説明

ガスバリア性フィルム、基材フィルムおよび有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】連続成膜に適した高生産性を有する高ガスバリア性フィルムを提供すること。
【解決手段】基材フィルム上にガスバリア性積層体を有してなるガスバリア性フィルムにおいて、該ガスバリア性積層体が、珪素酸窒化物層、有機中間層、珪素酸窒化物層の順に互いに隣接して配置された3層からなるユニットを少なくとも1つ有するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性フィルムに関するものであり、特に各種デバイスの基板やデバイスの被覆フィルムに好適な積層型のガスバリア性フィルムに関し、また前記ガスバリア性フィルムを用いることで得られる耐久性およびフレキシブル性に優れた有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子という)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、プラスチック基板やフィルムの表面に、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化珪素等の金属酸化物薄膜を形成したガスバリア性フィルムは、水蒸気や酸素など各種ガスの遮断を必要とする物品の包装や、食品、工業用品および医薬品等の変質を防止するための包装用途に広く用いられている。また、前記ガスバリア性フィルムは、包装用途以外にも液晶表示素子、太陽電池またはEL素子の基板等にも使用されはじめている。特に、液晶表示素子、EL素子などへの応用が進んでいる透明基材は、軽量化や大型化という要求に加えて、長期信頼性や形状の自由度が高いこと、および曲面表示が可能であること等の高度な要求が加わっている。
【0003】
近年、液晶表示素子やEL素子等の分野においては、重くて割れやすく大面積化が困難なガラス基板に代わって、透明プラスチック等のフィルム基材が採用され始めている。また、透明プラスチック等のフィルム基材は上記要求に応えるだけでなく、ロール トゥ ロール(Roll to Roll)方式に適用することも可能であることから、ガラスよりも生産性がよくコストダウンの点でも有利である。しかし、透明プラスチック等のフィルム基材はガラスと比較してガスバリア性に劣るという問題がある。ガスバリア性が劣る基材を用いると、水蒸気や空気が浸透するため、例えば液晶表示素子に用いた場合には、液晶セル内の液晶を劣化させ、劣化部位が表示欠陥となって表示品位を劣化させてしまう。
【0004】
このような問題を解決するために、上述のようなフィルム基板上に金属酸化物薄膜を形成してガスバリア性フィルムを透明基材として用いることが知られている。包装材や液晶表示素子に使用されるガスバリア性フィルムとしては、プラスチックフィルム上に酸化珪素を蒸着したもの(例えば、特許文献1参照)や、酸化アルミニウムを蒸着したもの(例えば、特許文献2参照)が知られており、これらはいずれも1g/m2・day程度の水蒸気バリア性を有する。しかし、近年では液晶ディスプレイの大型化や高精細ディスプレイ等の開発により、フィルム基板の水蒸気バリア性は0.1g/m2・day程度まで要求されるようになってきている。
【0005】
さらに、ごく近年においてはさらなるバリア性が要求される有機ELディスプレイや高精彩カラー液晶ディスプレイなどの開発が進んでおり、これらに使用可能な透明性を維持しつつもさらなる高バリア性、特に水蒸気バリア性で0.1g/m2・dayを下回る性能をもつ基材が要求されるようになってきた。
かかる要求に応えるために、より高いバリア性能が期待できる手段として、低圧条件下におけるグロー放電で生じるプラズマを用いて薄膜を形成するスパッタリング法やCVD法による成膜検討が行われており、さらに積層構成により所望の性能を得る試みもなされている(例えば、特許文献3参照)。
しかし、フィルム基材を用いる場合、成膜時の基板温度に制約がかかるため、十分に緻密な構造のバリア層を形成することができず、要求に応える十分なバリア性を有するフィルムの作製に至っていなかった。
【0006】
バリア性に優れた薄膜材料として、珪素窒化物や珪素酸窒化物も利用されてきており、これらを積層する試みもなされている。例えば、特許文献4には、基材フィルム上に窒素と酸素の構成比率が互いに異なる珪素酸窒化物を2層積層したバリア性フィルムが記載されている。しかしながら、その構成は、十分なガスバリア性と、フィルム基材を用いる際に要求される耐屈曲性を両立するものではなく、更なる技術改良が望まれていた。
【0007】
一方、有機層/無機層の交互積層構造を有するバリア膜を真空蒸着法により作製する技術が提案されており(例えば非特許文献1参照)、有機EL素子用フィルム基材に必要なバリア性を有するフィルムが得られている。
しかし、有機層と無機層の間の密着性は必ずしも十分とはいえず、また、有機EL素子用の信頼性の高いバリアフィルムを提供するためには少なくとも6層以上の多層構造を形成することが必要であった。このように性能とハイスループットを両立することが困難であったため、新たな連続成膜プロセスに適する成膜方式の開発が望まれていた。
【特許文献1】特公昭53−12953号公報(第1頁〜第3頁)
【特許文献2】特開昭58−217344号公報(第1頁〜第4頁)
【特許文献3】特開2003−206361号公報(第2頁〜第3頁)
【特許文献4】米国特許第6,413,645B1号公報(第4頁[2−54]〜第8頁[8−22])
【非特許文献1】Affinitoら著「Thin Solid Films」(1996)、P.290〜291(第63頁〜第67頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の諸問題を解決すべく、本発明は連続成膜に適した高生産性を有する高ガスバリア性フィルムを提供することを目的とし、さらに、長期間使用しても画質が劣化することのない高耐久性かつフレキシブル性に優れた有機EL素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討の結果、下記の構成によって上記課題を解決できることを見いだした。
【0010】
[1] 基材フィルム上にガスバリア性積層体を有してなるガスバリア性フィルムにおいて、該ガスバリア性積層体が、珪素酸窒化物層、有機中間層、珪素酸窒化物層の順に互いに隣接して配置された3層からなるユニットを少なくとも1つ有することを特徴とするガスバリア性フィルム。
[2] 40℃・相対湿度90%における水蒸気透過率が0.01g/m2・day以下である[1]に記載のガスバリア性フィルム。
[3] 前記基材フィルムが、ガラス転移温度が120℃以上の高分子材料で形成される[1]または[2]に記載のガスバリア性フィルム。
[4] 前記有機中間層が珪素および酸素を含むことを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルム。
[5] 前記珪素酸窒化物層または前記有機中間層の少なくとも一層が、誘導結合プラズマCVDを用いて形成される[4]に記載のガスバリア性フィルム。
[6] 前記珪素酸窒化物層の少なくとも一層の酸素と窒素の構成比率(酸素/窒素)が0.2〜5である[1]〜[5]のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルム。
[7] 前記有機中間層が珪素を含有することを特徴とする[6]に記載のガスバリア性フィルム。
[8] 前記有機中間層がアクリレート化合物の硬化物からなることを特徴とする[6]に記載のガスバリア性フィルム。
[9] 前記ガスバリア性積層体上に透明導電層を設けた[1]〜[8]のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルム。
[10] 前記基材フィルムをロール トゥ ロール(roll to roll)方式で供給し、前記ガスバリア性積層体を連続的に成膜する方法で製造した[1]〜[9]のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルム。
[11] [1]〜[10]のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルムを用いた画像表示素子用基材フィルム。
[12] [11]に記載の画像表示素子用基材フィルムを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子。
[13] [12]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を成膜後、大気に曝すことなく真空中で珪素酸窒化物層、有機中間層、珪素酸窒化物層の順に互いに隣接して配置された3層からなるユニットを少なくとも1つ設置してから封止して製造した有機エレクトロルミネッセンス素子。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、連続成膜に適した高生産性を有する製法により高いガスバリア性フィルムを提供することができる。また本発明によれば、長期間使用しても画質が劣化することのない高耐久性かつフレキシブル性に優れた有機EL素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下において、本発明のガスバリア性フィルムについて詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
