説明

ガラスセラミックス及びその製造方法

【課題】表面が耐久性に優れ且つアナターゼ型、ルチル型及びブルッカイト型からなる群
の1種以上の酸化チタン、並びにアルカリ土類チタンリン酸化合物の結晶相を有しているガラスセラミックス、その製造方法、及び前記ガラスセラミックスを含む光触媒機能性部材及び親水性部材を提供する。
【解決手段】R0.5Ti(PO及びこれらの固溶体から選ばれる1種以上、並びにTiO及びこの固溶体のいずれか又は両方、を有し、JIS R 1703−2:2007に基づくメチレンブルーの分解活性指数が3.0nmol/L/min以上であるガラスセラミックス。(式中、RはBe、Mg、Ca、Sr、Ba、Znから選ばれる1種以上とする)。本ガラスセラミックスは、原料を混合・溶融してガラス融液またはガラスを得る工程と、前記融液又はガラスを結晶核が生成し成長する温度に保持する結晶化工程と、を有する製法によって作られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスセラミックス、その利用、およびその製造方法に関する。特に好ましくは、光を照射することにより触媒作用を示す結晶相を含有するガラスセラミックス、その光触媒としての利用、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒は光を吸収してエネルギーの高い状態になり、このエネルギーを用いて反応物質に化学反応を起こす材料である。光触媒としては金属イオンや金属錯体等も用いられているが、特に二酸化チタン(TiO)をはじめとする半導体の無機化合物が光触媒として高い触媒活性を有することが知られており、最もよく使用されている。半導体は、通常、電気を通さないが、バンドギャップエネルギー以上のエネルギーの光が照射されると、電子が伝導帯に移動し、電子が抜けた正孔が生成され、これら電子と正孔によって強い酸化還元力を持つようになる。光触媒の持つこの酸化還元力は、汚れや汚染物質、悪臭成分などを分解・除去し、浄化する働きをする上、太陽光などを利用できるところから、エネルギーフリーな環境浄化技術として注目を浴びている。また、無機チタン化合物を含む成形体の表面は、光の照射により水が濡れ易い親水性を呈するため、雨等の水滴で洗浄される、いわゆるセルフクリーニング作用を有することが知られている。
【0003】
一方、酸化チタン(TiO)など光触媒活性を有する無機化合物は、非常に微細な粉末であり、そのままでは利用が困難であるため、実際に使用されるときには、塗料にして基材の表面にコーティングしたり、真空蒸着、スパッタリング、プラズマなどの手法で膜状に形成するなどして利用する場合が殆どである。
例えば、特開2008−81712号公報には、基材の表面に無機チタン化合物層を形成するために用いられる塗布剤として、合成樹脂を分散相とする水性エマルジョンに高濃度の無機チタン化合物が含まれた光触媒性塗布剤が開示されている。また、特開2007−230812号公報にはガスフロースパッタリングによりTiOのターゲットを用いて成膜された光触媒酸化チタン薄膜が開示されている。その他、コーティングや膜の形をとらず無機チタン化合物を基材中に含ませる技術としては、例えば、特開平9−315837号公報に、SiO、Al、CaO、MgO、B、ZrO、及びTiOの各成分を所定量含有する光触媒用ガラスが開示されている。
【0004】
しかしながら、基材の表面に無機チタン化合物を塗布し又はコーティングする場合には、塗布膜やコーティング層の耐久性が十分ではなく、塗布膜やコーティング層が基材から剥離するおそれがあった。例えば、特開2008−81712で開示される光触媒性塗布剤を用いて塗布膜を形成する場合、塗布膜に残留している樹脂や有機バインダが、紫外線等によって分解されたり、無機チタン化合物の触媒作用で酸化還元されたりする結果、塗布膜の耐久性が経時的に劣化しやすい。また、上記の無機チタン化合物触媒は、十分な光触媒活性を引き出すためにはナノサイズの微粒子が必要であるが、このような超微粒子は作製するコストが高く、凝集しやすいという問題点があった。
【0005】
また、特開2007−230812で開示された、いわゆるドライプロセス法と呼ばれる成膜法を利用した光触媒部材も、膜として形成されるものなので、剥離によって光触媒特性が劣化してしまう憂いがあるだけでなく、高価な装置による緻密な雰囲気の制御が必要となり、製造コストが非常に高くなってしまう問題があった。
【0006】
また、特開平9−315837で開示される光触媒用ガラスでは、酸化チタンは結晶構造を有しておらず、アモルファスの形でガラス中に存在するため、その光触媒特性が不充分であった。
【0007】
これらの課題、すなわち光触媒特性を有する結晶の生成とその固定化を一括で解決する技術として、ガラスの中からTiO等の光触媒結晶を析出させる技術がある。ガラス全体に光触媒結晶を分散させた結晶化ガラスは、表面の亀裂や剥離などの経時変化が殆どなく、半永久的に結晶の特性を利用できる利点がある。
【0008】
例えば、特開2008−120655号公報、特開2009−57266号公報は、光触媒材料として、TiO−Bi−B−Al−RO(R:アルカリ土類金属)系ガラスを熱処理してチタン酸化物の結晶を得る結晶化ガラスを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−81712号公報
【特許文献2】特開2007−230812号公報
【特許文献3】特開平9−315837号公報
【特許文献4】特開2008−120655号公報
【特許文献5】特開2009−57266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、表面に薄膜やコーティング等の加工をする必要が無く、バルク材として光触媒特性を有する材料、具体的には耐久性に優れ、且つ光触媒特性を有する微細な結晶が材料内部や表面に存在するガラスセラミックスを提供することを目的とする。さらに、同ガラスセラミックスの製造方法、及びこの製造方法で製造されるガラスセラミックスを含む光触媒機能性部材及び親水性部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意試験研究を重ねた結果、特定の組成範囲および製法によって、ナノサイズの原料を使用する必要がなく、酸化チタン(TiO)をはじめとする無機チタン化合物の微細な結晶を有するガラスセラミックスが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0012】
(1)結晶相として、R0.5Ti(PO及びこれらの固溶体から選ばれる1種以上、並びにTiO及びこの固溶体のいずれか又は両方、を有し、JIS R 1703−2:2007に基づくメチレンブルーの分解活性指数が3.0nmol/L/min以上であるガラスセラミックス。(式中、RはBe、Mg、Ca、Sr、Ba、Znから選ばれる1種以上とする)
【0013】
(2)前記結晶相がアナターゼ型、ルチル型及びブルッカイト型から選ばれる1種以上のTiOを含むことを特徴とする(1)記載のガラスセラミックス。
【0014】
(3)前記結晶相がガラスセラミックス全体積に対する体積比で1.0%以上99.0%以下含まれている(1)または(2)いずれか記載のガラスセラミックス。
【0015】
(4)酸化物換算組成のモル%で
TiO成分を15〜95%、
SiO成分、P成分、B成分、及び/又はGeO成分を1%〜70%、
RO成分を0.1〜50%、
(式中、RはBe、Mg、Ca、Sr、Ba、Znから選ばれる1種以上とする)
含有する(1)から(3)いずれか記載のガラスセラミックス。
【0016】
(5)酸化物換算組成のモル%でRnO成分を0〜50%含有する(1)から(4)いずれか記載のガラスセラミックス。(式中、RnはLi、K、Na、Rb、Csから選ばれる1種以上とする)
【0017】
(6)酸化物換算組成のモル%で
Al成分を0〜30%、
Ga成分を0〜30%、
In成分を0〜30%、
ZrO成分を0〜20%、
SnO成分を0〜20%、
Bi成分及び/又はTeO成分を0〜20%、
NbO5成分及び/又はTaO5成分を0〜30%、
WO成分を0〜30%、
MoO成分を0〜30%、
Ln成分を0〜30%(LnはY、Ce、La、Nd、Gd、Dy、Ybから選ばれる一種以上)、
成分を0〜10%(Mは、V、Cr、Mn、Fe、Co、及びNiから選ばれる一種以上とし、x及びyはそれぞれx:y=2:(Mの価数)を満たす最小の自然数とする)
As成分及び/又はSbを成分0〜5%、
含有する(1)から(5)いずれか記載のガラスセラミックス。
【0018】
(7)酸化物基準組成のガラス全物質量に対する外割り質量%で、F、Cl、Br、S、N、及びCから選ばれる1種以上の非金属元素成分を0.01〜10%含有する(1)から(6)いずれか記載のガラスセラミックス。
【0019】
(8)酸化物基準組成のガラス全物質量に対する外割り質量%で、Cu、Ag、Au、Pd、Pt、Ru、Re、及びRhから選ばれる1種以上の金属元素成分を0.001〜5%含有する(1)から(7)いずれか記載のガラスセラミックス。
【0020】
(9)紫外領域から可視領域までの波長の光によって触媒活性が発現される(1)から(8)いずれか記載のガラスセラミックス。
【0021】
(10)紫外領域から可視領域までの波長の光を照射した表面と水滴との接触角が10°以下となる(1)から(9)いずれか記載のガラスセラミックス。
【0022】
(11)(1)から(10)いずれか記載のガラスセラミックスからなるガラスセラミックス成形体。
【0023】
(12)(11)に記載のガラスセラミックス成形体からなる光触媒。
【0024】
(13)粉粒状、又はファイバー状の形態を有する(12)記載の光触媒。
【0025】
(14)(13)記載の光触媒を含有するスラリー状混合物。
【0026】
(15)(12)から(14)いずれかに記載の光触媒を含む光触媒部材。
【0027】
(16)(12)から(14)いずれかに記載の光触媒を含む浄化装置。
【0028】
(17)(12)または(14)いずれかに記載の光触媒を含むフィルタ。
【0029】
(18)粉砕ガラスを焼結させてなる焼結体であって、
前記焼結体中に、(1)から(10)のいずれかに記載のガラスセラミックスを含むことを特徴とする焼結体。
【0030】
(19)得られるガラス体が、酸化物換算組成のモル%で、TiO成分を15〜95%、SiO成分、P成分、B成分、及び/又はGeO成分を1%〜70%、RO成分を0.1〜50%、(式中、RはBe、Mg、Ca、Sr、Ba、Znから選ばれる1種以上とする)含有するように調製された原料組成物を溶融しガラス化することで、ガラス体を作製するガラス化工程と、
前記ガラス体を粉砕して粉砕ガラスを作製する粉砕工程と、
前記粉砕ガラスを所望形状の成形体に成形する成形工程と、
前記成形体を加熱して焼結させるとともに、ガラス中に少なくともR0.5Ti(PO及びこれらの固溶体から選ばれる1種以上、並びにTiO及びこの固溶体のいずれか又は両方を含む結晶相を生成させて焼結体を作製する焼結工程と、
を含む方法により製造されるものである(18)に記載の焼結体。
【0031】
(20)前記方法は、前記粉砕ガラスにZnO結晶、WO結晶及び/又はTiO結晶を混合する工程を、さらに含む(19)に記載の焼結体。
【0032】
(21)基材と、この基材上に設けられたガラスセラミックス層とを有するガラスセラミックス複合体であって、前記ガラスセラミックス層が(1)から(10)のいずれかに記載のガラスセラミックスを含むことを特徴とするガラスセラミックス複合体。
【0033】
(22)加熱することにより、ガラスから光触媒活性を有する結晶相を生成し、(1)から(10)のいずれかに記載のガラスセラミックスとなるガラス。
【0034】
(23)粉粒状、又はファイバー状の形態を有する(22)記載のガラス。
【0035】
(24)(23)に記載のガラスを含有するスラリー状混合物。
【0036】
(25)(1)から(10)のいずれかに記載のガラスセラミックスの製造方法であって、原料の混合物を1200℃以上の温度に保持して溶融し、その後冷却して固化させるガラスセラミックスの製造方法。
【0037】
(26)(1)から(10)のいずれかに記載のガラスセラミックスの製造方法であって、原料を混合してその融液を得る溶融工程と、前記融液を冷却してガラスを得る冷却工程と、前記ガラスの温度を結晶化温度領域まで上昇させる再加熱工程と、前記温度を前記結晶化温度領域内で維持して結晶を生じさせる結晶化工程と、前記温度を前記結晶化温度領域外まで低下させて前記ガラスセラミックスを得る再冷却工程と、を有するガラスセラミックスの製造方法。
【0038】
(27)前記結晶化温度領域は、500℃以上1200℃以下である(26)に記載のガラスセラミックスの製造方法。
【0039】
(28)前記ガラスセラミックスに対してドライエッチング及び/又はウェットエッチングを行うエッチング工程をさらに有する(25)から(27)いずれかに記載のガラスセラミックスの製造方法。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、ガラスの組成を所定の範囲内とすることによって、R0.5Ti(PO及びこれらの固溶体から選ばれる1種以上、並びにTiO及びこの固溶体のいずれか又は両方、をはじめとする無機チタン化合物の光触媒結晶が析出し易くなる。この結晶相がガラスの内部と表面に均一に析出するので、表面の剥離の問題がなく、仮に表面が削られても光触媒性能が劣らず、耐久性に優れたセラガラスセラミックスと、その製造方法を得ることができる。
【0041】
