説明

ガスバリア性フィルム、装置、及びガスバリア性フィルムの製造方法

【課題】ガスバリア性に優れるガスバリア性フィルム、このガスバリア性フィルムを用いた装置、このガスバリア性フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】ガスバリア性フィルム1は、含有されるオリゴマー量が1質量%以下であるプラスチックフィルム2、プラスチックフィルム2上に設けられた紫外線硬化型樹脂からなる有機層3、及び有機層3の上に設けられた無機層4、を有し、有機層3の厚さが、プラスチックフィルム表面における最大高低差よりも大きくなっている。これによりガスバリア性に優れるガスバリア性フィルム1を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性フィルム、このガスバリア性フィルムを用いた装置、及びこのガスバリア性フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池モジュール用裏面保護シートには所定のガスバリア性と長期間にわたる過酷な自然環境に耐え得る、耐熱性、耐光性、耐加水分解性、耐湿性等の耐久性が要求される。
【0003】
特許文献1は、耐侯性・耐加水分解性を有するフィルム基材の少なくとも片面に無機化合物からなる蒸着層を有するガスバリア性フィルムと、このガスバリア性フィルムに配置された耐熱性を有するフィルム基材とを有する太陽電池モジュール用裏面保護シート、につき記載されている。
【0004】
より具体的には、同文献においては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム基材の片面に、無機酸化物の蒸着膜を設けたバリアフィルムのポリエチレンテレフタレート(PET)が高温・高湿下で加水分解劣化等を生じ、水蒸気(水分)バリアが低下して、太陽電池の長期耐久性維持が困難であるという問題点を有する点に特に着目している。そして、この問題点を解決するために、ガスバリア性フィルムに耐熱性を有するフィルム基材を積層している。
【0005】
実際に、同文献の実施例1では、ガスバリア性フィルムのフィルム基材(PEN#12)側に耐熱性を有するフィルム基材(PET#50)を、また、蒸着層(VM)側に耐熱性を有するフィルム基材(PET#188)を、固形分30重量%の2液硬化型ポリウレタン系接着剤を用いて、それぞれドライラミネート積層法により積層している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−227203号公報(請求項1、第0008段落、第0085段落)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者が特許文献1に記載された太陽電池モジュール用裏面保護シートについて検討を行ったところ、同裏面保護シートは、耐熱性を有するフィルム基材が接着剤を介してガスバリア性フィルムに貼り付けられるという構成を採用するために、ガスバリア性が不十分となる課題があることが判明した。
【0008】
すなわち、耐熱性を有するフィルム基材は、耐熱性のみならず、機械的強度、耐候性、耐加水分解性に優れるので、こうしたフィルム基材を用いることによって太陽電池モジュール用裏面保護シートのガスバリア性の改善が期待される。しかしながら、特許文献1では、耐熱性を有するフィルム基材を、ガスバリア性フィルムの両面に2液硬化型ポリウレタン系接着剤で接着しており、当該接着剤から水分が侵入しやすくなってしまっている。その結果、耐熱性を有するフィルム基材に期待されるガスバリア性が十分に発揮されないという課題がある。
【0009】
実際に、ガスバリア性については、本発明者が検討したところ、太陽電池モジュール用裏面保護シートとして実使用するためには、10−2g/m・dayレベル(0.01g/m・day以下)のガスバリア性が必要とされることがわかった。しかしながら、特許文献1の第0104段落の表3に示すように、同文献に記載されている太陽電池モジュール用裏面保護シートは、0.15g/m・day程度の水蒸気バリア性しか達成されておらず、実使用には向かないものとなっている。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その第1の目的は、ガスバリア性に優れるガスバリア性フィルムを提供することにある。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その第2の目的は、ガスバリア性に優れるガスバリア性フィルムを用いた装置を提供することにある。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その第3の目的は、ガスバリア性に優れるガスバリア性フィルムを製造することが可能なガスバリア性フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、耐加水分解性に優れガスバリア性の向上が期待できる耐熱性を有するフィルム基材を、特許文献1のようにドライラミネート法によって接着剤を介してガスバリア性フィルムに貼り付けるのではなく、ガスバリア性フィルムの基材自体として用いることができないか検討を行った。より具体的には、上記耐熱性を有するフィルム基材上に、無機材料を含有する無機層を直接形成してガスバリア性フィルムを形成することができないか否かにつき検討を行った。
【0014】
そして、こうした検討の過程で、耐加水分解性を向上させるためにフィルム基材のオリゴマー量を低減したところ(以下、「プラスチックフィルム」という場合に、オリゴマー量を低減したフィルム基材を意味する場合がある。)、このプラスチックフィルムの表面粗さが粗くなって、フィルム表面の最大高低差がμmオーダーとなることがわかった。一方で、酸化ケイ素等からなる無機層は厚さが数十nmから数百nmなので、上記プラスチックフィルムの表面粗さが粗くなることによって、無機層がプラスチックフィルム表面を完全に覆うことができなくなる。その結果、無機層で覆われなかった部分は、十分なガスバリア性が得られず、耐加水分解性を向上させたプラスチックフィルムを用いることによってガスバリア性の向上が期待されるところ、かえってガスバリア性が悪化するという新たな課題に直面した。
【0015】
そこで、上記の課題を克服するために本発明者がさらに鋭意検討をした結果、耐加水分解性を改善したプラスチックフィルムと、無機層との間に、プラスチックフィルムの表面粗さを覆って平坦化する有機層を設けることにより上記問題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0016】
上記課題を解決するための第1の観点に係る本発明のガスバリア性フィルムは、含有されるオリゴマー量が1質量%以下であるプラスチックフィルム、該プラスチックフィルム上に設けられた紫外線硬化型樹脂からなる有機層、及び該有機層の上に設けられた無機層、を有し、前記有機層の厚さが、前記プラスチックフィルム表面における最大高低差よりも大きくなっている、ことを特徴とする。
【0017】
この発明によれば、含有されるオリゴマー量が1質量%以下であるプラスチックフィルム、このプラスチックフィルム上に設けられた紫外線硬化型樹脂からなる有機層、及びこの有機層の上に設けられた無機層、を有し、有機層の厚さが、プラスチックフィルム表面における最大高低差よりも大きくなっていので、プラスチックフィルム中のオリゴマー量の低減により良好な膜質の無機層が形成されやすくなるとともに、オリゴマー量の低減によりプラスチックフィルム表面の最大高低差が大きくなっても、有機層がこの最大高低差を覆って平坦化が行われ、この平坦化された有機層上に無機層が設けられることになる。その結果、ガスバリア性に特に優れるガスバリア性フィルムを提供することができる。
【0018】
上記課題を解決するための第2の観点に係る本発明のガスバリア性フィルムは、含有されるオリゴマー量が1質量%以下であるプラスチックフィルム、該プラスチックフィルム上に設けられた紫外線硬化型樹脂からなる有機層、及び該有機層の上に設けられた無機層、を有し、前記有機層の厚さが、1.7μm以上、10μm以下である、ことを特徴とする。
【0019】
