説明

ウェザーストリップ用材料及びウェザーストリップ

【課題】滑性、耐磨耗性、耐熱性、耐候性などに優れると共に、高分子弾性体材料からなる基材シートに対する優れた接着性や可とう性、帯電防止効果も付与された優れた性能の表皮処理層の形成が可能で、さらに、温暖化ガス削減の観点からも有用なウェザーストリップ用材料の提供。
【解決手段】高分子弾性体材料に被覆および/または含浸させて、他部品と摺接する摺接部に表面処理層を形成するための材料であって、一般式(1)で表される5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物と、アミン化合物との反応から誘導されたポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を含んでなる樹脂組成物であるウェザーストリップ用材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や建築物などのドアや窓まわりなど、ボディと部品との隙間から風や雨などが侵入することを防ぐための高分子弾性体材料からなる帯状のシール部品を構成する表面処理層の形成材料として有用な、樹脂組成物に関する。より詳しくは、高分子弾性体材料を基材とするウェザーストリップの、他部品と摺接する摺接部に表面処理層を形成した場合に、他部品と摺接する摺接部に表面処理層を形成するための材料であって、該表面処理層が、特に、滑性、耐摩耗性、耐熱性、耐候性に優れたものとなり、しかも環境保全性にも資する有用な材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車や建築物の、グラスラン、ドアウェザーストリップ、ボディサイドウェザーストリップ、インサイドシール、アウトサイドシールなどのウェザーストリップの形成材料としては、クロロプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリルゴム、EPDMゴムなどの高分子弾性体材料が用いられている。そして、これらの表面には、滑性、耐摩耗性、離型性、耐熱性、耐水性、耐候性などの性能を持たせるため、塗布または含浸などの方法によって表面処理層を形成することが行われている。
【0003】
このような処理層を形成する材料として、熱硬化性ポリウレタン樹脂にシリコーンオイルを添加したもの(特許文献1参照)や、熱硬化性ポリウレタン樹脂にオルガノポリシロキサンを含有したもの(特許文献2参照)や、ウレタンプレポリマーとシリコーンオイル、疎水性シリカ、ポリイソシアネートからなるもの(特許文献3参照)などの塗料が種々提案されている。
【0004】
一方、最近における環境問題の高まりから、環境対策に積極的に取り組むメーカーが多くなっており、環境保全性に優れた材料を用いて製品を構成する動きがある。このため、例えば、前記塗料に使用する有機溶剤から特定の溶剤(トルエンなど)を選択しない検討や、有機溶剤の代わりに水系樹脂を使用してVOC(揮発性有機化合物)排出量をできるだけ抑制する検討も盛んに行われている(特許文献4参照)。しかし、現在の地球規模での環境保全性にはまだ不十分である。
【0005】
非特許文献1、2に見られるように、二酸化炭素を原料とするポリヒドロキシポリウレタン樹脂については以前から知られているが、その応用展開は進んでいないのが実情である。それは同種系の高分子化合物として対比される、ポリウレタン系樹脂に比べ、その特性面で明らかに劣るからである(特許文献5、6参照)。
【0006】
また、近年増加の一途をたどる二酸化炭素に起因すると考えられる地球の温暖化現象は、世界的な問題となっており、二酸化炭素の排出量低減は、全世界的に重要な課題である。さらに、枯渇性石化資源(石油)問題の観点からも、バイオマス、メタンなどの再生可能資源への転換が世界的潮流となっている。
【0007】
上記したような背景下、再び、前記したポリヒドロキシポリウレタン樹脂が見直されている。すなわち、この樹脂の原料である二酸化炭素は、容易に入手可能、かつ、持続可能な炭素資源であり、さらに、二酸化炭素を原料とするプラスチックは、温暖化、資源枯渇などの問題を解決する有効な手段となり得るからである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】N.Kihara,T.Endo,J.Org.Chem.,1993,58,6198
【非特許文献2】N.Kihara,T.Endo,J.Polymer Sci.,PartA Polmer Chem.,1993,31(12),2765
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭56−4408号公報
【特許文献2】特開平8−225670号公報
【特許文献3】特開平8−109349号公報
【特許文献4】特開2008−56772号公報
【特許文献5】米国特許第3,072,613号公報
【特許文献6】特開2000−319504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような状況下、自動車や建築物のウェザーストリップに、塗布または含浸などの方法によって設けられる表面処理層を、特に、滑性、耐摩耗性、耐熱性および耐候性などの基本特性に優れると共に、地球規模での環境保全性を持った環境対応製品とできれば、非常に有用である。
したがって、本発明の目的は、ウェザーストリップを構成する高分子弾性体材料の、他部品と摺接する摺接部に表面処理層を形成するための材料が、環境保全性にも資する材料でありながら、形成した表面処理層が、滑性、耐摩耗性、耐熱性、耐候性に優れたものとなる有用な材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、高分子弾性体材料に被覆および/または含浸させて、他部品と摺接する摺接部に表面処理層を形成するためのウェザーストリップ用材料であって、下記一般式(1)で表される5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物と、アミン化合物との反応から誘導されたポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を含んでなる樹脂組成物であることを特徴とするウェザーストリップ用材料を提供する。

