説明

サスペンションメンバ

【課題】 衝突時の多大な衝突エネルギの適切なエネルギのコントロールが図れることのできるサスペンションメンバを提供すること。
【解決手段】 車体の前後方向に延在し車体と連結される一対のサイドメンバ11と、両サイドメンバ間を連結し、エンジン等が支持されるクロスメンバ(リアクロスメンバ13,センタクロスメンバ12)が設けられる共に、サイドメンバにおける車室側の端部に車体への連結部(車室側連結部16)とを設け、かつ、この車室側連結部に対して車室と逆の部位にサスペンションアームを構成するロアアーム3の後部アーム支持部21と前部アーム支持部22を設けたサスペンションメンバにおいて、サイドメンバにおける車室側連結部と車室側連結部との距離が最も小さいサスペンションアーム支持部間に、前方からの衝撃力を受けた際に応力集中が生じる破断誘起部20を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、サスペンションメンバに関するもので、更に詳細には、車体側に連結され、サスペンションアームの車体側を支持すると共にエンジン等を設置する、サスペンションメンバに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、フロントサスペンションを構成するサスペンションメンバは、車体の前後方向に延在する一対のサイドメンバと、両サイドメンバに連結されるクロスメンバとを具備しており、サイドメンバにはサスペンションアームの車体側を支持する支持部が設けられ、クロスメンバの一部には、エンジンやステアリング装置等が搭載されている。
【0003】
また、この種のサスペンションメンバには、軽量化の観点からアルミニウム合金製の一体鋳造品によって形成されるものが使用されている。
【0004】
このアルミニウム合金製サスペンションメンバにはサスペンションアームやスタビライザ等を介して走行時大きな外力の入力があるため、その剛性及び強度をもたせるために、サイドメンバの内方側壁に、サスペンションアームを枢着する支持部からの距離に応じて車幅方向の幅が増大する補強フランジを設けた構造のものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、サスペンションメンバとしてエンジンをクロスメンバとその前方に配置させたエンジンサポートメンバにより固定したものが知られており、クロスメンバによってエンジンサポートメンバを固定すると共に、エンジンサポートメンバの前方部に切欠き部を形成し、衝突時にはこの切欠き部でエンジンサポートメンバを下方に変形し、エンジンを下方に変位させることによりエンジンの後方への変位を防止するようにした構造のものも知られている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特許第3175523号公報(特許請求の範囲、図1,図3)
【特許文献2】実開平5−78671号公報(実用新案登録請求の範囲、段落番号0011,0012、図1,図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前者すなわち特許第3175523号公報に記載の構造のものは、サスペンションメンバをアルミニウム合金製の一体鋳造品にて形成するに際し、小型化とサスペンションアームよりの外力に対する強度保持についての提案はあるが、逆にサスペンションメンバの全体強度が増加したことによる、衝突エネルギのコントロールに関しての開示はされていない。
【0007】
また、サスペンションアームには常時大きな外力が加わり頑強に形成されている為に、サスペンションメンバに前方より後方に向かう大きな衝突エネルギが加わった場合、サスペンションアームが車内側に移動しないようにする工夫が必要とされた。
【0008】
一方、後者すなわち実開平5−78671号公報に記載の構造のものにおいては、サイドメンバとクロスメンバの他に、エンジンを支持するエンジンサポートメンバと、このエンジンサポートメンバの固定部を補強する補強部材とを具備するために、構成部材が多くなると共に、重量が嵩み、かつ、組立が面倒な上、コストが嵩む等の問題があった。また、実開平5−78671号公報に記載の構造のものは、エンジンサポートメンバの前方部に設けられた切欠き部によって衝突時のエンジンサポートメンバを下方に変形させ、エンジンを下方に変位することが可能であり、衝突に際してエンジンの後方への移動を避けることの開示はなされているが衝突エネルギの伝達についての開示はなされていない。
