説明

エンジンの支持構造

【課題】衝撃荷重を吸収するために必要なフロントサイドメンバの変形量を確保でき、衝撃荷重を効果的に吸収可能なエンジンの支持構造を提供する。
【解決手段】エンジンの支持構造は、車両の前部に配置された右フロントサイドメンバ10と、右フロントサイドメンバ10に固定されたマウント部材30Rと、を備えている。右フロントサイドメンバ10には、マウント部材30Rが固定される第1固定部14が形成されている。マウント部材30Rは、エンジン3を支持するエンジンマウントフォルダ31及びエンジンマウントフォルダ31を第1固定部14に連結する第1連結部材32を有している。第1固定部14は、エンジンマウントフォルダ31よりも車両の後方側に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの支持構造に係り、特に、衝撃荷重を効果的に吸収可能なエンジンの支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
他車両などの障害物と衝突した場合に備えるために、衝突荷重を吸収する構造が車両の前部に設けられていることが多い。このような衝突荷重を吸収する構造には、例えば、エンジンに作用する衝突荷重をフロントサイドメンバに伝達する荷重伝達手段を備えた車両用フレーム構造がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この車両用フレーム構造は一対のフロントサイドメンバ及び荷重伝達手段を備えている。このフロントサイドメンバは車両の前部においてエンジンの左右両側に配置されている。そして、荷重伝達手段は、エンジンの後方に配置され、エンジンが後方に移動した際に当接する接触部を有し、フロントサイドメンバに対して固定部材により回動支持されている。
【0004】
この車両用フレーム構造では、衝突荷重がエンジンに作用して、エンジンが車両後方に移動した際に、エンジンが荷重伝達手段に当接する。荷重伝達手段にエンジンが当接した後にさらに衝突荷重が作用すると、荷重伝達手段が固定部材を中心に回動する。この固定部材の回動により、フロントサイドメンバの側面を押圧する荷重がフロントサイドメンバに作用する。よって、フロントサイドフレームは、車両前方からフロントサイドフレームに作用している衝突荷重により、車幅方向外側へ変形する。このように、フロントサイドフレームを変形させることにより衝突荷重を吸収する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007―126093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1に開示された車両用フレーム構造では、固定部材を中心に回動する荷重伝達手段がフロントサイドメンバを変形させる。このため、フロントサイドメンバの固定部材より前側部分がエンジンと接触し、それ以上の変形が阻害されることがある。したがって、フロントサイドメンバの変形量が抑制される可能性が考えられ、衝撃荷重を吸収するという点において改善の余地があった。
【0007】
そこで、本発明の課題は、衝撃荷重を吸収するために必要なフロントサイドメンバの変形量を確保でき、衝撃荷重を効果的に吸収可能なエンジンの支持構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決した本発明に係るエンジンの支持構造は、車両の前部に配置されたフロントサイドメンバと、フロントサイドメンバに固定されたマウント部材と、を備え、フロントサイドメンバには、マウント部材が固定される固定部が形成され、マウント部材は、エンジンを支持する支持部及び支持部を固定部に連結する連結部を有し、固定部は、支持部よりも車両の後方側に形成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明に係るエンジンの支持構造では、フロントサイドメンバの固定部が、マウント部材の支持部に対して車両の後方側に形成されている。この支持部は、連結部により固定部と連結されている。車両前方から衝撃荷重がエンジンに作用すると、支持部が車両前方から車両後方に移動する。この支持部の移動に伴い、固定部に固定された連結部がフロントサイドメンバを車両外側方向に移動させる。この連結部の移動により、エンジンに作用する車両前方からの衝撃荷重は、フロントサイドメンバを車両外側方向に押圧する荷重として、フロントサイドメンバに伝達される。フロントサイドメンバが車両外側方向へ変形される態様では、フロントサイドメンバがエンジン等に干渉することがないので、十分な変形量を確保することができる。したがって、衝撃荷重を効果的に吸収することができる。
