説明

インホイールモータ車両のサスペンション装置

【課題】インホイールモータユニットの直径を小さくしなくても、最低地上高を確保しつつ、サスペンションメンバ取り付け部材のスペースを要求通りにし得るようになす。
【解決手段】ロアサスペンションメンバ4の車輪側取り付け点4c,4dをインホイールモータユニット2の最下円周部位よりも車両前後方向前側部位および車両前後方向後側部位に配置し、ロアサスペンションメンバ4の車輪側取り付け点4c,4dがインホイールモータユニット2の下方に出っ張ることがないようにする。よって何れのサスペンションメンバ3,4の車輪側取り付け点も、インホイールモータユニット2より低い位置になることがないため、インホイールモータユニット2の直径を小さくしなくても、最低地上高を確保しつつ、サスペンションメンバ取り付け部材のスペースを要求通りのものにすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車のうち、車輪を個々のインホイールモータユニットにより駆動して走行可能なインホイールモータ車両のサスペンション装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インホイールモータ車両も車輪の懸架に当たっては、一般的な車両と同様に、車輪をサスペンションメンバにより車体へ上下方向ストローク可能に取り付けて懸架するのが普通で、
そのためのインホイールモータ車両用サスペンション装置としては従来、例えば特許文献1に記載のようなものが提案されている。
【0003】
このインホイールモータ車両用サスペンション装置は、インホイールモータユニットの上方における車輪の箇所と車体との間に延在するアッパーサスペンションメンバと、インホイールモータユニットの下方における車輪の箇所と車体との間に延在するロアサスペンションメンバとを具える。
アッパーサスペンションメンバは、その内端を車体に対し上下方向揺動可能に連結し、外端を車輪に対し上下方向揺動可能に連結する。
またロアサスペンションメンバも、その内端を車体に対し上下方向揺動可能に連結し、外端を車輪に対し上下方向揺動可能に連結する。
【0004】
これらアッパーサスペンションメンバおよびロアサスペンションメンバにより、車輪は車体に対し上下方向ストローク可能に取り付けられ、当該車輪を車体に懸架することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−335467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記した従来の提案技術のものに代表されるインホイールモータ車両のサスペンション装置にあっては、
ロアサスペンションメンバの車輪側取り付け点が、インホイールモータユニットの下方に配置されることとなり、以下の問題を生ずる。
【0007】
つまり、インホイールモータユニットの下方に位置するサスペンションメンバの車輪側取り付け点が低く、最低地上高を確保した上で、サスペンションメンバ取り付け部材のスペースを要求通りのものにしようとすると、インホイールモータユニットの直径を小さくせざるを得ない。
【0008】
従って、インホイールモータユニットの大径化が不可能で、必要なモータ出力を確保するには、インホイールモータユニットを軸線方向に大型化するしかない。
かかるインホイールモータユニットの軸線方向長大化は、車輪位置が決まっていることから、車幅方向内方へのインホイールモータユニットの張り出しが大きくなることを意味し、スペース効率が低下すると共に車体設計に制約を課すという問題を生ずる。
【0009】
本発明は、サスペンションメンバの車輪側取り付け点がインホイールモータユニットの下方とならないようにすれば上記の問題を解消し得るとの事実認識にもとづき、
この着想を具体化したインホイールモータ車両のサスペンション装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的のため、本発明によるインホイールモータ車両のサスペンション装置は、以下のごとくにこれを構成する。
先ず、本発明の前提となるインホイールモータ車両を説明するに、これは、
車輪を個々のインホイールモータユニットにより駆動して走行可能で、当該車輪をサスペンションメンバにより車体へ上下方向ストローク可能に取り付けて懸架したものである。
【0011】
本発明のサスペンション装置は、かかるインホイールモータ車両において、
上記サスペンションメンバの車輪側取り付け点を、上記インホイールモータユニットの前後に配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によるインホイールモータ車両のサスペンション装置によれば、サスペンションメンバの車輪側取り付け点がインホイールモータユニットの下方ではなく、インホイールモータユニットの前後に配置されているため、
