説明

クリーンフィラーを配合した架橋性フッ素系エラストマー組成物

【課題】水分発生量および有機系アウトガス量がいずれも低減化されている極めてクリーンなフィラーを使用した半導体製造装置用の成形品材料として好適な架橋性フッ素系エラストマー組成物および成形品を提供する。
【解決手段】200℃で2時間加熱したときの単位表面積当たりの重量減少率が2.5×10-5重量%/m2以下であり、かつ200℃で15分間加熱したときの有機系ガスの総発生量が2.5ppm以下であるフィラーと架橋性フッ素系エラストマーとからなる架橋性フッ素系エラストマー組成物およびその架橋成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水分発生量と有機系のアウトガス量のいずれもが低減化された極めてクリーンなフィラーを使用した架橋性フッ素系エラストマー組成物、および半導体製造装置に好適に使用できる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、高分子重合体にはその補強用として種々の無機フィラーが配合されている。このフィラー入りの重合体はクリーンな環境が要求される半導体製造装置の各種部品用材料としても使用されている。
【0003】
近年、半導体の高性能化にともなってますますその製造環境のより高度なクリーン化が要求されてきており、単にパーティクルといわれる微粒子の排除だけではなく、半導体製造過程において発生するガス状の不純物(一般に「不純物アウトガス」といわれている)をもできるだけ低減化するよう求められている。
【0004】
こうした不純物アウトガスには、水分のほかジオクチルフタレート(DOP)などの有機系のガスがあり、まず高分子重合体側からのアウトガス量の低減化が図られている。
【0005】
さらに高分子重合体材料に比較的多く含まれているフィラーについても高度にクリーン化することが必要と考え、まずは特殊な洗浄を施すことにより、ついで水分発生量を低減化するために表面をシランカップリング剤などで処理して表面水酸基量を少なくする方法を開発した。
【0006】
しかしこの方法では水分アウトガスの発生量はかなり低減化できるが、有機系のアウトガス量が増加こそすれ少なくはならず、さらなる改良の余地があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、フィラーのクリーン化処理において、フィラーの表面を疎水化したのち不活性ガス気流下において加熱することにより、水分アウトガス量だけでなく有機系のアウトガスをも低減化されたフィラーを提供することができることを見出し、本発明を完成するにいたった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、200℃で2時間加熱したときの単位表面積当たりの重量減少率(以下、単に「重量減少率」という)が2.5×10-5重量%/m2以下、好ましくは2.0×10-5重量%/m2以下、さらに好ましくは1.5×10-5重量%/m2以下であり、かつ200℃で15分間加熱したときの有機系ガスの総発生量(以下、単に「有機系アウトガス量」という)が2.5ppm以下、好ましくは2.0ppm以下、さらに好ましくは1.8ppm以下であるフィラーと高分子重合体とからなる高分子重合体組成物に関する。
【0009】
高分子重合体としては架橋性エラストマー、たとえば架橋性フッ素系エラストマー、とくに架橋性パーフルオロエラストマーが好ましい。
【0010】
この高分子重合体組成物によれば、従来の重合体およびフィラーの処理法では達成できなかった、200℃で30分間加熱したときの水分発生量(以下、単に「水分発生量」という)が400ppm以下であり、かつそのときの有機系アウトガス量が0.03ppm以下である成形品を与えることができる。
【0011】
本発明の成形品、とくにエラストマーの架橋成形品は、半導体製造装置の部品、とくに半導体製造装置の封止のために用いるシール材として好適である。
【0012】
本発明はまた、高度にクリーン化された上記特定のフィラーにも関する。
【0013】
かかるクリーン化されたフィラーは、表面が疎水化処理されたフィラーを窒素ガスなどの不活性ガス気流下にて100〜300℃で0.5〜4時間加熱処理することにより得られる。
【0014】
フィラーの表面疎水化処理に使用する処理剤としては、シリル化剤、シリコーンオイル、シランカップリング剤などが好ましく使用できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の疎水化表面処理後加熱処理されたフィラーは、水分発生量および有機系アウトガス量がいずれも低減化されており、極めてクリーンであって、半導体製造装置用の成形品材料として好適なエラストマー組成物および成形品を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明において好適に使用できるフィラーとしては、被覆層用樹脂への分散性や耐薬品性、吸湿性、耐プラズマ性、耐電磁波特性などの観点から選択することが望まれ、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属ハロゲン化物、金属硫化物、金属塩、金属水酸化物などの金属系フィラー、カーボンブラック、黒鉛化カーボン、グラファイトなどの炭素系フィラーの少なくとも1種が例示できる。特に金属系フィラーが耐プラズマ性に優れていることから好ましい。
【0017】