【0010】
ここで、連結部は、第1連結部材及び第2連結部材を有し、第1連結部材は、一端が固定部である第1固定部に固定されると共に、他端が支持部に固定され、第2連結部材は、一端がフロントサイドメンバに形成された第2固定部に固定されると共に、他端が支持部に固定され、第2固定部は、第1固定部よりも車両の前方側に形成され、第1連結部材の一端から他端までの長さは、第2連結部材の一端から他端までの長さより長く設定されている態様とすることができる。
【0011】
このように、第1固定部に固定された第1連結部材の長さが、第2固定部に固定された第2連結部材の長さよりも長く設定されていることにより、車両前方からの衝撃荷重が、車両外側方向にフロントサイドメンバを押圧する荷重としてフロントサイドメンバに好適に伝達される。したがって、衝撃荷重をさらに効果的に吸収することができる。
【0012】
ここで、フロントサイドメンバには、第1固定部及び第2固定部の間に曲げの起点となる脆弱部が形成されている態様とすることができる。
【0013】
このように、フロントサイドメンバにおける第1固定部及び第2固定部の間に脆弱部が形成されていることにより、脆弱部を起点にフロントサイドメンバを車両外側方向に変形させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るエンジンの支持構造によれば、衝撃荷重を吸収するために必要なフロントサイドメンバの変形量を確保でき、衝撃荷重を効果的に吸収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1実施形態に係るエンジンの支持構造を備える車両前部の要部分解斜視図である。
【図2】第1実施形態に係るエンジンの支持構造の斜視図である。
【図3】第1実施形態に係るエンジンの支持構造の平面図である。
【図4】第1実施形態に係るエンジンの支持構造の作用を説明するための平面図である。
【図5】(a)は、第1実施形態に係るエンジンの支持構造の作用を説明するための平面図、(b)は、(a)のエンジンの支持構造を拡大した平面図である。
【図6】従来の問題点を説明するための車両前部の要部斜視図である。
【図7】第2実施形態に係るエンジンの支持構造の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図示の便宜上、図面の寸法比率は説明のものと必ずしも一致しない。
【0017】
図1は、第1実施形態に係るエンジンの支持構造を備える車両前部の要部を分解した斜視図である。図1に示すように、車両前部にはボデー構造2が形成されている。このボデー構造2は、フロントサスペンションメンバ8、クロスメンバ9、右フロントサイドメンバ10、及び左フロントサイドメンバ20により構成されている。ボデー構造2には、エンジン3が、右エンジンマウンティング4、左エンジンマウンティング5、フロントエンジンマウンティング6、及びリヤエンジンマウンティング7を介して搭載されている。エンジン3は、フロントサスペンションメンバ8とクロスメンバ9との間であって、右フロントサイドメンバ10と左フロントサイドメンバ20との間に配置されている。
【0018】
右フロントサイドメンバ10及び左フロントサイドメンバ20は、車両の前後方向に延在して配置されている。右フロントサイドメンバ10は、左フロントサイドメンバ20から車両幅方向に離間し、互いに平行になるように配置されている。
【0019】
右フロントサイドメンバ10には、固定領域11及び座屈部12が形成されている。固定領域11は、内側面10aに形成されており、固定領域11には右エンジンマウンティング4が配置されている。なお、内側面10aは右フロントサイドメンバ10における車両内側を向いた面である。エンジン3は、右エンジンマウンティング4を介して右フロントサイドメンバ10に連結されている。座屈部12は、右フロントサイドメンバ10において固定領域11よりも車両前側に配置されており、車両前側から車両後側に向かう衝撃荷重により座屈変形をする。この座屈変形により、衝撃荷重の一部が吸収される。座屈部12は、例えば一方向に沿って座屈変形が容易とされたクラッシュボックスである。
