説明

ガーネット構造を有するフェライト磁性粉体及び該フェライト磁性粉体を含有する半導体封止用樹脂組成物

【課題】
有効な電磁波吸収機能を有し、且つ信頼性が良好な半導体封止材用フェライト磁性粉体、及びその樹脂組成物を提供する。
【解決手段】
本発明では、SiOを含有し、可溶性イオンを5ppm以下に低減し、体積固有抵抗が高いガーネット構造を有するフェライト磁性粉体を使用することにより、その樹脂組成物は、高い信頼性を確保することができる。該フェライトの形状を球状化することにより、該フェライトを高充填化して且つ流動性を確保することができる。成形バリは2mm以下で成形に支障が無い。得られた樹脂組成物の磁気損失μ″が0.8以上であって、電磁波吸収特性が優れ、半導体封止材として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電磁波遮蔽機能および高い電気絶縁性を備えたガーネット型の結晶構造を有するフェライト磁性粉体及び該フェライト磁性粉体を含む信頼性の高い半導体封止用樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体装置の製造工程において、基板へのボンディングが終了した半導体素子は、外部との接触を避けるため、熱硬化性樹脂等のモールド樹脂を用いて封止される。上記モールド樹脂としては、例えば、シリカ粉末を主体とする無機質充填剤をエポキシ樹脂に混合分散したもの等が用いられる。このモールド樹脂を用いた封止方法としては、例えば、基板にボンディングされた半導体素子を金型に入れ、これにモールド樹脂を硬化して成形するトランスファー成形法等が実用化されている。
【0003】
従来、半導体素子をモールド樹脂によって封止した樹脂封止型半導体装置は、信頼性、量産性およびコスト等の面において優れており、セラミックを構成材料とするセラミック封止型半導体装置と共に普及している。
【0004】
ところで、電気機器においては、電磁環境両立性(EMC:Electro−Magnetic Compatibility)の問題が注目されている。例えば、近年の情報通信機器は小型・高機能化が進み、このような機器を用いる半導体素子をより高性能化するためにおいては、消費電力を低減するため、信号の振幅を小さくしている。その結果、たとえ微弱な高周波ノイズでも半導体素子が誤動作を引き起こす可能性が高まっている。そのため、不要な電磁波を放出させない、あるいは周囲で発生した電磁波に耐性を有する電子デバイスの開発が進められている。
【0005】
このような問題の解決策の一つとして、半導体素子を金属キャップで覆うことによりこの半導体素子から発生する電磁波、あるいは周囲が発生した電磁波を半導体素子以外に放電する方法が提案されている。しかし、この方法の場合、金属キャップを配置する余分な実装空間を必要とするため、電子デバイスの実装密度を上げることができず、小型化への対応が困難である。
【0006】
そこで、現在では、このような背景から高密度実装に適した電磁波遮蔽技術が求められており、モールド樹脂自体に電磁波遮蔽機能を持たせる方法が提案されている。
【0007】
一般に、半導体封止用樹脂組成物の硬化体は、電磁波が吸収されると、このエネルギーを熱に変換する。このエネルギーの変換効率には、硬化体の誘電率を複素表示した複素誘電率の虚部ε″および透磁率を複素表示した複素透磁率の虚部μ″(磁気損失)の各値が関係する。これらの値が大きいほどエネルギー変換効率は高くなり、したがって、電磁波遮蔽効果は高くなる。
【0008】
