説明

サスペンション装置

【課題】インパクトショックを効果的に低減するとともに悪路旋回中における乗り心地をも向上することができるサスペンション装置を提供することである。
【解決手段】上記目的を達成するために、本発明の課題解決手段は、上記ばね下部材に作用する車両前後方向の加速度を検知する加速度検知手段5と、加速度検知手段で検知した加速度から車両が悪路を走行中であることを判定する悪路判定手段と、車両旋回を検知する旋回検知手段6とを備え、車両旋回を検知しないか悪路を走行中でない場合、上記加速度が所定の閾値を超えると緩衝器2における減衰力のうち少なくとも圧側減衰力を最小減衰力とするとともに、車両旋回を検知する場合であって車両が悪路を走行中であると判定された場合には緩衝器2における減衰力のうち少なくとも圧側減衰力を上記最小減衰力以上であって通常制御における圧側減衰力以下の小減衰力とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サスペンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、サスペンション装置にあっては、車両のばね上部材とばね下部材との間に介装されて使用され、たとえば、車両のばね上部材とばね下部材との間に介装される緩衝器と、緩衝器が発生する減衰力を調節するアクチュエータと、アクチュエータを制御して緩衝器の発生する減衰力を制御する制御装置と、ばね上加速度を検知するばね上加速度検知器と、ばね上部材とばね下部材との相対変位を検出する相対変位検出器とを備えて構成されている。
【0003】
そして、このサスペンション装置にあっては、スカイフック制御を基本として制御し、ばね上部材の振動を抑制するようにしている。ところで、特に、車両走行時において車輪が路面上の段差に乗り上げて通過するような場合に車体に入力される振動(インパクトショック)はハーシュネスと称され、車両における乗り心地を悪化させる一因となっている。スカイフック制御では、ばね下部材の動きに対しては減衰力を発生しないように制御するため、理論的には、インパクトショックを低減できるのであるが、ばね下部材の動きを全く減衰させないとばね下部材の振動を収束させることができないため、実際には、サスペンション装置は、ばね下部材の振動を抑える減衰力を発生するようになっていて、インパクトショックの低減には限界がある。
【0004】
そこで、上記した従来のサスペンション装置にあっては、ばね下部材からばね上部材に伝播するハーシュネスに対して、ばね上部材とばね下部材の相対変位成分からこれを検知して、減衰力を低減し車体への振動伝達を抑制するようにし、上記車体へのインパクトショックを抑制するようにしている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−143965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特開平6−143965号公報に開示されているサスペンション装置では、以下の理由によってインパクトショックを充分に低減することが難しい。
【0007】
車両が前方向に走行中において車輪が路面上の段差に乗り上げる場合、ばね下部材には、車両側方視で前から後上方へ向かう方向への力が作用し、緩衝器はばね上部材取付部を中心としてブッシュ撓み分だけ後方側への首ふり運動を呈するがそれ以上の後方への首ふりが制限されるため、上記力は緩衝器の軸方向へ逃げて、当該力が緩衝器を介して車体に伝達されることになる。
【0008】
このように、段差乗り上げに伴う力は、車両前後方向の分力が大きく、直ちにばね上部材に伝達されないことから、従来のサスペンション装置のように、スカイフック制御に加えて上記相対変位(または相対速度)の振動に含まれる高周波成分に基づいて減衰力を補正する制御を取り入れた制御の仕方では、段差乗り上げに伴う振動の入力から減衰力の低減する制御を実施するまでに制御上の応答遅れが生じてしまうことになり、その結果としてインパクトショックを充分に低減することができないのである。
【0009】
また、特開平6−143965号公報に開示されているサスペンション装置では、上記相対変位(または相対速度)の振動に含まれる高周波成分に基づいて減衰力を補正するようになっているので、車両が悪路上を旋回する場面では、減衰力が低くなりすぎて車体のローリングが過大となるなどして、乗り心地を損なう虞がある。
