式(IV)の化合物をリン酸化して式(V):
【0018】
【化4】

【0019】
(式中、Rは前記定義のとおりであり、Rは水素原子又はリン酸残基の保護基を示す。)
で表されるα−1−リン酸化2−デオキシ−2−フルオロアラビノシド誘導体とし、次いで水酸基及び/又はリン酸残基の保護基を脱保護することを特徴とする、式(I):
【0020】
【化5】

【0021】
で表されるα−1−リン酸化2−デオキシ−2−フルオロアラビノシドの立体選択的な製造法を提供する。
【0022】
また本発明は、式(III):
【0023】
【化6】

【0024】
(式中、Rは水酸基の保護基、Xは脱離基を示す。)
で表される2−デオキシ−2−フルオロアラビノース誘導体を強酸塩存在下、リン酸化して、式(V):
【0025】
【化7】

【0026】
(式中、Rは前記定義のとおりであり、Rは水素原子又はリン酸残基の保護基を示す。)
で表される1−リン酸化2−デオキシ−2−フルオロアラビノシド誘導体のαβ体混合物を得、次いで水酸基及び/又はリン酸残基の保護基を脱保護することを特徴とする、式(V’):
【0027】
【化8】

【0028】
で表される1−リン酸化2−デオキシ−2−フルオロアラビノシドのαβ体混合物の製造法を提供する。
【0029】
また本発明は、式(I):
【0030】
【化9】

【0031】
で表されるα−1−リン酸化2−デオキシ−2−フルオロアラビノシド又は式(V’):
【0032】
【化10】

【0033】
で表される1−リン酸化2−デオキシ−2−フルオロアラビノシドのαβ体混合物、及び塩基に、ヌクレオシドホスホリラーゼを作用させることを特徴とする、式(II):
【0034】
【化11】

【0035】
(式中、Bは塩基を示す。)
で表される2’−デオキシ−2’−フルオロ−β−D−アラビノヌクレオシドの製造法を提供する。
【0036】
また本発明は、式(I):
【0037】
【化12】

【0038】
で表されるα−1−リン酸化2−デオキシ−2−フルオロアラビノシド又は式(V’):
【0039】
【化13】

【0040】
で表される1−リン酸化2−デオキシ−2−フルオロアラビノシドのαβ体混合物、及び2−アミノ−6−置換プリンに、ヌクレオシドホスホリラーゼを作用させ、式(VI):
【0041】
【化14】

【0042】
(式中、Yは置換基を示す。)
で表される2−アミノ−6−置換−9−(2−フルオロ−β−D−アラビノシル)プリンを得、これを加水分解酵素で処理することを特徴とする、式(VII):
【0043】
【化15】

【0044】
で表される9−(2−フルオロ−β−D−アラビノシル)グアニンの製造法を提供する。
【0045】
更に本発明は、式(I):
【0046】
【化16】

【0047】
で表されるα−1−リン酸化2−デオキシ−2−フルオロアラビノシド又は式(V’):
【0048】
【化17】

【0049】
で表される1−リン酸化2−デオキシ−2−フルオロアラビノシドのαβ体混合物、及びグアノシン5’−モノリン酸に、ヌクレオシドホスホリラーゼとヌクレオシダーゼを作用させることを特徴とする、式(VII):
【0050】
【化18】

【0051】
で表される9−(2−フルオロ−β−D−アラビノシル)グアニンの製造法を提供する。
【発明の効果】
【0052】
本発明によれば、従来高収率かつ立体選択的な合成が困難であった2’F−ANA、特に2’−デオキシ−2’−フルオロ−β−D−アラビノプリンヌクレオシドを簡便、かつ高立体選択的に高収率で製造できる。とりわけ、本発明によれば、従来合成が極めて困難であった9−(2−フルオロ−β−D−アラビノシル)グアニンを工業的スケールで、簡便、かつ高立体選択的に高収率で製造できる。
従って、本発明のα−1−リン酸2−デオキシ−2−フルオロアラビノシド又はその塩、及びこれを鍵中間体とする本発明の製造法は、アンチセンス医薬の工業的製造に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
式(I)で表される化合物、すなわち化合物(I)の塩としては、特に制限されるものでなく、例えばアルカリ金属塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩等);アルカリ土類金属塩(例えばカルシウム塩、マグネシウム塩等);有機塩基塩(例えばトリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ピリジン塩、ピコリン塩、ジシクロヘキシルアミン塩等)、アンモニウム塩等が挙げられ、ナトリウム塩が好ましい。
【0054】
以下に、化合物(I)の代表的な製造法を説明する。
【0055】
合成法1(α体):
化合物(III)の1位を加水分解して化合物(IV)のα体を立体選択的に得、化合物(IV)の1位水酸基をリン酸化して化合物(V)とし、化合物(V)の水酸基及び/又はリン酸残基の保護基を脱保護する。
【0056】
【化19】

