説明

シリコーンゴム薄膜被覆層の形成方法、及びシリコーンゴム薄膜被覆物品

【解決手段】(A)ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上含有するオルガノポリシロキサン、(B)ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個以上含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、(C)白金又は白金化合物触媒、及び(D)(R−O−)3P(Rは置換又は非置換の一価炭化水素基)で表される亜リン酸化合物を配合してなる付加硬化型シリコーンゴム組成物を、基材表面に塗布し、塗布面に紫外線を照射して組成物を硬化させるシリコーンゴム薄膜被覆層の形成方法。
【効果】本発明に使用される付加硬化型シリコーンゴム組成物は、優れた保存安定性を有し、かつ非常に高速に硬化させることが可能であり、本発明のシリコーンゴム薄膜被覆層の形成方法によれば、特に、紫外線照射によって基材を良好に被覆する薄膜を形成できることから、表面改質、コーティング、電気電子部品や車載部品の封止等の用途において有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線硬化による薄膜形成に好適な付加硬化型のシリコーンゴム組成物を用いた紫外線硬化によるシリコーンゴム薄膜被覆層の形成方法、及びこの方法によりシリコーンゴム薄膜被覆層を形成したシリコーンゴム薄膜被覆物品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
白金化合物を硬化触媒とした付加硬化型のシリコーンゴム組成物は、その優れた硬化性から様々な用途に使用されている。材料としてもミラブルタイプ、液状タイプのいずれにも適応可能であり、その用途はまことに多岐にわたる。特に、液状タイプにおいては、接着材から型取り材、LIMS材料等に使用されている。いずれも組成物を混合及び/又は加熱することで架橋反応を促進し、ゴム硬化物を得ることができる。なかでも、使用時の作業性を考えた場合、1液タイプ(フルコンパウンド)が好まれる。
【0003】
従来の1液付加硬化タイプのものは、使用するまでの保存安定性を確保しなければならないため、硬化制御剤を使用するので、硬化させるためには加熱が必要になる。加熱硬化した際、被着体である金属、樹脂等の部品類も加熱されるが、この加熱に必要なエネルギーや、時間を削減することが求められている。
【0004】
これに対し、脱アルコール/脱オキシム反応を利用した湿気硬化型や、(メタ)アクリル性官能基や、エポキシ基等を利用した紫外線硬化型なども提案されている。しかしながら、湿気硬化型は、硬化にかかる時間が非常に長いという問題がある。また、紫外線硬化型は、硬化は短時間で終了するものの、硬化物の耐環境性の低さが問題になる場合がある。
【0005】
一方、紫外線によって硬化する白金触媒制御機構(錯体)を利用した付加硬化型のシリコーンゴム組成物やその反応としては、特表2005−539110号公報(特許文献1)や、欧州特許出願公開第0398701号明細書(特許文献2)に提案されているβ−ジケトン化合物を応用した技術、米国特許第4530879号明細書(特許文献3)や、米国特許第4600484号明細書(特許文献4)に提案されるシクロアルカジエン化合物を応用した技術があるが、紫外線照射時の硬化性、及び保管中の保存安定性が実用上十分なレベルではない。
【0006】
【特許文献1】特表2005−539110号公報
【特許文献2】欧州特許出願公開第0398701号明細書
【特許文献3】米国特許第4530879号明細書
【特許文献4】米国特許第4600484号明細書
【特許文献5】米国特許第3715334号明細書
【特許文献6】米国特許第3775452号明細書
【特許文献7】米国特許第3814730号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、優れた保存安定性を有し、かつ非常に高速に硬化させることが可能であり、特に紫外線照射によって基材を良好に被覆する薄膜を形成できる付加硬化型シリコーンゴム組成物を用いた紫外線硬化によるシリコーンゴム薄膜被覆層の形成方法、及びこの方法によりシリコーンゴム薄膜被覆層を形成したシリコーンゴム薄膜被覆物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、(A)ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上含有するオルガノポリシロキサン、(B)ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個以上含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、(C)白金又は白金化合物触媒、及び(D)(R−O−)3P(式中、Rは置換又は非置換の一価炭化水素基であり、単一種でも複数種でもよい)で表される亜リン酸化合物を所定量配合した付加硬化型シリコーンゴム組成物が、優れた保存安定性を有し、かつ非常に高速に硬化させることができ、更に、この付加硬化型シリコーンゴム組成物を基材表面に塗布し、その塗布面に紫外線を照射することにより、塗布された付加硬化型シリコーンゴム組成物を硬化させることによって、基材を良好に被覆するシリコーンゴム薄膜被覆層を形成できることを見出した。
