説明

オイルポンプ

【課題】エンジン回転数に対応して必要な油量を供給する作動を低温時にも実現するオイルポンプを低コストで構成する。
【解決手段】ロータ12の外周側との間にポンプ室24を形成する筒状体13を筒径方向に移動させてポンプ容量を変更する容量調整機構Aと、ポンプ容量増大方向に筒状体13を付勢する第1スプリングS1と、オイルポンプのオイル圧を制御圧に変換して容量調整機構Aに作用させる制御弁Vと、この制御弁Vにおいて制御圧を設定するために弁体35を付勢する第2スプリングS2とを備えている。エンジン回転数が所定値未満である場合にポンプ容量を最大に設定し、所定値を超えた場合にポンプ容量を減少させるように、第1スプリングS1と第2スプリングS2との付勢力の関係を設定してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイルポンプに関し、詳しくは、可変容量型のオイルポンプの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のように構成されたオイルポンプとして特許文献1には、エンジンで駆動回転されるドライブギヤ(ロータの一例)と、これに噛み合う内歯型のドリブンギヤ(筒状体の一例)とを有し、単一の吸込ポートと、2つの吐出ポートと、2つの吐出ポートからのオイルの流れを制御する油圧制御バルブとを備えた構成が示されている。
【0003】
この特許文献1は、油圧制御バルブが、一方の吐出ポートからの作動オイルの流れを制御する弁体と、この弁体に付勢力を作用させるバネとを備えている。このオイルポンプでは、エンジン回転数が低速である場合には、弁体により2つの吐出ポートからの作動オイルを合流させて送り出す。次に、エンジン回転が高速化した場合には、弁体により一方の吐出ポートからの作動油の一部を吸込ポートに戻し、残余を他方の吐出ポートからの作動オイルに合流させることにより作動オイル量の過剰な供給を抑制する。
【0004】
このように特許文献1では、油圧制御バルブと、吐出ポートを2つ備えた内接歯車型のポンプとの組み合わせにより必要とする特性でオイルを供給できるように構成されている。
【0005】
特許文献2は、外歯を有し駆動回転軸芯の周りで駆動させるインナーロータと、このインナーロータ(ロータの一例)と偏心状態で噛み合う内歯を有し回転中心の周りで回転するアウターロータ(筒状体の一例)とをケーシングの内部に備えた内接歯車型のポンプが示されている。インナーロータとアウターロータとが噛み合う状態で、駆動回転軸芯を中心にしてアウターロータの回転中心を公転させる調整リングを備えており、この調整リングの作動でアウターロータを公転させることでポンプ容量を変更できるように構成されている。
【0006】
この特許文献2では、調整リングを所定位置に付勢するコイルバネと、このコイルバネの付勢力に抗して調節リングを公転させる油圧作動系を備え、この油圧作動系に対して電磁弁を介して作動油を供給する状態と、作動油を排出する状態との切換によりオイルポンプの容量を変更できるように構成されている。
【0007】
特許文献3,4には、カムリング(筒状体の一例)の揺動によりポンプ容量を変化させる可変容量型のベーン式オイルポンプが記載されている。
特許文献3に記載のオイルポンプは、ロータの回転軸芯に対するカムリングの偏芯量が減少するように当該カムリングに揺動力を付与する第1圧力室と、偏芯量が増大するようにカムリングに揺動力を付与する第2圧力室と、第2圧力室に作動流体を選択的に供給する電磁弁とを備えている。
特許文献4に記載のオイルポンプは、カムリングに対してポンプ容量を減少させる力を作用させる第1制御チャンバーと、カムリングに対してポンプ容量を減少させる力を作用させる第2制御チャンバーと、第2制御チャンバーに作動流体を選択的に供給する電磁弁とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005‐140022号公報
【特許文献2】国際公開WO2010/013625号公報
【特許文献3】特開2010−209718号公報
【特許文献4】特表2008−524500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
エンジンの潤滑系等にオイルを供給するオイルポンプを構成する場合には、特許文献1に記載されるように、エンジンの回転が低速である場合に必要とする油量を供給し、エンジンの回転が高速化した場合には、過剰な油量の供給を抑制し、エンジンが更に高速化した場合にはエンジンの冷却の目的から油量の増大を行う構成も有用である。
【0010】
特許文献1に記載されるように2つの吐出ポートから送り出されるオイルを制御するものでは、2つの吐出ポートからのオイルを合流させる場合に無駄なくオイルを供給できる。しかしながら、一方の吐出ポートからのオイルの一部又は全てを吸込側に戻す場合にはオイルを無駄に不必要に流動させるため、エネルギーが無駄になるたけではなく油温の上昇にも繋がるため改善の余地がある。
【0011】
また、特許文献2に記載されるオイルポンプでは、低温によりオイルの粘性が高い場合には電磁弁が適正に作動し難いこともあり改善の余地がある。特に、電磁弁を備える場合には、電磁弁が高コストであり、しかも、電磁弁を制御する電気的な制御系を必要とするためコストの上昇に繋がる点においても改善の余地がある。
【0012】
特許文献3,4に記載されているベーン式オイルポンプは、特許文献2に記載されるオイルポンプと同様に、低温によりオイルの粘性が高い場合には電磁弁が適正に作動し難いおそれがあると共に、電磁弁が高コストであり、電磁弁を制御する電気的な制御系も必要とするため、製作コストの上昇に繋がる点において改善の余地がある。
【0013】
