説明

キャブおよび作業機械

【課題】キャブ内オペレータの視界を向上させることができるキャブを提供する。
【解決手段】骨格柱体31の前側ピラー部51の前面から天板支持枠部53の上面にわたってV形溝部62を設ける。左右1対の骨格柱体31における前側ピラー部51の上部間に、キャブ天板34の前部下面に沿ってガラス取付板71を固定する。このガラス取付板71には、前側ピラー部51の上部におけるV形溝部62内に嵌着した斜面ガラス取付部72と、キャブ天板34の下面に密着固定した前面ガラス取付部73とを、折線部74を介して形成する。前面ガラス取付部73に前面ガラス35の上部を接着材などにより固着し、斜面ガラス取付部72から前側ピラー部51のV形溝部62にわたって斜面ガラス36の上部および一側部を接着材などにより固着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前面側に斜面ガラスを有するキャブおよびそのキャブを用いた作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
図6に示されるように、ホイールローダ1は、後部車輪2を有する後部車両3に対し、前部車輪4を有する前部車両5が、アーティキュレート軸(図示せず)を支点に、左右方向揺動自在に連結され、後部車両3と前部車両5との間に設けられたアーティキュレート用シリンダ(図示せず)により屈曲作動される。
【0003】
後部車両3上には、オペレータの運転席を囲むようにキャブ6が設置され、前部車両5にはバケット作業などに用いる作業装置7が設置されている。
【0004】
この種のアーティキュレート構造のホイールローダ1のキャブ6は、図6に示されるように前部車両5の屈曲動作に対応する斜面ガラス8を、前面ガラス9の左右両側部に用いている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、キャブの前面ガラスにおける正面部に対して、左右部を彎曲または傾斜させるようにしたものもある(例えば、特許文献2,3参照)。
【0006】
図7に示されるように、前面ガラス9に対して左右両側の斜面ガラス8を別体に形成して一体化させる場合は、一般的には、キャブ左右のフロントピラー11間にガラス取付枠12が固定されている。
【0007】
このガラス取付枠12は、キャブ屋根板13の下側に配線スペース14を介して配置された前面ガラス取付部15に対し、左右部のフロントピラー11に沿って固定された斜面ガラス取付部16が、折曲部17を介して一体成形されたもので、前面ガラス取付部15に前記前面ガラス9の上部が接着され、斜面ガラス取付部16に前記斜面ガラス8の上部および一側部が接着され、折曲部17の延長上に位置する斜面ガラス8と前面ガラス9の隣接部は、接着材により接着されている。
【特許文献1】実開平3−2813号マイクロフィルム(第3−4頁、第1−3図)
【特許文献2】特開2004−291695号公報(第3頁、図1−4)
【特許文献3】特開2006−36002号公報(第4頁、図1−4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この図7に示されたキャブ構造では、フロントピラー11に固定された斜面ガラス取付部16によって、キャブ内オペレータの斜め前方視界が妨げられ、また、キャブ屋根板13より配線スペース14の分だけ下側に位置する前面ガラス取付部15によって、上方視界が妨げられる問題がある。
【0009】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、キャブ内オペレータの視界を向上させることができるキャブおよびそのキャブを用いた作業機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載された発明は、キャブ前側に位置する前側ピラー部の上部から後方へキャブ天板を支持する天板支持枠部が連続形成され、前側ピラー部の前面から天板支持枠部の上面にわたってガラス取付凹部が設けられた1対の骨格柱体と、これらの骨格柱体における前側ピラー部の上部間にキャブ天板に沿って固定されたガラス取付板とを備え、このガラス取付板は、前側ピラー部の上部におけるガラス取付凹部内に嵌着された斜面ガラス取付部を備え、この斜面ガラス取付部から前側ピラー部のガラス取付凹部にわたって斜面ガラスが固着されたキャブである。
【0011】
請求項2に記載された発明は、請求項1記載のキャブにおけるガラス取付板が、キャブ天板の下面に密着固定された前面ガラス取付部を備え、この前面ガラス取付部に前面ガラスの上部が固着されたものである。
【0012】
請求項3に記載された発明は、請求項1または2記載のキャブにおいて、骨格柱体の天板支持枠部の内側に沿って配設された電気配線用の配線案内部材を具備したものである。