【0009】
特に、この付加硬化型のシリコーンゴム組成物の調製においては、(C)成分の白金又は白金化合物触媒と(D)成分の亜リン酸化合物とを事前に混合させた後に、これらの混合物と残余の成分とを混合して上記付加硬化型シリコーンゴム組成物を調製すること、換言すれば、付加硬化型シリコーンゴム組成物を、(C)成分の白金又は白金化合物触媒と(D)成分の亜リン酸化合物とを混合した第1液と、残余の成分を混合した第2液とからなる2液型とし、使用前に上記第1液及び第2液を混合して用いることにより、より高い保存安定性と高速硬化の両立が可能となり、紫外線照射により基材上にシリコーンゴム薄膜の被覆層を良好に形成することが可能となることを見出し、本発明をなすに至った。
【0010】
従って、本発明は、下記のシリコーンゴム薄膜被覆層の形成方法、及びシリコーンゴム薄膜被覆物品を提供する。
[1] (A)ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上含有するオルガノポリシロキサン、
(B)ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個以上含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:本成分に含まれるケイ素原子に結合した水素原子が、(A)成分中のオルガノポリシロキサンが有するアルケニル基1モル当たり0.4〜10.0モルとなる量、
(C)白金又は白金化合物触媒:白金原子として1〜2000ppm、及び
(D)(R−O−)3
(式中、Rは置換又は非置換の一価炭化水素基であり、単一種でも複数種でもよい)
で表される亜リン酸化合物:(C)成分の白金原子1モルに対して0.2〜30モルとなる量
を配合してなる付加硬化型シリコーンゴム組成物を、基材表面に塗布し、その塗布面に紫外線を照射することによって、塗布された付加硬化型シリコーンゴム組成物を硬化させることを特徴とする基材上へのシリコーンゴム薄膜被覆層の形成方法。
[2] 付加硬化型シリコーンゴム組成物が、更に、(E)光開始剤を配合したものであることを特徴とする[1]記載のシリコーンゴム薄膜被覆層の形成方法。
[3] (C)成分の白金又は白金化合物触媒と(D)成分の亜リン酸化合物とを事前に混合させた後に、これらの混合物と残余の成分とを混合して上記付加硬化型シリコーンゴム組成物を調製し、該付加硬化型シリコーンゴム組成物を基材表面に塗布することを特徴とする[1]又は[2]記載のシリコーンゴム薄膜被覆層の形成方法。
[4] 基材表面への付加硬化型シリコーンゴム組成物の塗布量を1〜1000g/m2とすることを特徴とする[1]乃至[3]のいずれかに記載のシリコーンゴム薄膜被覆層の形成方法。
[5] 基材がエアバッグ用のシリコーンコーティング用基布であることを特徴とする[1]乃至[4]のいずれかに記載のシリコーンゴム薄膜被覆層の形成方法。
[6] 基材が粘着テープ・シール用の剥離シートであることを特徴とする[1]乃至[4]のいずれかに記載のシリコーンゴム薄膜被覆層の形成方法。
[7] 基材が電気電子部品であることを特徴とする[1]乃至[4]のいずれかに記載のシリコーンゴム薄膜被覆層の形成方法。
[8] [1]乃至[7]のいずれかに記載の方法により基材上にシリコーンゴム薄膜被覆層が形成されたシリコーンゴム薄膜被覆物品。
【発明の効果】
【0011】
本発明のシリコーンゴム薄膜被覆層の形成方法に使用される付加硬化型シリコーンゴム組成物は、優れた保存安定性を有し、かつ非常に高速に硬化させることが可能であり、本発明のシリコーンゴム薄膜被覆層の形成方法によれば、特に、短時間の紫外線照射によって基材を良好に被覆する薄膜を速やかに形成できることから、表面改質、コーティング、電気電子部品や車載部品の封止等の用途において有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