式中のR1は、炭素数1〜12のアルキレン基(該基中にO、S、またはNの各元素及び/又は−(C24O)b−で連結されていてもよい)を表す。式中のR2は、ないか、または、炭素数2〜20のアルキレン基を表し、R2は、脂環族基または芳香族基に連結していてもよい。bは1〜300の数を表わし、aは1〜300の数を表す。]
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、自動車や建築物のウェザーストリップの基材である高分子弾性体材料の、他部品と摺接する摺接部に表面処理層を形成するための材料が、環境保全性にも資する材料でありながら、形成した表面処理層が、滑性、耐摩耗性、耐熱性、耐候性に優れたものとなる有用な材料の提供が達成される。より具体的には、本発明では、高分子弾性体の表面処理用塗料組成物として、ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂からなる組成物を用いるため、形成した表面処理層が、基本特性に優れたものとなることは勿論、その原料に、地球温暖化ガスとされている二酸化炭素を利用できるため、地球環境保全の観点からも有用な材料、および、該材料を用いてなる環境対応製品の提供が達成される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】エポキシ変性ポリシロキサンの赤外吸収スペクトル。
【図2】5員環環状カーボネートポリシロキサンの赤外吸収スペクトル。
【図3】5員環環状カーボネートポリシロキサンのGPC溶出曲線。移動相:THF、カラム:TSK−Gel GMHXL+G2000HXL+G3000HXL、検出器:IR。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。
本発明のウェザーストリップ用材料は、高分子弾性体材料に被覆および/または含浸させて、他部品と摺接する摺接部に表面処理層を形成するための材料であって、前記一般式(1)で表される5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物と、アミン化合物との反応から誘導されたポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を含んでなる樹脂組成物であることを特徴とする。
【0015】
本発明で使用する前記一般式(1)で表される5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物は、下記[式−A]で示されるように、エポキシ変性ポリシロキサン化合物と、二酸化炭素とを反応させて製造することができる。さらに詳しくは、エポキシ変性ポリシロキサン化合物を、有機溶媒の存在下または不存在下、および触媒の存在下、40℃〜150℃の温度で、常圧または僅かに高められた圧力下、10〜20時間二酸化炭素と反応させることによって得られる。
【0016】

【0017】
上記で使用し得る、その他のエポキシ変性ポリシロキサン化合物としては、例えば、次の如き化合物が挙げられる。下記の低級アルキレン基とは、炭素数が1〜6、より好ましくは1〜4のものを意味する。
【0018】

