説明

エンジンの制御装置

【課題】リングギヤの磨耗等を抑制することによりスタータによるクランキングを適正に実施する。
【解決手段】エンジン10には、エンジン出力軸としてのクランク軸21に連結されたリングギヤ22にスタータ30のピニオン33が対向して配置されている。ECU40は、エンジン始動に際して、リングギヤ22にピニオン33を噛み合わせた状態でクランキングを実施し、該クランキングの終了後にその噛み合わせを解除する。特に、ECU40は、エンジン停止に伴いリングギヤ22の回転が停止したときのリングギヤ22におけるピニオン33との対向位置(ピニオン対向位置)のばらつきを大きくするばらつき制御を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの制御装置に関し、詳しくはエンジンの始動をスタータにより行うエンジンの制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、エンジンの始動は、スタータによりエンジンの出力軸(クランク軸)に初期回転を付与することによって行われる。具体的には、まず、スタータに設けられたピニオンをピニオン回転軸の軸線方向に押し出すことにより、クランク軸に連結されたリングギヤにピニオンを噛み合わせる。その後、スタータモータの通電によりピニオンを回転させ、その回転力によってリングギヤを回転させる。これにより、エンジンのクランキングが開始されてエンジンが始動される。
【0003】
また、スタータを備えるエンジンにおいて、エンジン停止に際しピストンの停止位置を制御するものがある(例えば特許文献1参照)。この特許文献1では、エンジン停止に際しピストンを所望の位置で停止させ、その後、エンジンの始動要求があった場合にスタータによりエンジン始動を行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−242082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1のようにピストンの停止位置制御を実施する場合、エンジン停止時のピストン停止位置が概ね毎回同じ位置になるため、次回のエンジン始動の際にリングギヤの歯部全体のうちピニオンと噛み合う箇所が特定位置に限定されるおそれがある。かかる場合、リングギヤの磨耗が一部分に集中し、その部分において磨耗が促進されることが懸念される。また、リングギヤの磨耗が進行する結果、リングギヤとピニオンとの噛み合い処理を適正に実施できず、結果としてエンジンの始動を速やかに実施できないおそれがある。
【0006】
なお、エンジン停止に際しピストンの停止位置制御を実施しない場合、つまりエンジンの回転停止を成り行きで行う場合にも上記と同様のことが言える。すなわち、エンジンの回転停止を成り行きで行う場合、圧縮行程にある気筒においてその圧縮負荷によりピストンが圧縮上死点を乗り越えることができず、その結果、ピストンの停止位置が概ね毎回同じ位置になると考えられる。したがって、エンジンの回転を成り行きで停止させる場合では、ピストンの停止位置制御を実施する場合と同様に、リングギヤにおいてその特定位置での磨耗が促進されることといったことが懸念される。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、リングギヤの磨耗等を抑制することによりスタータによるクランキングを適正に実施することができるエンジンの制御装置を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を採用した。
【0009】
本発明は、エンジンの出力軸に連結されたリングギヤにエンジンのスタータのピニオンが対向して配置されたエンジンに適用され、エンジン始動に際して、前記リングギヤに前記ピニオンを噛み合わせた状態でクランキングを実施し、該クランキングの終了後に前記噛み合わせを解除するエンジンの制御装置に関するものである。そして、第1の構成は、エンジン停止に伴い前記リングギヤの回転が停止したときの前記リングギヤにおける前記ピニオンとの対向位置であるピニオン対向位置のばらつきを大きくするばらつき制御を実施するばらつき制御手段を備えることを特徴とする。
【0010】
要するに、エンジン停止時にはエンジンの出力軸の回転位置が概ね毎回同じになるため、次回のエンジン始動のためのリングギヤとピニオンとの噛み合わせの際に、ピニオンと噛み合うリングギヤの位置が特定範囲に限定されることが考えられる。その点に鑑み、本発明では、エンジン停止に伴いリングギヤの回転が停止した場合にリングギヤにおいてピニオンと対向するピニオン対向位置のばらつきを意図的に大きくすることにより、リングギヤの回転停止時において、リングギヤの歯部全体のうちピニオンと対向する歯部位置のばらつきが大きくなるようにする。これにより、リングギヤの歯部が局所的に磨耗等するのを抑制することができる。したがって、本発明によれば、リングギヤとピニオンとの噛み合いを適正に実施することができ、ひいてはスタータによるクランキングを適正に実施することができる。
【0011】
ばらつき制御について具体的には、第2の構成のように、前記ばらつき制御を実施しない場合に比べて前記ピニオン対向位置の分布範囲を拡大することにより前記ばらつきを大きくしたり、あるいは第5の構成のように、前記ピニオン対向位置の目標値を、前回のエンジン停止以前のピニオン対向位置に対してばらつきを持たせて設定する目標設定手段を備え、該目標設定手段により設定した目標値に前記ピニオン対向位置を制御することで前記ばらつきを大きくしたりする。こうすることにより、リングギヤにおけるピニオン対向位置のばらつき拡大を比較的容易に実現することができる。
【0012】
ここで、エンジン停止に際してピストンの停止位置を制御することがある。また、ピストン停止位置制御によれば、リングギヤにおいてピニオンと対向する位置(ピストン停止位置)を、エンジンの回転停止を成り行きで行う場合とは異なる位置に調整することが可能となる。その点に鑑み、ピストンの停止位置制御を実施するか否かを切り替えることにより上記ばらつき制御を実施する構成としてもよい。このとき、例えば、エンジン停止要求が生じた理由に基づいて(システム停止要求によるエンジン停止要求か又はアイドルストップ制御によるエンジン停止要求かに応じて)ピストンの停止位置制御を実施するか否かを切り替える。
【0013】
