説明

シラン化合物、並びに該シラン化合物から誘導される硬化性シリコーン系樹脂、硬化性シリコーン系樹脂組成物、及び、室温硬化性接着剤組成物

【課題】 少量の硬化触媒あるいは無触媒でも十分な硬化性を示すシリコーン系樹脂を簡便かつ好適に得られるシラン化合物、及び該シラン化合物から得られるシリコーン系樹脂を提供すること。
【解決手段】 分子内に架橋可能な反応性珪素基及び第1級アミノ基を有するアミノシラン化合物と、置換アクリルアミド化合物とを反応させることにより合成される、分子内に架橋可能な反応性珪素基、置換アミド基及び第2級アミノ基を有することを特徴とするシラン化合物、並びに該シラン化合物から誘導される、分子内に、架橋可能な反応性珪素基、置換アミド基及び置換尿素基を少なくとも有する硬化性シリコーン系樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シラン化合物並びに該シラン化合物から誘導される硬化性樹脂及びそれを主体的成分とする硬化性樹脂組成物又は室温硬化性接着剤組成物に関し、具体的には硬化性が高められた室温湿気硬化性樹脂及びそれを主体的成分とする硬化性樹脂組成物又は室温硬化性接着剤組成物を与えるシラン化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
主鎖が有機重合体でありその分子内に架橋可能な反応性珪素基を有する硬化性シリコーン系樹脂は、反応性珪素基であるアルコキシシリル基が大気中の水分で加水分解し架橋する、いわゆる湿気硬化型ポリマーであり、シーリング材、接着剤、塗料等のベースポリマーとして幅広く利用されている(特許文献1〜3)。このような湿気硬化型ポリマーは、シーリング材、接着剤、塗料等に使用する場合、アミン触媒や有機金属触媒あるいはその他のルイス酸触媒などの硬化触媒を配合する(特許文献4〜6)。また、有機金属化合物を使用せず、アミン触媒とフルオロシラン化合物を配合した硬化性樹脂組成物も提案されている(特許文献7及び8)。
しかしながら、上記のように硬化触媒を添加する場合、その硬化触媒自体の安全性に留意する必要があり、なおかつ、硬化触媒が硬化性シリコーン系樹脂の架橋に取り込まれない場合は、経時でブリードアウトして表面及び接着界面を変質させてしまう懸念があった。そのような観点から、硬化性の高いポリマーとして、ケイ素原子に結合したα位炭素に非共有電子対を有する酸素、窒素、硫黄等のヘテロ原子を結合した(以下、「α−シラン構造」と表記することがある)化合物が提案されている(特許文献9及び10)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭52−73998号公報
【特許文献2】特許第3030020号公報
【特許文献3】特許第3343604号公報
【特許文献4】特開平8−283366号公報
【特許文献5】特許第3062625号公報
【特許文献6】特開2005−054174号公報
【特許文献7】WO2006/051799号公報
【特許文献8】WO2007/123167号公報
【特許文献9】特表2005−501146号公報
【特許文献10】特表2007−513203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、該硬化性ポリマーの合成原料となるα−シラン構造の低分子シラン化合物は汎用的な化合物ではなく、工業的に入手しにくい等の問題があった。そのような理由により、汎用的な原料を用いて合成できるうえ、少量の硬化触媒で硬化する、あるいは硬化触媒を添加しなくても硬化する硬化性シリコーン系樹脂の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような問題を解決するために、本発明者らは、鋭意研究の結果、分子内に架橋可能な反応性珪素基、置換アミド基及び置換尿素基を有する硬化性シリコーン系樹脂が、少量の硬化触媒あるいは無触媒でも室温で硬化することを見出した。また、このような硬化性シリコーン系樹脂を得るのに好適なシラン化合物を見出し、本発明を完成させるに至った。本発明は次の第1〜8の発明から構成される。
【0006】
すなわち、第1の発明は、分子内に架橋可能な反応性珪素基及び第1級アミノ基を有するアミノシラン化合物(AR1)と、置換アクリルアミド化合物(AR2)とを反応させることにより合成されることを特徴とする、分子内に架橋可能な反応性珪素基、置換アミド基及び第2級アミノ基を有することを特徴とするシラン化合物(A)に関するものである。
【0007】
また、第2の発明は、下記一般式(1)で表されることを特徴とする、分子内に架橋可能な反応性珪素基、置換アミド基及び第2級アミノ基を有することを特徴とする第1の発明に係るシラン化合物に関するものである。
3−nSi−R−NR−CH−CH(R)−C(=O)−NR
・・・(1)
(式中、Rは分子量100以下の有機基又は水素原子を、Rは分子量200以下の有機基を、RはRと同じであっても異なっていてもよい分子量200以下の有機基又は水素原子を、Rは分子内に第2級アミノ基を有していてもよい分子量200以下の2価の有機基を、Rは分子量100以下の有機基を、Rは加水分解性基を、Rは水素原子又はRが第2級アミノ基を有する場合には水素原子若しくは分子量1,000以下の有機基を、nは1から3の整数を、それぞれ示す。但し、Rが有機基の場合、RとRは互いに結合していてもよく、複数存在するR及びRはそれぞれ同じであっても異なっていてもよい。)
【0008】
また、第3の発明は、分子内に、架橋可能な反応性珪素基、置換アミド基及び置換尿素基を少なくとも有する硬化性シリコーン系樹脂であって、該架橋可能な反応性珪素基及び該置換アミド基が第1又は第2のいずれかの発明に係るシラン化合物から誘導されることを特徴とする硬化性シリコーン系樹脂(B)に関するものである。
【0009】
また、第4の発明は、さらに、ウレタン基を有することを特徴とする第3の発明に係る硬化性シリコーン系樹脂に関するものである。
【0010】
また、第5の発明は、硬化性シリコーン系樹脂が、分子内にイソシアネート基を有する有機重合体(BR1)中のイソシアネート基と、第1又は第2のいずれかの発明に係るシラン化合物中の第2級アミノ基とを反応させることによって合成されることを特徴とする第3又は第4のいずれかの発明に係る硬化性シリコーン系樹脂に関するものである。
【0011】
