説明

エンコーダの支持装置

【課題】回転部材18の振動がエンコーダ4Aに伝達されにくくして、この回転部材18の振動が、このエンコーダ4Aの回転状態を検出する為のセンサの出力信号に、エリアジング現象に結び付く程に高い周波数で伝達されない様にする。
【解決手段】上記エンコーダ4Aを上記回転部材18に対し、弾性部材19を介して支持する。このエンコーダ4Aの質量とこの弾性部材19のバネ定数とにより定まる共振周波数を、上記回転部材18及びこの回転部材18に隣接して設けられた他の部材の共振周波数の1/√2以下に設定する。この構成により、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明に係るエンコーダの支持装置は、例えば自動車の車輪を懸架装置に対し回転自在に支持する為の車輪支持用転がり軸受ユニットを構成するハブに、このハブの回転状態を検出する為のエンコーダを外嵌固定する為に使用する。特に本発明は、このハブの振動が、このエンコーダによる回転状態検出に及ぼす悪影響の低減を目的に発明したものである。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車の車輪は懸架装置に対し、複列アンギュラ型の転がり軸受ユニット等の転がり軸受ユニットにより回転自在に支持する。又、自動車の走行安定性を確保する為に、例えば非特許文献1に記載されている様な、アンチロックブレーキシステム(ABS)やトラクションコントロールシステム(TCS)、更には、電子制御式ビークルスタビリティコントロールシステム(ESC)等の車両用走行安定化装置が使用されている。この様な各種車両用走行安定化装置を制御する為には、車輪の回転速度、車体に加わる各方向の加速度等を表す信号が必要になる。そして、より高度の制御を行なう為には、車輪を介して上記転がり軸受ユニットに加わる荷重(例えばラジアル荷重とアキシアル荷重との一方又は双方)の大きさを知る事が好ましい場合がある。
【0003】
この様な事情に鑑みて、特許文献1には、複列アンギュラ型の玉軸受ユニットである転がり軸受ユニットを構成する1対の列の玉の公転速度に基づいて、この転がり軸受ユニットに加わるラジアル荷重又はアキシアル荷重を測定する、荷重測定装置付転がり軸受ユニットに関する発明が記載されている。この様な特許文献1に記載された荷重測定装置付転がり軸受ユニットは、上記両列の玉の公転速度を、これら各玉を保持した1対の保持器の回転速度として求め、これら両列の玉の公転速度に基づいて、上記ラジアル荷重又はアキシアル荷重を算出する。この様な従来構造の場合、上記各玉の転動面と上記両保持器のポケットの内面との間に不可避的に存在する隙間に起因して、上記両列の玉の公転速度と上記両保持器の回転速度との間に、微妙なずれが生じる場合がある。この為、上記ラジアル荷重又はアキシアル荷重を精度良く求める為には、改良の余地がある。
【0004】
これに対して、特願2005−147642号に記載された様な、荷重の作用方向に配置された1対のセンサの出力信号の位相差に基づき、転がり軸受ユニットに加わる荷重の大きさを測定する発明によれば、上述の様な、不可避的なずれに基づく測定精度の悪化を防止できる。図4〜6は、上記出願に開示された先発明のうちの第1例の構造を示している。この先発明に係る構造は、懸架装置に支持された状態で回転しない静止側軌道輪である外輪1の内径側に、車輪を支持固定(結合固定)した状態でこの車輪と共に回転する、特許請求の範囲に記載した回転部材であるハブ2を、複数個の転動体3、3を介して回転自在に支持している。これら各転動体3、3には、互いに逆向きの(図示の場合には背面組み合わせ型の)接触角と共に、予圧を付与している。そして、このハブ2の中間部にエンコーダ4を外嵌固定すると共に、上記外輪1の軸方向中間部で複列に配置された上記各転動体3、3の間部分に1対のセンサ5、5を、それぞれの検出部を、被検出面である上記エンコーダ4の外周面に近接対向させた状態で設けている。尚、上記センサ5の検出部には、ホールIC、ホール素子、MR素子、GMR素子等の磁気検知素子を組み込んでいる。
