説明

クラッチ断接機構

【課題】電気式アクチュエータによりカム体を回動させることによりクラッチを断接する機構において、クラッチの遊び音を低減させながらも電気式アクチュエータの消費電力を低減できるクラッチ断接機構を提供する。
【解決手段】変速段用の歯車列を複数有する変速機構(24a、24b)と、前記変速段用の歯車列に連結されるクラッチ(12a、12b)と、前記クラッチを断接するカム体(104a、104b)と、前記カム体を回動させる電気式アクチュエータ(107a、107b)とを備え、クラッチ切断状態にあるクラッチ(12a、12b)にクラッチ接続側への微少移動を行わせクラッチ切断状態をクラッチ接続準備状態にする機能を備えたクラッチ断接機構において、前記カム体(104a、104b)の前記クラッチ接続準備状態に対応したカム位相に前記クラッチ(12a、12b)からの回転反力を受けない領域Cを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気式アクチュエータによりカム体を回動させることによりクラッチを断接するクラッチ断接機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、クラッチ装置において、クラッチの遊び音低減のため、通常運転時(車両電源オン時)に切断状態にあるクラッチにクラッチ接続側への微少油圧を供給し、クラッチをクラッチ接続側に微少量移動させ、クラッチ接続準備状態としたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、構造をコンパクトにしたクラッチ装置として、同軸上にカム体を設け、モータにより当該カム体を回動させてクラッチを断接する機構が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−079616号公報
【特許文献2】特開2007−177907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前者の構造思想を単純に後者の構造に適用し、通常運転時(車両電源オン時)にクラッチ切断状態にあるクラッチにクラッチ接続側への微少移動を行わせ当該クラッチ切断状態を接続準備状態にしようとした場合は、クラッチ完全オフ状態(切断状態)とクラッチ完全オン状態(接続状態)以外の状態、つまりカム体からの動力が伝達されるクラッチ側部材と当該カム体の楕円曲線の一部が常に接している状態においては、モータがカム体を介しクラッチ側からの反力を常に受けるため、その分カム体を保持するための余分な電力が必要になるという課題が懸念される。
そこで、本発明の目的は、上述した従来の技術が有する課題を解消し、電気式アクチュエータによりカム体を回動させることによりクラッチを断接する機構において、クラッチの遊び音を低減させながらも電気式アクチュエータの消費電力を低減できるクラッチ断接機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、変速段用の歯車列を複数有する変速機構(24a、24b)と、前記変速段用の歯車列に連結されるクラッチ(12a、12b)と、前記クラッチを断接するカム体(104a、104b、204a、204b、304a、304b)と、前記カム体を回動させる電気式アクチュエータ(107a、107b)とを備え、クラッチ切断状態にあるクラッチ(12a、12b)にクラッチ接続側への微少移動を行わせクラッチ切断状態をクラッチ接続準備状態にする機能を備えたクラッチ断接機構において、前記カム体(104a、104b、204a、204b、304a、304b)の前記クラッチ接続準備状態に対応したカム位相に前記クラッチ(12a、12b)からの回転反力を受けない領域Cを設けたことを特徴とする。
当該発明では、カム体によりクラッチを断接するクラッチ機構においても、切断状態にあるクラッチにクラッチ接続側への微少移動を行わせて、クラッチ接続準備状態としたときに、カム体にクラッチからの回転反力が作用しないため、クラッチの遊び音を低減させながらクラッチアクチュエータの消費電力を低減できる。
【0006】
この場合において、前記クラッチ(12a、12b)からの回転反力を受けない領域はクラッチ完全オフ位置AからクラッチオンB方向と逆方向に前記カム体を所要回転させた位置Cであってもよい。
当該構成では、回転反力を受けない領域Cを、クラッチ完全オフ位置AからクラッチオンB方向と逆方向に前記カム体を所要回転させた位置Cとしたため、クラッチ完全オフ位置AからクラッチオンB方向に領域Cを設けた場合と比べ、発進や変速の際に容量移動が少なくなり、よりスムーズな変速が可能となる。
前記クラッチ(12a、12b)からの回転反力を受けない領域はクラッチ完全オフ位置AからクラッチオンB方向に前記カム体を所要回転させた位置Cであってもよい。
当該構成により、クラッチ完全オフ位置AからクラッチオンB方向にカム体を所要回転させた位置Cであっても、クラッチ接続状態においてクラッチからの回転反力を受けない構成とすることができる。
【0007】
前記クラッチ(12a、12b)からの回転反力を受けない領域はカム体回転中心と同心の真円であってもよい。
当該構成により、クラッチからの回転反力を受けない領域Cはカム体回転中心と同心の真円であるので、クラッチからの反力を受けないようにすることができ、その分余分な電力消費を低減できる。
前記クラッチからの回転反力を受けない領域はカム体回転中心と同心の真円と接する平面であってもよい。
当該構成により、クラッチからの回転反力を受けない領域Cはカム体回転中心と同心の真円と接する平面であるので、クラッチからの反力を受けないようにすることができ、その分余分な電力消費を低減できる。
前記カム体の前記真円もしくは前記平面が形成される径は前記クラッチオフ位置の径よりも大きくてもよい。
当該構成により、クラッチを微少移動させながら反力を受けない状態にできるので、アクチュエータの電力消費をより低減できる。
【0008】
前記カム体(104a、104b、204a、204b、304a、304b)はクラッチオフ位置Aからクラッチオン位置Bに向けて前記カム体の径が大きくなるように形成された螺旋状のカム体であり、前記真円もしくは前記平面Cは前記カム体の内周方向でクラッチオン位置Bの前記カム体の径よりも小さいとともに、クラッチオン位置Aのカム体の端部と、前記真円もしくは前記平面Cとで形成される段部Dに前記カム体の動力をクラッチ側に伝達するクラッチ側伝達部材(102a、102b)が配置されてもよい。
当該構成では、楕円状のカム体を利用する場合と比べて、クラッチオン状態のカム体104aの端部104Xと、真円もしくは平面Cとで形成される段部D(104X)がクラッチ側伝達部材のストッパとなるため、別部材を設けることなく、カム体104aが所定位置より回転し過ぎることを防止できる。