【0057】
(式中、Rは水酸基の保護基、Xは脱離基、Rは水素原子又はリン酸残基の保護基を示す。)
【0058】
式(III)〜(V)において、Rで示される水酸基の保護基としては、ホルミル基、アセチル基、ピバロイル基、ベンゾイル基などの炭素数1〜10のアシル基、ベンジル基、p−メトキシベンジル基等の炭素数7〜20のアラルキル基、t−ブチルジメチルシリル基、t−ブチルジフェニルシリル基等の炭素数1〜20のアルキルシリル基が挙げられる。これらのうちで、炭素数1〜10のアシル基が好ましく、特にベンゾイル基が好ましい。
【0059】
Xで示される脱離基としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;メシル基、トシル基、トリフルオロメタンスルホニル基;ホルミル基、アセチル基、ピバロイル基、ベンゾイル基などの炭素数1〜10のアシル基等が挙げられ、ハロゲン原子が好ましく、特に臭素原子が好ましい。
【0060】
で示されるリン酸残基の保護基としては、アリル基又は置換基を有していてもよいアルキル基が例示される。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基等の炭素数1〜10のアルキル基が挙げられる。アルキル基の置換基としては、例えばシアノ基、トリメチルシリル基、フェニル基等が挙げられる。置換アルキル基としては、例えば2−シアノエチル基、2−トリメチルシリルエチル基、ベンジル基等が挙げられる。
【0061】
化合物(III)は、公知の方法(J.Org.Chem.,50,3644(1985)、J.Org.Chem.,53,85(1988)、特公平7−23395号公報)に準じて合成できる。
【0062】
化合物(III)の1位の加水分解反応は、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、メタノール、テトラヒドロフラン(THF)などの有機溶媒中、トリブチルアミン、トリエチルアミンなどの塩基存在下、化合物(III)1モルに対し、1モル以上の塩基と水を使用して行えばよい。反応温度は0〜100℃が好ましく、反応時間は1〜24時間程度が好ましい。必要により撹拌しながら反応させてもよい。
【0063】
このようにして得られた化合物(IV)は、必要により通常の糖の精製手段、例えば有機溶媒による分配、各種クロマトグラフィー処理により精製し、次のリン酸化反応に供すればよい。
【0064】
化合物(IV)の1位のリン酸化反応は、公知の方法に準じて行えばよい。例えば、五価のリン酸化剤を用いてリン酸化する方法、三価のリン酸剤を用いて亜リン酸化した後、酸化する方法が挙げられる。
【0065】
五価のリン酸化剤を用いる方法としては、具体的には、アセトニトリル、THF、ジクロロメタンなどの有機溶媒中、トリブチルアミン、トリエチルアミン、ピリジンなどの塩基存在下、オキシ塩化リン、モノアルキルホスホリルハライド、ジアルキルホスホリルハライドなどのリン酸化剤を化合物(IV)1モルに対して1〜10モル使用すればよい。反応温度は−78〜120℃が好ましく、反応時間は1〜24時間程度が好ましい。
【0066】
三価のリン酸化剤を用いる方法としては、具体的には、アセトニトリル、THF、ジクロロメタン、1,4−ジオキサンなどの有機溶媒中、トリブチルアミン、トリエチルアミン、ピリジンなどの塩基存在下、三塩化リン、クロロホスホロジアミダイトなどの亜リン酸化剤を反応させ、次いで、シアノエタノール、アリルアルコールなどのアルコール類と反応させホスファイトとし、これを、m−クロロ過安息香酸、t−ブチルペルオキシド、過酸化水素等の酸化剤を用いて酸化すればよい。リン酸化剤、アルコール類及び酸化剤は化合物(IV)1モルに対して1〜10モル使用すればよい。反応温度は−78〜120℃が好ましく、反応時間は1〜24時間程度が好ましい。
【0067】
このようにして得られた化合物(V)は、必要により通常の糖の精製手段、例えば有機溶媒による分配、各種クロマトグラフィー処理により精製し、次の脱保護反応に供する。
【0068】
化合物(V)の水酸基及び/又はリン酸残基の保護基の除去は、使用した保護基に応じて酸処理、アルカリ処理、接触還元、フッ化アンモニウム処理など通常使用する方法を適宜選択して行えばよい。
【0069】
上記の方法により得られた化合物(I)は、必要により通常の糖の精製手段、例えば有機溶媒による分配、各種クロマトグラフィー処理、結晶化などにより精製し、次の酵素反応に供する。
【0070】
合成法2(αβ体混合物):
化合物(III)を強酸塩存在下、リン酸化剤で処理して保護体であるαβ体混合物(V)とすればよい。
【0071】
リン酸化反応は、アセトニトリル、ジクロロメタン、DMF、メチルエチルケトンなどの有機溶媒中、トリブチルアミン、トリエチルアミンなどの塩基存在下、正リン酸、リン酸モノエステル、リン酸ジエステルなどのリン酸誘導体を化合物(III)1モルに対して、1モル以上反応させればよい。反応温度は−78〜120℃が好ましく、反応時間は1〜24時間程度が好ましい。
【0072】
リン酸化の際、強酸塩、特に好ましくはハロゲンイオン又は硝酸イオンを発生する強酸塩を、化合物(III)1モルに対して、0.1〜20モル程度添加する。強酸塩の添加により、表1に示すようにβ体よりα体を優先的に合成することができる。
【0073】
ハロゲンイオン又は硝酸イオンを発生する強酸塩としては、テトラ−n−ブチルアンモニウムヨージド、テトラエチルアンモニウムヨージド、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムブロミド、テトラ−n−ブチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムクロリドなどのハロゲンイオンのアンモニウム塩又は金属塩:硝酸テトラ−n−ブチルアンモニウムなどの硝酸イオンのアンモニウム塩又は金属塩)が挙げられる。これらのうちで、テトラ−n−ブチルアンモニウムヨージド、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロミド、テトラ−n−ブチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムクロリド、硝酸テトラ−n−ブチルアンモニウムが好ましい。
【0074】
得られた化合物(V)は、必要により通常の糖の精製手段、例えば有機溶媒による分配、各種クロマトグラフィー処理により精製し、次の脱保護反応に供する。
【0075】
化合物(V)の水酸基及び/又はリン酸残基の保護基を除去することにより、化合物(I)にそのβ体が混在したαβ体混合物(V’)
【0076】
【化20】

