説明

ゴルフボールの外観検査方法

【課題】ゴルフボール表面のディンプルとパターンマッチングさせる登録モデルデータの数を少なくして、パターンマッチングの処理時間を削減する。
【解決手段】ゴルフボールの表面を撮影して得られた2次元画像において、ディンプル3の形状を検出する際のパターンマッチングに用いる登録モデルデータ15として、ディンプル3端部の2点のそれぞれの近傍の画像データ31m,32mを用いるとともに、上記画像データ31m,32mの中心位置の位置データ31,32から、当該ディンプル3の中心位置Cを算出し、上記中心位置Cを通る複数の直線k1,k2,k3,……に沿った濃淡変化をそれぞれ検出して、上記ディンプル3の端部の位置を検出するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフボールの表面に生じた傷などの不良部分を検出してゴルフボールの外観を検査する方法に関するもので、特に、表面に多数のディンプルが形成されたゴルフボールの外観検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフボールは射出成形や圧縮成形等を用いて製造されるが、その際、ゴルフボールの表面に傷やウェルドあるいはゲート欠けなどの不良部分が生じることがある。これらの不良部分があると、ゴルフボールの飛距離が低下するなどの問題があるため、出荷前に外観検査を行って、上記不良部分のあるゴルフボールを取り除くようにしている。上記の外観検査は、従来、検査員が目視にて行っていたが、近年、画像処理装置を用いた自動外観検査が導入されている。具体的には、ゴルフボールを撮影して表面の2次元画像を作成し、上記2次元画像から傷や膨らみなどの不良部分を検出する。
ゴルフボールの表面には、飛距離を増大させる目的で、ディンプルと呼ばれる円形もしくは多角形の多数の凹部が形成されているため、2次元画像の明暗情報のみから上記ディンプルに起因する正常な明暗と上記不良部分に起因する異常な明暗とを判定することは極めて困難である。そこで、上記正常な明暗であるディンプルの位置情報を予め求めておけば、上記2次元画像の明暗情報から不良部分を精度良く検出することができる。
上記ディンプルのような特定の陰影を持つ部位の検出には、一般に、パターンマッチング法が用いられる。このパターンマッチング法は、表面にマークが設けられた検査対象物の検査対象部分を2次元カメラで測定し、得られた2次元画像上のマークと予め作成しておいた標準画像のマーク(登録モデルデータ)との一致度合いを測定して、当該検査対象物の外観の良否を判定するもので、画像処理装置を用いた自動外観検査に多く用いられている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開平9−326034号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、ゴルフボールの場合、ディンプルの形状自体が多様であり、また、球体表面上に配置されていることから、撮影された位置によっては同一形状のディンプルであっても同一の明暗状態を得ることが極めて困難であるため、従来は、これらの条件に対応するため、膨大な数のモデルデータを予め登録しておく必要があった。
このように、登録モデルデータの数が多いと、モデルデータの作成作業が大変なだけでなく、パターンマッチングの処理時間も長くなるため、検査に時間がかかっていた。
【0004】
本発明は、従来の問題点に鑑みてなされたもので、ゴルフボール表面のディンプルとパターンマッチングさせる登録モデルデータの数を少なくして、パターンマッチングの処理時間を削減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の請求項1に記載の発明は、表面に円形もしくは多角形状の多数のディンプルが形成されているゴルフボール表面の検査対象部分を一方向からの照明と2次元カメラとを用いて撮影し、この撮影されたカメラ像を画像処理して得られた2次元画像から、予め登録しておいた上記ディンプルの登録モデルデータを用いたパターンマッチングにより上記ディンプルの端部の位置を検出するとともに、上記ディンプルに起因する明暗部とは異なる異常な明暗部を検出し、上記異常な明暗部の明暗の度合いに基づいてゴルフボールの良否を判定するゴルフボールの外観検査方法において、上記登録モデルデータとして、ディンプル端部の2点のそれぞれの近傍の画