説明

ウエットエッチング方法及び音叉型圧電素子片の加工方法

【課題】ウエットエッチングにより微細で高アスペクト比の構造を被加工材料に高精度に加工する。
【解決手段】水晶基板20の表面に耐蝕膜21を形成し、その上にフォトレジスト層22を形成しかつ加工しようとする溝の開口形状をパターニングし、露出した耐蝕膜を除去して水晶基板表面が露出するパターン開口24を形成する工程と、パターン開口内に露出した水晶表面をウエットエッチングして浅い凹部25を形成する第1ウエットエッチング工程と、凹部及びパターン開口の内面をCrの保護膜26で被覆し、かつ凹部底面の保護膜を除去して該底面の水晶面を露出させ、露出した凹部底面をウエットエッチングする第2ウエットエッチング工程とからなり、凹部が所望の溝の深さになるまで第2エッチング工程を繰り返し行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば圧電デバイス、半導体装置、その他の電子部品に使用する基板等の被加工材料をウエットエッチングする方法に関し、特に微細なパターンの凹部及び/または凸部からなる構造を加工するのに適したウエットエッチング方法に関する。
【0002】
更に本発明は、このウエットエッチング方法を利用して音叉型圧電素子片を加工する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
一般に、圧電デバイスや半導体装置等の電子部品における微細加工は、フォトリソグラフィ技術を利用したエッチング技術により行われている。エッチング技術には、エッチング液を用いるウエットエッチングと、反応ガス中でのプラズマを用いる反応性イオンエッチングやスパッタリング等のドライエッチングとがある。圧電振動子等の圧電デバイスでは、多くの場合、振動片の外形加工にウエットエッチングが採用されている(例えば、特許文献1,2を参照)。
【0004】
特許文献1に記載されるように、図2に例示する音叉型水晶振動片は、図3に示す工程に従ってウエットエッチングにより外形加工される。一般に音叉型水晶振動片1は、基部2から平行に延出する1対の振動腕3の上下主面にそれぞれ溝4を有する。最初に、図3(A)に示すように、水晶基板10の両面全面にCr膜11aとAu膜11bとからなる2層構造の耐蝕膜11を形成する。耐蝕膜11上にフォトレジスト層12を形成し、振動片1の外形をパターニングして耐蝕膜11表面を露出させる(図3(B))。次に、前記耐蝕膜の露出部分をウエットエッチングにより完全に除去し、水晶基板10表面を露出させる(図3(C))。残存するフォトレジスト層12を完全に除去した後(図3(D))、水晶基板10の両面全面に新たなフォトレジスト層13を形成する(図3(E)。フォトレジスト層13に振動片1の外形及び溝4の開口形状をパターニングして、それらに対応する水晶基板10表面及び耐蝕膜11表面をそれぞれ露出させる(図3(F))。
【0005】
次に、水晶基板10の露出面を適当なエッチング液で貫通エッチングし、振動片1の外形を形成する(図3(G))。露出した耐蝕膜11をウエットエッチングで除去し、振動腕3の溝4の開口パターンを転写して振動腕3に水晶面を露出させる(図3(H))。振動腕3の水晶露出面を所定の深さまでウエットエッチングし、溝4を加工する(図3(I))。最後に、残存するフォトレジスト膜13及び耐蝕膜11を完全に除去すると、所望の外形及び溝形状を有する水晶素子片が形成される(図3(J))。
【0006】
最近は、各種電子部品の小型化が進むと共に、微細で高アスペクト比のエッチング加工が要求されている。例えば、窒化物半導体に高アスペクト比のエッチング形状を高精度に微細加工するために、KOH水溶液である電解液中に浸した窒化物半導体に対して、紫外線の照射を抑制しながらバイアスを印加するウエットエッチング方法が知られている(例えば、特許文献3を参照)。
【0007】
また、金属材料のウエットエッチングは、レジストパターンの開口部からレジスト直下までエッチングが等方的に進行するので、サイドエッチングの問題が発生する。この問題を解消するために、金属材料上にホットメルトレジストのパターンを形成した後に第一エッチングを行い、サイドエッチングを少し進行させた後に、該パターンを加熱し軟化フローさせてエッチング側面の浅部を覆って第二エッチングを行うことにより、サイドエッチの進行を防いで高アスペクト比のエッチング形状を形成するウエットエッチング方法が知られている(例えば、特許文献4を参照)。
