アクチュエータ
【課題】 圧電素子を用いたアクチュエータにおいて、簡単な構造で充分な回転角を出力可能にする。
【解決手段】 有底円筒状のアクチュエータハウジング23の開口部側に軸線方向移動可能かつ回転可能に支持した出力部材29を付勢手段で付勢してストッパにより図示した初期回転位置を規制し、後端および前端をそれぞれリヤプレート24および出力部材29に固定されて捩じられた線状のテンション部材31の張力を、後端がリヤプレート24に固定されて前端が出力部材29にボールジョイント30で支持された圧電素子26の伸長により増加させることで、テンション部材31の捩じり量を減少させて出力部材29を回転させる。これにより、部品点数の少ない簡単な構造でありながら、出力部材29に充分な回転角を出力させることができ、しかも圧電素子26は電圧の印加に対する伸縮の応答性が高いので、アクチュエータの応答性を高めることができる。
【解決手段】 有底円筒状のアクチュエータハウジング23の開口部側に軸線方向移動可能かつ回転可能に支持した出力部材29を付勢手段で付勢してストッパにより図示した初期回転位置を規制し、後端および前端をそれぞれリヤプレート24および出力部材29に固定されて捩じられた線状のテンション部材31の張力を、後端がリヤプレート24に固定されて前端が出力部材29にボールジョイント30で支持された圧電素子26の伸長により増加させることで、テンション部材31の捩じり量を減少させて出力部材29を回転させる。これにより、部品点数の少ない簡単な構造でありながら、出力部材29に充分な回転角を出力させることができ、しかも圧電素子26は電圧の印加に対する伸縮の応答性が高いので、アクチュエータの応答性を高めることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧の印加に伴う圧電素子の伸縮を出力部材と回転運動として取り出すアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
ブレーキ装置の摩擦部材を被制動部材に押し付けて制動力を発生させるアクチュエータの駆動源に圧電素子を用いたものが、下記特許文献1により公知である。圧電素子は電圧を印加したときの伸縮量が極めて小さいため、前記アクチュエータは必要な伸縮量を得るために圧電素子を複数積層した圧電素子アレイを2個並列に配置し、第1の圧電素子アレイの伸縮をリンクで第2の圧電素子アレイに伝達し、両圧電素子アレイの伸縮量の総和を出力するようになっている。
【特許文献1】特公平3−61058号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、圧電素子は電圧の印加で伸縮するものであるため、直線運動を取り出すアクチュエータには容易に適用することが可能であるが、回転運動を取り出すアクチュエータに適用しようとすると、その構造が複雑化する問題があるだけでなく、充分な回転角を出力させるのが難しいという問題がある。
【0004】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、圧電素子を用いたアクチュエータにおいて、簡単な構造で充分な回転角を出力可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、有底円筒状のアクチュエータハウジングの開口部側に回転可能に支持される出力部材と、前記出力部材の初期回転位置を規制するストッパと、前記出力部材を前記初期回転位置に向けて付勢する付勢手段と、前記アクチュエータハウジング内に収納されて一端および他端がそれぞれ該アクチュエータハウジングの底部および前記出力部材に固定され、前記出力部材が前記初期回転位置にあるときに該出力部材の回転方向に捩じられた線状のテンション部材と、前記アクチュエータハウジング内に収納され、電圧の印加により伸長して前記テンション部材の張力を増加させることで、該テンション部材の捩じり量を減少させて前記出力部材を回転させる圧電素子とを備えたことを特徴とするアクチュエータが提案される。
【0006】
尚、実施例のバイアススプリング51は本発明の付勢手段に対応する。
【発明の効果】
【0007】
請求項1の構成によれば、有底円筒状のアクチュエータハウジングの開口部側に回転可能に支持した出力部材を付勢手段で付勢してストッパにより初期回転位置に規制し、一端および他端がそれぞれアクチュエータハウジングの底部および出力部材に固定されて捩じられた線状のテンション部材の張力を圧電素子の伸長により増加させることで、テンション部材の捩じり量を減少させて出力部材を回転させるので、部品点数の少ない簡単な構造でありながら出力部材に充分な回転角を出力させることができる。しかも圧電素子は電圧の印加に対する伸縮の応答性が高いので、アクチュエータの応答性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を、添付の図面に示した本発明の実施例に基づいて説明する。
【0009】
図1〜図16は本発明の第1実施例を示すもので、図1はABS装置の油圧回路を示す図、図2は油圧調整装置の全体側面図、図3は図2の3方向矢視図、図4は図3の4−4線断面図、図5は図4の5−5線断面図、図6は図4の6−6線断面図、図7はアクチュエータの縦横比(L/φ)と歪み量(ΔL/L)との関係を説明する図、図8は図3の8−8線断面図、図9は図8の9−9線断面図、図10は図8の10−10線断面図、図11は図8の11−11線断面図、図12は図8の12−12線断面図、図13は図8の13−13線断面図、図14は増圧モードの作用説明図、図15は保持モードの作用説明図、図16は減圧モードの作用説明図である。
【0010】
図1は自動車のアンチロック・ブレーキ・システム(ABS)の構成を示すものである。ドライバーによるブレーキペダル11の操作で作動するマスタシリンダ12と、例えば左前輪を制動するホイールシリンダ13FLと、リザーバ14との間に油圧調整装置15FLが配置される。リザーバ14とマスタシリンダ12との間にモータ16で作動するオイルポンプ17が設けられており、リザーバ14に溜まったブレーキオイルはオイルポンプ17でマスタシリンダ12に戻される。油圧調整装置15FLを迂回する油路には、マスタシリンダ12からホイールシリンダ13FLへのブレーキ油圧の伝達を阻止し、ホイールシリンダ13FLからマスタシリンダ12へのブレーキ油圧の伝達を許容するチェックバルブ18が設けられる。
【0011】