また、本発明のガラスセラミックスの製造方法によれば、原料の配合組成と熱処理温度の制御によってガラス中にR0.5Ti(PO及びこれらの固溶体から選ばれる1種以上、並びにTiO及びこの固溶体のいずれか又は両方、を含む結晶を生成させることができるため、微細な光触媒結晶の粉末を扱うための特殊な設備を用いることなく、優れた光触媒活性を備え、光触媒機能性素材として有用なガラスセラミックスを工業的規模で容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施例1のガラスセラミックス成形体についてのXRDパターンである。
【図2】本発明の実施例3のガラスセラミックス成形体について、エッチング前後の分解活性指数を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明のガラスセラミックスの結晶相および含有成分を上記のように限定した理由を述べる。各成分の含有量の説明については、特に明記しない限りは酸化物基準のモル%で表わすものとする。これはできたガラスセラミックス中のアニオン成分は全て酸素であると仮定し、カチオン成分の含有量のみを考えるときに、そのカチオン成分全てが電荷の釣り合うだけの酸素と結合した酸化物でできていると考え、それら酸化物のモル分率×100によってガラス中に含有される各成分を表記する方法である。
【0044】
なお、本発明におけるガラスセラミックスとは、ガラスを熱処理することによりガラス相中に結晶相を析出させて得られる材料であり、ガラス相及び結晶相から成る材料のみならず、ガラス相が全て結晶相になった材料、すなわち、材料中の結晶量(結晶化度)が100wt%のものも含んでよい。一般に用いられる粉体から得られるエンジニアリングセラミックスやセラミックス焼結体は、ポアフリーの完全焼結体となることが難しい。従って、本発明のガラスセラミックスは、このようなポア(例えば、気孔率)の存在により、それらのガラスセラミックスと区別され得る。ガラスセラミックスは結晶化工程の制御により結晶の粒径、析出結晶の種類、結晶化度をコントロールできるので、光触媒材料を製造するにあたって所望の結晶を生成する有効な手段になる。
【0045】
本発明のガラスセラミックスは、R0.5Ti(PO及びこれらの固溶体から選ばれる1種以上、並びにTiO及びこの固溶体のいずれか又は両方、を含有する(式中、RはBe、Mg、Ca、Sr、Baから選ばれる1種以上とする)。これらの結晶が含まれていることにより、本発明のガラスセラミックスは光触媒機能を有することでできる。
【0046】
本発明のガラスセラミックスは、TiOの結晶相またはその固溶体を含有することが好ましい。TiOは光触媒としての特性に優れているだけでなく、殆どの酸、塩基、有機溶剤に侵されない化学的に安定性な性質を持ち、人体にも安全であるため、光触媒の材料として最も多く用いられている成分である。工業的に用いられるTiOの結晶型としては、ルチル(Rutile)型、アナターゼ(Anatase)型、及びブルッカイト(Brookite)型が知られているが、高い光触媒特性をもたらすために、アナターゼ型、ルチル型及びブルッカイト型からなる群の1種以上の酸化チタンを含有することが好ましい。ブルッカイト型の結晶は微弱な光でも高い光触媒特性を示すが、結晶構造が不安定で単相として得ることは困難とされており、アナターゼ型との混相で析出することが多い。安定な状態で光触媒機能を発現するためには、TiOの結晶はアナターゼ型及び/又はルチル型、特にアナターゼ型であることが好ましい。TiOの固溶体としては、種類を限定できるものではないが、例えばTi1−xZrなどを挙げることができる。
【0047】
上記結晶に加えて本発明のガラスセラミックスはアルカリ土類金属チタンリン酸複合塩の結晶を有することが好ましい。これらはNASICON型構造を有しており、TiO結晶相を同時に含有させると、より高い光触媒効果が発見できる。その中で、特にR0.5Ti(POの効果が顕著である。また、これらの固溶体を用いることにより、バンドギャップエネルギーを調整することができるので、光に対する応答性を向上させることが可能である。固溶体とは、2種類以上の金属固体または非金属固体が互いの中に原子レベルで溶け込んで全体が均一の固相になっている状態のことをいい、混晶と言う場合もある。溶質原子の溶け込み方によって、結晶格子の隙間より小さい元素が入り込む侵入型固溶体、母相原子と入れ代わって入る置換型固溶体などがある。本発明のガラスセラミックスは、R0.5Ti(PO又はその固溶体のうちいずれか、若しくは両方、を含有することが好ましい。特にこのうち、Mg0.5Ti(POは、後述する分解活性指数に大きく寄与するので、含有することがより好ましい。なお、以下本明細書では前述した光触媒特性を有する結晶及びその固溶体を総称して「光触媒結晶」と表現する。
【0048】
本発明のガラスセラミックス全体に対する前記結晶相の量は、透明度を重視する、若しくは光触媒特性を優先するなど、利用する目的に応じて体積比で1.0%以上95%以下の範囲で自由に選択できる。ガラスの中から析出する結晶相の量は、熱処理条件をコントロールすることにより制御する。結晶相の量が多いと、光触媒機能が高くなる傾向があるが、目的とするもの以外の結晶の量が増えたり、加工し難くなったり、用途によっては重要となる透明性が低下する可能性があるので、結晶相の量を体積比率で95%以下の範囲とすることが好ましく、93%以下の範囲とすることがより好ましく、90%以下とすることが最も好ましい。一方、結晶相の量が少ないと有効な光触媒特性を引き出せないため、結晶相の量を体積比率で1%以上とすることが好ましく、3%以上がより好ましく、5%以上とすることが最も好ましい。
【0049】
本発明のガラスセラミックスは、TiO成分を15.0〜95.0%の範囲で含有することが好ましい。TiO成分は、結晶化することにより、TiOの結晶、又はリン、アルカリ土類金属との化合物の結晶としてガラスから析出し、光触媒特性をもたらすのに必須で欠かせない成分である。特に、TiO成分の含有量を15.0%以上にすることで、光触媒結晶が析出し易くなり、ガラスセラミックス中における光触媒結晶の量が高められるため、所望の光触媒特性を確保することができる。一方、TiO成分の含有量が95.0%を超えると、ガラス化が非常に難しくなる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するTiO成分の含有量は、好ましくは15.0%、より好ましくは25.0%、最も好ましくは30.0%を下限とし、好ましくは95.0%、より好ましくは85.0%、最も好ましくは80.0%を上限とする。TiO成分は、原料として例えばアナターゼ型、ルチル型又はブルッカイト型のTiOを用いてガラスセラミックス内に導入することができる。
【0050】
SiO成分は、ガラスの網目構造を構成し、ガラスの安定性と化学的耐久性を高める成分であるとともに、Si4+イオンが析出した光触媒結晶の近傍に存在し、光触媒活性の向上に寄与する成分であり、本発明のガラスセラミックスに任意に添加できる成分である。しかし、SiO成分の含有量が70.0%を超えると、ガラスの溶融性が悪くなり、光触媒結晶が析出し難くなる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するSiO成分の含有量は、好ましくは70.0%、より好ましくは50.0%、最も好ましくは30.0%を上限とする。SiO成分は、原料として例えばSiO、KSiF、NaSiF等を用いてガラスセラミックス内に導入することができる。
【0051】
成分は、ガラスの網目構造を構成し、より多くのTiO成分をガラスに取り込ませるために有用な成分であり本発明のガラスセラミックスに任意に添加できる。また、P成分を含有することによって、より低い熱処理温度で光触媒結晶を析出することが可能になるため、光触媒活性の高いアナターゼ型、ルチル型及びブルッカイト型からなる群の1種以上のTiO結晶、特にアナターゼ型TiO結晶およびNASICON型のR0.5Ti(PO結晶を形成し易くすることができる。しかしP成分の含有量が70.0%を超えると光触媒結晶が析出し難くなる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するP成分の含有量は、好ましくは70.0%、より好ましくは60.0%、最も好ましくは50.0%を上限とする。また、P成分を含有させることで、TiO及びR0.5Ti(POの結晶がより析出されやすくなるので、P成分の含有量は、少なくとも5%、より好ましくは10%、最も好ましくは20%を下限とすることが良い。原料として例えばAl(PO、Ca(PO、Ba(PO、Na(PO)、BPO、HPO等を用いてガラスセラミックス内に導入することができる。
【0052】
成分は、ガラスの網目構造を構成し、ガラスセラミックスの安定性を高める成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、その含有量が70%を超えると、光触媒結晶が析出しくい傾向が強くなる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するB成分の含有量は、好ましくは70%、より好ましくは40%、さらに好ましくは25.0%、最も好ましくは15.0%を上限とする。B成分は、原料として例えばHBO、Na、Na・10HO、BPO等を用いてガラスセラミックス内に導入することができる。
【0053】
GeO成分は、上記したSiOと相似な働きを有する成分で、溶融ガラスの安定性に寄与する。母ガラス部材の屈折率や粘性調整のために添加できる任意成分であるが、希少鉱物資源であり高価であるため、10%を超えないことが好ましく、より好ましくは5%以下、最も好ましくは一切含有しない。
【0054】
本発明のガラスセラミックスは、SiO成分、P成分、B成分、及びGeO成分から選ばれる1種以上の成分を合計で1〜70%の範囲で含有することが好ましい。これらはガラスの形成酸化物で、ガラスを得るのに置いて重要な成分であり、その全体量が1%未満であると、ガラスが得られないおそれが高い。より好ましい量は10%以上、最も好ましい量は25%以上である。一方、その量が70%を超えるとTiO結晶相が析出し難くなるため、含有量は、好ましくは70%以下、より好ましくは60%以下であり、最も好ましくは50%以下である。
【0055】
BeO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上する成分であるとともに、ガラス転移温度を下げて熱処理温度をより低く抑え、光触媒活性の高いアナターゼ型、ルチル型及びブルッカイト型からなる群の1種以上のTiO結晶、特にアナターゼ型TiO結晶およびNASICON型のR0.5Ti(PO結晶を形成し易くする成分であり、本発明のガラスセラミックスに任意に添加できる成分である。しかし、BeO成分の含有量が50%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、光触媒結晶の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するBaO成分の含有量は、好ましくは50%、より好ましくは30%、最も好ましくは20%を上限とする。
【0056】
MgO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上する成分であるとともに、ガラス転移温度を下げて熱処理温度をより低く抑え、光触媒活性の高いアナターゼ型、ルチル型及びブルッカイト型からなる群の1種以上のTiO結晶、特にアナターゼ型TiO結晶およびNASICON型のR0.5Ti(PO結晶を形成し易くする成分であり、本発明のガラスセラミックスに任意に添加できる成分である。しかし、MgO成分の含有量が50%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、光触媒結晶の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するMgO成分の含有量は、好ましくは50%、より好ましくは30%、最も好ましくは20%を上限とする。MgO成分は、原料として例えばMgCO、MgF等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0057】
CaO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上する成分であるとともに、ガラス転移温度を下げて熱処理温度をより低く抑え、光触媒活性の高いアナターゼ型、ルチル型及びブルッカイト型からなる群の1種以上のTiO結晶、特にアナターゼ型TiO結晶およびNASICON型のR0.5Ti(PO結晶を形成し易くする成分であり、本発明のガラスセラミックスに任意に添加できる成分である。しかし、CaO成分の含有量が50%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、光触媒結晶の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するCaO成分の含有量は、好ましくは50%、より好ましくは30%、最も好ましくは25%を上限とする。CaO成分は、原料として例えばCaCO3、CaF等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0058】