像データを用いたことを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のゴルフボールの外観検査方法であって、上記2点はディンプル端部を構成する円の中心を通り2次元画像上での投光角度と並行な直線が上記円と交わる2点、もしくは、ディンプルを構成する多角形の辺上にありかつ上記多角形の内接円の中心を通り2次元画像上での投光角度と並行な直線が上記多角形と交わる2点であることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載のゴルフボールの外観検査方法であって、上記2次元画像の上記2点の中心を通る複数の直線に沿った濃淡変化をそれぞれ検出して、上記ディンプルの端部の位置を検出するようにしたものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ディンプルの位置を検出する際のパターンマッチングに用いる登録モデルデータとして、ディンプル端部の2点のそれぞれの近傍の画像データを用いることにより、少ないデータでパターンマッチングを行うことができるようにしたので、パターンマッチングの処理時間を削減することができ、外観検査の効率を向上させることができる。
このとき、上記2点として、ディンプル端部を構成する円の中心を通り2次元画像上での投光角度と並行な直線が上記円と交わる2点、もしくは、ディンプルを構成する多角形の辺上にありかつ上記多角形の内接円の中心を通り2次元画像上での投光角度と並行な直線が上記多角形と交わる2点とすれば、ディンプルの上,下もしくは左,右でパターンマッチングすればよいので、パターンマッチングを容易に行うことができる。
また、上記2次元画像の上記2点の中心を通る複数の直線に沿った濃淡変化をそれぞれ検出して、上記ディンプルの端部の位置を検出するようにすれば、ディンプル全体の形状を表す登録モデルデータを用いることなく、当該ディンプルの形状を確実に把握することができるので、ディンプルに起因する明暗部とは異なる異常な明暗部を確実に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の最良の形態について、図面に基づき説明する。
図1は、本最良の形態に係るゴルフボールの外観検査装置10の概要を示す図である。同図において、11は基台1上に搭載されたゴルフボール2の表面に光を照射する照明手段、12は上記ゴルフボール2を撮影する2次元カメラ、13は上記2次元カメラ12で採取した映像を画像処理して上記ゴルフボール2の表面の明暗像である2次元画像を生成する画像処理手段、14は後述する登録モデルデータ15(15A〜15Z)を記憶する記憶手段である。以下、パターンマッチングに使用するパターンのデータを登録モデルデータという。
16は上記2次元画像上のディンプル3に起因する明暗部のパターンと上記登録モデルデータ15のパターンとを比較して、上記明暗部に一致するパターンを有する登録モデルデータ15を選択するパターンマッチング処理手段、17は上記登録モデルデータ15を用いて、上記ディンプル3の端部の形状を検出して、上記ディンプル3の形状を検出するディンプル形状検出手段、18は上記明暗部から上記ディンプル3に起因する明暗部とは異なる異常な明暗部を検出する不良部分検出手段、19は上記検出された異常な明暗部の明暗の度合いに基づいて当該ゴルフボール2の良否を判定する判定手段である。
本例の登録モデルデータ15としては、図2(a)に示すような、ディンプルを構成する円20の中心線に対して線対称な位置にある2点21,22のそれぞれの近傍の画像データ21m,22m、あるいは、図2(b)に示すような、正六角形30とその内接円30Rとの接点31と、この接点31の上記内接円30Rの中心線lに対して線対称な位置にある接点32のそれぞれの近傍の画像データ31m,32mなどがある。
本例の登録モデルデータ15の特徴は、上記正六角形30のパターンマッチングに用いられる登録モデルデータ(画像データ31m,32m)を、図2(c)に示すような、正八角形40などの正2n角形の登録モデルデータとしても使用できることにある。すなわち、本発明の登録モデルデータ15は複数のディンプル形状に対して共通化である。
また、登録モデルデータとしては、上記登録モデルデータ(画像データ31m,32m)のような辺の画像データに限らず、図2(d)に示すような、頂点41,42近傍のの画像データ41m,42mを用いてもよい。
