説明

シロキサン化合物およびその硬化物

【課題】従来のシルセスキオキサンに比較して、低温で流動性を有し、成形が容易なシロキサン化合物を提供する。
【解決手段】一般式(1)


(式(1)中、Xはそれぞれ独立にX1またはX2で表わされ、Xのうち少なくとも1個はX2であり、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子、又は有機基。m、nはそれぞれ独立に1〜10の整数であり、Yは特定の架橋基である。)で表されるシロキサン化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性を有する樹脂、特にシロキサン系化合物およびその硬化物に関する。本発明のシロキサン化合物を硬化させた硬化物は、半導体用など耐熱性を要求される種々の封止材、接着剤等、さらには無色透明な場合は光学部材用封止材、レンズ材料または光学用薄膜等にも使用できる。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)等の半導体用封止材は、動作中の半導体の発熱に耐える耐熱性が要求される。
【0003】
従来、耐熱性樹脂であるエポキシ樹脂またはシリコーンが、半導体の封止材として用いられてきた。しかしながら、ケイ素(Si)を用いた半導体に比べ耐電圧性が高い、炭化ケイ素(SiC)を用いたパワー半導体に代表される高性能な半導体に用いると、パワー半導体の発熱量が多いため、従来のエポキシ樹脂またはシリコーンによる封止材は耐熱性が十分でなく、半導体の動作中に熱分解を起こし易いという問題があった。
【0004】
エポキシ樹脂またはシリコーンに比べて耐熱性の高い樹脂に、ポリイミドが挙げられる。特許文献1には、ポリイミド前駆体組成物膜を230℃〜300℃に加熱して硬化させ形成する半導体素子の表面保護膜が開示される。しかしながら、ポリイミド前駆体組成物は室温(20℃)付近の低温領域において固体であるために成形性に乏しいという問題があった。
【0005】
他に、耐熱性を有する材料として、例えば、アルキルトリアルコキシシラン等を加水分解し縮重合させてなるネットワーク状ポリシロキサンであるシルセスキオキサンが挙げられる。シルセスキオキサンにおいては、無機物であるシロキサン骨格の持つ高耐熱性とそれに結合する有機基の特性を生かした分子設計が可能であり、様々な用途に使用される。また、シルセスキオキサンは、常温で液体のものもあり、基材表面に垂らした後に、加熱または紫外線照射で縮重合させて硬化させるポッティング加工が可能である。
【0006】
シルセスキオキサンの合成方法は、例えば、特許文献2〜5、非特許文献1〜6に開示されている。
【0007】
耐熱性と成形性を兼ね備えたシルセスキオキサンを用いた封止材料は、種々検討されている。しかしながら、250℃以上の高温下で、数千時間に渡って加熱しても劣化しない材料は、未だ得られていない。
【0008】
半導体等を封止する際に、ポッティング加工可能な常温付近で液体のシルセスキオキサンの合成には、ヒドロシリル化反応を用いる場合が多く、ヒドロシリル化反応によって形成されたシルセスキオキサン末端のアルキレン鎖、例えばプロピレン鎖が耐熱性の劣化の原因となる問題があった。(非特許文献5および非特許文献6を参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−270611号公報
【特許文献2】特開2004−143449号公報
【特許文献3】特開2007−15991号公報
【特許文献4】特開2009−191024号公報
【特許文献5】特開2009−269820号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】I. Hasegawa et al., Chem. Lett., pp.1319(1988)、
【非特許文献2】V. Sudarsanan et al., J. Org. Chem., pp1892(2007)
【非特許文献3】M. A. Esteruelas, et al., Organometallics, pp3891(2004)
【非特許文献4】A. Mori et al., Chemistry Letters, pp107(1995)
【非特許文献5】J.Mater.Chem.,2007,17,3575−3580
【非特許文献6】Proc. of SPIE Vol. 6517 651729−9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は従来のシルセスキオキサンに比べ、より低温で流動性を有し成形が容易なシロキサン化合物を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、特定のシロキサン骨格に特定の架橋基を結合させることにより得られたシロキサン化合物は、60℃以下で液体であり、150℃以上、350℃以下に加熱することで硬化物が得られ、低温でも良好な成形性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は、以下、発明1〜4を含む。
【0014】
[発明1]
一般式(1):
【化1】

