説明

シート状の成形材料とその成形方法

【課題】成形型に形成されている排気口を塞ぐことのないプリプレグ等のシート状の成形材料とその成形方法との提供。
【解決手段】合成樹脂成分と強化繊維成分とを含むシート状の成形材料1における上面1bと下面1aとのうちの一方の面が成形材料1とともに変形して成形型12の表面12aに密着可能な第1の熱可塑性合成樹脂フィルム2で被覆され、成形材料1がそのフィルム2との複合体3を形成する。複合体3はフィルム2が成形型12の表面12aに密着するようにして成形される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、合成樹脂成分と強化繊維成分とを含むシート状の成形材料とその成形方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂成分である熱硬化性合成樹脂または熱可塑性合成樹脂と、強化繊維成分であるカーボン繊維やガラス繊維とを含むシート状の成形材料として、プリプレグやシートモールディングコンパウンド(SHEET−MOLDING COMPOUND,SMC)は周知である。また、その成形材料を所要の形状に成形するための真空成形や真空圧空成形、プレス成形等の成形方法も周知である。
【0003】
たとえば、特開平6−143450号公報(特許文献1)に記載された浴槽の製造方法では、浴槽の表面層構成用の樹脂シートと、裏面構成用の熱硬化性樹脂のプリプレグシートとを積層して加熱軟化させ、しかる後に真空圧を使用して浴槽形状の真空成形型に引き込んで成形する。その後、その真空成形型を使用してプリプレグシートをさらに加熱して硬化させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−143450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
プリプレグやSMCを成形するための真空成形型には、真空成形型とそれにセットされているプリプレグやSMCとの間の空気を吸引排出するための吸引口が形成されていて、その吸引口は真空ポンプ等の真空源につながっている。一方、成形に先立って加熱されたプリプレグやSMCでは、それに含まれる熱硬化性合成樹脂が粘度の低い状態にあって、吸引口に吸引される空気とともにその吸引口に流入し、その後に硬化して吸引口を塞ぐということがある。そのような状態になった真空成形型は、硬化した樹脂を吸引口から取り除かなければ再使用することができない。
【0006】
この発明では、成形型を使用してプリプレグやSMC等のシート状の成形材料を成形するときに、成形型に形成されている排気口や吸引口を成形材料に含まれている合成樹脂成分で塞ぐことがないような成形材料とその成形材料の成形方法とを提供することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するためのこの発明は、シート状の成形材料に係る第1発明と、その成形材料の成形方法に係る第2発明とを含んでいる。
【0008】
その第1発明が対象とするのは、上下面を有し、合成樹脂成分と前記合成樹脂成分を含浸させた強化繊維成分とを含み、加熱軟化した状態で成形型の表面を倣うように変形することによって成形されるシート状の成形材料である。
【0009】
また、第1発明が特徴とするところは、次のとおりである。すなわち、前記成形材料は、前記上下面のうちの一方の面が前記成形材料とともに変形して前記成形型の表面に密着可能な第1の熱可塑性合成樹脂フィルムで被覆されることによって、前記第1の熱可塑性合成樹脂フィルムとの複合体を形成している。
【0010】
第1発明の実施態様の一つにおいて、前記成形材料は、前記一方の面の反対面が前記成形材料とともに成形可能な第2の熱可塑性合成樹脂フィルムで被覆されている。
【0011】
第1発明の実施態様の他の一つにおいて、前記第1の熱可塑性合成樹脂フィルムと前記第2の熱可塑性合成樹脂フィルムとは、前記成形材料の周縁から延出して重なり合い、前記周縁に沿って形成されたシールラインにおいて気密状態で互いに接合し、前記シールラインの内側が脱気状態および脱気可能な状態のいずれかの状態にある。
【0012】
第1発明の実施態様の他の一つにおいて、前記成形材料は、プリプレグおよびシートモールディングコンパウンドのいずれかである。
【0013】
第2発明が対象とするのは、上下面を有し、合成樹脂成分と前記合成樹脂成分を含浸させた強化繊維成分とを含むシート状の成形材料を加熱軟化させ、所要形状を有する成形型の表面を倣うように変形させることによって前記成形材料を成形する方法である。
