説明

オレフィン系共重合体の水性エマルジョン

【課題】透明な硬化物を与える水性エマルジョンを提供する。
【解決手段】α−オレフィン及び/又はエチレンに由来する構造単位と置換基Rを有するビニル化合物(I)に由来する構造単位とを含むオレフィン系共重合体、乳化剤並びに炭素原子を1〜13個有する化合物を含む水性エマルジョンであって、炭素原子を1〜13個有する化合物が水酸基、アミノ基、又は水酸基とアミノ基の両者を有し、かつ炭素原子を1〜13個有する化合物の分子中に水酸基又はアミノ基由来の水素原子を少なくとも2個有する、水性エマルジョン。
CH=CH−R (I)
(式(I)中、Rは、2級アルキル基、3級アルキル基又は脂環式炭化水素基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィン系共重合体を含有する水性エマルジョン等に関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィン系共重合体として、α−オレフィン及び/又はエチレンに由来する構造単位と、ビニルシクロヘキサンなどの嵩高い置換基を有するビニル化合物に由来する構造単位とを含むオレフィン系共重合体(特許文献1)、並びに、該共重合体にアルケニル芳香族炭化水素及び/又は不飽和カルボン酸類をグラフト重合せしめてなるオレフィン系共重合体変性物が知られており(特許文献2)、該共重合体及びその変性物は、難接着性であるポリプロピレンへの接着性に優れることが開示されている。
また、該共重合体及び/又はその変性物を分散質とし、該分散質が乳化剤によって水に分散されてなる水性エマルジョンは、水を除去して乾燥すると、成形性、耐熱性、耐溶剤性、機械的特性、接着性に優れた硬化物を与え、該硬化物は塗装用プライマー、塗料用バインダー、印刷用バイダー、接着剤として使用され得ることが特許文献3及び4に開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2003−160621号公報
【特許文献2】特開2003−82028号公報
【特許文献3】特開2006−124535号公報
【特許文献4】特開2005−320400号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
かかる水性エマルジョンを乾燥して得られる硬化物は、白濁した不透明な膜であり、顔料等と混合して着色した硬化物を得る際には、色が制限されるという問題があった。
本発明の課題は、透明な硬化物を与える水性エマルジョンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、下記[1]〜[11]のいずれか記載の発明である。
[1]α−オレフィン及び/又はエチレンに由来する構造単位と置換基Rを有するビニル化合物(I)に由来する構造単位とを含むオレフィン系共重合体、乳化剤並びに炭素原子を1〜13個有する化合物を含む水性エマルジョンであって、炭素原子を1〜13個有する化合物が水酸基、アミノ基、又は水酸基とアミノ基の両者を有し、かつ炭素原子を1〜13個有する化合物の分子中に水酸基又はアミノ基由来の水素原子を少なくとも2個有する、水性エマルジョン。
CH=CH−R (I)
(式(I)中、Rは、2級アルキル基、3級アルキル基又は脂環式炭化水素基を表す。)
【0006】
[2]オレフィン系共重合体が、さらに不飽和カルボン酸類に由来する構造単位を含むオレフィン系共重合体である[1]記載の水性エマルジョン。
【0007】
[3]炭素原子を1〜13個有する化合物が、尿素類、グリセリン、1-メチル2−ピロリドン又はジエチレントリアミンである[1]又は[2]記載の水性エマルジョン。
【0008】
[4]尿素類が、下記式(III)で表される化合物である[1]〜[3]のいずれか記載の水性エマルジョン。

(式(III)中、Qは、酸素原子または硫黄原子を表し、X1、X2、X3及びXは互いに独立に、水素原子、炭素数1〜6の直鎖アルキル基、炭素数3〜6の分枝アルキル基、または、X1あるいはX2と、X3あるいはXとが結合した炭素数1〜6のアルキレン基を表す。但し、アルキル基およびアルキレン基の水素原子は水酸基で置換されていてもよい。)
【0009】
[5]乳化剤が、α,β−不飽和カルボン酸に由来する構造単位とアクリル酸ビニルエステルに由来する構造単位と(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位とを含有する水溶性アクリル樹脂、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、及びポリオキシエチレンアルキルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種の乳化剤である[1]〜[4]のいずれか記載の水性エマルジョン。
【0010】
[6]α−オレフィン及び/又はエチレンに由来する構造単位と置換基Rを有するビニル化合物(I)に由来する構造単位とを含むオレフィン系共重合体及び乳化剤からなる分散質の体積基準メジアン径が0.01〜1μmである[1]〜[5]のいずれか記載の水性エマルジョン。
【0011】
[7]ビニル化合物(I)がビニルシクロヘキサンである[1]〜[6]のいずれか記載の水性エマルジョン。
【0012】
[8][1]〜[7]のいずれか記載の水性エマルジョンを乾燥してなる硬化物。
【0013】
[9]木質系材料、セルロース系材料、プラスチック材料、セラミック材料及び金属材料からなる群から選ばれる少なくとも1種の材料からなる被着体及び[8]記載の硬化物を貼合してなる積層体。
【0014】
[10]プラスチック材料がポリオレフィンである[9]記載の積層体。
【0015】
[11]プラスチック材料がポリプロピレンである[9]又は[10]記載の積層体。
【発明の効果】
【0016】
本発明の水性エマルジョンは、透明な硬化物を与える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明について詳細を説明する。
本発明に用いられるオレフィン系共重合体は、エチレン及び/又は直鎖状α−オレフィンに由来する構造単位と、下記ビニル化合物(I)に由来する構造単位とを含有する。
CH=CH−R (I)
(式(I)中、Rは、2級アルキル基、3級アルキル基又は脂環式炭化水素基を表す。)
【0018】
ここで、2級アルキル基としては炭素数3〜20の2級アルキル基が好ましく、3級アルキル基としては炭素数4〜20の3級アルキル基が好ましく、脂環式炭化水素基としては、3〜16員環を有する脂環式炭化水素基が好ましい。置換基Rとしては、3〜10員環を有する炭素数3〜20の脂環式炭化水素基、炭素数4〜20の3級アルキル基がより好ましい。
【0019】