【0009】
前記クラッチ側伝達部材(102a、102b)は受動ピストン機構部(28)に管路(22a、22b)を介して連結されたマスタシリンダ(100a、100b)のピストンであり、前記マスタシリンダはリザーバタンク(20)に接続され、前記ピストンが後退するとき前記リザーバタンクと連通し、前記ピストンが進出するとき前記リザーバタンクと非連通になる構成としてもよい。
当該構成では、簡易な構成によりクラッチを微少移動させながら反力を受けない状態にできるとともに、電力消費を低減できる。
前記カム体(104a、104b、204a、204b、304a、304b)は個別に回転駆動され、前記管路(22a、22b)を両方とも前記リザーバタンクに連通可能としてもよい。
前記クラッチは入力軸(34)と変速機構(24a、24b)との間を断接し、前記入力軸に同軸に配設される第1クラッチ(12a)及び第2クラッチ(12b)からなる構成としてもよい。
当該構成により、ツインクラッチ装置においても、第1クラッチ(12a)及び第2クラッチ(12b)を接続準備状態に維持し、クラッチの遊び音を低減するとともに、アクチュエータの電力消費を低減しながら、変速機構(24a、24b)の変速切替をスムーズに行うことができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、カム体によりクラッチを断接するクラッチ機構においても、切断状態にあるクラッチにクラッチ接続側への微少移動を行わせて、クラッチ接続準備状態としたときに、カム体にクラッチからの回転反力が作用しないため、クラッチの遊び音低減と同時にアクチュエータの消費電力を低減できる。
また、当該構成では、回転反力を受けない領域を、クラッチ完全オフ位置からクラッチオン方向と逆方向に前記カム体を所要回転させた位置としたため、クラッチ完全オフ位置からクラッチオン方向に領域を設けた場合と比べ、発進や変速の際に容量移動が少なくなり、よりスムーズな変速が可能となる。
さらに、当該構成により、クラッチ完全オフ位置からクラッチオン方向にカム体を所要回転させた位置であっても、クラッチ接続状態においてクラッチからの回転反力を受けない構成とすることができる。
【0011】
当該構成により、クラッチからの回転反力を受けない領域はカム体回転中心と同心の真円であるので、クラッチからの反力を受けないようにすることができ、その分余分な電力消費を低減できる。
当該構成により、クラッチからの回転反力を受けない領域はカム体回転中心と同心の真円と接する平面であるので、クラッチからの反力を受けないようにすることができ、その分余分な電力消費を低減できる。
当該構成により、クラッチを微少移動させながら反力を受けない状態にできるので、アクチュエータの電力消費をより低減できる。
【0012】
当該構成では、楕円状のカム体を利用する場合と比べて、クラッチオン状態のカム体の端部と、真円もしくは平面とで形成される段部がクラッチ側伝達部材のストッパとなるため、別部材を設けることなく、カム体が所定位置より回転し過ぎることを防止できる。
当該構成では、簡易な構成によりクラッチを微少移動させながら反力を受けない状態にできるとともに、電力消費を低減できる。
当該構成により、ツインクラッチ装置においても、第1クラッチ及び第2クラッチを接続準備状態に維持し、クラッチの遊び音を低減するとともに、アクチュエータの電力消費を低減しながら、変速機構の変速切替がスムーズになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施の形態に係るクラッチ付き変速機の概略構成図である。
【図2】変速機本体の断面正面図である。
【図3】カム体の回転角度に対する排出量、圧力及びクラッチ接続容量の関係を示すグラフである。
【図4】排出量と圧力の関係を示すグラフである。
【図5】クラッチ付き変速機の制御手順を示すフローチャートである。
【図6】Aは本実施の形態におけるカム体のクラッチ完全オフ位置を、Bはカム体のクラッチ完全オン位置を、Cはクラッチ微少移動位置を、Dはカム体のリフト高さとカム位相の関係を示す図である。
【図7】Aは別の形態におけるカム体のクラッチ完全オフ位置を、Bはカム体のクラッチ完全オン位置を、Cはクラッチ微少移動位置を、Dはカム体のリフト高さとカム位相の関係を示す図である。
【図8】Aは別の形態におけるカム体のクラッチ完全オフ位置を、Bはカム体のクラッチ完全オン位置を、Cはクラッチ微少移動位置を、Dはカム体のリフト高さとカム位相の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明による一実施の形態を添付の図面を参照して説明する。
図1に示すように、本実施の形態に係るクラッチ付き変速機10は、いわゆるツインクラッチ式変速機であって、第1クラッチ12a及び第2クラッチ12bを備える変速機本体14と、第1クラッチ12a及び第2クラッチ12bを操作するパイロット操作装置16と、パイロット操作装置16に対して作動油(作動液)を補給するリザーバタンク20とを有する。リザーバタンク20は自動二輪車のブレーキ機構等に用いられる汎用品である。変速機本体14とパイロット操作装置16との間は作動油で満たされた第1管路22a及び第2管路22bとにより接続されている。
第1管路22a及び第2管路22bは可撓性のある高圧ホースであり、任意の経路設定が可能である。したがって、車両に搭載する場合のレイアウトの自由度が高い。クラッチ付き変速機10には油圧の循環系統がなく、循環系統用の油圧ポンプ、循環管路、ドレン管路、タンク及びフィルタ等が不要となっている。クラッチ付き変速機10は、例えば、自動二輪車に対して好適に適用される。
【0015】
変速機本体14は、第1変速機構24a、第2変速機構24bと、シフトフォーク駆動機構部25と、クラッチ機構部26と、受動ピストン機構部28とを有する。第1変速機構24a及び第2変速機構24bは、異なる複数の変速段に対応した機構であり、具体的には、第1変速機構24aが奇数段の1、3、5速に対応し、第2変速機構24bが偶数段の2、4、6速に対応する。第1変速機構24a及び第2変速機構24bは第1シャフト30a及び第2シャフト30bによってクラッチ機構部26と接続されている。第1シャフト30a及び第2シャフト30bは同軸のパイプ形状であって、第1シャフト30aが外周側に設定され、ベアリング32により軸支されている。第1シャフト30a又は第2シャフト30bの回転は、第1変速機構24a又は第2変速機構24bの変速作用によって出力軸である第3シャフト30cに伝達される。第3シャフト30cの一端には駆動輪に動力を伝達するスプロケット33が設けられている。
【0016】