リングギヤにおけるピニオン対向位置の分布範囲を拡大する場合、具体的には、第3の構成のように、エンジン停止に際し、圧縮行程となっている気筒の圧縮負荷を調整することにより前記分布範囲を拡大するとよく、より具体的には、第4の構成のように、前記エンジンの燃焼室へのガスの吸入又は排出の状態を調整する開閉弁を備えるエンジンに適用され、エンジン停止に際し、前記開閉弁の開閉状態を制御することにより前記分布範囲を拡大するとよい。こうすれば、エンジン停止に際して、本来吸気バルブ及び排気バルブが共に閉じている行程となっている気筒の圧縮負荷を低減することができ、その結果、エンジンのピストン停止位置をばらつかせることができる。よって、エンジン出力軸の回転角度位置(クランク角度位置)をばらつかせることができ、ひいてはリングギヤにおいてピニオンと対向する位置のばらつきを大きくすることができる。
【0014】
ここで、開閉弁としては、エンジンの燃焼室に通じる吸気ポート又は排気ポートに設けられる吸排気バルブや、吸気通路の流路断面積を調整するスロットルバルブを含む。より具体的には、開閉弁が吸排気バルブの場合、エンジン停止に際し、圧縮行程となっている気筒の吸気バルブ又は排気バルブを、圧縮上死点又はその近傍において開弁状態にし、これにより圧縮行程となっている気筒の圧縮負荷を低減する。このとき、エンジン停止に際し圧縮行程となっている気筒だけでなく、膨張行程となっている気筒の吸気バルブ又は排気バルブを開弁状態にするとよい。また、開閉弁がスロットルバルブの場合、スロットル開の状態で燃焼室内に吸入される空気量とスロットル閉の状態で燃焼室内に吸入される空気量とでは違いがあり、またその吸入空気量の違いにより圧縮行程となっている気筒の圧縮負荷が相違することを利用し、スロットルバルブの開閉制御により、圧縮行程となっている気筒の圧縮負荷を低減する。
【0015】
ところで、エンジン停止後の惰性回転中では、振り子特性により正回転と反回転とが交互に出現する。ここで、本発明者の知見によれば、エンジンの反転中にピニオンをリングギヤに噛み合わせることによりエンジンの回転が直ちに停止される。したがって、リングギヤの回転停止位置の目標値をばらつかせる構成(第5の構成)において、第6の構成のように、エンジン停止後の前記エンジンの惰性回転中において前記ピニオンを前記リングギヤへ噛み合わせる噛み合い処理を実施する噛み合い制御手段と、前記エンジンの始動要求後に回転駆動手段により前記ピニオンを回転させる回転制御手段とを備え、前記ばらつき制御手段が、前記噛み合い制御手段により前記惰性回転中における前記エンジンの反転中に前記ピニオンを前記リングギヤへ噛み合わせることにより前記ピニオン対向位置を前記目標値に制御してもよい。この構成によれば、エンジン出力軸の回転停止位置を高精度に制御することができ、ひいてはリングギヤにおけるピニオン対向位置のばらつき拡大を好適に実施できる。
【0016】
リングギヤの歯部の磨耗が進行すると、ピニオンとの噛み合わせを適正に実施できず、その結果、エンジンのクランキングに要する時間が長くなることが考えられる。その点に鑑み、第7の構成のように、前記エンジンの始動性が低下したことを検出する始動性検出手段を備え、前記ばらつき制御手段は、前記始動性検出手段によりエンジン始動性が低下したことが検出された場合に前記ばらつき制御を実施するとよい。こうすることにより、リングギヤの磨耗等が進行していることが推定され、リングギヤにおけるピニオン対向位置のばらつきを大きくする必要が高い場合に上記ばらつき制御を実施することができる。
【0017】
第8の構成では、所定の自動停止条件が成立した場合に前記エンジンを自動停止し、その後所定の再始動条件が成立した場合に前記スタータによるクランキングを実施して前記エンジンを再始動する自動停止始動機能を有するエンジンに適用される。また、前記エンジンの停止要求があった場合、その停止要求が前記エンジンのシステム起動の停止要求であるか又は前記自動停止条件の成立に伴うものかを判定する要求判定手段を備え、前記ばらつき制御手段は、前記要求判定手段の判定結果に基づいて前記ばらつき制御を実施する。本構成によれば、システム起動の停止要求に基づくエンジン停止の場合と、アイドルストップ制御によるエンジン自動停止の場合とで、ばらつき制御を実施するか否かを切り替えることができる。
【0018】
ここで、アイドルストップ機能を備えるシステムでは、エンジン自動停止後の再始動に際し、再始動要求に迅速に応えるべくエンジン始動を速やかに実施する必要がある。これに鑑み、上記第8の構成では、例えば、システム起動の停止要求に基づくエンジン停止に際してはばらつき制御を実施し、アイドルストップ制御によるエンジン自動停止に際してはばらつき制御を実施しない構成とする。こうすることにより、エンジン自動停止後の再始動時におけるエンジン始動性を維持しつつ、リングギヤの磨耗抑制を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】エンジン制御システムの全体概略構成図。
【図2】圧縮行程気筒のピストン停止位置の分布を示す図。
【図3】リングギヤのピニオンとの噛み合い箇所を示す模式図。
【図4】ばらつき制御を説明するための図。
【図5】ピストン停止位置制御の実施時における圧縮行程気筒のピストン停止位置の分布を示す図。
【図6】ばらつき制御の処理手順を示すフローチャート。
【図7】目標停止位置をばらつかせる場合のピストン停止位置とその出現頻度との関係を示す図。
【図8】他の実施形態のエンジン制御システムの全体概略構成図。
【図9】スロットルバルブ開の状態で、吸気バルブの開閉制御によるばらつき制御を実施した場合のピストン停止位置を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を具体化した実施の形態について図面を参照しつつ説明する。本実施の形態は、エンジン制御システムのエンジン停止始動制御装置に具体化している。当該制御システムにおいては、電子制御ユニット(以下、ECUという)を中枢として燃料噴射量の制御や点火時期の制御、アイドルストップ制御等を実施する。この制御システムの全体概略を示す構成図を図1に示す。
【0021】
図1において、エンジン10には、吸気管11と排気管12とが接続されており、吸気管11には気筒内への吸入空気量を調整するためのスロットルバルブ13が設けられている。スロットルバルブ13は、モータ等からなるスロットルアクチュエータ14により電気的に開閉駆動される空気量調整手段である。スロットルアクチュエータ14にはスロットルバルブ13の開度(スロットル開度)を検出するためのスロットルセンサが内蔵されている。
【0022】