置換基Rが2級アルキル基であるビニル化合物(I)の具体例としては、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ヘキセン、3−メチル−1−ヘプテン、3−メチル−1−オクテン、3,4−ジメチル−1−ペンテン、3,4−ジメチル−1−ヘキセン、3,4−ジメチル−1−ヘプテン、3,4−ジメチル−1−オクテン、3,5−ジメチル−1−ヘキセン、3,5−ジメチル−1−ヘプテン、3,5−ジメチル−1−オクテン、3,6−ジメチル−1−ヘプテン、3,6−ジメチル−1−オクテン、3,7−ジメチル−1−オクテン、3,4,4−トリメチル−1−ペンテン、3,4,4−トリメチル−1−ヘキセン、3,4,4−トリメチル−1−ヘプテン、3,4,4−トリメチル−1−オクテンなどが挙げられる。
【0020】
置換基Rが3級アルキル基であるビニル化合物(I)の具体例としては、3,3−ジメチル−1−ブテン、3,3−ジメチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ヘプテン、3,3−ジメチル−1−オクテン、3,3,4−トリメチル−1−ペンテン、3,3,4−トリメチル−1−ヘキセン、3,3,4−トリメチル−1−ヘプテン、3,3,4−トリメチル−1−オクテンなどが挙げられる。
置換基Rが脂環式炭化水素基であるビニル化合物(I)の具体例としては、ビニルシクロプロパン、ビニルシクロブタン、ビニルシクロペンタン、ビニルシクロヘキサン、ビニルシクロヘプタン、ビニルシクロオクタンなどの置換基Rがシクロアルキル基であるビニル化合物;5−ビニル−2−ノルボルネン、1−ビニルアダマンタン、4−ビニル−1−シクロヘキセンなどが挙げられる。
【0021】
ビニル化合物(I)としては、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ヘキセン、3,4−ジメチル−1−ペンテン、3,5−ジメチル−1−ヘキセン、3,4,4−トリメチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン、3,3−ジメチル−1−ペンテン、3,3,4−トリメチル−1−ペンテン、ビニルシクロペンタン、ビニルシクロヘキサン、ビニルシクロヘプタン、ビニルシクロオクタン、5−ビニル−2−ノルボルネンが好ましく、より好ましくは、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3,4−ジメチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン、3,3,4−トリメチル−1−ペンテン、ビニルシクロヘキサン、ビニルノルボルネンであり、更に好ましくは、3,3−ジメチル−1−ブテン、ビニルシクロヘキサンである。最も好ましいビニル化合物(I)は、ビニルシクロヘキサンである。
【0022】
本発明に用いられるオレフィン系共重合体におけるビニル化合物(I)の構造単位の含有量としては、該オレフィン系共重合体を構成する全ての構造単位100モル%に対して、通常、5〜40モル%であり、好ましくは10〜30モル%、より好ましくは10〜20モル%である。
ビニル化合物(I)の構造単位の含有量が5〜40モル%あると、得られる硬化物の接着性が向上する傾向にあるので好ましい。
ビニル化合物(I)の構造単位の含有量は、1 H−NMRスペクトルや13C−NMRスペクトルを用いて求めることができる。
【0023】
本発明で用いられる直鎖状α−オレフィンは、通常、プロピレンを含む、炭素数3〜20の直鎖状α−オレフィンであり、具体的には、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ナノデセン、1−エイコセン等の直鎖状オレフィン類等が挙げられる。これらの中で、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンが好ましく、プロピレンがより好ましく用いられる。
【0024】
本発明で用いられるオレフィン系共重合体において、エチレンに由来する構造単位及び直鎖状α−オレフィンに由来する構造単位の合計含有量としては、該オレフィン系共重合体を構成する全ての構造単位100モル%に対して、通常、95〜60モル%であり、好ましくは90〜70モル%、より好ましくは90〜80モル%である。
【0025】
エチレン及び/又は直鎖状α−オレフィンとしては、エチレンが好適である。
【0026】
本発明で用いられるオレフィン系共重合体は、エチレン及び/又は直鎖状α−オレフィンと、ビニル化合物(I)とを共重合して得られるものであり、さらに付加重合可能な単量体を共重合せしめてもよい。
ここで、付加重合可能な単量体とは、エチレン、直鎖状α−オレフィン及びビニル化合物(I)以外で、エチレン、直鎖状α−オレフィン及びビニル化合物(I)と付加重合可能な単量体であり、該単量体の炭素数は、通常、3〜20程度である。
付加重合可能な単量体の具体例としては、例えば、シクロオレフィン、下記式(II)

(式(II)中、R’、R”は、それぞれ独立に、炭素数1〜18程度の直鎖状アルキル基、炭素数3〜18程度の分枝状アルキル基、炭素数3〜18程度の環状アルキル基、又はハロゲン原子等を表す。)
で表されるビニリデン化合物、ジエン化合物、ハロゲン化ビニル、アルキル酸ビニル、ビニルエーテル類、アクリロニトリル類などが挙げられる。
【0027】
シクロオレフィンとしては、例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、3−メチルシクロペンテン、4−メチルシクロペンテン、3−メチルシクロヘキセン、2−ノルボルネン、5−メチル−2−ノルボルネン、5−エチル−2−ノルボルネン、5−ブチル−2−ノルボルネン、5−フェニル−2−ノルボルネン、5−ベンジル−2−ノルボルネン、2−テトラシクロドデセン、2−トリシクロデセン、2−トリシクロウンデセン、2−ペンタシクロペンタデセン、2−ペンタシクロヘキサデセン、8−メチル−2−テトラシクロドデセン、8−エチル−2−テトラシクロドデセン、5−アセチル−2−ノルボルネン、5−アセチルオキシ−2−ノルボルネン、5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネン、5−エトキシカルボニル−2−ノルボルネン、5−メチル−5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネン、5−シアノ−2−ノルボルネン、8−メトキシカルボニル−2−テトラシクロドデセン、8−メチル−8−メトキシカルボニル−2−テトラシクロドデセン、8−シアノ−2−テトラシクロドデセン等が挙げられ、より好ましくは、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、2−ノルボルネン、5−メチル−2−ノルボルネン、5−フェニル−2−ノルボルネン、2−テトラシクロドデセン、2−トリシクロデセン、2−トリシクロウンデセン、2−ペンタシクロペンタデセン、2−ペンタシクロヘキサデセン、5−アセチル−2−ノルボルネン、5−アセチルオキシ−2−ノルボルネン、5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネン、5−メチル−5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネン、5−シアノ−2−ノルボルネンであり、さらに好ましくは2−ノルボルネン、2−テトラシクロドデセンである。