【0015】
(式(1)中、Xはそれぞれ独立にX1またはX2で表わされ、Xのうち少なくとも1個はX2であり、
X1およびX2中、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、アルケニル基もしくはアルキニル基、フェニル基またはピリジル基であり、炭素原子は酸素原子に置換されていてもよく、構造中にエーテル結合、カルボニル基、またはエステル結合を含んでもよい。m、nはそれぞれ独立に1〜10の整数であり、
Yがそれぞれ独立に構造式(2)〜(12)
【化2】

【0016】
で表される基からなる群から選ばれた少なくとも一つの架橋基である、シロキサン化合物。
【0017】
[発明2]
〜Rが全てメチル基であり、m=1〜3の整数、n=2〜3の整数である発明1のシロキサン化合物。
【0018】
[発明3]
発明1または発明2のシロキサン化合物の架橋基が反応して得られた硬化物。
【0019】
[発明4]
発明3の硬化物を含む封止材。
【発明の効果】
【0020】
本発明のシロキサン化合物は、60℃以下で液体であり、成形、塗布またはポッティング加工が可能である。また、他の組成物を加えることで粘度調整が可能であり、成形、塗布またはポッティング加工が容易となる。また、本発明のシロキサン化合物は、単独または他の組成物を加えた組成物として加熱することで、架橋基が互いに架橋結合し、耐熱性に優れた硬化物を与える。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のシロキサン化合物およびその合成方法、特徴、半導体封止材用途への応用について、順を追って説明する。
【0022】
1.シロキサン化合物
本発明は、一般式(1):
【化3】

【0023】
(式(1)中、Xはそれぞれ独立にX1またはX2で表わされ、Xのうち少なくとも1個はX2であり、
式X1およびX2中、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、アルケニル基もしくはアルキニル基、フェニル基またはピリジル基であり、炭素原子は酸素原子に置換されていてもよく、構造中にエーテル結合、カルボニル基、またはエステル結合を含んでもよい。m、nはそれぞれ独立に1〜10の整数であり、Yは架橋基である。)
で表されるシロキサン化合物である。尚、本発明において、式(1)で表わされるシロキサン化合物を「シロキサン化合物(1)」と称することがある。
【0024】
炭素数1〜8のアルキル基は、具体的には、メチル基、エチル基、1−プロピル基、2−プロピル基、n−ブチル基またはsec−ブチル基等が挙げられる。本発明において、特にメチル基を含有するシロキサン化合物(1)が合成しやすく、より好ましくは、メチル基である。
【0025】
炭素数1〜8のアルケニル基は、具体的には、ビニル基、アリル基、メタクリロイル基、アクリロイル基、スチレニル基またはノルボルネニル基が挙げられる。本発明において、特にビニル基またはメタクリロイル基を含有するシロキサン化合物(1)が合成しやすく、アルケニル基としては、ビニル基またはメタクリロイル基が好ましい。
【0026】
また、炭素数1〜8のアルキニル基は、具体的には、エチニル基、フェニルエチニル基などが挙げられる。本発明において、特に中でもフェニルエチニル基を含有するシロキサン化合物(1)が合成しやすく、より好ましくは、フェニルエチニル基が好ましい。
【0027】
同様の理由で、フェニル基は炭素数6個の通常のフェニル基、ピリジル基は炭素数5個の通常のピリジル基が好ましい。フェニル基、ピリジル基は置換基を有していてもよいが、未置換のものが好ましい。
【0028】
また、粘度等の調整のために、炭素原子は酸素原子に置換されていてもよく、構造中にエーテル結合、カルボニル基、またはエステル結合を含んでもよい。これらは粘度を調整するために有用である。
【0029】
本発明のシロキサン化合物(1)において、架橋基Yは、それぞれ独立に構造式(2)〜(12)
【化4】

【0030】
で表される基からなる群から選ばれた少なくとも一つの架橋基である。
【0031】
これら構造式(2)〜(12)で表される架橋基は、環状構造による耐熱性を有し、シロキサン化合物(1)の耐熱性を低下させることがない。また、構造式(2)〜(12)で表される架橋基は、二重結合または三重結合を有することにより、結合が容易で、少なくともX1を2個、好ましくは3個以上有するシロキサン化合物(1)同士が加熱により架橋し、硬化物となる。
【0032】
即ち、構造式(2)〜(12)で表される架橋基YをX2に結合させることで、本発明のシロキサン化合物(1)が得られた。当該シロキサンを加熱し、架橋基Yを架橋硬化させることで、極めて耐熱性の高い硬化物が得られる。
【化5】