シフトフォーク駆動機構部25は、シフトフォークf1、f2、f3及びf4と、これらのシフトフォークf1〜f4を軸方向に移動させるシフトドラム31とを有する。シフトフォークf1〜f4の一端部はシフトドラム31の表面に設けられた誘導孔に嵌合しており、シフトドラム31が所定のモータ(不図示)により回転することにより軸方向に移動する。シフトフォークf1、f2、f3及びf4の他端部は、第1変速機構24a及び第2変速機構24bにおける溝5c、3c、4c及び6cに嵌合している。図1はシフトフォーク駆動機構部25を理解し易いように展開図とし、シフトフォークf1〜f4が溝5c〜6cと嵌合する部分は図示を省略している。
【0017】
第1シャフト30aには、1速に対応したギア1a、3速に対応したギア3a、5速に対応したギア5aが設けられている。ギア1aは第1シャフト30aに一体に設けられ、ギア3aは第1シャフト30aに対してスプライン結合されている。ギア5aはカラーを介して第1シャフト30aに設けられている。第2シャフト30bには、2速に対応したギア2a、4速に対応したギア4a、6速に対応したギア6aが設けられている。ギア2a及びギア4aは、第2シャフト30bに対してスプライン結合され、ギア6aは第2シャフト30bにスプライン結合されているカラーの周囲に回転自在に支持されている。第3シャフト30cには、ギア1a〜6aに対応するギア1b〜6bが設けられている。ギア1bはカラーを介して第3シャフト30cに設けられ、ギア3bはスプラインカラーを介して第3シャフト30cに設けられている。ギア5bは第3シャフト30cにスプライン結合され、ギア4bは第3シャフト30cに対してスプラインカラーを介して結合されている。ギア2bはカラーを介して第3シャフト30cに結合され、ギア6bは第3シャフト30cに対してスプライン結合されている。
【0018】
この変速機本体14では、シフトフォークf1をギア1b側にシフトさせることによりギア5bとギア1bとを連結させて、ニュートラルから1速に変速できる。また、シフトフォークf1を中立状態に戻すとともに、シフトフォークf4をギア2b側にシフトさせてギア2bとギア6bとを連結させ、1速から2速への変速がなされる。シフトフォークf4を中立状態に戻すとともに、シフトフォークf1をギア3b側にシフトさせてギア3bとギア5bとを連結させ、2速から3速への変速がなされる。以降、同様にして6速までの変速が可能とされている。
【0019】
クラッチ機構部26は、図2に示すように、第1クラッチ12a及び第2クラッチ12bを有し、更に、エンジンのクランクシャフト(不図示)から動力が伝達される入力軸としてのプライマリギア34を備えている。プライマリギア34には水ポンプ駆動用のスプロケット35が設けられている。第1クラッチ12aは、プライマリギア34からダンパ機構37を介して円筒状に突出するアウターハウジング36と、アウターハウジング36の内側に設けられたボス38aと、アウターハウジング36とボス38aとの間に交互に積層状に設けられた複数のフリクションディスク40a及びクラッチディスク42aと、プレッシャプレート44aと、プレッシャプレート44aをボス38aから離間させる方向に弾性付勢するリターンスプリング46aとを有する。ダンパ機構37は、クランクシャフトの回転に伴うトルク変動を吸収して、アウターハウジング36にトルク変動の少ない回転力を伝達する。
【0020】
複数のフリクションディスク40a及びクラッチディスク42aは軸方向の一方がプレッシャプレート44aに対面するとともに、他方がボス38aの一部であるサポート面48aと対面している。したがって、フリクションディスク40aがサブロッド50によりスラストベアリング51を介して押圧されることにより、リターンスプリング46aを圧縮しながら移動し、フリクションディスク40a及びクラッチディスク42aがプレッシャプレート44aとサポート面48aにより挟持され、アウターハウジング36の回転が摩擦力によってボス38aに伝達される。これによりボス38aの回転はスプライン構成により第1シャフト30aに伝達され、第1クラッチ12aは接続状態(動力が伝達される状態)となる。サブロッド50による押圧が解除されると、リターンスプリング46aの弾性力によりプレッシャプレート44aはフリクションディスク40a及びクラッチディスク42aから離間して摩擦力が働かなくなり、アウターハウジング36とボス38aは遮断され、第1クラッチ12aは遮断状態(動力が伝達されない切り離し状態)となる。なお、第1クラッチ12a及び第2クラッチ12bに関して、接続及び遮断されることを「断接」とも記す。
【0021】
第2クラッチ12bは、アウターハウジング36と一体的に接続されて内周側に設けられたインナーハウジング52と、インナーハウジング52の内側に設けられたボス38bと、インナーハウジング52とボス38bとの間に交互に積層状に設けられた複数のフリクションディスク40b及びクラッチディスク42bと、プレッシャプレート44bと、プレッシャプレート44bをボス38bから離間させる方向に弾性付勢するリターンスプリング46bとを有する。
【0022】
複数のフリクションディスク40b及びクラッチディスク42bは軸方向の一方がプレッシャプレート44bに対面するとともに、他方がボス38bの一部であるサポート面48bと対面している。したがって、フリクションディスク40bが第2プッシュロッド60bによりロッドサポート62bを介して押圧されることにより、リターンスプリング46bを圧縮しながら移動し、フリクションディスク40b及びクラッチディスク42bがプレッシャプレート44bとサポート面48bにより挟持され、インナーハウジング52の回転が摩擦力によってボス38bに伝達される。これにより、ボス38bの回転はスプライン構成により第2シャフト30bに伝達され、第2クラッチ12bは接続状態となる。第2プッシュロッド60bによる押圧が解除されると、リターンスプリング46bの弾性力によりプレッシャプレート44bはフリクションディスク40b及びクラッチディスク42bから離間して摩擦力が働かなくなり、インナーハウジング52とボス38bは遮断され、第2クラッチ12bは遮断状態となる。サブロッド50、リターンスプリング46a及びリターンスプリング46bは、環状等間隔に複数設けられている。
【0023】
クラッチ機構部26と受動ピストン機構部28は、等間隔に環状配置された3本の第1プッシュロッド60aと、軸心位置に配置された第2プッシュロッド60bとによって接続されている。プレッシャプレート44aは、3本の第1プッシュロッド60aからロッドサポート62a、深溝玉型のベアリング64a、中間リング66、サブロッド50及びスラストベアリング51を介して押圧される。ロッドサポート62aは円環形状であって、第2プッシュロッド60bと同軸状に配置されている。ロッドサポート62aの一方の面には第1プッシュロッド60aの先端が係合する凹部が設けられ、他方の面はベアリング64aの内輪の内周面及び軸方向外側端面に接触している。
