説明

アテローム性動脈硬化状態を治療するためのリコペン処方物

本発明は、アテローム性動脈硬化障害を治療する際の、両親媒性または脂肪親和性の抗酸化物質(例えば、リコペン)および溶解剤(例えば、乳漿タンパク質)を含む処方物の使用に関する。このような処方物を使用するアテローム性動脈硬化障害を治療するための方法および材料が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、アテローム性動脈硬化障害および心臓血管障害の治療に有用な化合物、特に脂質酸化アブザイム(lipid oxidising abzyme)の活性を阻害する化合物の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
脂質酸化は、循環リポタンパク質のアテローム発生性の高い因子への転換をもたらす主要なプロセスの1つである[Goto Y. (1982) supra, Halliwell B., and J.M.C. Gutteridge, (1989) supra, Schultz D., and Harrison D.G. (2000) supra]。脂質酸化の主要な原因は、アテローム性動脈硬化病変において、およびアテローム性動脈硬化状態を有する個体の血清において見出される触媒抗体またはアブザイムである(WO03/017992、WO03/019196およびWO03/019198を参照のこと)。これらのアブザイム(AtheroAbzymesTMとして公知)は、クラミジア感染および循環リポタンパク質との交差反応を受けて誘導されて、酸化されたアテローム発生性因子を生じさせる。AtheroAbzymesTMは、アテローム性動脈硬化症の進行での重要な病原因子であり、心臓血管状態およびアテローム性動脈硬化症に関連する状態に対して治療的に介入するための重要な標的である。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0003】
(発明の要旨)
驚くべきことに、アブザイム阻害活性をほとんど示さないか、または全く示さない化合物、特に両親媒性または脂肪親和性の抗酸化物質化合物を、水性溶媒中でそれらの化合物の溶解度を高めることによって(例えば、溶解剤と混合することによって)強力なアブザイム阻害剤に作り変えることができることが見出されている。本発明のある態様は、アテローム性動脈硬化状態の治療に有用な化合物を同定および/または得る方法を提供し、その方法は、
脂質酸化アブザイムを試験化合物および溶解剤を含む組成物と接触させる工程、ならびに
上記組成物によるアブザイム活性の阻害を決定する工程
を含む。
【0004】
アブザイム活性の阻害は、その化合物が、アテローム性動脈硬化状態(例えば、冠状動脈性心臓病(CHD))の治療に有用である可能性があることを示す。
試験化合物がアブザイム活性を阻害する能力は、溶解剤の存在によって向上する。上記試験化合物は、例えば、溶解剤がない場合は、アブザイム活性をほとんど阻害しない場合もあるし、または全く阻害しない場合もある。適切な試験化合物としては、非親水性の抗酸化物質(例えば、リコペンなどのカロテノイド)が挙げられる。適切な溶解剤としては、可溶タンパク質(例えば、乳タンパク質)が挙げられる。
【0005】
本発明の別の態様は、試験化合物が脂質酸化アブザイムを阻害する能力を向上させる方法を提供し、その方法は、
試験化合物を溶解剤と混合する工程
を含む。
【0006】
本発明の別の態様は、アテローム性動脈硬化状態の治療に使用するための組成物を製造する方法を提供し、その方法は、
非親水性の抗酸化剤(例えば、リコペンなどのカルチノイド)を溶解剤(例えば、乳タンパク質などの可溶タンパク質)と混合する工程
を含む。
【0007】
本発明の別の態様は、アテローム性動脈硬化状態を治療するための医薬の製造における、溶解剤および非親水性の抗酸化物質を含む組成物の使用を提供する。
本発明の別の態様は、アテローム性動脈硬化状態を治療するための、溶解剤および非親水性の抗酸化物質を含む組成物を提供する。
【0008】
本発明の別の態様は、アテローム性動脈硬化状態を治療する方法を提供し、その方法は、
溶解剤および非親水性の抗酸化物質を含む組成物を個体に投与する工程
を含む。
【0009】
本発明の別の態様は、アテローム性動脈硬化状態の治療に使用するための組成物を製造する方法を提供し、その方法は、
溶解剤と非親水性の抗酸化物質とを混合する工程
を含む。
【0010】
本明細書に記載された組成物を投与することを含む療法は、個体の血管系においてアブザイムが媒介する脂質酸化活性を低減し、それによってアテローム性動脈硬化状態の症状を改善(ameliorating)または緩和する(alleviating)効果を有することができる。
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の方法は、上記治療の前、治療の間および/または治療の後に、その個体から得たサンプルのアブザイムが媒介する脂質酸化活性を決定する工程をさらに含むことができる。
(表の詳細な説明)
【0011】
表1は、リコペンの種々の処方物のアブザイム阻害活性に対する効果を示す。
表2は、Rose-Blackburn質問票を示す。
表3は、冠状動脈性心臓病(CHD)患者のアブザイム媒介性脂質酸化活性のレベルおよび疾患重症度に対するラクトリコペンの効果を示す。
表4は、CHD患者のアブザイム媒介性脂質酸化活性のレベルおよび疾患重症度に対する異なるリコペン調製物(Lyc-O-MatoTM)の比較の効果を示す。
表5は、ラクトリコペン(INNEOV)またはLyc-O-MatoTMのいずれかを組み込んだパンおよびスコーンの食物マトリクスの脂質酸化アブザイムの活性に対する比較の効果を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(発明の詳細な説明)
アテローム性動脈硬化状態の治療において溶解剤との併用で有用である化合物は、脂質酸化アブザイムを、試験化合物および溶解剤を含む組成物と接触させる工程、およびその組成物によるアブザイム活性の阻害を決定する工程によって同定することができる。
脂質酸化アブザイム(またはAtheroAbzymeTM)は、脂質に結合してその酸化を触媒する触媒抗体(詳細にはIgG分子)である。脂質酸化アブザイムは、クラミジア感染を受けて個体で産生され得、そして脂質酸化アブザイムは、クラミジア細胞に結合するか、もしくはこれと反応し得る。すなわち、アブザイムは、クラミジア細胞の酸化を触媒し得る。
【0013】
脂質酸化アブザイムは、ヒトクラミジア肺炎病原体(Chlamydia pneumoniae)細胞またはオウム病クラミジア(Chlamydia psittaci)グループに属する種に由来するヒツジクラミジア細胞などのクラミジア細胞に結合し、これらを酸化する。クラミジアとしては、Chlamydia psittaciおよびChlamydia pneumoniaeが挙げられる。クラミジア細胞に結合し、これを酸化するアブザイムは、宿主リポタンパク質と交差反応を起こす場合があり、従って、強力なアテローム発生性の作用因子である。
【0014】
