説明

エピタキシャルウェーハの製造方法

【課題】エピタキシャル層表面の付着パーテイクルが少なく、平滑な面取り部の形状を持ち、かつ酸素析出特性にも優れた、先端CMOSに好適なエピタキシャルウェーハを、安定的にかつ低コストで製造することができる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】シリコン単結晶基板上にエピタキシャル層を成長させることによりエピタキシャルウェーハを製造する方法において、前記シリコン単結晶基板上に、エピタキシャル層を成長させる工程と、該エピタキシャル層を成長させたシリコン単結晶基板を、650〜800℃の温度で1時間以上保持した後に850℃以上の温度に昇温して、前記エピタキシャル層の表面に保護酸化膜を形成する工程と、該保護酸化膜を形成したシリコン単結晶基板の面取り部を研磨する工程と、その後、前記保護酸化膜を除去して、仕上げ洗浄を行う工程とを含むエピタキシャルウェーハの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピタキシャルウェーハの製造方法に関し、特に、ウェーハ外周面取り部の平滑性に優れ、デバイス工程での酸素析出によるゲッタリング特性に優れた、先端CMOS用のエピタキシャルウェーハを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最先端の半導体デバイス製造工程では、パーティクルの低減が主要な課題である。また、最近では、先端CMOSにおいて、エピタキシャルウェーハが幅広く用いられるようになっている。
エピタキシャルウェーハの製造では、エピタキシャル層の厚さを薄くしてエピタキシャルウェーハの平坦性を維持したり、パーティクルの増加を防ぐように配慮されてはいるが、エピタキシャル層の厚さを3μm、さらには2μmより薄くしようとすると、ドーパントや酸素の外方拡散(アウトディフュージョン)の問題が生じてしまう。そのため、先端CMOS用においては、エピタキシャル層の厚さは一般的に5μm前後の厚さのものが多い。
しかし、エピタキシャル層を厚くすると、ウェーハ外周部でのエピタキシャル成長速度の増加による平坦性の悪化や、<110>方向の面取り部に生じる(311)面のファセット成長に伴って、ファセット周辺部に局所的な高速成長が生じ、尖った部位が出現するといった問題がある。
【0003】
先端CMOS用のエピタキシャルウェーハの製造では、ウェーハ内の膜厚分布や抵抗率の精密な制御が可能になるため、枚葉式エピタキシャル装置を用いてエピタキシャル成長が行われる。しかし、ウェーハ外周部の形状の悪化は、結晶成長の本質に根ざす問題であるため、依然として、課題として残されている。
枚葉式エピタキシャル装置では、成長速度を高くして生産性の低下を最小限にする必要があり、一方では、大直径化の進展とともに、スリップの発生を抑える為に成長温度が下げられてきている。その結果として、成長条件が反応律速的になり、ファセット成長が起りやすい条件となっている。
【0004】
特に直径300mmのウェーハでは、ウェーハ表裏面の鏡面化が標準とされているため、ハンドリングはウェーハ外周部をグリップする方式が殆どで、外周部でのチッピング防止のために面取り部を平滑にすることが一段と重要な事項となっている。
自動化の進展と共に、デバイス工程では、上記のようにウェーハ外周部が冶具に接触する機会が多くなり、面取り部の平滑性がプロセス中での発塵、デバイスの歩留まりと深く関係することが知られるようになり、直径200mm以上のウェーハでは、面取り部を鏡面加工することが標準となっている。
【0005】
面取り部を鏡面加工したウェーハであっても、エピタキシャル成長を行うと、面取り部の平滑性が悪化する。このことは、特に、40μm、50μm以上の厚さのエピタキシャル成長を行った場合には切実な問題となる。また、5μm以下のエピタキシャル層の成長でも、やはり、(311)、(111)、(110)面のファセット成長は生じており、ファセット外周部の異常成長した尖った部分が発塵源となりやすい。このため、ノッチの方位を<100>にするといった対策が採られることがある。
【0006】
また、近年、先端的なフォトリソ工程では、液浸露光技術が用いられるようになってきている。この液浸露光において、上記した<110>方向の外周部に生じる(311)ファセット成長に起因する尖った部位が、液体の保持に悪影響を及ぼすことも知られるようになってきている。
