説明

シリコンシート、太陽電池およびその製造方法

【課題】太陽電池用などに用いられるシリコンシートにおいて、そのシリコンシートを用いた太陽電池のさらなる高効率化を図ること。
【解決手段】本発明は、表裏の2つの主面の両主面に凹凸を有するシリコンシートであって、上記2つの主面の凹凸の大きさが異なるシリコンシートである。また本発明は、上記のシリコンシートを有する太陽電池であって、凹凸が大きい面が金属電極で被覆されてなることを特徴とする太陽電池にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンシート、太陽電池およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池の作製などに用いられるシリコン基板(シリコンシート)は、例えば、特開平11−21120号公報(特許文献1)、特開平11−92284号公報(特許文献2)に開示されているようなキャスト法により製造されている。キャスト法は、坩堝内で溶解したシリコンを坩堝底面から徐々に冷却することによってシリコン融液を固化させ、坩堝底面から上方に向けて成長した長い柱状結晶構造を主体とするインゴット(凝固塊)を製造する方法である。
【0003】
しかし、キャスト法は、インゴットにクラックを生じさせないようにして成長させるために、また半導体品質確保の観点から、一つのシリコンインゴットの製造には数十時間もの長時間を要する。そして、インゴットからシリコン基板を切り出すスライス工程にも長時間を要し、マルチワイヤーソーによるスライス技術を用いても数十時間を要する。したがって、キャスト法を利用したシリコン基板の作製において、大幅なコストの低減を行うことは困難な状況にある。
【0004】
他方、スライスが不要なウエブ(web)法やEFG(edge-defined film-fed growth)法によるシリコンリボンの成長方法も研究されている。また、近年ではより速い成長を目指して、シリコン融液から直接的に薄板状のシリコンリボンを作製するRGS(ribbon growth on substrate)法が注目されるようになっている(26thPVSC,1997,pp.91−93)。
【0005】
RGS法の原理は、凝固成長面に近い面からの高速熱移動(抜熱)によってシリコンリボンの高速成長を行うものである。具体的には、溶解シリコンの側部周囲を支える側部支持枠に対してその開放下面を支える下面支持平板を冷却しながら相対的に横方向に移動させることにより、その下面支持平板上にシリコンリボンを高速成長させる。しかし、RGS法などのリボン製造方法では、凝固相の安定成長自体に課題が多く、シリコンリボンの結晶化状態の制御の問題もある。
【0006】
さらに別のシリコン基板の製造方法としては、シリコン融液に基体を接触させて液相からの凝固によって直接的にシート状のシリコン基板(シリコンシート)を得る方法が、たとえば、特開2001−223172号公報(特許文献3)に開示されている(シート形成法)。以上のようなシリコンシートの製造方法においても、より好ましい結晶構造を有するシリコンシートを得るために、さらなる改善が望まれている。
【0007】
上述したウエブ法、EFG法、RGS法、シート形成法などにおいては、シリコン融液に接触させる被接触体に溝などの形状を形成することによってシリコンシートの成長を高速化することができる。
【0008】
また、このような形状の被接触体をシリコン融液に接触または浸漬させると、被接触体が有する溝や凹凸は、シリコン結晶成長の起点となりやすいため、ここから結晶の成長が始まり、最終的にシリコンシートは両面に凹凸の形状を有するものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−21120号公報
【特許文献2】特開平11−92284号公報
【特許文献3】特開2001−223172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、太陽電池用などに用いられるシリコンシートにおいて、良好な半導体特性を付与し、そのシリコンシートを用いた太陽電池のさらなる高効率化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、表裏の2つの主面の両主面に凹凸を有するシリコンシートであって、上記2つの主面の凹凸の大きさが異なるシリコンシートである。