【0013】
請求項4に記載された発明は、機体と、この機体に搭載された請求項1乃至3のいずれか記載のキャブと、このキャブの前方にて機体に設置された作業装置とを具備した作業機械である。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載された発明によれば、骨格柱体の前側ピラー部の上部におけるガラス取付凹部内にガラス取付板の斜面ガラス取付部を嵌着し、この斜面ガラス取付部から前側ピラー部のガラス取付凹部にわたって斜面ガラスを固着したので、斜面ガラス取付部および前側ピラー部のガラス取付凹部により斜面ガラスを確実に固定でき、かつ、前側ピラー部のガラス取付凹部に斜面ガラスを直接固着した部分では、従来のガラス取付枠のような斜面ガラスの死角となる斜面ガラス取付部がないので、そのような部材およびその組立時間を削減できるとともに、斜面ガラスに対するキャブ内オペレータの斜め前方視界を向上させることができる。
【0015】
請求項2に記載された発明によれば、キャブ天板の下面に密着固定された前面ガラス取付部に前面ガラスの上部を固着したので、前面ガラスに対するキャブ内オペレータの上方視界を向上させることができる。
【0016】
請求項3に記載された発明によれば、前面ガラスにおける上方視界を拡大するためにキャブ天板の下面に前面ガラス取付部を固定しても、骨格柱体の天板支持枠部の内側に沿って配設された配線案内部材により、電気配線用の経路を確保できる。
【0017】
請求項4に記載された発明によれば、少なくとも斜面ガラスに対するキャブ内オペレータの斜め前方視界を向上させることで、機体に設置された作業装置による作業の作業性を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を、図1乃至図5に示された一実施の形態を参照しながら詳細に説明する。
【0019】
図2は、作業機械としてのホイールローダ21を示し、機体22と、この機体22に搭載されたキャブ23と、このキャブ23の前方にて機体22に設置されたバケット作業またはフォーク作業などに用いられる作業装置24とを備えている。
【0020】
機体22は、後部車輪25を有する後部車両26に対し、前部車輪27を有する前部車両28が、アーティキュレート軸(図示せず)を支点に、左右方向揺動自在に連結され、後部車両26と前部車両28との間に設けられたアーティキュレート用シリンダ(図示せず)により屈曲作動される構造である。
【0021】
キャブ23は、後部車両26上にてオペレータの運転席を囲むように設置され、キャブ左側および右側においてキャブ前側から後方へ略逆L形に設けられたそれぞれの骨格柱体31と、これらの骨格柱体31の後端に一体化された門形の中央柱体32と、この中央柱体32の後部に一体化された後部枠体33とを備えたフレーム構造を有し、これらのフレーム構造により支持されたキャブ天板34を備えている。
【0022】
キャブ23の前部空間には、前面ガラス35と、この前面ガラス35の左右両側部に接着された斜面ガラス36とが設けられ、また、骨格柱体31と中央柱体32との間のキャブ側面空間には、ドア37が後部のヒンジ(図示せず)を支点に開閉自在に設けられ、後部ボディ38と中央柱体32と後部枠体33との間のキャブ後部空間には、後部ガラス39が設けられている。
【0023】
作業装置24は、前部車両28に設置されたもので、前部車両28と一体に設けられた1対のアーム取付ブラケット41にそれぞれリフトアーム42の基端が回動自在に軸支され、これらのリフトアーム42の先端に連結装置(いわゆるクイックカプラ)43が回動自在に軸支され、この連結装置43を介して各種バケットまたはフォークなどのアタッチメント(図示せず)などがワンタッチで連結される。
【0024】
作業装置24は、各アーム取付ブラケット41と各リフトアーム42との間にそれぞれ軸連結されたリフトシリンダ44によりリフトアーム42が昇降され、また、前部車両28上に軸支されたチルトシリンダ45により、1対のリフトアーム42間に軸支されたチルトレバー46と、このチルトレバー46の下端に回動自在に軸連結されたロッド47を介して、連結装置43およびバケットなどのアタッチメントがチルト回動される。
【0025】
各々の骨格柱体31は、図3および図4に示されるように、角形断面の異形チューブにより成形され、図1および図5に示されるように、キャブ前側に位置する前側ピラー部51と、この前側ピラー部51の上部から後方へ連続的に彎曲形成された円弧状部52と、この円弧状部52に連続形成されてキャブ天板34を支持する天板支持枠部53とを備えている。
【0026】
図3に示されるように、ドア37は、角形チューブ状のドア枠体54に取付板55を介してサッシ枠56がボルト/ナットなどで取付けられ、このサッシ枠56にドア窓57が上下方向スライド可能に取付けられている。サッシ枠56およびドア窓57に替えて、ドア枠体54の取付板55にドアガラスを直接、接着しても良い。
