説明

コンクリート部材補強構造、及び当該コンクリート部材補強構造を有する建物

【課題】コーン状破壊の抑制効果を向上することを目的とする。
【解決手段】非直線部材20は、直線状の部材でなく、例えば、屈曲や湾曲した部位を備えており、コーン状破壊部30と梁本体14Aとに複数個所でまたがっている。この非直線部材20は、アンカーボルト40に作用する引き抜き力に対し、ダボ作用によって抵抗する。これにより、アンカーボルト40の端部周辺のコンクリート拘束力が大きくなり、コーン状破壊の抑制効果が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート部材補強構造、及び当該コンクリート部材補強構造を有する建物に関する。
【背景技術】
【0002】
柱、スラブ、基礎等のコンクリート部材に埋設された鉄筋やアンカーボルト等に引き抜き力が作用し、当該引き抜き力が鉄筋等の定着力を超えると、コンクリート部材がコーン状に破壊(コーン状破壊)することが知られている。
【0003】
そこで、特許文献1では、アンカーボルトによる鉄骨柱とコンクリート基礎との接合構造において、コンクリート基礎に埋設されたアンカーボルトの周囲に、当該アンカーボルトと平行な縦筋(鉄筋)を埋設することにより、コンクリート基礎のコーン状破壊を抑制している。
【0004】
また、特許文献2では、アンカーボルト(アンカー)によるコンクリート杭の杭頭部と構造物との接合構造において、杭頭部に立設されたアンカーボルトの周囲に、当該アンカーボルトと平行な縦筋と横筋とを籠状に連結した籠状鉄筋を設け、当該籠状鉄筋をアンカーボルトと共に構造物に埋設することにより、構造物のコーン状破壊を抑制している。
【0005】
ここで、特許文献1、2の接合構造は、引き抜き力が作用するアンカーボルトに対して、当該アンカーボルトと平行な縦筋をあき重ね継手するものである。即ち、アンカーボルトと縦筋との間にあるコンクリートを介して、アンカーボルトに作用する引き抜き力を縦筋に伝達するものであり、縦筋のダボ作用によってコーン状破壊を抑制するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平05−25832号公報
【特許文献2】特開2008−50901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の事実を考慮し、コーン状破壊の抑制効果を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載のコンクリート部材補強構造は、コンクリート部材に埋設された棒材と、前記コンクリート部材に埋設され、前記コンクリート部材から前記棒材が引き抜かれたときに、破壊される前記コンクリート部材のコーン状破壊部と該コーン状破壊部以外の前記コンクリート部材とに複数箇所でまたがる非直線部材と、を備えている。
【0009】
上記の構成によれば、非直線部材は、直線状の部材でなく、例えば、屈曲や湾曲した部位を備えており、コンクリート部材と、当該コンクリート部材以外のコーン状破壊部とに複数個所でまたがっている。従って、コーン状破壊に対する非直線部材のダボ作用(ダボ効果)が大きくなり、棒材周辺のコンクリートの拘束力が向上する。従って、コーン状破壊部の破壊耐力が大きくなるため、コンクリート部材のコーン状破壊が抑制される。
【0010】
請求項2に記載のコンクリート部材補強構造は、請求項1に記載のコンクリート部材補強構造において、前記非直線部材が、前記コーン状破壊部に埋設された本体部と、前記本体部から前記棒材の引き抜き方向と反対方向へ、且つ、互いに離間する方向へ延びて、前記コーン状破壊部と該コーン状破壊部以外の前記コンクリート部材とにまたがる複数の傾倒部と、を有している。
【0011】
上記の構成によれば、非直線部材が、コーン状破壊部に埋設された本体部と、コーン状破壊部と該コーン状破壊部以外のコンクリート部材とにまたがる傾倒部とを有している。この傾倒部は、棒材の引き抜き方向と反対方向へ、且つ、互いに離間する方向へ延びている。従って、コーン状破壊部曲面(コーン状破壊面)に対する各傾倒部の角度が緩やかになり(90度に近づく)、棒材の引き抜き力に対して、傾倒部が効率的に抵抗する。よって、コンクリート部材のコーン状破壊の抑制効果が向上する。
【0012】
請求項3に記載のコンクリート部材補強構造は、請求項1に記載のコンクリート部材補強構造において、前記非直線部材が、前記棒材が挿入される環状鉄筋と、前記環状鉄筋と連結され、該環状鉄筋から前記棒材の引き抜き方向と反対方向へ放射状に延びて、前記コーン状破壊部と該コーン状破壊部以外の前記コンクリート部材とにまたがる複数の傾倒鉄筋と、を有している。