【0012】
上記2つの主面のうち凹凸が大きい面の凹凸の大きさが、凹凸が小さい面の凹凸の大きさの1.2倍以上であることが好ましい。
【0013】
上記2つの主面のうち凹凸が大きい面の凹凸の大きさが100〜350μmであることが好ましい。
【0014】
上記シリコンシートは、シリコン融液に被接触体を接触させて形成されることが好ましい。
【0015】
また本発明は、前記のシリコンシートを有する太陽電池であって、前記凹凸が大きい面が金属電極で被覆されてなることを特徴とする太陽電池にも関する。
【0016】
さらに本発明は、上記のシリコンシートを用いた太陽電池の製造方法であって、上記2つの主面のうち凹凸が大きい面を金属電極で被覆する工程と、上記2つの主面のうち表面積の小さい面に受光面電極を形成する工程とを含むことを特徴とする太陽電池の製造方法にも関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明のシリコンシートは、太陽電池用などに用いられるシリコンシートにおいて、そのシリコンシートを用いた太陽電池のさらなる高効率化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のシリコンシートの一例を説明するための模式的断面図であり、(a)、(b)は(c)に示すシリコンシートの部分断面図、(c)は両面に凹凸を有し、その凹凸の大きさが表裏で異なるシリコンシートの断面図である。
【図2】本発明の第一の実施形態に係るシリコンシートとその製造に用いられる基体の概略斜視図である。(a)は両面に表裏で大きさの異なる凹凸を有するシリコンシート、(b)は表面に周期的溝が形成された基体を示す。
【図3】本発明のシリコンシートの別の例とその製造に用いられる基体の概略斜視図である。(a)は両面に表裏で大きさの異なる凹凸を有するシリコンシート、(b)は表面に周期的なピラミッド状凹凸が形成された基体を示す。
【図4】シート形成法の一例の基本的な手順を説明するための模式的断面図であり、(a)はシリコンシートの成長段階を示し、(b)は基体からシリコンシートが剥離される状態を示している。
【図5】本発明のシリコンシートを用いて太陽電池を作製する方法の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(シリコンシートの形状)
本実施形態のシリコンシートの形状は、表裏の2つの主面の両主面に凹凸を有し、両主面間の凹凸の大きさが異なっていることを特徴とするものである。ここで、両主面に凹凸を有するとは、シリコンシートの2つの主面の厚み方向の高低差(起伏)を有することであり、大きさが異なるとは、両主面間の任意の点で凹凸の大きさが異なっていればよく、全範囲にわたって凹凸の大きさが異なっている必要はなく、また一主面内で凹凸の形状が規則性を有する必要もない。
【0020】
本実施形態においては、この2つの主面のうち凹凸の大きさが大きい方の面を「凹凸が大きい面」、凹凸の大きさが小さい方の面を「凹凸が小さい面」と称している。
【0021】
ここで、図1を用いて本実施形態におけるシリコンシートの凹凸の大きさについて説明する。図1に示すシリコンシートは、表裏の両方の主面が凹凸を有するものであり、図1(c)に示すように上面1bの凹凸大きさが下面1aの凹凸の大きさよりも大きい形状となっている。
【0022】
本実施形態において、凹凸の大きさとは、図1(c)に示す両面に凹凸を有するシリコンシートの部分断面図である図1(a)において、上面1bにおいて凸部における基準面101から上面頂部102までの高さ(a)もしくは(a’)と、該凸部に隣接する凹部における基準面101から上面底部103までの高さ(b)との高さの差(c)や(c’)とする。ここで基準面101は、両主面の高さの平均値であっても良いし、両主面の凹部における底部の高さの平均値であっても良く、基準面101は、シリコンシートの厚み方向に対して垂直な平面であればいかなるものを基準としても良い。
【0023】
また図1(b)において、基準面101を両主面の外側にとったときの下面1aにおける凹凸の大きさを説明する。下面1aでの凹凸の大きさは、凸部における基準面101から下面頂部104までの高さ(d)もしくは(d’)と、該凸部に隣接する凹部における基準面101から下面底部105までの高さ(e)との高さの差(f)や(f’)とする。
【0024】