SrO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上する成分であるとともに、ガラス転移温度を下げて熱処理温度をより低く抑え、光触媒活性の高いアナターゼ型、ルチル型及びブルッカイト型からなる群の1種以上のTiO結晶、特にアナターゼ型TiO結晶およびR0.5Ti(PO結晶を形成し易くする成分であり、本発明のガラスセラミックスに任意に添加できる成分である。しかし、SrO成分の含有量が50%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、光触媒結晶の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するSrO成分の含有量は、好ましくは50%、より好ましくは30%、最も好ましくは20%を上限とする。SrO成分は、原料として例えばSr(NO、SrF等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0059】
BaO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上する成分であるとともに、ガラス転移温度を下げて熱処理温度をより低く抑え、光触媒活性の高いアナターゼ型、ルチル型及びブルッカイト型からなる群の1種以上のTiO結晶、特にアナターゼ型TiO結晶およびR0.5Ti(PO結晶を形成し易くする成分であり、本発明のガラスセラミックスに任意に添加できる成分である。しかし、BaO成分の含有量が50%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、光触媒結晶の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するBaO成分の含有量は、好ましくは50%、より好ましくは30%、最も好ましくは20%を上限とする。BaO成分は、原料として例えばBaCO、Ba(NO等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0060】
ZnO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上する成分であるとともに、ガラス転移温度を下げて熱処理温度をより低く抑え、光触媒活性の高いアナターゼ型、ルチル型及びブルッカイト型からなる群の1種以上のTiO結晶、特にアナターゼ型TiO結晶、およびR0.5Ti(PO結晶を形成し易くする成分であり、本発明のガラスセラミックスに任意に添加できる成分である。しかし、ZnO成分の含有量が50%を超えると、ガラスが失透性し易くなる等、かえってガラスの安定性が悪くなり、光触媒結晶の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するZnO成分の含有量は、好ましくは50%、より好ましくは30%、最も好ましくは20%を上限とする。ZnO成分は、原料として例えばZnO、ZnF2等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0061】
上記RO成分(式中、RはBe、Mg、Ca、Sr、Ba、Znからなる群より選択される1種以上)の総量は、光触媒性能を持たせるのに有用なR0.5Ti(PO結晶またはその固溶体を析出させるので、0.1%以上、好ましくは1.0%以上、より好ましくは1.5%以上、最も好ましくは5%以上であることが好ましい。その一方、RO成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分の合量を50%以上にすると、ガラスの安定性が悪化し、光触媒結晶が析出し難くなるため、ガラスセラミックスの触媒活性を確保することができない。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対する、RO成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分の合量は、好ましくは50%、より好ましくは40%、最も好ましくは30%を上限とする。なお、R0.5Ti(PO結晶のうちMg0.5Ti(POは、後述する分解活性指数に大きく寄与するので、RO成分のうちMg成分を含有することがより好ましい。
【0062】
LiO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上し、熱処理後のガラスセラミックスにひび割れを生じ難くする成分であるとともに、ガラス転移温度を下げて熱処理温度をより低く抑え、光触媒活性の高いアナターゼ型、ルチル型及びブルッカイト型からなる群の1種以上のTiO結晶、特にアナターゼ型TiO結晶およびNASICON型のR0.5Ti(PO結晶を形成し易くする成分であり、本発明のガラスセラミックスに任意に添加できる。しかし、LiO成分の含有量が50%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、光触媒結晶の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するLiO成分の含有量は、好ましくは50%、より好ましくは30%、最も好ましくは15%を上限とする。LiO成分は、原料として例えばLiCO、LiNO、LiF等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0063】
NaO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上し、熱処理後のガラスセラミックスにひび割れを生じ難くする成分であるとともに、ガラス転移温度を下げて熱処理温度をより低く抑え、光触媒活性の高いアナターゼ型、ルチル型及びブルッカイト型からなる群の1種以上のTiO結晶、特にアナターゼ型TiO結晶およびNASICON型のR0.5Ti(PO結晶を形成し易くする成分であり、本発明のガラスセラミックスに任意に添加できる成分である。しかし、NaO成分の含有量が50%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、光触媒結晶の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するNaO成分の含有量は、好ましくは50%、より好ましくは30%、最も好ましくは15%を上限とする。NaO成分は、原料として例えばNaO、NaCO、NaNO、NaF、NaS、NaSiF等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0064】
O成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上し、熱処理後のガラスセラミックスにひび割れを生じ難くする成分であるとともに、ガラス転移温度を下げて熱処理温度をより低く抑え、光触媒活性の高いアナターゼ型、ルチル型及びブルッカイト型からなる群の1種以上のTiO結晶、特にアナターゼ型TiO結晶およびNASICON型のR0.5Ti(PO結晶を形成し易くする成分であり、本発明のガラスセラミックスに任意に添加できる成分である。しかし、KO成分の含有量が50%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、光触媒結晶の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するKO成分の含有量は、好ましくは50%、より好ましくは30%、最も好ましくは15%を上限とする。KO成分は、原料として例えばKCO、KNO、KF、KHF、KSiF等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0065】
RbO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上し、熱処理後のガラスセラミックスにひび割れを生じ難くする成分であるとともに、ガラス転移温度を下げて熱処理温度をより低く抑え、光触媒活性の高いアナターゼ型、ルチル型及びブルッカイト型からなる群の1種以上のTiO結晶、特にアナターゼ型TiO結晶およびNASICON型のR0.5Ti(PO結晶を形成し易くする成分であり、本発明のガラスセラミックスに任意に添加できる成分である。しかし、RbO成分の含有量が10%を超えると、かえってガラスの安定性が悪くなり、光触媒結晶の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するRbO成分の含有量は、好ましくは10%、より好ましくは8%、最も好ましくは5%を上限とする。RbO成分は、原料として例えばRbCO、RbNO等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0066】
CsO成分は、ガラスの溶融性と安定性を向上し、熱処理後のガラスセラミックスにひび割れを生じ難くする成分であるとともに、ガラス転移温度を下げて熱処理温度をより低く抑え、光触媒活性の高いアナターゼ型、ルチル型及びブルッカイト型からなる群の1種以上のTiO結晶、特にアナターゼ型TiO結晶およびNASICON型のR0.5Ti(PO結晶を形成し易くする成分であり、本発明のガラスセラミックスに任意に添加できる成分である。しかし、CsO成分の含有量が10%を超えると、かえってガラスの安性が悪くなり、光触媒結晶の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するCsO成分の含有量は、好ましくは10%、より好ましくは8%、最も好ましくは5%を上限とする。CsO成分は、原料として例えばCsCO、CsNO等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0067】
上記RnO成分(式中、RnはLi、Na、K、Rb、Csからなる群より選択される1種以上)の総量は0〜50%の範囲であることが好ましい。また、これらの成分を0.1%以上にするとガラスの溶融性と安定性が良くなるので、好ましくは0.1%以上、より好ましくは0.5%以上、最も好ましくは1.5%以上を含有することが好ましい。一方、RnO成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分の合量を50%以下にすることで、ガラスの安定性が向上し、光触媒結晶が析出し易くなるため、ガラスセラミックスの触媒活性を確保することができる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対する、RnO成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分の合量は、好ましくは50%、より好ましくは30%、最も好ましくは20%を上限とする。
【0068】
また、本発明のガラスセラミックスは、RO(式中、RはBe、Mg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)成分及びRnO(式中、RnはLi、Na、K、Rb、Csからなる群より選択される1種以上)成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分を総量で50%以下含有することが好ましい。特に、RO成分及びRnO成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分の合量を50%以下にすることで、ガラスの安定性が向上し、ガラス転移温度(Tg)が下がり、ひび割れが生じ難く機械的な強度の高いガラスセラミックスをより容易に得られる。一方で、RO成分及びRnO成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分の合量が50%より多いと、ガラスの安定性が悪くなり、光触媒結晶の析出も困難となる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対する合量(RnO+RO)は、好ましくは50%、より好ましくは40%、最も好ましくは30%を上限とする。なお、RnO成分及びRO成分の合量の下限は、0.1%、好ましくは1.0%、より好ましくは1.5%、最も好ましくは5%とする。
【0069】
Al成分は、ガラスの安定性及びガラスセラミックスの化学的耐久性を高め、ガラスから光触媒結晶の析出を促進し、且つAl3+イオンがTiO結晶相に固溶して光触媒特性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、その含有量が20%を超えると、溶解温度が著しく上昇し、ガラス化し難くなる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するAl成分の含有量は、好ましくは20%、より好ましくは12%、最も好ましくは8%を上限とする。また、Al成分を含有する場合の下限は、好ましくは0.1%、より好ましくは0.5%、最も好ましくは1%を下限とする。Al成分は、原料として例えばAl、Al(OH)、AlF等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0070】
ZrO成分は、化学的耐久性を高め、光触媒結晶の析出を促進し、且つZr4+イオンがTiO結晶相に固溶して光触媒特性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、ZrO成分の含有量が20.0%を超えると、ガラス化し難くなる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するZrO成分の含有量は、好ましくは20%、より好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限とする。また、ZrO成分を含有する場合の下限は、好ましくは0.1%、より好ましくは0.5%、最も好ましくは1%を下限とする。ZrO成分は、原料として例えばZrO、ZrF等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0071】