適切な脂質酸化アブザイムは、アテローム性動脈硬化病変またはアテローム性動脈硬化状態を有する個体の血清から得ることができる。あるいは、脂質酸化アブザイムは、従来の免疫学的技術を使用して得ることができる。いくつかの実施形態において、上記アブザイムは、単離された形態でもよいし、部分的に単離された形態でもよい。本方法での使用に適した脂質酸化抗クラミジアアブザイムを単離および/または得るための適切な方法は、当該分野で周知であり、WO03/017992、WO03/019196およびWO03/019198に記載されている。
【0015】
脂質酸化アブザイムの活性の測定は、以下により詳細に記載される。
試験化合物および溶解剤を含む組成物の存在下でのアブザイム活性を、比較用の反応培地および上記組成物のない条件下において、そして必要に応じて試験化合物単独の存在下においてのアブザイム活性と比較することができる。上記組成物がない状態および/または試験化合物単独が存在する状態と比較して、上記組成物の存在下において活性が低下することは、その試験化合物が溶解剤の存在下においてアブザイム活性の阻害剤であることを示す。
【0016】
本明細書に記載の使用に適切な溶解剤は、水溶液中に溶解可能である親水性化合物である。いくつかの実施形態において、上記溶解剤は、有機溶媒に不溶である場合がある。
適切な親水性溶解剤としては、可溶タンパク質(詳細には、カゼイン、β−ラクトグロブリン、α−ラクトアルブミンおよび血清アルブミンなどの乳タンパク質)が挙げられる。
好都合なことに、乳漿タンパク質を溶解剤として使用することができる。乳漿タンパク質は、乳汁において天然に見出される球状タンパク質の集合である。乳漿タンパク質は、チーズ製造の副産物である乳漿から単離される。乳漿タンパク質は、β−ラクトグロブリン(約65%)、α−ラクトアルブミン(約25%)および血清アルブミン(約8%)の混合物であり、これらはpHに依存して天然の形態で可溶性である。乳漿タンパク質は、多くの供給業者から市販されている(例えば、Euroserum, France)。
【0017】
適切な試験化合物は、任意の非親水性(すなわち、両親媒性または脂肪親和性)の小さな化学的実体または他の分子であり得る。適切な試験化合物は、例えば、組合せ化学を使用して、化合物集合および設計化合物から選択することができる。
適切な試験化合物としては、親水性部分と疎水性もしくは脂肪親和性の部分とを含み、水溶液中で自己集合性ミセル構造を形成する両親媒性(amphipathicまたはamphiphilic)化合物が挙げられる。このミセル構造の中で、上記疎水性部分は内側に配置され、かつ親水性部分もしくは極性部分は外側の表面に配置されて、極性水分子と相互作用する。
【0018】
特に適切な試験化合物としては、抗酸化物質が挙げられる。抗酸化物質は、例えば、フリーラジカルなどの酸化力のある種類のもの(oxidative species)を捕捉および無毒化し、それによってこれらの種類のものによって引き起こされる細胞損傷を制限することによって、生体中の酸化反応を阻害する。
いくつかの実施形態において、方法は、試験化合物の抗酸化物質活性を決定する工程およびその化合物を抗酸化物質として同定する工程を含むことができる。抗酸化物質活性は、適切な任意の生化学的試験系または生理物理学的試験系において決定することができる。
【0019】
適切な試験化合物としては、リコペンおよびそのアナログ、塩および誘導体などの非親水性抗酸化物質、リコペン以外のカルチノイド、ポリフェノール、フラボノイド、イソフラボン、クルクミノイド(curcuminoids)、セラミド、プロアントシアニジン、テルペノイド、ステロール、フィトステロール、ステロールエステル、トコトリエノール、スクアレンおよびレチノイド、または抗酸化活性を有するその塩、アナログもしくは誘導体を挙げることができる。
【0020】
化合物の塩は、その塩基がその化合物の生物学的有効性および特性を保持し、生理学的に許容可能な酸付加塩であってもよい。このような塩としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸と形成される塩、ならびに例えば、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、リンゴ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、桂皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、サリチル酸などの有機酸と形成される塩が挙げられる。
【0021】
いくつかの好ましい実施形態としては、上記試験化合物は、リコペン化合物、例えば、リコペンまたはリコペンと類似した生物学的特性を有するリコペンの誘導体である。リコペンは、構造Iの開鎖のC40不飽和カロテノイドであり(Chemical Abstracts Service Registry Number 502-65-8)、これは、例えば、トマト、グァバ、ローズヒップ、スイカおよびピンクグレープフルーツなどの植物において天然に存在する。
【0022】
【化1】

【0023】
本明細書に記載される使用のためのリコペンは、1以上の異なる異性体を含み得る。例えば、リコペンは、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%で(Z)−異性体、(全E(all-E))−異性体、またはシス−異性体(例えば、5−シス−異性体または9−シス−異性体または13−シス−異性体)を含むことができ、これらは、トランス異性体と比較して改善されたバイオアベイラビリティを有する。トランス異性体は、インビボで、または保管および処理の間に、シス形態の異性体に変化する場合もある。
【0024】
リコペンと類似した生物学的特性を有するリコペンの誘導体としては、例えば、レチン酸、合成アシクロ−レチン酸などのカロテノイド;または1−HO−3’,4’−ジデヒドロリコペン、3,1’−(HO)2−γ−カロテン、1,1’−(HO)2−3,4,3’,4’−テトラデヒドロリコペン、および1,1’−(HO)2−3,4−ジデヒドロリコペンを挙げることができる。
【0025】
本明細書に記載される使用のためのリコペン化合物は、天然のものであってもよい。すなわち、例えば、トマトまたはメロンなどの植物から抽出されるなど、天然の供給源から得ることができる。植物からリコペン化合物を抽出、濃縮および/または精製するための様々な方法が当該分野で公知である。例えば、エタノール、DMSO、酢酸エチル、ヘキサン、アセトン、ダイズ油もしくは他の植物油、または非植物油を使用する溶媒抽出を使用することができる。
【0026】