【0028】
式(II)中、炭素数1〜18程度の直鎖状アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル、n−ブチル基、n−ヘキシル基などが挙げられる。炭素数1〜18程度の分枝状アルキル基としては、例えば、i−プロピル基、i−アミル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基などが挙げられる。炭素数1〜18程度の環状アルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ジシクロペンタヘキシル基などが挙げられる。
【0029】
ビニリデン化合物(II)としては、例えば、イソブテン、2−メチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、2−メチル−1−ヘキセン、2−メチル−1−ヘプテン、2−メチル−1−オクテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ペンテン、2,3−ジメチル−1−ヘキセン、2,3−ジメチル−1−ヘプテン、2,3−ジメチル−1−オクテン、2,4−ジメチル−1−ペンテン、2,4,4−トリメチル−1−ペンテン、塩化ビニリデン等が挙げられ、好ましくは、イソブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2,4,4−トリメチル−1−ペンテンである。
【0030】
ジエン化合物としては、例えば、1,3−ブタジエン、1,4−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、1,7−オクタジエン、1,5−シクロオクタジエン、2,5−ノルボルナジエン、ジシクロペンタジエン、5−ビニル−2−ノルボルネン、5−アリル−2−ノルボルネン、4−ビニル−1−シクロヘキセン、5−エチリデン−2−ノルボルネン等が挙げられ、好ましくは、1,4−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、2,5−ノルボルナジエン、ジシクロペンタジエン、5−ビニル−2−ノルボルネン、4−ビニル−1−シクロヘキセン、5−エチリデン−2−ノルボルネンである。
【0031】
ハロゲン化ビニルとしては、例えば、塩化ビニルなどが挙げられる。
アルキル酸ビニルとしては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニルなどが挙げられる。
ビニルエーテル類としては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテルなどが挙げられる。
アクリロニトリル類としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。
【0032】
オレフィン系共重合体における付加重合可能な構造単位の含有量としては、通常、得られるオレフィン系共重合体変性物の接着性が損なわれない範囲であり、具体的な含有量としては、該オレフィン系共重合体を構成するすべての構造単位100モル%に対して約5モル%程度以下が好ましく、より好ましくは1モル%以下、実質的に付加重合可能な構造単位を含有しない程度の含有量であることがさらに好ましい。
【0033】
本発明で用いられるオレフィン系共重合体の製造方法としては、例えば、インデニル形アニオン骨格、あるいは架橋されたシクロペンタジエン形アニオン骨格を有する基を有する遷移金属化合物を含む触媒の存在下に製造する方法などが挙げられる。中でも特開2003−82028号公報、特開2003−160621号公報及び特開2000−128932号公報に記載の方法に準じて製造する方法が好適である。
【0034】
オレフィン系共重合体の製造においては、用いる触媒の種類や重合条件によっては、本発明の共重合体以外にポリエチレンなどエチレン又はα−オレフィンの単独重合体(ポリオレフィン)やビニル化合物(I)の単独重合体が副生することがある。そのような場合は、ソックスレー抽出器等を用いた溶媒抽出を行うことにより、容易に本発明の共重合体を分取することができる。かかる抽出に用いる溶媒としては、例えば、ビニルシクロヘキサンの単独重合体はトルエンを用いた抽出の不溶成分として除去することができ、またポリエチレンなどのポリオレフィンはクロロホルムを用いた抽出の不溶成分として除去することができ、オレフィン系共重合体は両溶媒の可溶成分として分取することができる。オレフィン系共重合体は、用途により問題なければ、そのような副生物の存在したまま使用してもよい。
【0035】
本発明に用いられるオレフィン系共重合体の分子量分布(Mw/Mn=[重量平均分子量]/[数平均分子量])は、通常、1.5〜10.0程度であり、好ましくは1.5〜7.0程度、より好ましくは1.5〜5.0程度である。該オレフィン系共重合体の分子量分布が1.5以上、10.0以下であると、得られる硬化物の機械的強度及び透明性が向上する傾向にあることから好ましい。
また、機械的強度の観点から、該オレフィン系共重合体の重量平均分子量(Mw)は、通常、5,000〜1,000,000程度であり、好ましくは10,000〜500,000程度であり、より好ましくは15,000〜400,000程度である。該オレフィン系共重合体の重量平均分子量が5,000以上であると得られる硬化物の機械的強度が向上する傾向にあることから好ましく、1,000,000以下であると、該オレフィン系共重合体の流動性が向上する傾向にあることから好ましい。
【0036】
本発明で用いられるオレフィン系共重合体は、機械的強度の観点から極限粘度[η]の値は、通常、0.25〜10dl/g程度であり、好ましくは0.3〜3dl/g程度である。
【0037】
本発明に用いられるオレフィン系共重合体は、さらに、不飽和カルボン酸類に由来する構造単位を含有することが好ましい。不飽和カルボン酸類に由来する構造単位は、前記オレフィン系共重合体に不飽和カルボン酸類をグラフト重合することにより得ることができる。
以下、前記オレフィン系共重合体に、さらに、不飽和カルボン酸類に由来する構造単位を含有する共重合体を本変性物という場合がある。
本変性物における不飽和カルボン酸類のグラフト重合量としては、本変性物100重量%に対して、通常、0.01〜20重量%程度、好ましくは0.05〜10重量%程度、より好ましくは0.1〜5重量%程度である。