【0019】

【0020】

【0021】

【0022】

【0023】
以上列記したエポキシ変性ポリシロキサン化合物は、本発明において使用する好ましい化合物であって、本発明はこれらの例示の化合物に限定されるものではない。従って、上述の例示の化合物のみならず、その他、現在市販されており、市場から容易に入手し得るエポキシ変性ポリシロキサン化合物は、いずれも本発明において使用することができる。
【0024】
上記したようなエポキシ変性ポリシロキサン化合物と、二酸化炭素との反応において使用される触媒としては、塩基触媒およびルイス酸触媒が挙げられる。
【0025】
塩基触媒としては、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどの第三級アミン類、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロオクタンおよびピリジンなどの環状アミン類、リチウムクロライド、リチウムブロマイド、フッ化リチウム、塩化ナトリウムなどのアルカリ金属塩類、塩化カルシウムなどのアルカリ土類金属塩類、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムブロマイド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、などの四級アンモニウム塩類、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムなどの炭酸塩類、酢酸亜鉛、酢酸鉛、酢酸銅、酢酸鉄などの金属酢酸塩類、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛などの金属酸化物、テトラブチルホスホニウムクロリドなどのホスホニウム塩類が挙げられる。
【0026】
ルイス酸触媒としては、例えば、テトラブチル錫、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫オクトエートなどの錫化合物が挙げられる。
【0027】
上記触媒の量は、エポキシ変性ポリシロキサン化合物50質量部当たり、0.1〜100質量部程度、好ましくは0.3〜20質量部とすればよい。上記使用量が0.1質量部未満では、触媒としての効果が小さく、100質量部を越えると最終樹脂の諸性能を低下させる場合があるので好ましくない。しかし、残留触媒が重大な性能低下を引き起こすような場合は、純水で洗浄して、残留触媒を除去する構成としてもよい。
【0028】
エポキシ変性ポリシロキサン化合物と二酸化炭素との反応において、使用できる有機溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホオキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。また、これら有機溶剤と他の貧溶剤、例えば、メチルエチルケトン、キシレン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、シクロヘキサノンなどの混合系で使用してもよい。
【0029】
本発明で用いるポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、下記[式−B]で示されるように、上記のようにして得られた5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物と、アミン化合物とを、有機溶媒の存在下、20℃〜150℃の温度下で反応させることで得ることができる。
【0030】

