説明

サスペンション構造、ブッシュ構造、サスペンション特性調整方法

【課題】旋回走行時の操縦安定性や操舵感を向上させる。
【解決手段】車体前後方向に並ぶ前側ロアリンク及び後側ロアリンクによって車輪と車体とを揺動可能な状態で個別に連結し、前側ロアリンク及び後側ロアリンク同士をコネクトブッシュによって連結する。また、後側ロアリンクに内筒71を連結し、前側ロアリンクに外筒81を連結する。そして、外筒81の内周面82には、内筒71の外周面72に向かって突出する凸部83を形成することで、弾性体91における車体上下方向に沿った径方向の厚みを、車幅方向に沿った径方向の厚みよりも薄くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はサスペンション構造、ブッシュ構造、サスペンション特性調整方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載された従来技術では、前側ロアリンクと後側ロアリンクとをブッシュを介して連結しており、ブッシュ軸は略車体前後方向に配置している。一般に、ブッシュにおける軸直角方向の剛性に方向性を持たせる場合には、内筒と外筒との間のゴムに対して、軸方向に沿って貫通させたスグリを形成することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−247069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、軸方向に沿って貫通させたスグリを形成すると、軸直角方向における角度毎の剛性が、スグリを設けている部位と設けていない部位とで急変するので、旋回走行時の操縦安定性や操舵感に影響を及ぼす可能性がある。
本発明の課題は、旋回走行時の操縦安定性や操舵感を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するため、車体前後方向に並ぶ前側サスペンションリンク及び後側サスペンションリンクによってアクスルハウジングと車体とを揺動可能な状態で連結し、前側サスペンションリンク及び後側サスペンションリンク同士をコネクトブッシュによって連結する。また、前側サスペンションリンク及び後側サスペンションリンクの一方にコネクトブッシュの内筒を連結し、他方にコネクトブッシュの外筒を連結する。そして、内筒の外周面、及び外筒の内周面の少なくとも一方に、他方に向かって突出する凸部を形成することで、弾性体における車体上下方向に沿った径方向の厚みを、車幅方向に沿った径方向の厚みよりも薄くする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、弾性体における車体上下方向に沿った径方向の厚みを、車幅方向に沿った径方向の厚みよりも薄くすることで、車幅方向の剛性よりも車体上下方向の剛性を相対的に高めることができる。しかも、軸方向に貫通したスグリを形成する場合と比べて、軸直角方向における角度毎の剛性が急変することを抑制できる。したがって、旋回走行時の操縦安定性や操舵感を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】後輪サスペンションの概略構成を示す斜視図である。
【図2】後左輪サスペンションの概略構成を示す上面図である。
【図3】後左輪サスペンションの概略構成を示す正面図である。
【図4】後側ロアリンクの外観図である。
【図5】コネクトブッシュの単品図である。
【図6】前側ロアリンクに対するコネクトブッシュの取付け状態を示す正面図である。
【図7】前側ロアリンクに対するコネクトブッシュの取付け状態を示す断面図である。
【図8】軸直角方向における角度毎の剛性を示す図である。
【図9】前後力入力時のリンク状態を示す図である。
【図10】前後力の入力に対する車輪の前後変位量を示す図である。
【図11】弾性体における変位と荷重の関係を示す図である。
【図12】凸部に関する変形例1を示す図である。
【図13】凸部に関する変形例2を示す図である。
【図14】凸部に関する変形例3を示す図である。
【図15】凸部に関する変形例4を示す図である。
【図16】凸部に関する変形例5を示す図である。