不飽和カルボン酸類のグラフト重合量が0.01重量%以上であると、得られる硬化物の接着力が向上する傾向にあるため好ましく、また、20重量%以下であると、得られる硬化物の熱安定性が向上する傾向にあるため好ましい。
【0038】
本発明で使用される不飽和カルボン酸類としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、ナジック酸、メチルナジック酸、ハイミック酸、アンゲリカ酸、テトラヒドロフタル酸、ソルビン酸、メサコン酸などの不飽和カルボン酸;
無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水ナジック酸、無水メチルナジック酸、無水ハイミック酸などの不飽和カルボン酸無水物;
アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸−n−ブチル、アクリル酸−i−ブチル、メタクリル酸−i−ブチル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸ジエチルエステル、フマル酸モノメチルエステル、フマル酸ジメチルエステル、イタコン酸モノメチルエステル、イタコン酸ジメチルエステルなどの不飽和カルボン酸エステル;
アクリルアミド、メタクリルアミド、マレイン酸モノアミド、マレイン酸ジアミド、マレイン酸−N−モノエチルアミド、マレイン酸−N,N−ジエチルアミド、マレイン酸−N−モノブチルアミド、マレイン酸−N,N−ジブチルアミド、フマル酸モノアミド、フマル酸ジアミド、フマル酸−N−モノエチルアミド、フマル酸−N,N−ジエチルアミド、フマル酸−N−モノブチルアミド、フマル酸−N,N−ジブチルアミドなどの不飽和カルボン酸アミド;
マレイミド、N−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミドなどの不飽和カルボン酸イミド;
塩化マレオイルなどの不飽和カルボン酸ハライド;アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、メタクリル酸カリウムなどの不飽和カルボン酸金属塩などが挙げられる。
また、上記の不飽和カルボン酸類を組み合わせて使用してもよい。
不飽和カルボン酸類としては、不飽和カルボン酸無水物が好ましく、無水マレイン酸がより好ましい。
【0039】
本変性物の製造方法としては、例えば、オレフィン系共重合体を溶融させたのち、不飽和カルボン酸類を添加してグラフト重合せしめる方法、オレフィン系共重合体をトルエン、キシレンなどの溶媒に溶解したのち、不飽和カルボン酸類を添加してグラフト重合せしめる方法などが挙げられる。
オレフィン系共重合体を溶融させたのち、不飽和カルボン酸類を添加してグラフト重合せしめる方法は、押出機を用いて溶融混練することで、樹脂同士あるいは樹脂と固体もしくは液体の添加物を混合するための公知の各種方法が採用可能であることから好ましい。より好ましい例としては、各成分の全部もしくはいくつかを組み合わせて別々にヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、ブレンダー等により混合して均一な混合物とした後、該混合物を溶融混練する等の方法を挙げることができる。溶融混練の手段としては、バンバリーミキサー、プラストミル、ブラベンダープラストグラフ、一軸又は二軸の押出機等の従来公知の混練手段が広く採用可能である。特に好ましいのは、連続生産が可能であり、生産性が向上するという観点から、一軸又は二軸押出機を用い、予め十分に予備混合したオレフィン系共重合体、不飽和カルボン酸類、ラジカル開始剤を押出機の供給口より供給して混練を行う方法が推奨される。押出機の溶融混練を行う部分の温度は(例えば、押出機ならシリンダー温度)、通常、50〜300℃、好ましくは80〜270℃である。温度が50℃以上であるとグラフト重合量が向上する傾向があり、また、温度が300℃以下であるとオレフィン系共重合体の分解が抑制される傾向があることから好ましい。押出機の溶融混練を行う部分の温度は、溶融混練を前半と後半の二段階に分け、前半より後半の温度を高めた設定にすることが好ましい。溶融混練時間は、通常、0.1〜30分間、より好ましくは0.1〜5分間である。溶融混練時間が0.1分以上であるとグラフト重合量が向上する傾向があり、また、溶融混練時間が30分以下であるとオレフィン系共重合体の分解が抑制される傾向があることから好ましい。
【0040】
不飽和カルボン酸類をオレフィン系重合体にグラフト重合せしめるためには、通常、ラジカル開始剤の存在下にグラフト重合を実施する。
ラジカル開始剤の添加量は、オレフィン系重合体100重量部に対して、通常、0.01〜10重量部、好ましくは0.01〜1重量部である。添加量が0.01重量部以上であるとオレフィン系重合体へのグラフト重合量が増加して接着強度が向上する傾向があることから好ましく、添加量が10重量部以下であると得られる変性物中における未反応のラジカル開始剤が低減され、接着強度が向上する傾向があることから好ましい。
ラジカル開始剤としては、通常、有機過酸化物が用いられ、好ましくは半減期が1分となる分解温度が50〜210℃である有機過酸化物が用いられる。分解温度が50℃以上であるとグラフト重合量が向上する傾向があることから好ましく、分解温度が210℃以下であるとオレフィン系重合体の分解が低減される傾向があることから好ましい。また、これらの有機過酸化物は分解してラジカルを発生した後、オレフィン系重合体からプロトンを引き抜く作用があることが好ましい。
【0041】
半減期が1分となる分解温度が50〜210℃である有機過酸化物としては、例えば、ジアシルパーオキサイド化合物、ジアルキルパーオキサイド化合物、パーオキシケタール化合物、アルキルパーエステル化合物、パーカボネート化合物等が挙げられる。具体的には、ジセチル パーオキシジカルボネート、ジ−3−メトキシブチル パーオキシジカルボネート,ジ−2−エチルヘキシル パーオキシジカルボネート、ビス(4−t−ブチル シクロヘキシル)パーオキシジカルボネート、ジイソプロピル パーオキシジカルボネート、t−ブチル パーオキシイソプロピルカーボネート、ジミリスチル パーオキシカルボネート、1,1,3,3−テトラメチル ブチル ネオデカノエート,α―クミル パーオキシ ネオデカノエート,t−ブチル パーオキシ ネオデカノエート、1,1ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン,t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート,t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート,t−ブチルパーオキシラウレート,2,5ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン,t−ブチルパーオキシアセテート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブテン,t−ブチルパーオキシベンゾエート、n−ブチル−4,4−ビス(t−ベルオキシ)バレラート、ジ−t−ブチルベルオキシイソフタレート、ジクミルパーオキサイド、α−α‘−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3等が挙げられる。半減期が1分となる分解温度が、50℃より低いと、グラフト重合量が向上しない傾向があり、分解温度が210℃より高くてもグラフト重合量が向上しない傾向がある。
