説明

インバータの制御装置及びインバータの制御方法並びに自動車

【課題】複数のインバータをキャリア周波数拡散制御する場合に、キャリア周波数の重なりによって生成される合成音による騒音レベルが大きくなるのを抑制する。
【解決手段】通常用いる周波数fset11,fset21を拡散周波数fspr1,fspr2としたときにキャリア周波数範囲fext1,fext2の重なりの程度が所定範囲以上のときには、拡散周波数fspr1,fspr2として周波数fset11,fset21の2倍の周波数fset12,fset22を用いて実行用キャリア周波数f1*,f2*を設定し(S140)、この実行用キャリア周波数f1*,f2*の変調波を用いたパルス幅変調制御によってインバータのスイッチング素子をオンオフ制御する。これにより、電磁音の合成音が生成されても、合成音の騒音レベルを小さくして、騒音レベルが大きくなるのを抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータの制御装置及びインバータの制御方法並びに自動車に関し、詳しくは、少なくとも2つのインバータに対してキャリア周波数を拡散させた変調波を用いてパルス幅変調制御を行なうインバータの制御装置およびこうしたインバータの制御方法並びにこうしたインバータの制御装置を備える自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のインバータの制御装置としては、不連続に不規則に平均値が値0となるよう変化する拡散周波数を基本のキャリア周波数に加えた周波数の変調波を用いてパルス幅変調制御を行なうものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この装置では、キャリア周波数を拡散することにより、電磁音による騒音を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−259326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のインバータの制御装置のように、キャリア周波数拡散制御を行なうことにより電磁音による騒音を低減することができるが、パルス幅変調制御を行なうインバータが複数存在するときには、キャリア周波数拡散制御を行なってもキャリア周波数が重なると、電磁音による合成音が生成され、騒音レベルが大きくなる場合が生じる。
【0005】
本発明のインバータの制御装置及びインバータの制御方法並びに自動車は、複数のインバータをキャリア周波数拡散制御する場合に、キャリア周波数の重なりによって生成される合成音による騒音レベルが大きくなるのを抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のインバータの制御装置及びインバータの制御方法並びに自動車は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明のインバータの制御装置は、
第1の電気機器を駆動するための第1のインバータと第2の電気機器を駆動するための第2のインバータとの少なくとも2つのインバータに対して、前記第1の電気機器の駆動指令に基づく第1のキャリア基本周波数を中心とする第1の拡散周波数の範囲としての第1のキャリア周波数範囲内でランダムに周波数が変動する変調波を用いて前記第1のインバータをパルス幅変調制御により制御すると共に前記第2の電気機器の駆動指令に基づく第2のキャリア基本周波数を中心とする第2の拡散周波数の範囲としての第2のキャリア周波数範囲内でランダムに周波数が変動する変調波を用いて前記第2のインバータをパルス幅変調制御により制御するインバータの制御装置において、
前記第1のキャリア周波数範囲と前記第2のキャリア周波数範囲とが所定範囲以上に亘って重なるときには、前記第1の拡散周波数に代えて該第1の拡散周波数より大きな第1の補正周波数を用いて得られる範囲を前記第1のキャリア周波数範囲として前記第1のインバータをパルス幅変調制御により制御する第1の補正制御か前記第2の拡散周波数に代えて該第2の拡散周波数より大きな第2の補正周波数を用いて得られる範囲を前記第2のキャリア周波数範囲として前記第2のインバータをパルス幅変調制御により制御する第2の補正制御のうちいずれか一方の補正制御または双方の補正制御を実行する、
ことを特徴とする。
【0008】
この本発明のインバータの制御装置では、第1のキャリア周波数範囲と第2のキャリア周波数範囲とが所定範囲以上に亘って重なるときには、第1の拡散周波数に代えて第1の拡散周波数より大きな第1の補正周波数を用いて得られる範囲を第1のキャリア周波数範囲として第1のインバータをパルス幅変調制御により制御する第1の補正制御か第2の拡散周波数に代えて第2の拡散周波数より大きな第2の補正周波数を用いて得られる範囲を第2のキャリア周波数範囲として第2のインバータをパルス幅変調制御により制御する第2の補正制御のうちいずれか一方の補正制御または双方の補正制御を実行する。即ち、第1のインバータのキャリア周波数の拡散範囲か第2のインバータのキャリア周波数の拡散範囲かのいずれか又は双方を拡大するのである。これにより、電磁音による合成音の騒音レベルを小さくすることができ、電磁音による合成音の騒音レベルが大きくなるのを抑制することができる。