また、第6の発明は、置換尿素基又はウレタン基が、硬化性シリコーン系樹脂(B)の主鎖骨格中に存在し、置換アミド基が、硬化性シリコーン系樹脂(B)の主鎖骨格に結合するペンダント基中に存在することを特徴とする第3〜第5のいずれかの発明に係る硬化性シリコーン系樹脂に関するものである。
【0012】
また、第7の発明は、第3〜第6のいずれかの発明に係る硬化性シリコーン系樹脂、及び、硬化触媒(C)及び/又はアミノシラン化合物(D)を含有することを特徴とする硬化性シリコーン系樹脂組成物に関するものである。
【0013】
また、第8の発明は、第7の発明に係る硬化性シリコーン系樹脂組成物を主体とする室温硬化性接着剤組成物に関するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るシラン化合物を用いれば、少量の硬化触媒あるいは無触媒でも室温で硬化する硬化性シリコーン系樹脂を簡便かつ好適に得られるという効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を、詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例示にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加え得ることは勿論である。
【0016】
[シラン化合物(A)について]
本発明におけるシラン化合物(A)は、分子内に架橋可能な反応性珪素基、置換アミド基及び第2級アミノ基を有するシラン化合物であり、分子内に架橋可能な反応性珪素基及び第1級アミノ基を有するアミノシラン化合物(AR1)と、置換アクリルアミド化合物(AR2)とを反応させることにより合成される化合物である。反応条件は、従来公知の共役付加反応を行う条件を適用すればよい。シラン化合物(A)の具体例には、上記一般式(1)で示される化合物が含まれる。当該シラン化合物(A)は、以下に記載する本発明における硬化性シリコーン系樹脂(B)を簡便に得るために好適なものであり、硬化性シリコーン系樹脂(B)の、架橋可能な反応性珪素基源及び置換アミド源として活用される。
【0017】
本発明における分子内に架橋可能な反応性珪素基とは、珪素原子における主鎖との結合手以外に加水分解性基が1〜3個結合する官能基である。珪素原子に結合している加水分解性基としては、ヒドロキシル基や、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基が一般的に用いられる。その他、ハロゲン基、メルカプト基、アセトキシ基、アシルオキシ基、アルケニルオキシ、イミノキシ基、アミノ基、アミド基等の従来公知の加水分解性基も用いることができる。珪素原子の残りの結合手に結合している官能基としては、フェニル基及び炭素数1〜6のアルキル基から選ばれる1種以上の官能基が好適に用いられ、メチル基やエチル基等のアルキル基が特に好適に用いられるが、これらに限定されるわけではない。反応性珪素基としては、取り扱いが比較的容易であることからトリアルコキシシリル基又はアルキルジアルコキシシリル基が好ましく、所望の速硬化性が得られやすいことからトリアルコキシシリル基が特に好ましい。
【0018】
本発明における置換アミド基とは、N−置換アクリルアミド由来の置換アミド基であり、アミド基(−CONH)の窒素原子上の2個の水素のうち少なくとも1個の水素が有機基で置換された基である。また、本発明における置換尿素基とは、尿素基(−NHCONH−)の少なくとも一方の窒素原子上の水素原子が他の有機基に置換された基である。
【0019】
[アミノシラン化合物(AR1)について]
上記アミノシラン化合物(AR1)は、分子内に架橋可能な反応性珪素基及び第1級アミノ基を有するアミノシラン化合物であり、下記一般式(2)で示される化合物も含まれる。
3−nSi−R−NH ・・・(2)
(式中、R、R、R及びnは、上記と同義である。)
上記アミノシラン化合物(AR1)は、単一の化合物で使用してもよいし、複数の混合物で使用してもよい。
【0020】
上記アミノシラン化合物(AR1)の具体例としては、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−プロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−プロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−プロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−プロピルメチルジエトキシシラン、アミノメチルトリエトキシシラン、アミノメチルメチルジメトキシシラン、N−フェニルアミノメチルメチルジメトキシシラン、4−アミノ−3−ジメチルブチルトリメトキシシラン、4−アミノ−3−ジメチルブチルメチルジメトキシシラン、4−アミノ−3−ジメチルブチルトリエトキシシラン、4−アミノ−3−ジメチルブチルメチルジエトキシシラン、[2−アミノエチル−(2′−アミノエチル)]−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等の第1級アミノ基含有アミノシラン化合物等が例示される。なかでも、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−プロピルトリメトキシシラン、又は、N−(2−アミノエチル)−3−プロピルメチルジメトキシシランを用いることが、入手が容易であるという観点から好ましい。
【0021】
[置換アクリルアミド化合物(AR2)について]
上記置換アクリルアミド化合物(AR2)は、窒素原子上の水素の1個以上が他の官能基で置換されたアクリルアミド及びメタクリルアミド(以下(メタ)アクリルアミドと総称することがある)化合物から選ばれる1種以上の化合物であり、下記一般式(3)で示される化合物が含まれる。
CH=C(R)−C(=O)−NR ・・・(3)
(式中、R、R、Rは、上記と同義である。)
上記置換アクリルアミド化合物(AR2)は、単一の化合物で使用してもよいし、複数の混合物で使用してもよい。
【0022】