本明細書に記載される使用のためのリコペン化合物は、合成されたものでもよい。すなわち、人工的な手段によって(例えば、化学合成によって)製造することができる。リコペンおよび他のカロテノイドを化学合成するための様々な方法が、当該分野で公知である。例えば、カロテノイド合成についての標準的なWittigオレフィン化反応スキームに基づく3段階の化学合成を使用することができる。この合成においては、ジクロロメタン(DCM)中のC15ホスホニウムメタンスルホネートの有機溶液およびトルエン中のC10ジアルデヒドの有機溶液が製造され、そしてそれら2種の有機溶液を、ナトリウムメトキシド溶液と徐々に合わせ、濃縮反応を経て粗製のリコペンが形成される。次いで、粗製リコペンは、例えば、その混合物に氷酢酸および脱イオン水を添加し、激しく撹拌し、有機相と無機相とを分離させ、DMCおよび粗製リコペンを含有する有機層を水で抽出することによる、ルーチンな技術を用いて精製することができる。その有機相にメタノールを添加し、減圧下の蒸留を介してDCMを除去する。次いで、粗製メタノールリコペン溶液を加熱し、結晶スラリーになるまで冷却し、そのスラリーを濾過してメタノールで洗浄する。次いで、リコペンの結晶を再結晶させ、加熱窒素のもとで乾燥させることができる。合成リコペンは、商業的な供給業者からも利用可能である(例えば、BASF Corp, NJ USA)。
【0027】
合成リコペンは、天然リコペンと比較して、高い割合のシス異性体を含み得る。例えば、合成リコペンは、最大25%の5−シス異性体、1%の9−シス異性体、1%の13−シス異性体および3%の他のシス異性体であり得る一方、トマトによって産生されるリコペンは、3〜5%の5−シス異性体、0〜1%の9−シス異性体、1%の13−シス異性体および1%未満の他のシス異性体であり得る。シス−リコペンは、トランス−リコペンと比較してバイオアベイラビリティが高いので、いくつかの実施形態においては合成リコペンが好ましい。
【0028】
上記に記載されたリコペンの誘導体は、上記に記載された合成に対する化学合成アナログによって、または植物材料から抽出された天然リコペンの化学的改変によって製造することができる。
好ましい実施形態において、非親水性の抗酸化物質リコペンは、乳漿タンパク質と一緒に処方される。乳漿タンパク質とのリコペン処方物(「ラクトリコペン(lactolycopene)」といわれる)は、当該分野で公知であり(例えば、Richelle et al J. Nutr. 132:404-408, 2002 およびPCT/EP01/06145を参照のこと)、市販されている(INNEOV, L'Oreal (UK) Ltd, London)。ラクトリコペンは、これらの文書に記載される方法または本明細書に記載される方法によって得ることができる、または入手可能である。
【0029】
いくつかの好ましい実施形態において、溶解剤の非存在下においてアブザイム活性に対する効果を有さないか、または実質的に効果を有さないような試験化合物を同定することができる。
本発明の方法において使用するための組成物に組み入れることができる試験化合物の量は、通常は、使用される化合物の型に依存して試行錯誤して決定される。代表的には、約0.01〜100nM濃度(例えば、0.1〜10nM)の推定阻害剤化合物を使用することができる。
【0030】
上記組成物は、0.05〜50重量%の試験化合物および5〜90重量%の溶解剤を含むことができる。この溶解剤と試験化合物とは、1:1〜1000:1、好ましくは2:1〜250:1、より好ましくは約3:1〜20:1の重量比で存在することができる。
使用することができる試験化合物は、薬物スクリーニングプログラムで使用される天然化合物でも合成化学化合物でもよい。いくつかの特徴付けされた成分または特徴付けされていない成分を含有する植物の抽出物も使用することができる。
【0031】
上記溶解剤と上記抗酸化物質とは、組成物中に一緒に混合されてもよいし、その組成物内で直接的または間接的に結合されてもよい(例えば、結合体)。この溶解剤と抗酸化物質とは、例えば、標準的な化学的技術を使用した1以上の共有結合を介して共有結合によって連結されていてもよいし、または例えば、抗原/抗体結合を介した非共有結合によって連結されていてもよい。
例えば、組成物は、溶媒中に試験化合物を溶解して、その溶液と可溶タンパク質(例えば、乳タンパク質)(このタンパク質は、固体形態であっても水溶液であってもよい)を混合することによって調製することができる。
【0032】
上記試験化合物は、任意の薬学的に適合性のある溶媒に溶解することができる。この溶媒は、好ましくは、アセトン、エタノールまたはイソプロパノールである。可溶性タンパク質溶液が溶媒と混合される場合、60/40の順で溶媒/水の体積比が選択される。混合後、その混合物は、周囲温度よりもやや高い温度で30〜60分間静置することができる。次いで、その溶媒をエバポレートしてエマルジョン形態または分散形態の組成物を生成することができる。エバポレーションは、減圧(例えば、200〜300mbar)を使用して都合よく達成することができる。次いで、上記組成物は、例えば、粉末を生成するために乾燥させるか、またはゲルを生成するために熱処理することによって、さらに処理されてもよい。
【0033】
脂質酸化アブザイムの活性(脂質過酸化活性を含む)は、脂質の酸化を決定することによって決定することができる。上記脂質は、例えば、クラミジア細胞などの外来抗原に由来する脂質であってもよいし、または例えば、アッセイ方法の一部として添加することができる別の供給源に由来する脂質であってもよい。酸化生成物または副産物(例えば、共酸化結合レポーター分子(co-oxidised coupled reporter molecule))の蓄積を測定することができるし、あるいは非改変脂質もしくは補基質(例えば、酸素)などの基質の消失または消費を測定することもできる。脂質過酸化を決定するための多くの方法が当該分野で公知であり、例えば、CRC Handbook of Methods for Oxygen Radical Research, CRC Press, Boca Raton, Florida (1985), Oxygen Radicals in Biological Systems. Methods in Enzymology, v. 186, Academic Press, London (1990); Oxygen Radicals in Biological Systems. Methods in Enzymology, v. 234, Academic Press, San Diego, New York, Boston, London (1994);およびFree Radicals. A practical approach. IRL Press, Oxford, New York, Tokyo (1996)に記載されている。
【0034】
好ましい実施形態において、アブザイム脂質酸化活性は、脂質酸化生成物の生成(すなわち、その存在または量)を決定することによって、決定することができる。これらの脂質酸化生成物としては、マロンジアルデヒド(MDA)などのアルデヒド、(脂質)過酸化物、ジエン結合体または炭化水素ガスが挙げられる。脂質酸化生成物は、任意の適切な方法によって決定することができる。例えば、脂質過酸化生成物は、HPLC(Brown, R.K., and Kelly, F.J In: Free Radicals. A practical approach. IRL Press, Oxford, New York, Tokyo (1996), 119-131)、UV分光法(Kinter, M. Quantitative analysis of 4-hydroxy-2-nonenal. Ibid.133-145)、またはガスクロマトグラフィー−質量分析(Morrow, J.D., and Roberts, L.J. F2-Isoprostanes: prostaglandin-like products of lipid peroxidation. Ibid. 147-157)を使用して決定することができる。例えば、マロンジアルデヒド(MAD)の生成は、2−チオアルビツール酸(好都合には、1mM)と反応させ、適切な波長(例えば、525nm)において吸光度を測定することによって決定することができる。アブザイム活性の決定は、WO03/017992、WO03/019196およびWO03/019198においてより詳細に記載されている。