本発明のシリコーンゴム薄膜被覆層の形成方法に使用されるシリコーンゴム組成物は、付加硬化型のシリコーンゴム組成物であり、(A)ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上含有するオルガノポリシロキサン、(B)ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個以上含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、(C)白金又は白金化合物触媒、及び(D)(R−O−)3P(式中、Rは置換又は非置換の一価炭化水素基であり、単一種でも複数種でもよい)で表される亜リン酸化合物を配合してなるものである。
【0013】
本発明のシリコーンゴム薄膜被覆層の形成方法に使用されるシリコーンゴム組成物は、(A)成分として、ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上含有するオルガノポリシロキサンを含有する。(A)成分のオルガノポリシロキサンは、1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を少なくとも2個、好ましくは2〜20個含有するものであり、その分子構造については特に制限はなく、直鎖状、分岐状、環状又は網状のいずれであってもよく、また、単一のシロキサン単位からなる重合体であっても、2種以上のシロキサン単位からなる共重合体であってもよい。
【0014】
(A)成分のオルガノポリシロキサンは、下記一般式(1)
1aSiO(4-a)/2 (1)
(式中、R1は置換又は非置換の好ましくは炭素数1〜12、特に1〜10の1価炭化水素基であり、aは1.0〜2.2、好ましくは1.95〜2.05の正数である。)
で表すことができる。
【0015】
(A)成分のオルガノポリシロキサンの有機基(上記一般式(1)中のR1)にはアルケニル基が含まれるが、アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基等が例示される。好ましくはビニル基又はアリル基であり、その合成の容易さや化学的安定性の点からはビニル基が最も好ましい。
【0016】
一方、アルケニル基以外の有機基としては、置換又は非置換の1価炭化水素基が好ましく、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、又はこれらの炭化水素基の水素原子の一部又は全部がフッ素原子、塩素原子、ニトリル基等で置換された置換炭化水素基、例えばトリフルオロプロピル基、クロロメチル基、シアノエチル基等が例示される。
【0017】
有機基(R1)は、同一でも相互に異なっていてもよいが、なかでもその化学的安定性や合成の容易さから全有機基(R1)の90モル%以上、特にアルケニル基以外の有機基の全てがメチル基であることが好ましいが、特性上必要な場合は、メチル基以外にフェニル基、トリプルオロプロピル基を含むものでもよい。
【0018】
(A)成分のオルガノポリシロキサン中のアルケニル基の含有量は、オルガノポリシロキサン中0.000010〜0.0010モル/g、特に0.000025〜0.0005モル/gであることが好ましい。
【0019】
また、この(A)成分のオルガノポリシロキサンの25℃における粘度は10cSt以上であることが好ましく、50〜5,000,000cStのものがより好ましい。粘度が上記範囲より低いと、硬化物が脆くなるおそれがあり、また、基材の変形に対応できなくなる場合がある。一方、粘度が上記範囲を超えると、硬化前の組成物の粘度が大きくなり、作業性が低下する場合がある。なお、(A)成分のオルガノポリシロキサンは、1種単独で使用しても、2種以上を組合せて使用してもよい。
【0020】
本発明に使用されるシリコーンゴム組成物は、(B)成分として、ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個以上含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを含有する。(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個以上含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、後述する(C)成分の白金又は白金化合物触媒の存在下で、(A)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基と(B)成分中のケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)とが反応して、三次元網目構造を形成する架橋剤として作用するものである。
【0021】
オルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造については特に制限はなく、直鎖状、分岐状、環状、網状のいずれであってもよく、ケイ素−水素結合を有するシロキサン単位のみからなる重合体であっても、ケイ素−水素結合を有するシロキサン単位と、トリオルガノシロキシ単位、ジオルガノシロキシ単位、モノオルガノシロキシ単位及びSiO2単位のうちの1種又は2種以上との共重合体であってもよい。