【0010】
そこで、本発明は、上記した不具合を改善するために創案されたものであって、その目的とするところは、インパクトショックを効果的に低減するとともに悪路旋回中における乗り心地をも向上することができるサスペンション装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の課題解決手段は、車両におけるばね上部材とばね下部材との間に介装されてばね上部材とばね下部材との相対移動を抑制する減衰力を発揮する緩衝器と、当該緩衝器における減衰力を調節可能な減衰力調整機構と、当該減衰力調整機構を制御する制御装置とを備えたサスペンション装置において、上記ばね下部材に作用する車両前後方向の加速度を検知する加速度検知手段と、加速度検知手段で検知した加速度から車両が悪路を走行中であることを判定する悪路判定手段と、車両の旋回を検知する旋回検知手段とを備え、上記制御装置は、旋回検知手段が車両の旋回を検知しないか悪路を走行中でない場合、上記加速度検知手段で検知した加速度が所定の閾値を超えると上記緩衝器における減衰力のうち少なくとも圧側減衰力を最小減衰力とするとともに、旋回検知手段が車両の旋回を検知する場合であって悪路判定手段により車両が悪路を走行中であると判定された場合には上記緩衝器における減衰力のうち少なくとも圧側減衰力を上記最小減衰力以上であって通常制御における圧側減衰力以下の小減衰力とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のサスペンション装置によれば、車両が旋回中でなく路面上の段差や突起に単発的或いは連続的に乗り上げて通過するような場合や車両が旋回中であって路面上の段差や突起に単発的に乗り上げて通過するような場合にあっては、緩衝器の発生減衰力を最小減衰力に設定してインパクトショックが低減されて車両における乗り心地が向上される。
【0013】
また、本発明のサスペンション装置によれば、車両が旋回中であって路面上の段差や突起に連続的に乗り上げて通過するような場合にあっては、緩衝器の発生減衰力を最小減衰力以上であって通常制御時の減衰力以下の小減衰力に設定して、連続して入力されるインパクトショックを低減しつつ車体ローリングを抑制して、車体姿勢を安定させつつ車両における乗り心地を向上させることができる。
【0014】
そして、ばね下部材の上下方向ではなく車両前後方向の加速度に基づいてインパクトショックを判断するようになっているからインパクトショックの入力から減衰力を低減する制御を実施するまでの制御上の応答遅れを生じさせず、さらには、ばね下部材の上下方向ではなく車両前後方向の加速度に基づいてインパクトショックを判断するからインパクトショックの入力があったことを確実に判定することができるので、減衰力の低減に遅れを生じることが無く、インパクトショックを充分に低減する。
【0015】
それゆえ、このサスペンション装置によれば、インパクトショックを効果的に低減でき、悪路旋回中における乗り心地をも向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】一実施の形態におけるサスペンション装置の概略構成図である。
【図2】一実施の形態におけるサスペンション装置における制御装置の処理手順を示すフローチャートである。
【図3】車両の速度をパラメータとして悪路判定のための所定時間を設定するためのマップを示す図である。
【図4】ばね下部材の固有周期と減衰力低減制御の継続時間である所定期間を説明する図である。
【図5】減衰力低減制御の継続時間である所定期間を説明する図である。
【図6】車両の速度をパラメータとして小減衰力の値を設定するためのマップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。図1に示すように、一実施の形態におけるサスペンション装置1は、図示しない車両におけるばね上部材とばね下部材との間に介装されてばね上部材とばね下部材との相対移動を抑制する減衰力を発揮する緩衝器2と、当該緩衝器2における減衰力を調節可能な減衰力調整機構3と、当該減衰力調整機構3を制御する制御装置4と、上記ばね下部材に作用する車両前後方向の加速度を検知する加速度検知手段5と、加速度検知手段5で検知した加速度から車両が悪路を走行中であることを判定する悪路判定手段と、車両の旋回を検知する旋回検知手段6とを備えて構成されている。なお、詳しくは後述するが悪路判定手段は、制御装置4が兼ねている。