【0009】
ここで、第1のインバータのキャリア周波数の拡散範囲と第2のインバータのキャリア周波数の拡散範囲の拡大の程度は、1.5倍や2倍,2.5倍など種々の程度としてもよい。例えば、2倍とする場合は、第1の補正周波数を第1の拡散周波数の2倍の周波数とし、第2の補正周波数を第2の拡散周波数の2倍の周波数とすればよい。また、第1の拡散周波数と第2の拡散周波数とが異なるものとしてもよいし同一のものとしてもよい。さらに、第1の補正周波数と第2の補正周波数も異なるものとしてもよいし同一のものとしてもよい。また、第1のキャリア周波数範囲と第2のキャリア周波数範囲とが所定範囲以上に亘って重なるときにおける所定範囲としては、第1のキャリア周波数範囲と第2のキャリア周波数範囲のうちの一方の範囲の1/3や1/4,1/5など種々の範囲を用いることができる。
【0010】
本発明の自動車は、上述のいずれかの態様の本発明のインバータの制御装置、即ち、基本的には、第1の電気機器を駆動するための第1のインバータと第2の電気機器を駆動するための第2のインバータとの少なくとも2つのインバータに対して、前記第1の電気機器の駆動指令に基づく第1のキャリア基本周波数を中心とする第1の拡散周波数の範囲としての第1のキャリア周波数範囲内でランダムに周波数が変動する変調波を用いて前記第1のインバータをパルス幅変調制御により制御すると共に前記第2の電気機器の駆動指令に基づく第2のキャリア基本周波数を中心とする第2の拡散周波数の範囲としての第2のキャリア周波数範囲内でランダムに周波数が変動する変調波を用いて前記第2のインバータをパルス幅変調制御により制御するインバータの制御装置において、前記第1のキャリア周波数範囲と前記第2のキャリア周波数範囲とが所定範囲以上に亘って重なるときには、前記第1の拡散周波数に代えて該第1の拡散周波数より大きな第1の補正周波数を用いて得られる範囲を前記第1のキャリア周波数範囲として前記第1のインバータをパルス幅変調制御により制御する第1の補正制御か前記第2の拡散周波数に代えて該第2の拡散周波数より大きな第2の補正周波数を用いて得られる範囲を前記第2のキャリア周波数範囲として前記第2のインバータをパルス幅変調制御により制御する第2の補正制御のうちいずれか一方の補正制御または双方の補正制御を実行する、ことを特徴とするインバータの制御装置と、内燃機関とを備える自動車であって、前記第1の電気機器は前記内燃機関からの動力の少なくとも一部を用いて発電する発電機であり、前記第2の電気機器は発電機として駆動可能な走行用の電動機である、ことを要旨とする。
【0011】
この本発明の自動車では、本発明のインバータの制御装置を備えるから、本発明のインバータの制御装置が奏する効果、例えば、電磁音による合成音の騒音レベルを小さくすることができ、電磁音による合成音の騒音レベルが大きくなるのを抑制することができる、という効果と同様の効果を奏することができる。
【0012】
本発明のインバータの制御方法は、
第1の電気機器を駆動するための第1のインバータと第2の電気機器を駆動するための第2のインバータとの少なくとも2つのインバータに対して、前記第1の電気機器の駆動指令に基づく第1のキャリア基本周波数を中心とする第1の拡散周波数の範囲としての第1のキャリア周波数範囲内でランダムに周波数が変動する変調波を用いて前記第1のインバータをパルス幅変調制御により制御すると共に前記第2の電気機器の駆動指令に基づく第2のキャリア基本周波数を中心とする第2の拡散周波数の範囲としての第2のキャリア周波数範囲内でランダムに周波数が変動する変調波を用いて前記第2のインバータをパルス幅変調制御により制御するインバータの制御方法であって、
前記第1のキャリア周波数範囲と前記第2のキャリア周波数範囲とが所定範囲以上に亘って重なるときには、前記第1の拡散周波数に代えて該第1の拡散周波数より大きな第1の補正周波数を用いて得られる範囲を前記第1のキャリア周波数範囲として前記第1のインバータをパルス幅変調制御により制御する第1の補正制御か前記第2の拡散周波数に代えて該第2の拡散周波数より大きな第2の補正周波数を用いて得られる範囲を前記第2のキャリア周波数範囲として前記第2のインバータをパルス幅変調制御により制御する第2の補正制御のうちいずれか一方の補正制御または双方の補正制御を実行する、
ことを特徴とする。
【0013】
