エンジンの過給装置
【課題】 電動過給機を有するエンジンの過給装置において、バッテリの劣化が検出されたときに、劣化の更なる進行を抑制する。
【解決手段】 エンジン負荷が所定値以上の過給領域で電動過給機を作動させると共に、エンジン負荷が前記所定値未満の非過給領域で過給機を停止させ又は前記過給領域における回転数よりも低い所定の低回転数で過給機を作動させるように構成されたエンジンの過給装置であって、バッテリの劣化状態を検出するバッテリ劣化検出手段と、該検出手段によりバッテリの劣化が検出されたときに、非過給領域における過給機の回転数を所定値上昇させる回転補正手段とを有することを特徴とする。
【解決手段】 エンジン負荷が所定値以上の過給領域で電動過給機を作動させると共に、エンジン負荷が前記所定値未満の非過給領域で過給機を停止させ又は前記過給領域における回転数よりも低い所定の低回転数で過給機を作動させるように構成されたエンジンの過給装置であって、バッテリの劣化状態を検出するバッテリ劣化検出手段と、該検出手段によりバッテリの劣化が検出されたときに、非過給領域における過給機の回転数を所定値上昇させる回転補正手段とを有することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動過給機を有するエンジンの過給装置に関し、エンジンの吸気システムの技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、エンジントルクの増大を図る手段として吸気を過給するスーパーチャージャやターボチャージャが周知であるが、いずれも過給能力がエンジン回転数の影響を大きく受ける結果、低回転領域で過給圧が不足するという欠点がある。これに対し、電気的に駆動される電動過給機は、エンジン回転数の影響を受けることなく回転数を制御できるので、低回転領域でも十分な過給圧を発生し得る利点がある。
【0003】
そして、この電動過給機を備えた吸気システムとして、例えば特許文献1には、電動過給機が配設された過給通路と、該過給通路における電動過給機の上、下流側に接続されて吸気制御弁が配設されたバイパス通路と、前記過給通路とバイパス通路との合流部から下流側に延びてスロットル弁が配設された合流通路とが設けられた吸気システムが開示されている。この吸気システムでは、エンジンの運転領域が高負荷側の所定の過給領域にあるときに、前記吸気制御弁を閉じた状態で電動過給機を作動させるようになっている。そして、エンジンの吸入空気量の制御は、従来通りスロットル弁の開度を制御することによって行われる。
【0004】
一方、この種の電動過給機は、コンプレッサと該コンプレッサを駆動させるモータとを有し、該モータに対する供給電力に応じてコンプレッサの回転数が増減し、得られる過給圧が決定されることになる。ここで、特許文献2には、電動過給機への電力供給の制御に関する発明が開示されている。即ち、この特許文献2に記載の発明では、通常、電動過給機への供給電力は、過給時の目標過給圧と実過給圧との差に基づいて、圧力差が大きいときは供給電力を増加させるように過給圧のフィードバック制御が行われるようになっているが、過給開始時、つまりエンジンの運転状態が過給領域に突入した際に限っては、過給機に能力最大の電力を供給するように制御される。これによって、電動過給機の回転数を速やかに上昇させ、過給領域への突入時における過給圧の立ち上がりの応答性が確保されるようになっている。なお、その際に非過給領域でも制御応答性の確保のために過給機をごく低回転で作動させておく場合がある。以下の説明において、エンジンの運転領域が過給領域に突入した際に過給機に供給される電力を「突入電力」という。
【特許文献1】特開2004−346910号公報
【特許文献2】特開2004−169629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記電動過給機は、エンジンにより駆動されるオルタネータの発電電力に基づいて駆動されるのが通例であるが、電動過給機の作動開始時、つまり停止又はごく低回転の状態から回転を上昇させるときに、応答性を確保するために大きな突入電力が要求される場合は、要求される電力をオルタネータからの供給電力では賄いきれず、バッテリからの電力の持ち出しが行われることになる。ここで、バッテリが長時間の使用等で劣化している場合に、このようにバッテリから電力の持ち出しが行われると、劣化が一挙に進行してしまい、例えばスタータを回すために比較的大電力が必要となるエンジン始動時などに影響が及ぶ可能性がある。
【0006】
そこで、本発明は、電動過給機を有するエンジンの過給装置において、バッテリの劣化が検出されたときに、劣化の更なる進行を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は次のように構成したことを特徴とする。
【0008】
まず、請求項1に記載の発明は、エンジン負荷が所定値以上の過給領域で電動過給機を作動させると共に、エンジン負荷が前記所定値未満の非過給領域で過給機を停止させ又は前記過給領域における回転数よりも低い所定の低回転数で過給機を作動させるように構成されたエンジンの過給装置であって、バッテリの劣化状態を検出するバッテリ劣化検出手段と、該検出手段によりバッテリの劣化が検出されたときに、非過給領域における過給機の回転数を所定値上昇させる回転補正手段とを有することを特徴とする。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載のエンジンの過給装置において、前記回転補正手段は、前記バッテリ劣化検出手段によりバッテリの劣化が検出されたときに、電動過給機に電力供給することにより非過給領域における過給機の回転数を上昇させると共に、回転数の上昇量をオルタネータの発電電力で賄える上昇量に設定することを特徴とする。
【0010】
さらに、請求項3に記載の発明は、前記請求項1に記載のエンジンの過給装置において、電動過給機が配設された過給通路と、該過給通路における電動過給機の上、下流側に接続されて吸気制御弁が配設されたバイパス通路と、前記過給通路とバイパス通路との合流部から下流側に延びてスロットル弁が配設された合流通路とを有し、前記回転補正手段は、前記バッテリ劣化検出手段によりバッテリの劣化が検出されたときに、非過給領域において前記スロットル弁を全開にした状態で前記吸気制御弁の開度を制御することにより、エンジンに吸入される空気量を調整すると共に前記過給通路に空気を流し、過給機の回転数を上昇させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
まず、請求項1に記載の発明によれば、バッテリ劣化検出手段によりバッテリの劣化が検出されたときに、回転補正手段により非過給領域における電動過給機の回転を、停止時の回転数ゼロ又は所定の低回転数の状態から所定値上昇させるので、運転状態が過給領域に移行した際に小さなエネルギで回転を上昇させることができる。この結果、突入電力が抑制され、バッテリの劣化の進行が抑制されることになる。
【0012】
また、請求項2に記載の発明によれば、バッテリ劣化時の非過給領域における過給機の回転数の上昇が電力供給により行われ、このとき、回転数の上昇量がオルタネータの発電電力で補える上昇量に設定されているので、バッテリからの電力の持ち出しが回避され、充電放電によるバッテリの劣化の進行が抑制される。また、バッテリを充電するためのオルタネータの駆動が抑制されて、燃費の悪化が回避される。
【0013】
