説明

アクリロニトリル系重合体粉体とその製造方法およびアクリロニトリル系重合体溶液とその製造方法

【課題】アクリロニトリル系重合体やアクリロニトリル系重合体溶液の組成に影響を与えることなく、アクリロニトリル系重合体溶液の熱安定性を高め、そのゲル化を抑制・遅延する方法の提供。
【解決手段】平均粒子径が50μm以下で、かつ粒子径80μm以上の粒子の割合が10体積%以下であるアクリロニトリル系重合体粉体。該粉体は、析出重合後、分級されたものであることが好ましい。この粉体が溶媒に溶解した溶液によれば、熱安定性が良好であるため、加熱下でも糸切れの少ない安定な紡糸が可能で、アクリロニトリル系繊維製造用重合体溶液として好適であるうえ、炭素繊維プレカーサーとしても有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリロニトリル系繊維の製造に好適なアクリロニトリル系重合体粉体およびアクリロニトリル系重合体溶液ならびにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリロニトリル系繊維は、羊毛に似て優れた嵩高性、風合い、染色鮮明などを有するため、衣料、寝装具などをはじめ広範囲の用途に供されている。そして、一般に、アクリロニトリル系繊維を製造する際には、まず、アクリロニトリル系重合体を有機溶剤や無機溶剤からなる溶媒に溶解してアクリロニトリル系重合体溶液とし、ついで、これを乾式、湿式、或いは乾湿式などの紡糸方法で紡糸することにより、ステープルまたはフィラメントの形態で得ている。
また、アクリロニトリル系繊維は、炭素繊維前駆体(以下、炭素繊維プレカーサーという。)としても使用され、アクリロニトリル系繊維を焼成工程で炭素化することにより、炭素繊維とすることもできる。こうして得られたアクリロニトリル系炭素繊維は、他のプレカーサーから製造された炭素繊維と比べて、強度、弾性率、耐熱性などに優れていることから、航空機機材をはじめ各種用途に利用されている。
【0003】
かかるアクリロニトリル系繊維の原料となるアクリロニトリル系重合体は、アクリロニトリルと、必要に応じてアクリロニトリルと共重合可能な他の単量体とをラジカル重合反応させて製造される。また、重合には、水を反応媒体とする水系での不均一系重合である析出重合が、重合体の品質管理、未反応単量体の回収、工程管理などの容易さから広く採用されている。
水系の析出重合においては、レドックス触媒を用い、例えば、重合開始剤として過硫酸アンモニウムなどの過酸化物、重合助剤として亜硫酸水素アンモニウムなどの還元剤を、また重合停止剤として蓚酸ナトリウム、エチレンジアミンテトラアセテートナトリウム塩、重炭酸ナトリウムなどを用い、重合終了後は、重合体の水性分散液を濾別、洗浄、乾燥することにより、重合体を粉体として得ている。
【0004】
ところが、アクリロニトリル系重合体溶液は熱安定性が不十分であり、紡糸してアクリロニトリル系繊維を製造する際に、約80℃の温度で長時間加熱保持されると、黄着色が顕著になり、ゲル化して流動性が低下する傾向があった。このようなゲル化現象は、安定な紡糸の確保を困難とし、糸切れを生じ、高品質のアクリロニトリル系繊維の製造に大きな悪影響を及ぼす。特に、アクリロニトリル系繊維が炭素繊維プレカーサーであるときには、焼成工程での炭素化の際に毛羽が発生し、得られる炭素繊維の品質を低下させ、強度発現を阻害する。
【0005】
このような事情から、アクリロニトリル系重合体溶液の熱安定性を高め、そのゲル化を抑制・遅延するため、これまでいくつかの技術が開示されている。
例えば、アクリロニトリル系重合体溶液に酸や水分を添加する事により、該アクリロニトリル系重合体溶液のゲル化を抑制・遅延する方法が、特許文献1、2などにより提案されている。
また、アクリロニトリル系重合体の共重合成分としてカルボン酸基とスルホン酸基という酸性の官能基を導入したり、環化反応の開始剤または促進剤として機能するアルカリ成分を低濃度にしたりすることにより、該アクリロニトリル系重合体溶液のゲル化を抑制・遅延する方法が、例えば特許文献3、4により提案されている。
【特許文献1】特開平8−246230号公報
【特許文献2】特開平9−3722号公報
【特許文献3】特開平11−200140号公報