【0077】
が得られる。αβ体混合物(V’)のα/β比は1.9〜2.6である。保護基の除去の条件は、使用した保護基に応じて酸処理、アルカリ処理、接触還元、フッ化アンモニウム処理など、通常使用する方法を適宜選択して行えばよい。
【0078】
上記の方法により得られたαβ体混合物は、必要により通常の糖の精製手段、例えば有機溶媒による分配、各種クロマトグラフィー処理、結晶化などにより精製し、次の酵素反応に供する。
【0079】
次に、化合物(I)又はαβ体混合物(V’)と塩基(B)に、ヌクレオシドホスホリラーゼを作用させ、式(II)で表される2’F−ANAを製造する方法について説明する。
【0080】
反応に用いるヌクレオシドホスホリラーゼとしては、化合物(II)を合成できるものであれば特に制限されるものではないが、特にプリンヌクレオシドホスホリラーゼが好ましい。このようなヌクレオシドホスホリラーゼはその調製法も含め公知であり、当該公知の方法で容易に調製可能である。具体的に、ヌクレオシドホスホリラーゼは特定の由来のものに限定されず、動物由来、植物由来、微生物由来などすべての由来のものを使用することができる。調製の簡便性などの点から、微生物由来のヌクレオシドホスホリラーゼが好ましい。また、使用するヌクレオシドホスホリラーゼ遺伝子がクローン化されている場合には、そのクローン化されたヌクレオシドホスホリラーゼ遺伝子を用いて常法により大腸菌などを宿主として大量生産させ、当該組換え菌より当該酵素を調製することも可能である。
【0081】
このようなヌクレオシドホスホリラーゼは、当該活性を有する限りどのような形態であってもよい。具体的には、微生物の菌体、該菌体の処理物、該処理物から得られる酵素調製物などが挙げられる。
【0082】
微生物の菌体の調製は、当該微生物が生育可能な培地を用い、常法により培養後、遠心分離等で集菌する方法により行うことができる。具体的には、バシラス属又は大腸菌類に属する細菌を例に挙げ説明すれば、培地としてはブイヨン培地、LB培地(1%トリプトン、0.5%イーストエキストラクト、1%食塩)、2xYT培地(1.6%トリプトン、1%イーストエキストラクト、0.5%食塩)などを使用することができ、当該培地に種菌を接種後、約30〜50℃で約10〜50時間程度必要により撹拌しながら培養し、得られた培養液を遠心分離して微生物菌体を集菌することによりヌクレオシドホスホリラーゼ活性を有する微生物菌体を調製することができる。
【0083】
微生物の菌体処理物としては、上記微生物菌体を機械的破壊(ワーリングブレンダー、フレンチプレス、ホモジナイザー、乳鉢などによる)、凍結融解、自己消火、乾燥(凍結乾燥、風乾などによる)、酵素処理(リゾチームなどによる)、超音波処理、化学処理(酸、アルカリ処理などによる)などの一般的な処理法に従って処理して得られる菌体の破壊物又は菌体の細胞壁もしくは細胞膜の変性物が挙げられる。
【0084】
酵素調製物としては、上記菌体処理物からヌクレオシドホスホリラーゼ活性を有する画分を通常の酵素の精製手段、例えば塩析処理、等電点沈澱処理、有機溶媒沈澱処理、透析処理、各種クロマトグラフィー処理などを施して得られる粗酵素又は精製酵素を使用することができる。
【0085】
反応液に添加する塩基(B)は、合成目的に応じて市販されているもの、公知の方法で調製したもの等を使用すればよい。
【0086】
塩基(B)としては、プリン塩基又はその誘導体が好ましい。プリン塩基の誘導体としては、ハロゲン原子、アルキル基、ハロアルキル基、アルケニル基、ハロアルケニル基、アルキニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、水酸基、ヒドロキシアミノ基、アミノオキシ基、アルコキシ基、メルカプト基、アルキルメルカプト基、アリール基、アリールオキシ基及びシアノ基から選ばれる置換基を有するものが挙げられる。置換基の数及び位置は特に制限されるものではない。
【0087】
ハロゲン原子としては、塩素、フッ素、ヨウ素、臭素が挙げられる。
アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基などの炭素数1〜6のアルキル基が挙げられる。
ハロアルキル基としては、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、ブロモメチル基、ブロモエチル基などの上記ハロゲン原子で置換された上記炭素数1〜6のアルキル基が挙げられる。
アルケニル基としては、ビニル基、アリル基などの炭素数2〜7のアルケニル基が挙げられる。
ハロアルケニル基としては、ブロモビニル基、クロロビニル基などの上記ハロゲン原子で置換された炭素数2〜7のアルケニル基が挙げられる。
アルキニル基としては、エチニル基、プロピニル基などの炭素数2〜7のアルキニル基が挙げられる。
アルキルアミノ基としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジエチルアミノ基などの上記炭素数1〜6のアルキル基で置換されたアミノ基が挙げられる。
【0088】
アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基などの炭素数1〜7のアルコキシ基が挙げられる。
アルキルメルカプト基としては、メチルメルカプト基、エチルメルカプト基などの上記炭素数1〜6のアルキル基を有するアルキルメルカプト基が挙げられる。
アリール基としては、フェニル基;メチルフェニル基、エチルフェニル基などの上記炭素数1〜6のアルキル基で置換されたアルキルフェニル基;メトキシフェニル基、エトキシフェニル基などの上記炭素数1〜6のアルコキシ基で置換されたアルコキシフェニル基;ジメチルアミノフェニル基、ジエチルアミノフェニル基などの上記炭素数1〜6のアルキルアミノ基で置換されたアルキルアミノフェニル基;クロロフェニル基、ブロモフェニル基などのハロゲン原子で置換されたハロゲノフェニル基などが挙げられる。
アリールオキシ基としては、上記アリール基を有するものが挙げられる。例えば、フェノキシ基;メチルフェノキシ基、エチルフェノキシ基などの上記炭素数1〜6のアルキル基で置換されたアルキルフェノキシ基;メトキシフェノキシ基、エトキシフェノキシ基などの上記炭素数1〜6のアルコキシ基で置換されたアルコキシフェノキシ基;ジメチルアミノフェノキシ基、ジエチルアミノフェノキシ基などの上記炭素数1〜6のアルキルアミノで置換されたアルキルアミノフェノキシ基;クロロフェニル基、ブロモフェニル基などの上記ハロゲン原子で置換されたハロゲノフェノキシ基などが挙げられる。
【0089】
プリン塩基及びその誘導体としては、例えばプリン、6−アミノプリン(アデニン)、6−ヒドロキシプリン(ヒポキサンチン)、6−フルオロプリン、6−クロロプリン、6−メチルアミノプリン、6−ジメチルアミノプリン、6−トリフルオロメチルアミノプリン、6−ベンゾイルアミノプリン、6−アセチルアミノプリン、6−ヒドロキシアミノプリン、6−アミノオキシプリン、6−メトキシプリン、6−アセトキシプリン、6−ベンゾイルオキシプリン、6−メチルプリン、6−エチルプリン、6−トリフルオロメチルプリン、6−フェニルプリン、6−メルカプトプリン、6−メチルメルカプトプリン、6−アミノプリン−1−オキシド、6−ヒドロキシプリン−1−オキシド、2−アミノ−6−ヒドロキシプリン(グアニン)、2,6−ジアミノプリン、2−アミノ−6−クロロプリン、2−アミノ−6−ヨードプリン、2−アミノプリン、2−アミノ−6−メルカプトプリン、2−アミノ−6−メチルメルカプトプリン、2−アミノ−6−ヒドロキシアミノプリン、2−アミノ−6−メトキシプリン、2−アミノ−6−ベンゾイルオキシプリン、2−アミノ−6−アセトキシプリン、2−アミノ−6−メチルプリン、2−アミノ−6−シクロプロピルアミノメチルプリン、2−アミノ−6−フェニルプリン、2−アミノ−8−ブロモプリン、6−シアノプリン、6−アミノ−2−クロロプリン(2−クロロアデニン)、6−アミノ−2−フルオロプリン(2−フルオロアデニン)、6−アミノ−3−デアザプリン、6−アミノ−8−アザプリン、2−アミノ−6−ヒドロキシ−8−アザプリン、6−アミノ−7−デアザプリン、6−アミノ−1−デアザプリン、6−アミノ−2−アザプリンなどが挙げられる。