《ガスバリア性フィルム》
本発明のガスバリア性フィルムは、基材フィルム上に形成されたガスバリア性積層体が、珪素酸窒化物層、有機中間層、珪素酸窒化物層の順に互いに隣接して配置された3層からなるユニットを少なくとも1つ有することを特徴とする。ここでいう珪素酸窒化物層は珪素、酸素、窒素を主成分とする層をいい、有機中間層は炭素原子を含む層を意味する。有機中間層は、炭素、水素、酸素、珪素を主成分とする珪素酸化物有機層であることが好ましい。ここでいう主成分とは、珪素酸窒化物層については珪素、酸素、窒素の元素の合計が、珪素酸化物有機層については珪素、酸素、炭素の元素の合計が、層全体を構成する全元素の好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上を占める成分を意味する。本発明のガスバリア性フィルムには、必要に応じてさらに別の有機層や保護層、吸湿層、帯電防止層等の機能化層を設けることができる。
【0014】
(珪素酸窒化物層)
珪素酸窒化物層に含まれる珪素酸窒化物は、主たる構成元素が珪素、酸素、窒素からなる組成物を指す。成膜の原料や基材・雰囲気等から取り込まれる少量の水素・炭素等の上記以外の構成元素は各々5%未満であることが望ましい。本発明の珪素酸窒化物を構成する珪素、酸素、窒素の構成比は、組成式をSiOxyと表した場合にx/y=0.2〜5.0であるものが好ましい。x/yが5以下であれば十分なガスバリア能がより得られやすくなる。またx/yが0.2以上であれば隣接する有機中間層との間で剥離が生じにくいため、ロール搬送や屈曲した使用にも好ましく適用できるフィルムとなりやすい。x/yの値としては0.33〜2.0がより好ましく、0.5〜1の間が最も好ましい。また、x,yの値は(2x+3y)/4=0.8〜1.1となる組み合わせが好ましい。0.8以上であれば着色が抑えられているためフィルムを広範な用途に用いやすい。1.1以下であれば、珪素・窒素・酸素の構成元素比率が高くて欠陥比率を抑えやすく、より十分なガスバリア能が期待できる。(2x+3y)/4は、0.9〜1.1となる組み合わせがさらに好ましい。特に0.95〜1.0の場合には可視光線透過率が高く、かつ安定したガスバリア能が得られるため最も好ましい。
【0015】
本発明の有機中間層を挟む2つ以上の珪素酸窒化物層は、各々の組成が同じであっても、異なっていてもよい。少なくとも一方が上記の好ましい条件を満たしているものが好ましい。
【0016】
本発明の積層試料の元素構成比は、エッチングしながらX線光電子分光法(XPS)により公知の標準的な方法により測定することができる。
【0017】
珪素酸窒化物層の屈折率は1.7〜2.1であることが好ましく、1.8〜2.0がより好ましい。特に1.9〜2.0の場合には可視光線透過率が高く、かつ高いガスバリア能が安定して得られるため、最も好ましい。
【0018】
本発明の珪素酸窒化物層の形成方法は、目的の薄膜を形成できる方法であればいかなる方法でも用いることができる。例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法などが適しており、具体的には特許登録第3400324号、特開2002−322561号、特開2002−361774号各公報記載の形成方法を採用することができる。
【0019】
本発明のガスバリア性フィルムの40℃・相対湿度90%における水蒸気透過率は、使用する用途によるが、0.1g/m2・day以下であることが好ましく、0.05g/m2・day以下であることがより好ましく、0.01g/m2・day以下であることが特に好ましい。
【0020】
40℃・相対湿度90%における水蒸気透過率が0.01g/m2・day以下であるハイバリア性のガスバリア性フィルムを作製するには、誘導結合プラズマCVD、電子サイクロトロン共鳴条件に設定したマイクロ波と磁場を印加したプラズマを用いたPVDまたはCVDのいずれかの形成方法を採用するのが好ましく、誘導結合プラズマCVDによる形成方法を採用するのが最も好ましい。誘導結合プラズマCVDや電子サイクロトロン共鳴条件に設定したマイクロ波と磁場を印加したプラズマを用いたCVD(ECR-CVD)は、例えば化学工学会、CVDハンドブック、p.284(1991)に記載の方法にて実施することができる。また、電子サイクロトロン共鳴条件に設定したマイクロ波と磁場を印加したプラズマを用いたPVD(ECR-PVD)は、例えば小野他、Jpn.J.Appl.Phys.23、No.8、L534(1984)に記載の方法にて実施することができる。
【0021】
上記CVDを用いる場合の珪素酸窒化物を形成するための原料としては、珪素供給源としてのシラン、ジクロロシランに代表されるハロゲン化珪素等のガスソースや、ヘキサメチルジシラザン等の液体ソースを用いることができる。窒素供給源しては窒素やアンモニア等のガスソースやヘキサメチルジシラザンなどの液体ソースを使用することができる。
高いバリア能を付与するためには反応性の高いシランガスと窒素の組合せが最も好ましい。
【0022】
珪素酸窒化物層の厚みに関しては特に限定されないが、厚すぎると曲げ応力によるクラック発生や内部応力増加に伴う基材の反り・変形等のおそれがあり、薄すぎると膜が島状に分布するため、いずれも水蒸気バリア性が悪くなる傾向がある。特に珪素酸窒化物層は、この傾向が顕著に現れやすい。
【0023】
このため、珪素酸窒化物層の厚みは、それぞれ20〜500nmの範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは、50nm〜200nmであり、最も好ましくは80〜150nmである。本発明のガスバリア性積層体を構成する2層以上の珪素酸窒化物層は、各々が同じ膜厚であってもよいし、異なる膜厚であってもよい。
【0024】
(有機中間層)
本発明の有機中間層は主たる構成元素が炭素・水素・酸素および珪素からなる組成物であることが好ましい。珪素の割合は10%〜30%の間であることが望ましい。珪素を含む有機中間層を形成するための原料としては、上記の珪素供給源と、炭素供給源としてのメタン、エタン、プロパン、ブタン、エチレン、トルエン、キシレンなどの炭化水素化合物、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i―プロパノールなどのアルコール化合物、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン化合物、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、オキセタンなどのオキシラン化合物などを組み合わせて用いることができる。この他に必要に応じて、酸素供給源としての酸素や一酸化ニ窒素等のガスソースや、窒素供給源としての窒素やアンモニア、水素供給源としての水素などをそれぞれまたは同時に組み合わせて使用することができる。
【0025】
また、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン(TDMSO)、テトラメチルシラン(TMS)、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリメチルシラン、ジメチルジメトキシシラン、テトラメトキシシラン(TMOS)、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、テトラエトキシシラン(TEOS)、ジエチルジエトキシシラン、メチルジメトキシシラン、メチルジエトキシシロキサン、メチルジエトキシシロキサン、ノルマルメチルトリメトキシシラン等の公知の有機珪素化合物を一種、または二種以上組み合わせて用いることが可能である。これらに酸素や一酸化二窒素等の酸素供給源となるガスソースを組み合わせてもよい。中でもTMS、TMOSの使用が好ましく、TEOSがさらに好ましい。
【0026】
本発明の有機中間層として、モノマー架橋して得られた高分子を主成分とする有機層を採用してもよい。モノマーとしては、紫外線あるいは電子線で架橋できる基を含有していれば特に限定は無いが、アクリロイル基またはメタクリロイル基、オキシラン基を有するモノマーを用いることが好ましい。例えば、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトール(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン(メタ)アクリレート、エチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレートなどのうち、2官能以上のアクリロイル基またはメタクリロイル基を有するモノマーを架橋させて得られる高分子を主成分とすることが好ましい。これらの2官能以上のアクリロイル基またはメタクリロイル基を有するモノマーは2種類以上を混合して用いても、また1官能の(メタ)アクリレートを混合して用いてもよい。硬化速度の観点からアクリロイル基を有するモノマーが最も好ましい。
【0027】
発明者らはモノマー選択に関し鋭意検討した結果、アクリロイル基を有するモノマーを用いた場合は、必ずしも珪素を含まなくても珪素酸窒化物層との密着性や、積層バリアフィルムの水蒸気バリア特性に関し良好な特性を保持できることを見出した。使用するモノマーのうち、アクリロイル基を有するモノマーの割合は40〜100が好ましく、60〜100がより好ましく、80〜100がさらに好ましい。
【0028】