このような凹凸の大きさの測定には、プローブ等をシリコンシートに直接接触させる接触式の測定器を用いてもよいし、非接触式の測定器を用いてもよい。非接触式の測定器として、静電容量方式やレーザ干渉方式などがあるが、どの測定器を用いてもよい。
【0025】
シリコンシートの凹凸の形状としては、例えば、溝状、ピラミッド状などの規則的な周期の凹凸形状が挙げられるが、周期性はシート全体にわたって均一に周期性があるもののみを意味するものではなく、シートの一部に周期性があればよく、また人工的に設計される程度の厳密な周期性は必要としない。また、不規則な周期の凹凸のものであってもよい。また、凹部または凸部のみを有する形状であってもよい。このようなシリコンシートの凹凸の分布、溝間隔等は、被接触体の溝や凹凸の分布を決定することにより決定することが可能である。
【0026】
また本実施形態のシリコンシートは結晶シリコンシートであることが好ましく、単結晶シリコンシート、多結晶シリコンシートのいずれでもよい。また、p型結晶シリコンシート、n型結晶シリコンシートのいずれであってもよい。シリコンシートの抵抗値や結晶方位などは特に限定されない。また本実施形態のシリコンシートのシリコン純度は5ナイン(99.999%)以上であることが好ましく、この場合、太陽電池等へ利用した場合にも良好なデバイス特性値を得ることができる。太陽電池の特性の観点からは、シリコンシートの純度が7ナイン(99.99999%)以上であることがより好ましい。
【0027】
また、シリコンシートの平均厚さは、100μmから1mmの範囲内に設定することが好ましい。シリコンシートの厚さを100μm以上にすることにより、そのシートを利用した太陽電池の作製プロセスにおいて高いハンドリング性を得ることができる。また、シート厚を1mm以下にすることにより、シートの製造時間を短縮でき、低コストのシリコンシートの提供が可能になる。シート製造の容易さの観点からは、シートの平均厚さが200〜600μmの範囲内にあることがより好ましい。なお、シリコンシートの平均厚さとは、シリコンシートの面内の各点におけるシート厚の平均値であり、凸部の厚みも凹部の厚みも含むシート厚の平均値である。
【0028】
本実施形態のシリコンシートを用いることにより、高効率な太陽電池等の製品を提供することができる。
【0029】
(シリコンシートの特性)
本実施形態では、以下に詳細に説明するシート形成法によってシリコンシートを作成し、作成されたシリコンシートを用いて、上下面それぞれの面に裏面電極を形成した太陽電池を10枚作製し、その特性を比較した。
【0030】
同様の形状を有するシリコンシート1において、実施例は2つの主面のうち凹凸が大きい面1b上に裏面電極を形成し、比較例は凹凸が小さい面1a上に裏面電極を形成した。
【0031】
実施例および比較例で用いたシリコンシートの両面の凹凸の大きさおよび表面積を表1に示す。表中の表面積の単位(mm/mmシリコンシート)は、1mm2四方の単位シリコンシート当りの表面積(mm2)を表す。また表面積は、静電容量方式、レーザ干渉方式の測定器により測定した。
【0032】
【表1】

【0033】
表1からわかるように、凹凸が大きい面は凹凸の小さい面に比して24%程度表面積が大きくなっているが、これはシリコンシートのある一部において表面積を測定したものであり、主面の各部において表面積を測定すると、凹凸が大きい面の表面積は凹凸の小さい面の表面積に対して概ね15から40%程度大きいことがわかっている。
【0034】
さらにいうと、本実施形態においてはシリコンシートの凹凸が大きい面の1mm四方の単位当り表面積が1.8mm2以上であることが好ましく、さらに好ましくは、2.0mm2以上である。
【0035】
次に、実施例および比較例で作製した太陽電池の電流、電圧、FF(曲線因子)および光電変換効率(η)を測定した測定結果を表2に示す。表2において、電流とは短絡電流(Isc)のことであり単位はmAで示す。また、電圧とは開放電圧(Voc)のことであり単位はmVで示す。また、FF値は、IscとVocの積に対する実際の電力の比率として算出し、測定はAM(Air Mass値)1.5、入射光密度100mW/cm2、温度25℃の条件で行った。
【0036】
【表2】

【0037】
太陽電池の光電変換効率は、次式で示される出力特性を太陽電池素子の面積(mm2)で割った値として算出した。
出力特性(Pm)=短絡電流(Isc)×開放電圧(Voc)×曲線因子(FF)