【0007】
エピタキシャルウェーハの面取り部の形状を改善する方法として、エピタキシャル成長後にエピタキシャル層や面取り部に研削等を行い、形状を整える方法が提案されている(特許文献1−3)。
しかし、研削により形状を整える加工の際に生ずる歪み層の除去を、フッ酸−硝酸系のエッチングで行うことが必要となる。この場合には、エッチング領域とマスクする領域の境界に尖った段差ができてしまうため、最終的には平滑な面取り形状を得られなかった。さらに、研削等の際にエピタキシャル層表面にキズが発生したり、パーティクルが付着してしまう問題もある。これらのような理由から、これまで、エピタキシャル成長後の面取り形状の成形加工は、40μm以上の厚さのエピタキシャルウェーハに対してさえも、全く行われてこなかった。
【0008】
また、エピタキシャル成長を行ったウェーハでは、エピタキシャル成長を行わない単結晶鏡面ウェーハと比較して、酸素析出が起り難くなることが知られている。エピタキシャルウェーハ作製用の単結晶鏡面ウェーハをCZ法で製造する際にも、結晶中に所定の濃度の酸素が溶存するにもかかわらず、エピタキシャル成長後のウェーハは酸素析出が不十分となる。
従って、エピタキシャルウェーハに、酸素析出によるゲッタリング効果を持たせるために、様々な手法が提案されてきているが、エピタキシャル成長後では、エピタキシャルウェーハの表面状態の悪化等が生じるため実用化されていない。
【0009】
このように、近年、様々な理由から、最先端CMOS用に広く採用されているエピタキシャルウェーハには、従来の鏡面ウェーハの品質を維持できない項目、例えば、エピタキシャル面の平坦性、異物の少なさ、面取り部の平滑性、あるいは、酸素析出によるゲッタリング効果といった項目が、課題として残されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平6−112173号公報
【特許文献2】特開平3−295235号公報
【特許文献3】特開2007−119300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、エピタキシャル層表面の付着パーテイクルが少なく、平滑な面取り部の形状を持ち、かつ酸素析出特性にも優れた、先端CMOSに好適なエピタキシャルウェーハを、安定的にかつ低コストで製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、シリコン単結晶基板上にエピタキシャル層を成長させることによりエピタキシャルウェーハを製造する方法において、前記シリコン単結晶基板上に、エピタキシャル層を成長させる工程と、該エピタキシャル層を成長させたシリコン単結晶基板を、650〜800℃の温度で1時間以上保持した後に850℃以上の温度に昇温して、前記エピタキシャル層の表面に保護酸化膜を形成する工程と、該保護酸化膜を形成したシリコン単結晶基板の面取り部を研磨する工程と、その後、前記保護酸化膜を除去して、仕上げ洗浄を行う工程とを含むことを特徴とするエピタキシャルウェーハの製造方法を提供する。
【0013】
このように、エピタキシャル成長後に面取り部を研磨することで、効率的に、平滑で良好な形状の面取り部とすることができる。この面取り部の研磨の際には、予め形成した保護酸化膜によりエピタキシャル層は保護されているため、エピタキシャル層のパーティクル、傷の発生も防止できる。そして、この保護酸化膜の形成を、上記のような温度、時間で行うことで、比較的低温で保護酸化膜を形成することができ、基板からエピタキシャル層へのドーパントの拡散も抑制でき、同時に、基板内の酸素析出を促進させることができる。以上より、良好な表面状態の平坦なエピタキシャル層を有し、面取り部が平滑で、デバイスプロセス中のゲッタリング効果が強化されたエピタキシャルウェーハを効率的に低コストで製造することができる。
【0014】
このとき、前記保護酸化膜を形成する工程において、スチーム、ウェット及びドライのいずれかの酸化雰囲気で前記保護酸化膜を形成することが好ましい。
このような酸化雰囲気であれば、効率的に酸化され、短時間で所望厚さの保護酸化膜を形成でき、酸化中の基板からエピタキシャル層へのドーパントの拡散もより抑制できる。