【0033】
尚、式(1)中のX、即ち、X1およびX2において、Xのうち少なくとも1個はX2であり、R〜Rが全てメチル基であり、m=1、n=2であり、Yが前記架橋基であるシロキサン化合物(1)は、有機合成により単一組成物としとして得ることが容易である。また、当該シロキサン化合物(1)は、室温(20℃)以上、60℃以下で液体であり、半導体の封止材料として用いるに好適である。
【0034】
2.シロキサン化合物(1)の合成
2.1.シロキサン化合物前駆体(A)の合成
最初に、シロキサン結合、即ち、−Si−O−で結合し、ケイ素原子、8個、酸素原子、12個からなるかご型の骨格を有するシロキサン化合物(1)の前駆体(A)(以下、単に「シロキサン化合物前駆体(A)」と呼ぶことがある)を合成する。
【0035】
具体的には、以下の反応スキ−ムに示すように、水酸化四級アンモニウムの水溶液に、テトラアルコキシシラン、例えば、テトラエトキシシラン(以下、TEOSと呼ぶことがある)を加え、室温で攪拌することで、シロキサン化合物前駆体(A)としてのアンモニウム塩が得られる。
【0036】
本反応により、−Si−O−で結合し、ケイ素原子、8個、酸素原子、12個からなるかご型の骨格を有するシロキサン化合物前駆体(A)が選択的に得られる。(非特許文献1参照)
【化6】

【0037】
尚、水酸化四級アンモニウムを具体的に例示するならば、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、コリンなどが挙げられる。中でも、固体として得られること、次工程の反応溶媒であるアルコールへの溶解性が優れることなどの理由から、コリンが好ましい。
【0038】
2.2 シロキサン化合物前駆体(A)のシリル化
シロキサン化合物前駆体(A)のシリル化は、シロキサン化合物前駆体(A)を、クロロジメチルシランに代表されるハロゲン化ジアルキルシランと反応させること(非特許文献1参照)、またはヘキサメチルジシロキサンに代表されるジシロキサンと反応させること(特許文献5参照)で可能である。
【0039】
具体的には、以下の反応スキームに示すように、前記アンモニウム塩としてのコリン塩およびクロロジメチルシランを、アルコール溶液中で有機塩基の存在下、反応させることで、シロキサン化合物前駆体(A)をシリル化し、以下に示すシロキサン化合物前駆体(B)を得ることができる。
【化7】

【0040】
上記反応スキームで用いられる前記アルコールには、メタノール、エタノールまたは2−プロパノールが好ましく、前記有機塩基には、トリエチルアミン、ピリジンが好ましい。
【0041】
2.3.シロキサン化合物前駆体(B)のクロル化
シロキサン化合物前駆体(B)のクロル化は、トリクロロイソシアヌル酸と反応させること(非特許文献2参照)、ロジウム触媒の存在下、ヘキサクロロシクロヘキサンと反応させること(非特許文献3参照)、または塩素ガスと反応させて行うことができる。例えば、公知文献(Journal of Organic Chemistry, vol.692, pp1892−1897(2007)、S.Varaprathら著)に記載のクロロ化手法は制限無く使用出来るが、中でも副生成物が少なく、経済性において実用的であることより、トリクロロイソシアヌル酸または塩素ガスと反応させることが好ましい。
【0042】
具体的には、以下のスキームに示すように、シロキサン化合物前駆体(B)にトリクロロイソシアヌル酸を有機溶媒中で反応させることにより、一般式(1)で表されるシロキサン化合物(B)をクロル化し、以下に示すシロキサン化合物前駆体(C)を得ることができる。
【化8】

【0043】
前記有機溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタンなどの塩素系溶媒やテトラヒドロフランなどが好適に使用される。
【0044】
2.4.シロキサン化合物(1)の合成
シロキサン化合物前駆体(C)に、一般式(2)〜(12)で表される架橋基を付加させることで、シロキサン化合物(1)が得られる。
【0045】
例えば、4−ブロモベンゾシクロブテンに有機金属試薬を反応させ金属−ハロゲン交換反応したのち、前述のシロキサン化合物前駆体(C)と反応させることで、一般式(1)に示されるシロキサン化合物の一例である、一般式(7)で表される架橋基、即ち、ベンゾシクロブテニル基を含有した、以下に示すシラノレート化合物を得ることができる。尚、本発明は、前記シラノレート化合物に限定されるものではない
具体的なベンゾシクロブテニル基を含有したシラノレート化合物の製造工程の例を以下に説明する。
【0046】
最初に以下の反応スキームに示すように、4−ブロモベンゾシクロブテンにアルキルリチウム塩、例えば、n−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウムまたはメチルリチウムを反応させ、ベンゾシクロブテニルーリチウム体とする。(非特許文献5参照)
【化9】