【0013】
上記の構成によれば、非直線部材が、棒材が挿入される環状鉄筋と、この環状鉄筋に連結される傾倒鉄筋とを有している。傾倒鉄筋は、環状鉄筋から棒材の引き抜き方向と反対側へ放射状に延びている。即ち、これらの環状鉄筋及び傾倒鉄筋は、コーン状破壊部と逆に凸の立体形状とされている。従って、棒材の引き抜き力に対して環状鉄筋及び傾倒鉄筋が効率的に抵抗する。従って、コンクリート部材のコーン状破壊の抑制効果が向上する。
【0014】
請求項4に記載のコンクリート部材補強構造は、請求項1に記載のコンクリート部材補強構造において、前記非直線部材が、前棒材の材軸方向から見て格子状に連結され、両端部が前記コーン状破壊部と該コーン状破壊部以外の前記コンクリート部材とにまたがる複数の折れ鉄筋であり、前記折れ鉄筋には、該折れ鉄筋の両端部を、前記非直線部材の引き抜き方向と反対側へ、且つ、互いに離間する方向へ延出させる屈曲部が設けられている。
【0015】
上記の構成によれば、非直線部材は、複数の折れ鉄筋から構成されており、これらの折れ鉄筋を、棒材の軸方向から見て格子状を連結して構成されている。この折れ鉄筋には屈曲部が設けられている。この屈曲部によって折れ鉄筋の両端部が、非直線部材の引き抜き方向と反対側へ、且つ、互いに離間する方向へ延出している。即ち、コーン状破壊部の曲面に対する折れ鉄筋の両端部の角度が緩やかになり、棒材の引き抜き力に対して傾倒部が効率的に抵抗する。従って、コンクリート部材のコーン状破壊の抑制効果が向上する。
【0016】
請求項5に記載のコンクリート部材補強構造は、請求項1に記載のコンクリート部材補強構造において、前記非直線部材が、螺旋状に巻かれた螺旋状鉄筋である。
【0017】
上記の構成によれば、非直線部材を螺旋状鉄筋としたことにより、コンクリートとの付着面積が増加する。また、螺旋状鉄筋の中心軸方向に隣接する鉄筋間にコンクリートが付着するため、螺旋状鉄筋の定着力が大きくなる。従って、コンクリート部材のコーン状破壊の抑制効果が向上する。
【0018】
請求項6に記載のコンクリート部材補強構造は、前記第1コンクリート部材と第2コンクリート部材にまたがって埋設される棒材と、前記第1コンクリート部材に埋設され、前記第1コンクリート部材から前記棒材が引き抜かれたときに破壊される前記第1コンクリート部材のコーン状破壊部と、該コーン状破壊部以外の前記第1コンクリート部材とに複数箇所でまたがる非直線部材と、を備えている。
【0019】
上記の構成によれば、非直線部材は、直線状の部材でなく、例えば、屈曲や湾曲した部位を備えており、コーン状破壊部と該コーン状破壊部以外の第1コンクリート部材とに複数個所でまたがっている。従って、コーン状破壊に対する非直線部材のダボ作用(ダボ効果)が大きくなり、棒材周辺のコンクリートの拘束力が向上する。従って、コーン状破壊部の破壊耐力が大きくなるため、第1コンクリート部材のコーン状破壊が抑制される。
【0020】
請求項7に記載の建物は、請求項1〜6の何れか1項に記載のコンクリート部材補強構造を有している。
【0021】
上記の構成によれば、請求項1〜6の何れか1項に記載のコンクリート部材補強構造を有することにより、コーン状破壊が抑制された建物を構築することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、上記の構成としたので、コーン状破壊の抑制効果を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】(A)及び(B)は、本発明の第1実施形態に係るコンクリート部材補強構造が適用された梁を示す、立面図である。
【図2】図1(B)の拡大図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る非直線部材を示す、斜視図である。
【図4】(A)及び(B)は本発明の第1実施形態に係るコンクリート部材補強構造の変形例が適用された基礎を示す図であり、(A)は平面図、(B)は図4(A)の4−4線断面図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係るコンクリート部材補強構造の変形例が適用されたスラブを示す、縦断面図である。
【図6】本発明の第1実施形態に係るコンクリート部材補強構造の変形例が適用された柱を示す、縦断面図である。
【図7】図6の6−6線断面図である。