【0014】
また、第2発明が特徴とするところは、次のとおりである。すなわち、前記成形材料は、前記上下面のうちの一方の面が前記成形材料とともに変形して前記成形型の表面に密着可能な第1の熱可塑性合成樹脂フィルムで被覆されることによって、前記第1の熱可塑性合成樹脂フィルムとの複合体を形成している。前記成形型の周囲に設けられたクランプ手段を介して前記複合体を前記成形型の上方にセットして前記第1の熱可塑性合成樹脂フィルムを前記成形型の表面に対向させる。前記複合体のうちの少なくとも前記成形材料を加熱軟化させた状態で前記複合体に空気圧を作用させて前記複合体を前記成形型の表面に密着させる。しかる後に、前記複合体を冷却して前記成形型から取り外すことによって、前記複合体から前記成形材料の成形品を得る。
【0015】
第2発明の実施態様の一つにおいて、前記空気圧として真空圧および加圧空気の少なくとも一方を使用する。
【0016】
第2発明の実施態様の他の一つにおいて、前記成形型には、前記成形型の表面と前記複合体との間の空気を前記成形型の外へ排出することが可能な通気孔が形成されている。
【0017】
第2発明の実施態様の他の一つにおいて、前記成形型の上方にセットした前記複合体の上方には、前記複合体を介して前記成形型に対向し前記複合体に向かって加圧空気の圧力を作用させることが可能な加圧室を設け、前記加圧空気の圧力によって前記複合体が前記成形型の表面を倣うように前記複合体を変形させる。
【0018】
第2発明の実施態様の他の一つにおいて、前記通気孔が真空源につながっている。
【0019】
第2発明の実施態様の他の一つにおいて、前記複合体には、前記加圧空気の押圧力を作用させるとともに、前記成形型の表面と前記複合体との間の前記空気を前記真空源を使用して排出して前記真空圧を作用させる。
【0020】
第2発明の実施態様の他の一つにおいて、前記複合体における前記成形材料は、前記一方の面の反対面が第2の熱可塑性合成樹脂フィルムで被覆してあり、前記複合体を前記第2の熱可塑性合成樹脂フィルムとともに成形する。
【0021】
第2発明の実施態様の他の一つにおいて、前記複合体は、前記成形型の上方に保持された前記第1の熱可塑性合成樹脂フィルムの上に前記成形材料を前記一方の面が下向きとなるようにして載せることにより得られるものである。
【0022】
第2発明の実施態様の他の一つにおいて、前記複合体では前記第1の熱可塑性合成樹脂フィルムと前記第2の熱可塑性合成樹脂フィルムとが前記成形材料の周縁に沿って気密状態でシールされることによって袋を形成し、前記袋の内側を脱気した後に前記複合体を成形する。
【0023】
第2発明の実施態様の他の一つにおいて、前記成形材料は、前記合成樹脂成分が熱硬化性合成樹脂および熱可塑性合成樹脂のいずれかである。
【0024】
第2発明の実施態様の他の一つにおいて、前記成形材料がプリプレグおよびシートモールディングコンパウンドのいずれかである。
【発明の効果】
【0025】
この発明に係るシート状の成形材料とその成形材料の成形方法によれば、成形材料は成形型の表面と向かい合う面が第1の熱可塑性合成樹脂フィルムで被覆されていて、その第1のフィルムとともに成形型の表面に密着して成形されるから、成形材料に含まれる熱硬化性合成樹脂や熱可塑性合成樹脂は、加熱されることによってその粘度が低くなっていても、成形型に形成されている通気孔に流入することがない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】成形装置の部分破断斜視図。
【図2】図1のII−II線断面図。
【図3】プリプレグ複合体の成形過程を示す図。
【図4】成形後のプリプレグ複合体の断面図。
【図5】トレーの斜視図。
【図6】プリプレグ複合体の成形過程の一例を示す図3と同様な図。
【図7】プリプレグ複合体の一態様を示すその複合体の部分破断斜視図。
【図8】図7の部分拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
添付の図面を参照してこの発明に係るシート状の成形材料とその成形方法とについて、成形材料としてプリプレグを例にとって説明すると、以下のとおりである。
【0028】