サスペンションメンバの車輪側取り付け点がインホイールモータユニットよりも低くなることがない。
【0013】
このため、インホイールモータユニットの直径を小さくしなくても、最低地上高を確保しつつ、サスペンションメンバ取り付け部材のスペースを要求通りのものにすることができる。
【0014】
従って、インホイールモータユニットの直径を大きいままに保つことができ、必要なモータ出力を確保するためにインホイールモータユニットを軸線方向に大型化する必要がない。
そのため、インホイールモータユニットがかかる軸線方向長大化により車幅方向内方へ大きく張り出すことがなく、スペース効率が低下するという前記の問題や、車体設計に制約を課すという前記の問題を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施例になるインホイールモータ車両のサスペンション装置を、車幅方向内方の下側から見て示す全体斜視図である。
【図2】図1の実施例になるインホイールモータ車両のサスペンション装置を示す全体平面図である。
【図3】図1のサスペンション装置を構成するロアサスペンションメンバの車輪側取り付け構造を示す要部斜視図である。
【図4】図1の実施例になるインホイールモータ車両のサスペンション装置を、車幅方向内方の上側から見て示す全体斜視図ある。
【図5】図1の実施例になるインホイールモータ車両のサスペンション装置を車輪側から見て示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
<構成>
図1〜5は、本発明の一実施例になるインホイールモータ車両のサスペンション装置を示し、
図1は、車幅方向内方の下側から見て示す、該サスペンション装置の全体斜視図、図2は該サスペンション装置の全体平面図、図3は、該サスペンション装置を構成するロアサスペンションメンバの車輪側取り付け構造を示す要部斜視図、図4は、車幅方向内方の上側から見て示す、該サスペンション装置の全体斜視図、図5は、該サスペンション装置を車輪側から見て示す正面図である。
【0017】
これらの図において、1は車輪、2はインホイールモータユニットで、これらは、車輪1がインホイールモータユニット2により駆動されるようユニット化し、図示せざる車体に、以下の要領で懸架する。
【0018】
かかる車輪懸架を行うサスペンション装置は、車輪1(インホイールモータユニット2)から車幅方向内方へ延在して車体に至るアッパーサスペンションメンバ3およびロアサスペンションメンバ4を具える。
【0019】
アッパーサスペンションメンバ3は、インホイールモータユニット2の上方箇所と車体との間に延在する棒状のI型サスペンションメンバとし、
車幅方向内端3aを車体に対し上下方向揺動可能に連結し、車幅方向外端3bをインホイールモータユニット2のハウジング外周壁2aにおける最上円周部位に対し上下方向揺動可能に連結する。
【0020】
アッパーサスペンションメンバ3の外端3bをハウジング外周壁2aの最上円周部位に連結するに当たっては、当該ハウジング外周壁2aの最上円周部位にフランジ5を突設し、該フランジ5のヨーク5aにアッパーサスペンションメンバ3の外端3bを枢支して当該連結を行う。
【0021】
ロアサスペンションメンバ4は、インホイールモータユニット2の中心よりも下方においてインホイールモータユニット2と車体との間に延在する平面H字状のH型サスペンションメンバとし、2個の車幅方向内端4a,4bおよび2個の車幅方向外端4c,4dを有するものとする。
【0022】
ロアサスペンションメンバ4の内端4a,4bはそれぞれ、車体に対し上下方向揺動可能に連結し、ロアサスペンションメンバ4の外端4c,4dはそれぞれ、インホイールモータユニット2のハウジング外周壁2aにおける最下円周部位よりも車両前後方向前方部位および車両前後方向後方部位に対し上下方向揺動可能に連結する。
【0023】
ロアサスペンションメンバ4の外端4c,4dをインホイールモータユニット2のハウジング外周壁2aにおける前方部位および後方部位に対し上下方向揺動可能に連結するに当たっては、
当該ハウジング外周壁2aの前方部位および後方部位にそれぞれフランジ6,7を突設し、該フランジ6,7のヨーク6a,7aにロアサスペンションメンバ4の外端4c,4dを枢支して当該連結を行う。
【0024】
但し、これらヨーク6a,7aを含むフランジ6,7は図1,5に明示するごとく、ハウジング外周壁2aの最下円周部位よりも下方へ張り出すことのないようなものとする。
【0025】
なお、インホイールモータユニット2には図2,4,5に示すごとく、車輪1に近い端面2bの車両前後方向前側箇所および車両前後方向後側箇所にそれぞれサービスブレーキ用のキャリパ型ブレーキユニット8およびパーキングブレーキ用のキャリパ型ブレーキユニット9が設けられており、
インホイールモータユニット2のモータハウジングは、これらキャリパ型ブレーキユニット8,9の取着部近辺において補強されている。