ここで曲線因子(FF)の物理的な意味は、電圧だけを最大限に取り出した場合の値である開放電圧(Voc)と電流だけを最大限に引き出した場合の値である短絡電流(Isc)との積、つまり虚像的な理想電力値に対して、実際に取り出せる電力Pmを比較したものといえる。実際的なFFの値は、pn接合の順方向性によって決まるため、使用する半導体基板中に含まれる欠陥や、pn接合作製時あるいはその後の製造工程で発生する欠陥を通して、漏れ電流が流れると、FFが低くなり、本来取り出せる出力を低下させることになる。この意味から、FFは新しい太陽電池の試作や、製造工程の管理など、製造する立場において非常に重要なものである。
【0038】
表2より、シリコンシートの2つの主面のうち凹凸が大きい面に裏面電極を設けた場合(すなわち、凹凸が小さい面を受光面とした場合)のほうが、凹凸が小さい面に裏面電極を設けた場合よりも、太陽電池のFF(曲線因子)値が良好なものとなり、光電変換効率も向上することがわかる。
【0039】
これは、シリコンシートの一主面が有する凹凸を大きくし、シリコンシートと裏面電極との接触面積を増大させることにより、シリコンシートと裏面電極との接触抵抗が低減されたためであると考えられ、本実施形態のように表裏面で異なる大きさの凹凸を設けることにより、表面積の調節を行うことができ、このようなシリコンシートを用いることによって優れた特性を有する太陽電池の作成が可能である。また、シリコンシート内のキャリアの拡散長が30μm以上であることにより、変換効率の比較的良好な太陽電池を得ることができる。
【0040】
なお、凹凸の大きさが大きすぎると太陽電池作成時において、スクリーン印刷法で裏面電極を作製する際、印刷ムラが生じやすくなり、また大きい凹凸を有する面を吸着し搬送すると、搬送工程で搬送ミスや位置ずれが生じやすくなるという不都合が生じるため、凹凸形状が大きくなる面は一方主面のみであるほうが良い。
【0041】
また、他面に小さい凹凸を設けることにより、他物質との接触などによるシリコンシートの表面汚染を受ける面積が限定させ、またインターコネクターをセル受光面に貼り付ける際、弱い力で貼り付けても小さな凹凸で十分な接着(接触)を確保することができる。このようにシリコンシートの両面に異なる大きさの凹凸を設けることによって優れた特性を有する太陽電池を簡易に作成することができる。
【0042】
また本実施形態のシリコンシートは、2つの主面のうち凹凸が大きい面の凹凸の大きさが、凹凸が小さい面の凹凸の大きさの1.2倍以上であることが好ましく、さらに好ましくは1.3倍以上である。また本実施形態のシリコンシートは、シリコンシートの凹凸が大きい面の凹凸の大きさが100〜350μmであることが好ましく、さらに好ましくは100〜200μmである。
【0043】
(シリコンシートの製造方法)
次に、本実施形態のシリコンシートの製造方法として、シリコン融液に基体を接触させて液相からの凝固によって直接的にシリコンシートを得る方法(シート形成法)を説明するが、ウエブ(web)法やEFG(edge-defined film-fed growth)法、RGS(ribbon growth on substrate)法などのリボン作成法などの他の製造方法であっても、上記特性を有するシリコンシートが得られる方法であれば特に限定されるものではない。
【0044】
また、本実施形態においては「被接触体」として「基体」を用いたが、本実施形態に用いられる「被接触体」とは、Web法であれば「回転体」、RGS法なら「下面支持平板」、シート形成法なら「基体」などであり、シリコン融液に浸漬・接触させて表面にシリコンシートを形成するものをいう。本実施形態のシリコンシートは、シリコン融液に被接触体を接触させて形成されることが好ましい。この場合、スライスや研磨等のプロセスを経ることなくシートの太陽電池等への利用が可能となり、表面エッチング時間の短縮または表面エッチングの省略が可能になる。
【0045】
図2(b)において、基体2の表面には、基体頂部21および基体底部22を有する基体2の回転方向に沿った溝、または規則的もしくは不規則に配置した微細凹凸面などが形成されている。このような基体2の表面に形成された溝や微細凹凸面は、シリコンシートの成長を高速化する機能を有する。
【0046】
