説明

アペリン組成物によって血管新生を調節するための方法

アペリン/APJシグナル伝達経路を阻害する組成物によって血管新生又は腫瘍形成を阻害する新規方法を提供する。また、アペリンポリペプチド又は低分子アゴニストを含有する組成物によって血管新生又は腫瘍形成を促進する方法も提供する。本発明はさらに、血管新生に影響を及ぼす治療薬を特定するための方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(本発明の背景)
本発明の分野
本発明は、一般に血管新生、腫瘍形成及び/又は血管透過性を調節するための方法に関する。
【0002】
特に、本発明は、様々な血管新生関連疾患又は状態に罹患している患者を治療するための、アペリン/APJシグナル伝達経路に影響を及ぼす組成物の使用のための方法に関する。
【0003】
背景技術
正常な生理的条件下では、ヒト及び動物は非常に特殊な状況においてのみ血管新生を受ける。例えば、血管新生は通常、創傷治癒、胎児及び胚発生、及び黄体、子宮内膜及び胎盤の形成において認められる。腫瘍増殖や転移などの多くの疾患及び状態において血管新生調節不全が起こる。制御された血管新生と調節不全の血管新生はどちらも同じように進行すると考えられている。基底膜によって取り巻かれた内皮細胞及び周皮細胞が毛細血管を形成する。血管新生は、内皮細胞と白血球によって放出される酵素による基底膜の侵食から始まる。血管の内腔を裏打ちする内皮細胞が、次に、基底膜を通して突出する。血管新生刺激物質は、内皮細胞が侵食された基底膜を通って遊走するのを誘導する。遊走する細胞は、親血管からの「新芽(sprout)」を形成し、そこで内皮細胞は有糸分裂を受けて、増殖する。内皮新芽(endothelial sprout)は互いに合併して毛細血管係蹄を形成し、新しい血管を形成する。
【0004】
APJは、Gタンパク質共役受容体ファミリーに属する細胞表面受容体であり、7つの膜貫通ドメインを有する。APJはアンギオテンシンII受容体に関連し、HIV−1の神経病因性の仲介に関与する補助受容体であると記述されてきた。APJの天然リガンドが特定され、アペリン(APJ内因性リガンド)と命名された。アペリンポリペプチドは、最初に77アミノ酸タンパク質(プレプロアペリン)として生産され、それが切断されて36アミノ酸、17アミノ酸及び13アミノ酸の切断産物を生成する。アペリンポリペプチドのC末端の13アミノ酸から成るペプチドは、アペリンポリペプチドがAPJと相互作用する能力のために必要且つ十分である。
【0005】
一定の条件下で血管新生を有効に調節するいくつかの方法が実現されている。例えばAvastin(登録商標)は、Genentechによって生産された抗VEGF抗体であり、現在、乳癌、結腸直腸癌、小細胞肺癌及び腎癌の治療に関して臨床治験中であり、ある種の腫瘍型に対して抗血管新生作用を有することが示されている。Avastin(登録商標)は、播種した結腸直腸癌を有する患者での使用に関してFDAの承認を取得した。同様に、Macugen(登録商標)は、VEGFを標的とし、黄斑変性に関する抗血管新生作用が明らかにされた、Eyetech/Pfizerからのアプタマーである(Eyetech Study Group,2003,Ophthalmology 110 (5):979−86)。
【0006】
現在まで、様々なポリペプチドが、血管新生を刺激する(例えばVEGF、FGF、PDGFB、EGF、LPA、HGF、PD−ECF、IL−8、アンギオゲニン、TNF−α、TGF−β、TGF−α、プロリフェリン及びPLGF)又は血管新生を阻害する(例えばエンドスタチン(登録商標)、アンギオスタチン(登録商標)、トロンボスポンジン)と述べられてきた。一定の条件下で血管新生を有効に調節するいくつかの方法が実現されているが、より広い範囲の疾患及び状態を治療するため、ならびに既に存在する方法の効果を高めるために、明らかにより多くの治療薬が求められている。それ故、当技術分野で必要とされるのは、ある種の疾患及び状態に関連する血管の望ましくない増殖を阻害するために、血管新生を調節するための新しい組成物及び方法である。腫瘍形成及び/又は腫瘍の透過性を調節する方法及び組成物も求められている。さらに必要とされるのは、血管新生の低下によって示される疾患又は状態に罹患している患者において血管新生を促進するための新しい方法である。さらに、同じく必要とされているのは、患者において血管新生を有効且つ安全に調節することができる治療薬を特定するための方法である。
【0007】
(本発明の概要)
本発明は、血管新生、腫瘍形成及び/又は腫瘍透過性を調節するための新しい独自の方法を特定する必要性を一部満たす。特に、本発明は、生物学的試料を提供すること;及び前記試料を、アペリン活性の阻害剤を含有する血管新生阻害量又は腫瘍形成阻害量の組成物と組み合わせることを含む、生物学的試料において血管新生又は腫瘍形成を阻害するための方法を述べる。1つの実施形態では、アペリン活性の阻害剤を含有する組成物は、生物学的試料の血管透過性を低下させる。好ましい実施形態では、前記組成物は、アペリンについての受容体とアペリンポリペプチド又はアペリンペプチドとの相互作用を妨げる。より好ましい実施形態では、前記組成物は、APJとアペリンとの相互作用を妨げる。もう1つの好ましい実施形態では、前記組成物は、抗アペリン抗体又はその断片を含有する。より好ましい実施形態では、前記抗体は、配列番号1(SEQ ID NO:1)において定義されるポリペプチド;配列番号2(SEQ ID NO:2)において定義されるポリペプチド;配列番号3(SEQ ID NO:3)において定義されるポリペプチド;配列番号4(SEQ ID NO:4)において定義されるポリペプチド;配列番号5(SEQ ID NO:5)において定義されるポリペプチド;及び前記ポリペプチド又はペプチドのいずれかと少なくとも80%の配列同一性を有するポリペプチドから成る群より選択されるポリペプチド又はペプチドに結合する。さらにもう1つの好ましい実施形態では、アペリン活性の阻害剤は、アペリンアンチセンス核酸、おとり受容体、リボザイム、センスポリヌクレオチド、二本鎖RNA、RNAi、アプタマー及び低分子アンタゴニストから成る群より選択される。
【0008】
本発明は、一部の実施形態では、血管新生を阻害するための方法を、血管新生に関わる疾患又は状態を有する患者を治療するために使用することを提供する。本発明はまた、一部の実施形態では、前記組成物が、アペリン活性を阻害する分子ともう1つ別の血管新生因子を阻害する分子を含む、抗血管新生分子の組合せを含有することを提供する。他の実施形態では、前記方法は、患者に治療有効量の抗癌剤を投与することをさらに含み、前記抗癌剤は、化学療法剤、放射線療法剤、抗血管新生剤及びアポトーシス誘導剤から成る群より選択される。
【0009】
本発明はまた、生物学的試料を提供すること;及び前記試料を、アペリンを含有する血管新生促進性組成物の生物学的有効量と組み合わせることを含む、生物学的試料において血管新生を促進するための方法を提供する。好ましい実施形態では、前記組成物は、配列番号1において定義されるポリペプチド;配列番号2において定義されるポリペプチド;配列番号3において定義されるポリペプチド;配列番号4において定義されるポリペプチド;配列番号5において定義されるポリペプチド;及び前記ポリペプチド又はペプチドのいずれかと少なくとも80%の配列同一性を有するポリペプチドから成る群より選択されるポリペプチド又はペプチドを含有する。本発明はさらに、脈管形成の低下によって示される疾患又は状態を有する患者において血管新生を促進する方法を提供する。本発明はまた、一部の実施形態では、前記組成物がアペリン又はアペリンアゴニストと、もう1つ別の血管新生因子を含む血管新生分子の組合せを含有することを提供する。
【0010】
本発明はまた、アペリンを含有する血管新生促進性組成物を提供すること;推定上の血管新生調節因子を前記組成物と組み合わせること;前記組成物、又は前記推定上の調節因子と前記組成物の前記組合せを血管新生予測モデルに導入すること;及び前記推定上の調節因子の存在下と不在下での、前記モデルにおける血管分枝形成の量を比較することを含む、血管新生の調節因子を特定するための方法を提供する。好ましい実施形態では、前記アペリン組成物は、配列番号1において定義されるポリペプチド;配列番号2において定義されるポリペプチド;配列番号3において定義されるポリペプチド;配列番号4において定義されるポリペプチド;配列番号5において定義されるポリペプチド;及び前記ポリペプチド又はペプチドのいずれかと少なくとも80%の配列同一性を有するポリペプチドから成る群より選択されるポリペプチド又はペプチドを含有する。
【0011】
これらや本発明の他の実施形態は、本発明の説明の検討で、当業者には明らかであろう。
【0012】
(本発明の詳細な説明)
本発明は、本発明の好ましい実施形態についての以下の詳細な説明及びここに包含される実施例を参照してより容易に理解されると考えられる。しかし、本発明の方法を開示し、説明する前に、本発明は、特定の核酸、特定のポリペプチド、特定の細胞型、特定の宿主細胞、特定の状態又は特定の方法等に限定されず、それら自体、言うまでもなく、変化させ得るものであり、その数多くの修正及び変形が当業者に明白であることが理解されるべきである。また、ここで使用する用語は特定実施形態を説明することだけを目的とし、限定を意図しないことも理解されるべきである。さらに、ここで特に定義されない限り、ここで使用する用語は、関連技術分野において公知であるようなその伝統的意味を与えられることが理解されるべきである。
【0013】
本発明は、アペリンペプチドが血管新生を調節する上で有用であることを初めて記載する。一部の好ましい実施形態では、本発明は、生物学的試料を提供すること;及び前記試料を、アペリン活性の阻害剤を含有する組成物の血管新生阻害量、腫瘍形成阻害量及び/又は血管透過性低下量と組み合わせることを含む、生物学的試料において血管新生を阻害する、腫瘍形成を阻害する、又は血管透過性を低下させるための方法を記載する。ここで使用する、「血管新生」という用語は、新しい血管の生成を指し、「腫瘍形成」という用語は、腫瘍の増殖を指す。またここで使用する、「血管新生又は腫瘍形成を阻害するための方法」という語句は、血管透過性を低下させることによって血管新生又は腫瘍形成を阻害する方法を包含することが意図されている。またここで使用する、「アペリンポリペプチド」という用語は、アペリンのC末端の13アミノ酸(すなわち配列番号4のポリペプチド)を含むポリペプチドを指すことが意図されている。好ましい実施形態では、前記組成物は、アペリンについての受容体とアペリンポリペプチド又はアペリンペプチドとの相互作用を妨げる。もう1つの好ましい実施形態では、前記組成物は、APJとアペリンポリペプチド又はアペリンペプチドとの相互作用を妨げる。もう1つの好ましい実施形態では、前記組成物は、抗アペリン抗体又はその断片を含有する。1つの好ましい実施形態では、前記抗体は、配列番号1において定義されるポリペプチド;配列番号2において定義されるポリペプチド;配列番号3において定義されるポリペプチド;配列番号4において定義されるポリペプチド;配列番号5において定義されるポリペプチド;及び前記ポリペプチド又はペプチドのいずれかと少なくとも80%の配列同一性を有するポリペプチドから成る群より選択されるポリペプチド又はペプチドに結合する。ここで使用する、「抗体断片」という語句は、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、及びDomantisによって述べられたようなより小さな断片を含むが、これらに限定されない、抗体の様々な断片を包含することが意図されている。もう1つの好ましい実施形態では、前記組成物は、アペリンアンチセンス核酸を含有する。
【0014】
もう1つの好ましい実施形態では、アペリン活性の阻害剤は、アペリンアンチセンス核酸、おとり受容体、リボザイム、センスポリヌクレオチド、二本鎖RNA、RNAi、アプタマー及び低分子アンタゴニストから成る群より選択される。ここで使用する、「おとり受容体」という用語は、アペリンポリペプチドに結合して、アペリンポリペプチドがその天然のシグナル伝達経路に関与するのを妨げる分子を指す。おとり受容体は、血清中でアペリンに結合して、アペリンがその天然のシグナル伝達経路を通してシグナル伝達するのを阻止することができる、アペリンについての可溶性受容体(又はその断片)を包含することが意図されている。
【0015】
本発明はまた、一部の実施形態では、前記組成物が、アペリン活性を阻害する分子ともう1つ別の血管新生因子を阻害する分子を含む、抗血管新生分子の組合せを含有することを提供する。ここで使用する、「血管新生因子」という用語は、VEGF、FGF、PDGFB、EGF、LPA、HGF、PD−ECF、IL−8、アンギオゲニン、TNF−α、TGF−β、TGF−α、プロリフェリン及びPLGFなどの、血管新生を促進する分子を包含することが意図されている。
【0016】
本発明の他の好ましい実施形態では、使用する組成物は、アペリンについての受容体を妨げることによってアペリン活性を阻害する。1つの実施形態では、アペリンについての受容体はAPJである。一部の好ましい実施形態では、アペリン活性の阻害剤は、抗APJ抗体又はその断片である。より好ましい実施形態では、アペリン活性の阻害剤は、配列番号17(SEQ ID NO:17)において定義されるポリペプチドに結合する抗体又はその断片である。他の好ましい実施形態では、アペリン活性の阻害剤は、APJアンチセンス核酸、おとり受容体、リボザイム、センスポリヌクレオチド、二本鎖RNA、RNAi、アプタマー及び低分子アンタゴニストから成る群より選択される。
【0017】
本発明の一部の好ましい実施形態では、前記組成物は、APJ活性を阻害する分子ともう1つ別の血管新生因子を阻害する分子を含む、抗血管新生分子の組合せを含有する。より好ましい実施形態では、前記血管新生因子は、VEGF、FGF、PDGFB、EGF、LPA、HGF、PD−ECF、IL−8、アンギオゲニン、TNF−α、TGF−β、TGF−α、プロリフェリン及びPLGFから成る群より選択される。
【0018】