金属酸化物としては、たとえば酸化ケイ素、酸化バリウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化銀、酸化ベリリウム、酸化ビスマス、酸化クロム、酸化ホウ素、酸化カドミウム、酸化銅、酸化鉄、酸化ガリウム、酸化ゲルマニウム、酸化ハフニウム、酸化イリジウム、酸化ランタン、酸化リチウム、酸化マグネシウム、酸化マンガン、酸化モリブデン、酸化ニオブ、酸化ネオジブ、酸化ニッケル、酸化鉛、酸化プラセオジウム、酸化ロジウム、酸化アンチモン、酸化スカンジウム、酸化スズ、酸化ストロンチウム、酸化タンタル、酸化トリウム、酸化バナジウム、酸化タングステン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウムなどがあげられ、耐薬品性、化学的安定性に優れている点から、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウムが好ましい。補強性の点から、酸化ケイ素が特に好ましい。
【0018】
金属窒化物としては、たとえば窒化リチウム、窒化チタン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化バナジウム、窒化ジルコニウムなどがあげられ、耐プラズマ性、化学的安定性、工業的汎用性などに優れる点から、窒化チタン、窒化アルミニウムが好ましい。
【0019】
金属炭化物としては、たとえば炭化ホウ素、炭化カルシウム、炭化鉄、炭化マンガン、炭化チタン、炭化ケイ素、炭化バナジウム、炭化アルミニウムなどが上げられ、耐薬品性、化学的安定性に優れている点から、炭化ケイ素、炭化チタンが好ましい。
【0020】
金属ハロゲン化物としては、たとえば塩化銀、フッ化銀、塩化アルミニウム、フッ化アルミニウム、塩化バリウム、フッ化バリウム、塩化カルシウム、フッ化カルシウム、塩化カドミウム、塩化クロム、塩化セシウム、フッ化セシウム、塩化銅、塩化カリウム、フッ化カリウム、塩化リチウム、フッ化リチウム、塩化マグネシウム、フッ化マグネシウム、塩化マンガン、塩化ナトリウム、フッ化ナトリウム、塩化ニッケル、塩化鉛、フッ化鉛、塩化ルビジウム、フッ化ルビジウム、塩化スズ、塩化ストロンチウム、塩化タリウム、塩化バナジウム、塩化亜鉛、塩化ジルコニウムなどの金属塩化物または金属フッ化物や、これらの臭化物またはヨウ化物があげられ、吸湿性が小さく化学的安定性に優れている点から、フッ化アルミニウム、フッ化バリウムが好ましい。
【0021】
金属塩は式:MnAm(Mは金属、Aは各種無機酸の残基、mおよびnはそれぞれの価数によって適宜決まる)で表わされるものであり、たとえば各種金属の硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩、チタン酸塩、ケイ酸塩、硝酸塩などがあげられる。具体例としては、たとえば硫酸アルミニウム、炭酸バリウム、硝酸銀、硝酸バリウム、硫酸バリウム、チタン酸バリウム、炭酸カルシウム、硝酸カルシウム、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、チタン酸カルシウム、硫酸カドミウム、硫酸コバルト、硫酸銅、炭酸第一鉄、ケイ酸鉄、チタン酸鉄、硝酸カリウム、硫酸カリウム、硝酸リチウム、炭酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、チタン酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸マンガン、ケイ酸マンガン、炭酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、チタン酸ナトリウム、硫酸ニッケル、炭酸鉛、硫酸鉛、炭酸ストロンチウム、硫酸ストロンチウム、チタン酸ストロンチウム、炭酸亜鉛、硫酸亜鉛、チタン酸亜鉛などがあげられ、耐プラズマ性や化学的安定性に優れている点から、硫酸バリウム、硫酸アルミニウムが好ましい。
【0022】
金属水酸化物としては、たとえば水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどがあげられる。
【0023】
金属硫化物としては、硫化銀、硫化カルシウム、硫化カドミウム、硫化コバルト、硫化銅、硫化鉄、硫化マンガン、二硫化モリブデン、硫化鉛、硫化スズ、硫化亜鉛、二硫化タングステンなどがあげられる。
【0024】
これらのうち、金属系フィラー、特に金属酸化物、金属窒化物および金属炭化物が一般的に吸湿性が小さく、耐薬品性に優れている点で特に好ましい。
【0025】
フィラーは耐プラズマ性の向上以外にも他の要求特性に応じて適宜選択することが好ましい。たとえば、酸素プラズマ装置のシール材のような強力な酸素プラズマに曝される場合には酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、フッ化アルミニウム、硫酸バリウムなどが好ましく、フッ素プラズマに曝される場合は酸化アルミニウム、フッ化アルミニウム、硫酸バリウム、窒化アルミニウムなどが好ましく、さらにシール材の過昇温防止のための除熱機構を施した箇所でのシール材などのような熱伝導性が要求される場合は黒鉛化カーボンブラック、グラファイトなどが好ましい。さらに回転部での動的シールのような低摩擦性が要求される場合は二硫化モリブデン、炭化ホウ素などが好ましく、マイクロ波導波系内シールなどのような高周波の電磁波に曝される場合は酸化アルミニウム、酸化ケイ素などの低誘電率、低誘電正接でかつ低誘電損失のフィラーが好ましい。また、成形品からアニオン系のガスの発生を低減する場合は、受酸作用のある炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化ケイ素などが好適である。これらのフィラーは2種以上混合使用してもよい。