本発明の目的は、オイルを無駄に流動させることなく、且つ、低温時にも信頼性の高い作動を実現するオイルポンプを低コストで構成する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1特徴構成は、エンジンにより駆動回転されるロータと、前記ロータの外周側との間にポンプ室を形成する筒状体と、前記ロータ及び前記筒状体を収容するケーシングと、前記ケーシングに形成された吸引ポート及び吐出ポートと、前記ロータの回転に伴い、前記吸引ポートから前記ポンプ室に吸引したオイルを前記吐出ポートから吐出させるポンプ機構と、前記筒状体を前記ロータに対して筒径方向に移動させることでポンプ容量を変更する容量調整機構と、前記吐出ポートからのオイル圧を制御圧に変換する制御弁と、前記制御弁からの制御圧を前記容量調整機構に作用させて前記筒状体を筒径方向に移動可能な制御油路とが備えられ、前記容量調整機構は、前記制御圧が高いほどポンプ容量減少方向に前記筒状体を移動させる構成を備え、前記制御弁は、前記オイル圧が第1制御値未満の圧力領域と、この第1制御値を超えた第2制御値に達するまでの圧力領域とにおいて、前記制御油路を開状態に維持し、前記容量調整機構は、前記制御圧が前記第1制御値未満である場合にはポンプ容量を最大に設定することでエンジン回転数の増大に伴ってオイル吐出量を第1勾配で増大させ、次に、前記制御圧が第1制御値を超えた場合には前記筒状体のポンプ容量減少方向への移動によりポンプ容量を減少させる状態でエンジン回転数の増大に伴ってオイル吐出量を前記第1勾配よりも緩い傾斜となる第2勾配で増大させる点にある。
【0015】
本構成のオイルポンプは、吐出ポートのオイル圧によって作動する制御弁を用いることによりオイルの粘性に影響を受けずに制御圧を容量調整機構に作用させ、この容量調整機構を適正に作動させることが可能となる。
オイル圧が第1制御値未満の圧力領域と、この第1制御値を超えた第2制御値に達するまでの圧力領域とにおいて、制御弁が制御油路を開状態に維持する。このため、制御圧が第1制御値未満である場合に、容量調整機構がポンプ容量を大きい値に維持し、エンジン回転数の増大に伴いオイルの吐出量を第1勾配で増大させる。また、制御圧が第1制御値を超えた場合には、容量調整機構が、ポンプ容量を小さい値に切り換えることにより、エンジン回転数の増大に伴い、第1勾配より緩い傾斜の第2勾配でオイルの吐出量を増大させる。これにより、低速状態においても充分な量のオイルを供給しながら、制御圧が第1制御値に達すると、エンジン回転数が増大しても不必要な量のオイルを供給することがない。
したがって、本構成のオイルポンプであれば、オイルを無駄に流動させることなく、且つ、低温時にも信頼性の高い作動を実現するオイルポンプを低コストで製作することができる。
【0016】
本発明の第2特徴構成は、前記制御弁が、前記オイル圧が前記第2制御値からこの第2制御値を超える第3制御値までの圧力領域において上昇した場合に、このオイル圧が上昇するほど前記制御油路を絞ることにより前記制御圧の低下を図る作動を行い、前記容量調整機構は、前記筒状体のポンプ容量減少方向への移動を減少もしくは停止させてポンプ容量の減少を減らし、エンジン回転数の増大に伴って前記第2勾配よりも急となる第3勾配でオイル吐出量を増大させる点にある。
【0017】
本構成であれば、オイル圧が第2制御値を超えた場合には、オイル圧が上昇するほど制御弁が制御油路を絞ることになり、これに伴い容量調整機構は、筒状体のポンプ容量減少方向への移動を減少もしくは停止させてポンプ容量の減少を減らすことになる。そして、このエンジン回転数の増大に伴い第2勾配より急となる第3勾配でオイル吐出量を増大させるので、必要とするオイル量を供給できる。
【0018】
本発明の第3特徴構成は、前記制御弁は、前記オイル圧が前記第3制御値を超える値に上昇した場合に、前記制御油路のうち前記オイル圧が作用する部位を遮断すると共に、前記容量調整機構側の部位を低圧側に連通させる位置に作動を行い、前記容量調整機構は、前記制御圧の低下に伴い前記筒状体をポンプ容量増大方向に移動させてポンプ容量を増大させる点にある。
【0019】
本構成であれば、オイル圧が第3制御値を超える値まで上昇した場合には、容量調整機構に作用する制御圧が低下するため、この容量調整機構はポンプ容量を増大させることになる。これによりエンジン回転数の一層の高速化に伴いエンジンの冷却にも必要とするに充分な量のオイルを供給できる。
【0020】
本発明の第4特徴構成は、前記容量調整機構が、前記筒状体をポンプ容量増大側に付勢する第1付勢手段と、前記制御圧を受けることにより前記第1付勢手段の付勢力に抗して前記筒状体をポンプ容量減少側に移動させる受圧部とを備え、前記制御弁が、前記吐出ポートから作用するオイル圧によって変位する弁体と、この弁体に対してオイル圧に抗する方向に付勢力を作用させる第2付勢手段とを備え、前記オイル圧が前記第2制御値未満では、前記弁体が前記制御油路を開状態に維持するように第2付勢手段の付勢力が設定され、前記制御圧が前記第2制御値を超えた場合に前記筒状体がポンプ容量増大側へ移動するように前記第1付勢手段の付勢力が設定されている点にある。
【0021】
本構成であれば、筒状体をポンプ容量増大側に付勢する第1付勢手段の付勢力と、制御弁の弁体を開状態に付勢する第2付勢手段の付勢力との関係の設定によりエンジン回転数に対応して弁体と、容量調整手段の作動とを制御し、制御弁から制御圧によって筒状体を移動させることにより、必要とする量のオイルを供給できる。
【0022】
本発明の第5特徴構成は、前記吐出ポートからの前記オイル圧が、前記ケーシングの内部において前記筒状体の外周部に作用するオイル圧作用空間が形成され、前記オイル圧が前記第3制御値を超える領域において、前記オイル圧作用空間から前記筒状体の外周部に作用する前記オイル圧により前記筒状体がポンプ容量減少側に移動するように前記第1付勢手段の付勢力が設定されている点にある。
【0023】
