説明

イオンビームの照射強度測定装置

【課題】 構造が簡単であり、基材に照射されるイオンビームの照射強度と極めて相関関係の高い検出器における照射強度を正確に測定でき、しかも基材に照射されるイオンビームの照射強度が略目標照射強度となるようにすること。
【解決手段】 真空チャンバ内で蒸発材料を蒸発させて基板及びモニタガラス25に蒸着させ、基板及びモニタガラス25にイオンビーム10を照射して蒸発材料の薄膜を基板及びモニタガラス25に形成するイオンアシスト蒸着装置において、モニタガラス25に設けられイオンビーム10の照射強度を検出する検出器23と、検出器23に照射されるイオンビーム10の照射強度が略目標照射強度となるように、検出器23が検出する照射強度に基づいてイオンガンに制御信号を出力するイオン電流密度制御部とを備えるイオンビームの照射強度測定装置6であり、その制御信号に基づいてイオンビーム10をイオンガンが出射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば真空蒸着成膜装置内で基材に薄膜を形成する際に、その基材に照射されるイオンビームの照射強度を測定するためのイオンビームの照射強度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、真空蒸着成膜装置である例えばイオンアシスト蒸着装置を使用して分光フィルタが製造されている。この分光フィルタには、例えば基板の表面に五酸化タンタル及び二酸化珪素の2種類の材料を交互に積層したものがある。この分光フィルタを、イオンアシスト蒸着装置を使用して製造するときは、真空チャンバ内に五酸化タンタル及び二酸化珪素の2種類の蒸発源、並びに基板を配置する。そして、五酸化タンタル及び二酸化珪素の各蒸発材料を加熱して蒸発させる。このとき、この2種類の各蒸発材料が真空チャンバ内で交互に飛散するように構成されている。これによって、基板の表面には、2種類の各蒸発材料が交互に蒸着する。そして、各蒸着材料が基板の表面に蒸着する際には、その蒸着表面にイオンビームを照射する。このイオンビームを照射することによって、緻密性が高く、所定の屈折率及び透過率等の分光特性を有する薄膜を基板の表面に形成することができる。このようにして、多層薄膜層を備える分光フィルタを製造することができる。
【0003】
しかし、基板の表面に多層薄膜層を形成するには、例えば十数時間以上掛かる場合があり、このとき、イオンビームを出射するイオンガンのグリッド孔の内周縁に、蒸発材料が蒸着してイオンの引き出し条件が変化することがある。このように、イオンの引き出し条件が変化すると、イオンビームの基板面に対する照射強度が経時的に変化するので、基板表面に所定の分光特性を有する多層薄膜層を形成することができないことがある。
【0004】
そこで、多層薄膜層の各薄膜を基板の表面に順次形成する場合に、それぞれの薄膜を形成するそれぞれの前段階で、イオンビームの照射強度を測定装置で測定して、イオンビームが所定の許容範囲内の照射強度で照射されていることを確認した上で、各層の薄膜を形成することが行われている。
【0005】
このイオンビームの照射強度測定装置として、例えば図5に示すものがある(例えば、特許文献1参照。)。この測定装置1は、同図に示すイオンセンサ2に照射されるイオンビーム3aのイオン電流密度を測定して、その測定して得られた電流密度に基づいて、イオンビーム3aの照射強度を演算するものである。図5(a)に示す状態は、イオンセンサ2がイオン源3に向かう測定位置に設定されており、この状態でイオンビーム3aの照射強度を測定することができる。次に、オペレータは、イオンビーム3aが所定の照射強度で照射されていることを確認した上で、保持機構部4を回転させて、基板5をイオン源3に向かう成膜位置に設定する。この状態で、薄膜を形成する材料を蒸発させることによって、基板5に薄膜を形成することができる。
【0006】
なお、イオンセンサ2及び基板5は、イオン源3に向かうそれぞれの測定位置及び成膜位置において、略同一の照射強度でイオンビーム3aが照射されるように設定される。よって、イオンビーム3aが所定の照射強度で基板5に照射されるので、基板5の表面に所定の分光特性を有する薄膜を形成することができる。図5(b)は、イオンセンサ2を示す正面図である。