【0090】
2’F−ANAは、トリス塩酸緩衝液、リン酸緩衝液等の緩衝液中、化合物(I)又はそのαβ体混合物(V’)と上記塩基(B)に、ヌクレオシドホスホリラーゼを約5ユニット/mL以上、好ましくは約50ユニット/mL以上添加することにより合成できる。化合物(I)又はそのαβ体混合物(V’)の使用量は、約1〜200mMが好ましく、特に10〜100mMが好ましい。化合物(I)に対する塩基(B)の使用量は、1当量以上が好ましく、特に約2〜5モル倍当量程度が好ましい。反応時間は20〜70℃が好ましく、特に40〜60℃が好ましい。反応時間は約1〜100時間程度が好ましい。必要により攪拌しながら反応させてもよい。
【0091】
次に、上記製造法を用いる9−(2−フルオロ−β−D−アラビノシル)グアニン、すなわち化合物(VII)の製造を具体的に説明する。
【0092】
化合物(I)又はαβ体混合物(V’)と2−アミノ−6−置換プリンに、上記と同様のヌクレオシドホスホリラーゼを添加して化合物(VI)を得、これを加水分解酵素で処理すればよい。
【0093】
反応に使用する2−アミノ−6−置換プリンとしては、2−アミノ−6−置換プリンの置換基Yが加水分解可能な基であるプリン誘導体であれば特に制限されない。置換基Yとしては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、アミノ基、ヒドロキシ基、
メルカプト基、メチルメルカプト基、ヒドロキシアミノ基、メトキシ基、ベンゾイルオキシ基、アセトキシ基が挙げられる。2−アミノ−6−置換プリンの具体例としては、2−アミノ−6−ハロゲノプリン、2,6−ジアミノプリン、2−アミノ−6−ヒドロキシプリンが挙げられ、2−アミノ−6−クロロプリン、2−アミノ−6−ヨードプリン、2−アミノ−6−メルカプトプリン、2−アミノ−6−メチルメルカプトプリン、2−アミノ−6−ヒドロキシアミノプリン、2−アミノ−6−ベンゾイルプリン、2−アミノ−6−アセトキシプリンが挙げられ、特に2,6−ジアミノプリンが好ましい。
【0094】
加水分解酵素としては、2−アミノ−6−置換プリン又はそれを有するヌクレオシドの6位の置換基を加水分解することによって、2−アミノ−6−オキソプリン(グアニン)又はそれを有するヌクレオシドを生成できる活性を有するものであれば特に限定されない。このような加水分解酵素としては、デアミナーゼ等が挙げられ、特にアデノシンデアミナーゼが好ましい。
【0095】
加水分解酵素を用いた脱アミノ反応は、具体的には、リン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液等の緩衝液中、加水分解酵素を約5ユニット/mL以上、好ましくは約30ユニット/mL以上添加すればよい。反応温度は20〜70℃が好ましく、反応時間は約1〜100時間程度が好ましい。必要により攪拌しながら反応させてもよい。
加水分解酵素を用いた脱アミノ反応は、上記ヌクレオシドホスホリラーゼを用いた反応に続けて又は同時並行的に行ってもよい。
【0096】
また、化合物(VII)は、化合物(I)又はαβ体混合物(V’)と5’−モノリン酸に、ヌクレオシドホスホリラーゼ及びヌクレオシダーゼを添加することによっても製造できる。反応は、トリス塩酸緩衝液、リン酸緩衝液等の緩衝液中、ヌクレオシドホスホリラーゼとヌクレオシダーゼを各約5ユニット/mL以上添加し、20〜70℃で約1〜100時間程度、必要により攪拌することにより実施できる。
反応に使用するヌクレオシダーゼとしては、ヌクレオチドを核酸塩基と糖リン酸に加水分解できる活性を有する酵素であればよく、具体的にはイノシン酸ヌクレオシダーゼ(Bull.Agric.Chem.Soc.Japan,23,281−288(1959))が挙げられる。ヌクレオシドホスホリラーゼとしては上記と同様なものが使用できる。
【0097】
このようにして得られた化合物(VII)は、ヌクレオシドの通常の単離精製手段、例えばイオン交換クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、結晶化などにより単離精製することができる。
【実施例】
【0098】
以下に本発明を合成例により更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例の範囲のみに限定されるものではない。
【0099】
合成例1:3,5−O−ジベンゾイル−2−フルオロ−α−D−アラビノシル−1−ホスフェート[式V;R=Bz,R=H]
リン酸(5.0g,51mmol)、モレキュラーシーブス4A(3.6g)をアセトニトリル(18mL)に懸濁し、0℃でトリ−n−ブチルアミン(24.3mL,102mmol)加え室温で1時間攪拌した。室温でテトラ−n−ブチルアンモニウムヨージド(15.7g,42.5mmol)を加え、さらに10分後、3,5−O−ジベンゾイル−2−フルオロ−α−D−アラビノシル−1−ブロミド[式III;R=Bz,X=Br](3.59g,8.5mmol)のアセトニトリル溶液(36mL)を滴下した。室温で2時間攪拌した後、不溶物をろ過して除いた。ろ液を減圧下で濃縮し、残渣を酢酸エチル(150mL)で抽出した。有機層を0.1N塩酸で3回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を留去した。
【0100】
標題化合物をHPLC[UV:230nm,分析カラム:SHISEIDO CAPCELL PAK NH(4.6mmI.D.×250mm),カラム温度:30℃,移動相:60mM KHPO(50%)−アセトニトリル(50%),pH4.0(HPO),流速:1.0mL/min]にて分析し、面積%より1−リン酸誘導体の生成率及びα/β比を算出した。60.3%、α/β=3.4。
【0101】
残渣をメチルエチルケトン(90mL)に溶解し、リン酸(13.3g)、モレキュラーシーブス4A(3.6g)を加え80℃で2時間攪拌した。不溶物をろ過して除去した後、溶媒を留去した。残渣を酢酸エチル(150mL)で抽出した。有機層を水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を留去した。HPLC分析:60.5%、α/β=4.9。
【0102】
さらに、残渣を逆相ODSカラムクロマトグラフィー(600mL,5〜40%アセトニトリル水)にて精製し、標題化合物をβ体との混合物(31P−NMR分析:α/β=5.7)として2.91g(41%)得た(ただし、標題化合物1モルに対し0.6モルのトリ−n−ブチルアンモニウム及び0.1モルのテトラ−n−ブチルアンモニウムを含有する)。
【0103】
H−NMR(CDCl,500MHz)δ ppm:8.07−8.02(4H,m),7.51−7.36(6H,m),5.99(1H,dd,J=5.6,8.6Hz),5.46(1H,dd,J=4.3,22.9Hz),5.30(1H,d,J=49.1Hz),4.74−4.57(3H,m).
【0104】
合成例2:3,5−O−ジベンゾイル−2−フルオロ−α−D−アラビノシル−1−ホスフェート[式V;R=Bz,R=H]
1.0Mのリン酸/トリ−n−ブチルアミンのアセトニトリル溶液(0.75mL)にモレキュラーシーブス4A(50mg)、及び以下の表1に示す強酸塩(各0.6mmol)を加え室温で40分間攪拌した。これに3,5−O−ジベンゾイル−2−フルオロ−α−D−アラビノシル−1−ブロミド[式III;R=Bz,X=Br](50mg,0.12mmol)のアセトニトリル溶液(0.5mL)を滴下した。
【0105】
HPLC分析:保持時間はα体が3.8分、β体が4.4分であった。
【0106】
その結果を表1に示す。表1から明らかなように、強酸塩の添加により、α体の生成割合が高くなることが判明した。
【0107】
【表1】

