説明

ガスセンサとその製造方法

【課題】ガス選択性が高く、常温での使用が可能であり、製造も容易なガスセンサとその製造方法を提供する。
【解決手段】ケイ化鉄に不純物を添加して成る2種類の異なる材料を絶縁性の基板14上に形成し、各材料の一方の端部には水素ガス選択性を持たせたPt触媒膜18を積層し、他方の端部には電極20を形成する。ケイ化鉄の2種類の異なる材料は、β−FeSi又はβ−FeSiを形成し得る成分と、アクセプターとを含む層(p型)、及びβ−FeSi又はβ−FeSiを形成し得る成分と、ドナーとを含む層(n型)からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水素ガス等の気体を選択的に検知するガスセンサとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば燃料として水素ガスの利用が検討されている。水素ガスは、潜在的に資源が豊富な燃料であり、環境負荷が少ないといった利点がある反面、爆発し易いという欠点がある。水素ガスの供給源としては、天然ガスが有力であり、水素ガスを利用した燃料電池やその水素エネルギーを多用する社会を築く為には、水素ガス等のガス漏れに対する安全装置・センサが不可欠となる。
【0003】
従来の水素ガス等のセンサとしては、酸化物半導体の一つである酸化スズの表面に吸着した酸素と水素等のガスとの反応に伴う酸化スズの電気抵抗の変化を検出するものが存在した。例えば、特許文献1,2,3に開示されたガスセンサは、基板上に酸化スズを主成分とする金属酸化物半導体膜層を備え、金属酸化物半導体膜層に電気的に接続された検出電極を備えて構成された半導体ガスセンサであり、センサ温度を数100℃に設定して、水素ガスを検出するものである。
【特許文献1】特開2001−33425号公報
【特許文献2】特開平7−260727号公報
【特許文献3】特開平7−128268号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の酸化スズを利用した水素ガスセンサにおいて、酸素分子の吸脱着を十分に起こさせる為には、センサを高温に加熱する必要があり、最適な温度範囲が限定されるものであった。更に水素ガスの他にもメタンガス、CO等の可燃性ガスにも応答するといった問題がある。従って、ガス選択性を持たせるためには、センサ表面を揮発性有機シリコン等のガスに露出させて、表面に薄い膜を形成させる等の複雑な工程を施す必要があり、製造が難しいものである。
【0005】
本発明は、上記従来の技術の問題点に鑑みて成されたもので、ガス選択性が高く、常温での使用が可能であり、製造も容易なガスセンサとその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、ケイ化鉄に不純物を添加して成る2種類の異なる材料を絶縁性の基板上に形成し、各材料の一方の端部にはガス選択性を持たせた触媒膜を積層し、他方の端部には電極を形成して成るガスセンサである。
【0007】
前記ケイ化鉄の2種類の異なる材料は、β−FeSi又はβ−FeSiを形成し得る成分と、アクセプターとを含む層(p型)、及びβ−FeSi又はβ−FeSiを形成し得る成分と、ドナーとを含む層(n型)からなる。
【0008】
前記ガス選択性を持たせた触媒膜はPt触媒膜であり、検出するガスは水素である。さらに、前記2種類の異なる材料は、前記基板上に形成した熱電対パターンから成り、前記2種類の異なる材料の熱電対パターンは、互いに端部が接合してU字状に形成されたパターン、或いはAg−Pd等からなる導電体により接合されたパターンから成る。また、前記熱電対パターン上の前記触媒膜以外の箇所に、セラミック或いはガラスコーティングからなる保護膜を形成しても良い。
【0009】
またこの発明は、2種類の異なる材料が接合されてなる熱電対パターンを絶縁性の基板上に形成したガスセンサの製造方法において、前記基板上に前記熱電対パターンをスクリーン印刷、或いはスパッタ蒸着により形成し、前記熱電対パターンを熱処理して温度検知機能を持たせ、この熱電対パターンの一方の端部にガス選択性を持たせた触媒膜を積層するガスセンサの製造方法である。
【0010】
前記2種類の異なる材料は、ケイ化鉄又はケイ化鉄を形成し得る成分とアクセプターとを含む層及び、ケイ化鉄又はケイ化鉄を形成し得る成分とドナーとを含む層からなり、前記熱処理より前記熱電対パターンにアニール処理を行い、前記2種類の異なる材料を半導体のβ−FeSiへ相変態させるものである。
【0011】
前記ガス選択性を持たせた触媒膜はPt触媒膜であり、このPt触媒膜を、スパッタ蒸着、或いはPtペーストを用いたスクリーン印刷により形成するものである。