油圧調整装置15FLには、ホイールシリンダ13FLに連なる第1ポートP1と、マスタシリンダ12に連なる第2ポートP2と、リザーバ14に連なる第3ポートP3とが設けられている。第1ポートP1が第2ポートP2と連通して第3ポートP3と遮断されると、ホイールシリンダ13FLがマスタシリンダ12が連通してリザーバ14から遮断されて増圧モードとなる。第1ポートP1が第3ポートP3と連通して第2ポートP2から遮断されると、ホイールシリンダ13FLがリザーバ14に連通してマスタシリンダ12から遮断されて減圧モードとなる。第1ポートP1が第2、第3ポートP2,P3から遮断されると、ホイールシリンダ13FLがリザーバ14およびマスタシリンダ12から遮断されて保持モードとなる。油圧調整装置15FLは上記3種類のモードを切り換える機能を有する。
【0012】
以上、左前輪のブレーキ系統について説明したが、右後輪、右前輪および左後輪のブレーキ系統も同一の構成を備えている。図1における符号の添え字RRは右後輪、添え字RLは左後輪、添え字FRは右前輪のブレーキ系統の構成要素に対応している。
【0013】
図2に示すように、油圧調整装置15FLは下側のアクチュエータ21と上側のバルブブロック22とを二段重ねにして構成される。アクチュエータ21は圧電素子を駆動源とするもので、バルブブロック22を作動させて上記増圧モード、減圧モードおよび保持モードを切り換える。
【0014】
次に、図4〜図6に基づいてアクチュエータ21の構造を説明する。
【0015】
アクチュエータ21は円形断面の内孔23aを有するアクチュエータハウジング23を備えており、その後端面にリヤプレート24がボルト25…で固定される。本実施例では、このリヤプレート24がアクチュエータハウジング23の底部を構成する。内孔23aの内部に配置された棒状の圧電素子26は、その長手方向の位置を微調整すべく、後端に結合された調整ボルト27がリヤプレート24に螺合してロックナット28でロックされる。圧電素子26は短円筒状の圧電素子エレメントを軸線方向に多数積層した構造を備えており、電圧の印加に伴う軸線方向の伸縮量を拡大している。内孔23aの前部にピストン状の出力部材29が摺動自在かつ回転自在に支持されており、圧電素子26の前端と出力部材29の後端とがボールジョイント30で接続される。
【0016】
出力部材29とリヤプレート24とが、金属繊維、炭素繊維あるいは金属梁のような、延び方向には高い剛性を有しながら柔軟に屈曲可能な材料で構成した2本のテンション部材31,31で接続される。出力部材29はバルブブロック22に設けた、後述するバイアススプリング51で回転方向に付勢されており、従ってテンション部材31,31は圧電素子26まわりに捩じられるように変形する。実施例では、テンション部材31,31の両端の位相が90°ずれるように、バイアススプリング51によって予荷重が加えられている。
【0017】
従って、電圧を印加された圧電素子26が伸長すると出力部材29が内孔23aに案内されながら前進するが、その際に捩じれた状態にあるテンション部材31,31が元の状態に戻ろうとすることで、出力部材29が軸線回りに回転する。即ち、圧電素子26に電圧を印加することで、出力部材29は回転しながら前進する。
【0018】
図7に示すように、圧電素子26の長さをLとし、圧電素子26の伸長量をΔLとし、テンション部材31,31の自由端の回転方向の移動軌跡の直径をφとすると、テンション部材31,31を90°捩じった場合の、縦横比(L/φ)と、歪み量(ΔL/L)との関係は、
ΔL/L=1−cos{2sin-1 (φ/2√2L)}
で与えられる。従って、縦横比(L/φ)を10程度に設定すれば、0.3%程度の僅かな歪み量(ΔL/L)で出力部材29を90°回転させることができる。
【0019】
次に、図3および図8〜図13に基づいてバルブブロック22の構造を説明する。
【0020】
バルブブロック22は円形断面の内孔41aを有するバルブハウジング41を備えており、その前端にはフロントプレート42がボルト43…で固定されるとともに、その後端にはリヤキャップ44が圧入される。バルブハウジング41の内孔41aには円柱状のスプール45が軸線方向摺動自在、かつ軸線まわりに回転自在に収納されており、リヤキャップ44との間に配置されたコイルスプリング46で後方に向けて付勢される。
【0021】
出力部材29から前方に突出する駆動軸47に設けた駆動セクタギヤ48と、スプール45からフロントプレート42を貫通して前方に突出する従動軸49に軸方向摺動自在に設けた従動セクタギヤ50とが相互に噛合する。即ち、従動セクタギヤ50と一体のスリーブ50bが、従動軸49の外周に軸方向摺動自在にスプライン嵌合する。駆動セクタギヤ48および従動セクタギヤ50は軸線方向に一体に移動するものであり、そのために従動セクタギヤ50には駆動セクタギヤ48を挟む一対のフランジ50a,50aが設けられている。また従動セクタギヤ50は前述したバイアススプリング51で図3の矢印A方向に付勢されており、この付勢力は従動セクタギヤ50および駆動セクタギヤ48を介して駆動軸47を矢印B方向に付勢してテンション部材31,31に予荷重を与えるように作用する。そして従動軸49の先端に、それを軸線方向に移動させるためのリニアソレノイド52が接続される。圧電素子26に対する通電およびリニアソレノイド52に対する通電は、相互に同期するように制御される。
【0022】
スプール45の前面に形成された扇状のストッパ45fと、フロントプレート42の後面に形成された半円状のストッパ42aとが相互に噛み合うことで、スプール45の回転可能角度が角度θ(図13参照)の範囲に規制される。即ち、圧電素子26に電圧を印加しないときには、バイアススプリング51が発生する図3の矢印A,B方向の付勢力で、出力部材29は前記角度θの一端の初期回転位置に規制される。また圧電素子26に最大電圧を印加したときには、バイアススプリング51が発生する図3の矢印A,B方向の付勢力に抗して、出力部材29は前記角度θの他端の最終回転位置に規制される。
【0023】
バルブハウジング41にはホイールシリンダ13FLに連なる第1ポートP1と、マスタシリンダ12に連なる第2ポートP2と、リザーバ14に連なる第3ポートP3とが軸線方向に整列するように設けられている。スプール45の中心を軸線方向に延びる油路45aから第1油孔45b、第2油孔45cおよび第3油孔45dが径方向に延びており、第1油孔45aの開口部に軸線方向および円周方向に延びる切欠45eが形成される。
【0024】