【0008】
次に、本発明によるゴルフボールの外観検査方法について図3のフローチャートを参照して説明する。
まず、一方向からの照明(照明手段11)と2次元カメラ12とを用いて検査対象物であるゴルフボールを撮影し(ステップS11)、この撮影されたカメラ像を画像処理して、図4(a)の上側の図に示すような、ゴルフボール表面の2次元画像Gを得る(ステップS12)。
次に、上記2次元画像Gの明暗像とパターンマッチングさせる登録モデルデータ15を選択し(ステップS13)、図4(a)の下側の図に示すような、上記選択された登録モデルデータ15を用いてパターンマッチングする(ステップS14)。本例では、上記登録モデルデータ15としては、はじめに、上記図2(b)に示した、正六角形30の画像データ31m,32mを用いた。パターンマッチングでは、図4(b)に示すように、上記登録モデルデータ15である上記画像データ31m,32mに、拡大、縮小、あるいは、回転といった予め設定した操作を施して、上記明暗像と上記画像データ31m,32mとの一致の度合いを調べる。上記一致の度合いは、一般に、明暗像と上記画像データ31m,32mとの複数箇所におけるずれ量の分散の大きさに基づいて行う。そして、上記分散の大きさが所定量以下であったどうかを調べる(ステップS15)。上記分散の大きさが所定量以下である場合には、パターンマッチングが成功したとして、次のステップS16に進む。
【0009】
ステップS16では、上記画像データ31m,32mから当該ディンプル3の中心位置を求める。具体的には、図4(c)に示すように、上記画像データ31m,32mの中心位置(内接円との接点)の位置データ31,32の位置データから、当該ディンプル3の中心位置Cを算出する。そして、上記中心位置Cを通る複数の直線k1,k2,k3,……に沿って、上記2次元画像Gの濃淡変化をそれぞれ検出して、上記ディンプル3の端部の位置を検出するとともに、傷などの不良箇所を検出する(ステップS17)。具体的には、横軸を上記2次元画像Gにおける検出位置とし、縦軸を上記検出位置における明暗の度合いを示す画素データの輝度とする。例えば、上記位置31,32を通る直線k1に沿った輝度変化をみると、ディンプル3は、2つの端部3a,3b間に跨る広い凹部3kとして検出されるが、傷4があった場合には、上記傷4に対応する幅の狭い凹み(暗部)4kとして検出される。したがって、ディンプル3と凹み4kとを区別することができる。このとき、上記検出した不良部分の数や深さを記憶手段14に記憶しておく。
また、上記ステップS15において、分散の大きさが所定量を超えた場合には、当該ゴルフボール2のディンプル3は上記画像データ31m,32mを用いてはパターンマッチングできないと判断し、ステップS13に戻って、記憶手段14に記憶されている別の登録モデルデータを選択して再度パターンマッチングする(ステップS14)。
1つのディンプル3の周囲の不良部分の検出が完了すると、上記ディンプル3に隣接するディンプル3の周囲の不良部分の検出を行う。そして、上記2次元画像につき、所定の個数であるn個のディンプル3の周囲の不良部分の検出が完了したどうかを調べる(ステップS18)。n個のディンプル3の周囲の不良部分の検出が完了したら、ステップS19に進んで、上記検出した不良部分の累積数、及び、傷の深さのデータなどに基づいて、当該ゴルフボール2の良否を判定する。
なお、実際の外観検査は、上記のように、1枚の2次元画像だけでなく、上記ゴルフボール2の撮影位置を変えて撮影した多数の2次元画像について、上記ステップS11〜ステップS18までの操作を行って不良箇所の検出を行い、所定の大きさ以上の傷があるかどうかや、上記不良箇所の累積数が所定数を超えたかどうかなどの判定基準を設けて、当該ゴルフボール2の良否の判定を行う。
【0010】
このように、本最良の形態では、ゴルフボール2の表面を撮影して得られた2次元画像において、ディンプル3の形状を検出する際のパターンマッチングに用いる登録モデルデータ15として、ディンプル3の端部の2点のそれぞれの近傍の画像データ31m,32mを用いるとともに、上記画像データ31m,32mの中心位置の位置データ31,32から、当該ディンプル3の中心位置Cを算出し、上記中心位置Cを通る複数の直線k1,k2,k3,……に沿った濃淡変化をそれぞれ検出して、上記ディンプル3の端部の位置を検出するようにしたので、ディンプル全体の形状を表すモデルがなくても、当該ディンプル3の形状を確実に把握することができるとともに、少ないデータでパターンマッチングを行うことができる。したがって、パターンマッチングの処理時間を削減することができるので、ゴルフボール2の外観検査の効率を向上させることができる。