【図8】本発明の第1実施形態に係るコンクリート部材補強構造の変形例が適用された柱と梁の仕口部を示す、立面図である。
【図9】図8に示す仕口部の平面図である。
【図10】本発明の第1実施形態に係る非直線部材の変形例を、下から見た図である。
【図11】(A)及び(B)は本発明の第2実施形態に係るコンクリート部材補強構造の変形例が適用された基礎を示す図であり、(A)は平面図、(B)は図11(A)の7−7線断面図である。
【図12】本発明の第2実施形態に係る非直線部材を示す、斜視図である。
【図13】本発明の第2実施形態に係る非直線部材の変形例を示す、斜視図である。
【図14】(A)及び(B)は本発明の第3実施形態に係るコンクリート部材補強構造の変形例が適用された基礎を示す図であり、(A)は平面図、(B)は図14(A)の8−8線断面図である。
【図15】本発明の第3実施形態に係る非直線部材を示す、斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0025】
先ず、第1実施形態について説明する。
【0026】
図1(A)及び図1(B)には、左右の柱12と上下の梁14からなる架構16が示されている。柱12及び梁14は鉄筋コンクリート製とされている。図1(B)、及び図2に示されるように、梁14には、梁14の材軸方向へ延びる複数の梁主筋18と、当該梁主筋18を補強するせん断補強筋22がそれぞれ埋設されている。
【0027】
上下の梁14の間には、鉄骨間柱56が取り付けられている。この鉄骨間柱56は角形鋼管からなる間柱本体58を備え、当該間柱本体58の両端部には端部フランジ60がそれぞれ接合されている。これらの端部フランジ60には、アンカーボルト40(棒材)が貫通する貫通孔が形成されている。また、端部フランジ60と間柱本体58とは補強リブ62によって補強されている。
【0028】
アンカーボルト40の一端は、梁14(コンクリート部材)に埋設されている。梁14の上面から突出するアンカーボルト40の他端は、端部フランジ60に形成された貫通孔に挿入されており、ナット52が取り付けられている。このナット52を締め付けることにより、上下の梁14に鉄骨間柱56が接合されている。また、アンカーボルト40の端部には、梁14との定着力を高めるための機械式定着28がそれぞれ取り付けられており、更に、アンカーボルト40の周囲には、笠状の非直線部材20が配置されている。なお、機械式定着28は必要に応じて設ければ良く、適宜省略可能である。
【0029】
ここで、地震等によって鉄骨間柱56に曲げモーメントMが発生すると、アンカーボルト40に引き抜き力(矢印A方向)が作用する。この引き抜き力が、アンカーボルト40の周辺にあるコンクリートの破壊耐力(アンカーボルト40の引き抜き耐力)を超えると、当該コンクリートにひびや亀裂が入り、梁14の鉄骨間柱56との接合部がコーン状(円錐形状)に破壊されることになる。このようにコーン状に破壊される領域をコーン状破壊部30(図3参照)とし、このコーン状破壊部の曲面(以下、「コーン状破壊面30A」という)を二点鎖線で図示している。なお、コーン状破壊部30はコーン状破壊面30A内の領域であり、詳細については後述する。
【0030】
図3に示されるように、非直線部材20は、アンカーボルト40が挿入される複数(図3では、3つ)の環状鉄筋34A、34B、34C(本体部)と、これらの環状鉄筋34A、34B、34Cを連結する複数(図3では、8つ)の傾倒鉄筋36(傾倒部)と、を備えており、その外形が略円錐台形状となっている。環状鉄筋34A、34B、34Cは鋼材でリング状に形成されており、アンカーボルト40を中心として、当該アンカーボルト40の材軸方向に沿って配列されている。また、各環状鉄筋34A、34B、34Cは直径がそれぞれ異なっており、アンカーボルト40の端部から当該アンカーボルト40の引き抜き方向(矢印A方向)に向かって直径が小さくなるように配列されている。これらの環状鉄筋34A、34B、34Cを連結する複数の傾倒鉄筋36は、アンカーボルト40を中心として、最小直径の環状鉄筋34Aから最大直径の環状鉄筋34Cへ向かって放射状に延びており、各環状鉄筋34A、34B、34Cの内側に溶接等で接合されている。この非直線部材20は、各傾倒鉄筋36がコーン状破壊部30と、当該コーン状破壊部30以外の梁14(以下、「梁本体14A」という)にまたがるように梁14に埋設されている。また、図3に示されるように、環状鉄筋34の直径は、各傾倒鉄筋36がコーン状破壊面30Aと直交又は略直交するように調整されている。
なお、傾倒鉄筋36は、各環状鉄筋34A、34B、34Cの外側に溶接等で接合しても良い。