第1油孔45bおよび切欠45eはホイールシリンダ13FLに連なる第1ポートP1に連通するもので、スプール45が軸線方向に移動し、かつ回転しても、その連通状態は常時維持される。第2油孔45cはマスタシリンダ12に連なる第2ポートP2に連通可能なもので、スプール45が最も後退した位置にあるとき第2油孔45cは第2ポートP2に連通し、そこからスプール45が回転しながら前進すると、前記連通が次第に遮断される。第3油孔45dはリザーバ14に連なる第3ポートP3に連通可能なもので、スプール45が最も前進した位置にあるとき第3油孔45dは第3ポートP3に連通し、そこからスプール45が回転しながら後退すると、前記連通が次第に遮断される。そしてスプール45が両回転端の中間位置にあるとき、第2油孔45cとマスタシリンダ12との連通が遮断され、同時に第3油孔45dとリザーバ14との連通が遮断される。
【0025】
次に、上記構成を備えた第1実施例の作用を説明する。
【0026】
圧電素子26に電圧を印加しないとき、スプール45は最も後退した図14の後退位置にあり、油圧調整装置15FLは増圧モードとなる。即ち、ホイールシリンダ13FLは第1ポートP1、切欠45e、第1油孔45b、油路45a、第2油孔45cおよび第2ポートP2を介してマスタシリンダ12に連通し(INバルブ開)、かつ第3ポートP3と第3油孔45dとの連通が絶たれるために、ホイールシリンダ13FLがリザーバ14から遮断される(OUTバルブ閉)。従って、マスタシリンダ12で発生したブレーキ油圧はホイールシリンダ13FLに伝達されて制動力が増加する。
【0027】
この状態から圧電素子26に電圧を印加して伸長させると、テンション部材31,31の作用で出力部材29が回転しながら前進し、その回転が駆動軸47、駆動セクタギヤ48、従動セクタギヤ50および従動軸49を介してバルブブロック22のスプール45に伝達され、バイアススプリング51の弾発力に抗してスプール45を回転させる。このとき、リニアソレノイド52が同時に作動して出力部材29を軸線方向に前進させる。
【0028】
その結果、スプール45は図15に示す中間位置となり、油圧調整装置15FLは保持モードとなる。即ち、マスタシリンダ12に連なる第2ポートP2はスプール45の第2油孔45cから遮断され(INバルブ閉)、かつリザーバ14に連なる第3ポートP3はスプール45の第3油孔45dから遮断されるため(OUTバルブ開)、ホイールシリンダ13FLはマスタシリンダ12およびリザーバ14の両方から遮断され、ホイールシリンダ13FLが発生するブレーキ力が保持される。
【0029】
この状態から圧電素子26に印加する電圧を更に高めて伸長させるとともに、リニアソレノイド52を更に作動させてスプール45を軸線方向に前進させる。その結果、スプール45は図16に示す前進位置となり、油圧調整装置15FLは減圧モードとなる。即ち、ホイールシリンダ13FLは第1ポートP1、切欠45e、第1油孔45b、油路45a、第3油孔45dおよび第3ポートP3を介してリザーバ14に連通し(OUTバルブ開)、かつ第2ポートP2と第2油孔45cとの連通が絶たれるために、ホイールシリンダ13FLがマスタシリンダ12から遮断される(INバルブ閉)。従って、ホイールシリンダ13FLのブレーキ油圧がリザーバ14に逃がされて制動力が減少する。
【0030】
しかして、アクチュエータ21の圧電素子26に印加する電圧を短い時間間隔で増減制御し、併せてリニアソレノイド52でスプール52の軸線方向の位置を制御することで、油圧調整装置15FLの増圧モード、保持モードおよび減圧モードを短い時間間隔で切り換え、低擦係数の路面での車輪のロックを抑制するABS制御を可能にすることができる。
【0031】
このように、回転角を制御するアクチュエータ21の駆動源に圧電素子26を用いたことにより、ステップモータやサーボモータを用いた場合に比べて構造を簡素化してコストダウンを図るとともに、厳しい使用環境での信頼性を高めることができる。しかも圧電素子26は電圧の変化に対する応答性が極めて高いため、高い応答性を要求される油圧調整装置15FLに適用することで有効に活用することができる。また圧電素子26の伸縮をテンション部材31,31を用いて回転に変換するので、圧電素子26の微小な伸縮を大きな回転角として出力させることができる。
【0032】
尚、上述した第1実施例では4個の油圧調整装置15FL,15RR,15RL,15FRのうち、1個の油圧調整装置15FLの構造および作用について説明したが、他の3個の油圧調整装置15RR,15RL,15FRの構造および作用も同じである。
【0033】
図17〜図21は本発明の第2実施例を示すもので、図17は油圧調整装置の縦断面図、図18は図17の18−18線断面図、図19は図17の19−19線断面図、図20は図17の20−20線断面図、図21は図17の21−21線断面図である。
【0034】
第1実施例の油圧調整装置15FLは出力部材29が回転しながら軸線方向に移動するようになっているが、第2実施例の油圧調整装置15FLは出力部材29が軸線方向に移動せずに回転するようになっている。
【0035】
アクチュエータ21は、アクチュエータハウジング23の後端にボルト61…で固定された摺動部材支持ハウジング62を備えるとともに、アクチュエータハウジング23の前端にボルト63…で固定されたフロントハウジング64を備えており、フロントハウジング64の内周にカップ状の出力部材支持ハウジング65が螺合して固定される。摺動部材支持ハウジング62の内部には非円形断面の摺動部材66が軸線方向摺動可能かつ回転不能に嵌合しており、この摺動部材66の前面とフロントハウジング64の後面とに、上下2本の圧電素子26,26の後端および前端がそれぞれ固定される。本実施例では、この摺動部材66がアクチュエータハウジング23の底部を構成する。出力部材支持ハウジング65の内部にスラストベアリング67を介して出力部材29が回転可能に支持されており、摺動部材66と出力部材29とに一対のテンション部材31,31の両端が固定される。
【0036】
アクチュエータ21の上面に固定されたバルブブロック22は、バルブハウジング41と、その前面の開口部を覆ってボルト43…で固定されるフロントプレート42と、バルブハウジング41の内部に回転自在に収納された短円筒状のバルブボディ68とを備える。出力部材29から前方に延びる駆動軸47に設けた駆動セクタギヤ48と、バルブボディ68から前方に延びる従動軸49に設けた従動セクタギヤ50とが噛合しており、従動軸49はバイアススプリング51でテンション部材31,31を捻じる方向に付勢される。第1実施例と異なり、駆動軸47および従動軸49は軸線方向に移動しないため、従動セクタギヤ50には駆動セクタギヤ48に係合するフランジ50a,50aは設けられていない。
【0037】