さらに、請求項3に記載の発明によれば、バッテリ劣化時の非過給領域における過給機の回転数の上昇が過給通路に空気を流すことにより生じる過給機の自転により行われる。つまり、スロットル弁を全開にした状態で吸気制御弁の開度を制御することにより、エンジンに吸入される空気量が調整されると共に過給通路に空気が流れることになる。この過給通路における空気の流れは、燃焼室で生じる吸気負圧が合流通路を介して過給通路に及び、該過給通路の上流側との圧力差により生じる。そして、この過給通路内の空気の流れにより過給機が自転することになり、過給領域に移行した際に、小さなエネルギで回転を上昇させることができるから、突入電力が抑制され、バッテリの劣化の進行が抑制されることになる。また、過給機の回転上昇に際して電力供給が行われないので、燃費の悪化が回避される利点もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の第1の実施の形態について説明する。
【0015】
図1に、本実施の形態に係るエンジンの吸気システム1を示す。この吸気システム1は、新気が導入される吸気通路2を有し、該吸気通路2は、上流側でエアクリーナ10に接続されて電動過給機11が配設された過給通路20と、該過給通路20における過給機11の上、下流側に接続されて吸気制御弁12が配設されたバイパス通路21と、過給通路20と該バイパス通路21とが合流した下流側に延びてスロットル弁13が配設された合流通路22と、該合流通路22の下流側に形成されたサージタンク23と、該サージタンク23から各気筒#1〜#4に分岐する複数の独立吸気通路24…24とを有している。
【0016】
前記電動過給機11は、モータ11aに電力供給することによりコンプレッサ11bが回転する構成であり、過給通路20における該過給機11の上流側から吸入した空気を下流側に圧送するようになっている。なお、この過給機11の定格出力時の消費電力は2kWである。
【0017】
また、電動過給機11のモータ11aへの供給電流を制御する電動過給機ドライバ30と、該ドライバ30を介してモータ11aに電力供給するバッテリ31及びオルタネータ32とが備えられている。前記バッテリ31は14Vの電源であり、矢印Aに示すように前記ドライバ30に給電可能に接続されていると共に、前記オルタネータ32で発電された電力を蓄電可能とされている。また、前記オルタネータ32は、エンジンの駆動により電圧14Vの発電を行うようになっており、矢印Bに示すように直接ドライバ30に電力供給する一方、矢印Cに示すように該バッテリ31に電力供給して充電するようになっている。
【0018】
また、エンジン全体を制御するエンジンコントロールユニット100と、該エンジンコントロールユニット100から出力された制御信号に基いて吸気システム1の各機器を制御する吸気システムコントローラ101とが備えられている。
【0019】
前記エンジンコントロールユニット100は、エンジン負荷を検出するものとしてアクセルペダル40aの踏込み量を検出するアクセル開度センサ40からの信号、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサ41からの信号、前記バッテリ31の劣化状態を検出する電圧センサ42、前記電動過給機11のモータ11aの回転数を検出するモータ回転数センサ43からの信号等が入力されるようになっている。なお、バッテリ31の劣化状態を検出するものは前記電圧センサに限らず、クランキング時の電圧降下に応じてバッテリ31の劣化を検出するものや、矢印C及び矢印Bで示されるライン上に電流センサを設けて充電時及び放電時の電流値を検出し、これらの電流値の関係によりバッテリ31の劣化を検出するものであってもよい。
【0020】
そして、前記エンジンコントロールユニット100は、これらの入力信号に基いて、スロットル弁13を開閉駆動するスロットルアクチュエータ44、吸気システムコントローラ101などに各種の制御信号を出力する。
【0021】
前記吸気システムコントローラ101は、吸気制御弁12を開閉駆動する吸気制御弁アクチュエータ45、前記電動過給機ドライバ30などに制御信号を出力する。
【0022】
ところで、図2に示すように、前記エンジンコントロールユニット100には、アクセル開度及びエンジン回転数に応じて各運転領域が設定された制御マップが記憶されている。この制御マップは、低負荷側及び高回転側に非過給領域が設定され、高負荷低回転側に過給領域が設定されている。
【0023】
非過給領域では、前記エンジンコントロールユニット100は、前記スロットルアクチュエータ44にスロットル弁13の開度を制御する信号、及び吸気システムコントローラ101を介して前記吸気制御弁アクチュエータ45に吸気制御弁12を全開にする信号を出力する。また、エンジンコントロールユニット100は、吸気システムコントローラ101を介して前記電動過給機ドライバ30に、前記モータ11aに微小な電流を供給するための信号を出力する。なお、前記スロットル弁13は電子制御式のものであって、スロットル開度はアクセルペダル40aの踏込み量に必ずしも対応しない。
【0024】
そして、過給領域では、前記エンジンコントロールユニット100は、前記スロットルアクチュエータ44にスロットル弁13の開度を制御する信号、及び吸気システムコントローラ101を介して前記吸気制御弁アクチュエータ45に吸気制御弁12を全閉にする信号を出力する。また、この過給領域においては、エンジンコントロールユニット100は、吸気システムコントローラ101を介して電動過給機ドライバ30に、以下の式1で表される電流を過給機11に供給するようになっている。
供給電流=ベース電流+(目標回転数−実回転数)×ゲイン (式1)
【0025】
ここで、ベース電流は、1kWの電力供給を実現するために必要となる電流値である。また、アクセル開度とエンジン回転数とに応じて過給時における過給機11の目標回転数が決定される。そして、この過給機11の目標回転数から前記モータ回転数センサ43により検出した実回転数を減算した値に所定のゲインを乗算した値を前記ベース電流に加算して、これをトータルの供給電流としている。
【0026】
なお、前記電圧センサ42は請求項1に記載のエンジンの過給装置におけるバッテリ劣化検出手段に相当し、前記エンジンコントロールユニット100は同じく回転補正手段に相当する。
【0027】
次に、前記吸気システム1の作用について説明する。
【0028】
まず、エンジンの運転状態が非過給領域にあるときに、エンジンコントロールユニット100から、スロットル弁13を制御する信号、及び吸気システムコントローラ101を介して吸気制御弁12を全開にする信号が出力されているので、吸気通路2に導入された空気は、バイパス通路21を通って合流通路22に至り、スロットル弁13の開度に応じてエンジンに吸入されることになる。スロットル弁13の開度は、アクセル開度及びエンジン回転数のパラメータに基づいて算出された目標トルクに対して、該目標トルクが得られるように吸入空気量を制御するようになっている。
【0029】
また、この領域では、電動過給機11への微小な電流の供給により、該過給機11はアイドル回転(5000rpm)を維持するようになっている。このようにアイドル回転を行っておくことで、エンジンコントロールユニット100がモータ11aの回転位相を常時認識することができるので、運転状態が過給領域に移行した際の過給機11の制御の応答性が向上し、過給圧の立ち上がりの応答性が確保される。
【0030】
この結果、図3に示すように、非過給領域においては、自然吸気のみにより高回転側で高トルクが得られるエンジン特性となる。