【0027】
ドア枠体54のキャブ内面側にはゴムなどの弾力性材で成形されたシール部材58が接着されている。このシール部材58は、小舌片部58aと大舌片部58bとが溝部58cを介して拡大変形し易く形成されている。
【0028】
図3に示されるように、骨格柱体31は、異形チューブの全長にわたってチューブ後面側の外側角部に、ドア枠体54と嵌合するL形溝状の凹部61が形成され、また、異形チューブの全長にわたってチューブ前面側にガラス取付凹部としてのV形溝部62が形成されている。すなわち、図3および図4に示されるように、凹部61は、前側ピラー部51の後面側から天板支持枠部53の下面側にわたって連続的に設けられ、またV形溝部62は、前側ピラー部51の前面側から天板支持枠部53の上面側にわたって連続的に設けられている。
【0029】
図3に示されるように、骨格柱体31のV形溝部62内に、キャブ前面左右側部に位置する斜面ガラス36の端辺部が接着材63により接着され、また、異形チューブの全長にわたってV形溝部62に隣接するチューブ前面側からチューブ外面側にかけて円弧状断面の円弧状凸面部64が膨出形成されている。
【0030】
骨格柱体31の断面形状は、V形溝部62が、骨格柱体31のチューブ内側かつ前側のアール加工部R1と連続的に形成され、このアール加工部R1を始点に7つのアール加工部R1,R2,R3,R4,R5,R6,R7が形成されている。
【0031】
さらに、凹部61は、アール加工部R4,R5間の平面部65と、アール加工部R5,R6間の平面部66とにより、凹角状に形成され、平面部66と対向するドア枠体54の対向面にシール部材58が接着され、これらのドア枠体54およびシール部材58が、ドア閉じ状態で凹部61内に嵌入されると、シール部材58は、凹部61の平面部66からアール加工部R6にわたって密着されるように構成されている。
【0032】
図1に示されるように、骨格柱体31の前側ピラー部51の前面から天板支持枠部53の上面にわたってV形溝部62が設けられ、このV形溝部62に沿うようにキャブ天板34の左右一部が成形および折曲されて天板折曲部34aが設けられている。
【0033】
左右1対の骨格柱体31における前側ピラー部51の上部間に、キャブ天板34の前部下面に沿ってガラス取付板71が溶接またはネジ止めなどにより固定されている。このガラス取付板71の左右両端部は、左右両側の前側ピラー部51の上部におけるV形溝部62に嵌着されるようにして天板折曲部34aに固定されている。
【0034】
ガラス取付板71には、前側ピラー部51の上部におけるV形溝部62内に嵌着された斜面ガラス取付部72と、キャブ天板34の下面に密着固定された前面ガラス取付部73とが折線部74を介して形成され、前面ガラス取付部73に前面ガラス35の上部が接着材により固着され、斜面ガラス取付部72から前側ピラー部51のV形溝部62にわたって斜面ガラス36の上部および一側部が、図3に示されるように接着材63により固着されている。
【0035】
ガラス取付板71の斜面ガラス取付部72の上部には、作業灯、警告灯などを取付けるための取付穴75が穿設され、使用しない取付穴75は栓部材76により塞がれている。前側ピラー部51の外側面にはハンドレール77が溶接付けにより固着されている。
【0036】
図5に示されるように、骨格柱体31の天板支持枠部53および後部枠体33の内側に沿って、電気配線用の配線案内部材78,79が配設され、電気配線81は、この配線案内部材78,79内を経て、またガラス取付板71の裏側に沿って、また中央柱体32および後部枠体33に沿って配設されている。配線案内部材78,79は、図4に示されるようにダクト状またはカバー状に形成されている。なお、図5に示されるように、後部ガラス39の背面には、後部ワイパ82が設置されている。
【0037】
次に、この実施の形態の作用効果を説明する。
【0038】
キャブ内オペレータの前方視界は、前面ガラス35および斜面ガラス36を通して確保し、後方視界は、後部ガラス39を通して確保する。
【0039】
ドア37を閉めると、図3に示されるように、そのドア枠体54およびシール部材58が凹部61内に嵌入し、シール部材58の小舌片部58aと大舌片部58bが骨格柱体31の凹部61内の平面部66に押圧されて拡大するように変形しながら密着し、シール性能を確保する。
【0040】
図1に示されるように、ガラス取付板71の前面ガラス取付部73に前面ガラス35の上部を接着材により固着するとともに、骨格柱体31の前側ピラー部51の上部におけるV形溝部62内にガラス取付板71の斜面ガラス取付部72を嵌着し、この斜面ガラス取付部72から前側ピラー部51のV形溝部62にわたって斜面ガラス36の上部および一側部を、図3に示されるように接着材63により固着する。前面ガラス35と斜面ガラス36の境界部も接着材で接続する。