SnO成分は、光触媒結晶の析出を促進し、Ti4+の還元を抑制してTiO結晶相を得易くし、且つTiO結晶相に固溶して光触媒特性の向上に効果がある成分であり、また、光触媒活性を高める作用のある後述のAgやAuやPtイオンと一緒に添加する場合は還元剤の役割を果たし、間接的に光触媒の活性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、これらの成分の含有量が10%を超えると、ガラスの安定性が悪くなり、光触媒特性も低下し易くなる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するSnO成分の含有量は、好ましくは10%、より好ましくは8%、最も好ましくは5%を上限とする。また、SnO成分を含有する場合の下限は、好ましくは0.1%、より好ましくは0.5%、最も好ましくは1%を下限とする。SnO成分は、原料として例えばSnO、SnO、SnO等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0072】
Bi成分は、ガラスの溶融性と安定性を高める成分であるとともに、ガラス転移温度(Tg)を下げることで熱処理温度が下がるため、光触媒活性の高いアナターゼ型、ルチル型及びブルッカイト型からなる群の1種以上のTiO結晶、特にアナターゼ型TiO結晶、およびR0.5Ti(PO結晶を形成し易くできる成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、Bi成分の含有量が20%を超えると、ガラスの安定性が悪くなり、光触媒結晶が析出し難くなる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するBi成分の含有量は、好ましくは20%、より好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限とする。特に、釉薬用ガラスの主な網目を構成する成分をBにしつつTiO結晶を析出させる場合、ガラスの安定性を高め所望の結晶を得るためには、Bi/TiOの含有比が0.12未満であることが好ましい。Bi成分は、原料として例えばBi等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0073】
TeO成分は、ガラスの溶融性と安定性を高める成分であるとともに、ガラス転移温度(Tg)を下げることで熱処理温度が下がるため、光触媒活性の高いアナターゼ型、ルチル型及びブルッカイト型からなる群の1種以上のTiO結晶、特にアナターゼ型TiO結晶、およびR0.5Ti(PO結晶を形成し易くできる成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、TeO成分の含有量が20%を超えると、ガラスの安定性が悪くなり、光触媒結晶が析出し難くなる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するTeO成分の含有量は、好ましくは20%、より好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限とする。TeO成分は、原料として例えばTeO等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0074】
なお、Bi成分及び/またはTeO成分は、二成分の総量で20%を超えないことが好ましく、より好ましくは15%、最も好ましくは10%を超えないことが好ましい。
【0075】
Nb成分は、ガラスの溶融性と安定性を高める成分であり、光触媒結晶の近傍に存在することで、光触媒特性が向上する成分であり、本発明のガラスセラミックスに任意に添加できる成分である。しかし、Nb成分の含有量が30%を超えると、ガラスの安定性が著しく悪くなる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するNb成分の含有量は、好ましくは30%、より好ましくは20%、最も好ましくは10%を上限とする。Nb成分は、原料として例えばNb等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0076】
Ta成分は、ガラスの安定性を高める成分であり、光触媒結晶の近傍に存在することで、光触媒特性が向上する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、Ta成分の含有量が30%を超えると、ガラスの安定性が著しく悪くなる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するTa成分の含有量は、好ましくは30%、より好ましくは20%、最も好ましくは10%を上限とする。Ta成分は、原料として例えばTa等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0077】
WO成分は、ガラスの溶融性と安定性を高める成分であり、光触媒結晶の近傍に存在することで、光触媒特性が向上する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、WO成分の含有量が30%を超えると、ガラスの安定性が著しく悪くなる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するWO成分の含有量は、好ましくは30%、より好ましくは20%、最も好ましくは10%を上限とする。WOは、原料として例えばWO等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0078】
Nb成分、Ta成分、及びWO成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分の総量は30%以下であることが好ましい。これより多いと、ガラスセラミックスの安定性が悪くなり、良好なガラスセラミックスを形成できなくなる。より好ましくは、20%、最も好ましくは10%を上限とする。なお、Nb成分、Ta成分、及びWO成分はいずれも含有しなくとも高い光触媒特性を有するガラスセラミックスを得ることは可能であるが、これらの成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分の合量を0.1%以上にすることで、ガラスセラミックスの光触媒特性をさらに向上することができる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対する合量(Nb+Ta+WO)は、好ましくは0.1%、より好ましくは0.5%、最も好ましくは1.0%を下限とする。このうち特に、WO成分が光触媒特性を向上させる効果が高い。
【0079】
Ln成分(式中、LnはY、Ce、La、Nd、Gd、Dy、及びYbからなる群より選択される1種以上)は、ガラスセラミックスの化学的耐久性を高める成分であり、光触媒結晶の近傍に存在することで、光触媒特性が向上する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、Ln成分の含有量の合計が30%を超えると、ガラスの安定性が著しく悪くなる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対する、Ln成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分の合量は、好ましくは30%、より好ましくは20%、最も好ましくは10%を上限とする。Ln成分は、原料として例えばLa、La(NO・XHO(Xは任意の整数)、Gd、GdF、Y、YF、CeO、Nd、Dy、Yb、Lu等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0080】
成分(式中、MはV、Cr、Mn、Fe、Co、及びNiからなる群より選択される1種以上とし、x及びyはそれぞれx:y=2:(Mの価数)を満たす最小の自然数とする)は、TiO結晶相に固溶するか、光触媒結晶の近傍に存在することで、光触媒特性の向上に寄与し、且つ一部の波長の可視光を吸収してガラスセラミックスに外観色を付与する成分であり、本発明のガラスセラミックス中の任意成分である。特に、M成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分の合量を10%以下にすることで、ガラスセラミックスの安定性を高め、ガラスセラミックスの外観の色を容易に調節することができる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対する、M成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分の合量は、好ましくは10%、より好ましくは8%、最も好ましくは5%を上限とする。
【0081】
As成分及びSb成分は、ガラスセラミックスを清澄し脱泡する成分であり、また、光触媒活性を高める作用のある後述のAgやAuやPtイオンと一緒に添加する場合は、還元剤の役割を果たすので、間接的に光触媒の活性の向上に寄与する成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、これらの成分の含有量が合計で5%を超えると、ガラスの安定性が悪くなり、光触媒特性も低下し易くなる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全物質量に対するAs成分及び/又はSb成分の含有量の合計は、好ましくは5%、より好ましくは3%、最も好ましくは1%を上限とする。As成分及びSb成分は、原料として例えばAs、As、Sb、Sb、NaSb・5HO等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。
【0082】
なお、ガラスセラミックスを清澄し脱泡する成分は、上記のAs成分及びSb成分に限定されるものではなく、例えばCeO成分やTeO成分等のような、ガラス製造の分野における公知の清澄剤や脱泡剤、或いはそれらの組み合わせを用いることができる。
【0083】
本発明のガラスセラミックスには、F成分、Cl成分、Br成分、S成分、N成分、及びC成分からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の非金属元素成分が含まれていてもよい。これらの成分は、光触媒結晶の近傍に存在することで、光触媒特性を向上させる成分であり、任意に添加できる成分である。しかし、これらの成分の含有量が合計で10%を超えると、ガラスの安定性が著しく悪くなり、光触媒特性も低下し易くなる。従って、良好な特性を確保するために、酸化物換算組成のガラスセラミックス全質量に対する非金属元素成分の含有量の合計は、好ましくは10%、より好ましくは5%、最も好ましくは3%を上限とする。これらの非金属元素成分は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のフッ化物、塩化物、臭化物、硫化物、窒化物、炭化物等の形でガラスセラミックス中に導入するのが好ましい。なお、本明細書における非金属元素成分の含有量は、ガラスセラミックスを構成するカチオン成分全てが電荷の釣り合うだけの酸素と結合した酸化物でできていると仮定し、それら酸化物でできたガラス全体の質量を100%として、非金属元素成分の質量を質量%で表したもの(酸化物基準の質量に対する外割り質量%)である。非金属元素成分の原料は特に限定されないが、N成分の原料としてAlN、SiN等、S成分の原料としてNaS,Fe,CaS等、F成分の原料としてZrF、AlF、NaF、CaF等、Cl成分の原料としてNaCl、AgCl等、Br成分の原料としてNaBr等、C成分の原料としてTiC、SiC又はZrC等を用いることで、ガラスセラミックス内に含有することができる。なお、これらの原料は、一体的に添加してもよいし、独立に添加してもよい。
【0084】
本発明のガラスセラミックスには、Cu、Ag、Au、Pd、及びPtから選ばれる少なくとも1種の金属元素成分が含まれていてもよい。これらの金属元素成分は、光触媒結晶の近傍に存在することで、光触媒活性を向上させる効果があるため、任意に添加できる。しかし、これらの金属元素成分の含有量の合計が5%を超えるとガラスの安定性が著しく悪くなり、良好なガラスセラミックスが得られなくなる。従って、酸化物換算組成のガラスセラミックス全質量に対する金属元素成分の含有量の合計は、好ましくは5%、より好ましくは3%、最も好ましくは1%を上限とする。これらの金属元素成分は、原料として例えばCuO、AgO、AuCl、PtCl等を用いてガラスセラミックス内に含有することができる。なお、本明細書における金属元素成分の含有量は、ガラスセラミックスを構成するカチオン成分全てが電荷の釣り合うだけの酸素と結合した酸化物でできていると仮定し、それら酸化物でできたガラス全体の質量を100%として、金属元素成分の質量を質量%で表したもの(酸化物基準の質量に対する外割り質量%)である。
【0085】
本発明のガラスセラミックスには、他の成分をガラスセラミックスの特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加することができる。
【0086】
但し、PbO等の鉛化合物、Th、Cd、Tl、Os、Se、Hgの各成分は、近年有害な化学物資として使用を控える傾向にあり、ガラスセラミックスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。従って、環境上の影響を重視する場合には、不可避な混入を除き、これらを実質的に含有しないことが好ましい。これにより、ガラスセラミックスに環境を汚染する物質が実質的に含まれなくなる。そのため、特別な環境対策上の措置を講じなくとも、このガラスセラミックスを製造し、加工し、及び廃棄することができる。