【0026】
フィラーは粒子状でも繊維状(またはウィスカー状)でもよい。粒子状の場合は特に限定されないが、均一分散性、薄膜が可能である点から5μm以下、特に1μm以下、さらに0.5μm以下が好ましい。下限はフィラーの種類によって決まる。
【0027】
このフィラーは本発明においては表面が疎水化処理され、フィラー表面に吸着する水分量を大幅に減らされている。表面疎水化処理は疎水化処理剤により行なう。本発明で好適に使用できる疎水化処理剤としては、たとえばシリル化剤、シリコーンオイル、シランカップリング剤などがあげられる。
【0028】
シリル化剤としては、式(1):
【化1】

【0029】
(式中、R1は同じかまたは異なり、いずれも炭素数1〜4のアルキル基である)で示されるものが好ましい。具体的には、たとえばトリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン、N,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、N−トリメチルシリルアセトアミド、N,N‘−ビス(トリメチルシリル)ウレア、N−トリメチルシリルジエチルアミン、N−トリメチルシリルイミダゾール、t−ブチルジメチルクロロシランなどがあげられる。
【0030】
シリコーンオイルとしては、式(2):
【化2】

【0031】
(式中、R2は同じかまたは異なりいずれも炭素数1〜4のアルキル基またはフェニル基、R3は同じかまたは異なりいずれも水素原子、炭素数1〜4のアルキル基またはフェニル基、nは1〜10の整数である)で示されるものが好ましい。具体例としては、たとえばジメチルシリコーンオイルなどがあげられる。
【0032】
シランカップリング剤としては、式(3):
4−Si−X3
(式中、R4はビニル基、グルシジル基、メタクリロキシ基、アミノ基、メルカプト基などであり、Xはアルコキシ基またはハロゲン原子である)で示されるものが好ましい。具体例としては、たとえばビニルトリクロロシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−(グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン、γ−(グリシジルオキシプロピル)メチルジエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシランなどがあげられる。
【0033】
シリル化剤、シリコーンオイルまたはシランカップリング剤による表面疎水化処理は、たとえば希釈溶媒として水、アルコール(メタノール、エタノール、イソプロパノールなど)、アセトン、トルエンなどを使用して疎水化処理剤溶液を調製し、その中にフィラーを浸漬し、風乾後、不活性ガス気流下で加熱処理を行なえばよい。処理剤濃度は、フィラーの比表面積から単分子被膜を形成するのに必要な処理剤量を算出し、その量から決定すればよい。
【0034】
本発明において好ましいフィラーと表面疎水化処理法および処理剤の組合せは、金属酸化物フィラーや雲母はシリル化剤、シリコーンオイルまたはシランカップリング剤による処理のいずれもが適用でき、カーボンブラックやグラファイトに対してはシリコーンオイルまたはシランカップリング剤による処理が適当である。とくにシリカなどの酸化ケイ素、酸化アルミニウムまたは酸化チタンをシリル化剤、シリコーンオイルまたはシランカップリング剤により処理したものが好ましい。
【0035】
なお、シリル化剤またはシランカップリング剤で表面処理されたフィラーは市販されており、これらのうち疎水性の高いものは本発明における表面疎水化処理フィラーとして使用できる。
【0036】
本発明では、つぎに表面疎水化処理されたフィラーを不活性ガス気流下で加熱処理する。この処理は、単に表面を疎水化処理しただけでは水分発生量を低減化することができるだけであり、却って有機系の表面処理剤による処理に起因する有機物が表面に残存するため有機系アウトガス量が増大してしまうという新たな課題を解決するために行なうものである。
【0037】
加熱処理は、不活性ガス気流下で100〜300℃にて0.5〜4時間処理することにより行なう。
【0038】
不活性ガスとしては、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガスなどがあげられ、窒素ガスが好ましい。この不活性ガスが不純物で汚染されていた場合、せっかくのクリーンさが無駄になるので、半導体仕様の不活性ガスを使用する。流速はとくに限定されないが、加熱により蒸発または分解しガス状になった化合物をフィラーの周囲に滞留させない程度の早さが基準となる。
【0039】
加熱温度および時間は加熱される表面疎水化処理フィラーの種類(フィラー自体および表面処理剤の種類)などによって異なるが、前記の100〜300℃の範囲内で0.5〜4時間行なうことにより、有機系アウトガス量を大幅に低減化できる。好ましくは100〜250℃にて0.5〜3時間、とくに100〜200℃にて0.5〜2時間が採用される。加熱温度が高すぎると表面処理剤までも分解変性してしまうことがあり、低すぎると分解除去すべき処理剤残渣を分解できないことがある。加熱時間についても同様である。
【0040】
かくして得られる本発明のフィラーは、重量減少率が2.5×10-5重量%/m2以下、さらには2.0×10-5重量%/m2以下、とくに1.5×10-5重量%/m2以下であり、有機系アウトガス量が2.5ppm以下、さらには2.0ppm以下、とくに1.8ppm以下のクリーンなフィラーである。
【0041】