【0005】
図4〜6に示した、先発明の第1例の構造の場合、上記エンコーダ4として、永久磁石製のものを使用している。被検出面である、このエンコーダ4の外周面には、特許請求の範囲に記載した第一被検出部であるN極に着磁した部分と、同じく第二被検出部であるS極に着磁した部分とを、円周方向に関して交互に且つ等間隔で配置している。これらN極に着磁された部分とS極に着磁された部分との境界は、上記エンコーダ4の軸方向に対し同じ角度だけ傾斜させると共に、この軸方向に対する傾斜方向を、このエンコーダ4の軸方向中間部を境に互いに逆方向としている。従って、上記N極に着磁された部分とS極に着磁された部分とは、軸方向中間部が円周方向に関して最も突出した(又は凹んだ)、「く」字形となっている。
【0006】
又、上記両センサ5、5の検出部が上記エンコーダ4の外周面に対向する位置は、このエンコーダ4の円周方向に関して同じ位置としている。言い換えれば、上記両センサ5、5の検出部は、上記外輪1の中心軸を含む同一仮想平面上に配置されている。又、この外輪1と上記ハブ2との間にアキシアル荷重が作用しない状態で、上記N極に着磁された部分とS極に着磁された部分との軸方向中間部で円周方向に関して最も突出した部分(境界の傾斜方向が変化する部分)が、上記両センサ5、5の検出部同士の間の丁度中央位置に存在する様に、各部材4、5、5の設置位置を規制している。尚、先発明の第1例の場合には、上記エンコーダ4として永久磁石製のものを使用しているので、上記両センサ5、5側に永久磁石を組み込む必要はない。
【0007】
上述の様に構成する先発明の第1例の場合、上記外輪1とハブ2との間にアキシアル荷重が作用すると、上記両センサ5、5の出力信号が変化する位相がずれる。即ち、上記外輪1とハブ2との間にアキシアル荷重が作用しておらず、これら外輪1とハブ2とが相対変位していない、中立状態では、上記両センサ5、5の検出部は、図6の(A)の実線イ、イ上、即ち、上記最も突出した部分から軸方向に同じだけずれた部分に対向する。従って、上記両センサ5、5の出力信号の位相は、同図の(C)に示す様に一致する。
【0008】
これに対して、上記エンコーダ4を固定したハブ2に、図6の(A)で下向きのアキシアル荷重が作用し(外輪1とハブ2とがアキシアル方向に相対変位し)た場合には、上記両センサ5、5の検出部は、図6の(A)の破線ロ、ロ上、即ち、上記最も突出した部分からの軸方向に関するずれが互いに異なる部分に対向する。この状態では上記両センサ5、5の出力信号の位相は、同図の(B)に示す様にずれる。更に、上記エンコーダ4を固定したハブ2に、図6の(A)で上向きのアキシアル荷重が作用した場合には、上記両センサ5、5の検出部は、図6の(A)の鎖線ハ、ハ上、即ち、上記最も突出した部分からの軸方向に関するずれが、逆方向に互いに異なる部分に対向する。この状態では上記両センサ5、5の出力信号の位相は、同図の(D)に示す様にずれる。
【0009】
上述の様に先発明の第1例の場合には、上記両センサ5、5の出力信号の位相が、上記外輪1とハブ2との間に加わるアキシアル荷重の作用方向に応じた方向にずれる。又、このアキシアル荷重により上記両センサ5、5の出力信号の位相がずれる程度(変位量)は、このアキシアル荷重が大きくなる程大きくなる。従って第1例の場合には、上記両センサ5、5の出力信号の位相ずれの有無、ずれが存在する場合にはその方向及び大きさに基づいて、上記外輪1とハブ2との間に作用しているアキシアル荷重の作用方向及び大きさを求められる。
【0010】
上述した先発明の第1例の場合には、永久磁石製のエンコーダ4を使用しているが、前記特願2005−147642号には、図7に示す様な、磁性材製のエンコーダ4aを使用した構造に就いても記載されている。被検出面である、このエンコーダ4aの外周面には、特許請求の範囲に記載した第一被検出部であるスリット状の透孔6a、6bと、同じく第二被検出部である柱部7a、7bとを、円周方向に関して交互に且つ等間隔で配置している。これら各透孔6a、6bと各柱部7a、7bとは、上記エンコーダ4aの軸方向に対し同じ角度だけ傾斜させると共に、この軸方向に対する傾斜方向を、このエンコーダ4aの軸方向中間部を境に互いに逆方向としている。即ち、このエンコーダ4aは、軸方向片半部に、上記軸方向に対し所定方向に同じだけ傾斜した透孔6a、6aを形成すると共に、軸方向他半部に、この所定方向と逆方向に同じ角度だけ傾斜した透孔6b、6bを形成している。