この発明によれば、上記第1の観点に係るガスバリア性フィルムの構成及び作用効果に加えて、紫外線硬化型樹脂からなる有機層の厚さが、1.7μm以上、10μm以下であるので、プラスチックフィルム表面の最大高低差がより確実に有機層に覆われることになり、ガスバリア性フィルムのガスバリア性をより確実に向上させやすくなる。
【0020】
本発明のガスバリア性フィルムの好ましい態様においては、前記プラスチックフィルムの材質がポリエチレンテレフタレートである。
【0021】
この発明によれば、プラスチックフィルムの材質がポリエチレンテレフタレートであるので、ポリエチレンテレフタレートは、結晶化しやすい性質を有し、この性質はオリゴマー量を低減することでより顕在化する。その結果、オリゴマー量を低減させたポリエチレンテレフタレートで形成されたプラスチックフィルムは表面の粗さが大きくなる傾向となり、有機層で表面の平滑化を図る意義が大きくなる。
【0022】
上記課題を解決するための本発明の装置は、上記本発明のガスバリア性フィルムを用いる装置であって、当該装置が表示装置又は発電装置であることを特徴とする。
【0023】
この発明によれば、上記本発明のガスバリア性フィルムを用いる装置であって、この装置が表示装置又は発電装置であるので、10−2g/m・dayレベル(0.01g/m・day以下)という高いガスバリア性が必要とされる表示装置又は発電装置に本発明のガスバリア性フィルムが用いられることになり、ガスバリア性に優れるガスバリア性フィルムを用いた装置を提供することができる。
【0024】
上記課題を解決するための本発明のガスバリア性フィルムの製造方法は、オリゴマー量が1質量%以下のプラスチックフィルムを準備するプラスチックフィルム準備工程、前記プラスチックフィルム上に、該プラスチックフィルム表面における最大高低差よりも厚い有機層を紫外線硬化型樹脂で形成する有機層形成工程、前記有機層上に、無機層を形成する無機層形成工程、を有することを特徴とする。
【0025】
この発明によれば、オリゴマー量が1質量%以下のプラスチックフィルムを準備するプラスチックフィルム準備工程、プラスチックフィルム上に、このプラスチックフィルム表面における最大高低差よりも厚い有機層を紫外線硬化型樹脂で形成する有機層形成工程、有機層上に、無機層を形成する無機層形成工程、を有するようにするので、プラスチックフィルム中のオリゴマー量の低減により良好な膜質の無機層が形成されやすくなるとともに、オリゴマー量の低減によりプラスチックフィルム表面の最大高低差が大きくなっても、紫外線硬化型樹で形成した有機層がこの最大高低差を覆って平坦化が行われ、この平坦化された有機層上に無機層が設けられることになる。その結果、ガスバリア性に優れるガスバリア性フィルムを製造することが可能なガスバリア性フィルムの製造方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明のガスバリア性フィルムによれば、ガスバリア性に優れるガスバリア性フィルムを提供することができる。
【0027】
本発明の装置によれば、ガスバリア性に優れるガスバリア性フィルムを用いた装置を提供することができる。
【0028】
本発明のガスバリア性フィルムの製造方法によれば、ガスバリア性に優れるガスバリア性フィルムを製造することが可能なガスバリア性フィルムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明のガスバリア性フィルムの一例を示す模式的な断面図である。
【図2】プラスチックフィルムに含有されるオリゴマー量と水蒸気透過率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
次に、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0031】
(ガスバリア性フィルム)
図1は、本発明のガスバリア性フィルムの一例を示す模式的な断面図である。
【0032】
ガスバリア性フィルム1は、含有されるオリゴマー量が1質量%以下であるプラスチックフィルム2、プラスチックフィルム2上に設けられた有機層3、及び有機層3の上に設けられた無機層4、を有し、有機層3の厚さが、プラスチックフィルム2表面における最大高低差(図示せず。)よりも大きくなっている。これにより、プラスチックフィルム2中のオリゴマー量の低減により良好な膜質の無機層4が形成されやすくなるとともに、オリゴマー量の低減によりプラスチックフィルム1表面の最大高低差が大きくなっても、有機層3がこの最大高低差を覆って平坦化が行われ、この平坦化された有機層3上に無機層4が設けられることになる。その結果、ガスバリア性に特に優れるガスバリア性フィルム1を提供することができる。以下、ガスバリア性フィルム1を構成する各部材について説明する。
【0033】
プラスチックフィルム2は、含有されるオリゴマー量が1質量%以下となっている。無機層4の形成をより良好に行う見地から、オリゴマー量は、0.8質量%以下とすることが好ましく、0.7質量%以下とすることがより好ましい。オリゴマー量の少ないプラスチックフィルム2は耐加水分解性フィルムと呼ばれることがある。プラスチックフィルム2にオリゴマーが存在すると、無機層4を真空成膜する際にガスとなって発生するため、膜形成を阻害し、無機層4の膜厚が薄くなりやすく、良好な膜質が得にくくなる。そこで、本発明ではオリゴマー量を低減することにより、無機層4の形成の阻害を抑制し、無機層4の厚さおよび膜質を良好にしやすくなる。なお、含有されるオリゴマー量は、0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、0.2質量%以上であることが特に好ましい。オリゴマー量が少な過ぎると、プラスチックフィルム自身の柔軟性が低下し、ロールプロセスへの適用が難しくなったり、後工程で不具合が生じたりするおそれがある。
【0034】
プラスチックフィルム2に含有されるオリゴマーとは、例えば、プラスチックフィルム2を形成する際の未反応モノマー、オリゴマー、さらには反応複生成物などの低分子化合物などを総称したものを指し、必ずしも純粋なオリゴマーに限定されるものではない。より具体的には、後述するオリゴマーの含有量の測定方法によってオリゴマー成分として検出される物質(重量減少に寄与する物質)全てが本発明でいうオリゴマーとなる。
【0035】
プラスチックフィルム2に含有されるオリゴマーの含有量の測定は、種々の方法を挙げることができるが、好ましくは、サンプルとなるプラスチックフィルムを加熱したキシレンに24時間浸積させて、サンプルの重量変化で、キシレン中に抽出されるオリゴマー成分を測定する方法を挙げることができる。より具体的には、特開平11−288622号公報に記載された方法を用いればよい。すなわち、50mm角に切断したフィルムサンプル16枚を、140℃の熱風オーブン中で2時間乾燥し、重量(抽出前重量)を測定する。次に、ソックスレー抽出器を用いて沸騰キシレン(500ml)で24時間抽出する。抽出したサンプルを取り出し、水の入った超音波洗浄機で6分間洗浄するのを3回繰り返し、ガーゼで表面に付着しているキシレンを軽くふき取る。最後に抽出したサンプルを160℃の熱風オーブン中で8時間乾燥し、重量(抽出後重量)を測定して、オリゴマー量を、「オリゴマー量(%)=100×(抽出前重量−抽出後重量)/抽出前重量」の計算式から求めればよい。
【0036】
プラスチックフィルム2の材質は、プラスチックであればよく特に制限はない。プラスチックフィルム2の材質としては、汎用性、工業性の見地から、ポリエステル樹脂を好ましく挙げることができる。こうしたポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、及びこれらの共重合体、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート(PCT)などを挙げることができる。ポリエステル樹脂のうちでも、ポリエチレンテレフタレート(PET)とポリエチレンナフタレート(PEN)及びこれらの共重合体が好ましく、ポリエチレンテレフタレート及びその共重合体がさらに好ましく、ポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。すなわち、プラスチックフィルム2の材質がポリエチレンテレフタレートであることが特に好ましい。ポリエチレンテレフタレートは、結晶化しやすい性質を有し、この性質はオリゴマー量を低減することでより顕在化する。その結果、オリゴマー量を低減させたポリエチレンテレフタレートで形成されたプラスチックフィルム2は表面の粗さが大きくなる傾向となり、有機層3で表面の平滑化を図る意義が大きくなる。