本発明の一部の好ましい実施形態では、血管新生又は腫瘍形成を阻害するための方法を、血管新生又は腫瘍形成に関わる疾患又は状態を有する患者を治療するために使用する。ここで使用する、「血管新生に関わる疾患又は状態」という語句は、卒中、血管腫、固形腫瘍、白血病、リンパ腫、骨髄腫、転移、毛細血管拡張性乾癬性強皮症、化膿性の肉芽腫、心筋の血管新生、プラーク新生血管形成、コロラニー側枝、虚血四肢血管新生、角膜疾患、ルベオーシス、血管新生緑内障、糖尿病性網膜症、水晶体後線維増殖症、関節炎、糖尿病性新生血管形成、黄斑変性、創傷治癒、消化性潰瘍、骨折、ケロイド、脈管形成、造血、排卵、月経、胎盤形成、多嚢胞性卵巣症候群、不正子宮出血、子宮内膜過形成及び子宮内膜癌、子宮内膜症、着床不全及び正常以下の胎児成長、子宮筋層フィブロイド(子宮平滑筋腫)及び子宮腺筋症、卵巣過刺激症候群及び卵巣癌を含むが、これらに限定されないことが意図されている。本発明の他の好ましい実施形態では、血管新生又は腫瘍形成を阻害するための方法を、腫瘍形成に関わる疾患又は状態を有する患者を治療するために使用する。本発明の他の好ましい実施形態では、血管新生又は腫瘍形成を阻害するための方法を、血管の不適切な漏出を含む疾患又は状態を有する患者を治療するために使用する。より好ましい実施形態では、血管新生又は腫瘍形成を阻害するための方法において使用されるアペリン阻害性組成物は、血管透過性を低下させることによって作用する。
【0019】
本発明の一部の好ましい実施形態では、前記方法は、患者に治療有効量の抗癌剤を投与することをさらに含み、前記抗癌剤は、化学療法剤、放射線療法剤、抗血管新生剤、アポトーシス誘導剤から成る群より選択される。ここで使用する、「治療有効量」は、血管新生又は腫瘍増殖に負の作用を及ぼす量である。またここで使用する、「抗癌剤」は、血管新生又は腫瘍増殖に負の作用を及ぼす分子である。1つの実施形態では、前記抗癌剤は、VEGF、FGF、PDGFB、EGF、LPA、HGF、PD−ECF、IL−8、アンギオゲニン、TNF−α、TGF−β、TGF−α、プロリフェリン及びPLGFから成る群より選択される血管新生因子の発現又は活性を阻害する、抗血管新生剤である。もう1つの実施形態では、前記抗癌剤は、マトリックスメタロプロテイナーゼの発現又は活性を阻害する物質;細胞接着分子と相互作用する薬剤;及びウロキナーゼの活性を阻害する薬剤;及び別の機構を通して血管新生を阻害する薬剤から成る群より選択される抗血管新生剤である。
【0020】
本発明はまた、生物学的試料を提供すること;及び前記試料を、アペリンを含有する血管新生促進性組成物の生物学的有効量と組み合わせることを含む、生物学的試料において血管新生を促進するための方法を提供する。好ましい実施形態では、前記組成物は、配列番号1において定義されるポリペプチド;配列番号2において定義されるポリペプチド;配列番号3において定義されるポリペプチド;配列番号4において定義されるポリペプチド;配列番号5において定義されるポリペプチド;及び前記ポリペプチド又はペプチドのいずれかと少なくとも80%の配列同一性を有するポリペプチドから成る群より選択されるポリペプチド又はペプチドを含有する。本発明はまた、一部の実施形態では、前記組成物が、アペリン(又はアペリンアゴニスト)ともう1つ別の血管新生因子を含む、血管新生分子の組合せを含有することを提供する。
【0021】
本発明の一部の好ましい実施形態では、血管新生を促進するための方法を、脈管形成の低下によって指示される疾患又は状態を有する患者を治療するために使用する。ここで使用する、「血管新生に関わる疾患又は状態」という語句は、糖尿病、関節炎、虚血、貧血、創傷、壊疽又は壊死を含むが、これらに限定されない。
【0022】
ここで使用する、「ペプチド」、「ポリペプチド」及び「タンパク質」という用語は、ペプチド結合によってつながれた少なくとも4個のアミノ酸の鎖を指す。前記鎖は、線状、分枝、環状、又はそれらの組合せであり得る。従って、本発明は、単離されたアペリンポリペプチド及びAPJポリペプチドの使用のための方法を提供する。好ましい実施形態では、前記アペリンポリペプチドは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4又は配列番号5において定義され、前記APJポリペプチドは配列番号17において定義される。
【0023】
本発明のアペリンポリペプチド及びその断片は、好ましくは標準ペプチド合成手法によって化学合成される。本発明の目的のために、化学合成されるとき、アペリン−13ペプチドは、N末端の位置にグルタミン酸残基ではなくむしろピログルタメートを含み得る。標準ペプチド合成に代わるものとして、アペリンポリペプチド又はそのペプチドは、標準組換えDNA手法を用いて生産することができる。例えば前記ポリペプチドをコードする核酸分子を発現ベクターにクローニングし、その発現ベクターを宿主細胞に導入して、アペリンポリペプチドを宿主細胞において発現させる。その後、標準ポリペプチド精製手法を使用して、適切な精製体系によって細胞からアペリンポリペプチドを単離することができる。本発明の目的のために、「組換えポリヌクレオチド」という用語は、遺伝子工学によって変化した、再編成された又は修飾されたポリヌクレオチドを指す。その例は、クローン化されたポリヌクレオチド、及び異種配列に結合又は連結されたポリヌクレオチドを包含する。「組換え」という用語は、偶発突然変異などの天然に起こる事象から生じるポリヌクレオチドへの変化を意味しない。本発明のアペリンポリペプチド及びその断片は、好ましくは標準組換え手法を用いて生産される。さらに、天然アペリン又はAPJポリペプチドを、例えばそれぞれ抗アペリン又は抗APJ抗体を使用して、細胞から単離することができる。
【0024】
ここで使用する、「核酸」及び「ポリヌクレオチド」という用語は、線状又は分枝、一本鎖又は二本鎖、又はそれらのハイブリッドであるRNA又はDNAを指す。前記の用語はまた、RNA/DNAハイブリッドを包含する。これらの用語はまた、遺伝子のコード領域の3’及び5’末端の両方に位置する非翻訳配列:遺伝子のコード領域の5’末端から上流の少なくとも約1000ヌクレオチドの配列及び遺伝子のコード領域の3’末端から下流の少なくとも約200ヌクレオチドの配列を包含する。イノシン、5−メチルシトシン、6−メチルアデニン、ヒポキサンチン及びその他のような、あまり一般的でない塩基もアンチセンス、dsRNA及びリボザイム対合のために使用できる。例えばウリジン及びシチジンのC−5プロピン類似体を含むポリヌクレオチドは、高い親和性でRNAに結合し、遺伝子発現の強力なアンチセンス阻害剤であることが示された。ホスホジエステル骨格又はRNAのリボース糖基内の2’−ヒドロキシへの修飾のような、他の修飾も実施し得る。アンチセンスポリヌクレオチド及びリボザイムは、全面的にリボヌクレオチドから成るか、又はリボヌクレオチドとデオキシリボヌクレオチドの混合を含み得る。本発明のポリヌクレオチドは、ゲノムの調製、cDNAの調製、インビトロ合成、RT−PCR、及びインビトロ又はインビボでの転写を含むいかなる手段によっても生産し得る。
【0025】
本発明の核酸分子又はその一部は、標準分子生物学手法及びここで提供する配列情報を用いて単離することができる。例えばアペリンcDNAは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4又は配列番号5のポリペプチドの1つをコードするポリヌクレオチド配列の全部又は一部を使用してcDNAライブラリーから単離することができる。さらに、アペリンポリペプチドの全部又は一部を含む核酸分子は、ここで提供する配列に基づいて設計されるオリゴヌクレオチドプライマーを用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって単離できる。例えばmRNAを細胞から単離し、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5又は配列番号17に示すポリペプチド配列の1つをコードするポリヌクレオチド配列に基づいて、PCR増幅のための合成オリゴヌクレオチドプライマーを設計することができる。本発明の核酸分子は、cDNA又は、選択的に、ゲノムDNAを鋳型として使用し、及び適切なオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、標準PCR増幅手法に従って増幅することができる。そのようにして増幅した核酸分子を適切なベクターにクローニングし、DNA塩基配列分析によって特性決定することができる。さらに、アペリンヌクレオチド配列に対応するオリゴヌクレオチドを標準合成手法によって、例えば自動DNAシンセサイザーを用いて、作製することができる。
【0026】
ここで使用する、アペリンの「生物活性部分」という用語は、APJとの相互作用及び/又はAPJ活性の調節に関与する、アペリンの部分、例えばドメイン/モチーフを包含することが意図されている。アペリンの生物活性部分は、アペリンのアミノ酸配列、例えば配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4又は配列番号5のアミノ酸配列に由来するアミノ酸配列、あるいは完全長アペリン又はアペリンポリペプチドと同一である完全長ポリペプチドよりも少ないアミノ酸を含み、アペリンポリペプチドの少なくとも1つの活性を示す、アペリンに同一のポリペプチドのアミノ酸配列を含むペプチドを包含する。またここで使用する、APJの「生物活性部分」という用語は、APJのアペリンとの相互作用及び/又はアペリン/APJシグナル伝達経路の調節に関与する、APJの部分、例えばドメイン/モチーフを包含することが意図されている。APJの生物活性部分は、APJのアミノ酸配列、例えば配列番号17のアミノ酸配列に由来するアミノ酸配列、あるいは完全長APJ又はAPJポリペプチドと同一である完全長ポリペプチドよりも少ないアミノ酸を含み、APJポリペプチドの少なくとも1つの活性を示す、APJに同一のポリペプチドのアミノ酸配列を含むペプチドを包含する。典型的には、生物活性部分(例えばペプチドであり、これは例えば5、10、15、20、30、35、36、37、38、39、40又はそれ以上のアミノ酸の長さである)は、アペリンポリペプチドの少なくとも1つの活性を有するドメイン又はモチーフを含む。ここで使用する、「アペリン活性」及び「APJ活性」という用語は、血管新生又は腫瘍形成の促進を指すことが意図されている。またここで使用する、「アペリン/APJシグナル伝達経路」という用語は、それによって血管新生が促進されるアペリンとAPJの相互作用を含むシグナル伝達経路を指す。本発明の目的のために、アペリン又はAPJ活性の調節は、組成物の不在下での血管新生と比較して、その組成物の存在下での血管新生の少なくとも10%の上昇又は低下を指す。
【0027】
本発明はまた、アペリン又はAPJキメラ又は融合ポリペプチドの使用を提供する。例えば、ここで使用する、アペリン「キメラポリペプチド」又は「融合ポリペプチド」は、非アペリンポリペプチドに有効に連結されたアペリンポリペプチド又はペプチドを含む。アペリンポリペプチドは、アペリンポリペプチドに対応するアミノ酸配列を有するポリペプチドを示し、一方非アペリンポリペプチドは、アペリンポリペプチドと実質的に同一でないポリペプチド、例えばアペリンとは異なり、同じか又は異なる生物に由来するポリペプチド、に対応するアミノ酸配列を有するポリペプチドを示す。融合ポリペプチドに関しては、「有効に連結された」という用語は、アペリンポリペプチドと非アペリンポリペプチドが、使用する配列に帰せられる提示された機能を両方の配列が満たすように互いに融合していることを指し示すことが意図されている。非アペリンポリペプチドは、アペリンポリペプチドのN末端又はC末端に融合することができる。例えば1つの実施形態では、融合ポリペプチドは、アペリン配列がGST配列のC末端に融合している、GST−アペリン融合ポリペプチドである。そのような融合ポリペプチドは、組換えアペリンポリペプチドの精製を容易にすることができる。もう1つの実施形態では、融合ポリペプチドは、そのN末端に異種シグナル配列を含むアペリンポリペプチドである。一部の宿主細胞(例えば哺乳動物宿主細胞)では、異種シグナル配列の使用を通してアペリンポリペプチドの発現及び/又は分泌を高めることができる。
【0028】
好ましくは、本発明のアペリン又はAPJキメラ又は融合ポリペプチドは、標準組換えDNA手法によって生産される。例えば種々のポリペプチド配列をコードするDNA断片は、従来の手法に従って、例えば連結のための平滑末端又は突出末端、適切な末端を提供するための制限酵素消化、適宜に付着末端の充填、望ましくない連結及び酵素結合を避けるためのアルカリホスファターゼ処理を使用することによって、インフレームで互いに連結される。もう1つの実施形態では、融合遺伝子は、自動DNAシンセサイザーを含む従来の手法によって合成できる。あるいは、遺伝子断片のPCR増幅は、2つの連続する遺伝子断片の間に相補的突出を生じさせるアンカープライマーを用いて実施することができ、その後アニーリングして、キメラ遺伝子配列を生成するために再増幅することができる(例えばCurrent Protocols in Molecular Biology,Ausubelら編集、John Wiley & Sons:1992参照)。さらに、既に融合成分(例えばGSTポリペプチド)をコードする多くの発現ベクターが市販されている。融合成分がアペリンポリペプチドにインフレームで連結するように、アペリンをコードする核酸を発現ベクターにクローニングすることができる。
【0029】
ここで述べるアペリンポリペプチドの断片及び融合ポリペプチドに加えて、本発明は、同じ又は他の生物における、天然に生じるアペリン又はAPJポリペプチド及びアペリン又はAPJをコードする核酸の、同族体及び類似体を包含する。「同族体」は、ここでは、それぞれ類似又は「同一」のヌクレオチド又はアミノ酸配列を有する2個の核酸又はポリペプチドと定義される。同族体は、ここで定義するアペリン又はAPJの、対立遺伝子変異体、オルソログ、パラログ、アゴニスト及びアンタゴニストを含む。語句「同族体」はさらに、遺伝子コードの縮重によって最初の核酸(及びその部分)とは異なるが、同じポリペプチドをコードする核酸分子を含む。ここで使用する、「天然に生じる」アペリン又はAPJポリペプチドは、自然に生じるアペリン又はAPJアミノ酸配列を示す。好ましくは、天然に生じるアペリンは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4又は配列番号5において定義されるアミノ酸配列を含み、及び天然に生じるAPJは、配列番号17において定義されるアミノ酸配列を含む。