【0031】
上記反応に使用するアミン化合物としては、ジアミンが好ましく、従来ポリウレタン樹脂の製造に使用されているものがいずれも使用でき、特に限定されない。例えば、メチレンジアミン、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン;フェニレンジアミン、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−メチレンビス(フェニルアミン)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミンなどの芳香族ジアミン;1,4−シクロヘキサンジアミン、4,4’−ジアミノシクロヘキシルメタン、1,4’−ジアミノメチルシクロヘキサン、イソホロンジアミンなどの脂環族ジアミン;モノエタノールジアミン、エチルアミノエタノールアミン、ヒドロキシエチルアミノプロピルアミンなどのアルカノールジアミンが挙げられる。更にその他現在市販されており、市場から容易に入手し得る化合物は、いずれも本発明において使用することができる。
【0032】
上記のようにして得られたポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、その樹脂分子中のポリシロキサンセグメントの占める割合が、樹脂分子に対して、その含有量が1〜75質量%となる量であることが好ましい。1質量%未満ではポリシロキサンセグメントに基づく表面エネルギーに伴う機能の発現が不十分となる。また、75質量%を越えるとポリヒドロキシウレタン樹脂の機械強度、耐磨耗性などの性能が不十分となるので好ましくはない。樹脂分子中のポリシロキサンセグメントの占める割合は、好ましくは2〜60質量%であり、より好ましくは5〜30質量%である。
【0033】
また、本発明で用いるポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、その数平均分子量(GPCで測定した、標準ポリスチレン換算値)が、2,000〜100,000程度であることが好ましく、より好ましくは5,000〜70,000程度である。
【0034】
本発明のウェザーストリップ用材料は、前記したポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を含んでなる樹脂組成物からなり、高分子弾性体材料に、被覆および/または含浸させて、他部品と摺接する摺接部に表面処理層を形成するためのものである。該樹脂組成物のより好ましい形態としては、先に説明したポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂100質量部に対して、添加剤として、平均重合度5,000〜100,000のジオルガノポリシロキサンおよび/または粘度が100〜1,000CSのシリコーンオイルが、1〜100質量部の割合で添加されてなるものが挙げられる。
【0035】
ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂に配合するジオルガノポリシロキサンとしては、平均重合度5,000〜10,000の直鎖状の流動性のないゴム状シリコーンを用いることが好ましい。かかる材料は、市場から容易に入手可能である。
【0036】
また、ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂に配合するシリコーンオイルとしては、粘度が100〜1,000CSの範囲のものが好適である。この場合に使用するシリコーンオイルとしては、例えば、架橋剤であるポリイソシアネートと反応する活性水素基を有しているものであってもよく、有していないものでもよい。なお、CSは動粘度の単位であるセンチストークスを意味するが、通常、この値を一つの仕様として市販がされている。
【0037】
ジオルガノポリシロキサンおよび/またはシリコーンオイルの添加量は、ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂100質量部に対して、1〜100質量部、好ましくは3〜70質量部程度とするとよい。該添加量が1質量部未満では添加効果が小さく、一方、100質量部を越えると塗膜の機械的物性が低下する傾向があるので好ましくない。
【0038】
また、樹脂組成物の別の好ましい形態としては、処理層表面の艶消し、磨耗性・滑性の向上のため、艶消剤を添加剤とすることが挙げられる。具体的には、ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂100質量部に対して、艶消剤として、有機系微粉末或いは無機系微粉末から選ばれる一種または二種以上の組み合わせからなる物質を1〜150質量部の割合で添加してなる樹脂組成物とすることが好ましい。
【0039】
この場合に使用する有機系微粉末としては、特に制限されるものではないが、例えば、アクリル樹脂粒子、スチレン樹脂粒子、スチレン−アクリル樹脂粒子、フェノール樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、アクリル−ポリウレタン樹脂粒子、ポリウレタン樹脂粒子、ポリエステル樹脂粒子、ナイロン樹脂粒子、シリコーン樹脂粒子、ポリエチレン樹脂粒子などを使用することができる。これら粉末の平均粒径としては、0.1〜10μmの程度のものが好ましい。また、粒子の形状としては、形成される塗膜の艶消性が特に優れることから、球状または略球状が実用上好ましい。
【0040】
また、無機系微粉末としては、例えば、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、クレー、アルミナ、シリカ、炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維、カーボンブラック、酸化チタン、モリブデン、水酸化マグネシウム、ベントナイト、黒鉛などが挙げられる。これら無機系微粉末の平均粒径としては、10μm以下であれば本発明の目的に即するが、できるだけ小さい粒径の粉末であるほうがより好ましい。
【0041】
上記に挙げた艶消剤の添加量は、ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂100質量部に対して1〜150質量部程度、好ましくは3〜60質量部とするとよい。1質量部未満では艶消効果が充分に得られず、一方、150質量部を越えると塗膜の機械物性が大きく低下する傾向があるため好ましくない。
【0042】
本発明で用いるポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、前記した一般式(1)で表される5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物と、アミン化合物との反応から誘導される。このため、該樹脂を含有してなる本発明の材料を高分子弾性体材料に被覆および/または含浸させて、表面処理層を形成した場合に、該樹脂の構造中の5員環環状カーボネート基がアミン化合物と反応して生成する水酸基が、高分子弾性体表面に対して更なる性能の向上をもたらすことになる。すなわち、水酸基は親水性を有しているため、高分子弾性体材料に対しての接着性を向上させるとともに、従来品では達成できなかった帯電防止効果も得ることができる。そして、樹脂中の水酸基と、架橋剤などとの反応を利用して表面処理層を形成すれば、さらなる表面の耐熱性、耐摩耗性、耐薬品性の向上を図ることができる。
【0043】
本発明で用いるポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の水酸基価20〜300mgKOH/gであることが好ましい。水酸基含有量が上記範囲未満であると、二酸化炭素削減効果が不足であり、一方、上記範囲を超えると、高分子化合物としての機械物性低下となる。
【0044】
本発明においては、ポリシロキサン変性ヒドロキシポリウレタン樹脂を含有する樹脂組成物、或いは、該樹脂と先に挙げたような添加剤とからなる樹脂組成物によって形成される被膜(表面処理層)は、そのままでも十分な効果が得られるが、さらに、架橋剤を用いて架橋被膜を形成することもできる。
【0045】
この際、樹脂の構造中の水酸基と反応するような架橋剤はすべて使用でき、特に限定されない。例えば、アルキルチタネート化合物やポリイソシアネート化合物が挙げられるが、従来ポリウレタン樹脂の架橋に使用されている公知の架橋剤が好ましい。例えば、下記のような構造式のポリイソシアネートと他の化合物との付加体などが挙げられる。
【0046】