【0009】
一方、自動車の衝突時に衝撃エネルギは車体(サイドフレームが変形することによりによりエネルギを吸収)で吸収し、乗員に加わる衝撃力を削減するように一般に設計されているが、上記のとおり、サスペンションメンバにおけるサスペンションアームが固定される部分は走行時大きな外力が加わるために強度が大きく設計されており、この部分とサスペンションアームが一体となって剛性の高い部分を形成することになり、この部分において衝突エネルギが予定通り吸収することが困難となり何等かの、衝突エネルギのコントロール方法の工夫が課題であった。
【0010】
この発明は上記事情に鑑みてなされたもので、衝突時の多大な衝突エネルギの適切なエネルギのコントロールが図れることのできるサスペンションメンバを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、車体の前後方向に延在する一対のサイドメンバと、両サイドメンバを連結するクロスメンバとよりなり、 上記サイドメンバにおける車室側の端部に車体への連結部を形成する車室側連結部を設けると共に、この車室側連結部に対して車室と逆の部位に1つあるいは2つ以上のサスペンションアーム支持部を設けたサスペンションメンバであって、 上記サイドメンバにおける車室側連結部と該車室側連結部との距離が最も小さいサスペンションアーム支持部との間に、サイドメンバの車室側と逆の端部が該サイドメンバを圧縮する向きに衝撃力を受けた際に応力集中が生じる破断誘起部を形成してなる、ことを特徴とする。
【0012】
このように構成することにより、サスペンションアームを支持するために基より強度が増強されると共にサスペンションアームの強度と相俟って高い剛性で形成されるサスペンションメンバのサスペンションアーム支持部分は、一定以上の衝突エネルギが負荷された際に、最も車室側に近いサスペンションアーム支持部と車体との連結部である車室側連結部との間で破断されることになる。
【0013】
これにより、サスペンションメンバのサスペンションアームの支持部分を介して衝突エネルギが車内に直接伝達されることがなくなり、衝突エネルギは車体本体(サイドフレーム)にてスムーズに吸収される。
【0014】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載のサスペンションメンバにおいて、上記サイドメンバは、少なくとも破断誘起部の領域を含む前後方向における表面部の裏面にサイドメンバに沿う補強リブを突設してなり、上記補強リブの先端部に、上記破断誘起部を形成する段部を設けた、ことを特徴とする。
【0015】
このように構成することにより、補強リブにより通常走行時にはサスペンションメンバに必要な強度を維持し、衝突等によって前方又は後方からの許容以上の衝撃力を受けた際に、段部に応力集中が生じるので、破断誘起部が確実に破断する。
【0016】
また、請求項3記載の発明は、請求項1記載のサスペンションメンバにおいて、上記サイドメンバは、少なくとも破断誘起部の領域を含む前後方向における表面部の裏面にサイドメンバに沿う補強リブを突設してなり、上記破断誘起部の領域に位置する補強リブの肉厚を、破断誘起部の前後で変化させてなる、ことを特徴とする。
【0017】
このように構成することにより、衝突等によって前方又は後方からの許容以上の衝撃力を受けた際に、補強リブの板厚変化部に応力集中が生じ破断誘起部となるので、板厚変化部が確実に破断する。
【0018】
また、請求項4記載の発明は、請求項1記載のサスペンションメンバにおいて、上記サイドメンバは、少なくとも破断誘起部の領域を含む前後方向における表面部の裏面にサイドメンバに沿う補強リブを突設してなり、上記補強リブの先端部に、上記破断誘起部を形成する切欠きを設けた、ことを特徴とする。
【0019】
このように構成することにより、衝突等によって前方又は後方からの許容以上の衝撃力を受けた際に、切欠きに応力集中が生じるので、許容以上の力によって破断誘起部が確実に破断する。
【0020】
また、請求項5記載の発明は、請求項1記載のサスペンションメンバであって、 上記サイドメンバにおける車室側連結部とサスペンションアーム支持部のうち車室側連結部との距離が最も小さいサスペンションアーム支持部との間に熱処理により破断誘起部となる強度低下部を形成してなる、ことを特徴とする。
【0021】