【0037】
オリゴマー量を低減させたポリエチレンテレフタレートの具体例としては、例えば、東レ株式会社製のX10S(商品名)、帝人デュポンフィルム株式会社製のVN,VW,VK(いずれも商品名)、三菱樹脂株式会社製のP100(商品名)、等々を挙げることができる。
【0038】
プラスチックフィルム2の厚さは、ガスバリア性フィルム1に所定の剛性を付与できる程度とすればよく特に制限はなく、通常10μm以上、好ましくは50μm以上、また、通常5mm以下、好ましくは3mm以下、より好ましくは1mm以下、更に好ましくは500μm以下、特に好ましくは300μm以下とする。プラスチックフィルム2の厚さを300μm以下とすると、プラスチックフィルム準備工程のフィルム成形工程で延伸した場合に厚みのむらを小さくしやすくなる。また、プラスチックフィルム2の厚さを300μm以下とすると、剛性が低くなり、無機層4の形成をロールtoロール方式で行った後ロール形状に巻き取った場合に無機層4のひび割れや傷付きが発生しにくくなる。さらに、太陽電池モジュール用裏面保護シートとしてガスバリア性フィルム1を用いる場合には、低価格品に対する市場要求が特に強いところ、プラスチックフィルム2の厚さを300μm以下とすれば、プラスチックフィルム2の原材料の使用量を低減してコスト削減を図ることもできる。
【0039】
プラスチックフィルムの厚さは、入手時の厚さを測定して評価できる。一方、ガスバリア性フィルムを構成した後におけるプラスチックフィルムの厚さは、ガスバリア性フィルムを集束イオンビーム加工装置(FIB:日立製作所製、FB−2000)にて加工し、プラスチックフィルムの断面を露出させた後、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM:日立製作所製、S−5000H、加速電圧1.5kV)で観察することにより測定することができる。このとき、プラスチックフィルム断面の任意の6箇所を測定し、平均値を採用する。
【0040】
プラスチックフィルム2は、図1には図示していないが、オリゴマー量を低減していることにより表面粗さが粗くなっている。プラスチックフィルム2中のオリゴマー量を低減することによって、プラスチックフィルム2表面の凹凸が大きくなるメカニズムは明白なものとなっていないが、表面凹凸の大きなプラスチックフィルム2は白化する傾向にあるので、以下のように予想される。
【0041】
プラスチックフィルム2が白化する現象は、プラスチックフィルム2中の分子鎖が部分的に結晶化して、結晶部分の光の屈折率が非晶部分と異なるために起こると考えられる。そして、この結晶部分が成長する等により当該結晶部分が凸形状又は凹形状となって、表面凹凸が誘発されると考えられる。ここで、結晶化のしやすさは、プラスチックフィルム2を構成する高分子の分子の形によって異なる。分子構造が簡単で、規則正しいものは結晶化しやすい。例えば、ポリエチレンテレフタレートのプラスチックフィルム2を使用した場合には、ポリエチレンテレフタレートは結晶性プラスチックに属し、元々結晶化しやすい性質を有する。このため、透明なポリエチレンテレフタレートフィルムは、フィルム成型時に工夫をしており、例えば、融点以上の温度にしておいてから、急冷することにより非結晶状態を得ている。このように、ポリエチレンテレフタレート自体が結晶化しやすい性質を有するところ、オリゴマー量を低減したポリエチレンテレフタレートで形成されたプラスチックフィルム2は、さらに結晶化しやすくなっていると考えられる。なぜなら、オリゴマー等の未反応成分が少なくなることにより、樹脂組成純度とともに規則性が向上してより本来の結晶性プラスチックの特性を発現しやすくなると考えられるためである。すなわち、オリゴマー量を低減するために、一度得られたポリエチレンテレフタレートのペレットを、固相重合などの方法により更に反応させて未反応成分を低減するという処理を施す場合が多いため、樹脂組成純度とともに規則性が向上し、結晶化、すなわち白化し易くなると考えられる。
【0042】
プラスチックフィルム2は、上述のように、オリゴマー量を低減しているので所定の表面粗さを有する。また、プラスチックフィルム2の表面粗さは、プラスチックフィルム2の厚さとほぼ比例する関係となる。具体的には、プラスチックフィルム2の厚さが厚くなるほど、プラスチックフィルム2の表面における山谷の最大高低差が大きくなる傾向となる。これらの点を考慮すると、プラスチックフィルム2の表面における山谷の最大高低差は、通常0.7μm以上、5μm以下となる。例えば、後述する実施例に記載されるように、厚さが300μm以下のプラスチックフィルム2では、最大高低差が最大で1.6μmとなるので、有機層3の厚さを1.7μm以上とすることが好ましい。
【0043】
表面粗さとしての最大高低差の測定は、例えば、表面形状測定装置(東レエンジニアリング製SP−500)を用い、レンズ倍率50倍、分解能1376×1040pixelの条件で、0.13mm×0.17mmの範囲を測定し、最大値と最小値の差を最大高低差として評価すればよい。一方、ガスバリア性フィルムを構成した後におけるプラスチックフィルムの表面粗さとしての最大高低差の測定は、ガスバリア性フィルムを集束イオンビーム加工装置(FIB:日立製作所製、FB−2000)にて加工し、プラスチックフィルムの断面を露出させた後、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM:日立製作所製、S−5000H、加速電圧1.5kV)で観察することにより行えばよい。プラスチックフィルム断面の任意の6箇所を測定し、そのうちの最大高低差の値を採用する。
【0044】
プラスチックフィルム2の表面は、コロナ処理、火炎処理、プラズマ処理、グロー放電処理、粗面化処理、加熱処理、薬品処理、及び易接着処理等の表面処理を行ってもよい。こうした表面処理の具体的な方法は従来公知のものを適宜用いることができる。
【0045】
プラスチックフィルム2の製造方法、具体的には、所定のオリゴマー量を含有するプラスチックフィルム2の製造方法については、後述する。
【0046】
有機層3は、プラスチックフィルム2の表面粗さを覆うように形成されている。すなわち、有機層3は、その厚さが、プラスチックフィルム2表面における最大高低差よりも大きくなるように形成される。
【0047】
有機層3を構成する材料は、有機物であればよく特に制限はないが、例えば、熱硬化型樹脂又は紫外線硬化型樹脂等を挙げることができる。これらのうち、工業生産性を考慮すると、紫外線硬化型樹脂を用いることが好ましい。すなわち、熱硬化型樹脂では、硬化のために例えば160℃程度の加熱を要するため、耐熱性を有するプラスチックフィルム2を用いる必要があり、プラスチックフィルム2の材質の選択が若干狭まることになる。また、熱硬化型樹脂では、一定の硬化時間(例えば30分程度)が必要となるので、ロールtoロール方式の生産工程上で十分な乾燥時間を確保することが難しくなる場合がある。この場合、より確実に硬化させるためにロールに巻き取った状態で加熱オーブンに投入することがあるが、ロールに巻き取った巻物状態であるためブロッキングの問題や、ロールの外側とロールの中心付近とで硬化ムラが発生しやすくもなる。これに対して、紫外線硬化型樹脂は、必要露光量を照射すれば充分に硬化可能であることから硬化が短時間ですみ、工業生産上、プラスチックフィルム2上に良好な有機層3を形成しやすくなる。
【0048】
有機層3を紫外線硬化型樹脂で構成する場合、プラスチックフィルム2上に紫外線硬化型樹脂組成物を塗布して、塗膜に紫外線を照射して紫外線硬化型樹脂を硬化させることにより有機層3が成膜される。有機層3の形成方法についての詳細は後述するが、紫外線硬化型樹脂組成物に用いる材料について以下説明する。
【0049】
