説明

アルカリエッチング液の処理装置及び処理方法

【課題】シリコンをエッチング処理したアルカリエッチング液をエッチング槽から引き抜き、膜分離手段で膜分離処理してエッチング槽に循環するアルカリエッチング液の処理において、シリカ除去効率の向上、不純物の蓄積を防止して低シリカ濃度の透過水をエッチング槽に返送する。
【解決手段】2以上のNF膜モジュールを2段目以降のNF膜モジュールにそれぞれ前段のNF膜モジュールの濃縮水を供給するように直列に連結し、1段目のNF膜モジュール1A,1Bの透過水をエッチング槽10に循環し、2段目以降のNF膜モジュール2〜4の透過水を1段目のNF膜モジュール1A,1Bの供給水側に循環する。従来の濃縮水循環に起因する系内のシリカ濃度の上昇によるシリカ除去性能の低下、不純物の蓄積の問題を解決することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリエッチング液の処理装置及び処理方法に関するものであり、特に結晶系シリコン基板の表面をエッチングしてテクスチャ面を形成する場合などに好適なアルカリエッチング液の処理装置及び処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽電池用の基板として用いられる結晶系シリコン基板には、入射光の光路長を長くして発電効率を向上させるために、表面に微細なピラミッド状の凹凸が設けられている。このようなシリコン基板は、例えば、濃度0.05〜0.2mol/LのNaOH又はKOHなどのアルカリ性溶液と、0.01mol/L以上の濃度のカプリル酸やラウリン酸を主成分とする界面活性剤との混合溶液をエッチング液とし、シリコン基板の表面をエッチング(テクスチャエッチング)することにより得ることができる(特許文献1)。このエッチング液は、シリコンの溶解速度を上げるために高アルカリ性(高pH)である必要があり、また、シリコン表面に凹凸をつけるために、前記カプリル酸やラウリン酸などの有機物を含有している。そのような有機物としては、イソプロピルアルコール(IPA)などを用いることもある(特許文献2)。
【0003】
上記アルカリエッチング液は、エッチングの回数を重ねるごとにpHが低下すると共に、エッチング液中のSiO(シリカ)濃度、及びシリコンにドープされていたリン(P)、ホウ素(B)などのドーパント濃度が上昇する。また、カプリル酸などの有機添加物の濃度は減少する。これにより、エッチング速度が低下すると共に、微細な凹凸面を形成することが困難になる。従って、一定期間ごとにエッチング液を交換する必要がある。
【0004】
特許文献3に記載されるエッチング液の処理装置では、エッチング液に溶解したリンやホウ素などのドーパントを、吸着、析出又は電気的収集によってエッチング液から分離するための収集槽を設け、エッチング液を再利用している。しかしながら、交換頻度を十分に減少させることはできず、また、収集槽において金属塩や多孔質物質などとエッチング液とを接触させているため、金属塩及び多孔質物質由来の不純物がエッチング液に混入するおそれもある。
【0005】
このような問題を解決するものとして、シリコンから溶出したシリカ等を含むエッチング液をエッチング槽から抜き出してナノ濾過(NF)膜分離処理することによりエッチング液中のシリカ等を除去してエッチング槽に循環させる方法が提案された(特許文献3)。この特許文献3の方法によれば、エッチング液を従来に比べて長期間使用することができ、エッチング液の交換頻度を減少させることができる。
【0006】
この特許文献3の方法では、エッチング槽からエッチング液を抜き出し、NF膜で膜分離処理し、シリカ等が除去された透過水をエッチング槽に循環し、濃縮水の一部を系外へ排出し、残部をエッチング槽に返送するフィードアンドブリード方式が採用される。即ち、通常、NF膜はその用途として濃厚溶液を扱うため、濃縮水量を多くして濃度分極を防ぐためにフィードアンドブリード方式を採用して、供給水量を増やすことが行われている。
【0007】
しかしながら、本発明者らの検討により、シリカ含有アルカリ溶液であるアルカリエッチング液をフィードアンドブリード方式でNF膜分離処理する場合、次のような問題があることが判明した。
