説明

ガスエンジンにおける燃料供給弁の異常検知装置および方法

【課題】ガスエンジンにおいて給気中に気体燃料を噴射供給する燃料供給弁の異常を検知する装置、特に、燃料供給弁において運転中に発生する閉弁時のガス漏洩を検出することができるガスエンジンにおける燃料供給弁の異常検知装置を提供する。
【解決手段】燃料ヘッダー25から燃料供給弁26に気体燃料を供給する燃料供給管29の圧力を検出する圧力センサ51と、ガスエンジン10におけるサイクル位相を検出するサイクル位相検出センサ41と、圧力センサの圧力信号とサイクル位相検出センサの位相信号を入力して、燃料供給弁26の閉弁期間における燃料供給管29の圧力に基づいて燃料供給弁の異常を検知して異常信号を出力する異常発信装置50とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスエンジンにおいて給気中に気体燃料を噴射供給する燃料供給弁の異常を検知する装置および方法、特に、燃料供給弁において運転中に発生する閉弁時のガス漏洩を検出することができる異常検知装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮天然ガス、液化プロパンガス、圧縮水素などの気体燃料を利用するガスエンジンは、電力供給はもとより、排熱を利用したコージェネレーション設備などにも利用できる、高効率でクリーンなエンジンとして大きな注目を集めている。
一般に、多連のシリンダを備えるガスエンジンは、気体燃料供給系として、ガス燃料貯留装置から圧力調整弁とフィルターを通って気体燃料が供給される燃料ガス供給ヘッダーと、エンジンシリンダ毎に設けられ、燃料ガス供給ヘッダーから枝管を介して気体燃料が供給される燃料供給弁とを備える。燃料供給弁は、給気ポート内に気体燃料を噴射することにより、所定量の燃料ガスを均等に混合した給気を生成して、エンジンサイクル毎に開く給気弁を介してエンジンシリンダ内に供給するように構成されている。
【0003】
ガスエンジンでは、エンジンサイクル毎に気体燃料を供給する必要があり、また、エンジンシリンダ内で効率よく燃焼させるため、ガス濃度を的確に調整する必要がある。さらに、ガスエンジンでは、エンジンシリンダに供給する燃料の容積がガソリンなどの液体燃料と比較して大きい。
このため、燃料供給弁には、たとえば電磁力駆動により開弁期間を規定することによって正確に計量して燃料ガスを供給できるようにした、短いストロークで大きな開口を形成する形式の、大容量で高速動作可能な電磁弁が利用されている。
【0004】
このような燃料供給弁として、弁体と弁座が複数の同心円状の溝が付いた大面積の平面で接するようになっていて、開弁時にはたとえば0.3mm弱程度のわずかなストロークでも弁体の溝と弁座の溝が連通して開口となるため大量のガスを通すことができ、強力なソレノイドと強力なバネにより全閉と全開の間で2〜3ms程度の高速開閉を行うことができる、ソレノイド駆動のフェースタイプのポペット弁などを使用することができる。
【0005】
燃料供給弁の燃料ガスの供給側には目の細かいフィルターが設置されており、また給気配管から燃料供給弁への逆流は少ないので、普通は、異物が燃料供給弁の弁座部分に到達することはない。しかし、フィルターの異常やエンジンシリンダにおける異常によっては、燃料供給弁に異物が侵入して噛み込む事態が発生しないともいえない。燃料供給弁は、弁体と弁座の大面積のフェース同士が当接して閉止するので、フェースの間に異物が噛み込むと、わずかなギャップができただけでも大量のガスが漏れ出すことになる。
【0006】
燃料供給弁にガス漏洩異常が発生すると、エンジンシリンダにおける混合気のガス濃度が可燃範囲より濃い側に外れる場合に爆発を起こさなくなるばかりでなく、未燃の混合気が排気マニホールドに流れ下って他のエンジンシリンダからの排気ガスと集合して混合したときに、排気ガス中の酸素によって燃料ガスが希釈されて、排気マニホールド内の混合気が可燃範囲に属する空燃比を示すようになる場合が生じる。