上記置換アクリルアミド化合物(AR2)の具体例としては、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−t−オクチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、N−[3−(ジメチルアミノ)プロピル](メタ)アクリルアミド、N−アクリロイルモルホリン等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。これらの中では、工業的に入手な容易なことからN,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]アクリルアミドがより好ましく、液体のため取り扱いが容易であるうえ最終的に得られる硬化性シリコーン系樹脂が比較的低粘度に調製できることからN,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]アクリルアミドが特に好ましく、低粘度かつ着色が少ないことから窒素原子上の水素が全て置換されたN,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミドが最も好ましい。
【0023】
[硬化性シリコーン系樹脂(B)について]
本発明における硬化性シリコーン系樹脂(B)は、分子内に架橋可能な反応性珪素基、置換アミド基及び置換尿素基を有することを特徴とする特定の有機重合体であり、さらに、ウレタン基を有する場合もある。硬化性シリコーン系樹脂(B)は、単一の化合物で使用してもよいし、複数の混合物で使用してもよい。
【0024】
上記硬化性シリコーン系樹脂(B)の主鎖骨格を形成する有機重合体ユニットは特に限定されないが、ポリオキシアルキレン、ビニル重合体、飽和炭化水素重合体、不飽和炭化水素重合体、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリジメチルシロキサン等のシリコーン樹脂及び変成シリコーン樹脂に一般的に用いられているものが採用される。たとえば、低粘度を求める場合には、ポリオキシアルキレン、ビニル重合体、ポリエステルあるいはポリジメチルシロキサンが、得られる硬化皮膜の柔軟性を求める場合には、ポリオキシアルキレン、ビニル重合体あるいはポリジメチルシロキサンが、得られる硬化皮膜の耐水性を求める場合には、ビニル重合体、飽和炭化水素重合体あるいはポリカーボネートが、アクリル基材等への密着性を向上させるためには、ポリオキシアルキレンの1種であるポリエチレンオキサイドが好適に用いられる。主鎖骨格を形成する有機重合体ユニットは、それぞれ用途に応じて、単独あるいは複数混合して使用すればよい。また、異なる有機重合体ユニット同士が直接もしくは間接に連結して、主鎖骨格を形成していてもよい。
【0025】
上記硬化性シリコーン系樹脂(B)の合成方法としては、(I)上記シラン化合物(A)中の第2級アミノ基と、分子内にイソシアネート基を有する有機重合体(BR1)中のイソシアネート基とを反応させる方法、(II)上記シラン化合物(A)中の第2級アミノ基と、分子内に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物(BR2)とをイソシアネート基過剰の条件で反応させることで、分子内に架橋可能な反応性珪素基、置換アミド基及びイソシアネート基を有するシラン化合物(BR3)を合成した後、該シラン化合物(BR3)中のイソシアネート基と、分子内にイソシアネート基と反応しうる官能基(たとえば、水酸基、アミノ基、メルカプト基等)を有する有機重合体(BR4)とを反応させる方法などが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。それぞれの反応は従来公知の条件を適用すればよい。有機重合体(BR1)、ポリイソシアネート化合物(BR2)、シラン化合物(BR3)及び有機重合体(BR4)は、各反応において、それぞれ単一の化合物で使用してもよいし、複数の混合物で使用してもよい。
【0026】
上記の反応において、イソシアネート基と水酸基が反応した場合に、ウレタン基が生ずる。また、本発明においては、上記置換尿素基及び上記ウレタン基は2価以上の官能基であり、上記硬化性シリコーン系樹脂(B)の主鎖骨格を形成するユニット同士を結合する官能基である。なお、本発明においては、上記ウレタン基の一部もしくは全部がアロファネート化されていてもかまわない。
【0027】
上記硬化性シリコーン系樹脂(B)の分子量は特に限定されないが、1,000〜500,000が好ましく、2,000〜200,000がより好ましく、3,000〜50,000が特に好ましい。分子量が1,000を下回ると主鎖骨格による効果が十分発現されない場合があり、分子量が500,000を上回ると粘度が高くなり過ぎるため溶剤等で希釈するなどの処置が必要となる場合がある。
【0028】
[分子内にイソシアネート基を有する有機重合体(BR1)について]
上記有機重合体(BR1)は、分子内にイソシアネート基を有する有機重合体であるが、上記ポリイソシアネート化合物(BR2)と上記有機重合体(BR4)とを反応させることで合成することができる。該反応は、従来公知の反応条件を用いればよい。
【0029】
上記有機重合体(BR1)の分子量は特に限定されないが、500〜500,000が好ましく、1,000〜200,000がより好ましく、2,000〜50,000が特に好ましい。分子量が500を下回ると主鎖骨格による効果十分発現されない場合があり、分子量が500,000を上回ると粘度が高くなり過ぎるため溶剤等で希釈するなどの処置が必要となる場合がある。
【0030】
[ポリイソシアネート化合物(BR2)について]
上記化合物(BR2)の具体例としては、分子内に少なくとも2個以上のイソシアネート基を有する化合物及びその変性物として、脂肪族ポリイソシアネート化合物、脂環式ポリイソシアネート化合物、芳香脂肪族ポリイソシアネート化合物、芳香族ポリイソシアネート化合物等が例示される。さらに具体的には、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、2,4−又は2,6−トリレンジイソシアネート、2,4′−又は4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,3−又は1,4−キシリレンジイソシアネート、m−テトラメチルキシリレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、リジントリイソシアネート、フェニルジイソチオシアネート、及び、それらの変性三量体や多核体等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。また、上述の分子内に少なくとも2個以上のイソシアネート基を有する化合物及びその変性物は、そのイソシアネート基の一部もしくは全部がイソチオシアネート基となっていてもよい。