【0011】
なお、上記最良の形態では、ディンプル3の形状を正六角形としたが、ディンプル3が図2(c)に示した八角形40や、図5に示すような、大きさの異なる2種類の八角形40a,40bから成るディンプルであっても、上記と同様の操作を行うことにより、ディンプル3の端部の形状や不良部分の検出を行うことができる。すなわち、基本的には、登録モデルデータ15として、ディンプル3の端部の2点のそれぞれの近傍の画像データを用いることにより、登録モデルデータ15を共通化できるので、パターンマッチングの時間を低減することができる。
また、上記ディンプル3が上記例で用いた多角形よりも対称性の低い多角形の場合には、上記2点として、ディンプル3を構成する多角形の辺上にありかつ上記2点を通る辺が互いに平行な2点とすればよい。これにより、ディンプルの上,下もしくは左,右でパターンマッチングすればよいので、パターンマッチングを容易に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0012】
以上説明したように、本発明によれば、パターンマッチングの処理時間を削減することができるので、ゴルフボールの外観検査の効率を向上させることができる。したがって、ゴルフボールの生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の最良の形態に係るゴルフボールの外観検査装置の概要を示すブロック図である。
【図2】本発明による登録モデルデータを示す図である。
【図3】本最良の形態に係るゴルフボールの外観検査方法の概要を示すフローチャートである。
【図4】ディンプル形状及び不良部分の検出方法を示す図である。
【図5】本発明による登録モデルデータの他の例を示す図である。
【符号の説明】
【0014】
1 基台、2 ゴルフボール、3 ディンプル、
10 ゴルフボールの外観検査装置、11 照明手段、12 2次元カメラ、
13 画像処理手段、14 記憶手段、15 登録モデルデータ、
16 パターンマッチング処理手段、17 ディンプル形状検出手段、
18 不良部分検出手段、19 判定手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に円形もしくは多角形状の多数のディンプルが形成されているゴルフボール表面の検査対象部分を一方向からの照明と2次元カメラとを用いて撮影し、この撮影されたカメラ像を画像処理して得られた2次元画像から、予め登録しておいた上記ディンプルの登録モデルデータを用いたパターンマッチングにより上記ディンプルの端部の位置を検出するとともに、上記ディンプルに起因する明暗部とは異なる異常な明暗部を検出し、上記異常な明暗部の明暗の度合いに基づいてゴルフボールの良否を判定するゴルフボールの外観検査方法において、上記登録モデルデータとして、ディンプル端部の2点のそれぞれの近傍の画像データを用いたことを特徴とするゴルフボールの外観検査方法。
【請求項2】
上記2点はディンプル端部を構成する円の中心を通り2次元画像上での投光角度と並行な直線が上記円と交わる2点、もしくは、ディンプルを構成する多角形の辺上にありかつ上記多角形の内接円の中心を通り2次元画像上での投光角度と並行な直線が上記多角形と交わる2点であることを特徴とする請求項1に記載のゴルフボールの外観検査方法。
【請求項3】
上記2次元画像の上記2点の中心を通る複数の直線に沿った濃淡変化をそれぞれ検出して、上記ディンプルの端部の位置を検出するようにしたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のゴルフボールの外観検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−257825(P2009−257825A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−104629(P2008−104629)
【出願日】平成20年4月14日(2008.4.14)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】