【0047】
尚、前記有機金属試薬としては、入手の容易さなどからn−ブチルリチウムが好適に用いられる。その後、ヘキサメチルシクロトリシロキサンと作用させることで、ヘキサメチルシクロトリシロキサンの環開裂反応を経由して、結果としてベンゾシクロブテニル基を含有したシロキシリチウム化合物が得られる。
【0048】
前述した同様の操作を行い、以下の反応を進行させることによって、ブロモ化合物(a)〜(e)から、以下に示す経路でに、シロキシリチウム化合物(A)〜(E)を合成することができる。
【化10】

【0049】
次いで、以下の示すように、シロキサン化合物前駆体(C)とベンゾシクロブテニル基を含有したシロキシリチウム化合物と反応させることで、シロキサン化合物(1)の一例である、一般式(7)に示されるベンゾシクロブテニル基を含有した以下に示すシラノレート化合物を得ることができる。
【化11】

【0050】
前述と同様の操作を行い、化学反応を進行させることによって、シロキシリチウム化合物(A)〜(E)から、それぞれ対応するシラノレート化合物(AA)〜(EE)が得られる。
【化12】

【0051】
3.シロキサン化合物(1)の半導体封止材用途への応用
半導体用途の封止材用途では、広い温度範囲において金属配線材料との強い密着性が求められる。このために封止材の線膨張係数を金属配線材料とできるだけ近い値に調整することが必要となる。その解決策としていくつかの方策が考えられる。
【0052】
先ず、シロキサン化合物(1)と無機フィラーとの混合である。シリカやアルミナなどの無機フィラーを本発明のシロキサン化合物(1)と混合することで、任意の線膨張係数に調整することが可能である。本発明のシロキサン化合物(1)は、60℃までの温度範囲で液体であり、上記無機フィラーと容易に混合することが可能である。
【0053】
次に、熱不可重合の採用である。重合反応についてはゾルゲル反応に代表されるシリコンアルコキシドを用いた加水分解、脱水縮重合を最終硬化反応とすると発泡および体積収縮が問題となるため、本発明では付加重合架橋基による熱付加重合とした。熱付加重合は紫外線や硬化触媒を用いない点で、封止材に適した硬化システムと言える。最適な付加重合架橋基としては、架橋基Yが挙げられる。これらの架橋基Yは、パワー半導体に用いる材料の耐熱温度範囲である350℃以下で硬化反応が完了しかつ250℃の長期耐熱性試験において質量減少が10質量%以下となる非常に耐久性が高いものである。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、本実施例で得られたシロキサン化合物(1)および比較例で得られた本発明の範疇にないシロキサン化合物、およびその硬化物の物性評価は、以下に示す方法でおこなった。
【0055】
<粘度測定>
回転粘度計(ブルックフィールド・エンジニアリング・ラボラトリーズ・インク製、品名、DV−II+PRO」と温度制御ユニット(ブルックフィールド・エンジニアリング・ラボラトリーズ・インク、品名、THERMOSEL)を用い25℃における試料の粘度を測定した。
【0056】
<5%質量減少温度の測定>
熱質量・示差熱分析計(株式会社リガク製、品名、TG8120)を用い、空気、50ml/minの気流下で、各々のシロキサン化合物の硬化物を、30℃から昇温速度5℃/minで昇温し、測定前の質量を基準として、5質量%減少した時点の温度を測定した。
【0057】
<300℃、350℃、400℃質量減少率>
前記熱質量・示差熱分析計を用いて、窒素、50ml/minの気流下で、各々のシロキサン化合物の硬化物を300℃、350℃または400℃で2時間保持し、測定前の質量を基準(100%)として質量の減少率を求めた。各温度における質量減少率を、各々300℃、350℃、400℃質量減少率と呼ぶ。
【0058】
<ガラス転移点の測定>
熱機械測定装置(株式会社リガク製、品名、TMA8310)を用いて、10g荷重下、昇温速度5℃/min.で、各々のシロキサン化合物の硬化物を30℃から300℃まで昇温し、ガラス転移温度を測定した。
【0059】
1.シロキサン化合物前駆体(A)〜(D)の合成
シロキサン化合物前駆体(A)〜(D)の合成を、以下の合成例1〜4により、具体的に示す。
【0060】
[合成例1:シロキサン化合物前駆体(A)の合成]
温度計および還流冷却器を備えた1Lの三口フラスコに、テトラエトキシシラン200g(960mmol)および50質量%水酸化コリン水溶液233g(960mmol)を入れ、室温で12時間攪拌した。攪拌終了後に、2プロパノールを100g加え、30分間攪拌した。3℃まで冷却し、析出した粗生成物を濾別して2プロパノールによる洗浄を行った後、乾燥し、白色粉末として、シロキサン化合物前駆体(A)としてのオクタ(2−ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウム)シルセスキオキサン・36水和物、151gを、収率62質量%で得た。
【0061】
以下に、オクタ(2−ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウム)シルセスキオキサンの構造式を示した。
【化13】