【0008】
即ち、シリカ除去率が90%を超えるNF膜では高除去率の特徴を持つ反面、緻密に製造されているため、透過水量が著しく少なく、所望の透過水量を得るためには、大量のNF膜が必要となる。特に、アルカリエッチング液はアルカリ濃度が高く高粘性であるため、透過水量が少ない。
【0009】
これに対して、50〜80%程度のシリカ除去率のNF膜を用いると、低除去率ではあるが、比較的空隙率が高い構造となっているため、透過水量を多くすることができ、NF膜の必要本数を少なくすることができる。
また、このような低除去率のNF膜を複数段直列に連結して多段処理を行うことにより、より一層透過水量を増やすことができる。
即ち、例えば、図2に示すように、NF膜モジュール11,12を2段直列に設け、エッチング槽10からのエッチング液を中継槽10Aを経てポンプPで第1のNF膜モジュール11に導入してNF膜分離処理し、第1のNF膜モジュール11の透過水をエッチング槽10に循環して濃縮水を第2のNF膜モジュール12でNF膜分離処理し、第2のNF膜モジュール12の透過水をエッチング槽10に循環して濃縮水の一部を系外へ排出し、残部を中継槽10Aに戻すフィードアンドブリード方式の2段処理により、透過水回収率を高めることができる。
【0010】
しかしながら、フィードアンドブリード方式を用いて濃縮水を供給水側に循環させて処理している多段NF膜分離処理系において、低シリカ除去率のNF膜を用いると、系内に循環している液のシリカ濃度が高くなり、エッチング槽に戻すNF膜透過水として低シリカ濃度のものが得られなくなる。
例えば、シリカ除去率50%のNF膜を用いてシリカ濃度2%のエッチング液を処理する場合、NF膜透過水のシリカ濃度は1%となるが、このようなNF膜を3段に直列に連結して処理した場合、3段目のNF膜でシリカが高濃縮された濃縮水が供給水側に循環されるため、1段目のNF膜供給水のシリカ濃度は、例えば3%となり、このNF膜供給水をシリカ除去率50%のNF膜で膜分離処理した場合、透過水のシリカ濃度は1.5%となり、系全体としてのシリカ除去率は50%ではなく25%(エッチング液のシリカ濃度2%に対して、NF膜透過水のシリカ濃度は1.5%であるため、シリカ除去率は(2−1.5)/2×100=25%となる。)となってしまう。
【0011】
このように、エッチング液のNF膜分離処理において、濃縮水を循環するフィードアンドブリード方式は、高濃度シリカ含有濃縮水を循環することとなるため、結果としてシリカ除去効率は著しく低いものとなる。
また、濃縮水中には、シリカのみならず、重金属、有機物、リン、ホウ素などのドーパント由来のイオン等のエッチング液中の不純物が濃縮されており、このような濃縮水を循環することは、系内及びエッチング槽におけるこれらの不純物の蓄積の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2002−57139号公報
【特許文献2】特開2006−278409号公報
【特許文献3】国際公開WO2010/113792号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上述のような問題を解決するものであって、エッチング液の多段NF膜分離処理において、シリカ除去効率の向上、不純物の蓄積を防止して低シリカ濃度の透過水をエッチング槽に返送することができるアルカリエッチング液の処理装置及び方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、従来の濃縮水循環方式に代えて、透過水を膜供給水側に循環することにより、系内のシリカ濃度の上昇によるシリカ除去性能の低下、不純物の蓄積の問題を解決することができることを見出し、透過水循環のための多段NF膜モジュールの構成を構築して本発明に到達した。
即ち、本発明は以下を要旨とするものである。
【0015】