このような形状の基体をシリコン融液に接触または浸漬させると、基体2が有する溝や凹凸は、シリコン結晶成長の起点となりやすいため、ここから結晶の成長が始まり、最終的に得られるシリコンシート1は図2(a)に示すような溝状の凹凸を有するものとなる。ここで基体2の溝や凹凸の分布を決定することによりシリコンシート1の凹凸の分布、溝間隔等を決定することができ、シリコンシート1はある程度規則性をもった凹凸形状を形成することが可能である。
【0047】
また、図2(b)に示す基体2に代えて、図3(b)に示すような表面に周期的なピラミッド状の凹凸が形成された基体2を用いることで、図3(a)に示すような複数の点状の凸部を有するシリコンシート1を得ることもできる。
【0048】
図4を用いて本実施形態のシリコンシートをシート形成法によって製造する方法を説明する。図4(a)の模式的な断面図に示されているように、シリコンの融点である1415℃より低い温度に加熱冷却し得る温度制御手段5によって温度制御された耐熱性の基体2の表面を坩堝4中のシリコン融液3に接触(または浸漬)させることによって、基体2の表面にシリコンシート1が成長する。必要な厚さのシリコンシート1が成長した後に、そのシートが付着した基体2が坩堝4から取り出される。基体2に付着しているシリコンシート1は高温から冷却される段階で、図4(b)に示されるように、基体2とシリコンシート1の熱膨張係数差に起因して基体2とシリコンシート1は自然に分離し、または小さい衝撃を基体2に加えることにより分離され、液相からの凝固によって直接的に形成されたシリコンシート1が得られる。
【0049】
すなわち、基体2がシリコン融液3の温度より低い温度なので、基体表面にシリコンの結晶核が随所に発生する。そして、これらの結晶核がシリコン融液3に接している方向に向けて一方向に結晶成長することによって、多結晶シリコンシートが形成される。
【0050】
多結晶シリコンシートにおいては、平均結晶粒径が大きい程、半導体特性の低下原因となる結晶粒界密度が減少してキャリアの拡散長が伸び、シリコンシートの半導体特性が改善される。この改善効果により、液相からの凝固によって直接的に形成されたシリコンシートが、太陽電池等のデバイス用として用いられ得るものとなる。
【0051】
また、上記シート形成法に用いられる基体2の材質としては、例えば、グラファイトや、その表面に炭化珪素を熱CVD法で形成した基体を用いることができ、このほかにも、窒化珪素のようなセラミックスや高温に耐える耐熱性金属や、セラミックスを部分的もしくは全面的にコートしたカーボン、セラミックス、または耐熱金属も使用することができる。
【0052】
また、基体2の温度制御手段5としては、例えば、基体2のシリコン融液と接触する面と反対側の表面近くに空間部を設けて窒素、アルゴン、または空気などを加圧導入させるガス冷媒方式を採用することができ、その他にも、基体内にステンレス、銅などの金属製配管を埋め込んで温度制御を行う温度制御手段5を備えた液体冷媒方式などの種々の手段を採用することができ、これにより基体2の表面上に多結晶シリコンシートを高速かつ安定に形成することができるが、シート形成法において温度制御手段5は備えられていなくても良い。
【0053】
また、シリコンシート製造時におけるシリコン融液の温度は、シートの成長条件との兼ね合い等に応じて、通常、過冷却温度の1380℃以上からより高温の1600℃までの範囲内(例えば、1450℃)に設定され得る。シリコン融液面が規定の高さになった後に、基体2の温度制御を温度制御手段5によって行い、基体2の表面温度がシリコン融点に比べて1000℃から120℃だけ低い温度(例えば、1200℃)に安定化した状態で、その表面がシリコン融液3に浸漬されるようになっていてもよい。
【0054】
以上、本実施形態によるシリコンシートは、基体2の初期温度をシリコン融点(1415℃)よりも120℃から1000℃程度低い温度範囲で制御し、または適当な厚さのグラファイト材料を用いることによって基体2の熱容量を適切にし、または基体2の加熱冷却を行う温度制御手段5内に冷媒を用い、またはシリコン融液3への基体2の浸漬時間を最適厚さのシリコンシート1が得られるよう制御することによりシリコン溶液3の固化を促進させる等の基本的条件を設定することにより、基体2の表面上に多結晶シリコンシートを高速かつ安定に形成することができる。
【0055】
上述の製造方法においては、シリコンシートをシリコン融液から直接製造することができるため、キャスト法の場合のようなシリコンインゴットのスライス工程等が不要になり、また良好な半導体特性を得ることができる。