【0011】
上述の様なエンコーダ4aは、図4に示した第1例と同様に、回転部材であるハブ2に外嵌固定し、外輪1(図4参照)の軸方向中間部に設置した1対のセンサの検出部を、上記エンコーダ4aの外周面に近接対向させる。尚、先発明の第2例の場合には、このエンコーダ4aが単なる磁性材製である為、上記1対のセンサの側に永久磁石を組み込む。この様な先発明の第2例の場合も、前述した先発明の第1例の場合と同様の作用により、上記外輪1とハブ2との間に作用しているアキシアル荷重の作用方向及び大きさを求められる。尚、エンコーダを円輪状に構成すると共に、このエンコーダの軸方向側面を被検出面とし、この被検出面に1対のセンサの検出部を、径方向にずらせた状態で対向させれば、上記外輪1と上記ハブ2とのラジアル方向に関する変位、延てはこれら外輪1とハブ2との間に加わるラジアル荷重を求める事も可能である。
【0012】
又、上述の図7に示したエンコーダ4aは、互いに独立した透孔6a、6bを「ハ」字形に配置しているが、図8に示した第3例の様に、連続した「ヘ」字形の透孔6c、6cを、円周方向に亙り等間隔に配置したエンコーダ4bを使用する事もできる。尚、図8に示した構造の場合には、1対の磁気検出素子8、8と1個の永久磁石9とを単一のホルダ10の先端部に包埋支持して、1対のセンサとして機能する、一体型のセンサユニットを構成している。外輪1とハブ2との間に作用するアキシアル荷重を求める機能に就いては、前述した第1例、或いは、上述した第2例と同様である。
【0013】
前記特願2005−147642号に記載された荷重測定装置付転がり軸受ユニットの構成及び作用は、上述の通りであるが、転がり軸受ユニットに加わる荷重若しくはモーメントを測定する装置としては、他にも、例えば特願2005−256752号に開示されたものがある。図9〜10に、上記転がり軸受ユニットに加わる荷重若しくはモーメントを測定する為の他の装置の2例を示している。
先ず、図9に示した、先発明の第4例の構造の場合には、ハブ2aの中間部に、永久磁石により円筒状に構成したエンコーダ4bを、断面クランク形の支持環11を介して外嵌固定している。このエンコーダ4bの被検出面である外周面には、N極とS極とを、円周方向に関して交互に且つ等間隔で配置している。又、図9の(A)に示す様に、上記N極とS極との境界の形状を、上記エンコーダ4bの軸方向(上記外周面の幅方向)に対して同方向に同じ角度だけ傾斜させている。そして、上記エンコーダ4bの外周面に、外輪1の軸方向中間部に支持したセンサ5aの検出部を、径方向に近接対向させている。
【0014】
又、上記外輪1の内端部内周面と上記ハブ2aの内端部外周面との間を塞ぐ組み合わせシールリング12を構成する、このハブ2aの内端部に外嵌固定したスリンガ13の内側面に、円輪状の第二エンコーダ14を、このハブ2aと同心に添着固定している。この第二エンコーダ14の被検出面である内側面には、N極とS極とを、円周方向に関して交互に且つ等間隔で配置している。又、図9の(B)に示す様に、上記N極とS極との境界を、放射方向の直線形状としている。上記エンコーダ4bの外周面に存在するS極及びN極の数と、上記第二エンコーダ14の内側面に存在するS極及びN極の数とは、互いに等しい。そして、この第二エンコーダ14の内側面に、懸架装置を構成するナックル(図示せず)等の静止部材の一部に支持した第二センサ15の検出部を、軸方向に近接対向させている。
【0015】
この様な先発明の第4例の場合には、上記外輪1と上記ハブ2aとの間にアキシアル荷重が作用せず、これら外輪1とハブ2aとが軸方向に相対変位していない、中立状態で、上記両センサ5a、15の出力信号が同時に(或いは所定の時間差で)変化する様にしている。この為に、上記中立状態で、上記第二センサ15の検出部が上記第二エンコーダ14の内側面に存在するS極とN極との境界に対向するのと同時に(或いは所定の時間差で)、上記センサ5aの検出部が上記エンコーダ4bの外周面に存在するS極とN極との境界に対向する様に、各部材15、14、5a、4bの設置位置を規制している。
