説明

スパッタリング装置およびスパッタリング方法

【課題】スパッタリング膜の成膜レートを低下させずに、ターゲットのスパッタリング時に生じるターゲット材料の凝集を適切かつ容易に抑制できるスパッタリング装置を提供する。
【解決手段】スパッタリング装置100は、基板34Bおよびターゲット35Bを格納する真空成膜室30と、カソードユニット41を有して、カソードユニット41およびアノードA間の放電により、真空成膜室30内にプラズマ27を形成可能なプラズマガン40と、プラズマガン40に電力を供給するプラズマガン電源50と、ターゲット35Bにバイアス電圧を印加するバイアス電源52と、を備え、プラズマ27中の荷電粒子によりスパッタリングされたターゲット35Bの材料が基板34Bにおいて凝集を起こさないよう、プラズマの放電電流IDがプラズマガン電源50を用いて調整され、かつ、バイアス電圧VBがバイアス電源52を用いて調整されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスパッタリング装置およびスパッタリング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの配線微細化や高速化に伴い、半導体デバイス内の配線材料としてアルミよりも抵抗率の低い銅(Cu)が注目されている。
【0003】
半導体基板(シリコン基板)へのCu電極配線の形成は、通常、スパッタリング技術と電解メッキ技術との組合せにより、以下のような方法でなされている。
【0004】
図5は、シリコン基板へのCu電極配線形成の各工程を模式的に示した図である。
【0005】
まず、図5(a)に示すように、シリコン基板(図示せず)上のシリコン酸化層に溝やホールを設け、当該溝やホールにCu拡散防止用のタンタル(Ta)からなるバリア膜(以下、「Taバリア膜」と略す)がスパッタリング法によって形成される。
【0006】
次に、図5(b)に示すように、このバリア膜を覆うように、電解メッキ時の下地電極膜の役割を果たすCuからなるシード膜(以下、「Cuシード膜」と略す)がスパッタリング法によって形成される。
【0007】
その後、図5(c)に示すように、Cu電極配線が、シード膜を覆うようにして、溝やホールに電解メッキ法により埋め込まれる。
【0008】
最後に、図5(d)に示すように、Cu電極配線が、適宜の平坦化法(例えば、CMP)により平坦化される。
【0009】
なお、Cuシード膜の形成にスパッタリング技術を適用する際に、Cu材料が塊状になる現象(以下、「Cu凝集」と略す)を抑制できるよう、スパッタリング時の電極間にかけるパワーを経時的に変化させることを記載した公知文献として、特許文献1がある。
【特許文献1】特開2003−17441号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載のように、Cu凝集が電解メッキ時におけるCu電極配線の適切な成長を阻害する。つまり、このようなCu凝集が起こると、Cuシード膜が均一に形成されずに、Cu電極配線の不良(例えば、電解メッキ時のボイド発生)を誘発する。このため、Cu凝集を抑制できる様々な方法が従来から検討されている。
【0011】
例えば、シリコン基板の温度が高いと、Cu凝集が起こり易いことが知られているので、シリコン基板装着用の静電チャックなどを用いてシリコン基板を冷却する方法がある。また、バリア膜とシード膜との密着性を高めるよう、Cuシード膜とぬれ性のよいバリア膜(例えば、上述のTaバリア膜)を選択する方法もある。
【0012】
しかしながら、これらの方法を用いても、シード膜の成膜レートを低下させずに、Cu凝集を適切に抑制することは容易ではなく、上述のCu凝集対策には、未だ改善の余地がある。例えば、シリコン基板を冷却するにしても、簡便な機械式の冷凍機の冷凍能力には限界があると考えられる。
【0013】
また、特許文献1では、スパッタリング時の電極間にかけるパワー(電流×電圧)を一時的に少なくすることにより、Cu凝集を抑制しているが、このような方法では、パワー(電流×電圧)を下げている間、スパッタリング膜の成膜レートが低下するので好ましくない。
【0014】
本件発明者等は、プラズマガンからのシートプラズマによるスパッタリング技術を用いてCuシード膜を成膜する技術開発に取り組んでいる。そして、この技術開発の過程で、プラズマの放電電流とターゲットに印加するバイアス電圧とを個別に制御できるという本スパッタリング技術の特徴を活かして、これらの放電電流およびバイアス電圧の適切な設定により、スパッタリング膜の成膜レートを低下させずに、Cu凝集を適切かつ容易に抑制できることに気がついた。