【0022】
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、下記一般式(2)
2bcSiO(4-b-c)/2 (2)
(式中、R2は置換又は非置換の好ましくは炭素数1〜12、特に1〜10の1価炭化水素基であり、bは0.7〜2.0、cは0.002〜1.2、かつb+cは0.8〜3.0を満たす正数、好ましくはbは0.9〜2.0、cは0.01〜1.0、かつb+cは1.0〜3.0を満たす正数である。)
で表すことができる。
【0023】
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの有機基(上記一般式(2)中のR2)としては、脂肪族不飽和基を有していないものが好ましく、上述した(A)成分において、アルケニル基以外の有機基として例示したものが挙げられる。この場合も、有機基(R2)は、同一でも相互に異なっていてもよいが、なかでもその化学的安定性や合成の容易さから全有機基(R1)の90モル%以上、特に全てがメチル基であることが好ましいが、特性上必要な場合は、メチル基以外にフェニル基、トリプルオロプロピル基を含むものでもよい。
【0024】
オルガノハイドロジェンポリシロキサン1分子中のケイ素原子結合水素原子(SiH基)の数は、好ましくは2個以上、より好ましくは3個以上、更に好ましくは3〜200個、特に好ましくは4〜100個である。
【0025】
また、重合度についても特に制限はないが、(A)成分との相溶性や合成の容易さ等の点からケイ素原子の数が2〜300個、特に4〜150個のものが好適とされる。なお、(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1種単独で使用しても、2種以上を組合せて使用してもよい。
【0026】
本発明のシリコーンゴム組成物中の(B)成分の配合量は、(A)成分中のオルガノポリシロキサンが有するアルケニル基1モル当たり、ケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)が、0.4〜10.0モル、好ましくは0.6〜5.0モルとなる量である。(B)成分の配合量が上記範囲未満では、硬化が不十分となり、必要な硬化物の強度が得られず、上記範囲を超えると硬化時に発泡したり、物性の経時変化の原因となったりする。
【0027】
本発明に使用されるシリコーンゴム組成物は、(C)成分として、白金又は白金化合物触媒を含有する。(C)成分の白金又は白金化合物触媒は、上記した(A)成分のアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンと、(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとの付加硬化反応(ハイドロサイレーション)を促進させるための触媒として使用されるものである。
【0028】
白金又は白金化合物触媒(白金系触媒)としては、公知のものを使用できる。具体的には、白金ブラック、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール変性物、塩化白金酸とオレフィン、アルデヒド、ビニルシロキサン又はアセチレンアルコール類等との錯体などが例示される。本発明のシリコーンゴム組成物中の(C)成分の配合量は、所望の硬化速度に応じて適宜増減すればよいが、通常は組成物に対して白金金属量で1〜2000ppm、好ましくは1〜500ppm、より好ましくは1〜200ppmの範囲である。
【0029】
なお、組成物の用途によっては、腐食性成分の混入は禁忌である場合があり、その場合は、白金系触媒も塩素イオンフリーとする必要がある。そのため、白金系触媒は塩素イオンが5ppm以下の0価の白金錯体が特に好ましい。このようなものとしては、米国特許第3715334号明細書(特許文献5)、米国特許第3775452号明細書(特許文献6)、米国特許第3814730号明細書(特許文献7)等に記載されたビニルシロキサン/白金錯体が挙げられる。
【0030】
本発明に使用されるシリコーンゴム組成物は、(D)成分として、
(R−O−)3
(式中、Rは置換又は非置換の一価炭化水素基であり、単一種でも複数種でもよい)
で表される亜リン酸化合物を含有する。(D)成分の亜リン酸化合物は、(C)成分の白金系触媒の触媒作用を停止させておくための硬化制御剤として機能するものである。
【0031】