このように構成することにより、衝突等によって前方又は後方からの許容以上の衝撃力を受けた際に、上記サイドメンバにおける車室側連結部とサスペンションアーム支持部のうち車室側連結部との距離が最も小さいサスペンションアーム支持部との間に熱処理による強度低下部により破断誘起部が形成されるので衝撃力が許容以上になると破断され上記目的を達成する。
【0022】
なお、サイドメンバの車室側連結部とサスペンションアーム支持部のうち車室側連結部との距離が最も小さいサスペンションアーム支持部との間には、請求項2から4記載の発明と同様に補強リブを形成しておき、この補強リブに熱処理による強度低下部を形成してもよい。なお、熱処理としては加熱により強度低下を施す熱影響を与える既知の処理方法を施せばよい。
【0023】
また、請求項6記載の発明は、請求項1ないし5のいずれかに記載のサスペンションメンバにおいて、上記サイドメンバを、車室側が低位置となるように車体の前後方向に略クランク状に形成すると共に、低位置側に車室側連結部を設けた、ことを特徴とする。この場合、破断誘起部を、サイドメンバの低位置側に設ける方が好ましい(請求項7)。
【0024】
このように構成することにより、衝突等によって前方又は後方からの衝撃力を受けると、車室側連結部を支点として下方側に向かうモーメントが生じ、破断誘起部が破断した際に、サイドメンバが確実に下方に変位される。これにより、サスペンションメンバのサスペンションアームが固定される部分であるために強度が大きく形成されるとともにサスペンションアーム自体の強度と合わさり増強された部分が、衝突事故の際に車室側に移動することがない。また、エンジンも少なくとも車室側部がサスペンションメンバに支持されているので、衝突時に車室側に移動することがなく下方に変位させることができる。
【0025】
加えて、請求項8記載の発明は、請求項1ないし7のいずれかに記載のサスペンションメンバにおいて、上記サスペンションメンバの材質がアルミニウム合金であることを特徴とする。
【0026】
このように構成することにより、サスペンションメンバ自体を軽量にすることができる。
【発明の効果】
【0027】
この発明によれば、上記のように構成されているので、以下のような優れた効果が得られる。
【0028】
(1)請求項1〜5記載の発明によれば、衝突等によって前方又は後方からの衝撃力を受けた際に、破断誘起部に応力集中が生じ、衝撃力が許容限度以上に達すると破断誘起部が破断するので、衝突時に大きな衝突エネルギが負荷された際に、この衝突エネルギがサスペンションメンバを介して直接車内に伝わることがなく車体(サイドフレーム)にて適切に吸収されて伝えられることになる。
【0029】
(2)請求項6,7記載の発明によれば、衝突等によって前方又は後方からの衝撃力を受けると、車室側連結部を支点として下方側に向かうモーメントが生じ、破断誘起部が破断した際に、サイドメンバ及びサスペンションフレームを確実に下方に変位させることができるので車室側への移動が生じない。
【0030】
(3)請求項8記載の発明によれば、サスペンションメンバの材質をアルミニウム合金とすることにより、サスペンションメンバ自体を軽量にすることができるので、上記(1),(2)に加えて、更に軽量化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下に、この発明の最良の実施形態をフロントサスペンションメンバに利用した例を示す添付図面に基づいて詳細に説明する。
【0032】
図1は、この発明に係るアルミニウム合金製サスペンションメンバの平面図、図2は、図1の側面図、図3は、図1の底面図、図4は、この発明におけるサイドメンバの後端部と車体との連結部及びサスペンションアームのロアアームの支持部を示す底面斜視図、図5は、図4の拡大側面図である。
【0033】
上記サスペンションメンバ1は、図1ないし図3に示すように、車体の前後方向に延在する一対のサイドメンバ11と、両サイドメンバ11の中間部を連結するセンタクロスメンバ12及び両サイドメンバ11の後端側を連結するリアクロスメンバ13とを一体に形成したアルミニウム合金製の鋳造品によって形成されるサスペンションメンバ本体10と、両サイドメンバ11の車体前方側の先端部に連結されて車体の前後方向に延在するアルミニウム合金製押出形材で形成される補助サイドメンバ15と、その先端部に架設されるファーストクロスメンバ14とで主に構成されている。なお、サスペンションメンバ本体10において、サイドメンバ11とセンタクロスメンバ12及びリアクロスメンバ13との連結部は応力集中を避けるように円弧状に形成されている。
