説明

スパッタリング装置

【課題】非エロージョン領域から剥離した粒子が基板に堆積することを高いレベルで抑制可能な、透明導電性膜を形成するために用いるスパッタリング装置を提供することにある。
【解決手段】基板支持体と、上記基板支持体と離間して平行に配置されたターゲット支持体と、上記ターゲット支持体の上記基板支持体とは反対側に配置された複数の磁性体とを備え、電源パワーにより駆動し、上記複数の磁性体は、上記ターゲット支持体の中心部に位置する第1の磁性体と、上記第1の磁性体に対して上記ターゲット支持体の外周側に位置する第2の磁性体とを含み、上記電源パワーが増減可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリング装置に関する。より詳しくは、本発明のスパッタリング装置は、透明導電性膜の形成を好適に行うことができるスパッタリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
表示装置に適用される発光素子の一例として、有機化合物を主体とする薄膜積層構造の有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」と称する場合がある。)が知られている。
【0003】
非特許文献1には、酸化インジウム錫(ITO)で構成された透明電極からホール注入層に注入されたホールと低仕事関数電極から電子注入層に注入された電子とが、発光層で再結合することによって発光が生ずることを原理とする、有機積層型の高輝度発光素子が開示されている。
【0004】
上記の高輝度発光素子が発表されて以来、有機EL素子の実用化に向けた様々な検討がなされている。
【0005】
例えば、有機ELディスプレイの分野では、近年、アクティブマトリックス駆動方式の有機EL素子の開発が盛んに行われている。アクティブマトリックス駆動方式では、スイッチング素子として薄膜トランジスタ(TFT)を設けた基板上に、複数個の有機EL素子を形成し、これらの有機EL素子を光源としてディスプレイを構成している。現状におけるアクティブマトリックス駆動方式のディスプレイでは、TFTおよび有機EL素子の特性のばらつきが大きく、当該ばらつきを補正するために様々な駆動回路が必要となる。また、駆動回路が複雑な場合には、1画素を駆動させるために要するTFTの数が膨大となる。
【0006】
ところで、ディスプレイに適用される有機EL素子は、一般に、光をガラス基板面から取り出す、ボトムエミッション方式の素子(以下、「Bottom−Em型素子」と称する場合がある。)として構成することが多い。
【0007】
図6は、Bottom−Em型素子の模式的断面図である。同図に示すBottom−Em型素子100は、ガラス基板102に、インジウム・亜鉛酸化物(IZO)からなる下部電極104、有機EL層106、およびLiF/Alからなる上部電極108を順次備える。このようなBottom−Em型素子100をアクティブマトリックス駆動方式のディスプレイに適用した場合には、TFTの数の増加に伴い、下部電極102での光Lの取り出し面積が小さくなる。
【0008】
そこで、アクティブマトリックス駆動方式のディスプレイに適用することを想定し、図6に示すBottom−Em型素子に代わって、光Lを上部電極側から取り出すトップエミッション方式の素子(以下「Top−Em型素子」と称する場合がある。)の開発が進められている。
【0009】
図7は、Top−Em型有機EL素子の模式的断面図である。同図に示すTop−Em型有機EL素子200は、ガラス基板202上に、反射膜204、IZOからなる下部電極206、有機EL層208、およびIZOで構成された上部電極210を順次備える。
【0010】
ここで、図7に示すTop−Em型有機EL素子200においては、上部電極210が十分な光透過性を発揮することが肝要である。このため、上部電極210としては、一般に、可視光の透過率が高く、かつ電気伝導性が高い物質からなる透明導電性膜を用いる。
【0011】
このような透明導電性膜としては、Au、Ag、Cu、Pt、Phなどの金属薄膜(例えば、膜厚5nm以下)、および、SnO2、TiO2、CdO、In23、およびZnOなどの酸化物半導体薄膜、ならびにこれらの複合材料であるITOおよびIZOなどの酸化物半導体薄膜が挙げられる。ITO、IZOなどからなる透明導電性膜は、スパッタリングにより形成され、テレビ、透明ヒータ、および液晶表示素子などの広範な用途で電極として使用される。
【0012】