本構成であれば、吐出ポートのオイル圧が第3制御値を超える圧力領域では、制御弁の状態に拘わらず、吐出ポートのオイル圧が筒状体に作用し、筒状体をポンプ容量減少側に移動させることになり、ポンプ容量を減少させて過剰な量のオイルの供給を抑制できる。
【0024】
本発明の第6特徴構成は、前記ロータは、複数の外歯を有するインナーロータであり、前記筒状体は、前記外歯に噛み合う複数の内歯を有した環状で、前記インナーロータの回転軸芯に対して偏心する前記筒軸芯の周りで回転自在なアウターロータであり、前記ポンプ室は、前記内歯と前記外歯との間に形成され、前記容量調整機構は、前記内歯と前記外歯とが噛み合う状態で前記回転軸芯を中心にして前記アウターロータを公転移動させることでポンプ容量を変更可能に設けられ、前記容量調整機構が、前記アウターロータを回転自在に支持すると共に、このアウターロータの公転を実現する調整リングを備え、前記第1付勢手段は、前記調整リングをポンプ容量増大側に付勢するように設けられ、前記受圧部は、前記制御圧を受けることにより前記第1付勢手段の付勢力に抗して前記調整リングをポンプ容量減少側に変位させるように設けられ、前記制御圧が前記第2制御値を超えた場合に前記調整リングのポンプ容量増大側への変位を行うように前記第1付勢手段の付勢力が設定されている点にある。
【0025】
本構成であれば、インナーロータとアウターロータとが噛み合う可変容量型のオイルポンプにおいて、調整リングをポンプ容量増大側に付勢する第1付勢手段の付勢力と、制御弁の弁体を開状態に付勢する第2付勢手段の付勢力との関係の設定により、エンジン回転数に対応して弁体と容量調整手段の作動とを制御し、制御弁から制御圧によって調整リングを変位させることにより、必要とする量のオイルを供給できる。
【0026】
本発明の第7特徴構成は、前記ロータは、ロータ外周側に向けて突出引退可能な周方向で複数の可動ベーンを有し、前記筒状体は、前記可動ベーンとの摺動により当該可動ベーンの突出量を変更するカムリングであり、前記ポンプ室は、前記可動ベーンによって周方向で複数に区画され、前記容量調整機構は、前記カムリングを前記ロータに対して前記カムリングの径方向に移動させることでポンプ容量を変更可能に設けられ、前記第1付勢手段は、前記カムリングをポンプ容量増大側に付勢するように設けられ、前記受圧部は、前記制御圧を受けることにより前記第1付勢手段の付勢力に抗して前記カムリングをポンプ容量減少側に変位させるように設けられ、前記制御圧が前記第2制御値を超えた場合に前記カムリングのポンプ容量増大側への変位を行うように前記第1付勢手段の付勢力が設定されている点にある。
【0027】
本構成であれば、ベーン式の可変容量型のオイルポンプにおいて、カムリングをポンプ容量増大側に付勢する第1付勢手段の付勢力と、制御弁の弁体を開状態に付勢する第2付勢手段の付勢力との関係の設定により、エンジン回転数に対応して弁体と容量調整手段の作動とを制御し、制御弁から制御圧によってカムリングを変位させることにより、必要とする量のオイルを供給できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】オイル圧が低圧にある状態での第1実施形態のオイルポンプの断面図である。
【図2】ポンプ容量が減少状態にある第1実施形態のオイルポンプの断面図である。
【図3】制御油路が絞られた状態にある第1実施形態のオイルポンプの断面図である。
【図4】制御圧が大きく低下した状態での第1実施形態のオイルポンプの断面図である。
【図5】加圧空間のオイル圧でポンプ容量が減少側に操作された状態にある第1実施形態のオイルポンプの断面図である。
【図6】制御弁がリリーフ状態にある第1実施形態のオイルポンプの断面図である。
【図7】エンジン回転数に対するオイルの吐出量をグラフ化した図である。
【図8】ポンプ容量が最小の状態にある第1実施形態のオイルポンプの断面図である。
【図9】オイル圧が低圧にある状態での第2実施形態のオイルポンプの断面図である。
【図10】ポンプ容量が最小の状態にある第2実施形態のオイルポンプの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
第1実施形態
〔基本構成〕
図1には、車両のエンジンEに対して潤滑油と、エンジンEに備えた油圧機器の作動油とを供給するようにエンジンEで駆動される可変容量型のオイルポンプを示している(潤滑油と作動油との総称をオイルとする)。
このオイルポンプは、ケーシング1の内部に駆動回転軸芯(本発明におけるロータの回転軸芯に相当する)Xを中心にして駆動軸11と一体的に駆動回転するインナーロータ
(本発明におけるロータに相当する)12と、駆動回転軸芯Xと偏心する従動回転軸芯
(本発明における筒軸芯に相当する)Yを中心に回転するアウターロータ(本発明における筒状体に相当する)13とを備え、更に、アウターロータ13をインナーロータ12に対して駆動回転軸芯Xの周りで公転移動させることでポンプ容量を調整する容量調整機構Aと、この容量調整機構Aに制御油を供給する制御弁Vとを備えている。
【0030】
ドライブロータとしてのインナーロータ12は、ケーシング1及び駆動軸11の少なくとも一方に支持され複数の外歯12Aが形成されている。ドリブンロータとしてのアウターロータ13は、インナーロータ12の外歯12Aに噛み合う複数の内歯13Aを有した環状に形成され、インナーロータ12の回転に従って回転するように従動回転軸芯Yを中心に回転自在に支持されている。
【0031】
インナーロータ12の外歯12Aは、トロコイド曲線又はサイクロイド曲線に従う歯面形状に成形されている。アウターロータ13の内歯13Aは、インナーロータ12の外歯12Aの歯数より1つ多い歯数に設定され、アウターロータ13が回転した際に、インナーロータ12の外歯12Aに接触する歯面形状に成形されている。
【0032】