[1] シリコンをエッチング処理したアルカリエッチング液をエッチング槽から引き抜いて膜分離手段で膜分離処理し、該エッチング槽に循環するアルカリエッチング液の処理装置において、該膜分離手段は、2以上のナノ濾過膜モジュールが、2段目以降のナノ濾過膜モジュールにそれぞれ前段のナノ濾過膜モジュールの濃縮水が膜供給水として導入されるように直列に連結されてなり、該ナノ濾過膜モジュールの透過水の一部を前記エッチング槽に循環する第1の透過水循環手段と、該透過水の残部の少なくとも一部を1段目のナノ濾過膜モジュールの供給水側に循環する第2の透過水循環手段とを有することを特徴とするアルカリエッチング液の処理装置。
【0016】
[2] [1]において、前記第1の透過水循環手段は、前記第1段目のナノ濾過膜モジュールの透過水の少なくとも一部を前記エッチング槽に循環する手段であり、前記第2の透過水循環手段は、前記第2段目以降のナノ濾過膜モジュールの透過水の少なくとも一部を該第1段目のナノ濾過膜モジュールの供給水側に循環する手段であることを特徴とするアルカリエッチング液の処理装置。
【0017】
[3] [1]又は[2]において、前記第1段目のナノ濾過膜モジュールの水濃縮率が前記第2段目以降のナノ濾過膜モジュールの水濃縮率よりも小さいことを特徴とするアルカリエッチング液の処理装置。
【0018】
[4] [1]ないし[3]のいずれかにおいて、前記ナノ濾過膜モジュールのシリカ除去率が50〜80%であることを特徴とするアルカリエッチング液の処理装置。
【0019】
[5] シリコンをエッチング処理したアルカリエッチング液をエッチング槽から引き抜いて膜分離処理して循環するアルカリエッチング液の処理方法において、該アルカリエッチング液を、2以上のナノ濾過膜モジュールが、2段目以降のナノ濾過膜モジュールにそれぞれ前段のナノ濾過膜モジュールの濃縮水が膜供給水として導入されるように直列に連結された膜分離手段で膜分離処理し、該ナノ濾過膜モジュールの透過水の一部を前記エッチング槽に循環すると共に、該透過水の残部の少なくとも一部を1段目のナノ濾過膜モジュールの供給水側に循環することを特徴とするアルカリエッチング液の処理方法。
【0020】
[6] [5]において、前記第1段目のナノ濾過膜モジュールの透過水の少なくとも一部を前記エッチング槽に循環し、前記第2段目以降のナノ濾過膜モジュールの透過水の少なくとも一部を該第1段目のナノ濾過膜モジュールの供給水側に循環することを特徴とするアルカリエッチング液の処理方法。
【0021】
[7] [5]又は[6]において、前記第1段目のナノ濾過膜モジュールの水濃縮率が前記第2段目以降のナノ濾過膜モジュールの水濃縮率よりも小さいことを特徴とするアルカリエッチング液の処理方法。
【0022】
[8] [5]ないし[7]のいずれかにおいて、前記ナノ濾過膜モジュールのシリカ除去率が50〜80%であることを特徴とするアルカリエッチング液の処理方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、NF膜濃縮水ではなく、透過水を膜供給水側に循環するため、濃縮水循環に起因する系内のシリカ濃度の上昇によるシリカ除去性能の低下、不純物の蓄積の問題を軽減することができる(請求項1,5)。
【0024】
本発明においては、多段に連結したNF膜モジュールのうち、第1段目のNF膜モジュールの透過水をエッチング槽に循環してエッチング液として再利用し、2段目以降のNF膜モジュールの透過水を膜供給水として第1段目のNF膜モジュールの入口側に循環することが好ましく、この場合には、低シリカ除去率のNF膜であっても、シリカが高濃縮されていない1段目のNF膜モジュールにおいて、低シリカ濃度の透過水を得ることができ、これをエッチング槽に循環して有効に再利用することができる。また、1段目のNF膜モジュールでシリカが濃縮された濃縮水を更に膜分離処理する2段目以降のNF膜モジュールでは、得られる透過水のシリカ濃度は、1段目のNF膜モジュールの透過水のシリカ濃度よりも高くなることから、この透過水は、エッチング槽に循環せず、膜供給水として1段目のNF膜の入口側に循環することが好ましい(請求項2,6)。
【0025】