有機層3の形成に用いる紫外線硬化型樹脂組成物は、特に制限はないが、アクリルモノマーを主成分とする樹脂を用いることが好ましい。アクリルモノマーを主成分とする樹脂の具体例としては、アクリレート系の官能基を有するもの、例えば比較的低分子量のポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂、多価アルコール等の多官能化合物の(メタ)アクリレート等のオリゴマー又はプレポリマー、反応性希釈剤等が挙げられる。そして、これらの具体例としては、エチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、メチルスチレン、N−ビニルピロリドン等の単官能モノマー並びに多官能モノマー、例えば、ポリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。本明細書において「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0050】
有機層3の形成に用いる紫外線硬化型樹脂組成物は、さらに、重合開始剤として、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ミヒラーベンゾイルベンゾエート、α−アミロキシムエステル、テトラメチルチウラムモノサルファイド、チオキサントン類や、光増感剤としてn−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリーn−ブチルホスフィン等を混合して用いることができる。紫外線硬化型樹脂組成物中の重合開始剤や光増感剤の含有量は、特に制限はなく、良好な硬化が行われる程度の含有量であればよい。また、紫外線硬化型樹脂組成物中には、塗布液の粘度調整の見地から、トルエンやメチルエチルケトン等の溶媒を含有させてもよい。こうした溶媒は、本発明の要旨の範囲内において、任意の割合で混合して用いてもよい。
【0051】
有機層3の厚さは、1.7μm以上、10μm以下であることが好ましい。これにより、プラスチックフィルム2表面の最大高低差がより確実に有機層3に覆われることになり、ガスバリア性フィルム1のガスバリア性をより確実に向上させやすくなる。例えば、後述する実施例に記載されるように、厚さが300μm以下のプラスチックフィルム2では、最大高低差が最大で1.6μmとなるので、有機層3の厚さを1.7μm以上とすることが好ましい。また、例えば、有機層3を紫外線硬化型の樹脂で形成する紫外線硬化樹脂層とする場合には、その厚さは、プラスチックフィルム2の最大高低差以上が好ましく、上限は10μm以下とすればよい。有機層3の厚さは、ガスバリア性フィルム1を集束イオンビーム加工装置(FIB:日立製作所製、FB−2000)にて加工し、有機層の断面を露出させた後、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM:日立製作所製、S−5000H、加速電圧1.5kV)で観察することにより測定することができる。このとき、有機層断面の任意の6箇所を測定し、平均値を採用する。
【0052】
有機層3の厚さが、プラスチックフィルム2の表面粗さの最大高低差よりも小さいと、プラスチックフィルム2表面を充分に平坦化することができず、完全にプラスチックフィルム2を覆えないため、有機層3の全面に無機層4を均一に形成しにくくなり、無機層の形成されなかった部分のガスバリア性が不十分となりやすい。こうした見地から、有機層3の厚さを1.7μm以上とすることが好ましい。一方で、プラスチックフィルム2のカールや有機層3の割れ等の発生を考慮すると、有機層3の厚さを10μm以下とすることが好ましい。
【0053】
無機層4は、水蒸気等のガスを遮断する層として形成される。無機層4を形成する材料は、無機化合物であればよく特に制限はないが、例えば、金属、無機酸化物、無機酸化窒化物、無機窒化物、無機酸化炭化物、又は無機酸化炭化窒化物等を挙げることができる。無機層4は、本発明の要旨の範囲内において、上記材料を任意の割合で混合して用いてもよい。これら材料から形成される薄膜とすれば、水蒸気の透過を遮断しやすくなり、酸素の透過を遮断しやすくなるので、ガスバリア機能を有効に付与できる。
【0054】
無機層4を構成する無機化合物としては、より具体的には、ガスバリア性の見地から、珪素、アルミニウム、マグネシウム、チタン、スズ、インジウム、又はセリウムから選ばれた1種または2種以上を含有するものであることが好ましい。より具体的には、ガスバリア性の見地から、無機酸化物としては、例えば、珪素酸化物、アルミニウム酸化物、マグネシウム酸化物、チタン酸化物、スズ酸化物、又はインジウム合金酸化物が好ましく、無機酸化窒化物としては、珪素酸化窒化物が好ましく、無機窒化物としては、珪素窒化物、アルミニウム窒化物、又はチタン窒化物が好ましく、さらに基材薄膜の金属としては、アルミニウム、銀、錫、クロム、ニッケル、もしくはチタンが好ましい。無機層4は、本発明の要旨の範囲内において、上記材料を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0055】
無機層4の厚さは、使用する無機化合物によっても異なるが、ガスバリア性確保の見地から、通常5nm以上、好ましくは10nm以上とする。また、無機層4の厚さは、クラック等の発生を抑制する見地から、通常5000nm以下、好ましくは500nm以下、より好ましくは300nm以下とする。また、無機層4は、必ずしも1層で構成することに限定されず、2層以上積層したものであってもよく、その際に、同じ材料どうしを組み合わせても、異なる材料どうしを組み合わせてもよい。
【0056】
無機層4の形成方法の詳細については後述する。
【0057】
ガスバリア性フィルム1は、上述のとおり、プラスチックフィルム2、有機層3、及び無機層4で形成されているが、これら以外の層をプラスチックフィルム2、有機層3、及び無機層4の間に適宜挿入したり、プラスチックフィルム2において有機層3が形成されていない側の面に積層したり、無機層4の上に積層してもよい。こうした任意の層としては、例えば、プライマー層やオーバーコート層等を挙げることができる。こうしたプライマー層やオーバーコート層は、従来公知のものを適宜用いることができる。
【0058】
ガスバリア性フィルム1は、オリゴマー量が低減されたプラスチックフィルム2と、プラスチックフィルム2表面の最大高低差を覆う程度の厚さを有する有機層3と、ガスバリア性に寄与する無機層4と、を有するので、高いガスバリア性が達成される。具体的には、10−2g/m・dayレベル(0.01g/m・day以下)という高いガスバリア性を達成することができる。ガスバリア性は、例えば、水蒸気透過率を測定することによって評価することができ、測定方法としては、例えば、測定温度:37.8℃、湿度:100%RHの条件下で、水蒸気透過率測定装置(MOCON社製、商品名:AQUATRAN)を用いて測定する方法を挙げることができる。
【0059】
(装置)
本発明の装置は、上記説明した本発明のガスバリア性フィルムを用いる装置であって、表示装置又は発電装置である。これにより、10−2g/m・dayレベル(0.01g/m・day以下)という高いガスバリア性が必要とされる表示装置又は発電装置に本発明のガスバリア性フィルムが用いられることになり、ガスバリア性に優れるガスバリア性フィルムを用いた装置を提供することができる。
【0060】
表示装置とは、水蒸気等の侵入により表示性能が劣化する性質を有し、ガスバリア性フィルムを用いることが必要なものをいう。こうした表示装置としては、例えば、液晶表示装置、有機EL表示装置等を挙げることができる。液晶表示装置や有機EL表示装置は、従来公知の構成を適宜用い、ガスバリア性フィルムによる封止も従来公知の方法を適宜用いればよい。
【0061】