【特許文献4】特開平9−13220号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1〜4の技術は、アクリロニトリル系重合体溶液に酸や水分を添加したり、アクリロニトリル系重合体の共重合成分として酸性の官能基を導入したり、環化反応の開始剤または促進剤として機能するアルカリ成分を低濃度にしたりする方法であって、アクリロニトリル系重合体やアクリロニトリル系重合体溶液の組成に影響を与えてしまうという問題があった。アクリロニトリル系重合体やアクリロニトリル系重合体溶液の組成に影響を与えずに、アクリロニトリル系重合体溶液の熱安定性を高め、そのゲル化を抑制・遅延することは、品質や工程の安定化、コスト削減などの観点から特に重要である。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、アクリロニトリル系重合体やアクリロニトリル系重合体溶液の組成に影響を与えることなく、アクリロニトリル系重合体溶液の熱安定性を高め、そのゲル化を抑制・遅延する方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のアクリロニトリル系重合体粉体は、平均粒子径が50μm以下で、かつ粒子径80μm以上の粒子の割合が10体積%以下であることを特徴とする。
前記アクリロニトリル系重合体粉体は、分級されたものであることが好適である。
また、前記アクリロニトリル系重合体粉体は、析出重合で重合したものであることが好適である。
本発明のアクリロニトリル系重合体溶液は、前記アクリロニトリル系重合体粉体が溶媒に溶解したことを特徴とする。
本発明のアクリロニトリル系重合体粉体の製造方法は、水系の析出重合によりアクリロニトリル系重合体を製造する工程と、前記アクリロニトリル系重合体から、平均粒子径が50μm以下で、かつ粒子径80μm以上の粒子の割合が10体積%以下であるアクリロニトリル系重合体粉体を分級する工程とを有することを特徴とする。
本発明のアクリロニトリル系重合体溶液の製造方法は、水系の析出重合によりアクリロニトリル系重合体を製造する工程と、前記アクリロニトリル系重合体から、平均粒子径が50μm以下で、かつ粒子径80μm以上の粒子の割合が10体積%以下であるアクリロニトリル系重合体粉体を分級する工程と、前記アクリロニトリル系重合体粉体を溶媒に溶解させる工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アクリロニトリル系重合体やアクリロニトリル系重合体溶液の組成に影響を与えることなく、アクリロニトリル系重合体溶液の熱安定性を高め、そのゲル化を抑制・遅延することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のアクリロニトリル系重合体粉体は、アクリロニトリルの単独重合体であっても、アクリロニトリル以外の他の単量体を共重合成分とする共重合体であってもよいが、アクリロニトリルを80質量%以上含有する単独重合体または共重合体が好ましく、より好ましくはアクリロニトリルを90質量%以上含有する単独重合体または共重合体である。アクリロニトリルの含有量がこの範囲であると、紡糸して炭素繊維プレカーサーを製造し、焼成工程で炭素化して炭素繊維とした場合において、強度、弾性率、耐熱性などに優れた炭素繊維が得られる。
【0011】
アクリロニトリル以外の他の単量体としては、アクリロニトリルと共重合可能な単量体であればよく、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレートなどのアクリル酸アルキルエステル、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレートなどのメタクリル酸アルキルエステル、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、メタクロニトリル、酢酸ビニル、アクリルアミド、メタクリルアミド、スチレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、臭化ビニリデン、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸及びこれらの塩、4−ビニルピリジン、2−メチル−5−ビニルピリジン、2−エチル−5−ビニルピリジンなどのビニルピリジン、ビニルベンゼンスルホン酸ナトリウム、無水マレイン酸、N−置換マレイミド、ブタジエン、イソプレンなどが挙げられ、これらは単独で、または2以上組み合わせて用いられる。これらのなかでは、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸などのカルボン酸基を有する単量体を用いると、後に得られるアクリロニトリル系重合体溶液はより熱安定性が高まり、ゲル化の遅延効果が特に発揮されるものとなる。