【0062】
[合成例2:シロキサン化合物前駆体(A)からシロキサン化合物前駆体(B)への変換]
温度計および還流冷却器を備えた1L三口フラスコに、2−プロパノール100g、ジメチルクロロシラン1910g(20.2mol)およびピリジン390g(4.93mol)を入れ、合成例1で得たオクタ(2−ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウム)シルセスキオキサン・36水和物100g(493mmol)を加え、室温で12時間攪拌した。攪拌終了後、エバポレーターで留出分を除去後、トルエン300gに投入し、イオン交換水300gで3回洗浄した。得られた有機層を硫酸マグネシウム30gで乾燥し、硫酸マグネシウムを濾別した後に減圧濃縮した。得られた粗生成物をメタノールで洗浄し、乾燥し、白色粉末として、シロキサン化合物前駆体(B)としてのオクタ(ヒドロジメチルシロキシ)シルセスキオキサン46.0gを、収率91.6質量%で得た。
【0063】
以下に、オクタ(ヒドロジメチルシロキシ)シルセスキオキサンの構造式を示した。
【化14】

【0064】
[合成例3:シロキサン化合物前駆体(A)からシロキサン化合物前駆体(B)への変換]
合成例2におけるジメチルクロロシランを860g(9.09mol)に変更し、ビニルジメチルクロロシラン1096g(9.09mol)を加えること以外は、合成例2と同様の手順で操作を行い、シロキサン化合物前駆体(B)としてのテトラ(ヒドロジメチルシロキシ)テトラ(ビニルジメチルシロキシ)シルセスキオキサン51.0gを、収率85.0質量%で得た。
【0065】
以下に、テトラ(ヒドロジメチルシロキシ)テトラ(ビニルジメチルシロキシ)シルセスキオキサンの構造式を示した。
【化15】

【0066】
[合成例4:シロキサン化合物前駆体(A)からシロキサン化合物前駆体(B)への変換]
合成例2におけるジメチルクロロシランを860g(9.09mol)に変更し、トリメチルクロロシラン988g(9.09mol)を用いること以外は、合成例2と同様の手順で操作を行い、シロキサン化合物前駆体(B)としてのテトラ(ヒドロジメチルシロキシ)テトラ(トリメチルシロキシ)シルセスキオキサン、46.4gを、収率、83.0%で得た。
【0067】
以下に、テトラ(ヒドロジメチルシロキシ)テトラ(トリメチルシロキシ)シルセスキオキサンの構造式を示した。
【化16】