【0030】
アペリン又はAPJポリペプチドのアゴニストは、アペリン又はAPJポリペプチドと同じ生物活性あるいはアペリン又はAPJポリペプチドの生物活性のサブセットを実質的に保持することができる。アペリン又はAPJポリペプチドのアンタゴニストは、天然に生じる形態のアペリン又はAPJポリペプチドの活性の1つ又はそれ以上を阻害することができる。例えばアペリンアンタゴニストは、アペリンポリペプチドを含む、細胞膜成分代謝カスケードの下流又は上流のメンバーに競合的に結合することができる。
【0031】
本発明のもう1つの実施形態では、使用する組成物はアペリン活性を間接的に阻害又は促進し得る。例えば前記組成物は、特異的エンドペプチダーゼ又はエンドペプチダーゼ阻害剤を含んでよい。特に、使用すべきエンドペプチダーゼは、セリンプロテアーゼのスブチリシンファミリーに属する(Barr,1991,Cell 66:1−3)。これらの酵素は、アルギニン残基の後ろで特異的に切断し(例えばKR、RR、KXKR、RXRR、KKKR、RRRR、KXXR及びRXXR)、アペリンを13アミノ酸と17アミノ酸のペプチドに切断することに関与すると考えられる。
【0032】
前述したように、本発明は、アペリン及びAPJポリペプチド及びそれらの同族体を包含する。2つのアミノ酸配列(例えば配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5又は配列番号17の配列の1つ、及びそれらの突然変異形態)のパーセント配列同一性を決定するには、最適比較のために配列を整列する(例えば他方のポリペプチド又は核酸との最適アラインメントのために一方のポリペプチドの配列にギャップを導入することができる)。次に対応するアミノ酸位置のアミノ酸残基を比較する。一方の配列(例えば配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5又は配列番号17の配列の1つ)内の位置が、他方の配列(例えば配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5又は配列番号17の配列の突然変異形態)内の対応する位置と同じアミノ酸残基によって占められているとき、2つの分子はその位置において同一である。同じタイプの比較を2つの核酸配列の間でも実施することができる。
【0033】
2つの配列間のパーセント配列同一性は、それらの配列によって共有される同一位置の数の関数である(すなわちパーセント配列同一性=同一位置の数/全体の位置数×100)。好ましくは、本発明に含まれる単離アミノ酸同族体は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5又は配列番号17に示す全アミノ酸配列に少なくとも約50−60%、好ましくは少なくとも約60−70%、より好ましくは少なくとも約70−75%、75−80%、80−85%、85−90%又は90−95%、最も好ましくは少なくとも約96%、97%、98%、99%又はそれ以上同一である。さらにもう1つの実施形態では、本発明に含まれる単離アミノ酸同族体は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5又は配列番号17に示す核酸配列によってコードされる全アミノ酸配列に少なくとも約50−60%、好ましくは少なくとも約60−70%、より好ましくは少なくとも約70−75%、75−80%、80−85%、85−90%又は90−95%、最も好ましくは少なくとも約96%、97%、98%、99%又はそれ以上同一である。他の実施形態では、本発明に含まれるアペリンアミノ酸同族体は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5又は配列番号17の少なくとも5個の隣接アミノ酸残基、より好ましくは少なくとも10個の隣接アミノ酸残基、最も好ましくは少なくとも13個の隣接アミノ酸残基にわたって配列同一性を有する。
【0034】
もう1つの好ましい実施形態では、本発明の単離核酸同族体は、本発明のヌクレオチド配列又はその少なくとも39個の隣接ヌクレオチドを含む部分に、少なくとも約40−60%、好ましくは少なくとも約60−70%、より好ましくは少なくとも約70−75%、75−80%、80−85%、85−90%又は90−95%、さらに一層好ましくは少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又はそれ以上同一であるヌクレオチド配列を含む。
【0035】
本発明に関して、2つの核酸又はポリペプチド配列の間のパーセント配列同一性は、Vector NTI6.0(PC)ソフトウエアパッケージ(InforMax,7600 Wisconsin Ave.,Bethesda,MD 20814)を用いて決定する。ギャップ開始ペナルティー(gap opening penalty)15及びギャップ伸長ペナルティー6.66を、2つの核酸のパーセント同一性を決定するために使用する。ギャップ開始ペナルティー10及びギャップ伸長ペナルティー0.1を、2つのポリペプチドのパーセント同一性を決定するために使用する。他のすべてのパラメータはデフォルト設定にする。多重アラインメント(Clustal Wアルゴリズム)に関しては、blosum62マトリックスでギャップ開始ペナルティーは10、ギャップ伸長ペナルティーは0.05である。DNA配列をRNA配列に比較するときの配列同一性の決定に関しては、チミジンヌクレオチドはウラシルヌクレオチドと等価であることが了解されねばならない。
【0036】
もう1つの態様では、本発明は、ストリンジェントな条件下で本発明のポリヌクレオチドにハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む単離核酸を提供する。DNAブロットへのDNAのハイブリダイゼーションに関してここで使用する、語句「ストリンジェントな条件」は、10Xデンハルト溶液、6X SSC、0.5%SDS、及び100μg/ml変性サケ精子DNA中での、60℃での一晩のハイブリダイゼーションを示す。ブロットを、3X SSC/0.1%SDS、次いで1X SSC/0.1%SDS、そして最後に0.1X SSC/0.1%SDS中、各々30分間ずつ62℃で連続的に洗浄する。またここで使用する、「高度にストリンジェントな条件」は、10Xデンハルト溶液、6X SSC、0.5%SDS及び100μg/ml変性サケ精子DNA中での、65℃での一晩のハイブリダイゼーションを指す。ブロットを、3X SSC/0.1%SDS、次いで1X SSC/0.1%SDS、そして最後に0.1X SSC/0.1%SDS中、各々30分間ずつ65℃で連続的に洗浄する。核酸ハイブリダイゼーションのための方法は、MeinkothとWahl,1984, Anal.Biochem.138:267−284;Current Protocols in Molecular Biology,Chapter 2,Ausubelら編集、Greene Publishing and Wiley−Interscience,New York,1995;及びTijssen,1993,Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology:Hybridization with Nucleic Acid Probes,Part I,Chapter 2,Elsevier, New York,1993の中で述べられている。
【0037】
前述した方法及び当業者に公知の他の方法を使用して、当業者は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5又は配列番号17に示すアミノ酸配列を含むアペリン又はAPJポリペプチドの同族体を単離することができる。これらの同族体の1つのサブセットは、対立遺伝子変異体である。ここで使用する、アペリンの「対立遺伝子変異体」は、アペリンポリペプチドのアミノ酸配列での変化を導き、天然個体群内に存在する多型を含むヌクレオチド配列を示す。そのような天然対立遺伝子変異は、典型的にはアペリン核酸内に1−6%の変異をもたらし得る。あらゆるそのような核酸変異、及び天然対立遺伝子変異の結果であって且つアペリンの機能的活性を変化させない、アペリンにおいて生じるアミノ酸多型又は変異は、本発明の方法の範囲内であることが意図されている。
【0038】
天然に生じるアペリン又はAPJポリペプチドの類似体、オルソログ及びパラログは、翻訳後修飾によって、アミノ酸配列の相違によって又はその両方によって、天然に生じるアペリンと異なり得る。翻訳後修飾は、ポリペプチドのインビボ及びインビトロでの化学的誘導体化、例えばアセチル化、カルボキシル化、リン酸化又はグリコシル化を含み、そのような修飾は、ポリペプチドの合成又はプロセシングの間又は単離修飾酵素による処理後に起こり得る。特に、本発明のオルソログは、一般に天然に生じるアペリン又はAPJアミノ酸配列の全部又は一部と、少なくとも約80−85%、より好ましくは85−90%又は90−95%、最も好ましくは95%、96%、97%、98%、さらには99%の同一性、又は100%の配列同一性を示し、アペリン又はAPJポリペプチドと同様の機能を示す。好ましくは、本発明のアペリンオルソログは、APJと相互作用することによって及び血管新生又は腫瘍形成に影響を及ぼすことによって機能する。
【0039】
個体群内に存在し得るアペリン又はAPJ配列の天然に生じる変異体に加えて、当業者は、アペリン又はAPJの機能的活性を変化させずに、突然変異によって配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5又は配列番号17のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に変化を導入し、それによってコードされるアペリン又はAPJポリペプチドのアミノ酸配列の変化を導き得ることをさらに認識する。例えば「可欠」アミノ酸残基におけるアミノ酸置換を導くヌクレオチド置換を、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5又は配列番号17の配列において実施することができる。「可欠」アミノ酸残基は、アペリン又はAPJポリペプチドの1つの野生型配列から、前記アペリン又はAPJポリペプチドの活性を変化させずに変更することができる残基であり、一方「必須」アミノ酸残基は、アペリン又はAPJ活性のために必要である。しかしながら、他のアミノ酸残基(例えばアペリン又はAPJ活性を有するドメインにおいて保存されていないか又は部分的にだけ保存されている(semi−conserved)もの)は、活性にとって必須ではないと考えられ、それ故アペリン又はAPJ活性を変化させずに変更させやすいと考えられる。
【0040】
本発明はまた、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5又は配列番号17の配列の1つにおける保存的アミノ酸置換を有するポリペプチドを包含する。「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基で置換されているものである。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当技術分野において定義されている。これらのファミリーは、塩基性側鎖(例えばリシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸)、無電荷の極性側鎖(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β−分枝側鎖(例えばトレオニン、バリン、イソロイシン)、及び芳香族側鎖(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を有するアミノ酸を含む。そこで、アペリンポリペプチドにおける予測上の可欠アミノ酸残基を、好ましくは同じ側鎖ファミリーからのもう1つ別のアミノ酸残基で置換する。あるいは、もう1つの実施形態では、飽和突然変異誘発などによって、アペリンコード配列の全部又は一部に沿ってランダムに突然変異を導入することができ、生じた突然変異体をここで述べるアペリン活性に関してスクリーニングし、アペリン活性を保持する突然変異体を特定することができる。
【0041】
本発明のもう1つの態様は、アペリンコード配列にアンチセンスである単離核酸分子の使用に関する。アンチセンスポリヌクレオチドは、標的ポリヌクレオチドに特異的に結合して、転写、スプライシング、輸送、翻訳及び/又は標的ポリヌクレオチドの安定性を妨げることによって、標的ポリヌクレオチドの遺伝子発現を阻害すると考えられている。染色体DNA、一次RNA転写産物又はプロセシングされたmRNAにアンチセンスポリヌクレオチドを標的とするための方法は、先行技術において述べられている。好ましくは、標的領域は、スプライス部位、翻訳開始コドン、翻訳終止コドン及びオープンリーディングフレーム内の他の配列を含む。もう1つの好ましい実施形態では、本発明は、標的領域が3’UTR領域内であり得ること、又は標的領域がmRNA転写産物の何らかの領域内であり得ることを提供する。
【0042】
本発明に関して、語句「アンチセンス」は、内因性遺伝子の発現を妨げるように、遺伝子、一次転写産物又はプロセシングされたmRNAの全部又は一部に十分に相補的であるポリヌクレオチドを含む核酸を示す。「相補的」ポリヌクレオチドは、標準ワトソン-クリック相補性規則に従って塩基対合することができるものである。特に、プリンはピリミジンと塩基対合して、DNAの場合はシトシンと対合するグアニン(G:C)及びチミンと対合するアデニン(A:T)、又はRNAの場合はウラシルと対合するアデニン(A:U)の組合せを形成する。これらの標準規則に加えて、RNAに関しては、グアニンはまた、一部の場合にウラシルとも対合し得る(G:U)。2つのポリヌクレオチドは、各々が、他方に実質的に相補的である少なくとも1つの領域を有することを条件として、それらが互いに完全に相補的でない場合でも互いにハイブリダイズし得ることは了解される。語句「アンチセンス核酸」は、一本鎖RNAならびにアンチセンスRNAを生成するように転写され得る二本鎖DNA発現カセットを含む。「活性」アンチセンス核酸は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5又は配列番号17のポリペプチドと少なくとも80%の配列同一性を有するポリペプチドをコードする一次転写産物又はmRNAと選択的にハイブリダイズすることができるアンチセンスRNA分子である。