このオイルポンプはトロコイドポンプとも称され、ケーシング1の壁部1Aにはオイルを吸引する吸引ポート2と、オイルを吐出する吐出ポート3が形成されている。この構成からインナーロータ12が矢印Fで示す方向に駆動回転することにより、吸引ポート2から外歯12Aと内歯13Aとの間の空間(ポンプ室)24にオイルを導入し、オイルを加圧して吐出ポート3から送り出すポンプ機構を備えている。
当然のことながら、エンジン回転数(エンジンEの回転速度)が増大するほど吐出ポート3から吐出するオイルの流量が増大するためにオイルの圧力は上昇する。
【0033】
〔容量調整機構〕
容量調整機構Aは、アウターロータ13を回転自在に内挿支持すると共に、アウターロータ13の公転移動を実現する調整リング14と、この調整リング14をガイドするガイド手段Gと、調整リング14に一体形成された受圧部21と、調整リング14に付勢力を作用させる第1スプリングS1(第1付勢手段の一例)とを備えている。
【0034】
図1に示す如く、駆動回転軸芯Xに対する吸引ポート2と吐出ポート3とを隔てる仕切り部の方向と従動回転軸芯Yの方向が一致している状態が、オイルの吐出量が最大になる状態である。
これとは逆に、図8に示す如く、駆動回転軸芯Xに対する吸引ポート2と吐出ポート3とを隔てる仕切り部の方向と従動回転軸芯Yの方向が90度の位相を成す状態が、オイルの吐出量が最小になる状態である。
この駆動回転軸芯Xに対する、仕切り部の方向と従動回転軸芯Yの方向の位相を調整するために、容量調整機構Aでは、内歯13Aと外歯12Aとが噛み合う状態で駆動回転軸芯Xを中心にして従動回転軸芯Yが移動するようにアウターロータ13を公転移動させることでポンプ容量を変更調整する。
【0035】
尚、図1において吸引ポート2と吐出ポート3とは駆動回転軸芯Xを取り囲むように左右に配置されているため、前述した仕切り部は、吸引ポート2と吐出ポート3の上部位置同士の中間と、下部位置同士の中間との2箇所に形成される。従って、図1において仕切り部の方向とは上下方向となり、駆動回転軸芯Xと従動回転軸芯Yとを結ぶラインが上下方向となるため、オイルの吐出量が最大となる。
【0036】
調整リング14は、アウターロータ13を内挿状態で回転自在に支持するように従動回転軸芯Yと同軸芯の内周面を有するリング状に成形されている。この調整リング14の外周には外方に突出する受圧部21と、補助受圧部22とが一体的に形成されている。受圧部21に対して制御圧を作用させる第1制御油路C1がケーシング1に形成され、この第1制御油路C1を介して受圧部21に制御圧が作用することにより、調整リング14は制御圧が高いほど第1スプリングS1の付勢力に抗してアウターロータ13と共にポンプ容量減少方向に変位する。
【0037】
ガイド手段Gは、調整リング14の外周部に備えた2つのガイドピン25と、このガイドピン25が係入するようにケーシング1の壁面に形成された2つのガイド溝26とを有している。2つのガイド溝26は、駆動回転軸芯Xを中心にしてアウターロータ13の従動回転軸芯Yを公転させるように調整リング14をガイドする形状に形成されている。第1スプリングS1は、受圧部21を基準にして制御油路Cと反対側に配置され、調整リング14をポンプ容量増大方向に変位させる付勢力を作用させる。
【0038】
ガイド手段Gは、アウターロータ13を公転させるように調整リング14をガイドするものであるが、アウターロータ13の公転運動を抑制するために調整リング14を従動軸芯を中心にして回転させる自転運動を行わせることが可能である。
【0039】
後述するように、エンジン回転数がN2を超えN3未満であり、オイル圧が第2制御値〜第3制御値の圧力領域にある場合には、調整リング14に従動回転軸芯Yを中心として自転運動を行わせるようにガイド手段Gを構成することでアウターロータ13の公転を阻止しポンプ容量を一定の状態に保持させ、第3勾配を実現することができる。
【0040】
この容量調整機構Aは、ポンプ容量が最大である場合には図1に示す駆動回転軸芯Xに対する、吸引ポート2と吐出ポート3とを隔てる仕切り部の方向と従動回転軸芯Yの方向が一致する相対位置関係に設定され、ポンプ容量が最小である場合には、図8に示す駆動回転軸芯Xに対する、吸引ポート2と吐出ポートとを隔てる仕切り部の方向と従動回転軸芯Yの方向が90度の位相を成す位置関係に設定される。このようにポンプ容量が最大値と最小値との間で変更される場合には、従動回転軸芯Yが駆動回転軸芯Xを中心にして90度公転することになる。
【0041】
これにより容量調整機構Aは、制御油路Cを介して受圧部21に作用させる制御油の圧力を調整することによりアウターロータ13の内歯13Aとインナーロータ12の外歯12Aとが噛み合う状態でのアウターロータ13の公転量を設定し、ポンプ容量の変更が実現する。
【0042】
図面には示していないが、ケーシング1には、吸引ポート2と吐出ポート3とが形成される壁部1Aと対向する位置に、この壁部1Aと平行姿勢の壁体を配置した構造を有している。この構成から壁部1Aと壁体との間にインナーロータ12、アウターロータ13、調整リング14夫々が挟み込まれる位置に配置される。尚、駆動軸11は壁部1Aと壁体との少なくとも一方を貫通する状態で備えられる。
【0043】
図1に示すように、調整リング14の外周のうち、第1スプリングS1が配置された部位に吸引ポート2に連通する低圧空間LPが形成され、この反対側に吐出ポート3と連通する加圧空間HP(オイル圧作用空間の一例)が形成されている。調整リング14の外周とケーシング1の内面との間にはシールベーン23が備えられ、このシールベーン23と前述した補助受圧部22とによって低圧空間LPと加圧空間HPが分離されている。尚、低圧空間LPは、大気圧かそれ以下の圧力である。
【0044】
〔制御弁〕
吐出ポート3から(加圧空間HPから)エンジンEにオイルを供給する供給油路31が形成され、この供給油路31からのオイル圧が作用する位置に制御弁Vが備えられている。この制御弁Vはケーシング1に一体的に備えられる構成であるが、ケーシング1から分離する構成であっても良い。