そして、フェライト系ボンド材料の中では、Mn−Zn系フェライトやNi−Zn系フェライトは充填量やフェライト粒子径を調整することにより、例えば、Mn−Zn系フェライトでは50MHzから3GHzの周波数で高い磁気損失μ″を示し、この周波数帯域でシート状の電磁抑制体シートとして使用されていることが多い。このように、近傍界での電磁波遮蔽機能を高めるためには、磁気損失によるエネルギー変換効果を高める必要があり、半導体封止用樹脂組成物においてはフェライト等の磁性粉を高充填することが重要である。しかも、非磁性粉であるシリカ粉末を主体とする充填剤のみをエポキシ樹脂に混合分散した従来の樹脂組成物をモールド樹脂として用いた場合、その硬化体は磁気損失を有していないため電磁波遮蔽機能を全く示さない。
【0009】
ところで、前記半導体封止用樹脂組成物であるモールド樹脂においては、トランスファー成形の要件から成形温度まで低い粘度を有する必要があり、高い流動性が求められている。
【0010】
特許文献1では、Ni−ZnフェライトやMn−Znフェライト等の磁性体を採用し、好ましくは磨砕により粒子の角を取り除くことが提案されている。特許文献2では球状フェライトを提案している。特許文献3ではシリカ粒子とフェライト粒子との併用が提案されている。特許文献4では、信頼性の観点から、フェライト粉末を含有する樹脂組成物の熱膨張率その他を特定している。
【0011】
【特許文献1】特開2003−128880号公報
【特許文献2】特開2002−355544号公報
【特許文献3】特開2002−363382号公報
【特許文献4】特開平11−40708号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記特許文献はいずれも、Ni−Znスピネルフェライト系、Mn−Znスピネルフェライト系などのフェライトであって、シリカと比較してその電気抵抗が低く、特にICなどの半導体を直接封止する樹脂組成物に多量に添加する電磁波吸収体としては、その信頼性に問題があった。更に、フェライトに含まれる可溶性イオンが半導体封止の信頼性に悪影響を及ぼすことがわかった。
【0013】
特許文献4には、35〜95wt%のフェライト粉末を含むモールド樹脂でモールドされた半導体装置が開示されているが、モールド樹脂の成形性や絶縁破壊性、あるいはバイアス負荷時の短絡試験結果は開示されていない。本発明者等の検討結果によれば、フェライトの高い充填率のモールド樹脂の成形性と、そのバイアス(電圧)負荷時の信頼性に問題があった。
【0014】
本発明はこのようなことに鑑み成されたもので、有効な電磁波吸収機能を有し、且つ信頼性が良好な半導体封止材用フェライト磁性粉体及びその樹脂組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、本発明は、先ず電磁波吸収機能を有する充填物を準備する。組成が酸化物換算で5.5〜42.25mol%のY、0〜35.5mol%のGd、57.5〜67.5mol%のFe及び0.25〜1.7mol%のSiOからなり、且つ可溶性イオンが5ppm以下であることを特徴とする、ガーネット型の結晶構造を有するフェライト磁性粉体を第一の要旨とする。
【0016】
また、本発明は、フェライト磁性粉体の120℃における体積固有抵抗が5×10Ωm(5×10Ωcm)以上及び25℃における体積固有抵抗が3×10Ωm(3×1011Ωcm)以上であることを第二の要旨とする。
【0017】
また、本発明は、フェライト磁性粉体の形状が球状であることを特徴とすることを第三の要旨とする。
【0018】
また、本発明は、フェライト磁性粉体の平均粒子径が5μm以上、50μm以下であることを第四の要旨とする。
【0019】
また、本発明は、フェライト磁性粉体を体積基準で、少なくとも30体積%以上含む樹脂組成物を第五の要旨とする。
【0020】
また、本発明は、上記樹脂組成物が、シリカ粒子を含むことを第六の要旨とする。
【0021】