排気マニホールドにおける混合気が可燃範囲にあれば、排気マニホールドで着火し燃焼することにより放出されるエネルギーが、排気マニホールドの下流に存在する過給機、排気ガス浄化用の触媒、ボイラ、消音機などを損傷させるおそれがある。
【0007】
このため、燃料供給弁の閉弁時にガス漏洩が生じたときには、直ちにそれを検知して、エンジンの停止など、何らかの対策をとることができるようにすることが望まれる。このためには、ガスエンジンの動作中に燃料供給弁のガス漏洩を直ちに検知する異常検知装置が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−250141号公報
【特許文献2】特開2002−332878号公報
【特許文献3】特開2001−032751号公報
【0009】
特許文献1は、ロータリエンジンなどのガスエンジンに燃料として水素を供給する水素噴射弁について、閉止時に開いたままとなりガスの漏洩を生じる開故障を検出する装置について開示している。開示された開故障検出装置は、水素噴射弁の上流に遮断弁を設けて、検査するときに水素噴射弁と遮断弁を閉止して、これら弁に挟まれた燃料供給通路内の圧力を観察し、圧力が低下すれば水素噴射弁に漏洩があると判断するものである。
特許文献1記載の装置は、水素の遮断弁を閉止して検査する必要があるので、エンジンが停止しているときにしか検査できない。したがって、運転中に異物が噛み込んで完全な閉止ができなくなる事故を発生後直ちに検知して対策することには使用できない。
【0010】
特許文献2は、ガスエンジンの給気マニホールドに供給する給気中に燃料ガスを噴射するインジェクタ(ニードル弁)のガス漏れを検出できるようにした燃料噴射装置を開示している。開示された燃料噴射装置は、排気マニホールドの酸素濃度を検出して求める実測の空気過剰率と、エンジンの回転数と給気マニホールドにおける過給圧とから求める目標の空気過剰率との偏差が無くなるように燃料噴射装置のインジェクタの開度を調整し、そのときの開弁指令と使用初期の同じ条件におけるインジェクタの開弁指令との差が大きくなったら意図しない漏洩が生じていると判定するものである。
【0011】
特許文献2記載の装置は、給気に対するガス燃料の噴射装置における漏洩を検出するものであるが、多連のシリンダの各々に分配する前の給気マニホールドにおける空気過剰率を調整するものであるため、1つのシリンダに異常が生じる事態に対応するものではない。また、排気マニホールドにおける空気過剰率の測定値が用いられるので、少なくとも排気マニホールドに変化が現れるまで異常を検知することができず、迅速な対応をとるための助けにならない。
【0012】
特許文献3は、車両走行中においても燃料漏れを検出することができる気体燃料車の燃料漏洩検出装置を開示している。燃料噴射弁の上流の燃料供給通路に圧力センサを設けて、燃料噴射弁を閉止したときに、弁に漏れがなければ燃料供給通路の圧力は上昇してレギュレータで調圧された圧力に近づくので、所定の時間後に所定の圧力より低ければ、弁に漏れがあると判定するようにしたものである。
特許文献3記載の検出装置は、走行中に検出できると記載されているが、燃料噴射弁を閉止することが必要なため、走行中の減速時や高速走行時等においてフューエルカットの状態にあることが条件で、燃料噴射弁の稼働中に異常を検出する装置ではない。また、異常を遅滞なく検出する性能はない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ガスエンジンにおいて給気中に気体燃料を噴射供給する燃料供給弁の異常を検知する装置、特に、燃料供給弁において運転中に発生する閉弁時のガス漏洩を検出することができるガスエンジンにおける燃料供給弁の異常検知装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明のガスエンジンにおいて気体燃料を給気ポートに供給する燃料供給弁の異常検知装置は、燃料ヘッダーから燃料供給弁に気体燃料を供給する燃料供給管の圧力を検出する圧力センサと、ガスエンジンにおけるサイクル位相を検出するサイクル位相検出センサと、圧力センサの圧力信号とサイクル位相検出センサの位相信号を入力して、燃料供給弁の閉弁期間における燃料供給管の圧力に基づいて燃料供給弁の異常を検知して異常信号を出力する異常発信装置と、を備えることを特徴とする。