本発明によれば、従来の濃縮水循環による系内循環液のシリカ濃度の上昇が防止されるため、シリカ除去率50〜80%程度の低シリカ除去率のNF膜であっても十分にシリカが除去された透過水を得ることができ、低シリカ除去率のNF膜を用いて透過水量を増やすことができ、この結果、NF膜の必要本数を低減することができる(請求項3,7)。
【0026】
また、本発明においては、第1段目のNF膜モジュールの水濃縮率を第2段目以降のNF膜モジュールの水濃縮率よりも小さく設定し、第1段目のNF膜モジュールの水濃縮率を小さくすることにより、このNF膜モジュールの出口側の濃度分極を小さく抑え、これにより高シリカ除去率を達成し、一方で、第2段目以降のNF膜モジュールでは水濃縮率を大きくして高濃縮し、系外へ排出する濃縮水量を低減することが、回収率の向上の面で好ましい(請求項4,8)。
【0027】
このように、本発明によれば、2以上に多段に連結したNF膜モジュールのうち、前段側のNF膜モジュール、好ましくは第1段目のNF膜モジュールを、エッチング槽に循環するための低濃度シリカアルカリ液を得るためのNF膜モジュールとし、後段側のNF膜モジュール、好ましくは第2段目以降のNF膜モジュールを、シリカや不純物を濃縮して系外へ排出するためのNF膜モジュールとして、それぞれ機能分担させることにより、低シリカ除去率のNF膜を用い、NF膜の必要本数を抑えた上で、低シリカ濃度の透過水を高い回収率で得、これをエッチング槽に循環して再利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態に係るアルカリエッチング液の処理装置を示す系統図である。
【図2】従来の処理装置を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0030】
図1は本発明の実施形態に係るアルカリエッチング液の処理装置を示す系統図であり、この実施の形態では、NF膜モジュールが4段に直列に連結されている。このうち、1段目は、2つのNF膜モジュール1A,1Bが並列に設けられており、2段目以降はそれぞれ1つのNF膜モジュール2,3,4が直列に連結されている。
【0031】
エッチング槽10内のアルカリエッチング液は、その一部が配管20より中継槽10Aに抜き出され、中継槽10A内のエッチング液は、ポンプPにより、配管21,21A,21Bを経て第1段目のNF膜モジュール(「第1NF膜モジュール」と称す場合がある。)1A,1Bに導入されてNF膜分離処理される。この第1NF膜モジュール1A,1Bの透過水は、配管22A,22B,22を経てエッチング槽10に循環され、第1NF膜モジュール1A,1Bの濃縮水は、配管23A,23B,23を経て第2段目のNF膜モジュール(「第2NF膜モジュール」と称す場合がある。)2に導入されてNF膜分離処理される。第2NF膜モジュール2の濃縮水は配管25を経て第3段目のNF膜モジュール(「第3NF膜モジュール」と称す場合がある。)3に導入されてNF膜分離処理され、この第3NF膜モジュール3の濃縮水は更に配管27より第4段目のNF膜モジュール(「第4NF膜モジュール」と称す場合がある。)4に導入されてNF膜分離処理される。第4NF膜モジュール4の濃縮水は配管28より系外へ排出される。一方、第2,第3,第4NF膜モジュール2,3,4の透過水は、それぞれ配管24,26,29及び配管30を経て中継槽10Aに循環される。
【0032】
本発明で処理されるアルカリエッチング液は、通常、NaOHを0.05〜3mol/L、特に1〜1.5mol/L程度含有すると共に、0.01mol/L以上、例えば、0.1〜0.2mol/Lの有機添加剤を含有する。該有機添加剤としては、カプリル酸、ラウリン酸などの界面活性剤のほか、イソプロピルアルコールなどが例示される。
【0033】
エッチング槽10内のアルカリエッチング液中には、半導体ウェハ等の結晶性シリコンウェハがケーシングにセットされて浸漬されており、複数枚のシリコンウェハが同時にテクスチャされる。このテクスチャ処理によりシリコンからケイ素及びドーパントが溶出する。エッチング槽10内のエッチング液は、通常80〜90℃程度に加温されている。
【0034】