【0015】
このとき、前記保護酸化膜を形成する工程において、前記保護酸化膜を厚さ20〜200nmで形成することが好ましい。
このような厚さであれば、面取り部の研磨の際に、エピタキシャル層へのスクラッチ、パーティクル、汚染の発生を確実に防止できる。
【0016】
このとき、前記保護酸化膜を形成する工程において、前記エピタキシャル層の成長温度TEP(℃)における拡散係数D(TEP)と成長時間tEP、及び、前記保護酸化膜の形成温度TOx(℃)における拡散係数D(TOx)と形成時間tOxが、√(D(TEP)×tEP)>2×√(D(TOx)×tOx)となるような酸化条件に設定し、該設定した酸化条件で前記保護酸化膜を形成することが好ましい。ここで、D(T)は温度Tにおけるドーパントの拡散係数(拡散定数)を表し、従って、D(TEP)はエピタキシャル成長温度での拡散係数を、D(TOx)は酸化膜形成温度での拡散係数を表す。また、成長時間tEPは具体的にはエピタキシャル成長温度での保持時間を、形成時間tOxは具体的には熱処理工程での最高温度での保持時間を表す。
このような酸化条件であれば、基板からエピタキシャル層へのドーパントの拡散を抑制しながら酸化することができ、ドーパント分布が良好な高品質のエピタキシャルウェーハを製造できる。
【0017】
前記保護酸化膜を形成する工程の後、前記保護酸化膜上に窒化膜を形成し、その後、前記面取り部を研磨する工程を行うことが好ましい。
窒化膜は硬く、面取り部の研磨時にエピタキシャル層の表面にスクラッチ、パーティクル、汚染が生じることを確実に防止できる。
【0018】
前記窒化膜を、形成された厚さの半分未満の取り代で研磨し、その後、前記面取り部を研磨する工程を行うことが好ましい。
このような取り代で窒化膜を研磨すれば、エピタキシャル層表面の突起や異物を効果的に除去できる。
【0019】
前記保護酸化膜を形成する工程の後、RTA装置で1200℃以上の温度まで昇温して20秒以上保持した後、30℃/秒以上の速度で常温まで冷却し、その後、前記面取り部を研磨する工程を行うことが好ましい。
このようなRTA処理を施すことで、基板内へ空孔が注入されて、デバイス熱処理等における酸素析出を促進させることができ、この際、保護酸化膜が形成されているためエピタキシャル層の表面状態の劣化も生じない。
【0020】
前記保護酸化膜を除去した後、前記エピタキシャル層を、0.1μm以下の取り代で研磨することが好ましい。
保護酸化膜除去後にエピタキシャル層を上記の取り代で研磨すれば、よりパーティクルの少ない良好な鏡面を有するエピタキシャルウェーハを製造できる。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明によれば、面取り部が平滑で、良好な表面状態のエピタキシャル層を有し、デバイスプロセス中のゲッタリング効果が強化されたエピタキシャルウェーハを効率的に低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明のエピタキシャルウェーハの製造方法の一例を示すフロー図である。
【図2】エピタキシャル成長後の結晶方位<100>のウェーハの面取り部の<110>方向の異常エピタキシャル成長部を観察した図である。
【図3】実施例でエピタキシャル成長後のウェーハ外周部をプロファイラーで測定した結果を示す図である。
【図4】実施例で面取り部の研磨後のウェーハ外周部をプロファイラーで測定した結果を示す図である。
【図5】実施例及び比較例で製造したエピタキシャルウェーハに酸素析出熱処理を施した後のBMD密度の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について、実施態様の一例として、図を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
図1は、本発明の製造方法のフロー図である。
【0024】
本発明では、まず、シリコン単結晶基板を準備する(図1(a))。
用意するシリコン単結晶基板としては、特に限定されず、例えばチョクラルスキー法により育成されたシリコン単結晶棒をスライスした後、面取り、ラッピング、エッチング、ポリッシュ等の加工を施して得られたウェーハとすることができる。なお、片面あるいは両面に研磨を施した通常のポリッシュドウェーハでも、表裏何れの面も研磨されていないエッチングウェーハでも良い。どのようなシリコン単結晶基板を用いるかについては規格により決定すればよい。