【0047】

【0048】

【0049】

【0050】
また、本発明の、ポリシロキサン変性ヒドロキシポリウレタン樹脂を含有した樹脂組成物、或いは、該樹脂と先に挙げたような添加剤とからなる樹脂組成物には、ウェザーストリップの基材である高分子弾性体に付与して表面処理層を形成する場合における、接着性や、塗膜の成膜性の向上のために、さらに、従来公知の各種バインダー樹脂を混合して使用することができる。この際に使用するバインダー樹脂としては、上記のポリイソシアネート付加物などの架橋剤と化学的に反応し得るものが好ましいが、反応性を有していないものでも本発明では使用することができる。
【0051】
これらのバインダー樹脂としては、ウェザーストリップの表面処理に従来から用いられているバインダー樹脂が使用でき、特に限定されない。例えば、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリブタジエン樹脂、シリコーン樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、セルロース樹脂、アルキッド樹脂、変性セルロース樹脂、フッ素樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂などを使用することができる。また、これらのバインター樹脂を併用する場合、その使用量は、本発明の樹脂組成物100質量部に対して、バインダー樹脂が5〜90質量部、より好ましくは、10〜60質量部程度を添加するとよい。
【0052】
また、本発明の樹脂組成物には、必要に応じて、さらに、塗面調整剤、流動性調整剤、紫外線吸収剤、分散剤、沈降防止剤などの各種塗料用添加剤を配合してもよい。
【0053】
本発明の、ポリシロキサン変性ヒドロキシポリウレタン樹脂を含有した樹脂組成物、或いは、該樹脂と先に挙げたような添加剤とからなる樹脂組成物は、刷毛塗り、スプレー、ロールコート、グラビア、浸漬などの公知塗布方法で、ウェザーストリップ用基材である高分子弾性体に、被覆および/または含浸することで、基材の所望の位置に表面処理層を形成することができる。この際、乾燥後の厚みが10〜100μm程度になるように、高分子弾性体上に塗布し、乾燥後50〜150℃程度の温度で加熱処理することで、皮膜を形成することが好ましい。
【0054】
以上のように、本発明の、ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を含んでなる樹脂組成物を用い、高分子弾性体の所望の位置に表面処理層を形成することで、滑性、耐磨耗性、耐熱性、耐候性、さらに好ましい形態では、均一な艶消し効果にも優れたウェザーストリップが得られる。それと共に、ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の構造中の水酸基が、基材である高分子弾性体と界面で強く相互作用することによって、形成された表面処理層は、基材に対して優れた接着性や可とう性、および帯電防止効果が付与されたものとなる。このため、本発明の材料によって表面処理層が形成されて得られたウェザーストリップは、優れた性能のものとなる。また、本発明で使用するポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂は、合成に用いる特定の5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物が、エポキシ変性ポリシロキサン化合物と二酸化炭素を反応させて得られるものであるため、樹脂中に二酸化炭素を取り入れることができる。このことは、本発明によって、温暖化ガス削減の観点からも有用な、従来品では到達できなかった環境保全対応のウェザーストリップの提供が可能となることを意味している。
【実施例】
【0055】
次に、具体的な製造例、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下の各例における「部」および「%」は特に断りのない限り質量基準である。
【0056】
<製造例1>(5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物の製造)
攪拌機、温度計、ガス導入管および還流冷却器を備えた反応容器中に、下記式Aで表される2価エポキシ変性ポリシロキサン100部、N−メチルピロリドン100部およびヨウ化ナトリウム1.2部を加え、均一に溶解させた。その後、炭酸ガスを0.5リッター/分の速度でバブリングしながら80℃で30時間加熱攪拌させた。上記で使用した2価エポキシ変性ポリシロキサンは、信越化学工業(株)製のX−22−163(エポキシ当量198g/mol)であり、図1にその赤外吸収スペクトルを示した。
【0057】