【0031】
そして、エンジンの運転状態が過給領域にあるときに、エンジンコントロールユニット100から、スロットル弁13を制御する信号、及び吸気システムコントローラ101を介して吸気制御弁12を全閉にする信号が出力されているので、吸気通路2に導入された空気は、バイパス通路21は通過できず、過給通路20のみを通過可能となる。そして、電動過給機11に前記式1で示された電力が供給され、過給通路20に導入された空気が過給機11の下流側に圧送されることになる。さらに、この圧送された空気が合流通路22に導入され、スロットル弁13の開度に応じてエンジンに吸入されることになる。
【0032】
この結果、図3に示すように、過給領域においては、主に低回転側において自然吸気のみにより得られるトルク以上のトルクが得られることになる。
【0033】
次に、図4に示すフローチャートに基づいて、この吸気システム1の制御について説明する。
【0034】
まず、ステップS1で、各種信号の読み込みを行う。このとき、アクセル開度センサ40により検出されたアクセル開度、エンジン回転数センサ41により検出されたエンジン回転数、電圧センサ42により検出されたバッテリ31の充電量、モータ回転数センサ43により検出されたモータ11aの回転数の信号などを入力する。
【0035】
次に、ステップS2で、図2の制御マップに基づいて、運転状態が過給領域にあるか否かを判定する。運転状態が過給領域にあるときは、ステップS3で吸気制御弁12を閉じると共に、ステップS4で過給機11の目標回転数を設定する。そして、ステップS5で、過給機11に供給すべき電流値の設定を行う。このとき設定される電流値は、前記式1により求められる。次に、ステップS6で、ステップS5で設定した電流を実際に過給機11に供給する。
【0036】
また、前記ステップS2で、運転状態が非過給領域にあると判定されたときは、ステップS7に進み、吸気制御弁12を開くと共に、ステップS8でバッテリ31が劣化しているか否かについての判定を行う。バッテリ31の劣化は、前記ステップS1で検出されたバッテリ31の電圧値に基づいて判定される。
【0037】
ステップS8でバッテリ31の劣化が検出されないときは、過給機11の目標回転数をアイドル回転(5000rpm)に設定すると共に、ステップS10で、このアイドル回転の回転数に応じた過給機11への供給電流(例えば6A)を設定し、ステップS6に進む。
【0038】
また、バッテリ31の劣化が検出されているときは、前記ステップS9のアイドル回転よりも高い過給機11の目標回転数を設定し、ステップS10へ進む。
【0039】
前記ステップS9で設定される目標回転数は、アイドル回転に対して図5に示すような回転上昇量を加えた回転数となっている。即ち、バッテリ31の劣化度合いが大きいほど、つまりバッテリ31の電圧が低下しているほど、回転上昇量は大きくなるように設定される。しかし、バッテリ31の劣化度合いが所定値V1以上、つまりバッテリ31の電圧が所定値以下であることが検出されたときは、回転上昇量はΔN1で一定に設定される。この回転上昇量ΔN1は、オルタネータ32の最大発電電力が供給されたときの回転上昇量である。このため、このステップS9の回転上昇に際してオルタネータ32の発電電力のみが使用され、バッテリ31からの電力の持ち出しは行われないことになる。
【0040】
一方、図6のグラフに示すように、バッテリの劣化時は、非過給領域においてアイドル回転数(5000rpm)を例えば15000rpmに目標回転数を上昇補正する。この結果、目標回転数の上昇補正をしない場合に比べて、目標回転数(60000rpm)との差が小さくなるため、図7に示すように、過給圧の応答性を確保するために必要となる突入電流が抑制されることになる。なお、過給機11が定常的に目標回転数で回転するときに過給機11に供給される電流は、ベース電流I′のみとなる。
【0041】
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。この実施の形態は、前記第1の実施の形態に対して、バッテリ31の劣化時に行われる制御が異なるものである。
【0042】
この実施の形態における制御を図8のフローチャートを用いて説明すると、まず、ステップS21で各種信号の読み込みを行う。このとき、アクセル開度センサ40により検出されたアクセル開度、エンジン回転数センサ41により検出されたエンジン回転数、電圧センサ42により検出されたバッテリ31の充電量、モータ回転数センサ43により検出されたモータ11aの回転数の信号などを入力する。そして、ステップS22で、目標トルクの設定を行う。
【0043】
次に、ステップS23で、運転領域が過給領域にあるか否かの判定を行う。運転領域が過給領域にあるときは、ステップS24に進み、過給機11の過給用の目標回転数を設定する。そして、ステップS25、26で、吸気制御弁12を閉じた状態でスロットル弁13の開度を調整することにより、前記ステップS22で設定した目標トルクを実現させる。
【0044】
次に、ステップS27で、過給機11への供給電流の設定を行う。供給電流は、前記式1に示したように、前記ステップS24で設定された目標回転数から実回転数を減算した値に所定のゲインを乗算した値にベース電流を加算することによって求められる。そして、ステップS28に進み、過給機11に実際に電力供給を行う。
【0045】
また、前記ステップS23で、運転状態が非過給領域にあると判定されたときはステップS29に進み、過給機11をアイドル回転させるための目標回転数を設定し、ステップS30でバッテリ31が劣化しているか否かの判定を行う。ここで、バッテリ31が劣化していないときはステップS28に進み、バッテリ31が劣化しているときはステップS31に進む。ステップS31、S32では、スロットル弁13を全開にした状態で吸気制御弁12の開度を調整することにより、前記ステップS22で設定した目標トルクを実現させる。次に、ステップS33では、過給機11への供給電力を、前記ステップS29で求めたアイドル回転用の目標回転数に応じた微小なものに設定し、ステップS28に進み、過給機11に実際に電力供給を行う。
【0046】
ここで、前記ステップS31、32において、スロットル弁13を全開にした状態で吸気制御弁13の開度の制御によるトルク制御が行われるので、図9に示すように、燃焼室の吸気負圧が合流通路22を介して過給通路20に及び、過給通路20に空気の流れを発生させる。そして、この空気の流れにより過給機11が自転し、アイドル回転(5000rpm)以上の回転数(例えば15000rpm)で回転することになる。この結果、アイドル回転時と比べて目標回転数(60000rpm)に対する回転差が小さくなり、図10に示すように突入電流が抑制されることになる。
【0047】
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。この実施の形態は、前記第1、第2の実施の形態とは異なる制御マップを備え、バッテリ31の劣化時にこの制御マップに基づいて制御を行うものである。
【0048】
即ち、図11に示すように、制御マップは、非過給領域内の低負荷側に第1領域が設定され、高負荷側に第2領域が設定されている。バッテリ31の非劣化時は、前記第1、第2領域共に前述の非過給領域における制御が行われるが、バッテリ31の劣化時は、第1、第2領域において異なる制御が行われる。
【0049】