この重量減少率はアウトガスの原因となる水分および有機系の易分解性の化合物の存在量の指標になるファクターであり、小さければ小さいほど使用現場でのアウトガス(水分および有機化合物)発生量が少なくなる。前述のとおり、従来の表面処理フィラーは水分発生量の点ではかなり改善されているが有機系アウトガス量が比較的多くなっており、本発明のように有機系アウトガス量が大幅に低減化されたフィラーは存在せず、本発明で初めて提供できたものである。
【0042】
本発明のクリーンなフィラーは高分子重合体と組み合わせて各種の組成物として有用である。組み合わす高分子重合体はとくに限定されず、各種の樹脂やエラストマーが使用できる。
【0043】
樹脂としては、たとえばフッ素樹脂、フラン樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリアクリロニトリル、メラミン樹脂、ユリア樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスチレン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エポシキ樹脂、ポリカーボネート、メタクリル樹脂、ABS樹脂などがあげられる。フッ素樹脂としては、たとえばポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体などがあげられる。とくに半導体製造分野で用いられているテトラフルオロエチレン−パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレンが好ましい。
【0044】
これらの樹脂と組み合わせて各種の成形品(たとえばガスケット、チューブ、バルブ、コック、フィルム、シートなど)や塗料などに好適に適用できる。成形法はとくに限定されず、押出成形、圧縮成形、射出成形、ブロー成形、カレンダー成形、トランスファー成形などから適宜選定すればよい。
【0045】
エラストマーとしては架橋性のエラストマーが好ましく、たとえば含フッ素エラストマー、シリコーン系エラストマー、エチレン−酢酸ビニル共重合体ゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、ニトリルゴムなどがあげられる。
【0046】
架橋性エラストマー組成物は、架橋性エラストマーと前記クリーン化された本発明のフィラー、さらに要すれば架橋剤、架橋助剤などからなる。紫外線や電子線などで架橋する場合は架橋剤などは不要である。
【0047】
フィラーの配合量はたとえば補強性の面から適宜選定すればよいが、含フッ素エラストマー100重量部に対して通常1〜50重量部、好ましくは2〜30重量部である。
【0048】
本発明の架橋性エラストマー組成物は、架橋性エラストマーの種類、架橋剤の種類などによって各種の架橋形態で架橋成形できる。架橋成形条件はとくに特別なものはなく、従来の条件範囲内で適宜選定すればよい。
【0049】
かくして得られる本発明の成形品は、水分発生量が400ppm以下、さらには200ppm以下であり、有機系アウトガス量が0.03ppm以下、さらには0.02ppm以下という極めてアウトガス量の低減化されたものである。フィラーが配合された従来の成形品には、このように水分および有機系アウトガス量がいずれも大きく低減化されたものはなく、本発明で初めて提供し得た成形品である。
【0050】
これらの架橋性エラストマーのうち半導体製造装置用のシール材の製造原料として使用する場合は、フッ素系エラストマーおよびシリコーン系エラストマーが好ましい。
【0051】
フッ素系エラストマーとしては、たとえばつぎのものがあげられる。
【0052】
(i)テトラフルオロエチレン40〜90モル%、式(4):
CF2=CF−ORf
(式中、Rfは炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基、または炭素数3〜12でかつ酸素原子を1〜3個含むパーフルオロアルキル(ポリ)エーテル基)で表されるパーフルオロビニルエーテル10〜60モル%、および硬化部位を与える単量体0〜5モル%からなるパーフルオロ系エラストマー。
【0053】
(ii)ビニリデンフルオライド30〜90モル%、ヘキサフルオロプロピレン15〜40モル%、テトラフルオロエチレン0〜30モル%からなるビニリデンフルオライド系エラストマー。
【0054】
(iii)エラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメントと非エラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメントを有する含フッ素多元セグメント化ポリマーであって、エラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメントが、テトラフルオロエチレン40〜90モル%、式(5):
CF2=CF−ORf
(式中、Rfは炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基、または炭素数3〜12でかつ酸素原子を1〜3個含むパーフルオロアルキル(ポリ)エーテル基)で表されるパーフルオロビニルエーテル10〜60モル%、および硬化部位を与える単量体0〜5モル%からなり、非エラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメントが、テトラフルオロエチレン85〜100モル%、式(6):
CF2=CF−Rf1
(式中、Rf1はCF3またはORf2(Rf2は炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基))0〜15モル%からなるパーフルオロ系熱可塑性エラストマー。