【0015】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、スパッタリング膜の成膜レートを低下させずに、ターゲットのスパッタリング時に生じるターゲット材料の凝集を適切かつ容易に抑制できるスパッタリング装置およびスパッタリング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため、本発明は、基板およびターゲットを格納する真空成膜室と、
カソードユニットを有して、前記カソードユニットおよびアノード間の放電により、前記真空成膜室内にプラズマを形成可能なプラズマガンと、
前記プラズマガンに電力を供給するプラズマガン電源と、
前記ターゲットにバイアス電圧を印加するバイアス電源と、
を備え、
前記プラズマ中の荷電粒子によりスパッタリングされた前記ターゲットの材料が、前記基板において凝集を起こさないよう、前記プラズマの放電電流が前記プラズマガン電源を用いて調整され、かつ、前記バイアス電圧が前記バイアス電源を用いて調整されている、スパッタリング装置を提供する。
【0017】
また、本発明は、基板およびターゲットを真空成膜室内に格納した後、前記真空成膜室内を減圧し、
プラズマガンから放出されたプラズマを前記真空成膜室内に輸送し、その後、
前記プラズマ中の荷電粒子によりスパッタリングされた前記ターゲットの材料が、前記基板において凝集を起こさないよう、前記プラズマの放電電流および前記ターゲットに印加するバイアス電圧を調整する、スパッタリング方法も提供する。
【0018】
本発明では、前記荷電粒子としてプラスイオンを用い、前記材料からなる堆積膜の前記基板での成膜レートを固定する場合、
前記凝集を起こさないよう、前記放電電流を、前記凝集を起こす前記放電電流よりも少なくする方が好ましく、かつ、前記凝集を起こさないよう、前記バイアス電圧を、前記凝集を起こす前記バイアス電圧よりもマイナス電圧側に高くする方が好ましい。
【0019】
このような放電電流およびバイアス電圧の調整により、本発明では、前記プラズマによって前記基板に伝わる熱量を、前記放電電流および前記バイアス電圧により適切に制御できる。
【0020】
よって、本発明では、放電電流およびバイアス電圧の簡易な調整により、堆積膜の成膜レートを低下させずに、前記凝集を適切かつ容易に抑制できる。
【0021】
また、本発明では、堆積膜を電解メッキによる電極配線形成時の下地電極膜に用いる場合、前記凝集の適切かつ容易な抑制により、電極配線の電解メッキ時の不良発生を簡易に改善できて好都合である。
【0022】
また、本発明では、前記プラズマガンと前記真空成膜室との間に、前記プラズマガンから放出された円柱状のプラズマを磁界によりシート状に変形可能な磁界発生手段を備えてもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、スパッタリング膜の成膜レートを低下させずに、ターゲットのスパッタリング時に生じるターゲット材料の凝集を適切かつ容易に抑制できるスパッタリング装置およびスパッタリング方法が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0025】
図1は、本発明の実施形態によるスパッタリング装置の構成例を示した概略図である。
【0026】
なお、ここでは、便宜上、図1に示す如く、プラズマ輸送の方向をZ方向にとり、このZ方向に直交し、かつ棒磁石24A、24B(後述)の磁化方向をY方向にとり、これらのZ方向およびY方向の両方に直交する方向をX方向にとって、本スパッタリング装置100の構成を述べる。
【0027】
本実施形態のスパッタリング装置100は、図1に示す如く、YZ平面において略十字形をなしており、放電プラズマ輸送の方向(Z方向)から見て順番に、放電プラズマを高密度に生成するプラズマガン40と、Z方向の軸を中心とした円筒状の非磁性(例えばステンレス製やガラス製)のシートプラズマ変形室20と、Y方向の軸を中心とした円筒状の非磁性(例えばステンレス製)の真空成膜室30と、を備える。また、スパッタリング装置100は、図1に示す如く、プラズマガン40に放電発生用の電力を供給できるプラズマガン電源50を備える。
【0028】
なお、上述の各部40、20、30は、放電プラズマを輸送する通路を介して互いに気密状態を保って連通されている。