【0035】
アブザイム活性はまた、例えば、GB0503940.9に記載されるような免疫学的技術を使用して決定することもできる。
アブザイム活性の阻害は、ポジティブな試験因子(positively-testing agent)の非存在下においてアブザイムが脂質を酸化するような条件を使用して決定することができる。このような化合物は、例えば、アテローム性動脈硬化状態の治療において、脂質酸化アブザイムの機能を阻害する作用因子として使用することができる。
【0036】
アブザイム活性を阻害する能力を有する組成物は、1以上の2次スクリーニングを使用してさらに評価することができる。2次スクリーニングは、血管系のアブザイム活性について、または例えば、動物モデルにおいてアブザイムの生物学的機能について試験することを含むことができる。2次スクリーニングで評価することができる適切な生物学的機能としては、アテローム性動脈硬化病変のサイズもしくは数の低下、またはアテローム性動脈硬化障害の他の症状もしくは作用(例えば、血圧)の低下が挙げられる。
【0037】
本発明の方法は、試験化合物と溶解剤とを含む組成物を、アブザイム活性を阻害する組成物として同定する工程を含むことができる。
この同定される組成物は、合成されたものでも製造されたものでもよい。必要に応じて、本明細書に記載されるアブザイム阻害剤として同定される組成物は、活性を最適化するために、または他の有益な特徴(例えば、個体に投与した際の半減期の延長、または副作用の低下)を提供するために改変することができる。リード化合物を改変するための技術およびストラテジーは、当該分野で周知である。
【0038】
本明細書に記載のリコペン化合物(例えば、リコペン)および溶解剤(例えば、乳漿タンパク質)を含む組成物は、ヒトまたは動物の身体の治療に使用することができ、より詳細には、アテローム性動脈硬化状態の治療に使用することができる。
このような組成物は、アテローム性動脈硬化状態の処理に使用するための医薬を製造するために使用することができる。
アテローム性動脈硬化状態の治療の方法は、リコペン化合物(例えば、リコペン)と溶解剤(例えば、乳漿タンパク質)とを含む組成物を、その必要がある個体に投与する工程を含み得る。
【0039】
アテローム性動脈硬化状態としては、アテローム性動脈硬化症および/または1以上のその臨床的な合併症もしくは関連する心臓血管状態(例えば、脂質異常症);虚血性(冠状動脈)心臓病;心筋虚血(アンギナ);心筋梗塞;動脈瘤(aneurismal disease);アテローム性末梢血管疾患(atheromatous peripheral vascular disease);大動脈腸骨動脈疾患;慢性および重症性の下肢虚血;内臓虚血;腎動脈疾患;脳血管疾患;脳卒中;アテローム性動脈硬化網膜症;超凝血性障害(hypercoagulative disorder);血栓症および異常な血液凝固;ならびに高血圧が挙げられる。このような状態が、病状または獣医学的状態(medical or veterinary condition)であり得る。
【0040】
本発明の方法の被験体となり得る個体としては、ヒトおよび非ヒト動物が挙げられ、非ヒト動物としては、イヌ、ネコ、ウマおよびオウムなどの家庭用動物(domestic animal)、ヒツジおよびウシなどの家畜(farm animal)、ならびにゾウおよびトラなどのまれな(rare or exotic)動物を挙げることができる。本明細書において「ヒト」への言及は、特定の文脈がそうでないことを規定する場合を除いて「非ヒト動物」を含むと理解されるべきである。
治療または療法は、被験体においてアテローム性動脈硬化状態の重症度を緩和することが意図される本発明に従う化合物の全ての投与をいい、その疾患の治癒を意図した治療、その疾患の症状の軽減を提供することが意図される治療、ならびに疾患を発症するリスクがある個体もしくは疾患の発症を示す症状を有している個体において、その疾患の進行もしくは発症を予防または停止することが意図される治療を包含する。
【0041】
本明細書において同定される組成物は、以下に記載されるような薬学的に許容可能な賦形剤と共に処方することができる。そのような組成物を、個体に投与することができる。
組成物は、任意の適切な経路および投与手段に対して処方することができる。薬学的に許容可能な担体または希釈剤としては、経口、直腸、鼻、局所(頬側および舌下を含む)、膣または非経口(皮下、筋肉内、静脈内、皮内、髄腔内および硬膜外を含む)への投与に適した処方物において使用されるものが挙げられる。これらの処方物は、単位剤形で好適に存在してもよいし、製剤学の分野で周知の任意の方法によって調製することもできる。そのような方法は、活性成分と1以上の補助的成分を構成する担体との会合(association)をもたらす工程を含む。一般的には、上記処方物は、活性成分と、液体担体もしくは微粉化した固体担体またはこれらの両方との、均質かつ直接的な会合をもたらし、次いで、必要によりその生成物を形成することによって調製される。
【0042】
固体組成物のための、従来の非毒性の固体担体としては、例えば、医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、セルロース、セルロース誘導体、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルク、グルコース、スクロース、炭酸マグネシウムが挙げられ、同様のものを使用することができる。上記に規定される活性化合物は、例えば、ポリアルキレングリコール、アセチル化トリグリセリドなどを担体として使用して、坐剤として処方することができる。液体の薬学的に投与可能な組成物は、例えば、上記に規定される活性化合物と、担体中の任意の薬学的アジュバント(例えば、水、生理食塩水に可溶なデキストロース(saline aqueous dextrose)、グリセロール、エタノールなど)とを溶解、分散するなどして、溶液または懸濁液を形成することによって調製することができる。所望の場合、投与される医薬組成物は、湿潤剤もしくは乳化剤、pH緩衝剤などの微量の非毒性の補助物質(例えば、酢酸ナトリウム、モノラウリン酸ソルビタン、トリエタノールアミンナトリウムアセテート、モノラウリン酸ソルビタン、オレイン酸トリエタノールアミンなど)を含むことができる。このような剤形を調製する実際の方法は、公知であるか、またはこの分野の当業者に明らかである。例えば、「Remington: The Science and Practice of Pharmacy」、20th Edition, 2000, pub. Lippincott, Williams & Wilkinsを参照のこと。投与される組成物または処方物は、いずれにしても、治療される被験体の症状を緩和するのに有効な量で活性化合物を含む。0.25〜50%の範囲で活性成分を含む剤形または組成物は、溶解剤と非毒性担体とからなるバランスが保たれるように、調製することができる。