また、ディスプレイ用途に要求される耐熱性、耐溶剤性の観点から、特に架橋度が高く、ガラス転移温度が200℃以上である、イソシアヌル酸アクリレート、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレートを主成分とすることがさらに好ましい。有機層厚みについても特に限定はしないが、10nm〜5000nmが好ましく、さらに好ましくは、20〜2000nmであり、最も好ましくは50nm〜500nmである。有機層の厚みが薄すぎると、均一な厚みを得ることが困難となるため、無機層の構造欠陥を効率よく有機層で埋めることができずに、バリア性の向上は見られない場合がある。逆に有機層の厚みが厚すぎると、曲げ等の外力により有機層がクラックを発生し易くなるためバリア性が低下してしまう不具合が発生することがある。本発明の有機中間層を形成させるための方法としては、塗布による方法、真空成膜法等を挙げることができる。真空成膜法としては、特に制限はないが、蒸着、プラズマCVD等の成膜方法が好ましく、有機物質モノマーの成膜速度を制御しやすい抵抗加熱蒸着法がより好ましい。本発明の有機物質モノマーの架橋方法に関しては何ら制限はないが、電子線や紫外線等による架橋が、真空槽内に容易に取り付けられる点や架橋反応による高分子量化が迅速である点で望ましい。塗布方式で作成する場合には、従来用いられる種々の塗布方法、例えば、スプレーコート、スピンコート、バーコート等の方法を用いることができる。
【0029】
(その他の層)
珪素酸窒化物層・有機中間層・珪素酸窒化物層のユニットの信頼性を高める目的で、さらに有機層・珪素酸窒化物層等を積層してもよい。ただし、その場合も層厚の合計は1500nmを越えないことが望ましい。
【0030】
各層の屈折率を求め、積層膜の層間反射光の光学的干渉による影響を各層厚の調節により所望の光学特性に調整することは当業界ではよいく知られた技術である。バリア性能を劣化させることなくこれらを調整できることはいうまでもない。
【0031】
必要に応じてガスバリア性積層体と基材フィルムの間および/またはガスバリア性積層体の外側、基材フィルムのバック面に所望の機能層を設置することができる。ガスバリア性積層体と基材フィルムの間に設置する機能層の例としては、平滑化層・密着改良層・ブラックマトリクスを含む遮光層・反射防止層等が挙げられる。CVDやPVD法で設置する無機薄膜層としてもよいし、紫外線もしくは電子線硬化性モノマー、オリゴマーまたは樹脂を、塗布または蒸着で成膜したのち、紫外線または電子線で硬化させた層としてもよい。
【0032】
同様に基材から見てガスバリア性積層体の外側および/または内側には公知の機能層を設置してもよい。機能層の例としては、耐擦傷性等を付与する保護層・防汚層・帯電防止層・反射防止層・防眩層・接着防止層・吸湿性層・耐溶剤層・カラーフィルター層など公知の機能層を用いることができる。
【0033】
特に本発明のガスバリア性フィルムの最外層にITO、IZO等の透明導電層を設置することは、電子デバイスの基材として活用するために有効である。これらの透明導電層は公知のスパッタリング法、イオンプレーティング法等の真空成膜法、ゾルゲル法を利用したコーティング法等を利用して形成することができるが、ガスバリア性積層体成膜時に大気圧に戻さずに連続的に成膜する真空成膜法が製造コストや信頼性・相間密着性の確保の点で有利である。
【0034】
また、本ガスバリア性フィルムは屈曲耐性に優れるため、ロール トゥ ロール法により連続的に成膜することが可能である。さらに、各層の組成が類似しているため、各層成膜エリアを厳密に仕切る必要がなく汚染による性能劣化を受けにくい。したがって、製造コストや信頼性、メンテナンスなどを簡素化することができるため、特にロール トゥ ロールのメリットを享受しやすいメリットがある。
【0035】
さらに本発明のガスバリア性基材上には、保護の目的でヒートシール材を介する等の方法で、同じまたは異なる基材フィルムを重ねて用いてもよい。
【0036】
(基材フィルム)
本発明のガスバリア性フィルムに用いられる基材フィルムは、上記各層を保持できるフィルムであれば特に制限はなく、使用目的等に応じて適宜選択することができる。前記基材フィルムとしては、具体的に、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、メタクリル酸−マレイン酸共重合体、ポリスチレン、透明フッ素樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素化ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、セルロースアシレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリカーボネート樹脂、脂環式ポリオレフィン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、シクロオレフィルンコポリマー、フルオレン環変性カーボネート樹脂、脂環変性ポリカーボネート樹脂、アクリロイル化合物などの熱可塑性樹脂が挙げられる。これらの樹脂のうち、Tgが120℃以上の樹脂が好ましく、具体的な例としては(括弧内の数字は「ガラス転移温度(Tg)」を示す)、ポリエステル樹脂で特にポリエチルナフタレート樹脂(PEN:121℃)、ポリアリレート樹脂(PAr:210℃)、ポリエーテルスルホン樹脂(PES:220℃)、フルオレン環変性カーボネート樹脂(BCF−PC:特開2000−227603号公報の実施例4の化合物:225℃)、脂環変性ポリカーボネート樹脂(IP−PC:特開2000−227603号公報の実施例5の化合物:205℃)、アクリロイル化合物(特開2002−80616号公報の実施例−1の化合物:300℃以上)等の化合物からなるフィルムが挙げられる。
【0037】
本発明者は基材フィルムのTgが120℃以上である場合に本構成が特に有効であることを見出した。特に誘導結合型プラズマCVDに珪素窒化物を成膜する際、基材表面にサーモテープを貼ることでプロセスの最高温度をモニターしたときに50℃以下であることが観測されるが、Tgの異なる樹脂基板に全く同じ条件で成膜するとTg100℃付近を境にバリア能が著しく高くなり、120℃以上で顕著に良化することを見出した。この理由については十分に解析できていないが、サーモテープでは検知されない極表面の状態に対して何らかの影響を及ぼしているものと推定される。
Tgは120℃以上でバリア性が良好であるが、より好ましくは200℃、さらに好ましくは250℃以上であることが好ましい。
【0038】
高耐熱性の基材フィルムを用いた場合、珪素酸窒化物層や透明導電層設置の際に基板加熱を行うことができるようになるため、成膜時の分子または原子の再配列を促すことができる。このため、より高品質なガスバリア性フィルム、ガスバリア性透明導電フィルムが得られやすい。
【0039】
本発明における基材フィルムは、その性質上、水を取り込まないことが望ましい。すなわち水素結合性官能基を持たない樹脂から形成されていることが望ましい。前記基材フィルムの平衡含水率は0.5質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがさらに好ましく、0.05質量%以下であることが特に好ましい。
【0040】
一般に積層するために基材フィルムを真空槽に入れると、基材フィルム表面より水・残留溶剤・表面吸着成分・微量の低分子残量成分が放出する。緻密な構造の珪素酸窒化物層を形成させるためには放出成分を低減することが好ましい。具体的には成膜前に真空槽に導入したり、プレヒートしたりして放出成分を除去する前処理を行っておくことが有効である。この点で高耐熱性の基材を用いることは有効である。
【0041】
前記平衡含水率の低い基材フィルムを用いると、基材フィルムの帯電が起こりやすくなってしまう傾向がある。基材フィルムの帯電はパーティクルを吸着してバリア層の性能を損ねたり、接着によるハンドリング不良の原因となったりするため好ましくない現象である。このため、係る問題を解決するために、基材フィルムの表面には、これに隣接して帯電防止層が設置されることが好ましい。
【0042】
ここで、帯電防止層とは、50℃、相対湿度30%における表面抵抗値が1Ω/□〜1013 Ω/□である層をいう。前記帯電防止層の50℃、相対湿度30%における表面抵抗値は、1×108Ω/□〜1×1013Ω/□であることが好ましく、1×108/□〜1×1011Ω/□であることが好ましく、1×108Ω/□〜1×109Ω/□であることが特に好ましい。
【0043】
《画像表示素子》
本発明のガスバリア性フィルムの用途は特に限定されないが、光学特性と機械特性と双方に優れるため、画像表示素子の透明電極用基板として好適に用いることができる。ここでいう「画像表示素子」とは、円偏光板・液晶表示素子、タッチパネル、有機EL素子などを意味する。
【0044】
<円偏光板>
前記円偏光板は、本発明のガスバリア性フィルム上に、λ/4板と偏光板とを積層することで作製することができる。この場合、λ/4の遅相軸と偏光板の吸収軸とが45°になるように積層する。このような偏光板は、長手方向(MD)に対し45°方向に延伸されているものを用いることが好ましく、例えば、特開2002−865554号公報に記載のものを好適に用いることができる。
【0045】
<液晶表示素子>
前記液晶表示装置は、反射型液晶表示装置と透過型液晶表示装置とに大別することができる。