従来の製膜用のスパッタリング装置は、ターゲットの裏面にマグネットを配置した、一般的な平板マグネトロン方式の装置である。このタイプの装置においては、電界と磁界とが直交する方向に、電子がサイクロイド曲線を描きながらドリフト運動する。このため、マグネットを配設しない場合に比べて、電子の飛程が長い。よって、優れた電離衝突確率、ひいては優れたスパッタガスのイオン密度が達成され、スパッタ速度を大きくすることができる。
【0013】
また、このスパッタリング装置においては、対向する面をそれぞれ有する対極に、それぞれ、磁化されたマグネットを用いている。このため、マグネットの形状に依拠して、ターゲットのイオン化密度の高い領域がリング状となる。この結果、ターゲットのイオン化密度の高い領域が、スパッタに多量に用いられるため、他の領域と比べて高度に侵食される領域、即ち、エロージョン領域が形成される。
【0014】
一方、このようなエロージョン領域が形成されるスパッタリング装置においては、電子のドリフト運動が上記のリング状領域に閉じ込められる。このため、当該領域から外れた領域では優れたイオン化密度が得られない。よって、このリング状領域から外れた領域では、ターゲットがスパッタにあまり用いられず、侵食程度の低い領域、即ち、非エロージョン領域が形成される。
【0015】
また、この非エロージョン領域には、さらに、近隣のリング状領域からスパッタされた粒子が堆積する。このようにして堆積した粒子は、非常に剥離し易く、剥離した粒子は基板に堆積するおそれがある。当該粒子が基板に堆積した場合には、有機EL素子がリークまたはショートなどを起こすおそれがあり、当該素子の優れた良品率が達成できない。
【0016】
スパッタリング装置内で生じるこのような粒子に対する改善策としては、以下の技術が開示されている。
特許文献1には、磁界を用いたスパッタリングによりターゲットの成分を被処理体に成膜するにあたり、所定枚数の上記被処理体に成膜を行った後、成膜時よりも磁界をターゲット面方向に沿って広げ、上記ターゲット表面をクリーニングするスパッタ成膜方法が開示されている。
【0017】
特許文献2には、処理基板の成膜する側の面とターゲットプレートとを、平行に対向させ、マグネトロンスパッタ方式でITO膜を成膜し、ターゲットプレートの処理基板面側でない裏面側にマグネットを1以上配し、該1以上のマグネットを揺動させ、ターゲットプレートの上記処理基板面側全体をエロージョン領域とする、もしくは、該ターゲットプレートの処理基板面側を、その天地方向または水平方向のいずれか1方向の対向する周辺部を非エロージョン領域として残してそれ以外をエロージョン領域とするもので、上記ターゲットプレートの処理基板面側の周辺部がエロージョン領域となる外周に、近接して、外側に、処理基板面側をターゲットプレート面に沿う平面にして、少なくとも上記処理基板面側の表面部を焼結したITOとする補助部材を配設しているスパッタリング装置が開示されている。
【0018】
特許文献3には、放電電源とマグネット装置を併用してプラズマを生成し、このプラズマを利用してイオンを酸化物ターゲットに衝突させてターゲット材をスパッタし、相対的に大型の基板に透明導電膜を成膜し、上記ターゲットは一体形状を有し、上記放電電源は、放電用電力の主たる部分を供給する高周波電源である、枚葉型のマグネトロンスパッタ装置が開示されている。
【0019】
特許文献4には、スパッタガスである酸素のガス圧を、15mTorr以下の低ガス圧にして、基板へのスパッタを行う、マグネトロン型の反応性スパッタ装置が開示されている。
【0020】
【特許文献1】特開2002−38264号公報
【特許文献2】特開2007−238978号公報
【特許文献3】特開平9−241840号公報
【特許文献4】特開平3−20463号公報
【非特許文献1】C. W. Tang, S. A. VanSlyke, Appl. Phys. Lett., 51913(1987), Vol.51, No.12, P.913
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
しかしながら、上記特許文献1〜4においては、以下の問題が内在する。
【0022】
特許文献1に開示された技術においては、スパッタリング中に粒子が随時発生しているため、所定枚数の被処理体に成膜を行った後にクリーニングを行うことによっては、非エロージョン領域の粒子レベルを十分に低減することができない。
【0023】
特許文献2に開示された技術においては、例えば、エロージョン領域をターゲットプレートの上記処理基板面側全体に広げても、その外周部分には必ず付着力の弱い粒子が堆積する。このため、プレスパッタからメインスパッタに至る過程で、エロージョン領域を縮小しなければ、メインスパッタ時に、基板に非エロージョン領域から剥離した粒子が堆積するおそれがある。
【0024】