【0016】
上述の様に構成する先発明の第4例の場合、上記外輪1と上記ハブ2aとの間にアキシアル荷重が作用する(これら外輪1とハブ2aとが軸方向に相対変位する)と、上記両センサ5a、15の出力信号の位相がずれる。即ち、上記第二エンコーダ14の内側面に対向している上記第二センサ15の出力信号の位相は、上記相対変位の有無に関係なく、一定である(進んだり遅れたりする事はない)。これに対し、上記エンコーダ4bの外周面に対向している上記センサ5aの出力信号の位相は、上記相対変位に伴って、進んだり遅れたりする。従って、この様に進んだり遅れたりする分だけ、上記両センサ5a、15の出力信号の位相がずれる。
【0017】
この様に、先発明の第4例の場合には、上記両センサ5a、15の出力信号の位相が、上記外輪1と上記ハブ2aとの間に加わるアキシアル荷重の方向に応じた方向にずれる。又、このアキシアル荷重により上記両センサ5a、15の出力信号の位相がずれる程度(変位量)は、このアキシアル荷重が大きくなる程大きくなる。従って、上述した先発明の第4例の場合には、上記両センサ5a、15の出力信号の位相ずれの有無、ずれが存在する場合にはその向き及び大きさに基づいて、上記外輪1とハブ2aとの軸方向の相対変位の向き及び大きさ、延いては、これら外輪1とハブ2aとの間に作用しているアキシアル荷重の向き及び大きさを求められる。
【0018】
次に、図10は、先発明の第5例を示している。この先発明の第5例の場合には、回転側軌道輪であるハブ2の内端部に支持環16を、このハブ2と同心に外嵌固定している。これと共に、この支持環16の先端部外周面に、上述した先発明の第4例で使用したものと同様の構成を有する円筒状のエンコーダ4bを添着固定している。又、このエンコーダ4bの被検出面である外周面の上下両端部に、1対のセンサ5b、5cの検出部を近接対向させている。即ち、静止側軌道輪である外輪1の内端開口部に被着したカバー17の内周面の上下両端部に上記両センサ5b、5cを支持固定すると共に、これら両センサ5b、5cの検出部を、上記エンコーダ4bの外周面の上下両端部に近接対向させている。
【0019】
自動車の車輪支持用転がり軸受ユニットの場合、上記外輪1と上記ハブ2との間に加わるアキシアル荷重は、このハブ2に結合固定した車輪(タイヤ)の外周面と路面との接地面から入力される。この接地面は、上記外輪1及び上記ハブ2の回転中心よりも径方向外方に存在する為、上記アキシアル荷重はこれら外輪1とハブ2との間に、純アキシアル荷重としてではなく、これら外輪1及びハブ2の中心軸と上記接地面の中心とを含む(鉛直方向の)仮想平面内での、モーメントを伴って加わる。そして、このモーメントの大きさは、上記接地面から入力されるアキシアル荷重の大きさに比例する。そこで、このモーメントを求めれば、このアキシアル荷重を求められる事になる。一方、上記ハブ2にモーメントが加わると、上記エンコーダ4bの上端部が、軸方向に関して何れかの方向に、同じく下端部がこれと逆方向に、それぞれ変位する。この結果、上記エンコーダ4bの外周面の上下両端部にそれぞれの検出部を近接対向させた、上記両センサ5b、5cの出力信号の位相が、それぞれ中立位置に対して、逆方向にずれる。そこで、これら両センサ5b、5cの出力信号の位相のずれの向き及び大きさに基づいて、上記アキシアル荷重の向き及び大きさを求められる。
【0020】