【特許文献1】特開平8−233943号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、図5に示す従来の測定装置1では、イオンセンサ2及び基板5を、測定位置及び成膜位置に回転移動させるための保持機構部4を必要とするので、その分の費用が嵩むし、測定装置1が大がかりとなる。
【0008】
そして、イオンセンサ2によって測定して得られた測定照射強度が、許容範囲外である場合は、オペレータは、イオンセンサ2によって測定される測定照射強度が所定の許容範囲内となるように、イオンガンから出射されるイオンビーム3aの出射強度の設定を補正する必要があり、この設定を変更する操作がオペレータの大きな負担となっている。
【0009】
また、基板5に多層薄膜層を形成する場合は、十数時間以上掛かることがあるが、この多層薄膜層の形成中は、イオンビーム3aの出射強度を補正できるように、オペレータは待機しておく必要があり、このことも大きな負担となっている。
【0010】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、構造が簡単であり、基材に照射されるイオンビームの照射強度と同一、又は極めて相関関係の高い検出器における照射強度を正確に測定することができるイオンビームの照射強度測定装置、及び基材に照射されるイオンビームの照射強度が所定の目標照射強度若しくはそれに近い照射強度となるようにすることができるイオンビームの照射強度測定装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るイオンビームの照射強度測定装置は、真空チャンバ内で蒸発材料を蒸発させて、前記蒸発材料を基材及び前記基材に形成される薄膜の膜厚をモニタするためのモニタ透光体に蒸着させ、前記基材及び前記モニタ透光体にイオンビームを照射して前記蒸発材料の薄膜を前記基材及び前記モニタ透光体に形成する成膜装置において、前記イオンビームの照射強度を検出するための検出器を、前記モニタ透光体に設けたことを特徴とするものである。
【0012】
このイオンビームの照射強度測定装置が使用される成膜装置は、真空チャンバ内で蒸発材料を蒸発させて、その蒸発材料を基材及びモニタ透光体に蒸着させると共に、基材及びモニタ透光体にイオンビームを照射することによって、基材及びモニタ透光体に蒸発材料の薄膜を形成するものである。そして、これら基材に薄膜が形成されていくときに、モニタ透光体に形成されていく薄膜の膜厚を例えば光学式膜厚モニタ装置によって監視することができる。そして、膜厚を監視しながら成膜装置を制御することによって、基材に所定の目標膜厚の薄膜を形成することができる。また、所定の目標照射強度のイオンビームを基材及びモニタ透光体に照射することによって、所定の目標分光特性を有する薄膜をそれぞれに形成することができる。
【0013】
なお、モニタ透光体及び基材は、それぞれに形成される薄膜の厚み及び分光特性が互いに略同一、又は極めて相関関係が高くなる位置に配置されており、これによって、モニタ透光体及び基材に略同一、又は対応する分光特性を有する薄膜を形成することができる。
【0014】
そこで、この発明に係るイオンビームの照射強度測定装置によると、イオンビームの照射強度を検出するための検出器を、モニタ透光体に設けたことによって、基材に照射されるイオンビームの照射強度と同一、又は極めて相関関係の高い照射強度を検出することができる。従って、この検出された照射強度に基づいて、基材に照射されるイオンビームの照射強度が、その基材に対して定めた所定の目標照射強度、若しくはそれに近い照射強度となるように、イオンガンを補正等の制御をすることによって、基材に所定の目標分光特性を有する薄膜を形成することができる。
【0015】
そして、この発明に係るイオンビームの照射強度測定装置において、前記検出器は、前記モニタ透光体を保持するための保持部として形成するとよい。このモニタ透光体は、例えば所定の格納位置で多数積み重ねて格納したり、格納位置と測定位置との間で移動させるときに便利なように、それぞれのモニタ透光体が保持部で保持されている。よって、この保持部を検出器として形成することによって、検出器として新たに別の部材をモニタ透光体に設ける必要がなく、よって、簡単な構造で、基材に照射されるイオンビームの照射強度と同等の照射強度を正確に測定することができる。
【0016】
