説明

エキシマランプおよびエキシマ光照射装置

【課題】内部に希ガスが封入された長尺な発光管と、その外表面の電極と、前記発光管の光出射部を除いた内壁面上に形成された紫外線反射膜とを備えるエキシマランプにおいて、紫外線による変形による該エキシマランプの反り返りを規制する移動規制体を備えたエキシマ光照射装置に搭載した際に、紫外線歪と該反り規制歪の蓄積によって早期に発光管が損傷することを防止する。
【解決手段】エキシマランプ3の発光管31の軸方向の中央部が、該発光管の光出射部の方向に突出するように湾曲していることを特徴とし、該エキシマランプを搭載するエキシマ光照射装置は、その筐体には該エキシマランプの中央部において紫外線反射膜形成部側から当接する移動規制体を設けるとともに、光出射部側から当接する矯正維持部材を設け、前記エキシマランプは該矯正維持部材によって管軸方向において直線状に矯正されて保持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はエキシマランプおよびこれを搭載したエキシマ光照射装置に関し、特に、発光管の内壁面に紫外線反射膜が形成されたエキシマランプおよびエキシマ光照射装置に係るものである。
【背景技術】
【0002】
半導体や液晶基板の製造工程において、シリコンウエーハやガラス基板の表面に付着した有機化合物等の汚れを除去する方法として、紫外線を用いたドライ洗浄方法が広く利用されている。
特に、エキシマランプから放射される波長200nm以下の真空紫外線を用いたオゾン等の活性酸素による洗浄方法を実施するためのエキシマ光照射装置に搭載されるエキシマランプに、紫外線反射膜を形成したものが特開2010−80351号公報(特許文献1)などで提案されている。
当該特許文献1においては、紫外線を効率よく放射するために、被処理物に対して直線配置された発光管の光出射方向側の面を除いた発光管内面に、シリカ粒子とアルミナ粒子からなる紫外線反射膜が形成されている。
【0003】
ところで、このように紫外線反射膜が形成された発光管は、点灯時間の経過とともに、紫外線が透過する光出射方向の壁に紫外線歪が蓄積されて長手方向に収縮する。一方、紫外線反射膜を形成した側の壁はこの紫外線歪の影響がないので変形せず、そのため、発光管の中央部が紫外線反射膜形成壁側に反り、全体が紫外線反射膜の形成された壁側に向かって凸状に反ってしまうという不具合が生じていた。
エキシマランプが上方に反ってしまうと、エキシマランプの両端側と中央部とでは被照射物であるガラス基板等のワーク面とエキシマランプ間の距離が異なってきて、ワーク面上での光照射照度が各部位によって相違してしまい、均一な紫外線処理ができなくなるという問題があった。
【0004】
上記特許文献1においては、この問題を解決するために、図7に示すように、エキシマ光照射装置の筐体に、エキシマランプの中央部が紫外線歪の蓄積によって反り返ることを規制する移動規制体を設け、この移動規制体の下端をエキシマランプの中央部分に当接させることで反りの問題を良好に解決しようとしている。
即ち、図7において、エキシマランプ光照射装置1は、筐体2に支持されたエキシマランプ3を有し、その発光管31の上下平面には外部電極32が設けられている。エキシマランプ3の下方では搬送ローラ6によって被処理物Wが搬送される。
そして、前記エキシマランプ3の略中央部上方に移動規制体5が設けられていて、その先端の回転コロ51がエキシマランプ3の発光管31の上方から当接しており、点灯時間の経過で紫外線による変形歪が蓄積して、エキシマランプ3の中央部が上方に突出しようとすることを、該移動規制体5によって強制的に抑制するものである。
いる。
【0005】
しかしながら、上記従来技術においては、一定時間の使用により湾曲しようとするエキシマランプの反りを強制的に規制するので、発光管のガラスに蓄積するこの反り規制応力と紫外線応力との合算応力が一定値を超えると破損に至るという新たな問題が発生した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−80351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、内部に希ガスが封入された密閉空間を有する長尺な発光管と、該発光管の外表面に配置されて、該発光管を挟んで対向する一対の対向電極と、前記発光管の光出射部を除いた内壁面上に形成された紫外線反射膜とを備えるエキシマランプにおいて、紫外線による変形歪による該エキシマランプの反り返りを規制する移動規制体を備えたエキシマ光照射装置に搭載した際に、紫外線歪と該反り規制歪の蓄積によって早期に発光管が損傷してしまうことを防止した構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、この発明に係るエキシマランプは、前記発光管の管軸方向の中央部が、該発光管の光出射部の方向に突出するように湾曲していることを特徴とする。