【0041】
このようにしたので、斜面ガラス取付部72および前側ピラー部51のV形溝部62により斜面ガラス36を確実に固定でき、かつ、前側ピラー部51のV形溝部62に斜面ガラス36を直接固着した部分では、図7に示される従来のガラス取付枠12のような斜面ガラス8の死角となる斜面ガラス取付部16の大部分を削除できるので、そのようなガラス取付枠12の材料および組付時間を削減できるとともに、斜面ガラス36に対するキャブ内オペレータの斜め前方視界を向上させることができる。
【0042】
キャブ天板34の下面に密着固定された前面ガラス取付部73に前面ガラス35の上部を固着したので、この前面ガラス35に対するキャブ内オペレータの上方視界を向上させることができる。すなわち、従来は、図7に示されるようにキャブ屋根板13の下側に配線スペース14を介してガラス取付枠12の前面ガラス取付部15が配置されたので、配線スペース14および前面ガラス取付部15が上方視界の死角となるが、図1に示された実施の形態では、前面ガラス取付部73のみが上方視界の死角となるので、上方視界を拡大させることができる。
【0043】
このように前面ガラス35における上方視界を拡大するためにキャブ天板34の下面に前面ガラス取付部73を密着固定しても、図5に示されるように斜面ガラス取付部72の裏側で、骨格柱体31の天板支持枠部53の内側に沿って配線案内部材78を配設したので、電気配線用の経路を確保できる。
【0044】
このようにして、前面ガラス35に対するキャブ内オペレータの上方視界および斜面ガラス36に対するキャブ内オペレータの斜め前方視界を向上させることで、機体22の前部車両28に設置された作業装置24によるバケット作業またはフォーク作業などの作業性を向上できる。
【0045】
本発明は、ホイールローダ、油圧ショベル、ブルドーザなどのキャブおよび作業機械に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係るキャブの一実施の形態を示す正面側からの要部斜視図である。
【図2】本発明に係る作業機械の一実施の形態を示す斜視図である。
【図3】同上キャブの骨格柱体およびドア枠体における水平断面図である。
【図4】同上キャブのキャブ天板および骨格柱体の天板支持枠部における垂直断面図である。
【図5】同上キャブの後部斜視図である。
【図6】従来の作業機械を示す斜視図である。
【図7】従来のキャブの一部を示す正面図である。
【符号の説明】
【0047】
21 作業機械としてのホイールローダ
22 機体
23 キャブ
24 作業装置
31 骨格柱体
34 キャブ天板
35 前面ガラス
36 斜面ガラス
51 前側ピラー部
53 天板支持枠部
62 ガラス取付凹部としてのV形溝部
71 ガラス取付板
72 斜面ガラス取付部
73 前面ガラス取付部
78 配線案内部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャブ前側に位置する前側ピラー部の上部から後方へキャブ天板を支持する天板支持枠部が連続形成され、前側ピラー部の前面から天板支持枠部の上面にわたってガラス取付凹部が設けられた1対の骨格柱体と、
これらの骨格柱体における前側ピラー部の上部間にキャブ天板に沿って固定されたガラス取付板とを備え、
このガラス取付板は、前側ピラー部の上部におけるガラス取付凹部内に嵌着された斜面ガラス取付部を備え、
この斜面ガラス取付部から前側ピラー部のガラス取付凹部にわたって斜面ガラスが固着された
ことを特徴とするキャブ。
【請求項2】
ガラス取付板は、キャブ天板の下面に密着固定された前面ガラス取付部を備え、
この前面ガラス取付部に前面ガラスの上部が固着された
ことを特徴とする請求項1記載のキャブ。
【請求項3】
骨格柱体の天板支持枠部の内側に沿って配設された電気配線用の配線案内部材
を具備したことを特徴とする請求項1または2記載のキャブ。
【請求項4】
機体と、
この機体に搭載された請求項1乃至3のいずれか記載のキャブと、
このキャブの前方にて機体に設置された作業装置と
を具備したことを特徴とする作業機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−195347(P2008−195347A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−35290(P2007−35290)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(000190297)新キャタピラー三菱株式会社 (1,189)
【Fターム(参考)】