【0043】
アンチセンス核酸は、全アペリンコード鎖に又はその一部だけに相補的であり得る。1つの実施形態では、アンチセンス核酸分子は、アペリンをコードするヌクレオチド配列のコード鎖の「コード領域」に対しアンチセンスである。語句「コード領域」は、アミノ酸残基に翻訳されるコドンを含む、ヌクレオチド配列の領域を指す。もう1つの実施形態では、アンチセンス核酸分子は、アペリンをコードするヌクレオチド配列のコード鎖の「非コード領域」にアンチセンスである。語句「非コード領域」は、アミノ酸に翻訳されない、コード領域に隣接する5’及び3’配列を指す(すなわち5’及び3’非翻訳領域とも称される)。アンチセンス核酸分子は、アペリンmRNAの全コード領域に相補的であり得るが、より好ましくは、アペリンmRNAのコード又は非コード領域の一部だけにアンチセンスであるオリゴヌクレオチドである。例えばアンチセンスオリゴヌクレオチドは、アペリンmRNAの翻訳開始部位の周辺領域に相補的であり得る。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、例えば約5、10、15、20、25、30、35又はそれ以上のヌクレオチドの長さであり得る。典型的には、本発明のアンチセンス分子は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5又は配列番号17のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの少なくとも10個の連続ヌクレオチドと60−100%の配列同一性を有するRNAを含む。好ましくは、前記配列同一性は、少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%、最も好ましくは100%である。
【0044】
本発明のアンチセンス核酸は、当技術分野で公知の手法を用いた化学合成及び酵素結合反応によって構築することができる。例えばアンチセンス核酸(例えばアンチセンスオリゴヌクレオチド)は、天然に生じるヌクレオチド、あるいは分子の生物学的安定性を高めるように又はアンチセンスとセンス核酸の間で形成される二重鎖の物理的安定性を高めるように設計された様々な修飾ヌクレオチドを用いて化学合成することができ、例えばホスホロチオエート誘導体及びアクリジン置換ヌクレオチドが使用できる。アンチセンス核酸を生成するために使用できる修飾ヌクレオチドの例は、5−フルオロウラシル、5−ブロモウラシル、5−クロロウラシル、5−ヨードウラシル、ヒポキサンチン、キサンチン、4−アセチルシトシン、5−(カルボキシヒドロキシメチル)ウラシル、5−カルボキシメチルアミノメチル−2−チオウリジン、5−カルボキシメチルアミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、β−D−ガラクトシルクエオシン、イノシン、N6−イソペンテニルアデニン、1−メチルグアニン、1−メチルイノシン、2,2−ジメチルグアニン、2−メチルアデニン、2−メチルグアニン、3−メチルシトシン、5−メチルシトシン、N6−アデニン、7−メチルグアニン、5−メチルアミノメチルウラシル、5−メトキシアミノメチル−2−チオウラシル、β−D−マンノシルキュェオシン(mannosylqueosine)、5’−メトキシカルボキシメチルウラシル、5−メトキシウラシル、2−メチルチオ−N6−イソペンテニルアデニン、ウラシル−5−オキシ酢酸(v)、ワイブトキソシン、プソイドウラシル、キュェオシン、2−チオシトシン、5−メチル−2−チオウラシル、2−チオウラシル、4−チオウラシル、5−メチルウラシル、ウラシル−5−オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル−5−オキシ酢酸(v)、5−メチル−2−チオウラシル、3−(3−アミノ−3−N−2−カルボキシプロピル)ウラシル、(acp3)w、及び2,6−ジアミノプリンを含む。あるいは、アンチセンス核酸は、核酸がアンチセンス方向にサブクローニングされた(すなわち、以下の項でさらに説明するが、挿入された核酸から転写されるRNAは、対象とする標的核酸に対してアンチセンス方向である)発現ベクターを使用して生物学的に作製することができる。
【0045】
さらにもう1つの実施形態では、本発明のアンチセンス核酸分子は、α−アノメリックの核酸分子である。α−アノメリックの核酸分子は、通常のβユニットと異なり、鎖が互いに平行に走る、相補的RNAとの特異的二本鎖ハイブリッドを形成する(Gaultierら、1987,Nucleic Acids.Res.15:6625−6641)。アンチセンス核酸分子はまた、2’−o−メチルリボヌクレオチド(Inoueら、1987,Nucleic Acids Res.15:6131−6148)又はキメラRNA−DNA類似体(Inoueら、1987,FEBS Lett.215:327−330)を含み得る。
【0046】
本発明のアンチセンス核酸分子は、典型的には、細胞に投与されるか、あるいはアペリン又はAPJをコードする細胞mRNA及び/又はゲノムDNAとハイブリダイズするか又は結合して、それにより、例えば転写を阻害することによって、翻訳を阻害することによって及び/又は転写産物の分解を生じさせることによって、前記ポリペプチドの発現を阻害するようにインサイチューで生成される。ハイブリダイゼーションは、安定な二重鎖を形成するための従来のヌクレオチド相補性によって、又は、例えばDNA二重鎖に結合するアンチセンス核酸分子の場合は、二重らせんの主溝における特異的相互作用を通して起こり得る。アンチセンス分子は、例えば細胞表面の受容体又は抗原に結合するペプチド又は抗体にアンチセンス核酸分子を連結することによって、選択細胞表面上で発現される受容体又は抗原に特異的に結合するように修飾することができる。アンチセンス核酸分子はまた、本明細書に記載のベクターを使用して細胞に送達することができる。アンチセンス分子の十分な細胞内濃度を達成するためには、アンチセンス核酸分子が強力な原核生物、ウイルス又は真核生物(植物を含む)プロモーターの制御下に置かれているベクター構築物が好ましい。
【0047】
アンチセンスポリヌクレオチドに代わるものとして、リボザイム、センスポリヌクレオチド又は二本鎖RNA(dsRNA)が、アペリン又はAPJポリペプチドの発現を低下させるために使用できる。本明細書で使用する、語句「リボザイム」は、それに対する相補性領域を有するmRNAなどの一本鎖核酸を切断することができるリボヌクレアーゼ活性を備えた触媒RNAに基づく酵素を示す。リボザイム(例えばHaselhoffとGerlach,1988,Nature 334:585−591に記載のハンマーヘッド型リボザイム)は、アペリン又はAPJ mRNA転写産物を触媒的に切断し、それによってアペリン又はAPJ mRNAの翻訳を阻害するために使用できる。アペリンをコードする又はAPJをコードする核酸に特異性を有するリボザイムは、アペリン又はAPJ cDNAのヌクレオチド配列に基づいてあるいは本発明において教示する方法に従って単離される異種配列に基づいて設計することができる。例えば活性部位のヌクレオチド配列が、アペリンをコードするmRNAにおいて切断されるヌクレオチド配列に相補的である、Tetrahymena L−19 RNAの誘導体を構築することができる。例えばCechらへの米国特許第4,987,071号及び同第5,116,742号参照。あるいは、アペリンmRNAを使用して、RNA分子のプールから特異的リボヌクレアーゼ活性を有する触媒RNAを選択することができる。例えばBartel, D.とSzostak,J.W.,1993,Science 261:1411−1418参照。好ましい実施形態では、リボザイムは、標的RNAの一部に100%の相補性を有する、少なくとも7、8、9、10、12、14、16、18又は20ヌクレオチド、より好ましくは7又は8ヌクレオチドを有する部分を含む。リボザイムを作製するための方法は当業者に公知である。例えば米国特許第6,025,167号;同第5,773,260号;及び同第5,496,698号参照。
【0048】
あるいは、アペリン又はAPJの遺伝子発現は、アペリン又はAPJのヌクレオチド配列の調節領域に相補的なヌクレオチド配列(例えばアペリン又はAPJのプロモーター及び/又はエンハンサー)を標的とし、標的細胞におけるアペリン遺伝子の転写を妨げる三重らせん構造を形成することによって阻害することができる。一般に、Helene,C.,1991,Anticancer Drug Des.6(6):569−84;Helene, C.ら、1992,Ann.N.Y.Acad.Sci.660:27−36;及びMaher,L.J.,1992,Bioassays 14(12):807−15参照。
【0049】
前述したアペリン及びAPJの核酸及びポリペプチドの使用に加えて、本発明は、成分に結合したこれらの核酸及びポリペプチドの使用を包含する。これらの成分は、検出成分、ハイブリダイゼーション成分、精製成分、送達成分、反応成分、結合成分等を含むが、これらに限定されない。結合した成分を有する核酸の典型的な群は、プローブ及びプライマーである。プローブとプライマーは、典型的には、ストリンジェント条件下で所望核酸にハイブリダイズする、実質的に単離されたオリゴヌクレオチドを含む。好ましい実施形態では、プローブは、それに結合した標識基をさらに含み、例えば標識基は、放射性同位元素、蛍光化合物、酵素又は酵素補因子であり得る。
【0050】
本発明の一部の好ましい実施形態では、前記方法は、患者に治療有効量の抗癌剤を投与することをさらに含み、前記抗癌剤は、化学療法剤、放射線療法剤、抗血管新生剤、アポトーシス誘導剤から成る群より選択される。1つの実施形態では、抗癌剤は、VEGF、FGF、PDGFB、EGF、LPA、HGF、PD−ECF、IL−8、アンギオゲニン、TNF−α、TGF−β、TGF−α、プロリフェリン及びPLGFから成る群より選択される血管新生因子の発現又は活性を阻害する抗血管新生剤である。
【0051】
本発明のもう1つの態様は、単離アペリンポリペプチド及びその生物活性部分の使用に関する。「単離」又は「精製」ポリペプチド又はその生物活性部分は、組換えDNA手法によって生産するときは細胞物質の一部を含まない、あるいは化学合成するときは化学的前駆体又は他の化学物質の一部を含まない。「細胞物質を実質的に含まない」という言い回しは、ポリペプチドが、天然で又は組換えによって生産される細胞の細胞成分の一部から分離されている、アペリンの製剤を包含する。1つの実施形態では、「細胞物質を実質的に含まない」という言い回しは、約30%(乾燥重量ベースで)未満の非アペリン物質(ここでは「共雑ポリペプチド(contaminating polypeptide)」とも称される)、より好ましくは約20%未満の非アペリン物質、さらに一層好ましくは約10%未満の非アペリン物質、最も好ましくは約5%未満の非アペリン物質を有するアペリンの製剤を包含する。
【0052】
アペリン又はその生物活性部分を組換えによって生産するとき、好ましくは培地も実質的に含まない、すなわち培地は、ポリペプチド製剤の容積の約20%未満、より好ましくは約10%未満、最も好ましくは約5%未満である。「化学的前駆体又は他の化学物質を実質的に含まない」という言い回しは、ポリペプチドが、その合成において含まれる化学的前駆体又は他の化学物質から分離されているアペリンポリペプチドの製剤を包含する。1つの実施形態では、「化学的前駆体又は他の化学物質を実質的に含まない」という言い回しは、約30%(乾燥重量ベースで)未満の化学的前駆体又は他の化学物質、より好ましくは約20%未満の化学的前駆体又は他の化学物質、さらに一層好ましくは約10%未満の化学的前駆体又は他の化学物質、最も好ましくは約5%未満の化学的前駆体又は他の化学物質を有するアペリンポリペプチドの製剤を包含する。好ましい実施形態では、単離ポリペプチド又はその生物活性部分は、アペリンが由来する同じ生物からの共雑ポリペプチドを含まない。
【0053】
本発明はまた、アペリンポリペプチド又はその部分に特異的に結合する抗体の使用を提供する。抗体は多くの周知の方法によって作製することができる(例えばHarlowとLane,「Antibodies;A Laboratory Manual,」Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,New York,(1988)参照)。簡単に述べると、精製抗原を、免疫応答を惹起するのに十分な量と間隔で動物に注入することができる。抗体を直接精製するか、又は脾臓細胞を動物から入手することができる。次に細胞を不朽細胞系と融合し、抗体分泌に関してスクリーニングすることができる。抗体は、抗原を分泌する細胞に関して核酸クローンライブラリーをスクリーニングするために使用できる。その後、それらの陽性クローンを塩基配列決定することができる。(例えばKellyら、1992,Bio/Technology 10:163−167;Bebbingtonら、1992,Bio/Teclmology 10:169−175参照)。
【0054】
ポリペプチドと「選択的に結合する」及び「特異的に結合する」という語句は、ポリペプチド及び他の生物学的物質の不均質個体群において前記ポリペプチドの存在に限定的な結合反応を指す。それ故、指定の免疫反応条件下で、特定ポリペプチドに結合した特定抗体は、試料中に存在する他のポリペプチドに有意の量で結合しない。そのような条件下での抗体の選択的結合は、特定ポリペプチドに対するその選択性のために選択される抗体を必要とし得る。特定ポリペプチドと選択的に結合する抗体を選択するために、様々な免疫測定方式が使用できる。例えば固相ELISA免疫測定法は、ポリペプチドと選択的に免疫反応性である抗体を選択するために日常的に使用される。選択的結合を決定するために使用し得る免疫測定方式及び条件の説明については、HarlowとLane,「Antibodies,A Laboratory Manual」Cold Spring Harbor Publications,New York,(1988)参照。
【0055】