【図17】コネクトブッシュに関する変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図を参照して本発明を適用した自動車の実施の形態を説明する。
《第一実施形態》
《構成》
図1は、後輪サスペンションの概略構成を示す斜視図である。
図2は、後左輪サスペンションの概略構成を示す上面図である。
図3は、後左輪サスペンションの概略構成を示す正面図である。
【0009】
本実施形態では、独立懸架した後左輪のサスペンションについて説明する。
サスペンション構造は、車輪1を車体側のサスペンションメンバ2に懸架し、アクスルハウジング11(ハブキャリア)と、前側ロアリンク12と、後側ロアリンク13と、アッパリンク14と、コイルスプリング15と、ストラット5(図1)と、を備える。
【0010】
アクスルハウジング11は、車輪1を回転自在に支持する。
前側ロアリンク12、及び後側ロアリンク13は、略同等の上下位置で、車体前後方向に並べてある。
前側ロアリンク12は、車幅方向外側の一端が、ブッシュ21を介して揺動可能にアクスルハウジング11の前側下部に連結してあり、車幅方向内側の他端が、ブッシュ22を介して揺動可能にサスペンションメンバ2の前側下部に連結してある。平面視で、各連結点の車体前後方向の位置は、車幅方向外側の連結点(ブッシュ21)が、車幅方向内側の連結点(ブッシュ22)よりもやや後側である。
【0011】
後側ロアリンク13は、車幅方向外側の一端が、ブッシュ23を介して揺動可能にアクスルハウジング11の後側下部に連結してあり、車幅方向内側の他端が、ブッシュ24を介して揺動可能にサスペンションメンバ2の後側下部に連結してある。平面視で、各連結点の車体前後方向の位置は、車幅方向外側の連結点(ブッシュ23)と、車幅方向内側の連結点(ブッシュ24)とは略同等である。
【0012】
アクスルハウジング11に対する、前側ロアリンク12の連結点(ブッシュ21)と、後側ロアリンク13の連結点(ブッシュ23)との距離は、サスペンションメンバ2に対する、前側ロアリンク12の連結点(ブッシュ22)と、後側ロアリンク13の連結点(ブッシュ24)との距離よりも短い。すなわち、ブッシュ21及び22を結ぶ直線L1(前側ロアリンク12の軸線)と、ブッシュ23及び24を結ぶ直線L2(後側ロアリンク13の軸線)とは、車幅方向外側で交差する。
【0013】
アッパリンク14は、車幅方向外側の一端が、ブッシュ25を介して揺動可能にアクスルハウジング11の上部に連結してあり、車幅方向内側の他端が、ブッシュ26を介して揺動可能にサスペンションメンバ2の上部に連結してある。
各ブッシュ21〜26は、入れ子状に形成された外筒と内筒との間にゴム体からなる弾性体を介装して構成してある。本実施形態では、前側ロアリンク12、後側ロアリンク13、アッパリンク14の夫々の両端を外筒に連結し、アクスルハウジング11、サスペンションメンバ2の夫々に内筒を連結する。
【0014】
後側ロアリンク13には、前側ロアリンク12に向かって張り出した板状の張出部16が一体形成してある。張出部16は、車体前後方向の前端が、コネクトブッシュ27及び28を介して一定の相対変位が可能な状態で前側ロアリンク12に連結してある。
コネクトブッシュ27及び28は、前側ロアリンク12に沿って並べてある。コネクトブッシュ27及び28は、入れ子状に形成された外筒と内筒との間にゴム体からなる弾性体を介装して構成してある。本実施形態では、ブッシュ軸を略前後方向とし、前側ロアリンク12を外筒に連結し、張出部16を内筒に連結する。
【0015】
これらコネクトブッシュ27及び28の可動範囲(撓み範囲)で、前側ロアリンク12に対して張出部16及び後側ロアリンク13が相対変位可能となる。なお、本実施形態では、コネクトブッシュ27及び28の剛性は、上下方向の剛性に対して車幅方向の剛性が低くなる異方性を有する。
なお、コネクトブッシュ27及び28について詳しくは後述する。
【0016】
ここで、制動時のトーコントロールについて説明する。