そして、前記エキシマランプを搭載するエキシマ光照射装置は、その筐体には該エキシマランプの中央部において紫外線反射膜形成部側から当接する移動規制体を設けるとともに、光出射部側から当接する矯正維持部材を設け、前記エキシマランプは該矯正維持部材によって管軸方向において直線状に矯正されて保持されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、中央部が光出射部側に向かって突出するように湾曲したエキシマランプをエキシマ光照射装置に搭載するとき、該光出射部側からランプに当接する矯正維持部材によって管軸方向において直線状に矯正されて保持されるので、点灯初期においては、この矯正による機械的歪が紫外線により緩和される方向に作用し、所定時間経過後にこの機械的歪がなくなってから反り規制応力が蓄積されていくことになるので、この反り規制応力と紫外線応力との合算応力の蓄積によって発光管が損傷するに至るまでの経過時間が大幅に延長されることになり、ランプの破損寿命が大幅に改善される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係るエキシマランプの説明図。
【図2】図1の軸方向の側面図。
【図3】本発明のエキシマ光照射装置の全体図。
【図4】図3の要部拡大図。
【図5】図3のA−A断面図。
【図6】本発明の効果を表すグラフ。
【図7】従来のエキシマランプ光照射装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、この発明のエキシマランプ3を示し、図1(A)は下面側からの斜視図、図1(B)はその横断面図である。エキシマランプ3の発光管31は、断面扁平四角形状をなし、長手方向に長尺形状であって、その上下面には外部電極32、32が設けられている。
図1(B)に示すように、この発光管31の内面には、上面側および側面側に紫外線反射膜33が被覆されて紫外線反射膜形成部35を形成し、下面側には紫外線反射膜が形成されておらず、当該部分が光出射部34を形成している。
そして、図2にも示すように、該発光管31は、その長手軸方向において中央部が前記光出射部34側に向かって若干量Lだけ突出するように湾曲している。
なお、上記発光管31の形状は断面角型の扁平形状に限られず、丸型であってもよいし、いわゆる2重管構造であってもよい。
また、紫外線反射膜33は発光管31の3面に形成されたものを示したが、これに限られず、上面にのみ形成されているものであってもよい。
【0012】
このような発光管31の製造方法の一例を説明すると以下のようである。
まず、所定の断面形状の発光管を作製する。この時、発光管は長手方向において曲がりはない。
次いで、発光管の光出射部を除いた内面に紫外線反射膜を形成する。
その後、発光管を封止する。
次いで、発光管の長手方向の両端を光出射部側が下方となるように支持し、中央部を曲げたい量Lに相当するだけ押下し、その状態で発光管全体を加熱する。この時、発光管が変形して所定の量だけ湾曲した状態で固定するまで加熱温度を上昇させる。これにより、下方に突出した光出射部が形成される。
その後、湾曲した発光管の上下面に電極を形成する。
次いで、発光管内にキセノンなどの所定の放電ガスを封入してランプを完成させる。
【0013】
上記の湾曲したエキシマランプ3を搭載したエキシマ光照射装置1が図3以下に示されている。
図3はその全体図、図4は図3の要部拡大図、図5は図3のA−A断面図である。
図3に示すように、長手軸方向の中央部が下方、即ち光出射部34側に突出して湾曲するエキシマランプ3は両端がランプホルダ4に取り付けられる。
そして、図4および図5に示すように、エキシマランプ3の中央部には、下方の光出射部34側から矯正維持部材8が当接し、これを上昇させてエキシマランプ3の湾曲を強制的に矯正して、その長手軸方向において直線状となるように維持する。
こうして矯正されて軸方向で直線状になったエキシマランプ3には、その中央部において、上方に設けられた移動規制体5の先端の回転ローラ51が紫外線反射膜形成部35側から当接するようになる。
なおこの場合、エキシマランプ3と移動規制体5の回転ローラ51には、例えば、0.5mm程度の隙間があってもよい。
また、湾曲したエキシマランプ3の矯正は、上記矯正維持部材8によらずに、図示しない別途の押圧手段によってその中央部を下方から押し上げて直線状として、その後に該矯正維持部材8を当接させて直線状態を維持させるようにしてもよい。
なお、上記矯正維持部材8は、図5に示すように、エキシマランプ3の長辺側の両側から当接すように一対のものから構成して、電極32を避けて当接することにより、出射光を遮ることがなくその有効利用ができ、被照射物W面での照度むらが生じることがない。
【0014】
図6に本発明の実験結果について示す。
図6は、点灯経過時間と応力(MPa)との関係を表す図であって、曲げなし(従来例■)、L=3mm曲げ(本発明1△)、L=5mm曲げ(本発明2○)、L=10mm曲げ(本発明3□)のランプ全体にかかる応力、および紫外線歪のみによる応力(◆)を示している。
実験に用いたランプは、長さ2380mm、高さ18mm、幅71mmの寸法の石英ガラス製の扁平角型発光管を有し、発光管内にキセノンが封入されたエキシマランプである。
紫外線歪応力(◆)は、ランプを物理的に押したりして矯正しない場合で、純粋に紫外線歪のみで計測した場合の応力値である。この紫外線歪は、ランプ点灯時間に比例して蓄積され、2000時間で10.6MPa、4000時間で23.9MPaに達している。