【0031】
[シラン化合物(BR3)について]
上記化合物(BR3)は、分子内に架橋可能な反応性珪素基、置換アミド基及びイソシアネート基を有する化合物であり、上記シラン化合物(A)中の第2級アミノ基と、分子内に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物(BR2)とをイソシアネート基過剰の条件で反応させることで合成することができる。該反応は、従来公知の反応条件を用いればよい。
【0032】
[分子内にイソシアネート基と反応しうる官能基を有する有機重合体(BR4)について]
上記有機重合体(BR4)は、分子内にイソシアネート基と反応しうる官能基を1個以上有する有機重合体である。ここでいうイソシアネート基と反応しうる官能基としては、水酸基、アミノ基、メルカプト基、カルボキシル基、エポキシ基等が挙げられる。これらの中では、水酸基、アミノ基及びメルカプト基がイソシアネート基との反応が容易であるため好ましく、水酸基及びメルカプト基が比較的低粘度な有機重合体(BR1)を調製できるためさらに好ましく、水酸基が低臭であるため特に好ましい。上記有機重合体(BR4)の主鎖骨格は、上記硬化性シリコーン系樹脂(B)の主鎖骨格に対応する。
【0033】
さらに具体的に説明すれば、水酸基を有するポリオキシアルキレンが好適に用いられる。水酸基を有するポリオキシアルキレンの具体例としては、株式会社ADEKA製P−2000、P−3000、PR−3007、PR−5007等、旭硝子株式会社製PML−S−4012、PML−S−4015、PML−S−3011等、三井化学ポリウレタン株式会社製P−21、P−28、P−31等、住化バイエルウレタン株式会社製スミフェン3600、スミフェン3700等(以上、いずれも商品名)が例示されるが、これらに限定されるわけではない。
【0034】
上記のいずれの製造方法を採るにしても、本発明に係る硬化性シリコーン系樹脂(B)を得るためにはシリル化剤(A)が用いられる。シリル化剤(A)が有する置換アミド基は反応性珪素基の近傍に存在するが、シリル化剤(A)を反応結合させた場合には、当該置換アミド基は主鎖骨格に対してはペンダント基(側鎖状)として存在することになる。
本発明にかかる硬化性シリコーン系樹脂(B)の硬化性が高い理由は定かではないが、親水性の比較的高い置換アクリルアミド化合物由来の置換アミド基を分子内に(ペンダント基として)有しており、なおかつ、その置換アミド基が反応性珪素基に近接しているため、分子的に反応性珪素基と水との接触確率が高められていること、及び、反応性珪素基に近接した該置換アミド基の分子的凝集性によってある一定のドメインを形成し、反応性珪素基自体もそのドメインの中に取り込まれることによって、反応性珪素基同士の接触確率が高められていることなどが推察される。
【0035】
[硬化触媒(C)について]
本発明における硬化触媒(C)は、上記硬化性シリコーン系樹脂(B)の硬化をより促進するものである。本発明における上記硬化性シリコーン系樹脂(B)は硬化触媒がなくとも従来の硬化性シリコーン系樹脂に対して高い硬化性を有するが、その硬化性をより促進したい場合に、必要に応じて硬化触媒(C)を用いることができる。
【0036】
上記硬化触媒(C)の具体例としては、有機スズ化合物、有機ビスマス化合物、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物等の有機金属化合物、スズアルコキシド、チタンアルコキシド、ジルコニウムアルコキシド等の金属アルコキシド化合物、アミン類等の塩基、カルボン酸及び有機燐酸化合物等の酸及びその塩、クロロシラン化合物、フルオロシラン化合物等のハロゲノシラン、三フッ化ホウ素系化合物、三塩化ホウ素等のルイス酸化合物、オニウム塩化合物、求核的フッ素化剤、求電子的フッ素化剤、テトラフルオロホウ酸あるいはヘキサフルオロリン酸等の多価フルオロ化合物のアルカリ金属塩等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。さらに具体的には、有機金属化合物としては、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジバーサテート、オクチル酸カリウム、オクチル酸ジルコニル、ジルコニウムアセチルアセトン錯体、チタンアセチルアセトン錯体等が、金属アルコキシド化合物としては、テトラブトキシチタン、テトラブトキシジルコニウム等が、アミン類等の塩基としては、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン等が、カルボン酸及び有機燐酸化合物等の酸としては、オクチル酸、イソステアリン酸、リン酸等が、ハロゲノシラン化合物としては、トリエトキシフルオロシラン、トリメチルクロロシラン等が、三フッ化ホウ素系化合物等のルイス酸化合物としては、三フッ化ホウ素モノエチルアミン錯体、三フッ化ホウ素メタノール錯体等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0037】
上記硬化触媒(C)は、所望の硬化速度等を得るために適宜選択すればよい。また、上記硬化触媒(C)は1種単独又は2種以上併用してもよい。上記硬化触媒(C)の配合量は特に限定されないが、上記硬化性シリコーン系樹脂(B)100質量部に対して、0超〜20質量部が好ましく、0超〜10質量部がより好ましく、0超〜5.0質量部が特に好ましい。
【0038】
[アミノシラン化合物(D)について]