【0045】
制御弁Vは、シリンダ状の空間内に直線移動する弁体35を備えると共に、この弁体35に対してオイル圧に抗する方向への付勢力を作用させる第2スプリングS2(第2付勢手段の一例)を備えている。弁体35は長手方向の中央部分に小径部35Aが形成され、この弁体35に対して供給油路31からのオイル圧を作用させる操作油路32が形成されている。また、供給油路31から弁体35の中間部分にオイル圧を作用させる第2制御油路C2が形成され、この第2制御油路C2は、制御弁Vを挟んで前述した第1制御油路C1と連通する。更に、制御弁Vから排出されたオイルを低圧空間LPに送る(油路系のドレンポートに送っても良い)排出油路33が形成されている。
【0046】
第1制御油路C1と第2制御油路C2とを合わせて制御油路Cが構成され、この制御油路Cを介して受圧部21に作用する制御圧(オイル圧)が制御弁Vで制御される。
【0047】
この制御弁Vは、ポンプ圧の作用により第2スプリングS2の付勢力に抗して弁体35が作動して制御油路Cを遮断することや、制御油路Cの開度を調節することになり、ポンプ圧(吐出ポート3からのオイル圧)を制御圧に変換して調整リングの受圧部21に作用させる機能を有する。
【0048】
〔作動形態〕
このオイルポンプは、図7に示すようにエンジン回転数(エンジンEの回転速度)がO点から増大してN1、N2、N3、N4、N5に達するまで変化した場合に、オイルの吐出量がOから増大してP、Q、R、S、T、Uのように変化するように容量調整機構Aが制御される。また、エンジン回転数がN1である状態におけるオイル圧を第1制御値と称しており、これに準じてエンジン回転数がN2〜N5にある状態における吐出ポート3
(加圧空間HP)のオイル圧を第2〜第5制御値と称している。
【0049】
エンジン回転数が低い状態でもエンジンEの潤滑とバルブ開閉時期制御装置の制御とに必要なオイル量は略決まっている。従って、エンジン回転数が所定値を超えて増大した場合には、オイル量をエンジン回転数と比例して増大させる必要がない。しかしながら、エンジン回転数が極めて高い値まで上昇した場合には、エンジンEの冷却のために多くのオイルを必要とする。
【0050】
このような理由から、同図に示す如く、エンジン回転数が低速にある場合には、オイルの吐出量を大きく設定しておき、エンジン回転数がN1を超えた場合には、エンジン回転数の増大に対するオイルの吐出量の比率を減ずることにより、オイルの無駄な供給を抑制している。そして、エンジン回転数がN3を超えた場合には、高速で駆動されるエンジンEの各部にオイルを供給し、あわせて、エンジンEの冷却を促進するためにオイルの吐出量を増大させているのである。
【0051】
前述したようにオイルポンプはポンプ容量の調整が可能であるため、同図では、ポンプ容量を最大に設定した際のエンジン回転数に対する吐出量変化を、「全量吐出」として破線で示し(O−P、S−T)、ポンプ容量が最大より小さい、ある容量の状態を「可変時」として一点鎖線で示し(Q−R)ている。また、P−QとT−Uとを示した領域は、アウターロータ13の従動回転軸芯Yを駆動回転軸芯Xを中心にして公転移動させることによりポンプ容量を連続的に変化させた際の吐出量変化を示している。同図においてLで示した領域は、前述したバルブ開閉時期制御装置が必要とするオイル量を表しており、Kで示した領域は、ピストン冷却用のジェットとして必要とするオイル量を表している。
【0052】
つまり、エンジン回転数が0〜N1未満にある低速状態では、容量調整機構Aがポンプ容量を最大に設定してエンジンEの潤滑とバルブ開閉時期制御装置とに必要な最低限の量(O〜P)のオイルを供給する。これに続いて、エンジン回転数がN1〜N2未満にある状態では、容量調整機構Aがポンプ減少方向に制御することにより不必要な供給を抑制した量(P〜Q)のオイルを供給する。
【0053】
次に、エンジン回転数がN2〜N3未満にある状態では、容量調整機構Aがポンプ容量を減少させた状態に保持することにより緩速で増大するオイル量(Q〜R)を得る。次に、エンジン回転数がN3に達した場合には容量調整機構Aがポンプ容量を最大に設定することで急激に増大するオイル量(R〜S)を得る。次に、エンジン回転数がN3〜N4未満にある高速状態では、容量調整機構Aがポンプ容量を最大に維持したままでエンジン回転数に正比例した大量(S〜T)のオイルを供給する。
【0054】
そして、エンジン回転数がN4〜N5未満にある状態では、容量調整機構Aがポンプ容量を再び減少方向に制御することで抑制された量(T〜U)のオイルを供給する。更に、エンジン回転数がN5を超えた場合には、制御弁Vがリリーフ状態に達し、決まったオイル量(U)を維持すると同時にオイル圧の上昇を抑制する。このようにオイル量が制御される際の容量調整機構Aの作動形態と、制御弁Vによる制御形態を以下に説明する。
【0055】
〔O〜N1〕
エンジン回転数がO〜N1未満にある場合には、オイル圧は第1制御値未満であり、図1に示すように、制御弁Vが弁体35の小径部35Aを介して制御油路Cを全開状態に維持する。これと同時に、制御油路Cから供給される制御圧に抗するように容量調整機構Aの第1スプリングS1の付勢力を設定することにより容量調整機構Aがポンプ容量を最大に維持する。この制御において制御弁Vは必ずしも全開状態である必要はなく、開状態であれば良い。
【0056】
これによりポンプ容量が最大に維持された状態でエンジン回転数に正比例した量(O〜P)のオイルがエンジンEに供給される。この(O〜P)においてエンジン回転数の増大に伴うオイルの吐出量の勾配が第1勾配に対応する。
【0057】
この制御を実現するため、オイル圧が第1制御値未満(厳密には後述するように第2制御値未満)にある場合には制御弁Vの弁体35が図1に示す位置を維持するように第2スプリングS2の付勢力が設定され、受圧部21が同図に示す位置に維持されるように第1スプリングS1の付勢力が設定されている。