【0020】
左フロントサイドメンバ20には、固定領域21及び座屈部22が形成されている。固定領域21は、内側面20aに形成されており、固定領域21には左エンジンマウンティング5が配置されている。エンジン3は、左エンジンマウンティング5により左フロントサイドメンバ20に連結されている。この座屈部22は、左フロントサイドメンバ20において固定領域21よりも車両前側に配置されており、座屈部12と同様に車両前側から車両後側に向かう衝撃荷重により座屈変形をする。この座屈変形により、衝撃荷重の一部が吸収される。座屈部22は、例えば一方向に沿って座屈変形が容易とされたクラッシュボックスである。
【0021】
フロントサスペンションメンバ8は、車両の幅方向に延在している。このフロントサスペンションメンバ8は、右フロントサイドメンバ10の固定領域11、及び左フロントサイドメンバ20の固定領域21よりも車両の後方側に配置されている。フロントサスペンションメンバ8の一端部8aは右フロントサイドメンバ10に固定され、フロントサスペンションメンバ8の他端部8bは左フロントサイドメンバ20に固定されている。フロントサスペンションメンバ8には、固定領域8cが形成されている。固定領域8cにはリヤエンジンマウンティング7が配置されている。エンジン3は、リヤエンジンマウンティング7によりフロントサスペンションメンバ8に連結されている。
【0022】
クロスメンバ9は、車両の幅方向に延在すると共に、右フロントサイドメンバ10及び左フロントサイドメンバ20の車両前方側の端部に固定されている。クロスメンバ9の一端部9aは右フロントサイドメンバ10の前端部10fに固定され、クロスメンバ9の他端部9bは左フロントサイドメンバ20の前端部20fに固定されている。クロスメンバ9には、固定領域9cが形成されている。固定領域9cにはフロントエンジンマウンティング6が配置されている。エンジン3は、フロントエンジンマウンティング6によりクロスメンバ9に連結されている。
【0023】
図2は、車両の右側に配置された第1実施形態に係るエンジンの支持構造1Aの斜視図である。図2に示すように、エンジンの支持構造1Aは、右フロントサイドメンバ10及びマウント部材30Rを備えている。また、図3に示すように車両の左側には、マウント部材30Rと実質的な形状が左右対称であるマウント部材30Lが左フロントサイドメンバ20に設けられている。以下、右フロントサイドメンバ10を含むエンジンの支持構造1Aを例に、第1実施形態に係るエンジンの支持構造を詳細に説明する。
【0024】
図2に示すように、右フロントサイドメンバ10には、座屈部12が配置されると共に、脆弱部13、第1固定部14、及び第2固定部15が形成されている。第1固定部14及び第2固定部15は、固定領域11に含まれる部分であり、右フロントサイドメンバ10の内側面10aに形成されている。また、第2固定部15は、第1固定部14よりも車両の前方側に形成されている。
【0025】
脆弱部13は、外側面10bに形成されている。外側面10bは、右フロントサイドメンバ10の内側面10aの反対側にある面である。また、脆弱部13は、第1固定部14及び第2固定部15の間に形成されている。この脆弱部13は右フロントサイドメンバ10を車両外側に曲げる起点となる。第1実施形態に係る脆弱部13は、タイヤの干渉を防止するためのえぐり部である。なお、脆弱部13の形状はビード形状であってもよい。
【0026】
マウント部材30Rは、右エンジンマウンティング4に含まれている部材である。マウント部材30Rは、右フロントサイドメンバ10に固定されている。マウント部材30Rは、エンジンマウントフォルダ31、第1連結部材32、及び第2連結部材37を有している。
【0027】
エンジンマウントフォルダ31は、エンジン3を支持する支持部であり、車両の上下方向に延在する円柱状の形状である。エンジンマウントフォルダ31は、例えば円柱状のゴムの周囲を円筒状の金属により囲って構成された部材である。エンジンマウントフォルダ31は、脆弱部13に対して車両幅方向に並ぶ位置に配置されている。また、エンジンマウントフォルダ31は第1固定部14よりも車両の前方側に配置されている。即ち、第1固定部14は、エンジンマウントフォルダ31よりも車両の後方側に形成されている。
【0028】