制動などによって車輪1に対し車体後側への入力があると、アクスルハウジング11が車体後側へ変位する。このとき、アクスルハウジング11に対する、前側ロアリンク12の連結点(ブッシュ21)と、後側ロアリンク13の連結点(ブッシュ23)とは、車体後方への変位量が略同等となる。しかしながら、直線L1及びL2を前述したように配置した場合、車幅方向内側への変位量については、前側ロアリンク12の連結点(ブッシュ21)の方が後側ロアリンク13の連結点(ブッシュ23)よりも大きくなる。つまり、アクスルハウジング11の前側の連結点(ブッシュ21)が、車幅方向内側へ引き込まれる。したがって、制動時に車輪1にトーイン方向のトー変化が生じるので、安定性が向上する。
【0017】
次に、コイルスプリング15について説明する。
コイルスプリング15は、コイル軸XAを略上下方向とし、後側ロアリンク13と車体との間に介装してある。平面視で、コイルスプリング15の位置は、直線L2に重なるように配置し、好ましくはコイル軸XAを直線L2上に配置する。
本実施形態では、車幅方向外側の連結点(ブッシュ23)と、車幅方向内側の連結点(ブッシュ24)と、の略中間位置にマウントしてある。コイルスプリング15の座面は、張出部16にも重なり、コイルスプリング15の外径に応じて、後側ロアリンク13における車体後側の外形を拡張させている。
【0018】
次に、コイルスプリング15の組み付け構造について説明する。
図4は、後側ロアリンクの外観図である。
後側ロアリンク13とコイルスプリング15の下端との間には、ロアスプリングシート17を介装してある。すなわち、後側ロアリンク13に対して環状のロアスプリングシート17を組み付け、このロアスプリングシート17に対してコイルスプリング15の下端を組みつけてある。
【0019】
後側ロアリンク13は、薄平型で略凹状に形成した一対のロアブラケット31及びアッパブラケット32を、夫々の凹面を対向させて接合した中空構造にしてある。ロアブラケット31とアッパブラケット32とは、アーク溶接によって一体化させている。
後側ロアリンク13において、サスペンションメンバ2との連結点(ブッシュ24)から前側ロアリンク12との車幅方向内側の連結点(ブッシュ28)にかけて断面積が急変している湾曲部18がある。この湾曲部18には、ロアブラケット31及びアッパブラケット32に双方を挟持する補剛ブラケット19を連結してある。後側ロアリンク13と補剛ブラケット19とは、アーク溶接によって一体化させている。
【0020】
なお、ロアブラケット31の凹面(内側の底面)にロアスプリングシート17を設置しており、このロアスプリングシート17に下端を組み付けたコイルスプリング15は、アッパブラケット32に形成した開口部を介して上方に突出している。
次に、コネクトブッシュ27及び28について説明する。
なお、コネクトブッシュ27及び28は同一構造であるため、ここではコネクトブッシュ27について説明する。
【0021】
図5は、コネクトブッシュの単品図である。
図中の(a)は、コネクトブッシュ27の上面図、縦断面図、及び軸直角断面図であり、(b)は内筒71及び外筒81の単品の斜視図である。
コネクトブッシュ27は、略車体前後方向に沿った軸を有する内筒71と、この内筒71の径方向外側に配置した外筒81と、これら内筒71及び外筒81の間に介装した弾性体91と、を備える。内筒71は、後側ロアリンク13の張出部16に連結し、外筒81は前側ロアリンク12に連結する。
【0022】
内筒71と外筒81とは、略同軸に配置してあり、内筒71の外周面72に外筒81の内周面82を対向させている。外筒81の内周面82のうち、軸方向(P方向)の略中央で、車体上下方向(R方向)における両側の二箇所には、内筒71の外周面72に向かって突出し、且つ略車幅方向(Q方向)に沿って筋状に延びる一対の凸部83を形成してある。
凸部83は、外筒81における外周面84を、車体上下方向(R方向)に沿って内筒71側に凹状に変形させて形成してある。すなわち、外筒81を径方向外側から車体上下方向(R方向)に挟圧することで、径方向内側に圧潰している。軸方向に見て、挟圧部85は、径方向外側に膨らむ略円弧状に形成してある。
【0023】