NF膜は、周知の通り、UF(限外濾過)膜とRO(逆浸透)膜の間の細孔径を有し、かつ、膜素材表面に電荷を持つ膜である。NF膜としては、少なくとも2価以上の多価イオンを除去することできるものが用いられ、2価以上の多価イオンを選択的に除去するものであってもよい。
【0035】
2価以上の多価イオンを選択的に除去するNF膜を用いた場合は、エッチング液からリン酸などの多価イオンが除去される。この場合、NF膜透過水はpH13〜14程度のアルカリ性となり、1価のケイ酸イオン(例えば、HSiO)を含有したものとなる。なお、ケイ素は、pH13以上の高アルカリ条件下でその一部が2価イオン(例えば、SiO2−)となっている。従って、エッチング液をpH13以上とすることにより、SiO2−や、2価の縮合ケイ酸イオンがエッチング液から除去される。
【0036】
本発明においては、特に透過水量を多くすることができる低シリカ除去率のNF膜、例えばシリカ除去率50〜80%程度のNF膜を用いることが好ましく、このようなNF膜を用いても従来の濃縮水循環方式とは異なり、透過水を循環する本発明によれば、シリカ濃度を十分に低減した透過水を得、これをエッチング槽に循環することができる。また、このような低シリカ除去率のNF膜は、アルカリの除去率も低いことから、エッチング槽に循環する透過水中のアルカリ濃度を高め、アルカリの回収再利用効率も高めることができる。
【0037】
また、透過水をエッチング槽に循環する第1NF膜モジュール1A,1Bにおいては、水濃縮率を下げて運転することが、NF膜モジュールの出口側での濃度分極を小さくして低シリカ濃度の透過水を得る上で好ましく、一方、透過水を循環する後段側のNF膜モジュールでは、水濃縮率を大きくして濃縮水側にシリカを高濃縮することが好ましい。
このようなことから、図1において、第1NF膜モジュール1A,1Bの水濃縮率は2倍以下、例えば1.2〜1.8倍程度とし、第2NF膜モジュール以降の後段のNF膜モジュールの水濃縮率は2.5倍以上、例えば2.5〜5倍とすることが好ましい。
【0038】
図1のアルカリエッチング液の処理装置では、エッチング槽からのアルカリエッチング液と、第2〜第4NF膜モジュール2〜4から循環された透過水とを含む、シリカ濃度がさほど高くない液が膜供給水として第1NF膜モジュール1A,1Bに導入され、この第1NF膜モジュール1A,1Bにおいて、低シリカ除去率のNF膜であっても、十分にシリカ濃度が低減された透過水を得、これをエッチング槽10に循環して再利用することができる。また、低シリカ除去率のNF膜により、透過水中のアルカリ残留率を高め、アルカリ回収効率を高めることができる。
【0039】
この第1NF膜モジュール1A,1Bの濃縮水は更に第2NF膜モジュール2、第3NF膜モジュール3及び第4NF膜モジュール4で順次濃縮され、シリカやその他の不純物が高濃縮された濃縮水が系外へ排出され、各々の透過水、即ち、シリカやその他の不純物濃度が比較的低い透過水が中継槽10Aに循環されるため、第1NF膜モジュール1A,1Bの供給水のシリカ濃度の上昇が抑制され、また、不純物の系内蓄積も防止される。
【0040】
系外へ排出された第4NF膜モジュール4の濃縮水は廃水処理に供されるが、その処理方法としては、中和、凝集沈殿、晶析などが挙げられる。NF膜モジュールの濃縮水は、強いアルカリ性となっているので、中和を行うことが必要となるが、本発明によれば、高濃度のアルカリ液に含まれるケイ素成分などを膜処理により分離し、透過水をエッチング槽に戻すようにしているため、エッチング液が汚れてきたときにエッチング槽内のエッチング液の全量を廃水処理工程に送る場合に比べて廃水量が減少するので、廃水処理工程における中和に必要な酸の量を低減させるなど、廃水処理工程の負荷を減らすことができる。
【0041】
このように、最終段のNF膜モジュールの濃縮水を系外に排出して廃液処理工程に送給するため、運転を行っている間、エッチング槽10内の液位を一定に保つように、エッチング槽10に新鮮なエッチング液を補充する。この新鮮なエッチング液は、エッチングを開始する前の未使用のエッチング液と同一のものである。