これらの有機過酸化物の中で、ジアルキルパーオキサイド化合物、ジアシルパーオキサイド化合物、パーカボネート化合物、アルキルパーエステル化合物が好ましく用いられる。成分(C)の添加量は、エチレンビニルシクロヘキサン共重合体樹脂(A)100重量部に対して、通常、0.01〜20重量部、好ましくは0.05〜10重量部である。
【0042】
本変性物は、分子量分布(Mw/Mn)が、通常、1.5〜10であり、好ましくは1.5〜7、より好ましくは1.5〜5である。分子量分布が10以下であると、得られる硬化物の接着性が向上する傾向にあるため好ましい。
本変性物の分子量分布は、前記のオレフィン系共重合体の分子量分布と同様に測定することができる。
【0043】
本変性物は、機械的強度の観点から極限粘度[η]の値は、通常、0.25〜10dl/g程度であり、好ましくは0.3〜3dl/g程度である。
【0044】
本発明に用いられる乳化剤は、例えば、α−オレフィンスルホン化物、アルキルサルフェート、アルキルフェニルサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルフェニルスルホコハク酸のハーフエステル塩、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸の金属塩、水溶性アクリル樹脂、ロジン石鹸等のアニオン系乳化剤;
ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどのノニオン系乳化剤;
カチオン系乳化剤などが挙げられる。
後述するように、分散質の体積基準メジアン径が1μm以下であると、得られる硬化物の接着性が向上する傾向があり、好ましいことから、このような微小径の分散質を含有するエマルジョンに用いられる乳化剤としては、例えば、水溶性アクリル樹脂、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが挙げられ、水溶性アクリル樹脂が好ましく用いられる。
【0045】
ここで、水溶性アクリル樹脂とは、α,β−不飽和カルボン酸に由来する構造単位を含有する水溶性の樹脂であり、該樹脂は均一に水に溶解する。
α,β−不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、コハク酸、イタコン酸などが挙げられる。
水溶性アクリル樹脂を構成する他の単量体としては、例えば、炭素数3〜8のα,β−不飽和カルボン酸;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等の炭素数4〜18の(メタ)アクリル酸エステル;エチレンアクリレート、エチレンメタクリレートなどのアクリル酸ビニルエステル;塩化ビニル、臭化ビニルなどのハロゲン化ビニル;塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン類;ビニルホスホン酸、ビニルスルホン酸及びそれらの塩などのビニル化合物;スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン等の芳香族ビニル;(メタ)アクリロニトリル等のニトリル類;N-メチロールアクリルアミド、N-ブトキシメチルアクリルアミド等のアクリルアミド類;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン類;スルホン酸アリル、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートなどのアリル化合物などが挙げられる。
水溶性アクリル樹脂としては、α,β−不飽和カルボン酸、アクリル酸ビニルエステル、及び(メタ)アクリル酸エステルのそれぞれに由来する構造単位を含有することが好ましく、該樹脂を構成する単量体に由来する構造単位の合計100モル%に対し、α,β−不飽和カルボン酸に由来する構造単位を10〜90モル%、アクリル酸ビニルエステルに由来する構造単位を5〜60モル%、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位を5〜85モル%を含有することが好ましい。
【0046】
なお、乳化剤として、複数種の水溶性アクリル樹脂を使用してもよく、水溶性アクリル樹脂、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー及びポリオキシエチレンポリアルキルエーテルを組み合わせて使用してもよい。
【0047】
上記オレフィン系共重合体又は本変性物(以下、総称して本共重合物という場合がある)は、乳化剤とともに乳化されて、本共重合物及び乳化剤からなる分散質が得られる。該分散質の体積基準メジアン径は、通常、0.01〜5μmである。得られる硬化物の接着性の観点からは、該分散質の体積基準メジアン径が0.01〜1μmであることが好ましく、0.05〜0.5μmの体積基準メジアン径を有する水性エマルジョンがより好ましい。
【0048】
本共重合物を分散する方法としては、例えば、(a)本共重合物及び乳化剤を剪断応力を作用させながら混練したのち、水に分散させる方法;(b)本共重合物をトルエンなどの有機溶媒に溶解させ、乳化剤とともに剪断応力を作用させながら混合したのち、水に分散させ、次いで有機溶媒を除去する方法;(c)本共重合物をトルエン、ヘキサン、ヘプタン、キシレン等の有機溶媒で溶解したのち、乳化剤と混合させ、高圧下、常圧下、あるいは超音波をかけながら乳化させ、次いで溶剤を留去する方法などが挙げられる。
本共重合物を分散する方法としては、剪断応力を作用させながら水に分散させる(a)及び(b)の方法が、分散質の体積基準メジアン径を1μm以下にし、結果として、得られる硬化物の接着性が向上する傾向があることから好ましく、有機溶媒の除去が不要な(a)の方法がより好ましい。
【0049】
ここで、剪断応力を作用させる際の剪断速度としては、通常、200〜100000秒−1程度、好ましくは1000〜2500秒−1程度である。剪断速度が200秒−1以上であると、得られるエマルジョンの接着性が向上する傾向があることから好ましく、100000秒−1以下であると、工業的に製造が容易になる傾向があることから好ましい。