【0025】
また、シリコン単結晶基板を、例えば、ドーパントが高濃度にドープされた20mΩcm以下、特には10mΩcm以下の抵抗率の基板として、PMOSやIGBTに好適なエピタキシャルウェーハを製造する場合には、エピタキシャル成長中のオートドープ防止の目的で、裏面酸化膜を予め形成するのが好ましい。この場合は、エピタキシャル層を成長させる側とは反対側の面(裏面)に、熱酸化やCVD等により酸化膜を形成した後、不要な部分をエッチング除去する等により形成できる。
一方、この裏面酸化膜は、基板とエピタキシャル層のドーパント濃度がほぼ等しいウェーハを製造する場合には、形成不要である。
【0026】
次に、例えば輻射加熱の枚葉式エピタキシャル装置を用いて、シリコン単結晶基板上にエピタキシャル層を成長させる(図1(b))。
例えば、シリコンソースをトリクロロシラン、キャリアガスを水素として、1150℃前後の温度でプレベークを行い、最終的に必要なエピタキシャル層の厚さのウェーハ面内バラツキや所定の抵抗率の面内バラツキを少なくする条件を設定して成長させることができる。エピタキシャル層の成長させる厚さとしては特に限定されず、例えば先端CMOS用のウェーハの場合には5μm以上の厚さのエピタキシャル層を成長させる。
【0027】
図2は、エピタキシャル成長後の結晶方位<100>ウェーハの面取り部の<110>方向の異常エピタキシャル成長部を観察した図である(ORP)。エピタキシャル成長の際、面取り部の(311)、(111)、(110)等の特定の結晶方位面とその近傍にファセット成長が生じて、図2に示すような尖った形状の部位が形成される。このような部位は、デバイス製造工程中に、面取り部に発生する微小なチップ、欠けの原因となるが、本発明であれば、後工程の面取り研磨により、当該部位の平滑化を効率的に行うことができる。
【0028】
次に、ピタキシャル層を形成したシリコン単結晶基板を例えば拡散炉(酸化炉)に投入し、酸化性雰囲気で、650〜800℃の温度で1時間以上保持した後に850℃以上の温度に昇温して、エピタキシャル層の表面に保護酸化膜を形成する(図1(c))。
この保護酸化膜によりその後の面取り部の研磨において、エピタキシャル層表面を保護し、傷やパーティクルの発生を防止できる。また、上記のような二段階熱処理を行うことで、比較的低温で効率的に酸化膜を形成できるため、基板からエピタキシャル層へのドーパントの拡散を防止できる。さらに、一段目で650〜800℃の温度で1時間以上保持することで、酸素析出のための核形成を行い、デバイスプロセスにおける熱処理中の酸素析出物形成を促進させることができる。
【0029】
通常、エピタキシャルウェーハの製造において、エピタキシャル成長中に基板の原子空孔濃度が低減するため、鏡面ウェーハと比較して、酸素析出が起りにくくなり、結果として、基板のゲッタリング効果が減少する。しかし、本発明であれば、保護酸化膜形成と同時に酸素析出核形成促進のための処理を行うことができ、鏡面ウェーハ以上に酸素析出物が形成され、ゲッタリング能力の高いエピタキシャルウェーハを効率的に製造できる。このため、本発明で製造したエピタキシャルウェーハであれば、ゲッタリング効果を必要とするデバイス品種へ、問題なく使用できる。
【0030】
このとき、エピタキシャル層の成長温度TEP(℃)における拡散係数D(TEP)と成長時間tEP、及び、保護酸化膜の形成温度TOx(℃)における拡散係数D(TOx)と形成時間tOxが、√(D(TEP)×tEP)>2×√(D(TOx)×tOx)となるような酸化条件に設定し、該設定した酸化条件で保護酸化膜を形成することが好ましい。
このように、熱処理時のドーパントの拡散の大きさの目安を示す√(D(T)×t)が上記のような条件であれば、保護酸化膜形成時に、基板からエピタキシャル層へドーパントが拡散することを抑制でき、素子の特性(リーク電流や逆耐圧)の劣化のない高品質のエピタキシャルウェーハを製造できる。このため、特に、ドーパントが高濃度にドープされた低抵抗基板を用いるエピタキシャルウェーハの製造に上記条件は好適である。
【0031】