【0087】
また、本発明のガラスセラミックスは、紫外領域から可視領域までの波長の光によって触媒活性が発現されることが好ましい。ここで、本発明でいう紫外領域の波長の光は、波長が可視光線より短く軟X線よりも長い不可視光線の電磁波のことであり、その波長はおよそ10〜400nmの範囲にある。また、本発明でいう可視領域の波長の光は、電磁波のうち、ヒトの目で見える波長の電磁波のことであり、その波長はおよそ400nm〜700nmの範囲にある。これら紫外領域から可視領域までの波長の光がガラスセラミックスの表面に照射されたときに触媒活性が発現されることにより、ガラスセラミックスの表面に付着した汚れ物質や細菌等が酸化又は還元反応により分解されるため、ガラスセラミックスを防汚用途や抗菌用途、水質等の浄化用途等に用いることができる。
【0088】
また、本発明のガラスセラミックスは、光を照射した表面と水滴との接触角が10°以下であることが好ましい。水に対する接触角が小さくなると(すなわち、水に対する濡れ性が高くなると)、水滴が表面に広がり、一様な水膜が形成されるようになるので、水が汚れ等の付着物の下に入り込んで汚れを落とす。これにより、ガラスセラミックスの表面が親水性を呈し、セルフクリーニング作用を有するため、ガラスセラミックスの表面を水で容易に洗浄することができる。また、微小な水滴による光の乱反射がなくなるので、曇り現象が無くなる。光を照射したガラスセラミックス表面と水滴との接触角は、5°以下がより好ましい。
【0089】
本発明のガラスセラミックスは、ガラスを熱処理することによりガラス相中に結晶相を析出させて得られる材料である。その母材料がガラスであるので、従来のガラス成形プロセスにより様々な形状の成形体に加工することができる。成形体の形状は用途に応じて適宜設計するものであり特に制限されないが、板状のバルク体、ビーズなどの粉粒体、繊維状の成形体などを例として挙げられる。
【0090】
また、用途に応じて所望の形状に加工したガラスは、その後の熱処理により光触媒結晶を有するガラスセラミックスになるので、本発明のガラスセラミックスは、種々の形状を有する光触媒になり得る。特に、例えばビーズや繊維(ファイバー)の形態を採用することにより、表面積が増えるため、光触媒ガラスセラミックス成形体の光触媒活性をより高めることができる。また、粉体にして、光触媒粉末原料として使うことができる。本発明のガラスはガラス相中にナノオーダにおよび微細な光触媒結晶を析出させるので、従来利用されている光触媒原料のように微粒子である必要がなく、扱い易い大きさの粉体に加工して利用することができる。以下、本発明に係るガラスセラミックスの代表的な加工形態として、ビーズ、繊維、を例に挙げて説明する。
【0091】
[光触媒ガラスセラミックスビーズ]
本発明におけるガラスセラミックスビーズは、装飾用、手芸用のビーズではなく、工業用のビーズに関する。工業用のビーズは、耐久性などの利点から、主にガラスを用いて作られており、一般にガラス製の微小球(直径数μmから数mm)のことを指す。工業用ビーズの代表的な用途としては、道路の標識板、路面表示ラインに使われる塗料、反射クロス、濾過材、ブラスト研磨材などを挙げることができる。道路標識塗料、反射クロス等にビーズを混入、分散させると、夜間、車のライト等から出た光がビーズを介して元のところへ反射(再帰反射)し、視認性が高くなる。ビーズのこのような機能は、ジョギング用ウエアー、工事用チョッキ、バイクドライバー用ベスト等にも使用することができる。これらの用途に本発明のガラスセラミックスビーズを利用すると、光触媒機能により、標識板やラインに付着した汚れが分解され易く、また流れ落ち易くなるので、常に清潔な状態を維持でき、メンテナンスの手間を大幅に減少できる。本発明のガラスセラミックスビーズは、一般的なガラスビーズと混合して利用しても良いし、単体で利用しても良い。なお、より再帰反射性の高いガラスビーズを得るためには、該ビーズを構成するガラス相の屈折率が1.8〜2.1の範囲内であることが好ましく、特に1.9前後がより好ましい。
【0092】
その他の用途として、工業用のビーズは、濾過材として利用されている。ビーズは砂や石等と異なり、すべて球形であるため充填率が高く間隙率も計算できるので、単独または、他の濾過材と組み合わせて、広く使用されている。本発明のガラスセラミックスビーズは、このようなガラスビーズ本来の機能に加え、光触媒機能を合わせ持つものである。特に、膜やコーティング層などを有さず、単体で光触媒特性を呈するので、剥離による触媒活性劣化がなく、交換やメンテナンスの手間が省け、例えばフィルタ及び浄化装置に好適に用いられる。また、光触媒機能を利用したフィルタ部材及び浄化部材は装置内で光源となる部材に隣接した構成である場合が多いが、光触媒ガラスセラミックスのビーズは、装置内の容器などに簡単に納められるので好適に利用できる。
【0093】
さらに、光触媒ガラスセラミックスビーズは、化学的安定性に優れ、球状であることから、被加工物をあまり傷めないので、ブラスト研磨用材に利用される。ブラストとは、粒材を噴射して被加工面に衝突させることによって、掃除、美装、ピーニングなどを行うことをいう。本発明の光触媒ガラスセラミックスビーズは当該メリットに加え、光触媒機能を併せ持つので、ブラストと同時に光触媒反応を応用した同時加工が可能である。
【0094】
本発明のガラスセラミックスビーズの粒径は、その用途に応じて適宜決めることができる。例えば、塗料に配合する場合は、100〜2500μm、好ましくは100〜2000μmの粒径とすることができる。反射クロスに使用する場合は、20〜100μm、好ましくは20〜50μmの粒径とすることができる。濾過材に使用する場合は、30〜8000μm、好ましくは50〜5000μmの粒径とすることができる。なお、平均粒径は、例えばレーザー回折散乱法によって測定した時のD50(累積50%径)の値を使用できる。具体的には日機装株式会社の粒度分布測定装置MICROTRAC(MT3300EXII)よって測定した値を用いることができる。なお、ビーズの最小径が2000μmを超える場合、JIS A 120に規定されている篩分析法で平均粒径を求めることができる。
【0095】
次に、本発明のガラスセラミックスビーズの製造方法について説明する。本発明のビーズの製造方法は、原料を混合してその融液を得る溶融工程と、融液または融液から得られるガラスを用いてビーズ体に成形する成形工程と、を含むことができる。なお、本発明のガラスセラミックスの一般的な製造方法を矛盾しない範囲でこの具体例に適用できるため、それらを適宜援用して重複する記載を省略する。
【0096】
(溶融工程)
上記ガラスセラミックスの製造方法と同様に実施できる。
【0097】
(成形工程)
その後、溶融工程で得られた融液から微粒状のビーズ体へ成形する。ビーズ体の成形方法には様々なものがあり、適宜選択すれば良いが、一般的に、ガラス融液又はガラス→粉砕→粒度調整→球状化のプロセスを辿って作ることができる。粉砕工程においては、冷却固化したガラスを粉砕したり、融液状のガラスを水に流し入れ水砕したり、さらにボールミルにて粉砕するなどして粒状ガラスを得る。その後篩等を使って粒度を調整し、再加熱して表面張力にて球状に成形したり、黒鉛などの粉末材料と一緒にドラムに入れ、回転させながら物理力で球状に成形する、などの方法がある。または、粉砕工程を経ることなく溶融ガラスから直接球状化させる方法を取ることもできる。例えば溶融ガラスを空気中に噴射して表面張力にて球状化する、流出ノズルから出る溶融ガラスを回転する刃物のような部材で細かく切り飛ばして球状化する、流体の中に滴下して落下中に球状化させる、などの方法がある。通常、成形後のビーズは再度粒度を調整した後に製品化される。成形温度におけるガラスの粘性や失透し易さなどを考慮し、これらの方法から最適なものを選べば良い。
【0098】
本発明のガラスセラミックスビーズは、そのままの状態でも高い光触媒特性を奏することが可能であるが、このガラスビーズに対してエッチング工程を行うことにより、比表面積が大きくなるため、ガラスビーズの光触媒特性をより高めることが可能である。また、エッチング工程に用いる溶液やエッチング時間をコントロールすることにより、多孔質体ビーズを得ることが可能である。エッチング工程は、上記と同様に実施できる。
【0099】
[光触媒ガラス繊維]
本発明のガラスセラミックスからなる繊維は、ガラス繊維の一般的な性質を有する。すなわち、通常の繊維に比べ引っ張り強度・比強度が大きい、弾性率・比弾性率が大きい、寸法安定性が良い、耐熱性が大きい、不燃性である、耐化学性が良いなどの物性上のメリットを有し、これらを活かした様々な用途に利用できる。また、繊維の内部及び表面に光触媒結晶を有するので、前述したメリットに加え光触媒特性を有し、さらに幅広い分野に応用できる繊維構造体を提供できる。ここで繊維構造体とは、繊維が、織物、編制物、積層物、又はそれらの複合体として形成された三次元の構造体をいい、例えば不織布を挙げられる。
【0100】
ガラス繊維の、耐熱性、不燃性を活かした用途としてカーテン、シート、壁貼クロス、防虫網、衣服類、又は断熱材等があるが、本発明のガラスセラミックス繊維を用いると、さらに前記用途における物品に、光触媒作用による消臭機能、汚れ分解機能などを与え、掃除やメンテナンスの手間を大幅に減らすことができる。
【0101】
また、ガラス繊維はその耐化学性から濾過材として用いられることが多いが、本発明によるガラスセラミックスの繊維は、単に濾過するだけでなく、光触媒反応によって被処理物中の悪臭物質、汚れ、菌などを分解するので、より積極的な浄化機能を有する浄化装置及びフィルタを提供できる。さらには、光触媒層の剥離・離脱による特性の劣化がほとんど生じないので、これらの製品の長寿命化に貢献する。
【0102】
次に、本発明の光触媒ガラス繊維の製造方法について説明する。本発明の光触媒ガラス繊維の製造方法は、原料を混合してその融液を得る溶融工程と、融液または融液から得られるガラスを用いて繊維状に成形する紡糸工程と、を含むことができる。なお、上記ガラスセラミックスの一般的な製造方法も矛盾しない範囲でこの具体例に適用できるため、それらを適宜援用して重複する記載を省略する。
【0103】
(溶融工程)
上記ガラスセラミックスの製造方法と同様に実施できる。
【0104】
(紡糸工程)
次に、溶融工程で得られた融液から光触媒ガラス繊維へ成形する。繊維体の成形方法は特に限定されず、公知の手法を用いて成形すれば良い。巻き取り機に連続的に巻き取れるタイプの繊維(長繊維)に成形する場合は、公知のDM法(ダイレクトメルト法)またはMM法(マーブルメルト法)で紡糸すれば良く、繊維長数十cm程度の短繊維に成形する場合は、遠心法を用いても良く、前記長繊維をカットしても良い。繊維径は、用途によって適宜選択すれば良い。ただ、細いほど可撓性が高く、風合いの良い織物になるが、紡糸の生産効率が悪くなりコスト高になり、逆に太すぎると紡糸生産性は良くなるが、加工性や取り扱い性が悪くなる。織物などの繊維製品にする場合、繊維径を3〜24μmの範囲にすることが好ましく、浄化装置、フィルタなどの用途に適した積層構造体などにする場合は繊維径を9μm以上にすることが好ましい。その後、用途に応じて綿状にしたり、ロービング、クロスなどの繊維構造体を作ることができる。
【0105】
ガラス繊維は、そのままの状態でも高い光触媒特性を奏することが可能であるが、このガラス繊維に対してエッチング工程を行うことにより、比表面積が大きくなるため、ガラス繊維の光触媒特性をより高めることが可能である。また、エッチング工程に用いる溶液やエッチング時間をコントロールすることにより、多孔質体繊維を得ることが可能である。エッチング工程は、上記ガラスセラミックスと同様に実施できる。
【0106】
本発明のガラスセラミックスは、光触媒機能性ガラスセラミックス部材及び/又は親水性ガラスセラミックス部材として様々な機械、装置、器具類等の用途に利用できる。特に、防汚機能や防曇機能を要する、タイル、窓枠、建材、家電製品等の用途に用いることが好ましい。本発明のガラスセラミックスは成形性に優れており、材料自体が光触媒機能を有するので、特性の劣化を気にすることなくあらゆる形状にて利用できる。例えば、ビーズやファイバー形状にして、浄化フィルタや脱臭フィルタとして用いることができる。
【0107】
以上のようにして得られる本発明のガラスセラミックスからなるビーズまたはファイバーは、塗料などに用いる溶媒等と混合することによってスラリー状混合物を調製することにより、基材上への塗布が容易になる。本発明のスラリー状混合物は、ガラスセラミックスからなるビーズまたはファイバーのみを、溶媒またはバインダーと混合したものでも良く、若しくは一般的に利用される溶媒に本発明の釉薬用ガラス粉粒体及び/または釉薬用結晶化ガラスからなるビーズまたはファイバーを加えたものでも良い。
【0108】
無機バインダーとしては、特に限定されるものではないが、紫外線や可視光線を透過する性質のものが好ましく、例えば、珪酸塩系バインダー、リン酸塩系バインダー、無機コロイド系バインダー、アルミナ、シリカ、ジルコニア等の微粒子や、釉薬に使われる植物の灰、石灰、珪石、長石、粘土、フリット等を挙げることができる。
【0109】
有機バインダーとしては、例えば、プレス成形やラバープレス、押出成形、射出成形用の成形助剤として汎用されている市販のバインダーが使用できる。具体的には、例えば、アクリル樹脂、エチルセルロース、ポリビニルブチラール、メタクリル樹脂、ウレタン樹脂、ブチルメタアクリレート、ビニル系の共重合物等が挙げられる。有機バインダーを用いる場合、基材に塗布した後、脱脂工程を経てこれらの成分を除去しても良い。
【0110】
溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、酢酸、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、アセトン、ポリビニルアルコール(PVA)等の公知の溶媒が使用できるが、環境負荷を軽減できる点でアルコール又は水が好ましい。
【0111】
また、スラリーの均質化を図るために、適量の分散剤を併用してもよい。分散剤としては、特に限定されないが、例えば、トルエン、キシレン、ベンゼン、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類、セロソルブ、カルビトール、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキソラン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸−n−ブチル、酢酸アミル等のエステル類等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0112】
本発明のスラリー状混合物には、その用途に応じて、上記成分以外に例えば硬化速度、比重を調節するための添加剤成分等を配合することができる。
【0113】
本発明のスラリー状混合物におけるガラスセラミックスビーズまたはファイバーの含有量は、その用途に応じて適宜設定できる。従って、スラリー状混合物におけるガラスの含有量は、特に限定されるものではないが、一例を挙げれば、十分な光触媒特性を発揮させる観点から、好ましくは50質量%、より好ましくは55質量%、最も好ましくは60質量%を下限とし、釉薬スラリーとしての流動性と機能性を確保する観点から、好ましくは99質量%、より好ましくは80質量%、最も好ましくは65質量%を上限とすることができる。
【0114】
さらに、本発明の釉薬は、光触媒活性をより高める目的で、結晶状態の光触媒粉末(例えばTiOおよびWOなど)を混合させることができる。これら原料を添加することで、より多くの光触媒結晶相を有する光触媒層をより確実に製造できる。
【0115】
なお、スラリー状混合物の製造方法において、ビーズやファイバーの凝集体を除去する工程を有しても良い。ガラスの粉体は、その粒径が小さくなるに従い、表面エネルギーが大きくなって凝集しやすくなる傾向がある。ガラス粉体が凝集していると、均一な分散ができず、所望の光触媒活性が得られないことがある。凝集体の除去は、例えば、釉薬を濾過することにより実施できる。釉薬の濾過は、例えば所定の目開きのメッシュなどの濾過材を用いて行うことができる。
【0116】
このようにして作成されるスラリー状混合物は、光触媒機能を与える塗料および釉薬などの材料として好適に利用できる。
【0117】
次に、本発明のガラスセラミックスの製造方法について説明する。
【0118】
<第1実施形態>
本発明のガラスセラミックスの製造方法の第1実施形態は、原料組成混合物を溶融しその融液を得、その後冷却、固化させることを特徴とするガラスセラミックスの製造方法である。より具体的には、所定の出発原料を均一に混合して白金又は耐火物などからなる容器に入れて、電気炉で1250℃以上の所定温度で加熱し保持して、溶融液を作製する。その後、溶融液を金型に流し込み固化させて、目的の結晶化ガラスを得る。ここで、溶融液が冷却する過程で結晶核の生成及び成長が起きる。この手法は、例えば所望の結晶相をリッチに析出し、且つガラス溶融液の状態が比較的不安定な場合などにおいて有効である。
【0119】
ここで、溶融温度は、混合する組成物の種類及び量により適宜変更することが好ましいが、一般に1250℃以上が好ましく、1300℃以上がより好ましく、1350℃以上が最も好ましい。具体的には、所定の出発原料を均一に混合して白金坩堝、石英坩堝又はアルミナ坩堝からなる容器に入れて、電気炉で1250℃以上の所定温度で加熱して攪拌均質化し、融液を作製する。
【0120】
その後、融液の冷却速度を制御しつつ、金型に流し込み、結晶核の生成及び成長が起きる結晶化温度領域まで冷却する(第一冷却工程)。結晶化温度領域に到達してからガラスに結晶が析出するが、前記領域の温度、前記温度領域での滞在時間、前記温度領域内での冷却速度などをコントロールすることで、目的とする結晶の種類、サイズ及び結晶相の量を制御することができる(結晶化工程)。結晶化温度領域は一定の冷却速度で通過しても良いし、又は、一定の時間、特定温度に維持するようにしても良い。冷却する際の速度及び温度が結晶相の形成や結晶サイズに大きな影響を及ぼすので、これらを精密に制御することが非常に重要である。所望の結晶が得られたら結晶化温度領域の範囲外まで冷却し結晶が分散したガラスセラミックスを得る(第二冷却工程)。
【0121】
<第2実施形態>
本発明のガラスセラミックスの製造方法の第2実施形態は、原料を混合してその融液を得る溶融工程と、前記融液を冷却してガラス体を得る冷却工程と、前記ガラス体の温度をガラス転移温度を超えた温度領域まで上昇させる再加熱工程と、前記温度を前記温度領域内で維持して結晶を生じさせる結晶化工程と、前記温度を再び下げ結晶分散ガラスを得る再冷却工程を有するガラスセラミックスの製造方法である。
【0122】
(溶融工程)
溶融工程は、上述の組成を有する原料を混合し、その融液を得る工程である。より具体的には、ガラスセラミックスの各成分が所定の含有量の範囲内になるように原料を調合し、均一に混合し、作製した混合物を白金坩堝、石英坩堝又はアルミナ坩堝に投入して電気炉で1200〜1600℃の温度範囲で1〜24時間溶融して攪拌均質化して融液を作製する。なお、原料の溶融の条件は上記温度範囲に限定されず、原料組成物の組成及び量等に応じて、適宜設定することができる。
【0123】
(冷却工程)
冷却工程は、溶融工程で得られた融液を冷却してガラス化することで、ガラス体を作製する工程である。具体的には、融液を流出して適宜冷却することで、ガラス化されたガラス体を形成する。ここで、ガラス化の条件は特に限定されるものではなく、原料の組成及び量等に応じて適宜設定されてよい。また、本工程で得られるガラス体の形状は特に限定されず、板状、粒状等であってよいが、ガラス体を迅速且つ大量に作製できる点では、板状であることが好ましい。
【0124】
(結晶化工程)
結晶化工程は、ガラス体の温度をガラス転移温度を超える温度領域に上昇させ、その温度で所定の時間保持する工程である。この結晶化工程で所定の温度領域で所定時間保持することにより、ナノからミクロン単位までの所望のサイズを有するR0.5Ti(PO結晶及びTiO結晶、またはこれらの固溶体をガラス体の内部に均一に析出・分散させることができ、光触媒特性を有するガラスセラミックスをより確実に製造できる。
【0125】
上記の結晶化工程では、ガラス組成ごとにガラス転移温度に応じて結晶化温度を設定する必要があるが、具体的にガラス転移温度より10℃以上高い温度領域で熱処理するのが好ましい。本発明のガラスはガラス転移温度が500℃以上であることから、好ましい熱処理温度の下限は510℃で、より好ましくは600℃で、最も好ましくは650℃である。他方、熱処理温度が高くなり過ぎると、光触媒結晶相が減少する傾向が強くなり、光触媒特性が消失し易くなるので、熱処理温度の上限は1200℃が好ましく、1100℃がより好ましく、1050℃が最も好ましい。特に、アナターゼ型、ルチル型及びブルッカイト型からなる群の1種以上のTiOと同時に、R0.5Ti(PO結晶を析出させるという点では1000℃以下が好ましい。この温度範囲は<第1実施形態>でガラスセラミックスを作製する場合に通過又は維持する結晶化温度領域にも適用される。
【0126】
(エッチング工程)
結晶化工程を行って結晶が生じた後のガラス体は、そのままの状態でもガラスセラミックスとして高い光触媒特性を奏することが可能であるが、このガラスセラミックスに対してエッチング工程を行うことにより、結晶相の周りのガラス相が取り除かれ、表面に露出する結晶相の比表面積が大きくなるため、ガラスセラミックスの光触媒特性をより高めることが可能である。また、エッチング工程に用いる溶液やエッチング時間をコントロールすることにより、光触媒結晶相のみが残る多孔質体を得ることが可能である。ここで、エッチング工程としては、ドライエッチング及び/又は溶液への浸漬が挙げられる。浸漬に使用される酸性もしくはアルカリ性の溶液は、ガラスセラミックスの表面を腐食できれば特に限定されず、例えばフッ素又は塩素を含む酸(フッ化水素酸、塩酸)であってよい。なお、このエッチング工程は、フッ化水素ガス、塩化水素ガス、フッ化水素酸、塩酸等を、ガラスセラミックスの表面に吹き付けることで行ってよい。なお、エッチング工程は、以下に説明する焼結体およびガラスセラミックス複合体においても同じく適用できる。
【0127】
[ガラスセラミックス焼結体]
本発明に係るガラスセラミックスの前駆体となるガラス(結晶化前のガラス)からなる粉状の材料を焼結・固化させると、少なくともR0.5Ti(PO及びこれらの固溶体から選ばれる1種以上、並びにTiO及びこの固溶体を内部及び表面に均一に分散しているガラスセラミックス焼結体が得られる。ガラスセラミックス焼結体の製造方法は、主要な工程として、ガラス化工程、粉砕工程、成形工程、及び焼結工程を有する。各工程の詳細を以下説明する。
【0128】
(ガラス化工程)
ガラス化工程では、所定の原料組成物を溶融しガラス化することで、ガラス体を作製する。具体的には、白金又は耐火物からなる容器に原料組成物を投入し、原料組成物を高温に加熱することで溶融する。これにより得られる溶融ガラスを急速冷却することで、ガラス化されたガラス体を形成する。溶融及びガラス化の条件は、上記の溶融工程及び冷却工程に準じて行うことができる。また、作製するガラス体の形状は、特に限定されず、例えば板状、粒状等であってもよい。
【0129】
(粉砕工程)
粉砕工程では、ガラス体を粉砕して粉砕ガラスを作製する。粉砕ガラスの粒子径や形状は、成形工程で作製される成形体の形状及び寸法の必要とされる精度に応じて適宜設定することができる。例えば、後の工程で任意の基材上に粉砕ガラスを堆積させた後、焼結を行う場合、粉砕ガラスの平均粒子径は数十mmの単位でもよい。一方、ガラスセラミックスを所望の形状に成形したり、他の結晶と複合したりする場合は、粉砕ガラスの平均粒子径が大きすぎると成形が困難になるので、平均粒子径は出来るだけ小さい方が好ましい。そこで、粉砕ガラスの平均粒子径の上限は、好ましくは100μm、より好ましくは50μm、最も好ましくは10μmである。なお、粉砕ガラスの平均粒子径は、例えばレーザー回折散乱法によって測定した時のD50(累積50%径)の値を使用できる。具体的には日機装株式会社の粒度分布測定装置MICROTRAC(MT3300EXII)よって測定した値を用いることができる。
【0130】
なお、ガラス体の粉砕方法は、特に限定されないが、例えばボールミル、ジェットミル等を用いて行うことができる。
【0131】
(添加工程)
この方法では、粉砕工程で得られる粉粒体に対して、任意の成分を混合する混合工程を行ってもよい。これにより、ガラスセラミックス焼結体に含まれる各成分の含有量が変動するため、所望の特性を有する焼結体を形成することができる。ここで、粉粒体に添加する成分は特に制限はないが、粉粒体の段階で増量させることによって当該成分の機能を増強させ得る成分や、ガラス化が難しくなるために溶融ガラスの原料組成物には少量しか配合できないが光触媒作用を助長し得る成分、等を混合することが好ましい。特に、光触媒活性を高めるために、粉末状のZnO結晶、WO結晶、及び/またはTiO結晶を混合することが好ましい。
【0132】
(成形工程)
成形工程は、所望の添加物を加えた粉砕ガラスを所望形状の成形体に成形する工程である。所望の形状にする場合は、破砕ガラスを型に入れて加圧するプレス成形を用いることが好ましい。また、粉砕ガラスを耐火物の上に堆積させて成形することも可能である。この場合、バインダーを用いることもできる。
【0133】
(焼結工程)
焼結工程では、カラス成形体を加熱して焼結体を作製する。これにより、成形体を構成するガラス体の粒子同士が結合すると同時にR0.5Ti(PO及びこれらの固溶体から選ばれる1種以上、並びにTiO及びこの固溶体が生成し、ガラスセラミックスが形成される。また、例えば成形体が粉砕ガラスに光触媒結晶を添加した混合物から製造される場合は、より多くの光触媒活性を有する結晶がガラスセラミックスに生成される。そのため、より高い光触媒活性を得ることができる。
【0134】
焼結工程の具体的な手順は特に限定されないが、成形体に予熱を加える工程、成形体を設定温度へと徐々に昇温させる工程、成形体を設定温度に一定時間保持する工程、成形体を室温へと徐々に冷却する工程を含んでいてもよい。
【0135】
焼結の条件は、成形体を構成するガラス体の組成に応じて適宜設定することができる。焼結工程では、ガラスから結晶を生成させるために、熱処理温度等の条件を、成形体を構成するガラスの結晶化条件に符合させる必要がある。焼結温度が低すぎると所望の結晶を有する焼結体が得られないため、少なくともガラス体のガラス転移温度(Tg)より高い温度での焼結が必要となる。具体的に、焼結温度の下限は、ガラス体のガラス転移温度(Tg)以上であり、好ましくはTg+50℃以上であり、より好ましくはTg+100℃以上であり、最も好ましくはTg+150℃以上である。他方、焼結温度が高すぎると、TiO結晶、WO結晶、ZnO結晶等を含む結晶の析出が少なくなるとともに、任意成分であるTiOの結晶がアナターゼ型より活性度の低いルチルへ相転移したり、目的以外の結晶が析出するなどして光触媒活性が大幅に減少する傾向が強くなる。従って、焼結温度の上限は、好ましくはガラス体のTg+600℃以下であり、より好ましくはTg+500℃以下であり、最も好ましくはTg+450℃以下である。
【0136】