【0055】
(iv)エラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメントと非エラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメントを有する含フッ素多元セグメント化ポリマーであって、エラストマー性含フッ素ポリマー鎖セグメントが、ビニリデンフルオライド45〜85モル%とこのビニリデンフルオライドと共重合可能な少なくとも一種の他の単量体とからそれぞれ誘導された繰り返し単位を含む非パーフルオロ系熱可塑性エラストマー。ここで他の単量体としては、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、トリフルオロプロピレン、テトラフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、トリフルオロブテン、テトラフルオロイソブテン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、フッ化ビニル、エチレン、プロピレン、アルキルビニルエーテルなどがあげられる。
【0056】
(v)ジヨウ素化合物の存在下にラジカル重合により得られる、ヨウ素含有フッ素化ビニルエーテル単位0.005〜1.5モル%、ビニリデンフルオライド単位40〜90モル%およびパーフルオロ(メチルビニルエーテル)3〜35モル%(場合により25モル%までのヘキサフルオロプロピレン単位および/または40モル%までのテトラフルオロエチレン単位を含んでいてもよい)からなる耐寒性含フッ素エラストマー(特開平8−15753号公報)。
【0057】
(vi)テトラフルオロエチレンとプロピレンとの共重合体(米国特許第3,467,635号明細書)など。
【0058】
シリコーン系エラストマーとしては、たとえばシリコーンゴム、フルオロシリコーンゴムなどが好ましい。
【0059】
エラストマー組成物は所望の製品の形状に架橋成形される。架橋方法は過酸化物架橋が一般的であるが、その他公知の架橋方法、たとえばニトリル基を架橋点として導入した含フッ素エラストマーを使用し、有機スズ化合物によりトリアジン環を形成させるトリアジン架橋系(たとえば特開昭58−152041号公報参照)、同じくニトリル基を架橋点として導入した含フッ素エラストマーを使用し、ビスアミノフェノールによりオキサゾール環を形成させるオキサゾール架橋系(たとえば、特開昭59−109546号公報参照)、テトラアミン化合物によりイミダゾール環を形成させるイミダゾール架橋系(たとえば、特開昭59−109546号公報参照)、ビスアミノチオフェノールによりチアゾール環を形成させるチアゾール架橋系(たとえば、特開平8−104789号公報参照)などの方法があり、また、放射線架橋、電子線架橋などの方法でもよい。
【0060】
とくに好ましい架橋剤としては複数個の3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル基、3−アミノ−4−メルカプトフェニル基または3,4−ジアミノフェニル基を有する化合物があげられ、具体的には、たとえば2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(一般名:ビス(アミノフェノール)AF)、2,2−ビス(3−アミノ−4−メルカプトフェニル)ヘキサフルオロプロパン、テトラアミノベンゼン、ビス−3,4−ジアミノフェニルメタン、ビス−3,4−ジアミノフェニルエーテル、2,2−ビス(3,4−ジアミノフェニル)ヘキサフルオロプロパンなどである。
【0061】
架橋剤の配合量は、好ましくはエラストマー100重量部に対して0.1〜10重量部である。
【0062】
過酸化物架橋を行なう場合、有機過酸化物としては、加硫温度条件下でパーオキシラジカルを発生する公知有機過酸化物ならいずれでもよく、好ましい有機過酸化物は、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジヒドロキシパーオキシド、t−ブチルクミルパーオキシド、α,α′−ビス(t−ブチルパーオキシ)−p−ジイソプロピルベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、ベンゾイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシベンゼン、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートなどである。
【0063】
有機過酸化物の含有量は、フッ素系エラストマー100重量部あたり、通常0.05〜10重量部、好ましくは1〜5重量部である。
【0064】
有機過酸化物の含有量が0.05重量部より少ないと、フッ素系エラストマーが充分架橋されず、一方10重量部を超えると、架橋物の物性を悪化させる。
【0065】
かかる過酸化物架橋において多官能性共架橋剤などの架橋助剤を用いることができる。使用する多官能性共架橋剤としては、フッ素系エラストマーの過酸化物架橋において有機過酸化物と共に用いられる多官能性共架橋剤が使用でき、たとえばトリアリルシアヌレート、トリメタアリルイソシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルホルマール、トリアリルホスフェート、トリアリルトリメリテート、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、ジプロパルギルテレフタレート、ジアリルフタレート、テトラアリルテレフタールアミド、トリス(ジアリルアミン)−S−トリアジン、亜リン酸トリアリル、N,N−ジアリルアクリルアミド、1,6−ジビニルドデカフルオロヘキサンに代表されるビスオレフィンなどがあげられる。