【0029】
まず、スパッタリング装置100のプラズマガン40およびプラズマガン電源50の構成について説明する。
【0030】
スパッタリング装置100のプラズマガン40は、図1に示すように、カソードユニット41と、一対の中間電極G1、G2と、を備える。
【0031】
カソードユニット41は、耐熱ガラス製の円筒状のガラス管41Aと、円板状の蓋部材41Bとを備えており、カソードユニット41の内部は、放電空間として機能している。このガラス管41Aは、適宜の固定手段(ボルトなど;図示せず)により、中間電極G1および蓋部材41Bとの間で気密に配されている。このため、中間電極G1の通孔(図示せず)を介して、放電空間で生成されたプラズマをカソードユニット41から外部に引き出すことができる。
【0032】
また、蓋部材41Bには、放電誘発用の熱電子を放出可能な六ホウ化ランタン(LaB6)からなるカソードKが配置されているとともに、放電により電離される放電ガスとしてのアルゴン(Ar)ガスをこの放電空間に導くことができる放電ガス供給手段(図示せず)が設けられている。
【0033】
スパッタリング装置100のプラズマガン電源50は、図1に示すように、プラズマガン40に電力を供給できる電力発生部70と、各中間電極G1、G2のそれぞれに対応して配され、中間電極G1、G2を流れる電流を制限する抵抗素子R1、R2と、を備える。
【0034】
中間電極G1は、プラズマガン40の放電空間においてカソードKとの間で補助放電(グロー放電)を適切に維持できるよう、抵抗素子R1を介して電力発生部70と接続されている。また、中間電極G2は、プラズマガン40の放電空間においてカソードKとの間で補助放電(グロー放電)を適切に維持できるよう、抵抗素子R2を介して電力発生部70と接続されている。
【0035】
このグロー放電においては、プラズマガン40の放電空間への荷電粒子(ここではプラスイオンであるAr+と電子)の供給が、Ar+のカソードKへの衝突時に起こる二次電子放出および電子によるアルゴン電離によりなされ、これにより、プラズマガン40の放電空間には、荷電粒子の集合体としての放電プラズマが形成される。その後、プラズマガン40では、カソードKの加熱で起こる熱電子放出に基づいた主放電(アーク放電)に遷移する。このように、プラズマガン40は、プラズマガン電源50に基づく低電圧かつ大電流のアーク放電により、カソードKとアノードAとの間に高密度の放電を可能にする、圧力勾配型ガンである。
【0036】
なお、ここでは、詳細な図示を省略するが、この電力発生部70の内部では、電源切り替えスイッチを用いて、カソードKとトランスとの間の接続がなされた状態と、カソードKと、定電流電源との間の接続がなされた状態と、を取り得る。
【0037】
プラズマガン40のグロー放電時には、前者の状態が取られる。この場合、トランスの一次側の端子間には、商用周波数の200Vの一次電圧が印加される。すると、トランスの二次側の端子間に所定の二次電圧が誘起され、この二次電圧が整流回路により整流された後、プラズマガン40に印加される。
【0038】
一方、プラズマガン40のアーク放電時には、後者の状態が取られる。これにより、プラズマガン40は、プラズマガン電源50(定電流電源)により定電流制御され、アノードAからカソードKに向かって流れる放電電流IDが一定となる。なお、この放電電流IDは、プラズマガン電源50を用いて調整できる。
【0039】
以上のようにして、Z方向の輸送中心に対して略等密度分布してなる円柱状のアーク放電プラズマ(以下、「円柱プラズマ22」という)が、プラズマガン40のZ方向の他端とシートプラズマ変形室20のZ方向の一端との間に介在する通路(図示せず)を介してシートプラズマ変形室20へ引き出される。
【0040】
次に、スパッタリング装置100のシートプラズマ変形室20の構成およびその周辺構成について述べる。
【0041】
シートプラズマ変形室20は、Z方向の軸を中心とした円柱状の減圧可能な輸送空間21を有する。
【0042】
シートプラズマ変形室20の側面周囲には、このシートプラズマ変形室20を取り囲み、円柱プラズマ22のZ方向の推進力を発揮する円形状の第1の電磁コイル23(空心コイル)が配設されている。なお、第1の電磁コイル23の巻線には、カソードK側をS極、アノードA側をN極とする向きの電流が通電されている。
【0043】