発電装置とは、水蒸気等の侵入により発電性能が劣化する性質を有し、ガスバリア性フィルムを用いることが必要なものをいう。こうした発電装置としては、例えば、太陽電池装置(太陽電池モジュール)を挙げることができる。太陽電池装置は、従来公知の構成を適宜用いることができ、ガスバリア性フィルムによる封止も従来公知の方法を適宜用いればよい。より具体的には、ガスバリア性フィルムは、通常、太陽電池装置の裏面保護シートとして用いられる。なぜなら、裏面保護シートには外部からの水蒸気(水分)や酸素の侵入を遮断するためのガスバリア性が要求されるからである。ガスバリア性が不十分な場合には、水蒸気(水分)の透過により太陽電池装置を構成する充填剤が剥離、変色したり、配線の腐蝕を起こす等、太陽電池の出力が低下する場合がある。したがって、ガスバリア性が特に優れる本発明のガスバリア性フィルムを用いる意義が大きい。
【0062】
発電装置、より具体的には太陽電池装置に本発明のガスバリア性フィルムを用いる利点はもう一つある。すなわち、本発明のガスバリア性フィルムは、プラスチックフィルムのオリゴマー量を低減しているので、表面凹凸の原因となる部分結晶の形成で白化する場合がある。こうした白化により、太陽電池装置に照射される太陽光が乱反射して照射効率が向上して、太陽電池装置の発電効率が向上する傾向となる。こうした見地からも、本発明のガスバリア性フィルムは、太陽電池装置に代表される発電装置に用いることが好ましい。
【0063】
(ガスバリア性フィルムの製造方法)
本発明のガスバリア性フィルムの製造方法は、オリゴマー量が1質量%以下のプラスチックフィルムを準備するプラスチックフィルム準備工程、プラスチックフィルム上に、このプラスチックフィルム表面における最大高低差よりも厚い有機層を形成する有機層形成工程、有機層上に、無機層を形成する無機層形成工程、を有する。これにより、プラスチックフィルム中のオリゴマー量の低減により良好な膜質の無機層が形成されやすくなるとともに、オリゴマー量の低減によりプラスチックフィルム表面の最大高低差が大きくなっても、有機層がこの最大高低差を覆って平坦化が行われ、この平坦化された有機層上に無機層が設けられることになる。その結果、ガスバリア性に優れるガスバリア性フィルムを製造することが可能なガスバリア性フィルムの製造方法を提供することができる。以下、各工程について説明する。
【0064】
まず、プラスチックフィルム準備工程について説明する。
【0065】
プラスチックフィルム準備工程は、オリゴマー量が1質量%以下のプラスチックフィルムを準備する工程である。プラスチックフィルム準備工程は、より具体的には、上記所定のプラスチックフィルムを製造して準備するか、上記所定のプラスチックフィルムをフィルムメーカー等に製造してもらい、それを購入して準備すること等によって行われる。オリゴマー量を低減したプラスチックフィルムを製造する方法は特に制限されないが、例えばポリエステル樹脂に代表される熱可塑性樹脂をプラスチックフィルムの材質として用いる場合には以下の各工程を行えばよい。具体的には、熱可塑性樹脂等のオリゴマー成分を低減する工程(オリゴマー成分低減工程)の後、この熱可塑性樹脂を溶融させてフィルムに成形する工程(フィルム成形工程)を行えばよい。以下、上記オリゴマー成分低減工程及びフィルム成形工程について説明する。
【0066】
オリゴマー成分低減工程に用いる原料は、熱可塑性樹脂から形成される。ここで、この熱可塑性樹脂を合成するための重合触媒としては、通常、三酸化アンチモンSb等のアンチモン化合物を用いる。オリゴマーの再生率の低さ、触媒の失活処理効果の大きさ等から得られる原料が低オリゴマー化しやすいという見地から、重合触媒としては、Ge、Ti、Co、Zn,Alから選ばれた少なくとも一種を含む化合物、例えば、酸化ゲルマニウム、酸化チタン等の触媒を用いることが好ましい。
【0067】
オリゴマー成分低減工程に用いる原料の熱可塑性樹脂の繰替し単位は、80以上とするのが好ましく、120以上とするのがより好ましい。また、熱可塑性樹脂の固有粘度は、オルトクロルフェノール(OCP)中での測定値として、0.5(dl/g)以上が好ましく、0.6(dl/g)以上がより好ましく、固相重合してオリゴマー成分を少なくした0.7(dl/g)以上とすることが特に好ましい。
【0068】
オリゴマー成分低減工程においては、上記のようにして準備した原料をペレット状の形態又はパウダー状の形態として用いる。より具体的には、原料の形態は、2〜4mm角のペレットの様な形態であってもよいが、比表面積を低減してよりオリゴマー成分の除去を容易に行うために、1μm以上、1mm以下のパウダーのような比表面積の大きな原料を用いることが好ましい。こうしたパウダー状の原料を用いることにより、オリゴマー成分の低減・除去のための処理時間が短くなりやすく、抽出効率も向上させやすい。原料をパウダー状として用いる場合の、同パウダーの平均粒径は、オリゴマーの抽出の点からは細かいほど好ましく、取り扱い性においては粗い方が取り扱いやすいという見地から、10μm以上、500μm以下とすることがより好ましい。原料をパウダー状として用いる場合の平均粒径の測定は、特に制限はないが、アルゴンレーザーやヘリウムレーザーを使用する静的散乱法が最も実用的な測定法として例示できる。また、ペレット状の原料を粉砕してパウダー状の原料とするために用いる粉砕方法も特に制限はないが、通常、冷却粉砕法(冷凍粉砕法)が用いられる。冷凍粉砕法としては、例えば、公知のコロイドミル、ジェット粉砕機、ボールミル、ロールミル、衝撃微粉細機等を適宜単独又は組み合わせて用いばよい。
【0069】
オリゴマー成分低減工程では、上記原料からオリゴマー成分の除去を試みる。こうしたオリゴマー成分を低減・除去する方法としては、特に制限はないが、生産効率を向上させつつ環境負荷を低減するという見地から、上記準備した原料を超臨界ガス状態で処理することが好ましい。超臨界ガスはオリゴマーの良溶媒であるので、超臨界ガス中での処理によりオリゴマー量を低減することができる。ここで、超臨界状態とは、ある温度以上、ある圧力以上でガスの様な拡散性能と液体の様な抽出性能を併せ持つ状態をいうが、二酸化炭素の場合では、31.3℃以上で72.9気圧以上で超臨界ガス状態となる。用いるガスには特に限定はないが、臨界温度が300℃以下、臨界圧力が500気圧以下のものが好ましく、例えば、一酸化炭素、二酸化炭素、アンモニア、窒素、水、メタノール、エタノール、エタン、プロパン、ブタン、ベンゼン、ジエチルエーテル等を挙げることができる。これらガスのうち、超臨界温度が低いという点で、二酸化炭素、エタンが好ましい。
【0070】
オリゴマー成分低減工程においては、上述のとおり、超臨界ガスがオリゴマーの良溶媒として機能するが、超臨界ガス及び原料とともに、熱可塑性樹脂を溶かさないエントレーナーを共存させることにより、オリゴマーの抽出をさらに良好に行いやすくなる。用いるエントレーナーとしては、特に制限はないが、用いる熱可塑性樹脂に応じて適宜選択すればよい。例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂の場合、エントレーナーとしては、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類を用いることが好ましい。これらエントレーナーのうち、生産効率の向上、環境負荷の低減、取り扱いの容易性等の見地から、ジオキサンを用いることがより好ましい。エントレーナーの混合比率は、特に制限はないが、オリゴマーの抽出をより良好に行うという見地から、超臨界ガスに対して、10%以上であるのが好ましい。
【0071】
オリゴマー成分低減工程において超臨界ガスを用いる場合、処理温度は、超臨界温度以上とする。ここで、用いる原料が熱可塑性樹脂である場合には、原料の取り扱いの容易性の見地から、処理温度を超臨界温度以上としつつも、熱可塑性樹脂の融点Tm以下、ガラス転移温度Tg以上とすることが好ましい。また、超臨界ガスを用いる場合の系の圧力は、臨界圧力以上であればよいが、抽出速度を向上させる見地から、できるだけ高圧で処理をするのが好ましい。例えば、ガスに二酸化炭素を用いる場合、100気圧程度でも良いが、300気圧以上とするのが好ましく、400気圧以上とするのがより好ましい。こうした範囲とすれば、抽出速度を速くしやすくなる。そして、超臨界ガスでの処理時間は抽出量にも依存するが、工業生産を考慮すると、1時間以上、10時間以下とする。
【0072】