【0031】
次に、第1実施形態の作用について説明する。
【0032】
先ず、コーン状破壊部について説明する。
一般に、コンクリート部材に埋設された鉄筋やアンカー等に引き抜き力が作用し、この引き抜き力がコンクリート部材の破壊耐力(引き抜き耐力)を超えると、コンクリート部材がコーン状(円錐状又は円錐台状)に破壊される。本実施形態におけるコーン状破壊部30は、実験や経験に基づいてコンクリート部材がコーン状に破壊される領域を想定したものであり、コーン状破壊面30Aに沿って、コンクリート部材にひびや亀裂等が生じるものと仮定している。具体的には、コーン状破壊部30は、アンカーボルト40の端部からアンカーボルト40の引き抜き方向(図1において、矢印A方向)へ向かって広がる円錐台形状の領域であり、梁14からアンカーボルト40が引き抜かれたときに、コーン状破壊部30のコーン状破壊面30Aに沿って、梁14にひびや亀裂等の破壊が生じることになる。また、コーン状破壊面30Aは、一般に、引き抜き力が作用する鉄筋やアンカー等に対して45度の傾斜角で規定されている。
【0033】
なお、コーン状破壊面30Aは、コンクリート強度、補強材の強度、サイズ(断面積)及び本数等に変動する。従って、コーン状破壊面30Aは、前述のアンカーボルト40に対して45度の傾斜角に限定されるものではなく、適宜設計可能である。また、コーン状破壊部30には、補強をする前に想定される破壊領域、及び補強をした後に想定される破壊領域の何れをも含む概念である。
【0034】
ここで、図2に示されるように、本実施形態の非直線部材20は、外形が円錐台形状とされており、内部にアンカーボルト40が挿入されると共に、コーン状破壊部30とは逆向きに凸となるように梁14に埋設されている。また、非直線部材20の傾倒鉄筋36は、コーン状破壊部30と梁本体14Aに複数箇所でまたがっている。このように、コーン状破壊部30の一部(頂部)を覆うように非直線部材20を埋設することにより、コーン状破壊に対する各環状鉄筋34及び傾倒鉄筋36のダボ作用(ダボ効果)が大きくなり、アンカーボルト40端部周辺のコンクリートの拘束力が向上する。また、傾倒鉄筋36の一端が梁本体14Aに埋設されているため、傾倒鉄筋36の梁本体14Aとの定着力によってコーン状破壊部30が補強される。更に、傾倒鉄筋36がコーン状破壊面30Aと直交又は略直交しているため、コーン状破壊面30Aに沿って生じるひびや亀裂に対し、傾倒鉄筋36が軸力(引張り力、矢印B)で抵抗し易くなる。従って、コーン状破壊部30の破壊耐力が大きくなるため、コーン状破壊の抑制効果が向上する。
【0035】
次に、第1実施形態の変形例について説明する。
【0036】
本実施形態は、コンクリート製の梁14と鉄骨間柱56との接合部に限らず、コンクリート部材同士の接合部、コンクリート部材と鉄骨部材との接合部、又はコンクリート部材と機械装置(例えば、免震装置、ダンパー等)との接合部等に適用することができる。
【0037】
例えば、図4(A)及び図4(B)には、コンクリート製の基礎64(コンクリート部材)に固定された鉄骨柱66が示されている。鉄骨柱66は、角形鋼管からなる柱本体70を備え、当該柱本体70の両端部には端部フランジ72がそれぞれ接合されている。これらの端部フランジ72には、アンカーボルト40が貫通する貫通孔が形成されている。また、端部フランジ72と柱本体70とは補強リブ74によって補強されている。
【0038】
鉄骨柱66は、アンカーボルト40の端部に取り付けられたナット52を締め付けることにより基礎64に固定されている。従って、鉄骨柱66に曲げモーメントMが作用すると、アンカーボルト40に引き抜き力(矢印A方向)が作用する。アンカーボルト40の周囲には、格子状に連結された複数の横筋68と縦筋69が埋設されている。また、アンカーボルト40の端部は、非直線部材20に挿入されている。非直線部材20は、コーン状破壊部30とは逆向きに凸となるように基礎64に埋設されている。非直線部材20の各傾倒鉄筋36は、コーン状破壊部30とコーン状破壊部30以外の基礎64(以下、「基礎本体64A」という)にまたがると共に、コーン状破壊面30Aと直交又は略直交している。従って、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0039】