また、この第1の電磁コイル23のZ方向の前方側(アノードAに近い側)には、X方向に延びる一対の角形の棒磁石24A、24B(永久磁石;磁界発生手段の対)が、シートプラズマ変形室20(輸送空間21)を挟むように、Y方向に所定の間隔を隔てて配設されている。また、これらの棒磁石24A、24BのN極同士が対向し合っている。
【0044】
第1の電磁コイル23により輸送空間21に形成されるコイル磁界と、棒磁石24A、24Bにより輸送空間21に形成される磁石磁界との相互作用に基づいて、円柱プラズマ22は、その輸送方向(Z方向)の輸送中心を含むXZ平面(以下、「主面S」という)に沿って拡がる、均一なシート状のプラズマ(以下、「シートプラズマ27」という)に変形される。
【0045】
このようにして、シートプラズマ27は、図1に示す如く、シートプラズマ変形室20のZ方向の他端と真空成膜室30の側壁との間に介在する、シートプラズマ27の通過用のスリット状のボトルネック部28を介して真空成膜室30へ引き出される。
【0046】
なお、ボトルネック部28の間隔(Y方向寸法)および厚み(Z方向寸法)並びに幅(X方向寸法)は、シートプラズマ27を適切に通過するように設計されている。
【0047】
次に、スパッタリング装置100の真空成膜室30の構成について述べる。
【0048】
真空成膜室30は、例えば、シートプラズマ27中のAr+の衝突エネルギによりターゲット35Bの材料をスパッタリング粒子として叩き出すスパッタリングプロセス用の成膜チャンバに相当する。
【0049】
真空成膜室30は、Y方向の軸を中心とした円柱状の減圧可能な成膜空間31を有し、この成膜空間31は、バルブ37により開閉可能な排気口から真空ポンプ36(例えばターボポンプ)により真空引きされている。これにより、当該成膜空間31はスパッタリングプロセス可能なレベルの真空度にまで速やかに減圧される。
【0050】
ここで、成膜空間31には、その機能上、上下方向(Y方向)において、ボトルネック部28の間隔に対応する水平面(XZ平面)に沿った中央空間を境にして、板状のターゲット35Bを格納するターゲット空間と、板状の基板34Bを格納する基板空間と、がある。
【0051】
つまり、ターゲット35Bは、ターゲットホルダ35Aに装着された状態において、中央空間の上方に位置するターゲット空間内に格納され、適宜のアクチュエータ(図示せず)によりターゲット空間内を上下(Y方向)に移動可能に構成されている。一方、基板34Bは、基板ホルダ34A(例えば、静電チャック)に装着された状態において、中央空間の下方に位置する基板空間内に格納され、適宜のアクチュエータ(図示せず)により基板空間内を上下(Y方向)に移動可能に構成されている。
【0052】
なお、上述の中央空間は、真空成膜室30においてシートプラズマ27の主成分を輸送させる空間である。
【0053】
このようにして、ターゲット35Bおよび基板34Bは互いに、シートプラズマ27の厚み方向(Y方向)に一定の好適な間隔L(以下、「T−S距離L」と略す)を隔てるようにして、このシートプラズマ27を挟み、成膜空間31内に対向して配置されている。
【0054】
ターゲット35Bは、スパッタリングプロセス中には、直流のバイアス電源52によりバイアス電圧VB(マイナス電圧;但し、本明細書では、バイアス電圧VBの数値表記についてはマイナスの符号「−」を省略している)が印加されている。このバイアス電圧VBはバイアス電源52を用いて調整できる。これにより、シートプラズマ27中のAr+がターゲット35Bに向かって引き付けられる。
【0055】
その結果、Ar+とターゲット35Bとの間の衝突エネルギによりターゲット35Bから放出される粒子が、ターゲット35Bから基板34Bに向かって叩き出され、基板34B上に堆積膜が形成される。なお、基板ホルダ34Aは接地されており、この基板ホルダ34Aを適宜の冷凍機(図示せず)を用いて冷却できる。
【0056】
ところで、基板34Bを半導体デバイス用の銅(Cu)電極配線構造のシリコン基板とする場合、上述の堆積膜を、電解メッキによるCu電極配線を形成する場合の下地電極膜(シード膜)として形成できる。この場合、銅製のターゲット35B(以下、「Cuターゲット35B」と略す)およびシリコン製の基板34B(以下、「シリコン基板34B」と略す)を真空成膜室30に格納した後、真空成膜室30を適宜の真空度に減圧し、シートプラズマ27を真空成膜室30内に輸送するとよい。その後、シートプラズマ27中のAr+によりスパッタリングされたCuターゲット35Bの銅(Cu)材料からなる堆積膜(以下、「Cu堆積膜」と略す)をシリコン基板34Bに形成するとよい。