【0018】
以下、各部材について詳細に説明すると、緩衝器2は、詳しくは図示しないが、たとえば、シリンダと、シリンダ内に摺動自在に挿入されるピストンと、シリンダ内に移動自在に挿入されてピストンに連結されるピストンロッドと、シリンダ内にピストンで区画した二つの圧力室と、圧力室同士を連通する通路と、通路の途中に設けられて流路面積を変更可能な減衰弁とを備えて構成される流体圧緩衝器とされており、ばね上部材とばね下部材との間に介装されている。そして、この緩衝器2は、伸縮作動に応じて圧力室内に充填された流体が通路を通過する際に減衰弁にて抵抗を与えて当該伸縮作動を抑制する減衰力を発揮し、ばね上部材とばね下部材の相対移動を抑制するようになっている。なお、流体には、作動油のほか、水、水溶液、気体を利用することができる。流体が液体であって、緩衝器2が片ロッド型緩衝器である場合、緩衝器2は、シリンダ内にピストンロッドが出入りする体積を補償するために気体室やリザーバを備えるが、流体が気体である場合、気体室やリザーバを備えずともよい。
【0019】
また、緩衝器2がリザーバを備えて伸長しても収縮してもシリンダ内からリザーバへ通じる通路を介して流体が排出されるユニフロー型に設定される場合、シリンダからリザーバへ通じる通路の途中に減衰弁を設けて、流体の流れに抵抗を与えて減衰力を発揮するようにしてもよい。
【0020】
減衰力調整機構3は、この場合、上記緩衝器2の減衰弁における弁体を駆動して減衰弁の流路面積を調節することができるようになっていて、たとえば、ソレノイドやアクチュエータとされている。
【0021】
なお、緩衝器2の上記した構成は、一例であって、たとえば、緩衝器2が電気粘性流体や磁気粘性流体を圧力室内に充填している場合、上記通路に減衰弁の代わりに電圧或いは磁界を作用させることができる装置を組み込み、これを減衰力調整機構3とし、制御装置4からの指令によって電圧或いは磁界の大きさを調節して緩衝器2の発生減衰力を制御するとしてもよい。
【0022】
さらに、緩衝器2は、上記以外にも、電磁力でばね上部材とばね下部材の相対移動を抑制する減衰力を発揮する電磁緩衝器とされてもよく、電磁緩衝器としては、たとえば、モータと、モータの回転運動を直線運動に返還する運動変換機構とを備えて構成されるか、リニアモータとされる。このように緩衝器2が電磁緩衝器である場合には、減衰力調整機構3は上記モータ或いはリニアモータに流れる電流を調節するモータ駆動装置とされればよい。
【0023】
加速度検知手段5は、たとえば、加速度センサとされており、車輪を回転自在に保持するナックルや緩衝器2のピストンロッドとシリンダのうちばね下部材へ連結される部材等に取り付けられて、ばね下部材における車両前後方向の加速度を検知するようになっている。車輪が段差や突起に乗り上げる際に作用する加速度は、車両前後方向の加速度成分を含んでおり、加速度検知手段5で車両前後方向の加速度を検知することにより、路面上の段差や突起の乗り上げがあったか否かを判断することができる。なお、加速度センサは、車両前後方向の加速度を検知できればよいので、検出方向が車両前後方向に一致しなくともよく、検出した加速度からばね下部材の車両前後方向の加速度成分を抽出可能であればよい。
【0024】
上記したように加速度検知手段5は、加速度センサとされればよいが、加速度センサ以外にも、緩衝器2に作用する曲げモーメントによる歪や、車輪を車体に対して支持するサスペンションアーム等の上記インパクトショック時に車両の前後方向の加速度の作用によって歪む部材の歪量を計測することによって、当該加速度を検知するようにしてもよい。
【0025】