エンジン10は、同エンジン10の各気筒に燃料を噴射供給する燃料噴射手段としてのインジェクタ15と、気筒ごとに設けられた点火プラグ16に点火火花を発生させる点火手段としてのイグナイタ(図示略)とを備えている。
【0023】
エンジン10の吸気ポート及び排気ポートには、それぞれ吸気バルブ17、排気バルブ18が設けられている。吸気バルブ17及び排気バルブ18(吸排気バルブ17,18)は、エンジン出力軸としてのクランク軸21の回転に伴い開閉する機械駆動式である。具体的には、クランク軸21の回転に伴いカム軸(図示略)が回転することでカム軸に取り付けられたカム(図示略)が回転し、そのカムの回転によりバルブ17,18が開閉する。
【0024】
吸気バルブ17及び排気バルブ18には、同バルブ17,18の開閉時期(バルブタイミング)を可変とするバルブタイミング調整手段としてのバルブ駆動機構19,20がそれぞれ設けられている。吸気側バルブ駆動機構19によれば、吸気バルブ17の開閉タイミングが進角側又は遅角側に変更され、排気側バルブ駆動機構20によれば、排気バルブ18の開閉タイミングが進角側又は遅角側に変更される。
【0025】
エンジン10のスタータ30には、回転駆動手段としてのモータ31が設けられている。モータ31の回転軸には、モータ31の通電により回転駆動されるピニオン軸32が備えられ、ピニオン軸32の先端にはピニオン33が備えられている。また、ピニオン33に対向する位置には、エンジン出力軸(クランク軸21)に連結されたリングギヤ22が配置されている。そのため、エンジン10の燃焼によりエンジン10のピストンが往復動すると、そのピストンの往復動によりクランク軸21が回転してリングギヤ22が回転される。
【0026】
スタータ30において、バッテリ23とモータ31との間にはマグネットスイッチ部MSが設けられている。マグネットスイッチ部MSは、ピニオン軸32の周囲に設けられたコイル34と、ピニオン軸32においてピニオン33とは反対側の端部に設けられたスイッチ35とを備えている。さらに、コイル34とバッテリ23との間には、IGスイッチ24及びSL駆動リレー25が設けられている。なお、ピニオン33は、コイル34の非通電時においてリングギヤ22に対し非接触の状態で配置されている。
【0027】
例えば、IGスイッチ24のオフからオンへの切り替え等といったエンジン10の始動要求があった場合、制御信号に基づいてSL駆動リレー25がオフからオンに切り替えられる。これにより、マグネットスイッチ部MSのコイル34が通電されて磁力が発生し、この磁力によりピニオン軸32がリングギヤ22に向かって押し出される。そして、ピニオン33がリングギヤ22に向かって移動し、ピニオン33がリングギヤ22に噛み合わされる。また、ピニオン33がリングギヤ22に噛み合う位置までピニオン軸32が移動されることにより、ピニオン軸32がマグネットスイッチ部MSのスイッチ35を繋ぐ。このスイッチ35の接続によりバッテリ23からモータ31に通電され、モータ31が回転駆動される。また、モータ31の回転駆動に伴いピニオン軸32が回転され、ピニオン33が回転される。これにより、エンジン10のクランキングが開始される。
【0028】
なお、エンジン始動時にエンジン回転速度(リングギヤ22の回転速度)がピニオン33の回転速度よりも高くなり、リングギヤ22によってピニオン33が回転駆動されるようになると、ピニオン軸32がリングギヤ22に向かう方向とは反対方向に移動し、ピニオン33がリングギヤ22から引き離される。これにより、ピニオン33がエンジン10側の回転力によって回転されないようになっている。
【0029】
その他、本システムには、エンジン10の所定クランク角毎に(例えば30°CA周期で)矩形状のクランク角信号を出力するクランク角センサ26などの各種センサが設けられている。
【0030】
ECU40は、周知のマイクロコンピュータ等を備えてなる電子制御装置であり、本システムに設けられている各種センサの検出結果等に基づいて、吸入空気量制御や燃料噴射量制御、アイドルストップ制御、スタータ30の駆動制御などの各種エンジン制御等を実施する。また、ECU40は、SL駆動リレー25のオン/オフ信号を出力する出力ポートP1を備えており、出力ポートP1からの制御信号によりスタータ30のモータ31及びコイル34の通電状態を切り替える。
【0031】
上記のシステム構成において実施されるアイドルストップ制御について詳述する。アイドルストップ制御は、エンジン10のアイドル運転時に所定の停止条件が成立すると当該エンジン10を自動停止させるとともに、その後、所定の再始動条件が成立するとエンジン10を再始動させるものである。エンジン停止条件としては、例えば、アクセル操作量がゼロになったこと(アイドル状態になったこと)、ブレーキペダルの踏込み操作が行われたこと、車速が所定値以下まで低下したこと等の少なくともいずれかが含まれる。エンジン再始動条件としては、例えばアクセルの踏込み操作が行われたこと、ブレーキ操作量がゼロになったこと、バッテリ23の充電状態が所定の低下状態になったこと等の少なくともいずれかが含まれる。
【0032】
エンジン10の自動停止後、再始動条件が成立した場合、スタータ30によるクランキングが実施される。このときのスタータ30の駆動制御として具体的には、ECU40は、エンジン再始動要求後、SL駆動リレー25にオン信号を出力することによりコイル34の通電を開始する。これにより、ピニオン33がリングギヤ22に向かって押し出され、ピニオン33とリングギヤ22とが噛み合わされる。その後、モータ31の通電によりピニオン33が回転され、その回転に伴いリングギヤ22が回転駆動される。これにより、エンジン10のクランキングが行われ、エンジン再始動が行われる。
【0033】
ところで、エンジン10の停止時において、その停止時のピストン停止位置が、概ね毎回同じクランク角度位置になることが考えられる。この場合、リングギヤ22において、エンジン停止に伴いリングギヤ22の回転が停止したときのピニオン33に対向するリングギヤ22の歯部が、一定領域内の歯部に特定されることが考えられる。
【0034】
図2は、エンジン10の回転停止時において圧縮行程となる気筒のピストン停止位置の分布を示す図である。図の横軸はピストン停止位置(クランク角度位置)を示し、縦軸は各停止位置の出現頻度を示している。なお、図2では、ピストンの停止位置を制御することなく成り行きによってエンジン10の回転を停止させた場合を示している。また、図2では、エンジン停止の際にスロットルバルブ13を閉弁状態とした場合を示している。
【0035】