すなわち、本発明者らは電磁波吸収機能に優れると共に良好な信頼性を備えた封止材料となる樹脂組成物を得るために、その封止材料の配合材料を中心に検討を重ねた。そして従来から電磁波吸収機能を付与する際に用いられているフェライトに着目し、信頼性と電磁波吸収性とを兼ね備えたフェライト材料を得るために一連の研究を重ねた。その結果、組成が酸化物換算で5.5〜42.25mol%のY、0〜35.5mol%のGd、57.5〜67.5mol%のFe及び0.25〜1.7mol%のSiOからなり、且つ可溶性イオンが5ppm以下であることを特徴とする、ガーネット型の結晶構造を有するフェライト磁性粉体が、120℃における体積固有抵抗が5×10Ωm以上であり、且つ25℃における体積固有抵抗が3×10Ωm以上であり、半導体封止剤に使用したときの電磁波吸収性能と信頼性を兼ね備えたフェライト材料となることを見出した。更に該フェライト磁性粉体を球状にすることにより高充填が実現され、その平均粒径が5〜50μmの粒子群を少なくとも30vol%以上配合すると、このフェライトの有する優れた電磁波吸収機能が有効に発現されると共に、且つ近年の封止材に必要不可欠とされる信頼性の確保とともに、充填成分の高充填化を保ちながら、溶融時の低粘度化や硬化後の高強度化が可能となり、良好な成形性が得られることを見出し、本発明に到った。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るフェライト磁性粉体は、ガーネット型の結晶構造を有するフェライト磁性粉体であって、可溶性イオンが低減されており、しかも高い体積固有抵抗値を有するので、電磁波吸収効果が高く信頼性に優れ、半導体封止材用フェライト磁性粉体として好適である。
【0023】
本発明に係る半導体封止用樹脂組成物は、前記フェライト磁性粉体を用いるので信頼性が高く、しかも、優れた電磁波吸収効果を有するので、半導体封止用樹脂組成物として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
つぎに、本発明の実施の形態について詳しく説明する。
【0025】
本発明に係るガーネット型フェライト磁性粉体は組成が酸化物換算で5.5〜42.25mol%のY、0〜35.5mol%のGd、57.5〜67.5mol%のFe及び0.25〜1.7mol%のSiOからなる。
前記Y、Gd及びFeの組成比が前記範囲外の場合には、結晶構造がガーネット型を有するフェライト磁性粉体を得ることができない。好ましくは5.5〜40.0mol%のY、0〜35.5mol%のGd、57.5〜65.0mol%のFeである。
SiOを含有するとフェライト磁性粉体の体積固有抵抗が高くなる傾向にある。が、SiOの含有量が1.7mol%を超える場合、焼成時の粒子の成長が抑制され、細孔容積やBET法比表面積が増大する。そのため、フェライト磁性粉体の充填性が低下し、得られた樹脂組成物のμ”が低い傾向にあり、成形時の溶融粘度が高くなり、安定した成形が困難である。好ましくは0.3〜1.65mol%である。
【0026】
本発明に係るフェライト磁性粉体としては、120℃における体積固有抵抗が5×10Ωm以上が好ましく、より好ましくは1×10Ωm以上及び25℃における体積固有抵抗が3×10Ωm以上が好ましく、より好ましくは5×1010Ωm以上であることを特徴とする。半導体の動作温度領域である室温から120℃程度の範囲において信頼性を確保するためには、半導体封止材用フェライト磁性粉末として前記のように高抵抗であることが必要である。
【0027】
フェライト磁性粉体の形状が球状であれば、同一充填量の不定形フェライト磁性粉体を用いた場合と比較してその樹脂組成物の流動性が高いので、高充填が可能となり好都合である。フェライト磁性粉体以外のフィラーすなわちシリカ粒子の球状化と併せ、樹脂組成物のトランスファー成形時の流動性が向上し且つバリを減少させることができる。
【0028】
上記フェライト磁性粉体は、原材料の段階で水洗すること、及び/又は、球状に焼結させた後、十分水洗することにより、可溶性イオンを5ppm以下に、好ましくは1ppm以下に低減することができる。可溶性イオンの低減は、半導体封止時の信頼性を更に向上させることができる。これまで、水洗によって可溶性イオンを低減したフェライト磁性粉体はなかった。