また、この発明に係るイオンビームの照射強度測定装置において、前記モニタ透光体及び前記検出器によってモニタ透光部が形成され、前記照射強度を測定する前の前記モニタ透光部を格納する測定前格納位置、前記照射強度を測定する測定位置、及び前記照射強度を測定した後の前記モニタ透光部を格納する測定後格納位置を定めてあり、前記測定前格納位置に格納されている前記モニタ透光部を、前記測定位置に移動させた後に、前記測定後格納位置に格納するためのモニタ透光部交換手段を備えるようにするとよい。このように構成された同測定装置を使用して、イオンビームの照射強度を測定するときは、測定前格納位置に格納されているモニタ透光部を測定位置に移動させる。そして、照射強度の測定が済むと、測定位置に配置されている使用後のモニタ透光部を測定後格納位置に移動させる。上記の手順を繰り返すことによって、照射強度の測定を複数回行うことができる。照射強度の測定を複数回行うのは、基材に多層薄膜層を形成するときに、それぞれの層ごとに照射強度を測定して、その照射強度が許容範囲内であることを確認する必要があるからである。
【0017】
更に、この発明に係るイオンビームの照射強度測定装置において、前記測定前格納位置に格納されている前記モニタ透光部に、前記蒸発材料が蒸着することを防止する防着板を備えるようにするとよい。このようにすることによって、未使用のモニタ透光部に蒸着材料が蒸着することを防止できる。よって、蒸着材料が蒸着していないモニタ透光部を使用して、照射強度を正確に測定することができる。
【0018】
そして、この発明に係るイオンビームの照射強度測定装置において、前記検出器に照射される前記イオンビームの照射強度が所定の目標照射強度若しくはそれに近い照射強度となるように、前記検出器に照射される前記イオンビームの照射強度に基づいて制御信号を生成する制御手段を備え、前記制御信号に基づいて前記イオンビームをイオンガンが出射するようにするとよい。このようにすると、検出器に照射されるイオンビームの照射強度が所定の目標照射強度と相違している場合に、その検出される照射強度が目標照射強度となるようにするための制御信号を制御手段が生成することができる。イオンガンは、その制御信号に基づいてイオンビームを出射することができる。
【0019】
また、この発明に係るイオンビームの照射強度測定装置において、前記検出器は、前記照射強度をイオン電流密度として検出するようにするとよい。このように構成された同測定装置によると、検出器は、イオンビームが照射されると、イオン電流密度と対応する検出信号を生成する。このイオン電流密度は、イオンビームの照射強度と対応しているので、照射強度を測定することができる。
【発明の効果】
【0020】
この発明に係るイオンビームの照射強度測定装置によると、イオンビームの照射強度を検出するための検出器を、モニタ透光体に設けた構成としたので、図5に示す従来の測定装置のように保持機構部を設ける必要がなく、簡単な構造で、基材に照射されるイオンビームの照射強度と同一、又は極めて相関関係の高い検出器における照射強度を正確に測定することができる。これによって、イオンガンを制御して、基材に所定の照射強度のイオンビームが照射されるようにすることができ、その結果、緻密であって、所定の分光特性を有する薄膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係るイオンビームの照射強度測定装置(以下、単に「測定装置」と言うこともある。)の実施形態を各図を参照して説明する。この測定装置6は、図1に示すように、真空蒸着成膜装置である例えばイオンアシスト蒸着装置(以下、単に「蒸着装置」と言うこともある。)7に取り付けて使用されるものであり、モニタ透光部交換装置8の測定位置Sに配置されているモニタ透光部9に照射されるイオンビーム10の照射強度を測定することができる。そして、ドーム11に取り付けられている多数の各基板12に、予め定めた目標照射強度のイオンビーム10が照射されるように制御することができるものである。蒸着装置7は、ドーム11に取り付けられている各基板12の下面に多層薄膜層を形成することができるものである。
【0022】
イオンアシスト蒸着装置7は、図1に示すように、真空チャンバ13を備えている。真空チャンバ13は、真空ポンプ(図示せず)等によって内部の気体が排出されて、設定された所定の気圧を維持することができるものである。この真空チャンバ13内には、下部にイオンガン14、蒸発部15、15が設けられており、上部にドーム11、光学式膜厚モニタ装置16、及びモニタ透光部交換装置8が設けられている。
【0023】