【0066】
また、トリアリルイソシアヌレートの3つのアリル基の中の水素原子の一部をより耐熱性の高いフッ素原子に置き換えた含フッ素トリアリルイソシアヌレートなども好適にあげられる(米国特許第4,320,216号明細書、WO98/00407パンフレット、Klenovic h,S.V.ら、Zh.Prikl,Khim.(Leningrad)(1987,60(3),656−8)参照)。
【0067】
架橋助剤の含有量は、フッ素系エラストマー100重量部当たり、通常0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部である。
【0068】
そのほか、加工助剤、内添離型剤などを配合してもよい。過酸化物架橋は常法により行なうことができ、従来のような架橋阻害は生じない。
【0069】
本発明の成形品を、たとえばWO99/49997号パンフレット記載の特殊な洗浄法、すなわち超純水により洗浄する方法、洗浄温度で液状のクリーンな有機化合物や無機水溶液により洗浄する方法、乾式エッチング洗浄する方法、抽出洗浄する方法にしたがって処理することによりパーティクル数や金属含有量を低減化でき、極めて高度にクリーン化され、しかもアウトガス量が少なく耐プラズマ性に優れた半導体製造装置用の成形品が得られる。
【0070】
本発明のフィラー入り成形品は種々の成形品に適用できるが、とくにアウトガス量が大きく低減化されているので、半導体製造装置用の各種部品などに好適である。
【0071】
とくに含フッ素エラストマー成形品は、とくに高度なクリーンさが要求される半導体製造装置の封止用のシール材の製造に好適に使用できる。シール材としてはO−リング、角−リング、ガスケット、パッキン、オイルシール、ベアリングシール、リップシールなどがあげられる。
【0072】
そのほか、各種のエラストマー製品、たとえばダイヤフラム、チューブ、ホース、各種ゴムロールなどとしても使用できる。また、コーティング用材料、ライニング用材料としても使用できる。
【0073】
なお、本発明でいう半導体製造装置は、とくに半導体を製造するための装置に限られるものではなく、広く、液晶パネルやプラズマパネルを製造するための装置など、高度なクリーン度が要求される半導体分野において用いられる製造装置全般を含むものである。
【0074】
具体的には、つぎのような半導体製造装置が例示される。
【0075】
(1)エッチング装置
ドライエッチング装置
プラズマエッチング装置
反応性イオンエッチング装置
反応性イオンビームエッチング装置
スパッタエッチング装置
イオンビームエッチング装置
ウェットエッチング装置
アッシング装置
【0076】
(2)洗浄装置
乾式エッチング洗浄装置
UV/O3洗浄装置
イオンビーム洗浄装置
レーザービーム洗浄装置
プラズマ洗浄装置
ガスエッチング洗浄装置
抽出洗浄装置
ソックスレー抽出洗浄装置
高温高圧抽出洗浄装置
マイクロウェーブ抽出洗浄装置
超臨界抽出洗浄装置
【0077】
(3)露光装置
ステッパー
コータ・デベロッパー
【0078】
(4)研磨装置
CMP装置
【0079】
(5)成膜装置
CVD装置
スパッタリング装置
【0080】
(6)拡散・イオン注入装置
酸化拡散装置
イオン注入装置
【実施例】
【0081】
つぎに実施例をあげて本発明を説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0082】
実施例1(クリーン化フィラーの製造)
シリル化剤であるヘキサメチルジシラザンを用いて市販のフュームドシリカ(キャボット・スペシャリティ・ケミカルズ社製のCab−O−Sil M−7D。平均粒径0.02μm、比表面積200m2/g)を疎水化処理し、処理されたフィラー20gを窒素ガス気流(流速20リットル/分)下に200℃にて2時間加熱して本発明のクリーン化フィラーを製造した。
【0083】
得られた加熱処理後のクリーン化フィラーの重量減少率および有機系アウトガス量をつぎの方法で測定した。結果を表1に示す。
【0084】
(重量減少率の測定)
アルミニウム製の容器に試料(フィラー)を1.0g入れ、窒素ガス気流下で200℃にて2時間加熱し、加熱後の重量(g)を測定する。この加熱後の重量を次式に代入して、単位表面積当たりの重量減少率(重量%/m2)を算出する。
【数1】

【0085】
(有機系アウトガス量)
ガラス製の密閉管に試料(フィラー)を0.1g封入し、200℃にて15分間加熱する。発生したガスを液体窒素で−40℃に冷却したトラップ管に採取し、ついで急加熱してガスクロマトグラフィー((株)島津製作所製のGC−14A。カラム:(株)島津製作所製のUA−15)に送り込んで分析し、得られたチャートのピーク面積から有機系ガス量(ppm)を算出する。
【0086】
実施例2(クリーン化フィラーの製造)
シリコーンオイルであるポリジメチルシロキサンを用いて、市販のフュームドシリカ(Cab−O−Sil M−7D。平均粒径0.02μm、比表面積200m2/g)を疎水化処理し、処理されたフィラー20gを窒素ガス気流(流速20リットル/分)下に200℃にて2時間加熱して本発明のクリーン化フィラーを製造した。
【0087】
得られた加熱処理後のクリーン化フィラーの重量減少率および有機系アウトガス量を実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0088】
実施例3(クリーン化フィラーの製造)