上記式中のRとしては、作用効率の面から炭素数2〜12、特に2〜8のものが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、デシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基等のアリール基が例示されるが、特に、n−ブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基等のアルキル基やフェニル基が好ましい。Rは単一種であっても複数種であってもよい。
【0032】
本発明に使用されるシリコーンゴム組成物中の(D)成分の配合量は、所望の反応速度に合わせて、(C)成分の白金原子1モルに対して0.2〜30モル、特に0.5〜5モルとなる量とする。
【0033】
本発明に使用されるシリコーンゴム組成物では、(C)成分の白金又は白金化合物触媒と(D)成分の亜リン酸化合物とを接触させることにより、白金と亜リン酸化合物との錯体(以下、これを、「白金/亜リン酸化合物錯体」と称する。)が形成されている。この白金/亜リン酸化合物錯体は、(C)成分と(D)成分との混合により形成される。そのため、本発明のシリコーンゴム組成物は、(C)成分及び(D)成分の一部又は全部として、これらが反応して生成した白金/亜リン酸化合物錯体を含んでいる。
【0034】
白金/亜リン酸化合物錯体は、(C)成分と(D)成分との混合により形成されることから、シリコーンゴム組成物を調製する場合、各成分の全てを一括して混合することが可能である。この場合、シリコーンゴム組成物は1液型のものとなる。
【0035】
しかしながら、白金/亜リン酸化合物錯体の形成は、(C)成分と(D)成分の濃度が高い状態で混合した方がより効率的である。そのため、(C)成分と(D)成分と、必要に応じて(C)成分及び(D)成分以外の成分の一部とを混合、好ましくは(C)成分と(D)成分とのみを混合した第1液と、それら以外の残余の成分を混合した第2液とに分けて調製し、これら第1液と第2液とを混合することが好ましい。この場合、調製された第1液と第2液を直ちに混合してシリコーンゴム組成物(この場合も1液型である)とすることができ、また、使用前に第1液と第2液を混合して用いるシリコーンゴム組成物(この場合は2液型である)としてもよい。
【0036】
第1液の調製は、(C)成分及び(D)成分(及び必要に応じて(C)成分及び(D)成分以外の成分の一部)を公知の混合手段によって混合すればよい。また、混合後には、必要に応じて加熱(例えば10〜100℃程度で5分〜72時間)しながら熟成することが好ましい。一方、各成分を一括で混合する場合、第2液の混合の場合、及び第1液と第2液との混合は公知の混合手段によって混合すればよい。
【0037】
白金/亜リン酸化合物錯体は、密閉下及び暗所においては、安定な錯体として存在し、白金触媒の硬化反応への作用が制御される。そのため、この上記混合工程、熟成工程、組成物を容器に充填する工程、並びに第1液、第2液及び組成物の保存においては、亜燐酸の酸化による劣化を防ぐため、酸素が低減された環境(例えば減圧下、不活性ガス雰囲気下など)とすることが好ましく、また、遮光された環境を保つことが好ましい。
【0038】
本発明に使用されるシリコーンゴム組成物には、(E)成分として、光開始剤を添加することができる。(E)成分の光開始剤は、紫外線又は可視光領域の電磁波が照射されることで活性化し、ラジカル種を発生するものである。この光開始剤は、(D)成分の亜リン酸化合物の酸化を促進する機能をもつ。紫外線によって発生した光開始剤由来のラジカルは、大気中又は溶存の酸素と反応して酸化性をもった状態となり、結果として亜リン酸化合物を酸化させて、白金/亜リン酸化合物錯体から亜リン酸化合物が遊離する。これによって白金/亜リン酸化合物錯体における亜リン酸化合物の反応抑制効果を低減し、付加反応が進行することとなる。
【0039】
本発明に使用されるシリコーンゴム組成物には(E)成分が含まれていない場合でも、紫外線によって白金/亜リン酸化合物錯体から亜リン酸化合物の遊離が起こり、白金付加反応は進行するが、(E)成分が含まれていると、紫外線による反応の進行がより促進される。(E)成分を含有するシリコーンゴム組成物は、特に、薄膜状態での硬化性に優れており、一般的なラジカル重合系の紫外線硬化シリコーン組成物では、大気中の酸素の影響で硬化不十分となるような薄膜でも充分な硬化状態を得ることができる。
【0040】
光開始剤としては、上述した機能を発現するものであれば特に限定さなないが、例えば、ベンゾインとその誘導体、ベンゾインアクリルエーテルなどのベンゾインエーテル類、ベンジルとその誘導体、芳香族ジアゾニウム塩、アントラキノンとその誘導体、アセトフェノンとその誘導体、ジフェニルジスルフイドなどのイオウ化合物、ベンゾフェノンとその誘導体等、従来公知の光開始剤を用いることができる。
【0041】