【0008】
他方、ドライエッチングを用いて微細で高アスペクト比の構造を加工する様々な方法が開発されている。例えば、ボッシュ法と呼ばれるケイ素の異方性エッチング法では、フッ素系ガス等のエッチングガスを導入するエッチング工程と、デポジションガスを導入する重合とを交互に繰り返しながら、これらのガスを励起してプラズマを発生させ、シリコンウエハに高アスペクトで垂直なエッジ加工を行う(例えば、特許文献5を参照)。また、電子線リソグラフィーと高速原子線照射とを組み合わせることにより、ガラスや水晶、ダイヤモンド等の絶縁物基板に超微細な加工を施す超微細加工方法が提案されている(例えば、特許文献6を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−200915号公報
【特許文献2】特開2004−260593号公報
【特許文献3】特開2006−80274号公報
【特許文献4】特開2004−214523号公報
【特許文献5】特表平7−503815号公報
【特許文献6】特開平10−274700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
水晶や単結晶シリコン等の単結晶材料は、その結晶方向によってウエットエッチングのエッチングレートが異なるという結晶異方性を有する。水晶の場合、そのエッチングレートは、Z軸(光学軸)方向に大きいが、X軸(電気軸)方向に小さく、Y軸(機械軸)方向には更に小さい。そのため、水晶材料に高アスペクト比の溝、孔等の凹部をウエットエッチングする場合には、加工面の法線方向に水晶のZ軸を配向することが好ましい。その場合にも、エッチング深さが大きくなるほど、X軸方向及びY軸方向へのサイドエッチングが増加する。
【0011】
本願発明者は、水晶基板に微細幅で深さの大きい高アスペクト比の溝をウエットエッチングした場合に、サイドエッチングが溝の加工形状に及ぼす影響をシミュレートした。図4(A)は、水晶のZ軸を主面法線方向に合わせて切り出した所謂水晶Z板からなる水晶基板15の表面にマスク16を配置し、ウエットエッチングにより溝17を加工した場合を示している。マスク16のパターン開口幅wを3μmに設定した。図4(A)に示すように、溝17を深さd=45μmまで加工した状態では、その開口付近における最大溝幅wがマスク16のパターン開口幅wに略等しい。溝17を更に深く加工したところ、図4(B)に示すように、深さd=60μmで水晶の±X軸方向に明らかなサイドエッチングが認められた。溝17の深さd=90μmでは、図4(C)に示すように、±X軸方向のサイドエッチングが更に進行し、溝17の開口付近における最大溝幅wが約20μmまで拡大した。
【0012】
音叉型水晶振動子も、他の圧電デバイスや半導体装置、その他の電子部品と同様に、より一層の小型化が要求されている。その結果、振動腕の幅はより狭小化され、振動腕に形成される溝もより狭幅に加工する必要がある。しかしながら、溝幅が狭小化してアスペクト比が高くなるほど、サイドエッチングが溝の形状及び寸法に及ぼす影響は大きくなり、高精度の微細加工は困難になる。
【0013】
また、特許文献4記載のウエットエッチング方法は、第一エッチングにおいてサイドエッチングを少し進行させることによって、金属材料上のレジストパターンを加熱により軟化フローさせてエッチング側面を覆うことができるようにする。この方法は、金属材料の等方性エッチングを前提とするので、水晶等のように結晶異方性を有する被加工材料のウエットエッチングには不向きである。また、得られるエッチング形状の開口幅がサイドエッチングにより画定されるので、高精度に制御することが困難である。
【0014】
一般にドライエッチングは、ウエットエッチングに比して、微細で高アスペクト比の溝や孔等の凹部または凸部を容易に加工することができる。しかしながら、水晶やガラス等の絶縁性材料のドライエッチングは、エッチングレートがウエットエッチングより相当低く、加工面が荒れた状態になり易いので、実用的ではない。特に上記ボッシュ法は、加工溝の側壁が段付き形状になるという問題がある。しかも、ドライエッチングには、気密な反応室やプラズマ発生装置等の高価な設備が必要であり、多大なコストを要する。更に、フッ素系のガスを反応ガスに用いた場合、環境を汚染する虞がある。