エンジン停止時において圧縮行程となる気筒のピストン停止位置は、エンジン停止の際にスロットルバルブ13を閉弁状態とした場合、図2では、圧縮上死点(圧縮TDC)でその出現頻度が最大となっており、偶発的に大きく外れた変則的な場合を除くと、圧縮上死点を中心に例えば約40°CAの範囲内に分布している。すなわち、図2では、圧縮上死点±20°CAがピストン停止位置の分布範囲(分布の広がり幅)となっている。これは、エンジン10の回転停止を成り行きで行う場合、エンジン10の停止直前に圧縮行程となる気筒では気筒の圧縮負荷が大きいためピストンが圧縮上死点を乗り越えることができず、その結果、例えばスロットルバルブ13を閉じたままとした場合には、圧縮上死点近傍でピストンが停止するからである。つまり、エンジン停止時では、エンジン10の回転エネルギと気筒の圧縮負荷とのバランスに従いピストンの往復動が停止する。
【0036】
例えば4気筒エンジンの場合、各気筒のピストン停止位置は180°CA間隔になっており、具体的には、点火順序が1番気筒→2番気筒→3番気筒→4番気筒であれば、各気筒のピストン停止位置は、1番気筒が0°CAの場合に2番気筒が180°CA、3番気筒が360°CA(=0°CA)、4番気筒が540°CA(=180°CA)になる。つまり、1番気筒と3番気筒とのピストン停止位置が見かけ上同じになり、2番気筒と4番気筒とのピストン停止位置が見かけ上同じになる。したがって、4気筒エンジンであれば、エンジン10の回転エネルギと気筒の圧縮負荷とのバランスにより、エンジン停止時のピストン停止位置が2箇所に限定されると考えられる。また、エンジン停止に際してピストン停止位置が2箇所に限定されることにより、リングギヤ22のピニオン33との噛み合い箇所が、図3の模式図に示すように、リングギヤ22の歯部全体RGのうち、対向する2つの限られた狭い範囲R1,R2内の歯部に限定されてしまうことが考えられる。
【0037】
リングギヤ22においてピニオン33との噛み合い箇所が限られた範囲に限定される場合、リングギヤ22の特定範囲R1,R2における歯部の磨耗や欠損が促進されることが懸念される。すなわち、ピニオン33とリングギヤ22とを噛み合わせるべくピニオン33がリングギヤ22に向かって押し出されたとき、ピニオン33の歯部とリングギヤ22の歯部との位置関係によっては両者の端面が衝突し、この衝突によってピニオン33及びリングギヤ22の歯部が磨耗したり、あるいは欠損が発生したりする。特に、リングギヤ22の材質に比べ、ピニオン33の方が硬質材料で形成されていることがあり、この場合にはリングギヤ22のピニオン33への衝突によってリングギヤ22の歯部の欠損が生じやすいと考えられる。
【0038】
また、ピニオン33とリングギヤ22との噛み合い後にモータ31によりピニオン33が回転されるが、この回転開始時においてピニオン33の歯部がリングギヤ22の歯部に衝突することによりピニオン33やリングギヤ22の歯部が磨耗するおそれがある。また、このような磨耗等が、リングギヤ22の歯部全体のうち限られた狭い範囲の歯部で生じることにより、つまりリングギヤ22の歯部の磨耗等が局所的に発生することにより、その局所において歯部の端面の磨り減りや欠損が一層促進される。かかる場合、リングギヤ22とピニオン33との噛み合い時においてその噛み合いが適正に行われないことが懸念される。また、噛み合いが適正に行われない結果、エンジン10のクランキングが適正に実施されないおそれがある。
【0039】
そこで、本実施形態では、エンジン停止に伴いリングギヤ22の回転が停止した場合におけるリングギヤ22のピニオン33との対向位置(ピニオン対向位置)のばらつきを大きくするばらつき制御を実施する。すなわち、リングギヤ22の回転が停止した場合に、リングギヤ22の歯部全体のうちピニオン33と対向する歯部のばらつきを意図的に大きくする。ばらつき制御として具体的には、エンジン10の停止要求があった場合、エンジン10の回転停止前において、圧縮行程となっている気筒の圧縮上死点又はその近傍で吸気バルブ17を開弁状態にする。これにより、圧縮行程となっている気筒の圧縮負荷を低減し、ピストン停止位置のばらつきが大きくなるようにする。つまり、エンジン停止時に圧縮行程となる気筒について言えば、その気筒におけるエンジン停止時のピストン停止位置が、所定位置(図2では圧縮上死点)を中心にしてその進角側及び遅角側に大きくばらつくようにする。本実施形態では、このようなピストン停止位置のばらつき拡大により、リングギヤ22におけるピニオン33との対向位置の分布の範囲(広がり幅)を意図的に拡大させ、広がり幅の中心位置から離れた位置での出現頻度を多くしている。
【0040】
なお、圧縮行程となっている気筒の圧縮上死点等で吸気バルブ17を開弁させるには、バルブ駆動機構19,20が位相調整式であれば、例えば吸気バルブ17の開弁時期を遅角側に変更し、カム切替式であればカムの切り替えにより行う。
【0041】
図4は、本実施形態のばらつき制御を説明するための図である。図中(a)は、エンジン10の回転停止時において圧縮行程となっている気筒のピストン停止位置の分布を示す図であり、(b)は、リングギヤ22においてピニオン33との噛み合い可能な範囲を示す図である。なお、図4では、エンジン停止の際にスロットルバルブ13を閉じた状態とした場合を示している。
【0042】
(a)において、点線は、エンジン10の回転停止前に圧縮行程となっている気筒の吸気バルブ17を圧縮上死点で開弁状態にしない通常の場合を示している。この場合、エンジン停止の際にスロットルバルブ13を閉弁状態とすると、エンジン停止時において圧縮行程となっている気筒のピストン停止位置は、図4では圧縮上死点でその出現頻度が最大となり、変則的な場合を除くと、圧縮上死点を中心に範囲PS1(例えば約40°CA)の範囲内に分布している。なお、範囲PS1が、図4の点線の場合における「ピストン停止位置の分布範囲」つまり分布の広がり幅に相当する。
【0043】
また、エンジン10の回転停止前に、圧縮行程となっている気筒の吸気バルブ17をその圧縮上死点で開弁状態にした場合、図4では、実線に示すように、エンジン停止時において圧縮行程となる気筒のピストン停止位置が、吸気バルブ17を開弁しない場合(点線の場合)と同様に圧縮上死点でその出現頻度が最大となる。ところが、図4に示すように、吸気バルブ17を開弁した場合では、同開弁制御を実施しない場合に比べて圧縮上死点での出現頻度が少なくなり、かつ出現頻度をならした状態になる。つまり、吸気バルブ17の開弁により、ピストン停止位置の分布範囲(広がり幅)が、出現頻度最大の位置(図4では両者とも圧縮上死点)を中心に、範囲PS1よりも広い範囲PS2(例えば80°CA)に拡大される。こうしてピストンの停止位置のばらつきが大きくなる結果、図4(b)に示すように、リングギヤ22におけるピニオン33との噛み合い箇所の範囲が、R1,R2よりも拡大されたR3,R4となる。