一部の場合には、様々な宿主からモノクローナル抗体を作製することが望ましい。そのようなモノクローナル抗体を作製するための手法の説明は、Stitesら編集、「Basic and Clinical Immunology,」(Lange Medical Publications,Los Altos,Calif.,第14版)及びここで引用する参考文献、及びHarlowとLane「Antibodies,A Laboratory Manual」Cold Spring Harbor Publications,New York,1988の中に認められる。
【0056】
本発明の組成物は、製薬上許容される担体をさらに含有する。「製薬上又は薬理的に許容される」という語句は、適宜に動物又はヒトに投与したとき、有害な、アレルギー又は他の不都合な反応を生じさせない分子実体及び組成物を指す。獣医学用途も等しく本発明に包含され、「製薬上許容される」製剤は、臨床及び/又は獣医学用途のための製剤を包含する。ここで使用する、「製薬上許容される担体」は、あらゆる溶媒、分散媒質、被覆物、抗菌薬及び抗真菌薬、等張剤及び吸収遅延剤等を包含する。製薬上活性な物質のためのそのような媒体及び物質の使用は当技術分野において周知である。いかなる従来の媒体又は物質も、有効成分と不適合性である場合を除いて、治療組成物におけるその使用が考慮される。ヒト投与のためには、製剤は、FDA生物製剤基準局によって要求される無菌性、発熱性、及び全般的安全性及び純度基準を満たさねばならない。補足的有効成分を組成物に組み込むこともできる。
【0057】
これらの方法に関してここで使用する、「投与すること」という用語は、組成物を細胞又は患者に導入する様々な手段を指す。これらの手段は当技術分野において周知であり、例えば注射;錠剤、丸剤、カプセル又は経口投与用の他の固体;鼻用溶液又はスプレー;エーロゾル、吸入剤;局所製剤;リポソーム形態等を含み得る。ここで使用する、「有効量」という用語は、所望結果を生じさせる量を指し、当分野の通常技術の1つによって容易に決定され得る。
【0058】
本発明の組成物(例えば血管新生阻害性、血管新生促進性及び腫瘍形成阻害性)は、様々な投与手段のために製剤し得る。ここで使用する、投与の「経路」という用語は、皮下注射、静脈内注射、眼内注射、皮内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、気管内投与、硬膜外投与、吸入、鼻内の投与、経口への投与、舌下投与、口腔投与、直腸投与、膣投与及び局所投与を含むが、これらに限定されないことが意図されている。そのようなアペリンペプチド、抗アペリン抗体又は抗体断片、抗APJ抗体又は抗体断片、アペリン又はAPJアンチセンス核酸、アペリンおとり受容体、リボザイム、センスポリヌクレオチド、二本鎖RNA、RNAi、アプタマー又は低分子アゴニストを有効成分として含有する水性組成物の製造は、本発明の開示に照らして当業者には既知である。典型的には、そのような組成物は、液体溶液又は懸濁液のいずれかとしての注射剤;注射の前に液体を添加して溶液又は懸濁液を調製するための使用に適する固体形態として製造することができ、また製剤を乳化することもできる。
【0059】
注射用途に適する医薬形態は、無菌水溶液又は分散;ゴマ油、落花生油又は水性プロピレングリコールを含む製剤;及び無菌注射溶液又は分散の即時調製のための無菌粉末を含む。すべての場合に、前記形態は無菌でなければならず、そして注射できる程度に流動性でなければならない。製造及び保存条件下で安定であるべきであり、細菌及び真菌などの微生物の汚染作用に対して保護されるべきである。
【0060】
本発明の組成物(例えば血管新生阻害性、血管新生促進性及び腫瘍形成阻害性)は、中性又は塩形態の無菌水性組成物に製剤することができる。遊離塩基又は薬理的に許容される塩としての溶液は、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤と適切に混合された水中で調製することができる。製薬上許容される塩は、酸付加塩(タンパク質の遊離アミノ基で形成される)及び、例えば塩酸又はリン酸などの無機酸あるいは酢酸、トリフルオロ酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸等のような有機酸で形成されるものを含む。遊離カルボキシル基で形成される塩も、例えばナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム又は水酸化第二鉄などの無機塩基、及びイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカイン等のような有機塩基から誘導することができる。
【0061】
適切な担体は、例えば水、エタノール、ポリオル(例えばグリセロール、プロピレングリコール及び液体ポリエチレングリコール等)、それらの適切な混合物、及び植物油を含む溶媒及び分散媒質を包含する。多くの場合、等張剤、例えば糖類又は塩化ナトリウム、を含むことが好ましい。適切な流動性は、例えばレシチンなどの被覆物の使用によって、分散の場合は必要な粒径の維持によって、及び/又は界面活性剤の使用によって、維持することができる。
【0062】
保存及び使用の通常条件下では、そのようなすべての製剤は、微生物の増殖を予防するための防腐剤を含むべきである。微生物の作用の予防は、様々な抗菌薬及び抗真菌薬、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール等、によって実現できる。注射用組成物の長期的吸収は、吸収を遅延させる物質、例えばモノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンの組成物中での使用によって実現できる。
【0063】
製剤前又は製剤時に、本発明の組成物(例えば血管新生阻害性、血管新生促進性及び腫瘍形成阻害性)は、望ましくない低分子量分子を除去するために広汎に透析するか、及び/又は、適切な場合には、所望媒体へのより容易な製剤のために凍結乾燥すべきである。無菌注射用溶液は、必要量の活性物質を、所望に応じて、上記に列挙した様々な他の成分と共に適切な溶媒中に組み込み、その後ろ過滅菌することによって調製される。一般に、分散は、様々な滅菌した有効成分を、基本分散媒質及び上記に列挙したものから必要な他の成分を含む無菌媒体中に組み込むことによって調製される。
【0064】
無菌注射用溶液の調製のための無菌粉末の場合は、製造のための好ましい方法は、あらかじめ滅菌ろ過したその溶液から何らかの付加的な所望成分に加え有効成分の粉末を生じる真空乾燥及び凍結乾燥手法である。
【0065】
本発明に従った適切な医薬組成物は、一般に、意図される用途に依存して、最終濃度範囲を与えるために、無菌水溶液などの許容される製薬希釈剤又は賦形剤と混合した一定量の有効成分(例えばアペリンペプチド、抗アペリン抗体又は抗体断片、抗APJ抗体又は抗体断片、アペリン又はAPJアンチセンス核酸、アペリンおとり受容体、リボザイム、センスポリヌクレオチド、二本鎖RNA、RNAi、アプタマー又は低分子アゴニスト)を含有する。製剤の手法は、一般に、参照してここに組み込まれる、Remington’s Pharmaceutical Sciences,第16版、Mack Publishing Company,1980に例示されるように当技術分野において周知である。ヒト投与のためには、製剤が、FDA生物製剤基準局によって要求される無菌性、発熱性、及び全般的安全性及び純度基準を満たさねばならないことは認識されるべきである。
【0066】
1つの実施形態では、本発明は、アペリンを含有する血管新生促進性組成物を提供すること;推定上の血管新生調節因子を前記組成物と組み合わせること;前記組成物又は推定上の調節因子と組成物の前記組合せを血管新生予測モデルに導入すること;及び前記推定上の調節因子の存在下と不在下での前記モデルにおける血管分枝形成の量を比較することを含む、血管新生の調節因子を特定するための方法を提供する。好ましい実施形態では、前記組成物は、配列番号1において定義されるポリペプチド;配列番号2において定義されるポリペプチド;配列番号3において定義されるポリペプチド;配列番号4において定義されるポリペプチド;配列番号5において定義されるポリペプチド;及び前記a)からc)までのポリペプチド又はペプチドと少なくとも80%の配列同一性を有するポリペプチドから成る群より選択されるポリペプチド又はペプチドを含有する。本発明のもう1つの好ましい実施形態では、血管新生予測モデルは鶏胚漿尿膜(CAM)法である。
【0067】
本出願全体を通じて、様々な公表文献が引用される。これらの公表文献及びそれらの公表文献の中で引用される参考文献のすべての開示全体が、本発明が関係する技術水準をより詳細に説明するために、ここで参照して本出願に組み込まれる。
【0068】
また、前記は本発明の好ましい実施形態に関するものであり、その中で数多くの変更が、本発明の範囲から逸脱することなく実施され得ることも了解されるべきである。本発明を以下の実施例によってさらに説明するが、それらはいかなる意味においても本発明の範囲に限定を課すものと解釈されるべきではない。逆に、ここでの説明を読了した後、本発明の精神及び/又は付属の特許請求の範囲から逸脱することなく当業者に想起され得る、様々な他の実施形態、修正及びそれらの等価物に訴え得ることは、明確に了解されるべきである。
【0069】
(実施例)
実施例1
アペリン発現及びAPJ発現分布のPCR特性決定
グアニジンチオシアン酸塩法(ChomczynskiとSacchi,1987,Anal.Biochem.162:156−159)を使用して、全RNAをマウス卵黄嚢組織(陽性対照)、マウス胸大動脈(大動脈)及びマウス脳内皮細胞系(bend.3)から単離した。標準法を使用してこれらの組織からcDNAを作製し、APJ特異的プライマーを用いてAPJ配列のRT−PCR増幅を35サイクル実施した。
【0070】
図3Aの左側パネルに示すように、APJ転写産物は成体マウスの大動脈組織中に存在する。PCR産物を単離し、標準法を用いたDNA塩基配列決定によってAPJ配列の存在を確認した。図3Aの右側パネルはAPJ配列のRT−PCR検出の結果を示し、bend.3細胞(大動脈及び陽性対照試料と共に)におけるAPJ転写産物の存在を示している。
【0071】
APJ配列の検出(上記)のための使用したのと同じcDNA試料を、アペリン配列の検出のための鋳型として使用した。4つの異なるプライマー対をこの実験において使用し、すべての増幅を35サイクル実施した。マウス大動脈試料が検出可能なアペリン配列を含んでいなかったことに留意しなければならない。これに対し、bend.3マウス内皮細胞系はアペリン配列に関して陽性である(星印で示している)。この結果は、bend.3細胞系がアペリンとアペリン受容体、すなわちAPJの両方を発現することを指示する。
【0072】
実施例2
アペリン発現及びAPJ発現分布のインサイチューハイブリダイゼーション分析
APJ転写産物に対するアンチセンスプローブを使用して、カエル胚に関するインサイチューハイブリダイゼーションを実施した。
【0073】
ホールマウントインサイチューハイブリダイゼーション
Harland,R.M.,1991,Methods in Cell Biology 36:685−695において述べられた手法の修正法(Rob Garriockによって設計された修正法)によってインサイチューハイブリダイゼーションを実施した。このプロトコールのすべての工程において、胚は、4mlのねじ蓋付きガラス管に保存した。
【0074】
胚を4%PFA溶液(1×PBS中8%PFA保存溶液(ろ過済み)25ml)に固定した。胚又は胚小片を十分な容量の固定液に入れ、室温で2時間又は4℃で一晩、静かに揺り動かした。固定液を−20℃に冷却しておいたメタノールと交換した。胚は、その後、−20℃で数ヶ月間保存することができる。
【0075】
凍結胚を、一連の洗浄を通して染色のために再水和した。最初に胚を、75%メタノール:25%HO溶液2ml中で2分間、次いで50%メタノール:50%HO溶液2ml中で2分間洗浄する。次に、TTW(200mM NaCl、50mMトリス、pH7.4、0.1%トゥイーン20)で各々2分間ずつ2回洗浄した。洗浄の間、ガラス管を垂直に保持し、静かに揺り動かした。
【0076】
胚を、振とう機又はニューテーター(nutator)上で5−30分間、5μg/mlプロテイナーゼK(TTW5ml中25mg/ml保存溶液1μl)と共にバイアルに入れた。ステージ10−20の胚については、このインキュベーションは5分間であった。ステージ20−34の胚については、このインキュベーションは10分間であった;そしてステージ35−41の胚については、このインキュベーションは15−30分間であった。プロテイナーゼK処置後、胚をTTW中で5分間、1回洗浄した。次に胚を、PFA固定液(PBS中4%PFA)1−2ml中に室温で20分間(又は4℃でより長期間)再固定した。その後、PFA固定液を除去するためにTTW中で各々5分間ずつ3回、胚を洗浄した。
【0077】
胚を、RNAハイブリダイゼーション緩衝液(50%ホルムアミド、5X SSC、1mg/ml酵母RNA、1Xデンハルト溶液、0.1%トゥイーン20、5mM EDTA)2ml中65℃で1時間インキュベートすることによってプレハイブリダイズした。プレハイブリダイゼーション後、500μl−1mlのプローブを加え、胚を4時間から一晩インキュベートした。一連の洗浄を通して過剰のプローブを除去した。最初に、2X SSC約2mlにて37℃で各々20分間ずつ2回、胚を洗浄した。次に、RNアーゼカクテル(Ambionカタログ番号2286=1mg/ml RNアーゼA、20,000U/ml RNアーゼT1)1μl/5mlと2X SSC2ml中で30分間1回、胚を洗浄した。最後に、あらかじめ加熱しておいた65℃の0.2X SSC+0.01%トゥイーン20溶液中で各々1時間ずつ2−3回、胚を洗浄した。
【0078】
次に、1−2%B&Mブロッキング試薬と共にマレイン酸緩衝液(MAB緩衝液−総容量500mlについて水中マレイン酸5.8g及びNaCl 4.4g、pH7.5)1−2ml中で20分間1回、胚をインキュベートした。同時に、抗Dig抗体0.5−1μlを、MABブロック液5mlを抗体に添加し、20分間インキュベートすることによって前ブロックした。その後、胚をアルカリホスファターゼ複合抗ジゴキシゲニン抗体(MABブロック液(1ml)中1/5,000−10,000希釈)中で3時間(室温で)又は一晩(4℃で)インキュベートした。抗体溶液を除去し、ガラス管をMABで完全に満たして、側方のニューテーターで揺り動かした。あるいは、すべての洗浄工程を揺り動かしなしで実施することができる。短時間の2回の洗浄を室温で実施した後、4℃で一晩洗浄し、その後さらに6回(各々30分間)洗浄した。一部の場合は、胚を室温で10回(各々30分間)洗浄した。MAB中でさらに一晩の洗浄により、より清浄なインサイチュー結果を生じる。