【0058】
このようにオイル圧が第1制御値未満(エンジン回転数がN1未満)にある圧力領域では容量調整機構Aによってポンプ容量が最大に維持されるので、エンジン回転数が低い状態においてもエンジンEの潤滑に必要となるオイル量をエンジンEに供給できる。
【0059】
〔N1〜N2〕
次に、エンジン回転数がN1〜N2未満にある場合において、エンジン回転数がN1を超えた(オイル圧が第1制御値を超えた)タイミングで図2に示すように、制御弁Vが制御油路Cを開状態に維持したまま、制御油路Cから供給される制御圧により受圧部21と一体的に調整リング14がポンプ容量減少側に変位する。この変位と共にアウターロータ13がポンプ容量減少方向に公転し、ポンプ容量が連続的に減少する。
【0060】
しかし、エンジン回転数がN1からN2に増大するに伴い、オイルポンプの回転数は高まる。これらの相反する状態変化が組み合わされる結果、オイルの吐出量はエンジンEの回転数の増大に伴って穏やかに増大するものとなる。すなわち、ほぼ一定量(P〜Q)のオイルがエンジンEに供給される。この(P〜Q)においてエンジン回転数の増大に伴うオイルの吐出量の勾配が第2勾配に対応し、この第2勾配は第1勾配より緩傾斜となる。
【0061】
この制御を実現するため、オイル圧が第2制御値未満にある場合には制御弁Vの弁体35が図2に示す位置を維持するように第2スプリングS2の付勢力が設定され、受圧部21と一体的に調整リング14が同図に示す位置まで作動するように第1スプリングS1の付勢力が設定されている。また、Qの位置からR位置の間では調整リング14が自転運動をするようにガイド手段Gを設定しても良い。
【0062】
このようにオイル圧が第1制御値(エンジン回転数がN1)を超え、第2制御値未満
(エンジン回転数がN2未満)の圧力領域では容量調整機構Aによってポンプ容量が連続的に減少されるので、不必要な供給を抑制した量のオイルをエンジンEに供給できる。
【0063】
〔N2〜N3〕
次に、エンジン回転数がN2〜N3未満にある場合において、エンジン回転数がN2を超えた(オイル圧が第2制御値を超えた)タイミングで図3に示すように、第1制御油路C1から制御弁Vの小径部35Aに対する連通部分を絞る(制御油路Cの断面積を低減する)状態に達する。これによりエンジン回転数が増大するほど制御圧は低減し、エンジン回転数の増大に伴い第1スプリングS1の付勢力により調整リング14のポンプ容量増大側への変位量が増大しようとする。一方、補助受圧部22に作用するオイル圧は、エンジン回転数が増大するほど大きくなり、調整リング14はポンプ容量減少側への変位量が増大しようとする。
このとき、補助受圧部22に作用するオイル圧よりも第1スプリングS1の付勢力の方が小さくなるように設定すると、結果として調整リング14はポンプ容量減少側へ移動する。
ところで図7のようにQ〜Rが原点Oを通る吐出特性を有する場合は、調整リング14がポンプ容量減少側へ移動する際に、アウターロータ13の公転を停止(すなわち自転のみ)するように、調整リング14の移動軌跡を設定すれば実現可能となる。
【0064】
このようにポンプ容量が一定に保持された状態でエンジン回転数に比例した量(Q〜R)のオイルがエンジンEに供給される。この(Q〜R)においてエンジン回転数の増大に伴うオイルの吐出量の勾配が第3勾配に対応し、この第3勾配は第2勾配より急傾斜となる。特に、このN2〜N3の領域では、前述したように調整リング14に自転運動を行わせることや、自転運動と公転付与運動との成分を含む運動を行わせることにより、ポンプ容量を殆ど増大させず、エンジン回転の増大に対応したオイル量だけ増大させることにより、吐出量の急激な増大を抑制することも可能である。
【0065】
この制御を実現するため、オイル圧が第2制御値を超えた場合には制御弁Vの弁体35が制御油路Cを絞る状態に達し、オイル圧が第3制御圧に達するまでは制御油路Cを更に絞るように第2スプリングS2の付勢力が設定されている。
【0066】
〔N3〜N4〕
次に、エンジン回転数がN3〜N4未満にある場合において、エンジン回転数がN3を超えた(オイル圧が第3制御値を超えた)タイミングで図4に示すように、第2制御油路C2が制御弁Vによって遮断される。これと同時に、第1制御油路C1が制御弁Vによって排出油路33に接続され、受圧部21に作用する制御圧が大きく低下する。その結果、第1スプリングS1の付勢力により受圧部21と一体的に調整リング14がポンプ容量増大側の作動端まで変位する。この変位と共にアウターロータ13がポンプ容量増大方向に公転し、ポンプ容量が最大まで上昇する。このようにポンプ容量が最大に維持された状態でエンジン回転数に正比例した量(S〜T)のオイルがエンジンEに供給される。
【0067】
この制御を実現するため、オイル圧が第3制御値を超えたタイミングで制御弁Vの弁体35が図2に示す位置を維持するように第2スプリングS2の付勢力が設定されている。
【0068】
〔N4〜N5〕
次に、エンジン回転数がN4〜N5未満にある場合において、エンジン回転数がN4を超えた(オイル圧が第4制御値を超えた)タイミングでは図5に示すように、制御弁Vによる第2制御油路C2の遮断状態が維持される。この状態で加圧空間HP(オイル圧作用空間)から補助受圧部22と調整リング14の外周とにオイル圧が作用し調整リング14がポンプ容量減少側の作動端まで変位する。この変位によりインナーロータ12がポンプ容量減少方向に公転し、ポンプ容量が連続的に減少する。これによりポンプ容量が連続的に減少する状態でエンジン回転数に対しほぼ一定量(T〜U)のオイルがエンジンEに供給される。
【0069】
この制御を実現するため、オイル圧が第4制御値を超えた場合には制御弁Vの弁体35が図5に示す遮断位置を維持するように第2スプリングS2の付勢力が設定され、調整リング14に対して直接的に作用するオイル圧によって調整リングが同図に示す位置まで作動するように第1スプリングS1の付勢力が設定されている。