【0015】
正常時は、燃料供給弁の開弁状態では燃料供給管内の気体燃料が高速な流れとなり動圧を発生する上、流れることで摩擦により圧力降下するので、燃料供給管における靜圧は低下する。また、燃料供給弁が閉止して気体燃料に流れがない状態では、燃料供給管の内部の圧力が燃料ヘッダーにおける燃料の圧力(燃圧)と同じ圧力になる。
ところが、異物の噛み込みなど、燃料供給弁の閉弁期間に気体燃料が漏洩し続けるような故障が発生すると、閉弁期間においても燃料供給管における気体燃料の流れが継続して動圧が残り、靜圧が閉弁期間における正常値に回復しないことになる。
【0016】
本発明に係る、ガスエンジンにおいて気体燃料を給気ポートに供給する燃料供給弁の異常検知装置は、燃料供給管の圧力が燃料供給弁の閉弁期間に正常値まで回復しないことを検知し、これに基づいて異常の発生を判定して報知する。燃料供給管における圧力異常は閉弁状態に異常が起きると直ちに発生するので、異常が発生したサイクル中に異常を検知することができる。本発明により、簡単な要素追加によって、エンジン運転中に発生した異物噛み込みなどの燃料供給弁の異常を発生後直ちに高い信頼性で検知して報知するので、燃料漏洩事故が大きな事故に発展しないように適切な対策をとることができる。
【0017】
燃料供給弁に気体燃料を供給する燃料供給管の壁に設けた圧力センサは、燃料供給管の圧力を検出するが、適正に取り付ければ取付位置における靜圧に対応する圧力の変化を検出することができる。
また、燃料供給管の壁に設ける圧力センサは、燃料供給管に設けた絞りの下流に設けることが好ましい。
この絞りは燃料供給弁が作動したときに生じる圧力低下が他のシリンダに影響を及ぼさないために設けられたものである。気体燃料を給気に供給するときに絞りにより燃料の流速が増大して動圧が大きくなり靜圧が大きく減少するので、圧力センサを絞りの下流に設けたときには、気体燃料の流れを検出するときの検出感度が高くなる。特に、圧力センサを絞りによる縮流の最も著しい位置に設けると、靜圧の減少が最大になり、最高の感度を得ることができる。
【0018】
サイクル位相検出センサは、ピストンにより回転するクランクの回転位相を検出するセンサであってもよい。この位相センサは従来のガスエンジンにおいてもエンジン制御に利用するため設置されているので、新しく設置する必要がない。また、サイクル位相センサは、燃料供給弁の駆動信号に基づいて必要な位相位置を認知するものであってもよい。燃料供給弁の駆動信号は従来のガスエンジンの制御装置から発信される信号であるので、異常発信装置でこの駆動信号と燃料供給管の圧力信号を取り込んで、演算により閉弁期間における靜圧の異常を認識するようにすることができる。このような装置では、サイクル位相センサをガスエンジンの制御装置で代替したことと同然である。
【0019】
燃料供給弁上流の燃料供給管では、燃料供給弁が開くと燃料供給管内の気体燃料が流れて動圧が発生し靜圧が減少する。したがって、正常時にもサイクル毎に燃料供給弁が開弁して靜圧の低下が発生するので、靜圧が低下しないはずの閉弁期間において靜圧の低下が発生したときにはじめて燃料供給弁の閉弁異常と判定しなければならない。
比較的単純な判定条件として、通常気体燃料を噴射しないタイミングであるピストンの下死点位置における靜圧値の変化状況に基づく方法がある。また、燃料供給弁の開閉を指示する信号がシリンダ制御装置で生成されるので、この閉信号を用いて判定する方法もある。
【0020】
本発明における異常発信装置は、燃料供給弁の閉弁期間における靜圧に基づいて燃料供給弁の異常を検知して異常信号を出力するが、具体的手法として、燃料供給弁の閉弁期間に測定した燃料供給管の検出圧力が低下するとき、また、ガスエンジンにおけるピストンが下死点近傍に来たときに検出圧力がそれまでの値より低下するとき、それらの低下量が所定値より大きい場合に異常検知信号を発生するようにすることができる。