【0012】
本発明のアクリロニトリル系重合体粉体は、平均粒子径が50μm以下で、かつ粒子径80μm以上の粒子の割合が10体積%以下である。好ましい平均粒子径は35μm以下であり、粒子径80μm以上の粒子の好ましい含有率は3体積%以下である。
ここで平均粒子径、または、粒子径80μm以上の粒子の割合の少なくとも一方が上記範囲を超えると、アクリロニトリル系重合体溶液のゲル化が促進され、ゲル化の抑制・遅延は困難となる。
粒子径は、例えばレーザー回折/散乱式による粒度分布測定など公知の方法を用いて測定することができる。また、本発明においてアクリロニトリル系重合体粉体の平均粒子径とは、体積平均粒子径のことを指し、粒度分布測定など公知の方法を用いて得られたアクリロニトリル系重合体の粒子径におけるメディアン値である。
【0013】
アクリロニトリル系重合体粉体の質量平均分子量は、10〜60万の範囲が好ましい。この範囲であると、アクリロニトリル系重合粉体の品質管理や工程管理などが容易となる。アクリロニトリル系共重合体粉体の質量平均分子量は、GPCなど公知の方法を用いて測定することができる。
【0014】
このようなアクリロニトリル系重合体粉体は、公知の重合方法によりアクリロニトリル系重合体を製造する工程と、得られたアクリロニトリル系重合体から、平均粒子径が50μm以下で、かつ粒子径80μm以上の粒子の割合が10体積%以下であるアクリロニトリル系重合体粉体を分級する工程により好適に製造される。
ここで重合方法としては、溶液重合、析出重合などが挙げられ、なかでも析出重合が好ましい。具体的には、レドックス触媒を用い、水を反応媒体とする水系の析出重合が好ましい。重合開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムなどの過酸化物が挙げられる。重合助剤としては、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸アンモニウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素アンモニウム、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸アンモニウム、亜ニチオン酸ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒドスルフォキシレート、L−アスコルビン酸、デキストローズなどが挙げられ、硫酸第一鉄または硫酸銅なども組合わされる。これらの好ましい組み合わせとしては、過硫酸アンモニウム−亜硫酸水素ナトリウムまたはアンモニウム−硫酸第一鉄の組み合わせが挙げられる。なお、重合された共重合体からは、未反応モノマーなどの不純物を除く処理をすることが望ましい。
【0015】
重合終了後は、アクリロニトリル系重合体の水性分散液を濾別、洗浄、乾燥することにより、重合体を粉体として得る。
そして、得られた粉体をサイクロンなどの分級装置に供し、平均粒子径が50μm以下で、かつ粒子径80μm以上の粒子の割合が10体積%以下であるアクリロニトリル系重合体粉体を分級して得る。
【0016】
本発明のアクリロニトリル系重合体溶液は、このようにして得られたアクリニトリル系重合体粉体を溶媒に溶解させる工程により製造される。アクリロニトリル系重合体溶液の溶媒としては、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミドなどの有機溶媒が好適に使用でき、例えばこれらのなかから1種以上を使用できる。なかでも特にN,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド系溶剤を用いたときには、後に得られるアクリロニトリル系重合体溶液はより熱安定性が高まり、ゲル化の遅延効果が特に発揮されるものとなる。