【0070】
〔N5以上〕
次に、エンジン回転数がN5を超えた(オイル圧が第5制御値を超えた)タイミングで図6に示すように、操作油路32のオイルが制御弁Vによって排出油路33に排出され、オイル圧の上昇が抑制される。尚、このように制御弁Vがリリーフ状態に達する状況においても、加圧空間HPから調整リング14の外周に作用するオイル圧によりポンプ容量が減少した状態に維持される。
【0071】
この制御を実現するため、オイル圧が第5制御値を超えた場合には制御弁Vの弁体35が図6に示すようにリリーフ状態に達するように第2スプリングS2の付勢力が設定されている。
【0072】
〔実施形態の作用・効果〕
このように本発明のオイルポンプでは、インナーロータ12とアウターロータ13とを有する可変容量型のポンプと、この可変容量型ポンプの容量を調整するために機械式に作動する制御弁Vとを組み合わせることにより、オイルの粘性が高い場合でも、この粘性の影響を受けずにポンプ容量の調整を実現する。また、オイルポンプは、インナーロータ12の外歯12Aとアウターロータ13の内歯13Aとが噛み合う状態を維持しながら、アウターロータ13が公転することでポンプ容量の無段階の増減を実現する。
【0073】
このオイルポンプは、調整リング14をポンプ容量増大側に付勢する第1スプリングS1の付勢力と、制御弁Vの弁体35を付勢する第2スプリングS2の付勢力との関係の設定によりポンプ容量の調整を実現している。この構成からエンジン回転数がN1〜N4の領域で変化する際に、エンジン回転数が低い場合にも必要とするオイルをエンジンEに供給し、エンジン回転数が増大した場合にはオイルの増大を抑制することでオイルの不必要なオイル供給をなくし、エンジン回転数が上限近くまで上昇した場合には、冷却に必要な充分なオイル量の供給も可能にする。
【0074】
更に、エンジン回転数がN5を超えた場合には、制御弁Vをリリーフ状態にしてオイル圧を逃がすことによりオイルポンプとエンジンEとに対して過剰なオイルの供給を抑制してオイルポンプとエンジンEの潤滑系等の破損を防止する。
【0075】
第2実施形態
図9,図10は、本発明によるオイルポンプの別実施形態を示す。
本実施形態のオイルポンプは、可変容量型のベーン式オイルポンプで構成されている。
このオイルポンプは、ロータ外周側に向けて突出引退可能で突出移動するように付勢された周方向で複数の可動ベーン4を有するロータ12と、可動ベーン4との摺動により当該可動ベーン4の突出量を変更するカムリング(本発明における筒状体に相当する)13とを備えている。
【0076】
ロータ12は、回転軸芯X周りで駆動軸11と一体に駆動回転される円筒状の外周筒部12aを同芯状に備えている。
外周筒部12aの内周側には、各可動ベーン4の基端側を支持する支持リング15が装着されている。
【0077】
各可動ベーン4は、先端部分が外周筒部12aに対してロータ12の径方向に摺動移動自在に装着され、外周筒部12aの内周側に装着した支持リング15に基端側が支持され、ロータ12の回転に伴う遠心力でロータ外周側に向けて突出移動するように付勢されている。
カムリング13は、可動ベーン4の先端部分が摺動する内周面が円筒面で形成された円筒状に形成されている。
【0078】
ポンプ室24は、外周筒部12aの外周側とカムリング13の内周側との間に形成され、可動ベーン4によって周方向で複数のポンプ室部分24aに区画されている。
ロータ12を矢印Fで示す方向に駆動回転させることにより、ポンプ室部分24aの容積が増大するに伴って吸引ポート2からオイルを当該ポンプ室部分24aに導入し、ポンプ室部分24aの容積が減少するに伴って当該ポンプ室部分24aのオイルを吐出ポート3から送り出すポンプ機構を備えている。
【0079】
容量調整機構Aは、第1実施形態における調整リング14に代えて、カムリング13をシールベーン23を支点にしてロータ12に対してカムリング13の径方向に揺動移動させることでポンプ容量を変更調整する。
【0080】
このため、受圧部21と補助受圧部22とがカムリング13に一体形成され、カムリング13の外周とケーシング1の内面との間にシールベーン23が備えられ、ガイド手段Gは、カムリング13の外周部に備えた2つのガイドピン25を有し、第1スプリングS1は、カムリング13をポンプ容量増大側に付勢するように設けられている。
【0081】
図9は、カムリング軸芯Yが回転軸芯Xから最も偏心する位置に移動していてオイルの吐出量が最大になる状態を示し、図10は、カムリング軸芯Yが回転軸芯Xと同芯状の位置に移動していてオイルの吐出量が最小になる状態を示す。
【0082】
受圧部21は、制御圧を受けることにより第1スプリングS1の付勢力に抗してカムリング13をポンプ容量減少側に変位させるように設けられ、制御圧が第2制御値を超えた場合にカムリング13のポンプ容量増大側への変位を行うように第1スプリングS1の付勢力が設定されている
その他の構成及び作動形態は第1実施形態と同様であるのでその説明は省略する。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、エンジンに必要とするオイルを供給するオイルポンプ全般に利用することができる。
【符号の説明】
【0084】
1 ケーシング
2 吸引ポート
3 吐出ポート
4 可動ベーン
12 ロータ(インナーロータ)
12A 外歯
13 筒状体(アウターロータ,カムリング)
13A 内歯
14 調整リング
21 受圧部
24 ポンプ室
35 弁体
A 容量調整機構
C 制御油路
E エンジン
HP オイル作用空間
S1 第1付勢手段(第1スプリング)
S2 第2付勢手段(第2スプリング)
V 制御弁
X 回転軸芯(駆動回転軸芯)
Y 筒軸芯(従動回転軸芯,カムリング軸芯)
P 第1制御値
Q 第2制御値
R 第3制御値
T 第4制御値