本発明にかかるアミノシラン化合物(D)は、分子内に第1級、第2級及び第3級アミノ基から選ばれる1種以上のアミノ基及び架橋可能な反応性珪素基を有するシラン化合物であって、接着性付与効果を有する化合物である。また、アミノシラン化合物(D)は、その分子内に塩基性を示すアミノ基を有していることから、硬化触媒としての機能も併せ持っていると考えられる。アミノシラン化合物(D)の具体例としては、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、アミノメチルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−プロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−プロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−プロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−プロピルメチルジエトキシシラン、4−アミノ−3−ジメチルブチルトリメトキシシラン、4−アミノ−3−ジメチルブチルメチルジメトキシシラン、4−アミノ−3−ジメチルブチルトリエトキシシラン、4−アミノ−3−ジメチルブチルメチルジエトキシシラン、[2−アミノエチル−(2′−アミノエチル)]−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等の第1級アミノ基含有アミノシラン化合物、MS3301(チッソ株式会社製商品名)、MS3302(チッソ株式会社製商品名)、X−40−2651(信越化学工業株式会社製商品名)等のアミノシランのシリル基を単独あるいはその他のアルコキシシラン化合物と一部縮合させた化合物、N−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニルアミノメチルトリエトキシシラン、N−ブチルアミノプロピルトリメトキシシラン、N−エチルアミノイソブチルトリメトキシシラン、ビス(トリメトキシシリルプロピル)アミン等の第2級アミノ基含有アミノシラン化合物、分子内にイミダゾール基及び反応性珪素基を有するイミダゾールシラン化合物等の第3級アミノ基を有するアミノシラン、水と反応して第1級アミノ基を生成する官能基を有するケチミンシラン化合物等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0039】
上記アミノシラン化合物(D)は、所望の接着性等を得るために適宜選択すればよい。また、上記アミノシラン化合物(D)は1種単独又は2種以上併用してもよい。上記アミノシラン化合物(D)の配合量は特に限定されないが、上記硬化性シリコーン系樹脂(B)100質量部に対して、0.1〜30質量部が好ましく、0.5〜20質量部がより好ましく、1.0〜10質量部が特に好ましい。
【0040】
[その他の成分について]
本発明における硬化性シリコーン系樹脂組成物中には、従来公知の任意の化合物乃至物質を配合することができる。例えば、変成シリコーン樹脂,シリル化ウレタン樹脂等に代表される従来公知の硬化性樹脂、親水性又は疎水性シリカ系粉体、炭酸カルシウム粉体、クレイ粉体、アクリル系等の有機系粉体、有機系・無機系のバルーン等の充填材、フェノール樹脂等の粘着付与剤、アマイドワックス等の揺変剤、酸化カルシウム等の脱水剤、希釈剤、可塑剤、難燃剤、機能性オリゴマー、ヒンダードアミン系化合物、ヒンダードフェノール系化合物、3−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジ−4−イルオキシ)プロピルトリエトキシシラン等の老化防止剤、ベンゾトリアゾール系化合物等の紫外線吸収剤、顔料、チタネートカップリング剤、アルミニウムカップリング剤、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤、ブロックドポリイソシアネート等の耐水性向上剤、乾性油等を配合することができる。
【0041】
本発明における硬化性シリコーン系樹脂(B)は、たとえば、接着剤、粘着剤、シーリング材、塗料、コーティング材、目止め材、注型材、被覆材等の主体成分として用いることができる。これらのなかでも特に室温硬化性接着剤組成物の主体的成分として有用である。本発明における硬化性シリコーン系樹脂(B)は、水分の存在下で、加水分解性基同士が縮重合することによって硬化する。したがって、硬化性シリコーン系樹脂組成物として利用する場合、1液型としても2液型としても使用することができる。1液型として使用される場合は、予め硬化触媒が配合された状態あるいは無触媒で、保管乃至搬送中に空気(空気中の水分)と接触しないよう、気密に密封した状態で取り扱われる。そして、使用時には開封して任意の箇所に適用すれば、空気中の水分と接触して硬化性シリコーン系樹脂(B)が硬化するのである。また、2液型として使用される場合には、湿硬化性シリコーン系樹脂(B)を含有する第1液と、その他成分の第2液とが個別に包装されて提供される。そして、使用時にこれら第1液と第2液を混合して任意の箇所に適用すれば、反応性珪素基が空気中の水分と接触して硬化性シリコーン系樹脂(B)が硬化するのである。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0043】
[分子内にイソシアネート基を有する有機重合体(BR1)の調製]
(有機重合体U−1の合成)
反応容器内で、PMLS4012(旭硝子ウレタン株式会社製商品名、ポリオキシプロピレンポリオール、数平均分子量10,000、100質量部)、イソホロンジイソシアネート(4.71質量部)及びジオクチルスズジバーサテート(PMLS4012に対して50ppm)を仕込み、窒素雰囲気下にて撹拌混合しながら、80℃で3時間反応させることで、主鎖がオキシアルキレン重合体でありその分子内にイソシアネート基を有する有機重合体U−1を得た。23℃における有機重合体U−1の粘度(BH型粘度計、10回転)は、33,000mPa・sであった。
【0044】
[架橋可能な反応性珪素基及び第2級アミノ基を有するシラン化合物の調製]
表1に示す配合割合(質量比)で、室温で化合物(AR1)を撹拌しながら、アクリル酸エステル又は化合物(AR2)を1時間かけて滴下した。さらに、室温で3時間以上反応させたのち、表1に示す反応条件で反応(後熟成)を続けることで、架橋可能な反応性珪素基及び第2級アミノ基を有するシラン化合物SE−1〜SE−13を合成した。なお、SE−10における反応条件においては、まずDMAAを上記方法に準じて混合、反応及び後熟成(50℃2週間)させたうえ、さらにMAを上記方法に準じて混合、反応及び後熟成(50℃7日間)させたことを示す。SE−11、SE−12、SE−13についても、SE−10と同様である。
【0045】
【表1】

KBM−903:信越化学工業株式会社製商品名、3−アミノプロピルトリメトキシシラン