【0043】
経口投与のために、薬学的に許容可能な非毒性組成物は、通常使用される賦形剤のいずれかを組み入れることによって形成される。これらの賦形剤は、例えば、医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、セルロース、セルロース誘導体、クロスカルメロースナトリウム、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、ナトリウムサッカリン、タルク、グルコース、スクロース、マグネシウム、カーボネートなどである。このような組成物は、溶液、懸濁液、錠剤、丸剤、カプセル、粉剤、持続放出処方物などの形態をとる。このような組成物は、1〜50%の活性成分、より好ましくは2〜50%、最も好ましくは5〜8%の活性成分を含むことができる。
【0044】
非経口投与は、一般的に、皮下、筋肉内、または静脈内のいずれかへの注射によって特徴付けられる。注射物質は、液体溶液もしくは懸濁液、注射前の液体中の溶液もしくは懸濁液に適した固体形態として、またはエマルジョンとして、従来の形態で調製することができる。適切な賦形剤は、例えば、水、食塩水、ブドウ糖、グリセロール、エタノールなどである。さらに、所望の場合、投与される医薬組成物はまた、湿潤剤もしくは乳化剤、pH緩衝剤などの微量の非毒性の補助物質(例えば、酢酸ナトリウム、モノラウリン酸ソルビタン、オレイン酸トリエタノールアミン、トリエタノールアミンナトリウムアセテートなど)を含むことができる。
【0045】
非経口投与のためのより最近の工夫されたアプローチは、徐放(slow-release)システムまたは持続放出(sustained-release)システムの移植を使用して、一定レベルの投薬量が維持されるものである(例えば、米国特許第3,710,795号を参照。)。
このような非経口組成物に含有される活性化合物のパーセンテージは、その特異的な性質、ならびに化合物の活性および被験体の要求に高く依存する。しかし、溶液中で0.1%〜10%という活性成分のパーセンテージを使用することができ、その組成物がその後に上記のパーセンテージに希釈される固体である場合、その値はより高くなる。
【0046】
投与される化合物またはその塩の有効量は、最終的には、特定の被験体(例えば、ヒト患者または動物モデル)の疾患の重症度およびその被験体の全体的な状態を考慮して、医師が判断する。適切な用量範囲は、代表的には、0.01〜20mg/kg/日であり、好ましくは0.1〜10mg/kg/日である。
例えば、一日に1回または2回、週に2回、週に1回、または月に1回の適切な間隔で、反復投与を行うこともできる。
【0047】
アテローム性動脈硬化状態を治療するための、非親水性の抗酸化物質(例えば、リコペン)および溶解剤(例えば、乳漿タンパク質)の処方物を、食品に含めることができる。上記処方物は、例えば、パン、シリアル、ビスケット、バター、スプレッド(例えば、マーガリン)、チーズ、ヨーグルト、飲料またはペットフード(例えば、缶詰のキャットフードもしくはドッグフード、または乾燥したキャットフードもしくはドッグフード)に含めることができる。他の適切な食品は、当業者に自明である。
【0048】
この処方物は、調理(例えば、焼くこと)の前に食品の成分と混合してもよいし、および/または調理の後に食品に添加されてもよい。本明細書に記載される結果は、食物の質を損なうことなく処方物を食品に組み込むことが可能であり、調理された後も食品中で活性なままであることを示す。
好ましくは、上記食品中に含まれるリコペン化合物は、異種のリコペン化合物である。例えば、このリコペン化合物は、上記に記載されたような合成リコペン化合物であってもよいし、その食品中に天然には存在しない天然のリコペン化合物であってもよい。例えば、果実または野菜に由来するリコペン化合物を、パンまたはシリアルの中に組み入れることができる。
【0049】
従って、本発明のさらなる態様は、アテローム性動脈硬化状態を治療するためのリコペン化合物を含む食品であり、この食品において、上記リコペン化合物はその食品中に天然には存在しない。
アテローム性動脈硬化状態を治療またはその発症を遅延もしくは予防するための食品を生産する方法もまた提供される。この方法は、
(i)食品成分を提供する工程、
(ii)リコペン化合物を上記成分と混合する工程、
(iii)上記成分および上記リコペン化合物を食品に処方する工程
を含む。
【0050】
食品の成分は、主要な食料品(例えば、小麦粉、肉、卵、ゼラチン、ミルク、塩)、保存剤、および食品を製造するために使用される水である。本発明の方法に従って使用するための適切な食品成分は、当業者に周知である。
本発明の種々のさらなる態様および実施形態は、本開示に照らして当業者に自明である。
本明細書において言及される全ての文書は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0051】
本発明の特定の態様および実施形態は、実施例と以下に記載の表を参照することにより例示される。
【実施例】
【0052】
実験
<臨床材料>
Centre of Cardio-Vascular Surgery of the Medical University of Rostov-na-Donu, Russian Federationにおいて、腹の大動脈狭窄のバイパス手術の間に、2人の男性患者(53歳および64歳)から回収したヒト大動脈の進行したアテローム性動脈硬化病変から、抗体を抽出した。回収後、これらのサンプルを、NaClの30% w/v溶液に直ちに入れ、検査の前に1時間0〜4℃で保存した。コントロール実験において、この期間の間、トリプシン、カタラーゼ、スーパーオキシドジムスターゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ、クレアチンキナーゼおよび乳酸デヒドロゲナーゼなどの酵素の活性は、免疫グロブリン(IgG)分断のレベルおよび脂質過酸化の程度と合わせて、顕著には変化しなかったことが示された。
【0053】
大動脈の断片(湿重量でおよそ200〜400mg)を、各々およそ10mgの断片に切り分け、1%の非イオン性界面活性剤Igepal CA−630を含む5.0mlのPBSに入れ、機械式ホモジナイザー(Ultra-Turrax)によってホモジナイズした(フルパワー、15mmプローブ使用、3回×3秒(各々20秒の冷却間隔を置いた))。ホモジナイズの後、5000gで10分間遠心分離することによって不溶成分を分離し、分析には上清を使用した。
【0054】
<アブザイム富化IgGの抽出>
4人の異なる患者から得た腹部大動脈の病変の2つの断片から、別々に抗体を抽出して分離した。