また、焼結時間の下限は、焼結温度に応じて設定する必要があるが、高い温度の場合は短く、低い温度の場合は、長く設定することが好ましい。具体的に、焼結を充分に行うことができる点で、好ましくは3分、より好ましくは20分、最も好ましくは30分を下限とする。一方、焼結時間が24時間を越えると、目的の結晶が大きくなりすぎたり、他の結晶が生成したりして十分な光触媒特性が得られなくなるおそれがある。従って、焼結時間の上限は、好ましくは24時間、より好ましくは19時間、最も好ましくは18時間とする。なお、ここで言う焼結時間とは、焼結工程のうち焼成温度が一定(例えば、上記設定温度)以上に保持されている時間の長さを指す。
【0137】
焼結工程は、例えばガス炉、マイクロ波炉、電気炉等の中で、空気交換しつつ行うことが好ましい。ただし、この条件に限らず、例えば不活性ガス雰囲気、還元ガス雰囲気、酸化ガス雰囲気等にて行ってもよい。
【0138】
焼結工程によって形成されるガラスセラミックス焼結体は、結晶相に、R0.5Ti(PO及びこれらの固溶体から選ばれる1種以上、並びにTiO及びこの固溶体が含まれている。この場合、アナターゼ(Anatase)型又はブルッカイト(Brookite)型のTiOからなる結晶が含まれていることがより好ましい。これらの結晶が含まれていることにより、ガラスセラミックス焼結体は高い光触媒機能を有することができる。その中でも特にアナターゼ型の酸化チタン(TiO)は、ルチル(Rutile)型に比べても光触媒機能が高いため、ガラスセラミックス焼結体により高い光触媒機能を付与することができる。
【0139】
[ガラスセラミックス複合体]
また、本発明のガラスセラミックスを用いて、基材の上に光触媒活性を有する機能層を備えた複合体を作ることガできる。このガラスセラミックス複合体(以下「複合体」と記すことがある)とは、ガラスを熱処理して結晶を生成させることで得られるガラスセラミックス層と基材とを備えたものであり、このうちガラスセラミックス層は、具体的には非晶質固体及び結晶からなる層である。ガラスセラミックス層は、酸化物換算組成の全物質量に対して、TiO成分を15〜95%、SiO成分、P成分、B成分、及びGeO成分から選ばれる1種以上の成分を1%〜70%、RO成分を0.1〜50%、(式中、RはBe、Mg、Ca、Sr、Ba、Znから選ばれる1種以上とする)含有し、R0.5Ti(PO及びこれらの固溶体から選ばれる1種以上、並びにTiO及びこの固溶体を含む結晶相がガラスセラミックスの内部及び表面に均一に分散している。
【0140】
本発明に係るガラスセラミックス複合体の製造方法は、原料組成物から得られた粉砕ガラスを基材上で焼成して、少なくとも酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で、TiO成分を15〜95%、SiO成分、P成分、B成分、及びGeO成分から選ばれる1種以上の成分を1%〜70%、RO成分を0.1〜50%、(式中、RはBe、Mg、Ca、Sr、Ba、Znから選ばれる1種以上とする)含有するガラスセラミックス層を形成する工程(焼成工程)を有する。本発明方法における好ましい態様では、原料組成物を溶融しガラス化することでガラス体を作成するガラス化工程、ガラス体を粉砕して粉砕ガラスを作製する粉砕工程、及び粉砕ガラスを基材上で焼成することによりガラスセラミックス層を形成する焼成工程を含むことができる。
【0141】
なお、本実施の形態において「粉砕ガラス」とは、原料組成物から得られたガラス体を粉砕することにより得られるものであり、非晶質状態のガラスの粉砕物と、結晶相を有するガラスセラミックスの粉砕物と、ガラスの粉砕物中に結晶相を析出させたものと、を包含する意味で用いる。すなわち、「粉砕ガラス」は結晶相を有する場合と有しない場合がある。粉砕ガラスが結晶相を有する場合、ガラス体を熱処理して結晶相を析出させた後で粉砕することによって製造してもよいし、ガラス体を粉砕した後に熱処理を行って粉砕ガラス中で結晶相を析出させることにより製造してもよい。なお、「粉砕ガラス」が結晶相を含まない場合は、粉砕ガラスを基材上に配置し、焼成温度を制御することで、結晶相を析出させることができる(結晶化処理)。
【0142】
ここで、結晶化処理は、例えば、(a)ガラス化工程後・粉砕工程の前、(b)粉砕工程後・焼成工程の前、(c)焼成工程と同時、の各タイミングで実施できる。この中でも、ガラスセラミックス層の焼結が容易でバインダーが不要になることや、プロセスの簡素化によるスループットの向上、省エネルギーなどの観点から、上記(c)の焼成工程と同時に、焼成の中で結晶化処理を行うことが好ましい。しかし、複合体を構成する基材として耐熱性が低いものを使用する場合には、上記(a)ガラス化工程後・粉砕工程の前、又は(b)粉砕工程後・焼成工程の前、のタイミングで結晶化を行うことが好ましい。
【0143】
以下、各工程の詳細を説明する。
(ガラス化工程)
ガラス化工程では、所定の原料組成物を溶融しガラス化することで、ガラス体を作製する。具体的には、白金又は耐火物からなる容器に原料組成物を投入し、原料組成物を高温に加熱することで溶融する。これにより得られる溶融ガラスを急速冷却することで、ガラス化されたガラス体を形成する。ここでガラス体の形状は、特に限定されず、例えば板状、粒状等であってもよい。
【0144】
(粉砕工程)
粉砕工程では、ガラス体を粉砕して粉砕ガラスを作製する。粉砕ガラスを作製することにより、ガラス体が比較的に小粒径化されるため、基材上への適用が容易になる。また、粉砕ガラスとすることで他の成分を混合することが容易になる。粉砕ガラスの粒子径や形状は、基材の種類及び複合体に要される表面特性等に応じて適宜設定することができる。具体的には、粉砕ガラスの平均粒子径が大きすぎると基材上に所望形状のガラスセラミックス層を形成するのが困難になるので、平均粒子径は出来るだけ小さい方が好ましい。そこで、粉砕ガラスの平均粒子径の上限は、好ましくは100μm、より好ましくは50μm、最も好ましくは10μmである。なお、粉砕ガラスの平均粒子径は、例えばレーザー回折散乱法によって測定した時のD50(累積50%径)の値を使用できる。具体的には日機装株式会社の粒度分布測定装置MICROTRAC(MT3300EXII)よって測定した値を用いることができる。
【0145】
なお、ガラス体の粉砕方法は、特に限定されないが、例えばボールミル、ジェットミル等を用いて行うことができる。
【0146】
(添加工程)
粉砕ガラスに任意の成分を混合することにより、当該成分を増量させる添加工程を含むことができる。この工程は、粉砕工程の後、成形工程の前に行うことができる任意の工程である。この添加工程は、上記ガラスセラミックス焼結体の製造方法で説明した添加工程に準じて実施できる。
【0147】
(焼成工程)
焼成工程では、粉砕ガラスを基材上に配置した後に加熱して焼成を行うことで、複合体を作製する。これにより、光触媒結晶を含む結晶相を有するガラスセラミックス層が基材上に形成される。ここで、焼成工程の具体的な手順は特に限定されないが、粉砕ガラスを基材上に配置する工程と、基材上に配置された粉砕ガラスを設定温度へと徐々に昇温させる工程、粉砕ガラスを設定温度に一定時間保持する工程、粉砕ガラスを室温へと徐々に冷却する工程を含んでよい。
【0148】
(基材上への配置)
まず、粉砕ガラスを基材上に配置する。これにより、より幅広い基材に対して、光触媒特性及び親水性を付与することができる。ここで用いられる基材の材質は特に限定されないが、光触媒結晶と複合化させ易い点で、例えば、ガラス、セラミックス等の無機材料や金属等を用いることが好ましい。
【0149】
粉砕ガラスを基材上に配置するには、粉砕ガラスを含有するスラリーを、所定の厚み・寸法で基材上に配置することが好ましい。これにより、光触媒特性を有するガラスセラミックス層を容易に基材上に形成することができる。ここで、形成されるガラスセラミックス層の厚さは、複合体の用途に応じて適宜設定できる。ガラスセラミックス層の厚みを広範囲に設定できることも、本発明方法の特長の一つである。ガラスセラミックス層が剥がれないように十分な耐久性を持たせる観点から、その厚みは、例えば500μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることが最も好ましい。スラリーを基材上に配置する方法としては、例えばドクターブレード法やカレンダ法、スピンコートやディップコーティング等の塗布法、インクジェット、バブルジェット(登録商標)、オフセット等の印刷法、ダイコーター法、スプレー法、射出成型法、押し出し成形法、圧延法、プレス成形法、ロール成型法等が挙げられる。
【0150】
なお、粉砕ガラスを基材上に配置する方法としては、上述のスラリーを用いる方法に限られず、粉砕ガラスの粉末を基材に直接載せてもよい。また、基材上へ配置する粉砕ガラスが熱処理によって既に結晶を含む場合、その結晶化度によっては、有機又は無機バインダー成分と混合して、あるいはバインダー層を基材との間に介在させて配置することもできる。この場合、光触媒作用に対する耐久性の面で、無機バインダーが好ましい。
【0151】
(焼成)
焼成工程における焼成の条件は、粉砕ガラスを構成するガラス体の組成、混合された添加物の種類及び量等に応じ、適宜設定することができる。具体的に、焼成時の雰囲気温度は、基材に配置された粉砕ガラスの状態によって後述する二通りの制御を行うことができる。
【0152】
第1の焼成方法は、基材上に配置された粉砕ガラスに所望の光触媒結晶が既に生成している場合であり、例えば、ガラス体又は粉砕ガラスに対して結晶化処理が施されている場合が挙げられる。この場合の焼成温度は、基材の耐熱性を考慮しつつ1100℃以下の温度範囲で適宜選択できるが、焼成温度が1100℃を超えると、生成した光触媒結晶が他の結晶へと転移し易くなる。従って、焼成温度の上限は、好ましくは1100℃であり、より好ましくは1050℃であり、最も好ましくは1000℃である。
【0153】
第2の焼成方法は、基材上に配置された粉砕ガラスが未だ結晶化処理されておらず、光触媒結晶を有していない場合である。この場合は焼成と同時にガラスの結晶化処理を行う必要がある。焼成温度が低すぎると所望の結晶相を有する焼結体が得られないため、少なくともガラス体のガラス転移温度(Tg)より高い温度での焼成が必要となる。具体的に、焼成温度の下限は、ガラス体のガラス転移温度(Tg)であり、好ましくはTg+50℃であり、より好ましくはTg+100℃であり、最も好ましくはTg+150℃である。他方、焼成温度が高くなりすぎると光触媒結晶を含む結晶相が減少し光触媒特性が消失する傾向があるので、焼成温度の上限は、好ましくはガラス体のTg+600℃であり、より好ましくはTg+500℃であり、最も好ましくはTg+450℃である。
【0154】
また、焼成時間は、ガラスの組成や焼成温度などに応じて設定する必要がある。昇温速度を遅くすれば、熱処理温度まで加熱するだけでいい場合もあるが、目安としては高い温度の場合は短く、低い温度の場合は、長く設定することが好ましい。具体的には、結晶をある程度まで成長させ、かつ十分な量の結晶を析出させ得る点で、好ましくは3分、より好ましくは5分、最も好ましくは10分を下限とする。一方、熱処理時間が24時間を越えると、目的の結晶が大きくなりすぎたり、他の結晶が生成したりして十分な光触媒特性が得られなくなるおそれがある。従って、焼成時間の上限は、好ましくは24時間、より好ましくは19時間、最も好ましくは18時間とする。なお、ここで言う焼成時間とは、焼成工程のうち焼成温度が一定(例えば、上記設定温度)以上に保持されている期間の長さを指す。
【実施例】
【0155】
本発明の実施例1〜11のガラスセラミックス成形体の組成及び結晶化温度、並びに、これらのガラスセラミックス成形体に析出した結晶相の種類及び分解活性指数(nmol/L/min)を表1〜2に示す。なお、以下の実施例はあくまで例示の目的であり、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。





























【0156】
【表1】



















【0157】
【表2】

【0158】
本発明の実施例(No.1〜No.11)のガラスセラミックス成形体は、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、水酸化物、メタ燐酸化合物等の通常のガラスに使用される高純度の原料を選定し、表1〜2に示した各実施例及び比較例の組成の割合になるように秤量して均一に混合した後、白金坩堝に投入し、ガラス組成の熔融難易度に応じて電気炉で1200℃〜1600℃の温度範囲で1〜24時間溶解し、攪拌均質化して泡切れ等を行った後、1500℃以下に温度を下げて攪拌均質化してから金型に鋳込み、徐冷してガラスを作製した。得られたガラスについて、表1〜2の各実施例に記載された結晶化温度に加熱し、記載された時間にわたり保持して結晶化を行った後、結晶化温度から冷却して目的の結晶相を有するガラスセラミックスを得た。
【0159】
ここで、実施例(No.1〜No.11)のガラスセラミックス成形体の析出結晶相の種類は、X線回折装置(フィリップス社製、商品名:X’Pert−MPD)で同定した。
【0160】
このうち、光触媒特性が認められた実施例の試料1〜10の試料について、日本工業規格JIS R 1703−2:2007に基づき、メチレンブルーの分解活性指数(nmol/l/min)を求めた。
【0161】
より具体的には、以下のような手順でメチレンブルーの分解活性指数を求めた。
0.020mMのメチレンブルー水溶液(以下、吸着液とする)と0.010mMのメチレンブルー水溶液(以下、試験液とする)を調製した。