オリゴマー成分低減工程において超臨界ガスでの処理を行う場合、この超臨界ガス処理は閉じきった閉鎖系の処理装置を用いてもよく、連続的に原料や超臨界ガス等を投入・排出できる系の処理装置を用いてもよい。工業生産を良好に行いやすくするという見地から、連続的に原料や超臨界ガス等を投入・排出できる系で処理することが好ましい。より具体的には、処理釜に連続的に樹脂原料を投入かつ排出でき、さらに超臨界ガスとエントレーナー混合ガスも新鮮なものを供給しながら、かつ抽出されたガスを処理釜から排出して、オリゴマーを回収・精製した後、さらに超臨界ガスとして使用する循環型の処理装置を用いることが好ましい。
【0073】
フィルム成形工程においては、上記オリゴマー成分低減工程で得たオリゴマー含量の少ない樹脂を、必要に応じて脱水・乾燥・熱処理した後、通常、該樹脂の融点Tm以上で溶融成形(溶融押出)することによってプラスチックフィルムを形成する。ここで、溶融押出は、例えば、一軸、二軸ベント、タンデム押出機等の任意の押出機を用いることができる。また、口金もリングダイ、Tダイ、コートハンガーダイ、フィッシュテイルダイ、Lダイ等の任意の形状のものを用いることができる。また、溶融押出は、溶融原料中の異物を除去する見地から、通常、溶融樹脂を、適宜なフィルター、例えば、焼結金属、多孔性セラミック、サンド、金網等を濾過させながら押し出す。
【0074】
フィルム成形工程においては、口金スジ解消や安定キャストの見地から、口金から溶融状態の樹脂シートを鉛直方向へ押し出すようにすることが好ましく、口金ランド方向も鉛直方向に向いていることがより好ましい。また、口金とキャストドラムの位置関係は、特には制限はないが、口金がキャスティングドラムの頂上に位置するよりも、シートの進行方向の上、さらに好ましくは鉛直方向がドラムの接線になる様な位置の方が厚み均質性、表面無欠点などにとっては好ましい。このためにも口金形状は烏口タイプの先端の尖ったものが好ましい。なお、口金から溶融シートを押出すときのドラフト比(=口金リップ間隔/押出されたシート厚み)は、厚みむらが小さく、平面性の良いシートが得られやすいという見地から、3以上とすることが好ましく、5以上とすることがより好ましく、また、20以下とすることが好ましい。
【0075】
フィルム成形工程においては、続いて、オリゴマー成分の少ない押出プラスチックフィルムをロール式長手方向延伸機にてロールを用いてTg以上に加熱して1.5〜7倍程度延伸することが好ましい。次いで、幅方向延伸のためにテンター式幅方向延伸機に導かれ、シート両端をクリップによって把持し熱風によってシートをTg以上に加熱し、両端クリップの幅を広げることでシートを横方向(幅方向)へ2〜8倍延伸することも好ましく行われる。さらに長手方向に強度の強いシートにするために、長手方向に再度ロール延伸してもよい。もちろん長手方向と幅方向とを同時に延伸する同時二軸延伸を行っても良い。
【0076】
次に、有機層形成工程について説明する。
【0077】
有機層形成工程は、プラスチックフィルム上に、このプラスチックフィルム表面における最大高低差よりも厚い有機層を形成する工程である。有機層は、紫外線硬化型樹脂を用いて形成することが好ましい。紫外線硬化型樹脂を用いる利点は、熱硬化型樹脂と比較して、有機層形成時のプラスチックフィルムに対する熱負荷を低減することができるので、プラスチックフィルムの材料選択の余地が広がる点にある。また、有機層の形成をロールtoロール方式で行った場合に、熱硬化型樹脂ではロールに巻き取った後にさらなる乾燥が必要になって有機層がブロッキングしやすい現象が発生しやすくなるが、紫外線硬化型樹脂では上記現象の発生を抑制することができる。さらに、熱硬化型樹脂を用いた場合には、上記さらなる乾燥でロール中心近傍の有機層と、ロール外側近傍の有機層とで硬化ムラが発生しやすい傾向となるが、紫外線硬化型樹脂を用いればこうした傾向を抑制しやすくなる。
【0078】
有機層形成工程において、有機層に紫外線硬化型樹脂を用いる場合、プラスチックフィルム上に紫外線硬化型樹脂組成物を塗布して、塗膜に紫外線を照射して紫外線硬化型樹脂を硬化させることにより有機層が形成される。ここで紫外線硬化型樹脂組成物は、上記「ガスバリア性フィルム」の説明欄で説明したとおりのものを用いればよいので、説明の重複をさけるため、ここでの説明は省略する。
【0079】
有機層形成工程において、紫外線硬化型樹脂組成物を塗布する方法としては、特に制限はないが、例えば、ロールコート法、グラビアロールコート法、キスロールコート法、リバースロールコート法、ミヤバーコート法、グラビアコート法、スピンコート法、及びダイコート法等の一般的に用いられる塗布方法が挙げられる。
【0080】
有機層形成工程においては、上記紫外線硬化型樹脂組成物をプラスチックフィルム上に塗布した後に、必要に応じて乾燥を行い、さらに紫外線硬化を行う。乾燥の温度は、常温であってもよいが、紫外線硬化型樹脂組成物が溶媒を含有する場合には、この溶媒の沸点以上の温度で行うことが好ましい。また、乾燥時間は、工業生産性を考慮しつつ必要に応じて含有させた溶媒を確実に除去する見地から、適宜調整すればよい。紫外線硬化は、紫外線源から紫外線を照射することによって行えばよい。この場合の紫外線源の具体例としては、例えば、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク灯、ブラックライト蛍光灯、メタルハライドランプ灯等の光源が挙げられる。紫外線の波長としては、190〜380nmの波長域を使用することができる。紫外線を照射する時間は、工業生産性を考慮しつつ有機層の確実な硬化を行う見地から、適宜調整すればよい。
【0081】
次いで、無機層形成工程について説明する。
【0082】
無機層形成工程は、有機層上に、無機層を形成する工程である。無機層に用いる材料は、上記「ガスバリア性フィルム」の説明欄で説明したとおりのものを用いればよいので、説明の重複をさけるため、ここでの説明は省略する。
【0083】
無機層形成工程においては、上記説明した所定の材料を有機層上に堆積させて無機層が形成される。こうした無機層の形成方法は、特に制限はないが、工業生産性の見地から、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的気相成長法(Physical Vapor Deposition法)やプラズマ化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition法)等を好ましく挙げることができる。こうした各種の形成方法における成膜条件は、得ようとする無機層の物性や厚さ等を考慮して、従来公知の成膜条件を適宜調整して行えばよい。
【0084】
無機層形成工程における無機層の形成は、より具体的には、無機酸化物、無機窒化物、無機酸化窒化物、又は金属等を原料として用い、これらを加熱して基材に蒸着させる真空蒸着法を挙げることができる。また、上記原料に酸素ガスを導入することにより酸化させて、基材に蒸着させる酸化反応蒸着法を挙げることができる。さらに、上記原料をターゲット原料として用い、アルゴンガス、酸素ガスを導入して、スパッタリングすることにより、基材に蒸着させるスパッタリング法を挙げることができる。そして、上記原料をプラズマガンで発生させたプラズマビームにより加熱させて、基材に蒸着させるイオンプレーティング法を利用することができる。また、酸化珪素の蒸着膜を成膜させる場合には、有機珪素化合物を原料とするプラズマ化学気相成長法を利用することもできる。
【0085】
本発明のガスバリア性フィルムの製造方法は、プラスチックフィルム準備工程、有機層形成工程、及び無機層形成工程から構成されるが、これら以外の工程を行ってもよい。こうした工程としては、例えば、プライマー層形成工程やオーバーコート層形成工程等をあげることができる。こうした各種の工程は、従来公知の方法を適宜用いて行えばよい。
【実施例】
【0086】
次に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0087】
(実施例1)
<プラスチックフィルム準備工程>