【0021】
なお、異常検知の上で問題になるのは、燃料供給管の圧力が燃料ヘッダーの燃圧まで回復するか否かであるが、燃料ヘッダーの燃圧も変動する虞があるので、従前から利用されている燃圧センサの出力を取り込んで、燃料供給管の圧力と燃圧の差圧に基づいて異常判定を行うようにしてもよい。なお、燃圧情報はエンジン制御装置から取得するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明のガスエンジンにおける燃料供給弁の異常検知装置は、ガスエンジンにおいて燃料供給弁に異物の噛み込みなどを原因とする閉弁期間の漏洩異常が発生したときに、エンジンの稼働中でも直ちに異常を検知して異常信号を発生するので、排気マニホールドにおける燃焼などの事故に発展する前に有効な措置をとることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の1実施例に係るガスエンジンにおける燃料供給弁の異常検知装置を説明するフローシートである。
【図2】本実施例における圧力センサの取付位置を示す一部切り欠き正面図である。
【図3】本実施例における燃料供給管で検出された圧力変化の例を示すグラフである。
【図4】本実施例の異常検出原理を説明するグラフである。
【図5】本実施例の異常検出手順を説明する流れ図ある。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、図番の異なる図面においても、同一の構成要素には同一の参照番号を付して、理解の容易化を図った。
図1は、本発明の1実施例に係る燃料供給弁の異常検知装置を適用したガスエンジンの概要を示すフローシートである。
【0025】
本実施例に係るガスエンジン10は、液体燃料を使う内燃機関と同様、シリンダヘッド20とエンジンシリンダ11とピストン12で囲まれた空間を燃焼室とし、燃焼室には給気弁15を介して給気ポート13が接続され、排気弁16を介して排気ポート14が接続されている。
給気弁15を開いて燃焼室に燃料ガスと混合された給気を供給し、点火プラグ19で点火すると燃焼室内のガスが膨張してピストン12がエンジンシリンダ11の中を押し下げられ、コネクティングロッドを介してクランク軸21を回転させる。
【0026】
クランク軸21は、ガスエンジンを構成する多連のシリンダそれぞれのピストンで適宜な位相差をもって駆動されて連続的に回転する。クランク軸21の回転に伴いピストン12が下死点を通過して押し上げられている間に排気弁16が開いて、燃焼ガスが排気ポート14を通して排除される。
クランク軸21が回転することにより発電機22を駆動して電力を生成することができる。
燃焼室は、ピストン12が往復運動する主燃焼室17と、主燃焼室17の天井部に開口を有し点火プラグ19が設けられた副室18で構成して、性能向上を図っている。
【0027】
給気は、過給機35を通って給気マニホールド23に供給される。給気マニホールド23は、複数のシリンダの給気ポート13と接続され、各シリンダに均質の給気を分配する。なお、過給機35は排気ガスのエネルギーを使って給気の密度を高めるもので、給気の密度を高めることによってエンジンの出力を増大させることができる。
【0028】
ガスエンジン10の各シリンダでは、シリンダ毎にそれぞれ給気ポート13で給気中に気体燃料を噴射注入して、適宜なガス濃度を有する混合気を生成し燃焼室に供給する。
一方、排気ポート14に排出された排気ガスは、複数のシリンダの排気ポート14と接続された排気マニホールド24に集合した後に、過給機35、脱臭脱硝装置36、ボイラ37、消音機38の排気ガス処理装置を順次通過して、大気に放出される。
脱臭脱硝装置36は、吸着材や触媒などを用いて、臭気成分と窒素酸化物を除去する装置である。
【0029】
気体燃料は、気体燃料貯留装置31に供給されて保持されていて、遮断弁32を介してレギュレータ33に供給され、圧力調整された上でヘッダー25に供給される。ヘッダー25は、シリンダ毎に枝管28を備えて、枝管28の先に絞り34を介して燃料供給管29を接続している。燃料供給管29の下端は燃料供給弁26の供給口に接続されて、燃料供給弁26にヘッダー25からの気体燃料を供給する。