本発明に使用されるシリコーンゴム組成物には、本発明の効果を妨げない範囲で、補強性レジン、補強性シリカ充填材、石英粉末、珪藻土、炭酸カルシウム等の非補強性の充填材、コバルトブルー等の無機顔料、有機染料などの着色剤、酸化セリウム、炭酸亜鉛、炭酸マンガン、ベンガラ、酸化チタン、カーボンブラック等の耐熱性、難燃性向上剤等を添加することも可能である。また、導電性を付与する目的で、組成物に粉状、ウイスカー状、ストラクチャーの発達したカーボンブラック、グラファイト等を添加することも可能である。更に、自己接着性を発現するための接着性付与剤(シランカップリング剤)の添加も可能である。なお、好気硬化性や、紫外線硬化性の更なる向上のために、酸化チタン粉末や、リン酸チタン粉末を添加することも可能である。
【0042】
本発明に使用される付加硬化型シリコーンゴム組成物を基材表面に塗布し、その塗布面に紫外線を照射することによって、塗布された付加硬化型シリコーンゴム組成物を硬化させることにより基材上にシリコーンゴム薄膜被覆層の形成することができ、これにより、基材上にシリコーンゴム薄膜被覆層が形成されたシリコーンゴム薄膜被覆物品を得ることができる。
【0043】
本発明のシリコーンゴム組成物を用いてシリコーンゴム薄膜被覆層を形成する基材としては、例えば布、紙、フィルム、構造部品、電気電子部品などが挙げられ、より具体的には、エアバッグ用のシリコーンコーティング用基布、粘着テープ・シール用の剥離シートなどが挙げられる。
【0044】
シリコーンゴム組成物を基材表面に塗布する方法は特に限定されず、例えば、スプレー、ディップ、刷毛塗り、転写、ナイフコート等、従来公知の方法で塗布することができる。この際、上述したとおり、(C)成分の白金又は白金化合物触媒と(D)成分の亜リン酸化合物とを事前に混合させた後に、これらの混合物と残余の成分とを、好ましくは使用直前に混合して付加硬化型シリコーンゴム組成物を調製し、このシリコーンゴム組成物を基材表面に塗布することが好ましい。基板表面に対するシリコーンゴム組成物の塗布量は、1〜1000g/m2、特に10〜500g/m2とすることが好ましい。
【0045】
次に、塗布した薄膜状のシリコーンゴム組成物に、紫外線を照射することによって、塗布された付加硬化型シリコーンゴム組成物を硬化させることができる。紫外線の照射は従来公知の手法、公知の装置を適用することができる。紫外線の照射は、通常、波長200〜400nmの紫外線を用い、例えば、高圧水銀灯(365nm)の場合、照度10〜1,000mW/cm2として、積算光量10〜10,000mJ/cm2とすることで硬化が可能である。
【0046】
本発明に使用されるシリコーンゴム組成物に紫外線が照射されると、紫外線のエネルギーによって白金/亜リン酸化合物錯体の白金−亜リン酸化合物の結合が切断され、白金触媒による硬化反応が進行する。特に、シリコーンゴム組成物表面の硬化は迅速であり、短時間で硬化が終了する。更に、このシリコーンゴム組成物は、通常の付加反応組成物と同様、加熱によっても白金触媒活性を得ることができ、加熱によっても硬化反応が進行するため、補助的に加熱によって硬化反応を促進することも可能である。
【0047】
このような硬化機構により、本発明のシリコーンゴム組成物は、低エネルギーかつ短時間で硬化させることが可能であり、また、保存安定性と高速硬化とを両立させることができる。また、架橋反応後の硬化物も耐熱性等に優れることから、種々の用途への応用が可能である。
【0048】
本発明に使用されるシリコーンゴム組成物は、従来のシリコーンゴム組成物と比べ、紫外線照射時の表面硬化性に優れ、密閉保管中の保存安定性も優れている。特に膜厚1mm以下、特に0.5mm以下の薄膜状態でシリコーンゴム組成物に紫外線を照射した場合、組成物体積当たりの大気中の酸素の供給量が十分な状態となり、非常に速やかな硬化性が得られる。更に、光開始剤を含有するシリコーンゴム組成物を用いた場合には、光開始剤由来のラジカルとの相乗効果により、亜リン酸化合物の酸化が瞬時に完了し、更に速やかな硬化性が得られる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。実施例で用いた各成分は以下のとおりである。
【0050】
(A)成分:オルガノポリシロキサン
(a−1)下記式
【化1】

で示され、式中のnが23℃における粘度が10000cStとなるような数であるビニル基含有の直鎖状オルガノポリシロキサン
(a−2)上記式で示され、式中のnが23℃における粘度が1000cStとなるような数であるビニル基含有の直鎖状オルガノポリシロキサン
(a−3)上記式で示され、式中のnが23℃における粘度が100cStとなるような数であるビニル基含有の直鎖状オルガノポリシロキサン
【0051】
(B)成分:オルガノハイドロジェンポリシロキサン
(b−1)下記式で示される直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン
【化2】