【0024】
中間リング66の内周部は、ベアリング64aの外輪の外周面及び軸方向内側端面に接触しており、外周部はサブロッド50の一端に接触している。サブロッド50の他端はスラストベアリング51を介してプレッシャプレート44aの側面に接触している。サブロッド50はインナーハウジング52の側面に設けられた孔52aに挿入されて軸方向にスライド可能になっており、第1プッシュロッド60aの作用下にプレッシャプレート44aを押圧することになる。なお、中間リング66はアウターハウジング36及びインナーハウジング52と一体的に回転するが、スラストベアリング51及びベアリング64aが介在することによって、これらの回転がプレッシャプレート44a及びロッドサポート62aに直接的に伝達されることはない。
【0025】
プレッシャプレート44bは、第2プッシュロッド60bからロッドサポート62b、深溝玉型のベアリング64bを介して押圧される。ロッドサポート62bは円板形状であって一方の面の中心部には第2プッシュロッド60bの先端が係合する凹部が設けられ、他方の面の外周部はベアリング64bの内輪の内周面及び軸方向外側端面に接触している。プレッシャプレート44bの内周部は、ベアリング64bの外輪の外周面及び軸方向内側端面に接触している。これにより、第2プッシュロッド60bの作用下にプレッシャプレート44bが押圧されることになる。
【0026】
受動ピストン機構部28は、3本の第1プッシュロッド60aを個別に駆動する3つの第1スリーブシリンダ70aと、第2プッシュロッド60bを駆動する第2スリーブシリンダ70bとを有する。第1スリーブシリンダ70a及び第2スリーブシリンダ70bはシリンダハウジング71をベース部材として一体的に構成されている。
【0027】
第1スリーブシリンダ70aは、第1管路22aと連通する入力ポート72aと、入力ポート72aから受圧室74aに供給される液圧によって進退自在な第1受動ピストン76aと、受圧室74a内に設けられ、第1受動ピストン76aを進出方向に弾性付勢する円錐型のスプリング78aとを有する。第1受動ピストン76aにはオイルシール77aが設けられている。第1管路22aは、取り付け向きが自在に設定可能な継手80によって入力ポート72aに接続されている。第1プッシュロッド60aは、一端が第1受動ピストン76aに設けられた有底穴に挿入されており、第1受動ピストン76aの作用下に退動する。第1プッシュロッド60aは、シリンダハウジング71及び第1受動ピストン76aに設けられたブッシュ82a、84aにより軸支されている。なお、スプリング78aのばね荷重はリターンスプリング46aのばね荷重より十分小さく設定されており、受圧室74aの圧力が低いときには第1受動ピストン76aは最も退動した位置に配置され、スプリング78aは圧縮されている。
【0028】
第2スリーブシリンダ70bは、第2管路22bと連通する入力ポート72bと、入力ポート72bから受圧室74bに供給される液圧によって進退自在な第2受動ピストン76bと、受圧室74b内に設けられ、第2受動ピストン76bを進出方向に弾性付勢する円錐型のスプリング78bとを有する。第2受動ピストン76bにはオイルシール77bが設けられている。第2管路22bは継手80によって接続されている。第2プッシュロッド60bは、一端が第2受動ピストン76bに設けられた有底穴に挿入されており、第2受動ピストン76bの作用下に退動する。第2プッシュロッド60bは、シリンダハウジング71及び第2受動ピストン76bに設けられたブッシュ82b、84bにより軸支されている。なお、スプリング78bのばね定数はリターンスプリング46bのばね定数より十分小さく設定されており、受圧室74bの圧力が低いときには第2受動ピストン76bは最も退動した位置に配置され、スプリング78bは圧縮されている。
【0029】
スプリング78a、78bは、第1及び第2受動ピストン76a、76bを適度な力で進出方向に弾性付勢していることから、第1受動ピストン76aからプレッシャプレート44aまでの各部材間、及び第2受動ピストン76bからプレッシャプレート44bまでの各部材間に隙間が生じることがない。
【0030】
受動ピストン機構部28は、第1管路22a及び第2管路22bによりパイロット操作装置16に接続されている。パイロット操作装置16は、第1管路22aに接続された第1マスタシリンダ100aと、第2管路22bに接続された第2マスタシリンダ100bと、第1マスタシリンダ100aの第1ピストン(クラッチ側伝達部材)102aの下端部を押圧駆動するカム体104aと、第2ピストン(クラッチ側伝達部材)102bの下端部を押圧駆動するカム体104bと、各カム体104,104bと一体回転するカム軸105a,105bと、各カム軸105a,105bを減速用のギア機構106a,106bを介して個別に回転駆動可能に動作制御されるモータ(電気式アクチュエータ)107a,107bと、カム体104a,104bの傾動角度を検出する角度センサ108a,108bとを備えている。
【0031】
第1マスタシリンダ100a及び第2マスタシリンダ100bは、車両や自動二輪車等で用いられている一般のマスタシリンダと同様の構成であり、汎用品を用いることができる。第1マスタシリンダ100aはホース152a,152を介してリザーバタンク20に接続されている。カム体104aの傾動で第1ピストン102aが所定寸法、押動されると、第1マスタシリンダ100aの内蔵弁体(不図示)が開口し、ホース152a,152及び第1管路22aが連通し、リザーバタンク20の作動油がホース152a,152及び第1管路22aを介して第1スリーブシリンダ70aに供給される。なお、第1管路22aには分岐管121が設けられ、第1管路22aを流れる作動油は分岐管121を介して他の2つの第1スリーブシリンダ70aにも均等分流される。また、第2マスタシリンダ100bはホース152b,152を介してリザーバタンク20に接続されている。カム体104bの傾動で第2ピストン102bが所定寸法、押動されると、同様に第2マスタシリンダ100bの弁体が開口し、ホース152b,152及び第2管路22bが連通し、リザーバタンク20の作動油がホース152b,152及び第2管路22bを介して第2スリーブシリンダ70bに供給される。
【0032】
つぎに、クラッチ付き変速機10の作用について説明する。先ず、パイロット操作装置16の作用について説明する。カム軸105a,105bの回転角度θに応じて、カム体104a,104bが傾動し、この傾動に基づいて、第1ピストン102a又は第2ピストン102bを押圧して上昇させることにより、図3に示すように、第1管路22aの排出量Q1(cm3)及び第2管路22bの排出量Q2(cm3)が発生する。排出量Q1、Q2は、回転角度θとの関係上、左右対称に略対数曲線状に上昇する。