図1は、プリプレグ1を成形するための装置11の部分破断斜視図である。プリプレグ1は、合成樹脂成分と、その合成樹脂成分を含浸させた強化繊維成分(いずれも図示せず)とを含むシート状のもので、その下面1aを被覆するこの発明においての第1の熱可塑性合成樹脂フィルムである熱可塑性合成樹脂フィルム2と一体になってプリプレグ複合体3を形成している。装置11は、成形型12と、プリプレグ複合体3に対してのクランプ手段である下枠13aと上枠13bとを含む保持枠13と、プリプレグ複合体3に対しての加熱手段であるヒータユニット14(図2参照)とを含んでいる。成形型12は、プリプレグ複合体3のうちの少なくともプリプレグ1を所要の形状に成形するためのもので、図示例においてはキャビティ部16と周縁部17とを含み、キャビティ部16には複数の通気孔18が形成されている。
【0029】
図2は、図1におけるプリプレグ複合体3のII−II線断面図であるが、プリプレグ複合体3は下枠13aと上枠13bとでクランプされてヒータユニット14によって加熱されている状態にあって、下枠13aと上枠13bとヒータユニット14との断面が併せて示してある。保持枠13は、図の上下方向Aにおいて、下枠13aが固定された状態にある一方、上枠13bは上昇と下降とが可能に形成されていて、図では下降した状態にあり、下枠13aと協働してプリプレグ複合体3のうちのフィルム2をその周縁部において狭持している。
【0030】
図2のヒータユニット14は、下側ヒータユニット14aと上側ヒータユニット14bとを含み、それぞれのヒータユニット14a,14bが図2の横方向Bにおいて前進後退運動可能に形成されている。図示のヒータユニット14a,14bは前進位置にあり、その前進位置ではプリプレグ複合体3を上下方向から所要時間加熱して、プリプレグ1とフィルム2とを軟化させることができる。所要時間の加熱が終了したヒータユニット14a,14bは、プリプレグ複合体3に対して自動的に後退して仮想線で示す図の右方の位置にまで移動する。ヒータユニット14a,14bのそれぞれは、棒状等の適宜の形状に形成された赤外線ヒータ素子15a,15bと、これらヒータ素子15a,15bが取り付けられた断熱カバー17a,17bとを有する。
【0031】
図3は、加熱終了後のプリプレグ複合体3が成形される過程の一部分を示す、プリプレグ複合体3と成形型12との断面図である。ヒータユニット14が後退した状態にあるプリプレグ複合体3に対して、図1の成形型12が上昇して、成形型12の周縁部17がプリプレグ複合体3におけるフィルム2に密着している。この状態にあるプリプレグ複合体3とキャビティ部16との間には、成形のための空気圧として通気孔18を介して真空圧を作用させ、プリプレグ複合体3を減圧状態にあるキャビティ部16の内側へ引き込んで、キャビティ部16の表面形状を倣うように変形させる(仮想線で示されたプリプレグ複合体3を参照)。プリプレグ複合体3は、それを成形型12から取り出しても変形することがない程度の温度、たとえば室温にまで冷却した後に成形型12から取り出す。プリプレグ複合体3の冷却を促進したい場合には、成形型12の内部に冷却水を流したり、プリプレグ複合体3に対して冷却用の風を吹き付けたりすることができる。なお、この発明において使用されるフィルム2は、プリプレグ複合体3が成形されるときに、成形型12の表面12aに密着すべきものとして使用される。一方、プリプレグ複合体3におけるプリプレグ1は、下面1aと上面1bとを有するものであり、図示例では下面1aがフィルム2によって被覆されているのであるが、プリプレグ1の上面1bが成形型12の表面12aと対向するようにしてプリプレグ複合体3を成形したいときには、その上面1bがフィルム2によって被覆される。すなわち、一連の成形過程を経るプリプレグ1は、下面1aおよび上面1bのうちの少なくとも片面がフィルム2によって被覆されているというものである。
【0032】
図4,5において、図4は図3に仮想線で示されている成形後のプリプレグ複合体3の断面図であり、図5は成形後のプリプレグ複合体3から得られたトレー20の斜視図である。成形型12から取り出された成形後のプリプレグ複合体3は不要な部分19が仮想線で示されたトリミングラインTに沿って切り取られ、所要形状を有する成形品の一例であるトレー20となる。
【0033】
図示例のプリプレグ複合体3は、成形型12に作用する真空圧を使用して成形されるものであるが、成形される過程においては、プリプレグ複合体3におけるフィルム2が成形型12の表面12a、より具体的にはキャビティ部16の表面16aに密着し、プリプレグ1はそのフィルム2を介してキャビティ部16の表面16aを倣うように変形する。それゆえ、プリプレグ1が加熱されて軟化し、プリプレグ1に含まれる合成樹脂成分がたとえ流動し易い状態になっても、その合成樹脂成分は通気孔18へ流入するということがない。それゆえにまた、プリプレグ複合体3を使用する成形型12では、通気孔18に合成樹脂成分が詰まって成形型12を速やかに反復使用することが困難になるということがない。なお、シート状のプリプレグ1(図1参照)から表面に皺のない三次元形状のトレー20を得るためには、三次元形状を二次元形状に展開してプリプレグ1にとっての最適な裁断形状を指示することができる、たとえば米国VISTAGY社のFiberSIM(登録商標)の如きコンピュータソフトウエアを使用することが好ましい。