そして、試料の表面と、石英管(内径10mm、高さ30mm)の一方の開口と、を高真空用シリコーングリース(東レ・ダウコーニング株式会社製)で固定し、石英管の他方の開口から吸着液を注入して試験セルを吸着液で満たした。その後、石英管の他方の開口と吸着液の液面とをカバーガラス(松浪ガラス工業株式会社製、商品名:白縁磨フロストNo.1)で覆い、光が当たらないようにしながら、12〜24時間にわたって吸着液を試料に十分に吸着させた。吸着後の吸着液について、分光光度計(日本分光株式会社製、型番:V−650)を用いて波長664nmの光に対する吸光度を測定し、この吸着液の吸光度が試験液について同様に測定された吸光度よりも大きくなった時点で、吸着を完了させた。
このとき、試験液について測定された吸光度(Abs(0))とメチレンブルー濃度(c(0)=10[μmol/L])の値から、下式(1)を用いて換算係数K[μmol/L]を求めた。
K=c(0)/Abs(0) ・・(1)
次いで、カバーガラスを取り外して石英管内の液を試験液に入れ替えた後、石英管の他方の開口と吸着液の液面とをカバーガラスで再度覆い、1.0mW/cm2の紫外線を照射した。そして、紫外線を60分、120分及び180分間にわたり照射した後における波長664nmの光に対する吸光度を測定した。
紫外光の照射を開始してt分後に測定された吸光度Abs(t)の値から、下式(2)を用いて、紫外光の照射を開始してt分後のメチレンブルー試験液の濃度C(t)[μmol/L]を求めた。ここで、Kは上述の換算係数である。
C(t)=K×Abs(t) ・・(2)
そして、上述により求められたC(t)を縦軸にとり、紫外線の照射時間t[min]を横軸にとってプロットを作成した。このとき、プロットから得られる直線の傾きa[μmol/L/min]を最小二乗法によって求め、下式(3)を用いて分解活性指数R[nmol/L/min]を求めた。
R=|a|×1000 ・・(3)
【0162】
一方、実施例(No.3)に記載された組成のガラスについて、表1に記載された時間及び温度で結晶化工程を行い、ガラスセラミックスを形成した。このガラスセラミックスを、HF濃度が46%(質量百分率)のフッ酸溶液(和光純薬工業株式会社製)に3分間浸漬させ、エッチング工程を行った。結晶化工程及びエッチング工程を行う前後のガラスセラミックスに対して、上述のメチレンブルー分解試験を行い、結晶化工程及びエッチング工程の前後における分解活性指数(nmol/l/min)を求めた。
【0163】
一方、実施例(No.11)のガラスセラミックス成形体の親水性について、θ/2法によりサンプル表面と水滴との接触角を測定することにより評価した。すなわち、UV−A(10mW/cm)紫外線を照射後のガラスセラミックスの表面に水を滴下し、ガラスセラミックス成形体の表面から水滴の頂点までの高さhと、水滴の試験片に接している面の半径rと、を協和界面科学社製の接触角計(DM501)を用いて測定し、θ=2tan−1(h/r)の関係式より、水との接触角θを求めた。
【0164】
その結果、表1〜2に表されるように、実施例のガラスセラミックス成形体の析出結晶相には、いずれも光触媒活性の高いアナターゼ型のTiO結晶、及びR0.5Ti(PO結晶が含まれていた。このことは、図1に示した実施例(No.1)のガラスセラミックス成形体についてのXRDパターンにおいて、入射角2θ=24°付近をはじめ、「●=TiO、□=Mg0.5Ti(PO」で表される入射角にピークが生じていることからも明らかである。このため、本発明の実施例のガラスセラミックス成形体は、比較例のガラス成形体に比べて、高い光触媒特性及び親水性を有することが推察された。
【0165】
そして、実施例(No.1〜No.10)のガラスセラミックス成形体は、表1〜2に示すように、分解活性指数が3.0nmol/l/min以上、より具体的には10.2nmol/l/min以上であった。このため、本発明の実施例のガラスセラミックス成形体は、所望の光触媒特性を有することが明らかになった。
【0166】
エッチング工程を行った後の実施例(No.3)のガラスセラミックス成形体は、図2に示すように、分解活性指数が向上した。具体的には分解活性指数が18.1から26.2に変化しており、エッチング工程前の分解活性指数に比べて高い値であった。そのため、本発明の実施例のガラスセラミックス成形体は、エッチング工程を行うことで分解活性指数が変動するため、より高い光触媒特性を得ることが可能であることが明らかになった。
【0167】
また、上記の実施例11のガラスセラミックス成形体について親水性を評価したところ、紫外線照射前の水との接触角は49°であったが、紫外線照射30分後の接触角は6.5°になり、接触角が10°以下になることが確認された。これにより、本発明の実施例のガラスセラミックス成形体は、紫外線の照射により高い親水性を有することが明らかになった。
【0168】
また、実施例(No.1〜No.11)のガラスセラミックス成形体の化学的耐久性(耐水性及び耐酸性)は、粒度425〜600μmに破砕してメタノールで洗浄したガラスセラミックス試料を作製し、日本光学硝子工業会規格「光学ガラスの化学的耐久性の測定方法」JOGIS06−2008に準じて測定した。
【0169】
耐水性は、ガラスセラミックス試料を白金かごの中に入れ、この白金かごを純水(pH6.5〜7.5)の入った石英ガラス製の丸底フラスコに浸漬し、沸騰水浴中で60分間処理した後のガラス試料の減量率(%)を用いて測定した。ここで、減量率(wt%)が0.05未満の場合をクラス1、減量率が0.05〜0.10未満の場合をクラス2、減量率が0.10〜0.25未満の場合をクラス3、減量率が0.25〜0.60未満の場合をクラス4、減量率が0.60〜1.10未満の場合をクラス5、減量率が1.10以上の場合をクラス6としたものであり、クラスの数が小さいほど、ガラスの耐水性が優れていることを意味する。
【0170】
一方、耐酸性は、ガラスセラミックス試料を白金かごの中に入れ、この白金かごを0.01N硝酸水溶液の入った石英ガラス製の丸底フラスコに浸漬し、沸騰水浴中で60分間処理した後のガラス試料の減量率(%)を用いて測定した。ここで、減量率(wt%)が0.20未満の場合をクラス1、減量率が0.20〜0.36未満の場合をクラス2、減量率が0.35〜0.65未満の場合をクラス3、減量率が0.65〜1.20未満の場合をクラス4、減量率が1.20〜2.20未満の場合をクラス5、減量率が2.20以上の場合をクラス6としたものであり、クラスの数が小さいほど、ガラスの耐酸性が優れていることを意味する。
【0171】
その結果、実施例(No.1〜No.11)のガラスセラミック成形体の耐水性及び耐酸性は、いずれも1級であった。
【0172】
従って、本発明の実施例のガラスセラミックス成形体では、アナターゼ型、ルチル型及びブルッカイト型からなる群の1種以上の酸化チタン(TiO)、並びにR0.5Ti(POはじめとする無機チタンリン酸化合物の光触媒結晶が容易に析出し、しかもこれらの結晶が均一にガラスに分散しているため、剥離による光触媒機能の損失がなく、耐久性の優れた光触媒機能体を得られることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶相として、R0.5Ti(PO及びこれらの固溶体から選ばれる1種以上、並びにTiO及びこの固溶体のいずれか又は両方、を有し、JIS R 1703−2:2007に基づくメチレンブルーの分解活性指数が3.0nmol/L/min以上であるガラスセラミックス。(式中、RはBe、Mg、Ca、Sr、Ba、Znから選ばれる1種以上とする)
【請求項2】
前記結晶相がアナターゼ型、ルチル型及びブルッカイト型から選ばれる1種以上のTiOを含むことを特徴とする請求項1記載のガラスセラミックス。
【請求項3】
前記結晶相がガラスセラミックス全体積に対する体積比で1.0%以上99.0%以下含まれている請求項1または2いずれか記載のガラスセラミックス。
【請求項4】
酸化物換算組成のモル%で
TiO成分を15〜95%、
SiO成分、P成分、B成分、及びGeO成分から選ばれる1種以上の成分を1%〜70%、RO成分を0.1〜50%、(式中、RはBe、Mg、Ca、Sr、Ba、Znから選ばれる1種以上とする)含有する請求項1から3いずれか記載のガラスセラミックス。
【請求項5】
酸化物換算組成のモル%でRnO成分を0〜50%含有する請求項1から4いずれか記載のガラスセラミックス。
【請求項6】
酸化物換算組成のモル%で
Al成分を0〜30%、
Ga成分を0〜30%、
In成分を0〜30%、
ZrO成分を0〜20%、
SnO成分を0〜20%、
Bi成分及び/又はTeO成分を0〜20%、
Nb成分及び/又はTaO5成分を0〜30%、
WO成分を0〜30%、
MoO成分を0〜30%、
Ln成分を0〜30%(LnはY、Ce、La、Nd、Gd、Dy、Ybから選ばれる一種以上)、
成分を0〜10%(Mは、V、Cr、Mn、Fe、Co、及びNiから選ばれる一種以上とし、x及びyはそれぞれx:y=2:(Mの価数)を満たす最小の自然数とする)
As成分及び/又はSbを成分0〜5%、
含有する請求項1から5いずれか記載のガラスセラミックス。
【請求項7】
酸化物基準組成のガラス全物質量に対する外割り質量%で、
F、Cl、Br、S、N、及びCから選ばれる1種以上の非金属元素成分を0.01〜10%含有する請求項1から6いずれか記載のガラスセラミックス。
【請求項8】
酸化物基準組成のガラス全物質量に対する外割り質量%で、
Cu、Ag、Au、Pd、Pt、Ru、Re、及びRhから選ばれる1種以上の金属元素成分を0.001〜5%含有する請求項1から7いずれか記載のガラスセラミックス。
【請求項9】
紫外領域から可視領域までの波長の光によって触媒活性が発現される請求項1から8いずれか記載のガラスセラミックス。
【請求項10】
紫外領域から可視領域までの波長の光を照射した表面と水滴との接触角が10°以下となる請求項1から9いずれか記載のガラスセラミックス。
【請求項11】
請求項1から10いずれか記載のガラスセラミックスからなるガラスセラミックス成形体。
【請求項12】
請求項11に記載のガラスセラミックス成形体からなる光触媒。
【請求項13】
粉粒状、又はファイバー状の形態を有する請求項12記載の光触媒。
【請求項14】
請求項13記載の光触媒を含有するスラリー状混合物。
【請求項15】
請求項12から14いずれかに記載の光触媒を含む光触媒部材。
【請求項16】
請求項12から14いずれかに記載の光触媒を含む浄化装置。
【請求項17】
請求項12または14いずれかに記載の光触媒を含むフィルタ。
【請求項18】
粉砕ガラスを焼結させてなる焼結体であって、
前記焼結体中に、請求項1から10のいずれかに記載のガラスセラミックスを含むことを特徴とする焼結体。
【請求項19】
得られるガラス体が、酸化物換算組成のモル%で、TiO成分を15〜95%、SiO成分、P成分、B成分、及び/又はGeO成分を3%〜70%、RO成分を0.1〜50%、(式中、RはBe、Mg、Ca、Sr、Ba、Znから選ばれる1種以上とする)含有するように調製された原料組成物を溶融しガラス化することで、ガラス体を作製するガラス化工程と、
前記ガラス体を粉砕して粉砕ガラスを作製する粉砕工程と、
前記粉砕ガラスを所望形状の成形体に成形する成形工程と、
前記成形体を加熱して焼結させるとともに、ガラス中に少なくともR0.5Ti(PO及びこれらの固溶体から選ばれる1種以上、並びにTiO及びこの固溶体のいずれか又は両方を含む結晶相を生成させて焼結体を作製する焼結工程と、
を含む方法により製造されるものである請求項18に記載の焼結体。
【請求項20】
前記方法は、前記粉砕ガラスにZnO結晶、WO結晶及び/又はTiO結晶を混合する工程を、さらに含む請求項19に記載の焼結体。
【請求項21】
基材と、この基材上に設けられたガラスセラミックス層とを有するガラスセラミックス複合体であって、前記ガラスセラミックス層が、請求項1から10のいずれかに記載のガラスセラミックスを含むことを特徴とするガラスセラミックス複合体。
【請求項22】
加熱することにより、ガラスから光触媒活性を有する結晶相を生成し、請求項1から10のいずれかに記載のガラスセラミックスとなるガラス。
【請求項23】
粉粒状、又はファイバー状の形態を有する請求項22記載のガラス。
【請求項24】
請求項23に記載のガラスを含有するスラリー状混合物。
【請求項25】
請求項1から10のいずれかに記載のガラスセラミックスの製造方法であって、原料の混合物を1200℃以上の温度に保持して溶融し、その後冷却して固化させるガラスセラミックスの製造方法。
【請求項26】
請求項1から10のいずれかに記載のガラスセラミックスの製造方法であって、
原料を混合してその融液を得る溶融工程と、
前記融液を冷却してガラスを得る冷却工程と、
前記ガラスの温度を結晶化温度領域まで上昇させる再加熱工程と、
前記温度を前記結晶化温度領域内で維持して結晶を生じさせる結晶化工程と、
前記温度を前記結晶化温度領域外まで低下させて前記ガラスセラミックスを得る再冷却工程と、を有するガラスセラミックスの製造方法。
【請求項27】
前記結晶化温度領域は、500℃以上1200℃以下である請求項26に記載のガラスセラミックスの製造方法。
【請求項28】
前記ガラスセラミックスに対してドライエッチング及び/又はウェットエッチングを行うエッチング工程をさらに有する請求項25から27いずれかに記載のガラスセラミックスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−178603(P2011−178603A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44398(P2010−44398)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】