第1連結部材32は、エンジンマウントフォルダ31を右フロントサイドメンバ10に連結する連結部であり、右フロントサイドメンバ10の内側面10aから車両内側に向かうと共に、車両の前後方向に延びている。第1連結部材32は、例えば高張力鋼からなる。第1連結部材32は、本体部33を備えている。また、第1連結部材32は、本体部33と連続するとともに、本体部33に対して屈曲するフランジ部34を備えている。このため、本体部33とフランジ部34とは、所定の角度をなしている。フランジ部34における本体部33と連続する側の反対側の端部が第1連結部材32の一端部35とされ、本体部33におけるフランジ部34と連続する側の反対側の端部が第1連結部材32の他端部36とされている。フランジ部34は、例えば締結ボルト19により右フロントサイドメンバ10の第1固定部14に固定されている。なお、第1連結部材32は、溶接により右フロントサイドメンバ10に固定されていてもよい。本体部33の他端部36側は、エンジンマウントフォルダ31に、例えば溶接等により固定されている。本体部33には、車両前後方向と互いに交差する面33aがある。第1連結部材32は、本体部33に面33aがあると共に、高張力鋼からなる。このため、車両上下方向における剛性及び強度性能を確保できる。よって、エンジン3を好適に支持することができる。
【0029】
第2連結部材37は、エンジンマウントフォルダ31を右フロントサイドメンバ10に連結する連結部であり、右フロントサイドメンバ10の内側面10aから、車両内側方向に延びている。第2連結部材37は、例えば高張力鋼からなる。第2連結部材37は、本体部38を備えている。また、第2連結部材37は、本体部38と連続するとともに、本体部38に対して屈曲するフランジ部39を備えている。このため、本体部38とフランジ部39とは、所定の角度をなしている。第1実施形態における第2連結部材37では、所定の角度は例えば略直角である。フランジ部39における本体部38と連続する側の反対側の端部が第2連結部材37の一端部41とされ、本体部38におけるフランジ部39と連続する側の反対側の端部が第2連結部材37の他端部42とされている。フランジ部39は、例えば締結ボルト19により右フロントサイドメンバ10の第2固定部15に固定されている。なお、第2連結部材37は、溶接により右フロントサイドメンバ10に固定されていてもよい。本体部38の他端部42側は、エンジンマウントフォルダ31に、例えば溶接等により固定されている。本体部38には、車両前後方向と互いに交差する面38aがある。第2連結部材37は、本体部38に面38aがあると共に、高張力鋼からなる。このため、車両上下方向における剛性及び強度性能を確保できる。よって、エンジン3を好適に支持することができる。
【0030】
この第2連結部材37は、本体部38の長さが第1連結部材32の本体部33の長さより短くなるように設定されている。即ち、第1連結部材32は、本体部33の長さが第2連結部材37の本体部38の長さよりも長くなるように設定されている。なお、第1連結部材32の本体部33の長さは、本体部33におけるフランジ部34と連続する側の端部(一端)から他端部(他端)36までの長さにより規定され、第2連結部材37の本体部38の長さは、本体部38におけるフランジ部39と連続する側の端部(一端)から他端部(他端)42までの長さにより規定される。
【0031】
次に、第1実施形態に係るエンジンの支持構造1Aの作用について説明する。図3は、第1実施形態に係るエンジンの支持構造1Aの平面図である。図3に示すように、右フロントサイドメンバ10及び左フロントサイドメンバ20により形成された空間にエンジン3が配置されている。車両の前方側にはバンパユニット43が配置されている。バンパユニット43は、右フロントサイドメンバ10の前端部10f及び左フロントサイドメンバ20の前端部20fに固定されている。このバンパユニット43に対して、車両の前方側から車両の後方側に向かう衝撃荷重が印加される。また、車両の後方側にはベースユニット44が配置されている。ベースユニット44は、右フロントサイドメンバ10の後端部10e及び左フロントサイドメンバ20の後端部20eに固定されている。
【0032】