【0058】
反応終了後、得られた溶液に100部のn−ヘキサンを加えて希釈した後、分液ロートにて80部の純水で3回洗浄し、N−メチルピロリドンおよびヨウ化ナトリウムを除去した。n−ヘキサン液を硫酸マグネシウムで脱水後、濃縮し、無色透明の液状5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物(1−A)を92部(収率89.7%)得た。
【0059】
得られた生成物(1−A)の赤外吸収スペクトル(堀場製作所 FT−720)では、図2に示したように、1,800cm-1付近に原料には存在しない環状カーボネート基のカルボニル基の吸収が確認された。また、生成物の数平均分子量は、図3に示したように、2,450(ポリスチレン換算、東ソー;GPC−8220)であった。得られた5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物(1−A)中には、18.1%の二酸化炭素が固定化されていた。
【0060】
<製造例2>(5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物の製造)
製造例1で用いた2価エポキシ変性ポリシロキサンAの代わりに、下記式B表わされる2価エポキシ変性ポリシロキサンBを用いた以外は、製造例1と同様に反応させ、無色透明の液状5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物(1−B)99部(収率91%)を得た。原料の2価エポキシ変性ポリシロキサンBとして、信越化学工業(株)製のKF−105(エポキシ当量485g/mol)を使用した。生成物は、製造例1の場合と同様に、赤外吸収スペクトル、GPC、NMRで確認した。得られた5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物(1−B)中には、8.3%の二酸化炭素が固定化されていた。
【0061】

【0062】
<製造例3>(5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物の製造)
製造例1で用いた2価エポキシ変性ポリシロキサンAの代わりに、下記式C表わされる2価エポキシ変性ポリシロキサンCを用いた以外は、製造例1と同様に反応させ、無色透明の液状5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物(1−C)71部(収率68%)を得た。原料の2価エポキシ変性ポリシロキサンCとして、信越化学工業(株)製のX−22−169AS(エポキシ当量533g/mol)を使用した。生成物は、製造例1の場合と同様に、赤外吸収スペクトル、GPC、NMRで確認した。得られた5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物(1−C)中には、7.6%の二酸化炭素が固定化されていた。
【0063】

【0064】
<実施重合例1〜3>(ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の製造)
製造例1〜3で得られた、5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物をそれぞれ用いて、下記のような手順で、実施例で用いるポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を合成した。攪拌機、温度計、ガス導入管および還流冷却器を備えた反応容器を窒素置換し、該容器内に、製造例1〜3で得た、5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物、さらに液の固形分が35%になるようにジメチルホルムアミドを加え、均一に溶解した。次に、表1に記載のアミン化合物を所定当量加え、90℃の温度で10時間攪拌し、アミン化合物が確認できなくなるまで反応させた。このようにして得られた3種類のポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の性状は表1に記載の通りであった。
【0065】