また、酸化方法としても、例えば、スチーム、ウェットO(水蒸気等を含有した酸素)及びドライOのいずれかの酸化雰囲気の条件で酸化することが、比較的低温、短時間で酸化膜を形成できるため好ましい。
また、20nm以上、特には30nm以上の厚さの保護酸化膜を形成することで、傷、パーティクルの発生防止の目的を確実に達成できる。保護酸化膜の厚さは200nm以下で傷の防止等には十分であり、上記のドーパント拡散も抑制できる。
【0032】
次に、保護酸化膜上に、例えばCVD等により窒化膜を形成することが好ましい。
当該窒化膜の形成は必須ではないが、窒化膜は硬く、保護膜としての機能を向上させることができるため、形成するのが好ましい。この窒化膜の厚さは30nm以上であれば、エピタキシャル層表面の傷、パーティクルの発生を確実に防止できる。
【0033】
次に、RTA(Rapid Thermal Annealing)装置で、例えば窒素雰囲気で、1200℃以上の温度まで急速昇温して20秒以上保持した後、30℃/秒以上の速度で常温まで冷却するRTA処理を行うことが好ましい(図1(d))。
このようなRTA処理を行えば、エピタキシャル成長中に減少した空孔濃度を増加させて、デバイスプロセスにおける酸素析出をより促進できる。
【0034】
また、窒化膜を形成している場合には、形成された厚さの半分未満の取り代で研磨することが好ましい。
このように窒化膜をストッパーとして研磨することで、傷等を防止しながらエピタキシャル層の突起や異物を除去することができる。
【0035】
次に、例えばアルカリベースの水溶液にコロイダルシリカを含有した研磨剤や、酸化セリウムを含有した研磨剤を用いて、面取り部を研磨する(図1(e))。
この面取り部の研磨により、エピタキシャル成長時に異常成長した部分を平滑化して、高精度に所望形状の面取り部とすることができる。この面取り部の研磨では、酸化膜とシリコンの研磨速度の比が1.0に近い研磨剤、研磨条件を用いることにより、研磨パッドに強く加圧される尖った部位を優先的に研磨することができる。本研磨により、尖った部位の形状を平滑化することにより、ウェーハハンドリング時のチップ、欠けの発生率を著しく低減させることができ、このため、デバイスの製造歩留まりを大きく向上できる。この際、保護酸化膜によりエピタキシャル層は保護されているため、エピタキシャル層の表面におけるキズ、パーティクル、汚染の発生を防止しながら研磨できる。
【0036】
このとき、例えば、直径が200mmや300mmの鏡面ウェーハで広く用いられている面取り部を鏡面化するための研磨機を用いることができる。また、面取り部の研磨機では、表面、裏面どちらかの面を吸着してウェーハを回転することになるが、保護酸化膜の厚さは、この吸着の影響が残らない程度の厚さとして、上記した20nm以上の厚さが好ましい。また、保護酸化膜厚を必要最低限の厚さとして、研磨剤と研磨条件を酸化膜とシリコンの研磨速度の比が1.0に近い条件となるように設定して研磨することにより、保護酸化膜との境界でより一様で滑らかな形状を得ることが可能となる。
【0037】
また、裏面側の面取り部でも、エピタキシャル成長の際、<110>方向に(111)のファセットが生じる場合がある。さらに、ボロンドープの低抵抗基板を用いる場合等には、裏面酸化膜を形成して裏面をシールし、オートドープの抑制を行うことが多いが、この裏面酸化膜の外端で裏面クラウンが発生しやすい。このようなクラウンについても、本工程の面取り部の研磨で除去することが可能である。ただし、裏面側については、ファセット成長がそれほど顕著に起こらないため、裏面酸化膜を形成していない場合には、必ずしも裏面側は研磨処理しなくともよい。
なお、この際、予め面取り部を研削することも可能であるが、この場合は研磨により研削で生じた歪み層を除去する。
【0038】
次に、保護酸化膜を除去する(図1(f))。
この際、保護酸化膜はフッ酸でエッチングして除去することができるが、二つの事項に配慮する必要がある。
【0039】
一つは酸化膜をエッチングするときには異物が付着しやすく、また、付着した異物が除去されにくいことがよく知られている。これは、「HFラースト」と呼ばれる水素終端化処理の問題点でもある。そのために、フッ酸によるエッチング前にSC1洗浄液等で十分に洗浄を行って予め付着粒子を取り除くことや、界面活性剤を入れた酸性フッ化アンモニウムでエッチングすることが好ましい。