【0017】
アクリロニトリル系重合体溶液におけるアクリロニトリル系重合体粉体の濃度には特に制限はないが、特に、アクリロニトリル系重合体溶液がアクリロニトリル系繊維製造用重合体溶液である場合には、アクリロニトリル系重合体粉体の濃度が5〜35質量%であり、95〜65質量%が溶媒であることが好ましい(アクリロニトリル系重合体粉体と溶媒の合計で100質量%とする。)。アクリロニトリル系重合体粉体の濃度が5質量%未満では十分な紡糸性が確保できず、35質量%を超えると粘度が高くなりすぎ紡糸が困難となる。
また、アクリロニトリル系重合体を溶媒に溶解してアクリロニトリル系重合体溶液とする温度は特に限定されるものではないが、60〜120℃が好ましい。
【0018】
このようなアクリロニトリル系重合体溶液は、熱安定性に優れるために加熱状態下で長時間にわたり安定で、ゲル化が起こり難い。よって、加熱下でも糸切れの少ない安定な紡糸が可能であり、アクリロニトリル系繊維製造用重合体溶液として好適である。紡糸方法としては、湿式、乾式或いは乾湿式など公知の紡糸方法が挙げられる。
こうして得られたアクリロニトリル系繊維は高品質であって、例えば衣料、寝装具などの用途に好適に使用される他、炭素繊維プレカーサーとしても有用である。この炭素繊維プレカーサーを用いると、焼成工程での炭素化の際に毛羽の発生がなく、高強度、高品質の炭素繊維を得ることができる。
【0019】
平均粒子径が50μm以下で、かつ粒子径80μm以上の粒子の割合が10体積%以下であるアクリロニトリル系重合体粉体によれば、熱安定性に優れたアクリロニトリル系重合体溶液が得られる理由については、以下のように考えられる。すなわち、アクリロニトリル系重合体粉体の粒子径が異なればその分子構造も異なり、その結果、加熱状態下におけるゲル化の過程も異なることによると考えられる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
(粒度分布測定)
アクリロニトリル系重合体粉体の粒度分布測定には、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製、製品名:LA−910)を使用し、セルには循環式セルを使用し、分散媒にはイオン交換水を使用し、比屈折率は1.14−0.00iとした。なお、粒度分布測定によって求めたアクリロニトリル系重合体粉体の平均粒子径は、体積平均粒子径のメディアン値である。
(サイクロンによる分級)
アクリロニトリル系重合体粉体の分級には、遠心式風力分級機(日清エンジニアリング株式会社製、製品名:TC−25N)を使用し、圧縮空気は0.2MPaとし、アクリロニトリル系重合体の供給速度は15kg/hourとした。
(GPC測定による質量平均分子量測定)
アクリロニトリル系重合体粉体の質量平均分子量の測定には、質量平均分子量測定器(東ソー製、製品名:HLC−8220)を使用し、カラム(TOSHO製 製品名:Super HZM−H、4.6mm×15cm)を2本使用し、標準物質にはポリスチレンを使用し、溶離液には0.01mol/l−LiClのDMF溶液を使用し、カラムへの流量は1.0ml/minとし、アクリロニトリル系重合体粉体の濃度は0.001g/mlとし、注入量は20μlとして測定した。
(NMRによる組成測定)
アクリロニトリル系重合体粉体の組成は、NMR(バリアン・テクノロジーズ・ジャパン・リミテッド製 製品名:UNITY INOVA 500)を使用し、溶媒にはジメチルスルホキシド−d6を使用して化学シフトを測定し、化学シフトの積分比を組成比として求めた。
(動的粘弾性測定)
レオメーター(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン製、製品名:AR−550)を使用し、直径4mmで角度2°のコーンを使用し、動的粘弾性測定における測定温度は25℃とし、歪みは10%とした。
【0021】
(アクリロニトリル系重合体粉体A)