特許文献3に開示された技術においては、スパッタ電源の主電源を高周波電源とし、マグネット装置の揺動を併用することで、不所望な粒子を低減しているが、マグネット揺動装置が必要なため、低廉にスパッタリングを行うことができない。
【0025】
特許文献4に開示された技術においては、スパッタリング条件を変更し、低ガス圧にてクリーニングを行っているが、印加する電源パワーを増減してクリーニングを行う旨の開示はない。
【0026】
以上に示す特許文献1〜4に開示された技術においては、上述した種々の事情から、非エロージョン領域から剥離する粒子の数を抑制して、良好な有機EL素子を製造するには、さらなる改善が望まれる。
【0027】
従って、本発明の目的は、上記問題点に鑑み、特に、非エロージョン領域から剥離した粒子が基板に堆積することを高いレベルで抑制可能な、透明導電性膜を形成するために用いるスパッタリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明は、基板支持体と、上記基板支持体と離間して平行に配置されたターゲット支持体と、上記ターゲット支持体の上記基板支持体とは反対側に配置された複数の磁性体とを備え、電源パワーにより駆動し、上記複数の磁性体が、上記ターゲット支持体の中心部に位置する第1の磁性体と、上記第1の磁性体に対して上記ターゲット支持体の外周側に位置する第2の磁性体とを含み、上記電源パワーが増減可能である、スパッタリング装置に関する。
【0029】
また、本発明は、基板支持体と、上記基板支持体と離間して垂直に配置された一対のターゲット支持体と、上記ターゲット支持体の各々において他のターゲット支持体とは反対側に配置された複数の磁性体とを備え、電源パワーにより駆動し、上記複数の磁性体が、上記ターゲット支持体の中心部に位置する第1の磁性体と、上記第1の磁性体に対して上記ターゲット支持体の外周側に位置する第2の磁性体とを含み、上記電源パワーが増減可能である、スパッタリング装置に関する。
【発明の効果】
【0030】
本発明のスパッタリング装置は、上記電源パワーの増減により、プレスパッタ時に比べてメインスパッタ時のエロージョン領域を縮小することができる。このため、本発明のスパッタリング装置によれば、プレスパッタ時に非エロージョン領域に堆積したターゲット粒子を、メインスパッタ時に上記エロージョン領域の縮小によって剥離し難くし、当該粒子の基板への堆積を抑制することができる。 従って、本発明のスパッタリング装置を用いた場合には、基板上に透明導電性膜の形成を好適に行うことができ、ひいては高品質の有機EL素子を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下に、本発明のスパッタリング装置を、図面に従い詳細に説明する。なお、一般に、有機EL素子の形成においては、スパッタリング工程は、プレスパッタ工程(基板に成膜を行わない場合)とメインスパッタ工程(基板に成膜を行う場合)との2工程においてなされる。このため、以下では、これら2つの工程時における当該装置の状態を図示し、これらの各状態を順次説明するものとする。
【0032】
<実施形態1:バッキングプレートを1枚用いた場合(平板型)>
図1は、本発明のスパッタリング装置(実施形態1)を示す模式的側面図であり、(a)はプレスパッタ時を示し、(b)はメインスパッタ時を示す。また、図2は、図1に示すターゲットTの、プレスパッタ時およびメインスパッタ時のそれぞれのエロージョン領域を示す平面図である。具体的には、図2中、最外の円により囲まれる領域は中心点まで全てターゲット存在領域を示し、外側から2番目の円と外側から4番目の円とにより囲まれる領域Epはプレスパッタ時の比較的大きなエロージョン領域を示し、外側から3番目の円と外側から4番目の円とにより囲まれる領域EMはメインスパッタ時の比較的小さなエロージョン領域を示す。
【0033】
図1(a)に示すところによれば、スパッタリング装置10は、基板支持体12と、基板支持体12と離間して平行に配置されたターゲット支持体としてのバッキングプレート14と、バッキングプレート14の基板支持体12とは反対側に配置された磁性体16と、バッキングプレート14を同図の主に左右から覆うように配置されたアースシールド18とを備える。本例においては、磁性体16は、2つの同心円状に配置された円柱状の内側マグネット16aと、円筒状の外側マグネット16bとから構成されている。
【0034】
(基板支持体12)
基板支持体12は、被製膜体としての基板(図示せず)をその下側で支持する治具としての構成要素である。基板支持体12には、ステンレスおよび銅などの材料を用いることができる。基板支持体12は、スパッタリンス装置の図示しないハウジングにねじ止め等の方法によって固定するなどして形成することができる。