【0057】
なお、このようなシートプラズマ27を用いたスパッタリングプロセスにより、Cu堆積膜を形成する場合において、シリコン基板34BでのCu凝集を抑制できる成膜条件(放電電流IDおよびバイアス電圧VB)については後述する。
【0058】
次に、ボトルネック部28から見て、Z方向に対向する位置の真空成膜室30の周辺構成を説明する。
【0059】
当該位置の真空成膜室30の側壁にはアノードAが配置され、この側壁とアノードAとの間には、プラズマ通過用の通路29が設けられている。
【0060】
アノードAは、カソードKとの間で基準電位が与えられ、カソードKおよびアノードAの間のアーク放電によるシートプラズマ27中の荷電粒子(特に電子)を回収する役割を担っている。
【0061】
また、アノードAの裏面(カソードKに対する対向面の反対側の面)には、アノードA側をS極、大気側をN極とした永久磁石38が配置されている。このため、この永久磁石38のN極から出てS極に入るXZ平面に沿った磁力線により、アノードAに向かうシートプラズマ27の幅方向(X方向)の拡散を抑えるようにシートプラズマ27が幅方向に収束され、シートプラズマ27の荷電粒子が、アノードAに適切に回収される。
【0062】
また、円形状の第2および第3の電磁コイル32、33(空心コイル)は、互いに対をなして、真空成膜室30の側壁を臨むようにして成膜空間31を挟み、異極同士(ここでは、第2の電磁コイル32はN極、第3の電磁コイル33はS極)を向かい合わせて配置されている。
【0063】
第2の電磁コイル32は、棒磁石24A、24Bと真空成膜室30との間のZ方向の適所に配置され、第3の電磁コイル33は、真空成膜室30の側壁とアノードAとの間のZ方向の適所に配置されている。
【0064】
第2および第3の電磁コイル32、33の対により作られるコイル磁界(例えば10G〜300G程度)によれば、シートプラズマ27は、その幅方向(X方向)の拡散を適切に抑えるように整形される。
【0065】
次に、スパッタリング装置100を用いて、Cu凝集を抑制できる成膜条件(特に、放電電流IDおよびバイアス電圧VB)について吟味する。
【0066】
まず、Cu堆積膜の厚さを固定する場合に、シリコン基板34B上のCu材料からなる塊(以下、「Cu凝集体」と略す)の生成の様子と、スパッタリング装置100の成膜条件(バイアス電圧VBおよび放電電流ID)との間の関連性を検証した。以下、この検証実験の結果を述べる。
【0067】
図2は、Cu堆積膜の厚さを固定する場合に、バイアス電圧および放電電流の変化によるCu凝集体生成の様子を示した図(写真)である。
【0068】
なお、ここでは、シリコン酸化層のホール(0.2μm径)の壁部に、Cu堆積膜を形成した例が写されている。
【0069】
Cuターゲット35Bに印加されるバイアス電圧VB(マイナス電圧)として、VB=600(V)、800(V)、1000(V)を選び、シートプラズマ27の放電電流IDとして、ID=40(A)、50(A)、60(A)を選んでいる。このため、図2では、3種類のバイアス電圧VBおよび3種類の放電電流IDの組合せからなる9つの成膜条件を用いて形成されたCu堆積膜の断面写真が掲載されている。
【0070】
なお、バイアス電圧VBがマイナス電圧側に高いほど、Cu堆積膜の成膜レートが高くなり、放電電流IDが多いほど、Cu堆積膜の成膜レートが高くなる。よって、上述の各成膜条件では、Cu堆積膜を所望の厚みに成膜できるよう、成膜時間(バイアス電圧VBの印加時間)が調整されている。
【0071】
また、本検証実験では、T−S距離Lは一定に設定され、シリコン基板34Bを冷却する基板ホルダ34Aの冷却温度は一定(例えば、−20℃)に設定されている。
【0072】
図2中には、各成膜条件において、Cu凝集体(写真表面において白く写った粒体)の生成の有無について目視による官能評価がなされ、「Cu凝集体生成なし」、「Cu凝集体生成少しあり」および「Cu凝集体生成あり」という結果が記載されている。
【0073】
この検証実験によれば、バイアス電圧VBが一定の場合、放電電流IDが多くなるに連れて、Cu凝集体が現れ易いことが分かる。また、放電電流IDが一定の場合、バイアス電圧VBが小さくなるに連れて(つまり、ゼロボルトに近づくに連れて)、Cu凝集体が現れ易いことが分かる。
【0074】
よって、本検証実験の結果から、Cu堆積膜において一定の厚みを確保しようとする場合には、バイアス電圧VBをマイナス電圧側に高めに設定し、放電電流IDを少なめに設定する方が、Cu凝集抑制に有利に作用すると判断できる。