前記反射型液晶表示装置は、下方から順に、下基板、反射電極、下配向膜、液晶層、上配向膜、透明電極、上基板、λ/4板、そして偏光膜からなる構成を有する。本発明のガスバリア性フィルムは、前記透明電極および上基板として使用することができる。前記反射型液晶表示装置にカラー表示機能をもたせる場合には、さらにカラーフィルター層を前記反射電極と前記下配向膜との間、または、前記上配向膜と前記透明電極との間に設けることが好ましい。
【0046】
また、前記透過型液晶表示装置は、下方から順に、バックライト、偏光板、λ/4板、下透明電極、下配向膜、液晶層、上配向膜、上透明電極、上基板、λ/4板および偏光膜からなる構成を有する。このうち本発明のガスバリア性フィルムは、前記上透明電極および上基板として使用することができる。また、前記透過型液晶表示装置にカラー表示機能をもたせる場合には、さらにカラーフィルター層を前記下透明電極と前記下配向膜との間、または、前記上配向膜と前記透明電極との間に設けることが好ましい。
【0047】
前記液晶層の構造は特に限定されないが、例えば、TN(Twisted Nematic)型、STN(Super Twisted Nematic)型またはHAN(Hybrid Aligned Nematic)型、VA(Vertical Alignment)型、ECB(Electrically Controlled Birefringence)型、OCB(Optically Compensated Bend)型、または、CPA(Continuous Pinwheel Alignment)型であることが好ましい。
【0048】
<タッチパネル>
前記タッチパネルとしては、特開平5−127822号公報、特開2002−48913号公報等に記載されたものの基板として本発明のガスバリア性フィルムを適用したものを用いることができる。
【0049】
<有機EL素子>
有機EL素子としては、本発明のガスバリア性フィルム上に陰極と陽極を有し、両電極の間に有機発光層(以下、単に「発光層」と称する場合がある。)を含む有機化合物層を有する。発光素子の性質上、陽極および陰極のうち少なくとも一方の電極は、透明であることが好ましい。
【0050】
本発明における有機化合物層の積層の態様としては、陽極側から、正孔輸送層、発光層、電子輸送層の順に積層されている態様が好ましい。さらに、正孔輸送層と発光層との間、または、発光層と電子輸送層との間には、電荷ブロック層等を有していてもよい。陽極と正孔輸送層との間に、正孔注入層を有してもよく、陰極と電子輸送層との間には、電子注入層を有してもよい。また、発光層としては一層だけでもよいく、また、第一発光層、第二発光層、第三発光層等に発光層を分割してもよい。さらに、各層は複数の二次層に分かれていてもよい。
【0051】
次に、本発明の有機EL素子を構成する要素について、詳細に説明する。
【0052】
(陽極)
陽極は、通常、有機化合物層に正孔を供給する電極としての機能を有していればよく、その形状、構造、大きさ等については特に制限はなく、発光素子の用途、目的に応じて、公知の電極材料の中から適宜選択することができる。前述のごとく、陽極は、通常透明陽極として設けられる。
【0053】
陽極の材料としては、例えば、金属、合金、金属酸化物、導電性化合物、またはこれらの混合物が好適に挙げられる。陽極材料の具体例としては、アンチモンやフッ素等をドープした酸化錫(ATO、FTO)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウム錫(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)等の導電性金属酸化物、金、銀、クロム、ニッケル等の金属、さらにこれらの金属と導電性金属酸化物との混合物または積層物、ヨウ化銅、硫化銅などの無機導電性物質、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロールなどの有機導電性材料、およびこれらとITOとの積層物などが挙げられる。この中で好ましいのは、導電性金属酸化物であり、特に、生産性、高導電性、透明性等の点からはITOが好ましい。
【0054】
陽極は、例えば、印刷方式、コーティング方式等の湿式方式、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的方式、CVD、プラズマCVD法等の化学的方式などの中から、陽極を構成する材料との適性を考慮して適宜選択した方法に従って、前記基板上に形成することができる。例えば、陽極の材料として、ITOを選択する場合には、陽極の形成は、直流または高周波スパッタ法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等に従って行うことができる。
【0055】
本発明の有機EL素子において、陽極の形成位置としては特に制限はなく、発光素子の用途、目的に応じて適宜選択することができる。が、前記基板上に形成されるのが好ましい。この場合、陽極は、基板における一方の表面の全部に形成されていてもよく、その一部に形成されていてもよい。
【0056】
なお、陽極を形成する際のパターニングとしては、フォトリソグラフィーなどによる化学的エッチングによって行ってもよいし、レーザーなどによる物理的エッチングによって行ってもよく、また、マスクを重ねて真空蒸着やスパッタ等をして行ってもよいし、リフトオフ法や印刷法によって行ってもよい。
【0057】
陽極の厚みとしては、陽極を構成する材料により適宜選択することができ、一概に規定することはできないが、通常、10nm〜50μm程度であり、50nm〜20μmが好ましい。
【0058】
陽極の抵抗値としては、103Ω/□以下が好ましく、102Ω/□以下がより好ましい。陽極が透明である場合は、無色透明であっても、有色透明であってもよい。透明陽極側から発光を取り出すためには、その透過率としては、60%以上が好ましく、70%以上がより好ましい。
【0059】
なお、透明陽極については、沢田豊監修「透明電極膜の新展開」シーエムシー刊(1999)に詳述があり、ここに記載される事項を本発明に適用することができる。耐熱性の低いプラスティック基材を用いる場合は、ITOまたはIZOを使用し、150℃以下の低温で成膜した透明陽極が好ましい。
【0060】
(陰極)
陰極は、通常、有機化合物層に電子を注入する電極としての機能を有していればよく、その形状、構造、大きさ等については特に制限はなく、発光素子の用途、目的に応じて、公知の電極材料の中から適宜選択することができる。
【0061】
陰極を構成する材料としては、例えば、金属、合金、金属酸化物、電気伝導性化合物、これらの混合物などが挙げられる。具体例としてはアルカリ金属(たとえば、Li、Na、K、Cs等)、2属金属(たとえばMg、Ca等)、金、銀、鉛、アルミニウム、ナトリウム−カリウム合金、リチウム−アルミニウム合金、マグネシウム−銀合金、インジウム、イッテルビウム等の希土類金属、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいが、安定性と電子注入性とを両立させる観点からは、2種以上を好適に併用することができる。
【0062】
これらの中でも、陰極を構成する材料としては、電子注入性の点で、アルカリ金属や2属金属が好ましく、保存安定性に優れる点で、アルミニウムを主体とする材料が好ましい。
アルミニウムを主体とする材料とは、アルミニウム単独、アルミニウムと0.01〜10質量%のアルカリ金属または2属金属との合金若しくはこれらの混合物(例えば、リチウム−アルミニウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金など)をいう。
【0063】
なお、陰極の材料については、特開平2−15595号公報、特開平5−121172号公報に詳述されており、これらの公報に記載の材料は、本発明においても適用することができる。
【0064】
陰極の形成方法については、特に制限はなく、公知の方法に従って行うことができる。例えば、印刷方式、コーティング方式等の湿式方式、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的方式、CVD、プラズマCVD法等の化学的方式などの中から、前記した陰極を構成する材料との適性を考慮して適宜選択した方法に従って形成することができる。例えば、陰極の材料として、金属等を選択する場合には、その1種または2種以上を同時または順次にスパッタ法等に従って行うことができる。
【0065】
陰極を形成するに際してのパターニングは、フォトリソグラフィーなどによる化学的エッチングによって行ってもよいし、レーザーなどによる物理的エッチングによって行ってもよく、マスクを重ねて真空蒸着やスパッタ等をして行ってもよいし、リフトオフ法や印刷法によって行ってもよい。
【0066】
本発明において、陰極形成位置は特に制限はなく、有機化合物層上の全部に形成されていてもよく、その一部に形成されていてもよい。
また、陰極と前記有機化合物層との間に、アルカリ金属または2属金属のフッ化物、酸化物等による誘電体層を0.1〜5nmの厚みで挿入してもよい。この誘電体層は、一種の電子注入層と見ることもできる。誘電体層は、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等により形成することができる。
【0067】
陰極の厚みは、陰極を構成する材料により適宜選択することができ、一概に規定することはできないが、通常10nm〜5μm程度であり、50nm〜1μmが好ましい。