バルブハウジング41の後面には、ホイールシリンダ13FLに連なる第1ポートP1と、マスタシリンダ12に連なる第2ポートP2と、リザーバ14に連なる第3ポートP3とが設けられており、第1ポートP1はバルブボディ68の回転軸上に配置され、第2ポートP2は第1ポートP1の真下に配置され、第3ポートP3は第1ポートP1の真上から円周方向に僅かにずれた位置に配置される。
【0038】
バルブボディ68の前面に形成されたストッパ68fと、フロントプレート42の後面に形成されたストッパ42aとが係合することで、バルブボディ68の回転角が角度θの範囲に規制される。バルブボディ68の内部には直径方向に延びる油路68aと、油路68aの中央から後方に分岐する第1油孔68bと、油路68aの一端から後方に分岐する第2油孔68cと、油路68aの他端から後方に分岐する第3油孔68dとが形成されており、第1油路68bは常時第1ポートP1に連通し、第2油路68cは第2ポートP2に連通可能であり、第3油路68dは第3ポートP3に連通可能である。
【0039】
次に、上記構成を備えた第2実施例の作用を説明する。
【0040】
圧電素子26,26に電圧を印加して伸長させると、圧電素子26,26の後端に接続された摺動部材66が摺動部材支持ハウジング62に案内されて後方に摺動し、テンション部材31,31の張力を増加させる。その結果、捩じれた状態にあるテンション部材31,31が軸線と平行な方向に伸びようとして出力部材29を回転させ、出力部材29の回転が駆動軸47、駆動セクタギヤ48、従動セクタギヤ50および従動軸49を介してバルブボディ68を回転させる。
【0041】
従って、図21に示す位置では、ホイールシリンダ13FLがマスタシリンダ12と連通してリザーバ14から遮断されることで増圧モードとなり、そこからバルブボディ68が反時計方向に回転するとホイールシリンダ13FLがマスタシリンダ12およびリザーバ14の両方から遮断されることで保持モードとなり、そこからバルブボディ68が更に反時計方向に回転するとホイールシリンダ13FLがマスタシリンダ12から遮断されてリザーバ14に連通することで減圧モードとなる。
【0042】
しかして、この第2実施例によっても前述した第1実施例と同様の作用効果を達成することができ、しかもアクチュエータ21の出力部材29が回転のみを行って軸線方向に移動しないので、アクチュエータ21の汎用性が高められる。
【0043】
図22〜図24は本発明の第3実施例を示すもので、図22はバルブブロックの縦断面図、図23は図22の23−23線断面図、図24は図22の24−24線断面図である。
【0044】
上述した第2実施例のバルブボディ68は、その後面に第1油孔68b、第2油孔68cおよび第3油孔68dの全てが開口しているが、第1油孔68b、第2油孔68cおよび第3油孔68dの全てがバルブボディ68の外周面に開口している。バルブボディ68が回転しても第1油孔68bは第1ポートP1と常時連通している必要があるため、第1油孔68bの出口に円周方向に延びる切欠68e(図24参照)が形成される。
【0045】
しかして、この第3実施例によれば、上述した第2実施例と同様の作用効果を達成することができる。
【0046】
図25〜図30は本発明の第4実施例を示すもので、図25はバルブブロックの縦断面図、図26は図25の26−26線断面図、図27は図25の27−27線断面図、図28は図25の28−28線断面図、図29は図25の29−29線断面図、図30は作用の説明図である。
【0047】
第4実施例は、第1実施例のバルブブロック22の構造に変更を加え、これに第2、第3実施例のアクチュエータ21を組み合わせたものである。第1実施例のバルブブロック22はスプール45が回転しながらリニアソレノイド52で軸線方向に移動可能であるのに対し、第4実施例のスプール45は回転のみを行う点で異なっており、その他の構成は第1実施例のバルブブロック22と実質的に同じである。
【0048】
しかして、この第4実施例によれば、上述した第2、第3実施例と同様の作用効果を達成することができる。
【0049】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0050】
例えば、実施例のアクチュエータ21はバルブブロック22を作動させるためのものであるが、その用途は任意である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】ABS装置の油圧回路を示す図
【図2】油圧調整装置の全体側面図
【図3】図2の3方向矢視図
【図4】図3の4−4線断面図
【図5】図4の5−5線断面図
【図6】図4の6−6線断面図
【図7】アクチュエータの縦横比(L/φ)と歪み量(ΔL/L)との関係を説明する図
【図8】図3の8−8線断面図
【図9】図8の9−9線断面図
【図10】図8の10−10線断面図
【図11】図8の11−11線断面図
【図12】図8の12−12線断面図
【図13】図8の13−13線断面図
【図14】増圧モードの作用説明図
【図15】保持モードの作用説明図
【図16】減圧モードの作用説明図
【図17】第2実施例に係る油圧調整装置の縦断面図
【図18】図17の18−18線断面図
【図19】図17の19−19線断面図
【図20】図17の20−20線断面図
【図21】図17の21−21線断面図
【図22】第3実施例に係るバルブブロックの縦断面図
【図23】図22の23−23線断面図
【図24】図22の24−24線断面図
【図25】バルブブロックの縦断面図
【図26】図25の26−26線断面図
【図27】図25の27−27線断面図
【図28】図25の28−28線断面図
【図29】図25の29−29線断面図
【図30】作用の説明図
【符号の説明】
【0052】
23 アクチュエータハウジング
26 圧電素子
29 出力部材
31 テンション部材
42a ストッパ
45f ストッパ
51 バイアススプリング(付勢手段)
68f ストッパ
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧の印加に伴う圧電素子の伸縮を出力部材と回転運動として取り出すアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
ブレーキ装置の摩擦部材を被制動部材に押し付けて制動力を発生させるアクチュエータの駆動源に圧電素子を用いたものが、下記特許文献1により公知である。圧電素子は電圧を印加したときの伸縮量が極めて小さいため、前記アクチュエータは必要な伸縮量を得るために圧電素子を複数積層した圧電素子アレイを2個並列に配置し、第1の圧電素子アレイの伸縮をリンクで第2の圧電素子アレイに伝達し、両圧電素子アレイの伸縮量の総和を出力するようになっている。