【発明の効果】
【0012】
この発明のガスセンサとその製造方法によれば、厚膜及び、薄膜成形による簡易な構造の素子として低コストで水素センサ等のガスセンサを形成することができる。特に、ケイ化鉄を用いた熱電変換材料と、Pt触媒の組み合わせにより、水素ガス等の特定のガスだけに応答し、且つ室温で作動するガスセンサを形成することができる。Pt触媒膜は、優れた水素ガスの選択性を有するものである。
【0013】
また、従来のセンサの様に、常時加熱が不要となり、構造が単純で、消費電力が少ないものである。さらに、出力によりガス量に対するセンシングも可能であり、濃度センサとしても利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、この発明の実施の形態について図1〜図3を基にして説明する。この実施形態のガスセンサは、水素ガスセンサ10についてのものである。この水素ガスセンサ10は、ケイ化鉄に不純物を添加して成る2種類の異なる材料であり、n型半導体とp型半導体のβ−FeSiの一対の熱電対パターン11,12を、アルミナ等の絶縁性の基板14表面に形成して成る。一対の熱電対パターン11,12は、温度センサを形成するもので、半導体のβケイ化鉄において、熱電対パターン11はアクセプターを含む層(p型)であり、添加する不純物として例えばMn、Al、Cr、Reを用いる。また、熱電対パターン12はドナーを含む層(n型)であり、添加する不純物として例えばCo、Ni、Ir等を用いる。
【0015】
水素ガスセンサ10の一対の熱電対パターン11,12の一端部は、図2に示すように、湾曲されて先端部が接続され、U字状に形成されている。この接合部16の近傍表面には、水素ガスを選択的に酸化反応させる触媒膜であるPt触媒膜18が積層されている。
【0016】
熱電対パターン11,12上のPt触媒膜18以外の部分は、セラミック或いは、ガラスコーティングからなる図示しない保護膜が形成されている。そして、熱電対パターン11,12の他端部には、各々Ag−Pd等からなる導電ペーストによる電極20が形成されている。
【0017】
次に、この実施形態の水素ガスセンサ10の製造方法について説明する。原料粉末としては、Fe、Si、不純物A(Mn・Co)を用いた。まず、最初に原料粉末をFe1-xxSi(p型鉄ケイ化物:A=Mn、x=0.1)(n型鉄ケイ化物:A=Co、x=0.05)組成となるように秤量した後、ボールミルにて十分混合した。
【0018】
この後、混合した原料粉末を1000℃程度で燃焼合成し、ケイ化鉄(α−FeSi、+FeSi)を得る。焼成したケイ化鉄は、ボールミルで細かくし、平均粒径が1μm程度にする。なお、合成方法は燃焼合成法に限らず、溶融法や放電プラズマ法、或いはアトマイズ法等を選択し得る。
【0019】
次に、このケイ化鉄粉末に、ガラスフリットを5%混合し、この混合物に、有機ビヒクル(エチルセルロースとターピネオールを主成分とする)を加えて、ボールミル内に投入し、各成分粉末を攪拌・分散させ、自動混合機で混練し、印刷可能なペースト状の組成物を作り上げる。
【0020】
ペースト状組成物を用いて、公知の方法による、熱電対パターン11,12を形成する。この製造方法は、一般的な厚膜スクリーン印刷処理に従って行う。アルミナの基板14上にp型熱電対パターン11とn型熱電対パターン12の双方を、順に印刷し乾燥する。例えば、p型熱電対パターン11を最初に印刷した場合は、p型膜の乾燥後、n型熱電対パターン12を形成する。熱電対パターン11,12の厚みは適宜設定し得るが、通常は乾燥後の厚みが20〜150μmとなるように調整すれば良い。なお、スクリーン印刷で用いるスクリーンは適宜選択されるが、例えば150〜400メツシュのものを使用するとよい。
【0021】
この後、印刷した基板14を、500℃/30分で脱バインダした後、真空雰囲気1170℃/3時間にて焼結を行う。
【0022】
次いで、印刷した鉄ケイ化物を半導体化させるため、Ar雰囲気中で800℃/24hのアニール処理を行い、β−FeSiの変態を行う。
【0023】
次に、出力端子である電極20を形成する。電極20は、Ag−Pd等からなる導電体導体ペーストをスクリーン印刷で塗布した後に、大気中850℃/10分で焼付けを行う。電極20を焼付けした後、場合によっては、保護膜としてSi薄膜、セラミック、或いはガラス等のコーティング工程を加えても良い。
【0024】
次に、p型鉄ケイ化物と、n型鉄ケイ化物の熱電対パターン11,12の接合部16に触媒膜を形成する。形成方法は、スパッタ蒸着を用いて、接合部16の周囲の所定範囲にPt触媒膜18を形成する。
【0025】