図4は、第1実施形態に係るエンジンの支持構造1Aの作用を説明するための平面図である。図4に示すように、車両が障害物等に衝突したとき、バンパユニット43が車両後方に向かう方向(矢印D1)に衝撃荷重を受ける。この衝撃荷重は、バンパユニット43に固定された右フロントサイドメンバ10及び左フロントサイドメンバ20に伝達される。衝撃荷重は、右フロントサイドメンバ10及び左フロントサイドメンバ20の長手方向に作用する。このとき、右フロントサイドメンバ10の座屈部12及び左フロントサイドメンバ20の座屈部22が車両後方に向かって座屈変形をする。この座屈変形により、衝撃荷重の一部が吸収される。バンパユニット43が所定の距離だけ車両の後方側へ移動すると、バンパユニット43はエンジン3と当接する。
【0033】
図5(a)は、第1実施形態に係るエンジンの支持構造1Aの作用を説明するための平面図である。図5(a)に示すように、バンパユニット43がエンジン3と当接した後に、さらにバンパユニット43は車両後方(矢印D2)へ移動するので、エンジン3が車両の後方側へ移動される。図5(b)は、図5(a)のM部におけるエンジンの支持構造1Aを拡大した平面図である。エンジン3が車両の後方側へ移動されると、エンジン3を支持するエンジンマウントフォルダ31が車両の後方側へ移動される。このエンジンマウントフォルダ31は、第1連結部材32により右フロントサイドメンバ10の内側面10aに連結されている。この連結構造により、第1固定部14に固定された第1連結部材32が、車両外側に向かって右フロントサイドメンバ10の内側面10aを押圧する(矢印D3)。したがって、エンジン3に作用する車両の前方側からの衝撃荷重は、車両外側方向に右フロントサイドメンバ10を押圧する荷重として、右フロントサイドメンバ10に伝達される。右フロントサイドメンバ10を車両外側方向へ変形させる変形態様では、右フロントサイドメンバ10がエンジン3等に干渉することがないので、右フロントサイドメンバ10の十分な変形量を確保することができる。したがって、車両の減速度の低減を図ることができ、衝撃荷重が効果的に吸収される。
【0034】
また、第1実施形態に係るエンジンの支持構造1Aは、第1固定部14に固定された第1連結部材32の本体部33の長さが、第2固定部15に固定された第2連結部材37の本体部38の長さよりも長く設定されている。よって、車両前方からの衝撃荷重が車両外側方向に右フロントサイドメンバ10を車両外側方向に押圧する荷重として右フロントサイドメンバ10に好適に伝達されると共に、衝撃荷重が車両外側方向に左フロントサイドメンバ20を車両外側方向に押圧する荷重として左フロントサイドメンバ20に好適に伝達される。したがって、衝撃荷重をさらに効果的に吸収することができる。
【0035】
また、第1実施形態に係るエンジンの支持構造1Aの右フロントサイドメンバ10には、第1固定部14及び第2固定部15の間に脆弱部13が形成されている。この位置に脆弱部13が形成されていることにより、車両内側に向かって折れ曲がる右フロントサイドメンバ10の変形領域を確保することができる。
【0036】
図6は、従来の問題点を説明するための車両前部の要部斜視図である。図6に示すように、ボデー構造2に衝突荷重が印加されたとき、座屈部12,22を含む領域Aでは、座屈部12,22が軸圧縮により座屈変形される。この座屈変形によれば衝撃荷重を効果的に吸収できる。しかし、領域Bにおける右フロントサイドメンバ10及び左フロントサイドメンバ20では、エンジン3及びフロントサスペンションメンバ8を支持するために十分な剛性が確保されている。よって、容易に右フロントサイドメンバ10及び左フロントサイドメンバ20を座屈変形させることが困難である。さらに、タイヤとの干渉を防止するために形成されたえぐり部13bの形状によっても、座屈変形が妨げられる可能性がある。したがって、領域Bでは衝撃荷重を十分に吸収できない場合がある。
【0037】
一方、第1実施形態に係るエンジンの支持構造1Aは、右フロントサイドメンバ10及び左フロントサイドメンバ20を車両外側方向へ変形させるので、衝撃荷重を効果的に吸収するために必要な変形量を確保することができる。したがって、第1実施形態に係るエンジンの支持構造1Aによれば、領域Bにおいても衝撃荷重を効果的に吸収できる。さらに、車両外側方向へ変形させるので、車両の後方側へのエンジン3の移動量を抑制し、エンジン3よりも車両の後方側に位置する車室空間の圧迫を抑制することができる。
【0038】
また、上記特許文献1に開示された車両用フレーム構造では、非衝突状態のとき、荷重伝達手段はエンジンから離間している。この構成によると、例えば、車両の斜め前方から衝突荷重が印加されたときには荷重伝達手段がエンジンと所定の位置で当接できないおそれがある。したがって、衝撃荷重が予め設定された方向に伝達されないのでフロントサイドメンバの変形を制御できない可能性があり、衝撃荷重を効果的に吸収するという点において改善の余地があった。