【0015】
そこで本発明は、上述した従来の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、水晶等の圧電材料、ガラス等の絶縁性材料、半導体材料等からなる基板等の様々な被加工材料をウエットエッチングにより加工して、微細な寸法・形状を有しかつ高アスペクト比の凹部及び/または凸部からなる構造を、サイドエッチングを生じることなく高精度に形成し得る方法を提供することにある。
【0016】
更に本発明の目的は、このウエットエッチング方法を利用して、小型化の要求に対応して狭幅の振動腕に微細な溝を有する音叉型圧電素子片を高精度に加工し得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明によれば、上記目的を達成するために、被加工材料の表面に耐蝕膜を形成する工程と、耐蝕膜の上にフォトレジスト層を形成しかつパターニングし、露出した耐蝕膜を除去して、被加工材料の表面を露出させるパターン開口を形成する工程と、パターン開口内に露出した被加工材料の表面をウエットエッチングして、該被加工材料に凹部を形成する第1ウエットエッチング工程と、少なくとも凹部の内面及びパターン開口の内面を保護膜で被覆し、凹部の底面の保護膜を除去して該底面を露出させ、露出した凹部の底面をウエットエッチングする第2ウエットエッチング工程とからなるウエットエッチング方法が提供される。
【0018】
このように被加工材料のウエットエッチングを複数回に分け、1回のエッチング深さを所望の最終的な深さよりも小さくすることによって、第1ウエットエッチング工程におけるサイドエッチングの影響を抑制し、かつ第2ウエットエッチング工程において、凹部側面に保護膜を残してウエットエッチングを行うことにより、先に加工した凹部の幅寸法を維持しつかつサイドエッチングの影響を抑制しながら、更にエッチング深さを大きく加工することができる。従って、被加工材料に微細な寸法・形状で高アスペクト比の凹部及び/又は凸部からなる構造を形成することができる。しかも、ドライエッチング方法のような高価な設備装置を必要としないので、加工コストを抑制することができ、有害な反応性ガスを使用しないので、環境汚染の影響が非常に少ない。
【0019】
或る実施例では、第2エッチング工程を、凹部が所望の深さになるまで繰り返し行うことにより、より高いアスペクト比の微細加工が可能になる。
【0020】
別の実施例では、第2エッチング工程を、凹部が被加工材料を貫通するまで繰り返し行うことにより、高アスペクト比の貫通孔をウエットエッチングで形成することができる。
【0021】
また、或る実施例では、被加工材料が水晶Z板であると、深さ方向にエッチングレートが高いので、高アスペクト比の加工が容易である。
【0022】
本発明の別の側面によれば、圧電基板の表面に耐蝕膜を形成する工程と、耐蝕膜の上に第1のフォトレジスト層を形成しかつ音叉型圧電素子片の外形形状をパターニングし、露出した耐蝕膜を除去して、圧電基板の表面を露出させる工程と、残存する第1のフォトレジスト層を除去し、圧電基板の表面に第2のフォトレジスト層を形成しかつパターニングして、圧電素子片の振動腕の溝に対応する形状のフォトレジスト膜を耐蝕膜の上に形成する工程と、耐蝕膜から露出した圧電基板の表面をウエットエッチングして圧電素子片の外形形状を形成する工程と、フォトレジスト膜から露出した耐蝕膜の部分を除去して、振動腕の溝に対応する開口を耐蝕膜に形成し、該開口内に露出した圧電基板の表面をウエットエッチングして振動腕の溝を形成する工程とからなり、該振動腕の溝を形成する工程が、耐蝕膜の前記開口内に露出した圧電基板の表面をウエットエッチングして、振動腕の溝の所望の深さよりも浅い凹部を形成する第1ウエットエッチング工程と、少なくとも凹部の内面及び耐蝕膜の前記開口の内面を保護膜で被覆し、凹部の底面の保護膜を除去して該底面を露出させ、露出した凹部の底面をウエットエッチングする第2ウエットエッチング工程とからなる音叉型圧電素子片の加工方法が提供される。
【0023】
これにより、音叉型圧電振動片の小型化に対応して、振動腕に微細で高アスペクト比の溝を高精度に加工することができる。
【0024】
或る実施例では、第2エッチング工程を、凹部が振動腕の溝の所望の深さになるまで繰り返し行うことにより、振動腕の溝をより高アスペクト比に加工することができる。