U 第5制御値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンにより駆動回転されるロータと、
前記ロータの外周側との間にポンプ室を形成する筒状体と、
前記ロータ及び前記筒状体を収容するケーシングと、
前記ケーシングに形成された吸引ポート及び吐出ポートと、
前記ロータの回転に伴い、前記吸引ポートから前記ポンプ室に吸引したオイルを前記吐出ポートから吐出させるポンプ機構と、
前記筒状体を前記ロータに対して筒径方向に移動させることでポンプ容量を変更する容量調整機構と、
前記吐出ポートからのオイル圧を制御圧に変換する制御弁と、
前記制御弁からの制御圧を前記容量調整機構に作用させて前記筒状体を筒径方向に移動可能な制御油路とが備えられ、
前記容量調整機構は、前記制御圧が高いほどポンプ容量減少方向に前記筒状体を移動させる構成を備え、
前記制御弁は、前記オイル圧が第1制御値未満の圧力領域と、この第1制御値を超えた第2制御値に達するまでの圧力領域とにおいて、前記制御油路を開状態に維持し、
前記容量調整機構は、前記制御圧が前記第1制御値未満である場合にはポンプ容量を最大に設定することでエンジン回転数の増大に伴ってオイル吐出量を第1勾配で増大させ、次に、前記制御圧が第1制御値を超えた場合には前記筒状体のポンプ容量減少方向への移動によりポンプ容量を減少させる状態でエンジン回転数の増大に伴ってオイル吐出量を前記第1勾配よりも緩い傾斜となる第2勾配で増大させるオイルポンプ。
【請求項2】
前記制御弁が、前記オイル圧が前記第2制御値からこの第2制御値を超える第3制御値までの圧力領域において上昇した場合に、このオイル圧が上昇するほど前記制御油路を絞ることにより前記制御圧の低下を図る作動を行い、
前記容量調整機構は、前記筒状体のポンプ容量減少方向への移動を減少もしくは停止させてポンプ容量の減少を減らし、エンジン回転数の増大に伴って前記第2勾配よりも急となる第3勾配でオイル吐出量を増大させる請求項1記載のオイルポンプ。
【請求項3】
前記制御弁は、前記オイル圧が前記第3制御値を超える値に上昇した場合に、前記制御油路のうち前記オイル圧が作用する部位を遮断すると共に、前記容量調整機構側の部位を低圧側に連通させる位置に作動を行い、
前記容量調整機構は、前記制御圧の低下に伴い前記筒状体をポンプ容量増大方向に移動させてポンプ容量を増大させる請求項2記載のオイルポンプ。
【請求項4】
前記容量調整機構が、前記筒状体をポンプ容量増大側に付勢する第1付勢手段と、前記制御圧を受けることにより前記第1付勢手段の付勢力に抗して前記筒状体をポンプ容量減少側に移動させる受圧部とを備え、
前記制御弁が、前記吐出ポートから作用するオイル圧によって変位する弁体と、この弁体に対してオイル圧に抗する方向に付勢力を作用させる第2付勢手段とを備え、
前記オイル圧が前記第2制御値未満では、前記弁体が前記制御油路を開状態に維持するように第2付勢手段の付勢力が設定され、前記制御圧が前記第2制御値を超えた場合に前記筒状体がポンプ容量増大側へ移動するように前記第1付勢手段の付勢力が設定されている請求項1〜3のいずれか1項に記載のオイルポンプ。
【請求項5】
前記吐出ポートからの前記オイル圧が、前記ケーシングの内部において前記筒状体の外周部に作用するオイル圧作用空間が形成され、前記オイル圧が前記第3制御値を超える領域において、前記オイル圧作用空間から前記筒状体の外周部に作用する前記オイル圧により前記筒状体がポンプ容量減少側に移動するように前記第1付勢手段の付勢力が設定されている請求項4記載のオイルポンプ。
【請求項6】
前記ロータは、複数の外歯を有するインナーロータであり、
前記筒状体は、前記外歯に噛み合う複数の内歯を有した環状で、前記インナーロータの回転軸芯に対して偏心する前記筒軸芯の周りで回転自在なアウターロータであり、
前記ポンプ室は、前記内歯と前記外歯との間に形成され、
前記容量調整機構は、前記内歯と前記外歯とが噛み合う状態で前記回転軸芯を中心にして前記アウターロータを公転移動させることでポンプ容量を変更可能に設けられ、
前記容量調整機構が、前記アウターロータを回転自在に支持すると共に、このアウターロータの公転を実現する調整リングを備え、
前記第1付勢手段は、前記調整リングをポンプ容量増大側に付勢するように設けられ、
前記受圧部は、前記制御圧を受けることにより前記第1付勢手段の付勢力に抗して前記調整リングをポンプ容量減少側に変位させるように設けられ、
前記制御圧が前記第2制御値を超えた場合に前記調整リングのポンプ容量増大側への変位を行うように前記第1付勢手段の付勢力が設定されている請求項4記載のオイルポンプ。
【請求項7】
前記ロータは、ロータ外周側に向けて突出引退可能な周方向で複数の可動ベーンを有し、
前記筒状体は、前記可動ベーンとの摺動により当該可動ベーンの突出量を変更するカムリングであり、
前記ポンプ室は、前記可動ベーンによって周方向で複数に区画され、
前記容量調整機構は、前記カムリングを前記ロータに対して前記カムリングの径方向に移動させることでポンプ容量を変更可能に設けられ、
前記第1付勢手段は、前記カムリングをポンプ容量増大側に付勢するように設けられ、
前記受圧部は、前記制御圧を受けることにより前記第1付勢手段の付勢力に抗して前記カムリングをポンプ容量減少側に変位させるように設けられ、
前記制御圧が前記第2制御値を超えた場合に前記カムリングのポンプ容量増大側への変位を行うように前記第1付勢手段の付勢力が設定されている請求項4記載のオイルポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−145095(P2012−145095A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37481(P2011−37481)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】