なお、剪断速度とはスクリューエレメント最外周部の周速度[mm/sec]をスクリューとバレルとのクリアランス[mm]で除した数値である。
【0050】
剪断応力を作用させる装置としては、例えば、2軸押出機、ラボプラストミル(株式会社 東洋精機製作所)、ラボプラストミルマイクロ(株式会社 東洋精機製作所)などの多軸押出機、ホモジナイザー、T.Kフィルミクス(プライミクス株式会社)などバレル(シリンダー)及び攪拌翼の間に水性エマルジョンを置き、攪拌翼を回転させて剪断応力を与える機器が挙げられる。
【0051】
多軸押出機を例として、具体的なエマルジョンの製造方法を説明すると、スクリューを2本以上ケーシング内に有する多軸押出機のホッパーからオレフィン系共重合体変性物を供給し、加熱、溶融混練させ、更に該押出機の圧縮ゾーン又は/及び計量ゾーンに設けた少なくとも1個の液体供給口より供給された乳化剤と混練したのち、水に分散させる方法などが例示される。
【0052】
上記機器以外の剪断応力を作用させる機器としては、例えば、攪拌槽、ケミカルスターラー、ボルテックスミキサー、フロージェットミキサー、コロイドミル、スタティックミキサー、マイクロミキサー(以上は攪拌翼の回転のみによって剪断応力が作用する)、超音波発生機、高圧ホモジナイザー、分散君(株式会社フジキン)などが挙げられる。
【0053】
本発明のエマルジョンの製造方法としては、分散質と乳化剤とを剪断応力を作用させながら混練したのち、水に分散させる方法が、容易に後述する所望のメジアン径を与えることから好ましく、2軸押出機及び多軸押出機は高粘度の変性物も処理することができることから好ましく、中でも、2軸押出機が好適に用いられる。
【0054】
本発明のエマルジョンにおける分散質の体積基準メジアン径は、通常、0.01〜5μmであり、得られる硬化物の接着性を向上させる観点から、0.01〜1μmが好ましく、中でも、0.05〜0.5μmが特に好ましい。
体積基準メジアン径が0.01μm以上であると、製造が容易なことから好ましく、5μm以下であると、接着性が向上する傾向があることから好ましい。
ここで体積基準メジアン径とは、体積基準で積算粒子径分布の値が50%に相当する粒子径である。
【0055】
本発明の水性エマルジョンは、炭素原子を1〜13個、好ましくは1〜4個有する化合物を含有する。該化合物は、水酸基、アミノ基、又は水酸基とアミノ基の両者を分子内に有し、かつ水酸基又はアミノ基由来の少なくとも2個の水素原子をその分子内に有する。
該化合物としては、分子内に水酸基を少なくとも2個と炭素原子を1〜4個とを有する化合物、分子内にアミノ基を少なくとも2個と炭素原子を1〜4個とを有する化合物が好ましく、特に、尿素類、グリセリン、1-メチル2−ピロリドン又はジエチレントリアミンが好ましい。
【0056】
ここで、尿素類は、式(III)で表される尿素類である。

式(III)中、Qは、酸素原子又は硫黄原子を表し、X1、X2、X3及びXは互いに独立に、水素原子、炭素数1〜6の直鎖アルキル基、炭素数3〜6の分枝アルキル基、又は、X1あるいはX2と、X3あるいはXとが結合した炭素数1〜6のアルキレン基を表すが、アルキル基及びアルキレン基の水素原子は水酸基で置換されていてもよい。
炭素数1〜6の直鎖アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基などが挙げられ、炭素数3〜6の分枝アルキル基としては、例えば、i−イソプロピル基などが挙げられ、炭素数1〜6のアルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基などが挙げられる。
【0057】
尿素類の具体例としては、尿素、メチル尿素、ジメチル尿素、チオ尿素、4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン、1−(2−アミノエチル)−2−イミダゾリジノン、ジエチレントリアミンと尿素との脱アンモニア反応によって得られる1−(2−アミノエチル)−2−イミダゾリジノンを主成分とする混合物などが挙げられる。
尿素類として異なる尿素類を併用してもよい。
尿素類の中で、尿素が入手容易であることから好ましい。
【0058】
炭素原子を1〜13個有する化合物の含有量としては、本共重合物の合計100重量部に対し、通常、0.1〜30重量部、好ましくは、0.3〜10重量部である。該化合物が0.1重量部以上であると、得られる硬化物の透明性が向上する傾向があることから好ましく、30重量部以下であると得られる硬化物の接着性が優れる傾向があることから好ましい。
【0059】
炭素原子を1〜13個有する化合物を含む水性エマルジョンの製造方法としては、例えば、該化合物を本共重合物と混合し、続いて、乳化剤を剪断応力を作用させながら混練したのち、水に分散させて本発明の水性エマルジョンを製造する方法; 該化合物を乳化剤とともに水に混合させたのち本共重合物と剪断応力を作用させながら混練したのち、水に分散させて本発明の水性エマルジョンを製造する方法; 乳化剤及び本共重合物を剪断応力を作用させながら混練したのち水に分散させて水性エマルジョンを得た後、該化合物を混合する方法などが挙げられる。
【0060】
本発明のエマルジョンには、例えば、ポリウレタン水性エマルジョン、エチレン−酢酸ビニル共重合体水性エマルジョンなどの水性エマルジョン、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂、クレー、カオリン、タルク、炭酸カルシウムなどの充填剤、防腐剤、防錆剤、消泡剤、発泡剤、ポリアクリル酸、ポリエーテル、メチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、澱粉などの増粘剤、粘度調整剤、難燃剤、酸化チタンなどの顔料、二塩基酸のコハク酸ジメチル、アジピン酸ジメチル等の高沸点溶剤、可塑剤などを配合してもよい。
中でも、本発明のエマルジョンをポリプロピレンやポリエステルのように界面張力が低い被着体へ塗工する場合、濡れ性を高くするという観点から、必要に応じて、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン等のシリコン系添加剤や、アセチレングリコール系界面活性剤を添加することが好ましい。
充填剤は、難燃性、接着時の塗工性を改良するために使用することが推奨され、その使用量としては、エマルジョンの固形分100重量部に対して、通常、1〜500重量部程度、好ましくは、5〜200重量部程度である。
【0061】