この凸部83の形成により、弾性体91には、車体上下方向(R方向)に沿った径方向の厚みが薄肉となる薄肉部92と、車幅方向(Q方向)に沿った径方向の厚みが厚肉となる厚肉部93と、を形成してある。これにより、軸直角方向の圧縮変形において、薄肉部92の剛性は、厚肉部93の剛性よりも高くなる。すなわち、コネクトブッシュ27は、車体上下方向(R方向)のバネが硬く(弾性力が高く)、車幅方向(Q方向)のバネが柔らかく(弾性力が低く)なる。
【0024】
なお、外筒81に対する凸部83の形成は、内筒71と外筒81との間に弾性体91を加硫成形した後に行う。このように、内筒71と外筒81との間に弾性体91を加硫成形してから外筒81の内周面82に凸部83を形成すると、弾性体91は、内筒71の外周面72と凸部83と間に位置する部位が、他の部位よりも高密度となり、車体上下方向(R方向)の剛性がより高まることになる。
【0025】
弾性体91における軸方向(P方向)両側の端面94のうち、車幅方向(Q方向)における両側の二箇所には、軸方向に凹む一対のスグリ95を周方向に沿って形成してある。このスグリ95は、軸方向に貫通しない比較的浅い溝からなる。このスグリ95の形成により、車幅方向(Q方向)における弾性体91の剛性が、スグリ95を形成しない場合よりも低くなる。
【0026】
内筒71における軸方向(P方向)一端側の外周面72のうち、車幅方向(Q方向)における両側の二箇所には、車体上下方向(R方向)と略平行な一対の切欠面73を形成してある。この切欠面73の形成により、内筒71における車体上下方向(R方向)に沿った径方向の厚みは、車幅方向(Q方向)における径方向の厚みよりも薄くなる。したがって、外筒81の内径を一定とすると、弾性体91における車幅方向(Q方向)に沿った径方向の厚みが厚くなり、その分、車幅方向(Q方向)における弾性体91の剛性が、切欠面73を形成しない場合よりも低くなる。
【0027】
上記の構成により、弾性体91における薄肉部92における径方向の厚みや密度、及び軸方向の幅や周方向の長さ等を調整することで、車体上下方向(R方向)の剛性を調整する。又は、凸部83における突出量、軸方向の幅や車幅方向の長さ等を調整することで、車体上下方向(R方向)の剛性を調整する。一方、スグリ95における軸方向の深さや径方向の幅、及び周方向の長さ等を調整することで、車幅方向(Q方向)の剛性を調整する。又は、切欠面73における軸方向の長さや車体上下方向の長さ、及び切欠高さ(=軸からの距離)等を調整することで、車幅方向(Q方向)の剛性を調整する。そして、これら全てを総合して、軸直角方向における角度毎の剛性を調整する。
【0028】
なお、前述したように内筒71と外筒81との間に弾性体91を加硫成形してから外筒81の内周面82に凸部83を形成する場合、一対のスグリ95に対して90°位相を変位させた位置に、一対の凸部83を形成する必要がある。一対のスグリ95と一対の切欠面73とは同一方向に配置してあるので、一対の切欠面73に対して90°位相を変位させた位置に、一対の凸部83を形成すればよい。
【0029】
したがって、コネクトブッシュ27の製造過程で、凸部83を形成する際には、一対の切欠面73を基準にしてコネクトブッシュ27を治具(図示省略)へとセットする。すなわち、一対の切欠面73は、コネクトブッシュ27の製造過程において、治具に対する位置決め機能をも兼ねる。
図6は、前側ロアリンクに対するコネクトブッシュの取付け状態を示す正面図である。
【0030】
図7は、前側ロアリンクに対するコネクトブッシュの取付け状態を示す断面図である。
図中の(a)はコネクトブッシュ27の従断面図であり、(b)は外筒81の圧入方向における先端86の拡大断面図である。
前側ロアリンク13に対してコネクトブッシュ27を車体後側から圧入してある。すなわち、前側ロアリンク13の嵌合孔29に対してコネクトブッシュ27の外筒81を車体後側から圧入してある。外筒81における圧入方向の先端86は、圧入時のガイドのために、前記ロアリンク13の嵌合孔に対して径方向内側に向けて折り曲げた形状にしている。
【0031】
《作用》
従来のブッシュ構造によれば、軸直角方向の剛性に方向性を持たせるために、弾性体に対して、軸方向に沿って貫通させたスグリを形成していた。しかしながら、軸方向にそって貫通させたスグリを形成すると、次のような問題が生じ得る。