また、陰極は、透明であってもよいし、不透明であってもよい。なお、透明な陰極は、陰極の材料を1〜10nmの厚さに薄く成膜し、さらにITOやIZO等の透明な導電性材料を積層することにより形成することができる。
【0068】
(有機化合物層)
本発明における有機化合物層について説明する。
本発明の有機EL素子は、発光層を含む少なくとも一層の有機化合物層を有しており、有機発光層以外の他の有機化合物層としては、前述したごとく、正孔輸送層、電子輸送層、電荷ブロック層、正孔注入層、電子注入層等の各層が挙げられる。
【0069】
−有機化合物層の形成−
本発明の有機EL素子において、有機化合物層を構成する各層は、蒸着法やスパッタ法等の乾式製膜法、転写法、印刷法等いずれによっても好適に形成することができる。
【0070】
−有機発光層−
有機発光層は、電界印加時に、陽極、正孔注入層、または正孔輸送層から正孔を受け取り、陰極、電子注入層、または電子輸送層から電子を受け取り、正孔と電子の再結合の場を提供して発光させる機能を有する層である。
本発明における発光層は、発光材料のみで構成されていてもよいく、ホスト材料と発光材料の混合層とした構成でもよい。発光材料は蛍光発光材料でも燐光発光材料であってもよいく、ドーパントは1種であっても2種以上であってもよい。ホスト材料は電荷輸送材料であることが好ましい。ホスト材料は1種であっても2種以上であってもよいく、例えば、電子輸送性のホスト材料とホール輸送性のホスト材料を混合した構成が挙げられる。さらに、発光層中に電荷輸送性を有さず、発光しない材料を含んでいてもよい。
また、発光層は1層であっても2層以上であってもよく、それぞれの層が異なる発光色で発光してもよい。
【0071】
本発明においては、相異なる二種類あるいは三種類以上の発光材料を用いることにより、任意の色の発光素子を得ることができる。中でも、発光材料を適切に選ぶことにより、高発光効率および高発光輝度である白色発光素子を得ることができる。例えば、青色発光/黄色発光や水色発光/橙色発光、緑色発光/紫色発光のように、補色関係にある色を発光する発光材料を用いて白色を発光させることができる。また、青色発光/緑色発光/赤色発光の発光材料を用いて白色発光させることもできる。
なお、ホスト材料が発光材料の機能を兼ねて発光してもよい。例えば、ホスト材料の発光と発光材料の発光によって、素子を白色発光させてもよい。
【0072】
本発明においては、相異なる二種類以上の発光材料を同一発光層に含んでいてもよいく、また、例えば、青色発光層/緑色発光層/赤色発光層、あるいは青色発光層/黄色発光層のようにそれぞれの発光材料を含む層を積層した構造であってもよい。
【0073】
発光層の発光色の調整手法には以下のような手法もある。これらの一または複数の手法を用いて発光色を調整することができる。
【0074】
1)発光層よりも光取り出し側にカラーフィルタを設けて調整する手法。
カラーフィルタは、透過する波長を限定することで発光色を調整する。カラーフィルタとしては、例えば青色のフィルターとしては酸化コバルト、緑色のフィルターとしては酸化コバルトと酸化クロムの混合系、赤色のフィルターとしては酸化鉄などの公知の材料を用い、例えば真空蒸着法などの公知の薄膜成膜法を用いて透明基板上に形成してもよい。
【0075】
2)発光を促進したり阻害したりする材料を添加して発光色を調整する手法。
例えば、ホスト材料からエネルギーを受け取り、このエネルギーを発光材料へ移す、いわゆるアシストドーパントを添加し、ホスト材料から発光材料へのエネルギー移動を容易にすることができる。アシストドーパントとしては、公知の材料から適宜選択され、例えば後述する発光材料やホスト材料として利用できる材料から選択されることがある。
【0076】
3)発光層よりも光取り出し側にある層(透明基板を含む)に、波長を変換する材料を添加して発光色を調整する手法。
この材料としては公知の波長変換材料を用いることができ、例えば、発光層から発せられた光を他の低エネルギー波長の光に変換する蛍光変換物質を採用することができる。蛍光変換物質の種類は目的とする有機EL装置から出射させようとする光の波長と発光層から発せられる光の波長とに応じて適宜選択される。また、蛍光変換物質の使用量は濃度消光を起さない範囲内でその種類に応じて適宜選択可能である。蛍光変換物質は1種のみを用いてもよいし、複数種を併用してもよい。複数種を併用する場合には、その組合せにより青色光、緑色光および赤色光以外に、白色光や中間色の光を放出することができる。
【0077】
本発明に使用できる蛍光発光材料の例としては、例えば、ベンゾオキサゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、スチリルベンゼン誘導体、ポリフェニル誘導体、ジフェニルブタジエン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、ナフタルイミド誘導体、クマリン誘導体、縮合芳香族化合物、ペリノン誘導体、オキサジアゾール誘導体、オキサジン誘導体、アルダジン誘導体、ピラリジン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、ビススチリルアントラセン誘導体、キナクリドン誘導体、ピロロピリジン誘導体、チアジアゾロピリジン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、スチリルアミン誘導体、ジケトピロロピロール誘導体、芳香族ジメチリディン化合物、8−キノリノール誘導体の金属錯体やピロメテン誘導体の金属錯体に代表される各種金属錯体等、ポリチオフェン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン等のポリマー化合物、有機シラン誘導体などの化合物等が挙げられる。
【0078】
また、本発明に使用できる燐光発光材料は、例えば、遷移金属原子またはランタノイド原子を含む錯体が挙げられる。
遷移金属原子としては、特に限定されないが、好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、および白金が挙げられ、より好ましくは、レニウム、イリジウム、および白金である。
ランタノイド原子としては、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテシウムが挙げられる。これらのランタノイド原子の中でも、ネオジム、ユーロピウム、およびガドリニウムが好ましい。
【0079】
錯体の配位子としては、例えば、G.Wilkinson等著,Comprehensive Coordination Chemistry, Pergamon Press社1987年発行、H.Yersin著,「Photochemistry and Photophysics of Coordination Compounds」 Springer-Verlag社1987年発行、山本明夫著「有機金属化学−基礎と応用−」裳華房社1982年発行等に記載の配位子などが挙げられる。
具体的な配位子としては、好ましくは、ハロゲン配位子(好ましくは塩素配位子)、含窒素ヘテロ環配位子(例えば、フェニルピリジン、ベンゾキノリン、キノリノール、ビピリジル、フェナントロリンなど)、ジケトン配位子(例えば、アセチルアセトンなど)、カルボン酸配位子(例えば、酢酸配位子など)、一酸化炭素配位子、イソニトリル配位子、シアノ配位子であり、より好ましくは、含窒素ヘテロ環配位子である。上記錯体は、化合物中に遷移金属原子を一つ有してもよいし、また、2つ以上有するいわゆる複核錯体であってもよい。異種の金属原子を同時に含有していてもよい。
【0080】
燐光発光材料は、発光層中に、0.1〜40質量%含有されることが好ましく、0.5〜20質量%含有されることがより好ましい。
【0081】
また、本発明における発光層に含有されるホスト材料としては、例えば、カルバゾール骨格を有するもの、ジアリールアミン骨格を有するもの、ピリジン骨格を有するもの、ピラジン骨格を有するもの、トリアジン骨格を有するものおよびアリールシラン骨格を有するものや、後述の正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層の項で例示されている材料が挙げられる。
【0082】
発光層の厚さは、特に限定されるものではないが、通常、1nm〜500nmであるのが好ましく、5nm〜200nmであるのがより好ましく、10nm〜100nmであるのがさらに好ましい。
【0083】
−正孔注入層、正孔輸送層−
正孔注入層、正孔輸送層は、陽極または陽極側から正孔を受け取り陰極側に輸送する機能を有する層である。正孔注入層、正孔輸送層は、具体的には、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、芳香族第三級アミン化合物、スチリルアミン化合物、芳香族ジメチリディン系化合物、ポルフィリン系化合物、有機シラン誘導体、カーボン、等を含有する層であることが好ましい。
【0084】
正孔注入層、正孔輸送層の厚さは、駆動電圧を下げるという観点から、各々500nm以下であることが好ましい。
正孔輸送層の厚さとしては、1nm〜500nmであるのが好ましく、5nm〜200nmであるのがより好ましく、10nm〜100nmであるのがさらに好ましい。また、正孔注入層の厚さとしては、0.1nm〜200nmであるのが好ましく、0.5nm〜100nmであるのがより好ましく、1nm〜100nmであるのがさらに好ましい。