脱イオン交換水にアクリロニトリル、メタクリル酸,アクリルアミドを分散し、過硫酸アンモニウムと亜硫酸水素アンモニウムを開始剤として用いた水系の析出重合を行ない、その水性分散液を濾別、洗浄、乾燥することによりアクリロニトリル系重合体粉体Aを得た。
組成はアクリロニトリル96質量%、メタクリル酸1質量%、アクリルアミド3質量%の共重合体である。GPC測定で求めた質量平均分子量は54万であった。粒度分布測定で求めた平均粒子径は35μmであった。粒子径が80μm以上の粒子は3体積%であった。
(アクリロニトリル系重合体粉体B)
アクリロニトリル系重合体粉体Aを、回転数1600rpm、風量8.5m/min、供給速度15kg/hour、供給量19.15kg、圧縮空気圧0.2MPaとしてサイクロンにて分級したアクリロニトリル系重合体粉体(共重合体)である。組成はアクリロニトリル96質量%、メタクリル酸1質量%、アクリルアミド3質量%である。GPC測定で求めた質量平均分子量は54万であった。粒度分布測定で求めた平均粒子径は88μmであった。粒子径が80μm以上の粒子は55体積%であった。
(アクリロニトリル系重合体粉体C)
アクリロニトリル系重合体粉体Aから上記方法でアクリロニトリル系重合体粉体Bを除いて得られたアクリロニトリル系重合体粉体について、回転数3900rpm、風量8.0m/min、供給速度15kg/hour、供給量14.2kg、圧縮空気圧0.2MPaとしてサイクロンにて分級したアクリロニトリル系重合体粉体(共重合体)である。組成はアクリロニトリル96質量%、メタクリル酸1質量%、アクリルアミド3質量%である。GPC測定で求めた質量平均分子量は51万であった。粒度分布測定で求めた平均粒子径は10μmであった。粒子径が80μm以上の粒子は含まれていなかった。
(アクリロニトリル系重合体粉体D)
アクリロニトリル系重合体粉体Aから上記方法でアクリロニトリル系重合体粉体BおよびCを除いて得られたアクリロニトリル系重合体粉体(共重合体)である。組成はアクリロニトリル96質量%、メタクリル酸1質量%、アクリルアミド3質量%である。GPC測定で求めた質量平均分子量は54万であった。粒度分布測定で求めた平均粒子径は34μmであった。粒子径が80μm以上の粒子は1体積%であった。
(アクリロニトリル系重合体粉体E)
アクリロニトリル系重合体粉体Aを、回転数2250rpm、風量2.7m/min、供給量5.66kg、圧縮空気圧0.2MPaとしてサイクロンにて分級したアクリロニトリル系重合体粉体(共重合体)である。ただし供給速度は2kg/hourとした。組成はアクリロニトリル96質量%、メタクリル酸1質量%、アクリルアミド3質量%である。GPC測定で求めた質量平均分子量は54万であった。粒度分布測定で求めた平均粒子径は89μmであった。粒子径が80μm以上の粒子は46体積%であった。
(アクリロニトリル系重合体粉体F)
アクリロニトリル系重合体粉体Aから上記方法でアクリロニトリル系重合体粉体Eを除いて得られたアクリロニトリル系重合体粉体(共重合体)である。組成はアクリロニトリル96質量%、メタクリル酸1質量%、アクリルアミド3質量%である。GPC測定で求めた質量平均分子量は53万であった。粒度分布測定で求めた平均粒子径は34μmであった。粒子径が80μm以上の粒子は1体積%であった。
(有機溶剤E)
有機溶剤には、N,N−ジメチルアセトアミド(和光純薬株式会社製、特級)を使用した。
【0022】
[実施例1]
(試験1)
有機溶剤E39.4gを110mlのサンプル管に入れ、−10℃に設定された冷凍庫で冷却した。そして、アクリロニトリル系重合体粉体A10.6gをその冷却された有機溶剤Eの入ったサンプル管に投入し、サンプル管の蓋をして、サンプル管ごと1分間振り混ぜてスラリー状にした。そして、80℃に設定したウォーターバスにサンプル管ごとつけて、20分間静置してアクリロニトリル系重合体溶液を得た。このアクリロニトリル系重合体溶液の動的粘弾性測定における周波数1rad/secの複素粘性率の値は100Pa・secであった。
(試験2)
ウォーターバスでの静置時間を120分間とする以外は、試験1と同様にして複素粘性率を測定したところ、100Pa・secであった。
(試験3)
ウォーターバスでの精置時間を240分間とする以外は、試験1と同様にして複素粘性率を測定したところ、100Pa・secであった。
【0023】
[実施例2]
(試験1〜3)