先ず、軸直角方向における角度毎の剛性が、スグリを設けている部位と設けていない部位とで急変するので、旋回走行時の操縦安定性や操舵感に影響を及ぼす可能性がある。また、スグリに泥水が溜まると、設計時の撓み特性が得られず、所望のコンプライアンスステアを得にくくなる。さらに、予期せぬチッピング等により仮に弾性体に傷が付いてしまうと、スグリから破損が進展しやすい。
【0032】
そこで、本実施形態のブッシュ構造では、コネクトブッシュ27及び28には、弾性体91に対して軸方向に沿って貫通したスグリは設けていない。代わりに、外筒81の内周面82には、内筒71の外周面72に向かって突出する凸部83を形成し、弾性体91における車体上下方向に沿った径方向の厚みを、車幅方向に沿った径方向の厚みよりも薄くしている。
【0033】
このように、弾性体91における車体上下方向に沿った径方向の厚みを、車幅方向に沿った径方向の厚みよりも薄くすることで、車幅方向の剛性よりも車体上下方向の剛性を相対的に高めることができる。しかも、軸方向に貫通したスグリを形成する場合と比べて、軸直角方向における角度毎の剛性が急変することを抑制できる。したがって、旋回走行時の操縦安定性や操舵感を向上させることができる。
【0034】
図8は、軸直角方向における角度毎の剛性を示す図である。
従来のブッシュ構造のように、軸方向に沿って貫通させたスグリを形成すると、軸直角方向における角度毎の剛性が、スグリを設けている部位と設けていない部位とで急変してしまう。一方、本実施形態のブッシュ構造のように、弾性体91における車体上下方向に沿った径方向の厚みを、車幅方向に沿った径方向の厚みよりも薄くすることで、軸直角方向における角度毎の剛性変化を緩やか(略線形)にすることができる。
また、本実施形態のブッシュ構造によれば、泥水が溜まることもないので、設計時の撓み特性を確保し、所望のコンプライアンスステアを実現できる。さらに、予期せぬチッピング等により仮に弾性体91に傷が付いたとしても、従来のブッシュ構造に比べると、破損の進展は生じにくい。
【0035】
また、外筒81の内周面82のうち、車体上下方向(R方向)における両側の二箇所には、内筒71の外周面72に向かって突出する一対の凸部83を形成してある。これにより、コネクトブッシュ27及び28に対して、車体上下方向に大きな荷重が入力されるとしても、内筒71の外周面72に対して外筒81の凸部83が干渉することで、車体上下方向の過大な相対変位を抑制することができる。すなわち、凸部83がストッパとして機能する。
本実施形態のようなリンク構成にすると、車輪1が突起を乗り上げたり、段差部を下ったりして、車輪1に前後力が入力されたときに、車輪1が車体前後方向へと変位することが判明している。
【0036】
図9は、前後力入力時のリンク状態を示す図である。
図中の(a)は、リンクの正面図であり、(b)はリンクの平面図である。
ここで、車輪1のホイールセンタに対して車体後側への入力があると、コネクトブッシュ27及び28に対して、夫々、車体上下方向の力が作用する。この上下方向の力によって、図9(b)に示すように、前側ロアリンク12及び後側ロアリンク13が、実線で示した位置から、破線で示した位置へ、つまり車体前側へと変位する。すなわち、車輪1に対して車輪1に前後力が入力されたときに、車輪1が車体前後方向に変位する主な原因の一つは、コネクトブッシュ27及び28における車体上下方向の過大な揺動である。
【0037】
図10は、前後力の入力に対する車輪の前後変位量を示す図である。
ここでは、外筒81に凸部81を形成せずに、内筒71と外筒81との車体上下方向における相対変位を係止しないものを対策前の比較例とする。一方、内筒71と外筒81との車体上下方向における相対変位を、外周面72と凸部81との当接によって係止するものを対策後の本実施形態として記す。
【0038】
対策前も対策後も、前後力の入力が大きいほど、車輪1(ホイールセンタ)の前後変位量が大きくなる。しかしながら、上記のように、内筒71と外筒81との車体上下方向における過大な相対変位を、外周面72と凸部83との当接によって係止することで、車輪1が車体前側へと大きく変位することを抑制できる。したがって、車輪1が車体に接触してしまうといった事態を確実に回避することができる。
【0039】
図11は、弾性体における変位と荷重の関係を示す図である。