シリル化剤であるヘキサメチルジシラザンを用い、市販の酸化アルミニウム微粒子(住友化学工業(株)製のAKP−G008。平均粒径0.02μm、比表面積150m2/g)を疎水化処理し、処理されたフィラー20gを窒素ガス気流(流速20リットル/分)下に200℃にて2時間加熱して本発明のクリーン化フィラーを製造した。
【0089】
得られた加熱処理後のクリーン化フィラーの重量減少率および有機系アウトガス量を実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0090】
比較例1
シリル化剤であるヘキサメチルジシラザンで疎水化表面処理された実施例1のフュームドシリカの加熱処理前の重量減少率および有機系アウトガス量を実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0091】
比較例2
シリコーンオイルであるポリジメチルシロキサンで疎水化表面処理された実施例2のフュームドシリカの加熱処理前の重量減少率および有機系アウトガス量を実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0092】
比較例3
シリル化剤であるヘキサメチルジシラザンで疎水化表面処理された実施例3の酸化アルミニウム微粒子の加熱処理前の重量減少率および有機系アウトガス量を実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0093】
比較例4
疎水化表面処理および加熱処理のいずれも施されていないヒュームドシリカ(キャボット・スペシャリティ・ケミカルズ社製のCab−O−Sil。平均粒径0.02μm、比表面積200m2/g)の重量減少率および有機系アウトガス量を実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0094】
比較例5
疎水化表面処理および加熱処理のいずれも施されていない酸化アルミニウム微粒子(住友化学工業(株)製のAKP−G008。平均粒径0.02μm、比表面積150m2/g)の重量減少率および有機系アウトガス量を実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0095】
【表1】

【0096】
表1から明らかなように、疎水化表面処理および加熱処理のいずれもが施されていないフィラー(比較例4と5)では重量減少率(水分発生量の指標)が大きく、また有機系アウトガス量も多い。疎水化表面処理を施したもの(比較例1〜3)は重量減少率は大幅に小さくなるが有機系アウトガス量は増加してしまう。さらに不活性ガス気流下で加熱処理した本発明のフィラーは、疎水化表面処理されたフィラーと同じ重量減少率でありながら、有機系アウトガス量が疎水化表面処理していないフィラーよりも大きく減少し、高度なクリーン化が達成されたことを示している。
【0097】
実施例4(エラストマー架橋物の製造)
着火源をもたない内容積6リットルのステンレススチール製オートクレーブに、純水2リットルおよび乳化剤としてC715COONH4 20g、pH調整剤としてリン酸水素二ナトリウム・12水塩0.18gを仕込み、系内を窒素ガスで充分に置換し脱気したのち、600rpmで撹拌しながら、50℃に昇温し、テトラフルオロエチレン(TFE)とパーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)の混合ガス(TFE/PMVE=20/80モル比)を、内圧が1.18MPa・Gになるように仕込んだ。ついで、過硫酸アンモニウム(APS)の186mg/mlの濃度の水溶液2mlを窒素圧で圧入して反応を開始した。
【0098】
重合の進行により内圧が、1.08MPa・Gまで降下した時点で、ジヨウ素化物I(CF24I 4.0gを窒素圧にて圧入した。ついでTFEとPMVEの混合ガス(モル比19/23)をプランジャーポンプにて圧入し、1.08〜1.18MPa・Gの間で昇圧、降圧を繰り返した。
【0099】
TFEおよびPMVEの合計仕込量がそれぞれ430g、511gおよび596gに達した時点でICH2CF2CF2OCF=CF2を1.5g圧入するとともに、反応開始後から12時間ごとに35mg/mlのAPS水溶液2mlを窒素圧で圧入して重合反応を継続し、反応開始から35時間後に重合を停止した。
【0100】
この水性乳濁液をドライアイス/メタノール中で凍結させて凝析を行ない、解凍後、凝析物を水洗、真空乾燥してエラストマー状共重合体を得た。この重合体のムーニー粘度ML1+10(100℃)は63であった。
【0101】
この共重合体の19F−NMR分析の結果から、この共重合体のモノマー単位組成は、TFE/PMVE=59.2/40.8モル%であり、元素分析から得られたヨウ素含有量は0.03重量%であった。
【0102】
このテトラフルオロエチレン/パーフルオロ(メチルビニルエーテル)共重合体エラストマー100gに、実施例1〜3および比較例1〜5でそれぞれ製造したフィラー10gと2,5−ジメチル−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン(日本油脂(株)製のパーヘキサ2.5B)1.0gとトリアリルイソシアヌレート(TAIC)(日本化成(株)製)3.0gを混練して、本発明のエラストマー組成物を調製した。ついで、この組成物を160℃×15分間の圧縮成形によりプレス架橋(一次架橋)してO−リング(AS−568A−214)を作製した。
【0103】
このO−リングを充分に多量のH2SO4/H22(6/4、重量比)により100℃15分間攪拌下で洗浄し、ついで5%HFにより25℃にて15分間洗浄し、さらに純水で100℃にて2時間煮沸洗浄したのち、窒素ガス気流下で200℃にて24時間加熱架橋(二次架橋)し、ついで乾燥して試料となるO−リングを得た。