【0034】
補助サイドメンバ15をサスペンションメンバ本体10と別体に形成した理由は、複雑な形状となる本体部を鋳造成形し、単純な形状となる部分を別体の押出成形とし製造容易にしたことと、軽微な衝突に際し、補助サイドメンバ15により一定の範囲まで車体(サイドフレーム)と共に定常的にエネルギを吸収させることで、サスペンションメンバ本体10と、これに搭載されている駆動,操舵,制動装置等に影響を与えないようにするためである。
【0035】
上記サイドメンバ11には、車体の前後方向の後端部と中間部よりやや先端側部に、車体のサイドフレーム2への連結部16,17(以下に車室側連結部16,中間連結部17という)が設けられている。
【0036】
また、車室側連結部16の車体の前方向側部位には、サスペンションアームを構成するロアアーム3の後端側アーム片3aの支持部21(以下に第1の支持部21という)が設けられる。更に、車室側連結部16と第1の支持部21との間には、前方からの衝撃力を受けた際に、応力集中が生じ破断する破断誘起部20が設けられている。また、サイドメンバ11の中間部には、ロアアーム3の先端側アーム片3bの支持部22(以下に第2の支持部22という)が設けられている。
【0037】
また、サイドメンバ11は、表面部11aの両側辺に側壁11bを垂下した断面略逆U字状に形成されると共に、少なくとも破断誘起部20の領域を含む前後方向における表面部11aの裏面にサイドメンバ11に沿う補強リブ30が突設されている。なお、図3に示すように、車室側連結部16及び中間連結部17を構成する連結孔16a,17aを有するボス16b,17bにはそれぞれ補強リブ30が連設されて、強度の補強が図られており、通常の走行時に必要なサスペンションメンバ1の強度が維持されている。また、第1の支持部21を構成する取付孔21aを有する2つのボス21bにもそれぞれ補強リブ30が連設されて、強度の補強が図られている(図3参照)。なお、側壁11bもサイドメンバ11を補強する補強リブである。
【0038】
上記第2の支持部22は、車体の前後方向に対峙する前方側ブラケット22aと後方側ブラケット22bとで構成されており、前方側ブラケット22aの前方側及び後方側ブラケット22bの後方側には、それぞれ補強リブ23a,23bが連設されている(図2及び図3参照)。この場合、両ブラケット22a,22bはサイドメンバ11の側壁11bに連設されており、両ブラケット22a,22b間における側壁11bは、後方から前方に向かって高さが漸次低くなるようにカットされている。また、前方側ブラケット22aに連設する補強リブ23aの高さを後方側ブラケット22bに連設する補強リブ23bに対して低く形成してある。このように形成することにより、前方側ブラケット22aに若干の可撓性をもたせ、後方側ブラケット22bに剛性をもたせている。すなわち、第2の支持部22にロアアーム3の先端側アーム片3bを取り付ける際、ブッシュを装着した先端側アーム片3bを両ブラケット22a,22b間に挿入し、両ブラケット22a,22b及び先端側アーム片3bを貫通するボルト24にナット25を螺合すると、前方側ブラケット22aが撓んで先端側アーム片3bを強固に締結することができる。また、ロアアーム3からの力や前方からの力に対して後方側ブラケット22bが剛性を有する。
【0039】
更に、サイドメンバ11は、図2に示すように、車体後方側(車室側)が低位置となるように車体の前後方向に略クランク状に形成されると共に、低位置側に車室側連結部16及び破断誘起部20が設けられている。この場合、サイドメンバ11のクランク状の段差部11cは、曲面状に形成され、また、平面視において、サイドメンバ11のセンタクロスメンバ12の取付け位置からリアクロスメンバ13の取付け位置に向けて後端側が互いに近接する方向に傾斜して設けられると共に、後端部から車室側連結部16に向けて互いに離反する方向に向かって広がっている(図1,図3参照)。この車室側連結部16の連結孔16aを貫通するボルト,ナット等の固定部材(図示せず)によってサスペンションメンバ1はサイドフレーム2に連結されている。また、車室側連結部16の前方側近傍位置に第1の支持部21の取付孔21aが設けられ、車室側連結部16と第1の支持部21との間の補強リブ30と側壁11bに上記破断誘起部20が形成されている。