弾性体91における車体上下方向に沿った径方向の厚みを薄くしたことで、耐久入力を入れた際の荷重の立ち上がりが早くなるので、変位を抑制することができ、耐久応力値を下げることができる。したがって、コネクトブッシュ27及び28の単品の耐久性を向上させることができる。
外筒81に対する凸部83の形成は、内筒71と外筒81との間に弾性体91を加硫成形した後に行う。これにより、弾性体91は、内筒71の外周面72と凸部83と間に位置する部位が、他の部位よりも高密度となり、車体上下方向の剛性がより高まることになる。つまり、剛性を稼ぐことができる。
【0040】
内筒71の外周面72のうち、車幅方向における両側の二箇所には、車体上下方向と略平行な一対の切欠面73を形成してある。この切欠面73の形成により、内筒71における車幅方向に沿った径方向の厚みを厚くできる。したがって、車幅方向における弾性体91の剛性を低くすることができる。
なお、各部品の形状、配置、数量などは、本発明の主旨を逸脱しない範囲で任意に変更してもよい。
以上より、前側ロアリンク12が「前側サスペンションリンク」に対応し、後側ロアリンク13が「後側サスペンションリンク」に対応し、コネクトブッシュ27及び28が「ブッシュ」に対応する。
【0041】
《効果》
(1)本実施形態のサスペンション構造によれば、車体前後方向に沿った軸を有し、前側ロアリンク12及び後側ロアリンク13同士を連結するコネクトブッシュ27及び28を備える。コネクトブッシュ27及び28における外筒81の内周面82には、内筒71の外周面72に向かって突出する凸部83を形成し、弾性体91における車体上下方向に沿った径方向の厚みを、車幅方向に沿った径方向の厚みよりも薄くする。
【0042】
このように、弾性体91における車体上下方向に沿った径方向の厚みを、車幅方向に沿った径方向の厚みよりも薄くすることで、車幅方向の剛性よりも車体上下方向の剛性を相対的に高めることができる。しかも、軸方向に貫通したスグリを形成する場合と比べて、軸直角方向における角度毎の剛性が急変することを抑制できる。したがって、旋回走行時の操縦安定性や操舵感を向上させることができる。
【0043】
(2)本実施形態のサスペンション構造によれば、外筒81における軸方向の中央を、車体上下方向に沿って内筒71側に変形させることで、外筒81の内周面82に凸部83を形成する。
このように、外筒81を車体上下方向に沿って内筒71側に変形させて凸部83を形成するという簡易な構造なので、製造が容易で、コストの増大も抑制できる。
【0044】
(3)本実施形態のサスペンション構造によれば、内筒71及び外筒81の間に弾性体91を介装してから、外筒81における軸方向の中央を、車体上下方向に沿って内筒71側に変形させる。
このように、外筒81に対する凸部83の形成は、内筒71と外筒81との間に弾性体91を加硫成形した後に行うことで、弾性体91における内筒71の外周面72と凸部83と間に位置する部位が高密度となり、車体上下方向の剛性を高めることができる。
【0045】
(4)本実施形態のサスペンション構造によれば、内筒71の外周面72のうち、車幅方向の両側には、車体上下方向と平行な切欠面73を形成する。
このように、内筒71の外周面72に車体上下方向と略平行な切欠面73を形成したことで、内筒71における車幅方向に沿った径方向の厚みを厚くし、車幅方向における弾性体91の剛性を低くすることができる。また、コネクトブッシュ27の製造過程においては、治具に対する位置決めを容易にする。
【0046】
(5)本実施形態のブッシュ構造によれば、外筒81の内周面82には、内筒71の外周面72に向かって突出することで、弾性体91における車体上下方向に沿った径方向の厚みを、車幅方向に沿った径方向の厚みよりも薄くする凸部83を形成する。
このように、弾性体91における車体上下方向に沿った径方向の厚みを、車幅方向に沿った径方向の厚みよりも薄くすることで、車幅方向の剛性よりも車体上下方向の剛性を相対的に高めることができる。しかも、軸方向に貫通したスグリを形成する場合と比べて、軸直角方向における角度毎の剛性が急変することを抑制できる。したがって、旋回走行時の操縦安定性や操舵感を向上させることができる。
【0047】