(b−2)下記式で示される直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン
【化3】

【0052】
(C)成分:白金又は白金化合物触媒
(c)白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体/トルエン溶液(白金原子含有量=15ppm)
(D)成分:亜リン酸化合物
(d)亜リン酸トリオクチル(P(OC8173
(E)成分:光開始剤
(e)2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(ダロキュア1173(長瀬産業(株)製))
その他の成分:
(f)フュームドシリカ(NSX200 (日本アエロジル社製))
(g)シラン(γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン:KBM−503(信越化学工業(株)製))
【0053】
なお、(C)成分及び(D)成分は、これらを使用量の100倍スケールで事前に混合し、40℃×24時間の熟成を加え、錯体生成を促進したものを用いた。以下、これを、「白金/亜リン酸トリオクチル錯体」とする。
【0054】
また、シリコーンゴム組成物に対して実施した評価は以下のとおりである。
〔保存安定性の評価〕
シリコーンゴム組成物を、遮光ガラス瓶内に密閉して40℃に加熱して液状が保たれる時間を測定した。
〔紫外線照射時の硬化性の評価〕
シリコーンゴム組成物を基材に塗布し、コンベア付きの紫外線照射器(高圧水銀灯)365nmにおける最高照度100mW/cm2(コンベア1回通し=積算光量:500mJ/cm2)の条件で評価した。
【0055】
[実施例1]
(a−1)のオルガノポリシロキサン1000gと、(f)のフュームドシリカ150gを品川式万能混合器(ダルトン社製)で1時間減圧混合したシリカコンパウンドに、(b−1)のオルガノハイドロジェンポリシロキサン50gを加え、更に15分間減圧混合した。ここに、(c)の白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体/トルエン溶液と(d)の亜リン酸トリオクチルとを事前に混合して作製した白金/亜リン酸トリオクチル錯体[白金/亜燐酸トリオクチル=1/3(モル比)]を、白金が20ppmとなるように添加し、更に30分間減圧混合して付加硬化型シリコーンゴム組成物を得た。
【0056】
以上のように作製したシリコーンゴム組成物の保存安定性は、40℃密閉下において480時間であった。また、この組成物をナイロン基布に対して塗布(塗布量50g/m2)し、コンベア付き紫外線照射器で2回照射したところ、組成物は完全に硬化して、シリコーンゴム薄膜被覆層が形成されていることが確認された。
【0057】
[実施例2]
窒素シールされたガラスフラスコ中で(a−3)のオルガノポリシロキサン1000gと、(b−2)のオルガノハイドロジェンポリシロキサン300gを15分間混合した。ここに、(c)の白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体/トルエン溶液と(d)の亜リン酸トリオクチルとを事前に混合して作製した白金/亜リン酸トリオクチル錯体[白金/亜燐酸トリオクチル=1/3(モル比)]を、白金が20ppmとなるように添加し、更に15分間減圧混合して付加硬化型シリコーンゴム組成物を得た。
【0058】
以上のように作製したシリコーンゴム組成物の保存安定性は、40℃密閉下において720時間以上であった。また、この組成物をポリエチレンラミネート紙に対して塗布(塗布量5g/m2)し、コンベア付き紫外線照射器で紫外線を2回照射したところ、組成物は完全に硬化して、シリコーンゴム薄膜被覆層が形成されていることが確認された。
【0059】
[実施例3]
窒素シールされたガラスフラスコ中で(a−2)のオルガノポリシロキサン1000gと、(b−1)のオルガノハイドロジェンポリシロキサン50gと、(g)のシラン5.0gを15分間混合した。ここに、(c)の白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体/トルエン溶液と(d)の亜リン酸トリオクチルとを事前に混合して作製した白金/亜リン酸トリオクチル錯体[白金/亜燐酸トリオクチル=1/3(モル比)]を、白金が20ppmとなるように添加し、更に15分間減圧混合して付加硬化型シリコーンゴム組成物を得た。
【0060】
以上のように作製したシリコーンゴム組成物の保存安定性は、40℃密閉下において720時間以上であった。また、この組成物を電子部品が設置された回路基板に対して膜厚が最厚部で500μm程度となるように刷毛塗りし、基板の塗布面が紫外線に当たるように、コンベア付き紫外線照射器で紫外線を2回照射したところ、組成物は完全に硬化して、シリコーンゴム薄膜被覆層が形成されていることが確認された。更に、シリコーンゴム薄膜被覆層部分を削ると、シリコーンゴム薄膜被覆層が基板に接着していることが確認された。