アクリロニトリル系重合体粉体Aの代わりに、アクリロニトリル系重合体粉体Cを用いた以外は実施例1と同様にして、試験1〜3を行った。その結果、試験1〜3における複素粘性率はいずれも80Pa・secであった。
【0024】
[実施例3]
(試験1〜3)
アクリロニトリル系重合体粉体Aの代わりに、アクリロニトリル系重合体粉体Dを用いた以外は実施例1と同様にして、試験1〜3を行った。その結果、試験1〜3における複素粘性率は、いずれも95Pa・secであった。
【0025】
[実施例4]
(試験1〜3)
アクリロニトリル系重合体粉体Aの代わりに、アクリロニトリル系重合体粉体Fを用いた以外は実施例1と同様にして、試験1〜3を行った。その結果、試験1〜3における複素粘性率は、いずれも96Pa・secであった。
【0026】
[比較例1]
(試験1〜3)
アクリロニトリル系重合体粉体Aの代わりに、アクリロニトリル系重合体粉体Bを用いた以外は実施例1と同様にして、試験1〜3を行った。その結果、試験1〜3における複素粘性率は、それぞれ95Pa・sec、105Pa・sec、115Pa・secであった。
【0027】
[比較例2]
(試験1〜3)
アクリロニトリル系重合体粉体Aの代わりに、アクリロニトリル系重合体粉体Eを用いた以外は実施例1と同様にして、試験1〜3を行った。その結果、試験1〜3における複素粘性率は、それぞれ106Pa・sec、112Pa・sec、117Pa・secであった。
【0028】
実施例1〜4では、80℃での静置時間を240分間まで長くしてもアクリロニトリル系重合体溶液の1rad/secの複素粘性率の増加は認められなかった。よって、これらの例の溶液では、ゲル化は遅延・抑制され、熱安定性に優れていることが明らかとなった。
一方、比較例1〜2では、静置時間を長くするにしたがって複素粘性率が増加して溶液のゲル化が認められ、熱安定性の低下が明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明に係るアクリロニトリル系重合体粉体を溶媒に溶解した溶液によれば、加熱下でも糸切れの少ない安定な紡糸が可能であり、高品質なアクリロニトリル系繊維を得ることができる。また、このアクリロニトリル系繊維を炭素繊維プレカーサーとして用いると、焼成工程での炭素化の際に毛羽の発生が抑制され、高強度、高品質の炭素繊維を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が50μm以下で、かつ粒子径80μm以上の粒子の割合が10体積%以下であることを特徴とするアクリロニトリル系重合体粉体。
【請求項2】
分級されたものであることを特徴とする請求項1に記載のアクリロニトリル系重合体粉体。
【請求項3】
析出重合で重合したものであることを特徴とする請求項1または2に記載のアクリロニトリル系重合体粉体。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載のアクリロニトリル系重合体粉体が溶媒に溶解したことを特徴とするアクリロニトリル系重合体溶液。
【請求項5】
水系の析出重合によりアクリロニトリル系重合体を製造する工程と、
前記アクリロニトリル系重合体から、平均粒子径が50μm以下で、かつ粒子径80μm以上の粒子の割合が10体積%以下であるアクリロニトリル系重合体粉体を分級する工程とを有することを特徴とするアクリロニトリル系重合体粉体の製造方法。
【請求項6】
水系の析出重合によりアクリロニトリル系重合体を製造する工程と、
前記アクリロニトリル系重合体から、平均粒子径が50μm以下で、かつ粒子径80μm以上の粒子の割合が10体積%以下であるアクリロニトリル系重合体粉体を分級する工程と、
前記アクリロニトリル系重合体粉体を溶媒に溶解させる工程とを有することを特徴とするアクリロニトリル系重合体溶液の製造方法。

【公開番号】特開2009−275202(P2009−275202A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−130675(P2008−130675)
【出願日】平成20年5月19日(2008.5.19)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】