一方、この実施の形態における吸気システム1の制御を図12のフローチャートに基づいて説明する。なお、このフローチャートにおけるステップS41〜S50は、前記第2の実施の形態におけるフローチャートのステップS21〜S30と同様であるので、これらのステップについての説明は省略する。
【0050】
即ち、ステップS50でバッテリ31の劣化が検出されたときは、ステップS51に進み、運転状態が第1領域にあるか否かについての判定を行う。運転状態が第1領域なく、第2領域にあるときは、ステップS52、S53で、スロットル弁13を全開にした状態で吸気制御弁12の開度を調整することにより、ステップS42で設定した目標トルクを実現する。次に、ステップS54に進み、目標回転数に応じた供給電流を設定する。このとき、過給機はステップS49で目標回転数がアイドル回転用のものに設定されているので、微小な供給電流が設定されることになる。そして、供給電流設定後、ステップS48に進み、過給機11に実際に電力供給を行う。
【0051】
また、ステップS51で運転状態が第1領域にあることが判定されたときは、ステップS55に進み、過給機11の目標回転数を上昇補正する。ここでは、過給機11の目標回転数が通常のアイドル回転における5000rpm以上の回転数に設定されることになる。そして、ステップS56、57で、吸気制御弁12を閉じた状態でスロットル弁13の開度を調整することによりトルク制御を行う。次に、ステップS54に進み、目標回転数に応じた供給電流を設定することになるが、前記ステップS55において過給機の目標回転数が上昇補正されているので、通常のアイドル回転における供給電流よりも大きな供給電流が設定される。そして、供給電流設定後、ステップS48に進み、過給機11に実際に電力供給を行う。
【0052】
ところで、スロットル弁13は過給通路20とバイパス通路21との合流部の下流側に延びる合流通路22に配設されているので、過給通路20及びバイパス通路21から流入したトータルの空気量を制御することができるが、吸気制御弁12はバイパス通路21に配設されているので、過給通路20を流れる空気を制御することがでず、前述のようにスロットル弁13が全開にされた状態で吸気制御弁12の開度を調節するように構成されている場合、吸入空気量を制御、ひいてはエンジンの負荷を制御できなくなる。
【0053】
つまり、このように制御される非過給領域において、要求される空気量が少ない低負荷側では、吸気制御弁12の開度を全閉にしても、過給通路20を通る空気により要求される空気量以上の空気がエンジンに吸入されることがあり、エンジン負荷を下げることができない問題が生じる。
【0054】
これに対し、本実施の形態では、バッテリ31の劣化時において、運転状態が高負荷側の第2領域にあるときは、スロットル弁13を全開にした状態で吸気制御弁12の開度を制御してトルク制御することにより過給機11を自転させるが、低負荷側の第1領域にあるときは、過給機11への供給電流を増加させることにより回転を上昇させるように制御される。この結果、低負荷側においてスロットル弁13の制御により適正に吸入空気量が調整されることになるので、前述の空気量制御の問題が解消されると共に、第1、第2領域のいずれから過給領域に移行したときも回転上昇により突入電力が抑制される。
【0055】
以上のように、バッテリ31の劣化が進行していることが検出されたときに、非過給領域における電動過給機11の回転が上昇されるので、運転状態が過給領域に移行した際に、小さなエネルギで回転を上昇させることができる。この結果、突入電力が抑制され、バッテリ31の劣化の進行が抑制されることになる。
【0056】
また、図5に示したように、バッテリ31の劣化時における回転数の上昇量がオルタネータ32の発電電力で補える上昇量に設定されているので、バッテリ31からの電力の持ち出しが回避され、充電放電によるバッテリ31の劣化の進行が抑制されると共に、バッテリ31を充電するためのオルタネータ32の駆動が抑制されて、燃費の悪化が回避される。
【0057】
一方、スロットル弁13を全開にした状態で吸気制御弁12の開度を制御することにより、エンジンに吸入される空気量が調整されると共に過給通路20に空気が流れることになる。この過給通路20における空気の流れは、燃焼室で生じる吸気負圧が合流通路22を介して過給通路20に及び、該過給通路20の上流側との圧力差により生じる。そして、この過給通路20内の空気の流れにより過給機11が自転することになり、過給領域に移行した際に、小さなエネルギで回転を上昇させることができるから、突入電力が抑制され、バッテリ31の劣化の進行が抑制されることになる。また、過給機11の回転上昇に際して電力供給が行われないので、燃費の悪化が回避される利点もある。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、電動過給機を有するエンジンの過給装置に関し、自動車産業に広く好適である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る吸気システムの全体図である。
【図2】エンジンの運転領域を示す制御マップである。
【図3】エンジンの出力特性の説明図である。
【図4】吸気システムの制御に係るフローチャートである。
【図5】バッテリの劣化度合いに対する過給機の回転上昇量のマップである。
【図6】電力供給開始時の過給機回転数の説明図である。
【図7】電力供給開始時の突入電流の説明図である。
【図8】第2の実施の形態の制御に係るフローチャートである。
【図9】同電力供給開始時の過給機回転数の説明図である。
【図10】同電力供給開始時の突入電流の説明図である。
【図11】第3の実施の形態における制御マップである。
【図12】同制御に係るフローチャートである。
【符号の説明】
【0060】
1 吸気システム
11 電動過給機
12 吸気制御弁
13 スロットル弁
20 過給通路
21 バイパス通路
22 合流通路
42 電圧センサ
100 エンジンコントロールユニット
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動過給機を有するエンジンの過給装置に関し、エンジンの吸気システムの技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、エンジントルクの増大を図る手段として吸気を過給するスーパーチャージャやターボチャージャが周知であるが、いずれも過給能力がエンジン回転数の影響を大きく受ける結果、低回転領域で過給圧が不足するという欠点がある。これに対し、電気的に駆動される電動過給機は、エンジン回転数の影響を受けることなく回転数を制御できるので、低回転領域でも十分な過給圧を発生し得る利点がある。
【0003】
そして、この電動過給機を備えた吸気システムとして、例えば特許文献1には、電動過給機が配設された過給通路と、該過給通路における電動過給機の上、下流側に接続されて吸気制御弁が配設されたバイパス通路と、前記過給通路とバイパス通路との合流部から下流側に延びてスロットル弁が配設された合流通路とが設けられた吸気システムが開示されている。この吸気システムでは、エンジンの運転領域が高負荷側の所定の過給領域にあるときに、前記吸気制御弁を閉じた状態で電動過給機を作動させるようになっている。そして、エンジンの吸入空気量の制御は、従来通りスロットル弁の開度を制御することによって行われる。
【0004】