イオンガン14は、例えばアルゴン又は酸素のイオンを出射して、それらのイオンを各基板12の下面に照射するためのものである。このように、イオンを基板12の下面に照射することによって、緻密性が高く、所定の屈折率及び透過率等の分光特性を有する薄膜を基板12の下面に形成することができる。
【0024】
蒸発部15は、例えば多層薄膜層の各薄膜を形成するための蒸発材料を蒸発させるためのものであり、2つの蒸発部15と15とは、同等のものである。蒸発部15は、例えばルツボと電子銃とを備えている。電子銃は、ルツボ内に収容されている蒸発材料に電子ビームを照射して、蒸発材料を蒸発させることができる。2つの蒸発部15のルツボには、蒸発材料として例えば五酸化タンタル及び二酸化珪素がそれぞれ収容されている。また、各蒸発部15は、遮蔽板を備えている。遮蔽板は、ルツボの開口部を開閉することができるものであり、ルツボの開口部を閉じた状態では、ルツボ内の蒸発材料が真空チャンバ13内に飛散することを防止できる。そして、遮蔽板がルツボの開口部を開いた状態では、ルツボ内の蒸発材料が真空チャンバ13内に飛散できる状態となる。この2つの蒸発部15は、この2種類の各蒸発材料が真空チャンバ13内で交互に飛散させることができるように構成されており、これによって、基板12の下面に2種類の各蒸発材料を交互に蒸着させることができる。そして、これら2種類の各蒸発材料を交互に真空チャンバ13内に飛散させるときは、まず、真空チャンバ13内に飛散している蒸発材料の飛散を停止した後に、次の蒸発材料を真空チャンバ13内に飛散させる。
【0025】
ドーム11は、図1に示すように、下面が上方に向かって凹状に湾曲する形状であり、上面に多数の基板12を取り付けることができるように形成されている。そして、各基板12が取り付けられる部分にはそれぞれ小孔(図示せず)が形成されている。これらの小孔は、ドーム11に取り付けられている各基板12の下面を露出させるためのものであり、このように、各基板12の下面を露出させることによって、蒸発した蒸発材料やイオンビーム10がそれら各下面に蒸着したり、照射されるようにすることができる。
【0026】
光学式膜厚モニタ装置16は、基板12と同時進行でモニタ透光部9に形成される薄膜の膜厚を、成膜作業中に測定するものである。このモニタ透光部9は、真空チャンバ13内で基板12に薄膜を形成するときに、基板12とは別個に真空チャンバ13内に配置される。この光学式膜厚モニタ装置16は、モニタ投光部(図示せず)、モニタ受光部29(図4参照)、及びモニタ透光部9を備えている。
【0027】
この光学式膜厚モニタ装置16によると、モニタ投光部から出射された光は、モニタ透光部9を透過及び反射してモニタ受光部29で受光される。モニタ受光部29が光を受光すると、膜厚を表すモニタ電気信号を生成する。このモニタ電気信号は、このイオンアシスト蒸着装置7の制御部(図示せず)で処理されて、この制御部によって例えば自動的に蒸発部15及びイオンガン14等が制御され、これによって、基板12に所定の目標膜厚の薄膜を形成することができるようになっている。
【0028】
ただし、基板12に多層薄膜層を形成するときは、各薄膜層の膜厚を測定する必要があるので、複数の各薄膜を形成するたびに、薄膜が形成された使用後のモニタ透光部9を、薄膜が形成されていない未使用のモニタ透光部9に取り替えて、膜厚を測定する必要がある。このために、モニタ透光部交換装置8が設けられている。
【0029】
モニタ透光部交換装置8は、薄膜の膜厚測定に使用された使用後のモニタ透光部(薄膜が形成されたモニタ透光部)9と、薄膜の膜厚測定に使用されていない未使用のモニタ透光部(薄膜が形成されていないモニタ透光部)9とを交換して、未使用のモニタ透光部9を使用して膜厚を測定できるようにするものである。この未使用のモニタ透光部9が膜厚を測定するために配置される測定位置Sは、図1に示すように、ドーム11の上面の中心位置である。そして、モニタ透光部交換装置8もこの位置に設けられている。図2は、ドーム11を下方から見た状態を示す図であり、ドーム11の中央に円形の開口部11aが形成されており、その開口部11aに円形の防着板18が表れている。この防着板18の上方にモニタ透光部交換装置8が配置されている。そして、防着板18の中心位置にモニタ孔18aが形成されており、このモニタ孔18aからモニタ透光部9が表れている。
【0030】