本発明の水性エマルジョンに由来する接着層に貼合される被着材としては、例えば、木材、合板、MDF(中比重繊維板)、パーティクルボード、ファイバーボードなどの木質系材料;壁紙、包装紙などの紙質系材料:綿布、麻布、レーヨン等のセルロース系材料;ポリエチレン(エチレンに由来する構造単位を主成分とするポリオレフィン、以下同じ)、ポリプロピレン(プロピレンに由来する構造単位を主成分とするポリオレフィン、以下同じ)、ポリスチレンなどのポリオレフィン、ポリカーボネート、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体(ABS樹脂)、(メタ)アクリル樹脂ポリエステル、ポリエーテル、ポリ塩化ビニル、ポリウレタンなどのプラスチック材料;ガラス、陶磁器などのセラミック材料;鉄、ステンレス、銅、アルミニウム等の金属材料などが挙げられる。
【0062】
かかる被着体は、複数の材料からなる複合材料であってもよい。また、タルク、シリカ、活性炭などの無機充填剤、炭素繊維などとプラスチック材料との混練成形品であってもよい。
【0063】
被着体の一方が木質系材料、紙質系材料、セルロース系材料などの吸水性を有する被着体の場合には、本発明の水性エマルジョンはそのまま接着剤として用い、他の被着体と貼合することができる。すなわち、吸水性の被着体に水性エマルジョンを塗工したのち、水性エマルジョンに由来する層に他の被着体(吸水性でも非吸水性でもよい)を積層すれば、水性エマルジョンに含まれる水分は吸水性の被着体に吸収され、水性エマルジョンに由来する層が接着層となり、吸水性の被着体/接着層/被着体を有する積層体を得ることができる。
被着体がいずれも非吸水性の場合には、一方の被着体に片面に本発明の水性エマルジョンを塗工したのち、乾燥させ、水性エマルジョンに由来する接着層を形成したのち、他方の被着体を張り合わせ、加熱して接着させればよい。
【0064】
本発明の水性エマルジョンに由来する接着層は、従来から難接着性とされていたポリプロピレンなどのポリオレフィンの被着体とも優れた接着性を有する。
また、同時に、該接着層はポリウレタンの被着体とも優れた接着性を有する。
このように、ポリオレフィンの被着体とポリウレタンの被着体とを接着するためには、従来、塩素系ポリオレフィンを接着層とすることが知られていたが、本発明の水性エマルジョンに由来する接着層は、塩素を含有することがなく、しかも該接着層のみでも、ポリオレフィンの被着体及びポリウレタンの被着体のいずれにも接着性に優れる。中でも、ポリウレタンの被着体が発泡ポリウレタンである積層体は、自動車内外装用に好適である。
【0065】
ここで、ポリウレタンとは、ウレタン結合によって架橋された高分子であり、通常、アルコール(−OH)とイソシアネート(−NCO)の反応によって得られる。実施例に示したような発泡ポリウレタンは、イソシアネートと、架橋剤として用いられる水との反応によって生じる二酸化炭素かフレオンのように揮発性溶剤によって発泡されるポリウレタンである。自動車の内装用には、半硬質のポリウレタンが用いられ、塗料には硬質のポリウレタンが用いられる。
【0066】
被着体としては、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、(メタ)アクリル樹脂、ガラス、アルミニウム、ポリウレタンなどが好ましく、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ガラス、アルミニウム、ポリウレタンがより好ましい。
【0067】
本発明の水性エマルジョンは、透明性が向上した硬化物を与える。
該硬化物は、接着性、成形性、耐熱性、耐溶剤性及び機械的特性に優れる。
また、本発明の水性エマルジョンは、塗料又はプライマーなどに用いることができる。特に、従来、難接着性材料と言われたポリプロピレン上に塗工すると、透明性、接着性、成形性、耐熱性、耐溶剤性及び機械的特性に優れた塗料又はプライマーを与える。
【実施例】
【0068】
以下に、本発明を実施例に基いてさらに詳細に説明するが、本発明がこれら実施例によって限定されるものではないことは言うまでもない。
例中の部及び%は、特に断らないかぎり重量基準を意味する。
固形分は、JIS K-6828に準じた測定方法で行った。
粘度は、25℃でブルックフィールド粘度計(東機産業株式会社製)により測定した値である。
メジアン径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(株式会社 堀場製作所)により測定した体積基準での値である。
極限粘度[η]は、ウベローデ型粘度計を用い、テトラリンを溶媒として135℃で測定した。
【0069】
オレフィン系共重合体及びオレフィン系共重合体の変性物に係る分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフ(GPC)を用い、ポリスチレン(分子量688〜400,000)標準物質で校正した上で、下記条件にて求めた。なお、分子量分布は重量平均分子量(以下、Mwという)と数平均分子量(以下、Mnという)との比(Mw/Mn)で評価した。
機種 Waters製 150−C
カラム shodex packed column A−80M
測定温度 140℃
測定溶媒 オルトジクロロベンゼン
測定濃度 1mg/ml
【0070】
オレフィン系共重合体中のビニルシクロヘキサン単位の含有量は、下記13C−NMR装置により求めた。
13C−NMR装置:BRUKER社製 DRX600
測定溶媒:オルトジクロロベンゼン:オルトジクロロベンゼン−d4=
4:1(容積比)混合液
測定温度:135℃
【0071】
無水マレイン酸のグラフト重合量は、サンプル1.0gをキシレン20mlに溶解し、サンプルの溶液をメタノール300mlに攪拌しながら滴下してサンプルを再沈殿させて回収したのち、回収したサンプルを真空乾燥した後(80℃、8時間)、熱プレスにより厚さ100μmのフイルムを作製し、得られたフイルムの赤外吸収スペクトルを測定し、1780cm−1付近の吸収よりマレイン酸グラフト重合量を定量した。
【0072】
<オレフィン系共重合体の製造例>
アルゴンで置換したSUS製リアクター中にビニルシクロへキサン(以下、VCHと記載する場合がある)386部とトルエン3640部を投入した。50℃に昇温後、エチレンを大気圧から0.6MPaまで加圧して仕込んだ。トリイソブチルアルミニウム(以下、TIBAと記載する場合がある)のトルエン溶液[東ソー・アクゾ(株)製TIBA濃度 20%]10部を仕込み、つづいてジエチルシリル(テトラメチルシクロペンタジエニル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド 0.001部を脱水トルエン 87部に溶解したものと、ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート 0.03部を脱水トルエン 122部に溶解したものを投入し2時間攪拌した。得られた反応液をアセトン 約10000部中に投じ、沈殿した白色固体を濾取した。該固体をアセトンで洗浄後、減圧乾燥した結果、エチレン・ビニルシクロヘキサン共重合体 300部を得た。該共重合体の[η]は0.48dl/gで、Mnは27,000、分子量分布(Mw/Mn)は2.0、融点(Tm)は62℃、ガラス転移点(Tg)は−28℃、共重合体におけるVCHに由来する構造単位の含有率は12.2モル%であった。