【0039】
一方、第1実施形態に係るエンジンの支持構造1Aは、非衝突状態のときからエンジン3はマウント部材30Rを介して右フロントサイドメンバ10に連結されると共に、マウント部材30Lを介して左フロントサイドメンバ20に連結されている。したがって、車両の斜め前方から衝撃荷重が印加されたときであっても、衝撃荷重を右フロントサイドメンバ10及び左フロントサイドメンバ20に確実に伝達することができる。よって、衝撃荷重をさらに効果的に吸収することができる。
【0040】
上述した構成を有することにより、第1実施形態に係るエンジンの支持構造1Aは、右フロントサイドメンバ10及び左フロントサイドメンバ20の変形の制御と、エンジン3の支持とを同時に実現できる。よって、衝撃荷重を効果的に吸収するための新たな部材が不要であるので、車両重量の増加を抑制することができる。
【0041】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。図7は、車両の右側に配置された第2実施形態に係るエンジンの支持構造1Bの斜視図である。図7に示すように、エンジンの支持構造1Bは、右フロントサイドメンバ10及びマウント部材50Rを備えている。
【0042】
右フロントサイドメンバ10には、座屈部12が、脆弱部13、第1固定部14B、及び第2固定部15Bが形成されている。第1固定部14B及び第2固定部15Bは、右フロントサイドメンバ10の上側面10c及び下側面10dに形成されている。なお、上側面10c及び下側面10dは、車両の上下方向と互いに直交する面である。第1固定部14Bは、エンジンマウントフォルダ31よりも車両の後方側に形成されている。また、第2固定部15Bは、第1固定部14Bよりも車両の前方側に形成されている。
【0043】
マウント部材50Rは、車両の右側に配置された右フロントサイドメンバ10に固定されている。このマウント部材50Rは、エンジンマウントフォルダ31、第1連結部材52、及び第2連結部材57を備えている。
【0044】
第1連結部材52は、エンジンマウントフォルダ31を右フロントサイドメンバ10に連結する連結部であり、右フロントサイドメンバ10の内側面10aから車両の内側に向かうと共に、車両の前後方向に延びている。第1連結部材52は、例えば高張力鋼からなり、第1連結部材52が延在する方向と直交する断面の形状が溝形である。即ち、第1連結部材52は断面コ字形状に形成されている。
【0045】
この第1連結部材52は、本体部53を備えている。また、第1連結部材52は、本体部53と連続するとともに、本体部53に対して屈曲するフランジ部54を備えている。このため、本体部53とフランジ部54とは、所定の角度をなしている。フランジ部54における本体部53と連続する側の反対側の端部が第1連結部材52の一端部55とされ、本体部53におけるフランジ部54と連続する側の反対側の端部が第1連結部材52の他端部56とされている。このフランジ部54には、第1連結部材52を右フロントサイドメンバ10に固定するための締結片54aが形成されている。フランジ部54は、第1固定部14Bを覆うように配置され、第1固定部14Bとフランジ部54とは締結ボルト19により固定されている。この締結ボルト19は、車両上下方向に延在するように配置されている。他端部56は、エンジンマウントフォルダ31に、例えば溶接等により固定されている。本体部53には、車両前後方向と互いに直交する面53aがある。第1連結部材52は本体部53に面53aがあると共に、高張力鋼からなるので、車両上下方向における剛性及び強度性能を確保できる。よって、エンジン3を好適に支持することができる。
【0046】
第2連結部材57は、エンジンマウントフォルダ31を右フロントサイドメンバ10に連結する連結部であり、右フロントサイドメンバ10の内側面10aから、車両の内側に向かう方向に延びている。第2連結部材57は、例えば高張力鋼からなり、第2連結部材57が延在する方向と直交する断面の形状が溝形である。即ち、第2連結部材57は断面コ字形状に形成されている。
【0047】