KBM−603:信越化学工業株式会社製商品名、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン
KBM−602:信越化学工業株式会社製商品名、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン
MA:アクリル酸メチル
DMAEA:アクリル酸ジメチルアミノエチル
DMAA:N,N−ジメチルアクリルアミド
DEAA:N,N−ジエチルアクリルアミド
NIPAM:N−イソプロピルアクリルアミド
DMAPAA:N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド
【0046】
[硬化性シリコーン系樹脂(B)の調製]
表2に示す配合割合(質量比)で、反応容器に、有機重合体U−1及びシラン化合物SE−1〜SE−13を仕込み、80℃で1時間反応させることで、分子内に架橋可能な反応性珪素基、置換尿素基を有する硬化性シリコーン系樹脂B−1〜B−13を合成した。なお、反応終了後IR測定を行ったところ、全ての硬化性シリコーン系樹脂において、イソシアネート基に帰属される特性吸収(2265cm−1)は観測されなかった。各硬化性シリコーン系樹脂の粘度(BH型粘度計、10回転)を、表2に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
[硬化性シリコーン系樹脂の硬化速度比較]
各硬化性シリコーン系樹脂の硬化速度を比較した。硬化速度の比較は皮張り時間を用いて行った。皮張り時間は、各硬化性シリコーン系樹脂を23±2℃相対湿度50±5%の雰囲気に暴露した直後を開始時間とし、表面に硬化皮膜が形成されるまでの時間とした。硬化皮膜が形成された時間は、金属製のスパーチュラで暴露された各硬化性樹脂組成物の表面を触ってスパーチュラに各硬化性樹脂組成物がつかなくなる時間とした。各皮張り時間を表3及び表4に示す。
【0049】
【表3】

【0050】
表3に示す結果から、本発明にかかる硬化性シリコーン系樹脂B−7〜B−9及びB−11(実施例1〜4)は、従来から使用されているアクリル酸エステルから誘導されたシラン化合物を用いて合成した硬化性シリコーン系樹脂B−1及びB−2(比較例1及び2)に対して、硬化性が極めて高いことが分かる。この理由は定かではないが、上述した通り、本発明にかかる硬化性シリコーン系樹脂(B)中に含まれる置換アミド基による効果であると推察される。
【0051】
【表4】

【0052】
表4に示す結果から、本発明にかかる硬化性シリコーン系樹脂(B)は、従来から使用されているアクリル酸エステルから誘導されたシラン化合物を用いて合成した硬化性シリコーン系樹脂に対して、硬化性が極めて高いことが分かる。具体的には、分子中に置換アミド基を有さずかつ3級アミノ基を有する硬化性シリコーン系樹脂B−4及びB−5(比較例3及び4)に対して、分子中に置換アミド基及び3級アミノ基を有する硬化性シリコーン系樹脂B−10及びB−12(実施例5及び6)は、硬化性が極めて高い。また、架橋可能な反応性珪素基が比較的硬化性に劣るメチルジメトキシシリル基である場合においても、分子中に置換アミド基を有さない硬化性シリコーン系樹脂B−3(比較例5)に対して、分子中に置換アミド基及び3級アミノ基を有する硬化性シリコーン系樹脂B−13(実施例7)は、硬化性シリコーン系樹脂自体の硬化性が極めて高いことが分かる。この理由は定かではないが、上述した通り、本発明にかかる硬化性シリコーン系樹脂(B)中に含まれる置換アミド基による効果であると推察される。
【0053】
[硬化性シリコーン系樹脂及びアミノシラン化合物混合物の硬化速度比較]
表5に示す硬化性シリコーン系樹脂(100質量部)及び3−アミノプロピルトリメトキシシラン(5.0質量部)を1分間混合することで、各硬化性シリコーン系樹脂組成物を調製し、硬化速度を比較した。硬化速度の比較は各硬化性シリコーン系樹脂組成物の皮張り時間を用いて行った。皮張り時間は、1分間混合した直後を開始時間とし、表面に硬化皮膜が形成されるまでの時間とした。硬化皮膜が形成された時間は、金属製のスパーチュラで暴露された各硬化性シリコーン系樹脂組成物の表面を触ってスパーチュラに各硬化性シリコーン系樹脂組成物がつかなくなる時間とした。なお、混合及び皮張り時間の測定は、23±2℃相対湿度50±5%の雰囲気において行った。以下、硬化速度の比較は同様の方法で行った。各皮張り時間を表5に示す。
【0054】
【表5】

【0055】
表5の結果より、本発明にかかる硬化性シリコーン系樹脂(B)は、アミノシラン化合物を混合させた硬化性シリコーン系樹脂組成物としても、従来から使用されているアクリル酸エステルから誘導されたシラン化合物を用いて合成した硬化性シリコーン系樹脂に対して、硬化性が極めて高いことが分かる。具体的には、分子中に置換アミド基を有さない硬化性シリコーン系樹脂B−3(比較例6)、及び、分子中に置換アミド基を有さずかつ3級アミノ基を有する硬化性シリコーン系樹脂B−6(比較例7)に対して、分子中に置換アミド基及び3級アミノ基を有する硬化性シリコーン系樹脂B−13(実施例8)は、硬化性が極めて高い。この理由は定かではないが、上述した通り、本発明にかかる硬化性シリコーン系樹脂(B)中に含まれる置換アミド基による効果であると推察される。また、アミノシラン化合物は、接着剤、シーリング材、粘着剤、コーティング剤等、硬化性シリコーン系樹脂が応用される分野では、一般的に接着性付与剤として活用されており、金属系化合物等を用いることなくアミノシラン化合物だけであっても十分に硬化性を高められることは非常に有用な効果である。さらには、実施例8に示す硬化性シリコーン系樹脂B−13の架橋可能な反応性珪素基は、従来硬化性の乏しいメチルジメトキシシリル基であるにもかかわらず十分な硬化性を発現させることができることから、本発明にかかる硬化性シリコーン系樹脂(B)は、産業上非常に有用であると断言できる。
【0056】
[硬化性シリコーン系樹脂、硬化触媒混合物の硬化速度比較]
表6に示す硬化性シリコーン系樹脂(100質量部)及びジオクチルスズジバーサテート(0.10質量部)を1分間混合することで、各硬化性シリコーン系樹脂組成物を調製し、硬化速度を比較した。各皮張り時間を表6に示す。
【0057】
【表6】

【0058】