【0033】
第1管路22a及び第2管路22bに発生する圧力P1及びP2は、回転角度θとの関係上、不感帯角度θ1又は−θ1までの区間では0であり、その後緩やかに上昇し、折れ点角度θ2又は−θ2以降は比例的に上昇する。ここで、不感帯角度θ1、−θ1は、第1マスタシリンダ100a又は第2マスタシリンダ100bの内蔵弁体(不図示)の応答遅れに起因して圧力が発生しない区間である。また、折れ点角度θ2はプレッシャプレート44aがフリクションディスク40aに接触するまでの間の区間であり、折れ点角度−θ2はプレッシャプレート44bがフリクションディスク40bに接触するまでの間の区間であり、これらの区間では負荷が小さいことから圧力の上昇が緩やかとなる。折れ点角度θ2、−θ2を超えて回転角度θの絶対値が大きくなると、プレッシャプレート44aの押圧作用により第1クラッチ12aにクラッチ接続容量C1(Nm)が発生し、又はプレッシャプレート44bの押圧作用により第2クラッチ12bにクラッチ接続容量C2(Nm)が発生する。これらのクラッチ接続容量C1、C2は、比例的に増加し、第1クラッチ12a、第2クラッチ12bは接続状態に移行する。また、図4に示すように、排出量Q1、Q2に対する圧力P1、P2の関係は略対数曲線状となる。
【0034】
つぎに、クラッチ付き変速機10の全体的な作用について説明する。
図5に示すように、ステップS1において、図示しない変速操作装置から得られるシフト信号を入力し、運転者によるシフト操作があったか否かを確認する。シフト操作があった場合にはステップS2へ移り、シフト操作がない場合には、待機する。ステップS2において、シフト操作によって変更された変速段を調べ、シフトアップであるときにはステップS3へ移り、シフトダウンであるときにはステップS4へ移る。ステップS3においては、シフトアップ側のギアにシフト操作を行う。ステップS4においては、シフトダウン側のギアにシフト操作を行う。ステップS5においては、シフト操作の完了まで待機し、完了時にはステップS6へ移る。
【0035】
ステップS6において、カム軸105a,105bの回転角度θが、奇数段、偶数段のギア段又はニュートラルに対応して設定された目標角度となるようにモータ107a,107bに対する通電制御を開始する。この通電制御により、奇数段又はニュートラルから偶数段への移行時には、カム体104aが上昇動作を開始し、カム体104bが下降動作を開始する。つまり、図3に示すように、排出量Q1に応じて第1管路22aに圧力P1が発生、上昇し、これにともなってクラッチ接続容量C1が次第に上昇することにより、第1クラッチ12aが接続状態に移行する。他方、排出量Q2、圧力P2及びクラッチ接続容量C2は0となり、遮断状態に移行する。またこの逆に、偶数段又はニュートラルから奇数段への移行時には、カム体104bが上昇動作を開始し、カム体104aが下降動作を開始する。これにより、第1クラッチ12aが遮断状態に移行し、第2クラッチ12bが接続状態に移行する。さらに、奇数段又は偶数段からニュートラルへの移行時には、第1クラッチ12a及び第2クラッチ12bとも遮断状態となる。
【0036】
ステップS7において、角度センサ108a,108bから得られる信号、つまり傾動角度θを確認し、目標角度に到達し又はその近傍値に達していると認められる場合にはステップS8へ移り、未達である場合には通電制御を継続しながら待機する。なお、傾動角度θは目標角度まで一度に変位させるに限らず、例えば途中で一時停止又は変位速度を低下させ、いわゆる半クラッチの状態を経て、より滑らかに接続させるようにしてもよい。また、傾動角度θの変化は運転者が操作するクラッチレバー(又はクラッチペダル)の操作量に比例的に連動させてもよい。ステップS8においては、モータ107a,107bに対する通電制御を終了する。これによりモータ107a,107bでは電力消費が全く生じないことになる。モータ107a,107bでは通電制御の終了にともなってトルクが発生しなくなるが、後述のようにカム体104a,104bの形状が保持作用を有しており、圧力P1又はP2によって第1ピストン102a又は第2ピストン102bが下方に向けて押圧されるにしても、カム体104a,104bの傾動角度θは変化することがなく、第1クラッチ12a、第2クラッチ12bの断接状態が保持される。ステップS9において、前回操作時における変速段のシフトフォークf1〜f4を操作してダボを抜く。このステップS9の後、処理を終了する。
【0037】
図6は、カム位相及びリフト高さの変化を示す。
本実施の形態では、2つのカム体104a,104bを備えるが、その動作、機能は同様であるため、以下では、一方のカム体104aを例にとって説明する。
図6Aに示すように、カム体104aは、カム軸105aの軸部に固定されており、カム軸105aがモータ107aの駆動により反時計方向(正方向)に回動されると、カム体104aが反時計方向に一体的に回動し、カム体104aのカムプロフィール(外縁形状)にしたがって、第1ピストン102aを徐々に押し上げる。カム体104aは、後述するクラッチオフ位置Aから、後述するクラッチオン位置Bに向けてカム体104aの径が大きくなるように形成された螺旋状のカム体である。ここで、図6Aはクラッチ完全オフ位置であり、この位置では、第1ピストン102aがカム体104aの最下部Aに当接し、第1ピストン102aは最下位置にあり、このとき、第1マスタシリンダ100aに内蔵の弁体(不図示)は閉じている。弁体が閉じたときには、ホース152a,152と第1管路22aの連通は断たれ、リザーバタンク20の作動油は、第1スリーブシリンダ70aに供給されていない。したがって、図2を参照し、3本の第1プッシュロッド60aに付勢力は作用せず、リターンスプリング46aのばね力によりプレッシャプレート44aが押し戻され、フリクションディスク40a及びクラッチディスク42aの係合が解かれ、第1クラッチ12aがオフされる。なお、他方のカム体104bが、図6Aの状況に至ると、第2クラッチ12bがオフされる。
【0038】
図6Bはクラッチオン位置であり、この位置では、第1ピストン102aがカム体104aの最上部Bに当接し、第1ピストン102aは最上位置にあり、このときには、第1マスタシリンダ100aに内蔵の弁体(不図示)は開いている。この弁体が開くと、ホース152a,152と第1管路22aが連通し、リザーバタンク20の作動油が、第1スリーブシリンダ70aに供給される。したがって、図2を参照し、3本の第1プッシュロッド60aが前進し、リターンスプリング46aのばね力に抗して、プレッシャプレート44aを押圧して、フリクションディスク40a及びクラッチディスク42aの間が圧縮接合され、第1クラッチ12aがオンされる。なお、他方のカム体104bが、図6Bの状況に至ると、第2クラッチ12bがオンされる。