正孔注入層、正孔輸送層は、上述した材料の1種または2種以上からなる単層構造であってもよいし、同一組成または異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。
【0085】
−電子注入層、電子輸送層−
電子注入層、電子輸送層は、陰極または陰極側から電子を受け取り陽極側に輸送する機能を有する層である。電子注入層、電子輸送層は、具体的には、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、フルオレノン誘導体、アントラキノジメタン誘導体、アントロン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド誘導体、フルオレニリデンメタン誘導体、ジスチリルピラジン誘導体、ナフタレン、ペリレン等の芳香環テトラカルボン酸無水物、フタロシアニン誘導体、8−キノリノール誘導体の金属錯体やメタルフタロシアニン、ベンゾオキサゾールやベンゾチアゾールを配位子とする金属錯体に代表される各種金属錯体、有機シラン誘導体、等を含有する層であることが好ましい。
【0086】
電子注入層、電子輸送層の厚さは、駆動電圧を下げるという観点から、各々500nm以下であることが好ましい。
電子輸送層の厚さとしては、1nm〜500nmであるのが好ましく、5nm〜200nmであるのがより好ましく、10nm〜100nmであるのがさらに好ましい。また、電子注入層の厚さとしては、0.1nm〜200nmであるのが好ましく、0.2nm〜100nmであるのがより好ましく、0.5nm〜50nmであるのがさらに好ましい。
電子注入層、電子輸送層は、上述した材料の1種または2種以上からなる単層構造であってもよいし、同一組成または異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。
【0087】
また、陰極と発光層との間のエネルギー障壁を緩和するために、陰極に隣接する層へアルカリ金属やアルカリ金属化合物をドーピングしてもよい。添加した金属や金属化合物により有機層が還元されてアニオンが生成するため、電子注入性が高まり、印加電圧が低くなる。アルカリ金属化合物としては、例えば酸化物、フッ化物、リチウムキレートなどが挙げられる。
【0088】
−正孔ブロック層−
正孔ブロック層は、陽極側から発光層に輸送された正孔が、陰極側に通りぬけることを防止する機能を有する層である。本発明において、発光層と陰極側で隣接する有機化合物層として、正孔ブロック層を設けることができる。また、電子輸送層・電子注入層が正孔ブロック層の機能を兼ねていてもよい。
正孔ブロック層を構成する有機化合物の例としては、BAlq等のアルミニウム錯体、トリアゾール誘導体、BCP等のフェナントロリン誘導体、等が挙げられる。
正孔ブロック層の厚さとしては、1nm〜500nmであるのが好ましく、5nm〜200nmであるのがより好ましく、10nm〜100nmであるのがさらに好ましい。
正孔ブロック層は、上述した材料の1種または2種以上からなる単層構造であってもよいし、同一組成または異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。
また、陰極側から発光層に輸送された電子が陽極側に通りぬけることを防止する機能を有する層を、発光層と陽極側で隣接する位置に設けることもできる。正孔輸送層・正孔注入層がこの機能を兼ねていてもよい。
【0089】
(保護層)
本発明において、有機EL素子全体は、保護層によって保護されていてもよい。
保護層に含まれる材料としては、水分や酸素等の素子劣化を促進するものが素子内に入ることを抑止する機能を有しているものであればよい。
その具体例としては、In、Sn、Pb、Au、Cu、Ag、Al、Ti、Ni等の金属、MgO、SiO、SiO2、Al23、GeO、NiO、CaO、BaO、Fe23、Y23、TiO2等の金属酸化物、SiNx、SiNxy等の金属窒化物、SiCw、SiOzw等の金属炭化物、MgF2、LiF、AlF3、CaF2等の金属フッ化物、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリイミド、ポリウレア、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリジクロロジフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンとジクロロジフルオロエチレンとの共重合体、テトラフルオロエチレンと少なくとも1種のコモノマーとを含むモノマー混合物を共重合させて得られる共重合体、共重合主鎖に環状構造を有する含フッ素共重合体、吸水率1%以上の吸水性物質、吸水率0.1%以下の防湿性物質等が挙げられる。
【0090】
保護層の形成方法については、特に限定はなく、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、MBE(分子線エピタキシ)法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法(高周波励起イオンプレーティング法)、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、ガスソースCVD法、コーティング法、印刷法、転写法を適用できる。
【0091】
(封止)
さらに、本発明の有機ELは、封止容器を用いて素子全体を封止してもよい。
また、封止容器と発光素子の間の空間に水分吸収剤または不活性液体を封入してもよい。水分吸収剤としては、特に限定されることはないが、例えば、酸化バリウム、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、五酸化燐、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化銅、フッ化セシウム、フッ化ニオブ、臭化カルシウム、臭化バナジウム、モレキュラーシーブ、ゼオライト、酸化マグネシウム等を挙げることができる。不活性液体としては、特に限定されることはないが、例えば、パラフィン類、流動パラフィン類、パーフルオロアルカンやパーフルオロアミン、パーフルオロエーテル等のフッ素系溶剤、塩素系溶剤、シリコーンオイル類が挙げられる。
【0092】
本発明の有機EL素子は、陽極と陰極との間に直流(必要に応じて交流成分を含んでもよい)電圧(通常2ボルト〜15ボルト)、または直流電流を印加することにより、発光を得ることができる。
本発明の有機EL素子の駆動方法については、特開平2−148687号、同6−301355号、同5−29080号、同7−134558号、同8−234685号、同8−241047号の各公報、特許登録第2784615号公報、米国特許第5,828,429号、同6,023,308号の各明細書、等に記載の駆動方法を適用することができる。
本発明のガスバリア性フィルムを有機EL素子に用いる場合には、基材フィルムおよび/または保護フィルムとして用いてもよい。
【0093】
また、本発明の基材フィルムに設置したガスバリア性積層体を、基材フィルムの代わりに上記素子上に設置して封止してもよい。本発明では、有機EL素子を成膜後、大気に曝すことなく真空中で珪素酸窒化物層、炭化珪素化合物層、珪素酸窒化物層の順に互いに隣接して配置された3層からなるユニットを少なくとも1つ設置することが好ましい。
なお、好ましい膜厚・組成・構成は前記ガスバリア性積層体と共通であるが、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。
【実施例】
【0094】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0095】
[実施例1]
基材フィルム上にガスバリア性積層体とその上に透明導電層を設けたガスバリア性フィルム(試料No.1〜20)を下記の手順にしたがって作製した。各ガスバリア性フィルムの構造の詳細は表1および表2に記載されるとおりである。
【0096】
<本発明のガスバリア性フィルム(試料No.1〜11)の作製>
1.基材フィルムの作製
表1に記載される樹脂からなる厚み100μmの基材フィルムを用意した。表1中、PETとして東レ(株)製のルミラーT60を使用し、PENとして帝人デュポンフィルム(株)製のテオネックスQ65FAを使用した。
【0097】
2.ガスバリア性積層体の形成
図1に示すロール トゥ ロール方式の誘導結合型プラズマCVD装置(1)を用いて、基材フィルム上に無機ガスバリア層を形成した。図1に示すように、誘導結合型プラズマCVD装置(1)は、真空槽(2)を有しており、その中央部にはプラスチックフィルム(6)を表面に接触させて冷却するためのドラム(3)が配置されている。また、上記真空槽(2)にはプラスチックフィルム(6)を巻くための送り出しロール(4)および巻き取りロール(5)が配置されている。送り出しロール(4)に巻かれたプラスチックフィルム(6)はガイドロール(7)を介してドラム(3)に巻かれ、さらにプラスチックフィルム(6)はガイドロール(8)を介して巻き取りロール(5)に巻かれる。真空排気系としては排気口(9)から真空ポンプ(10)によって真空槽(2)内の排気が常に行われている。成膜系としては誘導電界を発生する誘導コイルを備えたRF電源(11)にオートマッチャーが接続されたものと、真空槽にボンベから一定流量のガスを導入するマスフローコントローラーからなるガス導入系からなる。
【0098】
以下、ガスバリア性積層体の形成時における具体的な条件を示す。