【0079】
次に、新鮮アルカリホスファターゼ緩衝液(APB)(100mMトリス、pH9.5、50mM MgCl、100mM NaCl、0.1%トゥイーン20)中、室温で10分間胚をインキュベートした。あるいは、使用の直前に、最終濃度2mMとなるようにレバミゾールを緩衝液に添加した。APBを、APB及びニトロブルーテトラゾリウム(NBT)/5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルホスフェート(BCIP)を含むアルカリホスファターゼ反応緩衝液1−2mlと交換した。この反応緩衝液のために、APB 1mlにつきNBT2−4μl(70%ジメチルホルムアミド中75mg/ml保存溶液)及びBCIP 2−4μl(100%ジメチルホルムアミド中75mg/ml保存溶液)を加えた。
【0080】
染色が最適と思われるときに、反応を停止するために以下の手順を使用し、この手順は、染色強度に有害作用を及ぼすことなくバックグラウンド、特に外胚葉由来のバックグラウンドを低減させる傾向があった。以下に述べる手順との比較により、ブワン固定液(水70ml中又は1.3%飽和溶液70ml中ピクリン酸1g、37%ホルムアルデヒド25ml、氷酢酸5ml)の直接添加は、胚のまわりに除去が困難な沈殿物を形成させた。染色した胚を100%メタノール中で1時間インキュベートして、非特異的染色を除去した。次に、75%メタノール中で2分間、次いで50%メタノール中で2分間、最後にTTW中で各々5分間ずつ2回、胚を洗浄した。場合により黄色対比染色のためにブワン固定液と共に、胚をMEMPFA中に一晩固定した。次にMEMPFA固定胚をTTW中で洗浄し、観察して、50%グリセロール中で保存した。あるいは、グリセロール保存胚を、TTW中で数回洗浄し、エタノール中で脱水することによってパラフィン切片化することができる。ブワン固定液は反応を完全に停止させ、青色反応と良好に対比する良好な黄色バックグラウンド染色を与えたが、これらの胚は良好に切片化されなかった。
【0081】
観察し、保存する前に、胚を25%メタノール中で5分間、次いで50%メタノール中で5分間、75%メタノール中で5分間洗浄した後、100%メタノール中に入れた。着色した胚を使用する場合は、胚を、メタノール中の過酸化物/ホルムアミド溶液(30%H 1ml、10%ホルムアミド、70%メタノール)中で日光又は他の強力な光源に暴露することによって色素沈着を低下させた。これらの胚を、日光が胚を通って反射され、両側の脱色を生じさせるために、アルミ箔で覆ったペトリ皿上に置いた黒色ねじ蓋において脱色した。屋内光源も使用できるが、胚を脱色させるのにより長い時間を要する。
【0082】
胚を透明にするために、胚をガラスバイアルに移し、溶液を、ベンジルアルコール1:安息香酸ベンジル(BABB)2とメタノールに交換した。染色は、特に胚を光源に暴露した顕微鏡上に放置した後、BABB中で退色すると思われ、そのため観察後はメタノールに戻す。これは、深部への染色については理想的であるが、表面染色に関してはあまり好ましくない。胚を50−70%グリセロール溶液中で部分的に透明にし、容易に位置づけた。胚は最初、グリセロールに移す前に緩衝液中にいれなければならず、グリセロール中では、それらが溶液に平衡するまでしばらくの間放置しなければならない。胚はまた、4℃又は−20℃で永続的に保存することもできる。透明でない胚をメタノール/エタノール溶液又は純粋TTW又はPBS緩衝液中で写真撮影し、100%メタノールに戻した。
【0083】
グリセロール、BABB又はメタノールから、胚を100%エタノール溶液に移した。胚をグリセロール中で保存していた場合は、100%エタノール溶液に移す前に、最初にTTW中で数回洗浄してグリセロールを除去した。胚をBABB中で保存していた場合は、100%エタノール溶液に移す前に、最初にエタノール中で数回洗浄してBABBを除去した。胚をメタノール中で保存していた場合は、直接100%エタノール溶液に移した。脱水した胚からエタノールを傾瀉し、キシレンに交換した。胚をキシレン中で各々5分間ずつ2回インキュベートした。次にキシレンを除去し、融解したパラプラストと交換した。胚を融解パラプラスト中で各々30−60分間ずつ2回インキュベートした。最後に、胚を新鮮パラプラストに封入した。
【0084】
図4及び5は、アペリン及びAPJについて染色したインサイチューハイブリダイゼーション実験の結果を示す。これらのデータは、アペリンとAPJがいずれも発生中の血管系において発現されることを明らかにする。
【0085】
実施例3
血管増殖でのアペリンの作用の分析
アペリン浸漬ビーズの作用
ヒトとカエルの間で100%の配列同一性を示すアペリン13量体C末端ペプチド(配列番号4)を、Sigma−Genosysによって90%超の純度に合成した。製造工程の間の環化と低い収率を回避するためにN末端グルタミンをピログルタミン酸残基に改変した。最後の4つの残基がアラニン残基で置換された突然変異型対照アペリンペプチドも製造した。
【0086】
Affi−gelブルービーズ(Bio−Rad、直径50−75μm)を、アペリンペプチド(0.1mg/ml)、突然変異型アペリンペプチド(0.25mg/ml)、BSA(Sigma、1mg/ml)又はrm VEGF−164(R&D Systems、0.25mg/ml)中に氷上で1時間浸漬した。ビーズを、ステージ24−26の胚の無血管領域、後側板中胚葉にマイクロ手術にて移植した。胚をステージ35−37まで0.2X MMR中で培養し、その時点でそれらを実施例2で述べたようなホールマウントインサイチューハイブリダイゼーション用に調製した。ツメガエル血管マーカー、erg(Baltzingerら、1999,Dev.Dyn.216:420−33)をコードする転写産物に対するアンチセンスプローブを使用して、胚血管系を視覚化した。
【0087】
インサイチューハイブリダイゼーションの顕微鏡写真は、発生中の血管のアペリン浸漬ビーズの方への成長が存在することを示す(図6)。VEGF浸漬ビーズを使用したインサイチューハイブリダイゼーションの顕微鏡写真は、発生中の血管の、アペリン浸漬ビーズで示されたのとほとんど同じ成長が存在することを示す(データは示していない)。突然変異型アペリンペプチド又はBSAだけを含むビーズは、血管成長へのBSA又は突然変異型アペリンペプチドの目に見える作用を生じさせなかった(データは示していない)。
【0088】
鶏胚漿尿膜(CAM)法
鶏卵を加湿チェンバー内において37℃でインキュベートした。発生の10日目に、卵の外殻に小さなウインドウを作製し、CAMをその接着部から内殻膜に遊離させた。次に、増殖因子を含むろ紙を添加できるように卵により大きなウインドウを作製した。直径7−8mmのフィルターディスク(3MM Whatman)を、CAMの炎症を回避するために0.1%酢酸コルチゾン(Sigma)10μlで前処理した。増殖因子の適用前にフィルターディスクを空気乾燥させた。次に10μl容量のアペリン−13又はVEGF50ngをフィルターディスクに吸収させた:ディスクに吸収させたPBS 10μlを陰性対照として使用した。空気乾燥後、フィルターディスクをCAM上に置き、卵を3日間インキュベーターに戻した。次にフィルターディスクと接着CAMを切除し、PBSで洗って、ディスクの大きさに合わせて切断し、定量分析のために写真撮影した(図7A及び7B)。血管分枝点の数を、盲検プロトコールを用いて判定した。結果は、3回の独立した実験の平均±s.e.m.で示している(図7C)。
【0089】
これらのデータは、対照PBSに暴露したCAM(図7A)に比較して、アペリン−13に暴露したCAM(図7B)では血管形成及び血管の漏出の両方が上昇したことを示し、このアッセイにおけるアペリン−13の血管新生作用を明らかにする。このCAMアッセイの結果に基づき、アペリンが、血管新生因子及び/又は血管透過性因子として、VEGFに非常に類似した作用を示したことは注目すべきである。
【0090】
実施例4
血管増殖及び遊走へのアペリンの作用
ウシ大動脈内皮細胞(BAE)を、10%ウシ胎仔血清(FBS)及びペニシリン/ストレプトマイシンを添加したDMEM中で培養した。APJを発現する安定な細胞系統を生成するために、マウスAPJコード領域を、CMVプロモーターの下流、前記タンパク質のC末端のmycエピトープとインフレームで、及びネオマイシン遺伝子の上流位置で、pcDNA3.1ベクターにクローニングした。ウシ大動脈内皮細胞(BAE)を、Superfectトランスフェクションキット(Qiagen)を使用してこの構築物でトランスフェクトし、G418(600μg/ml)に対する耐性に関して選択した。コロニーを単離し、RT−PCRを用いてマウスAPJの発現に関して、及び免疫細胞化学によってmycエピトープの発現に関してスクリーニングした。合計14クローンがマウスAPJを発現することが認められ、これらの1つ(BAE/APJ No.2)を増殖及び移動アッセイの両方のために使用した。
【0091】
8穴培養スライド(VWR)において70%の集密度でプレートしたBAE/APJ No.2細胞を48時間血清飢餓させ、その後DMEM中のアペリン(10ng/ml)、VEGF(10ng/ml)又はFGF−2(10ng/ml)、あるいはDMEM単独で24時間刺激した。VEGFR2受容体のリン酸化をブロックするVEGF経路阻害因子SU1498(Sigma)を使用して、増殖阻害実験を実施した。SU1498を10ng/mlの濃度で増殖培養物に含め、BrdU組込みを用いて結果を検定した。増殖因子のインキュベーション後、BrdUを10μMの最終濃度で各々の穴に2時間添加し、細胞を洗浄して、BrdU免疫細胞化学のために固定した。
【0092】
細胞を4℃で2時間から一晩、100%氷冷メタノール中に固定した。染色の前に、細胞を空気乾燥し、PBS緩衝液で3分間再水和した。DNAを2M HClによって37℃で変性し、0.1Mホウ酸緩衝液(pH8.5)中で5分間ずつ2回の洗浄によって中和した。細胞をPBSで各々5分間ずつ3回洗い、1%正常ヤギ血清/2%BSA中で30分間ブロックした。ブロック液中のFITC標識抗BrdU抗体(5μg/ml)を室温で1時間で添加した。細胞をPBS緩衝液で数回洗浄した後、ヨウ化プロピジウムで対比染色した。各々の実験について、パーセンテージBrdU標識の測定のために4つのランダムな領域を写真撮影した。図8Bに示す結果は、3回の独立した実験の平均±S.E.M.である。これらのデータは、アペリンがVEGFと同様の程度に内皮細胞増殖を促進することを明らかにしており、またアペリンはVEGF阻害因子の存在下でもまだ増殖を促進することができたので、VEGFとアペリンは異なる経路を通してこの増殖を開始させることを示唆する。
【0093】
8ミクロンの細孔径のTranswell細胞培養遊走チェンバー(Becton Dickinson)を使用して細胞遊走アッセイを実施した。BAE/APJ No.2細胞を、遊走チェンバーの上部チェンバーにおいて1×10mlの濃度で、100μl中に無血清条件下でプレートした。膜への細胞付着後、10ng/mlの増殖因子を底部チェンバーに総容量0.5mlで添加した。細胞をDMEM中の増殖因子又はDMEM単独で16時間刺激し、その時点で上部チェンバーに残っている細胞を、綿棒を用いて取り除いた。PBSで簡単に洗浄した後、残りの細胞を4℃で1時間、3.7%ホルムアルデヒド中に固定した。下部チェンバーにおいて膜に付着した細胞をDAPIで染色し、各々の実験条件について3つのランダムな領域を計数した。図8Aに示す結果は、3回の独立した実験の平均±S.E.M.である。これらのデータは、アペリンが内皮細胞遊走を促進することを明らかにしている。
【0094】
実施例5
血管増殖でのアンチセンス核酸の作用
アンチセンスモルホリノオリゴヌクレオチド(MO)(Gene Tools,Philomath,OR)を用いて機能喪失実験を実施し、その結果を図9に示す。すべてのモルホリノオリゴヌクレオチドをGene Toolsからの推奨に基づいて設計した。アペリン転写産物の両方のアフリカツメガエル(Xenopus laevis)偽対立遺伝子コピーからの翻訳をブロックするために、開始ATGが重複する2つの異なるアンチセンスオリゴヌクレオチドを設計した。
【0095】
使用したプライマーは以下の通りであった;
ap1 5’−GTGCCCAAAGTCTGAGATTCATGTT−3’(配列番号6(SEQ ID NO:6))及び
ap2 5’−GATTCATGTTTCTTGTGGCTGAGTG−3’(配列番号7(SEQ ID NO:7))。
【0096】
ap2モルホリノオリゴヌクレオチドに対して5塩基対ミスマッチの対照モルホリノオリゴヌクレオチド(ap2mm)を設計した:
ap2mm 5’−GATTgATcTTTgTTGTGcCTcAGTG−3’(配列番号8(SEQ ID NO:8));ミスマッチ塩基を小文字で示す。
【0097】
APJ転写産物の両方のコピーからの翻訳をブロックするために設計した1個のアンチセンスモルホリノオリゴヌクレオチドを、開始ATGのすぐ上流で標的した:
apj 5’−AAGGCTGTGTGGAAGCAATAGAAAG−3’(配列番号9(SEQ ID NO:9))。
【0098】
apjモルホリノオリゴヌクレオチドに対して5塩基対ミスマッチの対照配列(apjmm)を設計した:
apjmm 5’−AAGcCTcTGTGcAAcCAATAcAAAG−3’(配列番号10(SEQ ID NO:10));ミスマッチ塩基を小文字で示す。
【0099】
モルホリノオリゴヌクレオチドを50mM HEPES緩衝液(pH8.0)に再溶解し、カエル胚に注入した。ap1 MOを15ng/胚で注入し、ap2及びapj MOは7.5ngで注入した。ミスマッチ対照、ap2mmとapjmmは実験用量の2倍(15ng)で使用した。MOを、系統トレーサーとしてのTexas Red Dextran(10ng;Molecular Probes)と共に2細胞胚の1つの細胞に注入した。胚をステージ35まで成長させ、その時点で、血管マーカー、ergを用いたインサイチューハイブリダイゼーションによって検定した。