【0029】
本発明に係るフェライト磁性粉体の平均粒径は5〜50μmが好ましく、より好ましくは7〜34μmであって、63μmを超える粒子が実質上無いことが特に好ましい。
【0030】
本発明に係るフェライト磁性粉末は、水銀圧入法による細孔容積が0.2l/kg以下であることが好ましい。又は、BET法比表面積が0.02〜0.1m/gであることが好ましい。上記細孔容積及び/又は比表面積を有する球状フェライト粒子は、焼結が進み粒子の表面性が滑らかになっているので、封止する際の樹脂の流動性が向上する。更に水洗によって可溶性イオンを5ppm以下に洗い流すことが容易となる。
【0031】
本発明に係るフェライト磁性粉末の飽和磁化値σsは9〜30Am/kgが好ましく、保磁力は250A/m以下が好ましい。
【0032】
次に、本発明に係るフェライト磁性粉体の製造法について述べる。
【0033】
本発明のフェライト磁性粉体は、以下の様にして製造することができる。
即ち、酸化鉄粉末等の原料を均一に混合し、仮焼成した後、さらに粉砕して得られた粉体に水等を加えてスラリー化し、噴霧造粒・乾燥を経て、ガーネット型フェライトを含む球状造粒粉末を得る。これをさらに高温で本焼成することにより、球状に焼結したガーネット型フェライト磁性粉末が得られる。
【0034】
以下、詳細に述べる。所定の組成になる様にFe、Y3、Gd等の各種原料粉体を秤量して、湿式アトライターなどの湿式粉砕機で10分〜3時間微粉砕・混合した後、ろ過、乾燥する。得られた混合原料粉末を大気中、700〜1300℃の温度で10分〜10時間仮焼成する。得られた仮焼成物を乾式振動ミルなどの乾式粉砕機で10分〜10時間粉砕することにより、ガーネット型フェライトを含む粒子が得られる。SiOは、上記原料の混合時及び/又は仮焼成物の粉砕時に添加することができる。
【0035】
上記ガーネット型フェライトを含む粒子をスラリー濃度50〜90重量%、好ましくは50〜80重量%で噴霧造粒・乾燥を行う。50重量%未満では細孔容積が大きくなる傾向があり、また90重量%を超えると、スラリー粘度が高くなるため、球形の形状の確保が困難となり、また粒度分布の調整が困難となる。
【0036】
得られた球状の造粒粒子を大気中、1100℃〜1500℃の温度で、10分〜10時間本焼成を行う。1100℃未満ではフェライト化が不十分であり、1500℃を超えると、粒子同士の焼結が進むために粒子形状を球状に維持できなくなり好ましくない。
【0037】
得られた球状焼成粒子粉体を、例えばロールクラッシャーによる解砕後、振動篩による分級操作をすることによって、所定の粒度を持つフェライト磁性粉体を得ることができる。
【0038】
本発明においては、原料粉末の段階で水洗すること、及び/又は、球状に焼結させた後、十分水洗することにより、可溶性イオンを5ppm以下に低減することができる。
【0039】
次に、本発明に係る半導体封止用樹脂組成物について述べる。
【0040】
本発明に係る半導体封止用樹脂組成物は本発明に係るフェライト磁性粉体を配合することを最大の特徴とし、例えば、エポキシ樹脂と、フェノール樹脂系硬化剤と、さらに硬化促進剤およびシリカ粉末を配合して得られる樹脂組成物である。
【0041】
本発明に係るエポキシ樹脂としては、常温(25℃)で固形を示すものであれば特に限定するものではなく従来公知のもの、例えば、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0042】
本発明に係るフェノール樹脂系硬化剤は、上記エポキシ樹脂の硬化剤としての作用を奏するものであり、常温(25℃)で固形を示すものであれば特に限定するものではなく従来公知のもの、例えば、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ビスフェノールA型ノボラック、ナフトールノボラック、フェノールアラルキル樹脂等があげられる。これらは単独もしくは2種以上併せて用いられる。