【0075】
次に、Cu堆積膜の成膜レートを固定する場合に、シリコン基板34B上のCu凝集体生成の様子と、スパッタリング装置100の成膜条件(バイアス電圧VBおよび放電電流ID)との間の関連性を検証した。以下、この検証実験の結果を述べる。
【0076】
図3は、Cu堆積膜の成膜レートが一定となるライン近傍のCu凝集体生成の様子を示した図(写真)である。図3の横軸にバイアス電圧をとり、図3の縦軸に放電電流をとっている。
【0077】
また、本検証実験では、T−S距離Lは一定に設定され、シリコン基板34Bを冷却する基板ホルダ34Aの冷却温度は一定(例えば、−20℃)に設定されている。
【0078】
図3では、Cu堆積膜の成膜レートが約40Å/S(秒)となるライン200が図示されている。そして、このライン200の上方の領域Aが、Cu堆積膜の成膜レートが40Å/Sよりも高い領域に相当し、このライン200の下方の領域Bが、Cu堆積膜の成膜レートが40Å/Sよりも低い領域に相当する。
【0079】
上述のとおり、バイアス電圧VBがマイナス電圧側に高いほど、Cu堆積膜の成膜レートが高くなり、放電電流IDが多いほど、Cu堆積膜の成膜レートが高くなるので、Cu堆積膜の成膜レートが一定(40Å/S)となるライン200は、バイアス電圧VBを横軸にとり、放電電流IDを縦軸にとる直交座標系では、図3に示す如く放物線を描くことになる。
【0080】
バイアス電圧VB(マイナス電圧)および放電電流IDが互いに異なり、ライン200よりも僅かに上方に位置する2つの成膜ポイント201、202を選び、これらの成膜ポイントでの成膜条件を用いて、シリコン酸化層のホール(0.2μm径)の壁部に、Cu堆積膜をスパッタリング形成した際のCu堆積膜の断面写真が図3に掲載されている。
【0081】
図3に示すように、成膜ポイント201の成膜条件は、バイアス電圧VB=600V、放電電流ID=60Aであり、成膜ポイント202の成膜条件は、バイアス電圧VB=1000V、放電電流ID=40Aである。
【0082】
この検証実験によれば、成膜ポイント201、202の成膜レートが何れも40Å/Sに近接しているにも拘らず、両者間においてCu凝集体生成に大きな差異が見られた。具体的には、成膜ポイント201では、図3の点線枠部分に示すように、Cu凝集体の生成が明瞭に確認された。一方、成膜ポイント202では、Cu凝集体の生成が確認されなかった。
【0083】
よって、本検証実験の結果から、Cu堆積膜の成膜レートを固定する場合、シリコン基板34BにおいてCu凝集を起こし難い放電電流IDは、当該Cu凝集を起こし易い放電電流IDよりも少ないと考えられる。また、Cu凝集を起こし難いバイアス電圧VBは、当該Cu凝集を起こし易い前記バイアス電圧VBよりもマイナス電圧側に高いと考えられる。
【0084】
次に、Cu堆積膜の成膜レートを固定する場合に、以上に述べたバイアス電圧VBおよび放電電流IDの選び方によって、Cu凝集体生成に差異が生じる理由を検証した。以下、この検証実験の結果を述べる。
【0085】
図4は、Cu堆積膜の成膜レートを固定する場合に、Cu堆積膜の成膜時(バイアス電圧VBの印加時)を含むようにシリコン基板の基板表面温度の変化を表す温度プロファイルを示した図である。図4の横軸に、プラズマガンの補助放電開始時からの経過時間(S)をとり、図4の縦軸に、シリコン基板の基板表面温度(℃)をとっている。
【0086】
また、本検証実験では、T−S距離Lは一定に設定され、シリコン基板34Bを冷却する基板ホルダ34Aの冷却温度は一定(例えば、−20℃)に設定されている。
【0087】
図4では、Cu堆積膜の成膜レートを固定する場合の、バイアス電圧(マイナス電圧)および放電電流の3種類の組合せが選ばれている。
【0088】
具体的には、Cu凝集が起こるバイアス電圧VB1および放電電流ID1の例として、VB1=580V、ID1=65Aおよび成膜時間(バイアス電圧VBの印加時間)=27S(固定)とする成膜条件が選ばれている。そして、この成膜条件を用いてCu堆積膜を形成した場合のシリコン基板34Bの温度の変化が、図4の温度プロファイル300として描かれている。
【0089】
また、Cu凝集が起こらないバイアス電圧VB2および放電電流ID2として、VB2=1000V、ID2=40Aおよび成膜時間=27S(固定)とする成膜条件が選ばれている。そして、この成膜条件を用いてCu堆積膜を形成した場合のシリコン基板34Bの温度の変化が、図4の温度プロファイル302として描かれている。