【0030】
燃料供給弁26は、わずかなストロークで大きな開口を形成して短時間で大量のガスを流せる電磁弁で、平板で形成された弁座と、弁座の平板の平面と接して流路を遮断する平板を有する弁体を有する。なお、弁座の平板と弁体の平板には、それぞれ同心円状に溝が形成されていて、弁座と弁体が平面接触するときには、溝同士が互いにずれて当たって通路を遮断して閉弁状態になり、弁座と弁体が離れるときには僅かに別れただけで溝同士が導通して大きな開口を形成するようになっている。
【0031】
また、ヘッダー25における気体燃料を十分高い圧力に調整して、給気との差圧を50〜200kPa程度にすることにより、大流量を確保することができる。
さらに、燃料供給弁26の弁体を引きつける電磁石は強力で、弁体を弁座から短時間で引き外して大きな開口を形成させることができ、また、弁体を弁座に押し付けるバネも強力であるので、弁の開閉は2〜3ms程度の速い応答性を有する。
なお、燃料供給弁26の開弁時間により、気体燃料の供給量を高い再現性を持って設定することができる。
燃料供給弁26の出口は、給気ポート13に開口している。
【0032】
各シリンダの制御は、エンジン制御装置40により実施される。エンジン制御装置40には、たとえば給気ポートに設けられた圧力発信器42から供給される給気圧力信号や、クランク軸21の回転位相を測定する回転位相計41から供給されるクランク角度信号や、燃料ヘッダー25に設けられた燃圧センサ43から供給される気体燃料の燃圧信号や、発電機22の性能を測定する諸元の指標などを入力して、ガスエンジン10の状況を把握する。
【0033】
これらの情報に基づき、発電機22の現状出力を算定して、設定された目標出力と比較し、偏差がある場合は、その偏差を解消するように各種の制御変数を調整する。給気圧力を用いて給気中に供給する気体燃料の量を調整し、燃焼室中の空燃比を制御することができる。また、クランク角度に基づいて、点火プラグ19、給気弁15、排気弁16、燃料供給弁26などの作動タイミングをはかり、これらに作動指令を発する機能を有する。
【0034】
本実施例においては、燃料供給弁26の異常を稼働中に検出することができる燃料供給弁の異常検知装置を発明に係る主要な要素としている。
燃料供給弁26は、平板で形成された弁座と、弁座の平板の平面と接して流路を遮断する平板を有する弁体を有し、0.3mm未満の極めて小さなストロークで開閉の切り替えをする。
このため、極めて小さな異物が嵌入しただけでも弁体の平面と弁座の平面が密着して閉止することができなくなり、弁の閉止不良となって、大量の気体燃料が漏洩して給気中に混入する。
【0035】
燃料供給弁26にガス漏洩異常が発生すると、燃焼室における混合気のガス濃度が可燃範囲より濃い側にずれて爆発を起こさなくなったり、未燃の混合気が排気マニホールド24に流れ下って他のエンジンシリンダからの排気ガスと集合して、排気ガス中の酸素と混合したときに、排気マニホールド24内の混合気の空燃比が可燃範囲に入るようになったりするおそれがある。
また、給気弁15が閉止した後でも気体燃料が供給されて、給気ポート13に燃料過濃の混合気が生成し、次の給気行程で燃焼室に供給されても燃焼せずに排気ポート14に排出され、他のエンジンシリンダからの排気ガスと集合する排気マニホールド24において可燃範囲にある混合気が継続的に生成するおそれをもたらす。
【0036】
排気マニホールド24における混合気が可燃範囲にあって排気マニホールド24で着火し燃焼することにより余剰のエネルギーが放出されると、下流に存在する過給機35の構造、脱臭脱硝装置36の吸着剤や触媒、ボイラ37の熱交換器、消音機38の構造などを損傷させるおそれがある。
これらの装置が損傷を受ければ、大がかりな補修工事が必要となり、大きな被害を受けることになる。
【0037】