この第2連結部材57は、本体部58を備えている。また、第2連結部材57は、本体部58と連続するとともに、本体部58に対して屈曲するフランジ部59を備えている。このため、本体部58とフランジ部59とは、所定の角度をなしている。第2実施形態における第2連結部材57では、所定の角度は、例えば略直角である。フランジ部59における本体部58と連続する側の反対側の端部が第2連結部材57の一端部61とされ、本体部58におけるフランジ部59と連続する側の反対側の端部が第2連結部材57の他端部62とされている。フランジ部59には、第2連結部材57を右フロントサイドメンバ10に固定するための締結片59aが形成されている。このフランジ部59は第2固定部15Bを覆うように配置され、第2固定部15Bとフランジ部59とは締結ボルト19により固定されている。この締結ボルト19は、車両上下方向に延在するように配置されている。他端部62は、エンジンマウントフォルダ31に、例えば溶接等により固定されている。本体部58には、車両前後方向と互いに直交する面58aがある。第2連結部材57は、本体部58に面58aがあると共に、高張力鋼からなるので、車両上下方向における剛性及び強度性能を確保できる。よって、エンジン3を好適に支持することができる。
【0048】
この第2実施形態に係るエンジンの支持構造1Bにおいても、第1実施形態に係るエンジンの支持構造1Aと同様に、フロントサイドメンバを車両の幅方向に変形させることができるので、フロントサイドメンバの十分な変形量が確保される。したがって、衝撃荷重を効果的に吸収することができる。
【0049】
また、第2実施形態に係るエンジンの支持構造1Bでは、第1連結部材52が断面コ字形状に形成され、第1連結部材52のフランジ部54が第1固定部14Bを覆うように配置されている。また、第2連結部材57が断面コ字形状に形成され、第2連結部材57のフランジ部59が第2固定部15Bを覆うように配置されている。このため、マウント部材50Rの車両上下方向における位置決めを容易に実施することができる。したがって、右フロントサイドメンバ10にマウント部材50Rを容易に取り付けることができる。
【符号の説明】
【0050】
1A,1B…支持構造、2…ボデー構造、3…エンジン、4…右エンジンマウンティング、5…左エンジンマウンティング、6…フロントエンジンマウンティング、7…リヤエンジンマウンティング、8…フロントサスペンションメンバ、9…クロスメンバ、10…右フロントサイドメンバ、11,21…固定領域、12,22…座屈部、13…脆弱部、14,14B…第1固定部、15,15B…第2固定部、19…締結ボルト、20…左フロントサイドメンバ、30L,30R,50R…マウント部材、31…エンジンマウントフォルダ、32,52…第1連結部材、37,57…第2連結部材、43…バンパユニット、44…ベースユニット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前部に配置されたフロントサイドメンバと、
前記フロントサイドメンバに固定されたマウント部材と、を備え、
前記フロントサイドメンバには、前記マウント部材が固定される固定部が形成され、
前記マウント部材は、エンジンを支持する支持部及び前記支持部を前記固定部に連結する連結部を有し、
前記固定部は、前記支持部よりも前記車両の後方側に形成されていることを特徴とするエンジンの支持構造。
【請求項2】
前記連結部は、第1連結部材及び第2連結部材を有し、
前記第1連結部材は、一端が前記固定部である第1固定部に固定されると共に、他端が前記支持部に固定され、
前記第2連結部材は、一端が前記フロントサイドメンバに形成された第2固定部に固定されると共に、他端が前記支持部に固定され、
前記第2固定部は、前記第1固定部よりも前記車両の前方側に形成され、
前記第1連結部材の前記一端から前記他端までの長さは、前記第2連結部材の前記一端から前記他端までの長さより長く設定されていることを特徴とする請求項1に記載のエンジンの支持構造。
【請求項3】
前記フロントサイドメンバには、前記第1固定部及び前記第2固定部の間に曲げの起点となる脆弱部が形成されていることを特徴とする請求項2に記載のエンジンの支持構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−52846(P2013−52846A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194240(P2011−194240)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】