【0043】
本発明に係るエポキシ樹脂とフェノール樹脂系硬化剤との配合割合は、エポキシ樹脂中のエポキシ基1当量に対してフェノール樹脂中の水酸基当量を0.5〜1.6の範囲に設定することが好ましい。より好ましくは0.8〜1.2の範囲に設定することである。
【0044】
本発明に係る硬化促進剤としては、特に限定するものではなく従来公知のもの、例えば、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、トリエチレンジアミン等の3級アミン類、2−メチルイミダゾール等のイミダゾール類、トリフェニルホスフィン、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート等のリン系硬化促進剤等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0045】
本発明に係る硬化促進剤の含有量は、通常、上記フェノール樹脂系硬化剤100重量部(以下「部」と略す)に対して0.5〜10部の間に設定される。
【0046】
本発明に係るフェライト磁性粉体の配合割合は、特に限定されないが、電磁波遮蔽効果を高めるためには、樹脂組成物硬化体の複素透磁率の虚数部μ″(磁気損失)が大きいことが必要であり、そのためには上記フェライト磁性粉体の配合割合は、樹脂組成物全体の30vol%以上、好ましくは35vol%以上である。上限は一般に80vol%程度である。一般に上限は樹脂の流動性が確保される範囲である。上限を超えると流動性が低下し、加工が困難となる。
【0047】
本発明に係るフェライト磁性粉体は、単独で用いられても良いが、従来から半導体封止用として用いられているシリカ粒子を併用することができ、シリカ粒子を併用することによって成形バリを低減することができる。
【0048】
前記シリカ粉末としては、球状溶融シリカ粉末、摩砕処理シリカ粉末、破砕状シリカ粉末等が用いられる。特に、球状溶融シリカ粉末を用いることにより、半導体封止用樹脂組成物の溶融粘度を低減する効果が高くなり好ましい。シリカ粉末の平均粒子径が1〜40μmであって最大粒子径が200μm以下、好ましくは100μm以下、より好ましくは63μm以下のものが好適に用いられる。
【0049】
フェライト磁性粉体とシリカ粒子との割合は特に限定されないが、電磁波吸収効果を高めるためには、フェライト磁性粉体が多い程好ましいので、好ましくは、全充填粒子中のフェライト磁性粉体を50vol%以上とし、シリカ粒子を50vol%以下とする。フェライト磁性粉体とシリカ粒子の合計体積は、全樹脂組成物中で、30vol%以上80vol%以下とする。
【0050】
本発明に係る半導体封止用樹脂組成物は、例えば次の様にして製造することができる。すなわち、エポキシ樹脂、フェノール樹脂系硬化剤、硬化促進剤、フェライト磁性粉体、更に必要に応じてシリカ粉末等の無機質充填材、低応力化材、顔料、離型剤、カップリング剤及び難燃剤等の添加剤を所定量配合する。次いで、熱ロールやエクストルーダー、ニーダー等を用いて、例えば95℃〜100℃の温度下で十分に溶融混練分散する。そしてこの混合物を冷却粉砕し、10メッシュの篩を通過させることにより、半導体封止用樹脂組成物を製造することができる。必要に応じてタブレット状に圧縮成形することが可能である。
【0051】
本発明に係る半導体封止用樹脂組成物の磁気損失μ″は0.8以上であるので、半導体装置が有する半導体素子を例えばトランスファー成形法によって封止することにより、半導体素子を外部との物理的接触から保護するだけでなく、該半導体素子が発生する電磁波を吸収すると共に、外部からの電磁波を吸収・遮蔽する用途に用いることができる。磁気損失μ″が0.8未満では十分な電磁波吸収効果が期待できない。
【0052】