【0026】
このモータハウジング補強部における強度を、インホイールモータユニット2のハウジング外周壁2aに対するロアサスペンションメンバ4(外端4c,4d)の連結強度確保に有効利用するため、
ロアサスペンションメンバ4の外端4c,4dを取り付けるフランジ6,7(ヨーク6a,7a)の配置に当たっては、これらフランジ6,7(ヨーク6a,7a)をキャリパ型ブレーキユニット8,9の取着部近辺に配置する。
【0027】
<作用効果>
以上のように構成配置したアッパーサスペンションメンバ3およびロアサスペンションメンバ4により、車輪1は車体に対し上下方向ストローク可能に取り付けられて懸架される。
【0028】
ところで本実施例においては、ロアサスペンションメンバ4の車輪側取り付け点4c,4dをインホイールモータユニット2の最下円周部位よりも車両前後方向前側部位および車両前後方向後側部位に配置したため、ロアサスペンションメンバ4の車輪側取り付け点4c,4dがインホイールモータユニット2の下方に出っ張ることがなく、
何れのサスペンションメンバ3,4の車輪側取り付け点も、インホイールモータユニット2より低い位置になることがない。
【0029】
このため、インホイールモータユニット2の直径を小さくしなくても、最低地上高を確保しつつ、サスペンションメンバ取り付け部材のスペースを要求通りのものにすることができる。
【0030】
従って、インホイールモータユニット2の直径を大きいままに保つことができ、必要なモータ出力を確保するためにインホイールモータユニット2を軸線方向に大型化する必要がない。
そのため、インホイールモータユニット2がかかる軸線方向長大化により車幅方向内方へ大きく張り出すことがなく、スペース効率が低下するという前記の問題や、車体設計に制約を課すという前記の問題を解消することができる。
【0031】
また本実施例では、ロアサスペンションメンバ4の車輪側取り付け点4c,4dをインホイールモータユニット2の最下円周部位よりも車両前後方向前側部位および車両前後方向後側部位に配置したため、
ロアサスペンションメンバ4が図4に二点鎖線で示すように上下方向へ揺動するとき、インホイールモータ2を避けつつ揺動し得ることとなり、ロアサスペンションメンバ4の強度上必要な断面積を効率良く確保することができ、ロアサスペンションメンバ4の軽量化によるバネ下質量の低減や、ロアサスペンションメンバ4の小型化によるレイアウト自由度の向上を実現することができる。
【0032】
本実施例においては更に、ロアサスペンションメンバ4をH型サスペンションメンバとし、アッパーサスペンションメンバ3をI型サスペンションメンバとしたため、以下の作用効果が得られる。
つまりアッパーサスペンションメンバ3をI型サスペンションメンバとしたことで、H型サスペンションメンバとしたロアサスペンションメンバ4上に図2のごとく、インホイールモータユニット2用の強電ワイヤハーネス11を配策するためのスペースを十分確保することができる。
【0033】
またロアサスペンションメンバ4をH型サスペンションメンバとしたことで、当該H型ロアサスペンションメンバ4上に配索した強電ワイヤハーネス11を当該ロアサスペンションメンバ4により、飛び石や路面突起物から保護し得て、強電ワイヤハーネス11が飛び石や路面突起物により損傷されるのを防止することができる。
【0034】
ロアサスペンションメンバ4をH型サスペンションメンバとし、アッパーサスペンションメンバ3をI型サスペンションメンバとした本実施例の構成によれば更に、
車幅方向に見てサスペンションメンバ3,4の取り付け位置が三角形の頂点位置となって、これら取り付け位置間の距離の最大化を図ることができ、サスペンションメンバ3,4からインホイールモータユニット2のモータハウジングに入力される捩り入力に対する剛性を向上させることができる。
【0035】
また本実施例においては、ロアサスペンションメンバ4の外端4c,4dを連結するためのフランジ6,7(ヨーク6a,7a)を、インホイールモータユニット2の最下円周部位よりも車両前後方向前側部位および車両前後方向後側部位に配置するに当たり、キャリパ型ブレーキユニット8,9の取着部近辺に配置したため、
キャリパ型ブレーキユニット8,9の取着部近辺におけるモータハウジング補強部の強度を、ロアサスペンションメンバ4(外端4c,4d)の連結強度確保に有効利用することができる。
【0036】
このため、ロアサスペンションメンバ4(外端4c,4d)の連結強度を確保するためにインホイールモータユニット2のモータハウジングを新たに補強する必要がなく、コスト的にも重量的にも有利である。
この作用効果は、本実施例のようにサービスブレーキ用のキャリパ型ブレーキユニット8およびパーキングブレーキ用のキャリパ型ブレーキユニット9がインホイールモータユニット2のモータハウジングに前後一対で設けられている場合、特に顕著なものとなる。