【0034】
このように成形されるプリプレグ複合体3においてはまた、プリプレグ1とフィルム2とについて、トレー20となったときに、互いに強く接合して容易に剥離することのない組み合わせと、互いに接合することなく容易に剥離する組み合わせとがある。プリプレグ1とフィルム2とが容易に剥離することのない組み合わせである場合には、フィルム2がトレー20の表面の汚れや損傷を防ぐ保護フィルムになり得る。フィルム2が着色したものや模様付けしたものである場合には、トレー20に対しての装飾効果がある。フィルム2に導電性のものを使用する場合には、成形品であるトレー20にEMIシールド効果を持たせることもできる。フィルム2にアクリル樹脂系のものを使用すれば、フィルム2で被覆してあるトレー20の面の耐候性を向上させることができる。また、トレー20がフィルム2の存在を不要とするもである場合には、プリプレグ1とフィルム2との剥離が容易な組み合わせを採用することができる。その組み合わせのためのフィルム2には、たとえばフッ素樹脂のフィルムがある。この発明においてはさらにまた、フィルム2が室温において容易に伸長するものである場合には、プリプレグ1のみが成形温度にまで加熱してあるプリプレグ複合体3を使用してトレー20を成形することもできる。プリプレグ1は、図示例の如く予めプリプレグ複合体3とされたものを成形型12に対してセットして成形することができる他に、成形型12の上方に保持されているフィルム2の上にプリプレグ1の下面1aが下側となるようにしてプリプレグ1を載せることによってプリプレグ1とフィルム2との複合体3とすることもできる。
【0035】
図6は、プリプレグ複合体3を成形する方法の他の一例を示す装置11についての図3と同様な図である。図6においては、支持枠13にクランプされて加熱され、軟化した状態にあるプリプレグ複合体3に対して、図の下方からは成形型12の周縁部17が密着し、図の上方からは上下方向Aへ往復運動可能な加圧ユニット31の周縁部32が密着している。加圧ユニット31には、プリプレグ複合体3を介して成形型12に対向する加圧室33と、加圧ユニット31の外部に設けられた加圧空気供給源(図示せず)につながる加圧空気導入管部34とが含まれている。かような装置11では、プリプレグ複合体3に対して、成形型12からは通気孔18を介して真空圧、すなわち図示の真空吸引力25を作用させると同時に、加圧ユニット31からは加圧空気導入管部34が供給する加圧空気36によって押圧力35を作用させて、プリプレグ複合体3がキャビティ部16の表面を忠実に倣うことを可能にすることができる。キャビティ部16に対して吸引、加圧されたプリプレグ複合体3が室温近傍にまで冷却されたなら、キャビティ部16と加圧室33とを大気に対して開放し、しかる後に成形型12を下降させる一方、加圧ユニット31を上昇させる。さらに、上枠13bを上昇させて成形後のプリプレグ複合体3を装置11から取り出す。なお、図6の装置11では、プリプレグ複合体3に対して加圧空気36による押圧力35のみ作用させて、真空吸引力25を作用させずにプリプレグ複合体3を成形することもできる。そのときの通気孔18は、キャビティ部16の空気を排出するための排気孔として使用される。
【0036】
図7は、図1,2に例示のプリプレグ複合体3とは異なる態様に形成されているプリプレグ複合体3の部分破断斜視図である。図7のプリプレグ複合体3は、プリプレグ1と、プリプレグ1の下面1aを被覆する第1の熱可塑性合成樹脂フィルム2a(第1フィルム2aともいう)と、プリプレグ1の上面1bを被覆する第2の熱可塑性合成樹脂フィルム2b(第2フィルム2bともいう)とを含んでいる。プリプレグ複合体3はまた、第1フィルム2aと第2フィルム2bとの間に介在する通気パイプ41を含んでいる。第1フィルム2aと第2フィルム2bとは、プリプレグ1の周縁から延出して互いに重なり合い、その周縁に沿ってプリプレグ1を一周するシールライン42において気密状態でシールされている。
【0037】