【0090】
また、Cu凝集が起こり始めるバイアス電圧VB3および放電電流ID3として、VB3=700V、ID3=55Aおよび成膜時間=27S(固定)とする成膜条件が選ばれている。そして、この成膜条件を用いてCu堆積膜を形成した場合のシリコン基板34Bの温度の変化が、図4の温度プロファイル301として描かれている。
【0091】
図4から容易に理解できるとおり、Cu凝集が起こり難い場合の温度プロファイル302の昇温スピードは、Cu凝集が起こり易い場合の温度プロファイル300の昇温スピードに比べて遅くなっており、このことが、バイアス電圧VBおよび放電電流IDの選び方によって、Cu凝集体生成に差異を生じさせる直接的な要因であると考えられる。
【0092】
この検証実験によれば、Cu堆積膜の成膜レートを固定する場合、スパッタリング装置100の放電電流IDを低減すると(言い換えれば、バイアス電圧VBをマイナス電圧側に高めると)、シートプラズマ27によってシリコン基板34Bに伝わる熱量(具体的には、温度プロファイル300、301、302の時間積分値)を少なめに制御できるという知見が得られた。そして、このような知見は、シリコン基板34Bの温度が高いとCu凝集が生じ易いという既成事実に完全に合致する。
【0093】
また、この知見は、図2において掲載した各写真でのCu凝集体の官能評価の結果とも合致すると考えられる。
【0094】
つまり、バイアス電圧VBをマイナス電圧側に高くすると、Cu堆積膜の成膜レートが高くなる。よって、Cu堆積膜の厚さが固定されている場合では(図2の場合)、バイアス電圧VBをマイナス電圧側に高くすると、シートプラズマ27からシリコン基板34Bに伝わる伝熱時間を短縮できる。その結果、バイアス電圧VBをマイナス電圧側に高くすることが、図2に示した如く、Cu凝集の抑制に有利に作用すると解される。
【0095】
また、放電電流IDを少なくすると、シートプラズマ27による放熱が抑制され、シートプラズマ27からシリコン基板34Bに伝わる熱量が少なくなる。その結果、放電電流IDを少なくすることが、図2に示した如く、Cu凝集の抑制に有利に作用すると解される。なお、放電電流IDが少ないと、成膜時間を長めにとる必要があるので、放電電流IDの最適値は、両者によるシリコン基板34Bに伝わる熱量のバランスを勘案して決定するとよい。
【0096】
以上のとおり、本実施形態のスパッタリング装置100では、シートプラズマ27中のAr+によりスパッタリングされたCuターゲット35Bの銅材料が、シリコン基板34Bにおいて凝集を起こさないよう、プラズマガン電源50を用いて放電電流IDを調整し、バイアス電源52を用いてバイアス電圧VBを調整している。
【0097】
例えば、Cu堆積膜の成膜レートを固定する場合、シリコン基板34BにおいてCu凝集を起こさないよう、放電電流IDを、当該Cu凝集を起こす放電電流IDよりも少なくする方が好ましい。また、Cu凝集を起こさないよう、バイアス電圧VBを、当該Cu凝集を起こす前記バイアス電圧VBよりもマイナス電圧側に高くする方が好ましい。そして、このようなバイアス電圧VBおよび放電電流IDの調整によれば、シートプラズマ27によってシリコン基板34Bに伝わる熱量を少なく制御できる。
【0098】
よって、本実施形態では、放電電流IDおよびバイアス電圧VBの簡易な調整により、Cu堆積膜の成膜レートを低下させずに、Cu凝集を適切かつ容易に抑制できる。
【0099】
特に、本実施形態では、Cu堆積膜を電解メッキによるCu電極配線形成時の下地電極膜に用いる場合、Cu凝集の適切かつ容易な抑制により、Cu電極配線の電解メッキ時の不良発生を簡易に改善できて好都合である。
【0100】
なお、本実施形態では、Cuターゲット35Bを用いてCuをスパッタリングする例を述べたが、これは一例に過ぎない。例えば、Cuと同様に凝集が起こり易い銀(Ag)ターゲットを用いたAgのスパッタリングであっても、本技術を適用できる。
【0101】