そして、制御装置4は、加速度検知手段5で検知した加速度が所定の閾値を超えるか否かを判定する。また、制御装置4は、この判定とは別に、悪路判定を行うようになっていて、加速度検知手段5が所定時間内に上記所定の閾値を超える加速度を複数回検知すると車両が悪路を走行中であると判定する。すなわち、制御装置4は、上記処理を実行することで悪路判定手段を実現しており、制御装置4は悪路判定手段を兼ねている。具体的には、たとえば、加速度検知手段5が予め決められたサンプリング周期でばね下部材の車両前後方向の加速度を検知し、制御装置4は、検知した加速度が上記所定の閾値を超えてから次に検知した加速度が所定の閾値を超えたときまでの時間を計測し、当該時間が上記所定時間より短いと、悪路走行中であると判断するようにすればよい。なお、上記所定閾値は、制動時のようにインパクトショックの入力時よりも小さい加速度が作用する場合に減衰力低減制御を実施しないような値に設定される。つまり、上記所定閾値は、車両の制動時に作用する車両前後方向加速度以上であってインパクトショック時における車両前後方向加速度未満に設定されるとよく、閾値は実験的、経験的に求めてもよいし、また、走行速度によってもインパクトショック時と制動時における加速度が異なるので、走行速度をパラメータとして閾値を変更するように運用してもよい。また、上記所定時間は、凹凸が連続する路面上を車両が走行する場合に、加速度が上記所定の閾値を超えてから次に加速度が当該所定の閾値を超えるまでの時間を実験的、経験的に求めてもよいし、また、車両の速度を検知する速度検知手段7を設けておき、速度に応じて所定時間を変化させてもよい。というのは、段差が連続したり突起が連続したりする悪路を走行する場合、車両の走行速度が速ければ速いほど上記所定の閾値を超える加速度の時間間隔が短くなるので、走行速度に対して比例するように所定時間を設定するようにしてもよい。なお、走行速度に応じて所定時間を設定するには上記制御装置4に速度検知手段7で検知した速度を入力するようにして、制御装置4で所定時間を求めるようにしておけばよい。他方、速度検知手段7は、たとえば、周知の車速パルスを得て車両の速度を検知するようになっている。
【0026】
旋回検知手段6は、車両が旋回中であることを検知するため、車両の操舵輪における操舵角を検知する角度センサを備えており、舵角が制御装置4に入力され、制御装置4では、舵角が舵角閾値を超えることをもってして車両が旋回中であるとを検知するようになっている。また、旋回検知手段6は、上記構成に代えて、車両の横方向加速度を検知する横加速度センサを用いて、制御装置4で当該車両横加速度が横加速度閾値を超えることをもってして車両が旋回中であることを検知するようにしてもよい。さらに、旋回検知手段6は、車両のヨーレートを検知するヨーレートセンサとされもよい。
【0027】
つづいて、制御装置4は、加速度検知装置5で検知した加速度が所定の閾値を超えるか否かを判定し、上記加速度が所定の閾値を超える場合であって、車両の旋回を検知しないか悪路走行中でない場合、緩衝器2の発生する減衰力を一番小さい最小減衰力としてインパクトショックを低減させる減衰力低減制御を実行する。この場合、悪路判定手段によって車両が悪路を走行中であると判定されてもそうでなくとも、車両は直進中であって段差や突起に単発的か連続的に乗り上げている状況であるか、旋回中であっても段差や突起に単発的に乗り上げている状況であって、この場合には、緩衝器2の減衰力を限りなく小さくすることでインパクトショックを低減することが望ましいので、緩衝器2の発生する減衰力を最小減衰力にしてインパクトショックを低減させて車両における乗り心地を向上させる。
【0028】
また、制御装置4は、車両旋回を検知する場合であって、上記所定時間内に所定の閾値を超える加速度が複数回検知されて悪路を走行中であると判定された場合には、悪路による連続するインパクトショックの低減と旋回中の車体姿勢の安定が要求されることから、緩衝器2の発生する減衰力を最小減衰力以上であって後述する通常制御による減衰力以下の小減衰力に設定して、連続して入力されるインパクトショックを低減しつつ車体ローリングを抑制して、車体姿勢を安定させつつ車両における乗り心地を向上させる。
【0029】