【0044】
特に本実施形態では、エンジン停止要求があった場合、その停止要求が、IGスイッチ24のオンからオフへの切り替えによるものか、又はエンジン自動停止条件の成立によるものかを判定し、その判定結果に基づいて上記ばらつき制御を実施するか否かを切り替える。より詳細には、IGスイッチ24のオフによるエンジン停止時には、ピストン停止位置制御を実行せずにエンジン10の回転停止(ピストンの往復動停止)を成り行きで行う。また、エンジン停止の際に、圧縮行程となっている気筒の吸気バルブ17をその圧縮上死点で開弁状態に制御することにより、ピストンの停止位置の分布範囲を拡大させる。
【0045】
一方、アイドルストップ制御によるエンジン自動停止時には、エンジン停止時に圧縮行程となる気筒のピストン停止位置を、圧縮上死点とは異なる所定位置PT1にすべくピストン停止位置制御を実行する。これにより、アイドルストップ制御によるエンジン自動停止時のピストン停止位置を、IGスイッチ24のオフ時におけるピストン停止位置とは異なる位置とし、結果としてエンジン停止時におけるピストン停止位置の分布範囲が拡大されるようにしている。
【0046】
ここで、ピストンの停止位置制御について説明する。ピストン停止位置制御として本実施形態では、例えばオルタネータ(図示略)の負荷制御や吸排気バルブ17,18の開閉制御、スロットルバルブ13の開度制御などにより、エンジン10の回転停止時において圧縮行程となる気筒のピストン停止位置を所定位置PT1に制御する。所定位置PT1は、圧縮上死点とは異なる位置であり、本実施形態では、次回のエンジン始動時に同気筒で最初の点火を実施できるピストン位置(例えば圧縮上死点前30°CAや60°CA)としている。すなわち、次回のエンジン再始動時におけるエンジン10の始動性を確保しつつ、エンジン停止時のピストン停止位置がばらつくようにしている。
【0047】
図5は、ピストン停止位置制御を実施した場合において、エンジン停止時に圧縮行程となる気筒のピストン停止位置の分布を示す図である。図中、実線はピストン停止位置制御を実施した場合について示し、点線はピストン停止位置制御を実施しない場合(エンジン10の回転停止を成り行きで行う場合)について示している。なお、図の横軸及び縦軸は上記図2と同じである。また、図5では、エンジン停止の際にスロットルバルブ13を閉弁状態とした場合について示している。
【0048】
図5の実線に示すように、ピストン停止位置制御を行う場合のピストン停止位置は、成り行きでエンジン10の回転を停止させる場合(点線)とは異なる分布となっており、詳しくは、所定位置PT1でその出現頻度が最大となっており、変則的な場合を除くと、所定位置PT1を中心に例えば約40°CAの範囲内に分布している。すなわち、図5では、ピストン停止位置の分布位置(広がり幅の中心位置)を相違させることで、分布のばらつきを大きくしている。
【0049】
図6は、リングギヤ22の回転停止位置に関するばらつき制御の処理手順を示すフローチャートである。この処理はECU40により所定周期毎に実行される。
【0050】
図6において、まずステップS11では、エンジン停止要求があったか否かを判定する。エンジン停止要求があった場合には、ステップS12において、その停止要求がIGスイッチ24のオンからオフへの切り替えによるものか否かを判定する。停止要求がIGスイッチ24のオフへの切り替えによるものである場合、ステップS13へ進み、エンジン停止前において、圧縮行程となっている気筒の吸気バルブ17が圧縮上死点で開弁した状態になるように吸気側バルブ駆動機構19を制御する。すなわち、圧縮行程となっている気筒の圧縮負荷を低減させることにより、該気筒におけるピストン停止位置が、例えば圧縮上死点を中心にしてばらつくようにする。その後、本処理を終了する。
【0051】
一方、エンジン停止要求がエンジン自動停止条件の成立によるものである場合には、ステップS14へ進み、エンジン停止に際してピストンの停止位置制御を実行する。本実施形態では、エンジン停止時に圧縮行程となる気筒のピストン停止位置が所定位置PT1になるように例えばオルタネータの負荷制御や吸排気バルブ17,18の開閉制御、スロットルバルブ13の開度制御の少なくともいずれかを実施する。この場合、次回のエンジン再始動の応答性を高めることが可能になる。
【0052】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0053】
エンジン停止に伴いリングギヤ22の回転が停止した場合に、リングギヤ22においてピニオンと対向する位置(ピニオン対向位置)のばらつきを意図的に大きくする構成としたため、リングギヤ22の回転停止時において、リングギヤ22の歯部全体のうちピニオン33と対向する歯部位置のばらつきを大きくすることができる。これにより、リングギヤ22の歯部が局所的に磨耗等するのを抑制することができる。したがって、リングギヤ22とピニオン33との噛み合いを適正に実施することができ、ひいてはスタータ30によるクランキングを適正に実施することができる。
【0054】
リングギヤ22におけるピニオン33との対向位置の分布の範囲(広がり幅)を拡大することによりばらつきを大きくする構成としたため、リングギヤ22におけるピニオン対向位置のばらつき拡大を比較的容易に実現することができる。
【0055】
エンジン停止に際し、圧縮行程となっている気筒の圧縮負荷を調整することにより、リングギヤ22におけるピニオン33との対向位置の分布の範囲を拡大する構成としたため、より具体的には、エンジン停止に際して、圧縮行程となっている気筒の吸気バルブ17をその圧縮上死点で開弁させる構成としたため、リングギヤ22におけるピニオン33との対向位置の分布の範囲の拡大を比較的簡単に実現することができる。
【0056】
システム起動の停止要求に基づくエンジン停止に際しては、圧縮行程となっている気筒の圧縮負荷を調整することにより、リングギヤ22におけるピニオン33との対向位置の分布の範囲を拡大し、アイドルストップ制御によるエンジン自動停止に際しては、リングギヤ22におけるピニオン33との対向位置の分布の範囲を拡大しない構成としたため、エンジン自動停止後の再始動時におけるエンジン始動性を維持しつつ、リングギヤ22の磨耗抑制を図ることができる。