プラスチックフィルム(6)として上記基材フィルムを設置し、これを送り出しロール(4)に掛け、巻き取りロール(5)まで通した。誘導結合プラズマCVD装置(1)への基材の準備が終了した後、真空槽(2)の扉を閉めて真空ポンプ(10)を起動し、真空引きを開始した。到達圧力が4×10-4Paとなったところで、反応ガスとして窒素で5%に希釈したシランガスを導入して放電電源(11)をONし、13.56MHzの高周波を放電電力1000Wで印加、放電の安定を確認してから、プラスチックフィルム(6)の走行を開始し、膜き取りロール(5)に巻き取り終わるまで珪素酸窒化物の成膜を行った。
【0099】
次にTEOSを導入してから放電電源(11)をONし、13.56MHzの高周波を放電電力1000Wで引加、放電の安定を確認してから搬送方向を逆転させて、送り出しロール(4)に巻取り終わるまで有機中間層の成膜を行った。
【0100】
その次にもう一度、反応ガスとして窒素で5%に希釈したシランガスを導入して放電電源(11)をONし、13.56MHzの高周波を放電電力1000Wで印加、放電の安定を確認してから、プラスチックフィルム(6)の走行を開始し、膜き取りロール(5)に巻き取り終わるまで珪素酸窒化物の成膜を行った。
【0101】
ここで採用した各サンプルの各珪素酸窒化物層および有機中間層の成膜条件と、製膜された各珪素酸窒化物層および有機中間層の組成を表3、表4に示す。
【0102】
<本発明のガスバリア性フィルム(試料No.12)の作製>
前記試料No.2の作製工程において、有機中間層の代わりに、反応ガスとして窒素で5%に希釈したシランガスを導入し成膜圧力での放電の安定を確認してから、メタンガスを導入して300nm厚の中間層を設置した以外はNo.2の作製工程と全く同様にして、本発明のガスバリア性フィルム(試料No.12)を作製した。ESCAによる中間層のC:O:Siの元素比は100:82:91であった。
【0103】
<本発明のガスバリア性フィルム(試料No.13)
前記試料No.12の有機中間層形成工程において、シランを導入せずに有機中間層を形成した以外は全く同じ方法で試料No.13を作製した。
【0104】
<本発明のガスバリア性フィルム(試料No.14)の作製>
試料No.2の有機中間層の代わりに下記のプロセスで形成した有機中間層を設置した以外は全く同じ方法で試料No.14を作製した。
即ち、50.75mLのテトラエチレングリコール・ジアクリレートと14.5mLのトリプロピレングリコールモノアクリレートと7.25mLのカプロラクトンアクリレートと10.15mLのアクリル酸と10.15mLのSarCure(Sartomer社製ベンゾフェノン混合物光重合開始剤)とのアクリルモノマー混合物を、固体のN、N’−ビス(3−メチルフェニル)−N,N’−ジフェニルベンジジン粒子36.25gmと混合し、20kHz超音波ティッシュミンサーで約1時間撹拌した。約45℃に加熱し、沈降を防ぐために撹拌した混合物を内径2.0mm、長さ61mmの毛管を通して1.3mmのスプレーノズルにポンプで送り込み、そこで25kHzの超音波噴霧器にかけて小滴に噴霧し、約340℃に維持された表面に落とした。約13℃の温度の低温ドラムに接触させた上記基板フィルム上に蒸気をクライオ凝結させた後、高圧水銀灯ランプによりUV硬化させ(積算照射量約2000mJ/cm2)、有機層を形成した。膜厚は約300nmであった。
【0105】
<本発明のガスバリア性フィルム(試料No.15)の作製>
市販のバッチ式マグネトロンスパッタリング装置(芝浦メカトロニクス社製)を用いた。上記試料No.2の作製で用いたのと同じ基材フィルム(PENフィルム)を10-4Pa台まで真空引きし、放電ガスとしてアルゴンを分圧0.5Paとなるよう導入した。雰囲気圧力が安定したところで放電を開始し、Si34ターゲット上にプラズマを発生させ、スパッタリングプロセスを開始した。プロセスが安定したところでシャッターを開きフィルムへの第一珪素酸窒化物層の形成を開始した。100nmの膜が堆積したところでシャッターを閉じて成膜を終了した。この条件で成膜した珪素酸窒化物の元素比をX線光電子分光分析(ESCA)で測定したところ、O/N=30/70であった。真空槽内に大気を導入し珪素酸窒化物層の形成されたフィルムを取り出した。
次に前述の実施例No.2の試料において実施した有機中間層と全く同じ方法で第一珪素酸窒化物層の上に300nm厚の有機中間層を設置した。さらにその次に上記の第一珪素酸窒化物層と全く同じ方法で上述の有機中間層の上に100nm厚の第二珪素酸窒化物層を設置して、本発明のガスバリアフィルム(試料No.15)を得た。
【0106】
<比較用のガスバリア性フィルム(試料No.16)の作製>
前記試料No.2の作製工程において、有機中間層を設置しない以外は全く同様にして、比較用のガスバリアフィルム(試料No.16)を作製した。
【0107】
<比較用のガスバリア性フィルム(試料No.17)の作製>
前記試料No.2の作製工程において、有機中間層の代わりに、反応ガスとして窒素で5%に希釈したシランガスを導入し成膜圧力での放電の安定を確認してから、窒素で5%に希釈した酸素ガスを上記希釈シランガスの1/10の流量で導入して300nm厚の中間層を設置した以外はNo.2の作製工程と全く同様にして、比較用のガスバリア性フィルム(試料No.17)を作製した。ESCAによる中間層のO/Nの元素比は2/98であった。
【0108】
<比較用のガスバリア性フィルム(試料No.18)の作製>
前記試料No.14の有機中間層形成工程にしたがって、有機中間層を基材フィルム上に直接設置した。
次に、膜厚を5nmにした以外は試料No.15の珪素酸窒化物層形成工程と全く同じ方法でNリッチの第一珪素酸窒化物層を作製した。ESCAによる第一珪素酸窒化物層のO/Nの元素比は30/70であった。
次に、成膜時にさらに反応ガスに酸素ガスを0.005Pa追加導入し、かつ膜厚を95nmにした以外は第一珪素酸窒化物層と全く同様の方法でOリッチの第二珪素酸窒化物層を作製して、比較用のガスバリアフィルム(試料No.18)を作製した。ESCAによる第二珪素酸窒化物層のO/Nの元素比は33/67であった。
【0109】
<比較用のガスバリア性フィルム(試料No.19、20)の作製>
1.無機層形成
図2に示すような図1と類似のロール トゥ ロール方式のスパッタリング装置(1)を用いた。この装置は真空槽(2)を有しており、その中央部にはプラスチックフィルム(6)を表面に接触させて冷却するためのドラム(3)が配置されている。また、上記真空槽(2)にはプラスチックフィルム(6)を巻くための送り出しロール(4)および巻き取りロール(5)が配置されている。送り出しロール(4)に巻かれたプラスチックフィルム(6)はガイドロール(7)を介してドラム(3)に巻かれ、さらにプラスチックフィルム(6)はガイドロール(8)を介してロール(5)に巻かれる。真空排気系としては排気口(9)から真空ポンプ(10)によって真空槽(2)内の排気が常に行われている。成膜系としてはパルス電力を印加できる直流方式の放電電源(11’)に接続されたカソード(12’)上にターゲット(図示せず)が装着されている。この放電電源(11’)は制御器(13)に接続され、さらにこの制御器(13)は真空槽(2)へ配管(15)を介して反応ガス導入量を調整しつつ供給するガス流量調整ユニット(14)に接続されている。また、真空槽(2)には一定流量の放電ガスが供給されるよう構成されている(図示せず)。以下、具体的な条件を示す。
【0110】
ターゲットとしてSiをセットし、放電電源(11’)としてパルス印加方式の直流電源を用意した。プラスチックフィルム(6)として上記試料No.2の作製で用いたのと同じ基材フィルム(PENフィルム)を用意し、これを送り出しロール(4)に掛け、巻き取りロール(5)まで通した。スパッタリング装置(1)への基材の準備が終了後、真空槽(2)の扉を閉めて真空ポンプ(10)を起動し、真空引きとドラムの冷却を開始した。到達圧力が4×10-4Pa、ドラム温度が5℃になったところで、プラスチックフィルム(6)の走行を開始した。放電ガスとしてアルゴンを導入して放電電源(11’)をONし、放電電力5kW、成膜圧力0.3PaでSiターゲット上にプラズマを発生させ、3分間プレスパッタを行った。この後、反応ガスとして酸素を導入した。放電が安定してからアルゴンおよび酸素ガス量を徐々に減らして成膜圧力を0.1Paまで下げた。0.1Paでの放電の安定を確認してから、一定時間珪素酸化物の成膜を行った。成膜終了後、真空槽(2)を大気圧に戻して珪素酸化物を成膜したフィルムを取り出した。膜厚は約50nmであった。
【0111】
2.有機中間層形成
上記試料No.14の有機中間層と全く同じ方法で有機中間層を作製した。
【0112】
3.無機層形成/有機層形成の交互繰返し成膜+透明導電層形成
上記1、2の上に無機層(SiOx層)を1と同様に設置してガスバリア性積層体を作製し(合計3層)、比較用のガスバリア性フィルム(試料No.19)を得た。
【0113】
さらに1、2と無機層の間に1、2を各3回ずつ交互に積層した以外は試料No.19と同様にして比較用のガスバリアフィルム(試料No.20)を得た
【0114】
<透明導電層の形成>
上記で得られた各試料を、市販のバッチ式マグネトロンスパッタリング装置(芝浦メカトロニクス社製)の真空チャンバー内に導入し、直流電源を用いてインジウム錫酸化物(ITO、インジウム/錫=95/5モル比)の陽極を形成した(厚み0.2μm)。