【0035】
(バッキングプレート14)
バッキングプレート14は、その一方の面で図1(a)のターゲットTを支持するとともに、他方の面においては磁性体16を支持するための構成要素である。バッキングプレート14には、銅などの材料を用いることができる。
【0036】
(磁性体16)
磁性体16は、上述のとおり、円柱状の中央マグネット16aと、円筒状の外周マグネット16bとから構成されている。中央マグネット16aには、SmCoなどからなる硬磁性マグネットを用いることができ、その形状は、ターゲットの直径の寸法が6インチの場合、直径30mm、高さ20mmの円柱状とすることができる。これに対し、外周マグネット16bには、SmCoなどからなる硬磁性マグネットを用いることができ、その形状は、ターゲットの直径の寸法が6インチの場合、内径60mm、外径75mm、高さ20mmの円筒状とすることができる。
【0037】
(アースシールド18)
アースシールド18は、高周波電力が印加される部位の近傍に設置し、基板支持体12およびバッキングプレート14と、接地電位のアースシールド18との間のそれぞれの距離を放電し難い距離とすることで、放電を抑制するための構成要素である。アースシールド18には、一般にステンレスなどを用いることができる。
【0038】
(構成要素12〜18を用いたスパッタリング装置10の形成)
図1(a)に示すように、基板支持体12に対してバッキングプレート14を所定の距離、例えば400mmで配置する。
【0039】
次いで、同図に示すように、バッキングプレート14の基板支持体12とは反対側に磁性体16(中央マグネット16a、外周マグネット16b)を配置する。磁性体16の基本的な配置態様は、上述のとおりである。また、磁性体16を、図1に示すように設定する場合には、中央マグネット16aと外周マグネット16bとを同心円状に配置し、かつ、中央マグネット16aの外周端から外周マグネット16bの内周端までの距離を例えば45mmとする。さらに、図1に示すように、中央マグネット16aと外周マグネット16bとのS極、N極は逆向きとする。
【0040】
さらに、同図に示すように、一対のアースシールド18を、基板支持体12からの鉛直方向距離を300mmとするとともに、バッキングプレート14からの水平方向距離を10mmとして配置する。
【0041】
(スパッタリング装置10の動作)
このようにして形成されたスパッタリング装置10は、以下のように動作する。なお、以下の例は、ターゲットTの中心が中央マグネット16aの中心と一致するように配置された例である。また、装置10には、放電用電力を供給する主電源としての(図示しない)直流電源(以下、「DC電源」と称する場合がある)と、スパッタ時の放電電圧の低減のために当該DC電源に重畳する副電源としての(図示しない)高周波電源(以下、「RF電源」と称する場合がある)とが含まれる。
【0042】
図1に示すスパッタリング装置は、上記DC電源と上記RF電源とを適宜制御し、図1(a)に示すプレスパッタ時にはこれら電源のパワーを比較的大きくする一方、図1(b)に示すメインスパッタ時には当該パワーを比較的小さくすることで、両スパッタの各状態を実現するものである。
【0043】
即ち、プレスパッタ時においては、DC電源およびRF電源によって比較的大きな電源パワーを印加する。これにより、図1(a)に示すように、プラズマ発生領域P中の高密度プラズマ発生領域PHが比較的広い範囲で存在する。このため、図2に示すように、ターゲットTの侵食領域(エロージョン領域)Epが広い範囲にわたって存在する。また、図1(a)における両マグネット16a,16bの中央領域での磁束Φを、図1(a)におけるターゲットTの表面と平行にすることが、フレミングの左手の法則に従い、磁界の向きと直交する方向に電流を流すことができ、これによりターゲットTの表面でプラズマが発生し易くなる点で好ましい。
【0044】
プレスパッタ時のガス圧は、0.01〜10Paとすることが好ましい。0.01Pa以上10Pa以下とすることで、放電が可能となる。なお、これらの効果は、ガス圧を0.05〜0.5Paとすることで、さらに安定したレベルで奏される。
【0045】
この状態から、DC電源およびRF電源に比較的小さな電源パワーを印加することで、図1(b)に示すように、プラズマ発生領域P中の高密度プラズマ発生領域PH´が比較的狭い範囲で存在する。このため、図2に示すように、ターゲットTの侵食領域(エロージョン領域)EMが狭い範囲にわたって存在する。また、図1(b)における両マグネット16a,16bの中央領域での磁束Φを、図1(b)におけるターゲットTの表面と平行とすることが、フレミングの左手の法則に従い、磁界の向きと直交する方向に電流を流すことができ、これによりターゲットTの表面でプラズマが発生し易くなる点で好ましい。