【0057】
システム停止要求によるエンジン停止要求の場合にはエンジン10の回転停止を成り行きで実施し、アイドルストップ制御によるエンジン停止要求の場合には停止位置制御を実施する構成としたため、アイドルストップ制御によるエンジン自動停止時のピストン停止位置と、IGスイッチ24のオフ時におけるピストン停止位置とを異なる位置とすることができる。これにより、分布の中心位置が変更され、結果として、リングギヤ22におけるピニオン33との対向位置の分布の範囲(広がり幅)を拡大することができる。
【0058】
(他の実施形態)
本発明は、上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施されてもよい。
【0059】
・エンジン10の始動性が低下したことを検出する始動性検出手段を設け、始動性検出手段によりエンジン始動性が低下したことが検出された場合にばらつき制御を実施する。リングギヤ22の歯部の磨耗等が進行すると、ピニオン33との噛み合わせが適正に実施されず、その結果、エンジン10のクランキングに要する時間が長くなることが考えられる。そこで、エンジン始動性として例えばクランキング開始から初爆までに要した時間を検出し、その所要時間が判定値よりも大きい場合にエンジン始動性が低下しているとしてばらつき制御を実施する構成とする。こうすることにより、リングギヤ22の回転停止位置のばらつきを大きくする必要が高い場合に上記ばらつき制御を実施することができる。
【0060】
・エンジン10の始動回数を検出する始動回数検出手段を設け、始動回数検出手段の検出結果に基づいてばらつき制御を実施する。例えば、エンジン10の始動回数が判定値よりも大きいことを条件にばらつき制御を実施する。エンジン10の始動回数が多いほど、リングギヤ22の磨耗等が促進されるからである。あるいは、エンジン10の始動回数の所定間隔ごとにばらつき制御を実施してもよい。
【0061】
・上記実施形態では、エンジン停止要求がIGスイッチ24のオフへの切り替えによるものの場合に、エンジン10の回転停止前において開閉弁の開閉制御によりピストン停止位置のばらつきを大きくしたが、エンジン停止要求がエンジン自動停止条件の成立によるものの場合、すなわちアイドルストップ制御によるエンジン停止の場合に、エンジン10の回転停止前において開閉弁の開閉制御を行うことによりピストン停止位置のばらつきを大きくしてもよい。アイドルストップ制御によるエンジン再始動の頻度は比較的高いため、アイドルストップ機能を備えるシステムでは、リングギヤ22のピニオン33への衝突等によるリングギヤ22の磨耗が促進されやすいと考えられる。したがって、アイドルストップ制御によるエンジン停止時においてピストン停止位置のばらつきを大きくすることにより、リングギヤ22の磨耗等の抑制を好適に実施することができる。
【0062】
・エンジン停止要求がエンジン自動停止条件の成立による場合にピストン停止位置制御を実施せず、エンジン10の回転停止を成り行きで行う構成としてもよい。また、エンジン停止要求がIGスイッチ24のオフへの切り替えによる場合にエンジン停止位置制御を実施する構成としてもよい。このとき、エンジン10の回転停止前において開閉弁の開閉制御を行うことにより、ピストン停止位置のばらつきを大きくすることができる。
【0063】
・バッテリ23の充電状態に基づいてばらつき制御を実施する。エンジン10の始動性の観点からすると、エンジン停止時には次回のエンジン始動に備えてピストン停止位置制御を実施するのが望ましい。そこで、本構成では、バッテリ電圧が判定値以上の場合にピストン停止位置のばらつき制御を実施する。つまり、バッテリ23の充電状態が良好な場合には、エンジン10の始動に要する時間が長くなるのを許容し、リングギヤ22の磨耗等の抑制を優先させる。一方、バッテリ電圧が判定値未満の場合にはピストン停止位置のばらつき制御を実施しない。つまり、バッテリ23の充電状態が悪化している場合には、エンジン10の始動に要する時間が長くなると更なるバッテリ状態の低下が懸念されるため、エンジン始動性を優先させる。
【0064】
・エンジン停止要求がIGスイッチ24のオフへの切り替えによるものの場合、及びエンジン自動停止条件の成立によるものの場合の少なくともいずれかにおいてピストン停止位置制御を実施するとき、ピストン停止位置の目標値(目標停止位置)を、前回のエンジン停止以前のピストン停止位置に対してばらつかせることでピストン停止位置(リングギヤ22の所定歯部の回転停止位置)のばらつきを大きくする。
【0065】
具体的には、例えば、ばらつき制御を実施しない場合のピストン停止位置の分布範囲(広がり幅)において都度のピストン停止位置が平均化されるように目標停止位置を設定し、該設定した目標停止位置にピストン停止位置を制御する。リングギヤ22の回転停止位置のばらつきを、ばらつき制御を実施しない通常の場合の分布範囲内で行うことにより、ピストンの停止位置を通常の制御範囲内にすることができる。これにより、ピストン停止位置が、次回のエンジン始動において始動性低下を招く範囲まで拡大されるのを回避しつつ、ピストン停止位置(リングギヤ22の回転停止位置)のばらつきを大きくすることができる。
【0066】
本構成では、例えば、ばらつき制御を実施しない場合のピストンの目標停止位置を所定位置PT1とする場合、目標停止位置を、所定位置PT1を中心とする所定範囲内でばらつくよう設定する。このとき、エンジン始動ごとに異なる目標停止位置に設定してもよいし、月日によって異なる目標停止位置を設定してもよい。
【0067】
図7に、目標停止位置をばらつかせる場合のピストン停止位置とその出現頻度との関係の一例を示す。図中、実線はばらつき制御を実施する場合を示し、点線はばらつき制御を実施しない場合を示す。図7によれば、ピストン停止位置を所定位置PT1に集中させることなく、所定位置PT1近傍のクランク角度位置において均等にばらつかせることができる。
【0068】
・上記実施形態では、SL駆動リレー25のオン/オフの切り替えによりピニオン33のリングギヤ22への噛み合わせ処理及びピニオン33の回転を実施する構成のスタータ30を本発明に適用したが、同噛み合わせ処理とピニオン33の回転とを独立して制御可能な構成のスタータを本発明に適用してもよい。すなわち、本システムには、エンジン停止後のエンジン10の惰性回転中においてピニオン33をリングギヤ22へ噛み合わせる噛み合い処理を実施する噛み合い制御手段と、エンジン10の始動要求後に回転駆動手段としてのモータ31によりピニオン33を回転させる回転制御手段とが設けられている。