最初の工程として、架橋された4%ビーズアガロースに結合したプロテインAを用いて、37℃で30分間上清を処理した。その後、ビーズに結合した免疫グロブリンフラクションを、スピンダウンした(5000g、10分間)。その上清をデカンテーションで除いた。沈殿した免疫グロブリンに結合した全てのリポタンパク質を除去するために、このサンプルを10%のIgepal CA−630に再び懸濁した。次いで、そのサンプルを5000gで10分間遠心分離し、上清をデカンテーションで除去した。その後、界面活性剤を除去するために、過剰量のリン酸緩衝液中で、同じ過程の遠心分離によって3回の洗浄を行った。免疫グロブリンフラクションからリポタンパク質が除去されたことは、このフラクションにコレステロールが存在しないことによって確認した。
【0055】
<抗アブザイム活性の試験>
ヒト血清のサンプルを、異なる濃度のリコペン、リコペン/乳タンパク質結合体または単独(コントロールサンプル)で、アテローム抽出のIgGを存在させた状態でインキュベートした(16時間、37℃、pH5.6)。脂質過酸化のレベルを、MDA濃縮のレベルとして評価した。MAD濃縮は、分光学的な方法によって測定した[Draper, H.H. et al Free Radic. Biol. Med. (1993) 15, 353]。この方法は、マロンジアルデヒドがチオバルビツール酸と反応したときに着色生成物が形成されることに基づいている。簡潔にいうと、サンプル中のアブザイムのレベルは、以下のように決定した:血清のサンプルを0.05M酢酸緩衝液(pH4.0)によって1:1に希釈して、これらのサンプルの最終的なpHが5.6〜5.8の間になるようにした。市販の生ヒツジクラミジアワクチン(Intervet)10μlと990μlの希釈血清を混合した。一晩(12〜16時間)、37℃でサンプルをインキュベートした。250μlの40%三塩化酢酸および250μlの1mM 2−チオバルビツール酸を、各サンプルに添加した。全てのサンプルを水浴に配置して、30分間ボイルした。サンプルを冷却し、3000gで10分間遠心分離した。上清を回収し、それらの吸光度をλ525nmで測定してマロンジアルデヒド(MDA)の濃度を決定した。MDAは、脂質過酸化生成物である。
【0056】
<ELISAベースのアブザイムアッセイ>
Medacの材料および試薬を用いて(これらは、製造業者の指示に従って使用した)、ELISAアッセイを行った。
簡潔にいうと、患者からの血清サンプルを上記のとおりに処理した。50μlのサンプル希釈液を、ブランクとしてマイクロタイターウェルA1にピペットで移し、50μlのネガティブコントロール、ポジティブコントロール、および希釈した患者のサンプルを他のマイクロタイターウェルにピペットで移した。加湿チャンバー内で60分間(±5分)、37℃(±1℃)で、このマイクロプレートウェルをインキュベートし、次いで、1ウェルあたり200μlの洗浄緩衝液で、3回ウェルを洗浄した。次いで、50μlの結合体を各ウェルに添加し、加湿チャンバー内でこのマイクロプレートウェルを再度60分間(±5分)、37℃(±1℃)でインキュベートし、次いで洗浄した。各ウェルに50μlのTMB基質を添加して、加湿チャンバー内で30分間(±2分)、37℃(±1℃)で、このマイクロプレートウェルをインキュベートした。各ウェルに100μlの停止溶液を添加することによって、反応を停止させた。
停止溶液を添加した後15分以内に、450nmで分光測定を行った(620〜650nm参照)。
【0057】
これらの結果を計算するために、ブランク(ウェルA1)のOD値を全ての他のOD値から引いた。好ましいことに、ブランクのOD値は0.150未満であり、ネガティブコントロールの平均OD値は0.100未満であり、ポジティブコントロールのOD値は0.800を超えていた。カットオフ=ネガティブコントロールの平均OD値+0.380.グレーゾーン=カットオフ±10%。
【0058】
<リコペン調製>
リコペン−乳タンパク質組成物の調製は、US 2002 0107292に記載の通りであった。簡潔にいうと、13.3kgの乳漿タンパク質単離物を330lの脱塩水に溶解し、その混合物を6時間25〜30℃で撹拌した。これとは別に、6%のリコペンを含む550gのLycoredTMオレオレジン(LycoRed Corp NJ USA)を438lのアセトンと混合して、その混合物を撹拌した。
次いで、2つの溶液を60分間30℃で混合した。最終混合物を穏やかに加熱し、中圧でアセトンを除いた(driven off)。最後に、40〜50mbarの圧力で水を部分的に除いた。200kgの乳漿タンパク質単離物およびオレオジンの水溶液を得て、次いで、これをスプレー乾燥した。
【0059】
<Rose-Blackburn質問票>
Rose-Blackburn質問票は、アンギナの重症度を評価するためのツールである。疾患の重症度に相関する一連の7つの重要な主観的判定基準および客観的判定基準を評価し、数値スコアに変換する。
各判定基準は、その患者が関連性の症状を有する場合、1〜4のスコアを与え、そのような症状を有さない場合、0のスコアを与える。
全ての7つの症状についてのスコアの合計が、その患者のRose-Blackburnスコアを提供する。最大スコアは28である。
この研究において治療された患者のうち2人は重篤なアンギアを有しており、質問票上の各症状についての平均スコアは3であった;他の患者の重症度はこの二人よりは低く、平均スコアは2以下であった。
【0060】
結果
<インビトロアッセイ>
上記に記載のように、アブザイム阻害活性についてリコペン調製物を評価し、結果を表1に示す。
ELISAアッセイおよび脂質酸化アッセイの両方において、リコペン(L9879: Sigma)は、アブザイム阻害剤としては有効でないことを見出した。リコペンと乳タンパク質との両方を含む組成物(ラクトリコペン調製物:INNEOV)は、アブザイム活性の極めて強力な阻害剤であることが見出された。
リコペン抽出物Lyc-O-MatoTM (LycoRed Corp NJ USA)もまた、アブザイム活性を阻害することが見出されたが、そのID50は、ラクトリコペンよりも3.5倍高かった。
【0061】
<臨床試験>
冠状動脈性心臓病(CHD)の治療のためのパイロット臨床試験において、2種のリコペン調製物(ラクトリコペンおよびLyc-O-MatoTM)の効果を評価した。
全部で17人のAtheroAbzymeTM陽性のCHD患者(45〜60歳)を、この試験のために選んだ。第1のグループ(女性患者7人、男性患者7人を含む)において、2〜3つのラクトリコペンの糖衣錠(dragee)(4〜6mgのリコペンを提供する)を食物と一緒に一日一回投与した。
第2のグループ(女性患者1人、男性患者2人を含む)において、1カプセルのLyc-O-MatoTM(15mgのリコペンを提供する)を食物と一緒に一日一回投与した。各グループの治療は、2ヶ月間続けた。
【0062】
治療を開始する前に、疾患の重症度の測定を提供するために、Rose-Blackburn質問票に記入するように患者に求めた(表2)。この質問票は、2ヶ月後にも繰り返して行い、AtheroAbzymeTM活性も測定した。