この本発明のインバータの制御方法では、第1のキャリア周波数範囲と第2のキャリア周波数範囲とが所定範囲以上に亘って重なるときには、第1の拡散周波数に代えて第1の拡散周波数より大きな第1の補正周波数を用いて得られる範囲を第1のキャリア周波数範囲として第1のインバータをパルス幅変調制御により制御する第1の補正制御か第2の拡散周波数に代えて第2の拡散周波数より大きな第2の補正周波数を用いて得られる範囲を第2のキャリア周波数範囲として第2のインバータをパルス幅変調制御により制御する第2の補正制御のうちいずれか一方の補正制御または双方の補正制御を実行する。即ち、第1のインバータのキャリア周波数の拡散範囲か第2のインバータのキャリア周波数の拡散範囲かのいずれか又は双方を拡大するのである。これにより、電磁音による合成音の騒音レベルを小さくすることができ、電磁音による合成音の騒音レベルが大きくなるのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例としてのインバータの制御装置を搭載するハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】モータECU40により実行される拡散周波数設定処理ルーチンである。
【図3】モータECU40により実行される実行用キャリア周波数設定処理ルーチンである。
【図4】実施例と比較例における周波数と騒音レベルとの関係の一例を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0016】
図1は、本発明の一実施例としてのインバータの制御装置を搭載するハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、ガソリンや軽油などを燃料とするエンジン22と、エンジン22を駆動制御するエンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという。)24と、エンジン22のクランクシャフト26にキャリアが接続されると共に駆動輪38a,38bにデファレンシャルギヤ37を介して連結された駆動軸36にリングギヤが接続されたプラネタリギヤ30と、例えば同期発電電動機として構成されて回転子がプラネタリギヤ30のサンギヤに接続されたモータMG1と、例えば同期発電電動機として構成されて回転子が駆動軸36に接続されたモータMG2と、モータMG1,MG2を駆動するためのインバータ41,42と、インバータ41,42の図示しないスイッチング素子をスイッチング制御することによってモータMG1,MG2を駆動制御するモータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという。)40と、インバータ41,42を介してモータMG1,MG2と電力をやりとりするバッテリ50と、バッテリ50に取り付けられた温度センサ51からの電池温度Tbやシフトレバーのポジションを検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP,アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,ブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキポジションBP,車速センサ88からの車速Vを入力すると共にエンジンECU24やモータECU40と通信して車両全体を制御するハイブリッド用電子制御ユニット70と、を備える。
【0017】
実施例のハイブリッド自動車20は、基本的には、ハイブリッド用電子制御ユニット70によって実行される以下に説明する駆動制御によって走行する。ハイブリッド用電子制御ユニット70では、まず、アクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accと車速センサ88からの車速Vとに応じて走行のために駆動軸36に要求される要求トルクを設定すると共に駆動軸36に実際に出力する制御用トルクTd*がレート処理により要求トルクに一致するよう制御用トルクTd*を設定する。また、要求トルクに駆動軸36の回転数(例えば、モータMG2の回転数や車速に換算係数を乗じて得られる回転数)を乗じて得られる走行に要求される走行用パワーとバッテリ50から放電可能な電力量としての残容量(SOC)に基づいて設定されるバッテリ50の充放電要求パワーとの和としてエンジン22から出力すべき要求パワーを設定すると共にエンジン22から実際に出力する制御用パワーPe*がレート処理により要求パワーに一致するよう制御用パワーPe*を設定する。続いて、バッテリ50の温度Tbに基づいて設定されるバッテリ50から充放電してもよい最大電力としての入出力制限の範囲内で制御用パワーPe*とエンジン22を効率よく運転することができるエンジン22の回転数とトルクとの制約としての動作ライン(例えば燃費最適動作ライン)とを用いてエンジン22の目標回転数と目標トルクとを設定すると共にエンジン22の回転数が目標回転数となるようにするための回転数フィードバック制御によりモータMG1から出力すべきトルクとしてのトルク指令を設定し、更に、制御用トルクTd*からモータMG1をトルク指令で駆動したときにプラネタリギヤ30を介して駆動軸36に作用するトルクを減じて得られるトルクをモータMG2のトルク指令として設定する。