【0108】
合成例3:3,5−O−ジベンゾイル−2−フルオロ−α−D−アラビノース[式IV;R=Bz]
3,5−O−ジベンゾイル−2−フルオロ−α−D−アラビノシル−1−ブロミド[式III;R=Bz,X=Br](2.40g,5.7mmol)をDMF(50mL)に溶解し、トリエチルアミン(4.8mL,34.2mmol)、水(3.1mL,171mmol)を加え、室温で30分間攪拌した。減圧下で溶媒を留去し、残渣を酢酸エチルで抽出し、有機層を水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液及び飽和食塩水で洗浄した。さらに無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(150g,0〜5%メタノール−クロロホルム)にて精製し、標題化合物1.85g(90%)を得た。
【0109】
H−NMR(CDCl,500MHz)δ ppm:8.08−8.01(4H,m),7.63−7.41(6H,m),5.70(1H,dd,J=3.6,10.2Hz),5.50(1H,dd,J=4.3,22.0Hz),5.18(1H,d,J=49.1Hz),4.77−4.60(3H,m),2.89(1H,t,J=3.4Hz).
【0110】
合成例4:3,5−O−ジベンゾイル−2−フルオロ−α−D−アラビノシル−1−(ビス−2−シアノエチル)ホスフェート[式V;R=Bz,R=CHCHCN]
3,5−O−ジベンゾイル−2−フルオロ−α−D−アラビノース[IV;R=Bz](1.01g,2.8mmol)をアセトニトリルで2回共沸脱水した後、アセトニトリル(20mL)に溶解し、トリエチルアミン(1.2mL,8.4mmol)及びビス(ジイソプロピルアミノ)クロロホスフィン(1.69g,5.6mmol)を加え、室温で1時間攪拌した。これに2−シアノエタノール(1.9mL,28mmol)及び1H−テトラゾール(0.98g,14mmol)を加え室温で1.5時間攪拌した。さらに70%t−ブチルヒドロペルオキシド溶液(2.5mL)を加え、室温で30分間攪拌した。酢酸エチル(100mL)で抽出し、有機層を水で2回、チオ硫酸ナトリウム水溶液、飽和炭酸水素ナトリウム水及び飽和食塩水でそれぞれ1回ずつ洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧下で溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(70g,50〜100%酢酸エチル−n−ヘキサン)にて精製し、標題化合物0.78g(51%)を得た。
【0111】
H−NMR(CDCl,500MHz)δ ppm:8.07−8.05(4H,m),7.65−7.43(6H,m),6.14(1H,dd,J=4.2,8.3Hz),5.56(1H,dd,J=3.9,20.9Hz),5.34(1H,d,J=48.4Hz),4.82(1H,q,J=3.9Hz),4.78(1H,dd,J=3.5,12.2Hz),4.68(1H,dd,J=4.6,12.2Hz),4.37−4.27(4H,m),2.78−2.68(4H,m).
【0112】
合成例5:3,5−O−ジベンゾイル−2−フルオロ−α−D−アラビノシル−1−ホスフェート[式V;R=Bz,R=H]
3,5−O−ジベンゾイル−2−フルオロ−α−D−アラビノシル−1−(ビス−2−シアノエチル)ホスフェート[式V;R=Bz,R=CHCHCN](85mg,0.16mmol)を塩化メチレン(3mL)に溶解し、DBU(0.25mL,1.6mmol)を加え、室温で10分間攪拌した。これにクロロトリメチルシラン(0.1mL,0.8mmol)を加え、室温で1時間攪拌した。反応液をクロロホルムで抽出し、有機層を0.1N塩酸で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。残渣を酢酸エチル(0.5mL)に溶解し、これにn−ヘキサン(5mL)を滴下して加えた。上澄液を除去し、残渣を真空乾燥して標題化合物を71mg(89%)得た(ただし、標題化合物1モルに対し、0.4モルのDBUを含有する)。
【0113】
H−NMR(CDCl,500MHz)δ ppm:8.07−8.02(4H,m),7.51−7.36(6H,m),5.99(1H,dd,J=5.6,8.6Hz),5.46(1H,dd,J=4.3,22.9Hz),5.30(1H,d,J=49.1Hz),4.74−4.57(3H,m).
【0114】
合成例6:2−フルオロ−α−D−アラビノシル−1−ホスフェート二ナトリウム塩[式I]
合成例4で合成した3,5−O−ジベンゾイル−2−フルオロ−α−D−アラビノシル−1−(ビス−2−シアノエチル)ホスフェート[式V;R=Bz,R=CHCHCN](590mg,1.08mmol)をメタノール−THF(1:1,6mL)に溶解し、28%アンモニア水(6mL)を加え、室温で1時間攪拌した。溶媒を留去した後、28%アンモニア水(10mL)を加え、室温で一晩攪拌した。溶媒を留去し、残渣に水(20mL)を加え、これを酢酸エチル(20mL)で洗浄した。水層を回収し、100mL水溶液とした。これをカチオン交換樹脂(三菱化学社製,PK216,Na型,30mL)に通過させ、水を留去し、標題化合物を273mg(99%)得た。
【0115】
H−NMR(DO,500MHz)δ ppm:5.70(1H,dd,J=6.9,9.8Hz),5.02(1H,d,J=50.5Hz),4.26−4.17(2H,m),3.87(1H,dd,J=3.2,12.4Hz),3.74(1H,dd,5.3,12.4Hz).
【0116】
合成例7:2−フルオロ−α−D−アラビノシル−1−ホスフェート[式I]
合成例1で合成した3,5−O−ジベンゾイル−2−フルオロ−α−D−アラビノシル−1−ホスフェート[式V;R=Bz,R=H](2.8g,α体として3.38mmol)をメタノール(70mL)に溶解し、28%アンモニア水(70mL)を加え、室温で1.5時間攪拌した。さらに28%アンモニア水(70mL)を加え、室温で一晩攪拌した。減圧下で溶媒を留去し、残渣を水(50mL)に溶解した。これを酢酸エチル(100mL)で2回洗浄し、水層を回収した。減圧下で水を濃縮し、メンブランフィルター(PTFE,0.45μm)でろ過後、ろ液を濃縮した。残渣にアセトン(10mL,2回)を加え、上澄液を除去した。残渣をエタノールで2回共沸し、減圧下、50℃で2時間乾燥して標題化合物の粗体を1.36g得た。
【0117】
H−NMR(DO,500MHz)δ ppm:5.71(1H,dd,J=6.9,9.9Hz),5.02(1H,d,J=50.3Hz),4.27−4.18(2H,m),3.88−3.71(2H,m).
【0118】
合成例8:9−(2−フルオロ−β−D−アラビノシル)アデニン[式II;B=アデニン]
1.0Mリン酸/トリ−n−ブチルアミンのアセトニトリル溶液(2.8mL,2.8mmol)にモレキュラーシーブス4A(126mg)及びトリ−n−ブチルアミン(0.67mL,2.8mmol)を加え、室温で1時間攪拌した。室温でテトラ−n−ブチルアンモニウムヨージド(0.87g,2.4mmol)を加え、さらに10分後、3,5−O−ジベンゾイル−2−フルオロ−α−D−アラビノシル−1−ブロミド[式III;R=Bz,X=Br](0.2g,0.47mmol)のアセトニトリル溶液(2mL)を滴下した。室温で2時間攪拌した後、不溶物をろ過して除いた。ろ液を減圧下で濃縮し、残渣を酢酸エチル(20mL)で抽出した。有機層を0.1N塩酸で3回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を留去した。残渣をメチルエチルケトン(5mL)に溶解し、リン酸(0.74g)、モレキュラーシーブス4A(0.2g)を加え80℃で3時間攪拌した。不溶物をろ過して除去した後、溶媒を留去した。残渣を酢酸エチル(20mL)で抽出した。有機層を水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を留去して標題化合物の粗体を得た(HPLC分析:56.4%,α/β=7.3)。