【0040】
また、サイドメンバ11の車室側連結部16から取付孔21a、21aに向けて2つの補強リブ30が、サイドメンバ11の後端側から前方端に向かって拡開テーパ状にそれぞれ設けられており、各補強リブ30の先端部には破断誘起部20となる段部20Aが設けられている。
【0041】
なお、上記破断誘起部20は、図6に示すように、サイドメンバ11のクランク部から車室側連結部16に渡って設けられる側壁11bの先端部に設けられた段部20Aによっても形成されている。
【0042】
したがって、衝突により前方からの衝撃力が作用すると、破断誘起部20すなわち段部20Aに応力集中が生じ、衝撃力が許容限度以上に達すると、段部20Aに亀裂が生じ、その後破断誘起部20が破断されるようになっている(図8(a),(b)参照)。なお、本実施態様にあっては、サイドメンバ11における破断誘起部20の断面と、破断誘起部20より前方側の断面は、サイドメンバ11の表面部を平坦状にして概略的に図示すると、図6(a),(b)に示すような断面となっており、破断誘起部20の後方における側壁11bないし補強リブ30の高さH1,補強リブ30の板厚T1,と破断誘起部20より前方側の断面における補強リブ30の高さH2,補強リブ30の板厚T2はH1<H2,T1<T2であり補強リブ30の高さと厚さが変化するので応力集中が生じやすく、破断誘起部20において確実に破断される。
【0043】
なお、本実施態様にあっては、補強リブ30の高さと板厚共に、破断誘起部20の前後で変化させたが、いずれか一方でもよい。また、補強リブ30の高さをH1<H2としたが、H1>H2としても高さの変化部で応力集中を生じ、破断誘起20を構成することができる。また、補強リブ30の板厚についてもT1>T2としてもよく、いずれにしても補強リブ30の高さないし板厚を変化させることにより、応力集中を生じさせ破断誘起部20での破断を誘起させればよい。
【0044】
これらの破断誘起部20は補強リブ30の他、補強リブを構成する側壁11bの双方に形成してもよいし、その何れかに形成することもできる。
【0045】
また、破断誘起部20の幅W1に対して、破断誘起部20より前方側の断面におけるサイドメンバ11の幅W2はW1<W2であるので、サイドメンバ11における破断誘起部20の断面積は、破断誘起部20より前方側の断面積より小さくなり、破断誘起部20で確実に破断される。
【0046】
上記センタクロスメンバ12の左右両側には、エンジン4を固定するための取付孔12aが設けられており、これら取付孔12aを貫通する取付ボルト等の締結部材(図示せず)介してエンジン4の後端部が固定されるようになっている。なお、エンジン4の前方側はサイドフレーム2に固定される。
【0047】
なお、サイドメンバ11の先端側の対向する内面には、スタビライザ6を取り付けるブラケット19が突設されている。また、リアクロスメンバ13に一端部が取り付けられ、他端部が補剛板7を介してセンタクロスメンバ12に取り付けられるセンターバー8を用いて、ステアリング部品(図示せず)がサスペンションメンバ1上に組み付けられるようになっている。
【0048】
上記補助サイドメンバ15は、アルミニウム合金製の断面略中空矩形状の押出形材によって形成されており、サスペンションメンバ本体10の両サイドメンバ11の先端部に、それぞれアングル状の取付金具40及び取付ボルト51,ナット52をもって連結されている。両補助サイドメンバ15の先端部間にはファーストクロスメンバ14が連結されている。また、補助サイドメンバ15の先端部には、車体のサイドフレーム2への先端連結部18が設けられている。
【0049】
この補助サイドメンバ15をサスペンションメンバ本体10に取り付けるには、まず、補助サイドメンバ15の取付側の端部内の対向する内面(上下辺)に当接するアルミニウム合金製の押出形材にて形成されるカラー60を仮止めしておき、この補助サイドメンバ15の端部を、断面略逆U字状のサイドメンバ11の先端部内に挿入する。次に、取付金具40の取付片41を補助サイドメンバ15の下面に当接し、下方から取付ボルト51を取付片41に設けられた取付孔41a,補助サイドメンバ15に設けられた貫通孔15a,カラー60に設けられた貫通孔60a及びサイドメンバ11の表面部11aに設けられた透孔11d内を貫通した状態で、取付ボルト51の突出部にナット52を締結する。この際、カラー60が補助サイドメンバ15の対向する内面に当接しているので、補助サイドメンバ15は変形することがなく、サイドメンバ11の表面部11aと取付片41間に強固に挟持される。そして、取付金具40の固定片42に設けられた長孔42aを介して固定ボルト53を上記スタビライザ6を取り付けるブラケット19に貫通し、その突出部にナット54を螺合して、補助サイドメンバ15をサスペンションメンバ本体10に連結する。