【0039】
カム体104aの最下部Aは、図6Aに示すように、カムプロフィールが真円に形成され、この真円の部分が第1ピストン102aの下端部に当接しているときには、カム体104aに第1クラッチ12aからの回転反力が作用することがない。すなわち、カム体104aの最下部Aは、図6Dに示すように、回転反力が発生しない領域であり、この領域ではモータ107aに電力を供給せずとも、カム体104aが回転することがなく、カム体104aの位置を保持できる。カム体104aが反時計方向に、すなわち、図6Aのクラッチ完全オフ位置から、図6Bのクラッチオン方向に回動すると、図6Dに示すように、カム体104aのリフト高さが徐々に増大し、この間は、カム体104aに作用する第1クラッチ12aからの反力も徐々に増大している。カム体104aの最上部Bも、図6Bに示すように、カムプロフィールが真円に形成され、この真円の部分が第1ピストン102aの下端部に当接するため、カム体104aに第1クラッチ12aからの回転反力が作用することがない。カム体104aの最上部Bも、図6Dに示すように、回転反力が発生しない領域であり、この領域では同様にモータ107aに電力を供給せずとも、カム体104aが回転することがなく、カム体104aを保持できる。
【0040】
本構成では、クラッチの遊び音低減のために、運転時にオフ(切断状態)の第1又は第2クラッチ12a,12bに、第1管路22a又は第2管路22bを通じて、クラッチ接続側への微少油圧を供給し、クラッチをクラッチ接続側に微少量移動させ、クラッチの空回りが止まる程度に半クラッチの状態として、クラッチ接続準備状態とする機構を備えている。第1,第2クラッチ12a,12bがオフの場合には、カム体104aは、図6Aのクラッチ完全オフ位置にある。
【0041】
図6Aのクラッチ完全オフ位置から、図6Cに示すように、カム体104aを時計方向(逆方向)に所定角、回転させる。この微少移動位置においては、第1ピストン102aがカム体104aの微少移動部Cに当接して、第1ピストン102aは微少移動した位置にあり、このときには、リフト高さが若干高く変位し、第1マスタシリンダ100aに内蔵の弁体(不図示)が若干開く。この弁体が若干開いたとき、ホース152a,152と第1管路22aがわずかに連通し、リザーバタンク20の作動油が少量、第1スリーブシリンダ70aに供給される。したがって、図2を参照し、3本の第1プッシュロッド60aがわずかに前進し、しかし、フリクションディスク40a及びクラッチディスク42aの間が圧縮接合されるまでには至らず、クラッチの空回りが止まる程度に半クラッチの状態となって、第1クラッチ12aはクラッチ接続準備状態となる。なお、他方のカム体104bが、図6Cの状況に至ると、第2クラッチ12bがクラッチ接続準備状態となる。この構成では、クラッチの遊び音を低減できる。
【0042】
本構成では、カム体104aの微少移動部Cがカム体回転中心と同心の真円に形成されており、この真円の部分が第1ピストン102aの下端部に当接する。この当接する部位が真円のため、カム体104aに第1クラッチ12aからの回転反力が作用することがない。カム体104aの微少移動部Cも、図6Dに示すように、回転反力が発生しない領域である。この領域ではモータ107aに電力を供給せずとも、カム体104aが回転せず、カム体104aの位置を保持できるため、消費電力を低減できる。
本構成では、車両の発進時や変速時には、一旦微少移動部Cからクラッチ完全オフAの状態に戻し、それ以降は従来と同様にクラッチ完全オフAからクラッチ完全オンBの間で操作することになる。したがって、カム体104aに微少移動部Cを設けても、発進や変速の際には従来と同様に容量移動が少なくて済むので、スムーズな変速が可能となる。
本構成では、図6Bに示すように、クラッチ完全オン位置Aでカム体104aの端部104Xが終端し、図6Cに示すように、この端部104Xと、微少移動部(真円もしくは平面)Cとで形成される段部Dに、第1ピストン102aが配置される。したがって、後述の楕円形状のカム体(図7参照)と比較した場合に、段部D(104X)が第1ピストン102aのストッパとなるため、別部材を設けることなく、カム体104aが所定位置より回転し過ぎることを防止できる。
【0043】
図7は、カム体の別実施の形態を示す。
図7Aに示すように、カム体204aは、カム軸205aの軸部に固定されており、カム軸205aがモータ107aの駆動により反時計方向に回動されると、カム体204aが反時計方向に一体的に回動し、カム体204aのカムプロフィール(外縁形状)にしたがって、第1ピストン102aを押し上げる。カム体204aは楕円形である。ここで、図7Aはクラッチ完全オフ位置であり、この位置では、第1ピストン102aがカム体204aの最下部Aに当接し、第1ピストン102aは最下位置にあり、このとき、第1マスタシリンダ100aに内蔵の弁体(不図示)は閉じている。弁体が閉じたときには、ホース152a,152と第1管路22aの連通は断たれ、リザーバタンク20の作動油は、第1スリーブシリンダ70aに供給されていない。したがって、図2を参照し、3本の第1プッシュロッド60aに付勢力は作用せず、リターンスプリング46aのばね力によりプレッシャプレート44aが押し戻され、フリクションディスク40a及びクラッチディスク42aの係合が解かれ、第1クラッチ12aがオフされる。なお、他方のカム体104bが、図7Aの状況に至ると、第2クラッチ12bがオフされる。
【0044】
この構成では、カム軸205aが、図7Aのクラッチ完全オフ位置から、図7Bに示すように、反時計方向に90°回動すると、クラッチオン位置に至る。この位置では、第1ピストン102aがカム体204aの最上部Bに当接し、第1ピストン102aは最上位置にあり、このときには、第1マスタシリンダ100aに内蔵の弁体(不図示)は開いている。この弁体が開くと、ホース152a,152と第1管路22aが連通し、リザーバタンク20の作動油が、第1スリーブシリンダ70aに供給される。したがって、図2を参照し、3本の第1プッシュロッド60aが前進し、リターンスプリング46aのばね力に抗して、プレッシャプレート44aを押圧して、フリクションディスク40a及びクラッチディスク42aの間が圧縮接合され、第1クラッチ12aがオンされる。なお、他方のカム体204bが、図7Bの状況に至ると、第2クラッチ12bがオンされる。
【0045】