一方、この種の電動過給機は、コンプレッサと該コンプレッサを駆動させるモータとを有し、該モータに対する供給電力に応じてコンプレッサの回転数が増減し、得られる過給圧が決定されることになる。ここで、特許文献2には、電動過給機への電力供給の制御に関する発明が開示されている。即ち、この特許文献2に記載の発明では、通常、電動過給機への供給電力は、過給時の目標過給圧と実過給圧との差に基づいて、圧力差が大きいときは供給電力を増加させるように過給圧のフィードバック制御が行われるようになっているが、過給開始時、つまりエンジンの運転状態が過給領域に突入した際に限っては、過給機に能力最大の電力を供給するように制御される。これによって、電動過給機の回転数を速やかに上昇させ、過給領域への突入時における過給圧の立ち上がりの応答性が確保されるようになっている。なお、その際に非過給領域でも制御応答性の確保のために過給機をごく低回転で作動させておく場合がある。以下の説明において、エンジンの運転領域が過給領域に突入した際に過給機に供給される電力を「突入電力」という。
【特許文献1】特開2004−346910号公報
【特許文献2】特開2004−169629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記電動過給機は、エンジンにより駆動されるオルタネータの発電電力に基づいて駆動されるのが通例であるが、電動過給機の作動開始時、つまり停止又はごく低回転の状態から回転を上昇させるときに、応答性を確保するために大きな突入電力が要求される場合は、要求される電力をオルタネータからの供給電力では賄いきれず、バッテリからの電力の持ち出しが行われることになる。ここで、バッテリが長時間の使用等で劣化している場合に、このようにバッテリから電力の持ち出しが行われると、劣化が一挙に進行してしまい、例えばスタータを回すために比較的大電力が必要となるエンジン始動時などに影響が及ぶ可能性がある。
【0006】
そこで、本発明は、電動過給機を有するエンジンの過給装置において、バッテリの劣化が検出されたときに、劣化の更なる進行を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は次のように構成したことを特徴とする。
【0008】
まず、請求項1に記載の発明は、エンジン負荷が所定値以上の過給領域で電動過給機を作動させると共に、エンジン負荷が前記所定値未満の非過給領域で過給機を停止させ又は前記過給領域における回転数よりも低い所定の低回転数で過給機を作動させるように構成されたエンジンの過給装置であって、バッテリの劣化状態を検出するバッテリ劣化検出手段と、該検出手段によりバッテリの劣化が検出されたときに、非過給領域における過給機の回転数を所定値上昇させる回転補正手段とを有することを特徴とする。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載のエンジンの過給装置において、前記回転補正手段は、前記バッテリ劣化検出手段によりバッテリの劣化が検出されたときに、電動過給機に電力供給することにより非過給領域における過給機の回転数を上昇させると共に、回転数の上昇量をオルタネータの発電電力で賄える上昇量に設定することを特徴とする。
【0010】
さらに、請求項3に記載の発明は、前記請求項1に記載のエンジンの過給装置において、電動過給機が配設された過給通路と、該過給通路における電動過給機の上、下流側に接続されて吸気制御弁が配設されたバイパス通路と、前記過給通路とバイパス通路との合流部から下流側に延びてスロットル弁が配設された合流通路とを有し、前記回転補正手段は、前記バッテリ劣化検出手段によりバッテリの劣化が検出されたときに、非過給領域において前記スロットル弁を全開にした状態で前記吸気制御弁の開度を制御することにより、エンジンに吸入される空気量を調整すると共に前記過給通路に空気を流し、過給機の回転数を上昇させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
まず、請求項1に記載の発明によれば、バッテリ劣化検出手段によりバッテリの劣化が検出されたときに、回転補正手段により非過給領域における電動過給機の回転を、停止時の回転数ゼロ又は所定の低回転数の状態から所定値上昇させるので、運転状態が過給領域に移行した際に小さなエネルギで回転を上昇させることができる。この結果、突入電力が抑制され、バッテリの劣化の進行が抑制されることになる。
【0012】
また、請求項2に記載の発明によれば、バッテリ劣化時の非過給領域における過給機の回転数の上昇が電力供給により行われ、このとき、回転数の上昇量がオルタネータの発電電力で補える上昇量に設定されているので、バッテリからの電力の持ち出しが回避され、充電放電によるバッテリの劣化の進行が抑制される。また、バッテリを充電するためのオルタネータの駆動が抑制されて、燃費の悪化が回避される。
【0013】
さらに、請求項3に記載の発明によれば、バッテリ劣化時の非過給領域における過給機の回転数の上昇が過給通路に空気を流すことにより生じる過給機の自転により行われる。つまり、スロットル弁を全開にした状態で吸気制御弁の開度を制御することにより、エンジンに吸入される空気量が調整されると共に過給通路に空気が流れることになる。この過給通路における空気の流れは、燃焼室で生じる吸気負圧が合流通路を介して過給通路に及び、該過給通路の上流側との圧力差により生じる。そして、この過給通路内の空気の流れにより過給機が自転することになり、過給領域に移行した際に、小さなエネルギで回転を上昇させることができるから、突入電力が抑制され、バッテリの劣化の進行が抑制されることになる。また、過給機の回転上昇に際して電力供給が行われないので、燃費の悪化が回避される利点もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の第1の実施の形態について説明する。
【0015】
図1に、本実施の形態に係るエンジンの吸気システム1を示す。この吸気システム1は、新気が導入される吸気通路2を有し、該吸気通路2は、上流側でエアクリーナ10に接続されて電動過給機11が配設された過給通路20と、該過給通路20における過給機11の上、下流側に接続されて吸気制御弁12が配設されたバイパス通路21と、過給通路20と該バイパス通路21とが合流した下流側に延びてスロットル弁13が配設された合流通路22と、該合流通路22の下流側に形成されたサージタンク23と、該サージタンク23から各気筒#1〜#4に分岐する複数の独立吸気通路24…24とを有している。
【0016】
前記電動過給機11は、モータ11aに電力供給することによりコンプレッサ11bが回転する構成であり、過給通路20における該過給機11の上流側から吸入した空気を下流側に圧送するようになっている。なお、この過給機11の定格出力時の消費電力は2kWである。
【0017】
また、電動過給機11のモータ11aへの供給電流を制御する電動過給機ドライバ30と、該ドライバ30を介してモータ11aに電力供給するバッテリ31及びオルタネータ32とが備えられている。前記バッテリ31は14Vの電源であり、矢印Aに示すように前記ドライバ30に給電可能に接続されていると共に、前記オルタネータ32で発電された電力を蓄電可能とされている。また、前記オルタネータ32は、エンジンの駆動により電圧14Vの発電を行うようになっており、矢印Bに示すように直接ドライバ30に電力供給する一方、矢印Cに示すように該バッテリ31に電力供給して充電するようになっている。
【0018】
また、エンジン全体を制御するエンジンコントロールユニット100と、該エンジンコントロールユニット100から出力された制御信号に基いて吸気システム1の各機器を制御する吸気システムコントローラ101とが備えられている。