【0050】
上記のように構成されるサスペンションメンバ1は、先端連結部18,中間連結部17及び車室側連結部16に図示しないボルト,ナットをもって車体のサイドフレーム2に固定され、サイドメンバ11の第1の支持部21及び第2の支持部22にサスペンションアームのロアアーム3の後端側アーム片3a及び先端側アーム片3bが支持される。
【0051】
上記サスペンションメンバ1によれば、図8(a),(b)に示すように、衝突等によって前方から衝撃力を受けると、まず、サスペンションメンバ本体10に比べて剛性の低い補助サイドメンバ15が座屈変形して衝撃エネルギを吸収し、更に衝撃力が加わると、サイドメンバ11には、車室側連結部16を支点として下方方向の曲げモーメントが作用すると共に、破断誘起部20すなわち段部20Aに応力集中が生じ、応力が許容限度以上に達すると、破断誘起部20に亀裂が生じ、破断誘起部20が破断される。
【0052】
これにより、衝突により生じる衝撃エネルギはサスペンションメンバ1を介して車内に伝わることがなくなり、衝撃エネルギは車体(サイドフレーム)を介して車内に伝わることになる。つまり、車体の座屈(サイドフレームの軸圧壊)によりエネルギをスムーズに吸収することとなる。また上記破断に伴い、サイドメンバ11,ロアアーム3が下方に変位する。したがって、車体内にロアアーム3が移動するのを阻止することができる。
【0053】
なお、上記実施形態では、破断誘起部20が補強リブ30ないし側壁11bの先端に設けられた段部20Aによって形成される場合について説明したが、段部20Aに代えて、例えば図9(a),(b)に示すように、破断誘起部20の領域に位置する補強リブ30ないし側壁11bの肉厚t1を、前方側の補強リブ30の肉厚t2に対して薄く形成してもよい。
【0054】
また、この場合、破断誘起部20の領域に位置する補強リブ30ないし側壁11bの肉厚t1を、前方側の補強リブ30の肉厚t2に対して厚く形成してもよい。
【0055】
また、これに代えて、図10に示すように、補強リブ30ないし側壁11bの先端部に設けた切欠き20Bによって破断誘起部20を形成してもよい。あるいは、図11に示すように、サイドメンバ11における車室側連結部16の車体前方向側の部位を加熱し軟化させる熱処理を施こした熱処理部20Cにより、前方からの衝撃力を受けた際に破断を促すように軟化させて破断誘起部20を形成してもよい。
【0056】
なお、この熱処理は破断誘起部20を再結晶温度以上に加熱すればよく、例えば、アークトーチ、ないし電子ビーム,レーザービーム等にて410℃で20秒程度の加熱を行うことでできる。
【0057】
なお、図9,図10,図11において、その他の部分は、第1実施形態と同じであるので、同一部分には同一符号を付して説明は省略する。
【0058】
なお、上記図9,図10,図11に示した破断誘起部20(薄肉厚t1,切欠き20B,熱処理20C)は単独に設けてもよく、あるいは、第1実施形態の段部20Aを含めて併用して設けるようにしてもよい。
【0059】
また、上記実施形態では、この発明に係るサスペンションメンバをフロントエンジン車に適用した場合について説明したが、この発明に係るサスペンションメンバをリアエンジン車に適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】この発明に係るアルミニウム合金製サスペンションメンバを示す平面図である。
【図2】上記サスペンションメンバの側面図である。
【図3】上記サスペンションメンバの底面図である。
【図4】この発明における車室側連結部と破断誘起部を示す底面斜視図である。
【図5】この発明における破断誘起部の第1実施形態を示す拡大側面図である。
【図6】図5のI−I線に沿う概略断面図(a)及び図5のII−II線に沿う概略断面図(b)である。
【図7】この発明におけるサスペンショウンメンバ本体と補助サイドメンバの連結部を示す断面図(a)及び(a)のIII−III線に沿う断面図(b)である。
【図8】衝撃によって破断される前の状態及び破断後の状態を示す概略側面図である。