表6の結果より、本発明にかかる硬化性シリコーン系樹脂(B)は、硬化触媒として有機スズ化合物を混合させた硬化性シリコーン系樹脂組成物としても、従来から使用されているアクリル酸エステルから誘導されたシラン化合物を用いて合成した硬化性シリコーン系樹脂に対して、硬化性が極めて高いことが分かる。具体的には、分子中に置換アミド基を有さない硬化性シリコーン系樹脂B−1及びB−2(比較例8及び9)に対して、分子中に置換アミド基を有する硬化性シリコーン系樹脂B−7〜B−9及びB−11(実施例9〜12)は、硬化性が極めて高い。また、分子中に置換アミド基を有さずかつ3級アミノ基を有する硬化性シリコーン系樹脂B−4及びB−5(比較例10及び11)に対して、分子中に置換アミド基及び3級アミノ基を有する硬化性シリコーン系樹脂B−10及び12(実施例13及び14)は、硬化性が極めて高い。この理由は定かではないが、上述した通り、本発明にかかる硬化性シリコーン系樹脂(B)中に含まれる置換アミド基による効果であると推察される。さらには、本発明にかかる硬化性シリコーン系樹脂(B)は、樹脂自体の硬化性が極めて高いことから、硬化触媒の量を少なくすることができる。一般的に硬化触媒は高価であるうえ、化合物によっては毒性の懸念もあることから、本発明にかかる硬化性シリコーン系樹脂(B)は、産業上非常に有用な硬化性樹脂であると断言できる。
【0059】
表7に示す硬化性シリコーン系樹脂(100質量部)及び硬化触媒(1.0質量部)を1分間混合することで、各硬化性シリコーン系樹脂組成物を調製し、硬化速度を比較した。各皮張り時間を表7に示す。
【0060】
【表7】

TC−750:マツモトファインケミカル株式会社商品名、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)
TC−100:マツモトファインケミカル株式会社商品名、チタンジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)
【0061】
表7の結果より、本発明にかかる硬化性シリコーン系樹脂(B)は、硬化触媒として有機チタン化合物を混合させた硬化性シリコーン系樹脂組成物としても、従来から使用されているアクリル酸エステルから誘導されたシラン化合物を用いて合成した硬化性シリコーン系樹脂に対して、硬化性が極めて高いことが分かる。具体的には、分子中に置換アミド基を有さない硬化性シリコーン系樹脂B−1(比較例12及び13)に対して、分子中に置換アミド基を有する硬化性シリコーン系樹脂B−7(実施例15及び16)は、硬化性が極めて高い。この理由は定かではないが、上述した通り、本発明にかかる硬化性シリコーン系樹脂(B)中に含まれる置換アミド基による効果であると推察される。さらには、本発明にかかる硬化性シリコーン系樹脂(B)は、樹脂自体の硬化性が極めて高いため、活性が比較的低い有機チタン化合物を触媒として十分活用できることから、本発明にかかる硬化性シリコーン系樹脂(B)は、産業上非常に有用な硬化性樹脂であるといえる。
【0062】
[硬化性シリコーン系樹脂、硬化触媒及びアミノシラン化合物混合物の硬化速度比較]
表8に示す硬化性シリコーン系樹脂(100質量部)及び硬化触媒(1.0質量部)を3−アミノプロピルトリメトキシシラン(5.0質量部)とともに1分間混合することで、各硬化性シリコーン系樹脂組成物を調製し、硬化速度を比較した。各皮張り時間を表8に示す。
【0063】
【表8】

【0064】
表8の結果より、本発明にかかる硬化性シリコーン系樹脂(B)は、硬化触媒として有機チタン化合物、接着性付与剤として3−アミノプロピルトリメトキシシランを混合させた硬化性シリコーン系樹脂組成物としても、従来から使用されているアクリル酸エステルから誘導されたシラン化合物を用いて合成した硬化性シリコーン系樹脂に対して、硬化性が極めて高いことが分かる。具体的には、分子中に置換アミド基を有さない硬化性シリコーン系樹脂B−1(比較例14及び15)に対して、分子中に置換アミド基を有する硬化性シリコーン系樹脂B−7(実施例17及び18)は、硬化性が極めて高い。この理由は定かではないが、上述した通り、本発明にかかる硬化性シリコーン系樹脂(B)中に含まれる置換アミド基による効果であると推察される。さらには、本発明にかかる硬化性シリコーン系樹脂(B)は、樹脂自体の硬化性が極めて高いため、活性が比較的低い有機チタン化合物を触媒として十分活用できることから、本発明にかかる硬化性シリコーン系樹脂(B)は、産業上非常に有用な硬化性樹脂であるといえる。
【0065】
[硬化性シリコーン系樹脂組成物の接着剤への応用]
表9に示す硬化性シリコーン系樹脂(100質量部)、充填材としてNS400(日東粉化工業社製、炭酸カルシウム、50質量部)、接着性付与剤として3−アミノプロピルトリメトキシシラン(5.0質量部)、硬化触媒としてジオクチルスズジバーサテート(0.10質量部)を1分間混合することで、硬化性シリコーン系樹脂組成物を主体とする室温硬化性接着剤組成物を調製し、引張せん断接着強さ試験を行った。被着材として、ステンレス鋼板(SUS304−2B、1.5mm×25mm×100mm)、軟鋼板(SPCC−SB、1.6mm×25mm×100mm)、アクリル板(3.0mm×25mm×100mm)、ポリカーボネート板(3.0mm×25mm×100mm)、ABS板(3.0mm×25mm×100mm)、塩化ビニル板(3.0mm×25mm×100mm)、ポリスチレン板(3.0mm×25mm×100m)、木(アサダ材)板(5.0mm×25mm×100mm)を準備した。各被着材に各室温硬化性接着剤組成物(約0.1g)を25mm×25mmの面積に均一に塗布し、12.5mm×25mmの面積で各被着材(同種の被着材)をはり合わせた。各はり合わせ試験体を23±2℃相対湿度50±5%で2週間養生した後、引張りせん断接着強さをJIS K 6850に準じて測定した。それぞれの引張せん断接着強さの測定結果を表9に示す。
【0066】
【表9】

【0067】
表9の結果から、本発明にかかる硬化性シリコーン系樹脂(B)は、従来から使用されているアクリル酸エステルから誘導されたシラン化合物を用いて合成した硬化性シリコーン系樹脂と同等レベルの接着強さが発現していることが分かる。以上のことから、本発明にかかる硬化性シリコーン系樹脂(B)は、室温硬化性接着剤組成物として十分活用することができる。
【0068】
[1液型室温硬化性接着剤組成物の貯蔵安定性評価]