そして、設定したエンジン22の目標回転数と目標トルクとをエンジンECU24に送信すると共にモータMG1,MG2のそれぞれのトルク指令をモータECU40に送信する。目標回転数と目標トルクとを受信したエンジンECU24は、目標回転数と目標トルクとによってエンジン22が運転されるようエンジン22の吸入空気量制御や燃料噴射制御,点火制御などを実行し、モータMG1,MG2のそれぞれのトルク指令を受信したモータECU40は、モータMG1,MG2のトルク指令,回転数や温度に基づいてインバータ41,42の各々の変調波の周波数としてキャリア基本周波数f1,f2を設定し、このキャリア基本周波数f1,f2を中心としてプラス側およびマイナス側に拡散周波数fspr1、fspr2だけ広げた周波数範囲内でランダムに設定される実行用キャリア周波数f1*,f2*の変調波を用いたパルス幅変調制御によってインバータ41,42の図示しないスイッチング素子をオンオフ制御してモータMG1,MG2を駆動制御する。
【0018】
ここで、実施例のインバータの制御装置としては、インバータ41,42をパルス幅変調制御によってインバータ41,42の図示しないスイッチング素子をオンオフ制御するモータECU40が相当する。
【0019】
次に、モータECU40によるパルス幅変調制御の際の動作、特に、拡散周波数fspr1、fspr2を設定する際の動作と、設定した拡散周波数fspr1,fspr2を用いて実行用キャリア周波数f1*,f2*を設定する際の動作について説明する。図2はモータECU40により実行される拡散周波数設定処理ルーチンであり、図3はモータECU40により実行される実行用キャリア周波数設定処理ルーチンである。まず、図2を用いて拡散周波数fspr1,fspr2の設定の様子について説明し、その後、図3を用いて実行用キャリア周波数f1*,f2*の設定の様子について説明する。
【0020】
図2の拡散周波数設定処理ルーチンが実行されると、モータECU40は、まず、予め定められた周波数(例えば、100Hzや200Hzや250Hzなど)fset11,fset21を拡散周波数fspr1,fspr2として設定し(ステップS100)、キャリア基本周波数f1,f2に設定した拡散周波数fspr1,fspr2を加減してキャリア周波数範囲fext1,fext2を設定する(ステップS110)。そして、二つのキャリア周波数範囲fext1,fext2の重なりの程度を判定し(ステップS120)、二つのキャリア周波数範囲fext1,fext2の重なりの程度が予め定めた所定範囲(例えば、1/3や1/4,1/5など)以上であるか否かを判定する(ステップS130)。二つのキャリア周波数範囲fext1,fext2の重なりの程度が所定範囲未満のときには、これで本ルーチンを終了し、二つのキャリア周波数範囲fext1,fext2の重なりの程度が所定範囲以上のときには、周波数fset11,fset21の2倍の周波数fset12,fset22を拡散周波数fspr1,fspr2として再設定して(ステップS140)、本ルーチンを終了する。即ち、周波数fset11,fset21を拡散周波数fspr1,fspr2とした場合の二つのキャリア周波数範囲fext1,fext2の重なりの程度が所定範囲未満のときには、周波数fset11,fset21を拡散周波数fspr1,fspr2として設定した状態で本ルーチンを終了し、周波数fset11,fset21を拡散周波数fspr1,fspr2とした場合の二つのキャリア周波数範囲fext1,fext2の重なりの程度が所定範囲以上のときには、周波数fset11,fset21の2倍の周波数fset12,fset22を拡散周波数fspr1,fspr2として設定して本ルーチンを終了するのである。
【0021】
図3の実行用キャリア周波数設定用ルーチンが実行されると、モータECU40は、(−1,1)の範囲で平均が値0となるよう不連続で規則性がない二つのランダム数列から順に導出される値を係数k1,k2に設定し(ステップS200)、次式(1),(2)に示すように、キャリア基本周波数f1,f2に係数k1,k2を拡散周波数fspr1,fspr2を乗じたものを加えて実行用キャリア周波数f1*,f2*を設定して(ステップS210)、本ルーチンを終了する。こうして実行用キャリア周波数f1*,f2*を設定すると、設定した実行用キャリア周波数f1*,f2*の変調波を用いてパルス幅変調制御によりインバータ41,42の図示しないスイッチング素子をオンオフ制御する。
【0022】
f1*=f1+k1・fspr1 (1)
f2*=f2+k2・fspr2 (2)
【0023】