先ず、プラスチックフィルムとして、厚さ50μmのポリエステルフィルム(東レ株式会社製、PETフィルム、商品名:ルミラーX10S(ルミラーは登録商標)、オリゴマー量:0.65質量%)を用いた。ここで、オリゴマー量(オリゴマー分量)は、東レ株式会社のホームページ(http://www.toray.jp/films/properties/lumirror/lum_x10s.html)を参考にしたものである。同ホームページではオリゴマーの分析は「キシレン24HR」と記載されており、東レ株式会社の特許公開公報(特開平11−288622号公報)に記載された以下の方法に準拠して行われたと考えられる。まず、50mm角に切断したフィルムサンプル16枚を、140℃の熱風オーブン中で2時間乾燥し、重量(抽出前重量)を測定する。次に、ソックスレー抽出器を用いて沸騰キシレン(500ml)で24時間抽出する。その後、抽出したサンプルを取り出し、水の入った超音波洗浄機で6分間洗浄するのを3回繰り返し、ガーゼで表面に付着しているキシレンを軽くふき取る。最後に抽出したサンプルを160℃の熱風オーブン中で8時間乾燥し、重量(抽出後重量)を測定して、オリゴマー量を、「オリゴマー量(%)=100×(抽出前重量−抽出後重量)/抽出前重量」の計算式から求める。
【0088】
なお、東レ株式会社のホームページ(http://www.toray.jp/films/properties/lumirror/lum_x10s.html)に掲載されている、各プラスチックフィルムのグレードごとのオリゴマー量を以下の表−1に転記する。
【0089】
【表1】

【0090】
また、プラスチックフィルムの表面の表面粗さ(最大高低差)は、表面形状測定装置(東レエンジニアリング製SP−500)を用い、レンズ倍率50倍、分解能1376×1040pixelの条件で、0.13mm×0.17mmの範囲を測定し、最大値と最小値の差を最大高低差として評価した。その結果、プラスチックフィルムの最大高低差は、1.3μmとなった。なお、ガスバリア性フィルムを構成した後におけるプラスチックフィルムの表面粗さとしての最大高低差の測定は、ガスバリア性フィルムを集束イオンビーム加工装置(FIB:日立製作所製、FB−2000)にて加工し、プラスチックフィルムの断面を露出させた後、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM:日立製作所製、S−5000H、加速電圧1.5kV)で観察することにより行えばよい。プラスチックフィルム断面の任意の6箇所を測定し、そのうちの最大高低差の値を採用する。
【0091】
<有機層形成工程>
このプラスチックフィルムの片面に、下記の組成に調整した紫外線硬化型樹脂組成物(紫外線硬化型有機層用インキ)をダイコートにて塗布し、120℃で2分間乾燥させた後、波長260nmから400nmの範囲における積算光量300mJ/cmの条件で紫外線を照射し、厚さ5μmの有機層を形成した。この有機層の厚さは、ガスバリア性フィルムを集束イオンビーム加工装置(FIB:日立製作所製、FB−2000)にて加工し、有機層の断面を露出させた後、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM:日立製作所製、S−5000H、加速電圧1.5kV)で観察することにより測定した。このとき、有機層断面の任意の6箇所を測定し、平均値を採用した。
【0092】
・紫外線硬化型有機層用インキの組成;
ポリエステルアクリレートオリゴマー(東亞合成(株)製、アロニックスM−8060):39重量部
トルエン/メチルエチルケトン(1/1)の混合溶媒:60重量部
オリゴ[2−ヒドロキシ−2−メチル−[1−(4−メチルビニル)フェニル]プロパノン](光重合開始剤、lamberti社製、ESACURE ONE):1重量部
【0093】
<無機層形成工程>
無機層は、スパッタ成膜方式で形成した。具体的には、上記有機層を形成したプラスチックフィルムを、バッチ式スパッタリング装置(アネルバ株式会社製、SPF−530H)のチャンバー内に、有機層側に成膜する向きに設置し、珪素をターゲット材として搭載した。ここでターゲットと、有機層が形成されたプラスチックフィルムとの距離は50mmに設定した。成膜時の添加ガスとして、窒素ガス(太陽東洋酸素株式会社製、純度99.9995%以上)、アルゴンガス(太陽東洋酸素株式会社製、純度99.9999%以上)を用いた。チャンバー内を、油回転ポンプおよびクライオポンプで到達真空度2.5×10−4Paまで減圧した。次いで、チャンバー内に窒素ガスを流量15sccmで導入し、アルゴンガスを流量20sccmで導入した。そして、真空ポンプとチャンバーとの間にあるバルブの開閉度を制御することにより、チャンバー内圧力を0.25Paに保ちながら、RFマグネトロンスパッタリング法により、投入電力1.2kWで、有機層上に厚み80nmの酸化窒化珪素層を形成した。なお、sccmとは、standard cubic centimeter per minuteの略である。
【0094】
以上の様にして得たガスバリア性フィルムの層構成は、ポリエステルフィルム(PETフィルム)/紫外線硬化型有機層/無機層(酸化窒化珪素層)、である。このガスバリア性フィルムの水蒸気透過率を以下の方法で測定した。すなわち、測定温度:37.8℃、湿度:100%RHの条件下で、水蒸気透過率測定装置(MOCON社製、商品名:AQUATRAN)を用いて測定した。その結果を表−2に示す。
【0095】
なお、プラスチックフィルムの厚さは入手時の厚さデータで評価できるが、ガスバリア性フィルムを構成した後におけるプラスチックフィルムの厚さは、ガスバリア性フィルムを集束イオンビーム加工装置(FIB:日立製作所製、FB−2000)にて加工し、プラスチックフィルムの断面を露出させた後、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM:日立製作所製、S−5000H、加速電圧1.5kV)で観察することにより測定した。このとき、プラスチックフィルム断面の任意の6箇所を測定し、平均値を採用した。
【0096】
(実施例2)
無機層形成工程において無機層の形成をイオンプレーティング成膜方式で行い、以下の組成の無機層としたこと以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを製造した。以下、相違点たる無機層形成工程について記載する。
【0097】
無機層の形成に先立ち、以下のイオンプレーティング用蒸発源材料を準備した。すなわち、窒化ケイ素粉末であるSi粉末(高純度化学製、平均粒径:1μm)100重量部に対し、導電性材料である酸化亜鉛(ZnO)粉末(高純度化学製、粒度分布計・コールターカウンター法で測定された平均粒径:0.5μm、JIS−K7194準拠4探針法で測定された体積抵抗率が10Ω・cm)を30重量部加えて混合した。次いで、この原料粉末にバインダーとして、2%セルロース水溶液を滴下しながら原料粉末を回転させて、10mmφの球状体を得た。その後、焼成炉に入れ、400℃で1時間保持し、平均粒径7mmφの塊状物からなるイオンプレーティング用蒸発源材料を得た。なお、得られた蒸発源材料の質量割合をX線分光分析装置(XPS/ESCA)により測定した結果、二酸化ケイ素100に対して、酸化亜鉛の質量割合は30であり、原料粉末の混合割合とほぼ一致していた。ここで、X線分光分析装置として、VG Scientific社製ESCA LAB220i−XLを用いた。
【0098】
無機層は、イオンプレーティング成膜方式で形成した。具体的には、実施例1と同様に、厚み50μmのポリエステルフィルム(東レ株式会社製、PETフィルム、商品名:ルミラーX10S、オリゴマー量:0.65質量%)をプラスチックフィルムとして用い、このプラスチックフィルムの片面へ有機層を形成した。そして、プラスチックフィルムを有機層側に成膜する向きにして、ホローカソード型イオンプレーティング装置にセットした。次いで、作製した蒸発源材料を、ホローカソード型イオンプレーティング装置内の坩堝に投入した後、真空引きを行った。真空度が5×10−4Paまで到達した後、プラズマガンにアルゴンガスを15sccm導入し、電流110A、電圧90Vのプラズマを発電させた。チャンバー内を1×10−3Paに維持することと磁力によりプラズマを所定方向に曲げ、本発明に係る蒸発源材料に照射させた。坩堝内の蒸発源材料は溶融状態を経て昇華することが確認された。イオンプレーティングを5秒間(蒸着レート:360nm/min)行って基板に堆積させることにより、膜厚30nmのSiNZnO層を形成した。