【0056】
(太陽電池作成方法)
本実施形態のシリコンシートを利用して太陽電池を作製する方法の一例を、図5(a)〜(f)を用いて説明する。本実施形態のシリコンシートは表裏の2つの主面の凹凸の大きさが異なるため、作製すべき太陽電池の受光面をどちらの主面にするかを最初に決める必要がある。本実施形態のシリコンシートでは、表裏の2つの主面のうち凹凸が小さい面が受光面として選択され、この面に受光面電極が形成される。以下、各工程について詳細に説明する。
【0057】
(1) シリコンシート表面の凹凸の評価
まず、図5(a)に示すような、表面に凹凸を持ったp型結晶シリコンシート1において、2つの主面のうち、どちらの面がより凹凸が大きいかを判断する。このような凹凸の大きさは、プローブ等をシリコンシートに直接接触させる接触式の測定器や、非接触式の測定器を用いて測定することができる。2つの主面とは、シリコンシートの表裏の両面のことであり、図5の凹凸が小さい面1aおよび凹凸が大きい面1bである。
【0058】
また、様々な製造工程を経る前に、p型結晶シリコンシートの表面の洗浄や表面ダメージ層の除去を目的として、強アルカリ水溶液、強酸水溶液などでp型結晶シリコンシートを処理するのが好ましい。さらに、入射した光を光電変換素子の受光面側で多重反射させることで、より効果的に光を取り込むためのテクスチャ構造を形成することを目的として、あらかじめ、アルカリ溶液あるいは酸溶液でp型結晶シリコンシートを処理するのが好ましい。なお、テクスチャ構造によるシリコンシート表面の凹凸は、本実施形態で取り扱うシリコンシート表面の凹凸よりもずっと小さく、それ自体が電極形成プロセスを困難にすることはない。
【0059】
(2) pn接合形成工程
次に、図5(b)に示すように、p型結晶シリコンシート1の表面上に、n型半導体層6を形成してpn接合とする。このとき、シリコンシートの凹凸が小さい面1aにn型半導体層6を形成する。
【0060】
n型半導体層6は、公知の方法、例えばp型結晶シリコンシートにn型の不純物をドーピングするか、CVD法などによりp型結晶シリコンシート上に別途n型半導体層を形成することによって形成することができる。n型の不純物は、リン、ヒ素のような5族元素が挙げられる。n型半導体層のシート抵抗は、20〜200Ω/cmの範囲にあるのが好ましい。
【0061】
n型の不純物のドーピング方法としては、特に限定されないが、例えば、オキシ塩化リン(POCl3)などの5族の化合物を含んだ溶液を700〜1000℃の高温炉中でガス状にしてp型結晶シリコンシートに拡散させる方法(気相拡散法)、五酸化二リン(P25)などの5族元素の化合物を含んだ溶液(例えば、五酸化二リンのイソプロピルアルコール溶液)をp型結晶シリコンシート上に滴下し、スピンコーターにより均一に塗布し、その後温度700〜1000℃の高温炉に投入し、表面に付着した5族元素をp型結晶シリコンシートに拡散させる方法などが挙げられる。
【0062】
(3) 反射防止膜形成工程
次に、図5(c)に示すように、太陽光などの光を有効に取り込むために、n型半導体層上に、反射防止膜7を形成する。反射防止膜7の材料および形成方法は、公知の材料および方法を適用できるが、量産レベルで最も広く用いられているのは窒化シリコン膜である。窒化シリコン膜の厚さは、膜の屈折率やp型結晶シリコンシートの表面凹凸の大きさにより適宜設定すればよいが、通常60〜100nm程度である。
【0063】
(4) 裏面電極形成工程
次に、図5(d)に示すように、p型結晶シリコンシート1の2つの主面のうち凹凸が大きい面1b上に、裏面電極8を形成する。この裏面電極8は、p型結晶シリコンシート1内で発生したキャリアを電流として取り出すために利用される。
【0064】
その材料および形成方法は、公知の材料および方法を適用できる。例えば、スクリーン印刷法により、アルミニウム粉末などを含んだ導電性ペーストを太陽電池の裏面全面に塗布(印刷)し、温度100〜400℃で乾燥させることにより、裏面電極8を形成することができる。スクリーン印刷法は量産レベルにおいてはコストを低減できるので好ましい。裏面電極の厚さは、通常10〜60μm程度である。
【0065】
(5) 受光面電極形成工程