本発明に係る半導体封止用樹脂組成物はトランスファー成形法に用いるため、175℃における溶融粘度は100〜500dPa・sであり、より好ましくは130〜450dPa・sである。175℃における溶融粘度が500dPa・sより大きいと流動性が不足するためにトランスファー成形できなくなり、100dPa・sよりも小さいと樹脂バリが長くなるので、量産に適さない。
【実施例】
【0053】
まず、実施例、比較例における測定方法を以下にまとめる。
【0054】
〔平均粒径の測定〕
平均粒径はレーザー回折式粒度分布装置(SYMPATEC社製、HELOS&RODOS)を用いて乾式法で測定した。体積基準の粒径であり、平均粒径には50%径を用いている。分散空気圧は3mBarに設定し、分散時間は1.5から4秒、透過率は2から50%の範囲で再現性の良い条件で測定した。
【0055】
〔粒子形態の観察〕
走査型電子顕微鏡(日立製作所製、S−800)を用いて、粒子形態を観察した。
【0056】
〔結晶相の同定〕
結晶構造の同定には、X線回折装置RINT2500(理学電機(株)製)を用いた。
【0057】
〔BET法比表面積と細孔容積の測定〕
窒素吸着法によりBET法比表面積を、水銀圧入式オートポア922(島津製作所製)によって細孔容積をそれぞれ測定した。
【0058】
〔可溶性イオンの測定〕
テフロン(登録商標)製圧力容器を用い、試験検体5gに純水5gを加え、密閉後121℃で20時間抽出して、冷却後抽出液をイオンクロマトグラフ(日本ダイオネクス社製、DX−500およびDX−AQ)を用いて各イオン種の濃度を測定し溶出量に換算した。
【0059】
〔体積固有抵抗の測定〕
体積固有抵抗の測定は以下の方法で実施した。金型を用いてフェライト磁性粉体を直径25mm、厚み2〜2.5mmの円盤状に1トン/cmの圧力で成形した後、これを本焼成して得られるフェライト焼結体の両面に、銀ペーストを塗布し、600℃で焼き付けた。超高抵抗/微少電流計(アドバンテスト製、R8340A)を用いて、印加電圧500Vで該焼結体の電気抵抗値を測定し、該焼結体の直径と厚さから次式のようにして体積固有抵抗を算出した。

体積固有抵抗(Ωm) = 電気抵抗値(Ω)×試料面積(cm)/試料厚み(cm)×10−2

【0060】
〔磁気測定〕
VSM(Vibrating Sample Magnetometer、振動試料型磁力計VSM−3S、東英工業(株)製)で磁気測定を行った。最大外部磁場は796kA/m(10kOe)、保磁力Hc測定時のスキャンスピードには3.98kA/m/min(50Oe/min)を用いた。
【0061】
〔半導体封止用樹脂組成物の信頼性試験〕
信頼性試験は以下の方法で実施した。半導体封止用樹脂組成物で10mm×10mm×厚さ0.5mmの成形体を作り、該表面に、太さ25μmのアルミニウム線を2本並べ、100μmの間隔を維持して上記成形体表面に接触させる。2本のアルミニウム線には直流30Vのバイアス電圧を負荷し、相対湿度85%、温度120℃の圧力容器の中で30時間試験を行った。電気抵抗が急激に低下したり、アルミニウム線の腐食など外観の異常を観察した。
図1に示す回路において、
1.抵抗測定:30時間、環境試験後に供試体を常温に戻し抵抗測定を行う。
・抵抗測定は、AA’&BB’は電気テスターHIOKI CE3030−10型で行う。
・AB&A’B’は超高抵抗/微少電流計アドバンテストR8340A型を用いて500V印加し、その時の電流値から抵抗値を算出する。
2.アルミニウム線と樹脂の状態観察
・抵抗測定を行った後、樹脂層を剥がし、アルミニウム線との接触面を光学顕微鏡(倍率1000)で観察する。
回路の抵抗の測定結果とアルミニウム線と樹脂の状態の観察から、表1に示す4段階の判定で評価した。
【0062】
【表1】

【0063】
〔複素透磁率の測定〕