この実施形態の水素ガスセンサ10によれば、図3に示すように、水素ガスとの選択的反応性が高く、確実な水素ガス検知が可能である。また、β-FeSi膜の熱電対パターン11,12は、ゼーベック係数が高く、高感度な熱電変換素子であり、水素ガス等の吸着・触媒効果が良好なPt触媒膜18との反応により、室温での水素ガス検知でも可能である。さらに、Pt触媒膜18での局所的な反応による温度差から、熱電対の起電力信号出力により、水素ガス濃度の検知も可能であり、Pt触媒膜18は高いガス選択性を示すものである。
【0026】
また、スクリーン印刷による熱電対パターン11,12は、パターン形成用の塗料をペースト状態のままで、圧力を加えながら基板14上へ直接塗布するため、基板14への均一なパターンニングが行え、密着強度に優れ、検知機能も向上し、品質の安定したものとなる。
【0027】
熱電対パターン11,12の形状は、図4に示すように、帯状に形成した熱電対パターン11,12の先端部に、導電ペーストによる接合部22を形成しても良い。この接合部22は、電極20と一緒に形成して焼成すると良い。
【0028】
なお、この発明のガスセンサは、上記実施形態に限定されるものではなく、ガス選択性を持たせた触媒膜は、スパッタ蒸着以外に、Ptペーストを用いたスクリーン印刷により形成しても良い。さらに、触媒膜を代えることにより他のガスに対する検知も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】この発明の一実施形態のガスセンサの縦断面図である。
【図2】この発明の一実施形態のガスセンサの平面図である。
【図3】この発明の実施形態のガスセンサの水素ガスと出力電圧の関係を示すグラフである。
【図4】この発明の他の実施形態のガスセンサの平面図である。
【符号の説明】
【0030】
10 ガスセンサ
11,12 熱電対パターン
14 基板
16,22 接合部
18 Pt触媒膜
20 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ化鉄に不純物を添加して成る2種類の異なる材料を絶縁性の基板上に形成し、各材料の一方の端部にはガス選択性を持たせた触媒膜を積層し、他方の端部には電極を形成して成ることを特徴とするガスセンサ。
【請求項2】
前記ケイ化鉄の2種類の異なる材料は、β−FeSi又はβ−FeSiを形成し得る成分と、アクセプターとを含む層、及びβ−FeSi又はβ−FeSiを形成し得る成分と、ドナーとを含む層からなる請求項1記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記ガス選択性を持たせた触媒膜はPt触媒膜であり、検出するガスは水素である請求項1または2記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記2種類の異なる材料は、前記基板上に形成した熱電対パターンから成り、前記2種類の異なる材料の熱電対パターンは、互いに端部が接合してU字状に形成されたパターン、或いは導電体により接合されたパターンから成る請求項1,2または3記載のガスセンサ。
【請求項5】
前記熱電対パターン上の前記触媒膜以外の箇所に、セラミック或いはガラスコーティングからなる保護膜が形成された請求項4記載のガスセンサ。
【請求項6】
2種類の異なる材料が接合されてなる熱電対パターンを絶縁性の基板上に形成したガスセンサの製造方法において、前記基板上に前記熱電対パターンをスクリーン印刷、或いはスパッタ蒸着により形成し、前記熱電対パターンを熱処理して温度検知機能を持たせ、この熱電対パターンの一方の端部にガス選択性を持たせた触媒膜を積層することを特徴とするガスセンサの製造方法。
【請求項7】
前記2種類の異なる材料は、ケイ化鉄又はケイ化鉄を形成し得る成分とアクセプターとを含む層及び、ケイ化鉄又はケイ化鉄を形成し得る成分とドナーとを含む層からなり、前記熱処理より前記熱電対パターンにアニール処理を行い、前記2種類の異なる材料を半導体のβ−FeSiへ相変態させる請求項6記載のガスセンサの製造方法。
【請求項8】
前記ガス選択性を持たせた触媒膜はPt触媒膜であり、このPt触媒膜を、スパッタ蒸着、或いはPtペーストを用いたスクリーン印刷により形成する請求項6記載のガスセンサの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−248223(P2007−248223A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−71180(P2006−71180)
【出願日】平成18年3月15日(2006.3.15)
【出願人】(591020445)立山科学工業株式会社 (71)
【Fターム(参考)】