ラクトリコペン/INNEOVによる治療の2ヶ月後、活性は、14人全ての患者においてAtheroAbzymeTM活性は、検出できないレベルまで低下した(表3)。これら14人の患者のうちの13人は、Rose-Blackburn質問票に対するスコアが25%減少することによって測定される臨床的な改善を示した。
第2のグループの患者において、Lyc-O-MatoTMを2ヶ月投与すると、AtheroAbzymeTMのレベルは低下したが、依然としてAtheroAbzymeTMは、検出可能なレベルであった(表4)。これらの患者の臨床状態も、わずかには改善したが、第1のグループよりも改善の程度は低いものであった(Rose-Blackburn質問票のスコアで9%)。
このパイロット臨床試験の結果から、ラクトリコペン調製物は、インビボでのアブザイム阻害だけでなく、CHD患者の状態の改善においても有効であることが実証された。
【0063】
<リコペンの食物マトリクスへの組み込み>
<パンへの組み込み>
パン1個(one loaf of bread)に対するレシピは以下の通りであった:
イースト 小さじ3/4杯、強力粉 − 400g、砂糖 − 小さじ1杯、バター − 15g、粉乳 − 小さじ1杯、塩 − 小さじ1杯、水 − 280ml(ラクトリコペン(LL)(INNEOV)糖衣錠、またはLyc-O-MatoTMカプセルを溶解した)。
7個のパンを焼いた:1個はリコペン調製物を含まず(コントロール)、2番目のものは5個のLL糖衣錠を含み、3番目のものは10個のLL糖衣錠を含み、4番目のものは20個のLL糖衣錠を含み、5番目のもの、6番目のもの、および7番目のものは、Lyc-O-MatoTM(LM)カプセル由来のリコペンを、LLを含むパンの量と等しい量で含んだ。
【0064】
<試験>
これらのパンを知らずに試験された(tested blind-folded)5人のボランティアは、これらのパン4つ全ての間で、口当たりまたは風味に差を認めなかった。さらに、これらのパンが脂質酸化アブザイムの活性を阻害する能力を試験した。この試験は、AtheroAbzymeTMELISAキット(CTL, UK)を使用して、製造業者の指示に記載されるプロトコルに従って行った。ラクトリコペンを含むパンは、顕著な抗アブザイム活性を示したが、Lyc-O-MatoTM(LM)を含むパンまたはコントロールのパンは示さなかった(表5)。
【0065】
<スコーンへの組み込み>
1焼き分の4つのスコーン(a batch of four scones)に対するレシピは以下の通りであった:
ふくらし粉 175g、ベーキングパウダー − 小さじ1杯、食塩ひとつまみ、グラニュー糖 − 20g、無塩バター − 37g、ミルク 90ml(INEOV糖衣錠の形態のLLを溶解する)。7焼き分のスコーンを焼いた:1個はリコペン調製物を含まず(コントロール)、2番目のものはスコーン1個あたり0.5個のLL糖衣錠を含み、3番目のものはスコーン1個あたり1個のLL糖衣錠を含み、4番目のものはスコーン1個あたり2個のLL糖衣錠を含み、5番目のもの、6番目のもの、および7番目のものは、Lyc-O-MatoTMカプセル由来のリコペンを、LLを含むスコーンの量と等しい量で含んだ。
【0066】
<試験>
これらのスコーンを知らずに試験された5人のボランティアは、これらの4焼き分の全てのスコーンの間で口当たりまたは風味に差を認めなかった。さらに、これらのスコーンが脂質酸化アブザイムの活性を阻害する能力を試験した。この試験は、AtheroAbzymeTMELISAキット(CTL, UK)を使用して、製造業者の指示に記載されるプロトコルに従って行った。ラクトリコペンを含むスコーンは、顕著な抗アブザイム活性を示したが、Lyc-O-MatoTM(LM)を含むスコーンまたはコントロールのスコーンは示さなかった(表5)。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
【表3】

【0070】
【表4】

【0071】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アテローム性動脈硬化状態を治療する方法であって、溶解剤および非親水性の抗酸化物質をその必要がある個体に投与する工程を含む、前記方法。
【請求項2】
前記抗酸化物質がリコペン化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記リコペン化合物がリコペンである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記溶解剤が、1以上の親水性ポリペプチドを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記溶解剤が、1以上の乳タンパク質を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項6】
前記1以上の乳タンパク質が、β−ラクトグロビン、α−ラクトアルブミンおよび血清アルブミンを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記溶解剤が乳漿タンパク質である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記溶解剤および非親水性の抗酸化物質が、食品に含まれる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記食品が、パン、シリアル、ビスケット、バター、スプレッド、チーズ、ヨーグルト、ペットフードまたは飲料である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
アテローム性動脈硬化状態の治療に使用するための、溶解剤および非親水性の抗酸化物質を含む組成物。
【請求項11】
前記抗酸化物質がリコペン化合物である、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記リコペン化合物がリコペンである、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記溶解剤が、1以上の親水性ポリペプチドを含む、請求項10〜12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
前記溶解剤が、1以上の乳タンパク質を含む、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記溶解剤が、β−ラクトグロブリン、α−ラクトアルブミンおよび血清アルブミンを含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記溶解剤が乳漿タンパク質である、請求項15に記載の方法、組成物または使用。
【請求項17】
食品中に含まれる、請求項10〜16のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項18】
前記食品が、パン、シリアル、ビスケット、バター、スプレッド、チーズ、ヨーグルトまたは飲料である、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
アテローム性動脈硬化状態を治療するための医薬の製造における、溶解剤および非親水性の抗酸化物質を含む組成物の使用。