このため、本実施例では、燃料供給弁の閉弁時にガス漏洩が生じたときに、直ちにそれを検知して、エンジン制御装置40に警報信号を伝送したり、運転員に報知したりする異常検知装置を備えることにより、エンジンの停止など、適宜な対策をとることを可能にしている。
本実施例の異常検知装置は、気体燃料のヘッダー25から燃料供給弁26に気体燃料を供給する燃料供給管29における靜圧に対応する圧力を検出する圧力センサ51と、ガスエンジン10におけるサイクル位相を表すサイクル位相信号と圧力センサ51の靜圧信号を入力して燃料供給弁26の閉弁期間における燃料供給管29の圧力に基づいて燃料供給弁26の異常を検知して異常信号を出力する異常発信装置50と、を備える。
【0038】
図2は、燃料供給管29の圧力を検出する圧力センサ51を設置する位置を説明する一部切り欠き正面図である。
燃料ヘッダー25に枝管28がシリンダ毎に設けられている。枝管28の先には絞り34を介して燃料供給管29が接続されている。さらに、燃料供給管29の端末は燃料供給弁26の入り口に接続されている。燃料供給弁26の出口は給気ポート13に開口して、燃料供給弁26が開弁状態のときに給気ポート13の給気中に気体燃料を噴射して混合させるようになっている。
【0039】
ここで、圧力センサ51は、燃料供給管29の絞り34の直下位置に側面から取り付けられて、測定位置の靜圧に対応する管内の圧力を測定して圧力信号を異常発信装置50に伝送する。
図3は圧力センサ51の出力信号例を示すグラフ、図4は異常検出原理を説明するグラフ、図5は異常検出手順を例示して説明する流れ図である。
図3のグラフは、正常に稼働しているガスエンジンについて測定した結果で、横軸に経過時刻を示し、右側の縦軸に回転数をとって、ピストン12の上死点位置における回転数を示し、左の縦軸に適宜な圧力を基準として得られる差圧をプロットして、燃料供給管29における燃料ガスの靜圧相当圧力の変化を示している。
【0040】
図3によれば、燃料供給管29における燃料ガス圧力は、給気行程において燃料供給弁26が開いて給気中に気体燃料を供給する間に急激に減圧した後に急激に回復するパターンを示すが、燃料供給弁26の閉弁期間では燃料ヘッダー25の燃圧とほぼ同じ圧力になる。開弁期間における燃料供給管29における圧力が、毎回7kPa程度低下することが分かる。
図3は、クランク軸21の回転数が徐々に増加していく状態を示していて、クランク軸21の回転数が増加するにつれて燃料供給管29における圧力も増加しているが、増加率は小さく、燃料供給弁26の開閉に伴う減圧状況の把握を妨げるほどではない。
【0041】
図4は、上段のグラフで給気弁15と排気弁16と燃料供給弁26の開閉状態を示し、下段のグラフで弁の開閉に伴う燃料供給管29の圧力変化を示す。燃料供給弁26に、異物噛み込みなど、閉弁期間に弁が完全に閉止しない異常が発生すると、図4の燃料供給管圧力変化における右端のパターンに示すように、燃料ヘッダー25における圧力(燃圧)まで回復しない状況が生じる。
【0042】
そこで、本実施例では、燃料供給管26の圧力センサ51の出力を監視していて、このようなパターンの発生を検出したら、警報を発生するように構成することにしたものである。
ところが、圧力センサ51の出力は、正常時においても燃圧と燃料供給弁が開いたときの減圧状態の間を変化するので、単に出力を閾値と比較するだけでは異常状態の識別をすることができない。
このため、本実施例では、圧力センサ51の出力変化のうち、燃料供給弁26の開弁によって減圧する期間を外して、閉弁状態における測定圧力を比較するようにしている。
【0043】
図4および図5に示す検出手法は、給気および圧縮行程における下死点における圧力に基づいて管理する場合を示すものである。燃料供給弁26は、給気弁15が開いた直後から給気弁15が閉じるまでの間の適宜な時間幅に亘って開弁される。燃料供給弁26の開弁時間により、燃焼室における混合気の空燃比を設定する。なお、給気弁15が閉じてからピストン12が下死点を通過して圧縮行程が始まるので、燃料供給弁26は下死点のタイミングでは必ず閉弁状態になっている。