【0066】
<比較重合例1>(ポリエステルウレタン樹脂の製造)
下記のようにして、比較例で用いるポリエステルウレタン樹脂を合成した。攪拌機、温度計、ガス導入管および還流冷却器を備えた反応容器を窒素置換し、該容器内に、平均分子量約2,000のポリブチレンアジペート150部と、1,4−ブタンジオール15部とを、200部のメチルエチルケトンと、50部のジメチルホルムアミドからなる混合有機溶剤中に溶解した。その後、60℃でよく攪拌しながら、62部の水添加MDIを、171部のジメチルホルムアミドに溶解したものを徐々に滴下し、滴下終了後、80℃で6時間反応させた。
【0067】
この溶液は固形分35%で3.2MPa・s(25℃)の粘度を有していた。この溶液から得られたフィルムは、破断強度45MPaで、破断伸度480%を有し、熱軟化温度は110℃であった。
【0068】
<比較重合例2>(ポリシロキサン変性ポリウレタン樹脂の製造)

【0069】
下記のようにして、比較例で用いるポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を合成した。上記式(D)で表され、かつ、平均分子量が約3,200である、ポリジメチルシロキサンジオール150部および1,4−ブタンジオール10部を、200部のメチルエチルケトンと、50部のジメチルホルムアミドからなる混合有機溶媒を加え、また、40部の水添加MDIを、120部のジメチルホルムアミドに溶解したものを徐々に滴下し、滴下終了後80℃で6時間反応させた。この溶液は、固形分35%で1.6MPa・s(25℃)の粘度を有し、この溶液から得られたフィルムは破断強度21MPaで、破断伸度250%を有し、熱軟化温度は135℃であった。
【0070】
<実施例1〜6、比較例1〜4>
実施重合例1〜3、比較重合例1〜2の各ポリウレタン樹脂を使用して、表2に記載の配合で塗料をそれぞれ作成し、実施例1〜6、比較例1〜4の各ウェザーストリップ用材料とした。また、これらの塗料を、EPDMゴムシート上にエアースプレーガンを用いて塗工した後、100℃で10分間乾燥させて20μmの皮膜を形成した。このようにして得られた塗膜面を有するEPDMゴムシートを、各ウェザーストリップ用材料によって形成した表面処理層(塗膜面)を評価するための測定用試料とした。
【0071】
上記で調製した各ウェザーストリップ用材料および各測定用試料について、静止摩擦係数、動摩擦係数、接触角、接着性、磨耗耐久性、耐候性などを以下の方法でそれぞれ測定し、実施例及び比較例の材料について評価した。評価結果を表2にまとめて示した。
【0072】
(静止摩擦係数、動摩擦係数)
各ウェザーストリップ用材料(塗料)の、ガラス部材との静止摩擦係数、動摩擦係数を表面性試験機(新東科学製)で評価した。
【0073】
(接触角)
上記で得た測定用試料の皮膜部分における水の接触角を、接触角計(協和界面化学社製)で測定し、各ウェザーストリップ用材料からなる塗膜面の水の接触角とした。
【0074】
(接着性)
上記で得た測定用試料の皮膜部分に対して、碁盤目セロハンテープによる剥離試験を行って、各ウェザーストリップ用材料からなる塗膜面の接着性を、下記の基準で評価した。
○;良好(塗膜面に剥離部分がない)
×;不良(塗膜面に剥離部位がある)
【0075】
(磨耗耐久性)
上記で得た測定用試料の皮膜部分に、9.8Nの荷重を加えたガラス板を当接し、該ガラス板を往復運動させることによる塗膜の裂傷などが生じるまでの往復運動回数を、表面性試験機(新東科学製)で測定した。そして、得られた往復運動回数で、各ウェザーストリップ用材料からなる塗膜面の磨耗耐久性を評価した。
【0076】
(耐候性試験)
サンシャインカーボンアーク耐候試験機(スガ試験機)を用い、上記で得た測定用試料の皮膜部分にパネル温度83℃で200時間照射後、その塗膜面の状態を目視で観察し、各ウェザーストリップ用材料からなる塗膜面の耐候性を、下記の基準で評価した。
3:表面状態変化なし
2:表面状態少し変化あり
1:大きな変化及び白化現象
【0077】
(環境対応性)
各ウェザーストリップ用材料(塗料)中における二酸化炭素の固定化の有無によって、○×で評価した。
【0078】