【0119】
これをメタノール(4mL)に溶解し、28%アンモニア水(2mL)を加え、室温で1時間攪拌した。さらに28%アンモニア水(2mL)を加え、室温で一晩攪拌した。減圧下で溶媒を留去し、残渣を水(20mL)に溶解した。これを酢酸エチル(50mL)で2回洗浄し、水層を回収した。減圧下で水を濃縮し、残渣を20mM リン酸カリウム緩衝液(20mL,pH7.6)に溶解し、アデニン(54mg,0.4mmol)及びプリンヌクレオシドホスホリラーゼ(粗酵素、1750ユニット)を加え、50℃で4日間静置した。反応液をメンブランフィルター(PTFE,0.45μm)でろ過し、ろ液を40mLの水溶液に調整後、逆相ODSカラムクロマトグラフィー(40mL,0〜5%アセトニトリル−水)にて精製し、標題化合物を無色の結晶として50mg(対アデニン収率46%)得た。
【0120】
H−NMR(DMSO−d,500MHz)δ ppm:8.26(1H,d,J=1.7Hz),8.17(1H,s),7.36(2H,brs),6.41(1H,dd,J=4.6,14.1Hz),6.15(1H,br),5.25(1H,br),5.22(1H,dt,J=4.3,52.7Hz),4.47(1H,dt,J=4.5,19.4Hz),3.86−3.84(1H,m),3.68−3.63(2H,m).
【0121】
合成例9:9−(2−フルオロ−β−D−アラビノシル)アデニン[式II;B=アデニン]
リン酸(2.8g,28.2mmol)、モレキュラーシーブス4A(2.0g)をアセトニトリル(10mL)に懸濁し、0℃でトリ−n−ブチルアミン(13.4mL,56.4mmol)加え室温で1時間攪拌した。室温でテトラ−n−ブチルアンモニウムヨージド(8.7g,23.5mmol)を加え、さらに10分後、3,5−O−ジベンゾイル−2−フルオロ−α−D−アラビノシル−1−ブロミド[式III;R=Bz,X=Br](2.0g,4.7mmol)のアセトニトリル溶液(20mL)を滴下した。室温で2時間攪拌した後、不溶物をろ過して除いた。ろ液を減圧下で濃縮し、残渣を酢酸エチル(150mL)で抽出した。有機層を0.1N塩酸で3回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を留去した。残渣をメチルエチルケトン(50mL)に溶解し、リン酸(7.4g)、モレキュラーシーブス4A(2.0g)を加え80℃で2時間攪拌した。不溶物をろ過して除去した後、溶媒を留去した。残渣を酢酸エチル(150mL)で抽出した。有機層を水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を留去した(HPLC分析:67.4%,α/β=3.1)。
【0122】
これをメタノール(40mL)に溶解し、28%アンモニア水(20mL)を加え、室温で1時間攪拌した。さらに28%アンモニア水(20mL)を加え、室温で一晩攪拌した。減圧下で溶媒を留去し、残渣を水(50mL)に溶解した。これを酢酸エチル(200mL)で2回洗浄し、水層を回収した。減圧下で水を濃縮し、標題化合物の粗体を得た。
【0123】
この標題化合物の粗体の1/2量を20mM リン酸カリウム緩衝液(100mL,pH7.6)に溶解し、アデニン(270mg,2.0mmol)及びプリンヌクレオシドホスホリラーゼ(粗酵素、2000ユニット)を加え、50℃で6日間静置した。反応液をメンブランフィルター(PTFE,0.45μm)でろ過し、ろ液を150mLの水溶液に調整後、逆相ODSカラムクロマトグラフィー(200mL,0〜5%アセトニトリル−水)にて精製し、標題化合物を無色の結晶として181mg(対アデニン収率34%)得た。
【0124】
H−NMR(DMSO−d,500MHz)δ ppm:8.26(1H,d,J=1.7Hz),8.17(1H,s),7.36(2H,brs),6.41(1H,dd,J=4.6,14.1Hz),6.15(1H,br),5.25(1H,br),5.22(1H,dt,J=4.3,52.7Hz),4.47(1H,dt,J=4.5,19.4Hz),3.86−3.84(1H,m),3.68−3.63(2H,m).
【0125】
合成例10:2,6−ジアミノ−9−(2−フルオロ−β−D−アラビノシル)プリン[式II;B=2,6−ジアミノプリン]
合成例9で得た粗2−フルオロ−α−D−アラビノシル−1−ホスフェート[式I]の1/2量を20mM リン酸カリウム緩衝液(100mL,pH7.6)に溶解し、2,6−ジアミノプリン(300mg,2.0mmol)及びプリンヌクレオシドホスホリラーゼ(粗酵素、2000ユニット)を加え、50℃で6日間静置した。反応液をメンブランろ過し(PTFE,0.45mm)、ろ液を150mLの水溶液に調整後、逆相ODSカラムクロマトグラフィー(200mL,0〜3%アセトニトリル−水)にて精製し、標題化合物を無色の結晶として228mg(対2,6−ジアミノプリン収率40%)得た。
【0126】
H−NMR(DMSO−d,500MHz)δ ppm:7.81(1H,d,J=2.4Hz),6.79(2H,brs),6.18(1H,dd,J=4.2,16.5Hz),5.89(3H,brs),5.20(1H,br),5.10(1H,dt,J=3.7,52.6Hz),4.39(1H,ddd,J=3.7,4.5,18.2Hz),3.82−3.80(1H,m),3.79−3.60(2H,m).
【0127】
合成例11:9−(2−フルオロ−β−D−アラビノシル)グアニン[式II;B=グアニン]
2,6−ジアミノ−9−(2−フルオロ−β−D−アラビノシル)プリン(61.2mg,0.21mmol)を50mMトリス塩酸緩衝液(20mL,pH7.0)に溶解し、アデノシンデアミナーゼ(71ユニット)を加え、室温で1.5時間攪拌した。反応液をメンブランフィルター(PTFE,0.5μm)でろ過し、60mL水溶液に調整した。これを逆相ODSカラムクロマトグラフィー(80mL,0〜2%アセトニトリル水)にて精製し、標題化合物を無色の結晶として60.4mg(収率100%)得た。
【0128】
H−NMR(DMSO−d,500MHz)δ ppm:10.50(1H,brs),7.80(1H,s),6.54(2H,brs),6.13(1H,dd,J=4.2,16.0Hz),5.94(1H,d,J=4.5Hz),5.11(1H,dt,J=3.8,52.4Hz),5.08(1H,t,J=5.7Hz),4.37(1H,dd,J=3.9,17.8Hz),3.82−3.79(1H,m),3.66−3.57(2H,m).
【0129】
合成例12:2−アミノ−6−クロロ−9−(2−フルオロ−β−D−アラビノシル)プリン[式II;B=2−アミノ−6−クロロプリン]
実施例7で得た粗2−フルオロ−α−D−アラビノシル−1−ホスフェート[式I](200mg,0.5mmol)を50mMリン酸カリウム緩衝液(150mL,pH7.5)に溶解し、2−アミノ−6−クロロプリン(170mg,1.0mmol)及びプリンヌクレオシドホスホリラーゼ(粗酵素、3519ユニット)を加え、50℃で14日間静置した。反応液をメンブランフィルター(PTFE,0.45μm)でろ過し、ろ液を10mLの水溶液に調整後、逆相ODSカラムクロマトグラフィー(20mL,0〜5%アセトニトリル水)にて精製し、標題化合物を得た。
【0130】