【0046】
メインスパッタ時のガス圧は、プレスパッタ時のガス圧と同様に、0.01〜10Paとすることが好ましく、0.05〜0.5Paとすることがさらに好ましい。
【0047】
さらに、電源パワーについては、メインスパッタ時のDC電源パワー(0.5〜1.5A)を、プレスパッタ時のDC電源パワーの1/2倍以下とすること、および、メインスパッタ時のRF電源パワー(30〜200W)を、プレスパッタ時のRF電源パワーの1/2倍以下とすることが好ましい。このような電源パワーの設定により、プレスパッタ時に対するメインスパッタ時のエロージョン領域の縮小に基づき、プレスパッタ時に非エロージョン領域に堆積したターゲット粒子をメインスパッタ時に剥離し難くし、当該粒子の基板への堆積を抑制することができる。
【0048】
なお、本例においては、図示しないDC電源およびRF電源をさらに連続的に制御することで、上述したプレスパッタ時(図1(a))とメインスパッタ時(図1(b))とを交互に繰り返すことができ、例えば、有機EL素子の所定の構成要素の製膜を連続的に何度も行うことができる。
【0049】
このようにプレスパッタ時とメインスパッタ時とに分けてスパッタリングを行う方法は、本発明の電源のパワー制御による方法以外にも、いくつか存在する。例えば、図1に示す磁性体16の構成要素16a,16bを両スパッタ時において配置変更し、磁界を変位させる方法(磁性体の配置変更タイプ)、さらには、両スパッタリング時において反応性ガスの濃度を変化させる方法(反応性ガス変化タイプ)がある。
【0050】
しかしながら、磁性体の配置変更タイプでは、当該配置変更をステッピングモータ、またはシリンダにより行い、これら大掛かりな装置が必要であるため、スパッタリングを低廉に行うことができない。
【0051】
また、反応性ガス変化タイプでは、両スパッタ時においてエロージョン領域自体の変化がないため、エロージョン領域および非エロージョン領域からの不所望な粒子の付着を好適に抑制することができない。
【0052】
従って、図1に示す本発明のスパッタリング装置10は、磁性体の配置変更タイプに比べて低廉にスパッタリングを行えるだけでなく、反応性ガス変化タイプに比べて不所望な粒子の付着を抑制できる点で優れた装置であるといえる。
【0053】
<実施形態2:バッキングプレートを2枚用いた場合(対向型)>
図3は、本発明のスパッタリング装置(実施形態2)を示す模式的側面図であり、(a)はプレスパッタ時を示し、(b)はメインスパッタ時を示す。なお、実施形態2は、実施形態1の設計変更例であるため、以下には、実施形態1との差異のみについて述べる。
【0054】
図3(a)に示すところによれば、スパッタリング装置20は、基板支持体12と、基板支持体12と離間して垂直に配置された一対のターゲット支持体としてのバッキングプレート14,14´と、バッキングプレート14,14´の各々において、他のバッキングプレート14´,14とは反対側に配置された複数の磁性体16,16´と、バッキングプレート14,14´を同図の主に上下からから覆うように配置されたアースシールド18,18´とを備える。
【0055】
ここで、本例においては、磁性体16,16´の構成は、ともに、図1に示す実施形態1の態様の磁性体16(16a,16b)を用いた例である。なお、図3(a),(b)における符号P,P´はプラズマの発生領域であり、PH,PH´は、高密度プラズマ発生領域である。
【0056】
また、図3(a),(b)における両マグネット16a(16a´),16b(16b´)の間の中央領域での磁束Φ(Φ´)を、ターゲットT(T´)の表面と平行とすることが、フレミングの左手の法則に従い、磁界の向きと直交する方向に電流を流すことができ、これによりターゲットTの表面でプラズマが発生し易くなる点で好ましい。
【0057】
図3に示すスパッタリング装置20は、図1に示すスパッタリング装置10(実施形態1)と同様に、プレスパッタ時と比較したメインスパッタ時のエロージョン領域の縮小に基づき、プレスパッタ時に非エロージョン領域に堆積したターゲット粒子をメインスパッタ時に剥離し難くし、当該粒子の基板への堆積を抑制することができる。
【0058】