【0025】
別の実施例では、圧電基板が水晶Z板であると、深さ方向にエッチングレートが高いので、高アスペクト比の溝を容易に加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1−1】本発明のウエットエッチング方法の実施例を工程順に示す(A)〜(F)図からなる断面図。
【図1−2】図1−1に続く工程を工程順に示す(G)〜(J)図からなる断面図。
【図2】公知の一般的な音叉型水晶振動片をその電極膜を省略して示す概略斜視図。
【図3】図2のII−II線における音叉型水晶振動片の外形を加工する従来のウエットエッチング方法を工程順に示す(A)〜(J)図からなる断面図。
【図4】(A)〜(C)図は水晶基板にウエットエッチングされる微細な溝の形状変化を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、添付図面を参照しつつ、本発明の好適な実施例を詳細に説明する。
図1−1及び図1−2は、本発明のウエットエッチング方法を適用して、水晶基板に狭幅で高アスペクト比の溝を加工する過程を示している。本実施例において、被加工材料である水晶基板は、水晶Z板と呼ばれる水晶板である。尚、水晶Z板には、Z軸が主面法線方向に完全に一致するものだけでなく、主面法線方向からそれに近い或る範囲のカット角をもって切り出したものを含むこととする。
【0028】
最初に、図1−1(A)に示すように、水晶基板20の表面に耐蝕膜21を形成する。耐蝕膜21は、水晶との密着性に優れた下地層としてのCr膜21aと、水晶用エッチング液に対する耐蝕性に優れたAu膜21bとを、それぞれスパッタリング又は蒸着で積層した2層構造で構成される。水晶への密着性が良い他の耐蝕性金属材料としては、Ni、Al,Ti等があり、これらをAu膜と組み合わせて用いることもできる。耐蝕膜21上には、スピンコート等によりフォトレジスト層22を形成する(図1−1(B))。
【0029】
図1−1(C)に示すように、加工しようとする溝のパターンを有するフォトマスク23を用いて耐蝕膜21をパターニングし、耐蝕膜21表面を露出させる。露出した耐蝕膜21の部分を、適当なエッチング液を用いてウエットエッチングにより完全に除去し、水晶基板20表面を露出させる(図1−1(D))。これにより、耐蝕膜21及びフォトレジスト層22の積層体に、加工しようとする溝のパターンに対応したパターン開口24が転写される。
【0030】
次に、第1ウエットエッチング工程として、図1−1(E)に示すように、パターン開口24内に露出した水晶基板20表面を、弗酸等の適当なエッチング液を用いてウエットエッチングし、浅い凹部25を形成する。凹部25のエッチング深さは、加工しようとする溝の所望の深さよりも小さく設定する。この第1のウエットエッチング工程は、凹部25の側方へのサイドエッチングが実質的に進行しない程度で止めることが好ましい。また、耐蝕膜21の上に残存するフォトレジスト層22は、凹部25のウエットエッチングが耐蝕膜21にダメージを与える虞を回避するために、そのまま残しておくことが好ましい。当然ながら、フォトレジスト層22を除去した後に第1ウエットエッチング工程を行うことも可能である。
【0031】
次に、水晶基板20の凹部25を更にウエットエッチングする第2ウエットエッチング工程を行う。Crをスパッタリングにより成膜して、図1−1(F)に示すように、凹部25及びパターン開口24の内面並びにフォトレジスト層22の上面を保護膜26で被覆する。前記保護膜の材料としては、Cr以外に、水晶への密着性が良く、水晶のエッチング液に対して耐蝕性を有するNi,Ti等を用いることができる。保護膜26は、少なくとも凹部25及びパターン開口24の内面に形成すればよい。
【0032】
次に、Ar等のイオンビームを水晶基板20表面に対して垂直に照射し、凹部25側面及びパターン開口24内面に保護膜26aを残して、凹部25底面及びフォトレジスト層22上面から保護膜26を除去し、凹部25底面に水晶面を露出させる(図1−1(G))。このとき、凹部25底面の保護膜26のみを選択的に除去するように、マスク等を用いてイオンビームを照射することも可能である。保護膜26を除去する他の方法として、例えばサンドブラスト法を用いることができる。
【0033】