また、図5には、スラブ65(コンクリート部材、第1コンクリート部材)の上に構築された壁80(第2コンクリート部材)が示されている。壁80はコンクリート製で、上下方向に延びる壁主筋84と、壁主筋84を補強する補強筋86が埋設されている。壁主筋84のスラブ65側の端部には、機械式継手からなる継手87が取り付けられており、この継手87を介して壁主筋84とアンカーボルト40とが接続されている。アンカーボルト40は、壁80とスラブ65とにまたがって埋設されている。従って、壁80に曲げモーメントMが作用すると、アンカーボルト40に引き抜き力(矢印A方向)が作用する。スラブ65には横筋94及び縦筋96が埋設されており、アンカーボルト40の端部は、非直線部材20に挿入されている。非直線部材20は、コーン状破壊部30とは逆向きに凸となるようにスラブ65に埋設されている。また、非直線部材20の各傾倒鉄筋36は、コーン状破壊部30とコーン状破壊部30以外のスラブ65(以下、「基礎本体65A」という)にまたがると共に、コーン状破壊面30Aと直交又は略直交している。従って、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0040】
なお、本実施形態では機械式継手からなる継手87を用いて縦筋84とアンカーボルト40とを接続したが、継手形式はこれに限られない。即ち、機械式継手の他、重ね継手、溶接継ぎ手などを適宜用いることができる。更に、壁80の壁途中部又は壁頭部等に継手86を設けて、縦筋84とアンカーボルト40とを接続しても良い。
【0041】
更に、図6及び図7には、アンカーボルト40によって接合されたコンクリート製の柱12と鉄骨梁42、44とが示されている。鉄骨梁42、44は、H形鋼46と、当該H形鋼46の端部に接合された端部フランジ48と、を備えている。この端部フランジ48には、アンカーボルト40が貫通する貫通孔が形成されている。また、端部フランジ48とH形鋼46とは補強リブ50によって補強されている。また、柱12には、柱主筋32及びせん断補強筋37が埋設されている。
【0042】
アンカーボルト40は柱12(コンクリート部材)に埋設されており、その端部に機械式定着28(図1参照)が取り付けられている。アンカーボルト40(線状部材)の機械式定着28と反対側の端部は柱12の側面から突出し、鉄骨梁42、44の端部フランジ48に形成された貫通孔に挿入されている。このアンカーボルト40の端部に取り付けられたナット52を締め付けることにより、柱12に鉄骨梁42、44が接合されている。従って、アンカーボルト40には、鉄骨梁42、44の自重(長期荷重)や地震荷重によって引き抜き力(矢印A方向)が作用する。
【0043】
また、アンカーボルト40の端部は、非直線部材90に挿入されている。なお、非直線部材90の構成については後述する。非直線部材90は、コーン状破壊部30とは逆向きに凸となるように柱12に埋設されている。非直線部材90の各傾倒鉄筋36は、コーン状破壊部30とコーン状破壊部30以外の柱12(以下、「柱本体12A」という)にまたがっている。従って、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。このように、水平方向へ引き抜かれるアンカーボルト40にも、非直線部材20を適用することができる。
【0044】
更に、図8及び図9には、コンクリート製の柱12(コンクリート部材、第1コンクリート部材)とコンクリート製の梁14、15(第2コンクリート部材)の仕口部26が示されている。梁14、15は柱12の両側から張り出しており、柱12に支持されている。なお、各梁14、15は柱12と図示せぬ柱との間に架設されており、ラーメン架構を構成している。
【0045】
各梁14、15に埋設された梁主筋18、19(棒材)は、各梁14、15の端面から突出しており、柱12と梁14、15との仕口部26に埋設されている。従って、梁主筋18、19には、梁14、15の自重(長期荷重)や地震荷重によって引き抜き力(矢印A方向)が作用する。梁主筋18と梁主筋19とは、連続するように仕口部26内に埋設されているが、両者は接続されていない。また、梁主筋18、19の端部には、柱12との定着力を高めるための機械式定着28(図9参照)がそれぞれ取り付けられている。更に、梁主筋18、19は、せん断補強筋22、23によってそれぞれ補強されている。
【0046】
梁主筋18、19の端部は、非直線部材90に挿入されている。ここで、非直線部材90の基本構成は、前述の非直線部材20(図3参照)と同じであるが、図9に示されるように、非直線部材20に比べ、環状鉄筋34の数が増えており、また、環状鉄筋34を連結する傾倒鉄筋36のコーン状破壊面30Aに対する傾斜角度が小さくなっている。仕口部26のように設置スペースが狭い場合は、このように非直線部材90の形状を適宜変更して設置することができる。また、図10に示されるように、楕円形の環状鉄筋102(本体部)を傾倒鉄筋104(傾倒部)で連結した非直線部材100を用いることができる。この場合、環状鉄筋102の長軸を柱12の材軸方向にして柱12に埋設することにより、梁主筋18、19の上方及び下方のスペースを利用して非直線部材100を配置することができる。