H−NMR(DO,500MHz)δ ppm:8.20(1H,s),6.31(1H,dd,J=3.9,17.4Hz),5.24(1H,dt,J=3.1,51.2Hz),4.56(1H,dt,J=2.2,18.2Hz),4.10−4.07(1H,m),3.92−3.82(2H,m).
【0131】
合成例13:2−アミノ−9−(2−フルオロ−β−D−アラビノシル)プリン[式II;B=2−アミノプリン]
合成例7で得た粗2−フルオロ−α−D−アラビノシル−1−ホスフェート[式I](200mg,0.5mmol)を50mMリン酸カリウム緩衝液(50mL,pH7.5)に溶解し、2−アミノプリン(135mg,1.0mmol)及びプリンヌクレオシドホスホリラーゼ(粗酵素、1517ユニット)を加え、50℃で9日間静置した。反応液をメンブランフィルター(PTFE,0.45μm)でろ過し、ろ液を6mLの水溶液に調整後、逆相ODSカラムクロマトグラフィー(40mL,0〜5%アセトニトリル水)にて精製し、標題化合物を87.3mg(対2−アミノプリン収率32%)得た。
【0132】
H−NMR(DMSO−d,500MHz)δ ppm:8.63(1H,s),8.18(1H,d,J=2.2Hz),6.64(2H,brs),6.50(1H,br),6.31(1H,dd,J=4.4,15.2Hz),5.19(1H,dt,J=4.1,52.6Hz),5.15(1H,br),4.43(1H,ddd,J=4.0,4.9,18.3Hz),3.85(1H,q,J=4.9Hz),3.70−3.62(2H,m).
【0133】
合成例14:2−フルオロ−9−(2−フルオロ−β−D−アラビノシル)アデニン[式II;B=2−フルオロアデニン]
合成例7で得た粗2−フルオロ−α−D−アラビノシル−1−ホスフェート[式I](76mg,0.2mmol)を5mMトリス塩酸緩衝液(60mL,pH7.5)に溶解し、2−フルオロアデニン(44mg,0.3mmol)及びプリンヌクレオシドホスホリラーゼ(粗酵素、722ユニット)を加え、50℃で5日間静置した。反応液をメンブランフィルター(PTFE,0.45μm)でろ過し、ろ液を30mLの水溶液に調整後、逆相ODSカラムクロマトグラフィー(40mL,0〜5%アセトニトリル水)にて精製し、標題化合物を39.0mg(対2−フルオロアデニン収率45%)得た。
【0134】
H−NMR(DMSO−d,500MHz)δ ppm:8.24(1H,d,J=1.9Hz),8.00−7.80(2H,m),6.29(1H,dd,J=4.6,13.8Hz),5.98(1H,d,J=5.1Hz),5.22(1H,dt,J=4.2,52.6Hz),5.10(1H,t,J=5.6Hz),4.43(1H,ddd,J=5.0,9.4,18.9Hz),3.85(1H,dd,J=4.9,9.6Hz),3.71−3.61(2H,m).
【0135】
合成例15:9−(2−フルオロ−β−D−アラビノシル)グアニン[式II;B=グアニン]
リン酸(48.1g,0.49mol)、モレキュラーシーブス4A(38g)をアセトニトリル(160mL)に懸濁し、0℃でトリ−n−ブチルアミン(233.9mL,0.98mol)加え室温で1時間攪拌した。室温でテトラ−n−ブチルアンモニウムヨージド(151.0g,0.41mol)を加え、さらに10分後、3,5−O−ジベンゾイル−2−フルオロ−α−D−アラビノシル−1−ブロミド[式III;R=Bz,X=Br](34.62g,0.82mol)のアセトニトリル溶液(240mL)を滴下した。室温で2時間攪拌した後、不溶物をろ過して除いた。ろ液を減圧下で濃縮し、残渣に水(200mL)を加え、酢酸エチル(600mL)で2回抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を留去した。残渣をメチルエチルケトン(830mL)に溶解し、リン酸(110.6g)を加え80℃で2時間攪拌した。溶媒を留去し、残渣に水(1L)を加え、酢酸エチル(1L)で2回抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を留去し、粗3,5−O−ジベンゾイル−2−フルオロ−α−D−アラビノシル−1−ホスフェート[式V;R=Bz,R=H]を得た。
【0136】
これをメタノール(600mL)に溶解し、28%アンモニア水(300mL)を加え、室温で1.5時間攪拌した。さらに28%アンモニア水(300mL)を加え、室温で一晩攪拌した。減圧下で溶媒を留去し、残渣を水(500mL)に溶解した。これを酢酸エチル(800mL)で2回洗浄し、水層を回収した。減圧下で水を濃縮し、メンブランフィルター(PTFE,0.45μm)でろ過後、水を加え粗2−フルオロ−α−D−アラビノシル−1−ホスフェート[式I]水溶液(2.5L,pH7.5)を得た。
【0137】
これに2,6−ジアミノプリン(15.4g,0.1mol)及びプリンヌクレオシドホスホリラーゼ(粗酵素、108300ユニット)を加え、50℃で10日間静置した。反応液を希塩酸でpH4に調整し、セライトろ過で沈殿物を除去した。ろ液を吸着樹脂カラム(三菱化学社製,SP206,1.4L,0〜20%エタノール水)にて精製し、濃縮して、2,6−ジアミノ−9−(2−フルオロ−β−D−アラビノシル)プリン[式II;B=2,6−ジアミノプリン]水溶液(3.1L)を得た。
【0138】
これにリン酸二水素カリウム(8.4g)を加え、1N水酸化カリウムでpH7.3に調整した後、アデノシンデアミナーゼ(2000ユニット)を加え40℃で3時間静置した。反応液を希塩酸でpH4に調整し、吸着樹脂カラム(三菱化学社製,SP206,1.9L,0〜15%エタノール水)にて精製し、標題化合物を無色の結晶として7.8g(HPLC純度99%、対2,6−ジアミノプリン収率27%)得た。
【0139】
参考例1
(1)プリンヌクレオシドホスホリラーゼの調製
ペプトン20g/L、酵母エキス10g/L、塩化ナトリウム5g/L、グルコース1g/L、100μg/mLのアンピシリンを含有する栄養培地100mLに、特開平9−117298号公報に記載の方法に従い調製した組換えベクターpTrc−B56を保持する大腸菌JM109「pTrc−B56」を植菌し、37℃で振盪培養した。
【0140】
4×10個/mLに達した時点で、培養液に終濃度1mmol/LとなるようにIPTGを添加し、更に37℃で5時間振盪培養を続けた。培養終了後、遠心分離(9,000×g、10分間)により培養菌体を回収し、20mLの緩衝液(50mmol/L、トリス塩酸緩衝液(pH7.8)、5mmol/L EDTA、0.1% Triton X100含有)に懸濁した。菌体懸濁液に終濃度1mg/mLとなるようにリゾチームを加え、37℃で1時間保温することで形質転換体を溶菌させ、更に遠心分離(12,000×g、10分間)により菌体残渣を除去した。このようにして得られた上清画分を酵素液とした。
【0141】
(2)アデノシンデアミナーゼの調製
ペプトン20g/L、酵母エキス10g/L、塩化ナトリウム5g/L、グルコース1g/L、100μg/mLのアンピシリンを含有する栄養培地100mLに、特開平5−219978号公報に記載の方法に従い調製した組換えベクターpDR−addを保持する大腸菌形質転換体JM105[pDR−add]を植菌し、37℃で振盪培養した。
【0142】
4×10個/mLに達した時点で、培養液に終濃度0.1mmol/LとなるようにIPTGを添加し、更に37℃で3時間振盪培養を続けた。培養終了後、遠心分離(9,000×g、10分間)により培養菌体を回収し、10mLの緩衝液(20mmol/Lトリス塩酸(pH8.2)、10%エチレングリコール)に懸濁した。菌体懸濁液を超音波破砕機にて処理して、更に遠心分離(2,000×g、10分間)により菌体残渣を除去した。このようにして得られた上清画分を酵素液とした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