【0015】
従来例(■)は、ランプに曲げ処理を行わなかった場合に、ランプにかかる合計応力値である。点灯時間の経過に伴い、紫外線歪に加えて、上方、即ち、光出射部側が縮んで、紫外線反射膜形成部側が突出するように反っていくことにより、移動規制体によって矯正応力が加わっている。2000時間で22.8MPa、5000時間で49.8MPaに達している。
一般的な石英ガラスは、応力値が50.0MPa以上になると破損するおそれがあり、従来例のランプにおける5000時間経過後の状態は危険な状態である。
【0016】
本発明1(△)は、下方に向けて3mmだけ曲げ処理を行ったランプにかかる合計応力値である。点灯初期段階から中央支持部による下方からの矯正により、一定量の応力が発生している。これが、点灯時間の経過に伴って上方に湾曲するように変形してくると、下方からの前記矯正応力が減少するように作用し、全体の合計応力は一時的に低下する。
ランプの下方に突出していた形状は、紫外線歪の蓄積によって上方に突出してきて、一旦は直線状になる。このとき、矯正による応力はほぼ無視できる状態になり、紫外線応力のみによる応力値と合致する状態になる。これが図3上で「本発明1」と「紫外線応力」の直線が交わる点である。
その後は、上方に反っていくことにより、移動規制体による矯正応力が加わっていく。2000時間で18.9MPa、4000時間で49.1MPaに達しているが、従来例よりも同じ点灯時間が経過した状態での応力値が少ない結果となっている。
【0017】
本発明2(○)は、下方に向けて5mmだけ曲げ処理を行ったランプにかかる合計応力値である。この場合も、前記本発明1のランプと同様の挙動を示し、点灯初期において一旦は応力値が減少していき、その後、紫外線歪の蓄積により上昇していく。
そして、2000時間で16.3MPa、4000時間で40.4MPaに達しているが、同じ点灯時間が経過した状態では、従来例よりも、そして更には本発明1よりも応力値が少ない結果となっている。
本発明3(□)は、下方に向けて10mmだけ曲げ処理を行ったランプにかかる合計応力値である。このランプの場合、2000時間で10.6MPa(紫外線応力と同じ)、4000時間で33.9MPaに達しており、同じ点灯時間が経過した状態では、本発明2よりも更に応力値が少ない結果となっている。
【0018】
以上のように、本発明によれば、エキシマランプを、紫外線反射膜が形成されない光出射部側が突出するように湾曲させておくことにより、このランプをエキシマ光照射装置に搭載する際に、前記湾曲を直線状に矯正して搭載するので、この矯正による機械的応力が、移動規制体の規制による応力とは反対方向に付与されることになり、点灯初期においては、この当初応力が緩和減少する方向に働き、その後所定時間経過後に、移動規制体による反り規制応力が蓄積されていくことになる。
即ち、当初はマイナスの応力が付与されていて、これがランプの点灯により徐々に0になるように作用し、その後プラスに働くようになる。
それ故、従来例のように当初から紫外線による変形を規制する反り規制応力が増加していく場合、即ち、当初の0から直ぐにプラスに働いていく場合、と比較して、同じ応力基準に到達するまでの時間を長くすることができ、これによりランプの長寿命化を図ることができるものである。
【0019】
1 エキシマ光照射装置
2 筐体
3 エキシマランプ
31 発光管
32 電極
33 紫外線反射膜
34 光出射部
35 紫外線反射膜形成部
4 ランプホルダ
5 移動規制体
51 回転コロ
6 搬送ローラ
8 矯正維持部材
W 被処理物




【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性ガラスからなり、内部に希ガスが封入された密閉空間を有する長尺な発光管と、該発光管の外表面に配置されて、該発光管を挟んで対向する一対の対向電極と、前記発光管の光出射部を除いた内壁面上に形成された紫外線反射膜とを備えるエキシマランプにおいて、
前記発光管の管軸方向の中央部が、該発光管の光出射部の方向に突出するように湾曲していることを特徴とするエキシマランプ。
【請求項2】
前記発光管は、管軸に直交する断面が矩形状であることをと特徴とする請求項1に記載のエキシマランプ。
【請求項3】
筐体と、該筐体の下方側に該筐体と離間して保持されたエキシマランプとを備えたエキシマ光照射装置であって、
前記エキシマランプが請求項1または2に記載のエキシマランプであり、前記筐体には該エキシマランプの中央部において紫外線反射膜形成部側から当接する移動規制体を設けるとともに、光出射部側から当接する矯正維持部材を設け、前記エキシマランプは該矯正維持部材によって管軸方向において直線状に矯正されて保持されていることを特徴とするエキシマ光照射装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−128962(P2012−128962A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276834(P2010−276834)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】