もう一つは、形状を整えることを優先する研磨条件では、研磨による微小な歪みや破砕層(研磨潜傷)が残ることである。面取り部なので完全にこれらの潜傷を除去する必要はないが、汚染源となったりするので、フッ酸でエッチングする前の洗浄では、アルカリの濃度を高くして潜傷部のエッチング量を多くして歪層を除去することが好ましい。このとき、アルカリを強くしても、保護酸化膜で保護されているため、エピタキシャル層表面にヘイズは発生しない。
【0040】
次に、例えば、スエードタイプの研磨布を用いてコロイダルシリカを主成分とする研磨剤により、エピタキシャル層を0.1μm以下の取り代で研磨することが好ましい(図1(g))。
保護酸化膜をエッチング除去する際に、鏡面が曇る、あるいは、微小な無数の粒子が付着することがある。そのような場合には、研磨取りしろ0.1μm以下となる条件で研磨し、ヘイズ、曇りの全くない良好な鏡面を有するエピタキシャルウェーハとすることが可能である。このような研磨を最終工程に付加することで、品質、コストの安定化を図ることができる。前工程で3μm以上の厚さのエピタキシャル層を形成しておけば、このような研磨を行っても、0.1μm以下の取り代なので厚さの絶対値やバラツキにはほとんど影響を及ぼすことはない。また、両面研磨のエピタキシャル基板を用いる場合には、この研磨を両面同時で行っても良い。
【0041】
次に、例えば、仕上げ洗浄として、アンモニア−過酸化水素水溶液(SC1洗浄液)で洗浄し、更に塩酸−過酸化水素水溶液(SC2洗浄液)で洗浄することで、金属イオン汚染がなく、パーテイクル付着の極めて少ない良好な表面品質のエピタキシャルウェーハを得ることができる(図1(h))。
【実施例】
【0042】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例)
エピタキシャル成長用の基板として、CZ法により作製した直径200mm、結晶方位<100>、抵抗率20mΩcmのP型ウェーハを準備した。
この基板上に、枚葉式のエピタキシャル成長装置(AMATセンチュラ製)でSiHClを原料ガスとして、4.0μm/minの成長速度で厚さ6μmのエピタキシャル層を成長させた。成長時の温度は1150℃で行った。
エピタキシャル成長後の面取り部の形状をプロファイラーを用いて調べた。その結果を図3に示す。図3では<110>方向の外周部の位置の断面形状を示している。図3に示すように、面取り部に、ウェーハ主表面部分のエピタキシャル層表面を基準として、エピタキシャル層の厚さの5〜10%程度の高さのクラウンが成長していることが分かる。
【0043】
次に、このエピタキシャルウェーハを拡散炉内、酸素雰囲気下、700℃で1時間保持した後、1000℃で熱酸化し、0.1μmの保護酸化膜を形成した。
次に、RTA装置で1200℃、30秒保持した後、50℃/秒で冷却してRTA処理を行った。
【0044】
次に、鏡面面取り装置により、面取り部に対して、酸化セリウムを含有する研磨剤により研磨を行い、面取り部を鏡面状態にした。この際、(311)ファセットも平滑化できるように、研磨クロスに対してエピタキシャル面を5度以下の角度から研磨を行った。
面取り後のエピタキシャルウェーハの面取り部の形状をプロファイラーを用いて調べた。その結果を図4に示す。図4では<110>方向の外周部の位置の断面形状を示している。図4に示すように、面取り部の研磨により、クラウンの高さが低くなり形状が滑らかになっており、ハンドリングによる接触、衝撃でチッピングが生じる確率は大幅に低減することが可能になることがわかる。その他の部分はプロファイラーでの測定は難しいが、クラウンが生ずる表裏面と面取り部の境界だけではなく、面取り部全体にわたって、面取り部の研磨により尖った部分は平滑化されるので、ハンドリングによる接触、衝撃でチッピングの発生防止の効果が大きいと考えられる。
【0045】
その後、フッ酸による保護酸化膜のエッチング除去、仕上げ洗浄を行った後、800℃4時間、1000℃10時間の酸素析出熱処理を行い、エピタキシャルウェーハの酸素析出密度を測定した。測定結果を図5に示す。
【0046】
(比較例)
実施例と同様に、ウェーハを準備し、エピタキシャル成長、面取り部の研磨、エッチング除去、仕上げ洗浄を行った。ただし、面取り部の研磨前の保護酸化膜形成時には二段階熱処理は行わずに、1000℃で0.1μmの保護酸化膜を形成し、また、RTA処理も行わずにエピタキシャルウェーハを製造した。