なお、図3に示すスパッタリング装置20は、図1に示すスパッタリング装置10と比べて、特に、バッキングプレート、磁性体、およびアースシールドの数を2倍とし、しかも、ターゲットT,T´同士を対向させている。このため、対向するターゲットT,T´から飛散したスパッタ粒子の大部分が非エロージョン領域ではなく反対側のターゲットT´、Tに堆積する。よって、図3に示す例は、図1に示す例(実施形態1)よりも、メインスパッタ時の基板への不所望な粒子の堆積が抑制される。その結果、実施形態1よりも、プレスパッタ時からメインスパッタ時におけるエロージョン領域の縮小による効果が増大され、ひいては当該粒子の基板への堆積を極めて高いレベルで抑制することができる。
【実施例】
【0059】
以下に、本発明の実施例を説明し、本発明の効果を実証する。
【0060】
<実施例1:スパッタリング条件と有機EL素子の良品率との関係について>
[有機EL素子の形成]
(本発明例1)
図1に示すスパッタリング装置10を用いて、有機EL素子を形成した。
【0061】
まず、ガラス基板上に反射電極としてCrBを形成した。反射電極は、スパッタリングガスとしてArを用いるDCスパッタリングを室温にて行うことで形成した。具体的には、DC電源パワーを300Wとしてプレスパッタを30分間行った。次いで、DC電源パワーを、プレスパッタ時と同条件で、メインスパッタを行った。即ち、反射電極材料のCrBは、反応性の高い化合物でなく、しかも透明導電膜のような酸化物でもない。このため、メインスパッタ時のエロージョン領域は、プレスパッタ時のエロージョン領域に比べて縮小しなかった。最後に、パターニング、150℃での乾燥処理、ならびに室温および150℃でのUV処理を順次施すことにより、CrBからなる膜厚100nmの反射電極を得た。
【0062】
次に、ガラス基板に反射電極が形成された積層体を蒸着装置に移動し、真空槽内圧を1×10-5Paとして有機EL層を形成した。
【0063】
有機EL層として、電子注入層、電子輸送層、発光層、正孔輸送層、および正孔注入層を順次形成した。電子注入層には、アルミキレート(Alq3)と50mol%Liとの混合物を、膜厚10nmで形成した。電子輸送層には、アルミキレート(Alq3)を、膜厚10nmで形成した。発光層には、4,4’−ビス(2,2’−ジフェニルビニル)ビフェニル(DPVBi)を、膜厚35nmで形成した。正孔輸送層には、tブチルパーオキシベンゾエート(TBPB)を、膜厚10nmで形成した。正孔注入層には、銅フタロシアニン(CuPc)を、膜厚75nmで形成した。
【0064】
さらに、図1に示すスパッタリング装置10、およびメタルマスクを用いて、有機EL層上にインジウム・亜鉛酸化物(IZO)からなる上部電極を形成した。
【0065】
まず、スパッタリングガスとしてArを用い、DC電源の電流を1.8Aとするとともに、RF電源の電源パワーを300Wとして、プレスパッタを90分間行った。
【0066】
次いで、スパッタリングガスとして1%O2を含むArを用い、DC電源の電流を0.6Aとするとともに、RF電源の電源パワーを30Wとして、膜厚200nmのIZOを得た。
【0067】
最後に、上部電極上にパッシベーション層を、CVD法で3μm形成した。
【0068】
以上のようにして得られた有機EL素子に対してUV封止を行った。当該UV封止は、有機EL素子を大気に暴露せず、グローブボックス(酸素濃度、水分濃度がともに数ppm以下)に移動し、封止内部にゲッター材を塗布して行った。
【0069】
(本発明例2)
図3に示すスパッタリング装置20を用いて、有機EL素子を形成した。即ち、ガラス基板上に反射電極、有機EL層、および上部電極を本発明例1と同様に形成し、最後に、形成した有機EL素子に対して、本発明例1と同様にUV封止を行った。
【0070】
(比較例1)
図3に示すスパッタリング装置20を用いたが、上部電極の形成に際し、プレスパッタ時とメインスパッタ時とにおいて、DC電源のパワー(1.8A)およびRF電源のパワー(300W)を変更せず、即ち、エロージョン領域を縮小せずに、有機EL素子を形成した。その他の事項については、本発明例2と同様に有機EL素子を形成した。
【0071】
[有機EL素子の良品率の評価]
以上のようにして得られた本発明例1,2および比較例1の有機EL素子を、以下のように駆動することによって、リーク・ショートに基づく良品率を調査した。有機EL素子の駆動は定電流により行った。
【0072】
次に、点灯しないサブピクセル、および劣化により暗くなったサブピクセルを、それぞれ、高精度カメラにより撮影し、これらのサブピクセルの総数(欠陥サブピクセル数)を算出した。最後に、良品率を、有機EL素子をディスプレイに適用した際の、赤色、緑色、および青色の各サブピクセルの全数(サブピクセル全数)に対する、サブピクセル全数と欠陥サブピクセル数との差の割合として算出した。その結果を表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