【0099】
以上の様にして得たガスバリア性フィルムの層構成は、ポリエステルフィルム(PETフィルム)/紫外線硬化型有機層/無機層(SiNZnO層)である。このガスバリア性フィルムの水蒸気透過率を実施例1と同様にして測定した。その結果を表−2に示す。
【0100】
(実施例3)
無機層形成工程において無機層の形成を真空蒸着成膜方式で行い、以下の組成の無機層としたこと以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを製造した。以下、相違点たる無機層形成工程について記載する。
【0101】
実施例1と同様に、厚み50μmのポリエステルフィルム(東レ株式会社製、PETフィルム、商品名:ルミラーX10S、オリゴマー量:0.65質量%)をプラスチックフィルムとして用い、このプラスチックフィルムの片面へ有機層を形成した。そして、プラスチックフィルムを有機層側に成膜する向きにして、真空蒸着装置にセットした。次いで、真空蒸着装置を使用して1.33×10−3Paの真空下でSiOを高周波加熱方式で蒸発させ、有機層上に厚さ40nmのSiOx(x=1.7)層を形成した。
【0102】
以上の様にして得たガスバリア性フィルムの層構成は、ポリエステルフィルム(PETフィルム)/紫外線硬化型有機層/無機層(SiOx(x=1.7))である。このガスバリア性フィルムの水蒸気透過率を実施例1と同様にして測定した。その結果を表−2に示す。
【0103】
(実施例4)
プラスチックフィルムとして、厚み125μmのポリエステルフィルム(東レ株式会社製、PETフィルム、商品名:ルミラーX10S、オリゴマー量:0.53質量%)を用いたこと以外は、実施例1と同様にガスバリア性フィルムを製造した。オリゴマー量は、実施例1と同様に、東レ株式会社のホームページに掲載されたデータを用いてものである。また、プラスチックフィルムの表面粗さを実施例1と同様にして測定したところ、最大高低差は、1.5μmであった。得られたガスバリア性フィルムにつき、水蒸気透過率を実施例1と同様にして測定した。その結果を表−2に示す。
【0104】
(実施例5)
プラスチックフィルムとして、厚み300μmのポリエステルフィルム(東レ株式会社製、PETフィルム、商品名:ルミラーX10S、オリゴマー量:0.37質量%)を用いたこと以外は、実施例1と同様にガスバリア性フィルムを製造した。オリゴマー量は、実施例1と同様に、東レ株式会社のホームページに掲載されたデータを用いてものである。また、プラスチックフィルムの表面粗さを実施例1と同様にして測定したところ、最大高低差は、1.6μmであった。得られたガスバリア性フィルムにつき、水蒸気透過率を実施例1と同様にして測定した。その結果を表−2に示す。
【0105】
(実施例6)
有機層の厚みを3μmとしたこと以外は、実施例1と同様にガスバリア性フィルムを製造した。得られたガスバリア性フィルムにつき、水蒸気透過率を実施例1と同様にして測定した。その結果を表−2に示す。
【0106】
(実施例7)
有機層の厚みを2.0μmとしたこと以外は、実施例1と同様にガスバリア性フィルムを製造した。得られたガスバリア性フィルムにつき、水蒸気透過率を実施例1と同様にして測定した。その結果を表−2に示す。
【0107】
(実施例8)
有機層の厚みを1.7μmとしたこと以外は、実施例1と同様にガスバリア性フィルムを製造した。得られたガスバリア性フィルムにつき、水蒸気透過率を実施例1と同様にして測定した。その結果を表−2に示す。
【0108】
(比較例1)
有機層を形成しなかったこと以外は、実施例1と同様にガスバリア性フィルムを製造した。得られたガスバリア性フィルムにつき、水蒸気透過率を実施例1と同様にして測定した。その結果を表−2に示す。
【0109】
(比較例2)
有機層の厚みを1μmとしたこと以外は、実施例1と同様にガスバリア性フィルムを製造した。得られたガスバリア性フィルムにつき、水蒸気透過率を実施例1と同様にして測定した。その結果を表−2に示す。
【0110】
(比較例3)
オリゴマー量が低減されていないプラスチックフィルムとして、厚さ50μmのポリエステルフィルム(東レ株式会社製、PETフィルム、商品名:ルミラーS10、オリゴマー量:約1.6質量%)を用いた以外は、実施例1と同様にガスバリア性フィルムを製造した。オリゴマー量は、実施例1と同様に、東レ株式会社のホームページに掲載されたデータを用いてものであるが、さらに以下の方法を用いて求めた。すなわち、同ホームページには、ルミラーS10については厚さ250μmのオリゴマー量(オリゴマー分量)が1.4質量%と記載されているところ、ルミラーX10Sでは、厚さが250μmから50μmとなると、オリゴマー量が0.46質量%から0.65質量%となり0.2質量%程度増加している。そこで、厚さ50μmのルミラーS10についても、250μmのものよりも0.2質量%程度オリゴマー量が増加していると考え、オリゴマー量を1.4+0.2=1.6質量%とした。また、オリゴマー量が低減されていないプラスチックフィルムの表面粗さを実施例1と同様にして測定したところ、最大高低差は、0.6μmであった。得られたガスバリア性フィルムにつき、水蒸気透過率を実施例1と同様にして測定した。その結果を表−2に示す。
【0111】
【表2】

【0112】
図2は、プラスチックフィルムに含有されるオリゴマー量と水蒸気透過率との関係を示すグラフである。具体的には、表−2に示したデータのうち、有機層の厚みが5μmで無機層の成膜方式がスパッタ法であるガスバリア性フィルム(実施例1、4〜8、比較例3)につき、プラスチックフィルムに含有されるオリゴマー量と水蒸気透過率との関係をプロットしたグラフである。図2から、プラスチックフィルムに含有されるオリゴマー量を1.0質量%以下とすることで、水蒸気透過率を10−2g/m/dayレベル以下(0.01g/m/day以下)とすることができ、非常に高いレベルのガスバリア性を達成できることがわかる。
【符号の説明】
【0113】
1 ガスバリア性フィルム
2 プラスチックフィルム
3 有機層
4 無機層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含有されるオリゴマー量が1質量%以下であるプラスチックフィルム、該プラスチックフィルム上に設けられた紫外線硬化型樹脂からなる有機層、及び該有機層の上に設けられた無機層、を有し、
前記有機層の厚さが、前記プラスチックフィルム表面における最大高低差よりも大きくなっている、ことを特徴とするガスバリア性フィルム。
【請求項2】
含有されるオリゴマー量が1質量%以下であるプラスチックフィルム、該プラスチックフィルム上に設けられた紫外線硬化型樹脂からなる有機層、及び該有機層の上に設けられた無機層、を有し、
前記有機層の厚さが、1.7μm以上、10μm以下である、ことを特徴とするガスバリア性フィルム。
【請求項3】
前記プラスチックフィルムの材質がポリエチレンテレフタレートである、請求項1又は2に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のガスバリア性フィルムを用いる装置であって、当該装置が表示装置又は発電装置であることを特徴とする装置。
【請求項5】
オリゴマー量が1質量%以下のプラスチックフィルムを準備するプラスチックフィルム準備工程、
前記プラスチックフィルム上に、該プラスチックフィルム表面における最大高低差よりも厚い有機層を紫外線硬化型樹脂で形成する有機層形成工程、
前記有機層上に、無機層を形成する無機層形成工程、を有することを特徴とするガスバリア性フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−136584(P2011−136584A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86972(P2011−86972)
【出願日】平成23年4月11日(2011.4.11)
【分割の表示】特願2010−258551(P2010−258551)の分割
【原出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】