【特許文献1】特公平3−61058号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、圧電素子は電圧の印加で伸縮するものであるため、直線運動を取り出すアクチュエータには容易に適用することが可能であるが、回転運動を取り出すアクチュエータに適用しようとすると、その構造が複雑化する問題があるだけでなく、充分な回転角を出力させるのが難しいという問題がある。
【0004】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、圧電素子を用いたアクチュエータにおいて、簡単な構造で充分な回転角を出力可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、有底円筒状のアクチュエータハウジングの開口部側に回転可能に支持される出力部材と、前記出力部材の初期回転位置を規制するストッパと、前記出力部材を前記初期回転位置に向けて付勢する付勢手段と、前記アクチュエータハウジング内に収納されて一端および他端がそれぞれ該アクチュエータハウジングの底部および前記出力部材に固定され、前記出力部材が前記初期回転位置にあるときに該出力部材の回転方向に捩じられた線状のテンション部材と、前記アクチュエータハウジング内に収納され、電圧の印加により伸長して前記テンション部材の張力を増加させることで、該テンション部材の捩じり量を減少させて前記出力部材を回転させる圧電素子とを備えたことを特徴とするアクチュエータが提案される。
【0006】
尚、実施例のバイアススプリング51は本発明の付勢手段に対応する。
【発明の効果】
【0007】
請求項1の構成によれば、有底円筒状のアクチュエータハウジングの開口部側に回転可能に支持した出力部材を付勢手段で付勢してストッパにより初期回転位置に規制し、一端および他端がそれぞれアクチュエータハウジングの底部および出力部材に固定されて捩じられた線状のテンション部材の張力を圧電素子の伸長により増加させることで、テンション部材の捩じり量を減少させて出力部材を回転させるので、部品点数の少ない簡単な構造でありながら出力部材に充分な回転角を出力させることができる。しかも圧電素子は電圧の印加に対する伸縮の応答性が高いので、アクチュエータの応答性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を、添付の図面に示した本発明の実施例に基づいて説明する。
【0009】
図1〜図16は本発明の第1実施例を示すもので、図1はABS装置の油圧回路を示す図、図2は油圧調整装置の全体側面図、図3は図2の3方向矢視図、図4は図3の4−4線断面図、図5は図4の5−5線断面図、図6は図4の6−6線断面図、図7はアクチュエータの縦横比(L/φ)と歪み量(ΔL/L)との関係を説明する図、図8は図3の8−8線断面図、図9は図8の9−9線断面図、図10は図8の10−10線断面図、図11は図8の11−11線断面図、図12は図8の12−12線断面図、図13は図8の13−13線断面図、図14は増圧モードの作用説明図、図15は保持モードの作用説明図、図16は減圧モードの作用説明図である。
【0010】
図1は自動車のアンチロック・ブレーキ・システム(ABS)の構成を示すものである。ドライバーによるブレーキペダル11の操作で作動するマスタシリンダ12と、例えば左前輪を制動するホイールシリンダ13FLと、リザーバ14との間に油圧調整装置15FLが配置される。リザーバ14とマスタシリンダ12との間にモータ16で作動するオイルポンプ17が設けられており、リザーバ14に溜まったブレーキオイルはオイルポンプ17でマスタシリンダ12に戻される。油圧調整装置15FLを迂回する油路には、マスタシリンダ12からホイールシリンダ13FLへのブレーキ油圧の伝達を阻止し、ホイールシリンダ13FLからマスタシリンダ12へのブレーキ油圧の伝達を許容するチェックバルブ18が設けられる。
【0011】
油圧調整装置15FLには、ホイールシリンダ13FLに連なる第1ポートP1と、マスタシリンダ12に連なる第2ポートP2と、リザーバ14に連なる第3ポートP3とが設けられている。第1ポートP1が第2ポートP2と連通して第3ポートP3と遮断されると、ホイールシリンダ13FLがマスタシリンダ12が連通してリザーバ14から遮断されて増圧モードとなる。第1ポートP1が第3ポートP3と連通して第2ポートP2から遮断されると、ホイールシリンダ13FLがリザーバ14に連通してマスタシリンダ12から遮断されて減圧モードとなる。第1ポートP1が第2、第3ポートP2,P3から遮断されると、ホイールシリンダ13FLがリザーバ14およびマスタシリンダ12から遮断されて保持モードとなる。油圧調整装置15FLは上記3種類のモードを切り換える機能を有する。
【0012】
以上、左前輪のブレーキ系統について説明したが、右後輪、右前輪および左後輪のブレーキ系統も同一の構成を備えている。図1における符号の添え字RRは右後輪、添え字RLは左後輪、添え字FRは右前輪のブレーキ系統の構成要素に対応している。
【0013】
図2に示すように、油圧調整装置15FLは下側のアクチュエータ21と上側のバルブブロック22とを二段重ねにして構成される。アクチュエータ21は圧電素子を駆動源とするもので、バルブブロック22を作動させて上記増圧モード、減圧モードおよび保持モードを切り換える。
【0014】
次に、図4〜図6に基づいてアクチュエータ21の構造を説明する。
【0015】
アクチュエータ21は円形断面の内孔23aを有するアクチュエータハウジング23を備えており、その後端面にリヤプレート24がボルト25…で固定される。本実施例では、このリヤプレート24がアクチュエータハウジング23の底部を構成する。内孔23aの内部に配置された棒状の圧電素子26は、その長手方向の位置を微調整すべく、後端に結合された調整ボルト27がリヤプレート24に螺合してロックナット28でロックされる。圧電素子26は短円筒状の圧電素子エレメントを軸線方向に多数積層した構造を備えており、電圧の印加に伴う軸線方向の伸縮量を拡大している。内孔23aの前部にピストン状の出力部材29が摺動自在かつ回転自在に支持されており、圧電素子26の前端と出力部材29の後端とがボールジョイント30で接続される。
【0016】
出力部材29とリヤプレート24とが、金属繊維、炭素繊維あるいは金属梁のような、延び方向には高い剛性を有しながら柔軟に屈曲可能な材料で構成した2本のテンション部材31,31で接続される。出力部材29はバルブブロック22に設けた、後述するバイアススプリング51で回転方向に付勢されており、従ってテンション部材31,31は圧電素子26まわりに捩じられるように変形する。実施例では、テンション部材31,31の両端の位相が90°ずれるように、バイアススプリング51によって予荷重が加えられている。