表1に示すように、本発明の範囲内である本発明例1,2はいずれも、プレスパッタ時に比べてメインスパッタ時のエロージョン領域を縮小しているため、優れた良品率を実現することが判る。また、特に、平板型の本発明例1に対して、対向型の本発明例2は、特に、対向するターゲットT,T´から飛散したスパッタ粒子の大部分が反対側のターゲットT´、Tに堆積するため、メインスパッタ時の基板への不所望な粒子の堆積を抑制できる。よって、本発明例2においては、プレスパッタ時とメインスパッタ時とのエロージョン領域を変更する効果が大きく、結果的に、極めて優れた良品率が得られていることが判る。
【0075】
これに対し、本発明の範囲外である比較例1は、プレスパッタ時に比べてメインスパッタ時のエロージョン領域を縮小していないため、優れた良品率を実現していないことが判る。これは、エロージョン領域の縮小を行わなかったことで、トップエミッション型の有機EL素子の上部電極に、大量の、特に大きな粒子が存在することとなり、その結果、当該粒子が上部電極上のパッシベーション層を突き破って欠陥サブピクセルが形成されたためである。
【0076】
<実施例2:エロージョン領域の変更と不所望な粒子数との関係について>
[有機EL素子の形成]
(比較例2)
図3に示すスパッタリング装置20を用いて、有機EL素子を形成した。即ち、最初に、ガラス基板上に反射電極、および有機EL層を本発明例2と同様に形成した。
【0077】
次いで、図3に示すスパッタリング装置20、およびメタルマスクを用いて、有機EL層上にインジウム・亜鉛酸化物(IZO)からなる上部電極を形成した。
【0078】
まず、スパッタリングガスとしてArを用い、DC電源の電流を1.22Aとするとともに、RF電源の電源パワーを150Wとして、プレスパッタを30分間行った。
【0079】
次いで、スパッタリングガスとして1%O2を含むArを用い、DC電源の電流を1.22Aとするとともに、RF電源の電源パワーを150Wとして、メインスパッタを行って、膜厚100nmのIZOを得た。即ち、本例では、メインスパッタ時におけるエロージョン領域はプレスパッタ時におけるエロージョン領域に比べて縮小しなかった。
【0080】
最後に、形成した有機EL素子に対して、本発明例2と同様にUV封止を行った。
【0081】
(本発明例3)
プレスパッタ時のDC電源の電流を1.22A、RF電源の電源パワーを150Wとするとともに、メインスパッタ時のDC電源の電流を0.61A、RF電源の電源パワーを30Wとし、即ち、エロージョン領域を縮小して、有機EL素子を形成した。その他の事項については、比較例2と同様に有機EL素子を形成した。
【0082】
(比較例3)
プレスパッタ時のDC電源の電流を0.61A、RF電源の電源パワーを30Wとするとともに、メインスパッタ時のDC電源の電流を0.61A、RF電源の電源パワーを30Wとし、即ち、エロージョン領域を縮小せずに、有機EL素子を形成した。その他の事項については、比較例2と同様に有機EL素子を形成した。
【0083】
[有機EL素子の不所望な粒子数の評価]
以上のようにして得られた比較例2,3および本発明例3の有機EL素子に関し、ダミーガラス基板に付着したターゲット粒子数について調査した。その結果を図4に示す。なお、図4に示す記号S,M,L,Oは、それぞれ、平均粒径2μm超、4μm超、6μm超、および20μm超の各粒子を示し、棒グラフ中の数値は、これらの粒径を有する粒子が各例においていくつ存在したかを示す数値である。
【0084】
図4に示すように、本発明の範囲内である本発明例3は、プレスパッタ時に比べてメインスパッタ時のエロージョン領域を縮小しているため、粒子の数が少なく、結果的に優れた良品率を実現していることが判る。これに対し、本発明の範囲外である比較例2,3はいずれも、プレスパッタ時に比べてメインスパッタ時のエロージョン領域を縮小していないため、粒子の数が多く、結果的に優れた良品率を実現していないことが判る。なお、各分類S,M,L,Oに属する粒子の中でも、特に、分類O,Lに属する粒子が多い場合には、不良になる可能性が高く、故に本発明例3は、比較例2、3に比べて良品率が良好であるものと推定される。
【0085】
<実施例3:プレスパッタ時間と不所望な粒子数との関係について>
[有機EL素子の形成]
(参考例1)
図3に示すスパッタリング装置20を用いて、有機EL素子を形成した。即ち、最初に、ガラス基板上に反射電極、および有機EL層を本発明例2と同様に形成した。
【0086】
次いで、図3に示すスパッタリング装置20、およびメタルマスクを用いて、有機EL層上にインジウム・亜鉛酸化物(IZO)からなる上部電極を形成した。
【0087】