【請求項20】
前記抗酸化物質がリコペン化合物である、請求項19に記載の使用。
【請求項21】
前記リコペン化合物がリコペンである、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
前記溶解剤が、1以上の親水性ポリペプチドを含む、請求項19〜21のいずれか1項に記載の使用。
【請求項23】
前記溶解剤が、1以上の乳タンパク質を含む、請求項22に記載の使用。
【請求項24】
前記溶解剤が、β−ラクトグロブリン、α−ラクトアルブミンおよび血清アルブミンを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記溶解剤が乳漿タンパク質である、請求項24に記載の使用。
【請求項26】
前記組成物が、食品中に含まれる、請求項19〜25のいずれか1項に記載の使用。
【請求項27】
前記食品が、パン、シリアル、ビスケット、バター、スプレッド、チーズ、ヨーグルト、ペットフードまたは飲料である、請求項26に記載の使用。
【請求項28】
アテローム性動脈硬化状態の治療に使用するための組成物の製造方法であって、
非親水性の抗酸化物質を溶解剤と混合する工程
を含む、前記方法。
【請求項29】
前記試験化合物が非親水性の抗酸化物質である、請求項27または28に記載の方法。
【請求項30】
前記抗酸化物質がリコペン化合物である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記抗酸化物質がリコペンである、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記溶解剤が、1以上の親水性ポリペプチドを含む、請求項27〜31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記溶解剤が、1以上の乳タンパク質を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記1以上の乳タンパク質が、β−ラクトグロブリン、α−ラクトアルブミンおよび血清アルブミンを含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記溶解剤が乳漿タンパク質である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
脂質酸化アブザイムを阻害する組成物を同定および/または得る方法であって、
脂質酸化アブザイムを試験化合物および溶解剤を含む組成物と接触させる工程、並びに
前記組成物によるアブザイム活性の阻害を決定する工程
を含む、前記方法。
【請求項37】
アブザイム活性の阻害が、アテローム性動脈硬化状態の治療に有用な組成物であることを示す、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
脂質酸化アブザイムを試験化合物と接触させる工程、および
前記組成物によるアブザイム活性の阻害を決定する工程を含む、請求項36または37に記載の方法。
【請求項39】
前記試験化合物は、溶解剤の非存在下においてアブザイム活性を阻害しない、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記試験化合物を溶解剤と処方して前記組成物を製造する工程を含む、請求項36〜39のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
前記試験化合物が、非親水性の抗酸化物質である、請求項36〜40のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
前記試験化合物が、カルチノイド、ポリフェノール、フラボノイド、イソフラボン、クルクミノイド、セラミド、プロアントシアニジン、テルペノイド、ステロール、フィトステロール、ステロールエステル、トコトリエノール、スクアレンおよびレチノイドからなる群より選択される、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記試験化合物が、リコペン、レチン酸、合成アシクロ−レチン酸;または1−HO−3’,4’−ジデヒドロリコペン、3,1’−(HO)2−γ−カロテン、1,1’−(HO)2−3,4,3’,4’−テトラデヒドロリコペン、および1,1’−(HO)2−3,4−ジデヒドロリコペンからなる群より選択される、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記溶解剤が、1以上の親水性ポリペプチドを含む、前記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
前記溶解剤が、1以上の乳タンパク質を含む、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記1以上の乳タンパク質が、β−ラクトグロブリン、α−ラクトアルブミンおよび血清アルブミンを含む、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記溶解剤が乳漿タンパク質である、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
脂質酸化アブザイムの阻害剤としての組成物を同定する工程を含む、請求項36〜47のいずれか1項に記載の方法。
【請求項49】
非親水性の抗酸化物質が脂質酸化アブザイムを阻害する能力を向上させる方法であって、
前記試験化合物を溶解剤と混合して組成物を製造する工程
を含む、前記方法。
【請求項50】
前記抗酸化物質がリコペン化合物である、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記リコペン化合物がリコペンである、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記溶解剤が、1以上の親水性ポリペプチドを含む、請求項49〜51のいずれか1項に記載の方法。
【請求項53】
前記溶解剤が、1以上の乳タンパク質を含む、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記溶解剤が、β−ラクトグロブリン、α−ラクトアルブミンおよび血清アルブミンを含む、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記溶解剤が乳漿タンパク質である、請求項54に記載の方法。

【公表番号】特表2009−505952(P2009−505952A)
【公表日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−522043(P2008−522043)
【出願日】平成18年7月14日(2006.7.14)
【国際出願番号】PCT/GB2006/002629
【国際公開番号】WO2007/010216
【国際公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(508018185)ケンブリッジ テラノスティックス リミテッド (1)
【Fターム(参考)】