カム体204aが、図7Aのクラッチ完全オフ位置から、図7Bのクラッチオン方向(反時計方向)に90°回動すると、図7Dに示すように、カム体204aのリフト高さが増大し、この増大の過程で、カム体204aに作用する第1クラッチ12aからの反力は上に凸の放物線を描いて増大している。カム体204aの最上部Bは、図7Bに示すように、カムプロフィールが左右対称の円に形成され、この円の中心部分が第1ピストン102aの下端部に当接するため、カム体204aに第1クラッチ12aからの回転反力が作用することがない。この最上部Bは、図7Dに示すように、回転反力が発生しない領域であり、この領域ではモータ107aに電力を供給せずとも、カム体204aが回転することがなく、カム体204aを保持できる。
【0046】
本構成では、クラッチの遊び音低減のために、運転時にオフ(切断状態)の第1又は第2クラッチ12a,12bに、第1管路22a又は第2管路22bを通じて、クラッチ接続側への微少油圧を供給し、クラッチをクラッチ接続側に微少量移動させ、クラッチの空回りが止まる程度に半クラッチの状態として、クラッチ接続準備状態とする機構を備えている。第1,第2クラッチ12a,12bがオフの場合には、カム体204aは、図7Aのクラッチ完全オフ位置にある。
【0047】
図7Aのクラッチ完全オフ位置から、図7Cに示すように、カム体204aを時計方向に90°回転させる。この位置においては、第1ピストン102aがカム体204aの微少移動部Cに当接して、第1ピストン102aは微少移動した位置にあり、このときには、リフト高さが若干高く変位し、第1マスタシリンダ100aに内蔵の弁体(不図示)が若干開く。この弁体が若干開いたとき、ホース152a,152と第1管路22aがわずかに連通し、リザーバタンク20の作動油が少量、第1スリーブシリンダ70aに供給される。したがって、図2を参照し、3本の第1プッシュロッド60aがわずかに前進し、しかし、フリクションディスク40a及びクラッチディスク42aの間が圧縮接合されるまでには至らず、クラッチの空回りが止まる程度に半クラッチの状態となって、第1クラッチ12aはクラッチ接続準備状態となる。なお、他方のカム体204bが、図7Cの状況に至ると、第2クラッチ12bがクラッチ接続準備状態となる。この構成では、クラッチの遊び音が低減できる。
【0048】
本構成では、カム体204aの微少移動部Cが楕円形の一部であるが、当該微少移動部Cはカム体回転中心と同心の真円の一部とも重なり、この真円の部分が第1ピストン102aの下端部に当接する。この当接する部位が真円のため、カム体204aに第1クラッチ12aからの回転反力が作用することがない。カム体204aの微少移動部Cも、図7Dに示すように、回転反力が発生しない領域である。この領域ではモータ107aに電力を供給せずとも、カム体204aが回転せず、カム体204aの位置を保持できるため、消費電力を低減できる。本構成でも、車両の発進時や変速時には、一旦微少移動部Cからクラッチ完全オフAの状態に戻し、それ以降は従来と同様にクラッチ完全オフAからクラッチ完全オンBの間で操作することになる。したがって、カム体204aに微少移動部Cを設けたとしても、発進や変速の際には従来と同様に容量移動が少なくて済むので、スムーズな変速が可能となる。
【0049】
図8は、カム体の更に別実施の形態を示す。
図8Aに示すように、カム体304aは、カム軸305aの軸部に固定されており、カム軸305aがモータ107aの駆動により反時計方向に回動されると、カム体304aが反時計方向に一体的に回動し、カム体304aのカムプロフィール(外縁形状)にしたがって、第1ピストン102aを徐々に押し上げる。カム体304aは、クラッチオフ位置Aから、クラッチオン位置Bに向けてカム体304aの径が大きくなるように形成された螺旋状のカム体である。ここで、図8Aはクラッチ完全オフ位置であり、この位置では、第1ピストン102aがカム体304aの最下部Aに当接し、第1ピストン102aは最下位置にあり、このとき、第1マスタシリンダ100aに内蔵の弁体(不図示)は閉じている。弁体が閉じたときには、ホース152a,152と第1管路22aの連通は断たれ、リザーバタンク20の作動油は、第1スリーブシリンダ70aに供給されていない。したがって、図2を参照し、3本の第1プッシュロッド60aに付勢力は作用せず、リターンスプリング46aのばね力によりプレッシャプレート44aが押し戻され、フリクションディスク40a及びクラッチディスク42aの係合が解かれ、第1クラッチ12aがオフされる。なお、他方のカム体304bが、図8Aの状況に至ると、第2クラッチ12bがオフされる。
【0050】
図8Bはクラッチオン位置であり、この位置では、第1ピストン102aがカム体304aの最上部Bに当接し、第1ピストン102aは最上位置にあり、このときには、第1マスタシリンダ100aに内蔵の弁体(不図示)は開いている。この弁体が開くと、ホース152a,152と第1管路22aが連通し、リザーバタンク20の作動油が、第1スリーブシリンダ70aに供給される。したがって、図2を参照し、3本の第1プッシュロッド60aが前進し、リターンスプリング46aのばね力に抗して、プレッシャプレート44aを押圧して、フリクションディスク40a及びクラッチディスク42aの間が圧縮接合され、第1クラッチ12aがオンされる。なお、他方のカム体304bが、図8Bの状況に至ると、第2クラッチ12bがオンされる。
【0051】
カム体304aの最下部Aは、図8Aに示すように、カムプロフィールが真円に形成され、この真円の部分が第1ピストン102aの下端部に当接しているときには、カム体304aに第1クラッチ12aからの回転反力が作用することがない。すなわち、カム体304aの最下部Aは、図8Dに示すように、回転反力が発生しない領域であり、この領域ではモータ107aに電力を供給せずとも、カム体304aが回転することがなく、カム体304aの位置を保持できる。カム体304aが反時計方向に、すなわち、図8Aのクラッチ完全オフ位置から、図8Bのクラッチオン方向に回動すると、図8Dに示すように、カム体304aのリフト高さが徐々に増大し、この間は、カム体304aに作用する第1クラッチ12aからの反力も徐々に増大している。カム体304aの最上部Bも、図8Bに示すように、カムプロフィールが真円に形成され、この真円の部分が第1ピストン102aの下端部に当接するため、カム体304aに第1クラッチ12aからの回転反力が作用することがない。カム体304aの最上部Bも、図8Dに示すように、回転反力が発生しない領域であり、この領域では同様にモータ107aに電力を供給せずとも、カム体304aが回転することがなく、カム体304aを保持できる。
【0052】
本構成では、クラッチの遊び音低減のために、運転時にオフ(切断状態)の第1又は第2クラッチ12a,12bに、第1管路22a又は第2管路22bを通じて、クラッチ接続側への微少油圧を供給し、クラッチをクラッチ接続側に微少量移動させ、クラッチの空回りが止まる程度に半クラッチの状態として、クラッチ接続準備状態とする機構を備えている。第1,第2クラッチ12a,12bがオフの場合、カム体304aは、図8Aのクラッチ完全オフ位置にある。