以上のようにして透明導電層付きガスバリア性フィルム(試料No.1〜20)を得た。
【0115】
<ガスバリア性フィルムの物性評価>
下記装置を用いて、製造した各ガスバリア性フィルムの諸物性を評価した。結果は、表1および表2に示した。
・層構成(膜厚):日立社製、走査型電子顕微鏡「S−900型」
・水蒸気透過率(g/m2・day):MOCON社製、「PERMATRAN−W3/31」(条件:40℃・相対湿度90%)
・原子組成比:クレイトスアナリティカル社製「ESCA3400」
【0116】
[実施例2]
<有機EL素子の作製(I)>
25mm×25mmの上記透明導電層付きガスバリア性フィルム(試料No.1〜20)上に直流電源を用い、スパッタ法にてインジウム錫酸化物(ITO、インジウム/錫=95/5モル比)の陽極を形成した(厚み0.2μm)。この陽極上に正孔注入層として銅フタロシアニン(CuPc)を真空蒸着法にて10nm設け、その上に正孔輸送層として、N,N’−ジナフチル−N,N’−ジフェニルベンジジンを真空蒸着法にて40nm設けた。この上にホスト材として4,4’−N,N’−ジカルバゾ−ルビフェニル、青発光材としてビス[(4,6−ジフルオロフェニル)−ピリジナート−N,C2'](ピコリネート)イリジウム錯体(Firpic)、緑発光材としてトリス(2−フェニルピリジン)イリジウム錯体(Ir(ppy)3)、赤発光材としてビス(2 −フェニルキノリン)アセチルアセトナ−トイリジウムをそれぞれ100/2/4/2の質量比になるように共蒸着して40nmの発光層を得た。さらにその上に電子輸送材として2,2’,2’’−(1,3,5−ベンゼントリイル)トリス[3−(2−メチルフェニル)−3H−イミダゾ[4,5−b]ピリジン]を1nm/秒の速度で蒸着して24nmの電子輸送層を設けた。この有機化合物層の上にパタ−ニングしたマスク(発光面積が5mm×5mmとなるマスク)を設置し、蒸着装置内でフッ化リチウムを1nm蒸着し、さらにアルミニウムを100nm蒸着して陰極を設けた。陽極、陰極よりそれぞれアルミニウムのリード線を出して発光素子を作成した。該素子を窒素ガスで置換したグロ−ブボックス内に入れ、ガラスキャップと紫外線硬化型接着剤(長瀬チバ製、XNR5493)で封止して発光素子を作製した。
【0117】
<有機EL素子の作製(II)>
ガスバリア性フィルム(試料No.1〜19)を用いて、前記有機EL素子の作製(I)の場合と同様にして発光素子を作製した後、ガラスキャップによる封止の代わりに対応する基材フィルム上のバリア層構成と全く同条件で封止した。
【0118】
<屈曲耐性テスト;有機EL素子の作製(III)>
ガスバリア性フィルムを30mm×200mmに切り出し、コーティングテスター工業製、屈曲試験器「円筒型マンドレル法タイプI型」で12mm径の円筒にバリア面を外側にして屈曲した状態(180度)と非屈曲状態を100回繰り返した基材を用いた以外は上記EL素子(I)と同じ方法で有機EL素子(III)を作製した。
【0119】
<有機EL素子(I)〜(III)の耐久性評価>
以上のようにして得られた有機EL素子(I)〜(III)にソースメジャーユニット2400型(東洋テクニカ(株)製)を用いて、直流電流を印加し発光させたところ、いずれの素子試料も良好に発光した。
次に上記有機EL素子の作製後、60℃・相対湿度90%下に500時間放置して同様にして発光させ、全体における発光部分の面積(非発光部分はダークスポット)を、日本ポラデジタル(株)製マイクロアナライザーを用いて求めた。
【0120】
上記実施例1,2の結果をまとめて下記表1に示す。
【0121】
【表1】

【0122】
【表2】

【0123】
【表3】

【0124】
【表4】

【0125】
表1の結果から明らかなように、本発明のガスバリア性フィルム(試料No.1〜15)は、比較用のガスバリア性フィルム(試料16〜20)に対して高耐久性・高耐屈曲性の有機エレクトロルミネッセンス素子を提供可能である。
また、試料No.1に比べてより高いガラス転移温度を有する構成樹脂からなるフィルム基板を用いて、同じプロセス条件で作製した試料No.2〜15は、より高耐久性の有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することができる。
さらに、試料No.2は、類似構成の試料No.17、18に対して高い屈曲耐性を示し、フレキシブルフィルムとしての利用に好適な基材フィルムを提供することができる。
一方で、本発明のガスバリア性フィルム(試料No.1〜15)は、比較用のガスバリア性フィルム(試料No.20)に対して製造の際のロール巻取り回数を著しく減らすことができる(試料No.19との比較から明らかなように同一巻取り回数では性能の劣るものしか得られない)。すなわち、本発明によれば、高生産性を有する製法により高いガスバリア性フィルムを提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明のガスバリア性フィルムは、優れた透明性とガスバリア性を有するため、各種デバイスの基板やデバイスの被覆フィルムとして好適に用いられる。また、本発明の画像表示素子用基板および有機EL素子は、フレキシビリティを付与しうるたかい屈曲耐性および耐久性を有する。さらに従来技術に比べて生産性が高い。このため、本発明は産業上の利用可能性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】試料No.1〜14、16、17の作製に用いた誘導結合型プラズマCVD装置を示す説明図である。
【図2】試料No.15、18〜20の作製に用いたスパッタリング装置を示す説明図である。
【符号の説明】
【0128】
1 誘導結合型プラズマCVD装置
2 真空槽
3 ドラム
4 送り出しロール
5 巻き取りロール
6 プラスチックフィルム
7 ガイドロール
8 ガイドロール
9 排気口
10 真空ポンプ
11 RF電源(オートマッチャー付き)
11’放電電源
12 誘導コイル
12’カソード
13 制御器
14 ガス流量調整ユニット
15 配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルム上にガスバリア性積層体を有してなるガスバリア性フィルムにおいて、該ガスバリア性積層体が、珪素酸窒化物層、有機中間層、珪素酸窒化物層の順に互いに隣接して配置された3層からなるユニットを少なくとも1つ有することを特徴とするガスバリア性フィルム。
【請求項2】
40℃・相対湿度90%における水蒸気透過率が0.01g/m2・day以下である請求項1に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項3】
前記基材フィルムが、ガラス転移温度が120℃以上の高分子材料で形成される請求項1または2に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項4】
前記有機中間層が珪素および酸素を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項5】
前記珪素酸窒化物層または前記有機中間層の少なくとも一層が、誘導結合プラズマCVDを用いて形成される請求項4に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項6】
前記珪素酸窒化物層の少なくとも一層の酸素と窒素の構成比率(酸素/窒素)が0.2〜5である請求項1〜5のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項7】
前記有機中間層が珪素を含有することを特徴とする請求項6に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項8】
前記有機中間層がアクリレート化合物の硬化物からなることを特徴とする請求項6に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項9】
前記ガスバリア性積層体上に透明導電層を設けた請求項1〜8のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項10】
前記基材フィルムをロール トゥ ロール(roll to roll)方式で供給し、前記ガスバリア性積層体を連続的に成膜する方法で製造した請求項1〜9のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルムを用いた画像表示素子用基材フィルム。
【請求項12】
請求項11に記載の画像表示素子用基材フィルムを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項13】
請求項12に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を成膜後、大気に曝すことなく真空中で珪素酸窒化物層、有機中間層、珪素酸窒化物層の順に互いに隣接して配置された3層からなるユニットを少なくとも1つ設置してから封止して製造した有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−253590(P2007−253590A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−84628(P2006−84628)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】