【0017】
従って、電圧を印加された圧電素子26が伸長すると出力部材29が内孔23aに案内されながら前進するが、その際に捩じれた状態にあるテンション部材31,31が元の状態に戻ろうとすることで、出力部材29が軸線回りに回転する。即ち、圧電素子26に電圧を印加することで、出力部材29は回転しながら前進する。
【0018】
図7に示すように、圧電素子26の長さをLとし、圧電素子26の伸長量をΔLとし、テンション部材31,31の自由端の回転方向の移動軌跡の直径をφとすると、テンション部材31,31を90°捩じった場合の、縦横比(L/φ)と、歪み量(ΔL/L)との関係は、
ΔL/L=1−cos{2sin-1 (φ/2√2L)}
で与えられる。従って、縦横比(L/φ)を10程度に設定すれば、0.3%程度の僅かな歪み量(ΔL/L)で出力部材29を90°回転させることができる。
【0019】
次に、図3および図8〜図13に基づいてバルブブロック22の構造を説明する。
【0020】
バルブブロック22は円形断面の内孔41aを有するバルブハウジング41を備えており、その前端にはフロントプレート42がボルト43…で固定されるとともに、その後端にはリヤキャップ44が圧入される。バルブハウジング41の内孔41aには円柱状のスプール45が軸線方向摺動自在、かつ軸線まわりに回転自在に収納されており、リヤキャップ44との間に配置されたコイルスプリング46で後方に向けて付勢される。
【0021】
出力部材29から前方に突出する駆動軸47に設けた駆動セクタギヤ48と、スプール45からフロントプレート42を貫通して前方に突出する従動軸49に軸方向摺動自在に設けた従動セクタギヤ50とが相互に噛合する。即ち、従動セクタギヤ50と一体のスリーブ50bが、従動軸49の外周に軸方向摺動自在にスプライン嵌合する。駆動セクタギヤ48および従動セクタギヤ50は軸線方向に一体に移動するものであり、そのために従動セクタギヤ50には駆動セクタギヤ48を挟む一対のフランジ50a,50aが設けられている。また従動セクタギヤ50は前述したバイアススプリング51で図3の矢印A方向に付勢されており、この付勢力は従動セクタギヤ50および駆動セクタギヤ48を介して駆動軸47を矢印B方向に付勢してテンション部材31,31に予荷重を与えるように作用する。そして従動軸49の先端に、それを軸線方向に移動させるためのリニアソレノイド52が接続される。圧電素子26に対する通電およびリニアソレノイド52に対する通電は、相互に同期するように制御される。
【0022】
スプール45の前面に形成された扇状のストッパ45fと、フロントプレート42の後面に形成された半円状のストッパ42aとが相互に噛み合うことで、スプール45の回転可能角度が角度θ(図13参照)の範囲に規制される。即ち、圧電素子26に電圧を印加しないときには、バイアススプリング51が発生する図3の矢印A,B方向の付勢力で、出力部材29は前記角度θの一端の初期回転位置に規制される。また圧電素子26に最大電圧を印加したときには、バイアススプリング51が発生する図3の矢印A,B方向の付勢力に抗して、出力部材29は前記角度θの他端の最終回転位置に規制される。
【0023】
バルブハウジング41にはホイールシリンダ13FLに連なる第1ポートP1と、マスタシリンダ12に連なる第2ポートP2と、リザーバ14に連なる第3ポートP3とが軸線方向に整列するように設けられている。スプール45の中心を軸線方向に延びる油路45aから第1油孔45b、第2油孔45cおよび第3油孔45dが径方向に延びており、第1油孔45aの開口部に軸線方向および円周方向に延びる切欠45eが形成される。
【0024】
第1油孔45bおよび切欠45eはホイールシリンダ13FLに連なる第1ポートP1に連通するもので、スプール45が軸線方向に移動し、かつ回転しても、その連通状態は常時維持される。第2油孔45cはマスタシリンダ12に連なる第2ポートP2に連通可能なもので、スプール45が最も後退した位置にあるとき第2油孔45cは第2ポートP2に連通し、そこからスプール45が回転しながら前進すると、前記連通が次第に遮断される。第3油孔45dはリザーバ14に連なる第3ポートP3に連通可能なもので、スプール45が最も前進した位置にあるとき第3油孔45dは第3ポートP3に連通し、そこからスプール45が回転しながら後退すると、前記連通が次第に遮断される。そしてスプール45が両回転端の中間位置にあるとき、第2油孔45cとマスタシリンダ12との連通が遮断され、同時に第3油孔45dとリザーバ14との連通が遮断される。
【0025】
次に、上記構成を備えた第1実施例の作用を説明する。
【0026】
圧電素子26に電圧を印加しないとき、スプール45は最も後退した図14の後退位置にあり、油圧調整装置15FLは増圧モードとなる。即ち、ホイールシリンダ13FLは第1ポートP1、切欠45e、第1油孔45b、油路45a、第2油孔45cおよび第2ポートP2を介してマスタシリンダ12に連通し(INバルブ開)、かつ第3ポートP3と第3油孔45dとの連通が絶たれるために、ホイールシリンダ13FLがリザーバ14から遮断される(OUTバルブ閉)。従って、マスタシリンダ12で発生したブレーキ油圧はホイールシリンダ13FLに伝達されて制動力が増加する。
【0027】
この状態から圧電素子26に電圧を印加して伸長させると、テンション部材31,31の作用で出力部材29が回転しながら前進し、その回転が駆動軸47、駆動セクタギヤ48、従動セクタギヤ50および従動軸49を介してバルブブロック22のスプール45に伝達され、バイアススプリング51の弾発力に抗してスプール45を回転させる。このとき、リニアソレノイド52が同時に作動して出力部材29を軸線方向に前進させる。
【0028】
その結果、スプール45は図15に示す中間位置となり、油圧調整装置15FLは保持モードとなる。即ち、マスタシリンダ12に連なる第2ポートP2はスプール45の第2油孔45cから遮断され(INバルブ閉)、かつリザーバ14に連なる第3ポートP3はスプール45の第3油孔45dから遮断されるため(OUTバルブ開)、ホイールシリンダ13FLはマスタシリンダ12およびリザーバ14の両方から遮断され、ホイールシリンダ13FLが発生するブレーキ力が保持される。
【0029】