上記制御とは別に、制御装置4は、車両旋回の検知の有無、悪路走行判定の結果に関わらず、上記加速度が所定の閾値以下の場合には、緩衝器2の減衰力を通常制御してばね上部材の振動を抑制する。そのため、たとえば、ばね上部材の上下方向加速度を検知する上下加速度センサ8と、ばね上部材とばね下部材の相対速度を検知する相対速度検知手段9と備えており、上下加速度センサ8で検知した加速度からばね上速度を求め、上記ばね上速度と相対速度検知手段9で検知した相対速度とスカイフック減衰係数から緩衝器2が発揮すべき減衰力を求め、当該求めた減衰力どおりに緩衝器2が減衰力を発揮するように、減衰力調整機構3に指令を与えるようになっている。すなわち、この場合、制御装置4は、通常制御時には、周知のスカイフック制御理論に基づいて、緩衝器2の発生減衰力を制御するようになっている。なお、制御装置4が通常制御にあたって採用する制御は、一例であって、上記したスカイフック制御に限られない。また、相対速度検知手段9としては、具体的には、たとえば、ばね上部材とばね下部材の相対変位を緩衝器2のストロークを検知すること得て、この相対変位からばね上部材とばね下部材との相対速度を求めるようにしてもよいし、ばね上部材とばね下部材の上下方向加速度を検知してこれらを積分して差をとって相対速度を求めるようにしてもよい。
【0030】
制御装置4は、上述のように、加速度検知手段5における加速度センサ、旋回検知手段6における上記センサ、速度検知手段7、上下加速度センサ8および相対変位検知手段9における上記センサのそれぞれが検知した加速度等から緩衝器2が発生すべき減衰力を求め、当該求めた減衰力に対応する指令を減衰力調整機構3へ出力するようになっており、ハードウェア資源としては、図示はしないが具体的にはたとえば、加速度検知手段5における加速度センサ、旋回検知手段6における上記センサ、速度検知手段7、上下加速度センサ8および相対変位検知手段9における上記センサが出力する信号を取り込むためのA/D変換器と、通常制御およびインパクトショックを低減するための制御に必要な処理に使用されるプログラムが格納されるROM(Read Only Memory)等の記憶装置と、上記プログラムに基づいた処理を実行するCPU(Central Processing Unit)などの演算装置と、上記CPUに記憶領域を提供するRAM(Random Access Memory)等の記憶装置とを備えて構成されればよく、CPUが上記プログラムを実行することで制御装置4の制御動作が実現される。
【0031】
つづいて、制御装置4における減衰力制御について、図2に示したフローチャートに一例に基づいて詳しく説明する。
【0032】
制御装置4は、ステップS1にて加速度検知手段5で検知した加速度を検出する。そして、ステップS2へ移行して速度検知手段7で検知した速度を検出する。さらに、ステップS3に移行して悪路判定に使用する所定時間を検出した速度から演算して求める。所定時間は、たとえば、図3に示すように、予めマップ化されており、速度をパラメータとして変化し、マップ演算によって求めることができるようになっている。なお、所定時間が速度に比例する場合には、制御装置4で演算式を保有しておき、当該演算式を用いて求めればよい。
【0033】
つづいて、ステップS4へ移行して、制御装置4は、加速度検知手段5が検知した加速度が所定の閾値を超えているか否かを判定する。なお、走行速度をパラメータとして上記所定の閾値を変更するように運用する場合、走行速度と閾値をマップ化あるいはテーブル化しておくと、閾値を求める演算が容易となる。また、車両の前から後方向への加速度を正の値とし、後から前方向への加速度を負の値としておき、閾値を正と負の両方に設定することができる。このように、正負の両側で閾値を設定しておくことにより、車両が前方へ走行中のインパクトショックのみならず後方へ走行中のインパクトショックにも対応して減衰力低減制御を実行できることなる。
【0034】
そして、ステップS4の判定において、上記検知された加速度が所定の閾値を超えたと判定された場合には、ステップS5へ移行し、当該加速度が所定の閾値以下と判定された場合には、ステップS9へ移行する。
【0035】
ステップS5では、制御装置4は、上述した如くの処理にて悪路判定を行って、車両が悪路走行中であると判定される場合には、ステップS6へ移行し、悪路走行中で無い場合にはステップS8へ移行する。
【0036】