図8は、図7において仮想線VIIIで囲まれている部分の拡大図である。通気パイプ41は、その外端部41aがシールライン42の外側にあり、内端部41bが第1フィルム2aと第2フィルム2bとの間にあって、シールライン42の内側にまで延びている。第1フィルム2aと第2フィルム2bとは、通気パイプ41の外周面に対しても気密状態となるように密着しており、これら第1,第2フィルム2a,2bにおけるシールライン42よりも内側の部分は、通気パイプ41を介してシールライン42よりも外側の部分に通気可能につながる袋45を形成している。
【0038】
図7,8に例示のプリプレグ複合体3では、それをヒータユニット14(図2参照)で加熱することに先立って、通気パイプ41の外端部41aを適宜の真空源につなぎ、シールライン42の内側に対しての脱気操作を行う。脱気操作が終了したならば、通気パイプ41を適宜の部位において密封するか、または図8に仮想線で示されている追加のシールライン43を第1フィルム2aと第2フィルム2bとに形成することによって、シールライン42の内側が脱気されて減圧状態にあるプリプレグ複合体3を得る。かようなプリプレグ複合体3では、それを加熱後に図3や図6に例示の如くに成形したときに、プリプレグ1と第1フィルム2aとの間および/またはプリプレグ1と第2フィルム2bとの間に気泡が生じることを抑えることができる。プリプレグ複合体3は、図7の如く脱気可能な態様のものとして需要者に供給することができる他に、シールライン42の内側が脱気されている態様のものとして供給することもできる。
【0039】
この発明において、シート状の成形材料には、プリプレグ1に代えてシートモールディングコンパウンド(SHEET−MOLDING COMPOUND、以下ではSMCという)を使用することができ、そのSMCが熱可塑性合成樹脂フィルム2と一体になったSMC複合体をプリプレグ複合体3に代えて使用することができる。プリプレグ複合体3のうちのプリプレグ1に使用される合成樹脂成分の例にはエポキシ樹脂やフェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性合成樹脂の他に、6ナイロンや66ナイロン、ポリカーボネート、ポリプロピレン等の熱可塑性合成樹脂がある。また、これらの合成樹脂成分を含浸させる強化繊維成分の例にはガラス繊維や炭素繊維、アラミド繊維、商品名ザイロン(登録商標)で知られるPBO繊維、チラノ繊維(登録商標)等があり、これらの強化繊維は織布や不織布、トウ、ロービング等の状態で使用される。トウやロービングは、適宜の長さに切り揃えて使用することができる。熱可塑性合成樹脂フィルム2の例には、塩化ビニル、アクリル、ポリカーボネート、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン等の樹脂で形成されたものがある。SMCに使用される合成樹脂の例には、不飽和ポリエステル樹脂やビニルエステル樹脂、フェノール樹脂等があり、強化繊維成分の例にはガラス繊維や炭素繊維等がある。
【0040】
シート状成形材料やその複合体を加熱するための手段には、図示例の赤外線ヒータ素子15a,15bの他に、熱風等の適宜の手段の使用が可能である。また、シート状の成形材料やその複合体は、装置11とは別体の加熱装置によって加熱軟化させた後に装置11にセットすることもできる。プリプレグやSMCの複合体に作用させる加圧空気の圧力に格別の制約はないが、一般的には1kg/cm〜20kg/cmの圧力であることが好ましい。
【符号の説明】
【0041】
1 成形材料(プリプレグ)
1a 下面
1b 上面
2 第1の熱可塑性合成樹脂フィルム(熱可塑性合成樹脂フィルム)
2a 第1の熱可塑性合成樹脂フィルム(第1フィルム)
2b 第2の熱可塑性合成樹脂フィルム(第2フィルム)
3 複合体
12 成形型
12a 表面
13 クランプ手段(保持枠)
13a クランプ手段(下枠)
13b クランプ手段(上枠)
18 通気孔
33 加圧室
35 押圧力
36 加圧空気
42 シールライン
45 袋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下面を有し、合成樹脂成分と前記合成樹脂成分を含浸させた強化繊維成分とを含み、加熱軟化した状態で成形型の表面を倣うように変形することによって成形されるシート状の成形材料であって、
前記成形材料は、前記上下面のうちの一方の面が前記成形材料とともに変形して前記成形型の表面に密着可能な第1の熱可塑性合成樹脂フィルムで被覆されることによって、前記第1の熱可塑性合成樹脂フィルムとの複合体を形成していることを特徴とする前記成形材料。