何れにしても、荷重測定装置付転がり軸受ユニットにより求めた荷重は、車輪(タイヤ)と路面との接触面(接地面)で生じている荷重と等価である。従って、この求めた荷重に基づいて車両の走行状態を安定化させる為の制御を行なえば、車両の姿勢が不安定になる事を予防する為のフィードフォワード制御が可能になる等、車両の走行安定性確保の為の高度な制御が可能になる。尚、図示は省略するが、エンコーダの被検出面に存在するS極及びN極との形状を台形にし、これらS極とN極との境界のピッチを、この被検出面の幅方向に関して漸次変化させた構造も、前記特願2005−147642号に記載されている。この様な構造の場合、荷重に基づいてセンサの検出部が、上記被検出面の幅方向に変位すると、このセンサの出力信号のデューティ比(高電位継続時間/1周期)が変化する。そこで、このデューティ比に基づいて、上記荷重を求められる。又、被検出面をエンコーダの軸方向側面とし、センサの検出部をこの被検出面に軸方向に対向させれば、転がり軸受ユニットに加わるラジアル荷重を求める事もできる。
【0021】
先発明に係る荷重測定装置付転がり軸受ユニットの構造及び作用は上述の通りであるが、この様な先発明を、実際に自動車等の車両の走行安定性確保を図る為に利用する場合には、振動に基づく、エンコーダの被検出面の変位に就いても、考慮する事が好ましい。即ち、このエンコーダが外乱によって振動すると、このエンコーダの被検出面に存在する第一被検出部と第二被検出部との境界位置(エッジ)検出に関して、誤差が入り込む。但し、例えばタイヤ回転1次成分、zfc成分等の低い周波数の外乱は、或る程度予測できる為、この様な低周波振動に基づく誤差は、LMSアルゴリズムを使用する適応フィルタやノッチフィルタにより、実用上問題ない程度にまで低減する事が可能である。
【0022】
これに対して、例えば、所謂バネ下共振と呼ばれる、懸架装置を構成するばねよりも路面側に存在する部材の共振である、周波数が数十Hz程度以上の高周波数の外乱振動は、予測しにくい。但し、高周波数と言っても、センサが上記境界位置を検出する事に伴う、このセンサの出力信号の周波数の1/2未満の周波数であれば、この境界位置を正常に検知できて、且つ、上記外乱振動に基づく変化を、ローパスフィルタで減衰する事が可能である。
【0023】
一方、上記高周波の外乱振動の周波数が、上記センサが上記境界位置を検出する事に伴う、このセンサの出力信号の周波数の1/2以上であると、このセンサの検出信号に基づいて、上記境界位置を正確に検出する事が難しくなる。この理由は、上記外乱振動が、見掛け上、低い周波数の変動としてサンプリング(ゴーストサンプリング)されてしまう、上記境界位置検出に関するエリアジング現象(aliasing)が発生する為である。この様なエリアジング現象によりサンプリングされた、外乱に基づく変動は、その周波数帯域が特定されない為、ローパスフィルタで減衰させる事が難しい。
【0024】
上記エリアジング現象とは、例えば非特許文献2、3に記載されている様に、サンプリング定理の限界を越えた信号(サンプリング周波数の1/2よりも高い周波数の信号)が、本来とは異なる周波数に変換されて、本来の信号内に入り込む現象を言う。この様なエリアジング現象が発生すると、本来の信号が乱れて、この信号に基づく測定を精度良く行なえなくなる。この様なエリアジング現象が発生しない様にする為には、外乱となる信号の最高周波数の2倍以上の速度でサンプリングすれば良い事が、上記非特許文献2、3等に記載されて従来から知られている。これらの事を考慮すれば、外乱振動の周波数が、上記センサの出力信号の周波数の1/2以上であると、この外乱振動に基づいて、デジタル計測で発生するエリアジングと同様の現象が、上記境界位置検出でも発生する事が分かる。
【0025】
例えば、1回転当り48個のパルスをセンサの出力信号として発生させるエンコーダの場合、1回転毎に48個の境界位置を検出し、この出力信号のパルスを立ち上げる。このエンコーダの回転速度が60min-1 (1Hz)である場合に就いて考えると、サンプリング周波数は48Hzとなる(1秒毎に48回、エンコーダの被検出面に存在する第一被検出部と第二被検出部との境界位置を検出する)。この状態で、外乱振動の周波数が、48Hz/2=24Hz以上である場合には、見掛け上、上記境界位置が、低い周波数で変動している状態として、検出されてしまう。前述したタイヤ回転1次成分、zfc成分等の様な、実際に低い周波数帯域に存在する変動は或る程度は予測できるので、適応フィルタやノッチフィルタ等によって対処できるが、エリアジングによって検出される低い周波数の境界位置変動は、その変動周波数を特定しづらいので、上記フィルタによるノイズ除去は困難になる。上記非特許文献2、3には、ナイキスト周波数と呼ばれる、測定すべき信号の1/2の周波数以上の成分をアンチエリアジングフィルタにより除去する事が記載されている。但し、エンコーダの境界位置(エッジ)検出には、アナログ信号の段階が存在しない為、アンチエリアジングフィルタの様なアナログフィルタを使用できない。