ステップS6では、制御装置4は、車両が悪路を走行中であるので、緩衝器2の発生減衰力を最小減衰力と小減衰力のうちいずれを出力させるかを判断するために、車両旋回中であるか否かを判断する。具体的には、旋回検知手段6によって車両の旋回が検知されている状態か否かを判断する。そして、車両旋回中である場合には、旋回中且つ悪路走行中であるのでステップS7へ移行して、ばね下部材の車両前後方向の加速度が所定の閾値を超えたときから所定期間の間、緩衝器2の発生減衰力を小減衰力に設定する。そうすると、旋回中且つ悪路走行中には、緩衝器2は小減衰力を発生することになって、連続して入力されるインパクトショックを低減しつつ車体ローリングを抑制して、車体姿勢を安定させつつ車両における乗り心地を向上させる。
【0037】
他方、ステップS5およびステップS6の判断の結果、悪路走行中でないか、旋回中でない場合、ステップS8へ移行して、制御装置4は、ばね下部材の車両前後方向の加速度が所定の閾値を超えたときから所定期間の間、緩衝器2の発生減衰力を最小減衰力に設定する。車両が直進中であって段差や突起に単発的か連続的に乗り上げている状況、あるいは、車両が旋回中であって単発的に段差や突起に乗り上げる状況では、緩衝器2の発生する減衰力が最小減衰力になってインパクトショックを低減させて車両における乗り心地を向上する。
【0038】
ステップS9では、制御装置4は、ステップS7あるいはステップS8における減衰力を低減する制御を実行する所定期間中であるか否かを判断する。その結果、減衰力低減制御を実行する所定期間を経過している場合、ステップS10へ移行して、制御装置4は、緩衝器2の発生減衰力を通常制御による減衰力に戻し、減衰力低減制御の実行時間が所定期間を経過していない場合、ステップS11へ移行して、ステップS7或いはステップS8で設定した減衰力を継続して維持する。
【0039】
なお、減衰力低減制御を実行する所定期間のカウントは、ばね下部材の車両前後方向の加速度が最後に所定の閾値を超えたときにリセットされるようにして、当該最後に所定の閾値を超えたときに再度所定期間をカウントしなおすようにしておくとよい。最初のインパクトショックの入力時のみに対応して減衰力低減制御を所定の時間継続の後に当該制御を終了してしまうと、当該制御の継続時間中に再度インパクトショックが入力されると、減衰力を低減してインパクトショックを低減している途中で減衰力が通常制御時の減衰力に高まることもありえるので、減衰力低減制御中に何度もインパクトショックの入力があって、加速度が所定の閾値を超える場合、減衰力低減制御を最後のインパクトショックの入力時を基準として減衰力低減制御の終期を延ばすようにすることで、インパクトショックの低減効果を確実なものとすることができる。
【0040】
悪路走行時で且つ車両旋回中である場合をのぞいて、減衰力を最小減衰力に設定してインパクトショックの低減する減衰力低減制御の継続時間である所定期間は、具体的には、図4に示すように、ばね下部材の固有周期の半周期分の時間あるいは一周期の時間に設定されるのが理想的である。すなわち、減衰力低減制御の開始からばね下部材の固有周期の半周期分の時間あるいは一周期の時間が経過すると、緩衝器2の減衰力を通常制御における減衰力へ戻すのが理想的である。つまり、走行中に車両における車輪が段差に乗り上げて上方へ振動してから元の位置に戻るには、ばね下部材の固有周期の半分の周期の時間がかかるので、その間、減衰力低減制御を実施すれば、緩衝器2の発生減衰力は伸圧両側で低くなり、インパクトショックをより効率的に低減しつつインパクトショック後のばね上部材の振動を効果的に減衰でき、ばね上部材の沈み込みや浮き上がりを生じさせることも無い。同じく、減衰力低減制御を継続する所定期間を上記ばね下部材の固有周期の一周期に設定する場合にあっても、車輪の位置が元も位置に戻るので、インパクトショックをより効率的に低減しつつインパクトショック後の車体振動を効果的に減衰でき、車体の沈み込みや浮き上がりを生じさせることも無い。実際には、厳密に、上記減衰力低減制御を継続する所定期間を上記ばね下部材の固有周期の半周期分の時間あるいは一周期の時間に設定することが難しい場合、実際の乗用車では、上記ばね下部材における固有周波数は、10Hz〜20Hz程度であるので、上記継続時間を100ms(ミリ秒)以内となるように設定しておくことで、インパクトショックの低減とインパクトショック後の車体振動の減衰を両立させることができ、車体の沈み込みや浮き上がりを抑制することができる。