【請求項2】
前記成形材料は、前記一方の面の反対面が前記成形材料とともに成形可能な第2の熱可塑性合成樹脂フィルムで被覆されている請求項1記載の成形材料。
【請求項3】
前記第1の熱可塑性合成樹脂フィルムと前記第2の熱可塑性合成樹脂フィルムとが前記成形材料の周縁から延出して重なり合い、前記周縁に沿って形成されたシールラインにおいて気密状態で互いに接合し、前記シールラインの内側が脱気状態および脱気可能な状態のいずれかの状態にある請求項2記載の成形材料。
【請求項4】
前記成形材料がプリプレグおよびシートモールディングコンパウンドのいずれかである請求項1〜3のいずれかに記載の成形材料。
【請求項5】
上下面を有し、合成樹脂成分と前記合成樹脂成分を含浸させた強化繊維成分とを含むシート状の成形材料を加熱軟化させ、所要形状を有する成形型の表面を倣うように変形させることによって前記成形材料を成形する方法であって、
前記成形材料は、前記上下面のうちの一方の面が前記成形材料とともに変形して前記成形型の表面に密着可能な第1の熱可塑性合成樹脂フィルムで被覆されることによって、前記第1の熱可塑性合成樹脂フィルムとの複合体を形成しており、
前記成形型の周囲に設けられたクランプ手段を介して前記複合体を前記成形型の上方にセットして前記第1の熱可塑性合成樹脂フィルムを前記成形型の表面に対向させ、前記複合体のうちの少なくとも前記成形材料を加熱軟化させた状態で前記複合体に空気圧を作用させて前記複合体を前記成形型の表面に密着させ、しかる後に前記複合体を冷却して前記成形型から取り外すことによって、前記複合体から前記成形材料の成形品を得ることを特徴とする前記方法。
【請求項6】
前記空気圧として真空圧および加圧空気の少なくとも一方を使用する請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記成形型には、前記成形型の表面と前記複合体との間の空気を前記成形型の外へ排出することが可能な通気孔が形成されている請求項5または6記載の方法。
【請求項8】
前記成形型の上方にセットした前記複合体の上方には、前記複合体を介して前記成形型に対向し前記複合体に向かって加圧空気の圧力を作用させることが可能な加圧室を設け、前記加圧空気の圧力によって前記複合体が前記成形型の表面を倣うように前記複合体を変形させる請求項6または7記載の方法。
【請求項9】
前記通気孔が真空源につながっている請求項7または8記載の方法。
【請求項10】
前記複合体には、前記加圧空気の押圧力を作用させるとともに、前記成形型の表面と前記複合体との間の前記空気を前記真空源を使用して排出して前記真空圧を作用させる請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記複合体における前記成形材料は、前記一方の面の反対面が第2の熱可塑性合成樹脂フィルムで被覆してあり、前記複合体を前記第2の熱可塑性合成樹脂フィルムとともに成形する請求項5〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記複合体は、前記成形型の上方に保持された前記第1の熱可塑性合成樹脂フィルムの上に前記成形材料を前記一方の面が下向きとなるようにして載せることにより得られるものである請求項5〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記複合体では前記第1の熱可塑性合成樹脂フィルムと前記第2の熱可塑性合成樹脂フィルムとが前記成形材料の周縁に沿って気密状態でシールされることによって袋を形成し、前記袋の内側を脱気した後に前記複合体を成形する請求項11または12記載の方法。
【請求項14】
前記成形材料は、前記合成樹脂成分が熱硬化性合成樹脂および熱可塑性合成樹脂のいずれかである請求項5〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記成形材料は、プリプレグおよびシートモールディングコンパウンドのいずれかである請求項5〜14のいずれかに記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−166451(P2012−166451A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29175(P2011−29175)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(506383788)株式会社カナエ (3)
【Fターム(参考)】