【0061】
[実施例4]
窒素シールされたガラスフラスコ中で(a−2)のオルガノポリシロキサン1000gと、(b−1)のオルガノハイドロジェンポリシロキサン50gと、(e)の光開始剤2.0gと、(g)のシラン5.0gを15分間混合した。ここに、(c)の白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体/トルエン溶液と(d)の亜リン酸トリオクチルとを事前に混合して作製した白金/亜リン酸トリオクチル錯体[白金/亜燐酸トリオクチル=1/3(モル比)]を、白金が20ppmとなるように添加し、更に15分間減圧混合して付加硬化型シリコーンゴム組成物を得た。
【0062】
以上のように作製したシリコーンゴム組成物の保存安定性は、40℃密閉下において720時間以上であった。また、この組成物を電子部品が設置された回路基板に対して膜厚が最厚部で500μm程度となるように刷毛塗りし、基板の塗布面が紫外線に当たるように、コンベア付き紫外線照射器で紫外線を1回照射したところ、組成物は完全に硬化して、シリコーンゴム薄膜被覆層が形成されていることが確認された。更に、シリコーンゴム薄膜被覆層部分を削ると、シリコーンゴム薄膜被覆層が基板に接着していることが確認された。
【0063】
以上の結果から、本発明に使用される付加硬化型シリコーンゴム組成物は、十分な保存安定性を有し、かつ短時間の紫外線照射でも実用に堪える速やかな硬化性と薄膜形成性を有するものであり、本発明の有効性が確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上含有するオルガノポリシロキサン、
(B)ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個以上含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:本成分に含まれるケイ素原子に結合した水素原子が、(A)成分中のオルガノポリシロキサンが有するアルケニル基1モル当たり0.4〜10.0モルとなる量、
(C)白金又は白金化合物触媒:白金原子として1〜2000ppm、及び
(D)(R−O−)3
(式中、Rは置換又は非置換の一価炭化水素基であり、単一種でも複数種でもよい)
で表される亜リン酸化合物:(C)成分の白金原子1モルに対して0.2〜30モルとなる量
を配合してなる付加硬化型シリコーンゴム組成物を、基材表面に塗布し、その塗布面に紫外線を照射することによって、塗布された付加硬化型シリコーンゴム組成物を硬化させることを特徴とする基材上へのシリコーンゴム薄膜被覆層の形成方法。
【請求項2】
付加硬化型シリコーンゴム組成物が、更に、(E)光開始剤を配合したものであることを特徴とする請求項1記載のシリコーンゴム薄膜被覆層の形成方法。
【請求項3】
(C)成分の白金又は白金化合物触媒と(D)成分の亜リン酸化合物とを事前に混合させた後に、これらの混合物と残余の成分とを混合して上記付加硬化型シリコーンゴム組成物を調製し、該付加硬化型シリコーンゴム組成物を基材表面に塗布することを特徴とする請求項1又は2記載のシリコーンゴム薄膜被覆層の形成方法。
【請求項4】
基材表面への付加硬化型シリコーンゴム組成物の塗布量を1〜1000g/m2とすることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のシリコーンゴム薄膜被覆層の形成方法。
【請求項5】
基材がエアバッグ用のシリコーンコーティング用基布であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載のシリコーンゴム薄膜被覆層の形成方法。
【請求項6】
基材が粘着テープ・シール用の剥離シートであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載のシリコーンゴム薄膜被覆層の形成方法。
【請求項7】
基材が電気電子部品であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載のシリコーンゴム薄膜被覆層の形成方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項記載の方法により基材上にシリコーンゴム薄膜被覆層が形成されたシリコーンゴム薄膜被覆物品。

【公開番号】特開2009−220384(P2009−220384A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−67092(P2008−67092)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】