【0069】
具体的には、図8に示すように、スタータ300には、モータ31の通電/非通電を切り替えるモータスイッチ部SL1が設けられており、モータスイッチ部SL1には、制御信号に基づいてモータスイッチ部SL1のオン/オフを切り替えるSL1駆動リレー310が接続されている。ピニオン軸32の周囲に設けられたコイル34には、制御信号に基づいてコイル34の通電/非通電を切り替えるSL2駆動リレー311が接続されている。SL2駆動リレー311にオン信号が入力されてSL2駆動リレー311がオン状態にされると、バッテリ23からコイル34へ通電され、ピニオン軸32がリングギヤ22に向かって押し出される。これにより、ピニオン33がリングギヤ22に噛み合わされる。また、その後、SL1駆動リレー310にオン信号が入力されてSL1駆動リレー310がオン状態にされることにより、バッテリ23からモータ31へ通電され、ピニオン33が回転される。これにより、エンジン10のクランキングが開始される。
【0070】
・エンジン始動要求前にピニオン33とリングギヤ22との噛み合わせ処理を実施する場合、エンジン停止後のエンジン惰性回転中においてエンジン10が反転しているときにピニオン33をリングギヤ22へ噛み合わせることによりピストン停止位置を目標停止位置に制御するとともに、該目標停止位置を、ばらつきを持たせて設定することによりピストン停止位置のばらつきを大きくする構成としてもよい。
【0071】
エンジン停止後の惰性回転中では、振り子特性によりエンジン10の回転が正転と反転とで交互に切り替わり、やがてエンジン10の回転が停止する。ここで、本発明者の知見によれば、エンジン10の反転中にピニオン33をリングギヤ22に噛み合わせることによりエンジン10の回転が直ちに停止される。したがって、例えばクランク角センサ26の出力値に基づいてエンジン10が正転中か反転中かを判定し、エンジン反転中と判定された場合に、ピストンが目標停止位置(目標クランク角度位置)になったタイミングでピニオン33とリングギヤ22との噛み合わせを実施する。これにより、ピストン停止位置制御を精度よく実施することができ、ひいてはピストン停止位置(リングギヤ22の所定歯部の回転停止位置)のばらつき拡大を好適に実施できる。したがって、本構成によれば、モータ31によるピニオン33の回転開始時においてピニオン33の歯部がリングギヤ22の歯部に衝突することに起因するリングギヤ22の歯部の磨耗促進を抑制することができる。
【0072】
・ピニオン33とリングギヤ22との噛み合わせのタイミングによってピストン停止位置を制御する場合、エンジン10の反転量を調整することによってピストン停止位置を制御する構成としてもよい。エンジン10の反転量が大きい場合、ピニオン33とリングギヤ22との噛み合わせのタイミングを種々設定することによりピストン停止位置のばらつきを比較的大きくできると考えられる。したがって、上記構成とすることにより、ピストン停止位置(リングギヤ22の所定歯部の回転停止位置)のばらつきの拡大を好適に実施できる。
【0073】
ここで、エンジン10の反転量は、エンジン惰性回転中でのエンジン回転速度の減少率(エンジン回転の降下速度)やエンジン10の慣性力などによって変化し、例えば惰性回転中でのエンジン回転速度の減少率が大きいほど反転量が大きくなる。したがって、エンジン10の反転量を大きくするには、例えば惰性回転中でのエンジン回転速度の減少率を大きくする。
【0074】
なお、惰性回転中でのエンジン回転速度の減少率は、例えば気筒の圧縮負荷やエンジン出力軸の回転負荷を調整すること等により行う。具体的には、例えばエンジン10の惰性回転中においてスロットルバルブ13を所定の開状態にする。スロットル開とした場合、ピストンの往復動によるエンジン10の瞬時回転速度の変動が大きくなり、その結果、エンジン反転量が大きくなるからである。
【0075】
・上記実施形態では、吸気バルブ17及び排気バルブ18を、エンジン10の回転に伴うカムの回転により開閉する機械駆動式としたが、吸排気バルブ17,18の開閉を電磁ソレノイドにより行う電磁式のものとしてもよい。
【0076】
・電磁式の吸排気バルブの場合、電磁石をバルブごとに設けることにより吸排気バルブ17,18を気筒ごとに個別に制御することが可能になる。そこで、電磁石をバルブごとに設けておき、エンジン停止に際してエンジン10の回転停止前に各気筒の吸気バルブ17及び排気バルブ18の少なくともいずれかを開弁状態にする構成とする。このとき、全気筒の吸排気バルブのうち一部のバルブを開弁状態にしてもよいが、好ましくは全気筒の吸気バルブ17及び排気バルブ18を開弁状態にする。こうすることにより、ピストンの停止位置のばらつきを一層大きくすることができ、その結果、リングギヤ22の歯部の磨耗等が局所的に発生するのを好適に抑制できる。
【0077】
・上記図2及び図4では、スロットルバルブ13を閉じた状態で、吸気バルブ17の開弁によるばらつき制御を実施した場合のピストン停止位置を示した。この場合、ピストン停止位置は、圧縮上死点付近でその出現頻度が最大となる。吸気バルブ17の開弁によるばらつき制御では、スロットルバルブ13を必ずしも閉状態としておく必要はなく、開状態としてもよい。
【0078】
図9は、エンジン停止に際し、スロットルバルブ13を開いた状態で、吸気バルブ17の開弁によるばらつき制御を実施した場合のピストン停止位置を示す図である。なお、図9では、図2及び図4と同様に、成り行きによってエンジン停止を行った場合について示してある。図中、実線は、吸気バルブ17の開弁によりばらつき制御を実施した場合を示し、点線は、同ばらつき制御を実施しない場合を示している。
【0079】
図9において、ばらつき制御を実施しない場合では、点線で示すように、圧縮上死点と吸気下死点との中間付近Pm1(例えば圧縮上死点前90°CA付近)で、ピストン停止位置の出現頻度が最大となっている。また、ピストン停止位置は、変則的な場合を除くと、その中間付近Pm1を中心に範囲PS3(例えば40°CA)の範囲内に分布している。
【0080】
一方、ばらつき制御として、エンジン10の回転停止前に、圧縮行程となっている気筒の吸気バルブ17を例えばその圧縮上死点付近で開弁状態にした場合には、実線で示すように、ピストン停止位置が、圧縮上死点と吸気下死点との中間付近Pm2(例えば圧縮上死点前90°CA付近)でその出現頻度が最大になっている。ところが、ばらつき制御を実施した場合には、同制御を実施しない場合に比べて、中間付近Pm2での出現頻度が少なくなっており、それに伴い、ピストン停止位置の分布範囲が、中間付近Pm2を中心に、範囲PS3よりも広い範囲PS4(例えば80°CA)に拡大される。なお、図9では、中間付近Pm3とPm4との位置は略同じとしたが、両者は異なっていてもよい。