【0026】
転がり軸受ユニットに加わる荷重を測定する為の荷重測定装置で、エンコーダの被検出面に存在する第一被検出部と第二被検出部との境界位置検出に関して、上述の様なエリアジングに結び付く様な、比較的高周波の外乱の代表例としては、上記エンコーダを装着した回転部材、及び、この回転部材に隣接している構造体の共振現象が挙げられる。例えば、上記エンコーダが装着されている回転部材が、車輪支持用転がり軸受ユニットのハブ、若しくは、このハブに結合固定したディスク或いは等速ジョイントであった場合、外乱振動として問題となるのは、懸架装置のバネ下共振である。一般的にバネ下共振の周波数は、数十Hz程度であり、エンコーダの回転速度が60min-1 (1Hz)である場合のナイキスト周波数(24Hz)以上になる為、上述の様なエリアジングが発生する可能性がある。或いは、ナックル等の懸架装置の共振、ドライブシャフトの共振等も、同様のエリアジングを発生させる可能性がある。
【0027】
【特許文献1】特開2005−31063号公報
【非特許文献1】青山元男著、「レッドバッジスーパー図解シリーズ/クルマの最新メカがわかる本」、p.138−139、p.146−149、株式会社三推社/株式会社講談社、平成13年12月20日
【非特許文献2】“測定器玉手箱”、[online]、[平成17年10月6日検索]、オリックス・レンテック株式会社、インターネット、<URL:http://www.orixrentec.co.jp/tmsite/know/know_sample44.html>
【非特許文献3】“技術的な質問”、[online]、[平成17年10月6日検索]、昭和測器株式会社、インターネット、<URL:http://www.showasokki.co.jp/qa/qa_02.html >
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、回転部材に対するエンコーダの支持構造を工夫する事により、この回転部材の振動がエンコーダに伝達されにくくして、この回転部材の振動が、このエンコーダの回転状態を検出する為のエンコーダの出力信号に、エリアジング現象に結び付く程に高い周波数で伝達されない様にすべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明のエンコーダの支持装置は、被検出面に、互いに異なる特性を有する第一被検出部と第二被検出部とを円周方向に関して交互に且つ等間隔で配置して成るエンコーダを回転部材の一部に、上記被検出面をこの回転部材の回転中心と同心に配置した状態で支持する。
特に、本発明のエンコーダの支持装置に於いては、上記エンコーダを上記回転部材に対し、弾性部材を介して支持する。そして、このエンコーダの質量とこの弾性部材のバネ定数とにより定まる、このエンコーダの共振周波数を、上記回転部材及びこの回転部材に隣接して設けられた他の部材の共振周波数の1/√2以下に設定する。
この様な本発明を実施する場合に、例えば請求項2に記載した様に、上記回転部材を、自動車の懸架装置に対し車輪を回転自在に支持する為の車輪支持用転がり軸受ユニットのハブ若しくはこのハブと共に回転する部材(例えば、制動用のディスク、或いはハブを回転駆動する為の等速ジョイント)とする。そして、上記回転部材に隣接する他の部材の共振周波数を、上記懸架装置を構成するばねよりも路面側に存在する部材の共振周波数とする。
【発明の効果】
【0030】