まず、スパッタリングガスとしてArを用い、DC電源の電流を1.8Aとするとともに、RF電源の電源パワーを300Wとして、プレスパッタを30分間行った。
【0088】
次いで、スパッタリングガスとして1%O2を含むArを用い、DC電源の電流を0.6Aとするとともに、RF電源の電源パワーを30Wとして、メインスパッタを行って、膜厚200nmのIZOを得た。
【0089】
最後に、形成した有機EL素子に対して、本発明例2と同様にUV封止を行った。
【0090】
(参考例2)
プレスパッタ時間を60分間としたこと以外は参考例1と同様にして有機EL素子を形成した。
【0091】
(参考例3)
プレスパッタ時間を90分間としたこと以外は参考例1と同様にして有機EL素子を形成した。
【0092】
[有機EL素子の不所望な粒子数の評価]
以上のようにして得られた参考例1〜3の有機EL素子に関し、ダミーガラス基板に付着したターゲット粒子数について調査した。その結果を図5に示す。
【0093】
図5に示すように、プレスパッタ時間が60分以上で、不所望な粒子数に関し、より好適な結果が得られていることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明のスパッタリング装置は、所定の制御が可能なDC電源およびRF電源を有するため、プレスパッタ時に比べてメインスパッタ時のエロージョン領域を縮小することができる。このため、当該スパッタリング装置によれば、プレスパッタ時に非エロージョン領域に堆積したターゲット粒子をメインスパッタ時に剥離し難くし、当該粒子の基板への堆積を抑制することができ、ひいては基板上に透明導電性膜の形成を好適に行うことができる。従って、本発明は、今後益々高品質の有機EL素子の製造が望まれる、有機ELディスプレイの分野において適用できる点で有望である。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】1枚のバッキングプレートを用いた本発明のスパッタリング装置(平板型)の一例を示す模式的側面図であり、(a)はプレスパッタ時を示し、(b)はメインスパッタ時を示す。
【図2】図1に示すターゲットTの、プレスパッタ時およびメインスパッタ時のそれぞれのエロージョン領域を示す平面図である。
【図3】一対のバッキングプレートを用いた本発明のスパッタリング装置(対向型)の一例を示す模式的側面図であり、(a)はプレスパッタ時を示し、(b)はメインスパッタ時を示す。
【図4】粒子数とエロージョン領域の変更との関係を示すグラフである。
【図5】粒子数とプレスパッタ時間との関係を示すグラフである。
【図6】Bottom−Em型素子の模式的断面図である。
【図7】Top−Em型有機EL素子の模式的断面図である。
【符号の説明】
【0096】
10 スパッタリング装置
12 基板支持体
14 バッキングプレート
16 磁性体
16a 中央マグネット
16b 外周マグネット
18 アースシールド
P プラズマ発生領域
H,PH´ 高密度プラズマ発生領域
T ターゲット
Φ 磁束

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板支持体と、前記基板支持体と離間して平行に配置されたターゲット支持体と、前記ターゲット支持体の前記基板支持体とは反対側に配置された複数の磁性体とを備え、電源パワーにより駆動するスパッタリング装置において、前記複数の磁性体は、前記ターゲット支持体の中心部に位置する第1の磁性体と、前記第1の磁性体に対して前記ターゲット支持体の外周側に位置する第2の磁性体とを含み、前記電源パワーが増減可能であることを特徴とするスパッタリング装置。
【請求項2】
基板支持体と、前記基板支持体と離間して垂直に配置された一対のターゲット支持体と、前記ターゲット支持体の各々において他のターゲット支持体とは反対側に配置された複数の磁性体とを備え、前記複数の磁性体は、前記ターゲット支持体の中心部に位置する第1の磁性体と、前記第1の磁性体に対して前記ターゲット支持体の外周側に位置する第2の磁性体とを含み、電源パワーにより駆動するスパッタリング装置において、前記電源パワーが増減可能であることを特徴とするスパッタリング装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−37594(P2010−37594A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−201700(P2008−201700)
【出願日】平成20年8月5日(2008.8.5)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】