で表されるα−1−リン酸化2−デオキシ−2−フルオロアラビノシド又はその塩。
【請求項2】
式(III):
【化2】

(式中、Rは水酸基の保護基、Xは脱離基を示す。)
で表される2−デオキシ−2−フルオロアラビノース誘導体を加水分解して式(IV):
【化3】

(式中、Rは前記定義のとおりである。)
で表されるα−1−ヒドロキシル体を立体選択的に得、式(IV)の化合物をリン酸化して式(V):
【化4】

(式中、Rは前記定義のとおりであり、Rは水素原子又はリン酸残基の保護基を示す。)
で表されるα−1−リン酸化2−デオキシ−2−フルオロアラビノシド誘導体とし、次いで水酸基及び/又はリン酸残基の保護基を脱保護することを特徴とする、式(I):
【化5】

で表されるα−1−リン酸化2−デオキシ−2−フルオロアラビノシドの立体選択的な製造法。
【請求項3】
式(III):
【化6】

(式中、Rは水酸基の保護基、Xは脱離基を示す。)
で表される2−デオキシ−2−フルオロアラビノース誘導体を強酸塩存在下、リン酸化して、式(V):
【化7】

(式中、Rは前記定義のとおりであり、Rは水素原子又はリン酸残基の保護基を示す。)
で表される1−リン酸化2−デオキシ−2−フルオロアラビノシド誘導体のαβ体混合物を得、次いで水酸基及び/又はリン酸残基の保護基を脱保護することを特徴とする、式(V’):
【化8】

で表される1−リン酸化2−デオキシ−2−フルオロアラビノシドのαβ体混合物の製造法。
【請求項4】
ハロゲンイオン又は硝酸イオンを発生する強酸塩を使用する請求項3記載の製造法。
【請求項5】
式(I):
【化9】

で表されるα−1−リン酸化2−デオキシ−2−フルオロアラビノシド又は式(V’):
【化10】

で表される1−リン酸化2−デオキシ−2−フルオロアラビノシドのαβ体混合物、及び塩基に、ヌクレオシドホスホリラーゼを作用させることを特徴とする、式(II):
【化11】

(式中、Bは塩基を示す。)
で表される2’−デオキシ−2’−フルオロ−β−D−アラビノヌクレオシドの製造法。
【請求項6】
塩基が、プリン塩基、又はハロゲン原子、アルキル基、ハロアルキル基、アルケニル基、ハロアルケニル基、アルキニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、水酸基、ヒドロキシアミノ基、アミノオキシ基、アルコキシ基、メルカプト基、アルキルメルカプト基、アリール基、アリールオキシ基及びシアノ基から選ばれる置換基を有するプリン塩基である請求項5記載の製造法。
【請求項7】
ヌクレオシドホスホリラーゼがプリンヌクレオシドホスホリラーゼである請求項5又は6記載の製造法。
【請求項8】
式(I):
【化12】

で表されるα−1−リン酸化2−デオキシ−2−フルオロアラビノシド又は式(V’)
【化13】

で表される1−リン酸化2−デオキシ−2−フルオロアラビノシドのαβ体混合物、及び2−アミノ−6−置換プリンに、ヌクレオシドホスホリラーゼを作用させ、式(VI):
【化14】

(式中、Yは置換基を示す。)
で表される2−アミノ−6−置換−9−(2−フルオロ−β−D−アラビノシル)プリンを得、これを加水分解酵素で処理することを特徴とする、式(VII):
【化15】

で表される9−(2−フルオロ−β−D−アラビノシル)グアニンの製造法。
【請求項9】
2−アミノ−6−置換プリンが2,6−ジアミノプリンである請求項8記載の製造法。
【請求項10】
加水分解酵素がデアミナーゼである請求項8又は9記載の製造法。
【請求項11】
式(I):
【化16】

で表されるα−1−リン酸化2−デオキシ−2−フルオロアラビノシド又は式(V’)
【化17】

で表される1−リン酸化2−デオキシ−2−フルオロアラビノシドのαβ体混合物、及びグアノシン5’−モノリン酸に、ヌクレオシドホスホリラーゼとヌクレオシダーゼを作用させることを特徴とする、式(VII):
【化18】

で表される9−(2−フルオロ−β−D−アラビノシル)グアニンの製造法。
【請求項12】
ヌクレオシドホスホリラーゼがプリンヌクレオシドホスホリラーゼである請求項11記載の製造法。
【請求項13】
ヌクレオシダーゼがイノシン酸ヌクレオシダーゼである請求項11又は12記載の製造法。

【国際公開番号】WO2005/040181
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【発行日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514979(P2005−514979)
【国際出願番号】PCT/JP2004/015712
【国際出願日】平成16年10月22日(2004.10.22)
【出願人】(000006770)ヤマサ醤油株式会社 (56)
【Fターム(参考)】