図1−1(H)に示すように、凹部25底面に露出した水晶面を、同様に適当なエッチング液を用いてウエットエッチングし、第1ウエットエッチング工程による凹部25よりも幾分深い凹部25を形成する。この第2ウエットエッチング工程のエッチング量も、凹部25の側方へのサイドエッチングが実質的に進行しない程度で止めることが好ましい。これにより、パターン開口24の寸法に対応した幅で垂直な側面の凹部25を形成することができる。実際に、凹部25の側面には、特に水晶結晶軸の+X軸方向を向いた側で、その結晶面が多少影響して、幾分傾斜した面が表れる可能性がある。しかしながら、第2ウエットエッチング工程のエッチング量を少なくすることによって、実質的に垂直な側面が得られる。
【0034】
次に、上述した第2ウエットエッチング工程を繰り返す。同様にCrをスパッタリングして、図1−2(I)に示すように、凹部25及びパターン開口24の内面並びにフォトレジスト層22の上面を保護膜27で被覆する。保護膜27は、先の工程で残した保護膜26aを除去した後に被覆しても、それを残したままその上から被覆してもよい。保護膜26aは、適当なエッチング液により除去することができる。
【0035】
次に、凹部25側面及びパターン開口24内面に保護膜27aを残して、イオンビームにより凹部25底面及びフォトレジスト層22上面から保護膜27を除去し、該凹部底面に水晶面を露出させる(図1−2(J))。凹部25底面に露出した水晶面を適当なエッチング液でウエットエッチングし、凹部25よりも更に幾分深い凹部25を形成する。この場合も、凹部25の側方へのサイドエッチングが実質的に進行しない程度でウエットエッチングを止めることが好ましい。
【0036】
本実施例では、図1−2(L)に示すように、凹部25の深さが所望の溝の深さとなるまで、第2ウエットエッチング工程をn回(n≧3)繰り返して行う。最後の第2のウエットエッチング工程で凹部25側面及びパターン開口24内面に残した保護膜28を適当なエッチング液で完全に除去する(図1−2(M))。最後に、水晶基板20の表面に残存するフォトレジスト層22及び耐蝕膜21を完全に除去する。これにより、水晶基板20には、所望の微細な幅を有しかつ高アスペクト比の溝29が形成される。
【0037】
第2ウエットエッチング工程の実行回数n及び1回のエッチング量は、加工したい溝29の深さ及びアスペクト比を考慮して決定する。上記実施例では、第2ウエットエッチング工程を多数回行ったが、所望の溝の深さが小さい場合には、1回の第2ウエットエッチング工程で済む場合もあり得る。
【0038】
上述したように、加工中の凹部の側面には、水晶の結晶面の影響による傾斜面が表れる可能性がある。これは、1回の第2ウエットエッチング工程のエッチング量を調整してサイドエッチングの進行を抑制することによって、解消することができ、実質的に垂直な側面を有する溝29が得られる。
【0039】
本発明のウエットエッチング方法は、図3に関連して上述した音叉型水晶素子片の加工において、振動腕に溝を形成する工程に適用することができる。図3を参照しつつ説明する。水晶基板10に振動片の外形を形成しかつ振動腕表面の耐蝕膜11を溝の開口形状にパターニングする図3(H)までの工程は、従来と同じである。
【0040】
次の図3(I)において、振動腕3の水晶露出面をウエットエッチングして、溝4の所望の深さよりも浅い凹部を形成する第1ウエットエッチング工程を行う。次に、第2ウエットエッチング工程により、前記凹部の内面及び耐蝕膜11にパターニングした開口の内面を、Crをスパッタリングにより成膜して保護膜で被覆し、前記凹部の底面の保護膜を除去して該底面の水晶面を露出させ、露出した水晶面をウエットエッチングする。この第2ウエットエッチング工程を、必要な溝4の深さが得られるまで繰り返し行う。これにより、音叉型水晶素子片の振動腕に、微細な幅で高アスペクト比の溝4を高精度に形成することができる。
【0041】
上記実施例では、基板の有底の溝を加工する場合について説明したが、本発明のウエットエッチング方法は、貫通溝を加工する場合にも、同様に適用することができる。また、本発明は、溝や孔のような凹部の加工だけでなく、微細で高アスペクト比の凸部、又は凹部と凸部とを含む微細な構造をウエットエッチングする場合についても、適用することができる。
【0042】