【0047】
なお、環状鉄筋34や傾倒鉄筋36の本数は、上記したもの限らず、適宜変更可能である。また、環状鉄筋34、傾倒鉄筋36の本数を増やすことにより、コーン状破壊に対する補強効果を更に向上させることができるが、環状鉄筋34は少なくとも一つあれば良い。更に、環状鉄筋34は円形のリング状に限らず、楕円形や三角形等の多角形でも良く、また、必ずしも環状である必要は無く、部分的に切断されていても良い。
【0048】
次に、第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同じ構成のものは同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
【0049】
第2実施形態では、笠状の非直線部材20に替えて、非直線部材110を用いている。図11(A)及び図11(B)には、前述した基礎64及び鉄骨柱66が示されている。鉄骨柱66は、アンカーボルト40によって基礎64に固定されており、鉄骨柱66に曲げモーメントMが作用すると、アンカーボルト40に引き抜き力(矢印A方向)が作用する。
【0050】
アンカーボルト40の端部は、非直線部材110に挿入されている。図12に示されるように、非直線部材110は、矩形の環状鉄筋112(本体部)と、環状鉄筋112から延びる複数(図12では、8つ)の傾倒鉄筋114(傾斜部)と、を備えており、コーン状破壊部30と逆向きに凸の立体形状とされている。各傾倒鉄筋114は傾倒鉄筋114A、114B、114C、114Dのように対をなしている。一対の傾倒鉄筋114Aは、環状鉄筋112の一辺112Aの両端部に結合されており、一辺112Aからアンカーボルト40の引き抜き方向(矢印A方向)と反対側へ、且つ、互いに離間する方向(図11(B)において、矢印C方向)へ延びており、コーン状破壊部30と基礎本体64Aとにまたがっている。更に、傾倒鉄筋114Aは、コーン状破壊面30Aと直交又は略直交するように設けられている。傾倒鉄筋114B、114C、114Dは、傾倒鉄筋114Aと同様に、環状鉄筋112の各辺112B、112C、112Dの両端部に結合されている。
【0051】
次に、第2実施形態の作用について説明する。
【0052】
非直線部材110は、内部にアンカーボルト40が配置されると共に、コーン状破壊部30とは逆向きに凸となるように基礎64に埋設されている。また、非直線部材110の傾倒鉄筋114は、コーン状破壊部30と基礎本体64Aに複数箇所でまたがっており、コーン状破壊面30Aと直交又は略直交している。従って、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0053】
また、非直線部材110は、第1実施形態に係る非直線部材20(図3参照)と異なり、作業者によって環状鉄筋112と傾倒鉄筋114との角度を容易に調整することができる。従って、現場において、コーン状破壊面30Aに対する非直線部材20の角度を容易に調整することができる。更に、環状鉄筋112から複数の傾倒鉄筋114が延びる構成であるため、複数の非直線部材110を隣接配置する場合に、隣接する傾倒鉄筋114を交差させることにより、複数の非直線部材110を接近して配置することができる。よって、柱12と梁14の仕口部26(図9参照)のように、設置スペースが狭い場合に適している。
【0054】
なお、本実施形態では、環状鉄筋112に傾倒鉄筋114を結合したが、複数の折れ鉄筋122を格子状に連結しても良い。具体的には、図13に示されるように、非直線部材120は、複数(図13では、4本)の折れ鉄筋122を、アンカーボルト40の引き抜き方向(矢印A方向)から見て格子状に連結して構成されている。各折れ鉄筋122には、2つの屈曲部122Bが設けられている。この屈曲部122Bで折れ鉄筋122が折り曲げられており、折れ鉄筋122の両端部122Aが、アンカーボルト40の引き抜き方向(矢印A方向)と反対側へ、且つ、互いに離間する方向へ延びている。これにより、折れ鉄筋122の両端部122Aがコーン状破壊部30と基礎本体64Aとにまたがって配置される。また、屈曲部122Bの折り曲げ角度は、折れ鉄筋122の両端部122Aがコーン状破壊面30Aと直交又は略直交するように調整されている。