上述の様に構成する本発明のエンコーダの支持装置によれば、ハブ、ディスク、等速ジョイント等の回転部材の振動が、エンコーダに伝達されにくくなる。即ち、弾性部材を介して回転部材に弾性支持したエンコーダは、図3の(A)に示す様な、1自由度系の振動モデルと仮定できる。この様な振動モデルに於いて、外乱x0 に対するエンコーダの応答の振動振幅xとの比x/x0 は、fを外乱の振動周波数とし、f0 を上記1自由度系の振動の共振周波数とした場合に、x/x0 =|1/{1−(f/f02 }|で表される。この式、及び、この式の内容を示した図3の(B)から明らかな通り、外乱周波数fが共振周波数f0 と一致した場合は、上記1自由度系の振動振幅が無限大となってしまうが、この外乱周波数fが共振周波数f0 より高くなると、その差が大きくなるに従って、振動振幅は抵下していく。言い換えれば、外乱振動の伝達率(エンコーダの振動変位/回転部材の振動変位)は、上記エンコーダの共振周波数が、上記回転部材の振動周波数(外乱振動周波数)の1/√2の時に、エンコーダの振動変位とこの回転部材の振動変位とが等しくなる。そして、このエンコーダの共振周波数が、上記外乱の周波数の1/√2より低くなれば、この回転部材の振動がこのエンコーダに伝わりにくくなる(回転部材の振動変位に比べてエンコーダの振動変位が十分に小さくなる)。
【0031】
そして、このエンコーダの回転状態を検出する為に、このエンコーダの被検出面にその検出部を対向させたセンサの出力信号に、エリアジング現象に結び付く程に高い周波数の雑音成分が入り込みにくくなる。この結果、境界位置(エッジ)の検出精度が向上し、荷重測定装置の測定精度が向上して、走行安定性確保の為の制御等、この荷重の値を利用した制御を効果的に行なえる。尚、上記の振動モデルでは減衰項なしとしたが、エンコーダがゴム磁石製である等、減衰が存在する場合も同様である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
図1〜2は、本発明の実施の形態の1例を示している。尚、本発明は、前述の図4〜10に示した先発明の様な、自動車の懸架装置に車輪を回転自在に支持する為の、車輪支持用転がり軸受ユニットに組み込む荷重測定装置に関して実施する事が、迅速処理の効果を得る面からは好ましい。但し、この場合でも、回転部材であるハブ2、2a(例えば図4、9参照)にエンコーダを支持固定する点以外の構成及び作用に就いては、上記先発明の場合と同様である。又、エンコーダ4Aの構造に就いても、特に限定するものではない。そこで、重複する説明は省略し、以下、本発明の特徴である、エンコーダ4Aを回転部材18に対し支持固定する部分の構造に就いて説明する。
【0033】
上記エンコーダ4Aは上記回転部材18に対し、ゴムの如きエラストマー等の弾性部材19を介して、外嵌支持している。そして、上記エンコーダ4Aの質量と、この弾性部材19のバネ定数とにより定まる、このエンコーダ4Aの共振周波数を、上記回転部材18及びこの回転部材18に隣接して設けられた他の部材の共振周波数の1/√2以下に設定している。この回転部材18が、車輪支持用転がり軸受ユニットを構成するハブである場合には、上記回転部材18及びこの回転部材18に隣接して設けられた他の部材の共振周波数とは、前述した、所謂バネ下共振周波数である。即ち、懸架装置を構成するバネのバネ定数と、上記ハブ、及び、このハブに結合固定されてこのハブと共に振動する部材(例えばディスク、等速ジョイント等)の質量等により定まる共振周波数である。
【0034】
上述の様に構成する本例のエンコーダの支持装置によれば、ハブ、ディスク、等速ジョイント等を含む、上記回転部材18の振動が、上記エンコーダ4Aに伝達されにくくなる。即ち、図1〜2に示す様に、上記弾性部材19を介して上記回転部材18に弾性支持した上記エンコーダ4Aは、1自由度系の振動モデルと仮定できる。そして、外乱振動の伝達率(エンコーダ4Aの振動変位/回転部材18の振動変位)は、上記エンコーダ4Aの共振周波数の1/√2を境として急激に変化する、具体的には、上記回転部材18の振動(外乱振動)が、上記エンコーダ4Aの共振周波数の√2倍よりも高ければ、この回転部材18の振動がこのエンコーダ4Aに伝わりにくくなって、この回転部材18の振動変位に比べてこのエンコーダ4Aの振動変位が十分に小さくなる。即ち、上記弾性部材19が、振動伝達に関するメカニカルフィルタとして機能し、この回転部材18の振動変位に基づく、このエンコーダ4Aの振動変位を無視できる様になる。