【0041】
また、悪路走行時のように連続的にインパクトショックが入力されるような場合であって、図5に示すように、減衰力低減制御を実施中に連続的に車両前後方向の加速度が所定の閾値を超える場合、インパクトショックが入力される毎に減衰力低減制御を継続する所定期間の開始時間がリセットされるので、減衰力低減制御の継続時間が延長されて、図中で正味の継続時間中、減衰力が低くなって連続的にインパクトショックを低減できるのである。
【0042】
また、減衰力低減制御を開始および終了するにあたり、減衰力を通常制御時のものから減衰力低減制御時のものへ急峻に変化させると、ばね上部材を衝撃的に振動させることになる可能性がある場合、減衰力をランプ的に変化させたり、減衰力変化が一次遅れとなるようにしたりして、減衰力変化によるばね上部材の振動を緩和するようにしてもよい。なお、減衰力調整機構3において制御装置4の指令に対して応答遅れがあるような場合には、指令自体をランプ的に変化させたり、指令自体に制御遅れを持たせたりせずとも減衰力変化によるばね上部材の振動を緩和することができる。
【0043】
そして、この制御装置4は、以上のステップS1からS11までの手順を繰り返し処理して緩衝器2の減衰力を制御する。なお、上記フローチャートは、一例であって適宜設計変更することが可能である。
【0044】
このように構成されたサスペンション装置1にあっては、車両走行中に段差を乗り上げるなどのインパクトショックが入力されない場合には、制御装置4によって通常制御が行われ、緩衝器2は通常制御によって指示された減衰力を発揮して、ばね上部材とばね下部材の相対変位を抑制する。
【0045】
これに対して、車両が旋回中でなく路面上の段差や突起に単発的或いは連続的に乗り上げて通過するような場合や車両が旋回中であって路面上の段差や突起に単発的に乗り上げて通過するような場合にあっては、制御装置4は、緩衝器2の発生減衰力を最小減衰力に設定してインパクトショックが低減されて車両における乗り心地が向上される。ここで、路面上の段差や突起に乗り上げる場合、ばね下部材には車両前後方向の加速度が作用し、当該加速度が所定の閾値を超えることでインパクトショックの入力を判断するので、インパクトショックの入力から減衰力を低減する制御を実施するまでの制御上の応答遅れを生じさせず、さらには、ばね下部材の上下方向ではなく車両前後方向の加速度に基づいてインパクトショックを判断するからインパクトショックの入力があったことを確実に判定することができるので、減衰力の低減に遅れを生じることが無く、インパクトショックを充分に低減することができ、車両における乗り心地を向上することができる。
【0046】
また、車両が旋回中であって路面上の段差や突起に連続的に乗り上げて通過するような場合にあっては、制御装置4は、緩衝器2の発生減衰力を最小減衰力以上であって通常制御時の減衰力以下の小減衰力に設定して、連続して入力されるインパクトショックを低減しつつ車体ローリングを抑制して、車体姿勢を安定させつつ車両における乗り心地を向上させることができる。また、この緩衝器2の発生減衰力を小減衰力に設定する制御においても、ばね下部材の上下方向ではなく車両前後方向の加速度に基づいてインパクトショックを判断するようになっているから連続するインパクトショックの入力があって悪路走行中であることを確実に判定することができるので、減衰力の低減に遅れを生じることが無く、インパクトショックを充分に低減することができ、車両における乗り心地を向上することができる。
【0047】
なお、この車両旋回中であって悪路走行中である場合における緩衝器2の発生減衰力を小減衰力に設定する制御にあっては、車両の速度に応じて小減衰力の値を変化させるようにしてもよい。つまりは、車両速度が高い場合には、旋回中の遠心力が大きくなるので、車体のローリングの抑制を優先する方がよく、反対に、車両速度が低い場合にはインパクトショックの低減を優先する方がよい場合があるので、たとえば、図6に示すように、速度をパラメータとして変化する最小減衰力から上限値まで変化する小減衰力の値をマップ化しておき、小減衰力を速度から演算して求めるようにしてもよい。また、速度をパラメータとして変化する1以下の係数を求め、通常制御における減衰力にこの係数を乗算することで小減衰力を求めるようにしてもよい。