この状態から圧電素子26に印加する電圧を更に高めて伸長させるとともに、リニアソレノイド52を更に作動させてスプール45を軸線方向に前進させる。その結果、スプール45は図16に示す前進位置となり、油圧調整装置15FLは減圧モードとなる。即ち、ホイールシリンダ13FLは第1ポートP1、切欠45e、第1油孔45b、油路45a、第3油孔45dおよび第3ポートP3を介してリザーバ14に連通し(OUTバルブ開)、かつ第2ポートP2と第2油孔45cとの連通が絶たれるために、ホイールシリンダ13FLがマスタシリンダ12から遮断される(INバルブ閉)。従って、ホイールシリンダ13FLのブレーキ油圧がリザーバ14に逃がされて制動力が減少する。
【0030】
しかして、アクチュエータ21の圧電素子26に印加する電圧を短い時間間隔で増減制御し、併せてリニアソレノイド52でスプール52の軸線方向の位置を制御することで、油圧調整装置15FLの増圧モード、保持モードおよび減圧モードを短い時間間隔で切り換え、低擦係数の路面での車輪のロックを抑制するABS制御を可能にすることができる。
【0031】
このように、回転角を制御するアクチュエータ21の駆動源に圧電素子26を用いたことにより、ステップモータやサーボモータを用いた場合に比べて構造を簡素化してコストダウンを図るとともに、厳しい使用環境での信頼性を高めることができる。しかも圧電素子26は電圧の変化に対する応答性が極めて高いため、高い応答性を要求される油圧調整装置15FLに適用することで有効に活用することができる。また圧電素子26の伸縮をテンション部材31,31を用いて回転に変換するので、圧電素子26の微小な伸縮を大きな回転角として出力させることができる。
【0032】
尚、上述した第1実施例では4個の油圧調整装置15FL,15RR,15RL,15FRのうち、1個の油圧調整装置15FLの構造および作用について説明したが、他の3個の油圧調整装置15RR,15RL,15FRの構造および作用も同じである。
【0033】
図17〜図21は本発明の第2実施例を示すもので、図17は油圧調整装置の縦断面図、図18は図17の18−18線断面図、図19は図17の19−19線断面図、図20は図17の20−20線断面図、図21は図17の21−21線断面図である。
【0034】
第1実施例の油圧調整装置15FLは出力部材29が回転しながら軸線方向に移動するようになっているが、第2実施例の油圧調整装置15FLは出力部材29が軸線方向に移動せずに回転するようになっている。
【0035】
アクチュエータ21は、アクチュエータハウジング23の後端にボルト61…で固定された摺動部材支持ハウジング62を備えるとともに、アクチュエータハウジング23の前端にボルト63…で固定されたフロントハウジング64を備えており、フロントハウジング64の内周にカップ状の出力部材支持ハウジング65が螺合して固定される。摺動部材支持ハウジング62の内部には非円形断面の摺動部材66が軸線方向摺動可能かつ回転不能に嵌合しており、この摺動部材66の前面とフロントハウジング64の後面とに、上下2本の圧電素子26,26の後端および前端がそれぞれ固定される。本実施例では、この摺動部材66がアクチュエータハウジング23の底部を構成する。出力部材支持ハウジング65の内部にスラストベアリング67を介して出力部材29が回転可能に支持されており、摺動部材66と出力部材29とに一対のテンション部材31,31の両端が固定される。
【0036】
アクチュエータ21の上面に固定されたバルブブロック22は、バルブハウジング41と、その前面の開口部を覆ってボルト43…で固定されるフロントプレート42と、バルブハウジング41の内部に回転自在に収納された短円筒状のバルブボディ68とを備える。出力部材29から前方に延びる駆動軸47に設けた駆動セクタギヤ48と、バルブボディ68から前方に延びる従動軸49に設けた従動セクタギヤ50とが噛合しており、従動軸49はバイアススプリング51でテンション部材31,31を捻じる方向に付勢される。第1実施例と異なり、駆動軸47および従動軸49は軸線方向に移動しないため、従動セクタギヤ50には駆動セクタギヤ48に係合するフランジ50a,50aは設けられていない。
【0037】
バルブハウジング41の後面には、ホイールシリンダ13FLに連なる第1ポートP1と、マスタシリンダ12に連なる第2ポートP2と、リザーバ14に連なる第3ポートP3とが設けられており、第1ポートP1はバルブボディ68の回転軸上に配置され、第2ポートP2は第1ポートP1の真下に配置され、第3ポートP3は第1ポートP1の真上から円周方向に僅かにずれた位置に配置される。
【0038】
バルブボディ68の前面に形成されたストッパ68fと、フロントプレート42の後面に形成されたストッパ42aとが係合することで、バルブボディ68の回転角が角度θの範囲に規制される。バルブボディ68の内部には直径方向に延びる油路68aと、油路68aの中央から後方に分岐する第1油孔68bと、油路68aの一端から後方に分岐する第2油孔68cと、油路68aの他端から後方に分岐する第3油孔68dとが形成されており、第1油路68bは常時第1ポートP1に連通し、第2油路68cは第2ポートP2に連通可能であり、第3油路68dは第3ポートP3に連通可能である。
【0039】
次に、上記構成を備えた第2実施例の作用を説明する。
【0040】
圧電素子26,26に電圧を印加して伸長させると、圧電素子26,26の後端に接続された摺動部材66が摺動部材支持ハウジング62に案内されて後方に摺動し、テンション部材31,31の張力を増加させる。その結果、捩じれた状態にあるテンション部材31,31が軸線と平行な方向に伸びようとして出力部材29を回転させ、出力部材29の回転が駆動軸47、駆動セクタギヤ48、従動セクタギヤ50および従動軸49を介してバルブボディ68を回転させる。
【0041】
従って、図21に示す位置では、ホイールシリンダ13FLがマスタシリンダ12と連通してリザーバ14から遮断されることで増圧モードとなり、そこからバルブボディ68が反時計方向に回転するとホイールシリンダ13FLがマスタシリンダ12およびリザーバ14の両方から遮断されることで保持モードとなり、そこからバルブボディ68が更に反時計方向に回転するとホイールシリンダ13FLがマスタシリンダ12から遮断されてリザーバ14に連通することで減圧モードとなる。
【0042】
しかして、この第2実施例によっても前述した第1実施例と同様の作用効果を達成することができ、しかもアクチュエータ21の出力部材29が回転のみを行って軸線方向に移動しないので、アクチュエータ21の汎用性が高められる。
【0043】
図22〜図24は本発明の第3実施例を示すもので、図22はバルブブロックの縦断面図、図23は図22の23−23線断面図、図24は図22の24−24線断面図である。