【0079】

【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明によれば、ウェザーストリップ用材料を、特定の構造を有するポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を含有する樹脂組成物を用いることで、該材料を高分子弾性体材料(基材シート)に被覆および/または含浸させた場合に、滑性、耐磨耗性、耐熱性、耐候性、さらには均一な艶消し効果に優れる皮膜の形成が可能となると共に、ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の水酸基が基材シートと界面で強く相互作用することによる、優れた接着性や可とう性、および帯電防止効果が付与された優れた性能の皮膜を得ることができる。また、本発明で提供するウェザーストリップ用材料は、二酸化炭素を樹脂中に取り入れたものであるため、温暖化ガス削減の観点からも優れたものであり、従来品では到達できなかった環境保全対応の製品となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子弾性体材料に被覆および/または含浸させて、他部品と摺接する摺接部に表面処理層を形成するためのウェザーストリップ用材料であって、下記一般式(1)で表される5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物と、アミン化合物との反応から誘導されたポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂を含んでなる樹脂組成物であることを特徴とするウェザーストリップ用材料。

式中のR1は、炭素数1〜12のアルキレン基(該基中にO、S、またはNの各元素及び/又は−(C24O)b−で連結されていてもよい)を表す。式中のR2は、ないか、または、炭素数2〜20のアルキレン基を表し、R2は、脂環族基または芳香族基に連結していてもよい。bは1〜300の数を表わし、aは1〜300の数を表す。]
【請求項2】
前記5員環環状カーボネートポリシロキサン化合物が、エポキシ変性ポリシロキサン化合物と二酸化炭素を反応させて得られる請求項1に記載のウェザーストリップ用材料。
【請求項3】
前記ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂が、二酸化炭素を1〜25質量%含有してなる請求項1または2に記載のウェザーストリップ用材料。
【請求項4】
前記ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂が、その樹脂分子中に、ポリシロキサンセグメントを1〜75質量%の割合で含有している請求項1乃至3のいずれか1項に記載のウェザーストリップ用材料。
【請求項5】
前記樹脂組成物が、ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂100質量部に対して、平均重合度5,000〜100,000のジオルガノポリシロキサンおよび/または粘度が100〜1,000CSのシリコーンオイルを、1〜100質量部の割合で添加してなる請求項1乃至4のいずれか1項に記載のウェザーストリップ用材料。
【請求項6】
前記樹脂組成物が、ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂100質量部に対して、艶消剤として、有機系微粉末或いは無機系微粉末から選ばれる一種または二種以上の組み合わせからなる物質を1〜150質量部の割合で添加してなる請求項1乃至5のいずれか1項に記載のウェザーストリップ用材料。
【請求項7】
前記樹脂組成物が、さらに、ポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂以外のバインダー樹脂を含んでなる請求項1乃至6のいずれか1項に記載のウェザーストリップ用材料。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載のウェザーストリップ用材料を高分子弾性体材料に被覆および/または含浸させて、他部品と摺接する摺接部に表面処理層が形成されてなるウェザーストリップであって、表面処理層が、ウェザーストリップ用材料中のポリシロキサン変性ポリヒドロキシポリウレタン樹脂の構造中の水酸基と反応する架橋剤で架橋されて形成されていることを特徴とするウェザーストリップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−231299(P2011−231299A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105852(P2010−105852)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【出願人】(000238256)浮間合成株式会社 (99)
【Fターム(参考)】