【0042】
図1に示すアルカリエッチング液の処理装置は本発明の実施の形態の一例であって、本発明は何ら図示のものに限定されるものではない。
【0043】
例えば、NF膜モジュールは2段以上の多段に直列に設けられていればよく、図1のような4段構成に限らず、2段又は3段、或いは5段以上であってもよい。また、必ずしも1段目のNF膜モジュールを2基並列に設ける必要はなく、1基であってもよい。更に3基並列に設けてもよく、2段目以降のNF膜モジュールについても複数のNF膜モジュールを並列に設けてもよい。
ただし、1段目のNF膜モジュールについては、より多くの透過水量を得るために、2以上のNF膜モジュールを並列に設けることが好ましいが、2段目以降のNF膜モジュールについては、多段濃縮を行うために、1基を多段に設けることが好ましい。
【0044】
また、1段目のNF膜モジュールの透過水の全量をエッチング槽に循環せずに、一部を中継槽(第1段目のNF膜モジュールの入口側)に循環して膜供給水としてもよく、2段目以降のNF膜モジュールの一部をエッチング槽に循環したり、或いは2段目以降のNF膜モジュールの一部、例えば最終段の透過水の一部を系外へ排出してもよい。
【0045】
また、図示はされていないが、第1段目のNF膜モジュールの前段にUF膜モジュールを設け、予めアルカリエッチング液中に含まれる微粒子や、ケイ素成分などが重合した重合体及びその他ドーパントなどのポリイオンコンプレックスをUF膜モジュールによって除去してもよく、これにより、NF膜モジュールへの通水負荷を下げることができる。
【0046】
この場合、UF膜モジュールのUF膜としては、細孔径が2〜100nm、分画分子量が1000〜30万程度のものが好ましい。また、UF膜の素材としては、酢酸セルロース、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデンなどが好適である。
【0047】
また、NF膜モジュールの透過水をエッチング槽に循環する配管には、透過水中のNa等のアルカリ濃度測定手段及び界面活性剤、IPA等の有機添加剤濃度を計測する濃度計測手段と、これらの計測手段により計測した透過水中のアルカリ濃度、有機添加剤濃度に応じて透過水にアルカリ、有機添加剤を添加する手段を設けてもよい。
【0048】
この場合、アルカリの濃度計測手段としては、pH計、中和滴定、超音波などが挙げられ、有機添加剤の濃度計測手段としては、TOC計、IR(赤外線)、ラマン分光、紫外吸光、可視吸光などが挙げられる。また、透過水に添加されるアルカリ、有機添加剤は、エッチング槽内のエッチング液中のアルカリ、有機添加剤と同一のものである。
【0049】
また、第1段目のNF膜モジュールの供給水の液温(T)を調節するための液温調節手段、及びエッチング槽に循環される透過水の液温(T)を調節するための液温調節手段の少なくとも一方の液温調節手段を備えてもよく、特に、第1段目のNF膜モジュール供給水の液温(T)を調節するための液温調節手段とエッチング槽に循環される透過水の液温(T)を調節するための液温調節手段とを備え、第1段目のNF膜モジュール供給水とエッチング槽に循環される透過水とで熱交換を行うようにしてもよい。このような液温調節手段によって液温(T)を調節した場合、以下の作用効果で2価のケイ酸イオンの除去率を高めることができる。
【0050】
2価のケイ酸イオンの除去率は、水の解離平衡定数の温度依存性に起因しており、熱力学的に導出される式(1)により説明することができる。
【0051】
【数1】

【0052】
(1)式において、Kは水のイオン積、Tは絶対温度、Rは気体定数、Δθは標準反応エンタルピーである。左辺の添字pは定圧下での平衡であることを示す。
【0053】
上記の式(1)から明らかな通り、温度上昇によって水のイオン積Kが小さくなるため、溶液のpHが下がり、解離が起こりにくくなる。つまり、除去すべき2価のケイ酸イオンの存在量が小さくなる。従って、2価のケイ酸イオンの除去効率を上げるためには、低温での処理が好ましい。なお、液温が低すぎるとNF膜の透過水量が低下するため、2価のケイ酸イオンと透過水量はトレードオフの関係となっている。従って、エッチング液の組成などに応じて液温設定及びNF膜本数を考慮することが好ましい。