次に、図5(e)に示すように、反射防止膜7上に、受光面電極9を形成する。その材料および形成方法は、公知の材料および方法を適用できる。例えば、スクリーン印刷法により、銀粉末、ガラス粉末、有機質ビヒクルおよび有機溶媒を主成分とする導電性ペーストを反射防止膜7上に塗布(印刷)し、温度100〜400℃で乾燥させることにより、受光面電極9を形成する(ただし、この時点では、受光面電極9はp型結晶シリコンシート1とは接していない)。
【0066】
受光面電極9のパターンは特に限定されず、一般に太陽電池に用いられるパターンであれば特に限定されない。例えば、魚骨型(櫛形状)が挙げられる。受光面電極の厚さは、通常10〜60μm程度である。
【0067】
(6) 受光面電極のファイアスルーおよび裏面電界層形成工程
上記工程の後、図5(f)に示すように、p型結晶シリコンシート1を焼成して、受光面電極9をファイアスルーさせ、かつp型結晶シリコンシート1と裏面電極8との界面に裏面電界層11を形成するのが好ましい。
【0068】
ファイアスルーとは、p型結晶シリコンシート1を焼成する際に、受光面電極9に添加されているガラス粉末の作用で反射防止膜7が破られることによって起こる現象である。これにより受光面電極9をp型結晶シリコンシート1に接触させることができる。
【0069】
裏面電界層11は、シリコンシート1を焼成する際に、裏面電極8に含まれるアルミニウムの一部がp型結晶シリコンシート1に拡散された領域のことであり、これによりp型結晶シリコンシート1内部で発生したキャリアの収集効率を向上させることができる。焼成条件は、温度600〜900℃の範囲、焼成時間1〜300秒間程度が好ましい。
【0070】
以下に本実施形態の実施例および比較例で用いた太陽電池の作成条件をより具体的に説明するが、実施例により本実施形態が限定されるものではない。
【0071】
<実施例>
実施例では、図5(a)〜(f)に示される上記製造工程と同様にして太陽電池を10枚作製した。
【0072】
(1) 結晶シリコンシートの準備および凹凸の評価
(結晶シリコンシートの準備)
まず、特開2001−223172号公報の実施例3に記載の方法と同様のシート形成法を用いて、p型結晶シリコンシート1を作製した。この時、表面に結晶シリコンを成長させるために用いる基体としては、その表面が図3(b)に示すような凹凸部の凸部が点状の凸部23のみで構成されている基体2を用いた。該基体の点状の凸部のピッチは、1.0mmであり、溝の深さは0.2mmであり、シリコンシートの外寸は17cm×17cmであった。
【0073】
得られたp型結晶シリコンシートのサイズは、基体のサイズとほぼ一致しており、シリコンシート周囲をレーザ切断で加工した後の大きさは15.5cm×15.5cmであった。形状は、ほぼ図3(a)に示すp型結晶シリコンシート1のような形状であり、厚さは350μmであった。
【0074】
次に、上記のp型多結晶シリコンシート1をHNO3/HF混合溶液で処理して、両面合わせて20μm程度をエッチングして、表面の洗浄を行なった(図示せず)。次いで、NaOH水溶液による異方性エッチングを行い、p型多結晶シリコンシート1の表面にテクスチャと呼ばれる微細な凹凸構造を形成した(図示せず)。ここで、テクスチャは、入射した光を太陽電池の受光面側で多重反射させることで、より効果的に光を取り込むための構造である。
【0075】
(凹凸の評価)
次に凹凸の大きさを評価した。シリコンシートの凹凸を測定するのには、レーザ干渉方式の測定器を用いた。この方法でシリコンシートの凹凸の大きさを評価したところ、本実施例に使用した10枚のシリコンシートの凹凸が大きい面1bの凹凸の大きさは凹凸の大きさは50〜300μmの範囲であり、凹凸が小さい面1aの凹凸の大きさは5〜100μmの範囲であった。
【0076】
(2) n型半導体層形成工程
次いで、五酸化二リンのイソプロピルアルコール溶液(濃度15g/L)をp型結晶シリコンシート1の2つの主面のうち、全体的に凹凸の大きさが小さい方の面に滴下し、スピンコーターにより均一に塗布した。その後、p型結晶シリコンシート1を900℃の高温炉に15分間投入し、図5(b)に示すように、光電変換素子の受光面側にn型半導体層6を形成した。
【0077】
(3) 反射防止膜形成工程
次いで、p型結晶シリコンシート1をプラズマCVD装置の真空室内に搬入し、図5(c)に示すように、p型結晶シリコンシート1上に反射防止膜7として、膜厚約80nmの窒化シリコン膜を形成した。
【0078】