(6)本実施形態のサスペンション特性調整方法によれば、コネクトブッシュ27及び28を、車体前後方向に沿った軸を有する内筒71と、内筒71の外周面に対向する内周面を有する外筒81と、内筒71及び外筒81の間に介装した弾性体91と、で形成する。そして、外筒81の内周面82に、内筒71の外周面72に向かって突出する凸部83を形成することで、弾性体91における車体上下方向に沿った径方向の厚みを、車幅方向に沿った径方向の厚みよりも薄くする。
【0048】
このように、弾性体91における車体上下方向に沿った径方向の厚みを、車幅方向に沿った径方向の厚みよりも薄くすることで、車幅方向の剛性よりも車体上下方向の剛性を相対的に高めることができる。しかも、軸方向に貫通したスグリを形成する場合と比べて、軸直角方向における角度毎の剛性が急変することを抑制できる。したがって、旋回走行時の操縦安定性や操舵感を向上させることができる。
【0049】
《変形例》
先ず、本実施形態では、内筒71を後側ロアリンク13の張出部16に連結し、外筒81を前側ロアリンク12に連結しているが、勿論、外筒81を後側ロアリンク13の張出部16に連結し、内筒71を前側ロアリンク12に連結してもよい。
この変形例であっても、前述した本実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0050】
また、本実施形態では、外筒81の内周面82に凸部83を形成しているが、内筒面71の外周面72に凸部を形成してもよい。以下に具体例を示す。
図12は、凸部に関する変形例1を示す図である。
図中の(a)は、コネクトブッシュ27の上面図、及び縦断面図であり、(b)は内筒71の斜視図である。
内筒71の外周面72に、異種材料となる樹脂を加硫成形することで、外筒81の内周面82に向かって突出する凸部74を形成してもよい。
【0051】
図13は、凸部に関する変形例2を示す図である。
図中の(a)は、コネクトブッシュ27の上面図、及び縦断面図であり、(b)は内筒71の斜視図である。
内筒71を内側から膨出させるバルジ加工により、外筒81の内周面82に向かって突出する凸部75を形成してもよい。
【0052】
図14は、凸部に関する変形例3を示す図である。
図中の(a)は、コネクトブッシュ27の上面図、及び縦断面図であり、(b)は内筒71の斜視図である。
鍛造により、内筒71の外周面72に外筒81の内周面82に向かって突出する凸部76を形成してもよい。ここでは、外周面72のうち、軸方向に沿った略中央で、車体上下方向における両側の二箇所に、凸部76を形成してある。また、外周面72のうち、車幅方向における両側の二箇所に、車体上下方向と略平行な切欠面73を形成してある。
【0053】
図15は、凸部に関する変形例4を示す図である。
図中の(a)は、コネクトブッシュ27の上面図、及び縦断面図であり、(b)は内筒71の斜視図である。
鍛造により、内筒71の外周面72に外筒81の内周面82に向かって突出する凸部76を形成してもよい。ここでは、外周面72のうち、軸方向に沿った全体で、車体上下方向における両側の二箇所に、凸部76を形成してある。
【0054】
図16は、凸部に関する変形例5を示す図である。
図中の(a)は、コネクトブッシュ27の上面図、及び縦断面図であり、(b)は内筒71の斜視図である。
鍛造により、内筒71の外周面72に外筒81の内周面82に向かって突出する凸部76を形成してもよい。ここでは、外周面72のうち、軸方向に沿った略中央で、車体上下方向における両側の二箇所に、凸部76を形成してある。
【0055】
上記の変形例1〜5であっても、前述した本実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
また、本実施形態では、前側ロアリンク12と後側ロアリンク13とを二つのコネクトブッシュ27及び28で連結しているが、一つのコネクトブッシュ27で連結してもよい。
図17は、コネクトブッシュに関する変形例を示す図である。
この変形例であっても、前述した本実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0056】
1 車輪
2 サスペンションメンバ