表10に示す硬化性シリコーン系樹脂(100質量部)、充填材としてNS400(日東粉化工業社製、炭酸カルシウム、50質量部)を反応容器に入れ、100℃〜120℃で1時間減圧しながら撹拌し、水分を除去した。該混合物を室温に戻した後、希釈剤としてアイソパーH(エクソンモービル社製商品名、5.0質量部)、接着性付与剤として3−アミノプロピルトリメトキシシラン(5.0質量部)、硬化触媒としてジオクチルスズジバーサテート(0.10質量部)を反応容器に投入し、減圧下で素早く撹拌することで、硬化性シリコーン系樹脂組成物を主体とする1液型室温硬化性接着剤組成物を得た。得られた1液型室温硬化性接着剤組成物を密閉容器に充填した後、50℃で表10に示す各期間暴露した。暴露前及び暴露後の23℃における粘度(BH型粘度計、2回転及び10回転)を測定した。各粘度を表10に示す。
【0069】
【表10】

【0070】
表10の結果から、本発明にかかる硬化性シリコーン系樹脂(B)は、従来から使用されているアクリル酸エステルから誘導されたシラン化合物を用いて合成した硬化性シリコーン系樹脂と同等レベルの貯蔵安定性が発現していることが分かる。以上のことから、本発明にかかる硬化性シリコーン系樹脂(B)は、1液型室温硬化性接着剤組成物として十分活用することができる。
【0071】
以上の結果から、本発明にかかる硬化性シリコーン系樹脂(B)は、樹脂自体に速硬化性が付与されているため、硬化触媒化合物の種類や添加量、あるいは、アミノシラン化合物等の接着性付与剤の有無を問わず、従来から使用されているアクリル酸エステルから誘導されたシラン化合物を用いて合成した硬化性シリコーン系樹脂に対して、硬化性が極めて高いことが分かる。この効果は、本発明にかかるシラン化合物(A)が有する置換アミド基を有することによってもたらされることから、本発明にかかるシラン化合物(A)は非常に有用な化合物であるといえる。このことから、本発明にかかるシラン化合物(A)は、イソシアネート基を有する各種モノマー、オリゴマー及びポリマーの変性剤としての活用も期待できる。さらに、本発明にかかるシラン化合物(A)は、イソシアネート基を有さない各種モノマー、オリゴマー及びポリマーを含有する組成物への添加剤としての活用も期待できる。たとえば、シリコーン樹脂、変成シリコーン樹脂、シリル化ウレタン樹脂等に代表される従来公知の湿気硬化性樹脂を含有する組成物に対しては、密着性付与剤あるいは硬化促進剤のような使用が可能である。
また、本発明にかかる硬化性シリコーン系樹脂(B)を接着剤の硬化性樹脂成分として利用した場合、従来から使用されているアクリル酸エステルから誘導されたシラン化合物を用いて合成した硬化性シリコーン系樹脂と同等レベルの接着強さ及び貯蔵安定性が発現することが分かる。これらのことから、本発明にかかる硬化性シリコーン系樹脂(B)は、産業上極めて有用な硬化性樹脂であるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明に係る硬化性樹脂組成物は、特に従来一液型又は二液型の硬化性樹脂組成物が用いられてきた全ての用途に使用できる。たとえば、接着剤、粘着剤、シーリング材、塗料、コーティング材、目止め材、注型材、被覆材等として用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に架橋可能な反応性珪素基及び第1級アミノ基を有するアミノシラン化合物(AR1)と、置換アクリルアミド化合物(AR2)とを反応させることにより合成されることを特徴とする、分子内に架橋可能な反応性珪素基、置換アミド基及び第2級アミノ基を有することを特徴とするシラン化合物(A)。
【請求項2】
下記一般式(1)で表されることを特徴とする、分子内に架橋可能な反応性珪素基、置換アミド基及び第2級アミノ基を有することを特徴とする請求項1に記載のシラン化合物。
3−nSi−R−NR−CH−CH(R)−C(=O)−NR
・・・(1)
(式中、Rは分子量100以下の有機基又は水素原子を、Rは分子量200以下の有機基を、RはRと同じであっても異なっていてもよい分子量200以下の有機基又は水素原子を、Rは分子内に第2級アミノ基を有していてもよい分子量200以下の2価の有機基を、Rは分子量100以下の有機基を、Rは加水分解性基を、Rは水素原子又はRが第2級アミノ基を有する場合には水素原子若しくは分子量1,000以下の有機基を、nは1から3の整数を、それぞれ示す。但し、Rが有機基の場合、RとRは互いに結合していてもよく、複数存在するR及びRはそれぞれ同じであっても異なっていてもよい。)
【請求項3】
分子内に、架橋可能な反応性珪素基、置換アミド基及び置換尿素基を少なくとも有する硬化性シリコーン系樹脂であって、該架橋可能な反応性珪素基及び該置換アミド基が請求項1又は2のいずれかに記載のシラン化合物から誘導されることを特徴とする硬化性シリコーン系樹脂(B)。
【請求項4】
さらに、ウレタン基を有することを特徴とする請求項3に記載の硬化性シリコーン系樹脂。
【請求項5】
硬化性シリコーン系樹脂が、分子内にイソシアネート基を有する有機重合体(BR1)中のイソシアネート基と、請求項1又は2のいずれかに記載のシラン化合物中の第2級アミノ基とを反応させることによって合成されることを特徴とする請求項3又は4のいずれかに記載の硬化性シリコーン系樹脂。
【請求項6】
置換尿素基又はウレタン基が、硬化性シリコーン系樹脂(B)の主鎖骨格中に存在し、置換アミド基が、硬化性シリコーン系樹脂(B)の主鎖骨格に結合するペンダント基中に存在することを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の硬化性シリコーン系樹脂。
【請求項7】
請求項3〜6のいずれかに記載の硬化性シリコーン系樹脂、及び、硬化触媒(C)及び/又はアミノシラン化合物(D)を含有することを特徴とする硬化性シリコーン系樹脂組成物。
【請求項8】
請求項7に記載の硬化性シリコーン系樹脂組成物を主体とする室温硬化性接着剤組成物。

【公開番号】特開2010−202547(P2010−202547A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−48414(P2009−48414)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(000105648)コニシ株式会社 (217)
【Fターム(参考)】