【0068】
2.シロキサン化合物(1)の合成
次いで、合成例2〜4で得られたシロキサン化合物前駆体Bを用い、クロル化したシロキサン化合物前駆体Cとしたのち、シロキサン化合物(1)である、シロキサン化合物(A)〜(D)を合成した。以下の実施例1〜4に示した。
【0069】
[実施例1:シロキサン化合物(A)]
温度計および還流冷却器を備えた300mLの三口フラスコに、テトラヒドロフランを50.0g、合成例2で得たオクタ(ヒドロジメチルシロキシ)シルセスキオキサン10.2g(10.0mmol)を入れ、攪拌しがながら−78℃に冷却した。次いで、内温が−78℃に達した後にトリクロロイソシアヌル酸、6.28g(27.0mmol)を加えた。添加終了後に−78℃で30分間攪拌した後に、攪拌しながら室温まで昇温した。析出した不溶物を濾別し、テトラヒドロフラン溶液を得た。
【0070】
次いで、温度計、還流冷却器を備えた1L三口フラスコに4−ブロモベンゾシクロブテン、14.6g(80.0mmol)、ジエチルエーテル50gを入れ、攪拌しながら−78℃に冷却した。内温が−78℃に達した後に1.6mol/Lブチルリチウムヘキサン溶液56ml(90mmol)を30分間で滴下した。滴下終了後に30分間攪拌した後に、ヘキサメチルシクロトリシロキサン5.94g(26.7mmol)を加えた。攪拌しながら室温までの昇温し、室温で12時間攪拌した。
【0071】
次いで、3℃に冷却し、内温が3℃に達した後に、前記テトラヒドロフラン溶液を10分間で滴下した。滴下終了後に攪拌しつつ、室温まで昇温し、室温で2時間攪拌した。攪拌終了後にジイソプロピルエーテル、50g、純水、50gを加え30分間攪拌後、2層分離した。次いで、水層を除去し、有機層を蒸留水、50gで3回洗浄した。有機層を硫酸マグネシウム、10gで乾燥し、硫酸マグネシウムを濾別した後に、150℃/0.1mmHgで減圧濃縮し、無色透明油状物として、一般式(1)のシロキサン化合物(式(1)中、X1=0(個数、以下同じ)、X2=8(個数、以下同じ)、R,R=CH、Y=構造式(7)で表される架橋基、m=0、n=2)(以下、シロキサン化合物(A)と称する)、19.9gを収率82%で得た。粘度測定を行ったところ、粘度は1700mPa・sであった。
【化17】

【0072】
また、得られた、シロキサン化合物(A)の構造式、および核磁気共鳴スペクトル(NMR)のシグナル、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の分子量測定結果を、以下に示す。
【0073】
H NMR(溶媒:重クロロホルム,基準物質:テトラメチルシラン);δ0.07(s, 6H),0.30(s,6H),0.70(s,6H),3.14(s,4H),7.01(d, J=6.59Hz,1H),7.20(s,1H),7.36(d,J=6.59Hz,1H)
29Si NMR(溶媒:重クロロホルム,基準物質:テトラメチルシラン);δ−1.1,−17.7,−110.0
GPC(ポリスチレン換算、RI検出器)Mw=2530、Mw/Mn=1、1
得られたシロキサン化合物(A)をシリコーン(信越化学工業株式会社製、品名、信越シリコーンSH9555)の型枠に流し込み、大気圧下、250℃に1時間加熱することで、泡・クラックのない、厚さ、2mmの硬化物を得た。この硬化物の5%質量減少温度は460℃、線膨張係数は140ppm/℃であった。ガラス転移温度は、30℃〜300℃の領域で観測されなかった。
【0074】
[実施例2:シロキサン化合物(B)の合成]
合成例4で得られたテトラ(ヒドロジメチルシロキシ)テトラ(トリメチルシロキシ)シルセスキオキサンを用いて実施例1と同様の手順にて、一般式(1)で表わされるシロキサン組成物(式(1)中、X1=4、X2=4、R、R、R、R、R=CH、Y=構造式(7)で表される架橋基)(以下、シロキサン化合物(B)と称する。)を、油状物の状態で32.2g、収率91質量%で得た。粘度測定したところ、1100mPa・sであった。
【0075】
得られた、シロキサン化合物(B)の構造式を示す。
【化18】

【0076】
シロキサン化合物(B)のNMRおよびGPCによる測定結果を、以下に示す。
【0077】
H NMR(溶媒:重クロロホルム,基準物質:テトラメチルシラン);δ0.05−0.13(m, 15H),0.28−0.32(m,6H),3.14(s,4H),7.02―7.03(m,1H),7.19−7.21(m,1H),7.36−7.39(m,1H)
29Si NMR(溶媒:重クロロホルム,基準物質:テトラメチルシラン);δ12.7,−1.1,−17.8,−108.9,−110.0
GPC(ポリスチレン換算、RI検出器)Mw=1990、Mw/Mn=1、1
このポリシロキサン化合物(B)をシリコーン(信越化学工業株式会社製、品名 信越シリコーン、SH9555)の型枠に流し込み、大気圧下250℃で1時間加熱し架橋させて、厚さ2mmの泡・クラックのない硬化物を得た。この硬化物の5%質量減少温度は480℃であった。
【0078】
[実施例3:シロキサン化合物(C)の合成]
合成例3で得られたテトラ(ヒドロジメチルシロキシ)テトラ(ビニルジメチルシロキシ)シルセスキオキサン22.4g(20.0mmol)を用いて実施例1と同様の手順にて、一般式(1)で表されるシロキサン組成物C(式(1)中、X1=4、X2=4、R、R、R、R、R=Vinyl、Y=一般式(7)で表される架橋基)を得た。32.9g、収率90%であった。当該油状物の粘度は900mPa・sであった。
【0079】
得られた、シロキサン化合物(C)の構造式を示す。
【化19】