複素透磁率測定用成形体を次の様にして作成した。粒状の半導体封止用樹脂組成物を、成形圧力6.68MPa、金型温度175℃、2分の条件で直径35mmのタブレット状に成形し、更に175℃×5時間の条件で硬化させた。この成形体を超音波カッターにより、外形7mm、内径3mm、厚さ2mmのドーナッツ状の試験片に切り出した。本試験片の複素透磁率を同軸管試験法で、ネットワークアナライザー(ヒューレットパッカード社製、8720D)により、周波数1GHzで測定した。
【0064】
〔溶融粘度の測定〕
樹脂組成物の粘度は、高化式フローテスター(島津製作所製、CFT500型)を用いて175℃の溶融粘度を測定した。
【0065】
〔バリの測定〕
図2に概略を示すように、樹脂バリ評価用の金型を用い、キャビティから漏れた樹脂のバリの長さをノギスで測定した。バリが発生する部分のクリアランスは5〜20μmである。
【0066】
以下、実施例に従い、本発明の態様を説明する。
【0067】
実施例1について説明する。
原料粉末のYを38.0mol%、Feを61.7mol%、SiOを0.3mol%の組成A(表2)になるように秤量して、水を加え、混合して30重量%濃度スラリーとし、湿式アトライターで1時間微粉砕・混合した後、ろ過、乾燥する。得られた混合原料粉末を大気中、1100℃の温度で3時間 仮焼成する。得られた仮焼成物を乾式振動ミルで3時間粉砕することにより、ガーネット型フェライトを含む仮焼粒子を得た。ガーネット型フェライトを含む仮焼粒子をスラリー濃度70重量%で噴霧造粒・乾燥を行った。得られた球状の造粒粒子を大気中、1400℃の温度で2時間、本焼成を行った。本焼成した粉体は、ロールクラッシャーで解砕し、振動篩で45μm以上の粗粉を分級除去した。さらに粉体の重量の30倍のイオン交換水を用いて30分洗浄した後、120℃で5時間乾燥した。
得られた球状フェライト磁性粉体は、X線回折でガーネット型結晶構造を持つことが同定され、平均粒径27μm、細孔容積0.04l/kg、BET法比表面積0.04m/g、可溶性イオンは検出限界以下、25℃の体積固有抵抗は2×1012Ωm、120℃の体積固有抵抗は3×10Ωm、飽和磁化は27.9Am/kg、保磁力は159A/mであった。
【0068】
表2にAからDの原料組成を示す。原料組成、本焼成後の水洗におけるイオン交換水による希釈倍率とを種々変化させた以外は、実施例1の製造条件で行った。得られた粉体の結晶構造、平均粒径、細孔容積、BET法比表面積、可溶性イオン分析、体積固有抵抗、及びVSM法による磁気特性を測定した。
【0069】
【表2】

【0070】
表3に実施例1〜3と比較例1〜2について製造条件と得られたフェライト磁性粉体の特性をまとめる。いずれもX線回折でガーネット結晶構造を持つ事が確認された。また、いずれの粒子も表面に結晶成長による粒界が認められるが、粒子全体としては球状を呈していることを電子顕微鏡で確認した。
【0071】
【表3】

【0072】
〔半導体封止用樹脂組成物の作製〕
シリカ粒子は、球状シリカ粉末(溶融シリカ、平均粒径10.0μm)100部に対してγ―グリシドキシプロピリトリメトキシシラン0.2部をヘンシェルミキサーにて、予め常法で混合処理して用いた。フェライト磁性粉体は、粉体100部に対してγ―グリシドキシプロピリトリメトキシシラン0.3部をヘンシェルミキサーにて、予め常法で混合処理して用いた。表2の実施例1〜3及び比較例1〜2のフェライト磁性粉体を用い、表3に示す割合でフェライト磁性粉体とシリカ粒子を配合し、球状シリカ粉末とフェライト磁性粉体を合わせたフィラー全体に対して、0.8vol%のポリエチレンワックスを加え、さらに配合の残りの体積分に合うように下記の樹脂組成の割合で樹脂成分を追加して、ヘンシェルミキサーにて混合処理し、半導体封止用樹脂組成物用混合物を得た。該混合物を温度95〜110℃に加熱した熱ロールで3分間溶融混合して冷却した後、10メッシュの篩を通過した粉末状の半導体封止用樹脂組成物を作製した。フェライト磁性粉体の密度を5.1×10−3kg/m(5.1g/cm)、シリカ粒子の密度を2.2×10−3kg/m、ポリエチレンワックスの密度を0.95×10−3kg/m、下記樹脂組成の密度を1.1×10−3kg/mとして計算する。