【0019】
前記エンジンコントロールユニット100は、エンジン負荷を検出するものとしてアクセルペダル40aの踏込み量を検出するアクセル開度センサ40からの信号、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサ41からの信号、前記バッテリ31の劣化状態を検出する電圧センサ42、前記電動過給機11のモータ11aの回転数を検出するモータ回転数センサ43からの信号等が入力されるようになっている。なお、バッテリ31の劣化状態を検出するものは前記電圧センサに限らず、クランキング時の電圧降下に応じてバッテリ31の劣化を検出するものや、矢印C及び矢印Bで示されるライン上に電流センサを設けて充電時及び放電時の電流値を検出し、これらの電流値の関係によりバッテリ31の劣化を検出するものであってもよい。
【0020】
そして、前記エンジンコントロールユニット100は、これらの入力信号に基いて、スロットル弁13を開閉駆動するスロットルアクチュエータ44、吸気システムコントローラ101などに各種の制御信号を出力する。
【0021】
前記吸気システムコントローラ101は、吸気制御弁12を開閉駆動する吸気制御弁アクチュエータ45、前記電動過給機ドライバ30などに制御信号を出力する。
【0022】
ところで、図2に示すように、前記エンジンコントロールユニット100には、アクセル開度及びエンジン回転数に応じて各運転領域が設定された制御マップが記憶されている。この制御マップは、低負荷側及び高回転側に非過給領域が設定され、高負荷低回転側に過給領域が設定されている。
【0023】
非過給領域では、前記エンジンコントロールユニット100は、前記スロットルアクチュエータ44にスロットル弁13の開度を制御する信号、及び吸気システムコントローラ101を介して前記吸気制御弁アクチュエータ45に吸気制御弁12を全開にする信号を出力する。また、エンジンコントロールユニット100は、吸気システムコントローラ101を介して前記電動過給機ドライバ30に、前記モータ11aに微小な電流を供給するための信号を出力する。なお、前記スロットル弁13は電子制御式のものであって、スロットル開度はアクセルペダル40aの踏込み量に必ずしも対応しない。
【0024】
そして、過給領域では、前記エンジンコントロールユニット100は、前記スロットルアクチュエータ44にスロットル弁13の開度を制御する信号、及び吸気システムコントローラ101を介して前記吸気制御弁アクチュエータ45に吸気制御弁12を全閉にする信号を出力する。また、この過給領域においては、エンジンコントロールユニット100は、吸気システムコントローラ101を介して電動過給機ドライバ30に、以下の式1で表される電流を過給機11に供給するようになっている。
供給電流=ベース電流+(目標回転数−実回転数)×ゲイン (式1)
【0025】
ここで、ベース電流は、1kWの電力供給を実現するために必要となる電流値である。また、アクセル開度とエンジン回転数とに応じて過給時における過給機11の目標回転数が決定される。そして、この過給機11の目標回転数から前記モータ回転数センサ43により検出した実回転数を減算した値に所定のゲインを乗算した値を前記ベース電流に加算して、これをトータルの供給電流としている。
【0026】
なお、前記電圧センサ42は請求項1に記載のエンジンの過給装置におけるバッテリ劣化検出手段に相当し、前記エンジンコントロールユニット100は同じく回転補正手段に相当する。
【0027】
次に、前記吸気システム1の作用について説明する。
【0028】
まず、エンジンの運転状態が非過給領域にあるときに、エンジンコントロールユニット100から、スロットル弁13を制御する信号、及び吸気システムコントローラ101を介して吸気制御弁12を全開にする信号が出力されているので、吸気通路2に導入された空気は、バイパス通路21を通って合流通路22に至り、スロットル弁13の開度に応じてエンジンに吸入されることになる。スロットル弁13の開度は、アクセル開度及びエンジン回転数のパラメータに基づいて算出された目標トルクに対して、該目標トルクが得られるように吸入空気量を制御するようになっている。
【0029】
また、この領域では、電動過給機11への微小な電流の供給により、該過給機11はアイドル回転(5000rpm)を維持するようになっている。このようにアイドル回転を行っておくことで、エンジンコントロールユニット100がモータ11aの回転位相を常時認識することができるので、運転状態が過給領域に移行した際の過給機11の制御の応答性が向上し、過給圧の立ち上がりの応答性が確保される。
【0030】
この結果、図3に示すように、非過給領域においては、自然吸気のみにより高回転側で高トルクが得られるエンジン特性となる。
【0031】
そして、エンジンの運転状態が過給領域にあるときに、エンジンコントロールユニット100から、スロットル弁13を制御する信号、及び吸気システムコントローラ101を介して吸気制御弁12を全閉にする信号が出力されているので、吸気通路2に導入された空気は、バイパス通路21は通過できず、過給通路20のみを通過可能となる。そして、電動過給機11に前記式1で示された電力が供給され、過給通路20に導入された空気が過給機11の下流側に圧送されることになる。さらに、この圧送された空気が合流通路22に導入され、スロットル弁13の開度に応じてエンジンに吸入されることになる。
【0032】
この結果、図3に示すように、過給領域においては、主に低回転側において自然吸気のみにより得られるトルク以上のトルクが得られることになる。
【0033】
次に、図4に示すフローチャートに基づいて、この吸気システム1の制御について説明する。
【0034】
まず、ステップS1で、各種信号の読み込みを行う。このとき、アクセル開度センサ40により検出されたアクセル開度、エンジン回転数センサ41により検出されたエンジン回転数、電圧センサ42により検出されたバッテリ31の充電量、モータ回転数センサ43により検出されたモータ11aの回転数の信号などを入力する。
【0035】
次に、ステップS2で、図2の制御マップに基づいて、運転状態が過給領域にあるか否かを判定する。運転状態が過給領域にあるときは、ステップS3で吸気制御弁12を閉じると共に、ステップS4で過給機11の目標回転数を設定する。そして、ステップS5で、過給機11に供給すべき電流値の設定を行う。このとき設定される電流値は、前記式1により求められる。次に、ステップS6で、ステップS5で設定した電流を実際に過給機11に供給する。
【0036】
また、前記ステップS2で、運転状態が非過給領域にあると判定されたときは、ステップS7に進み、吸気制御弁12を開くと共に、ステップS8でバッテリ31が劣化しているか否かについての判定を行う。バッテリ31の劣化は、前記ステップS1で検出されたバッテリ31の電圧値に基づいて判定される。
【0037】
ステップS8でバッテリ31の劣化が検出されないときは、過給機11の目標回転数をアイドル回転(5000rpm)に設定すると共に、ステップS10で、このアイドル回転の回転数に応じた過給機11への供給電流(例えば6A)を設定し、ステップS6に進む。
【0038】
また、バッテリ31の劣化が検出されているときは、前記ステップS9のアイドル回転よりも高い過給機11の目標回転数を設定し、ステップS10へ進む。
【0039】