【0104】
得られたO−リングについて、つぎの方法で水分発生量(ppm)および有機系アウトガス量(ppm)を調べた。結果を表2に示す。
【0105】
(水分発生量の測定)
試料のO−リングを200℃にて30分間窒素雰囲気下で加熱し、発生する水分をカールフィッシャー式水分測定装置(平沼産業(株)製)により測定する。
【0106】
(有機系アウトガス量の測定)
実施例1で採用した測定法において、試料としてO−リング(AS−568A−214)を使用したほかは同様にして測定する。
【0107】
【表2】

【0108】
表2から明らかなように、疎水化表面処理していないフィラーを配合したエラストマー架橋物(比較実験4−4と4−5)では有機系アウトガス量は低いレベルであるが水分発生量が大きい。疎水化表面処理を施したフィラーを配合したもの(比較実験4−1〜4−3)は水分発生量は大幅に小さくなるが有機系アウトガス量は増加してしまう。さらに不活性ガス気流下で加熱処理した本発明のフィラーを配合した架橋物は、疎水化表面処理されたフィラーを配合した架橋物の有機系アウトガス量を疎水化表面処理していないフィラーを配合した架橋物のレベルまで低下させており、高度にクリーン化されたエラストマー架橋物を提供できていることを示している。
【0109】
実施例5(耐プラズマ性)
さらに、半導体の製造ではプラズマ処理が常用されているが、このプラズマ処理工程においてO−リングなどのシール材が重量減少を起こしたりパーティクルを発生させたりするという問題がある。
【0110】
そこで上記でそれぞれ製造したO−リング(AS−568A−214)をガラス製のシャーレに入れ窒素雰囲気にて150℃で60分間加熱して作製したサンプルについて、プラズマ処理工程における重量減少率および発生パーティクル数をつぎの方法で測定した。結果を表3に示す。
【0111】
(重量減少)
つぎの条件下でプラズマ照射処理を施し、照射前後の重量減少(重量%)を測定して重量変化を調べる。
【0112】
使用プラズマ照射装置:
(株)サムコインターナショナル研究所製のPX−1000
【0113】
照射条件:
酸素(O2)プラズマ照射処理
ガス流量:200sccm
RF出力:400W
圧力:300ミリトール
照射時間:3時間
周波数:13.56MHz
CF4プラズマ照射処理
ガス流量:200sccm
RF出力:400W
圧力:300ミリトール
照射時間:3時間
周波数:13.56MHz
【0114】
照射操作:
プラズマ照射装置のチャンバー内の雰囲気を安定させるために、チャンバー前処理として5分間かけて実ガス空放電を行なう。ついでサンプルを入れたシャーレをRF電極の中心部に配置し、上記の条件で照射する。
【0115】
重量測定:
ザートリウス(Sartorius)・GMBH(株)製の電子分析天秤2006MPEを使用し、0.01mgまで測定し0.01mgの桁を四捨五入する。
【0116】
サンプルは1種類につき3個使用し、平均で評価する。
【0117】
(発生パーティクル数)
(株)サムコインターナショナル研究所製のプラズマドライクリーナ モデルPX−1000を用い、真空圧50mTorr、酸素またはCF4流量200cc/分、電力400W、周波数13.56MHzの条件で酸素プラズマまたはCF4プラズマを発生させ、この酸素プラズマまたはCF4プラズマを試料(0−リング)に対してリアクティブイオンエッチング(RIE)条件で3時間照射する。照射後、試料を25℃で1時間超純水中で超音波をかけて遊離しているパーティクルを水中に取り出し、粒子径が0.2μm以上のパーティクルの数(個/リットル)を微粒子測定器法(センサー部に流入させたパーティクルを含む超純水に光を当て、液中パーティクルカウンターによりその透過光や散乱光の量を電気的に測定する方法)により測定する。
【0118】
【表3】

【0119】
表3から、本発明の処理を施したフィラーは、プラズマ処理工程で未処理または疎水化表面処理のみのフィラーと同じく、プラズマによって大きな影響を受けないことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
200℃で2時間加熱したときの単位表面積当たりの重量減少率が2.5×10-5重量%/m2以下であり、かつ200℃で15分間加熱したときの有機系ガスの総発生量が2.5ppm以下であるフィラーと架橋性フッ素系エラストマーとからなる架橋性フッ素系エラストマー組成物。
【請求項2】
架橋性フッ素系エラストマーが架橋性パーフルオロエラストマーである請求項1記載の組成物。
【請求項3】
請求項1または2記載の架橋性フッ素系エラストマー組成物の成形品であって、200℃で30分間加熱したときの水分発生量が400ppm以下であり、かつそのときの有機系ガスの総発生量が0.03ppm以下である成形品。
【請求項4】
半導体製造装置の部品に用いる請求項3記載の成形品。
【請求項5】
半導体製造装置の封止のために用いるシール材である請求項4記載の成形品。

【公開番号】特開2007−84832(P2007−84832A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−294785(P2006−294785)
【出願日】平成18年10月30日(2006.10.30)
【分割の表示】特願2001−582443(P2001−582443)の分割
【原出願日】平成13年4月27日(2001.4.27)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】