【0054】
具体的には、第1段目のNF膜モジュールの供給水の液温(T)は、10〜50℃、特に15〜30℃程度が好ましい。液温(T)が50℃よりも高い液を通水すると、2価のケイ酸イオンの除去率が低下すると共に、膜モジュールに不具合が生じるおそれがあり、10℃よりも低い温度の液を通水すると、NF膜の透過水量が低下するおそれがある。
【実施例】
【0055】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。説明の便宜上、まず比較例について説明する。
【0056】
[比較例1]
図2のようにエッチング槽10内のエッチング液を中継槽10Aを経てポンプPにより、供給水量16L/minでNF膜モジュール11,12に順次通水して処理し、各々のNF膜モジュール11,12の透過水をエッチング槽10に循環し、NF膜モジュール12の濃縮水の一部(NF膜モジュール11の供給水に対して20%=3.2L/min)を系外へ排出し、残部を中継槽10Aに循環した。処理したエッチング液(原水)の水質は表1に示す通りである。NF膜モジュール11,12のNF膜としては、それぞれKOCH社製8inch NF膜「MPS−34」(SiO除去率:90%,TOC除去率:50%)を用いた。
【0057】
運転開始から2時間後の安定運転状態におけるエッチング槽10に循環される透過水(NF膜モジュール11の透過水とNF膜モジュール12の透過水の混合液)の水質とNF膜モジュール12の濃縮水(一部が供給水として循環され、残部は系外排出)の水質は表1に示す通りであった。
【0058】
[実施例1]
比較例1におけると同水質のエッチング液(原水)を図1に示す本発明のアルカリエッチング液の処理装置で処理した。
NF膜モジュール1A,1B、2,3,4のNF膜としては、それぞれNADIR社製4inch NF膜「NP−030」(SiO除去率:60%,TOC除去率:50%)を用い、処理水量(NF膜モジュール1A,1Bへの合計の供給水量)は比較例1と同様に16L/minとし、第1NF膜モジュール1A,1Bの濃縮水は全量を第2NF膜モジュール2へ供給し、第2NF膜モジュール2の濃縮水は全量を第3NF膜モジュール3に供給し、第3NF膜モジュールの濃縮水は全量を第4NF膜モジュール4に供給し、第4NF膜モジュール4は、その濃縮水量が比較例1と同様に3.2L/minとなるように流量を調整し、この第4NF膜モジュール4の濃縮水は全量を系外へ排出した。また、第1NF膜モジュール1A,1Bの透過水は全量をエッチング槽10に循環し、第2〜第4NF膜モジュール2〜4の透過水は全量を中継槽10Aに循環した。
このとき、第1NF膜モジュール1A,1Bの水濃縮率は1.2倍、第2NF膜モジュール2の水濃縮率は2.5倍、第3NF膜モジュール3の水濃縮率は2.2倍、第4NF膜モジュール4の水濃縮率は2倍であった。
【0059】
運転開始から2時間後の安定運転状態におけるエッチング槽10に循環される透過水(第1NF膜モジュール1A,1Bの透過水の混合液)の水質、系外へ排出される第4NF膜モジュール4の濃縮水の水質、及び中継槽10Aに循環される透過水(第2〜第4NF膜モジュール2〜4の透過水の混合液)の水質は表1に示す通りであった。
【0060】
【表1】

【0061】
表1より次のことが明らかである。
【0062】
濃縮水を系内循環する比較例1と、透過水を系内循環する実施例1とでは、エッチング槽に循環する透過水のシリカ濃度はほぼ同等であり、TOC濃度については実施例1の方が6割程度に低減され、エッチング槽へのTOC負荷が小さくなる。一方、Na濃度は実施例1の方が高く、アルカリの回収再利用効率が高い。
また、系外へ排出する濃縮水量は比較例1、実施例1で同等にしているが、Naの濃縮水濃度としては実施例1の方が低く、実施例1の方が系外へ排出されてしまうNa量が少ないことが分かる。即ち、実施例1の方がアルカリの回収循環量も多くなる。これは、実施例1で用いた低シリカ除去率のNF膜の方がNaの除去率も低いため、濃縮水のNa濃度上昇を抑えられることによる。