【0044】
上述した第2実施例のバルブボディ68は、その後面に第1油孔68b、第2油孔68cおよび第3油孔68dの全てが開口しているが、第1油孔68b、第2油孔68cおよび第3油孔68dの全てがバルブボディ68の外周面に開口している。バルブボディ68が回転しても第1油孔68bは第1ポートP1と常時連通している必要があるため、第1油孔68bの出口に円周方向に延びる切欠68e(図24参照)が形成される。
【0045】
しかして、この第3実施例によれば、上述した第2実施例と同様の作用効果を達成することができる。
【0046】
図25〜図30は本発明の第4実施例を示すもので、図25はバルブブロックの縦断面図、図26は図25の26−26線断面図、図27は図25の27−27線断面図、図28は図25の28−28線断面図、図29は図25の29−29線断面図、図30は作用の説明図である。
【0047】
第4実施例は、第1実施例のバルブブロック22の構造に変更を加え、これに第2、第3実施例のアクチュエータ21を組み合わせたものである。第1実施例のバルブブロック22はスプール45が回転しながらリニアソレノイド52で軸線方向に移動可能であるのに対し、第4実施例のスプール45は回転のみを行う点で異なっており、その他の構成は第1実施例のバルブブロック22と実質的に同じである。
【0048】
しかして、この第4実施例によれば、上述した第2、第3実施例と同様の作用効果を達成することができる。
【0049】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0050】
例えば、実施例のアクチュエータ21はバルブブロック22を作動させるためのものであるが、その用途は任意である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】ABS装置の油圧回路を示す図
【図2】油圧調整装置の全体側面図
【図3】図2の3方向矢視図
【図4】図3の4−4線断面図
【図5】図4の5−5線断面図
【図6】図4の6−6線断面図
【図7】アクチュエータの縦横比(L/φ)と歪み量(ΔL/L)との関係を説明する図
【図8】図3の8−8線断面図
【図9】図8の9−9線断面図
【図10】図8の10−10線断面図
【図11】図8の11−11線断面図
【図12】図8の12−12線断面図
【図13】図8の13−13線断面図
【図14】増圧モードの作用説明図
【図15】保持モードの作用説明図
【図16】減圧モードの作用説明図
【図17】第2実施例に係る油圧調整装置の縦断面図
【図18】図17の18−18線断面図
【図19】図17の19−19線断面図
【図20】図17の20−20線断面図
【図21】図17の21−21線断面図
【図22】第3実施例に係るバルブブロックの縦断面図
【図23】図22の23−23線断面図
【図24】図22の24−24線断面図
【図25】バルブブロックの縦断面図
【図26】図25の26−26線断面図
【図27】図25の27−27線断面図
【図28】図25の28−28線断面図
【図29】図25の29−29線断面図
【図30】作用の説明図
【符号の説明】
【0052】
23 アクチュエータハウジング
26 圧電素子
29 出力部材
31 テンション部材
42a ストッパ
45f ストッパ
51 バイアススプリング(付勢手段)
68f ストッパ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底円筒状のアクチュエータハウジング(23)の開口部側に回転可能に支持される出力部材(29)と、
前記出力部材(29)の初期回転位置を規制するストッパ(42a,45f,68f)と、
前記出力部材(29)を前記初期回転位置に向けて付勢する付勢手段(51)と、
前記アクチュエータハウジング(23)内に収納されて一端および他端がそれぞれ該アクチュエータハウジング(23)の底部および前記出力部材(29)に固定され、前記出力部材(29)が前記初期回転位置にあるときに該出力部材(29)の回転方向に捩じられた線状のテンション部材(31)と、
前記アクチュエータハウジング(23)内に収納され、電圧の印加により伸長して前記テンション部材(31)の張力を増加させることで、該テンション部材(31)の捩じり量を減少させて前記出力部材(29)を回転させる圧電素子(26)と、
を備えたことを特徴とするアクチュエータ。
【請求項1】
有底円筒状のアクチュエータハウジング(23)の開口部側に回転可能に支持される出力部材(29)と、
前記出力部材(29)の初期回転位置を規制するストッパ(42a,45f,68f)と、
前記出力部材(29)を前記初期回転位置に向けて付勢する付勢手段(51)と、
前記アクチュエータハウジング(23)内に収納されて一端および他端がそれぞれ該アクチュエータハウジング(23)の底部および前記出力部材(29)に固定され、前記出力部材(29)が前記初期回転位置にあるときに該出力部材(29)の回転方向に捩じられた線状のテンション部材(31)と、
前記アクチュエータハウジング(23)内に収納され、電圧の印加により伸長して前記テンション部材(31)の張力を増加させることで、該テンション部材(31)の捩じり量を減少させて前記出力部材(29)を回転させる圧電素子(26)と、
を備えたことを特徴とするアクチュエータ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
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【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
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【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【公開番号】特開2007−110850(P2007−110850A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−300585(P2005−300585)
【出願日】平成17年10月14日(2005.10.14)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年10月14日(2005.10.14)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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