図4は、周波数fset11,fset21を拡散周波数fspr1,fspr2としたキャリア周波数範囲fext1,fext2の重なりの程度が所定範囲以上のときに、比較例として周波数fset11,fset21を拡散周波数fspr1,fspr2として用いて実行用キャリア周波数f1*,f2*を設定したときの周波数と騒音レベルとの関係と、実施例として周波数fset12,fset22を拡散周波数fspr1,fspr2として用いて実行用キャリア周波数f1*,f2*を設定したときの周波数と騒音レベルとの関係との一例を模式的に示す説明図である。図示するように、比較例は、拡散周波数fspr1,fspr2として周波数fset11,fset21を用いるため、その重なる部分における電磁音の合成音の騒音レベルが値L1と大きいが、実施例では、拡散周波数fspr1,fspr2として周波数fset11,fset21の2倍の周波数fset12,fset22を用いるため、重なりの程度は大きくなるものの、重なる部分における電磁音の合成音の騒音レベルは値L2と小さくなる。従って、キャリア周波数範囲fext1,fext2の重なりの程度が所定範囲以上のときには、拡散周波数fspr1,fspr2として周波数fset11,fset21の2倍の周波数fset12,fset22を用いることにより、その重なる部分における電磁音の合成音の騒音レベルを小さくし、合成音の騒音レベルが大きくなるのを抑制することができる。
【0024】
以上説明した実施例のインバータの制御装置によれば、通常用いる周波数fset11,fset21を拡散周波数fspr1,fspr2としたときにキャリア周波数範囲fext1,fext2の重なりの程度が所定範囲以上のときには、拡散周波数fspr1,fspr2として周波数fset11,fset21の2倍の周波数fset12,fset22を用いて実行用キャリア周波数f1*,f2*を設定し、この実行用キャリア周波数f1*,f2*の変調波を用いたパルス幅変調制御によってインバータ41,42の図示しないスイッチング素子をオンオフ制御することにより、電磁音の合成音が生成されても、合成音の騒音レベルを小さくして、騒音レベルが大きくなるのを抑制することができる。もとより、通常用いる周波数fset11,fset21を拡散周波数fspr1,fspr2としたときにキャリア周波数範囲fext1,fext2の重なりの程度が所定範囲未満のときには、通常用いる周波数fset11,fset21を拡散周波数fspr1,fspr2として用いて実行用キャリア周波数f1*,f2*を設定し、この実行用キャリア周波数f1*,f2*の変調波を用いたパルス幅変調制御によってインバータ41,42の図示しないスイッチング素子をオンオフ制御するから、電磁音の騒音レベルを抑制しながらモータMG1,MG2を駆動制御することができる。
【0025】
実施例のインバータの制御装置では、周波数fset11と周波数fset21についての大きさ比較については言及していないが、周波数fset11と周波数fset21は同一のものとしてもよいし、異なるものとしてもよい。また、周波数fset12と周波数fset22についても同様に、周波数fset12と周波数fset22は同一のものとしてもよいし、異なるものとしてもよい。
【0026】
実施例のインバータの制御装置では、周波数fset12,fset22は通常用いる周波数fset11,fset21の2倍の周波数としたが、周波数fset12,fset22は周波数fset11,fset21より大きければよいから、1.5倍や2倍,3倍など種々のものを用いることができる。
【0027】
実施例のインバータの制御装置では、二つのインバータ41,42の制御装置として説明したが、3つ以上のインバータの制御装置としてもよい。この場合、いずれか二つのインバータに対して、通常用いる周波数fset11,fset21を拡散周波数fspr1,fspr2としたときにキャリア周波数範囲fext1,fext2の重なりの程度が所定範囲以上のときに、拡散周波数fspr1,fspr2として周波数fset11,fset21の2倍の周波数fset12,fset22を用いるものとすればよい。
【0028】
実施例のインバータの制御装置では、エンジン22と、エンジン22のクランクシャフト26にキャリアが接続されると共に駆動軸36にリングギヤが接続されたプラネタリギヤ30と、プラネタリギヤ30のサンギヤに接続されたモータMG1と、駆動軸36に接続されたモータMG2と、モータMG1,MG2を駆動するためのインバータ41,42と、を備えるハイブリッド自動車20に搭載されるものとして説明したが、二つ以上のインバータにより駆動されるモータや発電機を搭載する種々のタイプのハイブリッド車や電気車に搭載されるものとしてもよいし、こうした車両以外の設備などに組み込まれるものとしてもよい。また、インバータの制御方法の形態としてもよい。
【0029】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、モータMG1が「第1の電気機器」に相当し、インバータ41が「第1のインバータ」に相当し、モータMG2が「第2の電気機器」に相当し、インバータ42が「第2のインバータ」に相当し、モータECU40が「インバータの制御装置」に相当する。