これに対して、比較例1で用いたNF膜は、シリカ除去率が高くなる分、合わせてNa除去率も上がるため、濃縮水のNa濃度も高くなっている。
濃縮水のTOC(有機物:シリコンウェハを切削するときに付着したクーラント由来であることが考えられるが未特定)の除去率については、比較例1も実施例1も同等であった。
【符号の説明】
【0063】
1A,1B,2,3,4 NF膜モジュール
10 エッチング槽
10A 中継槽
11,12 NF膜モジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンをエッチング処理したアルカリエッチング液をエッチング槽から引き抜いて膜分離手段で膜分離処理し、該エッチング槽に循環するアルカリエッチング液の処理装置において、
該膜分離手段は、2以上のナノ濾過膜モジュールが、2段目以降のナノ濾過膜モジュールにそれぞれ前段のナノ濾過膜モジュールの濃縮水が膜供給水として導入されるように直列に連結されてなり、
該ナノ濾過膜モジュールの透過水の一部を前記エッチング槽に循環する第1の透過水循環手段と、該透過水の残部の少なくとも一部を1段目のナノ濾過膜モジュールの供給水側に循環する第2の透過水循環手段とを有することを特徴とするアルカリエッチング液の処理装置。
【請求項2】
請求項1において、前記第1の透過水循環手段は、前記第1段目のナノ濾過膜モジュールの透過水の少なくとも一部を前記エッチング槽に循環する手段であり、前記第2の透過水循環手段は、前記第2段目以降のナノ濾過膜モジュールの透過水の少なくとも一部を該第1段目のナノ濾過膜モジュールの供給水側に循環する手段であることを特徴とするアルカリエッチング液の処理装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記第1段目のナノ濾過膜モジュールの水濃縮率が前記第2段目以降のナノ濾過膜モジュールの水濃縮率よりも小さいことを特徴とするアルカリエッチング液の処理装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記ナノ濾過膜モジュールのシリカ除去率が50〜80%であることを特徴とするアルカリエッチング液の処理装置。
【請求項5】
シリコンをエッチング処理したアルカリエッチング液をエッチング槽から引き抜いて膜分離処理して循環するアルカリエッチング液の処理方法において、
該アルカリエッチング液を、2以上のナノ濾過膜モジュールが、2段目以降のナノ濾過膜モジュールにそれぞれ前段のナノ濾過膜モジュールの濃縮水が膜供給水として導入されるように直列に連結された膜分離手段で膜分離処理し、
該ナノ濾過膜モジュールの透過水の一部を前記エッチング槽に循環すると共に、該透過水の残部の少なくとも一部を1段目のナノ濾過膜モジュールの供給水側に循環することを特徴とするアルカリエッチング液の処理方法。
【請求項6】
請求項5において、前記第1段目のナノ濾過膜モジュールの透過水の少なくとも一部を前記エッチング槽に循環し、前記第2段目以降のナノ濾過膜モジュールの透過水の少なくとも一部を該第1段目のナノ濾過膜モジュールの供給水側に循環することを特徴とするアルカリエッチング液の処理方法。
【請求項7】
請求項5又は6において、前記第1段目のナノ濾過膜モジュールの水濃縮率が前記第2段目以降のナノ濾過膜モジュールの水濃縮率よりも小さいことを特徴とするアルカリエッチング液の処理方法。
【請求項8】
請求項5ないし7のいずれか1項において、前記ナノ濾過膜モジュールのシリカ除去率が50〜80%であることを特徴とするアルカリエッチング液の処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−134237(P2012−134237A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283323(P2010−283323)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】