【0080】
シロキサン化合物(C)のNMRによる測定結果を以下に示す。
【0081】
H NMR(溶媒:重クロロホルム,基準物質:テトラメチルシラン);δ0.05−0.07(m, 6H),0.13−0.15(m,6H),0.28−0.31(m,6H),3.15(s,4H),5.75−5.78(m,1H),5.88−5.93(m,1H),6.04−6.07(m,1H)7.01−7.03(m,1H),7.20―7.22(m,1H),7.36−7.38(m,1H)
次いで、シロキサン化合物(C)をシリコーン(信越化学工業株式会社製、品名、信越シリコーンSH9555)の型枠に流し込み、大気圧下250℃で1時間加熱し架橋させて、厚さ2mmの泡・クラックのない硬化物を得た。この硬化物の5%質量減少温度は460℃であった。
【0082】
[実施例4:シロキサン化合物(D)の合成]
実施例1の条件の内、4−ブロモベンゾシクロブテン14.6g(80.0mmol)を(4−ブロモフェニル)フェニルアセチレン20.5g(80mmol)に変更した以外は実施例1と同様の操作にて、赤褐色油状物として一般式(1)で表されるシロキサン化合物(X1=0、X2=8、RおよびR=CH、Y=構造式(9)で表される架橋基、nは2)(以下、シロキサン化合物(D)と称する。)25gを、収率、83質量%で得た。当該油状物の粘度は12000mPa・sであった。
【0083】
得られた、シロキサン化合物(D)の構造式、GPCによる測定結果は以下の通りであった。
【化20】

【0084】
GPC(ポリスチレン換算、RI検出器)Mw=2910、Mw/Mn=1.3
次いで、シロキサン化合物(D)をシリコーン(信越化学工業株式会社製、品名、信越シリコーンSH9555)の型枠に流し込み、大気圧下、350℃で1時間加熱し架橋させて、厚さ2mmの泡・クラックのない硬化物を得た。この硬化物の5%質量減少温度は510℃であった。
【0085】
[質量減少率の比較]
本発明の実施例1のシロキサン化合物(A)が架橋してなる硬化物の質量減少率(実施例1〜4)と、非特許文献6に記載の本発明の範疇にない、以下に示すシロキサン化合物の硬化物の質量減少率(比較例1)を比較した。表1に記載した。
【化21】

【表1】

【0086】
表1の結果、実施例1〜4のシロキサン化合物(A)〜(D)が架橋してなる硬化物の300℃、350℃および400℃の質量減少率は、比較例1の300℃、350℃および400℃の質量減少率よりも小さく、本発明のシロキサン化合物(1)である実施例1〜4のシロキサン化合物(A)〜(D)が、架橋してなる硬化物の方が耐熱性に優れていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】

(式(1)中、Xはそれぞれ独立にX1またはX2で表わされ、Xのうち少なくとも1個はX2であり、
X1およびX2中、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、アルケニル基もしくはアルキニル基、フェニル基またはピリジル基であり、炭素原子は酸素原子に置換されていてもよく、構造中にエーテル結合、カルボニル基、またはエステル結合を含んでもよい。m、nはそれぞれ独立に1〜10の整数であり、
Yがそれぞれ独立に構造式(2)〜(12)
【化2】

で表される群から選ばれた少なくとも一つの架橋基である、シロキサン化合物。
【請求項2】
〜Rが全てメチル基であり、m=1〜3の整数、n=2〜3の整数である請求項1に記載のシロキサン化合物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のシロキサン化合物の架橋基が反応して得られた硬化物。
【請求項4】
請求項3に記載の硬化物を含む封止材。

【公開番号】特開2012−233174(P2012−233174A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−90665(P2012−90665)
【出願日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】