図3は、防着板18の拡大底面図であり、その上面側にモニタ透光部交換装置8が配置されている。モニタ透光部交換装置8は、同図に示すように、測定前格納ケース19、及び測定後格納ケース20を備えている。この測定前格納ケース19は、未使用の複数のモニタ透光部9を縦方向に重ね合わせた状態で格納するためのものであり、測定前格納位置Mに配置されている。そして、測定後格納ケース20は、使用後の複数のモニタ透光部9を縦方向に重ね合わせた状態で格納することができるものであり、測定後格納位置Gに配置されている。この測定前格納ケース19に格納されている未使用のモニタ透光部9のうち、最下段に配置されているモニタ透光部9は、回転送り板21によって、測定前格納ケース19の下側開口部から取り出されて、図3の時計方向(移動方向22)に120°搬送されて測定位置Sに移動する。この測定位置Sに位置決めされた未使用のモニタ透光部9は、基板12と同時進行で薄膜が形成されていき、その形成されていく薄膜の膜厚が光学式膜厚モニタ装置16によって測定される。そして、この測定位置Sに位置決めされて薄膜が形成された使用後のモニタ透光部9は、図3に示すように、回転送り板21によって時計方向(移動方向22)に120°搬送されて測定後格納位置Gに移動する。この測定後格納位置Gに移動した使用後のモニタ透光部9は、測定後格納ケース20の下側開口部に挿入されて格納される。このように、回転送り板21が120°ずつ回転すると、測定前格納ケース19に格納されている複数の未使用のモニタ透光部9のうちから1つずつ取り出して、測定位置Sに移動させて位置決めすることができる。そして、これと同時に、測定位置Sに位置決めされて、膜厚測定に使用された使用後のモニタ透光部9は、測定後格納ケース20の位置に移動させてこのケース内に格納することができる。
【0031】
図4は、このモニタ透光部交換装置8を示す断面図である。同図に示すように、防着板18の中心にモニタ孔18aが形成されており、このモニタ孔18aの位置が測定位置Sであり、この測定位置Sに未使用のモニタ透光部9が順次搬送されて位置決めされる。この測定位置Sの同図の左側に測定前格納位置Mが定められており、この測定前格納位置Mに測定前格納ケース19が配置されている。測定前格納ケース19には、多数の未使用のモニタ透光部9が格納されている。なお、図4には示さないが、測定後格納位置Gには、測定前格納ケース19と同等の測定後格納ケース20が配置されている。測定位置Sに配置されている使用後のモニタ透光部9は、順次この測定後格納ケース20に搬送されて格納される。
【0032】
イオンビームの照射強度測定装置6は、図4に示すように、測定位置Sに配置されているモニタ透光部9の下面に照射されるイオンビーム10の照射強度を測定することができるものであり、検出器23、及びイオン電流密度制御部24を備えている。
【0033】
検出器23は、イオンビーム10の照射強度を検出するものであり、図4に示すように、モニタ透光部9に形成されている保持部としての機能も備えている。つまり、モニタ透光部9は、円板状のモニタガラス(モニタ透光体)25と、検出器23とから成っている。検出器23は、導電性を有する材質であって、カップ状に形成されており、内側にモニタガラス25が取り付けられている。モニタガラス25の材質は、例えば石英である。なお、検出器23の電気的絶縁を図るために、防着板18の上面には、絶縁層18bが形成されている。そして、検出器23の底壁の中央部には、モニタ開口部23aが形成されている。
【0034】
ここで、図4に示すように、モニタ透光部9が測定位置Sに位置決めされた状態で、モニタガラス25の下面のうち、このモニタ開口部23aから露出する露出面25aに薄膜が形成される。そして、この露出面25aには、光学式膜厚モニタ装置16のモニタ投光部から出射される光が透過及び反射して、このモニタガラス25の露出面25aに形成される薄膜の膜厚が測定される。
【0035】
また、検出器23の底壁を形成する円環状の下面が検出面23bとして形成されている。この検出面23bには、イオンビーム10がモニタ孔18aを通って照射される。更に、モニタ透光部9は、測定位置Sに位置決めされた状態で、カップ状に形成された検出器23のフランジ状部23cに、電気接触子26が接触してこの電気接触子26と電気的に接続されるように設けられている。このフランジ状部23cは、検出器23の上側開口縁に形成されている。そして、この電気接触子26には、電流密度測定器27が接続されている。
【0036】