【0100】
ap1モルホリノ注入は、胚の67%(N=76)において胚血管の血管新生増殖の阻害を生じさせた(図9B)。脈管形成のこの低下は、血管新生機構によって発達する体節間血管の欠如によって明らかに裏付けられた。胚における血管新生増殖でのアペリンの作用を確認するために、ap1モルホリノの配列に重複するap2モルホリノを使用した。半分の濃度(7.5ng)を使用して、ap2モルホリノはまだ胚の63%(N=64)において体節間血管形成の喪失を生じさせた(データは示していない)。同様に、APJ受容体に対するアンチセンスモルホリノ7.5ngは、胚の71%(N=48)において血管の血管新生増殖の低下を生じさせた(データは示していない)。これに対し、ap2mm又はapjmmミスマッチ対照モルホリノ15ngは、胚の血管増殖に検出可能な変化を生じさせなかった(データは示していない)。これらのデータは、アペリンの阻害が胚血管の血管新生増殖の阻害をもたらすことを明瞭に示している。
【0101】
実施例6
ヒト腫瘍におけるアペリン発現
154のヒト腫瘍から作製したcDNAを担持するドットブロット膜をBD Biosciences(San Jose,CA)より入手した。各々腫瘍試料は、同じ個人からの隣接非腫瘍組織を伴った。ヒトアペリン配列の約2kb断片を、標準プロトコール(FeinbergとVogelstein,1984)を用いて、ランダムプライミング法によって32Pで標識した。32P標識プローブを、ドットブロット膜と共にBDより提供されたハイブリダイゼーション溶液(BD ExpressHyb(商標)ハイブリダイゼーション溶液)中で、ドットブロット膜と一晩ハイブリダイズした。ハイブリダイゼーション後、前記膜を、あらかじめ温めておいた洗浄液I(2X SSC、0.5%SDS)により68℃で30分間洗浄し、続いて68℃の洗浄液I中で各々30分間ずつさらに2回洗浄した。次に膜をあらかじめ温めておいた洗浄液II(0.2X SSC、0.5%SDS)により68℃で各々30分間ずつ2回洗浄した。その後膜をプラスチックラップで包み、増感紙の存在下に−80℃で17時間、X線フィルムに露出した。隣接非腫瘍組織と比較して、154の腫瘍試料の約3分の1において(154試料のうち58)アペリン発現が上昇した(図10A)。
【0102】
アペリンプローブを、煮沸0.5%SDS溶液中で30−40分間洗浄することによって膜から取り除いた。次に膜を、公知の血管新生剤の発現に関する陽性対照であるヒトVEGF−A(約700塩基断片)に関して32P標識プローブでスクリーニングした。ハイブリダイゼーション及び洗浄条件はアペリンプローブの場合と同じであった。VEGF mRNA発現も、非腫瘍組織試料対照と比較して、ヒト腫瘍試料の約3分の1において(154試料のうち54)上方調節された(図10B)。
【0103】
最初に32P標識アペリンプローブでプローブし、次に除去して32P標識VEGF−Aプローブでプローブした、BD Biosciencesより入手した第二の膜(154のヒト腫瘍及び非腫瘍組織対照から作製したcDNAを担持する)に関しても同様の結果を得た(データは示していない)。これらのデータは、腫瘍形成の促進におけるアペリンの役割と一致して、非腫瘍組織に比べてヒト腫瘍の有意の割合においてアペリンの発現が上方調節されることを明らかにする。
【0104】
実施例7
アペリン発現の低酸素誘導性調節
低酸素条件下では、様々な遺伝子の発現は低酸素誘導因子−1α(HIF−1α)と称される転写因子によって調節される。腫瘍増殖の間、新しい血管成長を刺激するように働く低酸素の期間が存在すると考えられる。アペリンが血管新生を促進することに関与することがここで示されたので、ヒト、マウス及びゼブラフィッシュのアペリン遺伝子の配列及びそれらの周囲の配列を、アペリン発現がHIF−1αによって調節され得るかどうかを判定するために分析した。HIF−1α認識部位についてのコンセンサス配列はBACGTGK(配列番号11(SEQ ID NO:11))である。このコンセンサス配列において、BはC、G又はTヌクレオチドを表わすが、Aヌクレオチドではない;KはG又はTヌクレオチドを表わす。
【0105】
図11は、2−4個のHIF−1α認識部位がアペリン調節領域内に存在することを示す。位置決定されたすべての部位が、VISTA転写因子結合部位解析ソフトウエアによれば、0.88以上の信頼値を有していた。ヒトアペリン領域は、−4.5kb(転写開始部位から4.5kb上流)に位置するHIF−1α部位(GAGACGTGGA(配列番号12(SEQ ID NO:12)):VISTA信頼値=0.899)及びイントロン1内の3つの部位(転写開始部位の約+713bp、+2.4kb及び+5.4kb下流に位置する)を含んだ。これら3つの部位の関連配列及び信頼値は、それぞれCAGACGTGACA(配列番号13(SEQ ID NO:13);VISTA信頼値=0.964)、TGTACGTGG(配列番号14(SEQ ID NO:14);VISTA信頼値=0.964)及びAATGACGTGATG(配列番号15(SEQ ID NO:15);VISTA信頼値=0.916)である。
【0106】
同様に、マウスアペリン調節領域は、転写開始部位に対して−4.3kb及び+916bpの2つのHIF−1α認識部位を含む。ゼブラフィッシュ調節領域は、転写開始部位に対して約−3.4kb、+1kb、+1.4kb及び+2.3kbの4つのHIF−1α認識部位を含む。
【0107】
VEGF−A遺伝子も2つのHIF−1αコンセンサス部位を含むことが示されたが、約−975bpの部位(TACGTGGG(配列番号16(SEQ ID NO:16)))だけが低酸素応答のために必要である。それ故、アペリン調節領域内の1又はそれ以上のコンセンサス配列も低酸素応答のためには必要でない可能性がある。
【0108】
HIF−1αコンセンサス部位がアペリン調節領域内に存在するので、アペリン発現が低酸素応答性であり、HIF−1αによって調節されるかどうかを判定するための実験を実施した。低酸素条件下でのアペリン発現の上方調節は、腫瘍血管新生の促進におけるアペリンの役割と一致する。培養中の一次ラット心筋細胞及び塩化コバルトによる処理を用いた予備実験を行った。HIF−1αは金属応答性転写タンパク質であるので(LadouxとFrelin,1994;Piretら、2002;MaxwellとSalnikow,2004)、この手法は、低酸素条件下で細胞を培養することの等価物として容認されている。胎仔ラット心筋細胞をプレートし、10%ウシ胎仔血清及びペニシリン/ストレプトマイシンを添加したDMEM(Invitrogen,Carlsbad,CA)中37℃で培養した。4日間の培養後、培地を除去し、150μM塩化コバルトを含む新鮮培地で細胞を処理した(Piretら、2002)。対照細胞は、塩化コバルトを含まない新鮮培地で処理した。4時間の培養後、細胞を採集し、製造者の推奨に従って(Invitrogen,Carlsbad,CA)トリゾル(Trizol)手法を用いて全RNAを抽出した。
【0109】
標準手順を用いてcDNAを作製した後、塩化コバルト処理試料と未処理試料を、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、及び基準化対照としてのGAPDHに配列特異的なプライマー、陽性対照としての血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、又はアペリンを使用して、転写産物レベルに関して検定した。PCR後、増幅産物をアガロースゲルで分別し、紫外線下での臭化エチジウム染色を用いて視覚化した(図12)。GADPH発現を、鋳型濃度に関する標準化対照として検定し、VEGF発現を、低酸素条件に応答することが公知の陽性対照として検定した。図12Cに示すように、アペリン発現は、低酸素環境を模倣するこれらの条件に応答して有意に上昇した。これらの条件下でのアペリンのこの上方調節は、アペリンが腫瘍血管新生において役割を果たすことを強く示唆する。
【0110】
(アペンディクス)
【化1】

【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】カエルアペリンポリペプチドとヒトアペリンポリペプチドのC末端の13アミノ酸のアミノ酸配列アラインメントであり、C末端の13アミノ酸が2つの配列間で同一であることを示す。
【図2】アペリン/APJシグナル伝達経路の図式的表示である。
【図3】図3Aは電気泳動ゲルの2枚の写真であり、成体マウス組織及びマウス内皮細胞系におけるAPJ転写産物のRT−PCR検出を示す。図3Bは電気泳動ゲルの写真であり、胎生卵黄嚢及びマウス内皮細胞系におけるアペリン転写産物のRT−PCR検出を示す。
【図4】インサイチューハイブリダイゼーションプロトコールを使用してAPJ転写産物を検出した、カエル胚の顕微鏡写真である。これらのデータは、APJが形成中の血管系において強く発現されることを示す。この図では、「is」は体節間血管を表わし、後主静脈は「pcv」で示す。APJは、この図に示すように、ツメガエルでは「X−msr」としても知られる。
【図5】(A)アペリンアンチセンス配列又は(B)APJアンチセンス配列のいずれかでプローブしたカエル胚のインサイチューハイブリダイゼーションの顕微鏡写真である。これらのデータは、アペリンとAPJの両方が、形成中の血管において、特に増殖中の体節間血管において発現されることを示す。パネルAはアペリンの発現を示し、パネルBはAPJの発現を示す。
【図6】血管を視覚化するために血管マーカーで染色したカエル胚のインサイチューハイブリダイゼーションの顕微鏡写真であり、アペリン浸漬ビーズの方への血管系の成長を示す。この場合、プローブは血管転写因子ergについての転写産物を検出する。13アミノ酸のアペリンペプチドに浸漬したビーズをカエル胚に移植し、それを矢印で示している。パネルAとBは同じ胚の異なる倍率を示し、A)は50倍、B)は150倍である。パネルCとDは同じ胚の異なる倍率を示し、C)は50倍、D)は150倍である。
【図7】鶏胚漿尿膜(CAM)法の結果を示す。パネルA及びBは、A)PBS緩衝液又はB)アペリン−13 50ngで処理しておいた膜に関連して形成された血管の顕微鏡写真である。パネルCは、2回のCAMアッセイからの結果の定量を示すグラフである(単位は分枝/単位面積である)。膜は、表示されているように、PBS緩衝液、VEGF 50ng又はアペリン−13 50ngで処理しておいた。パネルBは、アペリンが血管形成の上昇ならびに血管からの漏出の上昇をもたらすことを明らかにしている。これらの結果は、アペリンが、鶏CAM法を用いて検定したとき、血管新生因子として及び/又は血管透過性因子として、VEGFと同様の作用を有することを示す。
【図8】図8Aは10ng/mlのアペリン又はVEGFに応答したウシ大動脈内皮(BAE)細胞の遊走の増加を示すグラフである。血管遊走は、領域当りの細胞の数によって測定する。各々の膜について4つの領域の合計を算定し、実験を各々3回実施して、±s.e.m.で表わした。図8BはVEGF経路の阻害剤SU1498の存在下又は不在下で、VEGF又はアペリンに応答したウシ大動脈内皮(BAE)細胞の増殖を示すグラフである。示されている結果は、3回の実験の平均値±s.e.m.である。これらのデータは、VEGF経路の阻害剤SU1498がVEGFを介した増殖を部分的に阻害するが、アペリン媒介性増殖には有意の作用を及ぼさないことを示す。
【図9】発生中の血管を視覚化するために、血管マーカーergの転写産物を検出するように染色したカエル胚のインサイチューハイブリダイゼーションの顕微鏡写真である。パネルAは、カエル胚の注射していない側を示す。パネルBは、カエル胚の、ap1アペリンアンチセンスモルホリノ(morpholino)を注射した側を示す。これらのデータから、胚におけるアペリンタンパク質が減少することで血管成長が途絶することが示される。
【図10】ヒト腫瘍の有意の部分におけるアペリンmRNAの発現を示す。膜(BD Biosciences,San Jose,CA、カタログ番号7847−1)は、種々の組織の154のヒト腫瘍からのcDNA、ならびに腫瘍試料の各々に対応する同じ個人の非腫瘍隣接組織からの対照試料を含んだ。図10Aは、約2kbの32P標識アペリンプローブとハイブリダイズしたドットブロット膜のオートラジオグラフ(17時間の露光)である。図10Bは、約700塩基の32P標識VEGF−Aプローブとハイブリダイズしたドットブロット膜のオートラジオグラフ(17時間の露光)である。
【図11】推定上のHIF−1α認識配列を表した、ヒト、マウス及びゼブラフィッシュのアペリン遺伝子の調節領域の図式的表示である。
【図12】低酸素環境を模倣した状態が遺伝子発現に及ぼす影響を明らかにする、電気泳動ゲルの写真を示す。一次ラット心筋細胞を、10%ウシ胎仔血清及びペニシリン/ストレプトマイシンを添加したDMEM(Invitrogen,Carlsbad,CA)中、37℃で4日間培養した。次に培地を取り出し、細胞を新鮮培地(U)又は塩化コバルト(Co)150μMを含む新鮮培地で処置した(Piretら、2002)。パネルAは、GADPHプライマーセットを用いて生成したPCR産物の電気泳動ゲルを示す;パネルBは、GADPHプライマーセットを用いて生成したPCR産物の電気泳動ゲルを示す;及びパネルCは、GADPHプライマーセットを用いて生成したPCR産物の電気泳動ゲルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.生物学的試料を提供すること;及び
b.前記試料を、血管新生阻害量又は腫瘍形成阻害量のアペリン活性の阻害剤を含有する組成物と組み合わせること
を含む、生物学的試料において血管新生又は腫瘍形成を阻害する方法。
【請求項2】