【0044】
そこで、本実施例の異常検知装置は、エンジン制御装置40からクランク角度の情報を取り込んで(S11)、対象とするシリンダの給気および圧縮行程における下死点のタイミングを検出し(S12)、圧力センサ51の圧力信号を取り込んで下死点タイミングの圧力値を抽出して監視しておいて(S13)、下死点における燃料供給管29の圧力と最近の平均値との差をとって(S14)、その差圧がたとえば2〜3kPa程度に設定された閾値より大きく低下したときに(S15)、燃料供給弁26に異常が発生したと判断して異常検出信号を発生する(S16)。なお、差圧が大きくないときは(S15)、測定した圧力値を追加して最近の平均値を算出して(S17)、次の判定のために準備する。
【0045】
なお、図3に示されるように、燃料ヘッダー25における燃圧も変動する場合があるので、燃料供給管29の圧力を過去の測定値あるいは最新のいくつかの測定値の平均値と比較するようにしてもよい。ここで利用する平均値は、移動平均値であっても、古い測定値に掛ける重みを徐々に小さくした加重平均値であってもよい。
さらに、燃料ヘッダー25に設置した燃圧センサ43で直接測定した燃圧値と比較することにより判定するようにしてもよい。なお、燃圧センサ43は、従来のガスエンジンにおいてもエンジン制御のため設置されている場合があるが、このような場合には既設のセンサを利用することができる。
また、クランク角度信号は、クランク軸21に設置した回転位相計41から直接受信するようにすることもできる。
異常検出信号は、エンジン制御装置40に供給して、緊急停止操作を開始させるようにしてもよい。あるいは、操業者の判断を求めるために警報に留めるようにしてもよい。
【0046】
燃料供給弁26の閉弁状態を判定するため、燃料供給弁26の作動指令信号や給気弁15が閉じている時のクランク角度位相検出信号を使う方法もある。燃料供給弁26を閉じる指令が発しられた後、適宜な時間が経過すれば、通常は完全に気体燃料の流れが止まって、燃料供給管29の圧力は燃料ヘッダー25の燃圧に戻っている。したがって、エンジン制御装置40から燃料供給弁26の閉弁指令信号を取得することにより、簡単に判定に使用するタイミング信号を得ることができる。
【0047】
なお、給気弁15が閉じるときは燃料供給弁26が閉じているはずであるので、給気弁15の閉弁指令信号が発せられたタイミングにおける圧力信号をそのまま利用して異常の発生を判定することもできる。
また、本実施例における異常発信装置は、専用の電子回路により構成してもよく、また汎用のマイクロコンピュータにより構成することもできる。さらに、ガスエンジンのための制御装置を構成する電子回路の一部として構成するようにしてもよい。
【0048】
本実施例は、副室を備えた4サイクルガスエンジンを例にとって発明を説明するものであるが、副室がなくても、また2サイクルエンジンであっても、発明に係る技術的思想を適用できることはいうまでもない。また、図で説明するガスエンジンは発電機を駆動するものであるが、車輪やスクリューなどを駆動して車両や船舶の運行に利用するものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のガスエンジンにおける燃料供給弁の異常検知装置は、燃料供給弁の異常を発生直後に検出するので、検出信号をそのまま制御装置に供給して緊急停止をしたり、操作員に報知して適切な対処を促したりして、燃焼ガス処理工程の諸装置や触媒などを破損することを防止することができるので、ガスエンジンを利用する発電や回転動力分野などにおいて、効果的に利用することができる。
【符号の説明】
【0050】
10 ガスエンジン
11 エンジンシリンダ
12 ピストン
13 給気ポート
14 排気ポート
15 給気弁
16 排気弁
17 主燃焼室
18 副室
19 点火プラグ
20 シリンダヘッド
21 クランク軸
22 発電機
23 給気マニホールド
24 排気マニホールド
25 燃料ヘッダー
26 燃料供給弁
28 燃料供給管(枝管)
29 燃料供給管
31 気体燃料貯留装置