【0035】
そして、このエンコーダ4Aの回転状態を検出する為に、このエンコーダ4Aの被検出面にその検出部を対向させたセンサの出力信号に、エリアジング現象に結び付く程に高い周波数の雑音(外乱振動)成分が入り込みにくくなる。この為、上記回転部材18の回転状態に関する状況を正確に把握できる様になる。この結果、迅速な処理が必要になる、荷重測定装置で実施した場合に、上記回転部材18に対応するハブに加わる荷重の値を迅速に求めて、走行安定性確保の為の制御等、この荷重の値を利用した制御を効果的に行なえる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
以上の説明は、本発明を荷重測定装置付転がり軸受ユニットに組み込むエンコーダをハブに外嵌固定する場合に就いて説明した。但し、本発明は、一般的にABS制御用の回転検出装置に使用されている様な、一般的なエンコーダの検査に適用する事もできる。又、エンコーダの被検出面とセンサの検出部とが、ラジアル方向に対向している構造に限らず、アキシアル方向に対向している構造で実施する事もできる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施の形態の1例を説明する為の模式図。
【図2】図1のA−A断面図。
【図3】支持部材からエンコーダに伝わる振動を減衰させる機構を説明する為の模式図及び線図。
【図4】先発明に係る荷重測定装置付転がり軸受ユニットの第1例を示す断面図。
【図5】この第1例に組み込むエンコーダの斜視図。
【図6】アキシアル荷重に基づいて1対のセンサの出力信号が変化する状態を説明する為の線図。
【図7】先発明に係る荷重測定装置付転がり軸受ユニットの第2例に組み込むエンコーダの斜視図。
【図8】先発明に係る荷重測定装置付転がり軸受ユニットの第3例を示す断面図。
【図9】同第4例を示す断面図。
【図10】同第5例を示す断面図。
【0038】
1 外輪
2、2a ハブ
3 転動体
4、4a、4b、4A エンコーダ
5、5a、5b、5c センサ
6a、6b、6c 透孔
7a、7b 柱部
8 磁気検出素子
9 永久磁石
10 ホルダ
11 支持環
12 組み合わせシールリング
13 スリンガ
14 第二エンコーダ
15 第二センサ
16 支持環
17 カバー
18 回転部材
19 弾性部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検出面に、互いに異なる特性を有する第一被検出部と第二被検出部とを円周方向に関して交互に且つ等間隔で配置して成るエンコーダを回転部材の一部に、上記被検出面をこの回転部材の回転中心と同心に配置した状態で支持するエンコーダの支持装置に於いて、このエンコーダを上記回転部材に対し、弾性部材を介して支持すると共に、このエンコーダの質量とこの弾性部材のバネ定数とにより定まる、このエンコーダの共振周波数を、上記回転部材及びこの回転部材に隣接して設けられた他の部材の共振周波数の1/√2以下に設定したエンコーダの支持装置。
【請求項2】
回転部材は、自動車の懸架装置に対し車輪を回転自在に支持する為の車輪支持用転がり軸受ユニットのハブ若しくはこのハブと共に回転する部材であり、上記回転部材に隣接する他の部材の共振周波数が、上記懸架装置を構成するばねよりも路面側に存在する部材の共振周波数である、請求項1に記載したエンコーダの支持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−121209(P2007−121209A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−316729(P2005−316729)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】