前記ステップS9で設定される目標回転数は、アイドル回転に対して図5に示すような回転上昇量を加えた回転数となっている。即ち、バッテリ31の劣化度合いが大きいほど、つまりバッテリ31の電圧が低下しているほど、回転上昇量は大きくなるように設定される。しかし、バッテリ31の劣化度合いが所定値V1以上、つまりバッテリ31の電圧が所定値以下であることが検出されたときは、回転上昇量はΔN1で一定に設定される。この回転上昇量ΔN1は、オルタネータ32の最大発電電力が供給されたときの回転上昇量である。このため、このステップS9の回転上昇に際してオルタネータ32の発電電力のみが使用され、バッテリ31からの電力の持ち出しは行われないことになる。
【0040】
一方、図6のグラフに示すように、バッテリの劣化時は、非過給領域においてアイドル回転数(5000rpm)を例えば15000rpmに目標回転数を上昇補正する。この結果、目標回転数の上昇補正をしない場合に比べて、目標回転数(60000rpm)との差が小さくなるため、図7に示すように、過給圧の応答性を確保するために必要となる突入電流が抑制されることになる。なお、過給機11が定常的に目標回転数で回転するときに過給機11に供給される電流は、ベース電流I′のみとなる。
【0041】
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。この実施の形態は、前記第1の実施の形態に対して、バッテリ31の劣化時に行われる制御が異なるものである。
【0042】
この実施の形態における制御を図8のフローチャートを用いて説明すると、まず、ステップS21で各種信号の読み込みを行う。このとき、アクセル開度センサ40により検出されたアクセル開度、エンジン回転数センサ41により検出されたエンジン回転数、電圧センサ42により検出されたバッテリ31の充電量、モータ回転数センサ43により検出されたモータ11aの回転数の信号などを入力する。そして、ステップS22で、目標トルクの設定を行う。
【0043】
次に、ステップS23で、運転領域が過給領域にあるか否かの判定を行う。運転領域が過給領域にあるときは、ステップS24に進み、過給機11の過給用の目標回転数を設定する。そして、ステップS25、26で、吸気制御弁12を閉じた状態でスロットル弁13の開度を調整することにより、前記ステップS22で設定した目標トルクを実現させる。
【0044】
次に、ステップS27で、過給機11への供給電流の設定を行う。供給電流は、前記式1に示したように、前記ステップS24で設定された目標回転数から実回転数を減算した値に所定のゲインを乗算した値にベース電流を加算することによって求められる。そして、ステップS28に進み、過給機11に実際に電力供給を行う。
【0045】
また、前記ステップS23で、運転状態が非過給領域にあると判定されたときはステップS29に進み、過給機11をアイドル回転させるための目標回転数を設定し、ステップS30でバッテリ31が劣化しているか否かの判定を行う。ここで、バッテリ31が劣化していないときはステップS28に進み、バッテリ31が劣化しているときはステップS31に進む。ステップS31、S32では、スロットル弁13を全開にした状態で吸気制御弁12の開度を調整することにより、前記ステップS22で設定した目標トルクを実現させる。次に、ステップS33では、過給機11への供給電力を、前記ステップS29で求めたアイドル回転用の目標回転数に応じた微小なものに設定し、ステップS28に進み、過給機11に実際に電力供給を行う。
【0046】
ここで、前記ステップS31、32において、スロットル弁13を全開にした状態で吸気制御弁13の開度の制御によるトルク制御が行われるので、図9に示すように、燃焼室の吸気負圧が合流通路22を介して過給通路20に及び、過給通路20に空気の流れを発生させる。そして、この空気の流れにより過給機11が自転し、アイドル回転(5000rpm)以上の回転数(例えば15000rpm)で回転することになる。この結果、アイドル回転時と比べて目標回転数(60000rpm)に対する回転差が小さくなり、図10に示すように突入電流が抑制されることになる。
【0047】
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。この実施の形態は、前記第1、第2の実施の形態とは異なる制御マップを備え、バッテリ31の劣化時にこの制御マップに基づいて制御を行うものである。
【0048】
即ち、図11に示すように、制御マップは、非過給領域内の低負荷側に第1領域が設定され、高負荷側に第2領域が設定されている。バッテリ31の非劣化時は、前記第1、第2領域共に前述の非過給領域における制御が行われるが、バッテリ31の劣化時は、第1、第2領域において異なる制御が行われる。
【0049】
一方、この実施の形態における吸気システム1の制御を図12のフローチャートに基づいて説明する。なお、このフローチャートにおけるステップS41〜S50は、前記第2の実施の形態におけるフローチャートのステップS21〜S30と同様であるので、これらのステップについての説明は省略する。
【0050】
即ち、ステップS50でバッテリ31の劣化が検出されたときは、ステップS51に進み、運転状態が第1領域にあるか否かについての判定を行う。運転状態が第1領域なく、第2領域にあるときは、ステップS52、S53で、スロットル弁13を全開にした状態で吸気制御弁12の開度を調整することにより、ステップS42で設定した目標トルクを実現する。次に、ステップS54に進み、目標回転数に応じた供給電流を設定する。このとき、過給機はステップS49で目標回転数がアイドル回転用のものに設定されているので、微小な供給電流が設定されることになる。そして、供給電流設定後、ステップS48に進み、過給機11に実際に電力供給を行う。
【0051】
また、ステップS51で運転状態が第1領域にあることが判定されたときは、ステップS55に進み、過給機11の目標回転数を上昇補正する。ここでは、過給機11の目標回転数が通常のアイドル回転における5000rpm以上の回転数に設定されることになる。そして、ステップS56、57で、吸気制御弁12を閉じた状態でスロットル弁13の開度を調整することによりトルク制御を行う。次に、ステップS54に進み、目標回転数に応じた供給電流を設定することになるが、前記ステップS55において過給機の目標回転数が上昇補正されているので、通常のアイドル回転における供給電流よりも大きな供給電流が設定される。そして、供給電流設定後、ステップS48に進み、過給機11に実際に電力供給を行う。
【0052】
ところで、スロットル弁13は過給通路20とバイパス通路21との合流部の下流側に延びる合流通路22に配設されているので、過給通路20及びバイパス通路21から流入したトータルの空気量を制御することができるが、吸気制御弁12はバイパス通路21に配設されているので、過給通路20を流れる空気を制御することがでず、前述のようにスロットル弁13が全開にされた状態で吸気制御弁12の開度を調節するように構成されている場合、吸入空気量を制御、ひいてはエンジンの負荷を制御できなくなる。
【0053】
つまり、このように制御される非過給領域において、要求される空気量が少ない低負荷側では、吸気制御弁12の開度を全閉にしても、過給通路20を通る空気により要求される空気量以上の空気がエンジンに吸入されることがあり、エンジン負荷を下げることができない問題が生じる。
【0054】