【0055】
このように、非直線部材120は、複数の折れ鉄筋122を格子状に連結する構成なので、単純な構造でコーン状破壊の抑制効果を向上することができる。また、連結する折れ鉄筋122の本数を増やすことにより、容易に補強効果を向上することができる。
【0056】
なお、環状鉄筋112は、矩形に限らず、多角形、円形、楕円形等であっても良い。また、格子状に連結される折れ鉄筋122同士は、直交していなくても良い。また、図示を省略するが、複数の折れ鉄筋122を連結するのではなく、一つの折れ鉄筋122をコーン状破壊部30と基礎本体64Aとにまたがるように配置しても良い。
【0057】
次に、第3実施形態について説明する。なお、第1、第2実施形態と同じ構成のものは同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
【0058】
第3実施形態では、笠状の非直線部材20に替えて、螺旋状の非直線部材130を用いている。図14(A)及び図14(B)には、前述した基礎64及び鉄骨柱66が示されている。鉄骨柱66は、アンカーボルト40によって基礎64に固定されており、鉄骨柱66に曲げモーメントMが作用すると、アンカーボルト40に引き抜き力(矢印A方向)が作用する。
【0059】
アンカーボルト40の端部は、一対の非直線部材130の間に配置されている。図15に示されるように、非直線部材130は、鉄筋を螺旋状に巻いた螺旋鉄筋(スパイラル筋)とされている。また、非直線部材130は、その中心軸Xがアンカーボルト40の材軸と直交又は略直交するように配置されており、その両端部130Aがコーン状破壊部30と基礎本体64Aとにまたがるように配置されている。
【0060】
このように、非直線部材130を螺旋鉄筋としたことにより、コンクリートとの付着面積が増加する。また、非直線部材130の中心軸X方向に隣接する鉄筋間にコンクリートが入り込んで付着するため、定着力が大きくなる。従って、コーン状破壊の抑制効果が向上する。また、非直線部材130を、その中心軸Xがアンカーボルト40の材軸と直交又は略直交するように配置することにより、必要最小限の長さで非直線部材130をコーン状破壊部30と基礎本体64Aとにまたがって配置することができる。
【0061】
なお、非直線部材130は、その両端部103Aがコーン状破壊部30と基礎本体64Aとにまたがるように配置されていれば良く、その中心軸Xがアンカーボルト40の材軸と直交していなくても良い。また、非直線部材130の本数は2本に限らず、少なくとも1本の非直線部材130がコーン状破壊部30と基礎本体64Aとに複数箇所でまたがるように配置されていれば良い。更に、複数の非直線部材130を交差させて連結し、アンカーボルト40の端部周辺のコンクリートの拘束力を高めても良い。
【0062】
なお、上記第1、第2実施形態では、傾倒鉄筋36、114等がコーン状破壊面30Aと直交しているがこれに限らない。例えば、第1実施形態における傾倒鉄筋36はコーン状破壊部30と梁本体14Aとにまたがっていれば良い。傾倒鉄筋36がコーン状破壊部30と梁本体14Aとにまたがることにより、傾倒鉄筋36の梁本体14Aとの定着力によって、コーン状破壊部30が補強されるためである。また、傾倒鉄筋36を梁本体14A側へ延ばし、傾倒鉄筋36の梁本体14Aに対する定着長さを長くしても良い。これにより、コーン状破壊に対する補強効果を向上させることができる。
【0063】
また、上記第1〜第3実施形態において、各種の非直線部材を構成する環状鉄筋、傾倒鉄筋、折れ鉄筋、螺旋鉄筋に、異形鉄筋を用いることにより、コンクリートとの定着力を高めても良い。更に、各種の非直線部材は、PC鋼線、PC鋼棒等のPC鋼材や、ステンレス鉄筋、炭素繊維等を収束した繊維補強材等で構成することができる。また、上記第1〜第3実施形態では、棒材としてアンカーボルト、梁主筋等を用いたがこれに限らず、PC鋼線、PC鋼棒等のPC鋼材や、ステンレス鉄筋、炭素繊維等を収束した繊維補強材等を用いることができる。更に、アンカーボルトに替えて、L型アンカー、J型アンカー、ケミカルアンカー等を用いることもできる。
【0064】
更に、上記第1〜第3実施形態は、免震装置、ダンパー、ブレース、鋼製耐震壁等と基礎(フーチングを含む)、床、梁、小梁、柱との接合部にも適用することができる。また、図8に示す構成は、梁14、15の間に柱12を通す、いわゆる柱通しであるが、上下の柱の間に梁を通す、いわゆる梁通しとしても良い。この場合、梁に埋設される柱鉄筋が棒材となる。