前記組成物が前記生物学的試料において血管透過性を低下させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記組成物が、受容体ポリペプチドとのアペリンポリペプチド又はアペリンペプチドの相互作用を妨げる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記組成物が、APJとのアペリンポリペプチド又はアペリンペプチドの相互作用を妨げる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記組成物が抗癌剤をさらに含み、前記抗癌剤が、化学療法剤、放射線療法剤、抗血管新生剤及びアポトーシス誘導剤から成る群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記組成物が、VEGF、FGF、PDGFB、EGF、LPA、HGF、PD−ECF、IL−8、アンギオゲニン、TNF−α、TGF−β、TGF−α、プロリフェリン及びPLGFから成る群より選択される血管新生因子を阻害する抗血管新生剤を含有する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記組成物が抗アペリン抗体又はその断片を含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記抗体又はその断片が、
a.配列番号1において定義されるポリペプチド;
b.配列番号2において定義されるポリペプチド;
c.配列番号3において定義されるポリペプチド;
d.配列番号4において定義されるポリペプチド;
e.配列番号5において定義されるポリペプチド;及び
f.前記a)からe)までのポリペプチドと少なくとも80%の配列同一性を有するポリペプチド
から成る群より選択されるポリペプチドに結合する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記抗体又はその断片が配列番号1のポリペプチドに結合する、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記抗体又はその断片が配列番号2のポリペプチドに結合する、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記抗体又はその断片が配列番号3のポリペプチドに結合する、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記抗体又はその断片が配列番号4のポリペプチドに結合する、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
前記抗体又はその断片が配列番号5のポリペプチドに結合する、請求項7に記載の方法。
【請求項14】
前記抗体又はその断片が、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4又は配列番号5のポリペプチド又はペプチドと少なくとも90%の配列同一性を有しAPJと相互作用するポリペプチドに結合する、請求項7に記載の方法。
【請求項15】
アペリン活性の阻害剤が抗APJ抗体又はその断片である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記抗体又はその断片が、配列番号17において定義されるポリペプチドに結合する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記抗体又はその断片が、配列番号17において定義されるポリペプチドと少なくとも80%の配列同一性を有するポリペプチドに結合する、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記アペリン活性の阻害剤が、アペリンアンチセンス核酸、おとり受容体、リボザイム、センスポリヌクレオチド、二本鎖RNA、RNAi、アプタマー及び低分子アンタゴニストから成る群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記アペリン活性の阻害剤が、APJアンチセンス核酸、おとり受容体、リボザイム、センスポリヌクレオチド、二本鎖RNA、RNAi、アプタマー及び低分子アンタゴニストから成る群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記アペリン活性の阻害剤が、アルギニン残基の後でポリペプチドを特異的に切断するセリンプロテアーゼの阻害剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記組成物が製薬上許容される担体を含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記生物学的試料が哺乳動物からのものである、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記生物学的試料がヒト生物学的試料である、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記生物学的試料が患者中に存在する、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記組成物が、皮下注射、静脈内注射、眼内注射、皮内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、気管内投与、硬膜外投与、吸入、鼻内投与、経口投与、舌下投与、口腔投与、直腸投与、膣投与及び局所投与から成る群より選択される投与法によって導入される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記患者が、血管新生又は腫瘍形成を含む疾患又は状態を有する、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記疾患又は状態が、卒中、血管腫、固形腫瘍、白血病、リンパ腫、骨髄腫、転移、毛細血管拡張性乾癬性強皮症、化膿性肉芽腫、心筋の血管新生、プラーク新生血管形成、コロラニー側枝、虚血四肢血管新生、角膜疾患、ルベオーシス、血管新生緑内障、糖尿病性網膜症、水晶体後線維増殖症、関節炎、糖尿病性新生血管形成、黄斑変性、創傷治癒、消化性潰瘍、骨折、ケロイド、脈管形成、造血、排卵、月経、胎盤形成、多嚢胞性卵巣症候群、不正子宮出血、子宮内膜過形成及び癌、子宮内膜症、着床不全(failed implantation)及び正常以下の胎児成長、子宮筋層フィブロイド(子宮平滑筋腫)及び子宮腺筋症、卵巣過刺激症候群及び卵巣癌から成る群より選択される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
c.患者に治療有効量の抗癌剤を投与すること
をさらに含み、前記抗癌剤が、化学療法剤、放射線療法剤、抗血管新生剤、アポトーシス誘導剤から成る群より選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項29】
前記抗癌剤が抗血管新生剤である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記抗血管新生剤が、VEGF、FGF、PDGFB、EGF、LPA、HGF、PD−ECF、IL−8、アンギオゲニン、TNF−α、TGF−β、TGF−α、プロリフェリン及びPLGFから成る群より選択される血管新生因子の阻害剤である、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
a.患者由来の生物学的試料を提供すること;及び
b.前記試料を、アペリン活性の阻害剤を含有する血管透過性低下量の組成物と組み合わせること
を含む、生物学的試料において血管透過性を低下させる方法。
【請求項32】
前記患者が、卒中、血管腫、固形腫瘍、白血病、リンパ腫、骨髄腫、転移、毛細血管拡張性乾癬性強皮症、化膿性肉芽腫、心筋の血管新生、プラーク新生血管形成、冠状動脈側枝、虚血四肢血管新生、角膜疾患、ルベオーシス、血管新生緑内障、糖尿病性網膜症、水晶体後線維増殖症、関節炎、糖尿病性新生血管形成、黄斑変性、創傷治癒、消化性潰瘍、骨折、ケロイド、脈管形成、造血、排卵、月経、胎盤形成、多嚢胞性卵巣症候群、不正子宮出血、子宮内膜過形成及び癌、子宮内膜症、着床不全及び正常以下の胎児成長、子宮筋層フィブロイド(子宮平滑筋腫)及び子宮腺筋症、卵巣過刺激症候群及び卵巣癌から成る群より選択される疾患又は状態を有する、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
a.生物学的試料を提供すること;及び
b.前記試料を、アペリン活性を含有する生物学的有効量の血管新生促進性組成物と組み合わせること
を含む、生物学的試料において血管新生を促進する方法。
【請求項34】
前記組成物が、VEGF、FGF、PDGFB、EGF、LPA、HGF、PD−ECF、IL−8、アンギオゲニン、TNF−α、TGF−β、TGF−α、プロリフェリン及びPLGFから成る群より選択される血管新生因子をさらに含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記血管新生促進性組成物が、アルギニン残基の後でポリペプチドを特異的に切断するセリンプロテアーゼを含有する、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
前記組成物が、
a.配列番号1において定義されるポリペプチド;
b.配列番号2において定義されるポリペプチド;
c.配列番号3において定義されるポリペプチド;
d.配列番号4において定義されるポリペプチド;
e.配列番号5において定義されるポリペプチド;及び
f.前記a)からe)までのポリペプチドと少なくとも80%の配列同一性を有するポリペプチド
から成る群より選択されるポリペプチドを含有する、請求項33に記載の方法。
【請求項37】
前記組成物が、配列番号1において定義されるポリペプチドを含有する、請求項33に記載の方法。
【請求項38】
前記組成物が、配列番号2において定義されるポリペプチドを含有する、請求項33に記載の方法。
【請求項39】
前記組成物が、配列番号3において定義されるポリペプチドを含有する、請求項33に記載の方法。
【請求項40】
前記組成物が、配列番号4において定義されるポリペプチドを含有する、請求項33に記載の方法。
【請求項41】
前記組成物が、配列番号5において定義されるポリペプチドを含有する、請求項33に記載の方法。
【請求項42】
前記組成物が低分子アゴニストを含有する、請求項33に記載の方法。
【請求項43】
前記アペリン組成物が、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4又は配列番号5のポリペプチド又はペプチドと少なくとも90%の配列同一性を有し、及びAPJと相互作用するポリペプチドを含有する、請求項33に記載の方法。
【請求項44】
前記生物学的試料が哺乳動物由来のものである、請求項33に記載の方法。
【請求項45】
前記生物学的試料がヒト生物学的試料である、請求項33に記載の方法。
【請求項46】
前記生物学的試料が患者に存在する、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記組成物が、皮下注射、静脈内注射、眼内注射、皮内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、気管内投与、硬膜外投与、吸入、鼻内投与、経口投与、舌下投与、口腔投与、直腸投与、膣投与及び局所投与から成る群より選択される投与法によって導入される、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記組成物が製薬上許容される担体を含有する、請求項33に記載の方法。
【請求項49】
前記患者が、血管新生の低下によって示される疾患又は状態を有する、請求項46に記載の方法。
【請求項50】
前記疾患又は状態が、糖尿病、関節炎、虚血、貧血、創傷、壊疽又は壊死から成る群より選択される、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
a.アペリンを含有する血管新生促進性組成物を提供すること;
b.推定上の血管新生調節因子を前記組成物と組み合わせること;
c.前記組成物又は推定上の調節因子と組成物の前記組合せを血管新生予測モデルに導入すること;及び
d.前記推定上の調節因子の存在下と不在下での前記モデルにおける血管分枝形成の量を比較すること
を含む、血管新生の調節因子を特定するための方法。
【請求項52】
前記組成物が、
a.配列番号1において定義されるポリペプチド;
b.配列番号2において定義されるポリペプチド;
c.配列番号3において定義されるポリペプチド;
d.配列番号4において定義されるポリペプチド;
e.配列番号5において定義されるポリペプチド;及び
f.前記a)からe)までのポリペプチドと少なくとも80%の配列同一性を有するポリペプチド
から成る群より選択されるポリペプチドを含有する、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記組成物が、配列番号1において定義されるポリペプチドを含有する、請求項51に記載の方法。
【請求項54】
前記組成物が、配列番号2において定義されるポリペプチドを含有する、請求項51に記載の方法。
【請求項55】
前記組成物が、配列番号3において定義されるポリペプチドを含有する、請求項51に記載の方法。
【請求項56】
前記組成物が、配列番号4において定義されるポリペプチドを含有する、請求項51に記載の方法。
【請求項57】
前記組成物が、配列番号5において定義されるポリペプチドを含有する、請求項51に記載の方法。
【請求項58】
前記組成物が、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4又は配列番号5のポリペプチド又はペプチドと少なくとも90%の配列同一性を有し、及びAPJと相互作用するポリペプチドを含有する、請求項51に記載の方法。
【請求項59】
前記血管新生予測モデルが鶏胚漿尿膜(CAM)法である、請求項51に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2006−523209(P2006−523209A)
【公表日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−507153(P2006−507153)
【出願日】平成16年3月12日(2004.3.12)
【国際出願番号】PCT/US2004/007738
【国際公開番号】WO2004/081198
【国際公開日】平成16年9月23日(2004.9.23)
【出願人】(504352250)アリゾナ ボード オブ リージェンツ オン ビハーフ オブ ザ ユニバーシティー オブ アリゾナ (2)
【Fターム(参考)】