ところで、モニタ透光部9において、モニタガラス25を検出器(保持部)23で被覆しているのは、例えば測定前及び測定後の各格納ケース19、20内にモニタ透光部9を多数積み重ねて格納する際に、モニタガラス25どうしが互いに接触しないようにすること、モニタガラス25の露出面25aに形成される薄膜が、防着板18の絶縁層18bと接触しないようにすること、及び検出器23に形成されているフランジ状部23cを回転送り板21の内縁部に係合させて搬送できるようにすること等のためである。
【0037】
電流密度測定器27は、検出器23がイオンビーム10を検出したときに生成する検出信号に基づいて、測定イオン電流密度信号(以下、「測定電流密度信号」と言う。)を出力するものである。この測定電流密度信号は、検出器23の検出面23bに照射されるイオンビーム10の照射強度を表す信号である。つまり、図4に示すように、未使用のモニタ透光部9が測定位置Sに順次搬送されるたびに、その順次搬送される未使用のモニタ透光部9の検出器23と、電流密度測定器27とが電気接触子26を介して電気的に互いに接続された状態となる。そして、電流密度測定器27は、検出器23に照射されるイオンビーム10の照射強度と対応する測定電流密度信号を出力することができる。なお、電流密度測定器27は、検出器23の検出面23bの面積が既知であるので、検出信号とこの検出面23bの面積とを含む各種設定値やデータ等に基づいて、測定電流密度信号を演算して出力することができる。更に、この電流密度測定器27は、図1に示すイオン電流密度制御部24と電気的に接続されている。
【0038】
イオン電流密度制御部24は、図1に示すように、電流密度測定器27から出力される測定電流密度信号と、予め設定されている目標電流密度信号とを比較して、検出器23に照射されるイオンビーム10の照射強度が所定の目標照射強度若しくはそれに近い照射強度となるように、制御信号を生成することができるものである。つまり、検出器23に目標照射強度のイオンビーム10が照射されると、電流密度測定器27から目標電流密度信号が出力される。また、この制御信号は、イオンガン制御部28に入力する。イオンガン制御部28は、この制御信号に基づいてイオンガン14を制御する。イオンガン14は、その制御信号に基づいて例えばその設定が変更されて、イオンビーム10を検出器23に照射する。従って、イオンガン14は、ドーム11に取り付けられている多数の基板12の下面にも、検出器23が検出する所定の目標照射強度と対応する所定の目標照射強度、若しくはそれに近い照射強度のイオンビーム10を照射することができる。その結果、緻密であって、所定の分光特性を有する薄膜層が基板12の下面に形成される。
【0039】
なお、イオン電流密度制御部24は、イオンガン制御部28を介してイオンガン14と電気的に接続している。そして、イオンガン制御部28は、制御信号に基づいて、イオンガン14の例えばビーム電圧、ビーム電流、及び加速電圧等の設定を変更して、各基板12及び検出器23に照射されるイオンビーム10の照射強度を変更することができる。
【0040】
このイオンビームの照射強度測定装置6が使用されるイオンアシスト蒸着装置7によると、図1に示す真空チャンバ13内で蒸発材料を蒸発させて、その蒸発材料を基板12及びモニタガラス25(及び検出器23)に蒸着させると共に、基板12及びモニタガラス25にイオンビーム10を照射することによって、基板12及びモニタガラス25に蒸発材料の薄膜を形成することができる。そして、これら基板12に薄膜が形成されていくときに、モニタガラス25に形成されていく薄膜の膜厚を例えば光学式膜厚モニタ装置16によって監視することができる。そして、膜厚を監視しながら蒸着装置7を制御することによって、基板12に所定の目標膜厚の薄膜を形成することができる。また、所定の目標照射強度のイオンビーム10を基板12及びモニタガラス25に照射することによって、緻密であって所定の目標分光特性を有する薄膜をそれぞれに形成することができる。
【0041】
なお、モニタガラス25及び基板12は、それぞれに形成される薄膜の厚み及び分光特性が互いに略同一、又は極めて相関関係が高くなる位置に配置されており、これによって、モニタガラス25及び基板12に略同一、又は対応する分光特性を有する薄膜を形成することができる。
【0042】