【0081】
・上記実施形態では、圧縮行程となっている気筒の吸気バルブ17を圧縮上死点で開弁状態にすることにより、エンジン停止に際し圧縮行程となっている気筒の圧縮負荷を調整する構成としたが、吸気バルブ17の代わりに、又は吸気バルブ17に加え、排気バルブ18を開弁状態にする構成としてもよい。また、スロットルバルブ13の開閉制御により、エンジン停止に際し圧縮行程となっている気筒の圧縮負荷を調整する構成としてもよい。具体的には、スロットル閉の状態では、スロットル開の状態の場合と比較して、吸気行程において燃焼室内に吸入される空気量が少ないため、その後の圧縮行程では気筒の圧縮負荷がより小さくなる。また、気筒の圧縮負荷が小さくなると、エンジン停止時におけるピストン停止位置のばらつきが大きくなりやすく、具体的には、スロットル閉の状態では、圧縮上死点と吸気下死点との中間付近に対するばらつきが大きくなりやすい。したがって、エンジン停止に際し、スロットルバルブ13を閉状態にすることにより、ピストン停止位置のばらつきを大きくすることができる。
【0082】
・開閉弁(吸排気バルブ17,18、スロットルバルブ13)の開弁制御によりリングギヤ22におけるピニオン対向位置のばらつきを大きくする制御に代えて又は同制御に加えて、オルタネータの負荷制御によりピストン停止位置のばらつきを大きくする構成としてもよい。
【符号の説明】
【0083】
10…エンジン、13…スロットルバルブ、17…吸気バルブ、18…排気バルブ、19…吸気側バルブ駆動機構、20…排気側バルブ駆動機構、21…クランク軸、22…リングギヤ、25…SL駆動リレー、30…スタータ、31…モータ、32…ピニオン軸、33…ピニオン、34…コイル、35…スイッチ、40…ECU、MS…マグネットスイッチ部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン始動に際して、エンジンの出力軸に連結されたリングギヤに該リングギヤに対向して配置された前記エンジンのスタータのピニオンを噛み合わせた状態でクランキングを実施し、該クランキングの終了後に前記噛み合わせを解除するエンジンの制御装置において、
エンジン停止に伴い前記リングギヤの回転が停止したときの前記リングギヤにおける前記ピニオンとの対向位置であるピニオン対向位置のばらつきを大きくするばらつき制御を実施するばらつき制御手段と、
前記エンジンの始動性が低下したことを検出する始動性検出手段と、を備え、
前記ばらつき制御手段は、前記始動性検出手段によりエンジン始動性が低下したことが検出された場合に前記ばらつき制御を実施することを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項2】
所定の自動停止条件が成立した場合に前記エンジンを自動停止し、その後所定の再始動条件が成立した場合に前記スタータによるクランキングを実施して前記エンジンを再始動する自動停止始動機能を有するエンジンに適用され、
前記エンジンの停止要求があった場合、その停止要求が前記エンジンのシステム起動の停止要求であるか又は前記自動停止条件の成立に伴うものかを判定する要求判定手段を備え、
前記ばらつき制御手段は、前記要求判定手段の判定結果に基づいて前記ばらつき制御を実施する請求項1に記載のエンジンの制御装置。
【請求項3】
エンジン始動に際して、エンジンの出力軸に連結されたリングギヤに該リングギヤに対向して配置された前記エンジンのスタータのピニオンを噛み合わせた状態でクランキングを実施し、該クランキングの終了後に前記噛み合わせを解除するエンジンの制御装置において、
所定の自動停止条件が成立した場合に前記エンジンを自動停止し、その後所定の再始動条件が成立した場合に前記スタータによるクランキングを実施して前記エンジンを再始動する自動停止始動機能を有するエンジンに適用され、
エンジン停止に伴い前記リングギヤの回転が停止したときの前記リングギヤにおける前記ピニオンとの対向位置であるピニオン対向位置のばらつきを大きくするばらつき制御を実施するばらつき制御手段と、
前記エンジンの停止要求があった場合、その停止要求が前記エンジンのシステム起動の停止要求であるか又は前記自動停止条件の成立に伴うものかを判定する要求判定手段と、を備え、
前記ばらつき制御手段は、前記要求判定手段の判定結果に基づいて前記ばらつき制御を実施することを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項4】
前記ばらつき制御手段は、前記ばらつき制御を実施しない場合に比べて前記ピニオン対向位置の分布範囲を拡大することにより前記ばらつきを大きくする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のエンジンの制御装置。
【請求項5】
前記ばらつき制御手段は、エンジン停止に際し、圧縮行程となっている気筒の圧縮負荷を調整することにより前記分布範囲を拡大する請求項4に記載のエンジンの制御装置。
【請求項6】
前記エンジンの燃焼室へのガスの吸入又は排出の状態を調整する開閉弁を備えるエンジンに適用され、
前記ばらつき制御手段は、エンジン停止に際し、前記開閉弁の開閉状態を制御することにより前記分布範囲を拡大する請求項5に記載のエンジンの制御装置。
【請求項7】
前記ピニオン対向位置の目標値を、前回のエンジン停止以前のピニオン対向位置に対してばらつきを持たせて設定する目標設定手段を備え、
前記ばらつき制御手段は、前記目標設定手段により設定した目標値に前記ピニオン対向位置を制御することで前記ばらつきを大きくする請求項1乃至6のいずれか一項に記載のエンジンの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−246934(P2012−246934A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−208308(P2012−208308)
【出願日】平成24年9月21日(2012.9.21)
【分割の表示】特願2010−259373(P2010−259373)の分割
【原出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】