【0048】
なお、圧側の減衰力のみを低減するようにしてもインパクトショックを低減することができるので、緩衝器2の圧側減衰力のみを低減することも可能であるが、本実施の形態のサスペンション装置1のように伸圧両側の減衰力を低減することで、車体の沈み込みを生じさせること無くインパクトショックの低減を図ることができる。というのは、圧側の減衰力のみを低減して伸側の減衰力を低減しない場合、緩衝器2は縮みやすく伸びにくくなるので、減衰力低減制御を実施するとばね上部材が沈み込むことになるからであり、伸圧両側の減衰力を低減することでこの沈み込みを生じさせないようにすることができるのである。
【0049】
また、サスペンション装置1が上記ばね下部材の固有周期の半周期或いは一周期の間、上記緩衝器2における減衰力を低減する制御を実行する場合には、ばね下部材の位置がインパクトショックの入力によって振動して下の位置に戻るまで減衰力を低減するので、インパクトショックをより効率的に低減しつつインパクトショック後の車体振動を効果的に減衰でき、車体の沈み込みや浮き上がりを生じさせることも無い。
【0050】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の車両用緩衝器は、車両の制振用途に利用することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 サスペンション装置
2 緩衝器
3 減衰力調整機構
4 制御装置
5 加速度検知手段
6 旋回検知手段
7 速度検知手段
8 上下加速度センサ
9 相対速度検知手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両におけるばね上部材とばね下部材との間に介装されてばね上部材とばね下部材との相対移動を抑制する減衰力を発揮する緩衝器と、当該緩衝器における減衰力を調節可能な減衰力調整機構と、当該減衰力調整機構を制御する制御装置とを備えたサスペンション装置において、上記ばね下部材に作用する車両前後方向の加速度を検知する加速度検知手段と、加速度検知手段で検知した加速度から車両が悪路を走行中であることを判定する悪路判定手段と、車両の旋回を検知する旋回検知手段とを備え、上記制御装置は、旋回検知手段が車両の旋回を検知しないか悪路を走行中でない場合、上記加速度検知手段で検知した加速度が所定の閾値を超えると上記緩衝器における減衰力のうち少なくとも圧側減衰力を最小減衰力とするとともに、旋回検知手段が車両の旋回を検知する場合であって悪路判定手段により車両が悪路を走行中であると判定された場合には上記緩衝器における減衰力のうち少なくとも圧側減衰力を上記最小減衰力以上であって通常制御における圧側減衰力以下の小減衰力とすることを特徴とするサスペンション装置。
【請求項2】
上記制御装置は、上記加速度検知手段で検知した加速度が所定の閾値を超えると上記緩衝器における伸圧両側の減衰力を最小減衰力とし、旋回検知手段が車両の旋回を検知する場合であって車両が悪路を走行中であると判定された場合には上記緩衝器における伸圧両側の減衰力を上記小減衰力とすることを特徴とする請求項1に記載のサスペンション装置。
【請求項3】
悪路判定手段は、加速度検知手段が所定時間内に上記所定の閾値を超える加速度を複数回検知すると車両が悪路を走行中であると判定することを特徴とする請求項1または2に記載のサスペンション装置。
【請求項4】
車両の速度を検知する速度検知手段を備え、上記所定時間を車速に応じて変化させることを特徴とする請求項3に記載のサスペンション装置。
【請求項5】
小減衰力の値を車速に応じて変化させることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のサスペンション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−235831(P2011−235831A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110862(P2010−110862)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】