【0065】
更にまた、柱12、梁14、15等のコンクリート部材(第1コンクリート部材、第2コンクリート部材)は、鉄筋コンクリート造に限らず、鉄骨鉄筋コンクリート造、プレストレスコンクリート造、更には現場打ち工法、プレキャスト工法等の種々の工法を用いることができる。また、鋼繊維、炭素繊維等が混入された補強コンクリートを用いることができる。
【0066】
また、上記第1〜第3実施形態は、建物の一部に用いても、全てに用いても良い。また、種々の構造の新築建物、改築建物に適用することができる。上記実施形態に係るコーン状破壊部補強構造を適用することにより、コーン状破壊を効率的に抑制することができ、施工性が向上された建物を構築することができる。
【0067】
以上、本発明の第1〜第3の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものでなく、第1〜第3の実施形態を組み合わせて用いてもよいし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0068】
12 柱(コンクリート部材、第1コンクリート部材)
14 梁(コンクリート部材、第2コンクリート部材)
15 梁(第2コンクリート部材)
18 梁主筋(棒材)
19 梁主筋(棒材)
20 非直線部材
30 コーン状破壊部
34 環状鉄筋(本体部)
36 傾倒鉄筋(傾倒部)
40 アンカーボルト(棒材)
64 基礎(コンクリート部材)
65 スラブ(第1コンクリート部材)
80 壁(第2コンクリート部材)
90 非直線部材
100 非直線部材
102 環状鉄筋(本体部)
104 傾倒鉄筋(傾倒部)
110 非直線部材
112 環状鉄筋(本体部)
114 傾倒鉄筋(傾倒部)
120 非直線部材
122 折れ鉄筋
122B 屈曲部
130 非直線部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート部材に埋設された棒材と、
前記コンクリート部材に埋設され、前記コンクリート部材から前記棒材が引き抜かれたときに、破壊される前記コンクリート部材のコーン状破壊部と該コーン状破壊部以外の前記コンクリート部材とに複数箇所でまたがる非直線部材と、
を備えるコンクリート部材補強構造。
【請求項2】
前記非直線部材が、
前記コーン状破壊部に埋設された本体部と、
前記本体部から前記棒材の引き抜き方向と反対方向へ、且つ、互いに離間する方向へ延びて、前記コーン状破壊部と該コーン状破壊部以外の前記コンクリート部材とにまたがる複数の傾倒部と、
を有する請求項1に記載のコンクリート部材補強構造。
【請求項3】
前記非直線部材が、
前記棒材が挿入される環状鉄筋と、
前記環状鉄筋と連結され、該環状鉄筋から前記棒材の引き抜き方向と反対方向へ放射状に延びて、前記コーン状破壊部と該コーン状破壊部以外の前記コンクリート部材とにまたがる複数の傾倒鉄筋と、
を有する請求項1に記載のコンクリート部材補強構造。
【請求項4】
前記非直線部材が、前棒材の材軸方向から見て格子状に連結され、両端部が前記コーン状破壊部と該コーン状破壊部以外の前記コンクリート部材とにまたがる複数の折れ鉄筋であり、
前記折れ鉄筋には、該折れ鉄筋の両端部を、前記非直線部材の引き抜き方向と反対側へ、且つ、互いに離間する方向へ延出させる屈曲部が設けられている請求項1に記載のコンクリート部材補強構造。
【請求項5】
前記非直線部材が、螺旋状に巻かれた螺旋状鉄筋である請求項1に記載のコンクリート部材補強構造。
【請求項6】
前記第1コンクリート部材と第2コンクリート部材にまたがって埋設される棒材と、
前記第1コンクリート部材に埋設され、前記第1コンクリート部材から前記棒材が引き抜かれたときに破壊される前記第1コンクリート部材のコーン状破壊部と、該コーン状破壊部以外の前記第1コンクリート部材とに複数箇所でまたがる非直線部材と、
を備えるコンクリート部材補強構造。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載のコンクリート部材補強構造を有する建物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−21434(P2011−21434A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−169351(P2009−169351)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】