【0030】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0031】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、インバータの制御装置の製造産業や自動車の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0033】
20 ハイブリッド自動車、22 エンジン、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、26 クランクシャフト、30 プラネタリギヤ、36 駆動軸、37 デファレンシャルギヤ、38a,38b 駆動輪、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、41,42 インバータ、50 バッテリ、51 温度センサ、70 ハイブリッド用電子制御ユニット、82 シフトポジションセンサ、84 アクセルペダルポジションセンサ、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ、MG1,MG2 モータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電気機器を駆動するための第1のインバータと第2の電気機器を駆動するための第2のインバータとの少なくとも2つのインバータに対して、前記第1の電気機器の駆動指令に基づく第1のキャリア基本周波数を中心とする第1の拡散周波数の範囲としての第1のキャリア周波数範囲内でランダムに周波数が変動する変調波を用いて前記第1のインバータをパルス幅変調制御により制御すると共に前記第2の電気機器の駆動指令に基づく第2のキャリア基本周波数を中心とする第2の拡散周波数の範囲としての第2のキャリア周波数範囲内でランダムに周波数が変動する変調波を用いて前記第2のインバータをパルス幅変調制御により制御するインバータの制御装置において、
前記第1のキャリア周波数範囲と前記第2のキャリア周波数範囲とが所定範囲以上に亘って重なるときには、前記第1の拡散周波数に代えて該第1の拡散周波数より大きな第1の補正周波数を用いて得られる範囲を前記第1のキャリア周波数範囲として前記第1のインバータをパルス幅変調制御により制御する第1の補正制御か前記第2の拡散周波数に代えて該第2の拡散周波数より大きな第2の補正周波数を用いて得られる範囲を前記第2のキャリア周波数範囲として前記第2のインバータをパルス幅変調制御により制御する第2の補正制御のうちいずれか一方の補正制御または双方の補正制御を実行する、
ことを特徴とするインバータの制御装置。
【請求項2】
請求項1記載のインバータの制御装置であって、
前記第1の補正周波数は、前記第1の拡散周波数の2倍の周波数であり、
前記第2の補正周波数は、前記第2の拡散周波数の2倍の周波数である、
インバータの制御装置。
【請求項3】
請求項1または2記載のインバータの制御装置と内燃機関とを備える自動車であって、
前記第1の電気機器は、前記内燃機関からの動力の少なくとも一部を用いて発電する発電機であり、
前記第2の電気機器は、発電機として駆動可能な走行用の電動機である、
自動車。
【請求項4】
第1の電気機器を駆動するための第1のインバータと第2の電気機器を駆動するための第2のインバータとの少なくとも2つのインバータに対して、前記第1の電気機器の駆動指令に基づく第1のキャリア基本周波数を中心とする第1の拡散周波数の範囲としての第1のキャリア周波数範囲内でランダムに周波数が変動する変調波を用いて前記第1のインバータをパルス幅変調制御により制御すると共に前記第2の電気機器の駆動指令に基づく第2のキャリア基本周波数を中心とする第2の拡散周波数の範囲としての第2のキャリア周波数範囲内でランダムに周波数が変動する変調波を用いて前記第2のインバータをパルス幅変調制御により制御するインバータの制御方法であって、
前記第1のキャリア周波数範囲と前記第2のキャリア周波数範囲とが所定範囲以上に亘って重なるときには、前記第1の拡散周波数に代えて該第1の拡散周波数より大きな第1の補正周波数を用いて得られる範囲を前記第1のキャリア周波数範囲として前記第1のインバータをパルス幅変調制御により制御する第1の補正制御か前記第2の拡散周波数に代えて該第2の拡散周波数より大きな第2の補正周波数を用いて得られる範囲を前記第2のキャリア周波数範囲として前記第2のインバータをパルス幅変調制御により制御する第2の補正制御のうちいずれか一方の補正制御または双方の補正制御を実行する、
ことを特徴とするインバータの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−157227(P2012−157227A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16811(P2011−16811)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】