そこで、このイオンビームの照射強度測定装置6によると、図4に示すように、イオンビーム10の照射強度を検出するための検出器23を、モニタガラス25に設けたことによって、基板12に照射されるイオンビーム10の照射強度と同一、又は極めて相関関係の高い照射強度を検出することができる。従って、イオン電流密度制御部24は、この検出された照射強度に基づいて、基板12に照射されるイオンビーム10の照射強度が、基板12に対して設定されている目標照射強度、若しくはそれに近い照射強度となるように、イオンガン14に対して補正等の制御をすることによって、基板12に所定の目標分光特性を有する緻密な薄膜を形成することができる。
【0043】
なお、このイオンビームの照射強度測定装置6によって、検出器23に照射されるイオンビーム10の照射強度を測定するのは、例えば多層薄膜層の各薄膜を基板12の表面に順次形成する場合に、それぞれの薄膜を形成するそれぞれの前段階(蒸発材料が蒸発していない状態)のときである。このように、各薄膜を形成するそれぞれの前段階でイオンビーム10の照射強度を測定装置6で測定して、イオンビーム10が所定の許容範囲内の照射強度で検出器(基板12)23に照射されるように補正した後に、各層の薄膜を形成する。
【0044】
更に、図4に示すイオンビームの照射強度測定装置6によると、イオンビーム10の照射強度を検出するための検出器23を、モニタガラス25に設けた構成としたので、図5に示す従来の測定装置のように保持機構部4を設ける必要がなく、簡単な構造で、基板12に照射されるイオンビーム10の照射強度と同一、又は極めて相関関係の高い検出器23における照射強度を正確に測定することができる。
【0045】
そして、図4に示すように、モニタ透光部9は、測定前及び測定後の各格納ケース19、20内に多数積み重ねて格納したり、測定前及び測定後の各格納位置M、Gと測定位置Sとの間で移動させるときに便利なように、それぞれのモニタガラス25が保持部(検出器23)で保持されている。よって、この保持部を検出器23としての機能を持たせることによって、検出器23として新たに別の部材をモニタガラス25に設ける必要がなく、よって、簡単な構造で、基板12に照射されるイオンビーム10の照射強度と同等の照射強度を正確に測定することができる。
【0046】
また、図3及び図4に示すように、この測定装置6及びモニタ透光部交換装置8によると、イオンビーム10の照射強度を測定するときは、測定前格納位置Mに格納されているモニタ透光部9を測定位置Sに移動させる。そして、照射強度の測定が済むと、測定位置Sに配置されている使用後のモニタ透光部9を測定後格納位置Gに移動させる。上記の手順を繰り返すことによって、照射強度の測定を複数回行うことができる。照射強度の測定を複数回行うのは、基板12に多層薄膜層を形成するときに、それぞれの層ごとに照射強度を測定して、その照射強度が許容範囲内であることを確認する必要があるからである。
【0047】
更に、図4に示すように、測定前及び測定後の各格納ケース19、20内に格納されているモニタ透光部9、及び回転送り板21に配置されているモニタ透光部9に、蒸発材料が蒸着することを防止する防着板18を設けたことによって、未使用及び測定後の各モニタ透光部9に蒸着材料が蒸着することを防止できる。よって、蒸着材料が蒸着していないモニタ透光部9を使用して、照射強度を正確に測定することができるし、測定後の各モニタ透光部9に形成された薄膜の管理を行うことができる。
【0048】
ただし、上記実施形態では、図4に示すように、検出器23を保持部として形成したが、これに代えて、検出器23を保持部とは別個にモニタガラス25に設けた構成としてもよい。
【0049】
そして、上記実施形態では、図3及び図4に示すモニタ透光部交換装置8を使用したが、これ以外の構成のモニタ透光部交換装置を使用してもよい。要は、未使用のモニタ透光部9を測定位置Sに搬送して位置決めができ、測定位置Sに配置されている使用後のモニタ透光部9を測定位置Sから取り除くことができるようにすればよい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上のように、本発明に係るイオンビームの照射強度測定装置は、構造が簡単であり、基材に照射されるイオンビームの照射強度と同一、又は極めて相関関係の高い検出器における照射強度を正確に測定することができるし、基材に照射されるイオンビームの照射強度が所定の目標照射強度若しくはそれに近い照射強度となるようにすることができる優れた効果を有し、このようなイオンビームの照射強度測定装置等に適用するのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】この発明の実施形態に係るイオンビームの照射強度測定装置及び同測定装置が設けられているイオンアシスト蒸着装置を示す断面図である。