【0073】
<オレフィン系共重合体の不飽和カルボン酸類による変性の製造例>
得られたエチレン・ビニルシクロヘキサン共重合体100部に、無水マレイン酸0.4部、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン0.04部を添加して十分に予備混合後に二軸押出機の供給口より供給して溶融混練を行い、エチレン・ビニルシクロヘキサン共重合体の無水マレイン酸変性物(本変性物)を得た。なお、押出機の溶融混練を行う部分の温度は、溶融混練を前半と後半の二段階に分け、前半は180℃、後半は260℃と温度を高めた設定にして溶融混練を行い、本変性物を得た。得られたオレフィン系共重合体変性物のマレイン酸グラフト重合量は0.2%であった。
【0074】
<分散質、乳化剤および水の混合>
東洋精機製ラボプラストミルマイクロのセルを95℃に設定したのち、該セル内に<オレフィン系共重合体変性物の製造例>で得られた変性物3.12gを封入し、毎分300回転で3分間攪拌した。この時の最高剪断速度は1173秒−1であった。その後、乳化剤としてオキシエチレンオキシプロピレンブロック共重合体(重量平均分子量15500:プルロニックF108:旭電化(株)製)0.46gを水0.21gとともに添加し、セル内の温度を95℃に保ちながら、さらに、毎分300回転で3分間混練した(剪断速度1173秒−1)。混練した後、内容物を取り出し、約70℃の温水を入れた容器内で攪拌、分散させ、分散質の体積基準メジアン径が0.43μmのエマルジョンを得た。
【0075】
(実施例1)
次に、<分散質、乳化剤および水の混合>の項で得られたのエマルジョン100部(固形分42%)及び尿素1.6部を500rpmの回転数で30分攪拌し、完全に尿素を溶解させ、本発明の水性エマルジョンを得た。
【0076】
<透明性評価>
水性エマルジョンを75μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルムに、乾燥後の膜厚が10μmとなるようバーコーターにて塗布し、熱風乾燥機で80℃×5分乾燥して硬化物を得た。該硬化物は、全面透明で、異物のない平滑な皮膜であった。
尚、透明性について不透明度で評価した。不透明度とはハンター白色度を用いて、JIS P 8123に準じて測定された値であり、測定された値が大きい値であると白濁して不透明であることを表し、実施例1は、0.6%とほとんど白濁しておらず、透明であった。
【0077】
(実施例2〜4、比較例1〜3)
実施例2〜4および比較例2〜3については、実施例1の尿素に代えて、表1に記載の化合物を混合させて水性エマルジョンを調製し、実施例1と同様に評価した。結果を実施例1とともに表1に示す。
比較例1については、<分散質、乳化剤および水の混合>の項で得られたエマルジョンに尿素等の化合物を混合しない以外は、実施例1と同様にして硬化物を得た。結果を表1に示す。
【0078】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の水性エマルジョンは、透明な硬化物を与えることが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−オレフィン及び/又はエチレンに由来する構造単位と置換基Rを有するビニル化合物(I)に由来する構造単位とを含むオレフィン系共重合体、乳化剤並びに炭素原子を1〜13個有する化合物を含む水性エマルジョンであって、炭素原子を1〜13個有する化合物が水酸基、アミノ基、又は水酸基とアミノ基の両者を有し、かつ炭素原子を1〜13個有する化合物の分子中に水酸基又はアミノ基由来の水素原子を少なくとも2個有する、水性エマルジョン。
CH=CH−R (I)
(式(I)中、Rは、2級アルキル基、3級アルキル基又は脂環式炭化水素基を表す。)
【請求項2】
オレフィン系共重合体が、さらに不飽和カルボン酸類に由来する構造単位を含むオレフィン系共重合体である請求項1記載の水性エマルジョン。
【請求項3】
炭素原子を1〜13個有する化合物が、尿素類、グリセリン、1-メチル2−ピロリドン又はジエチレントリアミンである請求項1又は2記載の水性エマルジョン。
【請求項4】
尿素類が、下記式(III)で表される化合物である請求項1〜3のいずれか記載の水性エマルジョン。

(式(III)中、Qは、酸素原子または硫黄原子を表し、X1、X2、X3及びXは互いに独立に、水素原子、炭素数1〜6の直鎖アルキル基、炭素数3〜6の分枝アルキル基、または、X1あるいはX2と、X3あるいはXとが結合した炭素数1〜6のアルキレン基を表す。但し、アルキル基およびアルキレン基の水素原子は水酸基で置換されていてもよい。)
【請求項5】
乳化剤が、α,β−不飽和カルボン酸に由来する構造単位とアクリル酸ビニルエステルに由来する構造単位と(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位とを含有する水溶性アクリル樹脂、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、及びポリオキシエチレンアルキルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種の乳化剤である請求項1〜4のいずれか記載の水性エマルジョン。
【請求項6】
α−オレフィン及び/又はエチレンに由来する構造単位と置換基Rを有するビニル化合物(I)に由来する構造単位とを含むオレフィン系共重合体及び乳化剤からなる分散質の体積基準メジアン径が0.01〜1μmである請求項1〜5のいずれか記載の水性エマルジョン。
【請求項7】
ビニル化合物(I)がビニルシクロヘキサンである請求項1〜6のいずれか記載の水性エマルジョン。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか記載記載の水性エマルジョンを乾燥してなる硬化物。
【請求項9】
木質系材料、セルロース系材料、プラスチック材料、セラミック材料及び金属材料からなる群から選ばれる少なくとも1種の材料からなる被着体及び請求項8記載の硬化物を貼合してなる積層体。
【請求項10】
プラスチック材料がポリオレフィンである請求項9記載の積層体。
【請求項11】
プラスチック材料がポリプロピレンである請求項9又は10記載の積層体。

【公開番号】特開2008−169380(P2008−169380A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−319334(P2007−319334)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【出願人】(501460383)住化ケムテックス株式会社 (10)
【Fターム(参考)】