窒化シリコン膜の成膜時の混合ガス流量比は、モノシラン:アンモニア:窒素=1:2:12とした。
【0079】
(4) 裏面電極形成工程
次いで、図5(d)に示すように、スクリーン印刷法によりp型結晶シリコンシート1の裏面上にアルミニウムペーストを印刷し、温度150℃で十分に乾燥させて、厚さ30〜70μmのアルミニウムの裏面電極8を形成した。
【0080】
(5) 受光面電極形成工程
次いで、図5(e)に示すように、スクリーン印刷法によりp型結晶シリコンシート1に製膜された反射防止膜7上に、銀粉末、ガラス粉末、有機質ビヒクルおよび有機溶媒を主成分とする銀ペーストを魚骨型のパターンで印刷し、温度150℃で十分に乾燥させて、厚さ30μmの銀の受光面電極9を形成した(ただし、この時点では、受光面電極9はp型結晶シリコンシート1とは接していない)。なお、魚骨型のパターンは、バスバー電極(メイングリッド)とフィンガー電極(サブグリッド)とで形成されており、フィンガー電極が2本のバスバー電極に垂直に配置されているものを用いた。
【0081】
(6) ファイアスルーおよび裏面電界層形成工程
次いで、近赤外線炉を用いてp型結晶シリコンシート1を温度850℃で120秒間焼成して、図5(f)に示すように、受光面電極9をファイアスルーさせ、かつp型結晶シリコンシート1と裏面電極8との界面に裏面電界層6を形成し、太陽電池を得た。
【0082】
<比較例>
比較例では、上記実施例と同じシリコンシートを用いて、逆の面に裏面電極を形成した太陽電池を10枚作製した。すなわち、まず実施例と同様の方法で凹凸の大きさを評価し、n型半導体層をp型結晶シリコンシートの凹凸の大きい方の面に形成した。その後の裏面電極の形成工程においては、凹凸の小さい方の面にスクリーン印刷を行なった。その他は実施例と同じ製造工程を用いて太陽電池を作製した。
【0083】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本実施形態の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0084】
1 (p型結晶)シリコンシート、1a 凹凸が小さい面(下面)、1b 凹凸が大きい面(上面)、101 基準面、102 上面頂部、103 上面底部、104 下面頂部、105 下面底部、11 裏面電界層、2 基体、21 基体頂部、22 基体底部、23 点状の凸部、3 シリコン融液、4 坩堝、5 温度制御手段、6 n型半導体層、7 反射防止膜、8 裏面電極、9 受光面電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表裏の2つの主面の両主面に凹凸を有するシリコンシートであって、前記2つの主面の凹凸の大きさが異なることを特徴とするシリコンシート。
【請求項2】
前記2つの主面のうち凹凸が大きい面の凹凸の大きさが、凹凸が小さい面の凹凸の大きさの1.2倍以上であることを特徴とする請求項1に記載のシリコンシート。
【請求項3】
前記2つの主面のうち凹凸が大きい面の凹凸の大きさが100〜350μmであることを特徴とする請求項1または2に記載のシリコンシート。
【請求項4】
シリコン融液に被接触体を接触させて形成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のシリコンシート。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のシリコンシートを有する太陽電池であって、前記凹凸が大きい面が金属電極で被覆されてなることを特徴とする太陽電池。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のシリコンシートを用いた太陽電池の製造方法であって、
前記2つの主面のうち凹凸が大きい面を金属電極で被覆する工程と、
前記2つの主面のうち凹凸が小さい面に受光面電極を形成する工程とを含むことを特徴とする太陽電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−278401(P2010−278401A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−132344(P2009−132344)
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】