また、本実施形態では、スパッタリング装置100として、均一かつ大面積の成膜を行えるシートプラズマ27を用いた装置が示されている。しかし、これに限らず、プラズマガンの放電電流とターゲットのバイアス電圧を個別に(独立的に)制御できるスパッタリング装置であれば、本技術を適用でき、例えば、プラズマガンから放出された円柱状のプラズマを用いたスパッタリングプロセスにも本技術を適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明によれば、スパッタリング膜の成膜レートを低下させずに、ターゲットのスパッタリング時に生じるターゲット材料の凝集を適切かつ容易に抑制できるスパッタリング装置およびスパッタリング方法が得られる。よって、本発明は、プラズマを利用したスパッタリング装置に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明の実施形態によるスパッタリング装置の構成例を示した概略図である。
【図2】Cu堆積膜の厚さを固定する場合に、バイアス電圧および放電電流の変化によるCu凝集体生成の様子を示した図(写真)である。
【図3】Cu堆積膜の成膜レートが一定となるライン近傍のCu凝集体生成の様子を示した図(写真)である。
【図4】Cu堆積膜の成膜レートを固定する場合に、Cu堆積膜の成膜時(バイアス電圧VBの印加時)を含むようにシリコン基板の基板表面温度の変化を表す温度プロファイルを示した図である。
【図5】シリコン基板へのCu電極配線形成の各工程を模式的に示した図である。
【符号の説明】
【0104】
20 シートプラズマ変形室
21 輸送空間
22 円柱プラズマ
23 第1の電磁コイル
24A、24B 棒磁石
36 真空ポンプ
37 バルブ
27 シートプラズマ
28 ボトルネック部
29 通路
30 真空成膜室
31 成膜空間
32 第2の電磁コイル
33 第3の電磁コイル
34A 基板ホルダ
34B 基板(シリコン基板)
35A ターゲットホルダ
35B ターゲット(Cuターゲット)
38 永久磁石
40 プラズマガン
41 カソードユニット
41A ガラス管
41B 蓋部材
50 プラズマガン電源
52 バイアス電源
70 電力発生部
100 スパッタリング装置
A アノード
1、G2 中間電極
K カソード
1、R2 抵抗素子
S 主面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板およびターゲットを格納する真空成膜室と、
カソードユニットを有して、前記カソードユニットおよびアノード間の放電により、前記真空成膜室内にプラズマを形成可能なプラズマガンと、
前記プラズマガンに電力を供給するプラズマガン電源と、
前記ターゲットにバイアス電圧を印加するバイアス電源と、
を備え、
前記プラズマ中の荷電粒子によりスパッタリングされた前記ターゲットの材料が、前記基板において凝集を起こさないよう、前記プラズマの放電電流が前記プラズマガン電源を用いて調整され、かつ、前記バイアス電圧が前記バイアス電源を用いて調整されている、スパッタリング装置。
【請求項2】
前記荷電粒子としてプラスイオンを用い、前記材料からなる堆積膜の前記基板での成膜レートを固定する場合、
前記凝集を起こさない前記放電電流は、前記凝集を起こす前記放電電流よりも少なく、かつ、前記凝集を起こさない前記バイアス電圧は、前記凝集を起こす前記バイアス電圧よりもマイナス電圧側に高い請求項1記載のスパッタリング装置。
【請求項3】
前記プラズマによって前記基板に伝わる熱量が、前記放電電流および前記バイアス電圧により制御されている請求項1または請求項2記載のスパッタリング装置。
【請求項4】
前記堆積膜は、電解メッキによる電極配線形成時の下地電極膜である、請求項2記載のスパッタリング装置。
【請求項5】
前記プラズマガンと前記真空成膜室との間に、前記プラズマガンから放出された円柱状のプラズマを磁界によりシート状に変形可能な磁界発生手段を備える、請求項1ないし4のいずれかに記載のスパッタリング装置。
【請求項6】
基板およびターゲットを真空成膜室内に格納した後、前記真空成膜室内を減圧し、
プラズマガンから放出されたプラズマを前記真空成膜室内に輸送し、その後、
前記プラズマ中の荷電粒子によりスパッタリングされた前記ターゲットの材料が、前記基板において凝集を起こさないよう、前記プラズマの放電電流および前記ターゲットに印加するバイアス電圧を調整する、スパッタリング方法。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−235546(P2009−235546A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85967(P2008−85967)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000002358)新明和工業株式会社 (919)
【Fターム(参考)】