その後、実施例と同様に、酸素析出熱処理を行い、エピタキシャルウェーハの酸素析出密度を測定した。測定結果を図5に示す。
【0047】
図5に示すように、実施例では、本発明の二段階熱処理を行っているため、良好に酸素析出が生じている。一方、比較例では、酸素析出が不十分である。
【0048】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン単結晶基板上にエピタキシャル層を成長させることによりエピタキシャルウェーハを製造する方法において、
前記シリコン単結晶基板上に、エピタキシャル層を成長させる工程と、
該エピタキシャル層を成長させたシリコン単結晶基板を、650〜800℃の温度で1時間以上保持した後に850℃以上の温度に昇温して、前記エピタキシャル層の表面に保護酸化膜を形成する工程と、
該保護酸化膜を形成したシリコン単結晶基板の面取り部を研磨する工程と、
その後、前記保護酸化膜を除去して、仕上げ洗浄を行う工程とを含むことを特徴とするエピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項2】
前記保護酸化膜を形成する工程において、スチーム、ウェット及びドライのいずれかの酸化雰囲気で前記保護酸化膜を形成することを特徴とする請求項1に記載のエピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項3】
前記保護酸化膜を形成する工程において、前記保護酸化膜を厚さ20〜200nmで形成することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項4】
前記保護酸化膜を形成する工程において、前記エピタキシャル層の成長温度TEP(℃)における拡散係数D(TEP)と成長時間tEP、及び、前記保護酸化膜の形成温度TOx(℃)における拡散係数D(TOx)と形成時間tOxが、√(D(TEP)×tEP)>2×√(D(TOx)×tOx)となるような酸化条件に設定し、該設定した酸化条件で前記保護酸化膜を形成することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のエピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項5】
前記保護酸化膜を形成する工程の後、前記保護酸化膜上に窒化膜を形成し、その後、前記面取り部を研磨する工程を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のエピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項6】
前記窒化膜を、形成された厚さの半分未満の取り代で研磨し、その後、前記面取り部を研磨する工程を行うことを特徴とする請求項5に記載のエピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項7】
前記保護酸化膜を形成する工程の後、RTA装置で1200℃以上の温度まで昇温して20秒以上保持した後、30℃/秒以上の速度で常温まで冷却し、その後、前記面取り部を研磨する工程を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載のエピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項8】
前記保護酸化膜を除去した後、前記エピタキシャル層を、0.1μm以下の取り代で研磨することを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載のエピタキシャルウェーハの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−204369(P2012−204369A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64573(P2011−64573)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【出願人】(591037498)長野電子工業株式会社 (51)
【Fターム(参考)】