【図2】同実施形態のイオンアシスト蒸着装置に設けられているドームを示す底面図である。
【図3】同実施形態に係る同測定装置が適用されているモニタ透光部交換装置の動作を説明するための図であり、防着板を下方から見た拡大底面図である。
【図4】同実施形態の同測定装置及びモニタ透光部交換装置を示す縦断面図である。
【図5】従来のイオンビームの照射強度測定装置を示す図であり、(a)はイオンセンサがイオン源に向かう測定位置に設定されている状態を示す側面図、(b)はイオンセンサを示す正面図である。
【符号の説明】
【0052】
6 イオンビームの照射強度測定装置
7 イオアシスト蒸着装置
8 モニタ透光部交換装置
9 モニタ透光部
10 イオンビーム
11 ドーム
11a 開口部
12 基板
13 真空チャンバ
14 イオンガン
15 蒸発部
16 光学式膜厚モニタ
18 防着板
18a モニタ孔
18b 絶縁層
19 測定前格納ケース
20 測定後格納ケース
21 回転送り板
22 移動方向
23 検出器
23a モニタ開口部
23b 検出面
23c フランジ状部
24 イオン電流密度制御部
25 モニタガラス
25a モニタガラスの露出面
26 電気接触子
27 電流密度測定器
28 イオンガン制御部
29 モニタ受光部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバ内で蒸発材料を蒸発させて、前記蒸発材料を基材及び前記基材に形成される薄膜の膜厚をモニタするためのモニタ透光体に蒸着させ、前記基材及び前記モニタ透光体にイオンビームを照射して前記蒸発材料の薄膜を前記基材及び前記モニタ透光体に形成する成膜装置において、
前記イオンビームの照射強度を検出するための検出器を、前記モニタ透光体に設けたことを特徴とするイオンビームの照射強度測定装置。
【請求項2】
前記検出器は、前記モニタ透光体を保持するための保持部として形成されていることを特徴とする請求項1記載のイオンビームの照射強度測定装置。
【請求項3】
前記モニタ透光体及び前記検出器によってモニタ透光部が形成され、前記照射強度を測定する前の前記モニタ透光部を格納する測定前格納位置、前記照射強度を測定する測定位置、及び前記照射強度を測定した後の前記モニタ透光部を格納する測定後格納位置を定めてあり、前記測定前格納位置に格納されている前記モニタ透光部を、前記測定位置に移動させた後に、前記測定後格納位置に格納するためのモニタ透光部交換手段を備えることを特徴とする請求項1又は2記載のイオンビームの照射強度測定装置。
【請求項4】
前記測定前格納位置に格納されている前記モニタ透光部に、前記蒸発材料が蒸着することを防止する防着板を備えていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のイオンビームの照射強度測定装置。
【請求項5】
前記検出器に照射される前記イオンビームの照射強度が所定の目標照射強度若しくはそれに近い照射強度となるように、前記検出器に照射される前記イオンビームの照射強度に基づいて制御信号を生成する制御手段を備え、前記制御信号に基づいて前記イオンビームをイオンガンが出射することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のイオンビームの照射強度測定装置。
【請求項6】
前記検出器は、前記照射強度をイオン電流密度として検出するためのものであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のイオンビームの照射強度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−161068(P2006−161068A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−350292(P2004−350292)
【出願日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(000002358)新明和工業株式会社 (919)
【Fターム(参考)】