【0053】
図8Aのクラッチ完全オフ位置から、図8Cに示すように、カム体304aを時計方向に所定角、回転させる。この微少移動位置においては、第1ピストン102aがカム体304aの微少移動部Cに当接して、第1ピストン102aは微少移動した位置にあり、このときには、リフト高さが若干高く変位し、第1マスタシリンダ100aに内蔵の弁体(不図示)が若干開く。この弁体が若干開いたとき、ホース152a,152と第1管路22aがわずかに連通し、リザーバタンク20の作動油が少量、第1スリーブシリンダ70aに供給される。したがって、図2を参照し、3本の第1プッシュロッド60aがわずかに前進し、しかし、フリクションディスク40a及びクラッチディスク42aの間が圧縮接合されるまでには至らず、クラッチの空回りが止まる程度に半クラッチの状態となって、第1クラッチ12aはクラッチ接続準備状態となる。なお、他方のカム体304bが、図8Cの状況に至ると、第2クラッチ12bがクラッチ接続準備状態となる。この構成では、クラッチの遊び音が低減できる。
【0054】
本構成では、カム体304aの微少移動部Cがカム体回転中心と同心の真円と接する平面に形成されており、この平面が第1ピストン102aの下端部に当接する。このように平面に当接する構成となるため、カム体304aに第1クラッチ12aからの回転反力が作用することがない。カム体304aの微少移動部Cも、図8Dに示すように、回転反力が発生しない領域である。この領域ではモータ107aに電力を供給せずとも、カム体304aが回転せず、カム体304aの位置を保持できるため、消費電力を低減できる。本構成では、車両の発進時や変速時には微少移動部Cを経てクラッチ完全オフAからクラッチ完全オンBの間で操作される。
【符号の説明】
【0055】
10 クラッチ付き変速機
12a、12b クラッチ
16 パイロット操作装置
20 リザーバタンク
22a、22b 管路
24a、24b 変速機構
26 クラッチ機構部
28 受動ピストン機構部
34 プライマリギア(入力軸)
70a、70b スリーブシリンダ
100a、100b マスタシリンダ
102a、102b ピストン(クラッチ側伝達部材)
104a、104b、204a、204b、304a、304b カム体
105a、105b、205a、205b、305a、305b カム軸
107a、107b モータ(電気式アクチュエータ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速段用の歯車列を複数有する変速機構(24a、24b)と、前記変速段用の歯車列に連結されるクラッチ(12a、12b)と、前記クラッチを断接するカム体(104a、104b、204a、204b、304a、304b)と、前記カム体を回動させる電気式アクチュエータ(107a、107b)とを備え、クラッチ切断状態にあるクラッチ(12a、12b)にクラッチ接続側への微少移動を行わせクラッチ切断状態をクラッチ接続準備状態にする機能を備えたクラッチ断接機構において、前記カム体(104a、104b、204a、204b、304a、304b)の前記クラッチ接続準備状態に対応したカム位相に前記クラッチ(12a、12b)からの回転反力を受けない領域Cを設けたことを特徴とするクラッチ断接機構。
【請求項2】
前記クラッチ(12a、12b)からの回転反力を受けない領域はクラッチ完全オフ位置AからクラッチオンB方向と逆方向に前記カム体を所要回転させた位置Cであることを特徴とする請求項1に記載のクラッチ断接機構。
【請求項3】
前記クラッチ(12a、12b)からの回転反力を受けない領域はクラッチ完全オフ位置AからクラッチオンB方向に前記カム体を所要回転させた位置Cであることを特徴とする請求項1に記載のクラッチ断接機構。
【請求項4】
前記クラッチからの回転反力を受けない領域はカム体回転中心と同心の真円であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のクラッチ断接機構。
【請求項5】
前記クラッチからの回転反力を受けない領域はカム体回転中心と同心の真円と接する平面であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のクラッチ断接機構。
【請求項6】
前記カム体の前記真円もしくは前記平面が形成される径は前記クラッチオフ位置の径よりも大きいことを特徴とする請求項4又は5に記載のクラッチ断接機構。
【請求項7】
前記カム体(104a、104b、204a、204b、304a、304b)はクラッチオフ位置Aからクラッチオン位置Bに向けて前記カム体の径が大きくなるように形成された螺旋状のカム体であり、前記真円もしくは前記平面Cは前記カム体の内周方向でクラッチオン位置Bの前記カム体の径よりも小さいとともに、クラッチオン位置Aのカム体の端部と、前記真円もしくは前記平面Cとで形成される段部Dに前記カム体の動力をクラッチ側に伝達するクラッチ側伝達部材(102a、102b)が配置されることを特徴とする請求項1に記載のクラッチ断接機構。
【請求項8】
前記クラッチ側伝達部材(102a、102b)は受動ピストン機構部(28)に管路(22a、22b)を介して連結されたマスタシリンダ(100a、100b)のピストンであり、前記マスタシリンダはリザーバタンク(20)に接続され、前記ピストンが後退するとき前記リザーバタンクと連通し、前記ピストンが進出するとき前記リザーバタンクと非連通になることを特徴とする請求項7に記載のクラッチ断接機構。
【請求項9】
前記カム体(104a、104b、204a、204b、304a、304b)は個別に回転駆動され、前記管路(22a、22b)を両方とも前記リザーバタンクに連通可能としたことを特徴とする請求項8に記載のクラッチ断接機構。
【請求項10】
前記クラッチは入力軸(34)と変速機構(24a、24b)との間を断接し、前記入力軸に同軸に配設される第1クラッチ(12a)及び第2クラッチ(12b)からなることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載のクラッチ断接機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−190857(P2011−190857A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57208(P2010−57208)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】