本発明は、上記実施例に限定されるものでなく、その技術的範囲内で様々な変形又は変更を加えて実施することができる。例えば、本発明は、被加工材料として、ウエットエッチング可能である限り、水晶以外の圧電材料、ガラス等の絶縁性材料、単結晶シリコン等の半導体材料等、ウエットエッチングに対して等方性を示すものも含めて、各種電子部品に使用されている様々な材料に適用することができる。また、被加工材料は、基板以外の様々な形態のものでもよい。更に、上記実施例では、水晶基板表面の耐蝕膜を2層構造の金属膜で形成したが、圧電基板に対する密着性と耐エッチング性とを有する金属材料であれば、単層の金属膜で形成することもできる。
【符号の説明】
【0043】
1…水晶振動片、2…基部、3…振動腕、4…溝、10,15…水晶基板、11,21…耐蝕膜、11a,21a…Cr膜、11b,21b…Au膜、12,13,22…フォトレジスト層、16,23…マスク、17,29…溝、20…水晶基板、24…パターン開口、25…凹部、26,26a,27,27a,28…保護膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工材料の表面に耐蝕膜を形成する工程と、
前記耐蝕膜の上にフォトレジスト層を形成しかつパターニングし、露出した前記耐蝕膜を除去して、前記被加工材料の表面を露出させるパターン開口を形成する工程と、
前記パターン開口内に露出した前記被加工材料の表面をウエットエッチングして、前記被加工材料に凹部を形成する第1ウエットエッチング工程と、
少なくとも前記凹部の内面及び前記パターン開口の内面を保護膜で被覆し、前記凹部の底面の前記保護膜を除去して該底面を露出させ、露出した前記凹部の底面をウエットエッチングする第2ウエットエッチング工程とからなることを特徴とするウエットエッチング方法。
【請求項2】
前記第2エッチング工程を、前記凹部が所望の深さになるまで繰り返し行うことを特徴とする請求項1記載のウエットエッチング方法。
【請求項3】
前記第2エッチング工程を、前記凹部が前記被加工材料を貫通するまで繰り返し行うことを特徴とする請求項1記載のウエットエッチング方法。
【請求項4】
前記被加工材料が水晶Z板であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか記載のウエットエッチング方法。
【請求項5】
圧電基板の表面に耐蝕膜を形成する工程と、
前記耐蝕膜の上に第1のフォトレジスト層を形成しかつ音叉型圧電素子片の外形形状をパターニングし、露出した前記耐蝕膜を除去して、前記圧電基板の表面を露出させる工程と、
残存する前記第1のフォトレジスト層を除去し、前記圧電基板の表面に第2のフォトレジスト層を形成しかつパターニングして、前記圧電素子片の振動腕の溝に対応する形状のフォトレジスト膜を前記耐蝕膜の上に形成する工程と、
前記耐蝕膜から露出した前記圧電基板の表面をウエットエッチングして前記圧電素子片の外形形状を形成する工程と、
前記フォトレジスト膜から露出した前記耐蝕膜の部分を除去して、前記振動腕の溝に対応する開口を前記耐蝕膜に形成し、前記開口内に露出した前記圧電基板の表面をウエットエッチングして前記振動腕の溝を形成する工程とからなり、
前記振動腕の溝を形成する工程が、露出した前記圧電基板の表面をウエットエッチングして、前記振動腕の溝の所望の深さよりも浅い凹部を形成する第1ウエットエッチング工程と、少なくとも前記凹部の内面及び前記耐蝕膜の前記開口の内面を保護膜で被覆し、前記凹部の底面の前記保護膜を除去して該底面を露出させ、露出した前記凹部の底面をウエットエッチングする第2ウエットエッチング工程とからなることを特徴とする音叉型圧電素子片の加工方法。
【請求項6】
前記第2エッチング工程を、前記凹部が前記振動腕の溝の所望の深さになるまで繰り返し行うことを特徴とする請求項5記載の音叉型圧電素子片の加工方法。
【請求項7】
前記圧電基板が水晶Z板であることを特徴とする請求項5又は6記載の音叉型圧電素子片の加工方法。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−183208(P2010−183208A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−23141(P2009−23141)
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】