32 遮断弁
33 レギュレータ
34 絞り
35 過給機
36 脱臭脱硝装置
37 ボイラ
38 消音機
40 エンジン制御装置
41 回転位相計
42 圧力センサ
43 燃圧センサ
50 異常発信装置
51 圧力センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスエンジンにおいて気体燃料を給気ポートに供給する燃料供給弁の異常を検知する異常検知装置であって、
燃料ヘッダーから前記燃料供給弁に気体燃料を供給する燃料供給管における圧力を検出して圧力信号を出力する圧力センサと、
ガスエンジンにおけるサイクル位相を検出して位相信号を出力するサイクル位相検出装置と、
前記圧力センサの圧力信号と前記サイクル位相検出装置の位相信号を入力して、前記燃料供給弁の閉弁期間における前記燃料供給管における圧力に基づいて前記燃料供給弁の異常を検知して異常信号を出力する異常発信装置と、
を備えることを特徴とするガスエンジンにおける燃料供給弁の異常検知装置。
【請求項2】
前記圧力センサが、前記燃料供給管に設けた絞りの下流に設けられることを特徴とする請求項1記載のガスエンジンにおける燃料供給弁の異常検知装置。
【請求項3】
前記異常を検知するために用いられる前記燃料供給管における圧力が、前記燃料供給管に設けられた圧力センサにより得られる圧力値と前記燃料ヘッダーに設けられ気体燃料の圧力を測定する燃圧センサにより得られる圧力値との差圧であることを特徴とする請求項1または2記載のガスエンジンにおける燃料供給弁の異常検知装置。
【請求項4】
前記サイクル位相検出装置が、前記ガスエンジンで回転するクランクの回転位相を検出するセンサであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のガスエンジンにおける燃料供給弁の異常検知装置。
【請求項5】
前記サイクル位相検出装置が、前記燃料供給弁の駆動信号に基づいてサイクル位相を判定する前記異常発信装置に収納された電子回路もしくはコンピュータを作動させるコンピュータプログラムであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のガスエンジンにおける燃料供給弁の異常検知装置。
【請求項6】
前記異常発信装置が、前記燃料供給弁の閉弁期間における前記燃料供給管における圧力がそれ以前に測定された該圧力と比較して所定値より大きく低下したときに異常検知信号を発生することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のガスエンジンにおける燃料供給弁の異常検知装置。
【請求項7】
前記燃料供給弁の閉弁期間における前記燃料供給管における圧力が、前記ガスエンジンにおけるピストンが下死点近傍に来た時点で測定した値であることを特徴とする請求項6記載のガスエンジンにおける燃料供給弁の異常検知装置。
【請求項8】
ガスエンジンにおいて気体燃料を給気ポートに供給する燃料供給弁の異常を検知する異常検知方法であって、
燃料ヘッダーから前記燃料供給弁に気体燃料を供給する燃料供給管に設けた圧力センサから検出した圧力を表す圧力信号を入力し、
ガスエンジンにおけるサイクル位相を検出するサイクル位相検出装置から検出したサイクル位相を表すサイクル位相信号を入力し、
前記燃料供給弁の閉弁期間における前記燃料供給管における圧力に基づいて前記燃料供給弁の異常を検知して異常信号を出力する
ことを特徴とするガスエンジンにおける燃料供給弁の異常検知方法。
【請求項9】
請求項1から7のいずれか1項に記載の異常検知装置を備えるガスエンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−132418(P2012−132418A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287567(P2010−287567)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】