【図9】この発明における破断誘起部の第2実施形態を示す要部底面斜視図(a)及び(a)のIV部の拡大底面図(b)である。
【図10】この発明における破断誘起部の第3実施形態を示す拡大側面図である。
【図11】この発明における破断誘起部の第4実施形態を示す概略底面図である。
【符号の説明】
【0061】
1 サスペンションメンバ
2 サイドフレーム
3 ロアアーム
4 エンジン
10 サスペンションメンバ本体
11 サイドメンバ
11a 表面部
11b 側壁
11c 段差部
12 センタクロスメンバ
13 リアクロスメンバ
14 ファーストクロスメンバ
15 補助サイドメンバ
16 車室側連結部
17 中間連結部
18 先端連結部
20 破断誘起部
20A 段部
20B 切欠き
20C 熱処理部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の前後方向に延在する一対のサイドメンバと、両サイドメンバを連結するクロスメンバとよりなり、
上記サイドメンバにおける車室側の端部に車体への連結部を形成する車室側連結部を設けると共に、この車室側連結部に対して車室と逆の部位に1つあるいは2つ以上のサスペンションアーム支持部を設けたサスペンションメンバであって、
上記サイドメンバにおける車室側連結部と該車室側連結部との距離が最も小さいサスペンションアーム支持部との間に、サイドメンバの車室側と逆の端部が該サイドメンバを圧縮する向きに衝撃力を受けた際に応力集中が生じる破断誘起部を形成してなる、ことを特徴とするサスペンションメンバ。
【請求項2】
請求項1記載のサスペンションメンバにおいて、
上記サイドメンバは、少なくとも破断誘起部の領域を含む前後方向における表面部の裏面にサイドメンバに沿う補強リブを突設してなり、上記補強リブの先端部に、上記破断誘起部を形成する段部を設けた、ことを特徴とするサスペンションメンバ。
【請求項3】
請求項1記載のサスペンションメンバにおいて、
上記サイドメンバは、少なくとも破断誘起部の領域を含む前後方向における表面部の裏面にサイドメンバに沿う補強リブを突設してなり、上記破断誘起部の領域に位置する補強リブの肉厚を、破断誘起部の前後で変化させてなる、ことを特徴とするサスペンションメンバ。
【請求項4】
請求項1記載のサスペンションメンバにおいて、
上記サイドメンバは、少なくとも破断誘起部の領域を含む前後方向における表面部の裏面にサイドメンバに沿う補強リブを突設してなり、上記補強リブの先端部に、上記破断誘起部を形成する切欠きを設けた、ことを特徴とするサスペンションメンバ。
【請求項5】
請求項1記載のサスペンションメンバであって、
上記サイドメンバにおける車室側連結部とサスペンションアーム支持部のうち車室側連結部との距離が最も小さいサスペンションアーム支持部との間に熱処理により破断誘起部となる強度低下部を形成してなる、ことを特徴とするサスペンションメンバ。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載のサスペンションメンバにおいて、
上記サイドメンバを、車室側が低位置となるように車体の前後方向に略クランク状に形成すると共に、低位置側に車室側連結部を設けた、ことを特徴とするサスペンションメンバ。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載のサスペンションメンバにおいて、
上記サイドメンバを、車室側が低位置となるように車体の前後方向に略クランク状に形成し、低位置側に車室側連結部を設けると共に、破断誘起部を低位置側に設けた、ことを特徴とするサスペンションメンバ。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載のサスペンションメンバにおいて、
上記サスペンションメンバの材質がアルミニウム合金であることを特徴とするサスペンションメンバ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−347253(P2006−347253A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−173480(P2005−173480)
【出願日】平成17年6月14日(2005.6.14)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】