樹脂組成
ビフェニル型エポキシ樹脂(軟化点105℃、エポキシ当量192) 100部
フェノールアラルキル樹脂(軟化点60℃、水酸基当量169) 70部
臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(軟化点77℃、水酸基当量465) 8部
三酸化アンチモン 3部
カーボンブラック 0.5部
【0073】
表4は半導体封止用樹脂組成物の実施例及び比較例を示す。実施例4は、表3の実施例1の球状ガーネット型フェライト磁性粉体を40vol%、平均粒径10μmの球状シリカを21vol%配合し、樹脂組成物の磁気特性μ″、溶融粘度、成形バリ、及び信頼性試験を行った結果を示している。
【0074】
【表4】

【0075】
実施例4〜6はいずれも溶融粘度が450dPa・S以下で、成形バリは目標とする2mm以下を達成した。更に、樹脂組成物としての1GHzでのμ″は目標とする0.8以上であった。信頼性試験も良好な結果が得られた。
【0076】
比較例3は比較例1のフェライト磁性粉体を使用した樹脂組成物の例で、フェライト磁性粉体へのSiOの添加量が多過ぎるため、焼成時の粒子の成長が抑制され、細孔容積やBET法比表面積が大きくなっているので、フェライト磁性粉体の充填性が低くなり、得られた樹脂組成物のμ”が低い傾向にあり、しかも成形時の溶融粘度が高くなるので、安定した成形が困難であった。
【0077】
比較例4は、比較例2のフェライト磁性粉体を使用した樹脂組成物の例で、フェライト磁性粉体の水洗が不十分であるために可溶性イオンが5ppmを超えて含まれるので、信頼性試験ではアルミニウム線の腐食が進んでいた。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】半導体封止用樹脂組成物信頼性試験の回路略図
【図2】成形バリ測定概略図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成が酸化物換算で5.5〜42.25mol%のY、0〜35.5mol%のGd、57.5〜67.5mol%のFe及び0.25〜1.7mol%のSiOからなり、且つ可溶性イオンが5ppm以下であることを特徴とする、ガーネット型の結晶構造を有するフェライト磁性粉体。
【請求項2】
120℃における体積固有抵抗が5×10Ωm(5×10Ωcm)以上及び25℃における体積固有抵抗が3×10Ωm(3×1011Ωcm)以上であることを特徴とする請求項1に記載のフェライト磁性粉体。
【請求項3】
形状が球状であることを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載のフェライト磁性粉体。
【請求項4】
平均粒子径が5〜50μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のフェライト磁性粉体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のフェライト磁性粉体を体積基準で、少なくとも30vol%以上含むことを特徴とする半導体封止用樹脂組成物。
【請求項6】
シリカ粒子を含むことを特徴とする請求項5に記載の半導体封止用樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−332294(P2006−332294A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−153172(P2005−153172)
【出願日】平成17年5月25日(2005.5.25)
【出願人】(000166443)戸田工業株式会社 (406)
【Fターム(参考)】