これに対し、本実施の形態では、バッテリ31の劣化時において、運転状態が高負荷側の第2領域にあるときは、スロットル弁13を全開にした状態で吸気制御弁12の開度を制御してトルク制御することにより過給機11を自転させるが、低負荷側の第1領域にあるときは、過給機11への供給電流を増加させることにより回転を上昇させるように制御される。この結果、低負荷側においてスロットル弁13の制御により適正に吸入空気量が調整されることになるので、前述の空気量制御の問題が解消されると共に、第1、第2領域のいずれから過給領域に移行したときも回転上昇により突入電力が抑制される。
【0055】
以上のように、バッテリ31の劣化が進行していることが検出されたときに、非過給領域における電動過給機11の回転が上昇されるので、運転状態が過給領域に移行した際に、小さなエネルギで回転を上昇させることができる。この結果、突入電力が抑制され、バッテリ31の劣化の進行が抑制されることになる。
【0056】
また、図5に示したように、バッテリ31の劣化時における回転数の上昇量がオルタネータ32の発電電力で補える上昇量に設定されているので、バッテリ31からの電力の持ち出しが回避され、充電放電によるバッテリ31の劣化の進行が抑制されると共に、バッテリ31を充電するためのオルタネータ32の駆動が抑制されて、燃費の悪化が回避される。
【0057】
一方、スロットル弁13を全開にした状態で吸気制御弁12の開度を制御することにより、エンジンに吸入される空気量が調整されると共に過給通路20に空気が流れることになる。この過給通路20における空気の流れは、燃焼室で生じる吸気負圧が合流通路22を介して過給通路20に及び、該過給通路20の上流側との圧力差により生じる。そして、この過給通路20内の空気の流れにより過給機11が自転することになり、過給領域に移行した際に、小さなエネルギで回転を上昇させることができるから、突入電力が抑制され、バッテリ31の劣化の進行が抑制されることになる。また、過給機11の回転上昇に際して電力供給が行われないので、燃費の悪化が回避される利点もある。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、電動過給機を有するエンジンの過給装置に関し、自動車産業に広く好適である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る吸気システムの全体図である。
【図2】エンジンの運転領域を示す制御マップである。
【図3】エンジンの出力特性の説明図である。
【図4】吸気システムの制御に係るフローチャートである。
【図5】バッテリの劣化度合いに対する過給機の回転上昇量のマップである。
【図6】電力供給開始時の過給機回転数の説明図である。
【図7】電力供給開始時の突入電流の説明図である。
【図8】第2の実施の形態の制御に係るフローチャートである。
【図9】同電力供給開始時の過給機回転数の説明図である。
【図10】同電力供給開始時の突入電流の説明図である。
【図11】第3の実施の形態における制御マップである。
【図12】同制御に係るフローチャートである。
【符号の説明】
【0060】
1 吸気システム
11 電動過給機
12 吸気制御弁
13 スロットル弁
20 過給通路
21 バイパス通路
22 合流通路
42 電圧センサ
100 エンジンコントロールユニット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン負荷が所定値以上の過給領域で電動過給機を作動させると共に、エンジン負荷が前記所定値未満の非過給領域で過給機を停止させ又は前記過給領域における回転数よりも低い所定の低回転数で過給機を作動させるように構成されたエンジンの過給装置であって、
バッテリの劣化状態を検出するバッテリ劣化検出手段と、
該検出手段によりバッテリの劣化が検出されたときに、非過給領域における過給機の回転数を所定値上昇させる回転補正手段とを有することを特徴とするエンジンの過給装置。
【請求項2】
前記請求項1に記載のエンジンの過給装置において、
前記回転補正手段は、前記バッテリ劣化検出手段によりバッテリの劣化が検出されたときに、電動過給機に電力供給することにより非過給領域における過給機の回転数を上昇させると共に、回転数の上昇量をオルタネータの発電電力で賄える上昇量に設定することを特徴とするエンジンの過給装置。
【請求項3】
前記請求項1に記載のエンジンの過給装置において、
電動過給機が配設された過給通路と、該過給通路における電動過給機の上、下流側に接続されて吸気制御弁が配設されたバイパス通路と、前記過給通路とバイパス通路との合流部から下流側に延びてスロットル弁が配設された合流通路とを有し、
前記回転補正手段は、前記バッテリ劣化検出手段によりバッテリの劣化が検出されたときに、非過給領域において前記スロットル弁を全開にした状態で前記吸気制御弁の開度を制御することにより、エンジンに吸入される空気量を調整すると共に前記過給通路に空気を流し、過給機の回転数を上昇させることを特徴とするエンジンの過給装置。
【請求項1】
エンジン負荷が所定値以上の過給領域で電動過給機を作動させると共に、エンジン負荷が前記所定値未満の非過給領域で過給機を停止させ又は前記過給領域における回転数よりも低い所定の低回転数で過給機を作動させるように構成されたエンジンの過給装置であって、
バッテリの劣化状態を検出するバッテリ劣化検出手段と、
該検出手段によりバッテリの劣化が検出されたときに、非過給領域における過給機の回転数を所定値上昇させる回転補正手段とを有することを特徴とするエンジンの過給装置。
【請求項2】
前記請求項1に記載のエンジンの過給装置において、
前記回転補正手段は、前記バッテリ劣化検出手段によりバッテリの劣化が検出されたときに、電動過給機に電力供給することにより非過給領域における過給機の回転数を上昇させると共に、回転数の上昇量をオルタネータの発電電力で賄える上昇量に設定することを特徴とするエンジンの過給装置。
【請求項3】
前記請求項1に記載のエンジンの過給装置において、
電動過給機が配設された過給通路と、該過給通路における電動過給機の上、下流側に接続されて吸気制御弁が配設されたバイパス通路と、前記過給通路とバイパス通路との合流部から下流側に延びてスロットル弁が配設された合流通路とを有し、
前記回転補正手段は、前記バッテリ劣化検出手段によりバッテリの劣化が検出されたときに、非過給領域において前記スロットル弁を全開にした状態で前記吸気制御弁の開度を制御することにより、エンジンに吸入される空気量を調整すると共に前記過給通路に空気を流し、過給機の回転数を上昇させることを特徴とするエンジンの過給装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
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【図4】
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【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−71138(P2007−71138A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−260330(P2005−260330)
【出願日】平成17年9月8日(2005.9.8)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月8日(2005.9.8)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
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