11 アクスルハウジング
12 前側ロアリンク
13 後側ロアリンク
14 アッパリンク
15 コイルスプリング
16 張出部
17 ロアスプリングシート
18 湾曲部
19 補剛ブラケット
27 コネクトブッシュ
28 コネクトブッシュ
31 ロアブラケット
32 アッパブラケット
71 内筒
72 外周面
73 切欠面
74 凸部(樹脂)
75 凸部(バルジ加工)
76 凸部(鍛造)
81 外筒
82 内周面
83 凸部
84 外周面
85 挟圧部
86 先端
91 弾性体
92 薄肉部
93 厚肉部
94 端面
95 スグリ
XA コイル軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と、
前記車輪を支持するアクスルハウジングと、
車体前後方向に並び、夫々が前記アクスルハウジングと車体とを連結点を介して揺動可能に連結する前側サスペンションリンク及び後側サスペンションリンクと、
前記前側サスペンションリンク及び前記後側サスペンションリンク同士を連結するコネクトブッシュと、を備え、
前記コネクトブッシュは、
車体前後方向に沿った軸を有し、前記前側サスペンションリンク及び後側サスペンションリンクの一方に連結した内筒と、
前記内筒の外周面に対向する内周面を有し、前記前側サスペンションリンク及び前記後側サスペンションリンクの他方に連結した外筒と、
前記内筒及び前記外筒の間に介装した弾性体と、
前記内筒の外周面、及び前記外筒の内周面の少なくとも一方に位置し、他方に向かって突出することで、前記弾性体における車体上下方向に沿った径方向の厚みを、車幅方向に沿った径方向の厚みよりも薄くする凸部と、を備えることを特徴とするサスペンション構造。
【請求項2】
前記外筒における軸方向の中央を、車体上下方向に沿って前記内筒側に変形させることで、前記外筒の内周面に前記凸部を形成したことを特徴とする請求項1に記載のサスペンション構造。
【請求項3】
前記内筒及び前記外筒の間に弾性体を介装してから、前記外筒における軸方向の中央を、車体上下方向に沿って前記内筒側に変形させたことを特徴とする請求項2に記載のサスペンション構造。
【請求項4】
前記内筒の外周面のうち、車幅方向の両側に、車体上下方向と平行な切欠面を有することを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載のサスペンション構造。
【請求項5】
車体前後方向に沿った軸を有する内筒と、
前記内筒の外周面に対向する内周面を有する外筒と、
前記内筒及び前記外筒の間に介装した弾性体と、
前記内筒の外周面、及び前記外筒の内周面の少なくとも一方に位置し、他方に向かって突出することで、前記弾性体における車体上下方向に沿った径方向の厚みを、車幅方向に沿った径方向の厚みよりも薄くする凸部と、を備えることを特徴とするブッシュ構造。
【請求項6】
車輪をアクスルハウジングによって支持し、
車体前後方向に並ぶ前側サスペンションリンク及び後側サスペンションリンクによって前記アクスルハウジングと車体とを揺動可能な状態で連結し、
前記前側サスペンションリンク及び前記後側サスペンションリンク同士をコネクトブッシュによって連結し、
前記コネクトブッシュを、車体前後方向に沿った軸を有する内筒と、前記内筒の外周面に対向する内周面を有する外筒と、前記内筒及び前記外筒の間に介装した弾性体と、で形成し、
前記前側サスペンションリンク及び前記後側サスペンションリンクの一方に前記内筒を連結すると共に、他方に前記外筒を連結し、
前記内筒の外周面、及び前記外筒の内周面の少なくとも一方に、他方に向かって突出する凸部を形成することで、前記弾性体における車体上下方向に沿った径方向の厚みを、車幅方向に沿った径方向の厚みよりも薄くすることを特徴とするサスペンション特性調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−240457(P2012−240457A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109664(P2011−109664)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】