【0037】
更に本実施例においては、サスペンションメンバ3,4のインホイールモータユニット側取り付け端である外端3b,4c,4dを、インホイールモータユニット2のモータハウジング外周壁2aに突設したブラケット5,6,7を介しインホイールモータユニット2に取り付けたため、以下の作用効果が得られる。
【0038】
インホイールモータユニット2は通常、小型・軽量にする必要からモータハウジングを薄肉鋳造により造る。
そのため、サスペンションメンバ3,4の外端3b,4c,4dを直接インホイールモータユニット2のモータハウジングに連結する構造だと、モータハウジングの鋳造時に肉厚変動が大きくなって内部欠陥を生じ、十分な強度・耐久性を確保することができない。
【0039】
しかし本実施例のごとくモータハウジング外周壁2aに別体のブラケットブラケット5,6,7を設け、これらを介してサスペンションメンバ3,4の外端3b,4c,4dをモータハウジング外周壁2aに取り付ける場合、
モータハウジングの鋳造時における肉厚変動が小さくて、内部欠陥を発生し難くすることが可能となる。
【0040】
また本実施例によれば、モータハウジングのリブ形状を最適化することで、同等な剛性を確保しつつ、軽量なモータハウジングを実現することが可能となる。
【符号の説明】
【0041】
1 車輪
2 インホイールモータユニット
2a モータハウジング外周壁
2b ブレーキユニット取り付け端面
3 I型アッパーサスペンションメンバ
3a アッパーサスペンションメンバの内端
3b アッパーサスペンションメンバの外端
4 H型ロアサスペンションメンバ
4a,4b ロアサスペンションメンバの内端
4c,4d ロアサスペンションメンバの外端
5,6,7 ブラケット
5a,6a,7a ヨーク
8,9 キャリパ型ブレーキユニット
11 強電ワイヤハーネス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を個々のインホイールモータユニットにより駆動して走行可能で、前記車輪をサスペンションメンバにより車体へ上下方向ストローク可能に取り付けて懸架したインホイールモータ車両において、
前記サスペンションメンバの車輪側取り付け点を、前記インホイールモータユニットの前後に配置したことを特徴とするインホイールモータ車両のサスペンション装置。
【請求項2】
前記サスペンションメンバとして、上方におけるアッパーサスペンションメンバおよび下方におけるロアサスペンションメンバが存在する、請求項1に記載されたインホイールモータ車両のサスペンション装置において、
前記ロアサスペンションメンバの車輪側取り付け点を、前記インホイールモータユニットの前後に配置したことを特徴とするインホイールモータ車両のサスペンション装置。
【請求項3】
前記ロアサスペンションメンバが、2箇所で車輪側に取り付けられたものである、請求項2に記載されたインホイールモータ車両のサスペンション装置において、
前記ロアサスペンションメンバの2箇所の車輪側取り付け点をそれぞれ、前記インホイールモータユニットの前後に配置したことを特徴とするインホイールモータ車両のサスペンション装置。
【請求項4】
請求項3に記載されたインホイールモータ車両のサスペンション装置において、
前記ロアサスペンションメンバをH型サスペンションメンバとし、前記アッパーサスペンションメンバをI型サスペンションメンバとしたことを特徴とするインホイールモータ車両のサスペンション装置。
【請求項5】
インホイールモータユニットの前部、または後部、或いはこれら双方にブレーキユニットが取着されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載されたインホイールモータ車両のサスペンション装置において、
前記サスペンションメンバの車輪側取り付け点を、前記ブレーキユニット取着部に近い前記インホイールモータユニットの箇所としたことを特徴とするインホイールモータ車両のサスペンション装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載されたインホイールモータ車両のサスペンション装置において、
前記サスペンションメンバの車輪側取り付け端部を、前記インホイールモータユニットのモータハウジング外周壁に突設したブラケットを介しインホイールモータユニットに取り付けたことを特徴とするインホイールモータ車両のサスペンション装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−25292(P2012−25292A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−166656(P2010−166656)
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】